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特開2024-155301研磨方法、研磨装置、および温度調節プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155301
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】研磨方法、研磨装置、および温度調節プログラム
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/015 20120101AFI20241024BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20241024BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20241024BHJP
   B24B 49/14 20060101ALI20241024BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20241024BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B24B37/015
B24B49/04 Z
B24B49/12
B24B49/14
B24B49/16
H01L21/304 622R
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069920
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅佳
(72)【発明者】
【氏名】尹 昇鎬
(72)【発明者】
【氏名】康 諭基泰
(72)【発明者】
【氏名】本島 靖之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 駿平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲一
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB93
3C034CA05
3C034CA19
3C034CA22
3C034CB20
3C158AA07
3C158AC02
3C158BA01
3C158BA08
3C158BB02
3C158BC02
3C158CB01
3C158DA17
3C158EB01
3C158ED00
5F057AA09
5F057AA20
5F057BA13
5F057BA15
5F057BA28
5F057CA12
5F057DA03
5F057GA04
5F057GA13
5F057GA16
5F057GA27
5F057GB02
5F057GB03
5F057GB13
5F057GB20
5F057GB25
5F057GB26
5F057GB40
(57)【要約】
【課題】ウェーハなどのワークピースの研磨中に、ワークピースの膜の状態に応じて研磨パッドの研磨面の温度を適切に制御することができる研磨方法を提供する。
【解決手段】本研磨方法は、サンプルを研磨パッド3の研磨面3a上で研磨しながら、サンプルの表面状態を表面状態検出器20により検出し、サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成し、時系列データに基づいて、サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定し、決定した時点に基づいて温度制御時間を決定し、ワークピースWを研磨パッド3の研磨面3a上で研磨しながら、パッド温度調節装置10により、温度制御時間に基づき研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを研磨パッドの研磨面上で研磨しながら、前記サンプルの表面状態を表面状態検出器により検出し、
前記サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成し、
前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定し、
前記決定した時点に基づいて温度制御時間を決定し、
ワークピースを前記研磨パッドの前記研磨面上で研磨しながら、パッド温度調節装置により、前記温度制御時間に基づき前記研磨パッドの前記研磨面の温度を制御する、研磨方法。
【請求項2】
前記表面状態検出器は、前記研磨パッドを回転させるためのトルクを測定するトルク測定器である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記表面状態検出器は、前記サンプルの膜厚を測定する膜厚測定装置である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定する工程は、
前記時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成し、
前記時系列微分データ上の特徴的変化点を決定し、
前記特徴的変化点が現れた時点を決定する工程である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記微分処理は、二階微分処理である、請求項4に記載の研磨方法。
【請求項6】
研磨パッドを支持する研磨テーブルと、
サンプルおよびワークピースを前記研磨パッドの研磨面に押し付けて前記サンプルおよび前記ワークピースを研磨する研磨ヘッドと、
前記サンプルを前記研磨パッドの研磨面上で研磨しているときに、前記サンプルの表面状態を検出する表面状態検出器と、
前記研磨パッドの前記研磨面の温度を調節するパッド温度調節装置と、
前記パッド温度調節装置の動作を制御する動作制御部を備え、
前記動作制御部は、
前記表面状態検出器によって検出された前記サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成し、
前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定し、
