(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155216
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒および該白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法、並びに該触媒を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/05 20060101AFI20241024BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20241024BHJP
C08K 5/526 20060101ALI20241024BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L83/05
C08L83/07
C08K5/526
C08K5/5425
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069709
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP04W
4J002CP14X
4J002EW066
4J002EX037
4J002FD206
4J002FD207
4J002GB01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】有機溶剤を含まず、かつ23℃にて液状である白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を提供する。
【解決手段】 白金-亜リン酸エステル錯体とシラン化合物および/またはその部分加水分解物が会合したものであって、かつ、炭化水素系有機溶剤を含有しないことを特徴とする23℃で液状である白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒、及び該白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)白金と下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
で示される亜リン酸エステル化合物とで構成された白金-亜リン酸エステル錯体、および
(B)下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物、
を含む白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒であって、
【化2】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
前記ヒドロシリル化触媒は、前記(A)成分と前記(B)成分の会合体であり、有機溶剤を含有せず、かつ、23℃で液状のものであることを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒。
【請求項2】
前記成分(B)は、前記R2がビニル基であるアルコキシシラン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を含有するものであることを特徴とする硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
有機溶剤を含有しないものであることを特徴とする請求項3に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物を有するものであることを特徴とする物品。
【請求項6】
以下の工程(a)~工程(d)を含むことを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法。
(a)沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤中に、下記一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物を溶解した溶液を調製する工程、
【化3】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
(b)前記溶液に、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体を含有する溶液を調製する工程、
(c)上記工程(a)~工程(b)で得られた溶液に、下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体の少なくとも一部と下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の会合体を含有する溶液を調製する工程、
【化4】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
(d)前記工程(c)で得られた溶液から前記炭化水素系溶剤を除去する工程。
【請求項7】
前記(c)工程において、前記白金化合物中の白金原子1原子に対し、前記シラン化合物および/またはその部分加水分解物中のアルケニル基のモル数が、0.01~500倍の範囲内になるように前記シラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加することを特徴とする請求項6に記載の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒、その触媒を用いた硬化性オルガノポリシロキサン組成物、および該白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、ヒドロシリル基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及び白金系触媒を含有する。
【0003】
これら3成分を1つの組成物としたいわゆる1液型オルガノポリシロキサン組成物の場合では、高温条件に晒された場合、増粘やゲル化などの性状変化や硬化後に得られるオルガノポリシロキサン硬化物の物性値が変化してしまうなどの不具合が生じる。これらの問題を回避するために、2成分以上に分割しておき、使用直前に混合するという混合型のオルガノポリシロキサン組成物にする方法や1液型オルガノポリシロキサン組成物を冷蔵もしくは冷凍して輸送するという手段がとられている。
【0004】
前者においては、配合ブレや混合ブレにより得られるオルガノポリシロキサン硬化物の物性値が変化する懸念があり、非常に高度な配合技術・混合技術が必要となる。また、後者においては、保管時から使用するまでの間、冷蔵もしくは冷凍条件が必要となるため、輸送や保管費用が非常に大きくなり、商業的に不利となる。このような背景の中、近年では常温(ここでは25℃を指す)において長期間保管しても性状や性能が変わらない1液型オルガノポリシロキサン組成物の要求が高まっている。
【0005】
特許文献1、2では、ある特定の亜リン酸エステル化合物を使用して保存安定性を高める方法が提案されている。これらの方法では劇的に保存安定性が向上するものの、150℃程度の高温に曝さないと十分に硬化したオルガノポリシロキサン硬化物を得ることができないことや、亜リン酸エステル化合物は加水分解されやすく、空気中における保存性に劣るといった問題や、亜リン酸エステル化合物の配位数が多くなると触媒が再結晶するなどの問題があった。そのため、有機溶剤を含まず23℃にて液状である白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒が要望され、その触媒を得ることができれば、有機溶剤を含まない性状や物性が安定した硬化性オルガノポリシロキサン組成物が得られることから、有機溶剤を含まず23℃にて液状である白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の要求が高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2021/014970号
【特許文献2】特開2021-042323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、有機溶剤を含まずとも23℃にて液状である白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得ることで、触媒自体の性状安定性を向上させ、またこの触媒を硬化性オルガノポリシロキサン組成物に使用することで、有機溶剤を含まない硬化性シリコーン組成物を得ることを目的とする。また、上記硬化性組成物は、常温を超える温度に長時間晒されても、性状や物性が安定したオルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討を行い、白金-亜リン酸エステル錯体とシラン化合物および/またはその部分加水分解物との会合により形成される白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を提供する。
