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特開2024-156332III族窒化物積層構造および高電子移動度トランジスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156332
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】III族窒化物積層構造および高電子移動度トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070705
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 弘幸
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GJ02
5F102GK04
5F102GK08
5F102GL04
5F102GM04
5F102GM08
5F102GQ01
5F102HC01
(57)【要約】
【課題】III族窒化物の積層構造において、電気的に高抵抗化する不純物を含有する層から、他の層への当該不純物の拡散を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】III族窒化物積層構造は、III族窒化物で構成された第1層と、第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、第2層上に配置され、III族窒化物で構成された第3層と、を有し、第1層は、少なくとも第1層の第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、第2層を挟んで、第1層側よりも第3層側において、当該不純物の濃度が減少しており、第3層において、少なくとも3nmの厚さにわたって連続的に、当該不純物の濃度が2×1015cm-3未満に達していることで、第3層は、当該不純物を実質的に含有しない。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成された第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記第3層において、少なくとも3nmの厚さにわたって連続的に、前記不純物の濃度が2×1015cm-3未満に達していることで、前記第3層は、前記不純物を実質的に含有しない、
III族窒化物積層構造。
【請求項2】
前記第2層は、In組成が少なくとも15%超であるIII族窒化物で構成されている、
請求項1に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項3】
前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値が、2×1016cm-3以上である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項4】
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が第1のピーク濃度に達し、
前記不純物の濃度が前記第1のピーク濃度から2×1015cm-3まで減少する際の減少比である、前記第1のピーク濃度に対する2×1015cm-3の比が、1/150以下である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項5】
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が第1のピーク濃度に達し、
前記不純物の濃度が前記第1のピーク濃度から2×1015cm-3まで減少する際の平均的な減少傾きが、2.5×1016cm-3/nm以上である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項6】
前記第3層において、前記第2層との界面より10nmの厚さ位置から、上側の厚さ10nmの範囲での平均的な前記不純物の濃度が、3×1015cm-3未満である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項7】
前記第1層の前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも、前記第3層の上面における前記不純物の濃度が低い、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項8】
前記第1層における前記不純物の濃度が、前記第2層との界面で最高値を取る、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項9】
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第2のピーク濃度に対する前記最低値の比が、1/30以上である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項10】
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第1層の下面から前記第2のピーク濃度が存在する厚さ位置までの部分の前記第1層の厚さよりも、前記第2のピーク濃度が存在する厚さ位置から前記第2層との界面までの部分の前記第1層の厚さの方が、薄い、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項11】
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第2のピーク濃度が存在する厚さ位置から前記第2層との界面までの部分の前記第1層の厚さが、250nm以下である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項12】
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が第1のピーク濃度に達し、
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第1のピーク濃度は、前記第2のピーク濃度よりも高い、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項13】
前記III族窒化物積層構造は、高電子移動度トランジスタの一部として含まれ、
前記第3層は、前記高電子移動度トランジスタのチャネル層である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項14】
前記第1層は、III族窒化物で構成された自立基板である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項15】
前記不純物は、遷移金属である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【請求項16】
高電子移動度トランジスタであって、
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成され、前記高電子移動度トランジスタのチャネル層である第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも、前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が3×1017cm-3以上である第1のピーク濃度に達し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記高電子移動度トランジスタのシート抵抗が、前記第2層が省略され前記第1層に前記不純物を含有しない態様の高電子移動度トランジスタのシート抵抗に対し、1.1倍未満である、
