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特開2024-156304反射型マスクブランク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156304
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20241029BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20241029BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070660
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中西 英太
(72)【発明者】
【氏名】赤木 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】石川 一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 規晋
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BC05
2H195BC20
2H195BC24
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA12
2H195CA22
(57)【要約】
【課題】吸収膜の開口パターンの加工精度を向上する、技術を提供すること。
【解決手段】反射型マスクブランクは、基板と、多層反射膜と、保護膜と、吸収膜と、ハードマスク膜と、をこの順番で有する。前記ハードマスク膜は、Y、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、多層反射膜と、保護膜と、吸収膜と、ハードマスク膜と、をこの順番で有する、反射型マスクブランクであって、
前記ハードマスク膜は、Y、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含む、反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記ハードマスク膜の膜厚は10nm以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記ハードマスク膜は前記元素X1の化合物を含み、前記元素X1の化合物はO、N、B、H及びCから選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記ハードマスク膜は前記元素X1の化合物を含み、前記元素X1の化合物はRu及びCrから選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記吸収膜は、Ir、Pt、Pd、Co、Ni、Os及びRuから選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記保護膜は、Ru、Rh及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記保護膜は、Rhを含有する、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記保護膜は下層及び上層を有する多層膜であって、上層はRhを含む、請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
基板の上に多層反射膜と保護膜と吸収膜とハードマスク膜とをこの順番で成膜することを有し、
前記ハードマスク膜は、Y、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含む、反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の反射型マスクブランクを準備することと、
前記ハードマスク膜に開口パターンを形成することと、
前記吸収膜に開口パターンを形成することと、
をこの順番で有する、反射型マスクの製造方法。
【請求項11】
前記ハードマスク膜に開口パターンを形成することは、前記ハードマスク膜をプラズマ化したArガスでエッチングすることを含む、請求項10に記載の反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反射型マスクブランク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外線(EUV:Extreme Ultra-Violet)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)が開発されている。EUVとは、軟X線及び真空紫外線を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、13.5nm程度の波長のEUVが主に検討されている。
【0003】
EUVLでは、反射型マスクが用いられる。反射型マスクは、ガラス基板などの基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、多層反射膜を保護する保護膜と、EUV光を吸収する吸収膜と、をこの順で有する。吸収膜は、EUV光を吸収するだけではなく、EUV光の位相をシフトしてもよい。つまり、吸収膜は、位相シフト膜であってもよい。吸収膜には、開口パターンが形成される。EUVLでは、吸収膜の開口パターンを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。
【0004】
