(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156751
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電子エミッタ及びそれを製作する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20241029BHJP
H01J 37/073 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/073
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024120681
(22)【出願日】2024-07-26
(62)【分割の表示】P 2023061953の分割
【原出願日】2017-07-31
(31)【優先権主張番号】62/372,084
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/531,793
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ドウ,ユーイン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ジェン
(72)【発明者】
【氏名】クオ,ツゥイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ゾンウェイ
(57)【要約】
【課題】電子エミッタ及びその電子エミッタを製作する方法を提供する。
【解決手段】特定の実施形態により、電子エミッタは、約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有する平面領域を備えた先端部を含む。電子エミッタ先端部は、電界放出電子を解放するように構成される。この電子エミッタは、先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料を更に含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有する平面領域を備えた先端部と、
前記先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料と、
を含む、電子エミッタ。
【請求項2】
前記先端部が単結晶タングステンを含み、前記単結晶タングステンが<100>の結晶方位を有する、請求項1に記載の電子エミッタ。
【請求項3】
前記先端部が遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含み、前記遷移金属炭化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物であり、前記遷移金属ホウ化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物である、請求項1に記載の電子エミッタ。
【請求項4】
前記仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つ、あるいは
ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つ、あるいは
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、請求項1に記載の電子エミッタ。
【請求項5】
電界放出電子を解放するように構成された先端部であって、約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を備えた平面領域を有する先端部と、
前記先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料と、
を含むエミッタと、
前記エミッタに熱エネルギーを提供するように構成された加熱コンポーネントと、
を含む、熱電界放出カソード。
【請求項6】
前記先端部が遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含み、前記遷移金属炭化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物であり、前記遷移金属ホウ化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物である、請求項5に記載の熱電界放出カソード。
【請求項7】
前記仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つ、あるいは
ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つ、あるいは
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、請求項5に記載の熱電界放出カソード。
【請求項8】
ベースと、
前記ベース内に埋め込まれた2つの電極と、
2つの端部と中心部分とを含む導電ワイヤであって、前記導電ワイヤの前記2つの端部がそれぞれ前記2つの電極に接続され、前記エミッタが前記導電ワイヤの前記中心部分に装着され、前記導電ワイヤが前記中心部分で前記エミッタに対して凸状になっている導電ワイヤと、
を更に含む、請求項5に記載の熱電界放出カソード。
【請求項9】
先端部を有する電子エミッタに抑制を加えることと、
前記抑制の下で、前記先端部上に平面領域を形成することと、
前記抑制を除去することと、
を含む、方法。
【請求項10】
前記先端部上に前記平面領域を形成することが、
前記電子エミッタの前記先端部を研磨して、前記平面領域を形成すること
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記先端部に固定具又はジグを取り付けることと、
前記固定具又はジグを使用して、前記平面領域を形成することと、
を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記電子エミッタに前記抑制を加えることが、
前記先端部上にワックスを塗布すること
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記抑制が除去された後に前記電子エミッタを加熱することであって、前記加熱が前記先端部上の汚染物質を除去することと、