【0009】
即ち、本発明は、下記(A)成分と下記(B)成分の会合体であって、有機溶剤を含有せず、かつ、23℃で液状のものであることを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を提供する。
(A)白金と下記一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物とで構成された白金-亜リン酸エステル錯体、
【化1】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
および
(B)下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物。
【化2】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である)
【0010】
前記成分(B)は、前記R2はビニル基であるアルコキシシラン誘導体であることが好ましい。
【0011】
前記式(1)で示される亜リン酸エステル化合物と白金との錯体と、前記式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物とを会合させることにより得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、常温で液状に保つことができるため、該触媒を硬化性オルガノポリシロキサン組成物に配合する際には作業性良好となるほか、均一分散しやすいといったメリットがある。
【0012】
本発明は、上記白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を含有する、有機溶剤を含まない硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することができる。
【0013】
このような硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、常温を超える温度に長時間晒されても、性状や物性が安定したオルガノポリシロキサン組成物となり、該組成物の硬化物を有する物品を提供できる。
【0014】
また、本発明は、上記白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の組成物の製造方法を提供する。
即ち、本発明は以下の工程(a)~(d)を含む白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法を提供する。
(a)沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤中に、下記一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物を溶解した溶液を調製する工程、
【化3】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
(b)前記溶液に、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体を含有する溶液を調製する工程、
(c)上記(a)~(b)で得られた溶液に、下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体の少なくとも一部と下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の会合体を含有する溶液を調製する工程、
【化4】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
(d)前記工程(c)で得られた溶液から前記炭化水素系溶剤を除去する工程。
【0015】
前記工程(a)~工程(d)を行うことで、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を安定的に製造することができる。
【0016】
工程(c)において、前記白金化合物中の白金原子1原子に対して、添加する一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物中のアルケニル基のモル数は、0.01~500倍の範囲内であることが好ましい。
0.01倍以上であれば、23℃において液状の性状を保つことができ、結晶が析出することによってその触媒を配合した硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対して分散性の悪化や配合作業性低下などの不具合を生じることもない。また、500倍以下であれば、一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の添加量が多過ぎず、シロキサン化合物自体の分子量が適切になり、得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の粘度への影響も問題なく、得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の性状安定性も良く、その触媒を配合する際の作業性も良好となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、有機溶剤を含まずとも23℃にて液状であるため、触媒自体の性状安定性が非常に優れている。また、その触媒を硬化性シリコーン組成物中に配合する際は容易に均一分散でき、有機溶剤を含まない硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得ることができる。得られる有機溶剤の非含有化した硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、常温を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定したオルガノポリシロキサン組成物を与えるものである。さらには有機溶剤等を含んでいないため、非常に安全なオルガノポリシロキサン硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、樹脂硬化触媒、特にオルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒として有用な触媒につき探求したところ、これには白金と下記一般式(1)からなる白金-亜リン酸エステル錯体および下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物との会合体のものが有用であることを見出し、その製造方法を含めた本発明を完成させた。
【0019】
即ち、本発明は、
(A)白金と下記一般式(1)
【化5】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
で示される亜リン酸エステル化合物とで構成された白金-亜リン酸エステル錯体、および
(B)下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物、
を含む白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒であって、
【化6】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
前記ヒドロシリル化触媒は、前記(
A)成分と前記(B)成分の会合体であり、有機溶剤を含有せず、かつ、23℃で液状のものであることを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒である。
【0020】
また、本発明は、
以下の工程(a)~工程(d)を含むことを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法である。
(a)沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤中に、下記一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物を溶解した溶液を調製する工程、
