(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015748
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】培養システムおよび培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240130BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118029
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 壮輔
(72)【発明者】
【氏名】高谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】若林 憲一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B065AA83X
4B065AC09
4B065BC48
4B065CA13
4B065CA19
(57)【要約】
【課題】 藻類を高密度で培養することが可能な新たな培養技術を提供すること。
【解決手段】 培養システムは、光源からの光が入射し、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室を内部に有し、前記第1培養室を透過した光を外部へ射出する第1培養容器と、正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室を内部に有する第2培養容器であって、前記第1培養容器が射出した前記光が前記第2培養室に入射する第2培養容器とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光が入射し、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室を内部に有し、前記第1培養室を透過した光を外部へ射出する第1培養容器と、
正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室を内部に有する第2培養容器であって、前記第1培養容器が射出した前記光が前記第2培養室に入射する第2培養容器と
を備えた培養システム。
【請求項2】
前記光源を更に備えた請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記光源と向き合った前記第1培養室内の培養液の液面が、前記光源からの前記光がより高い強度で入射する領域と、前記光源からの前記光がより低い強度で入射するか又は前記光源からの前記光が入射しない領域とを含むように構成された請求項1に記載の培養システム。
【請求項4】
前記第1培養室は、前記光源からの前記光の前記第1培養室への入射方向における寸法が、前記入射方向に対して垂直な方向の寸法と比較してより小さい請求項1に記載の培養システム。
【請求項5】
前記第2培養容器は、前記第1培養容器を間に挟んで前記光源と向き合った請求項1に記載の培養システム。
【請求項6】
第3藻類を培養する第3培養室を内部に有する第3培養容器を更に備え、
前記第2培養容器は、前記第2培養室を透過した光を外部へ射出し、
前記第3培養容器は、前記第2培養容器が射出した前記光が前記第3培養室に入射し、
前記第3藻類は、前記第2藻類が正の走光性を有している場合には前記第2藻類と比較して強い正の走光性を有し、前記第2藻類が負の走光性を有している場合には正の走光性を有しているか又は前記第2藻類と比較して弱い負の走光性を有している請求項1に記載の培養システム。
【請求項7】
光源からの光を、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室へ入射させることと、
前記第1培養室を透過した光を、正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室へ入射させることと
を含んだ培養方法。
【請求項8】
前記光源からの前記光は、前記光源と向き合った前記第1培養室内の培養液の液面が、前記光源からの前記光がより高い強度で入射する領域と、前記光源からの前記光がより低い強度で入射するか又は前記光源からの前記光が入射しない領域とを含むように前記第1培養室へ入射させる請求項7に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養システムおよび培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類を培養して有用物質を生産することが行われている。藻類が産生する油脂は、例えば、バイオ燃料の原料として利用可能である。また、藻類が産生する糖質は、例えば、燃料添加剤、医薬品、化粧品及びプラスチック製品の原料として利用可能である。
【0003】
藻類を培養すると、培養時間の経過とともに細胞密度が増加し、培養槽の深部まで光が到達しなくなり、藻類の増殖速度が低下する。藻類の増殖速度の低下を防ぐために種々の取り組みが為されている。一例として、集光色素の量が野生型よりも少ない藻類株を単離し、この藻類株を培養することが提案されている。このような藻類株は、集光色素の量が少ないため、培養液の表面近くに存在する藻類が、必要以上の光を吸収することがなく、照射光を培養槽の深部まで効率的に到達させることができる。
