(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157696
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】液流下培養装置及び液流下培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241031BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072204
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】516132301
【氏名又は名称】インテグリカルチャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(74)【代理人】
【識別番号】100220423
【弁理士】
【氏名又は名称】榊間 城作
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁
(72)【発明者】
【氏名】桝井 啓
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 慶太
(72)【発明者】
【氏名】川島 一公
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DA01
4B029DB11
4B029DF05
(57)【要約】
【課題】 足場を利用した細胞培養において、設備の大型化を抑制すること。
【解決手段】 液流下培養装置100は、培養液を貯留する培養槽101と、培養槽に貯留された培養液を培養槽の出口から排出させ、排出された培養液が流路を介して培養槽の入口から培養槽の内部に供給されるように、培養液を循環させる送液機構Pと、培養する細胞が播種された足場を支持する第1支持部材であって、培養液が落下して足場に供給される位置に設けられた第1支持部材103と、培養槽の外部より気体を吸気する機構106と、培養槽の外部に気体を排気する機構107と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を貯留する培養槽と、
前記培養槽に貯留された前記培養液を前記培養槽の出口から排出させ、排出された前記培養液が流路を介して前記培養槽の入口から前記培養槽の内部に供給されるように、前記培養液を循環させる送液機構と、
培養する細胞が播種された足場を支持する第1支持部材であって、前記培養液が落下して前記足場に供給される位置に設けられた第1支持部材と、
前記培養槽の外部より気体を吸気する機構と、
前記培養槽の外部に気体を排気する機構と、
を有する液流下培養装置。
【請求項2】
前記培養液の落下距離を調節する調節機構をさらに有する、請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項3】
前記培養槽の内部における前記入口と前記第1支持部材との間に設けられ、前記入口から供給された前記培養液を一時的に保持する保持機構であって、一時的に保持された前記培養液が下方に流出する貫通孔を含む保持機構をさらに有する請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項4】
前記保持機構によって仕切られる前記培養槽内部の上下の空間の気相圧力を均圧化する均圧化機構をさらに有する請求項3に記載の液流下培養装置。
【請求項5】
前記保持機構は、前記貫通孔として、複数の貫通孔を含み、該複数の貫通孔から流出した前記培養液が落下して前記足場の複数個所に供給される請求項3に記載の液流下培養装置。
【請求項6】
前記送液機構によって前記流路を流れる前記培養液の流量を調節する流量調節部をさらに有する請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項7】
前記第1支持部材の下方に設けられ、前記第1支持部材が支持する足場と同一又は異なる種類の足場を支持する第2支持部材をさらに有し、足場を支持する支持部材が多段で構成される請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項8】
前記均圧化機構は、前記保持機構によって仕切られる上下の空間を連通させる通気管を含む請求項4に記載の液流下培養装置。
【請求項9】
前記流路における前記送液機構の下流に設けられたバルブをさらに有し、
前記流路は、前記培養槽と前記送液機構との間に設けられた第1流路と、前記送液機構と前記バルブとの間に設けられ、前記バルブの第1弁に接続された第2流路と、前記バルブと前記培養槽との間に設けられ、前記バルブの第2弁に接続された第3流路と、前記バルブと前記第1流路との間に設けられ、前記バルブの第3弁に接続された第4流路と、を含む請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項10】
前記培養槽の内部に貯留した前記培養液に気泡を供給する気泡供給機構をさらに有する請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項11】
前記送液機構によって循環する前記培養液には、前記細胞より分泌又は抽出される成分が付加されている請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項12】
前記細胞は、動物細胞であることを特徴とする請求項1に記載の液流下培養装置。
【請求項13】
培養液を培養槽に貯留することと、
前記培養槽に貯留された前記培養液を前記培養槽の出口から排出させ、排出された前記培養液が流路を介して前記培養槽の入口から前記培養槽の内部に供給されるように、前記培養液を循環させることと、
培養する細胞が播種された足場に、前記培養液を落下させることと、
前記培養槽の外部より気体を吸気することと、
前記培養槽の外部に気体を排気することと、
