(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156367
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ウェーハの分割方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20241029BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241029BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20241029BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20241029BHJP
B24B 55/06 20060101ALI20241029BHJP
B24B 27/033 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01L21/78 P
H01L21/78 Q
H01L21/304 621B
H01L21/304 644C
H01L21/304 643A
B24B27/06 M
B24B37/10
B24B55/06
B24B27/033 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070767
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 吉輝
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄貴
【テーマコード(参考)】
3C047
3C158
5F057
5F063
5F157
【Fターム(参考)】
3C047FF06
3C047FF09
3C047FF19
3C158AA03
3C158AA07
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3C158EB09
5F057AA21
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5F157BB37
5F157BB44
5F157DB02
5F157DB18
(57)【要約】
【課題】洗浄工程に要する時間を短縮すること。
【解決手段】格子状のストリートによって区画された表面の複数の領域にデバイスがそれぞれ形成されたウェーハをストリートに沿って分割するウェーハWの分割方法は、ウェーハWを、その裏面に貼着したテープTを介してチャックテーブル1に保持させる保持工程と、チャックテーブル1に保持されたウェーハWの表面にストリートに沿って複数の溝W1を形成する溝形成工程と、テープTをウェーハWの径方向に拡張させて溝W1を所定の幅b2に広げる拡張工程と、ウェーハWにスラリーを供給しながら、研磨パッドによってウェーハWの表面を研磨する研磨工程と、ウェーハWの表面に洗浄流体を噴射して該ウェーハWの表面と溝W1とを洗浄する洗浄工程と、を含み、拡張工程を実施してから洗浄工程を実施することを特徴とする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状のストリートによって区画された表面の複数の領域にデバイスがそれぞれ形成されたウェーハを該ストリートに沿って分割するウェーハの分割方法であって、
該ウェーハを、その裏面に貼着したテープを介してチャックテーブルに保持させる保持工程と、
該チャックテーブルに保持された該ウェーハの表面に該ストリートに沿って複数の溝を形成する溝形成工程と、
該テープを該ウェーハの径方向に拡張させて該溝を所定の幅に広げる拡張工程と、
該ウェーハの表面側にスラリーを供給しながら、研磨パッドによって該ウェーハの表面を研磨することによって、該溝形成工程の際に該デバイスの表面に付着した付着物を除去する研磨工程と、
該ウェーハの表面に洗浄流体を噴射して該ウェーハの表面と該溝とを洗浄する洗浄工程と、
を含み、
該拡張工程を実施してから該洗浄工程を実施することを特徴とするウェーハの分割方法。
【請求項2】
該溝形成工程の後、該拡張工程、該研磨工程、該洗浄工程をこの順に実施することを特徴とする請求項1記載のウェーハの分割方法。
【請求項3】
