IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧 ▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157460
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20241030BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C08L67/04
C08G63/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071848
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】偉士大 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】穗坂 祐作
(72)【発明者】
【氏名】山下 晃司
(72)【発明者】
【氏名】久保 明香
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友紀
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康則
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武宣
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002CF192
4J002FD020
4J029AA02
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC01
4J029AD01
4J029AE01
4J029BA03
4J029EA02
4J029EG07
4J029FA04
4J029JA091
4J029JB021
4J029JB131
4J029JC141
4J029JF021
4J029JF131
4J029JF181
4J029KE09
(57)【要約】
【課題】良好な耐衝撃性を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、下記一般式(II)で表される3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含む、樹脂組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、下記一般式(II)で表される3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含有する、樹脂組成物。
【化1】
[一般式(I-a)中、
nは5~20である。
一般式(I-b)中、
l及びmはそれぞれ独立して2~10である。]
【化2】

[一般式(II)中、
kとpの比(k/p)は70/30~99/1である。]
【請求項2】
前記3-ヒドロキシアルカノエート系重合体100質量部に対し、前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を、5質量部以上20質量部以下含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量が、1,000~4,000以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の重量平均分子量が、50,000~3,000,000である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が、前記一般式(I-a)で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が、前記一般式(I-b)で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全の見地から、幅広い分野において、製品に用いられるプラスチック材料に対し環境負荷低減が求められている。環境負荷を低減すべく、「生分解性プラスチック」の1つである3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を用いるプラスチック材料の開発が行われている。しかし、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体からなる成形体は、石油系プラスチックと比べると脆く、柔軟性、及び耐衝撃性等に劣る傾向があり、樹脂材料としての使用が制限されることがある。
【0003】
例えば、3-ヒドロキシブチレート比率が80モル%以上の3-ヒドロキシアルカノエート系重合体と、ポリカプロラクトン樹脂(PCL)を含む樹脂組成物に関する技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1には、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体とPCLを混合させることにより、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体単独のものに比べて、引張り伸びと引裂き強度が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-222791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体単独のものに比べて耐衝撃性は向上するものの、十分に満足できるものではなかった。
そこで本発明は、良好な耐衝撃性を有する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明を想到し、当該課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1] 下記一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、下記一般式(II)で表される3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含有する、樹脂組成物。
【化1】

[一般式(I-a)中、
nは5~20である。
一般式(I-b)中、
l及びmはそれぞれ独立して2~10である。]
【化2】

[一般式(II)中、
kとpの比(k/p)は70/30~99/1である。]