【化7】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
(b)前記溶液に、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体を含有する溶液を調製する工程、
(c)上記工程(a)~工程(b)で得られた溶液に、下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体の少なくとも一部と下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の会合体を含有する溶液を調製する工程、
【化8】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
(d)前記工程(c)で得られた溶液から前記炭化水素系溶剤を除去する工程。
【0021】
[亜リン酸エステル化合物]
本発明で使用する下記一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物は、白金と錯体を形成することで、これを用いて得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物の性状や物性の保存安定性を格段に向上させるための必須成分である。
【化9】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
【0022】
上記一般式(1)中、R1は独立に、水素原子もしくは炭素原子数1~3である1価の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1~2、より好ましくは炭素原子数1、すなわちメチル基である。亜リン酸エステル化合物の具体例としては、トリス(2,4-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ビス(3-エチルペンタン-3-イル)フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ビス(4-プロピルヘプタン-4-イル)フェニル)ホスファイトなどのR1が同一炭素数である亜リン酸エステル化合物、またトリス(4-(tert-ブチル)-2-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(4-(tert-ブチル)-2-エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-(tert-ブチル)-4-(3-エチルペンタン-3-イル)フェニル)ホスファイト、トリス(2-(tert-ブチル)-4-(3-メチルヘキサン-3-イル)フェニル)ホスファイトなどのR1の炭素数が異なる亜リン酸エステル化合物が挙げられる。その中でも特に、入手しやすく保存安定性の効果が高いトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを使用することが好ましい。
【0023】
本発明で用いる亜リン酸エステル化合物の添加量は、白金1分子に対し、0.6分子を超え、3.0分子以下の範囲内である量が最適であり、より好ましくは、白金1分子に対し、0.8分子以上、2.5分子以下の範囲内である量添加することが特に良い。ここで、白金1分子に対し、0.6分子超の場合、その触媒を配合した硬化性オルガノポリシロキサン組成物の保存安定性が良く、オルガノポリシロキサン組成物がゲル化してしまったりするリスクが無くなる。一方、白金1分子に対し、3.0分子以下の場合、後述するシラン化合物および/またはその部分加水分解物と会合させたとしても、常温で結晶が析出するリスクが無くなるため、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の液状を十分に保持できる。さらに、その触媒を配合した硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対して分散性も良好で配合作業性低下などの不具合を生じることもない。
【0024】
[シラン化合物および/またはその部分加水分解物]
本発明で使用する下記一般式(2)
【化10】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である)
で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物は、前述する白金と亜リン酸エステル化合物との錯体と会合し、常温において結晶化することを防止するための必須成分である。
【0025】
上記一般式(2)中、R2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基であり、好ましくは炭素原子数2~10、より好ましくは炭素原子数2~8、その中でも特に好ましくはビニル基である。また上記式(2)中、R3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、3-プロぺニル基、イソプロペニル基などが挙げられる。好ましくは炭素原子数1または2、より好ましくは炭素原子数1、すなわちメチル基である。シロキサン化合物の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシメチルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルジメトキシメチルシラン、7-オクテニルトリメトキシシラン、7-オクテニルジメトキシメチルシランなどのビニル基含有アルコキシシランおよび/またはそれらの部分加水分解物などが挙げられる。
上記一般式(2)中、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR3である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基が挙げられる。
【0026】
本発明で用いる前記シラン化合物および/またはその部分加水分解物の添加量は、前述した白金1分子に対し、0.05モル%以上、100モル%以下の範囲内である量が最適であり、より好ましくは、白金1分子に対し、0.05モル%以上、90モル%以下の範囲内である量で添加することが特に良い。
ここで、白金1分子に対し、0.05モル%以上の場合、得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒が常温において結晶化することもなく、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の液状を保持することができ、その触媒を配合した硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対して分散性が良好で配合作業性低下などの不具合を生じることもない。また、白金1分子に対し、100モル%以下であれば、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒自体の安定性もあり、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒自体の有効白金量が低下することもないため、その触媒を配合した硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得る場合、配合量も適切で、前記シラン化合物および/またはその部分加水分解物の添加量も適切となり、機械的特性や、硬化性も良好となる。
【0027】
本発明の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、炭化水素系有機溶剤を含有しないことも特徴の一つである。ここで、「炭化水素系有機溶剤」とは、脂肪族炭化水素系溶剤や芳香族炭化水素系溶剤を指す。脂肪族炭化水素系溶剤としては、後述する触媒の製造方法の工程(a)で用いる沸点が80℃以下の炭化水素系溶剤だけでなく、沸点が80℃を超える脂肪族炭化水素系溶剤も含まれる。具体的には、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘプタン、n-オクタンなどが挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどが挙げられる。
【0028】
[白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の利用]