特許文献1に記載の反射型マスクブランクは、基板と多層反射膜と保護膜と吸収膜とハードマスク膜に相当するエッチングマスク膜とレジスト膜をこの順番で備える。吸収膜は、イリジウム(Ir)と添加元素とを含む。エッチングマスク膜は、クロム(Cr)と添加元素とを含む。Crに対する添加元素は、O、N、C、B及びHから選択される少なくとも1つである。エッチングマスク膜の材料として、CrN、CrO、CrC、CrON、CrOC、CrCN、及びCrOCNが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/138360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射型マスクの製造方法は、レジスト膜の開口パターンをハードマスク膜に転写することと、ハードマスク膜の開口パターンを吸収膜に転写することと、を有する。ハードマスク膜の加工には第1エッチングガスが用いられ、吸収膜の加工には第2エッチングガスが用いられる。
【0007】
従来、ハードマスク膜と吸収膜は、その材料の組み合わせによっては、第2エッチングガスに対する選択比が不十分であった。そこで、吸収膜の加工時にその加工時間を確保すべく、ハードマスク膜を厚くすることが考えられる。
【0008】
ハードマスク膜を厚くすると、ハードマスク膜の加工時にその加工時間が延びる。従来、時間の経過とともにレジスト膜の線幅が細くなることがあった。これは、ハードマスク膜の加工時に、酸素ラジカルがレジスト膜の開口の側面をエッチングするからである。
【0009】
ハードマスク膜の加工時に時間の経過とともにレジスト膜の線幅が細くなると、ハードマスク膜の開口の側面が傾斜してしまう。そのような開口を有するハードマスク膜を用いて吸収膜を加工すると、吸収膜の開口の側面も傾斜してしまう。
【0010】
本開示の一態様は、吸収膜の開口パターンの加工精度を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係る反射型マスクブランクは、基板と、多層反射膜と、保護膜と、吸収膜と、ハードマスク膜と、をこの順番で有する。前記ハードマスク膜は、Y、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、ハードマスク膜は、Y、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含む。これにより、ハードマスク膜の開口パターンの加工精度を向上でき、ひいては吸収膜の開口パターンの加工精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る反射型マスクブランクを示す断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る反射型マスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、一実施形態に係る反射型マスクを示す断面図である。
図4図4は、一実施形態に係る反射型マスクの製造方法を示すフローチャートである。
図5図5(A)は基板の準備の実施例を示す断面図であり、図5(B)はハードマスク膜の加工終了時の実施例を示す断面図であり、図5(C)は吸収膜の加工終了時の実施例を示す断面図である。
図6図6(A)は基板の準備の従来例を示す断面図であり、図6(B)はハードマスク膜の加工途中の従来例を示す断面図であり、図6(C)はハードマスク膜の加工終了時の従来例を示す断面図であり、図6(D)は吸収膜の加工途中の従来例を示す断面図であり、図6(E)は吸収膜の加工終了時の従来例を示す断面図である。
図7図7は、図3の反射型マスクで反射されるEUV光の一例を示す断面図である。
図8図8は、吸収膜の加工終了時における吸収膜の形状の一例を誇張して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0015】
各図面において、X軸方向とY軸方向とZ軸方向は互いに直交する方向である。Z軸方向は、基板10の第1主面10aに対して垂直な方向である。X軸方向は、EUV光の入射面(入射光線と反射光線を含む面)に直交する方向である。図7に示すように、入射光線はZ軸負方向に向かうほどY軸正方向に傾斜し、反射光線はZ軸正方向に向かうほどY軸正方向に傾斜する。
【0016】
図1を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1について説明する。反射型マスクブランク1は、例えば、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、吸収膜13と、ハードマスク膜14と、をこの順番で有する。多層反射膜11と、保護膜12と、吸収膜13と、ハードマスク膜14とは、この順番で、基板10の第1主面10aに形成される。多層反射膜11は、EUV光を反射する。保護膜12は、吸収膜13の加工時に第2エッチングガスから多層反射膜11を保護する。吸収膜13は、EUV光を吸収する。ハードマスク膜14は、吸収膜13の加工時に第2エッチングガスから吸収膜13の一部を保護する。
【0017】
反射型マスクブランク1は、図1に図示しない機能膜を更に有してもよい。例えば、反射型マスクブランク1は、基板10を基準として、多層反射膜11とは反対側に、導電膜を有してもよい。導電膜は、基板10の第2主面10bに形成される。第2主面10bは、第1主面10aとは反対向きの面である。導電膜は、例えば反射型マスク2を露光装置の静電チャックに吸着するのに用いられる。反射型マスクブランク1は、多層反射膜11と保護膜12の間に、不図示の拡散バリア膜を有してもよい。拡散バリア膜は、保護膜12に含まれる金属元素が多層反射膜11に拡散するのを抑制する。