該溝形成工程の後、該研磨工程、該拡張工程、該洗浄工程をこの順に実施することを特徴とする請求項1記載のウェーハの分割方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハを格子状のストリート(分割予定ライン)に沿って分割するウェーハの分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスの製造工程においては、円板状の半導体ウェーハ(以下、単に「ウェーハ」と称する)の表面が格子状に形成されたストリート(分割予定ライン)によって複数のデバイス領域に区画され、各デバイス領域にICやLSIなどのデバイスがそれぞれ形成される。そして、このように多数のデバイスが形成されたウェーハをストリートに沿って分割することによって、複数のチップが製造される。
【0003】
ここで、ウェーハをストリートに沿って分割する方法としては、ウェーハを切削ブレードによってストリートに沿って切削して切削溝(カーフ)を形成する方法(ブレードダイシング)の他、真空下でドライエッチングしてウェーハにストリートに沿う溝を形成するプラズマダイシング、ウェーハ表面にレーザー光線を照射してウェーハにストリートに沿う溝を形成するレーザーアブレーションなどが知られている。
【0004】
ところで、特許文献1において提案されたウェーハの分割方法においては、切削ブレードによる切削加工後のウェーハの表面を、研磨液であるスラリーを用いてCMP研磨(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械研磨)することによって、該ウェーハの表面に付着している加工屑を除去し、その後、ウェーハの表面に洗浄水を噴射することによって、CMP研磨においてウェーハの表面に付着しているスラリーを除去する洗浄工程を実施するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において提案されているウェーハの分割方法において実施される洗浄工程においては、切削ブレードの切削によってウェーハの表面に形成された幅の狭い切削溝(カーフ)に残留するスラリーの除去が容易ではなく、洗浄工程に多くの時間を要して効率が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、ウェーハに形成された溝に残留するスラリーを洗浄によって短時間で効率よく除去して洗浄工程に要する時間を短縮することができるウェーハの分割方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、格子状のストリートによって区画された表面の複数の領域にデバイスがそれぞれ形成されたウェーハを該ストリートに沿って分割するウェーハの分割方法であって、該ウェーハを、その裏面に貼着したテープを介してチャックテーブルに保持させる保持工程と、該チャックテーブルに保持された該ウェーハの表面に該ストリートに沿って複数の溝を形成する溝形成工程と、該テープを該ウェーハの径方向に拡張させて該溝を所定の幅に広げる拡張工程と、該ウェーハの表面側にスラリーを供給しながら、研磨パッドによって該ウェーハの表面を研磨することによって、該溝形成工程の際に該デバイスの表面に付着した付着物を除去する研磨工程と、該ウェーハの表面に洗浄流体を噴射して該ウェーハの表面と該溝とを洗浄する洗浄工程と、を含み、該拡張工程を実施してから該洗浄工程を実施することを特徴とする。ここで、拡張工程の後に研磨工程を実施し、この研磨工程の後に洗浄工程を実施してもよく、或いは、研磨工程を行った後に拡張工程を実施し、この拡張工程の後に洗浄工程を実施してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、洗浄工程を実施する前段階において拡張工程が実施され、溝形成工程においてウェーハに形成された溝の幅が拡張工程によって広げられた状態で洗浄工程が実施されるため、幅が広げられた溝に残留するスラリーが噴射される洗浄流体によって短時間で効率よく除去される。このため、洗浄工程に要する時間が短縮され、ウェーハを効率よく短時間で分割することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法をその工程順に示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法における保持工程を示す側断面図である。
【
図5】(a)~(c)は本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法における溝形成工程を工程順に示す側断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法における溝形成工程の別形態を示す側断面図である。
