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特開2024-157139校正用データの取得方法、測定値の補正方法、および表面性状測定機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157139
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】校正用データの取得方法、測定値の補正方法、および表面性状測定機
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
G01B5/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071292
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 晋路
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA01
2F062AA41
2F062AA51
2F062AA66
2F062DD01
2F062DD21
2F062DD22
2F062DD23
2F062EE01
2F062FF02
2F062GG41
2F062JJ04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】精度の高い測定結果を得るための校正用データの取得方法を提供する。
【解決手段】校正用データの取得方法は、表面性状測定機によるZ軸方向の測定範囲内の基準位置である複数のZ軸基準位置に対応する高さの複数の水平な平坦面を有する第1基準ワークについて、複数の平坦面にスタイラスを当接させて平坦面の高さを測定し、Z軸方向の補正前の測定値である基準Z軸座標値を得るステップ、Z軸基準位置と基準Z軸座標値との差分である基準Z軸補正量を、記録するステップと、既知の傾斜角を有する傾斜面が設けられた第2基準ワークについて、第2基準ワークの傾斜面における各Z軸基準位置でのX軸方向の位置を測定して、基準X軸座標値を得るステップと、X軸基準位置と、Z軸基準位置での基準X軸座標値との差分である基準X軸補正量を、Z軸基準位置についての基準Z軸座標値に対応付けて記録するステップと、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面をスタイラスでトレースして前記ワークの表面の性状を測定する表面性状測定機における高さ方向であるZ軸方向の測定値および前記Z軸方向に直交しトレースする方向に対応するX軸方向の測定値を補正するための校正用データの取得方法であって、
前記表面性状測定機によるZ軸方向の測定範囲内の基準位置である複数のZ軸基準位置に対応する高さの複数の水平な平坦面を有する第1基準ワークについて、複数の前記平坦面のそれぞれに前記スタイラスを当接させて当該平坦面の高さを測定し、それぞれの前記Z軸基準位置のZ軸方向の補正前の測定値である基準Z軸座標値を得るステップと、
それぞれの前記Z軸基準位置と当該Z軸基準位置についての基準Z軸座標値との差分である基準Z軸補正量を、前記基準Z軸座標値に対応付けて記録するステップと、
前記表面性状測定機のZ軸方向の測定範囲内にわたって既知の傾斜角を有する傾斜面が設けられた第2基準ワークについて、前記第2基準ワークの前記傾斜面における各Z軸基準位置でのX軸方向の位置を測定して、各Z軸基準位置に対応するX軸方向の補正前の測定値である基準X軸座標値を得るステップと、
前記傾斜面の既知の傾斜角と前記Z軸基準位置の高さとに基づいて求められる、前記第2基準ワークの前記傾斜面の前記Z軸基準位置に相当する高さにおけるX軸方向の位置であるX軸基準位置と、当該Z軸基準位置での前記基準X軸座標値との差分である基準X軸補正量を、当該Z軸基準位置についての前記基準Z軸座標値に対応付けて記録するステップと、
を備えたことを特徴とする校正用データの取得方法。
【請求項2】
ワークの表面をスタイラスでトレースして前記ワークの表面の性状を測定する表面性状測定機における高さ方向であるZ軸方向の測定値およびトレースする方向に対応する水平方向であるX軸方向の測定値の補正方法であって、
前記表面性状測定機のZ軸方向の測定範囲内における複数の基準位置である複数のZ軸基準位置を前記表面性状測定機で測定した測定値である複数の基準Z軸座標値のそれぞれに、当該基準Z軸座標値におけるZ軸方向の補正量である基準Z軸座標値と、当該基準Z軸座標値におけるX軸方向の補正量である基準X軸座標値と、を対応付けて記録した誤差マップを用いて、前記ワークの表面をトレースして得た測定値に適用すべきZ軸方向およびX軸方向の補正量を求め、求めた補正量測定値を補正することを特徴とする測定値の補正方法。