前記決定した時点に基づいて温度制御時間を決定し、
前記ワークピースを前記研磨パッドの前記研磨面上で研磨しているときに、前記パッド温度調節装置に指令を与えて、前記温度制御時間に基づき前記研磨パッドの前記研磨面の温度を制御するように構成されている、研磨装置。
【請求項7】
前記表面状態検出器は、前記研磨パッドを回転させるためのトルクを測定するトルク測定器である、請求項6に記載の研磨装置。
【請求項8】
前記表面状態検出器は、前記サンプルの膜厚を測定する膜厚測定装置である、請求項6に記載の研磨装置。
【請求項9】
前記動作制御部は、
前記時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成し、
前記時系列微分データ上の特徴的変化点を決定し、
前記特徴的変化点が現れた時点を決定するように構成されている、請求項6に記載の研磨装置。
【請求項10】
前記微分処理は、二階微分処理である、請求項6に記載の研磨装置。
【請求項11】
サンプルを研磨パッドの研磨面上で研磨しているときに表面状態検出器によって検出された前記サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成するステップと、
前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定するステップと、
前記決定した時点に基づいて温度制御時間を決定するステップと、
ワークピースを前記研磨パッドの前記研磨面上で研磨しているときに、パッド温度調節装置に指令を与えて、前記温度制御時間に基づき前記研磨パッドの前記研磨面の温度を制御するステップをコンピュータに実行させるための温度調節プログラム。
【請求項12】
前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定するステップは、
前記時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成するステップと、
前記時系列微分データ上の特徴的変化点を決定するステップと、
前記特徴的変化点が現れた時点を決定するステップである、請求項11に記載の温度調節プログラム。
【請求項13】
前記微分処理は、二階微分処理である、請求項11に記載の温度調節プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドの研磨面の温度を制御しながらワークピースを研磨面上で研磨する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CMP(Chemical Mechanical Polishing)装置は、半導体デバイスの製造において、ウェーハの表面を研磨する工程に使用される。CMP装置は、膜を有するウェーハを研磨ヘッドにより回転させ、さらに回転する研磨テーブル上の研磨パッドにウェーハを研磨ヘッドにより押し付けて、ウェーハの表面を構成する膜を研磨する。研磨中、研磨パッドには研磨液(スラリー)が供給される。ウェーハの膜は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および/または研磨パッドの機械的作用により平坦化される。
【0003】
ウェーハの研磨レートは、ウェーハの研磨パッドに対する研磨荷重のみならず、研磨パッドの表面温度にも依存する。これは、ウェーハの膜に対する研磨液の化学的作用が温度に依存するからである。したがって、半導体デバイスの製造においては、膜の適切な研磨レートを達成するために、ウェーハ研磨中の研磨パッドの表面温度を最適に制御することが重要とされる。
【0004】
そこで、研磨パッドの表面温度を調節するためのパッド温度調節装置が従来から使用されている(例えば、特許文献1参照)。パッド温度調節装置は、温度調節された加熱液および冷却液が供給されるパッド接触部材を有している。パッド接触部材に供給される加熱液の流量と冷却液の流量とを調節することで、ウェーハ研磨中の研磨パッドの表面温度を所望の温度に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-148933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウェーハは、通常、複数の膜を含む積層構造を有する。研磨されるウェーハの膜は、積層構造を構成する複数の膜のうち、最も上の膜である。ウェーハが研磨されるにつれて、最も上の膜が除去されると、その下にある下層膜が露出する。したがって、下層膜が研磨パッドに接触し、研磨される。また、ウェーハに対する成膜工程と研磨工程との間に、ウェーハの研磨対象の膜の上に酸化膜が形成されることがある。この酸化膜は、成膜工程によって形成された膜と空気中の酸素が反応して形成される膜であり、ウェーハの積層構造を構成する膜とは異なる性質を有する。このような酸化膜は、ウェーハの研磨によって除去され、さらにその下にある積層構造の膜が引き続き研磨される。
【0007】
研磨に最適な研磨パッドの研磨面の温度は、膜の状態によって異なることがある。すなわち、膜の最適な研磨レートを達成するためには、ウェーハの研磨中に研磨パッドの研磨面の温度を最適な温度に制御する必要がある。さらに、ウェーハの研磨終点の直前には、ウェーハの過剰なエッチングや、エロージョンを防止するために、研磨パッドの研磨面の温度を下げて、ウェーハの研磨レートを意図的に下げることがある。このように、ウェーハの研磨中に、ウェーハの膜の状態に応じて、研磨パッドの研磨面の温度を最適な温度に制御することが求められる。
【0008】
そこで、本発明は、ウェーハなどのワークピースの研磨中に、ワークピースの膜の状態に応じて研磨パッドの研磨面の温度を適切に制御することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、サンプルを研磨パッドの研磨面上で研磨しながら、前記サンプルの表面状態を表面状態検出器により検出し、前記サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成し、前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定し、前記決定した時点に基づいて温度制御時間を決定し、ワークピースを前記研磨パッドの前記研磨面上で研磨しながら、パッド温度調節装置により、前記温度制御時間に基づき前記研磨パッドの前記研磨面の温度を制御する、研磨方法が提供される。