前記加熱後に前記先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることと、
を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記抑制が除去された後に前記先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることであって、前記仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つ、あるいは
ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つ、あるいは
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つ
を含むこと
を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記電子エミッタの端部部分をエッチングして、前記先端部を形成すること
を更に含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001] 本出願は、2016年8月8日に出願された米国特許出願第62/372,084号及び2017年7月12日に出願された米国特許出願第62/531,793号の優先権を主張するものであり、これらの出願は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[002] 本発明は、一般に荷電粒子源の分野に関し、詳細には電子ビーム装置で使用される電子エミッタ及びその電子エミッタを製作する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[003] 集積回路(IC)の製造プロセスでは、設計通りに製造され、欠陥がないことを保証するために、完成していないか又は完成した回路コンポーネントが検査される。光学顕微鏡を使用する検査システムは典型的に数百ナノメートルの分解能を有し、その分解能は光の波長によって制限される。ICコンポーネントの物理的サイズは100ナノメートル未満又は10ナノメートル未満まで縮小し続けているので、光学顕微鏡を使用するものより高い分解能が可能な検査システムが必要である。
【0004】
[004] 1ナノメートル未満の分解能が可能な走査電子顕微鏡(SEM)又は透過電子顕微鏡(TEM)などの荷電粒子(例えば、電子)ビーム顕微鏡は、100ナノメートル未満のフィーチャサイズを有するICコンポーネントを検査するための実用向きのツールとして機能する。SEMでは、単一の1次電子ビームの電子又は複数の1次電子ビームの電子を検査中のウェーハの所定のスキャン位置に合焦させることができる。1次電子は、ウェーハと相互作用し、後方散乱される場合もあれば、ウェーハに2次電子を放出させる場合もある。後方散乱された電子及び2次電子を含む電子ビームの強度は、ウェーハの内部及び/又は外部構造の特性に基づいて変動する可能性があり、その結果、ウェーハに欠陥があるかどうかを示す。
【0005】
[005] しかしながら、その高い分解能のために、典型的な電子ビーム検査ツールのスループットは低い。これが、電子ビーム検査ツールを大規模なウェーハ検査に適用するのを制限している。スループットを改善するための手法の1つは、ウェーハ上のより大きい領域をスキャンできるように又は複数の別個の領域を同時にスキャンするために複数のビームレットに分割できるように、1次電子ビームのビーム電流を増加することである。ショットキーエミッタなどの現在の電子エミッタは、明るい照明を発生できるが、電子を放出できる放出領域として小さい放出領域を有するだけである。これが、所与の輝度で達成可能な最大ビーム電流を制限している。その上、放出領域は高輝度動作(即ち、高温及び/又は高電界)中に容易に変形される可能性があり、これが放出された電子ビームに対する不安定性を引き起こすか又は放出領域を低減する。従って、現在の電子エミッタは高スループット要件を満たすことができない。
【発明の概要】
【0006】
[006] 本発明の諸実施形態は、電子エミッタ及びその電子エミッタを製作する方法に関する。いくつかの実施形態では、電子エミッタが提供される。この電子エミッタは、約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有する平面領域を備えた先端部を含む。この電子エミッタは、先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料(work-function-lowering material)を更に含む。
【0007】
[007] いくつかの実施形態では、熱電界放出カソード(thermal field emission cathode)が提供される。熱電界放出カソードはエミッタを含み、そのエミッタは電界放出電子を解放するように構成された先端部を更に含み、その先端部は約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を備えた平面領域を有する。この熱電界放出カソードは、先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料も含む。この熱電界放出カソードは、エミッタに熱エネルギーを提供するように構成された加熱コンポーネントを更に含む。
【0008】
[008] いくつかの実施形態では、電子エミッタを製作する方法が提供される。この方法は、先端部を有する電子エミッタに抑制(restraint)を加えることを含む。また、この方法は、抑制の下で、先端部上に平面領域を形成することも含む。この方法は、抑制を除去することを更に含む。
【0009】
[009] いくつかの実施形態では、電子エミッタを製作する方法が提供される。この方法は、基礎材料を有する電子エミッタの先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることを含む。この仕事関数低下材料は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物、ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物、及びジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0010】