【0018】
反射型マスクブランク1は、図示しないが、保護膜12と吸収膜13の間にバッファ膜を有してもよい。バッファ膜は、吸収膜13に開口パターン13aを形成する第2エッチングガスから、保護膜12を保護する。バッファ膜は、吸収膜13よりも緩やかにエッチングされる。バッファ膜は、保護膜12とは異なり、最終的に吸収膜13の開口パターン13aと同一の開口パターンを有することになる。
【0019】
次に、図2を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1の製造方法について説明する。反射型マスクブランク1の製造方法は、例えば、図2に示すステップS101~S105を有する。ステップS101では、基板10を準備する。ステップS102では、基板10の第1主面10aに多層反射膜11を形成する。ステップS103では、多層反射膜11の上に保護膜12を形成する。ステップS104では、保護膜12の上に吸収膜13を形成する。ステップS105では、吸収膜13の上にハードマスク膜14を形成する。なお、反射型マスクブランク1の製造方法は、図2に図示しない機能膜を形成するステップを更に有してもよい。
【0020】
次に、図3を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2について説明する。反射型マスク2は、例えば、図1に示す反射型マスクブランク1を用いて作製され、吸収膜13に開口パターン13aを含む。EUVLでは、吸収膜13の開口パターン13aを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。なお、図1に示すハードマスク膜14は、反射型マスク2に含まれない。
【0021】
次に、図4及び図5を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2の製造方法について説明する。反射型マスク2の製造方法は、図4に示すステップS201~S204を有する。ステップS201では、図5(A)に示すように、反射型マスクブランク1を準備する。反射型マスクブランク1は、図5(A)に示すようにレジスト膜16を含む。レジスト膜16は、ハードマスク膜14の上に形成される。レジスト膜16には、吸収膜13に転写する予定の開口パターンが形成されている。
【0022】
ステップS202では、図5(B)に示すように、開口パターンを有するレジスト膜16を用いて、ハードマスク膜14を加工する。レジスト膜16の開口において、ハードマスク膜14が第1エッチングガスに曝され、第1エッチングガスがハードマスク膜14をエッチングする。ステップS202の終了時に、レジスト膜16は残る。その結果、レジスト膜16の開口パターンがハードマスク膜14に転写される。
【0023】
第1エッチングガスは、本実施形態ではArガスを含む。第1エッチングガスは、レジスト膜16の線幅Wが細くなるのを抑制すべく、酸素系ガスを実質的に含まないことが好ましい。酸素系ガスは、Oガス、Oガス又はこれらの混合ガスである。第1エッチングガスにおける酸素系ガスの含有量は、好ましくは0.1体積%以下である。第1エッチングガスは、Arガスのみからなることが好ましい。第1エッチングガスは、プラズマ化したものであることが好ましい。
【0024】
ハードマスク膜14の加工条件の一例を下記に示す。
<ハードマスク膜の加工条件>
エッチングガス:プラズマ化したArガス、
ソースパワー:150W~1000W、
バイアス:50W~150W、
圧力:0.2Pa~1.0Pa。
【0025】
ステップS203では、図5(C)に示すように、開口パターンを有するハードマスク膜14を用いて、吸収膜13を加工する。ハードマスク膜14の開口において、吸収膜13が第2エッチングガスに曝され、第2エッチングガスが吸収膜13をエッチングする。ハードマスク膜14は、吸収膜13に比べて、第2エッチングガスに対する耐性が高い。ステップS203の終了時に、ハードマスク膜14は残る。その結果、ハードマスク膜14の開口パターンが吸収膜13に転写される。
【0026】
第2エッチングガスは、フッ素系ガスを含む。フッ素系ガスは、例えばCFガス、CHFガス、Cガス、Cガス、Cガス、Cガス、CHガス、CHFガス、Cガス、Fガス、SFガス及びNFガスから選択される少なくとも1つを含む。第2エッチングガスは、フッ素系ガスに加えて、活性ガス又は不活性ガスを含んでもよい。活性ガスは、例えばOガスを含む。不活性ガスは、例えばNガス、Heガス及びArガスから選択される少なくとも1つを含む。第2エッチングガスは、プラズマ化したものであることが好ましい。
【0027】
吸収膜13の加工条件の一例を下記に示す。
<吸収膜の加工条件>
エッチングガス:CFガスとOガスを含むプラズマ化した混合ガス、
ソースパワー:150W~2000W、
バイアス:20W~150W、
圧力:0.2Pa~1.0Pa。
【0028】
ステップS204では、図示しないが、ハードマスク膜14を除去する。ハードマスク膜14の除去には、例えば第3エッチングガスが用いられる。第3エッチングガスは、第1エッチングガスと同様に、Arガスを含む。第3エッチングガスは、プラズマ化したものであることが好ましい。ハードマスク膜14の除去には、薬液が用いられてもよい。
【0029】
次に、図6を参照して、従来例の反射型マスクブランク1の加工手順について説明する。従来例の反射型マスクブランク1は、図6(A)に示すように、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、吸収膜13と、ハードマスク膜14Aと、レジスト膜16と、をこの順番で有する。従来例のハードマスク膜14Aは、Cr又はRuを主成分として含む。従来例のハードマスク膜14Aの加工には、第4エッチングガスが使用される。
