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特開2024-157143粒子の評価システム及び粒子の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157143
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】粒子の評価システム及び粒子の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20241030BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20241030BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20241030BHJP
   G01N 15/00 20240101ALI20241030BHJP
【FI】
G01N23/2251
H01J37/22 502H
H01J37/22 502Z
G01N23/04 330
G01N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071297
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈織美
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA11
2G001CA03
2G001FA29
2G001HA13
2G001KA04
2G001KA05
2G001MA04
2G001RA10
5C101AA03
5C101AA04
5C101AA05
5C101BB03
5C101BB06
5C101FF12
5C101FF22
5C101FF26
5C101GG05
5C101HH38
(57)【要約】
【課題】評価対象となる各粒子のうち中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを、一貫性を持たせつつ迅速かつ簡便に識別する手法を提供する。
【解決手段】複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子として学習する一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子として学習する学習部と、複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別する識別部と、を備える、粒子の評価システム及びその関連技術を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子として学習する一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子として学習する学習部と、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、前記学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別する識別部と、
を備える、粒子の評価システム。
【請求項2】
前記学習部は、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子として学習し、
前記識別部は、評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内の各粒子に対し、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子として識別する、請求項1に記載の粒子の評価システム。
【請求項3】
評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内における完全中空粒子及び不完全中空粒子の個数の合計に対する完全中空粒子の個数の割合を得る計測部を備える、請求項1に記載の粒子の評価システム。
【請求項4】
前記識別部は、粒子のa色の殻部により囲まれた部分全体を識別対象とする一方で粒子のa色の殻部の外側全体は識別対象には含めない、請求項1に記載の粒子の評価システム。
【請求項5】
前記粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像、及び、前記評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像は、金属化合物粒子に対して樹脂を含浸して硬化したものの断面に対する走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像である、請求項1~4のいずれか一つに記載の粒子の評価システム。
【請求項6】
複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子としてコンピュータに学習させる一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子としてコンピュータに学習させる学習工程と、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし、a色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、前記学習工程で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かをコンピュータに識別させる識別工程と、