高電子移動度トランジスタ。
【請求項17】
高電子移動度トランジスタであって、
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成され、前記高電子移動度トランジスタのチャネル層である第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも、前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が3×1017cm-3以上である第1のピーク濃度に達し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記高電子移動度トランジスタの閾値電圧の大きさが、前記第2層が省略され前記第1層に前記不純物を含有しない態様の高電子移動度トランジスタの閾値電圧の大きさに対し、0.9倍超である、
高電子移動度トランジスタ。
【請求項18】
前記第1のピーク濃度が、3×1018cm-3以上である、
請求項16または17に記載の高電子移動度トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物積層構造および高電子移動度トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物(例えば窒化ガリウム)に、電気的に高抵抗化するための不純物(例えば鉄)を添加することが行われている(例えば特許文献1参照)。III族窒化物の積層構造において、電気的に高抵抗化する不純物を含有する層から、他の層への当該不純物の拡散を抑制することができる技術は、積層構造の電気的特性の制御性を高める観点で好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/181391号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一目的は、III族窒化物の積層構造において、電気的に高抵抗化する不純物を含有する層から、他の層への当該不純物の拡散を抑制することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成された第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記第3層において、少なくとも3nmの厚さにわたって連続的に、前記不純物の濃度が2×1015cm-3未満に達していることで、前記第3層は、前記不純物を実質的に含有しない、
III族窒化物積層構造
が提供される。
【発明の効果】
【0006】
III族窒化物の積層構造において、電気的に高抵抗化する不純物を含有する層から、他の層への当該不純物の拡散を抑制することができる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の実施形態による積層構造の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、実施形態の第1例の試料の全体的なSIMSプロファイルである。
図3図3は、実施形態の第1例の試料の部分的なSIMSプロファイルである。
図4図4は、実施形態の第2例の試料の全体的なSIMSプロファイルである。
図5図5は、実施形態の第2例の試料の部分的なSIMSプロファイルである。
図6図6は、比較形態の試料の全体的なSIMSプロファイルである。
図7図7は、比較形態の試料の部分的なSIMSプロファイルである。
図8図8(a)は、実施形態および比較形態の試料における、拡散抑制層のIn組成と、Fe濃度と、の関係をプロットしたグラフであり、添加ピーク濃度C1の設計値が1×1017cm-3の試料を示す。図8(b)は、実施形態および比較形態の試料における、拡散抑制層のIn組成と、Fe濃度と、の関係をプロットしたグラフであり、添加ピーク濃度C1の設計値が1×1018cm-3の試料を示す。
図9図9は、In設計組成が15.6%で設計厚さが2nmである拡散抑制層のIn量分布を示すSIMSプロファイルである。
図10図10(a)は、HEMTにおける、拡散抑制層のIn組成と、シート抵抗と、の関係をプロットしたグラフであり、図10(b)は、HEMTにおける、拡散抑制層のIn組成と、閾値電圧と、の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態による、III族窒化物積層構造100(以下、積層構造100と呼ぶ)について説明する。図1は、積層構造100の一例を示す概略断面図である。積層構造100は、3層のIII族窒化物層の積層で構成された拡散抑制部1を含むことを特徴とする。拡散抑制部1について、詳しくは後述する。
【0009】
積層構造100は、拡散抑制部1を含む半導体ウエハの態様であってもよいし、当該半導体ウエハ上にさらに他の部材(電極等)が設けられた半導体素子の態様のものであってもよい。ここでは、積層構造100の一態様として、高電子移動度トランジスタ(HEMT)を例示する。以下、積層構造100を、HEMT100とも呼ぶ。
【0010】
HEMT100は、ウエハ110と、電極120と、を有する。ウエハ110は、基板10と、核生成層20と、バッファ層30と、拡散抑制層40と、チャネル層50と、バリア層60と、キャップ層70と、を有する。電極120は、キャップ層70上に配置され、ソース電極121と、ゲート電極122と、ドレイン電極123と、を有する。
【0011】
基板10は、例えば、炭化シリコン(SiC)基板である。基板10上に、核生成層20からキャップ層70までのIII族窒化物層の積層が形成されている。核生成層20は、基板10上に配置され、例えば窒化アルミニウム(AlN)で構成される。バッファ層30は、核生成層20上に配置され、例えば窒化ガリウム(GaN)で構成される。拡散抑制層40は、バッファ層30上に配置され、例えば窒化インジウムガリウム(InGaN)で構成される。チャネル層50は、拡散抑制層40上に配置され、例えばGaNで構成される。バリア層60は、チャネル層50上に配置され、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)で構成される。キャップ層70は、バリア層60上に配置され、例えばGaNで構成される。
【0012】
本実施形態によるHEMT100は、バッファ層30と、拡散抑制層40と、チャネル層50と、の積層で構成された拡散抑制部1を備える、という特徴を有する。バッファ層30、拡散抑制層40、および、チャネル層50は、それぞれ、拡散抑制部1を構成する3層のIII族窒化物層である第1層、第2層、および、第3層の一例である
【0013】
バッファ層30は、少なくとも、拡散抑制層40との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域33(後述の図2図7に関する説明参照)において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物(以下、高抵抗化不純物と呼ぶ)を含有する。高抵抗化不純物としては、好ましくは遷移金属が用いられ、当該遷移金属としては、例えば鉄(Fe)、また例えばマンガン(Mn)が用いられる。バッファ層30は、詳細は後述するように、バッファ下層31と、バッファ上層32と、に区分される。
【0014】
拡散抑制層40は、バッファ層30上に(バッファ層30直上に)配置され、バッファ層30からチャネル層50に高抵抗化不純物が拡散することを抑制する層である。つまり、拡散抑制層40を挟んで、バッファ層30側よりもチャネル層50側において、高抵抗化不純物濃度が減少している。拡散抑制層40は、インジウム(In)を含有するIII族窒化物で構成される。本願発明者は、一つの考え方として、拡散抑制層40が、Inを含有するIII族窒化物で構成されて、バッファ層30を構成するIII族窒化物よりも格子定数が大きく、バッファ層30から圧縮歪を受けることで、バッファ層30に存在する高抵抗化不純物のチャネル層50への拡散を抑制する働きを持つ、と推測している。