【0004】
例えば、非特許文献1は、ランダムに遺伝子を改変し、その中から集光色素の量が少ない藻類株を単離することを開示する。具体的には、非特許文献1には、野生型と比較して、細胞当たりのクロロフィルの量が少なく、クロロフィルaとクロロフィルbとの比a/bが大きいコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)の形質転換体が記載されている。クロロフィルbは、光を集めるアンテナ、即ち集光色素としての役割を果たす。他方、クロロフィルaは、光合成の電子伝達反応に直接関わる反応中心としての役割と、集光色素としての役割とを果たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kirst, H. et al., Truncated Photosystem Chlorophyll Antenna Size in the Green Microalga Chlamydomonas reinhardtii upon Deletion of the TLA3-CpSRP43 Gene, Plant Physiology (2012) 160, 2251-2260
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
藻類は、集光色素の量を栄養条件などのさまざまな環境要因によって変動させ、これにより環境変化に適応することが知られている。このため、非特許文献1のように、藻類の集光色素の量が、遺伝的な改変により低く抑えられたり一定になったりすると、藻類の環境変化への適応性が低くなることが懸念される。
【0007】
したがって、本発明は、藻類を高密度で培養することが可能な新たな培養技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、
光源からの光が入射し、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室を内部に有し、前記第1培養室を透過した光を外部へ射出する第1培養容器と、
正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室を内部に有する第2培養容器であって、前記第1培養容器が射出した前記光が前記第2培養室に入射する第2培養容器と
を備えた培養システムが提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、
光源からの光を、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室へ入射させることと、
前記第1培養室を透過した光を、正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室へ入射させることと
を含んだ培養方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、藻類を高密度で培養することが可能な新たな培養技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る培養システムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、新たな着想に基づいて本発明を完成させるに至った。すなわち、藻類の培養槽を上下方向に幾つかのスペースに区切り、スペース毎に異なる走光性を示す藻類を配置し、培養槽の上方から光を照射して、藻類の培養を行う。このような培養を行うと、培養槽の上面側のスペースに配置された藻類は、走光性に従ってスペース内の特定の領域に移動するため、スペース内に、藻類が存在しない領域が生じる。例えば、培養槽の上面側のスペースに、負の走光性を示す藻類を配置し、培養槽の底面側のスペースに、正の走光性を示す藻類を配置し、培養槽の真上から光を照射して、藻類の培養を行う。この場合、培養槽の上面側のスペースに配置された藻類は、負の走光性に従ってスペース内の隅の領域に移動するため、スペース内の中央部分に、藻類が存在しない領域が生じる。これにより、光が、培養槽の上面側のスペースに配置された藻類の集光色素に遮断されることなく、培養槽の底面側のスペースまで到達することが可能になる。その結果、培養槽の上面側のスペースだけでなく培養槽の底面側のスペースにおいても、藻類を高密度に培養することが可能になる。
【0013】
「走光性」とは、生物が光刺激に反応して移動する性質をいう。光に近づくように移動する性質を、「正の走光性」といい、光から遠ざかるように移動する性質を「負の走光性」という。
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0015】
<1.培養システム>
実施形態に係る培養システムを、
図1を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る培養システムの断面図である。
【0016】
図1に示す培養システムは、
光源40と、
前記光源40からの光が入射し、負の走光性を有している第1藻類13を培養する第1培養室12を内部に有し、前記第1培養室12を透過した光を外部へ射出する第1培養容器11と、