を有する、粒子の評価方法。
【請求項7】
前記学習工程では、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子としてコンピュータに学習させ、
前記識別工程では、評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内の各粒子に対し、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子としてコンピュータに識別させる、請求項6に記載の粒子の評価方法。
【請求項8】
評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内における完全中空粒子及び不完全中空粒子の個数の合計に対する完全中空粒子の個数の割合を得る計測工程を有する、請求項6に記載の粒子の評価方法。
【請求項9】
前記識別工程では、粒子のa色の殻部により囲まれた部分全体を識別対象とする一方で粒子のa色の殻部の外側全体は識別対象には含めない、請求項6に記載の粒子の評価方法。
【請求項10】
前記粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像、及び、前記評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像は、金属化合物粒子に対して樹脂を含浸して硬化したものの断面に対する走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像である、請求項6~9のいずれか一つに記載の粒子の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の評価システム及び粒子の評価方法に属し、特に、複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子の評価システム及び粒子の評価方法に属する。
【背景技術】
【0002】
粒子の連結態様の評価方法として、例えば、特許文献1に記載のように、走査型電子顕微鏡(SEM)による写真の画像処理が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-7633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器などに用いられる粒子材料においては、反応面積を大きくするなどの目的から、粒子を中空化するなどの材料設計が実施される場合がある。
【0005】
中空粒子は、一次粒子が連なった殻部とその内部の中空領域から形成される。大きな反応面積を有する中空粒子の材料設計において、反応場の面積の多寡に関しては、従来では、例えば、水銀圧入法などを活用し、BET比表面積、細孔径分布を基に評価されていた。
【0006】
その一方、これらの物性値が同等の複数の試料であっても、該試料を原料に作製したデバイスでは性能に差が出る場合がある。その理由の一つは以下の通りである。
【0007】
中空粒子は、一次粒子が連なった殻部とその内部の中空領域から形成される。但し、中空粒子内部の中空領域が反応場として十分機能を果たすには、殻部内の連通口を通じ、反応物質が粒子外領域から中空領域内へと十分供給される必要がある。
【0008】
言い方を変えると、殻部外と中空領域とを繋ぐ連通口が無い又は有っても少数(例えば1個)若しくは極めて幅狭である場合、反応物質が粒子外領域から中空領域内へと十分供給されない。
【0009】
その結果、この場合だと、中空粒子であったとしても、中空領域が反応場として機能を十分に果たせない。本明細書ではこのような中空粒子を「不完全中空粒子」とも称し、この中空粒子の中空領域を「閉気孔」とも称する。
【0010】
逆に、中空領域が反応場として十分機能を果たす中空粒子を「完全中空粒子」とも称し、この中空粒子の中空領域を「開気孔」とも称する。
【0011】
中空領域が開気孔か閉気孔かを評価する手法としては、複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた部分に対するSEMの観察像である反射電子像に対して画像解析を利用することも考えられる。以降、上記SEMの観察像のことを単に「SEM像」とも言う。このSEM像は、粒子を白色とし且つ白色と黒色との間を数値化したグレースケール像でもある。
【0012】
その一方、SEM像内における中空粒子のどれが開気孔でどれが閉気孔かを作業者が識別する場合、その境界は作業者が主観的に設定せざるを得ず、識別基準があいまいである。そのうえ、画像を目視で確認することとなり時間がかかる。
【0013】
更に、画像を目視で確認した後日に、同組成の中空粒子の別のSEM像を目視で確認する場合、中空粒子のどれが開気孔でどれが閉気孔かの境界が前日から無意識のうちに変わっている可能性がある。そうなると、SEM像が全く同じであってもSEM像を確認する日によって、SEM像内における中空粒子の開気孔と閉気孔の数が変わることもあり得る。つまり、試料を構成する粒子の評価に一貫性が無くなるおそれがある。
【0014】