【0015】
チャネル層50は、拡散抑制層40上に(拡散抑制層40直上に)配置されることで、つまり、バッファ層30上に拡散抑制層40を介して配置されることで、バッファ層30に起因する高抵抗化不純物を実質的に含有しない層である。高抵抗化不純物を実質的に含有しないことの規定については、後述する。
【0016】
本実施形態によるHEMT100では、チャネル層50において、バリア層60との界面近傍に二次元電子ガス(2DEG)が生成され、当該2DEGがHEMTのチャネルとして機能する。チャネル層50が高抵抗化不純物を実質的に含有しないことにより、高抵抗化不純物に起因して例えばシート抵抗が変動すること、また例えば閾値電圧が変動すること、を抑制できる。
【0017】
HEMT100の製造方法について例示的に説明する。基板10として例えばSiC基板を準備する。基板10の上方に、III族窒化物で構成される各層20~70を、例えば有機金属気相成長(MOVPE)によりエピタキシャル成長させる。バッファ層30に、高抵抗化不純物として例えばFeを添加する。
【0018】
III族原料ガスのうちアルミニウム(Al)原料ガスとしては、例えばトリメチルアルミニウム(Al(CH、TMA)ガスが用いられる。III族原料ガスのうちガリウム(Ga)原料ガスとしては、例えばトリメチルガリウム(Ga(CH、TMG)ガスが用いられる。III族原料ガスのうちインジウム(In)原料ガスとしては、例えばトリメチルインジウム(In(CH、TMI)ガスが用いられる。Feドーピング原料ガスとしては、例えばFe(C(CpFe)ガスが用いられる。V族原料ガスである窒素(N)原料ガスとしては、例えばアンモニア(NH)が用いられる。キャリアガスとしては、例えば、窒素ガス(Nガス)および水素ガス(Hガス)の少なくとも一方が用いられる。
【0019】
成長温度は、例えば、700℃~1400℃の範囲で選択可能であり、III族原料ガスに対するV族原料ガスの流量比であるV/III比は、例えば、10~5000の範囲で選択可能である。形成する各層の組成に応じて、各原料ガスの供給量の比率が調整される。形成する各層の厚さは、たとえば予備実験で得た成長速度から設計厚さに対応する成長時間を算出することで、成長時間により制御できる。
【0020】
基板10上に、例えば、AlN層を6nm以上40nm以下の設計厚さで成長させることで、核生成層20を形成する。核生成層20上に、例えば、GaN層を400nm以上3000nm以下の設計厚さで成長させることで、バッファ層30を形成する。
【0021】
バッファ層30の下面近傍から途中の厚さまで、Feドーピング原料ガスを供給しながらGaNを成長させることで、バッファ下層31を形成する。バッファ層30の当該途中の厚さから上面まで、Feドーピング原料ガスの供給を停止した後にGaNを成長させることで、バッファ上層32を形成する。バッファ下層31の設計厚さは、例えば200nm以上2000nm以下であり、バッファ上層32の設計厚さは、例えば200nm以上1000nm以下である。
【0022】
Feは、バッファ下層31に添加されるが、バッファ上層32の上面まで拡散する。これにより、バッファ層30は、バッファ下層31からバッファ上層32に亘ってFeを含有する。後述のように、ウエハ110を二次イオン質量分析(SIMS)により測定することで、拡散抑制部1(バッファ層30、拡散抑制層40、および、チャネル層50)におけるFe濃度の厚さ方向に関する分布が取得される。バッファ層30におけるFe濃度分布は、Feドーピング原料ガスの供給を停止した成長厚さの近傍で、Feのピーク濃度が存在する分布となる。Feの当該ピーク濃度を、添加ピーク濃度C1と呼ぶ。添加ピーク濃度C1が、例えば好ましくは1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下となるように、バッファ層30にFeを添加する。
【0023】
バッファ層30上に、例えば、InGaN層を1nm以上10nm以下の設計厚さで成長させることで、拡散抑制層40を形成する。拡散抑制層40上に、例えば、GaN層を5nm以上100nm以下の設計厚さで成長させることで、チャネル層50を形成する。
【0024】
拡散抑制層40を構成するInGaNのIn組成は、チャネル層50が実質的にFeを含有しないような高さに設定される。後述のように、チャネル層50が実質的にFeを含有しないためのIn組成は、バッファ層30のFe濃度に応じて変化し得るが、一つの目安としては、15%超であり、好ましくは16%超である。
【0025】
チャネル層50上に、例えば、AlGaN層を5nm以上80nm以下の設計厚さで成長させることで、バリア層60を形成する。バリア層60上に、必要に応じて、例えば、GaN層を10nm以下の設計厚さで成長させることで、キャップ層70を形成する。以上のようにして、ウエハ110が製造される。
【0026】
その後、ウエハ110上に、HEMT製造に係る公知の技術を適宜用いて、電極120(ソース電極121、ゲート電極122、および、ドレイン電極123)、さらには、必要に応じて絶縁膜等の他の部材を形成することで、HEMT100が製造される。
【0027】
以下、実施形態の試料および比較形態の試料に対するSIMS測定結果(SIMSプロファイル)を参照して、拡散抑制部1についてさらに説明する。実施形態および比較形態による試料に対して、SIMS測定を行うことで、Fe濃度、Ga量、Al量、および、In量の厚さ方向分布を取得した。Fe濃度分布、Ga量分布、Al量分布、および、In量分布は、磁場型SIMS装置により測定した。ただし、In組成を定量するためのIn量分布の測定は、四重極型SIMS装置により行った(図9参照)。
【0028】
図2および図3は、実施形態の第1例の試料のSIMSプロファイルであり、図4および図5は、実施形態の第2例の試料のSIMSプロファイルであり、図6および図7は、比較形態の試料のSIMSプロファイルである。図2図4、および、図6は、バッファ層30の全厚さを含む、HEMT100における拡散抑制部1の全体的なSIMSプロファイルである。図3図5、および、図7は、拡散抑制層40の近傍を示す、HEMT100における拡散抑制部1の部分的なSIMSプロファイルである。
【0029】
図2図4、および、図6には、Fe濃度分布とともに、Al量分布を示す。Fe濃度分布を実線で示し、Al量分布を点線で示す。図2図4、および、図6において、左軸にFe濃度を示し、右軸にAlに関する二次イオンの強度を示す。
【0030】
図3図5、および、図7には、Fe濃度分布とともに、In量分布を示す。Fe濃度分布を実線で示し、In量分布を点線で示す。図3図5、および、図7において、左軸にFe濃度を示す。図3図5、および、図7は、In量分布の形状を示すものであり、In量は任意単位で示している。ここで、In量は、対数スケールではなくリニアスケールで示している。なお、In組成のSIMS測定に基づく算出手法について、図9を参照して後述する。
【0031】
核生成層20はAlNで構成され、バッファ層30はGaNで構成されている。核生成層20におけるAlのピーク量に対し、バッファ層30側でAl量が半分に減少している厚さ位置を、核生成層20とバッファ層30との界面と定める。
【0032】
バッファ層30はGaNで構成され、拡散抑制層40はInGaNで構成され、チャネル層50はGaNで構成されている。拡散抑制層40におけるInのピーク量に対し、バッファ層30側でIn量が半分に減少している厚さ位置を、バッファ層30と拡散抑制層40との界面と定める。拡散抑制層40におけるInのピーク量に対し、チャネル層50側でIn量が半分に減少している厚さ位置を、拡散抑制層40とチャネル層50との界面と定める。
【0033】
