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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157409
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】基板処理方法、装置、及びシステム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20241030BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20241030BHJP
   C23C 16/06 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01L21/28 A
H01L21/285 C
C23C16/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071761
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雅人
(72)【発明者】
【氏名】石坂 忠大
【テーマコード(参考)】
4K030
4M104
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA13
4K030AA17
4K030BA01
4K030BA05
4K030BA12
4K030BA18
4K030BA20
4K030BA38
4K030BA42
4K030CA04
4K030CA12
4K030FA01
4K030GA12
4K030KA05
4K030KA30
4K030KA41
4K030KA49
4M104AA01
4M104BB30
4M104DD22
4M104DD23
4M104DD43
4M104DD44
4M104DD45
4M104DD75
4M104EE05
4M104EE14
4M104EE17
4M104FF13
4M104HH13
4M104HH16
(57)【要約】
【課題】 金属酸化膜を還元するためのプラズマ化されていないハロゲン含有ガスによる残留物を減少させ、かつ金属酸化膜を更に還元すると共に、ウエハWの形状変化を抑制すること。
【解決手段】基板処理方法は、金属層を有する基板の処理方法であって、前記基板にハロゲン含有ガスを供給し、前記金属層の表面に形成された金属酸化膜を還元する工程と、次いで、前記基板に還元性のガスを供給し、前記ハロゲン含有ガスの供給により前記金属層に残留した残留物を減少させる工程と、を含んでいる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層を有する基板の処理方法であって、
前記基板にハロゲン含有ガスを供給し、前記金属層の表面に形成された金属酸化膜を還元する工程と、
次いで、前記基板に還元性のガスを供給し、前記ハロゲン含有ガスの供給により前記金属層に残留した残留物を減少させる工程と、
を含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記ハロゲン含有ガスは、四塩化チタンガスである、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記還元性のガスは、水素ガス、またはアンモニアガスのうち少なくとも一方を含み、
前記残留物を減少させる工程において、前記還元性のガスをプラズマ化して前記基板に供給する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記基板の処理は、処理容器内に設けられた基板載置台に前記基板を載置した状態で実施され、
前記還元性のガスのプラズマは、前記基板載置台を構成すると共に、接地された下部電極と、前記処理容器内に前記下部電極に対向して配置され、かつ高周波電源から高周波電力が供給される上部電極と、の間に供給された前記還元性のガスに対し、前記上部電極と前記高周波電源との間に設けられた電圧波形整形部によって正電圧を抑制された前記高周波電力を印加して形成する、請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記残留物を減少させる工程において、前記還元性のガスとして、プラズマ化していないアンモニアガスを前記基板に供給する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記金属層は、絶縁体層に形成された凹部の底面を構成し、前記金属層を第1の金属層と呼ぶとき、前記残留物を減少させる工程を実施した後、前記第1の金属層の上の前記凹部内に第2の金属層を形成する工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記第1の金属層は、ルテニウム、タングステン、コバルトまたはチタンから選択された金属を含み、
前記第2の金属層は、ルテニウム、タングステンまたはモリブデンから選択された金属を含む、請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記金属酸化膜を還元する工程及び前記残留物を減少させる工程は、内部が真空雰囲気とされる第1の処理容器内に前記基板を収容した状態で行われ、
前記第2の金属層を形成する工程は、内部が真空雰囲気とされ、前記第1の処理容器とは異なる第2の処理容器内に、前記基板を収容した状態で行われ、
前記残留物を減少させる工程を行った後、真空雰囲気の搬送路を介して前記第1の処理容器から前記第2の処理容器へ前記基板を搬送する工程を含む、請求項6に記載の基板処理方法
【請求項9】
金属層を有する基板を処理する装置であって、
前記基板が配置される処理容器と、