【
図7】(a)~(c)は本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法における拡張工程を工程順に示す側断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法における研磨工程を示す破断側面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法における洗浄工程を示す側断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係るウェーハの分割方法をその工程順に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係るウェーハの分割方法について説明すると、この分割方法は、
図1に示すように、
1) 保持工程
2) 溝形成工程
3) 拡張工程
4) 研磨工程
5) 洗浄工程
をこの順に順次実施してウェーハW(
図2及び
図3参照)を分割して複数のチップC(
図5(c)及び
図6参照)を得る方法である。
【0013】
ここで、分割対象であるウェーハWは、
図2に示すように、例えば、単結晶のシリコン(Si)で構成された薄い円板状の部材であって、その表面(
図2においては、上面)が格子状に配列された互いに直交するストリート(分割予定ライン)L1,L2によって複数の矩形領域に区画されており、各矩形領域には、ICやLSIなどのデバイスDがそれぞれ形成されている。そして、このように表面に多数のデバイスDが形成されたウェーハWは、
図3に示すワークセットWSに組み込まれ、該ウェーハWに対して前記各工程が実施される。なお、ウェーハWの材質としては、シリコン(Si)以外に、シリコンカーバイド(SiC)、ガラス、セラミックス、サファイアなどが用いられる。
【0014】
前記ワークセットWSは、
図3に示すように、リング状のリングフレームFの円形の開口部を塞いで貼着された熱収縮性を有するテープTに円板状のウェーハWの裏面(
図3の下面)を貼着することによって、テープTを介してウェーハWをリングフレームFに支持させてウェーハWとリングフレームF及びテープTを一体化して構成されている。なお、テープTは、伸縮性と熱収縮性とを兼備するものであれば、特に材質が限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどからなる基材層の上に糊層が積層されて2層構造として構成されたものが用いられる。このテープTは、少なくともウェーハWの直径よりも大きな外径を有しており、ウェーハWの外周とリングフレームFの内周との間にリング状に露出した部分のテープT1は、後述の拡張工程においてテープTが拡張された後に弛みが生じ易い部分である(
図7(c)参照)。
【0015】
次に、本発明の第1実施形態に係るウェーハWの分割方法における前記各工程についてそれぞれ説明する(
図1参照)。
【0016】
1) 保持工程:
保持工程は、
図4に示すように、ワークセットWSをチャックテーブル1の保持面2a上に吸引保持させる工程であって、ウェーハWは、裏面(
図4においては、下面)に貼着されたテープTを介してチャックテーブル1の保持面2a上に吸引保持される。ここで、チャックテーブル1の上部中央部には、ポーラスセラミックなどの多孔質材からなる円板状のポーラス部材2が組み込まれており、このポーラス部材2の上面が保持面2aを構成している。
【0017】
上記ポーラス部材2は、配管3によって真空ポンプやエジェクタなどの吸引源4に接続されており、配管3には電磁式の開閉バルブV1が設けられている。したがって、
図4に示すように、ワークセットWSを、テープTを下にしてチャックテーブル1の保持面2a上に載置し、吸引源4を駆動して開閉バルブV1を開くと、チャックテーブル1のポーラス部材2が吸引源4によって真空引きされるために保持面2aに負圧が発生し、この負圧に引かれてワークセットWSがウェーハWと共にチャックテーブル1の保持面2a上に吸引保持される。
【0018】
2) 溝形成工程:
溝形成工程は、チャックテーブル1の保持面2a上にワークセットWSと共に吸引保持されたウェーハWの表面にストリートL1,L2(
図2参照)に沿う格子状の溝W1(
図5(c)参照)を形成する工程であって、本実施形態では、ウェーハWに溝W1を形成する方法としてプラズマダイシングが用いられている。このプラズマダイシングは、
2-1)保護膜形成工程
