(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015555
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用食感劣化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A21D 2/16 20060101AFI20240130BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240130BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240130BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240130BHJP
【FI】
A21D2/16
A23D7/00 506
A21D13/80
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117678
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真紀
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】小笠 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】塩田 野依
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG20
4B026DH10
4B026DK00
4B026DP01
4B026DX05
4B032DB05
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK18
4B032DK47
4B032DL03
4B032DL05
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】
ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することにある。
【解決手段】
中鎖脂肪酸トリグリセリドからなるベーカリー食品用食感劣化抑制剤。
中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有するベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物。
ベーカリー食品用生地中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合量が0.3~30質量%となるように、ベーカリー食品用生地に中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合することを特徴とするベーカリー食品の食感劣化を抑制する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖脂肪酸トリグリセリドからなるベーカリー食品用食感劣化抑制剤。
【請求項2】
中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有するベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のベーカリー食品用食感劣化抑制剤又は請求項2に記載のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物が配合されているベーカリー食品用生地であって、該ベーカリー食品用生地中に中鎖脂肪酸トリグリセリドが0.3~30質量%配合されているベーカリー食品用生地。
【請求項4】
請求項3に記載のベーカリー食品用生地が焼成されたベーカリー食品。
【請求項5】
ベーカリー食品用生地中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合量が0.3~30質量%となるように、ベーカリー食品用生地に中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合することを特徴とするベーカリー食品の食感劣化を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品の食感劣化抑制剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
焼き菓子等のベーカリー食品においては、商品を特徴付ける要素の1つとして、食感が挙げられる。近年では、ベーカリー食品に良好な食感を付与するために、食感改良剤が使用される場合が多い。ベーカリー食品の食感改良剤としては、例えば、特許文献1~5等が提案されている。
【0003】
通常、焼き菓子等のベーカリー食品は、生地に含まれる澱粉が老化するため、経時的に食感が劣化する。ベーカリー食品のなかでも、パウンドケーキ等の半生菓子は、経時的に食感が劣化しやすい。そのため、パウンドケーキ等の半生菓子は、消費期限が比較的短い商品である。一方、近年はフードロスの問題から、食品の消費期限は、長くすることが求められている。したがって、パウンドケーキ等の半生菓子においては、消費期限を長くするために、食感の経時的な劣化を抑制することが課題となっている。
【0004】
以上のような背景から、半生菓子等のベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる食感劣化抑制剤の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-114935号公報
【特許文献2】国際公開第2019/208506号
【特許文献3】特開2019-122375号公報
【特許文献4】特開2019-62892号公報
【特許文献5】特開2017-176105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、中鎖脂肪酸トリグリセリドによって、本課題が解決できることを見いだした。これにより、本発明が完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、中鎖脂肪酸トリグリセリドからなるベーカリー食品用食感劣化抑制剤である。
本発明の第2の発明は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有するベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物である。
本発明の第3の発明は、第1の発明に記載のベーカリー食品用食感劣化抑制剤又は第2の発明に記載のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物が配合されているベーカリー食品用生地であって、該ベーカリー食品用生地中に中鎖脂肪酸トリグリセリドが0.3~30質量%配合されているベーカリー食品用生地である。
本発明の第4の発明は、第3の発明に記載のベーカリー食品用生地が焼成されたベーカリー食品である。
