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特開2024-155880活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155880
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/34 20060101AFI20241024BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20241024BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B01J20/34 C
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068289
(22)【出願日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2023070368
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本分析化学会第83回分析化学討論会において発表(令和5年5月21日) 日本分析化学会第72年会において発表(令和5年9月14日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費「ペルフルオロアルキル化合物「群」のマルチメディア迅速計測技術と環境修復材料の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】羽成 修康
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AE01B
4G066BA16
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA32
4G066CA33
4G066DA07
4G066GA11
4G066GA32
4G066GA33
(57)【要約】
【課題】ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭から、吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物を高効率で脱離可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法を提供する。
【解決手段】ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭に対し、0.1MPa以上の高圧下で130℃以上とされた溶媒が接触されることにより、前記活性炭から前記ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭に対し、0.1MPa以上の高圧下で130℃以上とされた溶媒が接触されることにより、前記活性炭から前記ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることを特徴とする活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項2】
前記溶媒が水である請求項1に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項3】
前記溶媒が水と有機溶媒の混合溶媒である請求項1に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項4】
前記溶媒がエタノールである請求項3に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項5】
前記溶媒が有機溶媒である請求項1に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項6】
前記溶媒がエタノールである請求項5に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項7】
前記活性炭が、BET比表面積が1100~1800m/gであり、窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により測定された細孔直径のモード径が0.50~0.70nmであり、ポリスチレン標準品を用いて測定した排除限界分子量が1013以下である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項8】
前記排除限界分子量が453以下である請求項7に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項9】
前記活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法により解析して求めた全細孔容積が0.40~0.75cm/gである請求項7に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項10】
前記活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法により解析して求めた全細孔容積が0.40~0.75cm/gである請求項8に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項11】
前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである請求項7に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項12】
前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである請求項8に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項13】
前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである請求項9に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項14】
前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである請求項10に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項15】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項7に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項16】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項8に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項17】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項9に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項18】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項10に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項19】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項11に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項20】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項12に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項21】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項13に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【請求項22】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項14に記載の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機フッ素化合物(PFCs)であるペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出されると、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)は、世界中で規制対象となっており、日本国内においても令和2年4月1日より水質管理目標設定項目にペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)の合算値が50ng/L以下とする基準値が追加された。
【0005】
