(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157855
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素及びそれを用いたアンブレインの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/61 20060101AFI20241031BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20241031BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241031BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241031BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241031BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241031BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241031BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12N15/61
C12N9/90 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072476
(22)【出願日】2023-04-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.BRIJ
3.TERGITOL
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 努
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智巳
(72)【発明者】
【氏名】石川 一彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA51
(57)【要約】 (修正有)
【課題】変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、及びそれを用いた簡便に且つ効率的にアンブレインを得ることができるアンブレインの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリン、からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示す、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリン、からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、
(i)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置にNGLYXWPモチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に80~140アミノ酸残基離れた位置に(D/N)G(T/L)(L/F/Y)(Y/F)SYモチーフ、N末端側に25~90アミノ酸残基離れた位置にTALXSYAモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、
(ii)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であり、並びに
(iii)スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示す、
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項2】
前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、
である、請求項1に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項3】
前記(a)のトリプトファンがトリプトファン以外のアミノ酸がトリプトファンに置換されたものであり、前記(b)のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸がアスパラギン酸に置換されたものであり、前記(c)のプロリンがプロリン以外のアミノ酸がプロリンに置換されたものである、請求項1に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項4】
前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が、
(1)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステインであるか、
(2)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、及び(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニンであるか、
(3)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、及び(f)GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸残基がアラニンであるか、又は
(4)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニン、及び(f)GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸残基がアラニンであり、並びに
スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示す、
請求項1に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項5】
前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から327番目のアスパラギン酸の前記(d)のシステインへの置換を含み、そして
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
である、請求項4に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項6】
前記(a)のトリプトファンがトリプトファン以外のアミノ酸がトリプトファンに置換されたもの、前記(b)のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸がアスパラギン酸に置換されたものであり、前記(c)のプロリンがプロリン以外のアミノ酸がプロリンに置換されたものであり、前記(d)のシステインがシステイン以外のアミノ酸がシステインに置換されたものであり、前記(e)のアラニンがアラニン以外のアミノ酸がアラニンに置換されたものであり、前記(f)のアラニンがアラニン以外のアミノ酸がアラニンに置換されたものである、請求項4に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを有する微生物。
【請求項9】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のベクターを有する形質転換体。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか一項に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを得ることを特徴とする、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの製造方法。
【請求項12】
請求項4~6のいずれか一項に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法。
【請求項13】
請求項8に記載の微生物を培養することを特徴とする、アンブレインの製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載の形質転換体を培養することを特徴とする、アンブレインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素及びそれを用いたアンブレインの製造方法に関する。本発明によれば、効率的にアンブレインを製造することができる。
【背景技術】
【0002】
龍涎香(ambergris)は、7世紀ごろから世界各地で使用されてきた高級香料であり、漢方薬としても使用されている。龍涎香は、マッコウクジラが食物(タコ、イカ等)の不消化物を消化管分泌物により結石化させ、排泄したものと考えられているが、詳細な生成メカニズムは不明である。龍涎香の主成分はアンブレインであり、龍涎香が海上を浮遊する間に日光と酸素によって酸化分解を受け、各種の香りを持つ化合物を生成すると考えられている。
【0003】
龍涎香の主成分アンブレインは、香料又は薬剤として用いられているが、自然界から大量に入手することは不可能である。このため、種々の有機合成法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2017/150695号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2019/045058号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2021/193806号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(D373C等)を用いることによって、スクアレンから、1個の酵素を使用した2段階の反応で、アンブレインを得る方法を見出し、提案している(特許文献1~3)。