を含む液流下培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液流下培養装置及び液流下培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気相中に配置した担体に連続的に培養液を供給する培養液供給部を備えた培養システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-153744号公報
【特許文献2】特許第6777149号公報
【特許文献3】特許第6907477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞密度を高めるのに有効な足場を利用した培養方式としては、円筒装置を周方向に回転させるローラーボトル方式や、蛇腹状の装置が上下に移動するBelloCell方式が知られている。
【0005】
これらの培養方式は、培養装置自体が駆動するため、細胞の生産量の増加に伴い、より広い可動スペースの確保が必要となり、設備が大型化するという問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、足場を利用した細胞培養において、設備の大型化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る液流下培養装置は、培養液を貯留する培養槽と、前記培養槽に貯留された前記培養液を前記培養槽の出口から排出させ、排出された前記培養液が流路を介して前記培養槽の入口から前記培養槽の内部に供給されるように、前記培養液を循環させる送液機構と、培養する細胞が播種された足場を支持する第1支持部材であって、前記培養液が落下して前記足場に供給される位置に設けられた第1支持部材と、前記培養槽の外部より気体を吸気する機構と、前記培養槽の外部に気体を排気する機構と、を有する。
【0008】
第2態様に係る液流下培養装置は、第1態様に係る液流下培養装置において、前記培養液の落下距離を調節する調節機構をさらに有する。
【0009】
第3態様に係る液流下培養装置は、第1又は第2態様に係る液流下培養装置において、前記培養槽の内部における前記入口と前記第1支持部材との間に設けられ、前記入口から供給された前記培養液を一時的に保持する保持機構であって、一時的に保持された前記培養液が下方に流出する貫通孔を含む保持機構をさらに有する。
【0010】
第4態様に係る液流下培養装置は、第3態様に係る液流下培養装置において、前記保持機構によって仕切られる前記培養槽内部の上下の空間の気相圧力を均圧化する均圧化機構をさらに有する。
【0011】
第5態様に係る液流下培養装置は、第3から第4態様のいずれかの液流下培養装置において、前記保持機構は、前記貫通孔として、複数の貫通孔を含み、該複数の貫通孔から流出した前記培養液が落下して前記足場の複数個所に供給される。
【0012】
第6態様に係る液流下培養装置は、第1から第5態様のいずれかの液流下培養装置において、前記送液機構によって前記流路を流れる前記培養液の流量を調節する流量調節部をさらに有する。
【0013】
第7態様に係る液流下培養装置は、第1から第6態様のいずれかの液流下培養装置において、前記第1支持部材の下方に設けられ、前記第1支持部材が支持する足場と同一又は異なる種類の足場を支持する第2支持部材をさらに有し、足場を支持する支持部材が多段で構成される。
【0014】
第8態様に係る液流下培養装置は、第4から第7態様のいずれかに係る液流下培養装置において、前記均圧化機構は、前記保持機構によって仕切られる上下の空間を連通させる通気管を含む。
【0015】
第9態様に係る液流下培養装置は、第1から第8態様のいずれかの液流下培養装置において、前記流路における前記送液機構の下流に設けられたバルブをさらに有し、前記流路は、前記培養槽と前記送液機構との間に設けられた第1流路と、前記送液機構と前記バルブとの間に設けられ、前記バルブの第1弁に接続された第2流路と、前記バルブと前記培養槽との間に設けられ、前記バルブの第2弁に接続された第3流路と、前記バルブと前記第1流路との間に設けられ、前記バルブの第3弁に接続された第4流路と、を含む。
【0016】
第10態様に係る液流下培養装置は、第1から第9態様のいずれかの液流下培養装置において、前記培養槽の内部に貯留した前記培養液に気泡を供給する気泡供給機構をさらに有する。
【0017】
第11態様に係る液流下培養装置は、第1から第10態様のいずれかの液流下培養装置において、前記送液機構によって循環する前記培養液には、前記細胞より分泌又は抽出される成分が付加されている。
【0018】
第12態様に係る液流下培養装置は、第1から第11態様のいずれかの液流下培養装置において、前記細胞は、動物細胞である。
【0019】
第13態様に係る液流下培養方法は、培養液を培養槽に貯留することと、前記培養槽に貯留された前記培養液を前記培養槽の出口から排出させ、排出された前記培養液が流路を介して前記培養槽の入口から前記培養槽の内部に供給されるように、前記培養液を循環させることと、培養する細胞が播種された足場に、前記培養液を落下させることと、前記培養槽の外部より気体を吸気することと、前記培養槽の外部に気体を排気することと、を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、足場を利用した細胞培養において、設備の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る液流下培養装置の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る液流下培養装置の概略構成図であって、バルブVの第3弁V3を開いた状態を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る液流下培養装置の概略構成図である。
【
図5】第3実施形態に係る液流下培養装置の概略構成図である。
【
図6】本実施形態に係る液流下培養装置を用いた細胞培養のフローを示す図である。
【