チャネル層50はGaNで構成され、バリア層60はAlGaNで構成されている。バリア層60におけるAlのピーク量に対し、チャネル層50側でAl量が半分に減少している厚さ位置を、チャネル層50とバリア層60との界面と定める。
【0034】
バッファ層30におけるFe濃度分布は、Feドーピング原料ガスの供給を停止した成長厚さの近傍で、Feのピーク濃度(添加ピーク濃度C1)が存在する分布となる。バッファ層30において、Feの添加ピーク濃度C1が存在する厚さ位置を境界として、下側をバッファ下層31、上側をバッファ上層32と定める。バッファ層30と拡散抑制層40との界面から、バッファ層30側の厚さ50nmの領域を、バッファ層30の、拡散抑制層40との界面近傍領域33と定める。
【0035】
SIMS測定から求められた界面位置および境界位置に基づいて、各層の厚さを求めることができる。このような、SIMS測定から求められた各層の厚さは、設計厚さと一致しないことがある。例えば、SIMS測定から求められた拡散抑制層40の厚さは、拡散抑制層40の設計厚さよりも数倍厚い値となる傾向がある。作製されたウエハ110自体からは、設計時に想定された数値である設計厚さを知ることができないため、ここでは、SIMS測定から求められた界面位置および境界位置と、各層の厚さと、を用いる。
【0036】
図2および図3に示される実施形態の第1例と、図6および図7に示される比較形態とは、ともに、添加ピーク濃度C1の設計値を1×1017cm-3として、バッファ層30にFeを添加した試料である。ただし、実施形態の第1例と比較形態とは、拡散抑制層40を構成するInGaNのIn組成の点で、異なる。比較形態における拡散抑制層40のIn設計組成は、10.8%と低く、実施形態の第1例における拡散抑制層40のIn設計組成は、15.6%と高い。
【0037】
図4および図5に示される実施形態の第2例は、添加ピーク濃度C1の設計値を1×1018cm-3としてバッファ層30にFeを添加した試料であり、そして、拡散抑制層40のIn設計組成が、27.1%と高い。
【0038】
実施形態の第1例および第2例と、比較形態とにおいて、SIMS測定で取得されたFe濃度、Al量、および、In量の分布は、以下のような同様な特徴を有する。Al量は、核生成層20からバッファ層30に向けて減少し、バッファ層30内でほぼ一定である。Fe濃度は、核生成層20において高濃度で観測される傾向が見られ、バッファ層30に向けてAl量が減少するのに伴い減少し、バッファ層30の下面近傍で最低値を取る。
【0039】
なお、バッファ層30の核生成層20との界面近傍において、Fe濃度が高く観測されることは、バッファ層30へのFe添加に伴うものではなく、核生成層20がAlを含有することに起因するものと考えられる。このため、ここでは、当該界面近傍において核生成層20に起因してFe濃度が高い部分(Fe濃度分布の、最低値より核生成層20側の部分)を、バッファ層30におけるFe濃度分布から除外する。つまり、当該最低値よりも上方におけるFe濃度分布を、バッファ層30におけるFe濃度分布として扱う。
【0040】
Fe濃度は、バッファ層30の下面近傍、つまりバッファ下層31の下面近傍で最低値を取った後、バッファ下層31へのFe添加に伴い上方に向けて増加し、バッファ下層31の上面で、添加ピーク濃度C1に達する。
【0041】
Fe濃度は、バッファ上層32の下面から、上方に向けて減少し、界面近傍領域33において増加に転じ、界面近傍領域33において拡散抑制層40に向けて増加し、当該増加を経て、バッファ上層32と拡散抑制層40との界面の近傍においてピークに達する。Feが界面近傍領域33において増加に転じる濃度、つまり、界面近傍領域33におけるFe濃度の最低値を、界面近傍最低濃度C2と呼ぶ。バッファ上層32と拡散抑制層40との界面の近傍におけるFeのピーク濃度を、界面ピーク濃度C3と呼ぶ。
【0042】
Fe濃度は、界面ピーク濃度C3に達した後、チャネル層50に向けて減少する。In量は、拡散抑制層40のほぼ中央の厚さ位置でピークを取り、In量分布は、バッファ層30側とチャネル層50側とで概ね対称な釣鐘形状である。
【0043】
各試料においてSIMSで測定されたFe濃度は、以下のようなものである。実施形態の第1例において、添加ピーク濃度C1は1.54×1017cm-3であり、界面近傍最低濃度C2は5.47×1016cm-3であり、界面ピーク濃度C3は7.96×1017cm-3である。実施形態の第2例において、添加ピーク濃度C1は1.1×1018cm-3であり、界面近傍最低濃度C2は4.85×1017cm-3であり、界面ピーク濃度C3は1.04×1019cm-3である。比較形態において、添加ピーク濃度C1は1.09×1017cm-3であり、界面近傍最低濃度C2は9.9×1015cm-3であり、界面ピーク濃度C3は7.12×1017cm-3である。
【0044】
ここで、実施形態の第1例と比較形態とでは、チャネル層50におけるFe濃度分布の特徴が大きく異なる。実施形態の第1例(特に図3参照)では、Fe濃度が、チャネル層50の下面近傍で検出下限(4.44×1014cm-3)に到達した後、チャネル層50の上面近傍まで、検出下限に達する低い水準を維持している。つまり、実施形態の第1例では、バッファ層30に起因するFeのチャネル層50への拡散が防がれている。
【0045】
これに対し、比較形態(特に図7参照)では、Fe濃度が、チャネル層50においてやや減少しているものの、チャネル層50の厚さ範囲内で安定的に低い水準を維持するほどではない。つまり、比較形態では、バッファ層30に起因するFeのチャネル層50への拡散が防がれていない。
【0046】
このように、実施形態の第1例と比較形態とは、ともに、添加ピーク濃度C1の設計値を1×1017cm-3としてバッファ層30にFeを添加した試料であるが、実施形態の第1例では、バッファ層30からのチャネル層50へのFeの拡散が防がれており、比較形態では、バッファ層30からのチャネル層50へのFeの拡散が防がれていない。この相違は、拡散抑制層40のIn組成が、比較形態(In設計組成10.8%)よりも実施形態の第1例(In設計組成15.6%)において高いことによると考えられる。
【0047】
実施形態の第2例(特に図5参照)では、Fe濃度が、チャネル層50の下面近傍で検出下限(1.22×1015cm-3)に到達した後、チャネル層50の上面まで、検出下限に達する低い水準を概ね維持している。チャネル層50の途中の厚さにおいて、Fe濃度がやや高くなる箇所が見られるが、これらはノイズ的なものと考えられる。実施形態の第2例も、実施形態の第1例と同様に、バッファ層30に起因するFeのチャネル層50への拡散が防がれている。これは、拡散抑制層40のIn組成が、実施形態の第2例(In設計組成27.1%)において高いことによると考えられる。
【0048】
実施形態の第1例および第2例のチャネル層50では、ある程度の厚さ範囲にわたって連続的にFe濃度が検出下限に達しているという特徴が見られ、このことから、チャネル層50は、Feを実質的に含有しないと結論される。
【0049】
Fe濃度の検出下限は、SIMS測定ごとにやや異なり得る。ここでは、Fe濃度の検出下限に近い程度の、低いFe濃度水準の目安を、2×1015cm-3(より低い目安としては1.5×1015cm-3)とする。また、上記の「ある程度の厚さ範囲」の目安を、3nm(より厚い目安としては5nm)とする。
【0050】
これらの目安を用い、チャネル層50において、少なくとも3nm(好ましくは5nm)の厚さにわたって連続的に、Fe濃度が2×1015cm-3未満(好ましくは1.5×1015cm-3未満)に達していることで、チャネル層50がFeを実質的に含有しない、と規定する。
【0051】
