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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015671
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】容器入り流動状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20240130BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L3/00 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117897
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】西村 佑子
(72)【発明者】
【氏名】仲田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】布施 夏子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健
(72)【発明者】
【氏名】図師 奈緒子
【テーマコード(参考)】
4B021
4B036
【Fターム(参考)】
4B021LA05
4B021LA42
4B021LA43
4B021LP01
4B021LW08
4B021LW09
4B036LE02
4B036LE05
4B036LF03
4B036LF05
4B036LG01
4B036LH04
4B036LH10
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH29
4B036LH38
4B036LK01
4B036LK02
4B036LP01
4B036LP18
4B036LP19
(57)【要約】
【課題】粘性のある濃厚なソースに、油溶性風味物質を移行させた油脂であって、風味に優れた細かい油脂 (油滴) が、分散して浮いた状態(油浮き)を達成することができる、新規形態の容器入り流動状食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】油溶性風味物質を含む材料を用いて、ソースを調製するソース調製工程と、
前記ソースと、油脂とを、容器に密封する密封工程と、
前記密封工程の後に、前記容器に密封したソース及び油脂を含む流動状食品を、加熱処理する加熱処理工程と、を含む容器入り流動状食品の製造方法であって、
前記加熱処理後の、前記流動状食品の品温60℃での粘度が4000mPa・s以下であり、
前記流動状食品を温めて喫食する際に油滴が浮いた状態であることを特徴とする容器入り流動状食品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性風味物質を含む材料を用いて、ソースを調製するソース調製工程と、
前記ソースと、油脂とを、容器に密封する密封工程と、
前記密封工程の後に、前記容器に密封したソース及び油脂を含む流動状食品を、加熱処理する加熱処理工程と、を含む容器入り流動状食品の製造方法であって、
前記加熱処理後の、前記流動状食品の品温60℃での粘度が4000mPa・s以下であり、
前記流動状食品を温めて喫食する際に油滴が浮いた状態であることを特徴とする容器入り流動状食品の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理後の、前記流動状食品の品温60℃での粘度が260mPa・sを超える、請求項1に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【請求項3】
前記密封工程において、前記油脂を、流動状食品の総量を基準として1質量%以上容器に密封する、請求項1又は2に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【請求項4】
前記ソース調製工程において、前記ソースが増粘剤を含む、請求項1又は2に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【請求項5】
前記増粘剤が、前記加熱処理後の前記流動状食品の粘度を、前記加熱処理前の粘度と比較して低下させるものである、請求項4に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【請求項6】
前記油脂が、植物油脂又は動物油脂を含む、請求項1又は2に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理がレトルト処理である、請求項1又は2に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り流動状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品などの容器入り流動状食品が知られている。流動状食品を容器に密封し、加熱処理によって殺菌を行うことによって、長期保存が可能となる。消費者は、容器から流動状食品を取り出し、必要に応じて温めるだけで、所望する料理を準備することができる(特開平10-14524号公報)。