[2] 前記3-ヒドロキシアルカノエート系重合体100質量部に対し、前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を、5質量部以上20質量部以下含有する、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量が、1,000~4,000以下である、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の重量平均分子量が、50,000~3,000,000である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が、前記一般式(I-a)で表される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が、前記一般式(I-b)で表される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な耐衝撃性を有する樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施態様の一例に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施態様は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下の記載に限定されない。
また本明細書において、実施態様の好ましい形態を示すが、個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、好ましい形態である。数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
なお、本明細書において、「XX~YY」との数値範囲の記載がある場合、「XX以上YY以下」を意味する。
【0010】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、一般式(II)で表される構造を含む3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含有する。樹脂組成物が、一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、一般式(II)で表される構造を含む3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含有することで、樹脂組成物は、良好な耐衝撃性を有するものとなる。
【0011】
[β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体]
本実施形態のβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、下記一般式(I-a)又は(I-b)で表される。
【0012】
【化3】
【0013】
〈n、m、l〉
一般式(I-a)及び(I-b)において、n、m、及びlは平均繰り返し数を示す。
nは、5~20であり、好ましくは5~18であり、より好ましくは5~15である。
mは、2~10であり、好ましくは2~9であり、より好ましくは2~7である。
lは、2~10である。好ましくは2~9であり、より好ましくは2~7である。
なお、本明細書において、「n、m、及びl」は、H-NMR測定によって求めた開始剤構造のプロトン数積算値と繰り返し単位構造のプロトン数積算値の比より求めた。詳細な測定方法は実施例記載の方法に従うことができる。
【0014】
〈数平均分子量(Mn)〉
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量は、好ましくは1,000~4,000、より好ましくは1,500~3,000、さらに好ましくは1,800~2,500である。β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量が上記数値範囲であれば、樹脂組成物の粘度が低くなり過ぎず、成形時の取り扱い性及び生産性が良好になる。
本明細書に記載の「数平均分子量」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。詳細な測定方法は、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0015】
〈重量平均分子量(Mw)〉
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,500~8,000、より好ましくは1,500~6,000、さらに好ましくは2,000~5,000である。β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の重量平均分子量が上記数値範囲であれば、樹脂組成物の粘度が低くなり過ぎず、成形時の取り扱い性及び生産性が良好になる。
本明細書に記載の「重量平均分子量」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。詳細な測定方法は、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0016】
〈分子量分布(Mw/Mn)〉
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.1~2.0、さらに好ましくは1.2~1.8である。
本明細書に記載の「分子量分布」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量から求めた値である。数平均分子量及び重量平均分子量の詳細な測定方法は、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0017】
本発明の一態様において、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、好ましくは一般式(I-a)で表される。
本発明の他の態様において、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、好ましくは一般式(I-b)で表される。
【0018】
〈製造方法〉
本実施態様のβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、β-メチル-δ-バレロラクトンと、アルコール化合物と、塩基触媒とを反応させた反応液に、末端変性剤を添加して末端変性反応を行う工程(以下、「反応工程」ともいう)を含む、製造方法を採用することが好適である。
上記製造方法は、β-メチル-δ-バレロラクトンと、アルコール化合物と、塩基触媒とを反応させた反応液に、直接、末端変性剤を添加することを特徴とする。すなわち、β-メチル-δ-バレロラクトンを開環重合した後、一旦開環重合体を取り出すことなく、開環重合を行った反応器に末端変性剤を添加して、開環重合体の末端変性を行うことができる。反応工程は、開環重合反応と末端変性反応をワンポットで行うため、上記製造方法は、簡略化されたプロセスであるといえる。