前述した白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、さまざまな樹脂の硬化触媒や浄化用触媒などの用途に使用できるものであるが、特にヒドロシリル化反応を用いて樹脂(またはゲル)となるオルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒用として使用した場合、その特徴を発揮することができる。その理由は、加熱時においては従来の白金化合物系ヒドロシリル化触媒とほぼ同等の硬化性を有し、かつ常温保管時においては亜リン酸エステル化合物が白金と錯体を形成しているので触媒活性が抑えられ、ヒドロシリル化反応の進行が非常に遅い。よって、この触媒を用いた硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、常温を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定する。またさらに、亜リン酸エステル化合物と白金との錯体を、前記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物と会合させることで、得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の性状を常温で液状に保つことができる。そのため、この触媒を硬化性オルガノポリシロキサン組成物に配合する際には作業性良好となるほか、均一分散しやすいといったメリットがある。
【0029】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対する白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の配合量は、アルケニル基を含有するポリマー100質量部に対して0.001~10.0質量部、好ましくは0.010~5.0質量部、より好ましくは0.050~3.0質量部である。白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒が0.001質量部以上の場合は、得られるシリコーンゴム組成物の強度が十分で、硬化不良になることもない。逆に白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の配合量が10.0質量部以下であれば、得られるシリコーンゴム組成物が着色したり、硬化するまでの時間が短時間になることもなく、価格的にも有利となる。なお、触媒の活性、すなわち硬化性の調製については、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の添加濃度を増減することによって制御することができる。
【0030】
[白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法]
[工程(a)]
工程(a)は、沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤中に、一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物を溶解した溶液を調製する工程である。
【化11】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
【0031】
前記亜リン酸エステル化合物が常温で液体の場合は、下記工程(b)で塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される有機溶剤を含まない白金化合物と配合すれば容易に錯体を形成できるが、前記亜リン酸エステル化合物の多くは常温で固体であるため、前記工程(a)において該亜リン酸エステル化合物を炭化水素系溶剤に溶解することにより、その後塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を配合して迅速な錯体形成を行うことができる。
【0032】
沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤は、直鎖上であっても分岐状であってもよい。沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤の具体例としては、n-ペンタン(沸点:36℃)、n-ヘキサン(沸点:68℃)、2-メチルブタン(沸点:30℃)、2,2-ジメチルブタン(沸点:50℃)、2,3-ジメチルブタン(沸点:58℃)、2-メチルペンタン(沸点:62℃)、3-メチルペンタン(沸点:63℃)などが挙げられる。その中でも特に、n-ヘキサン(沸点:68℃)が比較的工業用として取り扱いしやすく、その後の除去工程において除去しやすいため好適である。炭化水素系溶剤の減圧留去の観点から、使用する炭化水素系溶剤の沸点は80℃以下であることが好ましい。
その際、減圧留去温度が40℃以下とすることで、安定した白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得ることが可能となる。沸点が80℃以上である炭化水素系溶剤の場合、減圧留去温度を40℃以上としないと完全に使用した炭化水素系溶剤を除去することができないため、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒中に炭化水素系溶剤が残存したり、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒が溶剤除去工程の温度によって分解することで、結晶が析出したりする場合がある。
【0033】
また、沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤の使用量は特に制限されない。また、炭化水素系溶剤中に、一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物を溶解する温度は40℃以下、より好ましくは0~35℃の範囲内である。40℃以下で溶解すれば、一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物が炭化水素系溶剤中に含まれる水分と加水分解し難くなるため、(1)で示される亜リン酸エステル化合物がリン酸エステル化合物へ変化しなくなり、得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の安定性がよい。また、溶解する時間については特に制限されない。溶解する容器については、酸素を遮断することができる容器を選択することが好適である。
【0034】
難し
[工程(b)]
工程(b)は、該溶液に、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体を含有する溶液を調製する工程である。
【0035】
[塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される有機溶剤を含まない白金化合物]
本発明で使用する塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物は、通常、それ自体で硬化性オルガノポリシロキサン組成物中に含まれるアルケニル基を含有するポリマーにオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基をヒドロシリル化付加する反応を促進する硬化触媒である。本発明では、一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物、
【化12】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
との錯体を形成することで、これを用いて得られる硬化性オルガノポリシロキサン組成物の性状や物性の保存安定性が格段に向上させることができ、かつ一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物、
【化13】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である)
と会合させることで、有機溶剤を含有せずとも常温で液状となる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒と成り得るため、本触媒を使用した硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得る際の触媒の均一分散性向上や触媒自体の性状安定性、均一性を向上させることができる。
【0036】
塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物の具体例としては、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(Karstedt錯体)、白金-1,3-ジアリル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、白金-1,3-ジビニル-1,3-ジメチル-1,3-ジフェニルジシロキサン錯体、白金-1,1,3,3-テトラフェニルジシロキサン錯体、及び白金-1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体などが挙げられる。これらの群から選択される少なくとも1種のヒドロシリル化触媒を含有することが必須であり、それらの中に有機溶剤を含まないことも必須条件である。上記の有機溶剤を含まないヒドロシリル化触媒の中でも、特に白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(Karstedt錯体)を用いることが極めて好ましい。
【0037】
ここで示される塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤類、エタノール、n-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコールなどのアルコール系有機溶剤類、などの基本的な有機溶剤(ここで、テトラメチルジビニルシロキサン、トリメチルトリビニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンなどの低分子かつビニル基を有するシロキサン類は除外する)は、非含有であることを必須とする。
【0038】
この塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物が通常使用される形態は、白金-シロキサン錯体の配位子を形成するシロキサンの中での溶液の形態である。溶液は、通常白金原子の含有率が0.001~0.010モル程度の溶液となるよう調製する。これは、白金-シロキサン錯体の安定性を高めるためである。含有する白金の質量パーセントとしては0.2~2.0%となる。白金-シロキサン錯体を形成することができる化合物のテトラメチルジビニルシロキサン、トリメチルトリビニルシクロトリシロキサン、及びテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを下に例示する。
【化14】
【0039】
好ましい白金化合物は、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(Karstedt錯体)である。これは、次の構造を有すると考えられている。
【化15】
本工程に要する時間は40℃以下の温度で30分以上行うことが好ましい。なお、本工程(b)は工程(a)同様、酸素を遮断することができる容器を選択することが好適である。
【0040】
[工程(c)]
工程(c)は、上記工程(a)~(b)で得られた溶液に、下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体の少なくとも一部と下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の会合体を含有する溶液を調製する工程である。
【化16】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である)
【0041】
本工程は40℃以下の温度で60分以上行うことが好ましい。なお、本工程は工程(a)同様、酸素を遮断することができる容器を選択することが好適である。ここで使用する一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物は、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物中の白金原子1原子に対し、一般式(2)中のR2単位が、0.01~500倍の範囲内になるような量、シラン化合物を添加することが好ましい。白金化合物中の白金原子1原子に対し、一般式(2)中のR2単位で示される単位が0.01倍以上の場合、白金原子1原子当たりに会合する一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の添加量が十分となり、確実に23℃において液状の性状を保つことができ、結晶が析出することによってその触媒を配合した硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対して分散性の悪化や配合作業性低下などの不具合を生じることもない。また、白金化合物中の白金原子1原子に対し、一般式(2)中のR2単位で示される単位が500倍以下の場合、一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の添加量が適切となり、シロキサン化合物自体の分子量が大きくなり、得られる白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の粘度への影響が大きくなったり、得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の性状安定性が悪くなったり、その触媒を配合する際の作業性低下などの不具合を生じることもない。
【0042】
[工程(d)]
工程(d)は、上記工程(a)~工程(c)で得られた溶液から炭化水素系溶剤を除去する工程である。本工程は、工程(a)~工程(c)で得られた溶液から炭化水素系溶剤を除去し、有機溶剤を含まない白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得るための必須工程である。ここで使用される溶剤除去方法は、真空ポンプ等を使用して溶剤を減圧留去させる減圧留去方法が好適とされる。これは、減圧留去温度を40℃以下とすることで、安定した白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得られるからである。減圧度については、用いる炭化水素系溶剤の沸点によっても異なるが、50hPa以下の条件にすることで使用した炭化水素系溶剤を完全に除去できる。なお、使用した炭化水素系溶剤を完全に除去できたかを確認する方法は、使用した亜リン酸エステル化合物、白金化合物、シラン化合物の合計重量と、工程(d)終了後に得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の重量比で確認可能である。得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の重量が、使用した亜リン酸エステル化合物、白金化合物、シラン化合物の合計重量より多い場合は、炭化水素系溶剤が残存しているため、さらに本工程時間を追加して炭化水素系溶剤の除去を行うことで完全に除去できる。
【実施例0043】
以下、本発明を、実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0044】
[実施例1]
25gの透明ガラス容器にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.6622部秤量し、n-ヘキサンを9.3378部加え、密閉した後室温にて約1時間溶解させた。目視にてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの結晶が溶解したことを確かめたのち、1%のPt原子を有する白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を10.0部加え、密閉した後、均一になるよう30分攪拌した。その後、ビニルトリメトキシシランを0.06部加え、密閉した後、均一になるよう60分攪拌した。その後、溶液を100mlナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いてn-ヘキサンを減圧留去した(条件:30℃×2時間/約35hPa)。100mlナス型フラスコには、無色透明の液体が10.31g得られた(収率:96.2%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒1』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、2.0分子、シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0.79分子となる。)
【0045】
[実施例2]