本発明の第5の発明は、ベーカリー食品用生地中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合量が0.3~30質量%となるように、ベーカリー食品用生地に中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合することを特徴とするベーカリー食品の食感劣化を抑制する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用食感劣化抑制剤は、中鎖脂肪酸トリグリセリドからなるベーカリー食品用食感劣化抑制剤である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用食感劣化抑制剤は、ベーカリー食品用食感劣化抑制剤中に中鎖脂肪酸トリグリセリドを100質量%含有する。
本発明において、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTとも表記する)は、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基の全てが中鎖脂肪酸からなるトリグリセリドのことである。また、本発明において、中鎖脂肪酸は、6~10の炭素数を有する直鎖の飽和脂肪酸のことである。中鎖脂肪酸としては、具体的には、カプロン酸(炭素数6)、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)が挙げられる。MCTを構成する中鎖脂肪酸は、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、MCTを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、カプリル酸およびカプリン酸の合計量の割合は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、カプリル酸とカプリン酸の質量比は、好ましくは65:35~90:10であり、より好ましくは70:30~80:20である。
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができることから、ベーカリー食品用の食感劣化抑制剤として使用することができる。
【0011】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する可塑性油脂組成物である。なお、本発明において、可塑性油脂組成物とは、可塑性を有する油脂組成物のことであり、具体的には、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングである。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、好ましくはマーガリン又はファットスプレッドである。
また、本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、好ましくは練り込み可塑性油脂組成物である。なお、本発明で練り込み可塑性油脂組成物とは、ベーカリー食品用生地に練り込まれる油脂のことである。また、本発明において、ベーカリー食品用生地は、穀粉、可塑性油脂組成物、糖質、卵類、食塩等の原料を混ぜることで得られるベーカリー食品を製造するための焼成前の生地のことである。また、本発明において、穀粉とは、穀物を挽いて粉状にしたもののことである。穀粉の具体例は、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等である。
【0012】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを好ましくは1~55質量%含有し、より好ましくは2~50質量%含有し、さらに好ましくは20~40質量%含有する。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物には、中鎖脂肪酸トリグリセリドとして、前記中鎖脂肪酸トリグリセリドからなるベーカリー食品用食感劣化抑制剤を配合することもできる。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物が、中鎖脂肪酸トリグリセリドを前記範囲で含有すると、ベーカリー食品用生地への中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合をより容易に行うことができる。
【0013】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、油脂を好ましくは70質量%以上含有し、より好ましくは75~95質量%含有し、さらに好ましくは80~90質量%含有する。
【0014】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、水を好ましくは30質量%以下含有し、より好ましくは5~25質量%含有し、さらに好ましくは10~20質量%含有する。
【0015】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、油脂、水以外に、通常、可塑性油脂組成物の製造に使用される原料を配合することができる。具体的には、バター、脱脂粉乳等の乳製品、砂糖、乳糖及び液糖等の糖質、甘味料、乳化剤、増粘安定剤、食塩等の塩味剤、酸味料、β-カロテン等の着色料、酸化防止剤等を、前記可塑性油脂組成物に配合することができる。
【0016】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物は、従来公知のマーガリン、ファットスプレッド又はショートニングの製造条件及び製造方法で製造することができる。
【0017】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地中に中鎖脂肪酸トリグリセリドが0.3~30質量%配合されている。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地中に中鎖脂肪酸トリグリセリドが0.3~30質量%配合され、より好ましくは0.5~25%配合され、さらに好ましくは3~20質量%配合され、最も好ましくは5~15質量%配合されている。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合量が前記範囲になるように、ベーカリー食品用生地に本発明の実施の形態のベーカリー食品用食感劣化抑制剤又は本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物が配合される。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合量が前記範囲であると、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる。
また、ベーカリー食品用生地中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合量が前記範囲となるように、ベーカリー食品用生地に中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合することで、ベーカリー食品の食感劣化を抑制する方法として使用することができる。