2-2)保護膜溝形成工程
2-3)プラズマエッチング工程
を順次経てウェーハWに格子状の溝W1を形成するものである。以下、各工程についてそれぞれ説明する。
【0019】
2-1)保護膜形成工程:
保護膜形成工程においては、
図5(a)に示すように、ウェーハW(デバイスD)の表面をマスク材である水溶性樹脂膜(以下、「保護膜」と称する)Pで被覆する工程であって、この保護膜Pの形成に際しては、ウェーハWの中心部上方からノズル5によって水溶性の液状樹脂が滴下される。ここで、ノズル5は、水平移動機構6によってウェーハWの径方向に水平移動可能なホルダ7に支持されており、このノズル5には、液状樹脂供給源8が接続されている。なお、水溶性の液状樹脂には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが用いられる。
【0020】
而して、液状樹脂供給源8からノズル5へと供給される液状樹脂がノズル5からウェーハWの上面中心部に向けて滴下されると、チャックテーブル1が不図示の回転機構によって軸中心回りにワークセットWSと共に図示矢印方向(反時計方向)に回転駆動される。すると、ウェーハWも同方向に回転し、該ウェーハWの上面中心部に滴下された液状樹脂が遠心力によって周囲に広がり、ウェーハWの上面に一定厚さの保護膜Pがマスク層として形成される。その後、保護膜Pが乾燥して硬化すると、ウェーハWの上面がマスク層として機能する保護膜Pによって被覆される。
【0021】
2-2)保護膜溝形成工程:
保護膜溝形成工程においては、前記保護膜形成工程においてウェーハWの表面に形成された保護膜Pのうち、ウェーハWのストリートL1,L2(
図2参照)に沿う部分を除去して保護膜溝P1を形成する工程である。この保護膜溝形成工程においては、
図5(b)に示すように、保護膜Pの保護膜溝P1が形成される部分のウェーハWのストリートL1,L2(
図2参照)にレーザーヘッドLHから出射されるレーザー光線が照射されと、このレーザー光線の照射によってウェーハWのストリートL1,L2が溶解され、このウェーハWが溶解される熱で保護膜Pが蒸発して該保護膜Pに保護膜溝P1が形成される。なお、レーザーヘッドLHからは、ウェーハWに対して吸収性を有する波長のレーザー光線が出射される。
【0022】
具体的には、チャックテーブル1が水平移動機構9によって水平方向(
図5(b)の左右方向)にインデックス送りされて保護膜Pのレーザー光線が照射される位置がレーザーヘッドLHに対して位置決めされると、レーザーヘッドLHがレーザー光線を照射しながら
図5(b)の紙面の上下方向に移動し、これによって一方向(
図5(b)の紙面の上下方向)に沿う保護膜溝P1が形成される。そして、この一方向に沿うすべての保護膜溝P1の形成が終了すると、チャックテーブル1が不図示の回転機構によって軸中心回りに角度90°だけ回転し、他方向に沿う保護膜溝P1が同様に形成される。すると、保護膜Pには、互いに直交する格子状の保護膜溝P1が形成される。
【0023】
2-3)プラズマエッチング工程:
プラズマエッチング工程においては、保護膜溝形成工程において保護膜Pに形成された保護膜溝P1に対応するウェーハWの部分(格子状のストリートL1,L2(
図2参照)に沿う部分)にプラズマエッチングによって格子状の溝W1(
図5(c)参照)が形成される。
【0024】
すなわち、
図5(c)に示すように、プラズマエッチング装置10の減圧室Sに収容された静電チャックテーブル11の保持面上に、ワークセットWSを、テープTを下にして載置する。そして、静電チャックテーブル11に設けられた静電吸着用の一対の電極12,13に直流電源14から直流電圧を印加すると、静電チャックテーブル11の保持面に静電吸着力が発生するため、この静電吸着力によってワークセットWSが静電チャックテーブル11の保持面に吸着保持される。
【0025】
上記状態において、減圧室Sを減圧し、不図示の冷却ユニットによって静電チャックテーブル11を冷却しながら、不図示のガス供給機構とプラズマ発生機構によってプラズマガス15を生成し、このプラズマガス15を減圧室Sに供給する。すると、ウェーハWの保護膜Pによって覆われていない部分(保護膜Pの保護膜溝P1が形成された格子状の部分)がプラズマガス15中の反応性の高い粒子に晒され、この部分がエッチングされてウェーハWには、ストリートL1,L2(
図2参照)に沿う格子状の溝W1が形成される。このように、ウェーハWに格子状の溝W1が形成されることによって該ウェーハWが溝W1に沿って分割され、それぞれにデバイスDが実装された複数のチップCが得られる。なお、プラズマガス15には、例えば、SF