前記処理容器内にハロゲン含有ガスを供給するためのハロゲン含有ガス供給部と、
前記処理容器内に還元性のガスを供給するための還元性ガス供給部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記処理容器内に配置された基板にハロゲン含有ガスを供給し、前記金属層の表面に形成された金属酸化膜を還元するステップと、次いで、前記基板に還元性のガスを供給し、前記ハロゲン含有ガスの供給により前記金属層に残留した残留物を減少させるステップとを実行するための制御信号を出力するように構成された、装置。
【請求項10】
前記還元性のガスは、水素ガス、またはアンモニアガスのうち少なくとも一方を含み、 前記装置は、
前記処理容器内に設けられ、前記基板が載置される載置台を構成すると共に、接地された下部電極と、
前記下部電極に対向して配置された上部電極と、
前記上部電極に対し、前記還元性のガスをプラズマ化するための高周波電力を印加する高周波電源と、
当該高周波電源と前記上部電極との間に設けられ、前記上部電極に印加される高周波電力の正電圧を抑制するように前記高周波電源の電圧波形を整形する電圧波形整形部と、を備える、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
基板の処理システムであって、
請求項9または10に記載の装置である第1の装置と、
前記金属層を第1の金属層と呼ぶとき、第2の金属層を形成するための処理容器を備えた第2の装置と、
前記第1の装置の前記処理容器と、前記第2の装置の前記処理容器とが接続された筐体と、前記基板を大気に曝すことなく搬送するために前記筐体内に配置された基板搬送機構と、を備えた真空搬送装置と、
前記制御部と、を備え、
前記制御部は、前記残留物を減少するステップを実施した後、前記真空搬送装置にて、前記第1の装置の前記処理容器から前記第2の装置の前記処理容器へ前記基板を搬送するステップと、次いで、前記第2の装置にて、前記残留物が減少した前記第1の金属層の上の前記凹部内に前記第2の金属層を形成するステップと、を実行するための制御信号を出力するように構成された、システム。
【請求項12】
前記第1の金属層は、ルテニウム、タングステンまたはチタンから選択された金属を含み、
前記第2の金属層は、ルテニウム、タングステンまたはモリブデンから選択された金属を含む、請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、装置、及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」と記載する)に金属配線の形成を行う工程がある。この配線の形成工程においては、金属層の表面が酸化さできた酸化物の除去処理が必要となる場合がある。例えば特許文献1には、タングステン層の表層が自然酸化して形成されたタングステン酸化膜を除去する手法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-059916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、金属酸化膜を還元するためのハロゲン含有ガス供給による残留物を減少させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の基板処理方法は、
金属層を有する基板の処理方法であって、
前記基板にハロゲン含有ガスを供給し、前記金属層の表面に形成された金属酸化膜を還元する工程と、
次いで、前記基板に還元性のガスを供給し、前記ハロゲン含有ガスの供給により前記金属層に残留した残留物を減少させる工程と、
を含んでいる。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、金属酸化膜を還元するためのハロゲン含有ガス供給による残留物を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本開示の第1実施形態に係るウエハに形成された凹部の縦断側面図である。
図1B】前記凹部の第2の縦断側面図である。
図1C】前記凹部の第3の縦断側面図である。
図1D】前記凹部の第4の縦断側面図である。
図2】第1実施形態に係る基板処理システムの平面図である。
図3】前記基板処理システムに設けられた第1処理モジュールの縦断側面図である。
図4】第1実施形態に係る処理の手順を示すフロー図である。
図5A】予備試験の実験結果を示す第1のグラフ図である。
図5B】予備試験の実験結果を示す第2のグラフ図である。
図5C】予備試験の実験結果を示す第3のグラフ図である。
図6A】実施例1の実験結果を示す第1のグラフ図である。
図6B】実施例1の実験結果を示す第2のグラフ図である。
図6C】実施例1の実験結果を示す第3のグラフ図である。
図7A】実施例2の実験結果を示す第1のグラフ図である。
図7B】実施例2の実験結果を示す第2のグラフ図である。
図7C】実施例2の実験結果を示す第3のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
本開示に係る基板処理方法の第1実施形態について説明するにあたり、処理対象の基板であるウエハWの構成について説明する。図1Aは、処理前のウエハWの表層の一部分を示す縦断側面図である。当該ウエハWの基層は、例えばシリコン(Si)により構成されたシリコン層であるが、このシリコン層の図示は省略している。
【0009】