本発明の課題は、評価対象となる各粒子のうち中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを、一貫性を持たせつつ迅速かつ簡便に識別する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子として学習する一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子として学習する学習部と、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、前記学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別する識別部と、
を備える、粒子の評価システムである。
【0016】
本発明の第2の態様は、
前記学習部は、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子として学習し、
前記識別部は、評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内の各粒子に対し、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子として識別する、第1の態様に記載の粒子の評価システムである。
【0017】
本発明の第3の態様は、
評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内における完全中空粒子及び不完全中空粒子の個数の合計に対する完全中空粒子の個数の割合を得る計測部を備える、第1の態様に記載の粒子の評価システムである。
【0018】
本発明の第4の態様は、
前記識別部は、粒子のa色の殻部により囲まれた部分全体を識別対象とする一方で粒子のa色の殻部の外側全体は識別対象には含めない、第1の態様に記載の粒子の評価システムである。
【0019】
本発明の第5の態様は、
前記粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像、及び、前記評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像は、金属化合物粒子に対して樹脂を含浸して硬化したものの断面に対する走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像である、第1~4の態様のいずれか一つに記載の粒子の評価システムである。
【0020】
本発明の第6の態様は、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子としてコンピュータに学習させる一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子としてコンピュータに学習させる学習工程と、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし、a色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、前記学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かをコンピュータに識別させる識別工程と、
を有する、粒子の評価方法である。
【0021】
本発明の第7の態様は、
前記学習工程では、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子としてコンピュータに学習させ、
前記識別工程では、評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内の各粒子に対し、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子としてコンピュータに識別させる、第6の態様に記載の粒子の評価方法である。
【0022】
本発明の第8の態様は、
評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内における完全中空粒子及び不完全中空粒子の個数の合計に対する完全中空粒子の個数の割合を得る計測工程を有する、第6の態様に記載の粒子の評価方法である。
【0023】
本発明の第9の態様は、
前記識別工程では、粒子のa色の殻部により囲まれた部分全体を識別対象とする一方で粒子のa色の殻部の外側全体は識別対象には含めない、第6の態様に記載の粒子の評価方法である。
【0024】
本発明の第10の態様は、
前記粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像、及び、前記評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像は、金属化合物粒子に対して樹脂を含浸して硬化したものの断面に対する走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像である、第6~9の態様のいずれか一つに記載の粒子の評価方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、評価対象となる各粒子のうち中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを、一貫性を持たせつつ迅速かつ簡便に識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態及び実施例の評価システムの概略ブロック図である。
