(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155625
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241024BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20241024BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/16
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070498
(22)【出願日】2023-04-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020~2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへのCO2利用技術開発/産業廃棄物中カルシウム等を用いた加速炭酸塩化プロセス研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA30
(57)【要約】
【課題】廃棄物・副産物の有効利用により環境負荷を低減しつつ、現行普通ポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたセメント組成物を提供すること。
【解決手段】セメントと、カルシウム含有廃棄物粉末と、を含むセメント組成物である。前記カルシウム含有廃棄物粉末は、JIS R 5202:2010に準拠して測定された不溶残分が70.0質量%以下であり、炭酸カルシウムを5.0質量%以上含み、且つ、炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量が18.0質量%以下であり、前記カルシウム含有廃棄物粉末が1.0質量%以上7.5質量%以下含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、カルシウム含有廃棄物粉末と、を含むセメント組成物であって、
前記カルシウム含有廃棄物粉末は、
JIS R 5202:2010に準拠して測定された不溶残分が70.0質量%以下であり、
炭酸カルシウムを5.0質量%以上含み、且つ、
炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量が18.0質量%以下であり、
前記カルシウム含有廃棄物粉末が0.5質量%以上7.5質量%以下含まれる、セメント組成物。
【請求項2】
前記カルシウム含有廃棄物粉末はそのブレーン比表面積値が2500cm2/g以上20000cm2/g以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
以下の式(1)で表される前記カルシウム含有廃棄物粉末のR2O量が2.5質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
R2O量[質量%]=Na2O+K2O×0.658[質量%] (1)
【請求項4】
前記カルシウム含有廃棄物粉末が、廃コンクリート、廃モルタル及び廃セメントペーストから選択される廃材に由来するものである、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記セメント中のセメントクリンカのC3S量が50.0質量%以上80.0質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項6】
ブレーン比表面積値が2500cm2/g以上6000cm2/g以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項7】
セメントと、カルシウム含有廃棄物粉末と、を含むセメント組成物の製造方法であって、
前記カルシウム含有廃棄物粉末は、
JIS R 5202:2010に準拠して測定された不溶残分が70.0質量%以下であり、
炭酸カルシウムを5.0質量%以上含み、且つ、
炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量が18.0質量%以下であり、
前記カルシウム含有廃棄物粉末が前記セメント組成物中に0.5質量%以上7.5質量%以下含まれるように、前記セメントと前記カルシウム含有廃棄物粉末とを混合する、セメント組成物の製造方法。
【請求項8】
前記カルシウム含有廃棄物粉末が、廃コンクリート、廃モルタル及び廃セメントペーストから選択される廃材に由来するものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
カルシウムを含む廃材の粉末を準備し、
二酸化炭素の分圧を0.1MPa超5.0MPa以下に設定し、該分圧の状態下に、前記粉末を水に分散又は溶解させて抽出対象液を調製し、
