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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156365
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241029BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070765
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高尾 健太
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙弥
(72)【発明者】
【氏名】阿部 舞
(72)【発明者】
【氏名】古川 大希
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077EA04
4G077EG24
4G077FK05
4G077HA12
4G077PD02
(57)【要約】
【課題】炭化珪素単結晶の品質を向上させる。
【解決手段】先端部に種結晶を取り付け可能な軸16と、第1底部と第1底部の周縁部の上に設けられた第1筒状部分とを備えた下部坩堝12と、第1筒状部分上に配置され、第1筒状部分の内径より径が小さい穴を備えた蓋15aと、第1筒状部分上に蓋15aを介して配置された、筒状の上部坩堝15bと、上部坩堝15b上に配置され、上部坩堝15bの内径より径が小さい穴を備えた蓋15cと、軸16を上下方向に移動させる制御部50と、を有するものである。ここで、軸16は、軸16の延在方向と交差するように取り付けられたフィン構造体16aを有し、制御部50は、フィン構造体16aを有する軸16が蓋15c、上部坩堝15bおよび蓋15aのそれぞれの内側を通って上下方向に移動するように軸16を制御する、単結晶製造装置を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に種結晶を取り付け可能な軸と、
第1底部と、前記第1底部の周縁部の上に設けられた第1筒状部分とを備えた下部坩堝と、
前記第1筒状部分上に配置され、前記第1筒状部分の内径より径が小さい穴を備えた第1蓋と、
前記第1筒状部分上に前記第1蓋を介して配置された、筒状の上部坩堝と、
前記上部坩堝上に配置され、前記上部坩堝の内径より径が小さい穴を備えた第2蓋と、
前記軸を上下方向に移動させる制御部と、
を有し、
前記軸は、前記軸の延在方向と交差するように取り付けられたフィン構造体を有し、
前記制御部は、前記フィン構造体を有する前記軸が前記第2蓋、前記上部坩堝および前記第1蓋のそれぞれの内側を通って上下方向に移動するように前記軸を制御する、単結晶製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶製造装置において、
前記第1蓋の内周部分に支持された筒状部材をさらに有し、
前記制御部は、前記フィン構造体を有する前記軸が前記筒状部材の内側を通って上下方向に移動するように前記軸を制御する、単結晶製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の単結晶製造装置において、
前記第1筒状部分の径方向における厚さは、前記上部坩堝の径方向における厚さよりも大きい、単結晶製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の単結晶製造装置において、
前記下部坩堝の内径は、前記上部坩堝の内径よりも小さい、単結晶製造装置。
【請求項5】
請求項3に記載の単結晶製造装置において、
前記下部坩堝の外側に配置された、内側の底面が前記下部坩堝の外側の底面に接する外坩堝をさらに有する、単結晶製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の単結晶製造装置において、
前記下部坩堝の外側の側面は、前記外坩堝の内側の側面に接する、単結晶製造装置。
【請求項7】
請求項5に記載の単結晶製造装置において、
前記外坩堝は、第2底部と、前記第2底部の周縁部の上に設けられた第2筒状部分とを備え、
前記第2筒状部分の上端は、前記第1蓋の上面より上に位置する、単結晶製造装置。
【請求項8】
請求項5に記載の単結晶製造装置において、
前記下部坩堝の第2筒状部分の上端は、前記第2蓋の上面より上に位置し、
前記第2筒状部分上に配置され、前記第2筒状部分の内径より径が小さい穴を備えた第3蓋をさらに有し、
前記制御部は、前記フィン構造体を有する前記第3蓋の内側を通って上下方向に移動するように前記軸を制御する、単結晶製造装置。
【請求項9】
請求項5に記載の単結晶製造装置において、
前記下部坩堝の外側の側面は、前記外坩堝の内側の側面と離間している、単結晶製造装置。
【請求項10】
請求項1に記載の単結晶製造装置において、
前記上部坩堝は、上下方向に重ねた、互いに分離可能な複数の筒状部分により構成されている、単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素からなる単結晶の製造技術、単結晶製造装置に関し、例えば、溶液法による単結晶の製造技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、比較的高い耐圧を要求されるパワー半導体素子に使用する材料として、炭化珪素が注目されている。炭化珪素からなる単結晶(以下、炭化珪素単結晶と呼ぶ)は、例えば、溶液法を使用することにより製造される。溶液法とは、軸の先端部に取り付けた種結晶を坩堝に収容されている炭素と珪素とを含む溶液に接触させることにより、種結晶に炭化珪素単結晶を成長させながら、軸を引き上げて、炭化珪素単結晶を製造する方法である。
【0003】