図7A】本実施形態に係る保持機構の貫通孔に設けたガイドパイプの一例を示す図である。
【
図7B】本実施形態に係る保持機構の貫通孔に設けた絞り機構の一例を示す図である。
【
図8A】スケールアップ時の、ローラーボトル方式の培養装置の液保有量を示す図である。
【
図8B】スケールアップ時の、液流下培養方式の培養装置の液保有量を示す図である。
【
図11A】30滴/15秒の条件で培養した組織の断面の撮影画像である。
【
図11B】静置培養で培養した組織の断面の撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施形態に係る液流下培養装置について、図面を参照して説明する。なお、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る液流下培養装置100の概略構成図である。液流下培養装置100は、例えば、培養肉の生産のために用いることができ、肝細胞、筋芽細胞、皮膚等の動物細胞を培養することができる。
【0024】
また、従来、細胞を播種した円盤状の足場を、培養液を保有する円筒容器内の回転軸に設置し、足場に培養液の液滴を供給しながら回転軸を回転させて骨・軟骨細胞を培養する技術(Kirstin Suck, et al., "A Rotating Bed System Bioreactor Enables Cultivation of Primary Osteoblasts on Well-Characterized Sponceram Regarding Structural and Flow Properties", Biotechnology Progress, Vol.26, No.3, pp.671-678, 2010)が提案されている。この従来技術は、円盤状の足場が設置された回転軸を円筒容器内で回転させることにより、足場が円筒容器上部の気相と培養液が保有された下部の液相とを繰り返し動くものであるが、細胞が播種された足場の面が重力方向に対して平行に設置されているため、骨・軟骨細胞以外の接着力の弱い細胞を培養する場合には、細胞が足場から剥がれ落ちる可能性があった。一方、本実施形態の液流下培養装置100は、筋肉、皮膚、歯等の骨・軟骨細胞以外の動物細胞も培養が可能である。また、本実施形態の液流下培養装置100は、足場が回転軸に設置されていないため、回転軸に設置・保持可能な強度をもつ特殊な足場である必要がなく、平面シート状等の簡易な足場も採用することができる。
【0025】
図1に示すように、液流下培養装置100は、培養液Wを貯留する培養槽101と、培養液を一時的に保持する保持機構102と、培養する細胞が播種された足場Sを支持する支持部材103と、培養液Wが供給される液体流入口(入口)104と、培養槽101に貯留した培養液Wが排出される液体流出口(出口)105と、培養槽101の外部から気体G(例えば、5%CO2+Air)を取り込む吸気口106と、培養槽101内部の気体を外部に排出する排気口107と、培養液を循環させるためのポンプPと、ポンプPを制御して培養液の流量を調節可能な流量制御部CLと、培養液の流路の切り替えが可能なバルブVと、培養槽101、ポンプP、バルブVとを接続する第1流路L1~第4流路L4とを含む。
【0026】
なお、細胞播種は予め細胞を播種した足場を設置してもよいし、液流下培養装置100の内部に足場を設置した後に培養液に細胞を混入した懸濁液を装置内循環させることで足場に細胞を播種してもよい。足場に播種する細胞の種類は、必ずしも1種類である必要はなく、2種類以上の細胞を播種してもよい。
【0027】
また、吸気口106と排気口107は共通としてもよい。すなわち、吸気口106及び排気口107がそれぞれ吸排気を兼ねるようにしてもよい。その場合、吸排気口106及び吸排気口107の少なくとも一つを液流下培養装置100に設ければよい。
【0028】
培養槽101の下方に貯留した培養液Wは、第1流路L1を通ってポンプPに吸い込まれた後、ポンプPから吐き出されて第2流路L2を介してバルブVに入る。バルブVに入った培養液Wは、後述の第2弁V2が開いた状態において、第3流路L3を通って再び培養槽101に供給される。このように、培養槽101に貯留された培養液Wは、ポンプPにより、培養槽101、第1流路L1、ポンプP、第2流路L2、バルブV、第3流路L3、培養槽101の順に循環する。
【0029】
培養液Wは、培養槽101内を流れる過程で、吸気口106から供給された酸素、二酸化炭素等を取り込む。なお、液流下培養装置100自体をインキュベーターの様な周囲を細胞成長に適した環境(37℃、5%CO2+Air)にしてもよいし、吸気口106から外気(空気、酸素、二酸化炭素等の気体)を直接供給してもよい。また、容器内を加圧または供給酸素濃度等を高め、培養液Wへの溶存気体濃度を高めてもよい。
【0030】
また、培養槽101下部の培養液Wの貯留部に、マイクロバブル、ナノバブル等の微細気泡を供給する気泡供給機構(不図示)を設けることにより、細胞と気体の接触面積を増加させ及び/又は局所的に気体分圧を高めることにより過飽和度状態としてもよい。これにより、細胞が培養液中の気体を吸収しやすい状態にすることができる。本実施形態の液流下培養装置100は、足場の細胞に培養液Wを連続的に落下もしくは断続的に滴下させることで、細胞周囲に培養液Wの液膜を形成し、その液膜中で培養液Wを常に流動させることにより、気相から液相に気体成分を吸収しやすくしているが、培養槽101下部の培養液Wに不図示の微細気泡を供給することにより、培養液の初期の気体溶解値を高めることができるので、細胞が培養液W中の気体成分を吸収する効果を高めることができる。細胞の種類によっては微細気泡の影響によってダメージ受けて死滅するおそれがあるが、微細気泡が供給される培養槽101下部には細胞は存在していないので、細胞に微細気泡の直接的な影響を与えることが抑制される。なお、本実施形態の液流下培養装置100では、培養液Wを装置内部の培養槽101下部に貯留(保有)するようにしているが、液流下培養装置100の外部にタンクを設置し、そのタンク内に培養液Wを貯留(保有)するようにしてもよい。そして、当該タンク内で培養液Wに微細気泡を供給するようにしてもよい。