正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類23を培養する第2培養室22を内部に有する第2培養容器21であって、前記第1培養容器11が射出した前記光が前記第2培養室22に入射し、前記第2培養室22を透過した光を外部へ射出する第2培養容器21と、
前記第2藻類23が正の走光性を有している場合には前記第2藻類23と比較して強い正の走光性を有し、前記第2藻類23が負の走光性を有している場合には正の走光性を有しているか又は前記第2藻類23と比較して弱い負の走光性を有している第3藻類33を培養する第3培養室32を内部に有する第3培養容器31であって、前記第2培養容器21が射出した前記光が前記第3培養室32に入射する第3培養容器31と
を備えている。
【0017】
図1に示すとおり、培養システムは、第1培養容器11と、第2培養容器21と、第3培養容器31とからなる培養槽10と、培養槽10の上方に配置された光源40とを備えている。ここで、培養槽10は、第1培養容器11と、第2培養容器21と、第3培養容器31とを3段に積み重ねるように構成されている。すなわち、第2培養容器21は、第1培養容器11を間に挟んで光源40と向き合っており、第3培養容器31は、第1培養容器11および第2培養容器21を間に挟んで光源40と向き合っている。
【0018】
あるいは、培養槽10は、1つの培養容器を仕切り部材によって上下方向に3つの空間に区切るように構成されていてもよい。この場合、仕切り部材は、藻類細胞および培養液の移動を完全に遮断する光透過性板であってもよいし、藻類細胞の移動を完全に遮断するが培養液の移動を許容する光透過性膜であってもよい。
【0019】
光源40からの光は、第1培養容器11に入射する。光源40からの光は、藻類が光合成に利用可能な光である。具体的には、光源40からの光は、藻類の集光色素が吸収可能な光である。集光色素とは、光合成色素のうち、光を集めるアンテナとして機能する色素を指す。集光色素は、生物種によって異なるが、例えば、緑藻は、集光色素としてクロロフィルaおよびクロロフィルbを持っている。光源40としては、例えば、白色光源や白色発光ダイオードなどを使用することができる。
【0020】
第1培養容器11の内部空間は、第1培養室12と呼ばれ、第2培養容器21の内部空間は、第2培養室22と呼ばれ、第3培養容器31の内部空間は、第3培養室32と呼ばれる。第1培養室12には、第1培養液が含まれており、ここで第1藻類13が培養される。同様に、第2培養室22には、第2培養液が含まれており、ここで第2藻類23が培養される。同様に、第3培養室32には、第3培養液が含まれており、ここで第3藻類33が培養される。
【0021】
第1培養室12、第2培養室22、および第3培養室32の形状は特に限定されないが、例えば、扁平な円筒体または扁平な直方体の形状を有している。第1培養室12が、扁平な形状を有していると、第2培養室22や第3培養室32まで効率良く光を到達させることができる。すなわち、第1培養室12は、光源40からの光の第1培養室12への入射方向における寸法が、前述の入射方向に対して垂直な方向の寸法と比較してより小さいことが好ましい。第1培養室12に加えて、第2培養室22も、扁平な形状を有していると、第3培養室32まで更に効率良く光を到達させることができる。また、第3培養室32が扁平な形状を有していると、第3藻類33は、第3培養液の液面に集まり易く、光源40からの光を効率的に利用することができる。
【0022】
第1藻類13、第2藻類23、および第3藻類33として使用される藻類は、典型的には微細藻類である。微細藻類は、例えば、光合成真核生物であって、単細胞生物又はその群体である。微細藻類は、例えば、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)及びボトリオコッカス(Botryococcus)などの単細胞緑藻、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon merolae)などの単細胞紅藻、フェオダクチラム(Phaeodactylum)などの珪藻、又は、それらの群体である。微細藻類は真核生物でなくてもよく、光合成を行う原核生物、例えば、シアノバクテリアなどのバクテリアであってもよい。
【0023】
第1藻類13、第2藻類23、および第3藻類33は、同一の生物種であってもよいし、互いに異なる生物種であってもよい。また、第1培養液、第2培養液、および第3培養液は、各培養液中の藻類を培養可能であれば特に限定されず、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0024】
光源40は、培養槽10の上方から光を照射する。この実施形態において、光源40は点光源である。光源40は、第1培養室12の中心領域に高い強度で光を照射し、第1培養室12の隅の領域に低い強度で光を照射することができれば、特に限定されず、面光源であってもよいし、太陽光であってもよい。光源40として点光源を使用した場合、第1培養室12の中心領域において、光源40からの光をより高い強度で照射することができ、第1培養室12の隅の領域において、光源40からの光をより低い強度で照射することができる。この場合、第1藻類13が正の走行性を示す場合には、第1藻類13を第1培養室12の中心領域に集まり易くすることができ、第1藻類13が負の走行性を示す場合には、第1藻類13を第1培養室12の隅の領域に集まり易くすることができる。