図2図2は、実施例の試料1の観察用試料における1視野中の完全中空粒子の概略図である。
図3図3は、実施例の試料1の観察用試料における1視野中の不完全中空粒子の概略図である。
図4図4は、実施例の試料1の観察用試料における1視野中の非識別粒子の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態について説明する。「~」は所定数値以上且つ所定数値以下を指す。
【0028】
本実施形態は、複数の一次粒子が連結して形成された粒子の評価システム及び粒子の評価方法に係る。本実施形態では、特記無い限り、観察像がSEM像である場合を例示する。
【0029】
[粒子の評価システム]
図1は、本実施形態及び実施例の評価システムの概略ブロック図である。符号1は粒子の評価システムであるコンピュータ、符号2は学習部、符号3は識別部、符号4は計測部、符号10はSEM装置を指す。以下、符号は省略する。
本実施形態は少なくとも以下の構成を備える。
・複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子として学習する一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子として学習する学習部
・複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、前記学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別する識別部
【0030】
本実施形態で取り扱う粒子は、複数の一次粒子が連結して形成された粒子である。この粒子としては例えば中空二次粒子が挙げられる。この中空二次粒子は、一種の組成からなってもよいし、複数種類の組成からなってもよい。一例としては金属化合物粒子である。金属化合物粒子により構成される粉体を本実施形態で取り扱う対象としてもよいし、該粉体に対して樹脂を含浸させて硬化したもの(いわゆる樹脂包埋物)や該粉体を固めたものを本実施形態で取り扱う対象としてもよい。
【0031】
一次粒子の平均粒子径(例えばSEM観察像から算出)としては例えば数nm~数100nmであってもよいし、中空粒子の平均粒子径としては例えば数100nm~数100μmであってもよい。
【0032】
図2は、実施例の試料1の観察用試料における1視野中の完全中空粒子の概略図である。
図3は、実施例の試料1の観察用試料における1視野中の不完全中空粒子の概略図である。
図4は、実施例の試料1の観察用試料における1視野中の非識別粒子の概略図である。
図中、斜線ハッチは殻部を指し、点ハッチは不完全中空部分(完全な中空ではなく複数の一次粒子が存在する部分)を指す。
【0033】
観察像についてであるが、観察自体は、目的とする試料のサイズや予想されるプローブとの接触面積を鑑み、適切な空間分解能を有する評価装置・観察条件を選択して実施すればよい。例えば、数10nm~数100μmの試料に対しては走査型電子顕微鏡(以下SEMと略す)、数nm~数100nmの粒子に対しては透過型電子顕微鏡(以下TEMと略す)などを用いた像観察が可能である。なお、走査透過型電子顕微鏡(STEM)は両タイプに属するものとする。
【0034】
学習部において学習させる、複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像(以降、観察像α)は、該粒子(例:粉体)に対して樹脂を含浸させて硬化したものや該粒子(例:粉体)を固めたものを断面加工したものに対する観察像であってもよい。複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像(以降、観察像β)も、同様の観察像であってもよい。なお、観察像βは粒子の断面を複数露出させる一方で、学習部に学習させる観察像αは、一つの粒子の断面の像であってもよい。また、複数の粒子の断面の像を含む観察像内における完全中空粒子の像及び不完全中空粒子の像を、学習部に取り込ませてもよい。その際、作業者が完全中空粒子の像及び不完全中空粒子の像を各々四角で囲んで観察像αとして画定してもよい。
【0035】
両観察像α、βは、同じ手法で作製されたものに対する観察像であるのがよい。また、両観察像α、βは、同じ手法(評価装置・観察条件)で得られる観察像であるのがよい。
【0036】
断面加工として、SEMの場合は、FIBあるいはクロスセクションポリッシャー、研磨などによって断面加工した試料を用いてもよい。TEMの場合は、FIB加工などによって作製した試料を用いてもよい。
【0037】
両観察像α、βは、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像である。観察像がSEM像である場合は、得られる観察像は最初からグレースケール像である。
【0038】
グレースケール像においては、粒子の殻部はa色(例えば白色)に近い色で表され、粒子の存在しない部分(包埋樹脂部分)はb色(例えば黒色)に近い色で表される。粒子の殻部に囲まれた部分で、かつ包埋樹脂の存在していない部分はa色からb色の間の灰色で表される。以降、説明の便宜上、白色と黒色を例示し、完全な黒色を0、完全な白色を255とし、白色と黒色とを数値化する例を挙げる。この数値のことを画素値とも言う。