【0010】
一態様では、前記表面状態検出器は、前記研磨パッドを回転させるためのトルクを測定するトルク測定器である。
一態様では、前記表面状態検出器は、前記サンプルの膜厚を測定する膜厚測定装置である。
一態様では、前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定する工程は、前記時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成し、前記時系列微分データ上の特徴的変化点を決定し、前記特徴的変化点が現れた時点を決定する工程である。
一態様では、前記微分処理は、二階微分処理である。
【0011】
一態様では、研磨パッドを支持する研磨テーブルと、サンプルおよびワークピースを前記研磨パッドの研磨面に押し付けて前記サンプルおよび前記ワークピースを研磨する研磨ヘッドと、前記サンプルを前記研磨パッドの研磨面上で研磨しているときに、前記サンプルの表面状態を検出する表面状態検出器と、前記研磨パッドの前記研磨面の温度を調節するパッド温度調節装置と、前記パッド温度調節装置の動作を制御する動作制御部を備え、前記動作制御部は、前記表面状態検出器によって検出された前記サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成し、前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定し、前記決定した時点に基づいて温度制御時間を決定し、前記ワークピースを前記研磨パッドの前記研磨面上で研磨しているときに、前記パッド温度調節装置に指令を与えて、前記温度制御時間に基づき前記研磨パッドの前記研磨面の温度を制御するように構成されている、研磨装置が提供される。
【0012】
一態様では、前記表面状態検出器は、前記研磨パッドを回転させるためのトルクを測定するトルク測定器である。
一態様では、前記表面状態検出器は、前記サンプルの膜厚を測定する膜厚測定装置である。
一態様では、前記動作制御部は、前記時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成し、前記時系列微分データ上の特徴的変化点を決定し、前記特徴的変化点が現れた時点を決定するように構成されている。
一態様では、前記微分処理は、二階微分処理である。
【0013】
一態様では、サンプルを研磨パッドの研磨面上で研磨しているときに表面状態検出器によって検出された前記サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成するステップと、前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定するステップと、前記決定した時点に基づいて温度制御時間を決定するステップと、ワークピースを前記研磨パッドの前記研磨面上で研磨しているときに、パッド温度調節装置に指令を与えて、前記温度制御時間に基づき前記研磨パッドの前記研磨面の温度を制御するステップをコンピュータに実行させるための温度調節プログラムが提供される。
【0014】
一態様では、前記時系列データに基づいて、前記サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定するステップは、前記時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成するステップと、前記時系列微分データ上の特徴的変化点を決定するステップと、前記特徴的変化点が現れた時点を決定するステップである。
一態様では、前記微分処理は、二階微分処理である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ワークピースの研磨中に、ワークピースの膜の状態に応じて研磨パッドの研磨面の温度を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】研磨方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
図3】サンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データの一例を示すグラフである。
図4図3に示す時系列データに対して一階微分処理を実行することで作成された時系列一階微分データの一例を示すグラフである。
図5図3に示す時系列データに対して二階微分処理を実行することで作成された時系列二階微分データの一例を示すグラフである。
図6】サンプルの研磨に伴って変化するサンプルの積層構造の一例を示す図である。
図7】パッド温度レシピの一例と、パッド温度レシピに従った研磨パッドの研磨面の温度変化を示すグラフの一例を示す図である。
図8】パッド温度レシピの他の例と、パッド温度レシピに従った研磨パッドの研磨面の温度変化を示すグラフの他の例を示す図である。
図9】表面状態検出器として膜厚測定装置を用いた場合の時系列データ、時系列一階微分データ、時系列二階微分データの一例を示すグラフである。
図10】サンプルの研磨に伴って変化するサンプルの積層構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。研磨装置は、研磨パッド3を支持する研磨テーブル2と、ワークピースの一例であるウェーハWを研磨パッド3に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル2を回転させるテーブル回転モータ6と、研磨パッド3上に研磨液(例えば、砥粒を含むスラリー)を供給するための研磨液供給ノズル4と、研磨パッド3の研磨面3aの温度を調節する温度調節システム5とを備えている。研磨パッド3の表面(上面)は、ウェーハWを研磨する研磨面3aを構成する。
【0018】