25gの透明ガラス容器にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.3311部秤量し、n-ヘキサンを9.6689部加え、密閉した後室温にて約1時間溶解させた。目視にてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの結晶が溶解したことを確かめたのち、1%のPt原子を有する白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を10.0部加え、密閉した後、均一になるよう30分攪拌した。その後、ビニルトリメトキシシランを0.06部加え、密閉した後、均一になるよう60分攪拌した。その後、溶液を100mlナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いてn-ヘキサンを減圧留去した(条件:30℃×2時間/約32hPa)。100mlナス型フラスコには、無色透明の液体が10.25g得られた(収率:98.7%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒2』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、1.0分子、シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0.79分子となる。)
【0046】
[実施例3]
25gの透明ガラス容器にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.3311部秤量し、n-ヘキサンを9.6689部加え、密閉した後室温にて約1時間溶解させた。目視にてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの結晶が溶解したことを確かめたのち、1%のPt原子を有する白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を10.0部加え、密閉した後、均一になるよう30分攪拌した。その後、ビニルトリメトキシシランを1.00部加え、密閉した後、均一になるよう60分攪拌した。その後、溶液を100mlナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いてn-ヘキサンを減圧留去した(条件:30℃×2時間/約34hPa)。100mlナス型フラスコには、無色透明の液体が11.12g得られた(収率:98.1%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒3』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、1.0分子、シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、13.16分子となる。)
【0047】
[実施例4]
25gの透明ガラス容器にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.6622部秤量し、n-ヘキサンを9.3378部加え、密閉した後室温にて約1時間溶解させた。目視にてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの結晶が溶解したことを確かめたのち、1%のPt原子を有する白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を10.0部加え、密閉した後、均一になるよう30分攪拌した。その後、7-オクテニルトリメトキシシラン(製品名:KBM-1083[信越化学工業(株)社製])を0.06部加え、密閉した後、均一になるよう60分攪拌した。その後、溶液を100mlナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いてn-ヘキサンを減圧留去した(条件:30℃×2時間/約35hPa)。100mlナス型フラスコには、無色透明の液体が10.31g得られた(収率:96.2%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒4』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、2.0分子、シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0.50分子となる)
【0048】
[比較例1]
実施例1において、ビニルトリメトキシシランの代わりに2,4,6,8-テトラビニル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンを0.06部に変えた以外は実施例1同様の操作を行った。結果、100mlナス型フラスコには、無色透明の液体が10.33g得られた(収率:96.3%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒5』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、1.0分子、シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0分子となる。[配位子となる2,4,6,8-テトラビニル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンの配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0.34分子となる。])
【0049】
[比較例2]
実施例1において、ビニルトリメトキシシランを除いたほかは実施例1同様の操作を行った。結果、100mlナス型フラスコには、無色透明の液体が10.50g得られた(収率:98.5%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒6』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、1.0分子シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0分子となる。)
【0050】
[比較例3]
25gの透明ガラス容器にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.3311部秤量し、n-ヘプタン(沸点:98℃)を9.6689部加え、密閉した後室温にて約1時間溶解させた。目視にてトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの結晶が溶解したことを確かめたのち、1%のPt原子を有する白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を10.0部加え、密閉した後、均一になるよう30分攪拌した。その後、ビニルトリメトキシシランを0.06部加え、密閉した後、均一になるよう60分攪拌した。その後、溶液を100mlナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いてn-ヘキサンを減圧留去した(条件:50℃×2時間/約35hPa)。100mlナス型フラスコには、100mlナス型フラスコには、白色結晶が分散した無色透明液体(収量:10.95g)となり、無色透明の液体は得ることができなかった。(収率:105.4%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒7』とする。
(亜リン酸エステル化合物の配合量は、白金化合物の白金1分子に対し、1.0分子、シラン化合物の配合量は白金化合物の白金1分子に対し、0.79分子となる。)
【0051】
[比較例4]
実施例1において、n-ヘキサンを用いず実施例1同様の操作を行った。結果、100mlナス型フラスコには、白色結晶が分散した液体(収量:10.33g)となり、無色透明の液体は得ることができなかった。(収率:99.9%)。この白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を『触媒8』とする。
【0052】
上記実施例1~4及び比較例1~4で得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の収量及び収率を表1に記載した。また、これらの実施例、比較例で得られた触媒の外観について、以下の試験を行った。