なお、本実施態様のβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、上記製造方法に限定されて製造されるものではない。
【0019】
(アルコール化合物)
本実施態様において用いることができるアルコール化合物はイソアミルアルコール、及びエチレングリコールである。
アルコール化合物としてイソアミルアルコールを用いた場合、一般式(I-a)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を得ることができ、エチレングリコールを用いた場合、一般式(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を得ることができる。
【0020】
(塩基触媒)
本実施態様において用いることができる塩基触媒としては、アルカリ金属及びアルカリ金属化合物等の金属触媒、並びに、有機塩基化合物等が挙げられる。塩基触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルカリ金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物、水酸化アルカリ金属化合物、水素化アルカリ金属化合物が挙げられ、中でもブチルリチウム等の有機リチウム化合物が好ましい。
有機塩基化合物としては、例えば、アミジン骨格又はグアニジン骨格を有するアミン化合物が挙げられる。
また、塩基触媒として、有機マグネシウム化合物及び有機亜鉛化合物等の金属触媒を用いることもできる。
反応工程において、アルコール化合物の水酸基に対し、塩基触媒を0.005~1.5モル当量添加することが好ましい。
【0021】
(β-メチル-δ-バレロラクトン)
本実施態様において用いることができるβ-メチル-δ-バレロラクトンとしては、公知の方法により製造したものを用いることができる。例えば、2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロピラン等を原料として、公知の方法により製造することができる(特公平6-53691号等)。
また、β-メチル-δ-バレロラクトンは、市販品を用いることもできるし、石化由来であるか、バイオ由来であるかを問わず用いることができる。
反応工程において、アルコール化合物の水酸基に対し、β-メチル-δ-バレロラクトンを5~50モル当量添加することが好ましい。
【0022】
(末端変性剤)
本実施態様においては、末端変性剤として無水酢酸を用いる。
反応工程において、アルコール化合物の水酸基に対し、末端変性剤として無水酢酸を1.0~20.0モル当量添加することが好ましい。
【0023】
(助触媒)
反応工程において、必要に応じ、助触媒を添加してもよい。
助触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、イミダゾール、ピリジン、アミノピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等のアミン化合物等を用いることができる。
反応工程において、アルコール化合物の水酸基に対し、助触媒を0.001~10モル当量添加することができる。
【0024】
(溶媒)
反応工程は、開環重合反応に不活性な溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0025】
(反応条件)
反応工程において、β-メチル-δ-バレロラクトンと、アルコール化合物と、塩基触媒とを反応させる際の反応温度は通常20~100℃であればよく、反応時間は通常1分~24時間である。
また、反応工程において反応液に末端変性剤を添加した後、末端変性反応を行う際の反応温度は通常20~80℃であればよく、反応時間は通常1分~24時間である。
【0026】
(後処理工程)
上記反応工程を経ることにより、本実施態様の重合体を製造することができる。必要に応じて、製造した重合体を単離するために後処理工程を行ってもよい。
後処理工程としては、公知の方法から好適な方法を採用することができる。例えば、反応工程後の反応混合物を、反応溶媒や水を用いて洗浄した後、濃縮し、蒸留等の通常の有機化合物の分離精製に用いられる方法により精製することができる。
【0027】
[3-ヒドロキシアルカノエート系重合体]
本実施形態の3-ヒドロキシアルカノエート系重合体は、下記一般式(II)で表される。
【0028】
【化4】
【0029】
〈k/p〉
kとpの比(k/p)は、各構造単位の比を表し、70/30~99/1である。k/pが70/30以上であると、樹脂組成物を用いて製造された成形体は、十分な強度を有し実用性に優れたものとなり、99/1以下であると、樹脂組成物は良好な耐衝撃性を示す。
なお、本明細書において、「k及びp」は、ガスクロマトグラフィー測定によって、以下の方法により求めた値である。
3-ヒドロキシアルカノエート系重合体20mgに、2mlの硫酸-メタノール混合液(15:85)と、2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がなくなるまで放置する。続いて、4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心分離して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成比を、下記測定条件にて分析する。
(測定条件)
装置:ガスクロマトグラフ GC-17A(株式会社島津製作所製)
キャピラリーカラム:NEUTRA BOND-1(ジーエルサイエンス株式会社製、カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)
【0030】
〈数平均分子量(Mn)〉
3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の数平均分子量は、好ましくは20,000~1,000,000、より好ましくは50,000~700,000である。数平均分子量が上記数値範囲であれば、樹脂組成物の粘度が低くなり過ぎること、及び高くなり過ぎることが抑制され、成形時の取り扱い性及び生産性が良好になる。
【0031】
〈重量平均分子量(Mw)〉
3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の重量平均分子量は、好ましくは50,000~3,000,000、より好ましくは100,000~1,500,000である。重量平均分子量が上記数値範囲であれば、樹脂組成物の粘度が低くなり過ぎること、及び高くなり過ぎることが抑制され、成形時の取り扱い性及び生産性が良好になる。
【0032】
〈分子量分布(Mw/Mn)〉
3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.1~2.0、さらに好ましくは1.2~1.8である。