このシリコン層の上側には、酸化シリコン(SiOx)層12が形成されている。この酸化シリコン層には、上方からのエッチング処理によって形成された縦長の凹部11が上方に開口するように複数設けられている。なお凹部11の側壁には、当該エッチングの際に用いられる窒化シリコン(SiN)層が形成されているが、図1A図1Dでは図示を省略してある。そして、凹部11の底面には、第1の金属層であるタングステン(W)層13が露出している。このタングステン層13は、ウエハWから製造される半導体装置の金属配線を構成するものであり、その下端部は例えば図示しない窒化チタン(TiN)層を介して既述のシリコン層の上層に積層されている。この凹部11内に臨むタングステン層13の表面は、例えば大気中でウエハWを搬送した際に自然酸化された金属酸化膜であるタングステン酸化膜14が形成されている。
【0010】
上記のウエハWについては、凹部11内に第2の金属層としてルテニウム(Ru)層17を形成し金属配線を形成する。一方、タングステン層13とルテニウム層17との間にタングステン酸化膜14が形成されていると、金属配線の抵抗値を上昇させる要因となるばかりでなくルテニウム層17の埋め込み不良を引き起こす要因ともなる。このため、本開示の基板処理方法においては、ハロゲン含有ガスである、例えば四塩化チタン(TiCl)ガスを用いてタングステン酸化膜14を還元する工程を実施する。TiClガスは、タングステン酸化膜14の還元を効率的に進行させる一方で、還元後のタングステン膜(後述の「還元タングステン膜15」)中に、TiClガスに含まれるチタン(Ti)や塩素(Cl)が残留する要因となる。チタンは、金属配線の抵抗値を上昇させる要因ともなり、塩素からHClが生成すると、金属配線をエッチングしてしまうおそれも生じる。また塩素は、ルテニウム層17の成膜を阻害する可能性もある。
【0011】
そこで、本実施形態においては、還元タングステン膜15中の残留物を減少させる工程をし、しかる後、ルテニウム層17を形成する工程を行う。以下、タングステン酸化膜14を還元する工程を還元工程、残留物を減少する工程を除去工程、ルテニウム層17を形成する工程を成膜工程ということもある。
【0012】
以下、ウエハWの表面の変化の様子を示す図1Bから図4までを参照して、一連の処理について説明する。一連の処理中、ウエハWの周囲の環境は真空雰囲気とされる。即ちこの一連の処理中にウエハWは大気に晒されない。このため、各工程はウエハWを処理容器内に格納した状態で行われる。
【0013】
先ず、当該ウエハWに対してハロゲン含有ガスであるTiClガスを供給する還元工程が行われる。この際、TiClガスは、プラズマ化などの活性化を行うことなくウエハWに供給される。これにより、ウエハWが収容された処理容器内には、還元性の雰囲気が形成される。この結果、タングステン酸化膜14はTiClガスと反応し、図1Bに示すような還元タングステン膜15になる。還元タングステン膜15は、タングステン酸化膜14が還元されたものであって、タングステン酸化膜14より酸素の含有量が減少している。
【0014】
このとき、還元タングステン膜15は、タングステン酸化膜14と反応した四塩化チタンの残留物である塩素やチタンを含む。「四塩化チタンの残留物を含む」とは、還元タングステン膜15の内部に当該残留物を含有することに限らず、表面に当該残留物が付着している場合も含まれる。以後、四塩化チタンの残留物を単に残留物ということもある。図1Bにおいては、還元工程が実施された後の残留物を多く含んだ状態の還元タングステン膜15を、右下下がりの斜線のハッチングに、砂状のパターンを付加した状態で示してある。
【0015】
続いて、ウエハWの還元タングステン膜15に残留している残留物を除去する除去工程が行われる。本実施形態においては、還元タングステン膜15を含むウエハWに対して、還元性のガスを供給することにより、残留物の除去を実施する。還元性のガスとは、処理時にウエハWが配置されている空間に還元性の雰囲気を形成するためのガスであって、例えばプラズマ化された水素ガス(水素ガスプラズマ)を例示することができる。また水素ガスプラズマの供給にあたって、加速された高エネルギーの水素イオンがウエハWの表面に衝突すると、凹部11を構成するSiOx層12が損傷してしまうおそれがある。具体的には、凹部11の開口部分や中間領域のなどを構成するSiOx層12がイオンの衝突によって部分的に削られて凹部11が部分的に拡張してしまう場合を例示できる。
【0016】
そこで、除去工程の際にウエハWに供給される水素ガスプラズマは、エネルギーが抑制されたイオンと水素ラジカルを含んだ低エネルギーの水素ガスプラズマを供給することが好ましい。低エネルギーの水素ガスプラズマを供給する基板処理モジュール(第1処理モジュール51)の具体的な構成については、後段で図3を参照しながら説明する。プラズマ化された水素ガスがウエハWに供給され、凹部11内に進入して還元タングステン膜15に到達すると、残留物と水素ガスプラズマ中の活性種とが反応して、残留物が除去される(図1C)。図1Cにおいては、除去工程が実施され残留物の含有量が低減された後の還元タングステン膜15を、砂状のパターンを付加していない右下下がりの斜線のハッチングにて示してある。
【0017】
また、残留物の除去工程においても還元性のガスである水素ガスプラズマを用いることにより、還元工程の後になお残存している酸素の含有量を減少する。この結果、還元タングステン膜15に対するルテニウム層17の埋め込み不良の発生をさらに抑制し、かつ配線抵抗を低減することができる。
【0018】
続いて、CVDによりウエハWに対してルテニウム層17を形成する成膜工程が行われる。成膜ガスは例えばRu(CO)12(ドデカカルボニル三ルテニウム(Triruthenium dodecacarbonyl))ガスである。以後、Ru(CO)12ガスをDCRガスということもある。これにより、還元タングステン膜15の上方側の凹部11内に埋め込まれるようにルテニウム(Ru)層17が形成される。しかる後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により、SiOx層12の上面に形成されているRu層17を除去することにより、図1Dに示すように、凹部11内にルテニウムが埋め込まれた状態となる。このように形成されたルテニウム層17、タングステン層13(還元タングステン膜15)は、ウエハW酸素や残留物の含有量が少なく抵抗の低い配線を構成する。