ワークピースの具体例としては、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、配線基板、角基板などが挙げられる。ワークピースは、複数の膜を含む積層構造を有する。以下に説明する実施形態におけるウェーハWの表面は、複数の膜を含む積層構造の露出面である。
【0019】
温度調節システム5は、研磨パッド3の研磨面3aの温度を調節するパッド温度調節装置10と、研磨パッド3の研磨面3aの温度を測定するパッド温度測定器12と、パッド温度調節装置10の動作を制御する動作制御部15を有している。本実施形態では、動作制御部15は、温度調節システム5を含む研磨装置全体の動作を制御するように構成されている。
【0020】
動作制御部15は、プログラムが格納された記憶装置15aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置15bを備えている。動作制御部15は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置15aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置15bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作制御部15の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0021】
研磨ヘッド1は鉛直方向に移動可能であり、かつその軸心を中心として矢印で示す方向に回転可能となっている。研磨ヘッド1は研磨ヘッド回転モータ(図示せず)に連結されており、矢印で示す方向に回転可能となっている。図1に示すように、研磨ヘッド1および研磨テーブル2は、同じ方向に回転する。研磨パッド3は、研磨テーブル2の上面に貼り付けられている。
【0022】
ウェーハWの研磨は次のようにして行われる。研磨されるウェーハWは、研磨ヘッド1によって回転され、その一方で、研磨パッド3は、研磨テーブル2とともにテーブル回転モータ6によって回転される。この状態で、研磨パッド3の研磨面3aには研磨液供給ノズル4から研磨液が供給され、さらにウェーハWの表面は、研磨ヘッド1によって研磨パッド3の研磨面3aに対して押し付けられる。ウェーハWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および/または研磨パッド3の機械的作用により平坦化される。
【0023】
温度調節システム5は、ウェーハWの表面状態を検出する表面状態検出器としてのトルク測定器20を備えている。トルク測定器20は、研磨パッド3および研磨テーブル2を回転させるためのトルクを測定するように構成されている。トルク測定器20は、動作制御部15に電気的に接続されている。トルク測定器20によって検出されるウェーハWの表面の状態は、ウェーハWの被研磨面の状態である。ウェーハWの表面の状態の例としては、ウェーハWの表面の凹凸、ウェーハWの表面を構成する膜の種類およびその厚さ(あるいは量)などが挙げられる。トルク測定器20は、ウェーハWの表面の状態によって変化する検出信号を出力するように構成されている。検出信号は、動作制御部15に送られる。
【0024】
表面状態検出器としてのトルク測定器20は、テーブル回転モータ6に電気的に接続されており、研磨テーブル2を回転させるためにテーブル回転モータ6に供給される電流を測定し、電流の測定値を示す検出信号を動作制御部15に送るように構成されている。
【0025】
ウェーハWの表面を構成する上層膜が研磨によって除去されると、その上層膜の下に存在する下層膜が露出する。上層膜と下層膜は異なる材料から構成されているので、上層膜が除去されるにつれて、ウェーハWと研磨パッド3との摩擦が変化する。この摩擦の変化は、テーブル回転モータ6に印加される電流の変化として現れる。例えば、ウェーハWの表面を構成する膜が除去されると(すなわちウェーハWの表面状態が変化すると)、摩擦が大きくなる。その結果、研磨テーブル2を予め設定された速度で回転させるのに必要なトルクを発生させるためにテーブル回転モータ6に印加される電流が大きくなる。したがって、表面状態検出器としてのトルク測定器20は、研磨テーブル2を予め設定された速度で回転させるために必要なトルクに応じて変化する電流に基づいて、ウェーハWの表面状態を検出することができる。
【0026】
テーブル回転モータ6に印加される電流を測定する本実施形態のトルク測定器20は、研磨パッド3および研磨テーブル2を回転させるためのトルクを間接的に測定するが、一実施形態では、トルク測定器20は、研磨パッド3および研磨テーブル2を回転させるためのトルクを直接測定するように構成されてもよい。
【0027】
一実施形態では、ウェーハWの表面状態を検出する表面状態検出器として、ウェーハWの膜厚を測定する膜厚測定装置21が用いられてもよい。膜厚測定装置21は、研磨テーブル2内に配置されており、研磨テーブル2および研磨パッド3とともに回転しながら、研磨パッド3の研磨面3a上のウェーハWの膜厚を測定するように構成されている。膜厚測定装置21の例としては、ウェーハWからの反射光のスペクトルに基づいてウェーハWの膜厚を測定する光学式膜厚測定装置、ウェーハWの膜に発生させた渦電流に基づいてウェーハWの膜厚を測定する渦電流式膜厚測定装置が挙げられる。
【0028】
ウェーハWの表面を構成する膜の厚さは、ウェーハWの研磨に従って減少する。したがって、表面状態検出器としての膜厚測定装置21は、ウェーハWの膜厚に基づいて、ウェーハWの表面状態を検出することができる。表面状態検出器としての膜厚測定装置21は、ウェーハWの膜厚を示す検出信号を動作制御部15に送るように構成されている。ウェーハWの膜厚を示す検出信号は、ウェーハWの膜厚を直接または間接に表す信号であり、ウェーハWの膜厚によって変化する。
【0029】
パッド温度調節装置10は、研磨パッド3の研磨面3aを加熱するパッド加熱器24と、研磨パッド3の研磨面3aを冷却するパッド冷却器25を備えている。パッド加熱器24およびパッド冷却器25は、研磨テーブル2および研磨パッド3の上方に位置しており、研磨パッド3の研磨面3aに対向して配置されている。パッド加熱器24およびパッド冷却器25は、研磨パッド3の研磨面3aとは非接触である。パッド温度調節装置10は、加熱流体をパッド加熱器24に供給する加熱流体供給ライン27と、加熱流体供給ライン27を流れる加熱流体の流量を制御する加熱流量制御弁31と、冷却流体をパッド冷却器25に供給する冷却流体供給ライン28と、冷却流体供給ライン28を流れる冷却流体の流量を制御する冷却流量制御弁32をさらに備えている。