【0025】
すなわち、光源40と向き合った第1培養室12内の第1培養液の液面は、光源40からの光がより高い強度で入射する領域と、光源40からの光がより低い強度で入射するか又は光源40からの光が入射しない領域とを含むように構成されていることが好ましい。
【0026】
あるいは、第1培養室12内の第1培養液の液面と光源40との間に、光源40からの光を遮るか又は弱める遮蔽板を設置して、第1培養室12内に、光源40からの光がより低い強度で照射される領域と、光源40からの光がより高い強度で照射される領域とをつくってもよい。例えば、第1培養室12内の第1培養液の液面と光源40との間に、光源40からの光を遮るか又は弱める遮蔽板を設置して、第1培養室12の隅の領域には、光源40からの光がほとんど入射しないようにし、第1培養室12の中心領域のみに、光源40からの光が入射するようにしてもよい。この場合、第1藻類13が、正の走行性を示す場合には、第1培養室12の中心領域に集まり易く、第1藻類13が、負の走行性を示す場合には、第1培養室12の隅の領域に集まり易い。
【0027】
(第1の例)
一例によれば、第1藻類13として、負の走光性を示す藻類を配置し、第2藻類23として、第1藻類13と比較して弱い負の走光性を示す藻類を配置し、第3藻類33として、正の走光性を示す藻類を配置することができる。例えば、第1藻類13としてコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)CC-124株、第2藻類23としてコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)CC-125株のうち米国クラミドモナスリソースセンターで維持されている系統、第3藻類33としてコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)CC-125株のうち日本の細胞運動研究分野で維持されている系統(通称CC-125東京株)を使用することができる。
【0028】
この例の場合、光源40からの光が培養槽10の真上から第1培養室12に入射すると、負の走光性を示す第1藻類13は、光を避けるように第1培養容器11の側壁に向かって移動し、第1培養室12の隅の領域に集まる。第1培養室12を透過した光は、第2培養室22に入射するが、第1藻類13が第1培養室12の隅の領域に集まっているため、第2培養室22の中心領域に、より高い強度の光が入射する。第2培養室22では、弱い負の走光性を示す第2藻類23は、光を避けるように、第2培養容器21の側壁に向かって移動し、第2培養室22の隅の領域に集まる。このとき、第2藻類23は、第1藻類13よりも弱い負の走光性を示すため、
図1に示すとおり、第1藻類13と比較すると、第2培養室22の隅の領域だけでなく、第2培養室22のやや中心に近い領域にもまばらに存在する。第2培養室22を透過した光は、第3培養室32に入射するが、第1藻類13のほぼ全ておよび第2藻類23の多くが、各培養室の隅の領域に集まっているため、第3培養室32の中心領域に、より高い強度の光が入射する。第3培養室32では、正の走光性を示す第3藻類33は、光を求めて移動し、第3培養室32の中心領域の液面に集まる。
【0029】
あるいは、上記の例において、第3藻類33は、第2藻類23と比較して弱い負の走光性を有していてもよい。
【0030】
(第2の例)
別の例によれば、第1藻類13として、負の走光性を示す藻類を配置し、第2藻類23として、正の走光性を示す藻類を配置し、第3藻類33として、第2藻類23と比較して強い正の走光性を示す藻類を配置することができる。例えば、第1藻類13としてコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)CC-124株、第2藻類23としてコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)CC-125株のうち米国クラミドモナスリソースセンターで維持されている系統、第3藻類33としてコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti)CC-125株のうち日本の細胞運動研究分野で維持されている系統を使用することができる。
【0031】
この例の場合、光源40からの光が培養槽10の真上から第1培養室12に入射すると、負の走光性を示す第1藻類13は、光を避けるように第1培養容器11の側壁に向かって移動し、第1培養室12の隅の領域に集まる。第1培養室12を透過した光は、第2培養室22に入射するが、第1藻類13が第1培養室12の隅の領域に集まっているため、第2培養室22の中心領域に、より高い強度の光が入射する。第2培養室22では、正の走光性を示す第2藻類23は、光を求めて移動し、第2培養室22の中心領域の液面に集まる。第2培養室22を透過した光は、第3培養室32に入射するが、第2藻類23が第2培養室22の中心領域の液面に集まっているため、第3培養室32の中心領域に入射する光の強度は低下する。しかし、第3培養室32では、第3藻類33は、第2藻類23よりも強い正の走光性を示すため、光を求めて移動し、第3培養室32の中心領域の液面に集まることができる。
【0032】
