(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157397
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】冷却試料ステージ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2204 20180101AFI20241030BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20241030BHJP
G01N 23/227 20180101ALN20241030BHJP
G01N 23/2251 20180101ALN20241030BHJP
G01N 23/04 20180101ALN20241030BHJP
【FI】
G01N23/2204
H01J37/20 E
G01N23/227
G01N23/2251
G01N23/04 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071744
(22)【出願日】2023-04-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業「光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発~極限レーザーと先端放射光技術の融合による軟X線物性科学の創成~」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷内 敏之
(72)【発明者】
【氏名】辛 埴
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA08
2G001BA11
2G001CA03
2G001JA14
2G001PA07
2G001QA01
2G001SA10
5C101AA02
5C101FF15
5C101FF16
5C101FF46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】試料の冷却に適した冷却試料ステージ装置を提供する。
【解決手段】冷却試料ステージ装置10は、チューブユニット12に設けた支持チューブ22の先端に試料台ユニット22が固定されている。試料台ユニット14は、熱伝導性及び導電性を有する試料台31、サファイア板32、熱伝導性及び導電性を有する金属板33を重ねた構造である。各熱伝導線束37は、一端が金属板33に、他端が冷却管21の先端部21aにそれぞれ取り付けられている。熱伝導線束37は、熱伝導性が高く、かつ柔軟性を有する複数本の熱伝導線から構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性を有し、試料を保持する試料台ユニットと、
先端が前記試料台ユニットから離して配され、内部に形成された流路に冷媒を通すことにより先端が冷却される冷却管と、
熱伝導性と柔軟性を有し、一端が前記試料台ユニットに他端が前記冷却管の先端に固定されて前記試料台ユニットと前記冷却管の先端とを熱的に接続した複数の熱伝導線で構成される熱接続部と
を備えることを特徴とする冷却試料ステージ装置。
【請求項2】
先端に前記試料台ユニットを支持するとともに、中空な内部に前記熱接続部と前記冷却管の先端を含む部分とが配された支持チューブと、
前記冷却管の基端を固定した冷却管固定部材及び前記支持チューブの基端を固定した支持チューブ固定部材を含むチューブ固定部と、
前記冷却管固定部材と前記支持チューブ固定部材とを振動絶縁して相互に固定する防振部材と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項3】
前記支持チューブ固定部材と観察装置との間に設けられ、前記支持チューブ固定部材を移動することにより、前記観察装置に対して前記試料台ユニット及び前記冷却管を移動するマニュピレータを備えることを特徴とする請求項2に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項4】
前記試料台ユニットは、
前記試料を保持するとともに電源に接続されて前記試料に電源電圧を印加する熱伝導性と導電性を有する試料台と、
熱伝導性を有し前記試料台に密着させて熱的に接続されるとともに前記試料台と電気的に絶縁されたユニット絶縁部と