【0039】
本実施形態の学習部では、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子として学習する一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子として学習する。
【0040】
完全中空粒子についてであるが、「粒子の白色の殻部」としては、通常は完全な白色であるが、場合によっては殻部内空孔が存在する。そのため、粒子のa色の殻部の画素値は255でなくとも構わない。例えば粒子の白色の殻部の画素値を250以上と設定しても構わない。
また、「粒子の白色の殻部により黒色が囲まれた」とは、少なくとも中空領域と殻部との輪郭が明確になる程度に、中空領域の画素値が0に近いことを指す。但し、画像処理の関係上、完全中空粒子だとしても画素値が0にならない場合もある。そのため、本明細書では、所定の画素値以下(例えば20以下)を黒色とみなす。つまり、「粒子の白色の殻部により黒色が囲まれた」とは、粒子の白色の殻部により囲まれた中空領域全体の画素値は0に近い所定の値以下であることを指す。
【0041】
不完全中空粒子についてであるが、「粒子の白色の殻部により白色寄りの黒色が囲まれた粒子」とは、粒子の白色の殻部により任意の色が囲まれた状態であって、完全中空粒子以外の状態のものを指す。「白色寄りの黒色」とは、所定の画素値(例えば20)を超えた値であり且つ粒子のa色の殻部の画素値(例えば250)未満の値の部分を指す。つまり、中空領域に、仮に画素値が0の部分があったとしても同時に画素値が100の部分があれば、その中空粒子は不完全中空粒子として学習される。
【0042】
上記完全中空粒子及び不完全中空粒子の画素値の設定はあくまで一例である。画素値の設定は、本実施形態で取り扱う粒子の種類、観察装置、観察条件等に応じて作業者が適宜設定すればよい。
【0043】
但し、粒子の評価に一貫性を持たせるべく、学習部に学習させる際の画素値の設定と、識別部により完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別させる際の画素値の設定は同一にするのがよい。その一方、これらの画素値の設定についても学習部に任せても構わない。後掲の学習部としては、深層学習アルゴリズムを採用した市販のソフトウエアを利用可能である。該ソフトウエアとしては例えばGRID株式会社製のソフトウエア製品名ReNom(登録商標)が挙げられる。
【0044】
そもそも、このソフトウエアでは、上記の画素値の設定を作業者が行わずとも、完全中空粒子と作業者が認定した観察像と、不完全中空粒子と作業者が認定した観察像とを、該ソフトウエアに学習させれば、該ソフトウエアが自動で画素値に係る境界を設定する。
【0045】
学習部では、観察像αを学習させる。観察像αには完全中空粒子の像と不完全中空粒子の像とが含まれる。完全中空粒子の像を完全中空粒子として学習部に学習させ、不完全中空粒子の像を不完全中空粒子として学習部に学習させる。これにより、評価対象となる各粒子のうち中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを、一貫性を持たせて識別できる。
【0046】
観察像αの数を増やせば、その分、評価対象となる観察像β内の複数の粒子の断面に対する、完全中空粒子か不完全中空粒子かの識別の精度が上がる。観察像αの数としては、例えば完全中空粒子10個及び不完全中空粒子10個の像があればよい。観察像αの数を増やすべく、一つの観察像α内の完全中空粒子及び不完全中空粒子を拡大、縮小、回転の少なくともいずれかの画像処理を行って得た画像を新たな観察像として数に加えても構わない。
【0047】
識別部では、上記観察像β内の各粒子に対し、学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別する。これにより、評価対象となる各粒子のうち中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを迅速かつ簡便に識別できる。
【0048】
学習部、識別部、後掲の計測部は(場合によってはSEMのような観察装置も)、評価システムが有する制御部(不図示)により制御される。なお、本実施形態では、SEM以外の各構成が一つのコンピュータに搭載される場合を例示する。その一方、本実施形態にて述べる構成のうちの一部を、コンピュータに搭載するのではなく、ネットワークに接続した別構成としても構わない。
【0049】
以上の学習部及び識別部により、評価対象となる各粒子のうち中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを、一貫性を持たせつつ迅速かつ簡便に識別できる。
【0050】
更に、本実施形態に係る評価システムによれば、粒子(二次中空粒子)同士が接合された態様でも問題無く評価可能である。なぜなら、本実施形態では中空領域に着目しており、殻部の外側で他の粒子と接合していようとも関係が無い。粒子の白色の殻部により囲まれた部分が黒色なのか、白色寄りの黒色なのか、さえ識別できれば、粒子同士の接合状況は問わない。
【0051】
更に、本実施形態に係る評価システムによれば、特殊な画像処理ソフトウエアを採用せずとも、グレースケール像さえあれば、学習部による完全中空粒子か不完全中空粒子かの学習も可能であるし、完全中空粒子か不完全中空粒子かの識別も可能である。