特許第5964094号公報(特許文献1)には、溶液法によって炭化珪素からなる単結晶を成長させる際、雑晶の成長を抑制するための技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5964094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶液法では、坩堝に収容された溶液の蒸発を抑制することが重要である。なぜなら、溶液の蒸発量が多くなると、溶液の温度が変化するとともに、溶液の組成も変化する結果、品質に優れた炭化珪素単結晶を製造することが困難となるからである。また、種結晶を支持する上記軸を坩堝内で上げ下げする都合上、坩堝の上端で開口部が常に解放されている。このため、坩堝に収容された溶液の一部が、蒸発、表面張力または坩堝の回転などに起因して上方へ昇り、坩堝の上端の開口部から外部へ出ることが考えられる。このような溶液の坩堝外への漏出(出液)は、坩堝と他の部品同士、または、坩堝以外の部品同士の間における固着などを引き起こす虞がある。したがって、溶液法で炭化珪素単結晶を製造する場合、坩堝に収容された溶液の坩堝外への漏出を抑制する工夫が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態における単結晶製造装置は、先端部に種結晶を取り付け可能な軸と、第1底部と、前記第1底部の周縁部の上に設けられた第1筒状部分とを備えた下部坩堝と、前記第1筒状部分上に配置され、前記第1筒状部分の内径より径が小さい穴を備えた第1蓋と、前記第1筒状部分上に前記第1蓋を介して配置された、筒状の上部坩堝と、前記上部坩堝上に配置され、前記上部坩堝の内径より径が小さい穴を備えた第2蓋と、前記軸を上下方向に移動させる制御部と、を有するものである。ここで、前記軸は、前記軸の延在方向と交差するように取り付けられたフィン構造体を有し、前記制御部は、前記フィン構造体を有する前記軸が前記第2蓋、前記上部坩堝および前記第1蓋のそれぞれの内側を通って上下方向に移動するように前記軸を制御する。
【発明の効果】
【0007】
一実施の形態によれば、炭化珪素単結晶の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1における単結晶製造装置の構成を示す図である。
図2】実施の形態1において種結晶の下面に炭化珪素単結晶を成長させた状態を示す図である。
図3】実施の形態1の変形例1における単結晶製造装置の構成を示す図である。
図4】実施の形態1の変形例1において種結晶の下面に炭化珪素単結晶を成長させた状態を示す図である。
図5】実施の形態1の変形例2における坩堝の構成を示す図である。
図6】実施の形態2における坩堝の構成を示す図である。
図7】実施の形態2の変形例1における坩堝の構成を示す図である。
図8】実施の形態2の変形例2における坩堝の構成を示す図である。
図9】実施の形態2の変形例3における坩堝の構成を示す図である。
図10】実施の形態2の変形例4における坩堝の構成を示す図である。
図11】実施の形態2の変形例5における坩堝の構成を示す図である。
図12】実施の形態2の変形例6における坩堝の構成を示す図である。
図13】実施の形態2の変形例7における坩堝の構成を示す図である。
図14】実施の形態2の変形例8における坩堝の構成を示す図である。
図15】実施の形態3における坩堝の構成を示す図である。
図16】実施の形態3の変形例1における坩堝の構成を示す図である。
図17】実施の形態3の変形例2における坩堝の構成を示す図である。
図18】単結晶製造装置において蒸発を抑制する重要性を説明する図である。
図19】比較例における単結晶製造装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかり易くするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0010】
<蒸発を抑制する重要性>
図18は、単結晶製造装置101において蒸発を抑制する重要性を説明する図である。
【0011】
図18において、単結晶製造装置101は、容器10を有している。この容器10の内部空間には、例えば、アルゴンガスが充填されているとともに、水平方向に回転可能な台座11が配置されている。そして、台座11上には、坩堝12cが配置されている。
【0012】
この坩堝12cは、例えば、黒鉛(グラファイト)から構成されており、内部に珪素(Si)を含む高温の溶液20が収容されている。そして、単結晶製造装置101の容器10の外周部には、高周波電流が流れるコイル14が設けられており、コイル14を流れる高周波電流に基づく誘導加熱によって坩堝12cは加熱されるようになっている。この結果、坩堝12cに収容されている溶液20は、高温となっており、坩堝12cを構成する黒鉛(C)が溶け出すことから、溶液20は、炭素と珪素を含むことになる。
【0013】
次に、単結晶製造装置101には、上下方向に移動可能な軸13が設けられており、この軸13の先端部には、炭化珪素からなる種結晶30が取り付けられている。そして、先端部に種結晶30が取り付けられた軸13を下方向に移動させることにより、種結晶30の下面を坩堝12cに収容された溶液20の表面に接触させる。その後、軸13を上方向に移動させながら、種結晶30の下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させる。このようにして、単結晶製造装置101では、炭化珪素単結晶を製造することができる。
【0014】
ここで、例えば、図18に示すように、坩堝12cに収容されている溶液20は、高温状態となっており、この溶液20からは蒸発が生じる。
【0015】
この点に関し、図18に示すように、坩堝12cに何らの対策も施さない場合、坩堝12cからの溶液20の蒸発を抑制することができない。そして、溶液20の蒸発量が多くなると、溶液20の温度が変化するとともに、溶液20の組成も変化する結果、品質に優れた炭化珪素単結晶を製造することが困難となる。
【0016】
また、炭化珪素単結晶の製造工程では、例えば、成長中(育成中)の炭化珪素単結晶の内部の温度差が10℃以上ある場合、熱応力によって炭化珪素単結晶が破断する。このことから、炭化珪素単結晶の内部を均一な温度分布とすることが重要である。溶液法による炭化珪素単結晶の製造工程では、結晶温度を約1800℃以上約2100℃以下という高温条件で結晶成長させる。したがって、溶液20からの熱輻射の影響や溶液20に由来する蒸気の対流によって、軸13の熱が奪われる結果、炭化珪素単結晶の内部の温度勾配が大きくなり易い。さらに、溶液20から蒸発した蒸気が容器10の内部に広く拡散すると、例えば、カーボン成形断熱材に代表される高価な炉材の劣化を引き起こす。