図2図7にSIMSプロファイルを示した試料の他にも、実施形態および比較形態として各種試料を作製した。図8(a)および図8(b)は、これらの試料における、拡散抑制層40のIn組成と、Fe濃度と、の関係をプロットしたグラフである。図8(a)は、添加ピーク濃度C1の設計値が1×1017cm-3の試料を示し、図8(b)は、添加ピーク濃度C1の設計値が1×1018cm-3の試料を示す。
【0052】
図8(a)および図8(b)において、横軸にIn設計組成を示し、縦軸にFe濃度を示す。Feの界面ピーク濃度C3([Fe] at peak)を、四角のプロットで示し、チャネル層50での平均Fe濃度([Fe] at Channel)を、丸のプロットで示す。
【0053】
チャネル層50での平均Fe濃度は、拡散抑制層40との界面より10nmの厚さ位置から、上側の厚さ10nmの範囲での平均的なFe濃度として規定されている。チャネル層50での平均Fe濃度が3×1015cm-3未満である場合を、Feが検出されない(ND)と判定している。Feを検出しない場合を、白抜きの丸のプロットで示している。
【0054】
図8(a)に示す測定、つまり、添加ピーク濃度C1の設計値を1×1017cm-3とした測定に関し、In設計組成が、0%(つまり拡散抑制層40を設けなかったもの)、5.9%、10.8%、および、15.6%の試料を作製した。In設計組成10.8%の試料が、図6および図7に示す比較形態に対応し、In設計組成15.6%の試料が、図2および図3に示す実施形態の第1例に対応する。
【0055】
In設計組成0%の試料では、拡散抑制層40を設けた試料で見られるような、バッファ層30と拡散抑制層40との界面近傍でFeの界面ピーク濃度C3が形成されチャネル層50側でFe濃度が減少するという特徴が見られなかった。このため、In設計組成0%の試料に関しては、界面ピーク濃度C3をプロットしておらず、チャネル層50での平均Fe濃度が、添加ピーク濃度C1の設計値と同程度の1×1017cm-3である。
【0056】
In設計組成が5.9%、10.8%、および、15.6%の試料における、Feの界面ピーク濃度C3は、それぞれ、1×1018cm-3、7×1017cm-3、および、8×1017cm-3であり、チャネル層50での平均Fe濃度は、それぞれ、7×1015cm-3、7×1015cm-3、および、4×1014cm-3である。
【0057】
In設計組成が5.9%、10.8%、および、15.6%の試料において、Feの界面ピーク濃度C3は同程度であるが、In設計組成を15.6%と高くすることで、チャネル層50でFeが検出されない、との結果が得られている。なお、In設計組成15.6%の試料(実施形態の第1例)のチャネル層50において、平均Fe濃度に基づきFeが検出されないという判定は、上記のようなSIMSプロファイルの分布形状に基づきFeが実質的に含有されないという判定と、整合している。
【0058】
図8(b)に示す測定、つまり、添加ピーク濃度C1の設計値を1×1018cm-3とした測定に関し、In設計組成が、0%(つまり拡散抑制層40を設けなかったもの)、15.6%、19.9%、および、27.1%の試料を作製した。In設計組成27.1%の試料が、図4および図5に示す実施形態の第2例に対応する。
【0059】
In設計組成0%の試料に関しては、界面ピーク濃度C3をプロットしておらず、チャネル層50での平均Fe濃度が、添加ピーク濃度C1の設計値より少し低い程度の4×1017cm-3である。
【0060】
In設計組成が15.6%、19.9%、および、27.1%の試料における、Feの界面ピーク濃度C3は、それぞれ、1×1019cm-3、1×1019cm-3、および、1×1019cm-3であり、チャネル層50での平均Fe濃度は、それぞれ、7×1015cm-3、1×1015cm-3、および、2×1015cm-3である。
【0061】
In設計組成が15.6%、19.9%、および、27.1%の試料において、Feの界面ピーク濃度C3は同程度であるが、In設計組成を19.9%、および、27.1%と高くすることで、チャネル層50でFeが検出されない、との結果が得られている。なお、In設計組成27.1%の試料(実施形態の第2例)のチャネル層50において、平均Fe濃度に基づきFeが検出されないという判定は、上記のようなSIMSプロファイルの分布形状に基づきFeが実質的に含有されないという判定と、整合している。
【0062】
In設計組成が19.9%の試料を、実施形態の第3例と呼ぶ。実施形態の第3例の試料においても、実施形態の第1例および第2例の試料と同様に、SIMSプロファイルの分布形状に基づきFeが実質的に含有されない、という判定も得られており、平均Fe濃度に基づく判定とSIMSプロファイルの分布形状に基づく判定とは整合している。
【0063】
以上説明したように、拡散抑制層40におけるIn組成を高くすることで、バッファ層30に起因するFeのチャネル層50への拡散を防ぐことができる。Feのチャネル層50への拡散を防ぐために要するIn組成は、バッファ層30に添加されたFe濃度、より具体的には、バッファ層30と拡散抑制層40との界面近傍のFe濃度(界面ピーク濃度C3、あるいは界面近傍最低濃度C2)に依存して変動し、バッファ層30のFe濃度が高いほど、拡散抑制層40のIn組成を高くすることが好ましい。
【0064】
換言すると、拡散抑制層40のIn組成は、バッファ層30のFe濃度に応じて、Feのチャネル層50への拡散が防がれるように適宜高くすることが好ましい。拡散抑制層40のIn組成の具体な目安は、15%超であり、好ましくは16%超である。
【0065】
Feのチャネル層50への拡散を防ぐ観点において、拡散抑制層40のIn組成の上限は特に限定されないが、一つの目安としては、(少なくとも)31.4%という数値を挙げることができる。これは、後述のHEMT特性に関する測定において、In設計組成31.4%の試料で良好な結果が得られているからである。
【0066】
In設計組成は、設計時に想定された数値であって、作製されたウエハ110自体から知ることはできない。ただし、適切に作製された拡散抑制層40においては、設計組成に近いIn組成が実現されていると考えられる。ここで、SIMS測定に基づいてIn組成を算出する方法について説明する。
【0067】
図9は、In設計組成が15.6%で設計厚さが2nmである拡散抑制層40のIn量分布を示すSIMSプロファイルである。左軸にIn組成を示す。上述のように、In組成定量のためのIn量分布は、四重極型SIMS装置により測定される。
【0068】
拡散抑制層40に含有されるInの総量は、In量分布の総面積に対応する。本方法ではまず、In量分布を、ガウス分布でフィッティングする。実測のIn量分布を、実線で示し、フィッティングされたガウス分布を、丸のプロットで示す。
【0069】
次に、フィッティングされたガウス分布のパラメータを用いて、当該ガウス分布の面積を算出する。本例において、フィッティングされたガウス分布は、高さが0.0773であり、中心値が54.6であり、ガウス幅が1.56であって、面積が0.303である。
【0070】
フィッティングされたガウス分布の面積と等しい面積を有し、幅が設計厚さ2nmである矩形を、点線で示す。当該矩形の高さは、設計厚さ2nmの範囲において均一な組成で拡散抑制層40が形成された態様における、In組成を示すと考えられる。本例では、当該矩形の高さが、15.1%(面積0.303/厚さ2nm)であり、In設計組成である15.6%と概ね等しい。
【0071】
設計厚さが未知である場合は、透過型電子顕微鏡観察により測定された拡散抑制層40の厚さを、設計厚さとして扱い、この厚さで、フィッティングされたガウス分布の面積を割ることにより、SIMS測定に基づくIn組成を算出することができる。
【0072】