前記抽出対象液から液体成分と固体残渣とを分離して、前記カルシウム含有廃棄物粉末を得る、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出量を削減する取り組みとして、二酸化炭素を液相に溶解させ、カルシウムと反応させて軽質炭酸カルシウムを化学的に製造する技術に注目が集まっている。軽質炭酸カルシウムは、二酸化炭素を安定な炭酸カルシウムの形態で固定化することから、二酸化炭素の排出量の削減に直接的に寄与する。
【0003】
膨大な量の二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化する場合、そのカルシウム源として、廃コンクリートや製鋼スラグなど、カルシウムを多く含有し且つ大量に排出される廃棄物・副産物を利用することが考えられる。
当該廃棄物・副産物からカルシウムを抽出した後には、大量の抽出残渣が残されることとなる。一般に、そのような抽出残渣は埋め立て処理されることが多い。しかし、抽出残渣を有効利用することができれば、最終処分場の延命及び環境負荷低減に寄与する。
【0004】
抽出残渣の利用先として、ポルトランドセメントの一部に混合材として置換することや、混合セメントとして使用することが考えられる。それにより、抽出残渣の有効利用とともにクリンカーの使用量が低減されるので、二酸化炭素の排出量の削減が可能である。
【0005】
近年、地球温暖化防止及び低炭素化の観点から、セメントクリンカの使用量を減じることを目的として、セメントクリンカにおける混合材の置換割合を更に増加させることが望まれている。例えば、非特許文献1では、普通ポルトランドセメントに対して混合材を、JIS規格での規定量である5質量%を超えて配合することについて検討が行われている。この場合には、混合材の配合量を増加させることに起因する各種物性への影響を考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第72回セメント技術大会講演要旨2018、「3315 少量混合成分を増量したセメントの品質評価」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のとおり、セメントクリンカに反応性の低い廃棄物・副産物を混合材として配合した場合には、強度発現性が低下することがある。特に混合セメントでは初期強度が低下することが懸念される。
したがって本開示は、廃棄物・副産物の有効利用により環境負荷を低減しつつ、現状のポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、セメントと、カルシウム含有廃棄物粉末と、を含むセメント組成物であって、
前記カルシウム含有廃棄物粉末は、
JIS R 5202:2010に準拠して測定された不溶残分が70.0質量%以下であり、
炭酸カルシウムを5.0質量%以上含み、且つ、
炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量が18.0質量%以下であり、
前記カルシウム含有廃棄物粉末が1.0質量%以上7.5質量%以下含まれる、セメント組成物を提供することにある。
【0009】
また、本開示の別の側面は、セメントと、カルシウム含有廃棄物粉末と、を含むセメント組成物の製造方法であって、
前記カルシウム含有廃棄物粉末は、
JIS R 5202:2010に準拠して測定された不溶残分が70.0質量%以下であり、
炭酸カルシウムを5.0質量%以上含み、且つ、
炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量が18.0質量%以下であり、
前記カルシウム含有廃棄物粉末が前記セメント組成物中に0.5質量%以上7.5質量%以下含まれるように、前記セメント組成物と前記カルシウム含有廃棄物粉末とを混合する、セメント組成物の製造方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、廃棄物・副産物を有効利用することによって、環境負荷を低減しつつ、現状のポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたセメント組成物及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本開示に係るセメント組成物中の各成分の含有量は、該セメント組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、該セメント組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
本開示に係るセメント組成物の一実施形態は、セメントと、カルシウム含有廃棄物粉末とを含む。
【0013】