【0017】
以上のことから、品質の良い炭化珪素単結晶を製造する観点だけでなく、単結晶製造装置101を構成する炉材の長寿命化を図る観点からも、溶液20からの蒸気の拡散を抑制することが重要であることが分かる。
【0018】
この点に関し、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制する技術として、以下に示す比較例の技術が存在する。そこで、この比較例と、その改善の余地について説明する。
【0019】
<改善の余地>
図19は、比較例における単結晶製造装置102を示す模式図である。
【0020】
図19に示す単結晶製造装置102では、図18に示す単結晶製造装置101に対して、坩堝12c上に蓋15aが取り付けられている点と、軸13に代わってフィン構造体16aを備えた軸16が設けられている点とが主な相違点である。軸16の内部は中空構造となっており、軸16の内部に種結晶30近傍の温度を測定するための熱電対17が挿入されている。蓋15aは坩堝12cと接触可能に構成されている。
【0021】
この相違点によって、単結晶製造装置102では、蓋15aおよびフィン構造体16aで溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できる。これにより、品質の良い炭化珪素単結晶を製造できるとともに単結晶製造装置102を構成する炉材の長寿命化を図ることができると考えられる。
【0022】
しかし、本発明者が検討したところ、比較例には改善の余地が存在することが明らかになったので、以下では、この点について説明する。
【0023】
上述したように、品質の良い炭化珪素単結晶を製造できるとともに単結晶製造装置102を構成する炉材の長寿命化を図るためには、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制することが重要である。ここで、種結晶30を支持する軸16を坩堝内で上げ下げする都合上、坩堝12cの上端の開口部は常に解放されている。このため、坩堝12cに収容された溶液20の一部が、蒸発、表面張力または坩堝12c若しくは軸16の回転などに起因して上方へ昇り、坩堝12cの上端の開口部から外部へ漏れ出ることが考えられる。このような溶液20の坩堝12c外への漏出(出液)は、坩堝12cと他の部品同士、または、坩堝12c以外の部品同士の間における固着などを引き起こす虞がある。したがって、溶液法で炭化珪素単結晶を製造する場合、坩堝12cに収容された溶液20の坩堝12c外への漏出を抑制する観点から改善の余地が存在する。
【0024】
そこで、以下の実施の形態では、比較例の単結晶製造装置に存在する改善の余地を克服するための工夫を施している。以下では、この工夫を施した実施の形態における技術的思想を説明する。
【0025】
(実施の形態1)
<単結晶製造装置の構成>
図1は、本実施の形態における単結晶製造装置100の構成を示す図である。
【0026】
図1において、単結晶製造装置100は、容器10を有している。この容器10の内部空間には、例えば、アルゴンガスが充填されているとともに、水平方向に回転可能な台座11が配置されている。そして、台座11上には、下部坩堝12が配置されている。
【0027】
この下部坩堝12は、例えば、黒鉛(グラファイト)から構成されており、内部に珪素(Si)を含む高温の溶液20が収容されている。そして、単結晶製造装置100の容器10の外周部には、高周波電流が流れるコイル14が設けられており、コイル14を流れる高周波電流に基づく誘導加熱によって下部坩堝12は加熱されるようになっている。この結果、下部坩堝12に収容されている溶液20は、高温となっており、下部坩堝12を構成する黒鉛(C、炭素)が溶け出すことから、溶液20は、炭素と珪素を含むことになる。下部坩堝12に上には、蓋15aが配置されている。蓋15aは、下部坩堝12と接触可能に構成されている。なお、以降の説明で用いる各図において、容器10の図示は省略する。
【0028】
下部坩堝12は、例えば平面形状が円形である底部を有し、その円形の底部の周縁部の上に筒状部分を備えている。つまり、容器である下部坩堝12は、有底筒状体である。蓋15aは、当該筒状部分の上面上に配置されている。蓋15aは、中心部に穴を有する円板状(ドーナツ状)の構造を有している。ここでは、下部坩堝12の外径と、蓋15aの外径とは、同じである。また、蓋15aの内径は、下部坩堝12の筒状部分の内径よりも小さい。
【0029】
また、当該筒状部分の上面上には、蓋15aを介して上部坩堝15bが配置されている。上部坩堝15bは、当該筒状部分と同様の厚さ、内径および外径を有する筒状構造を有している。径方向における下部坩堝12の筒状部分の好ましい厚さは、例えば10mm以上40mm以下である。上部坩堝15bは下部坩堝12の筒状部分の直上に位置している。言い換えれば、平面視において、上部坩堝15bと下部坩堝12とは互いに重なっている。上部坩堝15bが、下部坩堝12の筒状部分と同様の内径および外径を有することで、上部坩堝15bの当該筒状部分に対する位置合わせが容易となっている。
【0030】
上部坩堝15bの上面上には、蓋15cが上部坩堝15bの上面に接して配置されている。蓋15cは、中心部に穴を有する円板状(ドーナツ状)の構造を有している。ここでは、下部坩堝12の外径と、蓋15cの外径とは、同じである。また、蓋15cの内径(穴の直径)は、上部坩堝15bの内径よりも小さい。蓋15a、15cのそれぞれの内径はほぼ同じである。下部坩堝12、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cのそれぞれは、平面視において同一の中心軸を有し、同様の外径を有している。上部坩堝15bは耐熱性を有する材料からなり、例えば、下部坩堝12と同じ黒鉛(グラファイト)から構成されている。
【0031】