を有し、
前記支持チューブは、先端に前記ユニット絶縁部が固定されることで前記試料台ユニットを支持し
前記複数の熱伝導線は、一端が前記ユニット絶縁部に固定されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項5】
前記ユニット絶縁部は、熱伝導性を有する電気的な絶縁材で形成された熱伝導性絶縁部材を含み、前記熱伝導性絶縁部材が前記試料台の1つの面に密着して設けられて前記試料台と電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項4に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項6】
前記熱伝導性絶縁部材は、サファイア板であることを特徴とする請求項5に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項7】
前記ユニット絶縁部は、前記サファイア板の前記試料台と反対側の面に密着して設けられ、前記試料台との間で前記サファイア板を挟持する熱伝導性を有する取付部材を有し、
前記複数の熱伝導線は、一端が前記取付部材に固定されている
ことを特徴とする請求項6に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項8】
前記支持チューブの周囲に、前記支持チューブの軸方方向について少なくとも前記試料台ユニット及び前記冷却管の先端を含む範囲に設けられ、前記冷却管に熱的に接続された熱伝導性を有する遮熱チューブを備え、
前記冷却管は、冷媒を先端に向けて流す内管と、前記内管との間に形成する流路に前記内管によって先端に供給された冷媒を基端に向けて流す外管とを有する二重管構造である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の冷却試料ステージ装置。
【請求項9】
試料を保持するとともに電源に接続されて前記試料に電源電圧を印加する熱伝導性と導電性を有する試料台と、
前記試料台の1つの面に密着して設けられたサファイア板と、
前記サファイア板に取り付けられ、前記サファイア板を介して前記試料台を冷却する冷却部と
を備えることを特徴とする冷却試料ステージ装置。
【請求項10】
前記冷却部は、前記サファイア板の前記試料台と反対側の面に密着して設けられ、前記試料台との間で前記サファイア板を挟持する熱伝導性を有する取付部材と、
前記取付部材に熱的に接続され、内部に形成された流路に冷媒を通されることによって前記取付部材及び前記サファイア板を介して前記試料台を冷却する冷却管と
を有することを特徴とする請求項9に記載の冷却試料ステージ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却試料ステージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、仕事関数以上のエネルギーを有する光を試料に照射することで放出される光電子を電子レンズを通し拡大、結像する光電子顕微鏡(PEEM:Photoemission Electron Microscope)が知られている(非特許文献1を参照)。この光電子顕微鏡では、電子レンズ系の初段のレンズと試料との間には、試料側をマイナス電位として数kV~数十kVの高電圧が印加される。通常は、試料を載置ないし保持する試料台が電源に接続され、この試料台を介して試料に高電圧が印加される。このような光電子顕微鏡では、20nm程度にも達する空間分解能が得られている。また、例えば冷媒として液体ヘリウム(He)を用いて、試料を数十K程度にまで冷却した状態で、光を試料に照射する光電子顕微鏡も提案されている。この場合には、光電子顕微鏡内にて試料を冷却する冷却試料ステージ装置が用いられる。冷却試料ステージ装置は、例えば液体ヘリウムが通されるトランスファーチューブに設けた冷却管を試料台に固定して試料台を介して試料を冷却する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】木下豊彦, 春山雄一 "光電子顕微鏡" 日本放射光学会 放射光 第13巻 第4号 (2000年): 292-297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の光電子顕微鏡等に用いられる冷却試料ステージ装置では、試料台と冷却管との熱抵抗を低くして熱的に接続することによって試料を十分に冷却するのと同時に、冷却管に対して高電圧が印加されないように電気的には絶縁しておく必要がある。さらには、空間分解能の低下を抑制するために、冷却管の振動等が試料台に伝達されないようにする必要があった。このような問題は、光電子顕微鏡に限らず、試料に高電圧を印加するのと同時に試料を冷却する、例えば光電子分光装置、クライオSEM(走査型電子顕微鏡)、クライオTEM(透過型電子顕微鏡)等の各種装置においても同様な問題を有する。