[010] 開示されている諸実施形態の追加の目的及び利点は、部分的に以下の説明に明記され、部分的にその説明から明らかになり、あるいは諸実施形態の実践から学習することもできる。開示されている諸実施形態の目的及び利点は、特許請求の範囲に明記されている要素及び組み合わせによって実現し、達成することができる。
【0011】
[011] 上記の一般的な説明及び以下の詳細な説明は模範的かつ説明的なものにすぎず、特許請求の範囲に記載の開示された諸実施形態について制限的なものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】[012]本発明の諸実施形態と一貫している、模範的な電子ビームツールを示す概略図である。
【
図2】[013]
図1の模範的な電子ビームツールで使用される模範的な熱電界放出カソードを示す概略図である。
【
図3A】[014]コーティング材料なしの従来のタングステンエミッタ先端部を示す概略図である。
【
図3B】[015]本発明の諸実施形態と一貫している、仕事関数低下材料によってコーティングされたエミッタ先端部を示す概略図である。
【
図4】[016]本発明の諸実施形態と一貫している、電子エミッタを調製する模範的な方法のフローチャートである。
【
図5】[017]本発明の諸実施形態と一貫している、電子エミッタを調製する模範的な方法のフローチャートである。
【
図6】[018]本発明の諸実施形態と一貫している、
図2の熱電界放出カソードのエミッタ先端部に取り付けられた固定具又はジグを示す概略図である。
【
図7】[019]本発明の諸実施形態と一貫している、電子エミッタを調製する模範的な方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[020] 次に、模範的な諸実施形態について詳細に言及するが、その例は添付図面に示されている。以下の説明は添付図面を参照するものであり、添付図面では、異なる図面における同じ番号は、他の表現がない限り、同じか又は同様の要素を表している。模範的な諸実施形態の以下の説明に明記されている実施形態は、本発明と一貫しているすべての実施形態を表しているわけではない。その代わりに、それらは、特許請求の範囲に列挙されているように本発明に関する諸態様と一貫している装置及び方法の例にすぎない。
【0014】
[021] 本出願は、高い輝度及びビーム電流を備えた電子ビームを発生できる電子エミッタ並びにその電子エミッタを調製又は製作するための方法を開示するものである。開示されている電子エミッタは、集積回路(IC)の製造プロセスなどの多くの技術で使用することができる。
図1は、本発明の諸実施形態と一貫している、模範的な電子ビームツール10を示す概略図である。
図1に示されているように、電子ビームツール10は、電動ステージ(motorized stage)134と、検査すべきウェーハ150を保持するために電動ステージ134によって支持されるウェーハホルダ136とを含む。電子ビームツール10は、カソード100と、アノード120と、ガンアパーチャ122と、ビーム限定アパーチャ124と、集光レンズ126と、ソース変換ユニット128と、対物レンズアセンブリ132と、ビームセパレータ138と、電子検出器140とを更に含む。ソース変換ユニット128は、いくつかの実施形態では、マイクロデフレクタアレイ129とビームレット限定プレート130とを含むことができる。対物レンズアセンブリ132は、一実施形態では、変更スウィング対物レンズ制動液浸レンズ(modified swing objective retarding immersion lens)(SORIL)を含むことができ、これは磁極片132a、制御電極132b、デフレクタ132c、及び励磁コイル132dを含む。電子ビームツール10は、ウェーハ上の材料を特徴付けるためにエネルギー分散型X線分光計(EDS)検出器(図示せず)を更に含むことができる。
【0015】
[022] 電子ビームツール10が動作すると、検査すべきウェーハ150は、電動ステージ134によって支持されたウェーハホルダ136上に装着又は配置される。アノード120とカソード100の間に電圧が加えられ、カソード100が電子ビーム160を放出する。放出された電子ビームはガンアパーチャ122及びビーム限定アパーチャ124を通過し、どちらのアパーチャも、ビーム限定アパーチャ124の下に存在する集光レンズ126に入る電子ビームのサイズを決定することができる。電子ビーム160がソース変換ユニット128に入る前に、集光レンズ126は放出された電子ビーム160を合焦させることができる。マイクロデフレクタアレイ129は、放出されたビームを複数の1次電子ビーム160a、160b、及び160cに分割することができる。複数の1次ビームの数は3に限定されず、マイクロデフレクタアレイ129は、放出されたビームをより大きい数の1次電子ビームに分割するように構成することができる。ビームレット限定プレート130は、対物レンズアセンブリ132に入る前に複数の1次電子ビームのサイズを設定することができる。デフレクタ132cは、ウェーハ上のビームスキャンを容易にするために、1次電子ビーム160a、160b、及び160cを偏向する。例えば、スキャンプロセスにおいて、デフレクタ132cは、ウェーハ150の異なる部分について画像再構成のためのデータを提供するために、異なる時点でウェーハ150の上面の異なる位置上に同時に1次電子ビーム160a、160b、及び160cを偏向するように制御することができる。
【0016】
[023] 励磁コイル132d及び磁極片132aは、磁極片132aの一方の端部から始まり、磁極片132aのもう一方の端部で終わる磁界を発生する。1次電子ビーム160によってスキャンされているウェーハ150の一部は、磁界に浸すことができ、帯電させることができ、次にこれが電界を発生する。電界は、ウェーハと衝突する前にウェーハの表面付近で1次電子ビーム160と衝突するエネルギーを低減する。制御電極132bは、磁極片132aから電気的に隔離され、ウェーハのマイクロアーチングを防止し、適切なビーム焦点を保証するために、ウェーハ上の電界を制御する。
【0017】
[024] 後方散乱された1次電子及び2次電子は、1次電子ビーム160a、160b、及び160cを受け取った時にウェーハ150の一部から放出することができる。ビームセパレータ138は、後方散乱された2次電子を含む2次及び/又は散乱電子ビーム170a、170b、及び170cを電子検出器140のセンサ表面に誘導することができる。検出された電子ビーム170a、170b、及び170cは、電子検出器140のセンサ表面上に対応するビームスポット180a、180b、及び180cを形成することができる。電子検出器140は、受け取ったビームスポットの強度を表す信号(例えば、電圧、電流など)を発生し、その信号を処理システム(