以下、拡散抑制部1のより詳細な特徴について例示的に説明する。上述のように、本実施形態の拡散抑制層40を用いることで、バッファ層30に起因する高抵抗化不純物の、チャネル層50への拡散を防ぐことができる。そしてこれにより、チャネル層50の導電性低下を抑制しつつ、バッファ層30の界面近傍領域33(つまりバッファ層30上面の近傍領域)において、高抵抗化不純物濃度を高めることで電気的絶縁性を高めることができる。HEMT100の例では、バッファ層30を流れるHEMTのリーク電流を抑制することができる。
【0073】
界面近傍最低濃度C2(界面近傍領域33における高抵抗化不純物濃度の最低値)は、添加ピーク濃度C1よりやや低下した濃度である。添加ピーク濃度C1は、例えば好ましくは1×1017cm-3以上であり、界面近傍最低濃度C2は、例えば好ましくは2×1016cm-3以上である。
【0074】
界面近傍最低濃度C2を高い濃度とするために、界面近傍最低濃度C2は、添加ピーク濃度C1から過度に低下させないことが好ましい。添加ピーク濃度C1に対する界面近傍最低濃度C2の比(C2/C1)は、例えば、1/30以上(約0.033以上)とすることが好ましく、1/10以上(0.1以上)とすることがより好ましい。なお、添加ピーク濃度C1は、界面近傍領域33よりもバッファ層30の下面側の領域において存在する、界面近傍最低濃度C2よりも高いピーク濃度、ということができる。
【0075】
実施形態の第1例において、添加ピーク濃度C1は1.54×1017cm-3であり、界面近傍最低濃度C2は5.47×1016cm-3である。実施形態の第2例において、添加ピーク濃度C1は1.1×1018cm-3であり、界面近傍最低濃度C2は4.85×1017cm-3である。添加ピーク濃度C1に対する界面近傍最低濃度C2の比(C2/C1)は、実施形態の第1例において0.355であり、実施形態の第2例において0.441である。
【0076】
バッファ上層32を厚くするほど、界面近傍最低濃度C2は、添加ピーク濃度C1に対して低下していく。界面近傍最低濃度C2を、添加ピーク濃度C1から過度に低下させないためには、バッファ上層32の厚さを薄くすることが好ましい。バッファ上層32の厚さが薄いことの目安としては、例えば、バッファ下層31の厚さよりも、バッファ上層32の厚さの方が薄いことが挙げられる。バッファ上層32の厚さが薄いことの目安としては、また例えば、バッファ上層32の厚さが、250nm以下であることが挙げられる。ここで、バッファ下層31の厚さは、バッファ層30の下面から添加ピーク濃度C1が存在する厚さ位置までの部分のバッファ層30の厚さ、ということができる。また、バッファ上層32の厚さは、添加ピーク濃度C1が存在する厚さ位置から拡散抑制層40との界面までの部分のバッファ層30の厚さ、ということができる。
【0077】
チャネル層50への高抵抗化不純物の拡散が抑制されていることは、界面近傍最低濃度C2と、チャネル層50における高抵抗化不純物濃度との対比によって評価することもできる。例えば、界面近傍最低濃度C2よりも、チャネル層50の上面における高抵抗化不純物濃度が低い、という特徴を挙げることができる。
【0078】
界面ピーク濃度C3は、下記のように実施形態の第1例および第2例より、界面近傍最低濃度C2に対して概ね15倍から20倍程度高くなる傾向が見られる。界面近傍最低濃度C2が高いことに伴い、界面ピーク濃度C3も高くなる。界面近傍最低濃度C2を、例えば好ましくは2×1016cm-3以上とすることで、界面ピーク濃度C3は、例えば好ましくは3×1017cm-3以上となる。
【0079】
実施形態の第1例において、界面ピーク濃度C3は、7.96×1017cm-3であり、界面近傍最低濃度C2(5.47×1016cm-3)に対する比は約15倍である。実施形態の第2例において、界面ピーク濃度C3は、1.04×1019cm-3であり、界面近傍最低濃度C2(4.85×1017cm-3)に対する比は約20倍である。
【0080】
本実施形態による拡散抑制層40は、高抵抗化不純物に対する高いバリア性を有している。これにより、界面ピーク濃度C3が3×1017cm-3以上となっても、チャネル層50における高抵抗化不純物濃度を、低いFe濃度水準の目安である2×1015cm-3以下とすることができる。
【0081】
つまり、高抵抗化不純物濃度が界面ピーク濃度C3(3×1017cm-3以上)から2×1015cm-3まで減少する際の減少比である、界面ピーク濃度C3に対する2×1015cm-3の比(2×1015/C3)を、1/150以下(約0.0067以下)とすることができる。
【0082】
実施形態の第1例において、界面ピーク濃度C3(7.96×1017cm-3)に対する2×1015cm-3の比は、0.00251である。実施形態の第2例において、界面ピーク濃度C3(1.04×1019cm-3)に対する2×1015cm-3の比は、0.000192である。
【0083】
さらに、本実施形態による拡散抑制層40は、高抵抗化不純物濃度を厚さ方向上側に急激に減少させる働きを有している。下記のように実施形態の第1例および第2例より、高抵抗化不純物濃度の急激な減少は、典型的には厚さ12nm程度の間で生じている。高抵抗化不純物濃度の、界面ピーク濃度C3(3×1017cm-3以上)から2×1015cm-3までの減少が、厚さ12nmの間に生じるとして、この際の平均的な減少傾きは、2.5×1016cm-3/nm以上となる。
【0084】
実施形態の第1例では、界面ピーク濃度C3(7.96×1017cm-3)から2×1015cm-3まで、厚さ11.2nmの間に減少しており、この際の平均的な減少傾きは、7.10×1016cm-3/nmである。実施形態の第2例では、界面ピーク濃度C3(1.04×1019cm-3)から2×1015cm-3まで、厚さ13.2nmの間に減少しており、この際の平均的な減少傾きは、7.88×1017cm-3/nmである。
【0085】
添加ピーク濃度C1に対する界面近傍最低濃度C2の比が例えば1/10以上と大きい場合、つまり、界面近傍最低濃度C2が添加ピーク濃度C1からあまり低下していない場合、界面ピーク濃度C3は、添加ピーク濃度C1よりも高いピーク濃度となる。また、バッファ層30の拡散抑制層40との界面が、界面ピーク濃度C3の近傍に位置することに伴い、バッファ層30における高抵抗化不純物濃度は、拡散抑制層40との界面で最高値を取る。実施形態の第1例および第2例のSIMSプロファイルは、このような態様を示す。
【0086】
実施形態の第1例および第2例のSIMSプロファイルでは、バッファ層30と拡散抑制層40との界面からやや拡散抑制層40側に、つまり拡散抑制層40内に、界面ピーク濃度C3が位置する。これに伴い、バッファ層30の拡散抑制層40との界面は、高抵抗化不純物濃度が界面近傍領域33において拡散抑制層40に向けて増加する傾斜の途中に位置しており、当該界面で、バッファ層30における高抵抗化不純物濃度が最高値を取る。
【0087】
なお、SIMS測定における誤差により、バッファ層30と拡散抑制層40との界面からややバッファ層30側に、つまりバッファ層30内に、界面ピーク濃度C3が位置する場合も考えられる。このような場合では、界面ピーク濃度C3の厚さ位置からやや上方側の、高抵抗化不純物濃度が界面ピーク濃度C3よりもやや低くなった厚さ位置に、バッファ層30と拡散抑制層40との界面が位置することとなる。ただし、このような場合においても、バッファ層30の拡散抑制層40との界面が界面ピーク濃度C3の近傍に位置することは同様であるため、バッファ層30における高抵抗化不純物濃度が拡散抑制層40との界面で最高値を取る、ということができる。
【0088】
以下、拡散抑制部1を備えるHEMT100の特徴について例示的に説明する。具体的には、HEMT100のシート抵抗および閾値電圧に関する特性について説明する。図10(a)は、HEMT100における、拡散抑制層40のIn組成と、シート抵抗と、の関係をプロットしたグラフであり、横軸にIn設計組成を示し、縦軸にシート抵抗を示す。図10(b)は、HEMT100における、拡散抑制層40のIn組成と、閾値電圧と、の関係をプロットしたグラフであり、横軸にIn設計組成を示し、縦軸に閾値電圧を示す。