【0019】
上述の一連の処理を実施することができる基板処理システムの一実施形態である基板処理システム1について、図2の平面図を参照して説明する。基板処理システム1は、ローダーモジュール31、ロードロックモジュール35、真空搬送装置に相当する真空搬送モジュール41、還元工程、除去工程を実施するための第1処理モジュール51、及び成膜工程を実施するための第2処理モジュール52を備えている。第1処理モジュールは、特許請求の範囲に記載の「基板を処理する装置」及び「第1の装置」に相当し、第2処理モジュール52は「第2の装置」に相当している。
【0020】
ローダーモジュール31、ロードロックモジュール35、真空搬送モジュール41は、この順に直線状に前後方向に並んで設けられている。以下の基板処理システム1に関する説明では、ローダーモジュール31が位置する側を前方側、真空搬送モジュール41が位置する側を後方側とする。
【0021】
ローダーモジュール31は、内部が大気圧である筐体と、筐体内に設けられるウエハWの搬送機構32と、ロードポート33と、を備えている。ロードポート33は本例では4つ、上記の筐体の前方側に左右に並んで設けられている。各ロードポート33にはFOUP(Front Opening Unified Pod)と呼ばれる、ウエハWを格納する搬送容器34が載置される。上記の搬送機構32は例えば左右に移動可能な多関節アームによって構成されており、各ロードポート33上の搬送容器34と、各ロードロックモジュール35との間でウエハWを搬送可能である。
【0022】
ロードロックモジュール35については、本例では3つ、前方側から見て左右に並んで設けられている。各ロードロックモジュール35はそれぞれ筐体を備えており、当該筐体は、その前方側、後方側それぞれ設けられたゲートバルブGを介してローダーモジュール31、真空搬送モジュール41に接続されている。そして、筐体の前方側及び後方側のゲートバルブGが閉じた状態で、当該筐体内の圧力を大気圧と真空圧力との間で変更自在である。また、上記の筐体内には当該ウエハWが載置される不図示のステージが設けられており、当該ステージは、当該ロードロックモジュール35に各々アクセスする上記の搬送機構32及び後述の真空搬送機構44に対して、ウエハWを受け渡し可能に構成されている。
【0023】
真空搬送モジュール41は、筐体41Aと、筐体41A内に設けられた真空搬送機構44とを備えている。筐体41Aには排気口45が各々開口しており、当該排気口45には排気管の一端が接続されている。排気管の他端は、例えばターボ分子ポンプにより構成される排気機構46に接続されており、排気機構46による排気口45からの排気により、筐体41A内が真空雰囲気に保たれる。排気機構46によって真空雰囲気とされる筐体41A内は、ウエハWの搬送が行われる真空雰囲気の搬送路に相当する。
【0024】
手前側から見て真空搬送モジュール41の筐体41Aの左右には、前後に並んで配置された第1処理モジュール51及び第2処理モジュール52がそれぞれゲートバルブG1を介して接続されている。第1処理モジュール51、第2処理モジュール52と、ロードロックモジュール35との間におけるウエハWを受け渡しは、例えば前後に移動可能な多関節アームによって構成された真空搬送機構44によって行われる。
【0025】
処理モジュール51、52の各々で行われる処理と、既述の一連の処理との対応を示す。第1処理モジュール51では、還元工程及び除去工程が行われ、第2処理モジュール52では成膜工程が行われる。各処理モジュール51、52は、内部が真空雰囲気となるように排気される処理容器61をそれぞれ備えており、各工程は処理容器61内で行われる。従って還元工程及び除去工程は、同一の処理容器61内のウエハWに対して行われる。
【0026】
基板処理システム1はコンピュータである制御部30を備えており、この制御部30は、プログラムを備えている。プログラムには、既述したウエハWの処理及びウエハWの搬送が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれており、このプログラムは、記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、DVD等に格納され、制御部30にインストールされる。制御部30は当該プログラムにより基板処理システム1の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。具体的には処理モジュール51、52の動作、ゲートバルブG、G1の開閉、搬送機構32の動作、真空搬送機構44の動作、排気機構46の動作、ロードロックモジュール35内の圧力の切替えなどの動作が制御される。上記の処理モジュール51、52の動作の制御とは、具体的に例えば後述するヒータ66への電力供給によるウエハWの温度制御、各ガスの処理容器61内への給断の制御、後述する高周波電源82のオンオフによるプラズマ形成の制御などである。
【0027】
基板処理システム1におけるウエハWの搬送経路については、ウエハWは先ず、搬送容器34→ローダーモジュール31→ロードロックモジュール35→真空搬送モジュール41の順で搬送される。そして、ウエハWは第1処理モジュール51→真空搬送モジュール41→第2処理モジュール52の順で搬送される。その後、ウエハWは真空搬送モジュール41→ロードロックモジュール35→ローダーモジュール31の順で搬送されて、搬送容器34に戻される。
【0028】