【0052】
また、本実施形態に係る評価システムによれば、あくまで中空粒子に着目し、完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別している。だからこそ、本実施形態では中実粒子の識別には重きは置かない。好適例では、完全中空粒子か不完全中空粒子かに識別できない粒子は非識別粒子に分類し、最初から相手にしない。
【0053】
常識に従えば、中空粒子に着目するだけならば、中実粒子か否かを識別すれば済む話であるが、本実施形態ではそのような態様は採用していない。本実施形態では、学習にしても識別にしても、グレースケール像において、粒子の白色の殻部により囲まれた部分が黒色なのか、白色寄りの黒色なのかを識別することにより、中空粒子が完全中空粒子か不完全中空粒子かを識別できる。
【0054】
本実施形態の学習部及び識別部を備えた評価システムによれば、観察像βの粒子のうち中空粒子を最初から絞り込むことができ、しかもその中空粒子を完全中空粒子と不完全中空粒子に大別できるという効果もある。
【0055】
[好適例、変形例等]
本発明の技術的範囲は本実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0056】
(非識別粒子として学習)
学習部は、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子として学習するのが好ましい。そして、識別部は、評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内の各粒子に対し、完全中空粒子及び不完全中空粒子以外の粒子を非識別粒子として識別するのが好ましい。
【0057】
この好適例ならば、評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内の各粒子に対し、そもそも中空粒子であるか否かを識別することが明確となる。
【0058】
中空粒子であれば、完全中空粒子であろうとも不完全中空粒子であろうとも、反応物質が供給された際に、少なくとも粒子の表面は、反応場としてある程度の機能を果たす。その一方、識別部が、完全中空粒子でも不完全中空粒子でもないと識別したSEM像内の粒子は無視するのがよい。
【0059】
その理由は、完全中空粒子でも不完全中空粒子でもないと識別された粒子は、中実な粒子である可能性もあるし、完全中空粒子の先端の断面である可能性もある。そのため、本実施形態のようにあくまで中空粒子において完全か不完全かを評価する手法においては、完全中空粒子でも不完全中空粒子でもないと識別された粒子は不確定要因である。本好適例には、この不確定要因を、あえて詳細を識別しない非識別粒子としてまとめ、評価結果から不確定要因を排除することを明確化するという役割がある。
【0060】
(計測部)
評価対象となる複数の粒子の断面を露出させたグレースケール像内における完全中空粒子及び不完全中空粒子の個数の合計に対する完全中空粒子の個数の割合を得る計測工程を行う計測部を備えるのが好ましい。
【0061】
先に述べたように、中空粒子であれば、完全中空粒子であろうとも不完全中空粒子であろうとも、反応物質が供給された際に、少なくとも粒子の表面は、反応場としてある程度の機能を果たす。そのため、中空粒子の中で完全中空粒子がどの程度存在するかは、中空粒子により構成された試料を原料に作製したデバイスの性能を占う指標になり得る。上記計測部を備えることにより、中空粒子の中で完全中空粒子がどの程度存在するかを定量測定できる。
【0062】
(識別部による識別対象箇所)
識別部は、粒子のa色(白色)の殻部により囲まれた部分全体を識別対象とする一方で粒子のa色(白色)の殻部の外側全体は識別対象には含めなくともよく、むしろその方が好ましい。
【0063】
本実施形態は、あくまで中空粒子において完全中空粒子か不完全中空粒子かを評価する手法に係る。そのため、粒子の殻部の外側が該評価に与える影響は少ないと、本明細書ではみなしている。その技術的思想を反映させたのがこの好適例である。
【0064】
つまり、本好適例では、中空領域に関する部分、即ち粒子のa色(白色)の殻部により囲まれた部分全体は識別対象とする。その一方、粒子のa色(白色)の殻部の外側全体は識別対象に意図的に含めない。
【0065】
このように識別対象を絞ることにより、識別に要する時間を更に短縮できる。更に、完全中空粒子か不完全中空粒子かの判断材料に不要な部分(粒子の殻部の外側の像)をそもそも入力せずに済むため、不要な判断材料を減らすことができ、結果的に識別精度が向上する。
【0066】
なお、学習部に学習させる際には、粒子のa色(白色)の殻部の外側全体を観察像αとして画定してもよいし、上記のように粒子のa色(白色)の殻部の外側全体は観察像αに含まれないように画定してもよい。少なくとも、粒子のa色(白色)の殻部により囲まれた部分全体が観察像αに含まれるように画定すればよい。
【0067】
(評価対象の粒子の態様)
本実施形態での評価対象は、複数の一次粒子が連結して形成された粒子である。この粒子としては、複数の中空二次粒子が連結して形成された三次粒子であってもよい。この三次粒子、中空粒子、一次粒子はいずれも導電粒子又は導電性が付与された粒子を例示する。三次粒子を単に「試料」とも称する。試料が三次粒子を指す以上、試料には中空粒子、一次粒子も含まれる。