図1には図示せず)に提供することができる。2次及び/又は散乱電子ビーム170a、170b、及び170c並びにその結果のビームスポットの強度は、ウェーハ150の外部及び/又は内部構造に応じて変動する可能性がある。その上、上述のように、1次電子ビーム160a、160b、及び160cは、ウェーハ150の上面の異なる位置に投影されて、異なる強度の2次及び/又は散乱電子ビーム170a、170b、及び170c(並びにその結果のビームスポット)を発生することができる。従って、ウェーハ150の位置によってビームスポットの強度をマッピングすることにより、処理システムは、ウェーハ150の内部及び/又は外部構造を反映する画像を再構成することができる。
【0018】
[025]
図1は、ウェーハ150の複数の位置を同時にスキャンするために複数の1次電子ビームレットを使用するマルチビーム検査ツールとして電子ビームツール10を示しているが、電子ビームツール10は、一度にウェーハ150の1つの位置をスキャンするために1つの1次電子ビームのみを使用する単一ビーム検査ツールにすることができることも企図されている。その上、電子ビームツール10は、電子ビーム直接描画(EBDW)システムなどの電子ビームリソグラフィ(EBL)システムとして実現することもできる。本出願は、開示されている電子エミッタが適用される特定のシステム又は技術分野を限定しない。
【0019】
[026] 電子ビームツール10がウェーハを検査するために使用されるのか又は電子ビームリソグラフィを実行するために使用されるのかにかかわらず、開示されている電子エミッタは、電子ビームツール10のスループットを改善するためにより大きいビーム電流を放出することができる。
図2は、
図1の模範的な電子ビームツールで使用されるカソード100を示す概略図である。模範的な諸実施形態では、カソード100は、電子を放出するために熱と電界の組み合わせを使用する熱電界放出カソード、例えば、ショットキーカソードにすることができる。
図2を参照すると、カソード100は、電子エミッタ102と、フィラメント110と、2つの電極112と、ベース114とを含む。
【0020】
[027] ベース114は、セラミック又はサーマルセラミックなどの電気絶縁材料で作られる。いくつかの実施形態では、電気絶縁材料は、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)などにすることができる。ベース114は2つの電極112を支持する。それぞれの電極112は一方の端部がベース114に埋め込まれている。電極112は、ニッケル鉄合金などの導電材料で作られる。
【0021】
[028] フィラメント110は、例えば、タングステン又はレニウムで作られた導電ワイヤである。フィラメント110の2つの端部は、2つの電極112にそれぞれ溶接される。また、フィラメント110は中心部分で曲げることもできる。フィラメント110の曲げた角度は10~100度の範囲にすることができる。電子エミッタ102は、フィラメット110が中心部分で電子エミッタ102に対して凸状になるように、フィラメント110の中心部分に装着される。
【0022】
[029] 電子エミッタ102は、頂点106を有するエミッタ先端部104を含む。頂点106は平面領域にすることができる。放出された電子は、狭いエネルギー帯にあり、頂点106から放出円錐内に放出される。通常、電子エミッタ102から脱出するために、電子は、頂点106の表面に存在する原子及び/又は分子によってもたらされたエネルギー障壁を克服するために十分なエネルギーを獲得しなければならない。エネルギー障壁を克服するために必要なエネルギーの量は電子エミッタ102の仕事関数として知られている。模範的な諸実施形態では、エミッタ先端部104及び特にスペック106は、仕事関数を低下させるためにコーティング材料108の薄い層でコーティングすることができる。本発明では、電子エミッタ102の本体を構成する材料は「基礎材料」と呼び、コーティング材料108は「仕事関数低下材料」と呼ぶ。
【0023】
[030] カソード100がショットキーカソードとして実現されると、電流は電極112を通ってフィラメント110に供給される。フィラメント110は電子エミッタ102を加熱し、仕事関数障壁を越えて脱出できるように電子エミッタ102内の電子を熱励起する。追加的に又は代替的に、カソード100及びアノード120はエミッタ先端部112で強い電界を発生することができ、これは仕事関数障壁を通り抜けることにより電子の放出を容易にする。エミッタ温度及び/又は電界の強さを調節することにより、カソード100は電子エミッタ102から放出されるビーム電流を変更することができる。
【0024】
[031] ショットキーカソードは明るい電子ビームを発生することができる。典型的なショットキーカソードで使用されるエミッタ、即ち、典型的なショットキーエミッタは、<100>、<110>、<111>、又は<310>の方位に配向されたタングステンの単結晶から作られる。ショットキーエミッタは、モリブデン、イリジウム、又はレニウムなどのその他の基礎材料から作ることもできる。また、ショットキーエミッタは、例えば、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、バナジウム、トリウム、スカンジウム、ベリリウム、又はランタンの酸化物、窒化物、及び炭素化合物などの化合物を含む、仕事関数低下材料によってコーティングすることもできる。例えば、ショットキーエミッタの頂点表面をタングステンの(100)結晶面にし、仕事関数低下材料として酸化ジルコニウム(ZrO)を使用することにより、ショットキーエミッタの仕事関数を4.5eVから2.8eVに低下することができる。仕事関数の低減はショットキーエミッタをより明るい電子源にする。このようなZrOコーティングのタングステンエミッタの作業温度、即ち、エミッタの頂点における温度は(300~1,800)Kの範囲内になる。
【0025】