【0031】
液体流入口(入口)104から培養槽101に供給された培養液Wは、培養槽101の内部の上方に設けられた保持機構102に流入する。
図1に示すように、液体流入口(入口)104は、培養槽101の上部を貫通する配管等で構成されている。これにより、液体流入口(入口)104から供給された培養液Wが培養槽101の上部の内壁面をつたってしまうことを防止でき、培養液Wを確実に保持機構102に流入させることができる。
【0032】
保持機構102は、培養液Wを一時的に保持(貯留)するための機構であり、例えば、底部に複数の貫通孔(開口形状は問わない)が形成された分散桶を用いることができる。保持機構102を分散桶構造とすることにより、一時的に保持された培養液Wの上流側及び下流側が均圧下されるため、ポンプ吸引力による落下液の加速を抑えることができる。そのため、圧力付与などによる影響の大きい細胞に対しては、分散桶方式を採用するとよい。
【0033】
保持機構102の貫通孔から下方に流出した培養液Wは、自然落下により、保持機構102の下方に設けられた支持部材103が支持する足場Sに供給される。このように、液面上部及び下部の気相圧力を均等にする均圧機構としての保持機構102を備えればより好ましく、本実施形態に係る液流下培養装置では、液体流入口104から培養槽101の内部に流入した培養液Wが、直接足場Sに供給されるのではなく、一旦、保持機構102で保持(貯留)された後、自然落下により、足場Sに供給されるように構成されている。これにより、ポンプで一度昇圧された培養液が培養槽タンク圧に均圧化されることでポンプ吐出圧力の影響を抑制できる他、ポンプ吸引力による落下液の加速を抑えることができる。すなわち、足場Sに播種された細胞に加わる圧力が抑制され、細胞の成長が阻害される要因となるストレスを軽減することができる。これにより、細胞の剥離、死滅を抑えることができる。また、足場Sに供給される培養液Wの流量を安定させることができる
従来、培地供給手段として、培地貯留部を設け培地滴下ノズルで液を落下させる方法が知られているが(特許文献2参照)、培地貯留は装置内面の全面にあり、液封されている状態であるため、液面の上部及び下部の気相圧力は均等ではない。この場合、ポンプなど培養液を吸込み循環させる送液機構の影響を受け、液の落下スピードが加速する。特に、装置が小型の場合は影響を受けやすい。また、小型装置の場合は、送液機構としてのポンプは、一般に容積式ポンプが使用され、脈動の影響を受ける。また、細胞が、過度の流速、圧力変動に弱い場合、細胞の死滅及び/又は足場からの剥離が発生する。
【0034】
一方、本実施形態の桶状の保持機構102によれば、保持機構102の上下の気相圧力が均等(均圧)になるため、ポンプの吸込の影響を受けずに培養液Wの落下が可能となる。
【0035】
なお、液圧をかけても剥離・死滅しない細胞については、液落下は上部液供給口より直接投入、散水配管などを設けての投入、噴霧による投入などいずれの方法でも構わない。 また、保持機構102に形成された貫通孔に、上からろ紙・ろ布・金属メッシュ等を貼り付け及び/又は挟み込みし、抵抗力や表面張力を上昇させることにより、培養液Wを足場Sに連続的に供給する方式と、滴下により間欠的に供給する方式とを使い分けることが可能である。例えば、適度な刺激を与えることで成長が促進される細胞に対しては、培養液Wを滴下する方式を採用するとよい。
【0036】
また、液落下位置を誘導するため及び/又は抵抗力を上昇させ滴下させるために、保持機構102の貫通孔に
図7Aに示すようなガイドパイプ70や、
図7Bに示すようなテーパ状の絞り機構71を設けたパイプ類を設置させてもよい。ろ紙・ろ布・金属メッシュ等で同様の機構を持たせてもよい。
【0037】
また、足場に播種された細胞に供給される培養液Wの落下距離は、細胞の種類等により可変であることが望ましい。これにより細胞が足場から剥離することを抑制でき、また、落下する液の圧力に弱い細胞に対しては、落下距離を短くすることでダメージを軽減し細胞の成長を促進することができる。なお、落下距離を略ゼロ(貫通孔から出た培養液が落下せずに直接細胞に供給される状態)に設定することにより、落下圧・落下スピードをより抑えることも可能である。
【0038】
このように、培養液の落下距離を可変とすることにより、外圧に強い細胞及び/又は適度な刺激が成長に有用な細胞については当該距離を長くとることで、より細胞が成長する空間を与えることができる。なお、落下距離は、細胞種により適切な値に設定することが望ましい。
【0039】
ここで、培養液の落下距離の調節は、保持機構102と支持部材103のどちらを上下させても構わない。培養液の落下距離を調節する調節機構として、以下のように構成してもよい。例えば、液流下培養装置100の内部側面に設けた支持台(不図示)の上に支持部材103を設置し、この支持台と支持部材103との間に高さ調整用のシム等を設けてもよいし、レバー等により支持台をスライドさせてもよい。また、例えば、液流下培養装置100の培養槽101下部に設置した不図示のボルト等の長棒又は長柱(支持部)によって支持部材103を支持し、この支持部の長さを調節してもよい。また、例えば、液流下培養装置100の内部側面に設けた支持台(不図示)の上に、不図示のボルト等の長棒又は長柱(支持部)を介して保持機構102を設置し、この支持部の長さを調節してもよい。
【0040】
また、保持機構102に形成された貫通孔は、培養対象の細胞の大きさに応じて、満遍なく培養液Wが接触するような孔配置や孔形状(サイズを含む)にしてもよい。例えば、保持機構102の底面の全体に複数の貫通孔を設けてもよいし、支持部材103が支持する足場に播種された細胞の位置に対応するように貫通孔を設けてもよい。また、例えば、貫通孔の孔サイズを変更することにより、貫通孔を介して下方に落ちる培養液Wの流速を変更してもよい。具体的は、培養液Wの流速を上げる場合には貫通孔の孔サイズを大きくし、逆に、培養液Wの流速を下げる場合には貫通孔の孔サイズを小さくするようにしてもよい。