【0030】
第4エッチングガスは、塩素系ガスと酸素系ガスとを含む。塩素系ガスは、例えばClガス、SiClガス、CHClガス、CClガス及びBClガスから選択される少なくとも1つを含む。酸素系ガスは、例えばOガス及びOガスから選択される少なくとも1つを含む。第4エッチングガスは、塩素系ガスと酸素系ガスに加えて、不活性ガスを含んでもよい。不活性ガスは、例えばNガス、Heガス及びArガスから選択される少なくとも1つを含む。第4エッチングガスは、プラズマ化したものであることが好ましい。
【0031】
吸収膜13は、貴金属元素を含むことが好ましい。貴金属元素は、例えばIr、Pt、Pd、Os又はRuである。これらの貴金属元素は、比較的小さな屈折率を有するので、位相差を確保しつつ、吸収膜13の膜厚を小さくできる。但し、これらの貴金属元素は、エッチング速度が遅い。そこで、吸収膜13の加工時にその加工時間を確保すべく、ハードマスク膜14Aを厚くすることが考えられる。
【0032】
ハードマスク膜14Aを厚くすると、ハードマスク膜14Aの加工時にその加工時間が延びる。従来、図6(B)に示すように、時間の経過とともにレジスト膜16の線幅Wが細くなることがあった。これは、ハードマスク膜14Aの加工時に、酸素ラジカルがレジスト膜16の開口の側面をエッチングするからである。
【0033】
図6(B)及び図6(C)に示すようにハードマスク膜14Aの加工時に時間の経過とともにレジスト膜16の線幅Wが細くなることで、ハードマスク膜14Aの開口の側面が傾斜してしまう。そのような開口を有するハードマスク膜14Aを用いて吸収膜13を加工すると、図6(D)及び図6(E)に示すように吸収膜13の開口の側面も傾斜してしまう。
【0034】
これは、図6(C)に示すように、ハードマスク膜14Aが台形の断面形状を有するからである。ハードマスク膜14Aの膜厚が小さい位置では、ハードマスク膜14Aの膜厚が大きい位置に比べて、図6(D)に示すように、ハードマスク膜14Aの消失が早く、吸収膜13のエッチングが早く始まる。その結果、吸収膜13の開口の側面も傾斜してしまう。
【0035】
次に、図5を再度参照して、実施例の反射型マスクブランク1の加工手順について説明する。実施例のハードマスク膜14は、従来例のハードマスク膜14Aとは異なり、Y、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含む。元素X1の合計含有量は、30at%~100at%であることが好ましく、40at%~100at%であることがより好ましい。
【0036】
表1に、大気圧下におけるフッ化物の沸点などを示す。なお、フッ化物の価数が複数存在する場合、最も低い沸点のフッ化物が生成されると考えられる。ハードマスク膜14と吸収膜13とは、フッ化物の沸点の差が大きいほど、フッ素系ガスを含む第2エッチングガスに対する選択比(ER1/ER2)が大きくなると考えられる。ER1は吸収膜13のエッチング速度であり、ER2はハードマスク膜14のエッチング速度である。
【0037】
【表1】
表1に示すように、実施例のハードマスク膜14を構成するY、Al、Hf及びPdは、従来例のハードマスク膜14Aを構成するCr及びRuに比べて、フッ化物の沸点が高い。それゆえ、実施例によれば、従来例に比べて、ハードマスク膜14と吸収膜13とで、フッ化物の沸点の差が大きく、フッ素系ガスを含む第2エッチングガスに対する選択比(ER1/ER2)が大きい。なお、表1に示すIrは、吸収膜13を構成する元素の一例である。
【0038】
上記の通り、実施例によれば、従来例に比べて、第2エッチングガスに対する選択比(ER1/ER2)が大きい。よって、実施例によれば、従来例に比べて、ハードマスク膜14の厚みを低減できる。その結果、ハードマスク膜14の加工時にその加工時間を短縮でき、ハードマスク膜14の開口の側面が傾斜するのを抑制できる。よって、図5(C)に示すように側面が垂直な開口を有するハードマスク膜14を用いて吸収膜13を加工でき、吸収膜13の開口の側面が傾斜することを抑制できる。
【0039】
ところで、上記の通り、実施例のハードマスク膜14を構成するY、Al、Hf及びPdは、フッ化物の沸点が高く、従来例と同じ条件での加工が難しい。そこで、実施例のハードマスク膜14の加工には、第4エッチングガスの代わりに、第1エッチングガスを使用する。
【0040】
第1エッチングガスは、Arガスを含む。図5(B)に示すようにレジスト膜16の開口において、ハードマスク膜14が第1エッチングガスに曝され、第1エッチングガスがハードマスク膜14をエッチングする。第1エッチングガスは酸素系ガスを実質的に含まないので、酸素ラジカルがレジスト膜16の開口の側面をエッチングすることがない。
【0041】
よって、時間の経過とともにレジスト膜16の線幅Wが細くなることを抑制でき、ハードマスク膜14の開口の側面が傾斜することを抑制できる。よって、図5(C)に示すように側面が垂直な開口を有するハードマスク膜14を用いて吸収膜13を加工でき、吸収膜13の開口の側面が傾斜することを抑制できる。
【0042】
吸収膜13の加工終了時における吸収膜13の形状の一例を誇張して図8に示す。図8に示すテーパー角αとサイドエッチング量Eで、吸収膜13の形状を評価できる。なお、サイドエッチング量は、アンダーカット量とも呼ばれる。
【0043】
テーパー角αは、吸収膜13と保護膜12の境界線と、吸収膜13の開口の側面とのなす角である。テーパー角αは、好ましくは70°~90°であり、より好ましくは80°~90°である。テーパー角αは、大きいほど好ましく、90°であってもよい。