【0005】
本発明は、試料の冷却に適した冷却試料ステージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の冷却試料ステージ装置は、熱伝導性を有し、試料を保持する試料台ユニットと、先端が試料台ユニットから離して配され、内部に形成された流路に冷媒を通すことにより先端が冷却される冷却管と、熱伝導性と柔軟性を有し、一端が試料台ユニットに他端が冷却管の先端に固定されて試料台ユニットと冷却管の先端とを熱的に接続した複数の熱伝導線で構成される熱接続部とを備えるものである。
【0007】
本発明の冷却試料ステージ装置は、試料を保持するとともに電源に接続されて試料に電源電圧を印加する熱伝導性と導電性を有する試料台と、試料台の1つの面に密着して設けられたサファイア板と、サファイア板に取り付けられ、サファイア板を介して試料台を冷却する冷却部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料台ユニットと冷却管との間を柔軟性を有する熱伝導線で熱的に接続したので、冷却する際の冷却管の振動等が試料台ユニットに伝播することを防止でき試料の冷却に適した構造にできる。
【0009】
また、試料台と冷却部の間にサファイア板を設けたので、電源電圧が印加される試料台と冷却部とを電気的に絶縁しながら冷却部によって試料台の冷却が可能となり、試料の冷却に適した構造にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態における冷却試料ステージ装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】試料台ユニットにおけるサファイア板の取り付け構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に実施形態に係る冷却試料ステージ装置10を示す。この例における冷却試料ステージ装置10は、観察装置としての光電子顕微鏡(PEEM:Photoemission Electron Microscope)に設けられており、光電子顕微鏡で観察する試料Sに真空下において高電圧を印加するとともに試料Sの温度を、例えば20K程度にまで下げそれを維持するように試料Sを冷却する。また、冷却試料ステージ装置10は、光電子顕微鏡の電子レンズに対して試料Sを移動させる機能を有する。
【0012】
冷却試料ステージ装置10は、チューブユニット12、試料台ユニット14、熱接続部15、マニュピレータ17、チューブ保持部18等を備えている。この冷却試料ステージ装置10は、チューブユニット12の基端(
図1において下側の端部)側をチューブ保持部18に固定され、このチューブユニット12の先端側を真空槽19内に挿入した状態にして、チューブ保持部18がマニュピレータ17を介して真空槽19に取り付けられる。
【0013】
チューブユニット12は、冷却管21、支持チューブ22、遮熱チューブ23を有する。冷却管21は、二重管構造であって、内管25と、この内管25と同軸に設けられ、内径が内管25の外径よりも大きい外管26とを有する。この冷却管21は、例えばトランスファーチューブの一端として設けられ、内管25は、その基端がフレキシブルチューブ等を介して冷媒供給機28に接続され、外管26は、その基端が冷媒回収容器29に接続される。
【0014】
内管25の先端は、開放端であって、外管26内に配されている。この内管25は、冷媒供給機28から供給される冷媒を冷却管21の先端に向けて送る流路になっている。外管26は、その先端が閉塞している。外管26の先端の内壁面と内管25の先端との間には、所定の間隔が設けられている。また、内管25の外周面と外管26の内周面との間は冷却管21の先端からの冷媒を基端に向けて通す流路になっている。これにより、冷媒供給機28からの冷媒を内管25を介して冷却管21の先端部21aに向けて流し、その冷媒で先端部21aを冷却し、先端部21aを冷却した冷媒を内管25と外管26との間を流して冷媒回収容器29に回収する。この例における冷媒は液体ヘリウムである。