【0089】
図10(a)および図10(b)において、Feを添加しなかった態様(w/o Fe doping)を、丸のプロットで示し、Feの添加ピーク濃度C1の設計値が1×1017cm-3の態様([Fe]=1e17cm-3)を、四角のプロットで示し、Feの添加ピーク濃度C1の設計値が1×1018cm-3の態様([Fe]=1e18cm-3)を、菱形のプロットで示す。
【0090】
Feを添加しなかった態様、Feの添加ピーク濃度C1の設計値が1×1017cm-3(以下「Fe濃度が1×1017cm-3」と称する)の態様、および、Feの添加ピーク濃度C1の設計値が1×1018cm-3(以下「Fe濃度が1×1018cm-3」と称する)の態様のそれぞれにおいて、拡散抑制層40のIn設計組成が様々に異なる試料を作製した。図10(a)に示されるIn設計組成の値は、0%(つまり拡散抑制層40を設けなかったもの)、5.9%、10.8%、15.6%、18.6%、19.9%、27.1%、および、31.4%である。
【0091】
ここで、Fe濃度が1×1017cm-3の態様は、界面ピーク濃度C3としては、例えば3×1017cm-3以上に対応している(あるいは、界面近傍最低濃度C2としては、例えば2×1016cm-3以上に対応している)。Fe濃度が1×1018cm-3の態様は、界面ピーク濃度C3としては、例えば3×1018cm-3以上に対応している(あるいは、界面近傍最低濃度C2としては、例えば2×1017cm-3以上に対応している)。
【0092】
Feを添加せず、かつ、In設計組成が0%の試料(つまり、拡散抑制層40が省略されバッファ層30に高抵抗化不純物を含有しない態様のHEMT)における、シート抵抗(以下、基準シート抵抗と呼ぶ)と、閾値電圧(以下、基準閾値電圧と呼ぶ)とが、評価の基準となる。
【0093】
図10(a)を参照して、シート抵抗に関する特性について説明する。Feを添加しなかった態様では、拡散抑制層40のIn組成を高くしても、シート抵抗は基準シート抵抗から特には変化していない。つまり、Inを含有するIII族窒化物で構成された拡散抑制層40を設けることは、シート抵抗を特には変化させない。
【0094】
Feを添加した態様(Fe濃度が1×1017cm-3の態様、および、Fe濃度が1×1018cm-3の態様)では、In設計組成が0%の試料において、シート抵抗が、基準シート抵抗と比べて顕著に高くなっている。そして、Fe濃度が1×1018cm-3の態様では、Fe濃度が1×1017cm-3の態様と比べて、シート抵抗が大幅に高くなっている。これは、バッファ層30に起因するFeが、拡散抑制層40を介さずにそのままチャネル層50に拡散したことで、チャネル層50の導電性が低下したことによると考えられる。
【0095】
Feを添加した態様(Fe濃度が1×1017cm-3の態様、および、Fe濃度が1×1018cm-3の態様)では、それぞれ、拡散抑制層40のIn組成が高くなるほど、シート抵抗が、基準シート抵抗に近づくように低くなっている。これは、拡散抑制層40のIn組成が高くなることで、バッファ層30へのFeの拡散抑制効果が高まり、チャネル層50における導電性低下が抑制されたことによると考えられる。
【0096】
基準シート抵抗は、430ohm/sqである。Fe濃度が1×1017cm-3の態様、および、Fe濃度が1×1018cm-3の態様のIn設計組成が0%の試料では、シート抵抗が、それぞれ、478ohm/sq、597ohm/sqである。シート抵抗の変動を抑制する観点で、ここでは例えば、基準シート抵抗の1.1倍未満(本例では473ohm/sq未満)を、良好なシート抵抗と判定する。
【0097】
図10(a)より、Fe濃度が1×1017cm-3の態様(より具体的には、界面ピーク濃度C3が3×1017cm-3以上、あるいは、界面近傍最低濃度C2が2×1016cm-3以上の態様)であっても、さらには、Fe濃度が1×1018cm-3の態様(より具体的には、界面ピーク濃度C3が3×1018cm-3以上、あるいは、界面近傍最低濃度C2が2×1017cm-3以上の態様)であっても、拡散抑制層40のIn組成を高くすることで、シート抵抗を、基準シート抵抗に対し1.1倍未満にできることがわかる。
【0098】
図10(b)を参照して、閾値電圧に関する特性について説明する。Feを添加しなかった態様では、拡散抑制層40のIn組成を高くしても、閾値電圧は基準閾値電圧から特には変化していない。つまり、Inを含有するIII族窒化物で構成された拡散抑制層40を設けることは、閾値電圧を特には変化させない。
【0099】
Feを添加した態様(Fe濃度が1×1017cm-3の態様、および、Fe濃度が1×1018cm-3の態様)では、In設計組成が0%の試料において、閾値電圧の大きさが、基準閾値電圧の大きさと比べて顕著に小さくなっている。そして、Fe濃度が1×1018cm-3の態様では、Fe濃度が1×1017cm-3の態様と比べて、閾値電圧の大きさが、より小さくなっている。
【0100】
閾値電圧は、HEMT100をオフ状態とするための負電圧であり、閾値電圧の大きさ(絶対値)が小さいとは、閾値電圧が0Vに近いことを意味する。つまり、閾値電圧の大きさが基準閾値電圧の大きさと比べて小さくなっていることは、HEMT100をオフ状態にしやすくなっていることを意味する。これは、バッファ層30に起因するFeが、拡散抑制層40を介さずにそのままチャネル層50に拡散したことで、チャネル層50の導電性が低下したことによると考えられる。
【0101】
Feを添加した態様(Fe濃度が1×1017cm-3の態様、および、Fe濃度が1×1018cm-3の態様)では、それぞれ、拡散抑制層40のIn組成が高くなるほど、閾値電圧の大きさが、基準閾値電圧の大きさに近づくように大きく、つまり、負電圧方向に大きくなっている。これは、拡散抑制層40のIn組成が高くなることで、バッファ層30へのFeの拡散抑制効果が高まり、チャネル層50における導電性低下が抑制されたことによると考えられる。
【0102】
基準閾値電圧の大きさは、3Vである。Fe濃度が1×1017cm-3の態様、および、Fe濃度が1×1018cm-3の態様のIn設計組成が0%の試料では、閾値電圧の大きさは、それぞれ、2.6Vおよび2.3Vである。閾値電圧の大きさの変動を抑制する観点で、ここでは例えば、基準閾値電圧の大きさの0.9倍超(本例では2.7V超)を、良好な、閾値電圧の大きさと判定する。
【0103】
図10(b)より、Fe濃度が1×1017cm-3の態様(より具体的には、界面ピーク濃度C3が3×1017cm-3以上、あるいは、界面近傍最低濃度C2が2×1016cm-3以上の態様)であっても、さらには、Fe濃度が1×1018cm-3の態様(より具体的には、界面ピーク濃度C3が3×1018cm-3以上、あるいは、界面近傍最低濃度C2が2×1017cm-3以上の態様)であっても、拡散抑制層40のIn組成を高くすることで、閾値電圧の大きさを、基準閾値電圧の大きさに対し0.9倍超にできることがわかる。
【0104】
以上、HEMTを例として、実施形態による拡散抑制部1を含む積層構造100について説明したが、積層構造100は、HEMTへの応用に限定されない。また、拡散抑制部1の構造は、上記の例に限定されない。例えば、拡散抑制部1の第1層は、成長基板上に成長されたエピタキシャル層(HEMTの例におけるバッファ層)に限定されず、III族窒化物で構成された自立基板であってもよい(図1がこのような態様を表す場合は、拡散抑制部1を構成する第1層30、第2層40、および、第3層50の積層部分に着目し、他の部分は省略されてよく、第1層30は自立基板を表す)。
【0105】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0106】
(付記1)