しかしながら、これらの方法は、アンブレインの生成について改善の余地があり、更に効率的なアンブレインの産生方法が期待されていた。
従って、本発明の目的は、簡便に且つ効率的にアンブレインを得ることができるアンブレインの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、簡便に且つ効率的にアンブレインを得ることができるアンブレインの製造方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、わずかな特定の変異を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素がスクアレンから効率的に高い収率で2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を生成することができることを見出した。本発明者らは、更にD373C等のアミノ酸を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから効率的に高い収率でアンブレインを産生することができることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリン、からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、(i)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置にNGLYXWPモチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に80~140アミノ酸残基離れた位置に(D/N)G(T/L)(L/F/Y)(Y/F)SYモチーフ、N末端側に25~90アミノ酸残基離れた位置にTALXSYAモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、(ii)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であり、並びに(iii)スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示す、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[2]前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列からなるポリペプチド、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、又は(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又はそれらの2つ以上の組み合わせの置換を含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、及び/又は(c)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチド、
である、[1]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[3]前記(a)のトリプトファンがトリプトファン以外のアミノ酸がトリプトファンに置換されたものであり、前記(b)のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸がアスパラギン酸に置換されたものであり、前記(c)のプロリンがプロリン以外のアミノ酸がプロリンに置換されたものである、[1]又は[2]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[4]前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が、(1)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステインであるか(2)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、及び(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニンであるか、(3)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、及び(f)GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸残基がアラニンであるか、又は(4)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニン、及び(f)GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸残基がアラニンであり、並びにスクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示す、[1]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[5]前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を構成するポリペプチドが、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から327番目のアスパラギン酸の前記(d)のシステインへの置換を含み、そして
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列からなるポリペプチド、
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
(5)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、又は
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のフェニルアラニンの前記(a)のトリプトファンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から325番目のグルタミンの前記(b)のアスパラギン酸への置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から139番目のグルタミン酸の前記(c)のプロリンへの置換、又は(a)~(c)の2つ以上の組み合わせの置換を含み、そして配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から167番目のチロシンの前記(e)のアラニンへの置換、配列番号1で表されるアミノ酸配列におけるN末端側から596番目のロイシンの前記(f)のアラニンへの置換、又は(e)及び(f)の組み合わせの置換を更に含む、アミノ酸配列の前記置換された(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び/又は(f)以外のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示すポリペプチド、
である、[4]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[6]前記(a)のトリプトファンがトリプトファン以外のアミノ酸がトリプトファンに置換されたもの、前記(b)のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸がアスパラギン酸に置換されたものであり、前記(c)のプロリンがプロリン以外のアミノ酸がプロリンに置換されたものであり、前記(d)のシステインがシステイン以外のアミノ酸がシステインに置換されたものであり、前記(e)のアラニンがアラニン以外のアミノ酸がアラニンに置換されたものであり、前記(f)のアラニンがアラニン以外のアミノ酸がアラニンに置換されたものである、[4]又は[5]に記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、
[7][1]~[6]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチド、
[8][7]に記載のポリヌクレオチドを有する微生物、
[9][7]に記載のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクター、
[10][9]に記載のベクターを有する形質転換体、
[11][1]~[3]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを得ることを特徴とする、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの製造方法、
[12][4]~[6]のいずれかに記載の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、アンブレインを得ることを特徴とする、アンブレインの製造方法、
[13][8]に記載の微生物を培養することを特徴とする、アンブレインの製造方法、及び
[14][10]に記載の形質転換体を培養することを特徴とする、アンブレインの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素によれば、耐熱性が向上し、従来より高い温度で効率的に2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)及び/又はアンブレインを産生することができる。特に、大腸菌の平均的な培養温度である37℃付近における酵素活性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(WT)、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換したE139P、325番目のグルタミンがアスパラギンに置換したQ325D、530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換したF530W、及びそれらの3つの置換を有するE139P/Q325D/F530Wについてスクアレンを基質として、36℃で2環化合物(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を産生する活性を示したグラフである。