前記の特開平10-14524号公報に記載された発明では、特定の澱粉等を含有させたソースに、香油を添加し、加熱して製造したパスタソースを、100℃以上の温度で加熱する(レトルト処理に相当する)。香油を添加して、加熱したソースをレトルト処理した場合は、ソースと油が混然一体となって、油脂 (油滴) が分散して浮いた状態(油浮き)は達成できない(下記の比較例4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-14524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、粘性のある濃厚なソースに、油溶性風味物質を移行させた油脂であって、風味に優れた細かい油脂 (油滴) が、分散して浮いた状態(油浮き)を達成することができる、新規形態の容器入り流動状食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下を提供する。
[1]油溶性風味物質を含む材料を用いて、ソースを調製するソース調製工程と、
前記ソースと、油脂とを、容器に密封する密封工程と、
前記密封工程の後に、前記容器に密封したソース及び油脂を含む流動状食品を、加熱処理する加熱処理工程と、を含む容器入り流動状食品の製造方法であって、
前記加熱処理後の、前記流動状食品の品温60℃での粘度が4000mPa・s以下であり、
前記流動状食品を温めて喫食する際に油滴が浮いた状態であることを特徴とする容器入り流動状食品の製造方法。
[2]前記加熱処理後の、前記流動状食品の品温60℃での粘度が260mPa・sを超える、請求項1に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
[3]前記密封工程において、前記油脂を、流動状食品の総量を基準として1質量%以上容器に密封する、請求項1又は2に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
[4]前記ソース調製工程において、前記ソースが増粘剤を含む、請求項1~3いずれかに記載の容器入り流動状食品の製造方法。
[5]前記増粘剤が、前記加熱処理後の前記流動状食品の粘度を、前記加熱処理前の粘度と比較して低下させるものである、請求項4に記載の容器入り流動状食品の製造方法。
[6]前記油脂が、植物油脂又は動物油脂を含む、請求項1~5いずれかに記載の容器入り流動状食品の製造方法。
[7]前記加熱処理がレトルト処理である、請求項1~6いずれかに記載の容器入り流動状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、特にレトルト処理等の加熱処理中に、高粘性のソースより、油溶性風味物質を油脂に移行させて、粘性のある濃厚なソースに、風味に優れた細かい油脂(油滴)が、分散して浮いた状態(油浮き)の、新規形態のソースが提供される。
前記の油浮きした状態とは、温めて容器から出した流動状食品を喫食する際に、油溶性風味物質が含まれた油滴が、分散して浮いた状態であることを指す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】参考例における、流動物の粘度及び油脂のハンターLabを示す。
図2】参考例における、流動物の粘度及び油脂のa値との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
本発明の容器入り流動状食品の製造方法は、
油溶性風味物質を含む材料を用いて、ソースを調製するソース調製工程と、
前記ソースと、油脂とを、容器に密封する密封工程と、
前記密封工程の後に、前記容器に密封した流動状食品を、加熱処理する加熱処理工程と、を含む。
【0010】
油溶性風味物質としては、当該物質由来の風味を与える、油溶性の物質であれば任意であり、油脂(油脂自体を含む)、肉、魚介、野菜、果実、種子類及び乳成分に含まれる油溶性風味物質が挙げられる。前記油脂としては、菜種油、大豆油、パーム油、マーガリン、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、牛脂、豚脂、バター脂などの動物油脂、魚油、鶏油、各種香味油が挙げられる。油溶性風味物質を含む材料の形態は、ソースに含むことができるものであれば任意であり、具体的には、油脂、肉、魚介、野菜、果実、種子類、香辛料、カレーパウダー、及び乳成分が挙げられる。これらの油溶性風味物質を含む材料は、そのまま用いてもよく、当該材料の粉砕物や抽出物の形態で用いてもよい。これらの油溶性風味物質及び油溶性風味物質を含む材料は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ソースに前記油脂を含まず、前記油溶性風味物質を含む材料のみを含んでもよい。
【0011】