次に、単結晶製造装置100には、上下方向に移動可能な軸16が設けられており、この軸16の先端部には、炭化珪素からなる種結晶30が取り付けられている。また、軸16には、軸16の延在方向と交差するように取り付けられたフィン構造体16aを有している。さらに、軸16の内部は中空構造となっており、軸16の内部に種結晶30近傍の温度を測定するための熱電対17が挿入されている。種結晶30近傍の温度測定は、熱電対17を挿入する代わりに、軸16の上端に軸16の内径よりも小さな測定径を有する放射温度計を配置することによっても可能である。
【0032】
そして、単結晶製造装置100は、フィン構造体16aを有する軸16を上下方向に移動させるように制御する制御部50を有している。この制御部50は、フィン構造体16aを有する軸16が蓋15a、15c、上部坩堝15bおよび下部坩堝12の筒状部分のそれぞれの内側を通って上下方向に移動するように軸16を制御するように構成されている。この制御部50は、先端部に種結晶30が取り付けられた軸16を下方向に移動させることにより、種結晶30の下面を下部坩堝12に収容された溶液20の表面に接触させるように構成されているとともに、種結晶30の下面を溶液20の表面に接触させた後、軸16を上方向に移動させることにより、種結晶30の下面に炭化珪素からなる単結晶を成長させることができるように構成されている。
【0033】
図1では、種結晶30の下面を溶液20の表面に接触させた状態が示されている。この場合、図1に示すように、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、蓋15aの下に位置している。
【0034】
一方、図2では、種結晶の下面に炭化珪素単結晶40を成長させた状態が示されている。この場合、図2に示すように、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、蓋15aの上であって、蓋15cの下に位置している。
【0035】
ここで、図1および図2のそれぞれでは、径方向におけるフィン構造体16aと蓋15aとの隙間は、フィン構造体16aと下部坩堝12の内壁との間の距離よりも小さくなっている。また、径方向におけるフィン構造体16aと蓋15cとの隙間は、フィン構造体16aと上部坩堝15bの内壁との間の距離よりも小さくなっている。
【0036】
また、平面視において、蓋15a、蓋15cは、下部坩堝12、上部坩堝15bに内包され、平面視において、フィン構造体16aは、蓋15a、蓋15cに内包される。
【0037】
以上のようにして、単結晶製造装置100が構成されている。蓋15a、蓋15cおよび上部坩堝15bは、坩堝用蓋15を構成している。
【0038】
<単結晶製造装置の動作(単結晶製造方法)>
続いて、単結晶製造装置100の動作を説明する。
【0039】
まず、図1に示すように、制御部50は、先端部に種結晶30が取り付けられた軸16を下降させる。これにより、軸16に取り付けられた種結晶30は、坩堝用蓋15に備わる蓋15cおよび蓋15aのそれぞれの内部を順に通過した後、下部坩堝12に収容された炭素と珪素とを含む溶液20の表面に接触する。このとき、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、蓋15aの下に位置する。
【0040】
次に、図2に示すように、制御部50は、軸16をゆっくり上昇させる。これにより、引き上げられる種結晶30の下面に炭化珪素単結晶40が成長する。このとき、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、蓋15aの内側を通過する。
【0041】
その後、結晶成長を終了する場合、制御部50は、軸16の上昇を停止する。これにより、炭化珪素単結晶40の成長を終了させる。このとき、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、最終的に蓋15aの上であって、蓋15cの下に位置する。以上のようにして、単結晶製造装置100を動作させることにより、炭化珪素単結晶を製造することができる。
【0042】
<本実施の形態における特徴>
次に、本実施の形態における特徴点について説明する。
【0043】
本実施の形態における第1特徴点は、例えば、図1および図2に示すように、坩堝用蓋15に蓋15aを設けるとともに、蓋15aの内部を通過可能なフィン構造体16aを軸16に設けることにある。
【0044】
この結果、本実施の形態によれば、結晶成長の初期段階から結晶成長の終了段階まで、蓋15aとフィン構造体16aとの存在によって、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できる。これにより、本実施の形態によれば、溶液20の蒸発に起因する溶液温度の変化および溶液組成の変化を抑制できる結果、品質の良い炭化珪素単結晶を製造することができるとともに、蒸気に起因する炉材の劣化も抑制できる。その結果、単結晶製造装置100を構成する炉材の長寿命化も図ることができる。つまり、本実施の形態における第1特徴点は、炭化珪素単結晶の品質向上および炉材の長寿命化を図る観点から有用である。
【0045】
特に、図1および図2に示すように、フィン構造体16aを有する軸16が蓋15aの内部を通る際におけるフィン構造体16aと蓋15aの内壁との間の隙間は、フィン構造体16aと下部坩堝12の内壁との間の距離よりも小さくなっている。このことから、溶液20から発生する蒸気は、上述したフィン構造体16aと蓋15aの内壁との間の隙間を通りにくくなる結果、溶液20から発生する蒸気の拡散を効果的に抑制できる。
【0046】
さらに、本実施の形態における第1特徴点によれば、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できるが、このことは、蒸気による放熱効果を抑制できることも意味するから、結晶温度を維持し易くなるともいえる。例えば、成長中(育成中)の炭化珪素単結晶の内部の温度差が10℃以上ある場合、熱応力によって炭化珪素単結晶が破断することから、炭化珪素単結晶の内部を均一な温度分布とすることが重要である。したがって、結晶温度を維持し易いという第1特徴点は、熱応力によって炭化珪素単結晶が破断することを抑制する観点からも有用である。
【0047】
続いて、本実施の形態における第2特徴点は、例えば、図1および図2に示すように、坩堝用蓋15に、下部坩堝12および蓋15aのそれぞれの上の上部坩堝15bおよび蓋15cを設けることにある。
