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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157237
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/364 20140101AFI20241030BHJP
   B23K 26/146 20140101ALI20241030BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B23K26/364
B23K26/146
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071481
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 雄二
(72)【発明者】
【氏名】能丸 圭司
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD01
4E168CB04
4E168CB07
4E168DA04
4E168DA43
4E168EA16
4E168FA05
4E168FB07
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
4E168JA14
4E168KB03
5F063AA04
5F063AA15
5F063AA36
5F063BA43
5F063BA45
5F063BA47
5F063BA50
5F063DD26
5F063DD31
5F063DD32
5F063DF01
5F063DF24
(57)【要約】
【課題】被加工物の上面に形成した液体の層を介してレーザビームを照射する際に、発生した気泡に起因する散乱光によってデバイスの品質が低下することを抑制することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供すること。
【解決手段】レーザ加工装置は、被加工物100の一面(表面102)側と反対側の面側である他面(裏面105)側を保持して一面側を露出させる保持ユニット10と、レーザビーム31を発振するレーザ発振器32とレーザビーム31を集光して被加工物100に照射する集光器33とを有するレーザ照射ユニット30と、被加工物100の一面側においてレーザビーム31が照射される被照射領域37に液体41を噴射して体の薄膜を形成する液体噴射ノズル40と、を備え、液体41の薄膜を介して被加工物100にレーザビーム31を照射することで、被加工物100の一面側から溝又は穴を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザビームを照射して該被加工物の一面側から溝又は穴を形成するレーザ加工装置であって、
該被加工物の該一面側と反対側の面側である他面側を保持して該一面側を露出させる保持ユニットと、
該レーザビームを発振するレーザ発振器と該レーザビームを集光して該被加工物に照射する集光器とを有するレーザ照射ユニットと、
該被加工物の一面側において該レーザビームが照射される被照射領域に液体を噴射して該液体の薄膜を形成する液体噴射ノズルと、を備え、
該液体の薄膜を介して該被加工物に該レーザビームを照射する
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
該液体噴射ノズルは、該液体を噴出する射出径が、100μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
該液体噴射ノズルは、該液体を噴出する射出径が、50μm以上である
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
被加工物にレーザビームを照射して該被加工物の一面側から溝又は穴を形成するレーザ加工方法であって、
該被加工物の該一面側と反対側の面側である他面側を保持して該一面側を露出させる保持ステップと、
該被加工物の該一面側に液体を噴射して該液体の薄膜を形成する液体薄膜形成ステップと、
該液体の薄膜を介して該被加工物の該一面側に該レーザビームを照射するレーザビーム照射ステップと、を備える
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項5】
該液体薄膜形成ステップでは、該液体の薄膜の厚みを100μm以下に形成する
ことを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
該液体薄膜形成ステップでは、該液体の薄膜の厚みを50μm以上に形成する