続いて処理モジュール51、52のうち、代表して還元工程及び除去工程を行う第1処理モジュール51について図3の縦断側面図を用いて説明する。上記したように第1処理モジュール51の処理容器61の側壁には、ウエハWの搬送口が形成され、搬送口を開閉するゲートバルブG1が設けられる。また、この処理容器61は接地されている。そして、処理容器61の壁面に開口するように排気管62の一端が接続され、排気管62の他端に設けられた排気機構63によって処理容器61内が所望の圧力の真空雰囲気となるように排気される。具体的には、処理容器61内の圧力は、還元工程では約1330Pa(10torr)程度に設定され、除去工程では約133Pa(1torr)程度に設定される。また、排気機構63は還元、除去工程の間で例えば10秒程度排気を行い、処理容器61内のガス置換を行う。
【0029】
処理容器61内にはウエハWを載置する基板載置台64が設けられており、当該基板載置台64の上面から突没自在に構成された昇降ピン65により、当該基板載置台64と真空搬送機構44との間でウエハWが受け渡される。基板載置台64には不図示のヒータが埋設されており、処理中にウエハWを予め設定された温度に加熱する。具体的には、還元工程及び除去工程においてウエハWは400℃程度に加熱されるようにヒータの温度制御が行われる。また、基板載置台64は、プラズマを形成するための接地された電極67が埋設されることで下部電極を構成している。
【0030】
処理容器61の上部には、開口が形成されており、開口には絶縁部材68を介してシャワーヘッド71が基板載置台64に対向するように嵌め込まれている。シャワーヘッド71は金属製であり、全体形状が円筒状になっている。シャワーヘッド71は、ガス拡散空間となる内部空間72と、下面を構成するシャワープレート73とを有する。シャワープレート73には、内部空間72にそれぞれ連通する複数のガス吐出孔74が形成されている。シャワーヘッド71には各種ガスを内部空間72に供給するためのガス導入孔が形成されている。ガス導入孔は、各種ガスを供給するためのガス供給部75の下流端が接続されて、各種ガスを内部空間72に供給するように設けられている。
【0031】
ガス供給部75は、ハロゲン含有ガス、還元性のガス、プラズマ生成ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスのガス供給源76と、各ガス供給源76に対応して設けられたガス供給配管77と、各ガス供給配管77にそれぞれ設けられた流量制御器78とを有する。流量制御器78は、バルブ類およびマスフローコントローラのような流量制御機構で構成され、制御部30からの制御信号に従って下流側への各ガスの給断を行うことで各ガスの流量を個別に調整して処理容器61内に供給できる。アルゴンガスは、プラズマ生成のための補助ガスとして供給されることに限らず、還元工程においてハロゲン含有ガスと共に不活化ガスとして供給される。還元工程におけるハロゲン含有ガスとアルゴンガスとの流量比は、例えば1:10程度にし、除去工程における還元性のガスとアルゴンガスとの流量比は、例えば1:120程度にする。
【0032】
上部電極であるシャワーヘッド71は、給電ライン81を介して高周波電源82が接続されることで上部電極を構成している。高周波電源82は、例えば周波数が10kHz~60MHz、300Wの高周波電力をシャワーヘッド71に供給することで、シャワーヘッド71と基板載置台64との間に還元性のガスの容量結合プラズマを生成する。給電ライン81の高周波電源82の下流側には整合器83が接続されている。整合器83は高周波電源82の内部(または出力)インピーダンスに負荷インピーダンスを整合させるものである。
【0033】
高周波電源82と上部電極との間、より詳しくは給電ライン81の整合器83の下流側部分には、上部電極に印加される高周波電圧のうち正電圧(プラス電圧)を抑制するように高周波電源の電圧波形を整形する電圧波形整形部84が設けられている。本実施形態において、電圧波形整形部84は、例えば特開2022-018062号に記載のものを用いている。即ち電圧波形整形部84は、整合器83の下流側に設けられたキャパシタ84aと、キャパシタ84aの下流側から分岐し、ダイオード84bを介して接地される接地回路84cと、を有する。キャパシタ84aとしては、高周波電源82から見てインピーダンスが低くなる程度の十分な容量を有するものが用いられる。
【0034】
第1処理モジュール51に仮に電圧波形整形部84が設けられていない場合、高周波電源82からの高周波電力がプラス電圧を出力する際、シース電圧(プラズマ電位と基板電位の差分)が正電圧として大きくなる。このシース電圧によって、プラズマに含まれる正の電荷を有する水素イオンは、電位がゼロとなるウエハWに向けて加速され、高い運動エネルギーでウエハWに衝突してしまう。
【0035】
これに対して電圧波形整形部84は、高周波電源82がプラス電圧を出力した際、ダイオード84bが接地側に電流を流すことで上部電極にプラス電圧が印加されることを抑制し、シース電圧を低減してイオンのエネルギー上昇を抑制する。またこのとき、キャパシタ84aでは、電力を蓄え、蓄えられた電力は高周波電源82がマイナス電圧を出力した際に出力した高周波電力と共に上部電極側のプラズマ領域に投入され、効率的にプラズマ密度を高くする。以上のような電圧波形整形部84、高周波電源82等で構成されるプラズマ供給機構80によって、イオンによるウエハWの損傷を抑止できる低エネルギーイオンを含む高密度のプラズマを形成できる。
【0036】