【0033】
〈製造方法〉
本実施態様の3-ヒドロキシアルカノエート系重合体は、微生物が産生するもの、すなわち発酵合成法により得ることが好ましい。この発酵合成法に利用できる微生物としては、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体生産能を有する微生物であれば特に限定されない。3-ヒドロキシアルカノエート系重合体生産菌としては、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。生産性の観点から、合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32、FERM BP-6038)(J.Bateriol.,179,4821-4830頁(1997))等がより好ましく、これら微生物を適切な条件で培養して菌体内に3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を蓄積させた微生物菌体を用いてもよい。
【0034】
3-ヒドロキシアルカノエート系重合体生産能を有する微生物の培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平5-93049号公報、特開2001-340078号公報等に記載されている。例えば炭素源としては、植物油や魚油等の油脂を用い、培養は炭素源以外の窒素、リン、ミネラル等の栄養素の制限下で微生物菌体の内部に貯蔵物質として3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を産生させる。また、培養条件としてのpH、温度、通気量、培養時間等は適宜調整して行われる。
【0035】
[含有割合]
本実施態様の樹脂組成物は、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体100質量部に対し、前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を、好ましくは5質量部以上20質量部以下、より好ましくは10質量部以上20質量部以下含有する。上記含有割合であれば、より良好な耐衝撃性を有する樹脂組成物とすることができる。
【0036】
本実施態様の樹脂組成物における、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体及び3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の合計含有割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上である。上記含有割合であれば、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0037】
本実施態様の樹脂組成物における、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。上記含有割合であれば、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0038】
本実施態様の樹脂組成物における、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の含有割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。上記含有割合であれば、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0039】
[添加剤]
本実施態様の樹脂組成物には、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体及び3-ヒドロキシアルカノエート系重合体以外に添加剤を含有させてもよい。
添加剤としては、無機充填材、軟化剤、熱老化防止剤、酸化防止剤、耐加水分解抑制剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、増白剤、紫外線吸収剤、滑剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記添加剤を用いる場合、樹脂組成物中の添加剤の含有量は、樹脂組成物の所望する物性に応じて適宜決めればよい。
【0040】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施態様の樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体、及び必要に応じて添加剤を均一に混合すればよい。
混合方法としては、一軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール、ブラベンダー、各種ニーダー等を用いて溶融混練する方法、あるいは、各成分を別々の仕込み口から供給して溶融混練する方法等が挙げられる。
また、溶融混練する前にプレブレンドしてもよい。プレブレンドする方法としては、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いる方法が挙げられる。溶融混練時の温度は、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の融点と分解温度を考慮し、185℃程度を上限とすることが好ましい。したがって、例えば100~185℃程度であってもよく、120~180℃の範囲で任意に選択してもよい。
【0041】
<成形体>
本実施態様の樹脂組成物を用いることにより、良好な耐衝撃性を有し、成形体を得ることができる。
上記成形体の形状は、本実施態様の樹脂組成物を用いて製造できる成形体であればよい。成形体としては、例えば、ペレット、フィルム、シート、プレート、パイプ、チューブ、ボトル、繊維状体、棒状体、微粒子状体、粒子状体、発泡体等の種々の形状の成形体が挙げられる。この成形体の製造方法は特に制限はなく、各種成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、プレス成形、押出成形、カレンダー成形、3Dプリンターによる成形等の公知の方法により成形することができる。
【0042】
<用途>
上記一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体と共に混合した樹脂組成物とすることにより、耐衝撃性を向上させることができる。よって、上記一般式(I-a)又は(I-b)で表されるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の改質剤として有用である。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<測定及び評価方法>