ことを特徴とする請求項5に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハや光デバイスウエーハ等のウェーハを分割予定ラインに沿って分割する方法として、ウェーハに対して吸収性を有する波長のレーザビームを分割予定ラインに沿って照射してアブレーション加工することによりレーザ加工溝やレーザ加工穴を形成し、このレーザ加工溝やレーザ加工穴を起点にして破断する方法が提案されている。
【0003】
このような方法において、ウェーハにレーザビームを照射すると照射された領域からデブリが発生し、このデブリがデバイスの表面に付着してデバイスの品質を低下させるという問題が生じる。この問題を解消するために、ウェーハの上面に液体の層を形成し、形成した液体の層を介してレーザビームを照射するレーザ加工装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-036818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体の層を介してレーザビームを照射する場合、レーザビームが照射された部位からは微細な気泡が発生する。この気泡によってレーザビームが散乱され、散乱されたレーザビームがウェーハのデバイス面に照射されることでデバイスの品質を低下させるという課題があった。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被加工物の上面に形成した液体の層を介してレーザビームを照射する際に、発生した気泡に起因する散乱光によってデバイスの品質が低下することを抑制することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のレーザ加工装置は、被加工物にレーザビームを照射して該被加工物の一面側から溝又は穴を形成するレーザ加工装置であって、該被加工物の該一面側と反対側の面側である他面側を保持して該一面側を露出させる保持ユニットと、該レーザビームを発振するレーザ発振器と該レーザビームを集光して該被加工物に照射する集光器とを有するレーザ照射ユニットと、該被加工物の一面側において該レーザビームが照射される被照射領域に液体を噴射して該液体の薄膜を形成する液体噴射ノズルと、を備え、該液体の薄膜を介して該被加工物に該レーザビームを照射することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のレーザ加工装置において、該液体噴射ノズルは、該液体を噴出する射出径が、100μm以下であることが好ましく、更に、50μm以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明のレーザ加工方法は、被加工物にレーザビームを照射して該被加工物の一面側から溝又は穴を形成するレーザ加工方法であって、該被加工物の該一面側と反対側の面側である他面側を保持して該一面側を露出させる保持ステップと、該被加工物の該一面側に液体を噴射して該液体の薄膜を形成する液体薄膜形成ステップと、該液体の薄膜を介して該被加工物の該一面側に該レーザビームを照射するレーザビーム照射ステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のレーザ加工方法において、該液体薄膜形成ステップでは、該液体の薄膜の厚みを100μm以下に形成することが好ましく、更に、50μm以上に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本願発明は、被加工物の上面に形成した液体の層を介してレーザビームを照射する際に、発生した気泡に起因する散乱光によってデバイスの品質が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係るレーザ加工装置の構成例を示す斜視図である。
図2図2は、加工対象の被加工物の一例を示す斜視図である。
図3図3は、レーザ照射ユニットの概略構成を説明する説明図である。
図4図4は、液体噴射ノズルの一例を示す断面図である。
図5図5は、図4に示す液体噴射ノズルの分解断面図である。
図6図6は、実施形態に係るレーザ加工方法の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、図6に示すレーザビーム照射ステップにおける被照射領域を示す断面図である。
図8図8は、比較例における被照射領域を示す断面図である。
図9図9は、液体噴射ノズルの圧力に対応したレーザ加工溝及び散乱光ダメージの実験結果を示す図である。
図10図10は、液体噴射ノズルの射出径に対応したレーザ加工溝及び散乱光ダメージの実験結果を示す図である。
図11図11は、液体噴射ノズルの射出径に対応したレーザ加工溝及び散乱光ダメージの実験結果を示す図である。
図12図12は、比較例におけるレーザ加工溝及び散乱光ダメージの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。更に、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0014】