【請求項3】
前記ワークの表面をトレースして得た測定値に対応するZ軸方向およびX軸方向の補正量を、前記誤差マップに記録された基準Z軸座標値に対応する補正量を補間することにより求めることを特徴とする請求項2に記載の補正方法。
【請求項4】
ワークの表面をスタイラスでトレースして前記ワークの表面の性状を測定する表面性状測定機であって、
ワークの表面をスタイラスでトレースして前記スタイラスの当接位置の高さ方向であるZ軸方向およびトレースする方向に対応する水平方向であるX軸方向の測定値を得る測定部と、
前記表面性状測定機のZ軸方向の測定範囲内における複数の基準位置である複数のZ軸基準位置を前記表面性状測定機で測定した測定値である複数の基準Z軸座標値のそれぞれに、当該基準Z軸座標値におけるZ軸方向の補正量である基準Z軸座標値と、当該基準Z軸座標値におけるX軸方向の補正量である基準X軸座標値と、を対応付けて記録した誤差マップを記憶する校正用データ記憶部と、
前記校正用データ記憶部に記憶された誤差マップに基づいて、前記ワークの表面をトレースして得た測定値に適用すべきZ軸方向およびX軸方向の補正量を求め、求めた補正量を前記測定部が取得した測定値に適用して補正済み測定値を演算する補正部と、
を備える表面性状測定機。
【請求項5】
前記補正部は、前記ワークの表面をトレースして得た測定値に対応するZ軸方向およびX軸方向の補正量を、前記誤差マップに記録された基準Z軸座標値に対応する補正量を補間することにより求めることを特徴とする請求項4に記載の表面性状測定機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面をスタイラスでトレースしてワークの表面の性状を測定する表面性状測定機の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの表面の形状を測定する測定装置として、ワークの表面をスタイラスでトレースしてスタイラスの変位に基づき測定値を得る形状測定機が知られている。例えば、スタイラスが支点を中心として円弧運動するピボット式の形状測定機では、ワークの表面にスタイラスを接触させた状態でワークとスタイラスとを所定方向に相対移動させ、その際の移動方向に沿った位置とスタイラスの変位とからワークの表面の形状(高さ)を取得している。
【0003】
ここで、ピボット式のスタイラスを用いた形状測定機においては、スタイラスの円弧運動を考慮して測定値を補正する必要がある。例えば特許文献1~5には、ピボット式のスタイラスを用いた測定装置の補正方法が開示される。いずれの技術においても、理想的な球面や円筒面が校正の基準として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2727067号公報
【特許文献2】特許第5183884号公報
【特許文献3】特許第5155533号公報
【特許文献4】特許第3215325号公報
【特許文献5】米国特許第5150314号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各先行技術文献に開示されているように、校正においては、スタイラスの支点からアーム先端までの長さであるアーム長L、アーム先端からのスタイラス先端の突き出し量であるオフセットH(オフセットHはエッジ長と呼ばれることもある)、スタイラスの変位を検出するエンコーダの指示値を高さに変換するための係数であるゲインg、先端球の半径、スタイラス全体の所定方向(X軸方向)への移動量を検出するためのXスケールといった複数のパラメータを校正する必要がある。
【0006】
しかし、一つのパラメータを校正する際に、未校正の他のパラメータが校正に影響を及ぼし、校正誤差を生じることがある。個々のパラメータの校正の誤差により、実際のスタイラス先端の軌道と計算で求められるスタイラス先端の軌道との間に差が生まれ、これが測定誤差につながる。
【0007】