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成された第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記第3層において、少なくとも3nm(好ましくは5nm)の厚さにわたって連続的に、前記不純物の濃度が2×1015cm-3未満(好ましくは1.5×1015cm-3未満)に達していることで、前記第3層は、前記不純物を実質的に含有しない、
III族窒化物積層構造。
【0107】
(付記2)
前記第2層は、In組成が少なくとも15%超であるIII族窒化物で構成されている、
付記1に記載のIII族窒化物積層構造。
【0108】
(付記3)
前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値が、2×1016cm-3以上である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0109】
(付記4)
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が第1のピーク濃度に達し、
前記不純物の濃度が前記第1のピーク濃度から2×1015cm-3まで減少する際の減少比である、前記第1のピーク濃度に対する2×1015cm-3の比が、1/150以下である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0110】
(付記5)
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が第1のピーク濃度に達し、
前記不純物の濃度が前記第1のピーク濃度から2×1015cm-3まで減少する際の平均的な減少傾きが、2.5×1016cm-3/nm以上である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0111】
(付記6)
前記第3層において、前記第2層との界面より10nmの厚さ位置から、上側の厚さ10nmの範囲での平均的な前記不純物の濃度が、3×1015cm-3未満である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0112】
(付記7)
前記第1層の前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも、前記第3層の上面における前記不純物の濃度が低い、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0113】
(付記8)
前記第1層における前記不純物の濃度が、前記第2層との界面で最高値を取る、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0114】
(付記9)
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第2のピーク濃度に対する前記最低値の比が、1/30以上である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0115】
(付記10)
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第1層の下面から前記第2のピーク濃度が存在する厚さ位置までの部分の前記第1層の厚さよりも、前記第2のピーク濃度が存在する厚さ位置から前記第2層との界面までの部分の前記第1層の厚さの方が、薄い、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0116】
(付記11)
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第2のピーク濃度が存在する厚さ位置から前記第2層との界面までの部分の前記第1層の厚さが、250nm以下である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0117】
(付記12)
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が第1のピーク濃度に達し、
前記界面近傍領域よりも前記第1層の下面側の領域において、前記界面近傍領域における前記不純物の濃度の最低値よりも高い第2のピーク濃度が存在し、
前記第1のピーク濃度は、前記第2のピーク濃度よりも高い、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0118】
(付記13)
前記III族窒化物積層構造は、高電子移動度トランジスタの一部として含まれ、
前記第3層は、前記高電子移動度トランジスタのチャネル層である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0119】
(付記14)
前記第1層は、III族窒化物で構成された自立基板である、
請求項1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0120】
(付記15)
前記不純物は、遷移金属(より好ましくは、例えば鉄、また例えばマンガン)である、
付記1または2に記載のIII族窒化物積層構造。
【0121】
(付記16)
高電子移動度トランジスタであって、
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成され、前記高電子移動度トランジスタのチャネル層である第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも、前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が3×1017cm-3以上である第1のピーク濃度に達し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記高電子移動度トランジスタのシート抵抗が、前記第2層が省略され前記第1層に前記不純物を含有しない態様の高電子移動度トランジスタのシート抵抗に対し、1.1倍未満である、
高電子移動度トランジスタ。
【0122】
(付記17)
高電子移動度トランジスタであって、
III族窒化物で構成された第1層と、
前記第1層上に配置され、Inを含有するIII族窒化物で構成された第2層と、
前記第2層上に配置され、III族窒化物で構成され、前記高電子移動度トランジスタのチャネル層である第3層と、
を有し、
前記第1層は、少なくとも、前記第1層の前記第2層との界面から厚さ50nmの領域である界面近傍領域において、III族窒化物を電気的に高抵抗化する不純物を含有し、
前記不純物の濃度が、前記界面近傍領域において前記第2層に向けて増加し、
当該増加を経て、前記不純物の濃度が3×1017cm-3以上である第1のピーク濃度に達し、
前記第2層を挟んで、前記第1層側よりも前記第3層側において、前記不純物の濃度が減少しており、
前記高電子移動度トランジスタの閾値電圧の大きさが、前記第2層が省略され前記第1層に前記不純物を含有しない態様の高電子移動度トランジスタの閾値電圧の大きさに対し、0.9倍超である、
高電子移動度トランジスタ。
【0123】
(付記18)
前記第1のピーク濃度が、3×1018cm-3以上である、
付記16または17に記載の高電子移動度トランジスタ。
【符号の説明】
【0124】
1…拡散抑制部、10…基板、20…核生成層、30…バッファ層、31…バッファ下層、32…バッファ上層、40…拡散抑制層、50…チャネル層、60…バリア層、70…キャップ層、100…積層構造(HEMT)、110…ウエハ、120…電極、121…ソース電極、122…ゲート電極、123…ドレイン電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10