[032] タングステンショットキーエミッタは明るい電子ビームを発生できるが、エミッタに加えられた電界及び温度はエミッタの頂点で表面自己拡散を引き起こす可能性がある。具体的には、ショットキーエミッタの高い作業温度では、基礎材料及びコーティング材料がエミッタの頂点から蒸発する傾向があり、これが頂点の本来の平面状の表面を湾曲した表面に変化させる。その間に、高い電界は頂点において基礎材料及びコーティング材料を移動させ、従って、頂点の表面を収縮させ、例えば、エミッタの先端部を先鋭化させる。このため、高温と高電界の複合効果は頂点を不規則な表面にする傾向がある。
図3Aは、コーティング材料なしの従来のタングステンエミッタの先端部204を示す概略図である。
図3Aに示されているように、先端部204は頂点206を含み、これは本来は平面状の表面を有する(図示せず)。しかしながら、タングステンエミッタが高温及び高電界の下で動作し続けると、頂点206の表面は徐々に変形され、これが電子放出に対する不安定性を引き起こし、ビーム電流を低下させる。
【0026】
[033]
図2に戻って参照すると、開示されている諸実施形態では、表面変形を低減するために、電子エミッタ102の基礎材料は、遷移金属炭化物化合物及び/又は遷移金属ホウ化物化合物から選択することができる。例えば、遷移金属炭化物化合物は、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物にすることができる。また、例えば、遷移金属ホウ化物化合物は、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物にすることができる。
【0027】
[034] タングステンと比較すると、遷移金属炭化物又は遷移金属ホウ化物は、より高い融点、より高い硬さ、及びより低い仕事関数を有する。例えば、炭化ハフニウムは、4,163Kの融点を有し、(3.3~3.6)eVの範囲内の仕事関数を有する。遷移金属炭化物及び遷移金属ホウ化物のこのような特性により、これらの化合物は高温及び/又は高電界の下で表面変化を受けにくくなる。
【0028】
[035] いくつかの実施形態では、その仕事関数を更に低下させるために、遷移金属炭化物及び遷移金属ホウ化物上に仕事関数低下材料をコーティングすることができる。仕事関数低下材料は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0029】
[036] 代替的に又は追加的に、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0030】
[037] 代替的に又は追加的に、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0031】
[038]
図3Bは、本発明の諸実施形態と一貫している、仕事関数低下材料108によってコーティングされたエミッタ先端部104を示す概略図である。エミッタ先端部104の基礎材料は遷移金属炭化物及び/又は遷移金属ホウ化物を含む。仕事関数低下材料108は、上記で開示されている仕事関数低下材料を含み、例えば、約3.3eVから約2.3eVに遷移金属炭化物及び/又は遷移金属ホウ化物の仕事関数を低下させることができる。低下した仕事関数により、頂点106から放出される電子ビームの角強度は、電子が放出される立体角で割った電子流(即ち、ビーム電流)として定義され、(15~400)mA/Srの範囲に達する可能性がある。その上、所与の輝度を達成するためにエミッタ先端部104に加える必要がある電界が低減される可能性がある。このようにより弱い電界により、頂点106における表面変形の機会が低減される。
図3Bによって示されているように、頂点106の平面状の表面は、延長された期間の間、変形なしで維持することができる。
【0032】
[039] 開示されている諸実施形態では、頂点106から放出される電子の角強度を増すために、電子エミッタ102の放出領域、即ち、頂点106における平面領域を拡大することもできる。
図2に戻って参照すると、いくつかの実施形態では、頂点106は、約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有するように構成することができる。例えば、このような頂点直径を備えたタングステンエミッタから放出される電子ビームの角強度は(1~25)mA/Srの範囲に達する可能性がある。
【0033】
[040] 伝統的に、タングステンの機械的強度は比較的低いので、タングステン先端部の頂点のサイズを拡大することは困難であった。上記で説明したように、遷移金属炭化物又は遷移金属ホウ化物はタングステンより高い硬さを有する。従って、タングステンエミッタと比較すると、遷移金属炭化物又は遷移金属ホウ化物で作られたエミッタ先端部を研磨することはより容易である。その上、以下に記載されている方法500及び700は、エミッタ先端部がタングステン、遷移金属炭化物、遷移金属ホウ化物、又はその他の種類の基礎材料のいずれで作られている場合でも、エミッタ先端部の頂点のサイズを拡大するために使用することができる。
【0034】
[041] 放出される電子の角強度が増したことにより、開示されている電子エミッタ102は、電子ビームツール10のスループットを改善するのに役立つ可能性がある。例えば、電子ビームツール10が単一ビーム検査ツールである場合、より高い角強度を備えた1次電子ビームを使用して、ウェーハ150上のより大きい領域をスキャンするか又は高アスペクト比コンタクト(HARC)の電位コントラスト(VC)欠陥検査を実行することができる。他の例として、電子ビームツール10が複数ビーム検査ツールである場合、より高い角強度により、ウェーハ150上の複数の位置を同時にスキャンできるように、1次電子ビームを複数のビームレットに分割することが実行可能になる。その上、単一ビーム検査ツールの場合と同様に、より高い角強度により、マルチビーム検査ツールが電位コントラスト欠陥検査を実行することが可能になる。更に他の例として、電子ビームツール10がEBDWシステムである場合、より高い角強度により、より大きいビーム電流が提供され、これがリソグラフィの効率を改善する。
【0035】
[042] 次に、開示されている電子エミッタを調製又は製作する模範的な方法を開示する。
図4は、本発明のいくつかの実施形態により、電子エミッタを調製する模範的な方法400のフローチャートである。例えば、電子エミッタは