セメントとしては、当該技術分野においてこれまで知られているセメントを特に制限なく用いることができる。例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱セメント、低熱セメント、及び油井セメント等を用いることができる。セメントは、入手のしやすさ及び初期強度をより向上させる観点から、好ましくは普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントの少なくとも一方を含み、一層好ましくは早強ポルトランドセメントを少なくとも含み、早強ポルトランドセメントのみを用いてもよい。
【0014】
前記セメントにおけるセメントクリンカはC3S、C2S、C3A、及びC4AFを含む。C3S、C2S、C3A、及びC4AFのそれぞれの含有量はBogue式によって算出することができる。Bogue式とは、化学組成の含有比率からセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、セメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2、C3Sで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2、C2Sで示す。)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3、C3Aで示す。)、及び鉄アルミン酸四カルシウム(4CaO・Al2O3・Fe2O3、C4AFで示す。)の含有量を算出することができる。化学式は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0015】
<Bogue式>
C3S[質量%]=(4.07×CaO[質量%])-(7.60×SiO2[質量%])-(6.72×Al2O3[質量%])-(1.43×Fe2O3[質量%])-(2.85×SO3[質量%])
C2S[質量%]=(2.87×SiO2[質量%])-(0.754×C3S[質量%])
C3A[質量%]=(2.65×Al2O3[質量%])-(1.69×Fe2O3[質量%])
C4AF[質量%]=3.04×Fe2O3[質量%]
【0016】
セメント中のセメントクリンカ中のC3S量は、好ましくは50.0質量%以上であり、より好ましくは55.0質量%以上であり、更に好ましくは60.0質量%以上であり、一層好ましくは65.0質量%以上である。C3S量の値を前記の値以上とすることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。
セメントクリンカ中のC3S量は、好ましくは80.0質量%以下であり、更に好ましくは75.0質量%以下であり、一層好ましくは70.0質量%以下である。C3S量の値を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の硬化時における発熱を抑制することができる。
【0017】
セメントクリンカ中のC2S量は、好ましくは2.0質量%以上であり、更に好ましくは5.0質量%以上であり、一層好ましくは8.0質量%以上である。C2S量の値を前記の値以上とすることによって、セメント組成物の硬化における長期強度をより向上させることができる。
セメントクリンカ中のC2S量は、好ましくは40.0質量%以下であり、より好ましくは30.0質量%以下であり、更に好ましくは15.0質量%以下であり、一層好ましくは10.0質量%以下である。C2S量の値を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。
【0018】
セメントクリンカにおけるC3A量は、好ましくは7.0質量%以上であり、一層好ましくは8.0質量%以上であり、更に好ましくは9.0質量%以上であり、更に一層好ましくは9.5質量%以上であり、特に好ましくは10.0質量%以上である。C3A量を前記の値以上とすることによって、セメントクリンカ原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。
セメントクリンカにおけるC3A量は、好ましくは13.0質量%以下であり、一層好ましくは12.0質量%以下であり、更に好ましくは11.0質量%以下であり、更に一層好ましくは10.5質量%であり、特に好ましくは10.0質量%以下である。C3A量を前記の値以下とすることによって、エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2Oで表される化合物)の再生成を抑制することができ、またセメント組成物の硬化時における発熱量の増加をより低減することができる。
【0019】