【0048】
この結果、本実施の形態によれば、蓋15cの存在によって、溶液20の一部が坩堝用蓋15および下部坩堝12を含む坩堝全体の上端の開口部から外部へ漏れ出ることを防げる。このようにして、溶液20の下部坩堝12外への漏出を防ぐことで、下部坩堝12と他の部品同士、または、下部坩堝12以外の部品同士が、溶液20により固着することを防げる。その結果、単結晶製造装置100を構成する炉材の長寿命化も図ることができる。つまり、本実施の形態における第1特徴点は、炭化珪素単結晶の品質向上および炉材の長寿命化を図る観点から有用である。
【0049】
続いて、本実施の形態における第3特徴点は、例えば、図1および図2に示すように、下部坩堝12自体に蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cが設けられているのではなく、下部坩堝12に取り付け可能な蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cが設けられている点にある。これにより、下部坩堝12自体の構造を複雑化することなく、結晶成長の初期段階から結晶成長の終了段階にわたって溶液20から発生する蒸気の拡散および溶液20の漏出を抑制するための蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを取り付けることができる。例えば、下部坩堝12自体は、炭化珪素単結晶を製造する1回毎に取り替えることが考えられる。したがって、下部坩堝12自体に蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを取り付けると、下部坩堝12自体の構造が複雑化するだけでなく、下部坩堝12自体の重量も重くなるとともに、取り替え時の取り付けにかかる作業負担も大きくなる。さらには、下部坩堝12自体に蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを取り付ける場合、炭化珪素単結晶を製造する1回毎に下部坩堝12だけでなく、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cも取り替えることになることから、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを使用するコストも増大することになる。
【0050】
これに対し、下部坩堝12に取り付け可能な坩堝用蓋15に蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを設ける場合、下部坩堝12自体の構造は簡略化されるとともに軽量化される。さらには、坩堝用蓋15自体は、下部坩堝12のように炭化珪素単結晶を製造する1回毎に交換する必要がないことから、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cの使い回しが可能となる結果、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを使用するコストを抑えることできる。このように、本実施の形態における第3特徴点は、炭化珪素単結晶を製造する毎に取り替える必要のある下部坩堝12自体の構造を簡素化および軽量化できるとともに、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cの使い回しが可能となる結果、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cを使用するコストを抑えることできるという点で有用である。
【0051】
また、上部坩堝15bおよび蓋15cを蓋15a上に配置することで、蓋15aを下部坩堝12に固定することなく載置した場合であっても、下部坩堝12を高速回転させたときに蓋15aが下部坩堝12から外れることを防げる。つまり、上部坩堝15bおよび蓋15cは、蓋15aを抑え、外れ難くする機能を有する。
【0052】
以上より、上述した改善の余地を解消できる。
【0053】
<変形例1>
<単結晶製造装置の構成>
図3に示すように、蓋15aの内側には、下部坩堝12、蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cのそれぞれと同一の中心軸を有する筒状部材15dが設けられていてもよい。筒状部材15dは、外周部が蓋15aの内側の端部により支持されている。筒状部材15dは蓋15aの内周部分に接続されており、例えば、蓋15aと一体となっている。ここでは、蓋15aは支持部または接続部といえる。蓋15a、上部坩堝15b、蓋15cおよび筒状部材15dは、坩堝用蓋15を構成している。制御部50は、フィン構造体16aを有する軸16が筒状部材15dの内部を通って上下方向に移動するように軸16を制御するように構成されている。
【0054】
図3では、種結晶30の下面を溶液20の表面に接触させた状態が示されている。この場合、図3に示すように、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、坩堝用蓋15に備わる筒状部材15dの内壁と対向する第1位置P1に配置されている。
【0055】
一方、図4では、種結晶の下面に炭化珪素単結晶40を成長させた状態が示されている。この場合、図4に示すように、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、坩堝用蓋15に備わる筒状部材15dの内壁と対向する第2位置P2に配置されている。
【0056】
ここで、図3および図4において、フィン構造体16aを有する軸16が筒状部材15dの内部を通る際におけるフィン構造体16aと筒状部材15dの内壁との間の隙間は、フィン構造体16aと下部坩堝12の内壁との間の距離よりも小さくなっている。
【0057】
また、平面視において、筒状部材15dは、下部坩堝12に内包され、平面視において、フィン構造体16aは、筒状部材15dに内包される。
【0058】
<単結晶製造装置の動作(単結晶製造方法)>
続いて、単結晶製造装置100の動作を説明する。
【0059】