【
図2】167番目のチロシンがアラニンに置換し、そして373番目のアスパラギン酸がシステインに置換したY167A/D373C、Y167A/D373C/E139P、Y167A/D373C/Q325D、Y167A/D373C/F530W、Y167A/D373C/E139P/Q325D/F530Wについて、スクアレンを基質として、36℃でアンブレインを産生する活性を示したグラフである。
【
図3】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(WT)及びE139P/Q325D/F530W(EQF)のスクアレンを基質として、30℃、33℃、又は36℃で2環化合物(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を産生する活性を示したグラフである。
【
図4-1】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(WildType)、E139P、Q325D、F530W、及びE139P/Q325D/F530W、Y167A/D373C、Y167A/D373C/E139P、Y167A/D373C/Q325D、Y167A/D373C/F530W、Y167A/D373C/E139P/Q325D/F530W、及びY167A/D373C/L596A/E139P/Q325D/F530Wのアミノ酸配列を示した図である。
【
図4-2】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(WildType)、E139P、Q325D、F530W、及びE139P/Q325D/F530W、Y167A/D373C、Y167A/D373C/E139P、Y167A/D373C/Q325D、Y167A/D373C/F530W、Y167A/D373C/E139P/Q325D/F530W、及びY167A/D373C/L596A/E139P/Q325D/F530Wのアミノ酸配列を示した図である。
【
図4-3】野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(WildType)、E139P、Q325D、F530W、及びE139P/Q325D/F530W、Y167A/D373C、Y167A/D373C/E139P、Y167A/D373C/Q325D、Y167A/D373C/F530W、Y167A/D373C/E139P/Q325D/F530W、及びY167A/D373C/L596A/E139P/Q325D/F530Wのアミノ酸配列を示した図である。
【
図5】野生型バチルス・メガテリウム、プリエスティア・アリアブハッタイ(Priestia aryabhattai)、及びバチルス・メガテリウムQ3株(Bacillus Megaterium strain Q3)のアミノ酸配列を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素)
野生型のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(以下、野生型TCと称することがある)は、片末端に単環を有する3-デオキシアキレオールAを基質として利用し、アンブレインを生成することができる。すなわち、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、3-デオキシアキレオールAを基質として利用すると、3-デオキシアキレオールAの環状化されていない端を選択的に環化させて、両末端環化化合物を生成することができる。
また、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンを基質とし、2環性の8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを生成することができる。
すなわち、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、EC4.2.1.129に分類され、水とテトラプレニル-β-クルクメンからバチテルペノールAを生成する反応、又は、スクアレンから8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを生成する反応を触媒し得る酵素である。
テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、例えばバチルス属、ブレビバチルス属、パエニバチルス属、又はジオバチルス属などの細菌が有している。バチルス属の細菌としては、枯草菌(バチルス・サブチルス)、バチルス・メガテリウム、プリエスティア・アリアブハッタイ(Priestia aryabhattai)又はバチルス・リケニフォルミスを挙げることができる。
【0010】
テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~280アミノ酸残基離れた位置にNGLYXWPモチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に80~140アミノ酸残基離れた位置に前記(D/N)G(T/L)(L/F/Y)(Y/F)SYモチーフ、N末端側に25~90アミノ酸残基離れた位置にTALXSYAモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有している。
本明細書における「DXDDモチーフ」とは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素において、閉環反応の開始を触媒するD372(例えば、配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の372番目のアスパラギン酸)を含むDXDDの配列であり、由来の異なるテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素において保存性が高い領域を意味する。本明細書において「DXDDモチーフを基準とする」とは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の中央部よりC末側に存在するDXDDモチーフから、各モチーフの位置を特定するものであり、例えばQXXXGX(W/F)モチーフは「DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置」に存在するが、これはDXDDモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基を1として、100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフが存在することを意味する。
【0011】
[1]変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアスパラギン酸、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリン、からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素であって、
(i)前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記DXDDモチーフを基準として、N末端側に100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフ、N末端側に180~280アミノ酸残基離れた位置にNGLYXWPモチーフ、N末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフ、N末端側に80~140アミノ酸残基離れた位置に前記(D/N)G(T/L)(L/F/Y)(Y/F)SYモチーフ、N末端側に25~90アミノ酸残基離れた位置にTALXSYAモチーフ、N末端側に10~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXX(G/A/S)X(F/W/Y)モチーフ、C末端側に20~50アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W/Y)モチーフ、C末端側に50~120アミノ酸残基離れた位置にQXXXGXWモチーフ、C末端側に120~170アミノ酸残基離れた位置にQXXXGX(F/W)モチーフ、及びC末端側に180~250アミノ酸残基離れた位置に前記GXGX(G/A/P)モチーフを有し、
(ii)配列番号1で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であり、そして
(iii)スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示す。
「スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示す」酵素活性は、本分野で用いられている酵素活性の測定方法によって活性が検出できる限りにおいて、限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ法による解析、HPLC法による解析、又はTLC法による解析が挙げられる。
例えば、製造方法例1のガスクロマトグラフを用いる方法においては、スクアレン液と酵素溶液を、例えば30℃で64時間インキュベートする。酵素反応を停止させ、ガスクロマトグラフで、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの産生活性を測定することができる。
また、「スクアレンを基質としてアンブレイン生成活性を示す」酵素活性も、本分野で用いられている酵素活性の測定方法によって活性が検出できる限りにおいて、限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ法による解析、HPLC法による解析、又はTLC法による解析が挙げられる。