【0044】
サイドエッチング量Eは、ハードマスク膜14と吸収膜13の境界線における、ハードマスク膜14の開口の側面に対する、ハードマスク膜14の開口の側面のシフト量である。サイドエッチング量Eは、好ましくは0nm~10nmであり、より好ましくは0nm~5nmである。サイドエッチング量Eは、小さいほど好ましく、0nmであってもよい。
【0045】
ハードマスク膜14は、元素X1の化合物を含んでもよい。元素X1の化合物は、例えばO、N、B、H及びCから選択される少なくとも1つの元素を含む。O、N、B、H及びCから選択される少なくとも1つの元素を添加することで、ハードマスク膜14の結晶化を抑制でき、ハードマスク膜14の開口側面のラフネスを小さくできる。
【0046】
また、元素X1の化合物は、Ru及びCrから選択される少なくとも1つの元素を含んでもよい。Ru及びCrから選択される少なくとも1つの元素を添加することで、サイドエッチング量Eを低減できる。
【0047】
ステップS201において、ハードマスク膜14の膜厚tは、好ましくは0.1nm~10nmである。ハードマスク膜14の膜厚tが0.1nm以上であれば、吸収膜13の加工終了時にハードマスク膜14が十分に残る。ハードマスク膜14の膜厚tが10nm以下であれば、ハードマスク膜14の加工時にその加工時間を短縮でき、ハードマスク膜14の開口の側面が傾斜するのを抑制できる。ハードマスク膜14の膜厚tは、より好ましくは0.1nm~6nmである。
【0048】
ハードマスク膜14の材料がYである場合、ハードマスク膜14の膜厚tは好ましくは0.1nm~5nmである。ハードマスク膜14の材料がY合金である場合、ハードマスク膜14の膜厚tは好ましくは0.1nm~10nmである。ハードマスク膜14の材料がAl単体である場合、ハードマスク膜14の膜厚tは好ましくは2.0nm~10nmである。
【0049】
次に、図1を再度参照して、基板10、多層反射膜11、保護膜12、及び吸収膜13について、この順番で説明する。なお、ハードマスク膜14は、上記の通りである。
【0050】
基板10は、例えばガラス基板である。基板10の材質は、TiOを含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiOを80質量%~95質量%、TiOを4質量%~17質量%含んでよい。TiO含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiO及びTiO以外の第三成分又は不純物を含有してもよい。なお、基板10の材質は、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス、シリコン、又は金属等であってもよい。
【0051】
基板10は、第1主面10aと、第1主面10aとは反対向きの第2主面10bと、を有する。第1主面10aには、多層反射膜11などが形成される。平面視(Z軸方向視)にて基板10のサイズは、例えば縦152mm、横152mmである。縦寸法及び横寸法は、152mm以上であってもよい。第1主面10aと第2主面10bは、各々の中央に、例えば正方形の品質保証領域を有する。品質保証領域のサイズは、例えば縦142mm、横142mmである。第1主面10aの品質保証領域は、0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有することが好ましい。また、第1主面10aの品質保証領域は、位相欠陥を生じさせる欠点を有しないことが好ましい。
【0052】
多層反射膜11は、EUV光を反射する。多層反射膜11は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層の材質は例えばシリコン(Si)であり、低屈折率層の材質は例えばモリブデン(Mo)であり、Mo/Si多層反射膜が用いられる。なお、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜、Si/Ru/Mo多層反射膜なども、多層反射膜11として使用可能である。
【0053】
多層反射膜11を構成する各層の膜厚及び層の繰り返し単位の数は、各層の材質、及びEUV光に対する反射率に応じて適宜選択できる。多層反射膜11は、Mo/Si多層反射膜である場合、入射角θ(図7参照)が6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を達成するには、膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30以上60以下になるように積層すればよい。多層反射膜11は、入射角θが6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を有することが好ましい。反射率は、より好ましくは65%以上である。
【0054】
多層反射膜11を構成する各層の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、Mo層とSi層の各々の成膜条件の一例は下記の通りである。
<Si層の成膜条件>
ターゲット:Siターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.3×10-2Pa~2.7×10-2Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Si層の膜厚:4.5±0.1nm。
<Mo層の成膜条件>
ターゲット:Moターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.3×10-2Pa~2.7×10-2Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Mo層の膜厚:2.3±0.1nm。