6(フッ素系ガス)が使用される。
【0026】
ところで、以上のプラズマダイシングによって格子状の溝W1が形成されたウェーハWの表面には、保護膜(水溶性樹脂膜)Pが残留するため、ウェーハWの表面に洗浄水が噴射されることによって、保護膜Pが洗浄水によって溶解して除去される。
【0027】
なお、溝形成工程においてウェーハWにストリートL1,L2(
図2参照)に沿う格子状の溝W1を形成する方法としては、
図6に示すブレードダイシングを採用することができる。すなわち、
図6に示すように、チャックテーブル1の保持面2aにワークセットWSと共に吸引保持されたウェーハWを図示矢印方向に回転する円板状の切削ブレード16によって切削(フルカット)することによって、該ウェーハWに格子状の溝W1が形成される。なお、
図6においては、
図4に示したものと同一要素には同一符号を付している。
【0028】
具体的には、チャックテーブル1は、不図示の水平移動機構によって
図6の左右方向と紙面垂直方向に移動可能であって、一方向(
図6の紙面垂直方向)に沿う溝W1を形成する場合には、水平移動機構によってチャックテーブル1とウェーハWを
図6の左右方向にインデックス送りしてウェーハWの切削すべき位置を切削ブレード16に対して決定した状態で、チャックテーブル1とウェーハWを
図6の紙面垂直方向に移動させながら切削ブレード16によって切削し、該ウェーハWに一方向(
図6の紙面垂直方向)に沿う溝W1を形成する。このようにして、一方向に沿うすべての溝W1の形成が終了すると、チャックテーブル1が角度90°だけ回転し、他方向に沿う溝W1が同様に形成される。すると、ウェーハWには、互いに直交する格子状の溝W1が形成される。このように、ウェーハWに格子状の溝W1が形成されることによって、該ウェーハWが溝W1に沿って分割され、それぞれにデバイスDが実装された複数のチップCが得られる。
【0029】
3) 拡張工程:
以上の溝形成工程において、ウェーハWにストリートL1,L2(
図2参照)に沿う格子状の溝W1が形成されて該ウェーハWが複数のチップCに分割されると、
図7(a)~(c)に示す工程を経て実施される拡張工程において、テープTをウェーハWの径方向外方に放射状に拡張させることによって、ウェーハWに形成された格子状の溝W1の幅が広げられる。
【0030】
ここで、拡張工程に用いられる装置について説明すると、この装置には、ワークセットWSのウェーハWに対応する部分(中央部分)を保持するテーブル20と、ワークセットWSのリングフレームFを保持するフレーム保持部30と、テーブル20とフレーム保持部30とを相対的に昇降させる昇降機構40と、ウェーハWの外周とリングフレームFの内周との間のリング状のテープT1を加熱して該テープT1を熱収縮させる熱収縮手段50を主要な構成要素として備えている。
【0031】
前記テーブル20は、円板状の部材であって、その上面中央部には、ワークセットWSのテープTの中央部を吸引保持する第1吸引部21が設けられており、この第1吸引部21の径方向外側には、リング状の第2吸引部22が第1吸引部21を囲繞するように形成されている。そして、第1吸引部21は配管23を経て第1吸引源24に接続され、第2吸引部22は、配管25を経て第2吸引源26に接続されており、各配管23,25には、電磁式の開閉バルブV2,V3がそれぞれ設けられている。また、テーブル20には、その外周縁に沿って細長い丸棒状のローラ27が回転可能に配設されている。なお、これらのローラ27は、後述のようにテープTを拡張した場合に該テープTに接触して回転することによって、テーブル20の外周縁で生じるテープTとの摩擦を緩和する機能を果たす。
【0032】
前記フレーム保持部30は、リングフレームFの下面が載置される載置プレート31と、リングフレームFの上面を押さえるカバープレート32を備えており、これらの載置プレート31とカバープレート32の中央には、テーブル20の外径よりも大きな内径を有する円孔31a,32aがそれぞれ開口している。なお、載置プレート31とカバープレート32は、ワークセットWSのリングフレームFを挟持した状態で後述の昇降機構40によって上下に昇降可能である。
【0033】
前記昇降機構40は、フレーム保持部30を昇降させるものであって、載置プレート31を昇降可能に支持する複数(