なお、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)等が含まれるペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(i)で示される物質である。また、ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(ii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール等がある。
【0006】
【数1】
【0007】
【数2】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、各環境下において適宜除去することが求められる。例えば、水中等の有害物質を除去する際には、活性炭を使用した浄水器等が広く使用される。そこで、有害物質としてPFOSやPFOA等が注目されることから、PFOSやPFOA等の有害物質の除去を目的とした活性炭が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、大気中等の有害物質を除去するエアフィルター等に使用される吸着材に、PFOSやPFOA等を吸着可能な活性炭を適用することも可能である。この種の活性炭を用いてPFOSやPFOA等の有害物質を吸着・除去した後、使用済みの活性炭はPFOS含有廃棄物やPFOA含有廃棄物等の廃棄物として廃棄処理される。
【0009】
これらの廃棄物の廃棄処理は、環境省が掲げる「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」に沿って実施される。すなわち、PFOS等及びPFOA等が確実に分解される方法で実施することが求められ、その分解処理方法としてPFOS含有廃棄物の場合は約850℃以上、PFOA含有廃棄物の場合は約1000℃以上(約1100℃以上を推奨)の焼却処理が提示されており、PFOS及びPFOA等の分解効率が99.999%以上であること等が要件とされる。
【0010】
しかるに、焼却に際して活性炭がPFOA等の揮発を抑制して燃焼分解反応を促進させる可能性は認められている。しかしながら、燃焼による活性炭中のPFOSやPFOA等の変化に関する調査は十分になされているとは必ずしもいうことができず、分解によって生じる無機フッ化物を含む他の化合物や有害なガスの生成等の可能性が指摘されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
また、焼却する廃棄物の量、焼却時間、焼却時の昇温状況等によっては、不完全燃焼等が生じて活性炭中のPFOSやPFOA等の分解が不十分となったり、揮発等によりPFOSやPFOA等が分解されないまま空気中に飛散したりする等が懸念される。つまり、有害物質として回収されたPFOSやPFOA等が再度自然界に放出されることとなるのである。加えて、焼却処理温度が1000℃前後と高温であるため、焼却に要するエネルギーコスト等の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2021-079376号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】竹峰秀祐、高田光康、山本周作、渡辺信久、松村千里、藤井滋穂、田中周平、近藤明著、「粒状活性炭に吸着されたペルフルオロオクタン酸の加熱時の挙動」2013年、分析化学62巻2号p.107-113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明者らは、焼却処理によらずにPFOSやPFOA等の有害物質を安全かつ確実に処理が可能な方法を鋭意検討した。なかでも、該有害物質を高効率で吸着し回収が可能な活性炭を用い、該有害物質を活性炭から脱離させて回収することが可能であることを見出した。そして、上記するように、近年注目される有害物質としての有機フッ素化合物(PFCs)の除去(活性炭からの吸着物質の脱離・回収)に際しては、焼却処分に変わる安心安全な処理方法として、吸着物質を活性炭中に殆ど残留させずに脱離させることや短時間で処理可能であること等がその代替として求められることとなる。そこで発明者らは活性炭に吸着されたPFOSやPFOA等を短時間で、かつ確実に脱離させることが可能な方法を見出すことに成功した。
【0015】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭から、吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物を高効率で脱離可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、第1の発明は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭に対し、0.1MPa以上の高圧下で130℃以上とされた溶媒が接触されることにより、前記活性炭から前記ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることを特徴とする活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記溶媒が水である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0018】
第3の発明は、第1の発明において、前記溶媒が水と有機溶媒の混合溶媒である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0019】
第4の発明は、第3の発明において、前記溶媒がエタノールである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0020】
第5の発明は、第1の発明において、前記溶媒が有機溶媒である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、前記溶媒がエタノールである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0022】
第7の発明は、第1ないし6のいずれかの発明において、前記活性炭が、BET比表面積が1100~1800m/gであり、窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により測定された細孔直径のモード径が0.50~0.70nmであり、ポリスチレン標準品を用いて測定した排除限界分子量が1013以下である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0023】
第8の発明は、第7の発明において、前記排除限界分子量が453以下である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0024】
第9の発明は、第7の発明において、前記活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法により解析して求めた全細孔容積が0.40~0.75cm/gである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0025】
第10の発明は、第8の発明において、前記活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法により解析して求めた全細孔容積が0.40~0.75cm/gである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0026】
第11の発明は、第7の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0027】
第12の発明は、第8の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0028】
第13の発明は、第9の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0029】
第14の発明は、第10の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gである活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0030】
第15の発明は、第7の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0031】
第16の発明は、第8の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0032】
第17の発明は、第9の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0033】
第18の発明は、第10の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0034】
第19の発明は、第11の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0035】
第20の発明は、第12の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0036】