図2に示されている電子エミッタ102にすることができる。電子エミッタの基礎材料は、遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。遷移金属炭化物化合物は、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物にすることができる。遷移金属ホウ化物化合物は、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物にすることができる。方法400は、電子エミッタの仕事関数を低下させるために、電子エミッタのエミッタ先端部(例えば、エミッタ先端部104)上に仕事関数低下材料(例えば、仕事関数低下材料108)をコーティングするために実行することができる。
【0036】
[043]
図4を参照すると、方法400は以下のステップ410~430のうちの1つ以上を含むことができる。ステップ410では、エミッタワイヤ又はロッドの端部部分をエッチングして、電子エミッタのエミッタ先端部を形成する。エミッタワイヤ/ロッドの基礎材料は遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物を含む。いくつかの実施形態では、エミッタワイヤ/ロッドは、当技術分野で知られている任意のエッチング方法を使用して、電気化学的にエッチングすることができる。いくつかの実施形態では、電子エミッタがすでにエミッタ先端部を有する市販のエミッタである場合など、エミッタ先端部がすでに形成されている場合、ステップ410は省略することができる。
【0037】
[044] ステップ420では、電子エミッタ上で熱処理を実行して、エミッタ先端部の表面上の汚染物質を脱着する。例えば、電子エミッタに直流を流すか、電子で電子エミッタに衝撃を与えるか、高温フィラメントを電子エミッタに直接接触させるか、又は電界放出により電子エミッタを抵抗加熱することにより、電子エミッタを加熱することができる。本発明は、熱処理を実行する方法を限定しない。
【0038】
[045] ステップ430では、仕事関数低下材料(例えば、仕事関数低下材料108)の層でエミッタ先端部をコーティングする。開示されている諸実施形態では、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0039】
[046] 代替的に又は追加的に、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0040】
[047] 代替的に又は追加的に、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0041】
[048]
図5は、本発明のいくつかの実施形態により、電子エミッタを調製する模範的な方法500のフローチャートである。例えば、電子エミッタは
図2に示されている電子エミッタ102にすることができる。電子エミッタは、電子を放出するのに適したエミッタ先端部(例えば、エミッタ先端部104)をすでに備えている可能性があり、方法500は電子エミッタの頂点(例えば、頂点106)のサイズを拡大するために使用することができる。電子エミッタの基礎材料は、タングステン、モリブデン、イリジウム、レニウム、遷移金属炭化物化合物、遷移金属ホウ化物化合物、又はその他の種類の基礎材料を含むことができる。
【0042】
[049]
図5を参照すると、方法500は以下のステップ510~550のうちの1つ以上を含むことができる。ステップ510では、エミッタ先端部に抑制を加える。抑制は、エミッタ先端部が応力を受けている時にエミッタ先端部が機械的歪に耐えるのを支援するため、エミッタ先端部における基礎材料の機械的強度を強化するため、エミッタ先端部の基礎材料に対する頂点拡大プロセスによって直接加えられた応力を軽減するため、及び/又はエミッタ先端部が動かないように保持するために使用される。このように、エミッタ先端部を破損又は損傷せずに頂点を研磨することができる。いくつかの実施形態では、抑制は、エミッタ先端部の周りを保持するか、それに固定されるか、それに取り付けられるか、それに装着されるか、又はそれに接着される、固定具、ジグ、又はクランプの形にすることができる。
【0043】
[050]
図6は、本発明のいくつかの実施形態により、
図2のエミッタ先端部104に取り付けられた模範的な固定具又はジグ109を示す概略図である。
図6を参照すると、固定具又はジグ109は、エミッタ先端部104上に塗布されたワックス、例えば、サーマルワックスにすることができる。ワックス109は、エミッタ先端部104の周りに層を形成する。このワックス層は、エミッタ先端部104の基礎材料上の応力を効果的に軽減するのに適した厚さを有する。エミッタ先端部104が仕事関数低下材料108でプレコーティングされる場合、ワックス109は仕事関数低下材料108の上に直接塗布することができる。代替的に、仕事関数低下材料108はまずエミッタ先端部104から除去することができ、ワックス109はその後、エミッタ先端部104の基礎材料に塗布される。
【0044】
[051]
図5に戻って参照すると、方法500のステップ520では、抑制の下で望ましいサイズを備えた平面領域を頂点に形成することができる。代替的に、方法500を実行する前に頂点がすでに平面領域を備えている場合、望ましいサイズに達するように平面領域を拡大することができる。
【0045】
[052] 平面領域は、様々な方法を使用して、形成又は拡大することができる。いくつかの実施形態では、抑制は、頂点において平面領域を形成又は拡大するのに十分な力を発生することができる。例えば、平面領域を直接形成するためにエミッタ先端部上で固定具/ジグ/クランプを適用することができる。他の実施形態では、抑制を受けたエミッタ先端部を研磨して、平面領域を形成又は拡大することができる。この研磨は、当技術分野で知られている任意の研磨方法を使用して、電気分解的に又は機械的に実行することができる。
【0046】
[053] エミッタ先端部に抑制(例えば、固定具、ジグ、クランプ、ワックスなど)が加えられるので、エミッタ先端部は、破損又は損傷せずにより大きい歪又は応力に耐えることができる。このため、エミッタ先端部を損傷せずに、例えば(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を備えた平面領域を頂点に形成することができる。
【0047】
[054] ステップ530では、望ましいサイズを備えた平面領域を頂点に形成した後、エミッタ先端部から抑制を除去する。例えば、抑制がワックスの形である場合、ワックスを熱で溶かし、アセトンで洗い流すことができる。
【0048】
[055] ステップ540では、電子エミッタ上で熱処理を実行して、エミッタ先端部の表面上の汚染物質を脱着する。このステップは、方法400のステップ420と同様のものである。