セメントクリンカにおけるC4AF量は、好ましくは5.0質量%以上であり、一層好ましくは6.0質量%以上であり、更に好ましくは7.0質量%以上であり、更に一層好ましくは8.0質量%以上であり、特に好ましくは8.5質量%以上である。C4AF量を前記の値以上とすることによって、セメントクリンカ原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。
セメントクリンカにおけるC4AF量は、好ましくは14.0質量%以下であり、一層好ましくは12.0質量%以下であり、更に好ましくは11.0質量%以下であり、更に一層好ましくは10.0質量%以下であり、特に好ましくは9.0質量%以下である。C4AF量を前記の値以下とすることによって、セメント組成物の硬化時における発熱量の増加をより低減することができる。
【0020】
セメントクリンカの含有量は、セメント全量を100質量%とした場合、好ましくは70質量%以上95質量%以下であり、更に好ましくは75質量%以上93質量%以下であり、一層好ましくは85質量%以上90質量%以下である。
【0021】
セメントは石膏を含むことができる。石膏としては例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を使用することができる。石膏は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。セメントにおける石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏の含有量と同等であってよい。具体的には、セメントにおける石膏の含有量は、SO3換算で、セメント全量を100質量%として、好ましくは0.5質量%以上3.5質量%以下であり、更に好ましくは0.7質量%以上3.0質量%以下であり、一層好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下である。
【0022】
セメントは、市販のポルトランドセメント等を使用してもよく、あるいはセメントクリンカと、石膏と、石灰石及び/又は炭酸カルシウムとを別々に粉砕し、混合したものを使用してもよい。また2つ以上の材料を同時に粉砕して製造したものを使用してもよい。
【0023】
本開示に係るセメント組成物におけるセメントの含有量は、該セメント組成物に対して好ましくは92.0質量%以上であり、更に好ましくは93.5質量%以上であり、一層好ましくは94.5質量%以上である。セメントの含有量を前記の値以上とすることで、本開示に係るセメント組成物は、普通ポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたものとなる。
また、本開示に係るセメント組成物におけるセメントの含有量は、該セメント組成物に対して好ましくは99.5質量%以下であり、更に好ましくは98.5質量%以下であり、更に好ましくは97.0質量%以下であり、一層好ましくは95.5質量%以下である。セメントの含有量を前記の値以下とすることで、これまで廃棄されていた廃コンクリートや廃モルタル等の廃材を有効活用でき、環境負荷が低減する。
【0024】
本開示に係るセメント組成物は、セメントに加えてカルシウム含有廃棄物粉末を含む。本開示において「カルシウム含有廃棄物粉末」とは、具体的な用途を有さず通常廃棄処分される各種廃材の粉末であって、カルシウムを含有するものをいう。
【0025】
カルシウム含有廃棄物粉末は、例えば廃コンクリート、廃モルタル、廃セメントペースト、コンクリートスラッジ、ペーパースラッジ、高炉スラグ、転炉スラグ、電炉スラグ、徐冷スラグ、塩素バイパスダスト、石炭灰、バイオマス灰、又は焼却灰などの廃材に由来する。カルシウム含有廃棄物粉末は、これらの廃材そのものではなく、当該廃材からカルシウムを抽出した後の残渣である。つまり、本開示におけるカルシウム含有廃棄物粉末とは、カルシウム抽出後のカルシウム含有廃棄物粉末である。
前記廃材は、カルシウムをCaO量換算で好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上、更に好ましくは20.0質量%以上含むことが、該廃材からのカルシウムの回収を効率的に行うことができ、資源のリサイクルに資す観点から好ましい。
【0026】
特にカルシウム含有廃棄物粉末は、廃コンクリート、廃モルタル及び廃セメントペーストから選択される少なくとも1種の廃材からカルシウムを抽出した後の残渣であることが好ましい。これらの廃材の残渣をセメント組成物の成分として用いることで、これまで廃棄されていた材料を有効利用でき、環境負荷を低減させることが可能である。また、カルシウム含有廃棄物粉末を含む本開示のセメント組成物は、普通ポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたものになる。
【0027】