第21の発明は、第13の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【0037】
第22の発明は、第14の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭である活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法に係る。
【発明の効果】
【0038】
第1の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭に対し、0.1MPa以上の高圧下で130℃以上とされた溶媒が接触されることにより、前記活性炭から前記ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させるため、脱離に要する処理時間が短時間でありながら、極めて高い割合でペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることができる。
【0039】
第2の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第1の発明において、前記溶媒が水であるため、安価で入手しやすく利便性に優れるとともに、環境負荷が小さい。
【0040】
第3の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第1の発明において、前記溶媒が水と有機溶媒の混合溶媒であるため、脱離効率を向上させることができる。
【0041】
第4の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第3の発明において、前記溶媒がエタノールであるため、安価で入手しやすく、さらに高い割合でペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることが可能となる。
【0042】
第5の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第1の発明において、前記溶媒が有機溶媒であるため、脱離効率を向上させることができる。
【0043】
第6の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第5の発明において、前記溶媒がエタノールであるため、安価で入手しやすく、さらに高い割合でペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることが可能となる。
【0044】
第7の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第1ないし6のいずれかの発明において、前記活性炭が、BET比表面積が1100~1800m/gであり、窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により測定された細孔直径のモード径が0.50~0.70nmであり、ポリスチレン標準品を用いて測定した排除限界分子量が1013以下であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を適切に吸着可能であるとともに、吸着したペル及びポリフルオロアルキル化合物を高効率で脱離させることができる。
【0045】
第8の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第7の発明において、前記排除限界分子量が453以下であるため、さらに良好な脱着性能が得られる。
【0046】
第9の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第7の発明において、前記活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法により解析して求めた全細孔容積が0.40~0.75cm/gであるため、より良好な吸脱着性能が得られる。
【0047】
第10の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第8の発明において、前記活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法により解析して求めた全細孔容積が0.40~0.75cm/gであるため、より良好な吸脱着性能が得られる。
【0048】
第11の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第7の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gであるため、より良好な吸脱着性能が得られる。
【0049】
第12の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第8の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gであるため、より良好な吸脱着性能が得られる。
【0050】
第13の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第9の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gであるため、より良好な吸脱着性能が得られる。
【0051】
第14の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第10の発明において、前記活性炭のBoehmの方法を適用して求めた酸性官能基が0.10~0.50meq/gであるため、より良好な吸脱着性能が得られる。
【0052】
第15の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第7の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0053】
第16の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第8の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0054】
第17の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第9の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0055】
第18の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第10の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0056】
第19の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第11の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0057】
第20の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第12の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0058】
第21の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第13の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0059】
第22の発明に係る活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法によると、第14の発明において、前記活性炭が繊維状活性炭であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は、活性炭に吸着された物質を活性炭から脱離させる方法であって、特に、短時間に高い割合で脱離させるために、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着されている活性炭に対し、高温の溶媒を接触させることによって、活性炭からペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させる脱離方法(高温溶媒脱離法)である。
【0061】
本発明のペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法は、主として、「PFOS及びPFOA含有廃棄物」のうち、特にPFOSやPFOA等の有害物質の吸着・除去に使用された活性炭を廃棄処理する方法として好適に用いられる。
【0062】
高温溶媒は、0.10MPa(大気圧)以上の高圧下で130℃以上に昇温された溶媒をいう。溶媒は、例えば水が好ましい。水は、溶媒として一般的であり、安価で入手しやすく利便性に優れるとともに、環境負荷が小さい。また、溶媒として使用される水では、不純物がほとんど含まれず洗浄等の用途に好適な超純水を使用することがより好ましい。なお、一般に高圧下で100℃以上に昇温された水を超高温水と称し、高温溶媒として使用される水は高圧下で130℃以上に昇温された超高温水である。