【0049】
[056] ステップ550では、仕事関数低下材料(例えば、仕事関数低下材料108)の層でエミッタ先端部をコーティングする。仕事関数低下材料は、基礎材料のタイプに基づいて選択することができる。例えば、基礎材料がタングステン、モリブデン、イリジウム、又はレニウムである場合、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、イットリウム、ニオブ、バナジウム、トリウム、スカンジウム、ベリリウム、又はランタンの酸化物、窒化物、及び炭素化合物にすることができる。
【0050】
[057] 他の例として、基礎材料が遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物である場合、仕事関数低下材料は、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物、ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物、及び/又はジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物を含むことができる。
【0051】
[058]
図7は、本発明のいくつかの実施形態により、電子エミッタを調製する模範的な方法700のフローチャートである。例えば、電子エミッタは
図2に示されている電子エミッタ102にすることができる。方法600とは異なり、方法700は、電子を放出するのに適したエミッタ先端部(例えば、エミッタ先端部104)なしのエミッタワイヤ又はロッドから、望ましい頂点サイズを備えた電子エミッタを調製するために実行することができる。エミッタワイヤ又はロッドは、調製すべき電子エミッタを構成する基礎材料で作られる。
図7を参照すると、方法700は以下のステップ710~760のうちの1つ以上を含むことができる。
【0052】
[059] ステップ710では、エミッタワイヤ又はロッドの端部部分をエッチングして、電子エミッタのエミッタ先端部を形成する。ステップ710は、方法400のステップ410と同様のものである。
【0053】
[060] ステップ720では、新たに形成されたエミッタ先端部に抑制を加える。ステップ720は、方法500のステップ510と同様のものである。
【0054】
[061] ステップ730では、抑制の下で望ましいサイズを備えた平面領域をエミッタ先端部の頂点に形成する。ステップ730は、方法500のステップ520と同様のものである。
【0055】
[062] ステップ740では、望ましいサイズを備えた平面領域を頂点に形成した後、エミッタ先端部から抑制を除去する。ステップ740は、方法500のステップ530と同様のものである。
【0056】
[063] ステップ750では、電子エミッタ上で熱処理を実行して、エミッタ先端部の表面上の汚染物質を脱着する。このステップは、方法400のステップ420及び方法500のステップ540と同様のものである。
【0057】
[064] ステップ760では、仕事関数低下材料(例えば、仕事関数低下材料108)の層でエミッタ先端部をコーティングする。このステップは、方法500のステップ550と同様のものである。
【0058】
[065] 以下の条項を使用して、諸実施形態について更に記述することができる。
条項1.約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有する平面領域を備えた先端部と、
先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料と、
を含む、電子エミッタ。
条項2.先端部が単結晶タングステンを含む、条項1の電子エミッタ。
条項3.単結晶タングステンが<100>の結晶方位を有する、条項2の電子エミッタ。
条項4.先端部が遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含む、条項1の電子エミッタ。
条項5.遷移金属炭化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物である、条項4の電子エミッタ。
条項6.遷移金属ホウ化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物である、条項4の電子エミッタ。
条項7.仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、条項4から6のいずれか1項の電子エミッタ。
条項8.仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、条項4から6のいずれか1項の電子エミッタ。
条項9.仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、条項4から6のいずれか1項の電子エミッタ。
条項10.電界放出電子を解放するように構成された先端部であって、約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を備えた平面領域を有する先端部と、
先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料と、
を含むエミッタと、
エミッタに熱エネルギーを提供するように構成された加熱コンポーネントと、
を含む、熱電界放出カソード。
条項11.先端部が単結晶タングステンを含む、条項10の熱電界放出カソード。
条項12.単結晶タングステンが<100>の結晶方位を有する、条項11の熱電界放出カソード。
条項13.先端部が遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含む、条項10の熱電界放出カソード。
条項14.遷移金属炭化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物である、条項13の熱電界放出カソード。
条項15.遷移金属ホウ化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物である、条項13の熱電界放出カソード。
条項16.仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、条項13から15のいずれか1項の熱電界放出カソード。