カルシウム含有廃棄物粉末は、そのブレーン比表面積値が2500cm2/g以上20000cm2/g以下であることが好ましく、4000m2/g以上15000cm2/g以下であることが更に好ましく、6000cm2/g以上10000cm2/g以下であることが一層好ましい。ブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定される。このような範囲のブレーン比表面積値を有するカルシウム含有廃棄物粉末は、廃コンクリート等の廃材からカルシウムを抽出した後の残渣を粉砕、篩い分け及び分級などの処理をすることにより得られる。カルシウム含有廃棄物粉末がこのような範囲のブレーン比表面積値を有することによって、本開示に係るセメント組成物は、製造コストを低減した上で、普通ポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたものになる。
【0028】
カルシウム含有廃棄物粉末のブレーン比表面積値と関連して、セメント組成物のブレーン比表面積値は、前記と同様の観点から、2500cm2/g以上6000cm2/g以下であることが好ましく、3000cm2/g以上5000cm2/gであることが更に好ましく、3500cm2/g以上4500cm2/g以下であることが一層好ましい。ブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定される。
【0029】
カルシウム含有廃棄物粉末はJIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定された不溶残分が好ましくは70.0%以下であり、更に好ましくは60.0%以下であり、一層好ましくは55.0%以下である。カルシウム含有廃棄物粉末の不溶残分を前記の値以下に設定することで、砂など結晶性が高く反応性が低い成分の量を低減できるので、混和材として添加したときのセメント組成物の強度発現性が高まるという利点がある。
また、カルシウム含有廃棄物粉末はその不溶残分の下限に特に制限はないが、好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは5.0%以上であり、更に好ましくは10.0%以上であり、一層好ましくは25.0%以上であり、更に一層好ましくは50.0%以上である。カルシウム含有廃棄物粉末の不溶残分を前記の値以上に設定することで、砂など結晶性が高く反応性が低い成分を廃棄物から分離するためのコストを低減できるという利点がある。
カルシウム含有廃棄物粉末の不溶残分を前記の値に設定するには、例えば粉砕、磨砕、篩い分け及び分級などの処理により、セメントペーストのように比較的強度が低く柔らかい成分と、砂のように結晶性が高く硬い成分とを分離することで調整できる。
【0030】
カルシウム含有廃棄物粉末は、炭酸カルシウムを5.0質量%以上含むことが好ましく、10.0質量%以上含むことがより好ましく、12.0質量%以上含むことがより好ましく、15.0質量%以上含むことが更に好ましく、20.0質量%以上含むことが一層好ましい。カルシウム含有廃棄物粉末における炭酸カルシウムの含有量を前記の値以上に設定することで、本開示に係るセメント組成物は、普通ポルトランドセメント同等レベルの強度発現性を有するものとなる。特に初期強度に優れたものとなる。また二酸化炭素の固定化によって生成した炭酸カルシウムが十分量カルシウム含有廃棄物に含まれているので、二酸化炭素排出量の削減に貢献することができる。
カルシウム含有廃棄物粉末に含まれる炭酸カルシウムの割合は、その値が高いほど、本開示に係るセメント組成物の強度発現性の向上の観点から望ましいが、炭酸カルシウムの割合が40.0質量%程度に高ければ、強度発現性が十分に向上する。
【0031】
カルシウム含有廃棄物粉末に含まれる炭酸カルシウムの量は、例えばTG-DTAによって測定される。この測定において、500℃以上800℃以下の温度範囲での質量減少を、炭酸カルシウムからのCO2の脱炭酸と仮定することで、当該質量減少の値から炭酸カルシウムの量を算出することができる。
【0032】
カルシウム含有廃棄物粉末においては、炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量が18.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましく、12.0質量%以下であることが更に好ましく、10.0質量%以下であることが一層好ましい。CaOの残存量は、廃コンクリートや廃モルタルなどの廃材からカルシウム含有廃棄物粉末を得るときのカルシウムの抽出の程度を意味する。CaOの残存量を前記の値以下に設定することは、前記廃材からカルシウム含有廃棄物粉末を得るときに、カルシウムが十分に抽出されたことを意味するので、カルシウムの有効利用の観点、及びカルシウムを二酸化炭素と反応させて効果的に炭酸カルシウムを得られるという観点から有利である。この観点から、CaOの残存量の下限に特に制限はないが、0質量%以上であってもよく、3.0質量%以上であってもよく、6.0質量%以上であってもよく、9.0質量%以上であってもよい。