【0063】
130℃以上とされる溶媒は、液体状態で存在できる温度が圧力に応じて変化することから、所望する温度に対応する高圧環境下で溶媒を昇温させることにより得られる。例えば、水を0.12MPaの圧力下で昇温した時には、105℃の超高温水が得られる。130℃の超高温水であれば0.27MPaの高圧環境下で昇温させればよい。本発明に用いられる溶媒の温度は、活性炭から脱離させる化合物(活性炭に吸着された化合物)の種類等に応じて設定されるが、130℃以上とすることにより優れた脱離効果が得られる。高温溶媒の温度が低すぎると十分な脱離効果が得られないおそれがある。高温溶媒の温度の上限は特に限定されないが、高すぎると昇温に要するエネルギーコストの面で不利であるとともに、昇温に見合った脱離効果の向上が得られないおそれがあることから、200℃程度とすることが好ましい。なお、200℃の超高温水を得るには、1.55MPa以上の加圧を要する。
【0064】
活性炭に対する高温溶媒の接触は、通液や浸漬等適宜の手法が挙げられる。特に、本発明の活性炭をPFOSやPFOA等の有害物質の吸着・除去に使用した後、「PFOS及びPFOA含有廃棄物」として処理する場合、高温溶媒脱離法では活性炭に対して通液により接触させることが好ましい。通液による脱離の場合、活性炭から脱離されたPFOSやPFOA等の有害物質は、通液された高温溶媒とともに排出されるため、焼却処理のように揮発等のおそれがなく、そのまま容易に回収することができ、安全で効率的である。
【0065】
溶媒では、水と有機溶媒の混合溶媒を用いてもよい。混合溶媒は、所定濃度に調製された有機溶媒の水溶液である。有機溶媒としては、エタノール、メタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、特にエタノールが安価で入手しやすいため好ましい。混合溶媒の有機溶媒の濃度は、有機溶媒の種類等に応じて設定されるが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。高温溶媒が有機溶媒を含む(混合溶媒とする)ことにより、脱離効率を向上させることができる。なお溶媒は、有機溶媒のみ(100%)であってもよい。有機溶媒のみからなる溶媒では、混合溶媒と同様に脱離効率を向上させることができる。
【0066】
本発明の脱離方法の対象となる活性炭は、PFOSやPFOA等のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能に優れた適宜の活性炭が挙げられる。例えば水道水等の水中に含まれるPFOSやPFOA等の除去に対応した家庭用の浄水器や産業用の浄水処理装置等で使用される吸着材や、大気中のPFOSやPFOA等の除去に対応した家庭用、産業用の空気清浄機やエアフィルター等に使用される吸着材等である。これらの活性炭のうち、特に、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱着性能にも優れた活性炭がより好ましい。
【0067】
活性炭は、粒状活性炭や繊維状活性炭等の適宜の形態からなり、活性炭原料を炭化し賦活して得られる。活性炭の原料は、例えば粒状活性炭の場合、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等が挙げられる。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなり、このうち椰子殻は安定調達が可能であるため好ましい。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。粒状活性炭は、使用形態等が適宜決定可能であるから取り回しがよい。
【0068】
繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得られるものであり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維状活性炭の繊維長や断面径等は適宜である。繊維状活性炭は、除去対象物質との接触効率の観点から、ペル及びポリフルオロアルキル化合物をより効率よく吸着することができる。
【0069】
活性炭は、活性炭原料を加熱炭化させた後、賦活処理を行うことによって製造される。活性炭原料の加熱炭化は、原料の炭化が必要な場合に行われる。加熱炭化の条件は、例えば200~900℃の温度域が好ましい。加熱炭化を行うことにより、活性炭原料に微細孔を形成することができる。
【0070】
炭化後の原料は、賦活処理が施されることによって、各種の細孔が発達した活性炭となる。賦活処理では、例えば600℃~1200℃の温度域において水蒸気賦活が行われる。あるいは二酸化炭素等の炭酸ガス賦活や、塩化亜鉛賦活等も用いられる。賦活時間は、生産規模や設備等に応じて適宜であるが、おおむね0.5~50時間である。賦活後の活性炭は、希塩酸によって洗浄される。希塩酸洗浄後の活性炭吸着剤は、例えば、JIS K 1474(2014)に準拠したpHの測定により、pH5~7になるまで水洗される。
【0071】
希塩酸の洗浄後、必要により活性炭は、酸素及び窒素の混合気体中において加熱処理、水洗浄され、灰分等の不純物が取り除かれる。加熱処理により残留する塩酸分等は取り除かれる。そして、各処理を経ることにより活性炭吸着剤の表面酸化物量は調整される。酸洗浄後、活性炭に対する加熱処理を通じて、活性炭吸着剤の表面酸化物量は増加する。
【0072】
こうして出来上がる活性炭の物性により、目的被吸着物質の吸着性能及び脱着性能が規定される。そこで活性炭は、PFOS,PFOA等のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能と脱着性能の双方に優れた性能を示す指標として、BET比表面積と、細孔直径のモード径と、排除限界分子量とを用いて表される。すなわち、本発明の脱離方法の対象として特に好ましい活性炭は、BET比表面積が1100~1800m/gであり、窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により測定された細孔直径のモード径が0.50~0.70nmであり、ポリスチレン標準品を用いて測定した排除限界分子量が1013以下である物性を備える。
【0073】
BET比表面積は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してBET式に基づいて多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧0.05~0.3の領域での直線から算出される値であって、活性炭に形成された細孔の量を示す指標として使用される。活性炭の細孔の量が多い(BET比表面積が大きい)ほど目的被吸着物質を多く吸着可能であることから、BET比表面積により活性炭の吸着性能を規定することができる。一方、後述する実施例から、BET比表面積が大きくなると、吸着性能が向上する反面、吸着した物質が脱離しにくくなると考えられる。そこで、吸着性能と脱着性能の双方に優れた性能を示すための好ましいBET比表面積は、1100~1800m/g、より好ましくは1200~1400m/gである。BET比表面積が小さすぎると吸着性能が不足し、BET比表面積が大きすぎると脱着性能が低下するおそれがある。
【0074】
本明細書における細孔直径は、窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により測定されたモード径を指す。モード径は、細孔分布の最頻値を示す値である。細孔直径は、活性炭が吸着可能な物質の大きさを示す指標の一つとして使用される。目的被吸着物質の大きさに適した細孔直径であると、目的被吸着物質の吸脱着が円滑に行われると考えられる。そこで、目的被吸着物質であるPFOSやPFOA等の吸着に適した細孔直径のモード径は0.50~0.70nmである。細孔直径が小さすぎると分子量の大きいPFOSやPFOA等を適切に吸着できなくなるおそれがある。細孔直径が大きすぎると夾雑物等の目的外の物質を吸着しやすくなってしまって、PFOSやPFOA等を吸着するための細孔が塞がってしまい、吸着性能が低下するおそれがある。また、細孔直径が大きすぎることにより目的被吸着物質が活性炭の細孔の奥深くに入り込み、目的吸着物質が脱離しにくくなることも考えられる。
【0075】
排除限界分子量は、ポリスチレン標準品を用いて測定した活性炭の細孔内に侵入可能な物質の分子量の上限の目安を示す値であって、活性炭が細孔内で吸着可能な物質の大きさを示す指標の一つとして使用される。すなわち、排除限界分子量により、細孔直径のモード径とは異なる観点から目的被吸着物質の吸脱着性能を規定することができる。排除限界分子量の測定では、分子量が異なるポリスチレン標準品を試薬として用いて活性炭に通液させてその保持時間の変化を確認し、保持時間が変化せずに活性炭へ侵入しなかったことが示唆された試薬のうちの最小の分子量を排除限界分子量とした。そこで、好ましい排除限界分子量は1013以下、より好ましくは589以下、さらに好ましくは453以下である。排除限界分子量が大きすぎると、PFOSやPFOA等が細孔深くに入り込みすぎて脱離しにくくなることが考えられる。