以下の方法により、各種物性を測定又は評価した。
【0045】
[β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の平均重合度]
製造例において、得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の末端変性体の重合度を、H-NMR測定により求めた開始剤アルコールのプロトンシグナルを基準とし、ポリマー繰り返し構造のプロトンシグナルの比より算出した。具体的な測定方法は次のとおりである。
(測定条件)
装置:400YH(日本電子株式会社製)
溶媒:重クロロホルム(CDCl
測定温度:23℃
(重合度計算方法)
製造例I-1の場合、開始剤であるイソアミルアルコールの末端CH(0.9-0.92ppm、d)のプロトン数Xと繰り返し構造単位であるβ-メチル-δ-バレロラクトンのメチル分岐CH(0.98-1.00ppm、d)のプロトン数Yを用い、以下の式(1)にてnを求めた。
n=2×Y/X (1)
製造例I-2の場合、開始剤であるエチレングリコールのCH(4.28-4.30ppm、m)のプロトン数X’と繰り返し構造単位であるβ-メチル-δ-バレロラクトンのメチル分岐CH(0.98-1.00ppm、d)のプロトン数Y’を用い、以下の式(2)にてl+mを求めた。
l+m=4×Y’/(3×X’) (2)
【0046】
[3-ヒドロキシアルカノエート系重合体のk/p]
ガスクロマトグラフィー測定により、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体(P3HB3HH-1)のk/pを求めた。具体的な測定方法は次のとおりである。
製造例で得られたP3HB3HH-1 20mgに、2mlの硫酸-メタノール混合液(15:85)と、2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がなくなるまで放置した。続いて、4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心分離して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成比を、下記測定条件にて分析した。
(測定条件)
装置:ガスクロマトグラフ GC-17A(株式会社島津製作所製)
キャピラリーカラム:NEUTRA BOND-1(ジーエルサイエンス株式会社製、カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)
【0047】
[β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量]
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の末端変性反応後の重合体を試料とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。具体的な測定方法は次のとおりである。
テトラヒドロフラン(THF)溶液を溶離液として用い、試料を樹脂換算で10mg計量し、1mLの上記溶離液に溶解させた。該溶液を0.2μmのメンブランフィルターを通して測定サンプルを作製した。具体的な測定方法は次のとおりである。
(測定条件)
装置:HLC-EcoSEC8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:KF-803 KF-802.5 KF-802(株式会社レゾナック製)3本を直列に連結した。
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.9mL/分
サンプル注入量:30μL
カラム温度:40℃
標準ポリスチレン:東ソー株式会社製PSt Oligomer Kit(分子量589~98,900)を用いて3次式で近似した。
検出器:RI検出器
【0048】
[3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の重量平均分子量]
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の重量平均分子量(Mw)を求めた。具体的な測定方法は次のとおりである。
(測定条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC-20A(株式会社島津製作所製)
カラム:K-G 4A(1本)、K-806M(2本)(株式会社レゾナック製)を直列に接続した。
溶離液:クロロホルム
流速:1.0mL/分
サンプル注入量:100μL
カラム温度:40℃
標準ポリスチレン:アジレント・テクノロジー株式会社製 ポリスチレンスタンダード (分子量: 2,880~6,570,000)を用いて5次式で近似した。
検出器:RI検出器
【0049】
[耐衝撃性試験]
(1)耐衝撃性試験用試験片の作製
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物(ペレット)を、射出成形機(芝浦機械株式会社製「SI-30IV-CCH150B」)に投入し、シリンダー温度120~150℃(出口樹脂温度160℃)、金型設定温度35℃で、80×80mm、厚み1mmの平板状成形体を成形した。得られた平板状成形体を、40×40mmの大きさに切り出し、試験片を作製した。
(2)耐衝撃性試験
得られた試験片を、デュポン式落下衝撃試験機(株式会社安田精機製作所製)を用い、JIS K 7211-1:2006に準拠して、耐衝撃性を評価した。
なお、2kgの重りを100cmの高さから落とした際、試験片が破壊されなかった場合を「〇」、試験片が破壊された場合を「×」と評価した。
【0050】
[製造例I-1]
内容積500mLのガラス製4口フラスコを窒素置換し、イソアミルアルコールを7.9g(90ミリモル)、β-メチル-δ-バレロラクトンを231g(2.025モル)投入して60℃に昇温した。そこへn-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)を0.84mL加え、60℃で60分撹拌した。
次いで上記ガラス製4口フラスコに無水酢酸11.0g(108ミリモル)と5.5gのβ-メチル-δ-バレロラクトンに溶解させた4-ジメチルアミノピリジン0.55g(4.5ミリモル)を入れ、60℃で60分撹拌し、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を含む反応溶液を得た。
得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を含む反応溶液を、トルエンと水による抽出と薄膜蒸発器(柴田科学株式会社製「分子蒸留装置 MS-300」)により精製することで、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体155gを得た。