条項17.仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、条項13から15のいずれか1項の熱電界放出カソード。
条項18.仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つ
を含む、条項13から15のいずれか1項の熱電界放出カソード。
条項19.加熱手段が、エミッタに取り付けられたフィラメントを含む、条項10から18のいずれか1項の熱電界放出カソード。
条項20.ベースと、
ベース内に埋め込まれた2つの電極と、
2つの端部と中心部分とを含む導電ワイヤであって、導電ワイヤの2つの端部がそれぞれ2つの電極に接続され、エミッタが導電ワイヤの中心部分に装着され、導電ワイヤが中心部分でエミッタに対して凸状になっている導電ワイヤと、
を更に含む、条項10から19のいずれか1項の熱電界放出カソード。
条項21.先端部を有する電子エミッタに抑制を加えることと、
抑制の下で、先端部上に平面領域を形成することと、
抑制を除去することと、
を含む、方法。
条項22.先端部上に平面領域を形成することが、
電子エミッタの先端部を研磨して、平面領域を形成すること
を含む、条項21の方法。
条項23.電子エミッタに抑制を加えることが、
先端部に固定具又はジグを取り付けること
を含む、条項21及び22のいずれか1項の方法。
条項24.先端部上に平面領域を形成することが、
固定具又はジグを使用して、平面領域を形成すること
を含む、条項23の方法。
条項25.電子エミッタに抑制を加えることが、
先端部上にワックスを塗布すること
を含む、条項21から23のいずれか1項の方法。
条項26.抑制が除去された後に電子エミッタを加熱することであって、その加熱が先端部上の汚染物質を除去すること
を更に含む、条項21から25のいずれか1項の方法。
条項27.加熱後に先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすること
を更に含む、条項26の方法。
条項28.電子エミッタが単結晶タングステンを含む、条項21から27のいずれか1項の方法。
条項29.単結晶タングステンが<100>の結晶方位を有する、条項28の方法。
条項30.電子エミッタが遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含む、条項21から27のいずれか1項の方法。
条項31.遷移金属炭化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物である、条項30の方法。
条項32.遷移金属ホウ化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物である、条項30の方法。
条項33.抑制が除去された後に先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることであって、仕事関数低下材料が、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物のうちの少なくとも1つを含むこと
を更に含む、条項30の方法。
条項34.抑制が除去された後に先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることであって、仕事関数低下材料が、ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物のうちの少なくとも1つを含むこと
を更に含む、条項30の方法。
条項35.抑制が除去された後に先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることであって、仕事関数低下材料が、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物のうちの少なくとも1つを含むこと
を更に含む、条項30の方法。
条項36.電子エミッタの端部部分をエッチングして、先端部を形成すること
を更に含む、条項21から35のいずれか1項の方法。
条項37.先端部の平面領域が約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有する、条項21から36のいずれか1項の方法。
条項38.基礎材料を有する電子エミッタの先端部上に仕事関数低下材料をコーティングすることを含み、
仕事関数低下材料が、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、又はトリウムの酸化物化合物と、
ジルコニウム、チタン、ニオブ、スカンジウム、バナジウム、又はランタンの窒化物化合物と、
ジルコニウム、ハフニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、ルテチウム、ニオブ、又はトリウムのオキシナイトライド化合物
のうちの少なくとも1つを含む、方法。
条項39.電子エミッタの基礎材料が遷移金属炭化物化合物又は遷移金属ホウ化物化合物のうちの少なくとも1つを含む、条項38の方法。
条項40.遷移金属炭化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、又はニオブの炭化物化合物である、条項38及び39のいずれか1項の方法。
条項41.遷移金属ホウ化物化合物が、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、モリブデン、ニオブ、又はランタンのホウ化物化合物である、条項38及び39のいずれか1項の方法。
条項42.先端部上に仕事関数低下材料をコーティングする前に、電子エミッタを加熱して先端部上の汚染物質を除去すること
を更に含む、条項38から41のいずれか1項の方法。
条項43.電子エミッタを加熱して先端部上の汚染物質を除去する前に、電子エミッタの端部部分をエッチングして、先端部を生成すること
を更に含む、条項42の方法。
【0059】
[066] 本発明は、上記で記載され、添付図面に示されている正確な構造に限定されず、その範囲を逸脱せずに様々な修正及び変更を行うことができることが認識されるであろう。本発明の範囲は特許請求の範囲のみによって限定されるべきものである。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約(0.05~10)マイクロメートルの範囲内の直径を有する平面領域を備えた先端部と、
前記先端部上にコーティングされた仕事関数低下材料と、
を含む、電子エミッタ。
【外国語明細書】