なお、藻類が正の走行性を示すか負の走行性を示すかは、培養液中の藻類に光を照射し、藻類の挙動を観察することにより決定することができる。また、複数種類の藻類が、同一の走行性を示し、走行性の強弱を決定したい場合は、各種類の藻類に、同一条件下で光を照射し、藻類の挙動を観察することにより決定することができる。
【0033】
(培養システムの変形例)
上記の実施形態では、3つの培養室に区切られた培養槽を備えた培養システムを説明したが、複数の培養室に区切られた培養槽を備えた培養システムが、本発明の範囲に包含される。例えば、2~5個の培養室に区切られた培養槽を備えた培養システムが、本発明の培養システムの代表例として挙げられる。
【0034】
変形例1:
変形例1の培養システムは、2つの培養室に区切られた培養槽を備えている。この培養システムは、第3培養容器31を省略したこと以外は、
図1に示す上記の実施形態に係る培養システムと同様の構造を有する。この場合、第1藻類13として、負の走光性を示す藻類を配置し、第2藻類23として、正の走光性を示す藻類を配置することが好ましい。
【0035】
変形例2:
変形例2の培養システムは、4つの培養室に区切られた培養槽を備えている。この培養システムは、第3培養容器31の下に第4培養容器を追加し、第4培養容器で培養される第4藻類として、第3藻類が正の走光性を示す場合には第3藻類より強い正の走光性を示す藻類を使用し、第3藻類が負の走光性を示す場合には正の走光性を示す藻類を使用したこと以外は、
図1に示す上記の実施形態に係る培養システムと同様の構造を有する。
【0036】
<2.培養方法>
上記の培養システムを用いて、藻類を高密度で培養することができる。すなわち、別の側面によれば、
光源40からの光を、負の走光性を有している第1藻類13を培養する第1培養室12へ入射させることと、
前記第1培養室12を透過した光を、正の走光性を有しているか又は前記第1藻類13と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類23を培養する第2培養室22へ入射させることと
を含んだ培養方法が提供される。
【0037】
上記の培養方法は、前記第2藻類23が正の走光性を有している場合には前記第2藻類23と比較して強い正の走光性を有し、前記第2藻類23が負の走光性を有している場合には正の走光性を有しているか又は前記第2藻類23と比較して弱い負の走光性を有している第3藻類33を培養する第3培養室32へ、前記第2培養室22を透過した光を入射させることを更に含んでいてもよい。
【0038】
また、培養システムの上記説明において記載したとおり、光源40が点光源である場合、第1培養室12の中心領域では、光源40からの光がより高い強度で照射され、第1培養室12の隅の領域では、光源40からの光がより低い強度で照射される。この場合、第1藻類13が、正の走行性を示す場合には、第1培養室12の中心領域に集まり易く、第1藻類13が、負の走行性を示す場合には、第1培養室12の隅の領域に集まり易い。
【0039】
すなわち、上記の培養方法において、光源40からの光は、光源40と向き合った第1培養室12内の培養液の液面が、光源40からの光がより高い強度で入射する領域と、光源40からの光がより低い強度で入射するか又は光源40からの光が入射しない領域とを含むように第1培養室12へ入射させることが好ましい。
【0040】
上記の培養方法は、培養システムの上記説明に従って実施することができる。
【0041】
<3.効果>
本発明の培養技術に従って、異なる走光性を有する藻類と、上下方向に複数の培養室を備えた培養槽とを組み合わせて藻類を培養すると、培養槽の深部まで光を効率的に透過させることができるため、培養槽の上面側の培養室だけでなく培養槽の底面側の培養室においても、藻類を高密度に培養することができる。その結果、藻類を用いた物質生産を効率的に行うことができる。
【0042】
一方、背景技術の欄に記載したとおり、従来は、藻類として集光色素の量が少ない形質転換体を利用して、藻類を高密度で培養することが行われていた。この従来法は、藻類の集光色素の量が、遺伝的な改変により低く抑えられたり一定になったりしているため、藻類の環境変化への適応性が低い。これに対し、本発明の培養技術は、藻類として集光色素の量が少ない形質転換体を利用していないため、藻類の環境変化への適応性が低くなることがない。
【0043】
また、従来法では、藻類の集光色素の量を少なくしたとしても、照射した光が、培養液の表面近くに存在する藻類によって吸収されることには変わりがなく、培養槽の深部に存在する藻類の増殖速度は、ある程度低下する。また、藻類の集光色素の量を遺伝的な改変により低減しすぎると、藻類の生育が遅延する。これに対し、本発明の培養技術は、上述のとおり、培養槽の深部まで光を効率的に透過させることができるため、培養槽の深部に存在する藻類の増殖速度を低下させることがない。また、本発明の培養技術は、藻類に対して集光色素の量を低減するような遺伝的な改変を行っていないため、藻類の生育が遅延することもない。
【0044】
加えて、従来法は、遺伝子組換え体を使用するため、実施する場所が遺伝子組換え体を培養可能な施設に限定される。これに対し、本発明の培養技術は、遺伝子組換え体を使用しないため、実施する場所に制限がない。
【0045】
<4.好ましい実施形態>
以下に、好ましい実施形態をまとめて示す。