得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を、窒素充填した密閉容器に保存した。その後、23℃で7日後の外観を確認し、容器内に結晶が生成しなかったものを合格、結晶が生成したものを不合格と判定した。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
[評価]
実施例1から4にて得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、本発明の要件を満たすものである。実施例はすべて、亜リン酸エステル化合物の配合量を白金化合物の白金1分子に対し1.0分子もしくは2.0分子となっている。しかし、同様の操作を亜リン酸エステル化合物の配合量を白金化合物の白金1分子に対し、0.1分子刻みで3.0分子まで同様に行った結果、すべて無色透明の液体が得られることを確認した。実施例1から4にて得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、密閉条件下、23℃×7日放置後も結晶析出が抑制されており、性状安定性の高い白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒が得られていることが分かる。
これに対し、比較例1、2の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加していないため、23℃×7日程度で結晶が析出してしまうことが分かる。また、比較例3の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、亜リン酸エステル化合物を溶解させる炭化水素系溶剤として沸点が80℃以上のn-ヘプタンを使用している。そのため、減圧留去の温度をより高温としても使用したn-ヘプタンを完全に留去することができない他、加熱温度を高くした結果、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の亜リン酸エステル化合物の配位が外れて結晶が析出してしまい、液状の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得ることができていないことが分かる。比較例4の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、亜リン酸エステル化合物を炭化水素系溶剤に溶解せず白金化合物への配位を行った。その結果、亜リン酸エステル化合物は溶解することがなく結晶が分散した液体が得られたことが分かる。上記の結果から、安定した液状の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得るためには本発明の触媒の製造方法の有効性が確認できる。
【0055】
[白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を利用した硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する実施例]
以下、本発明で得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を利用した硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する実施例及び比較例を具体的に説明する。なお、以下は1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物の実施例および比較例となっているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
本実施例の評価は次のように行った。
【0057】
[1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物作成に関する作業性について]
下記実施例及び比較例で調製した1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物を作製する際、白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の性状が液体であり、添加の際、不具合が生じ得なかったものを合格と判定した。逆に、触媒配合時に白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒が結晶化しており、添加の際作業性に不具合が生じたものは不合格と判定した。
【0058】
[1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物の保存安定性]
下記実施例及び比較例で調製した1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物の保存安定性は、得られた1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物の初期の硬化性と23℃にて6か月保存したのちの硬化性をレオメーター(ALPHA TECHNOLOGIES社製 RUBBER PROCESS ANALYZER RPA2000)を用いて比較した。この時、23℃にて6か月後まで評価できたものを合格と判定した。ここで、1成分型ミラブル型シリコーンゴム組成物の硬化性データは150℃における測定値を示す。
なお、表2において、T50*およびT50**は、150℃での時間-トルク曲線からトルクが安定したところを100%硬化したと仮定し、トルクが立ち上がった時から50%に至るまでの時間TをT50と表している。
【0059】
[組成物実施例1]
ジメチルシロキサン単位99.85モル%、メチルビニルシロキサン単位0.125モル%、ジメチルビニルシロキシ単位0.025モル%からなり、平均重合度が6,000であるオルガノポリシロキサン生ゴム100質量部、BET法比表面積が200m2/gのヒュームドシリカ(アエロジル200、日本アエロジル株式会社製)55質量部、ジメチルジメトキシシラン12質量部、ビニルトリメトキシシラン0.2質量部、両末端シラノール基を有し、平均重合度4、25℃における粘度が15mPa・sであるジメチルポリシロキサン12質量部、3%カリウムシリコネート0.15質量部を添加し、170℃で2時間、ニーダーにより混合下で加熱した後、ベースコンパウンド(1)を調製した。
該ベースコンパウンド(1)に、オルガノポリシロキサン生ゴム100質量部に対して、設定構造がM2DH
20D18(H量;0.00726mol/g)(ここで、M:(CH3)3SiO1/2-、DH:(CH3)HSiO2/2-,D:(CH3)2SiO2/2-を表す)であるオルガノハイドロジェンシロキサン1.7質量部、実施例1で作製した『触媒1』0.05質量部を二本ロールで添加して均一に混合して生ゴム状の1成分型シリコーンゴム組成物1を製造した。
【0060】
[組成物実施例2]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒2』を0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物2を製造した。
【0061】
[組成物実施例3]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒3』を0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物3を製造した。
【0062】
[組成物実施例4]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒4』を0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物4を製造した。
【0063】
[組成物比較例1]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒5』をを0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物5を製造した。
【0064】
[組成物比較例2]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒6』を0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物6を製造した。
【0065】
[組成物比較例3]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒7』を0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物7を製造した。
【0066】