まず、制御部50は、先端部に種結晶30が取り付けられた軸16を下降させる。これにより、軸16に取り付けられた種結晶30は、坩堝用蓋15に備わる蓋15cおよび筒状部材15dのそれぞれの内部を順に通過した後、下部坩堝12に収容された炭素と珪素とを含む溶液20の表面に接触する。このとき、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、筒状部材15dの内壁と対向する第1位置P1に配置される(図3参照)。
【0060】
次に、制御部50は、軸16をゆっくり上昇させる。これにより、引き上げられる種結晶30の下面に炭化珪素単結晶40が成長する。このとき、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、筒状部材15dの内壁との対向を維持しながら移動する。
【0061】
その後、結晶成長を終了する場合、制御部50は、軸16の上昇を停止する。これにより、炭化珪素単結晶40の成長を終了させる。このとき、軸16に取り付けられたフィン構造体16aは、最終的に筒状部材15dの内壁と対向する第2位置P2に配置される(図4参照)。以上のようにして、単結晶製造装置100を動作させることにより、炭化珪素単結晶を製造することができる。
【0062】
<本変形例における特徴>
次に、本変形例における特徴点について説明する。
【0063】
本変形例における第4特徴点は、例えば、図3および図4に示すように、坩堝用蓋15に筒状部材15dを設けるとともに、筒状部材15dの内部を通過可能なフィン構造体16aを軸16に設けることを前提とする。そして、この前提構成のもと、第4特徴点は、種結晶30の下面を溶液20の表面に接触させる結晶成長の初期段階から、軸16をゆっくり上昇させて結晶成長を終了する終了段階まで、フィン構造体16aを筒状部材15dの内壁に対向させる状態を維持する点にある。具体的に、図3に示す結晶成長の初期段階では、フィン構造体16aは、筒状部材15dの内壁と対向する第1位置P1に配置されている。一方、図4に示す結晶成長の終了段階では、フィン構造体16aは、筒状部材15dの内壁と対向する第2位置P2に配置されている。したがって、図3に示す結晶成長の初期段階から図4に示す結晶成長の終了段階まで、フィン構造体16aは、筒状部材15dの内壁に対向する状態を維持することになる。
【0064】
この結果、本変形例によれば、例えば、図3および図4から明らかなように、結晶成長の初期段階から結晶成長の終了段階まで、筒状部材15dと対向配置されたフィン構造体16aの存在によって、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できる。すなわち、本変形例における第4特徴点によれば、上述した比較例のように、結晶成長の初期段階だけでなく、結晶成長の初期段階から結晶成長の終了段階にわたって、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できる。これにより、本変形例によれば、溶液20の蒸発に起因する溶液温度の変化および溶液組成の変化を抑制できる結果、品質の良い炭化珪素単結晶を製造することができるとともに、蒸気に起因する炉材の劣化も抑制できる。よって、単結晶製造装置100を構成する炉材の長寿命化も図ることができる。つまり、本変形例における第4特徴点は、炭化珪素単結晶の品質向上および炉材の長寿命化を図る観点から有用である。
【0065】
特に、図3および図4に示すように、フィン構造体16aを有する軸16が筒状部材15dの内部を通る際におけるフィン構造体16aと筒状部材15dの内壁との間の隙間は、フィン構造体16aと下部坩堝12の内壁との間の距離よりも小さくなっている。このことから、溶液20から発生する蒸気は、上述したフィン構造体16aと筒状部材15dの内壁との間の隙間を通りにくくなる結果、本変形例によれば、溶液20から発生する蒸気の拡散を効果的に抑制できる。
【0066】
さらに、本変形例における第4特徴点によれば、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できるが、このことは、蒸気による放熱効果を抑制できることも意味するから、結晶温度を維持し易くなるともいえる。例えば、成長中(育成中)の炭化珪素単結晶の内部の温度差が10℃以上ある場合、熱応力によって炭化珪素単結晶が破断することから、炭化珪素単結晶の内部を均一な温度分布とすることが重要である。したがって、結晶温度を維持し易いという第4特徴点は、熱応力によって炭化珪素単結晶が破断することを抑制する観点からも有用である。
【0067】
また、本変形例における第4特徴点は、炭化珪素単結晶を長尺化する場合であっても、上述した利点を容易に享受できる点で優れている。具体的には、炭化珪素単結晶の長尺化に合わせて、坩堝用蓋15に備わる筒状部材15dの長さを変更することで、結晶成長の初期段階から結晶成長の終了段階にわたって、フィン構造体16aを筒状部材15dの内壁に対して対向配置させることできる。このことは、炭化珪素単結晶が長尺化された場合であっても、溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制できることを意味する。すなわち、本変形例における第4特徴点によれば、炭化珪素単結晶の長尺化に柔軟に対応して、品質の良い炭化珪素単結晶を製造することができるとともに、単結晶製造装置100を構成する炉材の長寿命化も図ることができる。さらには、第4特徴点によれば、炭化珪素単結晶を長尺化しても、それに対応して筒状部材15dの長さを変更することにより、結晶温度を維持し易い構成を容易に実現することができる。このことから、炭化珪素単結晶を長尺化する場合であっても、熱応力に起因する炭化珪素単結晶の破断も抑制できる点においても優れている。
【0068】
続いて、図1および図2を用いて上述した第2特徴点と同様に、筒状部材15dは下部坩堝12自体に設けられているのではなく、下部坩堝12に取り付け可能な坩堝用蓋15に筒状部材15dが設けられている。これにより、下部坩堝12自体の構造を複雑化することなく、結晶成長の初期段階から結晶成長の終了段階にわたって溶液20から発生する蒸気の拡散を抑制するための筒状部材15dを取り付けることができる。ここでは、筒状部材15dを交換することなく下部坩堝12のみを交換できるため、筒状部材15dを使用するコストを抑えることできる。