〔実施形態〕
<レーザ加工装置1>
まず、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1の構成について図面に基づいて説明する。図1は、実施形態に係るレーザ加工装置1の構成例を示す斜視図である。図2は、加工対象の被加工物100の一例を示す斜視図である。図3は、レーザ照射ユニット30の概略構成を説明する説明図である。図4は、液体噴射ノズル40の一例を示す断面図である。図5は、図4に示す液体噴射ノズル40の分解断面図である。
【0015】
以下の説明において、X軸方向は、水平面における一方向である。Y軸方向は、水平面において、X軸方向に直交する方向である。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向である。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向である。実施形態のレーザ加工装置1は、加工送り方向がX軸方向であり、割り出し送り方向がY軸方向である。
【0016】
図1に示すように、レーザ加工装置1は、保持ユニット10と、移動ユニット20と、レーザ照射ユニット30と、液体噴射ノズル40と、ポンプ90と、を備える。実施形態に係るレーザ加工装置1は、保持ユニット10に保持された被加工物100に対して、レーザ照射ユニット30によってレーザビーム31を照射することにより、被加工物100の一面側から溝又は穴を形成する加工を実施する装置である。
【0017】
加工対象である被加工物100は、例えば、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ヒ化ガリウム(GaAs)又はその他の半導体材料を基板101とする円板状の半導体ウェーハ、光デバイスウェーハ等のウェーハである。あるいは、被加工物100は、サファイア(Al)、ガラス、石英等の材料を基板101とする円板状のウェーハである。ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、等を含む。実施形態の被加工物100は、厚み350μmのシリコンウェーハである。
【0018】
図2に示すように、被加工物100は、基板101の表面102に格子状に設定される複数の分割予定ライン103と、分割予定ライン103によって区画された領域に形成されたるデバイス104と、を有する。デバイス104は、例えば、IC(Integrated Circuit)、あるいはLSI(Large Scale Integration)等の集積回路、CCD(Charge Coupled Device)、あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサ、又はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等である。
【0019】
被加工物100は、例えば、環状のフレーム110が貼着されかつ被加工物100の外径よりも大径なテープ111が被加工物100の裏面105に貼着されて、フレーム110の開口内に支持された状態で搬送及び加工される。被加工物100は、分割予定ライン103に沿って個々のデバイス104に分割されて、チップに個片化される。なお、被加工物100は、円板状に限定されず、樹脂パッケージ基板や金属基板等その他の板状であってもよい。また、チップは、正方形状に限定されず、長方形状又は多角形状であってもよい。
【0020】
図1に示す保持ユニット10は、被加工物100を保持面11で保持するテーブルである。保持ユニット10は、例えば、被加工物100の裏面105側を保持して、表面102側を露出させる。保持面11は、ポーラスセラミック等から形成された円板形状である。保持面11は、実施形態において、水平方向と平行な平面である。保持面11は、例えば、真空吸引経路を介して真空吸引源と接続している。保持ユニット10は、保持面11上に載置された被加工物100を吸引保持する。
【0021】
保持ユニット10の周囲には、被加工物100を支持するフレーム110を挟持する不図示のクランプ部が複数配置されている。また、保持ユニット10は、不図示の回転ユニットによりZ軸方向と平行な軸心回りに回転可能に支持される。保持ユニット10の下方は、不図示の回転ユニットの外周面に取り付けられたテーブルカバー12により覆われている。
【0022】
テーブルカバー12のX軸方向の両側には、後述の移動ユニット20の加工送りユニット21を覆う一対の蛇腹部材13が取り付けられている。蛇腹部材13は、可撓性を有してX軸方向に伸縮自在であり、テーブルカバー12、すなわち保持ユニット10がX軸方向に移動することを許容する。蛇腹部材13は、加工送りユニット21等に後述の液体41やデブリ等が付着することを規制する。
【0023】