【0015】
内管25は、熱伝導性の低い材料で形成されている。これにより、内管25の内部を先端部21aに向けて流れる冷媒に、先端部21aを冷却した後に内管25と外管26との間を流れる冷媒からの熱が移動しないようにし、先端部21aを冷却する冷媒の温度上昇を抑制する。外管26は、内管25と同様に熱伝導性の低い材料で形成され、外部からの熱が冷却管21内の冷媒に伝わり難くしている。先端部21aは、熱接続部15を介して試料台ユニット14を効率的に冷却するために、熱伝導性の高い材料で形成されている。この例では、内管25及び外管26は、いずれも非磁性のステンレス(例えばSUS304、SUS316等)で形成され、先端部21aは銅で形成されている。先端部21aは、外管26の先端に銀ロウを用いてロウ付けされている。光電子顕微鏡で取り込む電子の軌道に影響を与えないため、先端部21a、内管25、外管26をはじめとするチューブユニット12の各部に非磁性材料が用いられる。
【0016】
支持チューブ22は、試料台ユニット14を支持する。この支持チューブ22は、その内径が冷却管21(外管26)の外径よりも大きいチューブ形状であり、冷却管21と同軸に設けられている。この例では、支持チューブ22の両端は、いずれも開放端である。支持チューブ22は、後述するように、その基端がチューブ保持部18に固定されている。また、支持チューブ22は、先端が冷却管21の先端よりも真空槽19側に突出するように長さが調節され、その先端に試料台ユニット14が固定されている。これにより、試料台ユニット14と冷却管21の先端部21aとが離して配置される。また、支持チューブ22の中空な内部に、冷却管21の先端部21aを含む部分と、後述する熱接続部15が配されている。支持チューブ22には、その内部と真空槽19の内部とを連通させる複数の通気穴22aが設けられている。これらの通気穴22aを通して支持チューブ22の内部が真空槽19の内部とともに排気される。
【0017】
この支持チューブ22は、それを通して試料台ユニット14に熱が伝わらないようにするため、また支持チューブ22の外周からの熱を冷却管21に対して遮るため熱伝導性が低い材料、この例では、非磁性のステンレス(例えばSUS304、SUS316等)で形成されている。
【0018】
遮熱チューブ23は、その内径が支持チューブ22の外径よりも大きいチューブ形状であり、支持チューブ22と同軸に設けられている。この遮熱チューブ23は、試料台31上の試料Sから冷却管21の中間部分までの範囲の周囲を覆うように配されている。すなわち、遮熱チューブ23は、支持チューブ22の軸方方向について少なくとも試料台ユニット14及び冷却管21の先端を含む範囲に設けられている。遮熱チューブ23は、その試料台31と反対側の端部に中心に向かって伸びた複数の腕部23aが設けられている。複数の腕部23aは、遮熱チューブ23の周方向に所定の間隔をあけて配されている。遮熱チューブ23は、導電性が高い材料、例えば銅で形成されている。
【0019】
遮熱チューブ23は、試料S、試料台ユニット14、熱接続部15、冷却管21、支持チューブ22の露出が少なくなるように設けることが好ましい。したがって、試料台ユニット14上への試料Sの搬送のための窓や切欠き、試料Sを電子レンズが臨むための窓や切欠き等の部分を除き、遮熱チューブ23を、試料台ユニット14上の試料Sの上部、側面等も覆う形状とすることは好ましい態様である。また、冷却管21に対しては、その先端から基部(先端部21aと反対側の端部)側に向って長さ10cm以上の領域を遮熱チューブ23が覆うことが好ましい。
【0020】
遮熱チューブ23は、腕部23aが支持チューブ22に設けた貫通穴22bに通されて腕部23aの端部が冷却管21の外管26の表面に固定されることによって、冷却管21に固定されるとともに外管26に熱的に接続される。これにより、冷却管21の先端部21aを冷却してから内管25と外管26との間を通って冷媒回収容器29に戻る冷媒によって遮熱チューブ23を冷却する。この遮熱チューブ23の冷却により、試料台31上の試料S及び支持チューブ22ひいては冷却管21に対する、チューブユニット12の外側からの輻射熱の影響を低減する。