図7には2つのみ図示)のシリンダ機構41によって構成されている。ここで、各シリンダ機構41は、垂直に立設されたシリンダ42と、該シリンダ42内に上下摺動可能に嵌装された不図示のピストンと、該ピストンからシリンダ42を貫通して上方へと延びるピストンロッド43とでそれぞれ構成されており、各ピストンロッド43の上端に載置プレート31が取り付けられている。なお、図示しないが、各シリンダ42内は、ピストンによって上部室と下部室とに区画されている。
【0034】
したがって、各シリンダ機構41において、シリンダ42の下部室に例えば圧縮エアを供給するとともに、上部室のエアを排出すれば、ピストンロッド43が上昇して載置プレート31も上昇し、逆に上部室に圧縮エアを供給するとともに、下部室内のエアを排出すれば、ピストンロッド43が下降して載置プレート31も下降する。
【0035】
前記熱収縮手段50は、
図7(c)に示すように、テーブル20の上方に配置されており、水平なアーム51のウェーハWの中心を挟んだ両端に取り付けられた一対のヒータ52と、アーム51の中央に設けられた昇降部53と、一対のヒータ52をウェーハWの中心を軸として回転させる回転手段54を備えている。ここで、各ヒータ52は、遠赤外線ヒータなどによって構成されており、所定のピーク波形の遠赤外線をスポット照射することができる。
【0036】
而して、以上のように構成された装置によってテープTが以下のようにして拡張される。
【0037】
すなわち、
図7(a)に示すように、ワークセットWSがフレーム保持部30によって水平に保持されてテーブル20の上面に載置される。このとき、開閉バルブV2,V3は、共に閉じられているため、第1吸引源24と第2吸引源26によるテーブル20の第1吸引部21と第2吸引部22の吸引はなされていない。なお、第2吸引部22と開閉バルブV3は、必須のものではなく、必ずしも設ける必要はないものである。
【0038】
上記状態から、
図7(b)に示すように、昇降機構40が駆動されて各シリンダ機構41のピストンロッド43が下降すると、ワークセットWSのリングフレームFを保持するフレーム保持部30がピストンロッド43と共に下降する。すると、ワークセットWSのリングフレームFがテーブル20よりも下方に位置するため、このリングフレームFによってテープTが放射状に拡張される。このとき、両開閉バルブV2,V3は閉じられたままであるため、第1吸引源24と第2吸引源26によるテーブル20の第1吸引部21と第2吸引部22の吸引(ワークセットWSの吸引保持)が行われず、ウェーハWに形成された格子状の溝W2の幅が広げられる。具体的には、テープTが拡張される前の
図7(a)に示すウェーハWの溝W1の幅b1に対して、テープTが拡張された後の
図7(b)に示すウェーハWの溝W2の幅b2が大きくなる(b2>b1)。なお、テープTの拡張時には、該テープTがテーブル20の第1吸引部21と第2吸引部22によって吸引されていないため、該テープTの拡張がスムーズになされる。また、テープTを拡張させる際の該テープTとテーブル20との摩擦が複数のローラ27の回転によって低減するため、このことによってもテープTの拡張がスムーズになされる。
【0039】
上述のように、テープTが拡張されてウェーハWの溝W1の幅がb1からb2へと広げられると、
図7(c)に示すように、開閉バルブV1,V2が共に開けられ、第1吸引源24と第2吸引源26によってテーブル20の第1吸引部21と第2吸引部22がそれぞれ真空引きされ、これらの第1吸引部21と第2吸引部22に負圧が発生するため、この負圧に引かれてテープTがテーブル20の上面に吸引保持される。このため、ウェーハWの溝W1の幅は、広げられた幅b2に維持される。
【0040】
而して、その後、ワークセットWSは、テーブル20から取り外されて後述の研磨工程を実施するために
図8に示す研磨装置60へと搬送されるが、そのときのハンドリングなどのために、
図7(c)に示すように、リングフレームFが昇降機構40によってテープTが水平になる高さ位置まで上昇する。このとき、拡張工程において拡張されたテープT1には図示のような弛みが発生する。このようにテープT1に弛みが発生すると、前述のように、ワークセットWSをハンドリングする際などにおいてウェーハWの溝W1の幅が狭くなってしまう。このため、テープT1に生じた弛みは、熱収縮手段50によるテープT1の加熱によって除去される。
【0041】
すなわち、