例えば、製造方法例2のガスクロマトグラフを用いる方法においては、スクアレン液と酵素溶液を、例えば30℃で64時間インキュベートする。酵素反応を停止させ、ガスクロマトグラフで、アンブレインの産生活性を測定することができる。
【0012】
ここで、各モチーフや配列を定義しているアルファベットはアミノ酸の一文字略号を表しており、「X」は任意のアミノ酸を意味する。すなわち、QXXXGX(W/F)モチーフの場合、N末端側からC末端側に向かってグルタミン(Q)、任意のアミノ酸(X)が3つ、グリシン(G)、任意のアミノ酸(X)、更にトリプトファン(W)又はフェニルアラニン(F)のいずれか、が配列することを示す。また、「DXDDモチーフを基準として、N末端側100アミノ酸残基以上離れた位置にQXXXGX(W/F)モチーフを有する」とは、DXDDモチーフとQXXXGX(W/F)モチーフの間に100アミノ酸残基以上存在することを意味するものとし、その他モチーフの特定についても同様である。
また、GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸とは、N末端側から数えて4番目であることを示し、他の配列についても同様である。以下、特に記載のない限り同様である。また、ALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸とは、ALXSYAモチーフのC末のAの次のアミノ酸を1番として9番目であることを示し、他の配列についても同様である。以下、特に記載のない限り同様である。
なお、アミノ酸配列の同一性は、比較する配列のアミノ酸残基が一致するように適宜ギャップを挿入して整列させ、一致したアミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除したものを百分率で表したものである。同一性は、周知のプログラム(例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等)を用いて行うことができる。
【0013】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、限定されるものではないが、好ましくは前記(a)のトリプトファン、(b)のアスパラギン酸、又は(c)のプロリンの少なくとも1つのアミン酸を有しており、より好ましくは2つのアミノ酸の組み合わせ(例えば(a)のトリプトファン及び(b)のアスパラギン酸の組み合わせ、(a)のトリプトファン及び(c)のプロリンの組み合わせ、又は(b)のアスパラギン酸及び(c)のプロリンの組み合わせ)を有しており、更に好ましくは、3つのアミノ酸の組み合わせ((a)のトリプトファン、(b)のアスパラギン酸、及び(c)のプロリンの組み合わせ)を有している。これらのアミノ酸を有していることにより、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は耐熱性が向上し、そして酵素活性が改善される。
【0014】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、限定されるものではないが、好ましくは、前記(a)のトリプトファンがトリプトファン以外のアミノ酸がトリプトファンに置換されたものであり、前記(b)のアスパラギン酸がアスパラギン酸以外のアミノ酸がアスパラギン酸に置換されたものであり、前記(c)のプロリンがプロリン以外のアミノ酸がプロリンに置換されたものである。例えば、配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素において、(a)の本来のアミノ酸はフェニルアラニン(F)であり、(b)の本来のアミノ酸はグルタミンであり、そして(c)の本来のアミノ酸はグルタミン酸(E)である。バチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素においては、好ましくは(a)のフェニルアラニンがトリプトファン(W)に置換され、(b)の本来のグルタミンがアスパラギン酸(D)に置換され、そして(c)のグルタミン酸(E)がプロリン(P)に置換される。
【0015】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記(a)のトリプトファン、(b)のアスパラギン酸、又は(c)のプロリンのいずれか1つ以上を有することにより、スクアレンから効率的に高い収率で2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を生成することができる。
【0016】
《(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン》
本発明の(a)のトリプトファンは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のQXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基である。(a)のトリプトファンは、限定されるものではないが、トリプトファン以外のアミノ酸がトリプトファンに置換されたものであってもよい。トリプトファン以外のアミノ酸としては、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、チロシン、又はアスパラギン酸を挙げることができる。
QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基がトリプトファンであることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を生成する機能が向上している。
QXXXGX(F/W)モチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から524~530番目に存在する。また、配列番号2で表されるPriestia aryabhattaiのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から524~530番目に存在する。配列番号3で表されるBacillus megaterium strain Q3のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から521~527番目に存在する。
【0017】
《(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアスパラギン酸》
本発明の(b)のアスパラギン酸は、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸残基である。(b)のアスパラギン酸は、限定されるものではないが、アスパラギン酸以外のアミノ酸がアスパラギン酸に置換されたものであってもよい。アスパラギン酸以外のアミノ酸としては、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、又はプロリンを挙げることができる。
TALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸残基がプロリンであることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を生成する機能が向上している。
TALXSYAモチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から310~316番目に存在する。また、配列番号2で表されるPriestia aryabhattaiのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から310~316番目に存在する。配列番号3で表されるBacillus megaterium strain Q3のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から307~313番目に存在する。
【0018】
《(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリン》
本発明の(c)のプロリンは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のNGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基である。(c)のプロリンは、限定されるものではないが、プロリン以外のアミノ酸がプロリンに置換されたものであってもよい。プロリン以外のアミノ酸としては、アラニン、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、又はアスパラギン酸を挙げることができる。
NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基がプロリンであることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)を生成する機能が向上している。
NGLYXWPモチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から135~141番目に存在する。また、配列番号2で表されるPriestia aryabhattaiのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から135~141番目に存在する。配列番号3で表されるBacillus megaterium strain Q3のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から132~138番目に存在する。