ソース調製工程においては、油溶性風味物質を含む材料を用いてソースを調製する。前記ソースとしては、カレー、シチュー、デミグラスソース、ハヤシ、パスタソース、あんかけソース(中華あんかけソースを含む)などの各種ソースが挙げられる。列記した煮込みソースが、煮込まれて熟成された油溶性風味物質を含むため、好ましいが、これら以外のソースであってもよい。各種ソースは公知の方法によって調製することができる。
ソース調製工程において調製されるソースには、任意の量の油脂を含有させることができる。ソースに含有させる油脂の含有量は、各材料に含む油脂を合せた、ソース中の油脂の総量であって、任意であるが、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。油脂の含有量の上限は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25.5質量%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
ソース調製工程において調製されるソースには、増粘剤を含有させてもよい。前記増粘剤としては、小麦粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉などの澱粉、これらの各種加工澱粉(リン酸架橋澱粉など)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの増粘剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ソースに含有させる増粘剤の量は、下記の加熱処理工程における加熱処理後の流動状食品の粘度が、本発明で規定する範囲になれば、任意である。
前記増粘剤は、好ましくは、下記の加熱処理工程における加熱処理後の流動状食品の粘度を、加熱処理前の粘度と比較して低下させるものである。このような増粘剤としては、未加工の澱粉、及び加熱処理やレトルト処理の後、これらを含む組成物の粘度が低下するように加工された(耐熱性や耐レトルト性が低下するように加工された)加工澱粉が挙げられ、米澱粉、馬鈴薯澱粉、リン酸架橋澱粉などの加工澱粉が挙げられる。これらの増粘剤によって、下記の密封工程までは、ソースの粘度を比較的高く保持して、製造ラインの移送や充填工程における、ソースの分離を回避して均一性を保持し、加熱処理後にソースの粘度を求める粘度に低下させることができる。
【0012】
密封工程では、前記ソースと、油脂とを容器に充填して密封する。すなわち、前記ソースと、ソースとは別の油脂とを、容器に充填して密封する。前記油脂としては、菜種油、大豆油、パーム油、マーガリン、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、牛脂、豚脂、バター脂などの動物油脂、魚油、鶏油、各種香味油などが挙げられるが、これらに限定されない。油脂を使用することにより、前記ソースより、油溶性風味物質を油脂に移行させて、流動状食品の風味を、ソースの風味に一体化して、まとめることができる。これらの油脂は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。密封工程において、前記別に充填する油脂を、流動状食品の総量を基準として、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは0.5~35質量%、より好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは0.5~12質量%、最も好ましくは3~7質量%容器に密封するのがよい。
前記ソースと、前記別に充填する油脂とを容器に充填して密封するときから、下記の加熱処理工程の前までには、前記別に充填する油脂が、前記ソースに乳化などにより一体化しないようにする必要がある。具体的には、例えば、容器に充填する前に、前記ソースと前記油脂とを撹拌混合したり、加熱したりしないようにする。また、容器に充填したときから加熱処理工程の前までに、容器内の前記ソースと前記油脂に、過度な振動を与えないようにすることが望ましい。通常、充填機の充填ノズルなどから、前記ソースと前記油脂とを、別々に容器に充填して密封し、振動を与えずに、加熱処理工程に移送すれば、両者が一体化することはない。すなわち、ソースに一体化した油脂を含む状態で、加熱処理工程で加熱処理された容器入り流動状食品では、流動状食品を温めて喫食する際に、油脂が油滴として浮いてこなくなるため、求める油浮きした状態が達成できない。例えば、前記のように容器に充填する前に、ソースと油脂とを撹拌混合したり、加熱したり、別々に容器に充填密封した後に振動を与えた場合は、ソースと油脂が一体化してしまい、流動状食品を温めて喫食する際に、油滴として浮いてこなくなる場合がある(下記の比較例1~4、6~8を参照)。