CaOの残存量は、次の方法で測定される。まず、蛍光X線による化学成分分析から、CaOの全含有量を算出する。次にTG-DTA測定より、500℃~800℃の質量減少を炭酸カルシウムからの脱炭酸として、下記式より炭酸カルシウム量を計算する。
炭酸カルシウム量(質量%)=(500℃~800℃の質量減少)(質量%)×100/44
炭酸カルシウム由来のCaO量を差し引いたCaOの残存量は次式で求められる。
CaOの残存量(質量%)=CaOの全含有量(質量%)-(炭酸カルシウム量)(質量%)×56/100
【0033】
カルシウム含有廃棄物粉末は、以下の式(1)で定義されるR2O量が、2.5質量%以下が好ましく、より好ましくは2.0質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以下である。アルカリシリカ反応抑制の観点から、セメント及びコンクリート中のアルカリ総量を低減することが望ましく、その観点からカルシウム含有廃棄物粉末のR2O量を低減することが望ましい。カルシウム含有廃棄物粉末のR2O量は、蛍光X線による化学成分分析から求められる。
R2O量[質量%]=Na2O+K2O×0.658[質量%] (1)
Na2O及びK2Oはそれぞれ、Na2O及びK2Oの含有量[質量%]を表す。
【0034】
カルシウム含有廃棄物粉末はその塩基度が0.50以上であることが好ましく、0.70以上がより好ましく、0.90以上が更に好ましい。一般に塩基度は高炉スラグ微粉末の反応性を表す指標であり、塩基度が高いほど反応性が高くなり、強度発現性が良好となる。同様に、塩基度が高いほどカルシウム含有廃棄物粉末を添加した場合の強度発現性が良好となる。この観点から特に塩基度の上限値に制限はないが、3.0以下、2.0以下、1.5以下、1.0以下であってよい。カルシウム含有廃棄物粉末の塩基度は、蛍光X線による化学成分分析の成分値から下記式(2)により求められる。
塩基度=(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2 (2)
CaO、Al2O3、MgO及びSiO2はそれぞれ、CaO、Al2O3、MgO及びSiO2の含有量[質量%]を表す。
【0035】
カルシウム含有廃棄物粉末は、カルシウムを含有する廃材からカルシウムを抽出した後の残渣であるところ、該廃材からのカルシウムの抽出方法に特に制限はない。該廃材からカルシウムを効率よく且つ十分に抽出し得る方法として、二酸化炭素分圧を大気圧より高くする方法を採用することが望ましい。具体的には、以下の(a)-(c)の工程を備えた方法を採用することが好ましい。
(a)カルシウムを含む廃材の粉末を準備する工程。
(b)二酸化炭素の分圧を0.1MPa超5.0MPa以下に設定し、該分圧の状態下に、前記粉末を水に分散又は溶解させて抽出対象液を調製する工程。
(c)前記抽出対象液から液体成分と固体残渣とを分離する工程。
【0036】
(a)工程における廃材の粉末化は、従来公知の種々の技術を用いて行うことができる。粉末化された廃材の平均粒子径は、該廃材からカルシウムを効率よく抽出できる程度に広い比表面積を有する程度であればよく、例えば10μm以上5mm以下に設定することができる。本工程は、廃材を実際に粉砕する操作のみならず、例えば火力発電所から排出される焼却灰のように、カルシウムを含む微粉廃棄物が予め得られるような場合をも含む。
【0037】
(b)工程においては、前記抽出対象液と接する気相における二酸化炭素の分圧を前記範囲内に設定することで、液相に抽出されるカルシウムイオン濃度を高めることができ、カルシウムを含む廃材からのカルシウムのリサイクル効率を高めることができる。この観点から、二酸化炭素の分圧は0.1MPa以上3MPa以下であることが更に好ましい。
【0038】
前記気相における二酸化炭素以外の成分は、一般に大気に含まれる成分とすることができる。すなわち、前記気相における二酸化炭素以外の成分としては、例えば窒素及び酸素が挙げられる。前記気相は、大気に二酸化炭素を供給して、二酸化炭素の分圧を高めたガスであることが簡便である。
【0039】
(b)工程は、上述の二酸化炭素分圧下、微粉廃棄物を水に添加し、所定の時間、例えば1分間以上90分間以下にわたって撹拌することにより行うことが、カルシウムの効率的な抽出の観点から好ましい。
同様の観点から、前記抽出対象液を20℃以上80℃以下に保つことが好ましく、更に好ましくは20℃以上50℃以下、一層好ましくは20℃以上30℃に保つ。
【0040】
(c)工程では、気相の二酸化炭素分圧を上述の範囲内で保ち、且つ、前記抽出対象液の温度を上述の範囲内で保った状態下に、固液分離の操作を行うことが好ましい。固液分離は従来公知の濾過技術を用いて行うことができる。また、液相に種結晶を添加してもよい。