また、保持ユニット10、テーブルカバー12、及び蛇腹部材13は、水受けパン14の内側に収容されて配置される。水受けパン14は、後述の加工送りユニット21が固定される割り出し送りユニット22の不図示の移動基台に固定して設けられる。水受けパン14は、底板と、外縁から立設した複数の周板と、底板に開口する排水口と、を含む。排水口は、不図示の排水管に接続して、底板に溜まった排液を排出する。
【0024】
移動ユニット20は、保持ユニット10とレーザ照射ユニット30とを相対的に移動させるユニットである。実施形態の移動ユニット20は、保持ユニット10、テーブルカバー12及び不図示の回転ユニットを、装置本体2に対してX軸方向及びY軸方向に移動させる。移動ユニット20は、加工送りユニット21と、割り出し送りユニット22と、を含む。
【0025】
加工送りユニット21は、保持ユニット10とレーザ照射ユニット30とを加工送り方向であるX軸方向に相対的に移動させるユニットである。加工送りユニット21は、実施形態において、保持ユニット10、テーブルカバー12及び不図示の回転ユニットをX軸方向に移動させる。加工送りユニット21は、実施形態において、割り出し送りユニット22上に設置されている。
【0026】
加工送りユニット21は、例えば、不図示の移動基台と、移動基台をX軸方向に移動自在に支持する不図示のガイドレールと、ガイドレールに沿ってX軸方向に延びて移動基台がナット部に接合されるボールねじと、ボールねじを回動させるパルスモータと、を含む。移動基台には、不図示の回転ユニットが固定して設けられる。ボールねじ及びガイドレールは、割り出し送りユニット22の移動基台に固定して設けられる。
【0027】
割り出し送りユニット22は、保持ユニット10とレーザ照射ユニット30とを割り出し送り方向であるY軸方向に相対的に移動させるユニットである。割り出し送りユニット22は、実施形態において、保持ユニット10、テーブルカバー12、不図示の回転ユニット、及び加工送りユニット21をY軸方向に移動させる。割り出し送りユニット22は、実施形態において、レーザ加工装置1の装置本体2上に設置されている。
【0028】
割り出し送りユニット22は、例えば、不図示の移動基台と、移動基台をY軸方向に移動自在に支持する不図示のガイドレールと、ガイドレールに沿ってX軸方向に延びて移動基台がナット部に接合されるボールねじと、ボールねじを回動させるパルスモータと、を含む。移動基台には、不図示の回転ユニットが固定して設けられる。ボールねじ及びガイドレールは、装置本体2に固定して設けられる。
【0029】
レーザ照射ユニット30は、保持ユニット10に保持された被加工物100に対してパルス状のレーザビーム31を照射するユニットである。図3に示すように、レーザ照射ユニット30は、レーザ発振器32と、集光器33と、ミラー34、35と、ポリゴンミラー36と、を含む。
【0030】
レーザ発振器32は、被加工物100を加工するための所定の波長を有するレーザビーム31を発振する。レーザ照射ユニット30が照射するレーザビーム31は、被加工物100に対して透過性を有する波長のレーザビームでもよいし、被加工物100に対して吸収性を有する波長のレーザビームでもよい。
【0031】
集光器33は、レーザ発振器32から出射されたレーザビーム31を集光して、保持ユニット10の保持面11に保持された被加工物100に向けて照射させる。集光器33は、実施形態において、ミラー34、35、及びポリゴンミラー36に導かれたレーザビーム31を、保持ユニット10の保持面11に保持された被加工物100の表面102に集光照射させる。
【0032】
実施形態の集光器33は、fθレンズを含む。fθレンズは、複数枚のレンズを組み合わせた組みレンズである。集光器33は、後述のポリゴンミラー36によってX軸方向に走査されたレーザビーム31を、保持ユニット10の保持面11に保持された被加工物100に集光照射する。集光器33を通過したレーザビーム31の進行方向は、Z軸方向に平行である。
【0033】
レーザ照射ユニット30のうち、少なくとも集光器33は、レーザ加工装置1の装置本体2(図1参照)から立設した立壁部3(図1参照)に設置される不図示の集光点位置調整手段によってZ軸方向に移動可能に支持される。集光点位置調整手段は、集光器33によって集光されたレーザビーム31の集光点を、保持ユニット10の保持面11に垂直な光軸方向(Z軸方向)に移動させる。
【0034】
ミラー34、35は、レーザ発振器32と集光器33との間のレーザビーム31の光路上に設けられる。ミラー34、35は、レーザ発振器32から出射したレーザビーム31をレーザ発振器32から集光器33へと導く。例えば、レーザ発振器32から発振されるレーザビーム31がUV(紫外線)の場合、ミラー34、35には、UVを反射する反射膜が形成される。実施形態において、ミラー34は、レーザ発振器32が発振したレーザビーム31を、ミラー35へ反射する。ミラー35は、ミラー34で反射されたレーザビーム31を、ポリゴンミラー36へ反射する。