また、上記の複数のパラメータのうち、アーム長LやオフセットHは、スタイラスの個体差の影響を校正するものであるところ、これらのパラメータの公称値からのずれを円弧運動の軌道の計算式に反映させる現行の校正方法では、誤差を十分に抑制することができない場合がある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、精度の高い測定結果を得るための校正用データの取得方法、測定値の補正方法、および測定装置(表面性状測定機)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するべく、本発明の実施形態に係る校正用データの取得方法は、ワークの表面をスタイラスでトレースしてワークの表面の性状を測定する表面性状測定機における高さ方向であるZ軸方向の測定値およびZ軸方向に直交しトレースする方向に対応するX軸方向の測定値を補正するための校正用データの取得方法である。当該校正用データの取得方法は、表面性状測定機によるZ軸方向の測定範囲内の基準位置である複数のZ軸基準位置に対応する高さの複数の水平な平坦面を有する第1基準ワークについて、複数の平坦面のそれぞれにスタイラスを当接させて当該平坦面の高さを測定し、それぞれのZ軸基準位置のZ軸方向の補正前の測定値である基準Z軸座標値を得るステップと、それぞれのZ軸基準位置と当該Z軸基準位置についての基準Z軸座標値との差分である基準Z軸補正量を、基準Z軸座標値に対応付けて記録するステップと、表面性状測定機のZ軸方向の測定範囲内にわたって既知の傾斜角を有する傾斜面が設けられた第2基準ワークについて、第2基準ワークの傾斜面における各Z軸基準位置でのX軸方向の位置を測定して、各Z軸基準位置に対応するX軸方向の補正前の測定値である基準X軸座標値を得るステップと、傾斜面の既知の傾斜角とZ軸基準位置の高さとに基づいて求められる、第2基準ワークの傾斜面のZ軸基準位置に相当する高さにおけるX軸方向の位置であるX軸基準位置と、当該Z軸基準位置での基準X軸座標値との差分である基準X軸補正量を、当該Z軸基準位置についての基準Z軸座標値に対応付けて記録するステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の実施形態に係る測定値の補正方法は、ワークの表面をスタイラスでトレースしてワークの表面の性状を測定する表面性状測定機における高さ方向であるZ軸方向の測定値およびトレースする方向に対応する水平方向であるX軸方向の測定値の補正方法である。当該測定値の補正方法は、表面性状測定機のZ軸方向の測定範囲内における複数の基準位置である複数のZ軸基準位置を表面性状測定機で測定した測定値である複数の基準Z軸座標値のそれぞれに、当該基準Z軸座標値におけるZ軸方向の補正量である基準Z軸座標値と、当該基準Z軸座標値におけるX軸方向の補正量である基準X軸座標値と、を対応付けて記録した誤差マップを用いて、ワークの表面をトレースして得た測定値に適用すべきZ軸方向およびX軸方向の補正量を求め、求めた補正量測定値を補正することを特徴とする。
【0011】
上記の測定値の補正方法において、ワークの表面をトレースして得た測定値に対応するZ軸方向およびX軸方向の補正量を、誤差マップに記録された基準Z軸座標値に対応する補正量を補間することにより求めるとよい。
【0012】
また、本発明の実施形態に係る表面性状測定機は、ワークの表面をスタイラスでトレースしてワークの表面の性状を測定する。当該表面性状測定機は、ワークの表面をスタイラスでトレースしてスタイラスの当接位置の高さ方向であるZ軸方向およびトレースする方向に対応する水平方向であるX軸方向の測定値を得る測定部と、表面性状測定機のZ軸方向の測定範囲内における複数の基準位置である複数のZ軸基準位置を表面性状測定機で測定した測定値である複数の基準Z軸座標値のそれぞれに、当該基準Z軸座標値におけるZ軸方向の補正量である基準Z軸座標値と、当該基準Z軸座標値におけるX軸方向の補正量である基準X軸座標値と、を対応付けて記録した誤差マップを記憶する校正用データ記憶部と、校正用データ記憶部に記憶された誤差マップに基づいて、ワークの表面をトレースして得た測定値に適用すべきZ軸方向およびX軸方向の補正量を求め、求めた補正量を測定部が取得した測定値に適用して補正済み測定値を演算する補正部と、を備える。
【0013】
本発明では、補正部は、ワークの表面をトレースして得た測定値に対応するZ軸方向およびX軸方向の補正量を、誤差マップに記録された基準Z軸座標値に対応する補正量を補間することにより求めるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る測定装置の構成を例示する模式図である。
図2】測定装置が備えるコンピュータのブロック図である。
図3】本実施形態に係る測定装置の機能ブロック図である。
図4】校正用データ記憶部に記憶される誤差マップを模式的に示す図である。
図5】第1基準ワークの形状を示す図である。
図6】第2基準ワークの形状を示す図である。
図7】本発明の校正方法と従来の校正方法による測定値の精度を比較すべく実施したシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0016】
〔測定装置〕
図1および図2は、本実施形態に係る測定装置1の構成を例示する模式図である。図1には測定装置1の構成図が表され、図2にはコンピュータ30のブロック図が表される。