次いで第2処理モジュール52について、処理モジュール51との差異点を中心に説明する。第2処理モジュール52ではプラズマ処理が行われないため、プラズマ供給機構80及び基板載置台64の電極67が設けられなくてもよく、処理容器61内にプラズマが形成されない構成になっていてもよい。また、処理容器61内にガスを供給するガス供給源76には、既述の成膜工程で用いられるガスが貯留される。これらの差異点を除いて処理モジュール52については、第1処理モジュール51と概ね同様の構成であるが、ウエハWの温度は、第1処理モジュール51における還元、除去工程実行時よりも低い温度、例えば200℃以下に設定される。
【0037】
以上に説明した構成を備える基板処理システム1を用い、一連の処理をウエハWに実行する動作について図2図4を用いて説明する。先ず、処理対象のウエハWを真空搬送モジュール41内の真空搬送機構44がロードロックモジュール35から受け取ると、第1処理モジュール51のゲートバルブG1を開き、真空搬送機構44によってウエハWを搬入口から処理容器61内に進入させる。そして昇降ピン65を用いて真空搬送機構44から基板載置台64にウエハWを受け渡し、真空搬送機構44を処理容器61から退出させてゲートバルブG1を閉じる。
【0038】
そして初めに還元工程を行う。還元工程におけるレシピの設定合わせて処理容器61内の圧力調節、ウエハWの温度調節を行う。次いで、TiClガスをアルゴンガスと共に処理容器61内に供給する。この際、高周波電源82からシャワーヘッド71への高周波電力の供給は行わない。TiClガスとの反応により、ウエハWのタングステン酸化膜14は、還元されると共に(図4のステップS1)、残留物を含有する還元タングステン膜15になる(図1B)。
【0039】
次に、除去工程を行う。除去工程におけるレシピの設定に合わせて処理容器61内の圧力調節及び温度調整を行う。除去工程のおけるウエハWの設定温度は、還元工程におけるウエハWの設定温度と概ね同じ範囲であるため、同じ処理容器61内で、つまり同じ第1処理モジュール51で還元工程及び除去工程の双方を実行することによりスループットを向上させることができる。除去工程では、水素ガス及びアルゴンガスの供給と共に高周波電源82からシャワーヘッド71に高周波電力を印加する。この際、既述の電圧波形整形部84によって、電圧波形が整形された高周波電力を供給することにより、エネルギーが抑制された水素イオンと水素ラジカルとを含んだ低エネルギーかつ高密度の水素ガスプラズマを形成することができる。既述のように、低エネルギーの水素ガスプラズマを供給することにより、SiOx層12の損傷を抑制できる。
【0040】
そしてプラズマ化した水素ガスとの反応により、凹部11内に向けて露出する還元タングステン膜15から残留物が除去されると共に、さらなる還元を進行させることができる(図4のステップS2、図1C)。このとき、凹部11内に付着した残留物も、プラズマ化した水素ガスによって除去されるため、ルテニウム層17の埋め込み性の悪化も抑制できる。
【0041】
以上のような還元工程及び除去工程によれば、エッチングのようにタングステン酸化膜14を物理的に除去しない還元と低エネルギーの水素ガスプラズマとを利用することで、凹部11へのダメージを抑え、形成時の形状を維持し易い。このように形成時の形状が維持された凹部11内にルテニウム層17を形成することにより、金属配線の形成精度が向上する。また、電圧波形整形部84を含むプラズマ供給機構80を備える第1処理モジュール51に接続されたガス供給源76に、還元工程及び除去工程を実施可能なガス種を用意することで同一のモジュール内でこれらの工程を効率的に実行できる。
【0042】
除去工程が終了すると、搬入時と逆の手順で、ウエハWが第1処理モジュール51から搬出され、しかる後第1処理モジュール51への搬入時と同様の手順で第2処理モジュール52にウエハWが搬入され成膜工程が行われる。第1処理モジュール51から第2処理モジュール52にウエハWが搬送される際、真空雰囲気の搬送路である真空搬送モジュール41を介して搬送が行われるため、ウエハWは大気雰囲気に晒されない。したがって、還元工程及び除去工程によって還元された還元タングステン膜15が、大気雰囲気によって再び酸化されることを抑制できる。
【0043】
次に、成膜工程を行う。成膜工程におけるレシピの設定に合わせて温度調節及び圧力調整等が行われた第2処理モジュール52において、プラズマ化されていないDCRガスを処理容器61内に供給する。DCRガスによってウエハWの還元タングステン膜15上にルテニウム層17が積層され(ステップS3)、凹部11内にタングステン層13とルテニウム層17が積層された配線層が形成される。除去工程で残留物が除去された凹部11内と、ルテニウム層17の凹部11への良好な埋め込み性が得られると共に、タングステン層13の上層側が還元タングステン膜15となっていることによって、抵抗値の低い配線層を形成できる。
【0044】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態においては、電圧波形整形部84によるプラズマの低エネルギー処理を行うことで、還元力が高く、かつ凹部11の損傷を抑制した除去工程を実現している。一方、電圧波形整形部84を凹部11の変形の程度が許容される成膜処理であれば、電圧波形整形部84を備えていない不図示の第1処理モジュール51Aで除去工程を行ってもよい。つまり、この場合の除去工程においては、エネルギー低減処理がされない還元性のガスのプラズマを用いてもよい。この場合、後述する実施例1-2のような作用が見込まれる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る基板処理システム1は、第1実施形態と同様な基板処理システム1を用いているが、除去工程における還元性のガスとしてアンモニア(NH)ガスを含むプラズマを用いて除去工程を実行する。詳細には、第1処理モジュール51のガス供給部75は、アンモニアガスと水素ガスの混合ガスに、補助ガスとしての窒素(N)ガスとを概ね同量供給するように構成されている。詳細には、アンモニアガスに対する水素ガスの流量比は、0.4から1.5であり、好ましくは1から1.2である。