[組成物比較例4]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに『触媒8』を0.05質量部用いた以外は同にして、1成分型シリコーンゴム組成物8を製造した。
【0067】
[組成物比較例5]
組成物実施例1において、『触媒1』の代わりに1%のPt原子を有する白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を0.05質量部用いた以外は同様にして、1成分型シリコーンゴム組成物9を製造した。
【0068】
[試験]
上記組成物実施例1~4及び組成物比較例1~5で得られた結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
[組成物評価]
実施例1から4にて得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、本発明の要件を満たすものであり、それらを使用した組成物実施例1から4の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、23℃における保存安定性も良好ということが分かる。
これに対し、比較例1から4の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、23℃において結晶が析出してしまっているため、触媒自体の合否判定では不合格であり、さらに触媒添加時に結晶成分を取り除きながら必要量を配合する必要があったため、作業性においても不合格であった。しかし、それら触媒を使用した硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、良好な保存安定性を示している。そのため、触媒の性状が23℃で液状となれば、触媒添加時の作業性も改善される。また、比較例4の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、炭化水素系溶剤を使用せず、目的とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を得ている。そのため、亜リン酸エステル化合物と白金との錯体形成が不良となったため、それを用いて作成した硬化性シリコーン組成物は、保存安定性が低下する結果となった。比較例5においては、白金と亜リン酸エステルとの錯体形成およびシロキサン化合物との会合をせず、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を直接使用した硬化性オルガノポリシロキサン組成物の例示である。本触媒を用いて作成した硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、保存安定性が低下する結果となった。上記の結果から、本発明で得られた白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を使用した硬化性オルガノポリシロキサン組成物においては、作業性向上と保存安定性の点で非常に優れた性能を発揮することが分かる。
【0071】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:(A)白金と下記一般式(1)
【化17】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
で示される亜リン酸エステル化合物とで構成された白金-亜リン酸エステル錯体、および
(B)下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物、
を含む白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒であって、
【化18】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
前記ヒドロシリル化触媒は、前記(A)成分と前記(B)成分の会合体であり、有機溶剤を含有せず、かつ、23℃で液状のものであることを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒。
[2]: 前記成分(B)は、前記R
2がビニル基であるアルコキシシラン誘導体であることを特徴とする[1]に記載の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒。
[3]: [1]または[2]に記載の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒を含有するものであることを特徴とする硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4]: 有機溶剤を含有しないものであることを特徴とする[3]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[5]: [3]または[4]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物を有するものであることを特徴とする物品。
[6]: 以下の工程(a)~工程(d)を含むことを特徴とする白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法。
(a)沸点が80℃以下である炭化水素系溶剤中に、下記一般式(1)で示される亜リン酸エステル化合物を溶解した溶液を調製する工程、
【化19】
(式中、R
1は水素原子もしくは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。)
(b)前記溶液に、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体からなる群から選択される、有機溶剤を含まない白金化合物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体を含有する溶液を調製する工程、
(c)上記工程(a)~工程(b)で得られた溶液に、下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加し、分散させて白金-亜リン酸エステル錯体の少なくとも一部と下記一般式(2)で示されるシラン化合物および/またはその部分加水分解物の会合体を含有する溶液を調製する工程、
【化20】
(式中、R
2は炭素原子数が2~10であるアルケニル基を示し、R
3は炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基である。また、Xは炭素原子数が1~3である1価の脂肪族炭化水素基もしくはOR
3である。)
(d)前記工程(c)で得られた溶液から前記炭化水素系溶剤を除去する工程。
[7]: 前記(c)工程において、前記白金化合物中の白金原子1原子に対し、前記シラン化合物および/またはその部分加水分解物中のアルケニル基のモル数が、0.01~500倍の範囲内になるように前記シラン化合物および/またはその部分加水分解物を添加することを特徴とする、[6]に記載の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒の製造方法。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
本発明の白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒は、従来、結晶が生成してしまうような白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒においても、有機溶剤を使用せず、23℃において液状の性状を保持することができる。そのため、ヒドロシリル化触媒自体の性状安定性の向上と、この触媒を用いて硬化性オルガノポリシロキサン組成物を製造する際の作業性向上、および炭化水素系有機溶剤を含まない安全性の高い硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得ることができる。そのため、人体に対する悪影響も非常に少ない白金-亜リン酸エステル錯体含有ヒドロシリル化触媒である。また、得られた炭化水素系有機溶剤を含まない硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、常温を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定したオルガノポリシロキサン組成物と成り得るため、電気機器、自動車、建築、医療、食品分野など幅広い応用が期待できる。