得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体(以下、「PMVL-1」と称すことがある)は、前述の一般式(I-a)で示される。
また、得られたPMVL-1の物性について前述の測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[製造例I-2]
内容積500mLのガラス製4口フラスコを窒素置換し、エチレングリコールを11.3g(183ミリモル)、β-メチル-δ-バレロラクトンを184g(1.616モル)投入して60℃に昇温した。そこへn-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)を1.18mL加え、60℃で60分撹拌した。
次いで上記ガラス製4口フラスコに無水酢酸44.2g(433ミリモル)と20.8gのβ-メチル-δ-バレロラクトンに溶解させた4-ジメチルアミノピリジン2.23g(18.3ミリモル)を入れ、60℃で60分撹拌し、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を含む反応溶液を得た。
得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を含む反応溶液を、トルエンと水による抽出と薄膜蒸発器(柴田科学株式会社製「分子蒸留装置 MS-300」)により精製することで、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体161gを得た。
得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体(以下、「PMVL-2」と称すことがある)は、前述の一般式(I-b)で示される。
また、得られたPMVL-2の物性について前述の測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[製造例II]
アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素群遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32、受託番号FERM BP-6038)を用いて、特開2001-340078号公報の実施例1に記載された方法により培養を行い、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を製造した。すなわち、アルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus C32、受託番号FERM BP‐6038)(以下、「AC32株」と略す)を次のように培養した。培地の組成は1w/v% Meat-extract、1w/v% Bacto-Trypton、0.2w/v% Yeast-extract、0.9w/v% NaHPO4・12HO、0.15w/v% KHPO、(pH6.7)とした。ポリエステル生産培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19w/v% KHPO、0.6w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HO、0.01w/v% CrCl・6HOを溶解したもの)、2w/v% プロエキスAP-12(播州調味料株式会社製)、5×10-6w/v% カナマイシンとした。炭素源は油脂のみとし、パーム油、パーム核油又はヤシ油4w/v%を3回に分けて添加した。AC32株のグリセロールストックを前培地に接種して20時間培養し、6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(株式会社丸菱バイオエンジ製「MD-500型」)に1.5v/v%接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度400rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.6~6.8の間でコントロールした。pHのコントロールには5Nの硫酸と水酸化ナトリウムとを使用した。培養は72時間まで行った。遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄後、凍結乾燥した。この乾燥菌体からクロロホルムを用いて3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を抽出した後、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を含んだクロロホルム溶液から濾過によって菌体成分を除去し、ろ液にメタノールを加えて3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を沈殿させた。その後、遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させて3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を得た。
得られた3-ヒドロキシアルカノエート系重合体(以下、「P3HB3HH-1」と称すことがある)は、前述の一般式(II)で示される。
また、得られたP3HB3HH-1の物性について前述の測定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
[実施例1及び2、並びに比較例1]
製造例で得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と3-ヒドロキシアルカノエート系重合体を、同方向噛合型二軸押出機(芝浦機械株式会社製「TEM26ss」)に投入し、シリンダー温度140~160℃で、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬し、押し出されたストランドをカットすることで、樹脂組成物(ペレット)を作製した。樹脂組成物の評価結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例1及び2と比較例1から、実施例で得られた樹脂組成物は、上記温度における耐衝撃性が向上した樹脂組成物であることが分かる。また、実施例1及び2と比較例1から、製造例1及び2で得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、3-ヒドロキシアルカノエート系重合体の改質剤として有用であることが分かる。