【0076】
また、この活性炭は、性能向上の観点から、全細孔容積や酸性官能基を規定することが好ましい。全細孔容積は、活性炭の窒素ガスの吸着等温線からHK法(Horvath-Kawazoe法)により解析して求めた値である。全細孔容積は、BET比表面積と異なる観点から活性炭の吸脱着性能を規定する。そこで、好ましい全細孔容積は0.40~0.75cm/g、より好ましくは0.45~0.60cm/gである。全細孔容積が小さすぎると吸着性能が不足し、全細孔容積が大きすぎると脱着性能の低下を招くおそれがある。
【0077】
酸性官能基は、活性炭の表面に存在し、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基であって、活性炭の表面酸化により増加する。活性炭表面の酸性官能基は、PFOSやPFOA等の脱離に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握される。表面酸化物量は、Boehmの方法を適用して求められる。例えば、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中で活性炭を振盪後、濾過してその濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量として求めることができる。そこで、PFOSやPFOA等を適切に脱離させるための好ましい表面酸化物量は0.10meq/g以上である。表面酸化物量が少なすぎると、脱着性能の低下を招くおそれがある。
【0078】
また、活性炭の表面酸化物量は、吸着性能にも影響を及ぼす。例えば、活性炭の表面酸化物量が多いと活性炭表面の親水性が高まり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の中でも、特に親水性基を有するフルオロテロマー化合物類の捕集性能が向上すると考えられる。しかしながら、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が捕集される環境が水中である場合には、活性炭の表面酸化物量が過剰であると、水素結合により表面官能基へと強固に吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって、細孔が閉塞されて目的被吸着物質が吸着点(ミクロ孔)へ物理的なアクセスが阻害されることとなると推測される。
【0079】
水中使用に際しては、活性炭の表面に存在する酸性官能基により、水素結合によって吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって細孔が閉塞されると考えられることから、例えば、表面酸化物量が少ない場合は、比表面積が小さく細孔の量が少ない活性炭であっても一定以上の該化合物の吸着が可能となる。逆に、表面酸化物量が多く該化合物の細孔への吸着が阻害される場合であっても、比表面積が大きく細孔の量が多い活性炭であれば、一定以上の該化合物の吸着が可能となる。そこで、PFOSやPFOA等を適切に吸着するための好ましい表面酸化物量は0.50meq/g以下とされる。従って、吸着性能と脱離性能をバランスよく備える活性炭の表面酸化物量は0.10~0.50meq/gであると考えられる。これにより、水中における目的被吸着物質の良好な脱離効率及び吸着性能が得られると考えられる。
【0080】
活性炭の表面酸化物量は、以下の手法により調整可能である。一つは、再度加熱工程を経ることで表面残基の酸化を促進させ、酸性官能基を増加させる手法である。すなわち空気又は酸素雰囲気下における酸化である。あるいは、同時に空気雰囲気下にて温度25~40℃、湿度60~90%の空気も導入される。そこで、150~900℃にて1~10時間かけて加熱され、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。湿潤な空気を伴った加熱により活性炭表面に存在したアルキル基等の炭化水素基が酸化されたり、水の水酸基が表面に導入されたりして酸性官能基は増加すると考えられる。
【0081】
他には、酸化剤によって活性炭の表面を酸化させ、表面酸化物を増加させる手法である。酸化剤は、次亜塩素酸、過酸化水素等が挙げられる。これらの酸化剤を含む液に活性炭を浸漬後、乾燥することで、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。当該活性炭の表面における酸性官能基の量は後記の各試作例のとおり、表面酸化物量として測定可能である。
【0082】
また、活性炭の表面酸化物を減少させる手法としては、不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う等の公知の方法を用いることができ、活性炭表面のフェノール性水酸基やカルボキシル基等の酸性官能基を減少させることができる。この活性炭では、大気中や水中等の使用環境に応じて表面酸化物量を適宜調整することが好ましい。
【0083】
この活性炭は、以上説明した物性を備えることにより、PFOSやPFOA等のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能に優れるとともに、吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物が脱離されやすく効率的にPFOSやPFOA等の回収を可能とするものである。
【0084】
本発明の脱離方法(高温溶媒脱離法)では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着した活性炭から、脱離に要する処理時間が短時間でありながら、極めて高い割合でペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることができる。そして、ペル及びポリフルオロアルキル化合物に対する優れた吸着性能のみならず、吸着したペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離性能にも優れた上記物性の活性炭を脱離対象とした場合に、好適な脱離効果が得られる。
【0085】
このように、適宜の使用環境下でPFOSやPFOA等の有害物質の除去(吸着)に使用された活性炭に対して本発明の脱離方法(超高温水脱離法)を実施することにより、当該使用後の活性炭から吸着されたPFOSやPFOA等の有害物質を高効率で回収(脱離)することができる。従って、当該有害物質を含む廃棄物の処理に際して、効率の良い有害物質の回収・濃縮が可能となり、焼却処理以外の処理方法を確立することができる。
【実施例0086】
活性炭に吸着された物質を活性炭から脱離させる方法について、以下の活性炭と、試薬とを使用し検討した。脱離方法は、超高温水による高温溶媒脱離法と、アルカリ脱離法と、真空加熱脱離法とを用いた。各脱離法は、後述する手順に従って行った。各脱離法について、脱離に要した処理時間と、TFAの吸着量(mg/g)、脱離量(mg/g)、脱着率(%)と、PFOAの吸着量(mg/g)、脱離量(mg/g)、脱着率(%)とをそれぞれ測定した。その結果を後述の表1に示す。
【0087】
[活性炭]
フェノール樹脂繊維を原料として700~800℃で加熱して炭化物を形成し、該炭化物を800~950℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活して繊維状活性炭(活性炭1)を得た。得られた活性炭は、9mmφに切り抜き、厚みが11mmとなるように各材料を重ねてステンレス製カラム(株式会社巴製作所製、「ES008050」、50mm×8.0mm I.D.)に充填した。
【0088】
[試薬]
活性炭に吸着させる試薬として、TFA(関東化学株式会社製、トリフルオロ酢酸)と、PFOA(東京化成工業株式会社製、ペルフルオロオクタン酸)とを用意し、それぞれ超純水にて溶解させることで1000ppmに調製して試料溶液とした。各試料溶液について、UV検出器(アジレント・テクノロジー株式会社製、「G1314A」)にそれぞれ通液させて、1000ppmにおける吸光度を測定した。
【0089】
[超高温水による高温溶媒脱離法]
HPLCシステム(アジレント・テクノロジー株式会社製、「G1311A」)を用いて、カラム中の活性炭に対して前記調製した各試料溶液を常温、0.5mL/minの条件で通液させ、活性炭から化合物が破過して吸光度が一定の値に落ち着くまで通液を継続させて、カラム中の活性炭に化合物を吸着させた。続いて、溶媒として超純水を使用し、常温、3.0mL/minの条件で超純水を通液させ、吸光度が安定するまで通液を継続させた。その後、超純水を3.0mL/minのまま通液させるとともに、HPLCシステムの配管内を3MPaに加圧して超純水を150℃まで昇温させた超高温水として通液させ、カラム中の活性炭から化合物を脱離させて吸光度の変化を測定して安定するまで150℃の超高温水での通液を継続させた。
【0090】
上記試験により得られた吸光度に基づいて、活性炭1gあたりのTFAとPFOAの吸着量(mg/g)、脱離量(mg/g)、そして脱着率(%)をそれぞれ求めた。また、脱離に要した処理時間(h)は、吸光度が一定の値に落ち着いた時点の経過時間とした。なお、TFAの脱着率(%)は、比較的分子量が小さい有機フッ素化合物の脱着性能の指標として、PFOAの脱着率(%)は比較的分子量が大きい有機フッ素化合物の脱離性能の指標として捉えられる。