図7(c)に示すように、熱収縮手段50がワークセットWSの上方に位置決めされ、回転手段54によってアーム51とこれの両端に取り付けられた一対のヒータ52を、ウェーハWの中心を軸として所定の速度で回転させながら、各ヒータ52から遠赤外線をリング状のテープT1に向けてそれぞれ照射することによって該テープT1を均一に加熱する。すると、熱収縮性を有するテープT1が加熱によって収縮するため、該テープT1に生じていた弛みが除去される。このようにテープT1から弛みが除去されると、該テープT1が弛みなく張った状態に戻るため、ワークセットWSをハンドリングした場合などにおいて、テープT1の弛みのためにウェーハWの溝W1の幅が拡大された値b2に維持される。
【0042】
4) 研磨工程:
研磨工程においては、拡張工程において溝W1の幅がb1からb2(>b1)へと広げられたウェーハWの上面が
図8に示す研磨装置60の研磨パッド63bによってCMP研磨される。
【0043】
すなわち、
図8に示すように、ワークセットWSがテープTを下にしてチャックテーブル1の保持面2a上に載置されると、チャックテーブル1のポーラス部材2が不図示の吸引源によって真空引きされる。すると、ポーラス部材2に負圧が発生し、この負圧に引かれてワークセットWSがチャックテーブル1の保持面2aによって吸引保持される。
【0044】
そして、チャックテーブル1の上方には、研磨装置60の研磨ホイール63が配置されており、この研磨ホイール63は、垂直なスピンドル61の下端に取り付けられた円板状のマウント62の下面に着脱可能に装着されている。この研磨ホイール63は、円板状の基台63aと、該基台63aの下面に取り付けられた円板状の研磨パッド63bによって構成されている。なお、研磨パッド63bは、砥粒を含んだ不織布やウレタンなどのパッド材によって構成されている。
【0045】
ここで、前記スピンドル61は、不図示のスピンドルモータによって図示矢印方向(反時計方向)に回転駆動されるが、該スピンドル61とマウント62及び研磨ホイール63の各中心には、スラリーが通過するための供給路64が垂直に貫設されている。そして、この供給路64には、スラリー供給源65から延びる配管66が接続されており、この配管66には電磁式の開閉バルブV4が設けられている。また、スピンドル61やマウント62、研磨ホイール63などを含む研磨装置60は、昇降機構67によって上下に昇降可能である。
【0046】
而して、研磨工程においては、チャックテーブル1とこれに吸引保持されたワークセットWSが不図示の回転機構によって図示矢印方向(反時計方向)に所定の速度で回転駆動された状態で、不図示のスピンドルモータによって図示矢印方向(反時計方向)に所定の速度で回転駆動される研磨ホイール63が昇降機構67によって下降し、該研磨ホイール63の研磨パッド63bが図示のようにウェーハWの表面に接触する。これと同時に、開閉バルブV4が開けられてスラリー供給源65からスラリーが配管66から供給路64を経て研磨パッド63bとウェーハWとの接触部に供給される。
【0047】
すると、ウェーハWの表面が研磨パッド63bによって研磨され、前記溝形成工程において発生してウェーハWの表面に付着した加工屑が除去される。また、拡張工程において幅がb1からb2へと広げられたウェーハWの隣接するチップC間の隙間である溝W1の側面に研磨パッド63bが接触するため、該溝W1の側面と角部が研磨パッド63bによって研磨されるため、各チップCの抗折強度が高められる。また、チップCの上面に形成した保護膜を研磨工程で除去してもよい。なお、保護膜の除去は、溝形成工程と拡張工程の間、拡張工程と研磨工程との間に行ってもよい。
【0048】
5)洗浄工程:
洗浄工程においては、前工程である研磨工程においてウェーハWの表面に付着したスラリーと溝W1に残留するスラリーを
図9に示す洗浄装置70の噴射ノズル71から噴射される水とエアとの混合流体(二流体)による洗浄によって除去する工程である。
【0049】
上記洗浄装置70は、チャックテーブル1の上方に配置されており、噴射ノズル71は、水平移動機構72によってウェーハWの径方向に沿って水平に移動可能なホルダ73に取り付けられており、この噴射ノズル71には、洗浄水供給源74とエア供給源75が接続されている。
【0050】
而して、ワークセットWSを保持するチャックテーブル1を不図示の回転機構によって軸中心回りに図示矢印(反時計方向)に所定の速度で回転させながら、洗浄装置70の噴射ノズル71をウェーハWの上方で該ウェーハWの径方向に沿って水平移動させながら、洗浄水供給源74とエア供給源75から供給される洗浄水(純水)とエアとの混合流体(二流体)を噴射ノズル71からウェーハWに向かって噴射する。すると、ウェーハWの上面が全面に亘って混合流体(二流体)によって洗浄され、前工程である研磨工程においてウェーハWの上面に付着したスラリーとウェーハWに形成された溝W1に残留するスラリーが除去される。なお、本実施形態では、洗浄流体として、洗浄水とエアとの混合流体(二流体)を用いたが、洗浄水(純水)のみを使用してもよい。また、超音波振動を伝播させた洗浄水を洗浄流体として使用してもよい。