【0019】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、限定されるものではないが、好ましくは(1)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステインであってもよい。また、(2)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、及び(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニンであってもよい。また、(3)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、及び(f)GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸残基がアラニンであてもよい。更に、(4)(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステイン、(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニン、及び(f)GXGX(G/A/P)モチーフの4番目のアミノ酸残基がアラニンであってもよい。
但し、前記(d)のシステイン、及び(e)のアラニン、及び/又は(f)のアラニンを有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、(a)のトリプトファン、(b)のアスパラギン酸、又は(c)のプロリンのいずれか1つ以上を有する。
【0020】
《(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるシステイン》
本発明の(d)のシステインは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のDXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基である。(d)のシステインは、限定されるものではないが、システイン以外のアミノ酸がシステインに置換されたものであってもよい。システイン以外のアミノ酸としては、アラニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、プロリン又はアスパラギン酸を挙げることができる。
DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基がシステインであることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成することができ、そして8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成することができる。
DXDDモチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から370~373番目に存在する。また、配列番号2で表されるPriestia aryabhattaiのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から370~373番目に存在する。配列番号3で表されるBacillus megaterium strain Q3のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から367~370番目に存在する。
【0021】
《(e)(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基であるアラニン》
本発明の(e)のアラニンは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基である。(e)のアラニンは、限定されるものではないが、アラニン以外のアミノ酸がアラニンに置換されたものであってもよい。アラニン以外のアミノ酸としては、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、プロリン又はアスパラギン酸を挙げることができる。
(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフのN末に隣接するアミノ酸残基がアラニンであることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、スクアレンから3-デオキシアキレオールAを生成する機能、そして8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成する機能が向上している。
(A/S/G)RX(H/N)XXPモチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から168~174番目に存在する。また、配列番号2で表されるPriestia aryabhattaiのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から168~174番目に存在する。配列番号3で表されるBacillus megaterium strain Q3のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から165~171番目に存在する。
【0022】
《(f)(GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基であるアラニン》
本発明の(f)のアラニンは、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の(GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基である。(f)のアラニンは、限定されるものではないが、アラニン以外のアミノ酸がアラニンに置換されたものであってもよい。アラニン以外のアミノ酸としては、システイン、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシン、プロリン又はアスパラギン酸を挙げることができる。
(GXGX(G/A/P)モチーフの第4番目のアミノ酸残基がアラニンであることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成する機能が向上している。
(GXGX(G/A/P)モチーフは、例えば配列番号1で表されるバチルス・メガテリウムのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から593~597番目に存在する。また、配列番号2で表されるPriestia aryabhattaiのテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から593~597番目に存在する。配列番号3で表されるBacillus megaterium strain Q3のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のアミノ酸配列のN末端側から590~594番目に存在する。
【0023】
図4に、野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(WildType)(配列番号1)及び本発明のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素、E139P(配列番号4)、Q325D(配列番号5)、F530W(配列番号6)、及びE139P/Q325D/F530W(配列番号7)、Y167A/D373C(配列番号8)、Y167A/D373C/E139P(配列番号9)、Y167A/D373C/Q325D(配列番号10)、Y167A/D373C/F530W(配列番号11)、Y167A/D373C/E139P/Q325D/F530W(配列番号12)、及びY167A/D373C/L596A/E139P/Q325D/F530W(配列番号13)のアミノ酸配列を示す。
図5に野生型バチルス・メガテリウム(配列番号1)、プリエスティア・アリアブハッタイ(Priestia aryabhattai)(配列番号2)、及びバチルス・メガテリウムQ3株(Bacillus megaterium strain Q3)(配列番号3)のアミノ酸配列を示す。
【0024】
(1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列)
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。但し、このほかに、(a)のトリプトファン、(b)のアスパラギン酸、又は(c)のプロリンのいずれか1つ以上を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素である。本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチドである。すなわち、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示さないポリペプチドは、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドに含まれない。本明細書において、「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、アミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。アミノ酸の改変の個数は、例えば1~330個、1~300個、1~250個、1~200個、1~150個、1~100個、又は1~50個であることができ、好ましくは1~30個、より好ましくは1~10個、更に好ましくは1~5個、最も好ましくは1~2個である。本発明に用いることのできる変異ペプチドの改変アミノ酸配列の例は、好ましくは、そのアミノ酸が、1又は数個(好ましくは、1、2、3又は4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であることができる。