【0091】
超高温水による高温溶媒脱離法の脱着率の算出に際し、1000ppmにおける吸光度をC、通液中の吸光度をCとし、0.5mL/minで試料溶液の通液を開始した時点を開始時点として、各時点でのC/Cを破過率とした。そして、横軸に経過時間(min)、縦軸に破過率(C/C)をとって吸着曲線を取得し、吸着曲線からTFA及びPFOAの吸着量、同様に得られた脱着曲線から脱離量を算出し、下記の計算式から脱着率を求めた。
(脱離量/吸着量)×100=超高温水脱着率(%)
【0092】
[アルカリ脱離法]
予め0.01mol/LのNaOH水溶液と、別途1000ppmとなるようにTFA又はPFOAを溶解させた0.01mol/Lの各NaOH水溶液とをそれぞれUV検出器に通液させて、各吸光度を測定した。HPLCシステムを用いて、カラム中の活性炭に対して前記調製した各試料溶液を常温、0.5mL/minの条件で通液させ、活性炭から化合物が破過して吸光度が一定の値に落ち着くまで通液を継続させて、カラム中の活性炭に化合物を吸着させた。
【0093】
続いて、超純水を常温、3.0mL/minの条件で通液し、吸光度が安定するまで通液を継続させた。その後、3.0mL/minの条件で0.01mol/LのNaOH水溶液を通液させるとともに、カラムオーブン(株式会社島津製作所製、「GC-8A」)を70℃に昇温させ、カラム内の活性炭から化合物を脱離させて吸光度の変化を測定し、吸光度が一定の値に落ち着くまで0.01mol/LのNaOH水溶液での通液を継続させた。
【0094】
上記試験により得られた吸光度に基づいて、アルカリ脱離法による活性炭1gあたりのTFAとPFOAの吸着量(mg/g)、脱離量(mg/g)、そして脱着率(%)をそれぞれ求めた。また、脱離に要した処理時間(h)は、吸光度が一定の値に落ち着いた時点の経過時間とした。
【0095】
アルカリ脱離法の脱着率の算出に際し、1000ppmにおける吸光度をC、通液中の吸光度をCとし、0.5mL/minで試料溶液の通液を開始した時点を開始時点として、各時点でのC/Cを破過率とした。次に、横軸に経過時間(min)、縦軸に破過率(C/C)をとって吸着曲線を取得し、吸着曲線からTFA及びPFOAの吸着量を算出した。また、TFA又はPFOAを溶解させた0.01mol/Lの各NaOH水溶液の吸光度をB、0.01mol/LのNaOH水溶液の吸光度をBとし、0.01mol/LのNaOH水溶液を通液して70℃へ昇温した時点を開始時点として、各時点での[(C-B)/(B-B)]を破過率とした。そして、横軸に経過時間(min)、縦軸に破過率[(C-B)/(B-B)]をとって脱着曲線を取得し、脱着曲線からTFA及びPFOAの脱離量を算出し、下記の計算式からアルカリ脱離法による脱着率を求めた。
(脱離量/吸着量)×100=アルカリ脱着率(%)
【0096】
[真空加熱脱離法]
HPLCシステムを用いて、カラム中の活性炭に対して前記調製した各試料溶液を常温、0.5mL/minの条件で通液させ、活性炭から化合物が破過して吸光度が一定の値に落ち着くまで通液を継続させて、カラム中の活性炭に化合物を吸着させた。続いて、超純水を常温、3.0mL/minの条件で通液させ、吸光度が安定するまで通液を継続させた。その後、HPLCシステムからカラムを一旦取り外し、窒素ボンベに真空ポンプ(富士医療測器社製、OSP-90W)が接続された真空加熱処理装置にカラムを接続して、真空圧を-70~-90kPa、カラム温度を150℃とし、窒素を10mL/minでカラムに通気させてカラム中の活性炭から化合物を脱離させた。通気は18時間継続させ、これを脱離に要した処理時間(h)とした。
【0097】
上記真空加熱後の活性炭について、残存量確認のためにカラムを真空加熱処理装置から取り外し、HPLCシステムを用いて、カラム中の活性炭に対して超純水を3.0mL/minで通液させて、HPLCシステムの配管内を3MPaに加圧して超純水を150℃まで昇温させた超高温水として通液させてカラム中の活性炭から化合物を脱離させた。吸光度の変化を測定して安定するまで150℃の超高温水での通液を継続させた。
【0098】
真空加熱脱離法によるTFAとPFOAの吸着量(mg/g)、脱離量(mg/g)、脱着率(%)は、上記残存量確認の試験により得られた吸光度を用いて求めた。まず、1000ppmにおける吸光度をC、通液中の吸光度をCとし、0.5mL/minで試料溶液の通液を開始した時点を開始時点として、各時点でのC/Cを破過率とした。そして、横軸に経過時間(min)、縦軸に破過率(C/C)をとって吸着曲線を取得し、吸着曲線からTFA及びPFOAの吸着量を算出した。次に、3.0mL/minで超純水を通液して150℃へ昇温した時点を開始時点として、各時点でのC/Cを破過率とした。そして、横軸に経過時間(min)、縦軸に破過率(C/C)をとって脱着曲線を取得し、脱着曲線からTFA及びPFOAの脱離量を算出した。算出された吸着量と、残存量確認試験について算出された脱離量から下記の2つの計算式を用いて脱着率を求めた。
吸着量-残存量確認試験の脱離量=真空加熱脱離量
(真空加熱脱離量/吸着量)×100=真空加熱脱着率(%)
【0099】
【表1】
【0100】
[結果と考察(1)]
分子量が小さい有機フッ素化合物を想定したTFAが吸着された活性炭について、脱着率は、超高温水による高温溶媒脱離法、アルカリ脱離法、真空加熱脱離法のいずれも比較的良好であり、特に超高温水による高温溶媒脱離法で100%に到達した。一方、脱離に要した処理時間は、超高温水による高温溶媒脱離法とアルカリ脱離法が30分程度の短時間であったのに対し、真空加熱脱離法は18時間と極めて長時間であった。
【0101】
また、分子量が大きい有機フッ素化合物を想定したPFOAが吸着された活性炭について、脱着率は、アルカリ脱離法が64%、真空加熱脱離法が45%であったのに対し、超高温水による高温溶媒脱離法が100%に到達する格段に優れた結果となった。脱離に要した処理時間は、超高温水による高温溶媒脱離法とアルカリ脱離法が30分程度の短時間であったのに対し、真空加熱脱離法は18時間と極めて長時間であった。
【0102】
以上の通り、超高温水による高温溶媒脱離法では、アルカリ脱離法や真空加熱脱離法と比較して、分子量の小さい有機フッ素化合物(TFA)と、分子量の大きい有機フッ素化合物(PFOA)の双方において、格段に良好な結果が得られた。特に、TFAとPFOAのいずれも処理時間が30分程度の短時間でありながら、脱着率が100%に到達する極めて高い割合でペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることができた。従って、PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理方法として、超高温水による高温溶媒脱離法が極めて有効であることがわかった。
【0103】
次に、超高温水による高温溶媒脱離法について、溶媒温度を100℃と、130℃とし、それぞれ同様の手順でカラム中の活性炭から化合物を脱離させて吸光度の変化を測定した。各溶媒温度での測定結果を、溶媒温度150℃での測定結果とともに表2に示す。なお、溶媒温度が100℃の場合の配管内圧力は0.1MPa、130℃の場合の配管内圧力は0.27MPaである。
【0104】
【表2】
【0105】
[結果と考察(2)]
TFAが吸着された活性炭について、溶媒温度が100℃の場合の脱着率が極端に低かったのに対して、溶媒温度が130℃と150℃の場合は比較的良好であった。また、PFOAが吸着された活性炭について、溶媒温度が100℃の場合の脱着率が48%であったのに対し、溶媒温度が130℃と150℃の場合は100%に到達する格段に優れた結果となった。従って、超高温水による高温溶媒脱離法では、溶媒温度130℃以上で効果的にペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることができることがわかった。
【0106】
そこで、超高温水による高温溶媒脱離法に適した活性炭の物性について検討した。
【0107】
[活性炭の作製]
活性炭1(試作例1)との対比検討のために、試作例2~8を用意した。試作例2~4では、活性炭の原料としてフェノール樹脂繊維を使用し、前記原料を700~800℃で加熱して炭化物を形成し、該炭化物を800~950℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活して得た繊維状活性炭を用いた。試作例5では、試作例1の活性炭10gを過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させて得た活性炭を用いた。
【0108】
また、試作例6は原料として石炭を使用し、前記原料を200~600℃で加熱して炭化物を形成し、該炭化物を800~1000℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活して得た活性炭を用いた。試作例7、8は原料としてヤシ殻を使用し、前記原料を200~600℃で加熱して炭化物を形成し、該炭化物を800~1000℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活して得た活性炭を用いた。