【0030】
加熱流量制御弁31および冷却流量制御弁32は、動作制御部15に電気的に接続されており、加熱流量制御弁31および冷却流量制御弁32の動作(すなわち加熱流体供給ライン27を流れる加熱流体の流量および冷却流体供給ライン28を流れる冷却流体の流量)は、動作制御部15によって制御される。
【0031】
加熱流体は、パッド加熱器24の噴射口24aから研磨パッド3の研磨面3aに放出され、これにより研磨パッド3の研磨面3aの温度は上昇する。冷却流体は、パッド冷却器25の噴射口(図示せず)から研磨パッド3の研磨面3aに放出され、これにより研磨パッド3の研磨面3aの温度は低下する。動作制御部15は、加熱流量制御弁31および冷却流量制御弁32を操作することで、パッド加熱器24およびパッド冷却器25から研磨パッド3の研磨面3aに供給される加熱流体および冷却流体の流量を調節し、これにより研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御することができる。
【0032】
パッド温度測定器12は、研磨パッド3の研磨面3aの温度を非接触で測定し、その測定値を動作制御部15に送る。パッド温度測定器12の例としては、赤外線放射温度計、熱電対温度計などが挙げられる。動作制御部15は、研磨パッド3の研磨面3aの温度が予め設定された目標温度に到達するように、温度の測定値に基づいて、加熱流量制御弁31および冷却流量制御弁32を操作する。
【0033】
一実施形態では、加熱流体は、蒸気である。蒸気の例としては、水を蒸発させることで生成された水蒸気や、飽和蒸気をさらに加熱することで生成された過熱蒸気が挙げられる。他の実施形態では、加熱流体は、高温の気体(例えば、高温の空気、窒素、またはアルゴン)でもよい。
【0034】
一実施形態では、冷却流体は、常温のガス(例えば、窒素、アルゴンなどの不活性ガス)である。しかしながら、冷却流体はこの例に限定されない。冷却流体は、常温よりも低い温度まで冷却されたガスでもよいし、研磨パッド3の研磨面3aの目標温度よりも低い温度のガスでもよい。
【0035】
図示しないが、一実施形態では、パッド温度調節装置10は、パッド冷却器25に隣接された吸引ノズルをさらに備えてもよい。吸引ノズルは、研磨パッド3の研磨面3aに対向する吸引口を有する。吸引ノズルは、真空ポンプなどの真空源に連結される。吸引ノズルから吸引される空気の量を増減させると、研磨面3a上の研磨液から奪われる気化熱の量が変化し、結果として、研磨面3aの温度を調整することができる。
【0036】
図1を参照した実施形態のパッド温度調節装置10は、研磨パッド3の研磨面3aに加熱流体および冷却流体を直接接触させるように構成されているが、研磨パッド3の研磨面3aの温度を調節することができる限りにおいて、パッド温度調節装置10の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、パッド温度調節装置10は、研磨パッド3の研磨面3aに対向して配置された熱交換器に加熱流体および冷却流体を流し、熱交換器の底部を介して加熱流体と研磨パッド3との間で熱交換を行い、熱交換器の底部を介して冷却流体と研磨パッド3との間で熱交換を行い、加熱流体と冷却流体の流量を調節するように構成されてもよい。
【0037】
次に、研磨方法の一実施形態について説明する。
図2は、研磨方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ1では、研磨装置は、ウェーハWを研磨する前に、研磨対象であるウェーハWと同じ構造を持つサンプルを研磨する。
ステップ2では、サンプルを研磨パッド3の研磨面3a上で研磨しながら、サンプルの表面状態を表面状態検出器としてのトルク測定器20または膜厚測定装置21により検出する。
【0038】
ステップ3では、動作制御部15は、サンプルの研磨中のサンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成する。
ステップ4では、動作制御部15は、時系列データに基づいて、サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定する。
ステップ5では、動作制御部15は、上記ステップ4で決定した時点に基づいて、ウェーハWの研磨時に研磨パッド3の研磨面3aの温度を変えるべき温度制御時間を決定する。
ステップ6では、研磨装置は、ウェーハWを研磨する。
ステップ7では、研磨装置は、ウェーハWを研磨パッド3の研磨面3a上で研磨しながら、動作制御部15は、パッド温度調節装置10に指令を与えて、温度制御時間に基づいて研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御させる。
【0039】
動作制御部15は、その記憶装置15aに電気的に格納されたプログラムに含まれる命令に従って動作し、上記ステップ1~7を実行する。これらステップを動作制御部15に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して動作制御部15に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して動作制御部15に提供されてもよい。動作制御部15は、1台のコンピュータから構成されてもよい。他の例では、動作制御部15は、複数のコンピュータから構成されてもよい。
【0040】
以下、ステップ1~7について、詳細に説明する。
ステップ1は、ウェーハWを研磨する前に、ウェーハWと同じ構造を持つサンプルを研磨装置で研磨する工程である。サンプルは、研磨対象のウェーハWと同じ積層構造を持つワークピースである。より具体的には、サンプルは、研磨対象のウェーハWと同じ複数の膜を含む積層構造を有する。研磨対象のワークピースがウェーハである場合は、サンプルもウェーハである。研磨対象のワークピースが角基板である場合は、サンプルも角基板である。本実施形態では、研磨対象のワークピースはウェーハWであるので、サンプルもウェーハWと同じ積層構造を有するウェーハである。