【0035】
ポリゴンミラー36は、レーザ発振器32と集光器33との間のレーザビーム31の光路上に設けられる。ポリゴンミラー36は、レーザ発振器32から出射しミラー34、35に導かれたレーザビーム31を、移動ユニット20(図1参照)の加工送り方向であるX軸方向に走査して、集光器33へ導く。ポリゴンミラー36は、各側面に平坦なミラー面を有し、割り出し送り方向であるY軸方向に平行な軸心を有する多角柱体(実施形態では、八角柱体)である。集光器33の前側焦点は、レーザビーム31が入射するポリゴンミラー36の側面のミラー面上に位置づけられる。
【0036】
ポリゴンミラー36は、図示せぬ走査モータから出力される回転駆動力によって、軸心回りに回転可能又は揺動可能なように、軸心が図示せぬミラーホルダに保持されている。ポリゴンミラー36は、入射したレーザビーム31を、集光器33に向かってXZ平面と平行な方向に反射させるとともに、Y軸方向に平行な軸心回りに回転することによって、レーザビーム31をX軸方向に走査させる。ポリゴンミラー36によってX軸方向に走査されたレーザビーム31は、集光器33によって集光されて、Z軸方向に平行な方向に進み、被加工物100の被照射領域37に照射される。
【0037】
液体噴射ノズル40は、保持ユニット10の保持面11に保持された被加工物100の一面(実施形態では表面102)側において、レーザビーム31が照射される被照射領域37に液体41を噴射して液体41の薄膜を形成する。液体41は、例えば、発泡しにくい処理を施した水、消泡剤を混ぜた純水、脱気フィルターを通した純水(脱気水)、又は冷却した水等である。発泡しにくい液体とは、例えば、沸点が174℃であり表面張力が小さく破泡やすい、スリーエムジャパン製のフロリナート(登録商標)のFC-43が挙げられる。冷却した水とは、例えば、5℃以下程度の水である。液体噴射ノズル40は、例えば、レーザ照射ユニット30のレーザビーム31を出射する出射口を有する加工ヘッドに隣接した位置に、レーザビーム31の光軸より加工送り方向(X軸方向)に所定角度傾いた姿勢で設けられる。
【0038】
液体噴射ノズル40は、図4及び図5に示すように、基部50と、先端部60と、射出径調整部材70と、Oリング80と、を有し、それぞれに分解可能である。基部50は、液体41が通過する流路51が軸方向に沿って内部に形成される円筒形状であり、上流側の端部が、供給管91(図1参照)を介してポンプ90(図1参照)に接続する。基部50は、下流側の端部に、接合部52を有する。接合部52は、他の部分より小径に形成され、外周面に雄ねじが形成される。
【0039】
先端部60は、内部に軸方向に沿う貫通孔を有する円錘台形状である。先端部60の貫通孔は、大径部側から小径部側に向かって、接合部61、射出径調整部62、及び射出部63に区画される。接合部61は、内周面に雌ねじが形成され、基部50の接合部52が螺合する部分である。接合部61に接合部52が螺合することにより、先端部60は、基部50に装着される。
【0040】
射出径調整部62は、射出径調整部材70が収容される部分である。射出部63は、液体噴射ノズル40の最も下流に位置する部分であり、下流端の開口64から液体41を射出する。射出部63の内径は、接合部61及び射出径調整部62の内径より小さい。
【0041】
射出径調整部材70は、流路51側から供給される液体41の流れを絞ることによって、液体噴射ノズル40から射出される液体41の射出径74を調整する治具である。射出径調整部材70は、内部に軸方向に沿う貫通孔を有する円柱形状である。射出径調整部材70は、接合部61側から挿入して射出径調整部62に収容可能である。
【0042】
射出径調整部材70の貫通孔は、射出径調整部62に収容された状態での接合部61側から射出部63側に向かって、漸縮部71、喉部72、及び漸拡部73に区画される。漸縮部71は、喉部72に向かって徐々に小径になるようなテーパ状の内壁を有する。喉部72は、射出径調整部材70の貫通孔において、最小径の部分であり、この内径が、液体噴射ノズル40の射出径74である。
【0043】
漸拡部73は、射出部63に向かって徐々に大径になるようなテーパ状の内壁を有する。漸拡部73のテーパ角は、漸縮部71のテーパ角より小さい。また、漸拡部73の下流端の内径は、射出部63の内径と同一か、又は射出部63の内径より小さい。
【0044】
液体噴射ノズル40は、射出径調整部62に射出径調整部材70が収容され、かつ基部50と先端部60とが接合部52、61で螺合した状態において、流路51側から供給された液体41を、射出径74に調整して、開口64から噴射させる。
【0045】
なお、図4に示すように、射出径調整部62に射出径調整部材70を収容する際、液漏れを防止するため、射出径調整部62の下流側の端部と射出径調整部材70との間にOリング80が装着される。また、基部50と先端部60とを接合部52、61で螺合する際、液漏れを防止するため、接合部61の下流側の端部と接合部52との間にOリング80が装着される。