【0109】
[活性炭の測定]
試作例1~8の活性炭について、BET比表面積、細孔直径のモード径、全細孔容積、排除限界分子量、表面酸化物量、吸脱着性能をそれぞれ測定した。排除限界分子量の測定結果を後述する表3、各測定の結果のまとめを後述する表4,5にそれぞれ示す。
【0110】
[BET比表面積]
試作例1~8の活性炭について、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロメリティックス社製、「3Flex」)を用いて、77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、得られた窒素吸着等温線からBET法に基づいて多点法による解析を行った。得られた曲線の相対圧0.05~0.3の領域での直線から比表面積(m/g)をそれぞれ算出した。
【0111】
[細孔直径のモード径]
試作例1~8の活性炭について、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロメリティックス社製、「3Flex」)を用いて、窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法(Micropore法)により解析して細孔直径のモード径(nm)をそれぞれ求めた。
【0112】
[全細孔容積]
試作例1~8の活性炭について、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロメリティックス社製、「3Flex」)を用いて、窒素ガスの吸着等温線の相対圧1.0×10-7ないし1.8×10-1の範囲よりHK法によって求められる最大窒素吸着量(V)を測定し、下記式(iii)に基づいて液体窒素の体積(Vp)に換算して全細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。 なお、HK法の解析条件は細孔幾何学をスリット細孔幾何学、相互作用パラメーターを3.49×10-43erg・cmとした。
【0113】
【数3】
【0114】
[排除限界分子量]
試作例1~8の活性炭について、液体クロマトグラフ(HPLC)(株式会社島津製作所製、「LC-20AB」)を用いて、排除限界分子量を測定した。まず試作例1~8の活性炭を粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製、「VT-300」)を用いて粉砕後、分級機(日本ニューマチック工業株式会社製、「DXF-2」)を用いて分級を行い、D50=15~20μmの粒径とした。分級した各試作例1~8の試料をそれぞれステンレス製カラム(株式会社巴製作所製、「ES046250」、250mm×4.6mm I.D.)に充填し、分子量の異なる下記ポリスチレン標準品(試薬1~5)をそれぞれHPLCシステムにて通液した。
【0115】
試薬1:富士フィルム和光純薬株式会社製、2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセン標準品(TPH)、分子量312.45
試薬2:東ソー株式会社製、ポリスチレン標準品(PS std.) A-300、分子量453
試薬3:東ソー株式会社製、ポリスチレン標準品(PS std.) A-500、分子量589
試薬4:東ソー株式会社製、ポリスチレン標準品(PS std.) A-1000、分子量1013
試薬5:東ソー株式会社製、ポリスチレン標準品(PS std.) A-2500、分子量3120
【0116】
カラム下流に接続したUV検出器(株式会社島津製作所製、「SPD-20A」)にて、通液したポリスチレン標準品を検出し、その保持時間の変化を確認して、各分子量のポリスチレンが各試作例1~8に侵入可能かどうか、すなわちどの分子量までが侵入可能かを評価した。なお、HPLC測定の条件は、流量を0.5mL/min、カラムオーブン温度を40℃、UV検出器の波長を254nm、移動相をクロロホルム(関東化学株式会社製)、試料注入量を40μL、ポリスチレンをクロロホルムで溶解した試料濃度を1.0mg/mLとした。
【0117】
上記HPLC測定において、保持時間が変化して活性炭への侵入が示唆されたものを「○」、保持時間が変化せず活性炭に侵入しなかったことが示唆されたものを「×」とし、各試作例1~8で活性炭に侵入しないポリスチレン標準品(判定が「×」のポリスチレン標準品)のうち分子量が一番小さいものを排除限界分子量とした。その結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
[表面酸化物量]
試作例1~8の活性炭について、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各試作例1~8の活性炭を振盪した後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量を表面酸化物量(meq/g)として測定した。
【0120】
[吸脱着性能]
試作例1~8の活性炭について、前述の超高温水による高温溶媒脱離法と同様の手順で処理を行い、TFAとPFOAの吸着量(mg/g)、脱離量(mg/g)、脱着率(%)をそれぞれ求めた。その結果を、表4,5に示す。なお、脱離に要した処理時間は、試作例1~8のいずれも約30分であった。
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
[結果と考察(3)]
表4,5から理解されるように、PFOAの吸着量(吸着性能)は試作例1~3,5~8で良好であり、試作例4では不十分であった。十分な吸着性能を備えた試作例1~3,5~8の脱着率(脱着性能)について、試作例6,8では、TFA脱着率が40%以下であるとともにPFOA脱着率が30%以下であり、いずれの脱離効率も不十分であった。また、試作例2,3,7の活性炭では、TFA脱着率が高率(特に試作例2,3の活性炭では100%前後)であり、PFOA脱着率は60%前後であった。一方、試作例1,5の活性炭は、TFA脱着率とPFOA脱着率のいずれも高率(特に試作例1では双方とも100%)であった。すなわち、分子量の小さい有機フッ素化合物を想定したTFA脱着率が試作例1~3,5,7において高率であり、分子量の大きい有機フッ素化合物を想定したPFOA脱着率は試作例1~3,5,7において良好であって、特に試作例1,5が高率で格段に優れた結果となった。
【0124】
また、試作例1~3を対比すると、吸着可能な目的被吸着物質(分子)の大きさを示す指標と考えられる細孔直径のモード径が小さい試作例1でPFOA脱着率が格段に優れていた。このことから、細孔直径が大きすぎると、目的被吸着物質が活性炭の細孔の奥深くに入り込み、目的被吸着物質が脱離しにくくなるのではないかと考えられる。このため、超高温水による高温溶媒脱離法によって短時間かつ高効率に活性炭に吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物が脱離されるためには、適度な細孔直径を備えた活性炭の方がより適していると考えられる。
【0125】
さらに、試作例1と試作例2,3の比表面積を対比すると、比表面積が大きいほど優れた吸着性能が示された。一方、脱着性能については、TFA脱着率が試作例1~3のいずれも良好であったのに対し、PFOA脱着率では比表面積が小さい試作例1が格段に優れていた。このことから、比表面積が一定以下であると、特に分子量が大きい有機フッ素化合物についての脱着性能が向上する傾向があると考えられる。
【0126】
表面酸化物量に着目して試作例1と試作例5を比較すると、どちらも脱着率はTFA、PFOA共に90%以上である。したがって、表面酸化物量が0.10~0.50meq/g程度であれば良好な脱着が可能であることを示している。活性炭では表面酸化物量が多いほど(例えば、0.10meq/g以上)活性炭表面の親水性が高まることで親水性化合物に対して優れた吸着性能を示すとされる。しかしながら、活性炭の水中使用に際しては、前記の水分子のクラスターによる吸着性能低下を考慮し、表面酸化物量は0.50meq/g以下とされるのがよいと考えられる。
【0127】
活性炭では全細孔容積が大きいほど(例えば、0.40cm/g以上)優れた吸着性能を示すとされるが、試作例1~3の対比から、全細孔容積が一定以下であると、特に分子量が大きい有機フッ素化合物についての脱着性能が向上する傾向があると考えられる。
【0128】
また、PFOAの分子量は約400である。そこで、細孔直径とは別の指標としての吸着可能な目的被吸着物質(分子)の大きさを示す指標と考えられる排除限界分子量に着目すると、例えば、比表面積が同等の試作例2と試作例8とでは排除限界分子量がPFOAの分子量により近似している試作例2においてより優れたPFOAの脱離性能が発揮された。このことから、超高温水による高温溶媒脱離法によってペル及びポリフルオロアルキル化合物を活性炭から脱離させる際には、用いられる活性炭の排除限界分子量が目的被吸着物質(ここではPFOA)の分子構造や分子量に適していることも好ましい条件であると考えられる。排除限界分子量が大きすぎると、目的被吸着物質が活性炭の細孔の奥深くに入り込み、目的吸着物質が脱離しにくくなるのではないかと考えられる。このため、超高温水による高温溶媒脱離法によって短時間かつ高効率に活性炭に吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物が脱離されるためには、適度な排除限界分子量を備えることが好ましい。