【0041】
サンプルの研磨は、ウェーハWの研磨と同じように行われる。すなわち、サンプルは、研磨ヘッド1によって回転され、その一方で、研磨パッド3は、研磨テーブル2とともにテーブル回転モータ6によって回転される。研磨パッド3の研磨面3aには研磨液供給ノズル4から研磨液が供給され、さらにサンプルの表面は、研磨ヘッド1によって研磨パッド3の研磨面3aに対して押し付けられる。
【0042】
サンプルの研磨は、ウェーハWと同じ研磨条件下で研磨される。研磨条件には、使用される研磨液の種類および流量、研磨テーブル2および研磨パッド3の回転速度、研磨ヘッド1の回転速度、研磨ヘッド1の研磨パッド3に対する押付力などが挙げられる。
【0043】
ステップ2は、サンプルを研磨パッド3の研磨面3a上で研磨しながら、サンプルの表面状態を表面状態検出器としてのトルク測定器20または膜厚測定装置21により検出する工程である。表面状態検出器がトルク測定器20である実施形態では、トルク測定器20は、サンプルの研磨中にテーブル回転モータ6に供給されるトルク電流を測定し、トルク電流の測定値を示す検出信号を動作制御部15に送る。表面状態検出器が膜厚測定装置21である実施形態では、膜厚測定装置21は、サンプルの研磨中にサンプルの膜厚を測定し、サンプルの膜厚を示す検出信号を動作制御部15に送る。
【0044】
ステップ3は、サンプルの研磨中のサンプルの表面状態の時間的推移を表す時系列データを作成する工程である。より具体的には、動作制御部15は、表面状態検出器(トルク測定器20または膜厚測定装置21)から送られるサンプルの表面状態を示す検出信号を受け取り、検出信号をサンプルの研磨時間に沿って並べることで、図3に示すような、時系列データを作成する。作成された時系列データは、例えば研磨装置に備えられた記憶装置15aに記憶される。図3に示す例では、縦軸は表面状態検出器としてトルク測定器20によって検出されたサンプルの表面状態を示す検出信号を表し、横軸はサンプルの研磨時間を表している。図3に示す時系列データは、トルク測定器20から出力された検出信号の時間的推移を示している。図3から分かるように、時系列データは、研磨時間とともに変化するサンプルの表面状態を表している。
【0045】
ステップ4は、時系列データに基づいて、サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点を決定する工程である。サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点は、時系列データ上の特徴的変化点が現れた時点である。図3に示す例では、時系列データ上の特徴的変化点P1は、サンプルの表面状態を示す検出信号が上昇し始めた点であり、時系列データ上の特徴的変化点P2は、サンプルの表面状態を示す検出信号が上昇傾向から減少傾向に変わった変曲点であり、時系列データ上の特徴的変化点P3は、サンプルの表面状態を示す検出信号が上昇を停止した点である。動作制御部15は、サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点、すなわち時系列データ上の特徴的変化点P1,P2,P3が現れた時点t1,t2,t3を決定するように構成されている。
【0046】
時系列データ上の特徴的変化点P1,P2,P3を検出しやすくするために、一実施形態では、図4に示すように、動作制御部15は、時系列データに対して微分処理を実行することで時系列微分データを作成し、時系列微分データ上の特徴的変化点P1’,P2’,P3’を決定し、特徴的変化点P1’,P2’,P3’が現れた時点t1,t2,t3を決定してもよい。図4に示す実施形態では、微分処理は、一階微分処理である。動作制御部15は、図3に示す時系列データに対して一階微分処理を実行することで時系列一階微分データを作成する。図4に示すように、時系列一階微分データは、直線的に変化するので、動作制御部15は、時系列一階微分データ上の特徴的変化点P1’,P2’,P3’を容易に決定することができる。
【0047】
一実施形態では、図5に示すように、動作制御部15は、図3に示す時系列データに対して二階微分処理を実行してもよい。具体的には、動作制御部15は、図4に示す時系列一階微分データに対してさらに微分処理を実行することで時系列二階微分データを作成し、時系列二階微分データ上の特徴的変化点P1”,P2”,P3”を決定し、特徴的変化点P1”,P2”,P3”が現れた時点t1,t2,t3を決定してもよい。図5に示すように、時系列一階微分データは、段階的に変化するので、動作制御部15は、時系列一階微分データ上の特徴的変化点P1”,P2”,P3”を容易に決定することができる。
【0048】
さらに、一実施形態では、動作制御部15は、時系列データ、時系列一階微分データ、時系列二階微分データの組み合わせに基づいて、サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点t1,t2,t3を決定してもよい。
【0049】
ステップ5は、特徴的変化点が現れた時点t1,t2,t3に基づいて複数の温度制御時間を決定する工程である。各温度制御時間は、特徴的変化点が現れた時点自体であってもよいし、あるいは特徴的変化点が現れた時点に予め設定した遅れ時間を加えた時間であってもよい。例えば、温度制御時間は、特徴的変化点P1,P2(またはP1’,P2’、またはP1”,P2”)が現れた時点t1,t2と、特徴的変化点P3(またはP3’、またはP3”)が現れた時点t3に遅れ時間dを加えた時間t3+dであってもよい。すなわち、特徴的変化点が現れた時点に基づいて温度制御時間を決定することの例には、特徴的変化点が現れた時点である温度制御時間を決定すること、および特徴的変化点が現れた時点に遅れ時間を加えることで得られた温度制御時間を決定することが含まれる。動作制御部15は、決定した温度制御時間(例えばt1,t2,t3+d)を記憶装置15a内に格納する。
【0050】