【0046】
図1及び図3に示すポンプ90は、供給管91を介して、液体噴射ノズル40に液体41を圧送する。ポンプ90では、液体41を供給する圧力を調整可能であってもよい。
【0047】
<レーザ加工方法>
次に、本発明の実施形態に係るレーザ加工方法について図面に基づいて説明する。図6は、実施形態に係るレーザ加工方法の流れを示すフローチャートである。レーザ加工方法は、図1から図5までに示したレーザ加工装置1等を用いて、被加工物100にレーザビーム31を照射して被加工物100の一面側から溝又は穴を形成する加工を実施する方法である。レーザ加工方法は、保持ステップ201と、液体薄膜形成ステップ202と、レーザビーム照射ステップ203と、を備える。
【0048】
(保持ステップ201)
保持ステップ201は、被加工物100のレーザビーム31を照射する一面側と反対側の面側である他面側を保持して一面側を露出させるステップである。実施形態の保持ステップ201では、図3に示すように、被加工物100の裏面105側を保持ユニット10の保持面11に保持して、表面102側を露出させる。
【0049】
具体的には、まず、環状のフレーム110及びテープ111に保持された被加工物100(図2参照)を、図示せぬ搬送ユニット等により保持ユニット10の保持面11に搬送して載置する。次に、保持ユニット10の保持面11に負圧を形成して被加工物100の裏面105側を吸引するとともに、フレーム110を不図示のクランプ部で挟持することにより、被加工物100を保持面11上に吸引保持する。
【0050】
(液体薄膜形成ステップ202)
液体薄膜形成ステップ202は、被加工物100のレーザビーム31を照射する一面側に液体41を噴射して液体41の薄膜を形成するステップである。実施形態の液体薄膜形成ステップ202では、図3に示すように、被加工物100の表面102側の被照射領域37に向けて、液体噴射ノズル40によって液体41を噴射して、被照射領域37を含む被加工物100の表面102側の一部に液体41の薄膜を形成する。
【0051】
液体薄膜形成ステップ202では、液体41の薄膜の厚み42を50μm以上100μm以下に形成することが好ましい。また、液体薄膜形成ステップ202では、液体噴射ノズル40の開口64から被加工物100の表面102までの軸方向(図4及び図5の一点鎖線で示す方向)距離が、1mm以上10mm以下であることが好ましい。また、液体噴射ノズル40の射出径74を直径50μm以上100μm以下とし、ノズル圧力を0.9MPa以上1.5MPa以下(ゲージ圧力)に設定することが好ましく、0.9MPa以上1.0MPa以下に設定することがより好ましい。なお、これらの設定値は、液体41の薄膜の厚み42が50μm以上100μm以下となるよう、液体噴射ノズル40の被加工物100の表面102までの軸方向距離を大きくする場合にはノズル圧力を大きくする等、適宜調整されることが好ましい。
【0052】
(レーザビーム照射ステップ203)
図7は、図6に示すレーザビーム照射ステップ203における被照射領域37を示す断面図である。レーザビーム照射ステップ203は、液体41の薄膜を介して被加工物100の一面側にレーザビーム31を照射するステップである。ここでは、レーザビーム31を加工送り方向に直線状に照射して直線状の溝加工を行う場合について説明するが、本発明では、例えば、環状の溝加工に適用してもよい。
【0053】
レーザビーム照射ステップ203では、図3に示すように、液体噴射ノズル40から液体41の供給を継続している状態において、レーザ照射ユニット30を作動させるとともに加工送りユニット21を作動させて、保持ユニット10を加工送り方向(X軸方向)へ所定の送り速度で移動させる。実施形態において被加工物100にレーザビーム31を照射する際は、図3に示すポリゴンミラー36の回転とともにポリゴンミラー36の側面のミラー面の位置及び角度が変化することで、被加工物100に対してレーザビーム31がX軸方向に走査されて照射される。
【0054】
なお、実施形態のレーザビーム照射ステップ203におけるレーザ加工条件は、例えば、以下に示すとおりである。
レーザビームの波長:355nm
繰り返し周波数 :5MHz
平均出力 :10W
加工送り速度 :50mm/s
ミラー回転数 :5000rpm
【0055】
図7に示すように、集光器33から集光照射されるレーザビーム31は、液体41を透過して、被加工物100の表面102の被照射領域37に照射される。この際、液体41の薄膜の厚み42を十分に薄くすることで、レーザビーム31の照射により発生する気泡43の上昇距離を抑制し、散乱領域を制限することができる。
【0056】