【0017】
本実施形態に係る測定装置1は、測定の対象物であるワークWの表面をスタイラス10でトレースしてワークWの表面の位置(高さ)を測定する表面性状測定機である。本実施形態では、高さ方向をZ軸方向とし、Z軸方向に直交しスタイラス10がワークWをトレースする方向をX軸方向とする。
【0018】
図1に表したように、測定装置1は、スタイラス10と、検出部20と、X軸駆動機構40と、Z軸駆動機構45と、コンピュータ30とを備える。ワークWはステージST上に配置される。スタイラス10、検出部20、およびX軸駆動機構40は、一体として、Z軸駆動機構45によりステージSTに対しZ軸方向に移動可能とされる。スタイラス10および検出部20は、X軸駆動機構40により、ステージSTに対しX軸方向に移動可能とされる。X軸駆動機構40はコンピュータ30からの指示に応じて検出部20をX軸方向に移動させる。この相対的な移動によって、スタイラス10が検出部20とともにX軸方向に移動し、ワークWの表面をトレースすることになる。X軸駆動機構40にはX軸に沿った移動量を検出するリニアスケール41が設けられ、検出した移動量を出力する。このリニアスケール41は、レーザ光の干渉を利用した校正方法等により、別途十分な精度で校正されているものとする。
【0019】
スタイラス10は、所定の支点を中心として円弧運動するピボット式である。スタイラス10の円弧運動は、XZ平面に沿って行われる。スタイラス10の先端には測定子11が設けられる。スタイラス10をX軸方向に移動させることで測定子11がワークWの表面と接触しながら進んでいくことになる。
【0020】
検出部20は、水平を基準とするスタイラス10の回転角θを検出するロータリーエンコーダ21を備える。後述するように、測定装置1は、X軸駆動機構40によるスタイラス10のX軸方向への移動量およびロータリーエンコーダ21で検出した回転角θとに基づき、スタイラス10のX軸方向の位置を算出する。また、測定装置1は、ロータリーエンコーダ21で検出した回転角θとに基づき、スタイラス10のZ軸方向の位置を算出する。このような構成により、測定装置1では、ワークWの表面に接触する測定子11のトレースラインに沿った水平位置(X軸方向の位置)と高さ(Z軸方向の位置)を得ることができる。これにより、トレースラインに沿ったワークWの表面形状が得られる。
【0021】
図2に表したように、コンピュータ30は、CPU(Central Processing Unit)31、インタフェース32、出力部33、入力部34、主記憶部35及び副記憶部36を備える。
【0022】
CPU31は、各種プログラムの実行によって各部を制御する。インタフェース32は、検出部20、X軸駆動機構40、Z軸駆動機構45等との情報入出力を行う。例えば、インタフェース32は検出部20のX軸検出部22やZ軸検出部23から検出された測定値を取り込む。また、インタフェース32はX軸駆動機構40やZ軸駆動機構45に制御信号を与える。また、インタフェース32は図示しないコンピュータ30をLAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)に接続してもよい。
【0023】
出力部33は、コンピュータ30で処理した結果を出力する。出力部33としては、例えば、図示しないディスプレイやプリンタが用いられる。入力部34は、オペレータから情報を受け付ける。入力部34には、例えば、図示しないキーボード、ジョイスティック及びマウスが用いられる。また、入力部34は、記録媒体MMに記録された情報を読み取る機能を含む。
【0024】
主記憶部35には、例えばRAM(Random Access Memory)が用いられる。主記憶部35の一部として、副記憶部36の一部が用いられてもよい。副記憶部36には、例えばHDD(Hard disk drive)やSSD(Solid State Drive)が用いられる。副記憶部36は、ネットワークを介して接続された外部記憶装置であってもよい。
【0025】
図3は、本実施形態に係る測定装置1の機能ブロック図である。
測定装置1の機能ブロックとしては、測定部110、校正用データ取得部120、校正用データ記憶部125、補正部130、出力部140及び制御部150を備える。
【0026】
測定部110は、X軸駆動制御部111、Z軸駆動制御部112、X軸座標算出部113、およびZ軸座標算出部114を有する。X軸駆動制御部111は、X軸駆動機構40を制御するための指示を与える。Z軸駆動制御部112は、Z軸駆動機構45を制御するための指示を与える。
【0027】