[1] 光源からの光が入射し、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室を内部に有し、前記第1培養室を透過した光を外部へ射出する第1培養容器と、
正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室を内部に有する第2培養容器であって、前記第1培養容器が射出した前記光が前記第2培養室に入射する第2培養容器と
を備えた培養システム。
[2] 前記光源を更に備えた[1]に記載の培養システム。
[3] 前記光源と向き合った前記第1培養室内の培養液の液面が、前記光源からの前記光がより高い強度で入射する領域と、前記光源からの前記光がより低い強度で入射するか又は前記光源からの前記光が入射しない領域とを含むように構成された[1]又は[2]に記載の培養システム。
[4] 前記第1培養室は、前記光源からの前記光の前記第1培養室への入射方向における寸法が、前記入射方向に対して垂直な方向の寸法と比較してより小さい[1]~[3]の何れか1に記載の培養システム。
[5] 前記第2培養容器は、前記第1培養容器を間に挟んで前記光源と向き合った[1]~[4]の何れか1に記載の培養システム。
[6] 第3藻類を培養する第3培養室を内部に有する第3培養容器を更に備え、
前記第2培養容器は、前記第2培養室を透過した光を外部へ射出し、
前記第3培養容器は、前記第2培養容器が射出した前記光が前記第3培養室に入射し、
前記第3藻類は、前記第2藻類が正の走光性を有している場合には前記第2藻類と比較して強い正の走光性を有し、前記第2藻類が負の走光性を有している場合には正の走光性を有しているか又は前記第2藻類と比較して弱い負の走光性を有している[1]~[5]の何れか1に記載の培養システム。
【0046】
[7] 光源からの光を、負の走光性を有している第1藻類を培養する第1培養室へ入射させることと、
前記第1培養室を透過した光を、正の走光性を有しているか又は前記第1藻類と比較して弱い負の走光性を有している第2藻類を培養する第2培養室へ入射させることと
を含んだ培養方法。
[8] 前記光源からの前記光は、前記光源と向き合った前記第1培養室内の培養液の液面が、前記光源からの前記光がより高い強度で入射する領域と、前記光源からの前記光がより低い強度で入射するか又は前記光源からの前記光が入射しない領域とを含むように前記第1培養室へ入射させる[7]に記載の培養方法。
[9] 前記第1培養室は、前記光源からの前記光の前記第1培養室への入射方向における寸法が、前記入射方向に対して垂直な方向の寸法と比較してより小さい[7]又は[8]に記載の培養方法。
[10] 前記第2培養室は、前記第1培養室を間に挟んで前記光源と向き合った[7]~[9]の何れか1に記載の培養方法。
[11] 前記第2藻類が正の走光性を有している場合には前記第2藻類と比較して強い正の走光性を有し、前記第2藻類が負の走光性を有している場合には正の走光性を有しているか又は前記第2藻類と比較して弱い負の走光性を有している第3藻類を培養する第3培養室へ、前記第2培養室を透過した光を入射させることを更に含んだ[7]~[10]の何れか1に記載の培養方法。
【実施例0047】
本実施例では、変形例1の培養システム、すなわち、
図1に示す培養システムから第3培養容器31を除去した培養室システムを用いて、藻類の培養を行った。
【0048】
第1培養容器11および第2培養容器21として、細胞培養用フラスコT25(培養面積:25cm2、体積:60cm3)を使用した。培養槽10は、第2培養容器21の上に第1培養容器11を積み重ねることにより準備した。
【0049】
第1培養容器11に、負の走光性を示すコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti CC-124株)を約50mLの培養液とともに入れ、第2培養容器21に、正の走光性を示すコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtti CC-125東京株)を約50mLの培養液とともに入れた。
【0050】
第1培養容器11の真上から、白色コールドライトを>3,000μmol photons m-2 s-1の強度で30分間照射し、第1培養容器11と第2培養容器21におけるコナミドリムシの挙動を観察した。
【0051】
負の走光性を示すCC-124株の藻類細胞は、光から逃げるように、第1培養室12の隅に集まった。一方、正の走光性を示すCC-125東京株の藻類細胞は、光を求めて培養液の液面付近に集まるとともに、縞々の模様が出来た。これは、CC-125東京株の藻類細胞が、培養液の液面付近で高密度になりすぎると沈降し、ある程度の深さまで沈降したら培養液の液面に向かって上昇し、この沈降と上昇を繰り返したため、すなわち「生物対流」現象が起きたためである。
【0052】
本実施例では、負の走光性を示すCC-124株の藻類細胞が、第1培養室12の隅に集まったため、光源40から第2培養室22の中心領域に、より高い強度の光を入射させることができた。このため、第1培養室12だけでなく第2培養室22においても、藻類を高密度に培養することができた。
10…培養槽、11…第1培養容器、12…第1培養室、13…第1藻類、21…第2培養容器、22…第2培養室、23…第2藻類、31…第3培養容器、32…第3培養室、33…第3藻類、40…光源