支持部材103に支持された足場S(及び足場S上の細胞)の表面には、保持機構102から自然落下により供給される培養液Wによって、液膜が形成される。そして、液膜を構成する培養液Wは、保持機構102から連続的あるいは間欠的に供給されることにより入れ替わるため、液膜を構成する培養液W中の栄養成分や気体成分が枯渇することを抑制できる。また、足場Sを培養液W中に完全に浸した場合と比較して、足場S周囲の培養液Wを薄膜化できるため、気体成分等を細胞に効率的に吸収させることができる。これにより、細胞成長性を高めることができる。
【0041】
これらの効果により、細胞は、密集又は凝集された状態及び/又は急激に成長する時でも、養分・気体成分の不足により死滅することはなく、生育が可能となる。また、積層して成長、組織化し、細胞数や細胞重量を増やすことが可能である。また、足場の材質は制限されるものではなく、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチンなど細胞が接着し生存するのに適したものであれば、平面シートでもよい。細胞が接着・付着するものであれば、その他の材質でも構わず、形状は平面シートでなく、格子状、網目状の様な3次元的な形状でもよい。
【0042】
従来の膜状で空気などのガスに接した状態で細胞を培養する方法(例えば、特許文献2、特許文献3参照)では、細胞増殖方法として、ポリマー多孔質膜などの特殊な材料で複雑な構造をすることで膜内部に液を保水する等で細胞の乾燥を防止しているが、細胞の生育に必ずしも適した材料ではない。これに対し、本実施形態の液流下培養装置100では、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチンなど、細胞が接着し生存するのに適したもの足場として用いるので、平面シートの様な簡易な形状でも、細胞増殖が可能である。
【0043】
支持部材103は、足場Sに供給された培養液Wを支持部材103の下方に流出させるための複数の開口部(貫通孔)が形成されている。支持部材103としては、例えば、ステンレス等のメッシュプレートを用いてもよいし、
図3に示すような、複数の開口部Hが形成された多孔板103Aを用いてもよい。多孔板103Aに設けられた開口部Hの数が多いほど、細胞の大きさに関わらず、均一に培養液Wを供給することができる。なお、支持部材103は、培養液Wが、細胞および足場周囲に滞留することなく下方および側面に移動するような形状であればどのような形状でもよい。
【0044】
支持部材103の開口部から流出した培養液Wは、支持部材103の下方に落下して、再度、培養槽101の下部に貯留される。
【0045】
ここで、ポンプPについて説明する。ポンプPには、ポンプPを制御して流路L1~L4を流れる培養液Wの流量を調節するための制御部CLが接続されている。すなわち、制御部CLは流量調節部として機能する。流量調節部としては、ポンプPに接続したインバータや、ポンプPに設けた流量調節弁などを用いてもよい。流量調節部により培養液Wの流量を調節することにより、後述の保持機構102から足場Sに供給される培養液Wの流量を調節することができる。例えば、流量調節部によりポンプPによる循環流量を増やすことによって、保持機構102から足場Sに培養液Wを連続的に供給することができ、逆に、流量調節部によりポンプPによる循環流量を減らすことによって、足場Sに培養液Wを間欠的に供給することができる。また、流量調整部により培養液Wの流量を調節することにより、足場S上で細胞周囲に液膜を形成する培養液Wの移動速度を変化できるため、剥離性の高い(接着力の弱い)細胞に対しては液膜中の培養液Wの移動速度を抑えた培養をしたり、逆に、接着力の高い細胞に対しては液膜中の培養液Wの移動速度を上げ、栄養成分や気体成分の吸収性を高めた培養をしたりと、細胞の性質に応じた培養を行うことができる。また、細胞の成長度合いや成長段階に応じて、同一細胞に対しても循環流量を変えることで、細胞の成長をコントロールすることも可能である。
【0046】
次に、バルブVについて説明する。
図1に示すように、バルブVは、第2流路に接続された第1弁V1と、第3流路L3に接続された第2弁V2と、第4流路L4に接続された第3弁V3とを有する。
図1は、バルブVの、第1弁V1及び第2弁V2を開き、第3弁V3を閉じることにより、第1流路L1~第3流路L3で構成される流路が主流となった状態を示している。
【0047】
図2は、バルブVの、第1弁V1及び第3弁V3を開き、第2弁V2を閉じることにより、第1流路L1、第2流路L2及び第4流路L4で構成される流路が主流となった状態を示している。
図2に示すように、第4流路L4を経由して第1流路L1に戻る流量が増えることにより、培養槽101から排出される培養液Wの量が減り、結果として、培養槽101の貯留される培養液Wの量が増える。これにより、支持部材103に支持された足場Sが完全に培養液W中に浸漬させることができる。このように、バルブVの各弁を調節することにより、培養槽101に貯留された培養液Wの液位を変化させることができる。
【0048】
バルブVの各弁を調節することにより、足場Sを培養液Wに浸漬させる浮遊培養(静置培養)と、足場Sの上部から培養液Wを連続的に供給する液流下培養とを切り替えることもできる。例えば、細胞の初期成長時など足場Sへの接着力の弱い場合には、初期は、浮遊培養(静置培養)としてある程度成長、付着力を高めた後に、液流下培養に切り替えて細胞成長を促進させる培養も可能である。
【0049】
なお、
図2に示す状態において、バルブVの第2弁V2を完全に閉じずに、第1流路L1、第2流路L2及び第4流路L4で構成される流路が主流となる程度に開けておいてもよい。これにより、培養槽101に培養液Wを供給しつつ、培養槽101の内部に貯留された培養液Wの液位を上げることができる。
【0050】
また、同様に、