X軸座標算出部113は、X軸駆動機構40によるスタイラス10のX軸方向への移動量および測定の際にワークWの表面形状に追従したスタイラス10の円弧運動に伴う測定子11のX軸方向への変位量とに基づき、測定子11がワークWに当接する位置のX軸座標値を算出する。X軸座標算出部113は、X軸駆動機構40によるスタイラス10のX軸方向への移動量を、X軸駆動機構40に設けられたリニアスケール41から取得する。また、X軸座標算出部113は、スタイラス10の公称のアーム長LおよびオフセットH、並びにロータリーエンコーダ21にて検出した回転角θを用いて、円弧運動に伴う測定子11のX軸方向への変位量をL(1-cosθ)-Hsinθにより求める。
【0028】
Z軸座標算出部114は、測定の際にワークWの表面形状に追従したスタイラス10の円弧運動に伴う測定子11のZ軸方向への変位量を算出してZ軸座標値とする。Z軸座標算出部114は、スタイラス10の公称のアーム長LおよびオフセットH、並びにロータリーエンコーダ21にて検出した回転角θを用いて、Z軸座標値ZをLsinθ+H(1-cosθ)により求める。
【0029】
なお、X軸座標算出部113およびZ軸座標算出部114は、スタイラス10の円弧運動に伴う測定子11のX軸方向およびZ軸方向への変位量を算出する際に、スタイラス10が公称寸法(アーム長およびオフセット)を有するものとして円弧運動に測定子11の変位量を計算する。このため、X軸座標算出部113およびZ軸座標算出部114の算出する位置は、スタイラス10のアーム長やオフセットの公称寸法に対する寸法誤差等に起因する誤差を含み得ることになるが、本発明によれば、後述の誤差マップを用いた補正を適用することによりこの誤差を低減することができる。
【0030】
校正用データ取得部120は、測定部110で取得した測定値を補正するための補正用データを取得する。校正用データ取得部120は、後述する校正方法により、Z軸検出部23から得られるZ軸の座標値に、Z軸方向の誤差値およびX軸方向の誤差値を対応付けた校正用データを取得する。
【0031】
校正用データ記憶部125は、図4に示すように、校正用データ取得部120が取得した校正用データを記憶する。校正用データ記憶部125は、複数のZ軸方向の基準位置であるZ軸基準位置についての補正前の測定値である基準Z軸座標値(Zi)に対応付けて、Z軸方向の補正量(基準Z軸補正量)dzおよびX軸方向の補正量(基準X軸補正量)dxを記憶する。このように校正用データ記憶部125が記憶する複数のZ軸の座標値についての校正用データ群をテーブル化したものを誤差マップと呼ぶ。
【0032】
補正部130は、測定部110で取得した測定値と校正用データ記憶部125に記憶されている誤差マップとに基づいて、補正済み測定値を演算により求める。
【0033】
出力部140は、測定結果を出力する。出力部140が出力する測定結果は、例えば、トレースラインに沿った一連の補正済み測定値をプロットしたグラフ、トレースラインに沿った一連の補正済み測定値を統計処理して求めた表面性状の各種パラメータ(算術平均粗さRa等)である。制御部150は、測定部110、校正用データ取得部120、補正部130及び出力部140を制御する。
【0034】
このような機能ブロックを備えた測定装置1では、ワークWの表面の測定値を誤差マップに基づいて補正して、誤差を低減した測定値に基づく測定結果を得ることができる。
【0035】
〔校正方法〕
続いて、校正用データ取得部120により校正用データを取得する手順を説明する。
【0036】
はじめに、第1基準ワーク50を用いて、基準位置におけるZ軸方向の補正量dzを取得する。第1基準ワーク50は、図5に示すように、測定装置1によるZ軸方向の測定範囲(ダイナミックレンジ)内に複数の既知の高さの水平な平坦面51が階段状に設けられたワークである。第1基準ワーク50が有する各平坦面51は、本実施形態の校正方法において、Z軸基準位置を規定するものである。図5の例では、第1基準ワーク50は、Z軸方向の原点(Z=0)およびこの原点を基準とする6つの基準位置(Z=+Z3、+Z2、+Z1、-Z1、-Z2、-Z3)を規定すべく、-Z3から+Z3までの7つの平坦面51を有する。第1基準ワーク50は例えば、複数個のゲージブロックを重ねて段差を形成することにより実現することができる。
【0037】