【0021】
なお、遮熱チューブ23の固定手法及び遮熱チューブ23と外管26との熱的な接続手法は、一例であり、これに限定されない。例えば、支持チューブ22の外周面に取り付けたフランジに遮熱チューブ23を取り付けて固定するとともに、熱伝導性の高い1本または複数本のワイヤ、例えば銅線等の一端を遮熱チューブ23に他端を貫通穴22bを通して外管26にそれぞれ固定することによって、遮熱チューブ23と外管26とを熱的に接続してもよい。
【0022】
試料台ユニット14は、試料台31、サファイア板32、金属板33等で構成され、金属板33の上にサファイア板32、試料台31がこの順番に重ねられて固定されている。この例では、金属板33が支持チューブ22の先端に固定されており、支持チューブ22の先端の開口が金属板33によって塞がれている。なお、支持チューブ22の先端でサファイア板32を保持することによって、試料台ユニット14を支持チューブ22に固定してもよい。
【0023】
試料台31は、試料Sをその載置面31a上に保持する。試料台31は、高い導電性と高い熱伝導性を有する材料で形成されている。試料台31の材料としては、例えば銅、モリブデン等が挙げられる。モリブデンは、銅よりも強度が高く変形しにくいため、試料台31との間で試料Sを授受する際の機械的な接触による試料台31の変形や摩耗による削れを防止する観点からは好ましい材料である。試料台31の表面に金(Au)等の被膜を形成することも好ましい。
【0024】
この例では、試料台31として、銅(Cu)製の板部材の表面に金(Au)の被膜を形成したものを用いており、表面を金とすることによって試料Sと試料台31及び試料台31とサファイア板32との密着性を高め、それらの間の熱的な抵抗及び電気的な抵抗を下げている。試料台31は、観察手法に応じた姿勢で試料Sを保持できればよい。例えば、試料台31の載置面31aに試料Sを固定する固定具を設けてもよい。また、透過式の観察装置において試料Sを観察する場合では、試料台31で試料Sを起立した姿勢で保持することができる。
【0025】
試料台31は、電圧印加用の導線34を介して電源35に接続されている。これにより、試料台31上の試料Sに電子レンズ系に対して-(マイナス)数kV~-数十kVの高電圧(電源電圧)を印加する。導線34は、絶縁材料で被膜されて支持チューブ22と遮熱チューブ23との間を通され、一端が試料台31に電気的に接続され、他端が真空フィードスルー36を通して冷却試料ステージ装置10の外部に引き出されて電源35に接続される。
【0026】
熱伝導性絶縁部材としてのサファイア板32は、試料台31を熱接続部15、冷却管21及び支持チューブ22から電気的に絶縁しつつ、その試料台31と冷却管21とを熱的に接続する。このサファイア板32は、金属板33とともにユニット絶縁部を構成する。この例でのサファイア板32は、人工サファイア(単結晶のコランダム)を板状に加工したものを用いている。サファイアは、低温下において、高い電気的な抵抗と高い熱伝導性を有しており、上記のような電気的な絶縁と熱的な接続の上で好ましい材料である。サファイア板32は、一方の面(
図1において上面)が試料台31の載置面31aと反対側の面(
図1において下面)に密着されている。また、サファイア板32は、試料台31と金属板33との間において短絡が生じない絶縁距離すなわち沿面距離、空間距離となるように、その厚みや形状が決められている。
【0027】
なお、熱伝導性絶縁部材は、人工サファイアに限定されず、低温下において、高い熱伝導性及び高い電気的な抵抗を有するものを用いることができる。例えば、アルミナ(AL2O3)やダイヤモンド等であってもよい。熱伝導性絶縁部材の電気的な抵抗、熱伝導性絶縁部材による絶縁距離は、熱伝導性絶縁部材を挟んで電気的に絶縁される部材間に印加される電圧(試料台31と電子レンズ系との間に印加される電圧)に応じたものとすればよい。熱伝導性絶縁部材の周面にその周方向に沿った溝を設けて沿面距離を大きくすることも有用である。なお、熱伝導性絶縁部材は、少なくとも、試料台31ないし試料Sを目的とする温度に冷却されている状態で必要とする電気的な絶縁性と熱伝導性が得られる必要がある。
【0028】