【0041】
このようにして得られた、粉砕前のカルシウム含有廃棄物はその平均粒子径が、10μm以上1000μm以下であることが、本開示に係るセメント組成物の強度発現性及び粉砕効率の向上の観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、カルシウム含有廃棄物の平均粒子径は、300μm以上600μm以下であることが更に好ましく、400μm以上500μm以下であることが一層好ましい。
カルシウム含有廃棄物の平均粒子径は、篩い分けによる粒度測定などから求めることができる。その具体的な方法として、例えば、JIS A 1102:2014の骨材の篩い分け試験方法を援用し、細骨材の篩い分け試験と同様に測定することができる。
【0042】
上述の方法で得られたカルシウム含有廃棄物は、これをそのまま用いてもよく、あるいは粉砕、篩い分け及び分級の操作に付して所望の平均粒子径を有するようにして用いてもよい。後者の場合の平均粒子径は、2μm以上50μm以下であることが、強度発現及び流動性保持の観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、カルシウム含有廃棄物の平均粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以上20μm以下であることが一層好ましい。
【0043】
本開示に係るセメント組成物におけるカルシウム含有廃棄物粉末の含有量は、該セメント組成物に対して好ましくは7.5質量%以下であり、更に好ましくは6.5質量%以下であり、一層好ましくは5.5質量%以下である。カルシウム含有廃棄物粉末の含有量を前記の値以下とすることで、本開示に係るセメント組成物は、普通ポルトランドセメントと同等レベルの強度発現性を有し、特に初期強度に優れたものとなる。
また、本開示に係るセメント組成物におけるカルシウム含有廃棄物粉末の含有量は、該セメント組成物に対して好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上であり、一層好ましくは4.5質量%以上である。カルシウム含有廃棄物粉末の含有量を前記の値以上とすることで、これまで廃棄されていた廃コンクリートや廃モルタル等の廃材を有効活用でき、環境負荷が低減する。
【0044】
本開示に係るセメント組成物は、セメント及びカルシウム含有廃棄物粉末に加えて、石灰石を含むことができる。石灰石としては、例えば、一般に販売されている、石灰石、石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0045】
本開示に係るセメント組成物における石灰石の含有量は、該セメント組成物に対して好ましくは15.0質量%以下であり、更に好ましくは10.0質量%以下であり、一層好ましくは5.0質量%以下である。石灰石の含有量を前記の値以下とすることで、強度発現性に優れたセメント組成物となる。
また、本開示に係るセメント組成物における石灰石の含有量は、該セメント組成物に対して好ましくは1.5質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上であり、一層好ましくは4.6質量%以上である。石灰石の含有量を前記の値以上とすることで、石灰石の無添加時よりも強度発現性を高めつつ、二酸化炭素排出量の削減に寄与する。
【0046】
本開示に係るセメント組成物は、セメント及びカルシウム含有廃棄物粉末に加えて、本開示の趣旨を損なわない範囲で他の成分を含んでよい。他の成分としては、例えば、水酸化カルシウム、珪石粉、その他カルシウムを含む粉末(ただし石膏及び石灰石を除く。)、コンクリート用減水剤、促進剤、及び遅延剤等が挙げられる。
【0047】
本開示に係るセメント組成物は、カルシウム含有廃棄物粉末がセメント組成物中に好ましくは1.0質量%以上7.5質量%以下含まれるように、セメントとカルシウム含有廃棄物粉末とを混合する製造方法によって好適に得られる。
【0048】
本開示に係るセメント組成物は、これを高炉スラグ微粉末、フライアッシュ又はシリカフューム等と混合し、混合セメントとして使用してもよい。また、ポゾランセメントやLC3(Lime Calcined Clay Cement)など、JIS外のセメントに使用してもよい。
【実施例0049】
以下、実施例、比較例、及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[セメント組成物の原料]
セメント組成物の原料として以下のものを用いた。
【0051】
(1)セメントクリンカの準備
セメントクリンカとして、Bogue式による鉱物組成が下記表1の記載である普通ポルトランドセメントクリンカ(セメントクリンカA)、及び早強ポルトランドセメントクリンカ(セメントクリンカB)を用いた。Bogue式の計算に用いたセメントの化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0052】