<Si層とMo層の繰り返し単位>
繰り返し単位数:30~60(好ましくは40~50)。
【0055】
保護膜12は、多層反射膜11と吸収膜13の間に形成され、多層反射膜11を保護する。保護膜12は、吸収膜13の加工時、つまりステップS203において、第2エッチングガスから多層反射膜11を保護する。保護膜12は、第2エッチングガスに曝されても除去されずに、多層反射膜11の上に残る。
【0056】
保護膜12は、例えばRu、Rh及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する。保護膜12は、Rhを含有する場合、Rhのみを有してもよいが、Rh化合物を有してもよい。Rh化合物は、Rhに加えて、Ru、Nb、Mo、Ta、Ir、Pd、Zr、Y及びTiからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z1を含有してもよい。
【0057】
Rhに対してRu、Nb、Mo、Zr、Y又はTiを添加することで、屈折率の増大を抑制しつつ、消衰係数を小さくでき、EUV光に対する反射率を向上できる。また、Rhに対してTa、Ir、Pd又はYを添加することで、第2エッチングガスに対する耐性を向上できる。
【0058】
Rh化合物は、Rhに加えて、N、O、C及びBからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z2を含有してもよい。元素Z2は、保護膜12の第2エッチングガスに対する耐性を低下させてしまう反面、保護膜12の結晶性を低下させることで保護膜12の平滑性を向上する。元素Z2を含有するRh化合物は、非結晶構造、又は微結晶構造を有する。Rh化合物が非結晶構造、又は微結晶構造を有する場合、Rh化合物のX線回折プロファイルは明瞭なピークを有しない。
【0059】
保護膜12は、単一の層からなる膜でもよいし、下層及び上層を有する多層膜であってもよい。保護膜12の下層は、多層反射膜11の最上面に接触して形成された層である。保護膜12の上層は、吸収膜13の最下面に接触している。このように、保護膜12を複数層構造とすることで、所定の機能に優れた材料を各層に使用できるので、保護膜12全体の多機能化を図ることができる。
【0060】
保護膜12の上層は、Rhを含むことが好ましく、Rh化合物を含むことがより好ましい。保護膜12の下層は、Ru、Nb、Mo、Zr、Y、C及びBからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましく、Ruを含むことがより好ましい。また、保護膜12が多層膜である場合、下記の保護膜12の厚みとは多層膜の合計膜厚を意味する。
【0061】
保護膜12の厚みは、好ましくは1.0nm~4.0nmであり、より好ましくは2.0nm~3.5nmであり、さらに好ましくは2.5nm~3.0nmである。保護膜12の厚みが1.0nm以上であれば、エッチング耐性が良好である。また、保護膜12の厚みが4.0nm以下であれば、EUV光に対する反射率が良好である。
【0062】
保護膜12の密度は、好ましくは10.0g/cm~14.0g/cmである。保護膜12の密度が10.0g/cm以上であれば、エッチング耐性が良い。また、保護膜12の密度が14.0g/cm以下であれば、EUV光に対する反射率の低下を抑制できる。
【0063】
保護膜12の上面、すなわち保護膜12の吸収膜13が形成される表面は、二乗平均平方根粗さRqが好ましくは0.20nm以下であり、より好ましくは0.17nm以下である。二乗平均平方根粗さRqが0.20nm以下であれば、保護膜12の上に吸収膜13などを平滑に形成できる。また、EUV光の散乱を抑制でき、EUV光に対する反射率を向上できる。二乗平均平方根粗さRqは、好ましくは0.05nm以上である。
【0064】
保護膜12の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。DCスパッタリング法を用いてRh膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<Rh膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×10Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
膜厚:1nm~10nm。
【0065】
吸収膜13は、EUV光を吸収する。吸収膜13は、開口パターン13aが形成される予定の膜である。開口パターン13aは、反射型マスクブランク1の製造工程では形成されずに、反射型マスク2の製造工程で形成される。吸収膜13は、EUV光を吸収するだけではなく、EUV光の位相をシフトしてもよい。つまり、吸収膜13は位相シフト膜であってもよい。位相シフト膜は、図7に示す第1EUV光L1に対して、第2EUV光L2の位相をシフトさせる。
【0066】
第1EUV光L1は、吸収膜13を透過することなく開口パターン13aを通過し、多層反射膜11で反射され、再び吸収膜13を透過することなく開口パターン13aを通過した光である。第2EUV光L2は、吸収膜13に吸収されながら吸収膜13を透過し、多層反射膜11で反射され、再び吸収膜13に吸収されながら吸収膜13を透過した光である。