【0069】
<変形例2>
以降の説明で用いる図では、坩堝用蓋を含む坩堝のみを示し、溶液を含むその他の構造の図示は省略する。
【0070】
図5に示すように、下部坩堝12の径方向における厚さは、上部坩堝15bの径方向における厚さより大きくてもよい。ここでは、蓋15aの下の下部坩堝12の外側の表面には、径方向の厚さが小さい部分と大きい部分との境界において段差が設けられてられている。
【0071】
このように下部坩堝12の径方向における厚さを上部坩堝15bの径方向における厚さより大きくすることで、誘導加熱による発熱部を制限することとなる。これにより、下部坩堝12の内部(特に溶液20)の温度制御が容易となる。
【0072】
上記段差を有するため、上部坩堝15bは、下部坩堝12の筒状部分の上端と同様の内径および外径を有している。これにより、上部坩堝15bの当該筒状部分に対する位置合わせが容易となっている。
【0073】
径方向における下部坩堝12の筒状部分の最も厚い箇所における好ましい厚さは、例えば20mm以上40mm以下である。
【0074】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、下部坩堝12が1つの容器からなる場合について説明したが、以下では下部坩堝が2重の構造を有する容器である場合について説明する。
【0075】
図6に示すように、本実施の形態の単結晶製造装置を構成する下部坩堝12は、内坩堝12aと外坩堝12bとを含んでいる。内坩堝12aおよび外坩堝12bは、いずれも有底筒状体である。内坩堝12aは外坩堝12bの内側に収容されている。すなわち、内坩堝12aの外径(直径)は、外坩堝12bの内径より小さい。内坩堝12aの外側の側面(外周面)は、外坩堝12bの内側の側面(内周面)に接しており、内坩堝12aの外側の底面は外坩堝12bの内側の底面に接している。すなわち、内坩堝12aの外径は、外坩堝12bの内径とほぼ同じである。厳密には、内坩堝12aの外側の側面と外坩堝12bの内側の側面とは接していなくてもよい。内坩堝12aおよび外坩堝12bは、いずれも同じ材料からなる。
【0076】
内坩堝12aと坩堝用蓋15である蓋15a、上部坩堝15bおよび蓋15cとの構造は、図1を用いて説明した下部坩堝12と坩堝用蓋15との構造とほぼ同じである。また、内坩堝12aおよび外坩堝12bにより構成される容器の筒状部分の径方向における厚さは、例えば、図5を用いて説明した下部坩堝12の筒状部分の径方向の厚さと同じとする。
【0077】
外坩堝12bの上端は、内坩堝12aの上端より下に位置している。上部坩堝15bは、内坩堝12aの筒状部分の上端と同様の内径および外径を有している。これにより、上部坩堝15bの当該筒状部分に対する位置合わせが容易となっている。
【0078】
本実施の形態では、上記実施の形態1と同様の効果を有する。また、下部坩堝12の径方向における厚さ、つまり内坩堝12aおよび外坩堝12bのそれぞれの筒状部分の合計の厚さを、上部坩堝15bの径方向における厚さより大きくすることで、誘導加熱による発熱部を制限している。これにより、下部坩堝12の内部(特に溶液20)の温度制御が容易となる。加えて、下部坩堝12を内坩堝12aおよび外坩堝12bに分割することで、溶液により坩堝破損部分を縮減できる。つまり、溶液に内坩堝12aの材料が溶け出して内坩堝12aの厚さが薄くなっても、内坩堝12aを交換すれば外坩堝12bは使い回すことができる。したがって、単結晶製造における製造コストを低減できる。
【0079】
<変形例1>
図7に示すように、図6の構成に加えて、上記実施の形態1の変形例1(図3および図4参照)と同様に、坩堝用蓋15の構成する部分として、蓋15aに支持された筒状部材15dを有していてもよい。これにより、上記実施の形態1の変形例1と同様の効果を得られる。
【0080】
<変形例2>
図8に示すように、上部坩堝15bは、縦方向(上下方向)において分割された複数の筒状体(環状体)15e、15fおよび15gを重ねて構成されていてもよい。ここでは、蓋15a側(下側)から上方向に向かって順に筒状体15e、15fおよび15gが重ねられている。ここで重ねる互いに分離可能な筒状体の数は複数であればよく、3つに限定されない。
【0081】
蓋15aの上面には、稀に溶液の蒸発物が付着する場合がある。その場合、上部坩堝15bと蓋15aとが互いに固着することが考えられる。そのような固着が起きる度に上部坩堝15b全体を破棄すると、単結晶製造における製造コストが増大する。
【0082】
本変形例では、上部坩堝15bを縦方向に分割することで、蓋15aの上面に溶液の蒸発物が付着し、これにより互いに固着した筒状体15eと蓋15aと破棄する必要性が生じたとしても、筒状体15f、15gは再度使い回すことができる。つまり、固着の際に破棄せざるを得ない領域を減縮できる。したがって、単結晶製造における製造コストを低減できる。
【0083】
<変形例3>
図9に示すように、図8の構成に加えて、上記実施の形態1の変形例1(図3および図4参照)と同様に、坩堝用蓋15の構成する部分として、蓋15aに支持された筒状部材15dを有していてもよい。これにより、上記実施の形態1の変形例1と同様の効果を得られる。ここでは、上部坩堝15bを筒状体15e、15fおよび15gに分割する構成と筒状部材15dとを組み合わせることで、より効果的に製造コストを低減できる。
【0084】
<変形例4>
図10に示すように、外坩堝12bの筒状部分の上端の高さは、上部坩堝15bの上端の高さと同様の位置まで達していてもよい。ここでは、外坩堝12bの筒状部分の上端は、蓋15aの上面よりも上に位置している。外坩堝12bの内側の側面は、上部坩堝15bの外側の側面に接している。つまり、外坩堝12bは蓋15aおよび上部坩堝15bの外周を覆っている。
【0085】
ここでは、外坩堝12bを上方へ延長しているため、図6を用いて説明した単結晶製造装置に比べ、蓋15aおよび上部坩堝15bが外れ難い。
【0086】
本変形例では、溶液からの蒸気などにより、外坩堝12bと内坩堝12aおよび蓋15aとが互いに固着することを抑制できる。したがって、単結晶製造における製造コストを低減できる。