図1に示す状態において、バルブVの第3弁V3を完全に閉じずに、第1流路L1~第3流路L3で構成される流路が主流となる程度に開けておいてもよい。これにより、培養槽101の内部に貯留される液位をある程度高くしつつ、培養槽101に供給される培養液Wの流量を増やすことができる。
【0051】
以上説明したとおり、本実施形態に係る液流下培養装置100は、細胞を定位置(支持部材103が支持する足場S上)に設置し、循環液(培養液W)を移動させるため、細胞を気相液相に晒す培養方式(ローラーボトル方式、BelloCell培養方式)に比べ、装置構造がシンプルとなり、スケールアップ時の駆動動力も抑えることができる。
【0052】
このように、本実施形態に係る液流下培養装置100は、培養液を貯留する培養槽101と、培養槽101に貯留された培養液Wを培養槽の出口(液体流出口105)から排出させ、排出された培養液Wが流路(第1流路L1~第3流路L3)を介して培養槽101の入口(液体流入口104)から培養槽101の内部に供給されるように、培養液Wを循環させる送液機構Pと、培養する細胞が播種された足場Sを支持する支持部材103であって、培養液Wが落下して足場Sに供給される位置に設けられた支持部材103と、培養液Wの落下距離を調節する調節機構と、を有するので、足場Sを利用した細胞培養において、設備の大型化を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る液流下培養装置によれば、足場S上で培養される細胞に供給された培養液Wが培養槽101に蓄えられた後に、再度、足場S上の細胞に供給されるように培養液Wが循環するので、足場S上の細胞から分泌される成分が付与された培養液Wを細胞に供給することができる。細胞から分泌された成分を培養液W中から抽出する機構や、細胞分泌成分を含んだ培養液Wを回収する機構を液流下培養装置に設けることで液流下培養装置を培養液生成装置として用いることもできる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る液流下培養装置について説明する。なお、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0055】
図4は、第2実施形態に係る液流下培養装置100Aの概略構成図である。第2実施形態に係る液流下培養装置100Aでは、保持機構の構成が第1実施形態とは異なる。
【0056】
保持機構102A(均圧化機構)は、培養槽101の液体流入口(入口)104から供給された培養液Wを一時的に保持し、保持機構102Aで仕切られる上下の空間の気相圧力を均圧化する機能を有する点においては、第1実施形態の保持機構102と同様である。第1実施形態の保持機構102は分散桶で構成されていたのに対し、本実施形態の保持機構102Aは、オリフィスプレート102Aoとライザー管(通気管)102Arとで構成されている。
【0057】
オリフィスプレート102Aoは、培養槽101の内部の空間を仕切り、液体流入口104から供給された培養液Wを保持する。また、オリフィスプレート102Aoには、少なくとも一つの貫通孔が形成されており、この貫通孔から、一時的に保持した培養液Wが流出する。
【0058】
ライザー管102Arは、オリフィスプレート102Aoを貫通する中空形状の部材であり、オリフィスプレート102Aoによって隔てられた培養槽101内部の上下の空間を通気する通気管として機能する。すなわち、ライザー管102Arは、保持機構102A(オリフィスプレート102Ao)で仕切られる上下の空間の気相圧力が均圧化する均圧化機構として機能する。
【0059】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、オリフィスプレート102Aoとライザー管(通気管)102Arとで構成された保持機構102Aを用いたので、培養液Wの保持機構として分散桶を用いる場合と比較して、培養槽101をより小型化することができる。これにより、液流下培養装置100Aの設備の大型化をさらに抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、保持機構102Aが、保持機構102A(オリフィスプレート102Ao)によって仕切られる上下の空間を連通させる通気管(ライザー管102Ar)を含むので、液流下培養装置100Aの支持部材103により支持された足場Sの細胞に空気を良好に供給することができる。
【0061】
なお、ライザー管102Arを設けるのに代えて、オリフィスプレート102Aoで仕切られる上下の空間の液流下培養装置100の側面に連通口を設け、この連通口を繋ぐ連通管を設けることにより、オリフィスプレート102Aoで仕切られる上下の空間の気相の圧力を均圧化してもよい。
【0062】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る液流下培養装置について説明する。第3実施形態では、複数の支持部材を備えている点が第1及び第2実施形態と異なる。なお、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0063】
図5は、第3実施形態に係る液流下培養装置100Bの概略構成図である。
図5に示すように、本実施形態に係る液流下培養装置100Bは、保持機構102X及び足場S1を支持する支持部材103X(第1支持部材)に加えて、保持機構102Y及び足場S2を支持する支持部材103Y(第2支持部材)を備えている。足場S1及び足場S2に播種される細胞は、同じ細胞でもよいし、異なる種類の細胞でもよい。例えば、足場S1で肝細胞を培養し、足場S2で筋芽細胞を培養するようにしてもよい。
【0064】
なお、保持機構102X及び102Yの構成は、第1実施形態の保持機構102と同様である。また、支持部材103X及び103Yの構成は、第1及び第2実施形態の支持部材103と同様である。
【0065】