前記ソースと、前記油脂とを容器に充填して密封する際、さらに具材や調味料などを充填して密封してもよい。具材としては、動物性の具材や、植物性の具材が挙げられる。動物性の具材としては、鶏肉、豚肉、牛肉、シーフードなどが挙げられる。また、植物性の具材としては、ポテト、人参、ゴボウ、ダイコンなどの根菜類;チェーチ、枝豆などの豆類;レンコン、アスパラなどの茎菜類;ホウレンソウ、ハクサイ、キャベツなどの葉菜類;ナス、トマト、オクラなどの果菜類;ブロッコリー、カリフラワーなどの花菜類;ワカメ、ヒジキ、コンブなえどの藻類;シメジ、マッシュルーム、マイタケなどのきのこ類;パイナップル、リンゴなどの果実類;及びアーモンド、カシューナッツ、ゴマなどの種子類などが挙げられる。
【0013】
加熱処理工程では、容器に密封したソース及び油脂を含む流動状食品を加熱処理する。すなわち、容器内の密封下で、流動状食品を加熱処理する。これにより、油溶性風味物質を油脂に移行させることができる。加熱処理は、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃~160℃、さらに好ましくは95℃~125℃の温度で、好ましくは15分以上、より好ましくは15分~120分加熱する。加熱処理は、好ましくはレトルト処理である。レトルト処理は、好ましくは120℃~125℃の温度で3分~60分加熱する。
加熱処理する方法は特に限定されず、例えば、静置式レトルト装置を用いる加熱法、連続式のボイル殺菌法、マイクロ波加熱殺菌法等の各種静置式加熱処理方法を適用することができ、静置式レトルト装置を用いる加熱法が好適である。これらを、100℃以上、特に、120℃を超える高温条件下において実施することにより、高粘性のソースより、油溶性風味物質を油脂に移行させて、粘性のある濃厚なソースに、風味に優れた細かい油脂(油滴)が、分散して浮いた状態(油浮き)を達成することができる。すなわち、加熱処理工程に付すまでに、ソースと別に充填する油脂とが、一体化することを回避して、容器に密封した流動状食品を加熱処理工程に付すことで、求める油浮きを達成することができる。
【0014】
本発明の製造方法で製造された流動状食品は、求める油浮きの状態と、粘性のあるソースに、前記の油浮きした油滴の香味が合さった、特有の風味と食感を達成する上で、前記加熱処理工程における前記加熱処理後の品温60℃での粘度が4000mPa・s以下であり、好ましくは3000mPa・s以下であり、より好ましくは2000mPa・s以下であり、さら好ましくは1500mPa・s以下であり、最も好ましくは1300mPa・s以下である。また、前記流動状食品は、粘性のあるソースを得る上で、好ましくは加熱処理後の品温60℃での粘度が260mPa・s以上で、より好ましくは500mPa・s以上である。
なお、前記加熱処理前の流動状食品の粘度は、任意であるが、例えば品温60℃での粘度が、前記加熱処理後の流動状食品の品温60℃での粘度と同等程度であるとよい。
【0015】
以下に、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は、実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【実施例0016】
(実施例1)
表1に示されるソース原料を煮込んで調製したソース、油脂及び具材を別個に用意した。これらを容器に充填し、静置式レトルト装置を用いてレトルト処理して、レトルトカレーを製造した。
(比較例1)
油脂である菜種油をソース原料と共に煮込んでソースを調製した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例2)
米澱粉を3質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例2)
米澱粉を3質量部使用した以外は、比較例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例3)
米澱粉を3.5質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例3)
米澱粉を3.5質量部使用した以外は、比較例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例4)
米澱粉を4質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例5)
米澱粉を5.5質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例6)
米澱粉を7質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例4)
(容器に充填する直前に、煮込んだソースと油脂とを混合し、加熱した場合)
米澱粉を3.5質量部使用し、油脂である菜種油を、煮込んで調製したソースに添加して、70℃で1分間加熱し、これと具材を容器に充填した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例5)
米澱粉を8質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例7)
米澱粉2.5質量部に代えてリン酸架橋澱粉2.5質量部を使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例6)