ステップ6は、研磨装置によりウェーハWを研磨する工程である。ウェーハWは、研磨ヘッド1によって回転され、その一方で、研磨パッド3は、研磨テーブル2とともにテーブル回転モータ6によって回転される。研磨パッド3の研磨面3aには研磨液供給ノズル4から研磨液が供給され、さらにウェーハWの表面は、研磨ヘッド1によって研磨パッド3の研磨面3aに対して押し付けられる。
【0051】
ステップ7は、研磨装置によりウェーハWを研磨パッド3の研磨面3a上で研磨しながら、上記ステップ5で決定された温度制御時間に基づいて研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御する工程である。より具体的には、動作制御部15は、ウェーハWの研磨中に、予め作成されたパッド温度レシピに従って、パッド温度調節装置10に指令を与えて、温度制御時間に基づいて研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御させる。パッド温度レシピは、ウェーハWの研磨中に研磨パッド3の研磨面3aの温度を、温度制御時間に基づいて制御するためのパッド温度調節装置10の動作シーケンスである。
【0052】
図3乃至図5に示すような、サンプルの表面状態の変化は、サンプル研磨に伴う、サンプルの表面を構成する積層構造の変化に依存する。以下、サンプルの研磨に伴うサンプルの積層構造の変化と、サンプルの表面状態の変化(すなわち時系列データ)との関係の具体例について説明する。
【0053】
図6は、サンプルの研磨に伴って変化するサンプルの積層構造の一例を示す図である。この例のサンプル100は、第1膜F1と、第2膜F2と、下地層F3を含む積層構造を有する。第1膜F1は第2膜F2の上にあり、第2膜F2は下地層F3の上にある。第1膜F1の例には、成膜装置(例えばめっき装置、またはCVD装置、またはPVD装置)により形成された膜、成膜装置により形成された膜が空気中の酸素と反応して形成された酸化膜などが挙げられる。
【0054】
図6に示す時点0,t1,t2,t3は、図3乃至図5に示す時点0,t1,t2,t3にそれぞれ対応する。
図6に示す時点0~t1の期間は、第1膜F1が研磨されている期間である。サンプル100の表面は、第1膜F1から構成される。
図6に示す時点t1は、第1膜F1の厚さが小さくなり、第2膜F2が露出し始めた時点である。サンプル100の表面のほとんどは第1膜F1から構成され、サンプル100の表面の一部は第2膜F2から構成される。
図6に示す時点t2は、第1膜F1の大部分が除去され、第1膜F1の露出面積が第2膜F2の露出面積よりも小さい時点である。サンプル100の表面は、第1膜F1および第2膜F2から構成される。
図6に示す時点t3は、第1膜F1が除去された時点である。サンプル100の表面は、第2膜F2から構成される。
【0055】
上述したように、動作制御部15は、特徴的変化点が現れた時点t1,t2,t3に基づいて温度制御時間を決定する。例えば、温度制御時間は、特徴的変化点P1,P2が現れた時点t1,t2と、特徴的変化点P3が現れた時点t3に遅れ時間dを加えた時間t3+dである。この遅れ時間dは、第1膜F1が除去されたことを確実とするために付加される。
【0056】
動作制御部15は、上記ステップ6でウェーハWを研磨する前に、時点t1,t2,t3に基づいて決定された温度制御時間を用いて、ウェーハWの研磨に使用されるパッド温度レシピを作成する。パッド温度レシピは、ウェーハWの研磨中に研磨パッド3の研磨面3aの温度を温度制御時間に基づいて制御するためのパッド温度調節装置10の動作シーケンスである。
【0057】
図7は、パッド温度レシピの一例と、パッド温度レシピに従った研磨パッド3の研磨面3aの温度変化を示すグラフの一例を示す図である。図7の例では、サンプル研磨によって得られた時点t1,t2,t3に基づいて決定された温度制御時間は、t1,t2,t3+dである。
【0058】
図7に示す時点0,t1,t2,t3は、図3乃至図6に示す時点0,t1,t2,t3にそれぞれ対応する。
パッド温度レシピの区間1は、温度制御時間0~t1の期間である(図6の0~t1参照)。この区間1でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aを冷却することである。
パッド温度レシピの区間2は、温度制御時間t1~t2の期間である(図6のt1~t2参照)。この区間2でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御しない、すなわち研磨パッド3の研磨面3aを加熱も冷却もしないことである。したがって、温度制御時間t1~t2の期間では、摩擦熱により研磨パッド3の研磨面3aの温度は徐々に増加する。
【0059】
パッド温度レシピの区間3は、温度制御時間t2~(t3+d)の期間である(図6のt2~t3参照)。この区間3でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aを第1温度T1に加熱した後、温度を一定に保つ制御をすることである。
パッド温度レシピの区間4は、温度制御時間t3+d以降の期間である(図6のt3参照)。この区間4でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aを第1温度T1よりも高い第2温度T2に加熱した後、温度を一定に保つ制御をすることである。
【0060】
このようにして作成されたパッド温度レシピは、動作制御部15の記憶装置15a内に格納される。そして、パッド温度レシピが作成された後、研磨装置は、本来研磨すべきであるウェーハWを研磨する。
【0061】
動作制御部15は、ウェーハWの研磨中に、パッド温度レシピに従い、パッド温度調節装置10に指令を与えて、決定された温度制御時間に基づいて研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御させる。一例では、動作制御部15は、ウェーハWの研磨時間が温度制御時間に達したときに、パッド温度調節装置10の加熱流量制御弁31および冷却流量制御弁32の少なくとも一方を操作することで、研磨パッド3の研磨面3aの温度を変化させる。他の例では、上記区間2のように、ウェーハWの研磨時間が温度制御時間に達したときに、動作制御部15はパッド温度調節装置10の加熱流量制御弁31および冷却流量制御弁32の両方を閉じる。