【0051】
特に、本実施形態では、洗浄工程を実施する前段階において拡張工程が実施され、溝形成工程においてウェーハWの表面に形成された溝W1の幅が拡張工程によってb1(
図7(a)参照)からb2(
図7(b)参照)に広げられた状態で洗浄工程が実施されるため、幅が広げられた溝W1に残留するスラリーが噴射ノズル71から噴射される混合流体(二流体)によって短時間で効率よく除去される。このため、洗浄工程に要する時間が短縮され、ウェーハWを効率よく短時間で分割することができる。
【0052】
<第2実施形態>
次に、本発明に係るウェーハWの分割方法の第2実施形態について説明する。
【0053】
本実施形態に係るウェーハWの分割方法は、
1)保持工程
2)溝形成工程
3)研磨工程
4)拡張工程
5)洗浄工程
を順次経てウェーハWを分割する方法であるが、前記第1実施形態とは異なり、拡張工程によってテープTを拡張する前に研磨工程を実施してウェーハWの上面を研磨して加工屑を除去し、拡張工程を実施した直後に洗浄工程を実施し、研磨工程においてウェーハWの上面に付着したスラリーと溝W1に残留するスラリーを洗浄によって除去するようにしたことを特徴としており、各工程、つまり、保持工程、溝形成工程、研磨工程、拡張工程及び洗浄工程は、前記第1実施形態の対応する各工程と同様に実施される。
【0054】
而して、本実施形態においても、洗浄工程を実施する前に拡張工程が実施され、この拡張工程の直後に洗浄工程を実施するようにしたため、溝形成工程においてウェーハWの表面に形成された溝W1の幅が拡張工程によってb1(
図7(a)参照)からb2(
図7(b)参照)に広げられた状態で洗浄工程が実施される。このため、幅が広げられた溝W1に残留するスラリーが噴射ノズル71(
図9参照)から噴射される洗浄流体によって短時間で効率よく除去され、この結果、洗浄工程に要する時間が短縮され、ウェーハWを効率よく短時間で分割することができるという前記第1実施形態において得られたと同様の効果が得られる。
【0055】
なお、以上の実施の形態では、溝形成工程におけるウェーハWへの溝W1の形成方法として、プラズマダイシング(
図5参照)とブレードダイシング(
図6参照)を例として説明したが、他の方法として、レーザー光線をウェーハWに照射して該ウェーハWに溝W1を形成するレーザーアブレーションなどを採用することができる。また、他の方法として、研磨工程の前に必ず拡張工程を実施する第1実施形態では、ウェーハWに対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射して、ウェーハWの内部に改質層を形成し、拡張工程によって改質層を起点にウェーハWを分割してもよい。
【0056】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1:チャックテーブル、2:ポーラス部材、2a:保持面、3:配管、4:吸引源、
5:ノズル、6:水平移動機構、7:ホルダ、8:液状樹脂供給源、9:水平移動機構、
10:プラズマエッチング装置、11:静電チャックテーブル、12,13:電極、
14:直流電源、15:プラズマガス、16:切削ブレード、20:テーブル、
21:第1吸引部、22:第2吸引部、23:配管、24:第1吸引源、25:配管、
26:第2吸引源、27:ローラ、30:フレーム保持部、31:載置プレート、
31a:円孔、32:カバープレート、32a:円孔、40:昇降機構、
41:シリンダ機構、42:シリンダ、43:ピストンロッド、50:熱収縮手段、
51:アーム、52:ヒータ、53:昇降部、54:回転手段、60:研磨装置、
61:スピンドル、62:マウント、63:研磨ホイール、63a:基台、
63b:研磨パッド、64:供給路、65:スラリー供給源、66:配管、
67:昇降機構、70:洗浄装置、71:噴射ノズル、72:水平移動機構、
73:ホルダ、74:洗浄水供給源、75:エア供給源、b1,b2:溝の幅、
C:チップ、D:デバイス、F:リングフレーム、L1,L2:ストリート、
LH:レーザーヘッド、P:保護膜、P1:保護膜溝、S:減圧室、T:テープ、
T1:テープの露出部分、V1~V4:開閉バルブ、W:ウェーハ、
W1:ウェーハの溝、WS:ワークセット