米澱粉2.5質量部に代えてリン酸架橋澱粉2.5質量部を使用した以外は、比較例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例8)
リン酸架橋澱粉を3.5質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例7)
リン酸架橋澱粉を3.5質量部使用した以外は、比較例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例9)
リン酸架橋澱粉を4.5質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例8)
リン酸架橋澱粉を4.5質量部使用した以外は、比較例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例10)
リン酸架橋澱粉を6.5質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例11)
リン酸架橋澱粉を7.8質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例12)
リン酸架橋澱粉を9.1質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(比較例9)
リン酸架橋澱粉を9.6質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例13)
菜種油を1質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
(実施例14)
菜種油を20質量部使用した以外は、実施例1と同様にレトルトカレーを製造した。
【0017】
(粘度)
各レトルトカレーについて、レトルト処理前のソースの60℃粘度と、レトルト処理後のソースの60℃粘度を、次の条件で測定した。
・B型粘度計(東機産業社製、VISCOMETER CONTROLLER RB100 L)
・測定試料温度:60℃
・ローター:No.2もしくはNo.3もしくはNo.4
・回転数:30rpm
・測定時間:30秒
【0018】
(油浮きの分散性)
各レトルトカレーを温めて容器から皿に盛付けたカレーソースの表面に、油が浮いている状態を調べた。
◎:カレーソースの表面の全面に、まばらに細かな、赤茶色の油滴(径1~10mm程度)が分散された状態で油浮きする。
△:◎に比べて、油浮きした油滴が少なく、細かな油滴が十分に分散された状態にならない。
×:カレーソースの表面に油浮きがなく、均質なソースである。
【0019】
(風味)
各レトルトカレーについて、温めたカレーソースの風味を調べた。
◎:油浮きした油滴に、スパイシーな香味が感じられ、これが合さったよりスパイシーなカレーソースの風味である。
△:◎に比べて、油浮きした油滴の香味が弱く、油滴によるカレーソースの風味特長がでていない。
×:油浮きした油滴がなく、一般的なカレーソースの風味である。
【0020】
(食感)
各レトルトカレーについて、温めたカレーソースの、特に粘性による食感と風味を調べた。
◎:適度の粘性があるソースで、重厚な粘性に、前記の油浮きした油滴のスパイシーな香味が合さった、特有のカレーソースのくちどけ、食感である。
△:◎に比べて、粘性のあるソースに、油滴の香味が合さった、特有のカレーソースのくちどけ、食感の特長がでていない。
×:油浮きした油滴がなく、一般的なカレーソースの食感である。
【0021】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0022】
表2及び表3における、実施例1~6の結果に示すように、ソース及び油脂を別個に用意して容器に充填し、米澱粉の使用量を調整して、レトルト処理後の前記ソースの粘度を4000mPa・s以下(260~4000mPa・s)にすることによって、粘性のある濃厚なソースに、風味に優れた細かい油脂(油滴)が、分散して浮いた状態(油浮き)と、これらによる特有の風味と食感を達成できることがわかった。なお、油浮きの分散性の評価が△以上で、風味及び食感の評価が◎のものは、前記の各性能を備えた、総合的に高品質のものと、評価することができる。
一方、比較例1~3の結果に示すように、油脂をソース原料と共に煮込んでソースを調製して容器に充填した場合には、レトルト処理後の前記ソース粘度を4000mPa・s以下にしても、油脂とソースが一体化して、前記の油浮きした状態と、これによる特有の風味と食感を、達成することができないことがわかった。また、比較例4の結果に示すように、容器に充填する直前に、煮込んだソースと油脂とを混合し、加熱した場合にも、レトルト処理後の前記ソース粘度を4000mPa・s以下にしても、油脂とソースが一体化して、前記の油浮きした状態と、これによる特有の風味と食感を、達成できないことがわかった。さらに、比較例の結果に示すように、ソース及び油脂を別個に容器に充填し、レトルト処理を行っても、レトルト処理後のソース粘度が4000mPa・sを超える場合は、十分に油浮きがなく、カレーソースの風味、食感が劣ることがわかった。