【0018】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、可塑性油脂組成物が好ましくは15~35質量%配合され、より好ましくは18~33質量%配合され、さらに好ましくは20~30質量%配合される。なお、前記可塑性油脂組成物の配合量には、本発明の実施の形態のベーカリー食品の食感劣化抑制用可塑性油脂組成物の配合量が含まれる。
【0019】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、穀粉が好ましくは15~35質量%配合され、より好ましくは18~33質量%配合され、さらに好ましくは20~30質量%配合される。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される穀粉は、好ましくは小麦粉である。
【0020】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、卵類が好ましくは15~35質量%配合され、より好ましくは18~33質量%配合され、さらに好ましくは20~30質量%配合される。
なお、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の配合される卵類は、全卵、液卵、卵黄、卵白やこれらの凍結品等であり、好ましくは全卵である。
【0021】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、糖質が好ましくは15~35質量%配合され、より好ましくは18~33質量%配合され、さらに好ましくは20~30質量%配合される。
なお、本発明において、糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で糖質は、糖質そのものであり、その他の原材料(例えば、粉乳等)に含まれる糖質は含めない。また、本発明で糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(上白糖、グラニュー糖、粉糖、ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖である。
【0022】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地には、可塑性油脂組成物、穀粉、卵類、糖質以外の原料として、通常、ベーカリー食品用生地に配合される原料(活性グルテン、でんぷん、セルロース粉末等の粉類、イースト、イーストフード、酵素、食塩、脱脂粉乳、牛乳等の乳製品、水、豆乳等の水性成分等)を、通常量配合することができる。
【0023】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知のベーカリー食品用生地の製造条件及び製造方法を適用できる。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、例えば、シュガーバッター法により、可塑性油脂組成物と糖質を混合した後、次に卵類を添加して混合し、最後に穀粉を添加して混合することで製造することができる。
【0024】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地を焼成することで得られる。
【0025】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン、タルト等の焼き菓子、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、チーズケーキ、カステラ等のバターケーキ、ショートケーキ、ロールケーキ、トルテ、デコレーションケーキ、シフォンケーキ等のスポンジケーキ、ガトーショコラ、蒸しケーキ、シュー菓子、発酵菓子、パイ、ワッフル等の洋生菓子、菓子パン、フランスパン、シュトーレン、パネトーネ、ブリオッシュ、ドーナツ、デニッシュ、クロワッサン等のパンである。
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、好ましくはバターケーキであり、より好ましくはパウンドケーキである。
【0026】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法(製造方法)は、特に制限されるものではなく、従来公知のベーカリー食品と同様の焼成方法(製造方法)により焼成することができる。焼成方法の具体例は、オーブン加熱、直焼き、高周波加熱(電子レンジ加熱)等である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法は、好ましくはオーブン加熱である。オーブン加熱は、加熱温度が好ましくは160~190℃であり、加熱時間が好ましくは30~70分間である。
【0027】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、経時的な食感の劣化が小さいベーカリー食品である。
【実施例0028】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0029】
日清オイリオグループ株式会社製の日清MCTオイル(構成脂肪酸として、カプリル酸(炭素数8の直鎖飽和脂肪酸)を75質量%、カプリン酸(炭素数10の直鎖飽和脂肪酸)を25質量%含有する中鎖脂肪酸トリグリセリド)をMCTとした。
〔マーガリンの製造〕
表1の配合に従って、油相と水相とをそれぞれ調製し、油相に水相を混合、乳化した。当該乳化物を、急冷混捏して、実施例1~3のマーガリン、比較例1のマーガリンを製造した。なお、配合及び含有量の単位は質量%である。
【0030】
【0031】
〔パウンドケーキの製造〕
表2の配合で、シュガーバッター法により、各マーガリンを練り込み、パウンドケーキ用生地を製造した。該パウンドケーキ用生地をオーブンで焼成(上火温度:180℃、下火温度:170℃、時間:55分間)することでパウンドケーキを製造した。得られたパウンドケーキの食感を、以下の方法に従って評価した。結果を表2に示した。
【0032】
<食感の評価>
焼成後、20℃で14日間保存した後の各パウンドケーキについて、比較例2のパウンドケーキを対照として、以下の評価基準に従って食感を評価した。評価は、ベーカリー食品の評価に精通した3名のパネラーにより、総合的に判断された。結果を表2に示した。
◎:比較例2と比較して、明らかにしっとりしている
〇:比較例2と比較して、しっとりしている
△:比較例2と比較して、ややしっとりしている
×:比較例2と比較して、しっとりしていない
【0033】
【0034】
MCTが配合されている実施例4~6のパウンドケーキは、MCTが配合されていない比較例2のパウンドケーキと比較して、食感がしっとりしていた。なお、MCTが配合されていない比較例2のパウンドケーキは、食感がしっとしていなかった。従って、MCTにベーカリー食品の食感劣化を抑制する作用があることが分かり、MCTがベーカリー食品用食感劣化抑制として使用できることが分かった。