Z軸基準位置におけるZ軸方向の補正量dzは、以下の手順で取得する。まず、ステージSTに第1基準ワーク50を、第1基準ワーク50の平坦面51の低い段ほど手前(スタイラス10の支点に近い側)に位置するように載置する。そして、原点を規定するZ=0の段にスタイラス10が当接したときにZ軸検出部23の出力する測定値が0となるように、Z軸駆動機構45によりスタイラス10の位置を微調整する。これにより、原点Z=0における補正量dzは0となる。その後、スタイラス10を第1基準ワーク50の最上段に当接させ、X軸駆動機構40により、スタイラス10をX軸方向に移動させながら上段から順にスタイラスを第1基準ワーク50の各平坦面をなぞるように移動させ、各平坦面51の高さを測定する。この測定によりZ軸検出部23は各Z軸基準位置におけるZ軸方向の測定値である基準Z軸座標値Ziを検出する。基準Z軸座標値Ziは、スタイラス10が公称寸法を有するとして算出される座標値であり、測定により得た基準Z軸座標値Ziと各段が規定するZ軸基準位置Zrとは必ずしも一致しない。校正用データ取得部120は、基準Z軸座標値ZiとZ軸基準位置Zrとの差を当該Z軸基準位置におけるZ軸方向の補正量(基準Z軸補正量)dzとし、基準Z軸座標値Ziに対応付けて校正用データ記憶部125に記録する。すなわち、各Z軸基準位置における基準Z軸補正量dzを、dz=Zi-Zrにより求める。以上により、校正用データ記憶部125に記憶される誤差マップにおいて、全てのZ軸基準位置について、基準Z軸座標値Ziとそれに対応する基準Z軸補正量dzを求めることができる。
【0038】
次に、第2基準ワーク60を用いて、基準位置におけるX軸方向の補正量dxを取得する。第2基準ワーク60は、図6に示すように測定装置1によるZ軸方向の測定範囲(ダイナミックレンジ)内にわたって既知の傾斜角αの平坦な傾斜面61が設けられたワークである。図6の例では、第2基準ワーク60は、45度の傾斜面を有する。第2基準ワーク60は例えば、ダブプリズムにより実現できる。
【0039】
X軸方向の補正量dxは、以下の手順で取得する。まず、ステージSTに第2基準ワーク60を、傾斜面61の法線がXZ平面と平行となるように(言い換えれば、スタイラス10が傾斜面61の最大斜度をトレースするように)載置する。続いて、傾斜面61にスタイラスを当接させ、X軸駆動機構40によりスタイラス10をX軸方向に移動させることでスタイラスを斜面をなぞるように移動させる。そして、Z軸検出部23の出力する測定値が0となる位置を特定し、このときのX軸方向の位置を原点(X=0)とし、X軸検出部22が検出する座標値を原点の座標値とする。これにより、Z軸方向の原点Z=0に対応する補正量dxは0となる。そして、X軸駆動機構40によりスタイラス10をX軸方向に移動させ、Z軸検出部23の出力する測定値が校正用データ記憶部125に記憶されている誤差マップにおける各基準Z軸座標値Ziと一致する位置において、X軸検出部22が検出するX軸座標値である基準X軸座標値Xiを取得する。第2基準ワーク60の傾斜面61における各Z軸基準位置に対応する高さでのX軸方向の位置(以下、X軸基準位置という)Xrは、傾斜面61の傾斜角αと各Z軸基準位置の高さZrからXr=Zr/tanαにより正確に求めることができるが、各基準X軸座標値Xiは、誤差により、対応するX軸基準位置Xrとは必ずしも一致しない。校正用データ取得部120は、各Z軸基準位置について、基準X軸座標値XiとX軸基準位置Xrとの差をX軸方向の補正量(基準X軸補正量)dxとし、基準Z軸座標値Ziに対応付けて校正用データ記憶部125に記録する。すなわち、各Z軸基準位置における基準X軸補正量dxを、dx=Xi-Xrにより求める。
以上により、校正用データ記憶部125に記録される誤差マップにおいて、全てのZ軸基準位置について、基準Z軸座標値Ziに対応する基準X軸補正量dxを求めることができ、基準Z軸補正量と合わせ、誤差マップが完成する。
【0040】
〔測定および測定値の補正方法〕
次に、測定値の補正方法について説明する。
測定に先立ち、上述の構成方法により、第1基準ワーク50と第2基準ワーク60を用いて校正用データ記憶部125に誤差マップを記録しておく。そして、測定対象のワークWをステージSTに載置し、制御部150による制御の下で、スタイラス10の測定子11をワークWの表面に当接させてX軸駆動機構40によりスタイラス10をX軸方向に移動させることでワークWの表面をトレースし、トレースライン上の複数の測定点で測定部110のX軸検出部22およびZ軸検出部23により測定値を取得する。このようにして測定部110により取得される測定値は、スタイラス10が公称寸法を有するものとして算出されたX軸座標値XmとZ軸座標値Zmの対である。
【0041】
次に、得られた測定値について、スタイラス10の寸法誤差等による誤差を補正すべく、補正部130が、Z軸座標値Zmに応じた補正量(dxおよびdz)を校正用データ記憶部125に記録された誤差マップに基づき求め、この補正量を測定値から差し引くことにより誤差分を補正する。すなわち、補正後の測定値をXcおよびZcとすると、XcとZcは、それぞれ、Xc=Xm-dx、Zc=Zm-dzにより算出される。このようにして、補正後の測定値(X軸座標値XcとZ軸座標値Zcの対)を得ることができる。