この例では、熱接続部15の試料台ユニット14に対する密着性を高めより良好な熱伝導性を確保するとともに、加工が難しいサファイア板32の固定を容易にするために、取付部材としての金属板33を設けている。金属板33として、この例では試料台31と同様に、銅製の板部材の表面に金の被膜を形成したものを用いている。取付部材は、熱伝導性の高いものであれば、その材料は上記のものに限定されない。また、取付部材は、加工が容易な材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば銅、金、アルミニウム等が挙げられる。サファイア板32の固定については、後述する。
【0029】
熱接続部15は、熱伝導性が高くかつ柔軟性を有する複数の熱伝導線束37から構成され、冷却管21の振動、伸縮を試料台ユニット14に伝えることなく、試料台ユニット14と冷却管21とを熱的に接続する。これにより、冷却管21は、熱接続部15、金属板33及びサファイア板32を介して試料台31を冷却する。なお、熱接続部15は、冷却管21、金属板33とともに、サファイア板32を介して試料台31を冷却する冷却部を構成する。
【0030】
熱伝導線束37は、冷却管21と金属板33との間に弛みを持たせて、その一端が冷却管21に他端が金属板33に取り付けられている。冷却管21の振動としては、冷媒が冷却管21内を流れることによって生じる振動、冷媒を通して冷却管21に伝わる冷媒供給機28に設けた冷凍機の振動等である。冷却管21の軸心方向における伸縮は、冷媒による冷却管21の温度変化によって生じるものであり、特には冷却開始後の温度低下による縮みである。熱伝導線束37の詳細は後述する。
【0031】
マニュピレータ17は、真空ベローズ41と移動機構部42とを有する。真空ベローズ41は、各端部にそれぞれフランジ41a、41bを一体に設けたフランジ付きのものであって、一方のフランジ41aが真空槽19のフランジ19aに固定される。これにより、真空ベローズ41の中空な内部を真空槽19の内部と繋がった状態にして、マニュピレータ17が真空槽19に取り付けられる。真空ベローズ41の中空な内部には、チューブユニット12の支持チューブ22とその内部の冷却管21が通されている。
【0032】
真空ベローズ41のフランジ41aとフランジ41bとの間に、移動機構部42が取り付けられている。移動機構部42は、一方のフランジ41aに対して他方のフランジ41bを移動する。この移動機構部42により、フランジ41bにチューブ保持部18を介して基端側が固定されたチューブユニット12が真空槽19に対して移動される。
【0033】
この例では、移動機構部42は、チューブユニット12すなわち試料台31を、冷却管21の軸心方向であるZ軸方向に移動するZ軸移動機構42a、Z軸に直交し互いに直交するX軸方向及びY軸方向に移動するXY軸移動機構42b、X軸周り及びY軸周りに回転移動(チルト)させるチルト機構42cを有している。Z軸移動機構42aは、フランジ41aに取り付けられ、XY軸移動機構42bは、Z軸移動機構42aに取り付けられている。チルト機構42cは、XY軸移動機構42bとフランジ41bとの間に取り付けられている。これにより、チューブユニット12と一体に試料台31の、X軸、Y軸及びZ軸の各方向の移動とX軸周り及びY軸周りのチルトとを行う。
【0034】
マニュピレータ17は、真空用の5軸マニュピレータと同様の構成でよく、この例でもそのようになっている。なお、マニュピレータ17は、5軸以外のものでもよい。例えばZ軸周りにチューブユニット12を回転させる機能をさらに持たせた6軸マニュピレータとしてもよく、2軸や3軸等のマニュピレータとしてもよい。
【0035】
チューブ保持部18は、真空ベローズ44と防振ゲル45とを有する。真空ベローズ44は、各端部にそれぞれフランジ44a、44bを一体に設けたフランジ付きのものである。一方のフランジ44aがマニュピレータ17のフランジ41bに固定される。また、このフランジ44aに支持チューブ22の基端が固定されている。真空ベローズ44の中空な内部に支持チューブ22の基端から突出した冷却管21が通され、フランジ44bには、冷却管21の基端に一体に設けたフランジ47が固定されている。これにより、真空ベローズ44の中空な内部が、支持チューブ22の通気穴22aを通して、真空ベローズ41の中空な内部及び真空槽19の内部と繋がった状態にされる。また、真空ベローズ44のフランジ44b側の開口がフランジ47によって気密に閉じられている。なお、この例においては、真空ベローズ44がチューブ固定部であり、フランジ44aが支持チューブ22の基端を固定した支持チューブ固定部材であり、フランジ44bが冷却管21の基端を固定した冷却管固定部材である。