【0067】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差(≧0)は、例えば170°~250°である。第1EUV光L1の位相が、第2EUV光L2の位相よりも、進んでいてもよいし、遅れていてもよい。吸収膜13は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の干渉を利用して、転写像のコントラストを向上する。転写像は、吸収膜13の開口パターン13aを対象基板に転写した像である。
【0068】
EUVLでは、いわゆる射影効果(シャドーイング効果)が生じる。シャドーイング効果とは、EUV光の入射角θが0°ではない(例えば6°である)ことに起因して、開口パターン13aの側壁付近に、側壁によってEUV光を遮る領域が生じ、転写像の位置ずれ又は寸法ずれが生じることをいう。シャドーイング効果を低減するには、開口パターン13aの側壁の高さを低くすることが有効であり、吸収膜13の薄化が有効である。
【0069】
吸収膜13の膜厚は、シャドーイング効果を低減すべく、例えば60nm以下であり、好ましくは50nm以下である。吸収膜13の膜厚は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保すべく、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは30nm以上である。
【0070】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保しつつ、シャドーイング効果を低減すべく吸収膜13の膜厚を小さくするには、吸収膜13の屈折率nを小さくすることが有効である。また、EUV光に対する反射率を小さくするには、吸収膜13の消衰係数kを大きくすることが有効である。このように、吸収膜13は、光学特性に優れていることが求められる。
【0071】
吸収膜13の屈折率nは、好ましくは0.940以下であり、より好ましくは0.930以下であり、さらに好ましくは0.929以下であり、特に好ましくは0.925以下であり、より特に好ましくは0.920以下であり、さらに特に好ましくは0.918以下であり、さらに一層好ましくは0.910以下であり、最も好ましくは0.900以下である。吸収膜13の屈折率nが小さいほど、吸収膜13を薄化できる。なお、吸収膜13の屈折率nは、好ましくは0.885以上である。本明細書において、屈折率は、EUV光(例えば波長13.5nmの光)に対する屈折率である。
【0072】
吸収膜13の消衰係数kは、好ましくは0.030以上であり、より好ましくは0.034以上であり、さらに好ましくは0.036以上、特に好ましくは0.038以上である。吸収膜13の消衰係数kが大きいほど、薄い膜厚で所望の反射率を得ることが容易である。なお、吸収膜13の消衰係数kは、好ましくは0.065以下である。本明細書において、消衰係数は、EUV光(例えば波長13.5nmの光)に対する消衰係数である。
【0073】
吸収膜13の光学特性(屈折率nと消衰係数k)は、Center for X-Ray Optics, Lawrence Berkeley National Laboratoryのデータベースの値、又は後述する反射率の「入射角の依存性」から算出した値を用いる。
【0074】
EUV光の入射角θと、EUV光に対する反射率Rと、吸収膜13の屈折率nと、吸収膜13の消衰係数kとは、下記の式(1)を満たす。
R=|(sinθ-((n+ik)-cosθ)1/2)/(sinθ+((n+ik)-cosθ)1/2)|・・・(1)
入射角θと反射率Rの組み合わせを複数測定し、複数の測定データと式(1)との誤差が最小になるように、最小二乗法で屈折率nと消衰係数kを算出する。
【0075】
吸収膜13は、貴金属元素を含むことが好ましい。貴金属元素は、例えばIr、Pt、Pd、Os又はRuである。これらの貴金属元素は、比較的小さな屈折率を有するので、位相差を確保しつつ、吸収膜13の膜厚を小さくできる。但し、これらの貴金属元素は、エッチング速度が遅い。そこで、本実施形態では、ハードマスク膜14が用いられる。
【0076】
なお、吸収膜13は、Ir、Pt、Pd、Co、Ni、Os及びRuから選択される少なくとも1つの元素を含めばよい。これらの元素は、比較的小さな屈折率を有するので、位相差を確保しつつ、吸収膜13の膜厚を小さくできる。但し、これらの元素は、エッチング速度が遅い。そこで、本実施形態では、ハードマスク膜14が用いられる。
【0077】
吸収膜13は、好ましくはIr系材料からなる層を有する。吸収膜13は、本実施形態では単層であるが、複数層であってもよい。いずれにしろ、吸収膜13を構成する少なくとも一層がIr系材料からなることが好ましい。Ir系材料は、Irを主成分として含む材料である。Ir系材料は、Irを25at%~100at%含有することが好ましく、Irを30at%~100at%含有することがより好ましく、Irを40at%~100at%含有することがさらに好ましく、Irを50at%~100at%含有することが特に好ましい。Ir系材料は、Ir単体であってもよいが、Ir化合物であることが好ましい。
【0078】
Ir化合物は、O、B、C及びNから選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。O、B、C及びNから選択される少なくとも1つの元素を添加することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側面のラフネスを小さくできる。Ir化合物は、Oを含むことが好ましく、OとNを含むことがより好ましい。
【0079】
ところで、EUV露光装置の内部で、反射型マスク2は、水素ガスに曝されることがある。水素ガスは、例えばカーボンのコンタミを低減する目的で使用される。従って、吸収膜13が、水素ガスに曝されることがある。
【0080】