培養槽101の液体流入口(入口)104から供給された培養液Wは、保持機構102Xに流入し、一時的に保持された後、保持機構102Xに形成された貫通孔から下方に流出する。
【0066】
保持機構102Xの貫通孔から流出した培養液Wは、支持部材103Xに支持された足場S1に自然落下により供給される。足場S1に供給された培養液Wは、足場S1(及び足場S1上で培養される細胞)表面に液膜(薄膜)を形成し、支持部材103Xに形成された開口部から下方に流出する。
【0067】
支持部材103Xの開口部から流出した培養液Wは、保持機構102Yに流入し、一時的に保持された後、保持機構102Yに形成された貫通孔から下方に流出する。
【0068】
保持機構102Yの貫通孔から流出した培養液Wは、支持部材103Yに支持された足場S2に自然落下により供給される。足場S2に供給された培養液Wは、足場S2(及び足場S2上で培養される細胞)表面に液膜(薄膜)を形成し、支持部材103Yに形成された開口部から下方に流出する。
【0069】
支持部材103Yの開口部から流出した培養液Wは、培養槽101の下部に再度貯留される。
【0070】
従来の細胞播種された足場が多段に設置されている方法(例えば、特許文献2参照)では、培地供給手段として、装置内が液封させた状態で上部に貯留した液より滴下させる機構のため、培地滴下機構を縦に多段に設置すると、それぞれの部位で圧力差が生ずるため、安定した培地滴下が難しい。これに対し、本実施形態の液流下培養装置100Bは、保持機構102X、102Yが、液面の上部・下部の気相圧力を均等にする均圧化機構として機能するため、全ての段で安定した培養液の供給が可能である。
【0071】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、支持部材103X(第1支持部材)の下方に設けられ、支持部材103Xとは異なる足場S2を支持する支持部材103Y(第2支持部材)をさらに有するので、液流下培養装置100Bにおいて、同時に複数の組織(細胞群)を培養することができる。
【0072】
また、本実施形態の液流下培養装置によれば、足場S(足場S1及び足場S2)を支持する支持部材103(支持部材103X及び103Y)を上下方向に多段で設けたため、液流下培養装置の平面スペースを増やすことなく、細胞の生産量を上げることができる。
【0073】
なお、保持機構102(保持機構102X及び102Y)は、支持部材103(支持部材103X及び103Y)と必ずしも同数設置されていなくてもよく、支持部材103の設置数より多くても少なくてもよい。例えば、保持機構102の個数を減らし、培養槽101の上方の一箇所に保持機構102を設置した場合には、培養槽101をより小型化することができる。
【0074】
(液流下培養方法)
次に、上記各実施形態に係る液流下培養装置を用いた液流下培養方法について説明する。
【0075】
図6は、本実施形態に係る細胞培養のフローを示す図である。
【0076】
まず、ステップS1において、培養液Wを培養槽101に貯留する。
【0077】
次に、ステップS2において、培養槽101に貯留された培養液Wを培養槽101の液体流出口(出口)105から排出させ、排出された培養液Wが流路を介して培養槽101の液体流入口(入口)104から培養槽101の内部に供給されるように、培養液Wを循環させる。
【0078】
次に、ステップS3において、培養する細胞が播種された足場Sに、培養液Wを落下させる。
【0079】
そして、必要に応じて、ステップS4において、培養液の落下距離を調節する。
【0080】
以上説明したとおり本実施形態に係る液流下培養方法によれば、装置自体を駆動させることなく、足場に播種された細胞周囲に液流を発生させることができるので、設備の大型化を抑制しながら所望の細胞の量産を行うことができる。
【0081】
以上、各実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0082】
以上の各実施形態では、培養液Wが、液流下培養装置の流路を循環する構成を説明したが、培養液Wの交換のため、液流下培養装置の外部から新しい培養液Wを供給する流路をさらに設けてもよい。これにより、液流下培養装置の内部の培養液Wを定期的に新しいものに交換することができる。
【0083】
ここで、従来のローラーボトル方式と、上記各実施形態で採用する液流下培養方式とを細胞の生産量と相関関係にある液保有量(培養液量)を指標として比較した結果について述べる。
【0084】
図8Aは、ローラーボトル方式の培養装置をスケールアップした場合の液保有量を算出した結果である。ここで、ローラーボトル方式の培養装置をスケールアップした場合は、水平に倒した状態で円筒状容器を回転させるために円筒中心に軸受・軸の類が設置される。軸周囲に液が接触すると、軸の腐食や、軸封部よりの液漏れ、異物混入の恐れがあるため容器内の液の保有量は、容量の1/3とした。円筒の装置形状は、一般的なタンク寸法に準じた。
【0085】
図8Bは、上記各実施形態で採用する液流下培養方式の培養装置(細胞設置段数:1段)をスケールアップした場合の液保有量を算出した結果である。
図8Bに示すように、液流下培養方式では、液保有量の増加に伴った装置サイズの増大が抑えられる。
【0086】
液流下培養方式の場合、装置下部の液保有部において円筒容器内に満液とすることができるためローラーボトル方式に比べて空間容積は少なく済む。このため、装置全体をコンパクトにできるため、液保有量の増加にともなった装置サイズの増大を抑制することができる。
【0087】
また、ローラーボトル方式の場合、細胞が気相と液相を繰り返し移動するが、気相中の滞留時間は細胞の乾燥を防ぐため、装置をスケールアップしても同一時間とすることが望まれるが、装置のスケールアップ時に口径が大きくなるに伴い、円弧の移動量が増えるため、回転数を上昇させる必要がある。また、回転数上昇に伴い、移動速度上昇による細胞剥離の影響が出てくる他、装置駆動動力が大きくなり、より広い設置スペースが必要になるといった問題が生じる。
【0088】