【0068】
[粒子の評価方法]
本発明は、粒子の評価方法としても技術的意義がある。具体的には以下の構成を備える粒子の評価方法である。各構成の具体的な内容は、上記[粒子の評価システム]と同内容であり、記載を省略する。
「複数の一次粒子が連結して形成された粒子の断面を露出させた観察像であって、粒子をa色とし且つa色とb色との間を数値化したグレースケール像内の粒子において、粒子のa色の殻部によりb色が囲まれた粒子を完全中空粒子としてコンピュータ(学習部)に学習させる一方、粒子のa色の殻部によりa色寄りのb色が囲まれた粒子を不完全中空粒子としてコンピュータ(学習部)に学習させる学習工程と、
複数の一次粒子が連結して形成された粒子であって評価対象となる粒子の断面を複数露出させた観察像であって、粒子をa色とし、a色とb色との間を数値化したグレースケール像内の各粒子に対し、前記学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かをコンピュータ(識別部)に識別させる識別工程と、
を有する、粒子の評価方法。」
粒子の評価方法においても、上記[好適例、変形例等]を適宜組み合わせて適用可能である。
【実施例0069】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
まず、試料として、2種類の金属化合物粉末を用意した。
試料1は、反応性が比較的高かった金属化合物粉末である。
試料2は、反応性が比較的低かった金属化合物粉末である。
試料1、2は化合物の組成(元素の種類)及び結晶格子の態様の種類としては同一である。
【0071】
各試料に対し、本実施形態で述べた手法を基に、中空粒子のうち完全中空粒子の割合を対比したとき、試料2よりも試料1の該割合が大きければ、実際の反応性の傾向と一致する。その場合、この実施例は、本発明の妥当性を示す資料となる。
【0072】
試料1、2を各々熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂に樹脂包埋し、イオンミリングにより断面加工を施した後、以下の条件にてSEM観察を実施した。
【0073】
<SEM観察条件>
・SEM装置: Ultra55(Zeiss製)
・加速電圧:5kV
・倍率:1000倍
・画素数:1280×1024
・検出器:反射電子検出器
・学習部:GRID株式会社製のソフトウエア製品名ReNom(登録商標)
【0074】
上記観察像β(即ち一つの観察用試料のうち1視野)内の粒子数は100~300個程度であった。反射電子像であるこの観察像βを、試料1、2についてそれぞれ10視野分取得した。
【0075】
これらの反射電子像のうち、試料1の1視野分を学習用データとし、残りの9視野分を解析用データとして区別した。また試料2については10視野分を全て解析用データとした。
【0076】
具体的には、学習用データと位置付けた1視野の観察像内において、作業者が完全中空粒子であると(白色の殻部にて囲まれた中空領域が真っ黒である、つまり開気孔であると)目視で確認した完全中空粒子の像(少なくとも約20枚)、及び、作業者が不完全中空粒子であると(白色の殻部にて囲まれた中空領域が真っ白ではないが真っ黒でもない、つまり閉気孔であると)目視で確認した不完全中空粒子の像(少なくとも約20枚)を、学習部に取り込ませた。
【0077】
学習部で学習した完全中空粒子か不完全中空粒子かを、学習用データに対して試験的に識別部により識別させた。その結果、正解率は約80%であり良好であった。
【0078】
試料1の解析用データ9視野分を識別部に読み込ませた。その結果、完全中空粒子(開気孔)、不完全中空粒子(閉気孔)、非識別粒子(その他)の分類を付けたデータが得られ、それらの個数を計測部により集計した。
試料2の解析用データ10視野分についても同様に解析を行った。
【0079】
開気孔率は、完全中空粒子個数/(完全中空粒子個数+不完全中空粒子個数)の式から算出した。試料1の開気孔率は44%であり、試料2の開気孔率は26%であった。
【0080】
試料2と比較して試料1の方が、開気孔率が高かった。反応性と整合する物性データを求められることがわかった。
【0081】
ちなみに、学習部及び識別部を用いず、作業者が目視で完全中空粒子と不完全中空粒子とを反射電子像1視野分だけ識別した場合、反射電子像1視野分あたり、1時間程度の時間を要した。その一方、本実施例での識別は反射電子像1視野分あたり数分しか要さなかった。
【0082】
また、学習部及び識別部を用いず、作業者が目視で完全中空粒子と不完全中空粒子とを反射電子像1視野分だけ識別した場合、試料1の開気孔率は81%であり、試料2の開気孔率は47%であった。本実施例の結果に比べて高い値になっているが、これは、該反射電子像1視野では偶然、中空粒子のうち完全中空粒子の割合が多かったに過ぎない。
【0083】
なお、このように作業者が目視で識別した場合においても、試料2と比較して試料1の方が、開気孔率が高いことに変わりは無く、本実施例の評価結果と同じ傾向を示す。つまり、この作業者の目視での識別の評価結果は、本実施例においては反応性と整合する物性データを求められるという論拠の補強にもなる。
【符号の説明】
【0084】
1…粒子の評価システム(コンピュータ)
2…学習部
3…識別部
4…計測部
10…SEM装置
図1
図2
図3
図4