【0046】
上記構成のガス供給部75及びプラズマ供給機構80を用い、アンモニアガスと水素の混合ガスの低エネルギープラズマを発生させる。これにより、凹部11の損傷を抑制しながら、還元タングステン膜15からの残留物の除去工程を実施する。そして本実施形態の還元性のガスによれば、アンモニアガスで塩素を効果的に還元でき、水素ガスで除去工程後の窒化を抑制できる。尚、除去工程における処理容器61内の圧力は、還元工程の約1/3程度にして行う。
【0047】
(第2実施形態の変形例)
除去工程に用いる還元性のガスがアンモニアガスを含む場合は、当該ガスをプラズマ化することは必須の要件ではない。つまり除去工程では、アンモニアガスと水素の混合ガスをプラズマ化せずに処理容器61内に供給してもよい。尚、本変形例においてはプラズマを発生させないため、第1処理モジュール51はプラズマ供給機構80を備えていなくてもよい。プラズマを用いていない場合には、還元性のガスの供給時間は、プラズマを用いる上述の第2実施形態の約3倍の長さにする。
【0048】
(変形例)
以上のような第1、第2実施形態及びこれらの変形例においては、効率化のために同一の第1処理モジュール51で還元工程及び除去工程を行っているが、別々の処理モジュールで行ってもよい。
【0049】
また、ハロゲン含有ガスは、TiClガスに限らず、例えば、他のハロゲン含有ガスでもよい。具体例を挙げると、三塩化ホウ素(BCl)ガス、六フッ化タングステン(WF)ガス、五塩化タングステン(WCl)ガス、六塩化タングステン(WCl)ガスやなどを用いることができる。その他にモリブデン(Mo)で構成されるハロゲン含有ガスや、TiClガス以外のTiで構成されるハロゲン含有ガスを用いてもよい。尚、ハロゲン含有ガスと共に不活性ガスとしてアルゴンガスを共に供給するように述べたが、当該不活性ガスとしてはアルゴンガスに限られず例えば窒素ガスを供給するようにしてもよい。そして各ガスの既述の流量比は、一例であって適宜変更できる。
【0050】
凹部11内へのルテニウム層17の成膜についてはRu(CO)12ガスを用いることには限られない。例えば、(2,4-dimethylpentadienyl)(ethylcyclopentadienyl)ruthenium[(Ru(DMPD)(EtCp)]、bis(2,4-dimethylpentadienyl)Ruthenium[Ru(DMPD)2]、(4- dimethylpentadienyl)(methylcyclopentadienyl) Ruthenium[(Ru(DMPD)(MeCp)]、Bis(Cyclopentadienyl)Ruthenium[(Ru(C5H5)2]、Cis-dicarbonyl bis(5-methylhexane-2,4-dionate)ruthenium(II)、bis(ethylcyclopentadienyl)Ruthenium(II)[Ru(EtCp)2]、Ru(chd)(ipmb)、Ru(EtBz)(EtCHD)等を含むガスをRu(CO)12の代りに用いてルテニウム層17の成膜を行うことができる。
【0051】
凹部11内に形成する第2の金属膜としては配線抵抗値を小さくするために、ルテニウム層17とすることが好ましいが、当該ルテニウム層17を形成することには限られない。例えば、成膜ガスを供給することで、ルテニウム層17の代わりにモリブデン層や、タングステン層を形成しても比較的小さい配線抵抗値とすることができるため好ましい。同様な理由で、凹部11の底面を構成する第1の金属膜についてもタングステン層13であることには限られず、ルテニウム層、モリブデン層、コバルト層、チタン層でもよい。チタン層については、タングステン層13の下部に形成された既述の窒化チタン層であってもよい。
【0052】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更または組み合わせが行われてもよい。
【実施例0053】
(予備試験)
一連の処理前のタングステン酸化膜14と、本開示の還元工程のみを行った還元工程後の還元タングステン膜15と、についてX線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて、還元工程による酸素及び残留物の量の変化を確認した。残留物としては、TiClガスに由来するチタン及び塩素(Cl)について測定した。
【0054】
A.予備試験の条件
第1実施形態の基板処理システム1と、シリコンウエハの表面に、TiN層、タングステン層13が積層されたベアウエハを用い、表面の自然酸化により形成されたタングステン酸化膜14に対して、第1実施形態の還元工程を実施する。XPS分析は、還元工程前のタングステン酸化膜14と、還元工程後の還元タングステン膜15について行った。
【0055】
B.予備試験の結果
還元工程前のタングステン酸化膜14及び還元工程後の還元タングステン膜15についてのXPS分析のうち、O原子の1s軌道からの放出された電子のスペクトル、Ti原子の2p軌道から放出された電子のスペクトル、Cl原子の2p軌道から放出された電子のスペクトルを、図5A図5B図5Cに示す。図5Aに示すように、酸素を示すピークが処理前よりも還元工程後において小さくなったため、還元工程によってタングステン酸化膜14を効果的に還元除去されたことがわかった。また図5B図5Cに示すように、チタン、塩素を示すピークが還元工程前より還元工程後において大きくなったため、還元工程によって残留物が還元タングステン膜15に多く残存していることがわかった。以後の実施例との比較のため、還元工程後のO原子、Ti原子、Cl原子の光電子スペクトルのピークの値をそれぞれα、β、γとする。
【0056】
(実験)