また、ローラーボトルは細胞を装置と一体化し、培養液に対して装置が動くことで細胞に培養液を提供する構造のため、装置駆動動力は、液保有を含めた装置重量により上昇する。そして、装置のスケールアップに伴い、液保有量の他、装置自体の重量も増加するが、装置の設置面積も増える。また、装置口径の増大に伴い、装置の強度を向上させるために装置を構成する部材の板厚を増大させる必要があり、さらに動力が大きくなる傾向がある。
【0089】
一方、液流下培養方式は、細胞に対して培養液を移動させることで細胞に培養液を提供する構造のため、装置に必要な動力は培養液の循環であり、循環量増分の動力増に留まる。
【0090】
また、培養液量は、気体中の溶存成分量を指標として決まることが多いが、液流下培養方式の場合は、細胞と液保有部(培養槽)とが分離しているため、液保有部に微細気泡を提供し溶存量を増やす等で更に培養液量当たりの細胞生産量を増やすことが可能である。ローラーボトル方式では細胞が液保有部を通過・接触する機会があるため、微細気泡で死滅の可能性のある細胞では採用することができないのに対し、液流下培養方式では、そのような細胞に対しても採用することが可能である。
【実施例0091】
以下、上記各実施形態で採用する液流下培養の実施例(実験結果)について説明する。
【0092】
(実施例1)
マウス筋芽細胞C2C12細胞を、コラーゲンシートに播種したものを、培養液DMEM+10%FBSで7日間の培養試験を行った。比較として、
1)静置培養、
2)液流下培養、
3)足場浮遊培養
での培養を行い、細胞数を比較した。
1)静置培養
コラーゲンシート上でのC2C12細胞の増殖傾向の比較データとして、35 mmディッシュ上で静置培養を行った。100 mm2のコラーゲンシートに10,000個の細胞を播種し、細胞数を測定したところ、
3日後: 32,600個
5日後:101,667個
7日後:155,333個
10日後:167,000個
12日後:165,000個
14日後:161,333個
の細胞が観察された。
【0093】
細胞は100 mm2のコラーゲンシートに飽和し、成長増殖が限界となり、増殖曲線が平坦化している。
2)液流下培養
100 mm2のコラーゲンシートを、35 mmディッシュに設置の上、C2C12細胞を播種し、一晩経過しコラーゲンシート上に10,000個の細胞が接着されている状態とし、液流下培養装置内に設置し、7日間培養を行った。
【0094】
細胞上方の液を保有する機構は孔を1個設けたオリフィス構造とし、約10滴/15秒で培養液が細胞に設置される様に流量を設定した。7日間経過後、細胞を装置から回収し、測定したところ、3回平均で生細胞として441,733個の細胞が観察された。このことから、静置培養の限界を超えた細胞増殖が確認されている。
3)足場浮遊培養
100 mm2のコラーゲンシートを、35 mmディッシュに設置の上、C2C12細胞を播種し一晩経過し、コラーゲンシート上に10,000個の細胞が接着されている状態とし、液流下培養装置内において、細胞が浸漬する状態まで培養液を投入し、細胞周囲が満液となる条件とし、培養液を装置内で循環させ、細胞が足場に接着した状態で浮遊・培養させた。7日間経過後、細胞を装置から回収し、測定したところ、生細胞として、161,000個の細胞が観察された。
【0095】
図9は、実施例1の実験結果をまとめたものである。
図9に示すように、液流下培養の効果により、細胞が密集・凝集された状態でも成長を続け、般的な培養方法である静置培養の限界を超える細胞増殖が確認された。
【0096】
(実施例2)
マウス筋芽細胞C2C12細胞を、コラーゲンシートに播種したものを、培養液:DMEM+10%FBSで7日間の培養試験を行った。比較として、
1)約10滴/15秒
2)約30滴/15秒
3)約45滴/15秒
4)約1滴/8秒
の培養を行い、細胞数を比較した。
図10は、本実施例の結果を示す図である。
図10に示すように、培養液の滴下スピードにより細胞増殖数、胞密度が異なる結果となった。細胞種、足場により適した運転範囲・滴下状況があるので、培養液を落下させる方式及び/又は培養液の流量は可変させるのが有効である。
【0097】
図11Aは、上記2)約30滴/15秒の条件で培養した組織の断面を撮影した画像である。
図11Aに示すように、積層化して細胞が成長していることが確認された。また、細胞の積層化は、静置培養の場合(
図11B参照)よりも顕著であることが確認された。
【0098】
上記各実施例において、細胞数の計測は以下の方法で行った。
【0099】
サンプルをD-PBS(カルシウムイオン、マグネシウムイオン不含(以下、-で表す))が入ったディッシュに入れて、サンプルを洗浄する。その後、サンプルをコラゲナーゼ溶液が入ったディッシュに37℃、5分間漬けておいておく。そして、FBS入りの培養液をコラゲナーゼ溶液と同量加えた後に、マイクロピペットでピペッティングし細胞を剥がし、その溶液をチューブに回収する。さらに、細胞が回収しきれていない場合も考慮して、D-PBS(-)溶液を加えた後に、その溶液を同チューブに回収する。最初の段階でサンプルの洗浄に使用したD-PBS(-)も同チューブに回収する。チューブを室温で200 g、5分間遠心した後に上清を除いた。チューブ底面に沈殿した細胞ペレットにD-PBS(-)溶液を加え、ピペッティングし溶液全体に細胞を懸濁させた。細胞懸濁液から溶液を採取し、トリパンブルー溶液を混合させた。混合させた溶液を採取し、血球計算盤で測定を行った。
【0100】
なお、本出願人は本明細書の「先行技術文献」欄の文献に記載された文献公知発明を知っているにすぎず、本発明は必ずしも同文献公知発明における課題を解決することを目的とするものではないことにも留意されたい。本発明が解決しようとする課題は本明細書全体を考慮して認定されるべきものである。例えば、本明細書において、特定の構成によって所定の効果を奏する旨の記載がある場合、当該所定の効果の裏返しとなる課題が解決されるということもできる。ただし、必ずしもそのような特定の構成を必須の要件とする趣旨ではない。