図8は、比較例における被照射領域を示す断面図である。比較例では、液体41の膜の厚み42を実施形態と比較して十分に厚くしている。このように、被加工物100の被照射領域37を覆う液体41の膜が厚い場合、レーザビーム31の照射により発生する気泡43が液体41内を上昇する。これにより、気泡43に起因する散乱光38の照射領域が大きくなることで、所望の加工点から離れた位置にレーザビーム31の散乱光38が照射される可能性がある。
【0057】
液体噴射ノズル40から液体41を噴射する圧力が十分に高いと、液体41の膜は、射出径74より小さくなり、圧力が高過ぎると、乱流によって液体41の膜が安定しなくなるため、噴射距離、射出径74及びノズル圧力は、適宜調整されることが好ましい。
【0058】
<実験による検証>
本出願人は、上記実施形態の液体噴射ノズル40により液体41の膜を形成した状態でレーザ溝加工を実施し、レーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の状態を検証した。レーザ加工条件は、上述したレーザビーム照射ステップ203の実施形態と同様の条件である。
【0059】
まず、液体噴射ノズル40のノズル圧力(ポンプ90による圧力の制御値)を変更して、それぞれのレーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の状態を検証した。検証では、液体噴射ノズル40の開口64から被加工物100の表面102までの軸方向距離を、10mmとし、液体噴射ノズル40の射出径74を直径100μmとした。また、ノズル圧力は、0.5MPa、0.6MPa、0.8MPa、0.9MPa、1.0MPa、1.1MPa、1.2MPa、1.3MPa、1.4MPa、1.5MPaの10パターンを検証した。
【0060】
図9は、液体噴射ノズル40の圧力に対応したレーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の実験結果を示す図である。図9に示すように、液体41を0.5MPa又は0.6MPaで噴射して形成した液体41の薄膜越しにレーザビーム31を照射してレーザ加工溝106を形成した場合では、レーザ加工溝106から離隔した位置にも散乱光ダメージ107が多く存在している。更に、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が曖昧になり、レーザ加工溝106の溝幅が不均一になってしまっていることがわかる。
【0061】
液体41を0.8MPaで噴射した場合では、レーザ加工溝106の溝幅が概ね一定になるが、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が曖昧な部分が依然として存在する。また、レーザ加工溝106から離隔した位置に、散乱光ダメージ107が存在していることがわかる。
【0062】
液体41を0.9MPa又は1.0MPaで噴射した場合では、レーザ加工溝106の溝幅が概ね一定になり、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が鮮明になっている。また、レーザ加工溝106から離隔した位置の散乱光ダメージ107は、0.8MPaで噴射した場合と比較して、少ないものになっていることがわかる。
【0063】
液体41を1.1MPa又は1.2MPaで噴射した場合では、レーザ加工溝106の溝幅が概ね一定になり、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が鮮明になっている。但し、レーザ加工溝106から離隔した位置の散乱光ダメージ107が、0.9MPa又は1.0MPaで噴射した場合と比較して、若干多くなっていることがわかる。
【0064】
液体41を1.3MPaで噴射した場合では、レーザ加工溝106の溝幅が概ね一定になり、また、レーザ加工溝106から離隔した位置の散乱光ダメージ107は、少なくなっていることがわかる。但し、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が曖昧な部分が存在する。
【0065】
液体41を1.4MPa又は1.5MPaで噴射した場合では、レーザ加工溝106の溝幅が概ね一定になり、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が鮮明になっている。但し、レーザ加工溝106から離隔した位置の散乱光ダメージ107が、1.3MPaで噴射した場合と比較して、多くなっていることがわかる。
【0066】
以上の結果により、液体噴射ノズル40の開口64から被加工物100の表面102までの軸方向距離が10mmで、液体噴射ノズル40の射出径74が直径100μmである場合、ノズル圧力は、0.9MPa以上1.0MPa以下程度に調整されることが好ましいことがわかった。すなわち、ノズル圧力が小さすぎると、液体41の膜が十分に薄くならずに発生した気泡43が液体41内を上昇して散乱光38による散乱光ダメージ107を十分に抑制できず、圧力が高過ぎると、乱流によって液体41の膜が安定しなくなることが推測できる。