【0036】
上記のようにチューブ保持部18に、支持チューブ22及び冷却管21を固定することによって、マニュピレータ17の移動機構部42の操作で真空槽19に対してチューブ保持部18が移動、回転移動することにより、チューブユニット12すなわち試料台31が、Z軸方向、X軸方向、Y軸方向に移動し、またX軸周り及びY軸周りにチルトする。
【0037】
防振部材としての防振ゲル45は、フランジ44aとフランジ44bとの間に複数設けられており、フランジ44aとフランジ44bとを振動絶縁して相互に固定する。すなわち、防振ゲル45は、フランジ44bからフランジ44aへの振動の伝播を防止しながら、フランジ44aとフランジ44bとの位置関係すなわちフランジ44a、44bに取り付けた冷却管21と支持チューブ22との位置関係を維持してチューブユニット12として一体的に移動等が行われるようにしている。複数の防振ゲル45は、フランジ44a、44bとの間にそれらの周方向に沿って所定の間隔で設けられている。防振ゲル45は、冷却管21と支持チューブ22との位置関係を維持する強さとともに微振動を吸収する柔らかさを有する弾性部材である。フランジ44bの振動としては、冷却管21に生じる振動であり、上述のように冷媒が冷却管21内を流れることによって生じる振動、冷媒を通して冷却管21に伝わる冷凍機の振動等である。
【0038】
図2に示すように、この例の試料台ユニット14は、試料台31と金属板33とでサファイア板32を挟持して固定している。試料台31及び金属板33には、複数の貫通穴31b、33aがそれぞれ形成されている。各貫通穴31b、33aに対応するサファイア板32の各位置に貫通穴32a、32bがそれぞれ形成されている。また、貫通穴31bに対応する金属板33の各位置にはネジ穴33bがそれぞれ形成され、金属板33の貫通穴33aに対応する試料台31の各位置にはネジ穴31cがそれぞれ形成されている。
【0039】
試料台31と金属板33とでサファイア板32を挟んだ状態で、試料台31側からネジ51を貫通穴31b、32aに通してネジ穴33bに螺合し、金属板33側からネジ52を貫通穴33a、32bに通してネジ穴31cに螺合する。これにより、サファイア板32が試料台31と金属板33とに挟持されて固定される。したがって、サファイア板32には、貫通穴32a、32bを形成する加工を施すだけでサファイア板32を試料台31に密着した状態で固定できる。ネジ51、52は、絶縁性を有するものであり、この例ではPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)で形成されたものを用いている。
【0040】
熱接続部15の熱伝導線束37は、その一端が上記ネジ52のねじ頭部と金属板33との間に締め付けられることで、金属板33に密着させて試料台ユニット14に固定されている。同様に、熱伝導線束37は、その他端が冷却管21の先端部21aに設けたネジ穴21bに螺合させたネジ53のねじ頭部と先端部21aとの間に締め付けられることで、先端部21aに密着させて固定されている。これにより、冷却管21の先端部21aと金属板33とが熱的に接続され、先端部21aにより金属板33、サファイア板32を介して試料台31が冷却される。
【0041】
各熱伝導線束37は、複数本の熱伝導線37aから構成される。熱伝導線37aは、熱伝導性が高く、かつ柔軟性すなわち外力の作用で曲がる(軸方向が曲がる)性質を有する材料で形成された線であり、例えば銅線、金線、アルミニウム線等である。熱伝導線束37は、このような熱伝導線37aを複数本まとめたものであり、熱伝導線束37自体も、熱伝導性が高くかつ外力の作用で曲がる柔軟性を有するものとして構成される。
【0042】
この例では、熱伝導線37aとして表面に金の被膜を形成した直径0.5mmの金めっき銅線を100本まとめて熱伝導線束37としている。冷却管21の振動、伸縮を熱伝導線束37で吸収するため、その吸収を効果的にするために熱伝導線37a、熱伝導線束37は、外力の作用で容易に曲がることが好ましい。
【0043】