【0062】
ウェーハWの研磨中は、動作制御部15は、表面状態検出器としてのトルク測定器20または膜厚測定装置21からの検出信号は監視せず、ウェーハWの研磨時間と温度制御時間に基づいて、研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御する。表面状態検出器によるウェーハWの表面状態の検出に要する処理時間を省くことができるので、動作制御部15は、温度制御時間に基づいて、研磨パッド3の研磨面3aの温度を速やかに制御することができる。
【0063】
図8は、パッド温度レシピの他の例と、パッド温度レシピに従った研磨パッド3の研磨面3aの温度変化を示すグラフの他の例を示す図である。図8の例では、温度制御時間は、サンプル研磨によって得られた時点t1,t2,t3である。図8に示すパッド温度レシピの目的は、ウェーハWの研磨終盤で、研磨レートを意図的に低下させることで、ウェーハWの研磨された面の仕上げ品質を向上させることにある。
【0064】
図8に示す時点0,t1,t2,t3は、図3乃至図6に示す時点0,t1,t2,t3にそれぞれ対応する。
パッド温度レシピの区間1は、温度制御時間0~t1の期間である(図6の0~t1参照)。この区間1でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aを第1温度T3に加熱した後、温度を一定に保つ制御をすることである。
パッド温度レシピの区間2は、温度制御時間t1~t2の期間である(図6のt1~t2参照)。この区間2でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aを第1温度T3よりも低い第2温度T4に冷却した後、一定温度に制御することである。
パッド温度レシピの区間3は、温度制御時間t2~t3の期間である(図6のt2~t3参照)。この区間3でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aを冷却することである。
パッド温度レシピの区間4は、温度制御時間t3以降の期間である。この区間4でのパッド温度調節装置10の動作は、研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御しない、すなわち研磨パッド3の研磨面3aを加熱も冷却もしないことである。
【0065】
図8のパッド温度レシピによれば、温度制御時間t2~t3の期間(すなわち、図6の第1膜F1の厚さが小さくなったとき)に、研磨パッド3の温度を下げるので、第1膜F1の研磨レートが低下し、第1膜F1が除去された後のウェーハWの表面仕上げ品質を向上させることができる。
【0066】
図9は、表面状態検出器として膜厚測定装置21を用いた場合の時系列データ、時系列一階微分データ、時系列二階微分データの一例を示すグラフである。動作制御部15は、表面状態検出器として膜厚測定装置21から送られるサンプルの表面状態を示す検出信号を受け取り、検出信号をサンプルの研磨時間に沿って並べることで、図9に示すような、時系列データを作成する。動作制御部15は、時系列データに対して、一階微分処理および二階微分処理を行うことで、時系列一階微分データおよび時系列二階微分データをさらに作成してもよい。
【0067】
図9に示す例では、時系列データ上の特徴的変化点P1は、サンプルの表面状態を示す検出信号がしきい値H1に達した点であり、時系列データ上の特徴的変化点P2は、サンプルの表面状態を示す検出信号の低下レートが下降し始めた時点であり、時系列データ上の特徴的変化点P3は、サンプルの表面状態を示す検出信号の低下レートの下降が停止した点である。
【0068】
図10は、サンプルの研磨に伴って変化するサンプルの積層構造の一例を示す図である。図10に示すサンプル200は、図6に示すサンプル100と同じ構造を有する。
図10に示す時点0,t1,t2,t3は、図9に示す0,t1,t2,t3にそれぞれ対応する。
図10に示す時点0~t1の期間は、第1膜F1が研磨されている期間である。サンプル200の表面は、第1膜F1から構成される。
図10に示す時点t1は、第1膜F1の厚さが小さくなり、第2膜F2が露出し始めた時点である。サンプル200の表面のほとんどは第1膜F1から構成され、サンプル200の表面の一部は第2膜F2から構成される。
図10に示す時点t2は、第1膜F1の大部分が除去され、第1膜F1の露出面積が第2膜F2の露出面積よりも小さい時点である。サンプル200の表面は、第1膜F1および第2膜F2から構成される。
図10に示す時点t3は、第1膜F1が除去された時点である。サンプル200の表面は、第2膜F2から構成される。
【0069】
動作制御部15は、図9に示す時系列データ、時系列一階微分データ、時系列二階微分データのいずれか、またはそれらの組み合わせに基づいて、サンプルの表面状態が特徴的に変化した時点t1,t2,t3を決定し、決定した時点t1,t2,t3に基づいて温度制御時間を決定する。さらに、動作制御部15は、温度制御時間を用いて、図7または図8に示すようなパッド温度レシピを作成する。動作制御部15は、ウェーハWの研磨中に、パッド温度レシピに従い、パッド温度調節装置10に指令を与えて、決定された温度制御時間に基づいて研磨パッド3の研磨面3aの温度を制御させる。
【0070】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0071】
W ウェーハ
1 研磨ヘッド
2 研磨テーブル
3 研磨パッド
3a 研磨面
4 研磨液供給ノズル
5 温度調節システム
6 テーブル回転モータ
10 パッド温度調節装置
12 パッド温度測定器
15 動作制御部
20 トルク測定器(表面状態検出器)
21 膜厚測定装置(表面状態検出器)
24 パッド加熱器
27 加熱流体供給ライン
28 冷却流体供給ライン
31 加熱流量制御弁
32 冷却流量制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10