【0087】
<変形例5>
図11に示すように、外坩堝12bの筒状部部分の上端を、蓋15cの上面よりさらに上に延長してもよい。外坩堝12bの筒状部分の内側の側面は、内坩堝12aの筒状部分の外側の側面と、蓋15a、15cのそれぞれの外周面と、上部坩堝15bの外側の側面とに接している。
【0088】
ここでは、外坩堝12bの筒状部分の上面上に、蓋15hを設けている。蓋15hは、坩堝用蓋15を構成する。蓋15hは、蓋15a、15cと同様に中心部に穴を有する円板状(ドーナツ状)の構造を有している。蓋15hの外側の端部の下面は、外坩堝12bの筒状部部分の上面に接している。外坩堝12bの外径と、蓋15hの外径とは、同じである。また、蓋15hの内径は、外坩堝12bの筒状部分の内径よりも小さい。蓋15a、15cおよび15hのそれぞれの内径はほぼ同じである。制御部50は、フィン構造体16aを有する軸16が蓋15a、15c、15h、上部坩堝15bおよび下部坩堝12の筒状部分のそれぞれの内側を通って上下方向に移動するように軸16を制御する。
【0089】
本変形例では、蓋15c上に外坩堝12bおよび蓋15hを有することで、内坩堝12a内の溶液から生じた蒸気などの外部への漏出をさらに効果的に抑えることができる。
【0090】
<変形例6>
図12に示すように、図11の構成に加えて、上記実施の形態1の変形例1(図3および図4参照)と同様に、坩堝用蓋15の構成する部分として、蓋15aに支持された筒状部材15dを有していてもよい。これにより、上記実施の形態1の変形例1と同様の効果を得られる。
【0091】
<変形例7>
図13に示すように、図6を用いて説明した構造に対し、内坩堝12aの外側の側面と、外坩堝12bの内側の側面とは、所定の間隔を空けて互いに離間していてもよい。このように、内坩堝12aの外側の側面と、外坩堝12bの内側の側面との間に任意の幅の隙間を設けることで、例えば内坩堝12aが溶液により溶解し、内坩堝12aの筒状部分(側面)を貫通する穴が空いたときに、外坩堝12bが穴から漏れた溶液の受け皿となる。このため、外坩堝12bの外への溶液の流出を防げる。
【0092】
外坩堝12bなどの径方向における上記任意の幅は、好ましくは5mm以上20mm以下である。当該幅が20mmより大きいと、誘導加熱の熱効率が低下する。また、当該幅が5mm未満だと、内坩堝12aの外に漏れ出た溶液20が毛細管現象により内坩堝12aと外坩堝12bの隙間を上り、外に出る問題が生じる。
【0093】
また、内坩堝12aが外坩堝12bの中で移動しないように、それらの相互間に薄いスペーサーを入れてもよい。スペーサーの高さとして好ましくは、軸方向(上下方向)における外坩堝12bの筒状部分の高さの5%以上30%未満である。当該筒状部分の径方向におけるスペーサーの厚さが小さすぎると、スペーサーが割れる、スペーサーの上に内坩堝12aが乗る、または、内坩堝12aが外坩堝12bの中で傾くなどの問題が生じ得る。スペーサーの当該厚さが大きすぎると、隙間を設けても漏れた溶液20を保持しきれず、外に流出する虞がある。
【0094】
<変形例8>
図14に示すように、図13の構成に加えて、上記実施の形態1の変形例1(図3および図4参照)と同様に、坩堝用蓋15の構成する部分として、蓋15aに支持された筒状部材15dを有していてもよい。これにより、上記実施の形態1の変形例1と同様の効果を得られる。
【0095】
(実施の形態3)
上記実施の形態1では、下部坩堝12の筒状部分と上部坩堝15bとが同様の厚さを有する場合について説明したが、以下では下部坩堝12の筒状部分が上部坩堝15bよりも大きい厚さを有する場合について説明する。
【0096】
図15に示すように、本実施の形態の単結晶製造装置を構成する下部坩堝12は、下部坩堝12の筒状部分の径方向における厚さは、上部坩堝15bの径方向における厚さよりも大きい。ここでは、下部坩堝12の筒状部分の内径は、上部坩堝15bの内径よりも小さく、下部坩堝12の筒状部分の外径は、上部坩堝15bの外径と同等である。このため、蓋15aの下面が下部坩堝12に接する面積は、蓋15aの上面が上部坩堝15bに接する面積よりも大きい。
【0097】
本実施の形態では、前記実施の形態1と同様の効果を得られる。さらに、下部坩堝12の筒状部分の厚みを増加させることにより、内部により長時間溶液を保持することを可能としている。これにより、単結晶の長尺化も実現できる。
【0098】
<変形例1>
図16に示すように、図15を用いて説明した構造に対し、上記実施の形態2と同様に、外坩堝12bを加えてもよい。つまり、本変形例は、上記実施の形態2の内坩堝12aの筒状部分の厚さを大きくしたものともいえる。下部坩堝12は、内坩堝12aと、外坩堝12bからなる。ここでは外坩堝12bの筒状部分の厚さは内坩堝12aの筒状部分の厚さよりも小さいが、それらの厚さは同等であってもよい。また、外坩堝12bの筒状部分の厚さが内坩堝12aの筒状部分の厚さより大きくてもよい。
【0099】
<変形例2>
図17に示すように、図16の構成に加えて、上記実施の形態1の変形例1(図3および図4参照)と同様に、坩堝用蓋15の構成する部分として、蓋15aに支持された筒状部材15dを有していてもよい。これにより、上記実施の形態1の変形例1と同様の効果を得られる。
【0100】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上述した実施の形態1、2またはそれらの変形例を、他の実施の形態1、2またはそれらの変形例に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0101】
10 容器
11 台座
12 下部坩堝
12a 内坩堝
12b 外坩堝
12c 坩堝
13、16 軸
14 コイル
15 坩堝用蓋
15a、15c、15h 蓋
15b 上部坩堝
15d 筒状部材
15e、15f、15g 筒状体
16a フィン構造体
17 熱電対
20 溶液
30 種結晶
40 炭化珪素単結晶
50 制御部
100、101、102 単結晶製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19