【0129】
以上を踏まえて吸着性能と脱着性能の双方とも良好な試作例1~3,5,7から超高温水による高温溶媒脱離法に適した活性炭の物性をそれぞれ検討すると、細孔直径のモード径は0.50~0.70nm程度と規定されるのがよいと考えられる。BET比表面積は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を回収する活性炭の基礎的な吸着性能確保の観点から1100m/g以上、より好ましくは1200m/g以上とされるのがよく、吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着の脱離・回収の観点から1800m/g以下、より好ましくは1400m/g以下程度と規定されるのがよいと考えられる。表面酸化物量は、0.10~0.50meq/g、より好ましくは0.16~0.50meq/g程度と規定されるのがよいと考えられる。全細孔容積は、吸着性能と超高温水による高温溶媒脱離法に適した吸脱着性能とを考慮して0.40~0.75cm/g、より好ましくは0.45~0.60cm/g程度と規定されるのがよいと考えられる。排除限界分子量は、超高温水による高温溶媒脱離法に適し、かつ分子量が小さい有機フッ素化合物から分子量の大きい有機フッ素化合物まで目的被吸着物質とすることを考慮して1013以下、好ましくは589以下、さらに好ましくは453以下と規定されるのがよいと考えられる。
【0130】
[高温溶媒脱離法]
次に、高温溶媒脱離法について、後述の溶媒1~4を用いて溶媒の種類を検討した。当該試験では、繊維状活性炭(試作例1)を20.5mmφに切り抜き、厚みが11mmとなるように重ねてステンレス製カラム(株式会社巴製作所製、「ES0200050」、50mm×20mm I.D.)に充填した。また、活性炭に吸着させる試薬として下記の試薬を用意し、超純水にて溶解させることで1000pptに調製して混合試料溶液とした。
・PFOA:Wellington Laboratories Inc.製、Perfluoro-n-octanoic acid
・L-PFOS(PFOS):Wellington Laboratories Inc.製、Sodium perfluoro-1-octanesulfonate
・FHET(6:2FTOH):Wellington Laboratories Inc.製、2-Perfluorohexyl ehanol (6:2)
【0131】
HPLCシステム(アジレント・テクノロジー株式会社製、「G1311A」)を用いて、前記調製した混合試料溶液を3.12mL/minで通液させ、HPLCシステム出口から得られた水溶液の化合物濃度を液体クロマトグラフ質量分析(LC-MSMS)及びガスクロマトグラフ質量分析(GC-MSMS)により測定し、HPLCシステム出口での化合物濃度を1000ppt程度で安定させた後、活性炭が充填されたカラムをHPLCシステムに接続させた。なお、液体クロマトグラフ質量分析では、液体クロマトグラフ分析計(Waters Corporation製、Waters ACQUITY UPLC I-Class PLUS)、質量分析計(Waters Corporation製、Xevo TQ-S micro)を使用した。また、ガスクロマトグラフ質量分析では、ガスクロマトグラフ分析計(アジレントテクノロジー株式会社製、8990 GC System)、質量分析計(Waters Corporation製、Xevo TQ-S micro)を使用した。
【0132】
カラム中の活性炭に対して混合試料溶液を常温、3.12mL/minの条件で24時間連続で通液させて、カラム中の活性炭に化合物を吸着させた。24時間時点でカラム下流から得られる水溶液をLC-MSMS、GC-MSMSにより分析して、化合物が破過せずに全て吸着されていることを確認した後、カラムを取り外した。続いて、HPLCシステムの経路に3.12mL/minで脱着用の溶媒(後述の溶媒1~4)を通液させ、HPLCシステムの経路を脱着溶媒に置換させた後、化合物を吸着させた活性炭が充填されたカラムをHPLCシステムに接続させた。カラム中の活性炭に対し、脱着溶媒を3.12mL/minで通液させるとともに、HPLCシステムの配管内を3MPaに加圧して脱離溶媒を200℃まで昇温させた高温溶媒として30分間通液させた後、通液を停止させた。
【0133】
カラム内から活性炭を取り出し、吸着されずに活性炭に残存した化合物を有機溶媒で抽出させた。活性炭からの化合物の抽出では、まず取り出した活性炭を容器A(AGCテクノグラス株式会社製、遠沈管 15mL)に導入させてジクロロメタン/酢酸エチル=1/1を10mL加えて1時間浸漬させた。次に、この容器を室温(20~25℃)、250rpmの条件で30分間振とうさせ、容器中の抽出液を容器Bへ移した。この操作を合計3回行って約15mLの抽出液が充填された容器B,容器Cを得た。
【0134】
2本の抽出液に対してそれぞれ窒素ガスを吹き付けて35℃で約7mLまで濃縮させた後、容器Bに全量をまとめ、容器Cを少量(300~350μL)のジクロロメタン/酢酸エチル=1/1で3回洗浄して容器Bへ移した。容器Bの抽出液をさらに濃縮させた後、ジクロロメタン/酢酸エチル=1/1で10mLに定容させた。この抽出液を希釈してLC-MSMS、GC-MSMSのMRMモードで測定し、ジクロロメタン/酢酸エチルで抽出された化合物を定量した。
【0135】
次に、ジクロロメタン/酢酸エチルで抽出後の活性炭が入っている容器Aに、1%のアンモニウムイオン(NH )が含有されたメタノールを10mL加えて1時間浸漬させ、上記化合物の抽出と同様の手順で活性炭から化合物を抽出させてその化合物量を定量した。
【0136】
活性炭への化合物吸着量をW(ng)、カラム接続前に測定した化合物濃度をC(pg/mL)とし、流量が3.12mL/min、通液時間が24時間の場合、化合物吸着量Wは下記式(iv)から算出することができる。また、ジクロロメタン/酢酸エチルで抽出された化合物量とアンモニウムイオンで抽出された化合物量とを加算して得られた値を脱着後の活性炭に残存した化合物量W(ng)として、活性炭の高温溶媒脱離法による脱着率(%)は下記式(v)から算出することができる。そこで、各溶媒1~4での脱着率(%)を後述の表6に示す。
【0137】
【数4】
【0138】
【数5】
【0139】
[溶媒]
・溶媒1:超純水(ELGA LabWater社製 PURELAB flexで作製)
・溶媒2:10%エタノール混合溶媒(関東化学株式会社製 エタノール100mLを超純水900mLに添加して調製)
・溶媒3:30%エタノール混合溶媒(関東化学株式会社製 エタノール300mLを超純水700mLに添加して調製)
・溶媒4:50%エタノール混合溶媒(関東化学株式会社製 エタノール500mLを超純水500mLに添加して調製)
【0140】
【表6】
【0141】
[結果と考察(4)]
表6から理解されるように、PFOA脱着率では各溶媒1~4のいずれも極めて良好な結果が得られた。PFOS脱着率では、超純水である溶媒1と比較してエタノールの混合溶媒である溶媒2~4で脱離効率の向上がみられた。6:2FTOH脱着率では、超純水である溶媒1や低濃度(10%)のエタノールの混合溶媒である溶媒2と比較して溶媒2より高濃度(30%,50%)のエタノールの混合溶媒である溶媒3,4で脱離効率の向上がみられた。
【0142】
このことから、高温溶媒による脱離法においては、溶媒の種類を問わず活性炭から分子量が大きい有機フッ素化合物を想定したPFOAを高効率で脱離させることができると考えられる。また、有機溶媒を含む混合溶媒を用いることにより、他の分子量が大きい有機フッ素化合物(PFOS)であっても有効に脱離させることができると考えられる。さらに、所定濃度以上の有機溶媒を含む溶媒を用いることにより、分子量の大小を問わず有機フッ素化合物を高効率で脱離させることができると考えられる。実施例の結果から、有機溶媒の濃度は20%以上が好ましく、30%以上がより好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の活性炭からのペル及びポリフルオロアルキル化合物の脱離方法は、PFOSやPFOA等の有害物質を含むペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着された活性炭から、短時間に高効率でペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離させることができる。このことから、本発明の脱離方法では、PFOSやPFOA等の有害物質を除去(吸着)した活性炭から、有害物質を高効率で回収(脱離)が可能であるため、当該有害物質を含む廃棄物の処理に際して、有害物質の回収(脱離)、濃縮が可能となる。そのため、従来の焼却処分によるPFOSやPFOA等の有害物質の自然界への再放出の懸念を解消し得る代替としての処理方法として有望である。