【0053】
(2)石膏の準備
石膏は、JIS R 9151:2009「セメント用天然せっこう」に記載の要件を満たす石膏を用いた。
【0054】
(3)石灰石粉の準備
石灰石(LS)は、炭酸カルシウム含有量が90.0質量%以上、酸化アルミニウム含有量が1.0質量%以下であり、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分の要件を満たす石灰石を粉砕した石灰石微粉末を用いた(ブレーン比表面積値:7470cm2/g)。
【0055】
(4)カルシウム含有廃棄物粉末
廃コンクリートを破砕し、篩い分けして得た、目開き2mmアンダーの粉末を純水に投入して分散液を得た。
この分散液を、耐圧撹拌槽型抽出装置内に気密に充填し、撹拌を続けながら装置内に二酸化炭素を供給し、その分圧を1.0MPaに高めて液相へのカルシウムの抽出を行った。その間、気相の圧力をモニターし、二酸化炭素の分圧を保持した。
その後、装置内から液相と抽出残渣に固液分離し、種結晶を添加した液相を減圧して炭酸カルシウムを得た。固液分離で得られた固形分を回収して抽出残渣を得た。抽出残渣を105℃で乾燥して水分を除去し、目的とするカルシウム含有廃棄物を得た。
表2に粉砕前のカルシウム含有廃棄物の粒度を示す。参考として、セメント協会の標準砂及び代表的な珪砂(商品名:豊浦珪砂、メーカー:豊浦珪石工業株式会社)の粒度も示した。カルシウム含有廃棄物は標準砂に比較的近い粒度分布を有することが分かる。また、カルシウム含有廃棄物は0.063mm以下の微粉末を5.0質量%程度含有することが分かる。
【0056】
【0057】
ステンレス製のディスクミルを用い、カルシウム含有廃棄物を50gずつ60秒間粉砕してカルシウム含有廃棄物粉末を得た。カルシウム含有廃棄物粉末のブレーン比表面積値は8090cm2/gであった。ブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定した。カルシウム含有廃棄物粉末の平均粒径は、17.0μmであった。平均粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000E)を用いて測定した。
【0058】
カルシウム含有廃棄物粉末の物性を表3及び表4に示す。これらの表に示す密度は、自動密度計(機器:MAT-7000、セイシン企業株式会社)により測定した。
【0059】
カルシウム含有廃棄物粉末の化学成分は、蛍光X線のファンダメンタルパラメーター法による化学分析より求めた(使用機器:リガク社製 ZSX-100e)。強熱減量(ig.loss)及び不溶残分は、JIS R 5202 :2010 「セメントの化学分析方法」に準じた方法で測定した。カルシウム含有廃棄物の炭酸カルシウムの含有量は、TG-DTA測定(装置名:日立ハイテク社、STA-7300、窒素ガスフロー環境、昇温速度:10℃/分)における500℃~800℃の減量を炭酸カルシウムの脱炭酸による二酸化炭素の減量と仮定し、算出した。
【表3】
【0060】
【0061】
[セメント組成物の製造]
表1に示す化学組成のポルトランドセメントクリンカーに対しせっこうをSO3量換算で1.0%添加して混合粉砕し、ベースセメントを得た。ベースセメントと前記カルシウム含有廃棄物粉末と石灰石粉とを表5に示す配合で混合し、セメント組成物を得た。得られたセメント組成物のブレーン比表面積値を表5に示す。
【0062】
[セメント組成物の評価]
得られたセメント組成物について、所定材齢にてその圧縮強さを評価した。圧縮強さは、10×10×60mmの角柱試験体を用いて測定した。水セメント比を0.50、砂セメント比を1.0とし、砂には表2に示す粒度の珪砂(商品名:豊浦珪砂、メーカー:豊浦珪石工業株式会社)を用いた。モルタルの成形は、水50g、セメント100g、砂100gをケミカルミキサーにて500rpmで3分間練り混ぜ、10×10×60mmの型枠に投入した。封かんで24時間養生し、脱型の後、所定材齢まで水中養生とした。
実施例1及び比較例1の圧縮強さは、参考例1の供試体の圧縮強さを100とした場合の圧縮強さ比で評価した。また、実施例2及び比較例2の圧縮強さは、参考例2の供試体の圧縮強さを100とした場合の圧縮強さ比で評価した。
【0063】
【0064】
表5に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた硬化体は、参考例の硬化体と同程度に高い圧縮強さを示した。
特に各実施例で得られた硬化体は、材齢7日の圧縮強さが高いことが分かる。また、ベースセメントとして早強ポルトランドセメントを用いた実施例2の場合、普通ポルトランドセメントを用いた実施例1の場合よりも材齢28日の圧縮強さが高いことが分かる。