熱伝導線束37における熱伝導線37aのまとめかたは、限定されないが、熱伝導線束37が外力の作用で容易に曲がる態様とすることが好ましい。例えば複数本の熱伝導線37aを平行に並べてテープ状にしたものを熱伝導線束37としてもよく、平編線のように複数本の熱伝導線37aを編んでテープ状にしたものを熱伝導線束37としてもよい。また、複数本の熱伝導線37aを円柱状にまとめて熱伝導線束37としてもよい。この例では、複数本の熱伝導線37aを撚線状にまとめて熱伝導線束37としている。複数の熱伝導線37aをまとめずに試料台ユニット14及び冷却管21に固定してもよい。
【0044】
熱接続部15のトータルの熱伝導線37aの本数、熱伝導線37aの熱伝導率、直径、材料等は、必要とする冷却の能力や吸収すべき冷却管21の振動、伸縮の周波数等に応じて適宜決めることができる。熱伝導線37aの直径が小さくなるほど、また1本の熱伝導線束37を構成する熱伝導線37aの本数が少ないほど熱伝導線束37の柔軟性は向上する。熱伝導線37aを金めっき銅線または銅線とした場合、その直径は0.5mm以下とすることが好ましい。
【0045】
上記のように固定された状態で、各々の熱伝導線束37は、冷却管21の先端部21aと金属板33との間で弛みを持つように長さが決められている。これにより、冷却管21がその軸心方向に縮んだ場合であっても、試料台ユニット14が熱伝導線束37を介して冷却管21に引っ張られることはない。
【0046】
例えば、試料ステージが冷却管の先端に直接に固定されている構造の場合には、冷却開始後、冷却管の温度低下により冷却管が縮むことによって試料ステージが冷却管の基端に向かって移動してしまうため、時間の経過とともに観察装置の電子レンズ系の焦点位置が試料台上の試料から徐々にずれていく。また、冷却管の温度変動があった場合には、それに応じて冷却管の長さが増減するため、試料ステージの位置が変化して、観察装置の焦点が試料に定まらない。
【0047】
これに対して、上記のように構成される冷却試料ステージ装置10では、例えば冷却開始後、冷却管21が、その内部に流れる冷媒で温度が下がることでその軸心方向に縮む。このときに、冷却管21の先端部21aは、試料台ユニット14との間に介在する熱伝導線束37をその弛みが小さくなるように変形させながら基端に向けて移動する。このため、冷却管21の長さの縮小で試料台ユニット14が移動することはなく、それによって電子レンズ系の焦点位置から試料台31上の試料Sがずれることはない。また、温度の上昇で冷却管21の長さが増加する変化が生じても、それによって熱伝導線束37に弛みを大きくする変形を生じさせるだけであり、それによって試料台ユニット14が移動することはなく、電子レンズ系の焦点位置から試料台31上の試料Sがずれることはない。
【0048】
また、観察装置による試料Sの観察中においても、冷媒が冷却管21内を流れることによる振動、冷媒を通して冷媒供給機28から伝わる振動が冷却管21に生じる。この冷却管21の振動は、先端部21aと試料台ユニット14との間では、熱伝導線束37が変形して吸収されるため、試料台ユニット14に伝わることはない。また、冷却管21は、その基端がチューブ保持部18に固定されているが、その冷却管21が固定されたチューブ保持部18のフランジ44bと、支持チューブ22が固定されたフランジ44aとの間には、防振ゲル45が設けられているため、防振ゲル45によってフランジ44aには伝わらない。このため、冷却管21の振動で試料台ユニット14が固定された支持チューブ22が振動することはない。これにより、振動がない試料Sを観察することができ空間分解能の低下が防止される。
【0049】
上記では光電子顕微鏡に冷却試料ステージ装置を用いた例について説明しているが、冷却試料ステージ装置を用いる観察装置は、試料に高電圧を印加するとともに、その試料を冷却するものであれば、これに限定されない。例えば、冷却試料ステージ装置は、光電子分光装置、クライオSEM(走査型電子顕微鏡)、クライオTEM(透過型電子顕微鏡)等の各種装置に利用できる。また、液体ヘリウムを冷媒とする例について説明しているが、冷媒は、これに限定されない。例えば、冷媒を液体窒素としてもよい。また、冷媒は、液体でも気体でもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 冷却試料ステージ装置
14 試料台ユニット
15 熱接続部
17 マニュピレータ
18 チューブ保持部
21 冷却管
21a 先端部
22 支持チューブ
23 遮熱チューブ
25 内管
26 外管
31 試料台
32 サファイア板
33 金属板
41 真空ベローズ
45 防振ゲル