予備試験と同様の還元工程と第1~第2実施形態(各実施形態の変形例を含む)における除去工程をそれぞれ行い、還元工程及び除去工程後の還元タングステン膜15についてXPS分析で酸素及び残留物の量を確認した。酸素及び残留物については、予備試験と同じものを対象に分析した。
【0057】
A.実験の条件
[実施例1]
予備試験と同様な基板処理システム1及び2枚のウエハWを用いて、還元工程と第1実施形態及び第1実施形態の変形例についての除去工程とをそれぞれ実施した。具体的には、実施例1-1として、ウエハWに還元工程と第1実施形態である水素ガスプラズマを用いた除去工程とを行い、除去工程後の還元タングステン膜15についてXPS分析をした。実施例1-2として、ウエハWに還元工程と第1実施形態の変形例(水素ガスプラズマの形成にあたって、電圧波形整形部84を用いた電圧整形を行っていない高周波電力を印加した)の除去工程とを行い、除去工程後の還元タングステン膜15についてXPS分析をした。実施例1-1、1-2において、TiClガス及び還元性のガスの供給はそれぞれ一回ずつ行った。各還元性のガスの供給時間は、例えば20秒に設定し、各TiClガスの供給時間は、各還元性のガスの供給時間の10倍以上に設定した。実施例の手法の違いによる還元タングステン膜15の差異を確認するため、実施例1-1、1-2と、後述の実施例とでは、基板載置台64の温度など各機構の動作条件は、特記しない限り同一工程同士では同一に設定した。
【0058】
[実施例2]
実施例1と同様な基板処理システム1及び2枚のウエハWを用いて、還元工程と第2実施形態及び第2実施形態の変形例についての除去工程とをそれぞれ実施した。具体的には、実施例2-1として、ウエハWに還元工程と第2実施形態(アンモニアガスと水素ガスの混合ガス、及び窒素ガスのプラズマを供給)における除去工程とを行い、除去工程後の還元タングステン膜15についてXPS分析をした。実施例2-2として、ウエハWに還元工程と第2実施形態の変形例(プラズマ化していないアンモニアガスを供給)における除去工程とを行い、除去工程後の還元タングステン膜15についてXPS分析をした。実施例2-1、2-2では、各除去工程時の処理容器61内圧力を、還元工程時の処理容器61内圧力より低くすると共に、実施例1の除去工程時の処理容器61内圧力より高く設定した。実施例2-2の還元性のガスの供給時間は、実施例2-1の3倍の長さにした。
【0059】
[実施例3]
実施例3では、実施例1-1を元に、除去工程の設定条件を変化させた場合に酸素や残留物の量に変化があるかを確認した。実施例3-1は、実施例1-1のハロゲン含有ガスの供給時間は同一にしてハロゲン含有ガス及び還元性のガスの供給回数を4、8、12回に分けて交互に実行してXPS分析をし、供給回数による変化の有無を確認した。実施例3-2は、高周波電力を300W、600W、900Wに変えて除去工程を実行してXPS分析をし、高周波電力の大きさによる変化の有無を確認した。
【0060】
B.実験結果
[実施例1]
実施例1についてのXPS分析結果を図6A図6Cに示す。これらの図において、実施例1-1の還元タングステン膜15のスペクトルを実線で示し、実施例1-2の還元タングステン膜15のスペクトルを破線で示した。また、予備試験における還元工程後のO原子、Ti原子、Cl原子の各ピークの位置α、β、γをそれぞれ併記した。低エネルギーの水素プラズマを用いた実施例1-1では、還元工程後の還元タングステン膜15が更に還元されて酸素の含有量が低下し、チタン由来の残留物も減少した。但し、塩素由来の残留物は殆ど減少しなかった。一方、電圧整形が行われていない高周波電力を供給して水素プラズマを形成した実施例1-2でも、還元工程後の還元タングステン膜15が更に還元されて酸素の含有量が低下すると共にチタン由来及び塩素由来の残留物も減少した。実施例1-1、1-2によれば、双方共に還元工程の実施に伴う残留物を除去すると共に、さらなる還元を進行させられることが分かった。
【0061】
[実施例2]
実施例2についてのXPS分析結果を図7A図7Cに示す。これらの図において、実施例2-1の還元タングステン膜15のスペクトルを実線で示し、実施例2-2の還元タングステン膜15のスペクトルを破線で示す。低エネルギーイオンのアンモニア含有ガスのプラズマを用いた実施例2-1、プラズマ化しないアンモニアガスを用いた実施例2-2では、共に還元工程後の還元タングステン膜15が更に還元され、チタン由来及び塩素由来の残留物も減少することが分かった。
【0062】
以上の結果より、ハロゲン含有ガスによる還元工程と、プラズマ供給機構80で低エネルギーイオンを含む還元性のガスのプラズマを供給する除去工程とによって、タングステン酸化膜14の還元と還元工程による残留物を低減とができることが分かった。そして、還元性のガスがアンモニアガスの場合、プラズマ化されていないガスを用いても同様の効果を奏することが分かった。
【0063】
[実施例3]
実施例3-1、3-2の各分析データについては図示割愛するが、実施例3-1の分析結果によれば、供給回数の増加によって還元タングステン膜15の更なる還元が進行する傾向が見られた。一方、残留物については、チタン由来及び塩素由来の残留物が既述のピークβ、γを上回る傾向があった。このため、ハロゲン含有ガス及び還元性のガスの供給は複数回に分けて繰り返し行うよりも、各々1回ずつ行う方が好ましい場合があることが分かった。実施例3-2のXPS分析の結果によれば、除去工程の実施の際に供給する高周波電力を大きくすると更なる還元が効果的に行われる傾向が見られた。一方、残留物をさらに減少させる傾向は見られなかった。
【符号の説明】
【0064】
W ウエハ
13 タングステン層
14 タングステン酸化膜
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C