【0042】
なお、誤差マップには複数のZ軸基準位置における補正量(dxおよびdz)のみが記録されているため、実際の個々の測定値に対応する補正量は誤差マップに含まれていない場合があるが、Z軸基準位置の間のZ軸座標に対応する補正量を任意の方法で補間することで、個々の測定値に対応する補正量を算出するとよい。例えば、Z軸基準位置の間のZ軸座標に対応する補正量を直線補間によって求めるとよい。
【0043】
上記の方法で、トレースライン上の全ての測定点について、補正後の測定値(X軸座標値XcとZ軸座標値Zcの対)を取得する。そして取得した一連の測定値に対し所望の処理(たとえばグラフ化、統計処理等)を施した測定結果を、出力部140により出力する。
【0044】
このようにして測定装置1は、精度の高い測定結果を得ることができる。
【0045】
なお、上記説明した校正方法および補正方法は、それぞれコンピュータ30により実行されるプログラムにより実現されてもよい。またこれらのプログラムは、コンピュータ30が読取可能な記録媒体MMに記録されていてもよいし、ネットワークを介して配信されてもよい。
【0046】
図7は本発明の校正方法と従来の校正方法による測定値の精度を比較すべく実施したシミュレーションの結果を示している。当該シミュレーションでは、半径15mmの球面の頭頂部を中心に中心角±60°の範囲を測定したときの測定範囲内における誤差を算出した。スタイラス10の公称寸法がアーム長L=80mm、オフセットH=12.5mm、測定子11の先端球の半径R=5μmであるところ、スタイラス10が、アーム長の誤差ΔL=+0.3mm、オフセットの誤差ΔH=+0.2mm、先端球の半径の誤差ΔR=+1μmの寸法誤差を有するものとした。
【0047】
従来の校正方法では、スタイラス10のアーム長を投影機を用いて測定して寸法誤差を校正し、ゲージブロックの段差を用いてエンコーダの指示値を高さに変換するための係数であるゲインを校正し、基準球面の測定結果に基づきオフセットを校正した。そして、これらの校正を反映させ測定値を得た。
【0048】
本発明の方法では、スタイラス10の寸法誤差そのものは校正パラメータとせず、上述の方法により作成した誤差マップを用いて測定値の誤差を補正した。
【0049】
図7(a)は、従来の校正方法による場合の測定範囲内での誤差(真値からのずれ)分布を示している。この結果が示すように、従来の校正方法では測定範囲内の位置に依存して、誤差が大きく変動し、最大で±0.2μm程度の誤差を含むものとなった。
図7(b)は、本発明の校正方法による場合の測定範囲内での誤差(真値からのずれ)分布を示している。この結果が示すように、本発明の校正方法では測定範囲内の位置によらず誤差を著しく減少させることができ、最大でも±0.01μm程度誤差に抑えることができた。
【0050】
以上説明したように、実施形態に係る校正方法、測定値の補正方法、及び測定装置1によれば、精度の高い測定結果を得ることが可能になる。
【0051】
なお、上記に本実施形態およびその具体例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、本実施形態ではピボット式のスタイラス10を用いた測定装置1や測定方法を例としたが、ピボット式以外のスタイラス10を用いた測定装置1や測定方法であっても適用可能である。また、前述の実施形態またはその具体例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明は、ワークWの表面形状を測定する形状測定装置及び表面高さを測定する高さ測定装置、表面粗さ測定装置などに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1…測定装置
10…スタイラス
11…測定子
20…検出部
21…ロータリーエンコーダ
30…コンピュータ
31…CPU
32…インタフェース
33…出力部
34…入力部
35…主記憶部
36…副記憶部
40…X軸駆動機構
41…リニアスケール
45…Z軸駆動機構
50…第1基準ワーク
60…第2基準ワーク
110…測定部
111…X軸駆動制御部
112…Z軸駆動制御部
113…X軸座標算出部
114…Z軸座標算出部
120…校正用データ取得部
125…校正用データ記憶部
130…補正部
140…出力部
150…制御部
ST…ステージ
W…ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7