Ir化合物に含まれるO、B、C又はNは、水素ガスと反応し、水素化物(例えばHO)を生成しうる。水素化物が生成されると、水素化物は揮発性が高く、O、B、C又はNがIr化合物から脱離し、吸収膜13の膜厚が小さくなってしまう。膜厚の変化は、位相差の変化につながる。
【0081】
そこで、Ir化合物は、Ta、Cr、Mo、W、Re及びSiから選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。これらの元素を添加することで、水素耐性を向上できる。これらの元素の中でも、Ta、Cr、W及びReは、光学特性の低下を抑制しつつ、水素耐性を向上できる。また、Mo及びSiは、水素耐性をより向上できる。
【0082】
吸収膜13の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。スパッタガス中のOガスの含有量で、吸収膜13の酸素含有量を制御可能である。また、スパッタガス中のNガスの含有量で、吸収膜13の窒素含有量を制御可能である。
【0083】
反応性スパッタリング法を用いてIrTaON膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<IrTaON膜の成膜条件>
ターゲット:IrターゲットおよびTaターゲット(またはIrTaターゲット)、
Irターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
Taターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
スパッタガス:ArガスとOガスとNガスの混合ガス、
スパッタガス中のOガスの体積比(O/(Ar+O+N)):0.01~0.25、
スパッタガス中のNガスの体積比(N/(Ar+O+N)):0.01~0.25、
成膜速度:0.020nm/sec~0.060nm/sec、
膜厚:20nm~60nm。
【実施例0084】
以下、実験データについて説明する。例1~例6では、図5(A)又は図6(A)に示す反射型マスクブランク1を準備した。準備した反射型マスクブランク1は、ハードマスク膜14の膜種と膜厚を除き、同一の構成であった。例1~例6では、ハードマスク膜14の加工(ステップS202)と吸収膜13の加工(ステップS203)をこの順番で実施した。その後、SEM(Scanning Electron Microscope)で断面を観察し、テーパー角αを測定した。例1~例3が実施例であり、例4~例6が比較例である。
【0085】
基板10としては、SiO-TiO系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を準備した。このガラス基板は、20℃における熱膨張係数が0.02×10-7/℃であり、ヤング率が67GPaであり、ポアソン比が0.17であり、比剛性は3.07×10/sであった。基板10の第1主面10aの品質保証領域は、研磨によって0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有していた。基板10の第2主面10bには、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜した。Cr膜のシート抵抗は100Ω/□であった。
【0086】
多層反射膜11としては、Mo/Si多層反射膜を形成した。Mo/Si多層反射膜は、イオンビームスパッタリング法を用いてSi層(膜厚4.5nm)とMo層(膜厚2.3nm)を成膜することを40回繰り返すことにより形成した。Mo/Si多層反射膜の合計膜厚は272nm((4.5nm+2.3nm)×40)であった。
【0087】
保護膜12としては、Rh膜(膜厚5nm)を形成した。Rh膜は、イオンビームスパッタリング法を用いて形成した。
【0088】
吸収膜13としては、Ir膜(膜厚35nm)を形成した。Ir膜は、DCスパッタリング法を用いて形成した。
【0089】
ハードマスク膜14の膜種と膜厚は、表2の通りであった。ハードマスク膜14の加工(ステップS202)では、例1~例3ではプラズマ化したArを用い、例4~例6ではClガスとOガスを含むプラズマ化した混合ガス(Cl:O=50:50(体積比))を用いた。
【0090】
例1~例6において、吸収膜13の加工(ステップS203)では、CFガスとOガスを含むプラズマ化した混合ガスを用いた。吸収膜13の詳細な加工条件は、下記の通りであった。
<吸収膜の加工条件>
エッチングガス:CFガスとOガスを含むプラズマ化した混合ガス、
CFガスの流量:48sccm、
ガスの流量:12sccm、
ソースパワー:720W、
バイアス:80W、
圧力:0.4Pa。
【0091】
例1~例6の実験条件と実験結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
表2に示すように、例1~例3では、ハードマスク膜14がY、Al、Hf及びPdから選択される少なくとも1つの元素X1を含むので、例4~例6に比べて、ハードマスク膜14のエッチング速度ER2が遅く、吸収膜13との選択比(ER1/ER2)が十分に大きかった。その結果、テーパー角αを大きくできた。
【0093】
以上、本開示に係る反射型マスクブランク、反射型マスクブランクの製造方法、及び反射型マスクの製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0094】
1 反射型マスクブランク
2 反射型マスク
10 基板
11 多層反射膜
12 保護膜
13 吸収膜
14 ハードマスク膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8