また、表4及び表5における、実施例7~12の結果に示すように、増粘材をリン酸架橋澱粉に代えた場合も、前記の米澱粉を用いた実施例1~6の結果と同様に、ソース及び油脂を別個に用意して容器に充填し、レトルト処理後の前記ソースの粘度を4000mPa・s以下にすることによって、粘性のあるソースに、風味に優れた油滴が油浮きした状態と、特有の風味と食感を達成できることがわかった。
一方、比較例6~9の結果に示すように、リン酸架橋澱粉を用いた場合も、油脂をソース原料と共に煮込んでソースを調製した場合や、レトルト処理後のソースの粘度が4000mPa・sを超える場合には、所望する油浮きした状態と、これによる特有の風味と食感を、達成することができないことがわかった。
また、表6における、実施例13、14の結果に示すように、別に充填する油脂の割合を、ソースの総量を基準として、1質量%及び20質量%とし、ソース及び当該油脂を別個に用意して容器に充填して、レトルト処理後のソースの粘度を700mPa・sとした場合にも、所望する油浮きした状態と、これによる特有の風味と食感を、達成できることがわかった。実施例13で、油脂の割合が少ないことで、油浮きも少なくなるが、明確に油浮きは確認された。
さらに、以上の各実施例の結果から、以下の参考実験例の結果と符合するように、レトルト処理後のソースの粘度を4000mPa・s以下にすることによって、ソース中の油溶性風味物質を油浮きした油滴に移行させて、粘性のあるソースに、風味に優れた油滴が油浮きした状態を達成できることが確認された。
【0023】
(参考例 流動物の粘度と、別に充填する油脂への油溶性物質の移行との関係)
トマトペースト4質量%及び米澱粉0~7質量%(添加量を振った試験区1~8)の混合物と、菜種油5質量%とを別個に用意した。これらを容器に充填し、静置式レトルト装置を用いてレトルト処理した。レトルト処理後の流動物の粘度と、流動物に含まれる油脂のハンターLab(L値、a値、b値)を測定した。粘度の測定は、前述したものと同様の方法で行い、ハンターLabの測定は、測色色差計(日本電色工業社製)を用いて行った。
図1に、左から順に、米澱粉0質量%の試験区1、同1質量%の試験区2、同2質量%の試験区3、同3質量%の試験区4、同4質量%の試験区5、同5質量%の試験区6、同6質量%の試験区7、同7質量%の試験区8の、流動物の粘度及び油脂のハンターLabを示す。また、図2に、左から同様の順に並べた、試験区1~8の、流動物の粘度及び油脂のa値(正側で増加すると赤味を示す)を示す。なお、各図のa値については、各試料について測定したa値から、blanc(菜種油のみ)のa値:-0.38(図示せず)を減じた値を示す。例えば、試験区1のa値は、0.84-(-0.38)=1.22となる。
色調について、a値(正側で増加すると赤味)のblancとの差が、レトルト処理後の流動物の粘度が3260mPa・sの試験区7:0.29、及び4180mPa・sの試験区8:0.26で、数値的にも、視覚的にも赤味において有意差あり、と判断できる。これより、色素の溶出・移行が認められ、風味との関係性が裏付けられる。
なお、L値(明度に対応し、100=白、0=黒)は、前記試料の粘度のもので4180>3260>blancになっているが、澱粉の影響と考えられ、色素の溶出・移行とは無関係である。
a値等のデータ上は、粘度が4180のものでも色素の溶出・移行は見られているが、粘度が4000を超えると、ソースの粘度が高すぎて、分散性や食感が悪くなる傾向となる。
(実施例15)
菜種油2質量部、リン酸架橋澱粉2質量部、砂糖1.3質量部、食塩1.5質量部、トマト7.5質量部及びミンチ肉7%質量部を煮込んで調製したソースと、菜種油4.5質量部(以上を合せて100質量部)とを別個に用意した。これらを容器に充填し、静置式レトルト装置を用いてレトルト処理して、レトルトパスタソースを製造した。
前記の方法と同様に測定した、レトルト処理後の具材を除いたパスタソースの品温60℃での粘度は、約1500mPa・sであった。パスタソースは、粘性のある濃厚なソースに、風味に優れた細かい油脂(油滴)が、分散して浮いた状態(油浮き)と、これらによる特有の風味と食感を有していた。前記と同様に評価した「油浮きの分散性」、「風味」、「食感」は、いずれも「◎」であった。
(実施例16)
菜種油0.7質量部、リン酸架橋澱粉2.5質量部、砂糖1.5質量部、食塩0.75質量部及び調味料(豆板醤を含む)2.5質量部を煮込んで調製したソースと、菜種油5質量部と、具材の豆腐30質量部(以上を合せて100質量部)とを別個に用意した。これらを容器に充填し、静置式レトルト装置を用いてレトルト処理して、レトルト中華あんかけソースを製造した。
前記の方法と同様に測定した、レトルト処理後の具材を除いた中華あんかけソースの品温60℃での粘度は、約1200mPa・sであった。中華あんかけソースは、粘性のある濃厚なソースに、風味に優れた細かい油脂(油滴)が、分散して浮いた状態(油浮き)と、これらによる特有の風味と食感を有していた。前記と同様に評価した「油浮きの分散性」、「風味」、「食感」は、いずれも「◎」であった。
図1
図2