【0067】
次に、液体噴射ノズル40の射出径74を変更して、それぞれのレーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の状態を検証した。射出径74を変更することで、形成される液体41の薄膜の厚み42を変更することができる。液体41の薄膜の厚み42は、射出径74にほぼ等しい。検証では、液体噴射ノズル40の開口64から被加工物100の表面102までの軸方向距離を、10mmとし、ノズル圧力を、1.0MPaとした。また、液体噴射ノズル40の射出径74は、直径100μm、及び直径50μmの2パターンを検証した。
【0068】
図10及び図11は、液体噴射ノズル40の射出径74に対応したレーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の実験結果を示す図である。図10は、液体噴射ノズル40の射出径74が直径100μmの実験結果を示し、図11は、直径50μmの実験結果を示す。
【0069】
図10に示すように、液体41を直径100μmの射出径74から噴射した場合では、レーザ加工溝106の溝幅が概ね一定になり、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が鮮明になっている。また、散乱光ダメージ107は、レーザ加工溝106の溝幅方向の両脇に存在するものの、レーザ加工溝106から離隔した位置では少ないことがわかる。
【0070】
図11に示すように、液体41を直径50μmの射出径74から噴射した場合では、レーザ加工溝106の周囲に多数のデブリ108が付着していることがわかる。また、レーザ加工溝106とそれ以外との領域との境界が曖昧な部分が散見されるが、レーザ加工溝106の溝幅は概ね一定ではあることがわかる。
【0071】
次に、従来の方法のように液体41による膜を厚くした状態でのそれぞれのレーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の状態を検証した。検証では、液体41による膜の厚みを、3mm、2mm、1mmとした。
【0072】
図12は、比較例におけるレーザ加工溝106及び散乱光ダメージ107の実験結果を示す図である。図12に示すように、いずれの場合でも、レーザ加工溝106の溝幅方向の両脇から離隔した位置にかけて、散乱光ダメージ107が多く存在していることがわかる。
【0073】
以上、図10及び図11図12との比較によると、液体41の膜の厚みを薄くすることで、散乱光ダメージ107を抑制することができることがわかった。すなわち、液体41の膜を薄くすることで、気泡43の上昇が抑制され、これにより、気泡43による散乱光38に起因される散乱光ダメージ107が抑制されたことが推測できる。
【0074】
また、図10図11との比較によると、液体噴射ノズル40の射出径74を小さくすると、デブリ108が被加工物100の表面102に付着してしまうことがわかった。これにより、射出径74を小さくし過ぎると、液体41の薄膜が適切に形成されない箇所が発生してしまい、デブリ108付着したことが推測できる。射出径74が小さくても、ノズル圧力を下げることで液体41の薄膜の厚み42を大きくすることができるため、液体噴射ノズル40の被加工物100の表面102までの軸方向距離、射出径74、ノズル圧力を総合的に調整されることが好ましい。
【0075】
以上説明したように、実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、被加工物100の上面(表面102)に形成する液体41の層を薄くすることで、レーザビーム31の照射により発生する気泡43に起因する散乱光38の照射領域を制限することができる。このため、散乱光38によってデバイス104の品質が低下することを抑制することができるという効果を奏する。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、レーザ照射ユニット30は、ポリゴンミラー36の代わりにガルバノを有していてもよく、ポリゴンミラー36やガルバノ等の走査ユニットを有さなくてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 レーザ加工装置
10 保持ユニット
11 保持面
20 移動ユニット
21 加工送りユニット
22 割り出し送りユニット
30 レーザ照射ユニット
31 レーザビーム
32 レーザ発振器
33 集光器
36 ポリゴンミラー
37 被照射領域
40 液体噴射ノズル
41 液体
42 厚み
50 基部
60 先端部
70 射出径調整部材
71 漸縮部
72 喉部
73 漸拡部
74 射出径
90 ポンプ
100 被加工物
102 表面(一面)
105 裏面(他面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12