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素においては、N末端の複数のアミノ酸、及び/又はC末端の複数のアミノ酸を欠失しても、耐熱性を有する骨格が崩れない限りにおいて、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素に含まれる。具体的には、N末端のアミノ酸は、25残基が欠失してもよく、欠失するアミン残基数は、好ましくは24残基(N末端のヘリックス構造)であり、より好ましくは7残基(MIILLKEの疎水性コア領域)であり、更に好ましくは5残基(MIILL)であり、更に好ましくは3残基(MII)である。C末端のアミノ酸は、25残基が欠失してもよく、欠失するアミン残基数は、好ましくは7残基(YAKKHSS)であり、より好ましくは2残基(SS)である。
【0025】
(アミノ酸配列との同一性が50%以上であるアミノ酸配列)
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列に対してアミノ酸配列との同一性が50%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。但し、このほかに、(a)のトリプトファン、(b)のアスパラギン酸、又は(c)のプロリンのいずれか1つ以上を有する変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素である。また、例えば同一性が50%以上であるとは、前記(a)がトリプトファン、(b)がアスパラギン酸、(c)がプロリン、(d)がシステイン、(e)がアラニン、及び/又は(f)がアラニンの場合には、これらのアミノ酸を除いたアミノ酸配列の同一性を意味する。本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドは、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチドである。すなわち、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示さないポリペプチドは、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドに含まれない。好ましくは該同一性が50%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは該同一性が60%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは該同一性が70%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは該同一性が80%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは該同一性が83%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは85%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは88%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは90%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは93%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは95%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは該同一性が98%以上であるアミノ酸配列、最も好ましくは該同一性が99%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、且つスクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を示すポリペプチドからなる、又は含む、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素である。
【0026】
前記配列番号1のアミノ酸配列において「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」又は「同一性が80%以上であるアミノ酸配列」は、配列番号1のアミノ酸配列が置換されたものであるが、このアミノ酸配列の置換は、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の機能を維持する保存的置換である。換言すると「保存的置換」とは、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の優れた効果が失われない置換を意味する。すなわち、前記挿入、置換、又は欠失、若しくは付加された場合であっても、スクアレンを基質として8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成活性を向上できる置換である。具体的には、アミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。正電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0027】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素における(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基をトリプトファンとすること、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアミノ酸残基をアスパラギン酸とすること、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基をプロリンとすることは、耐熱性が向上し、従来より高い温度で効率的に2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)及び/又はアンブレインを産生するための、積極的な置換(変異)であるが、前記保存的置換は2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)及び/又はアンブレインを生成する活性を維持するための置換であり、当業者であれば容易に実施することのできるものである。
【0028】
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、公知の遺伝子組換え技術などを用いて取得することができる。例えば、バチルス・メガテリウムの染色体DNAを取得し、適当なプライマーを用いて、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を、PCRなどによって増幅する。得られた遺伝子を、適当なベクターに組み込み、遺伝子配列を決定する。そして上記の変異を導入することによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードする遺伝子を取得することができる。その遺伝子を、酵母等の宿主に組み込み、発現させることによって、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を得ることが可能である。
またテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、バチルス・メガテリウムの他に、バチルス属等の細菌に存在することが知られており、バチルス・サブチリス由来酵素、バチルス・リケニフォルミス由来酵素、プリエスティア・アリアブハッタイ(Priestia aryabhattai)由来酵素等を取得することも可能である。
【0029】
また、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードする遺伝子は、公知の合成遺伝子の合成方法によって合成することも可能である。そして、合成された遺伝子を発現させることにより、本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を得ることができる。
【0030】
(作用)
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が耐熱性を示し、酵素活性が改善されているメカニズムは、詳細には解析されていないが、以下のように推定することができる。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素における(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目近辺のアミノ酸残基、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目近辺のアミノ酸残基、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目近辺のアミノ酸残基は、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の耐熱性に影響を与えると推定される。そして、特に(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基がトリプトファンであること、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目アミノ酸残基がアスパラギン酸であること、及び(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基がプロリンであることによって、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が安定化し、耐熱性が向上するものと推定される。
【0031】
[2]ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドである限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、配列番号4~13で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
更には、配列番号4~13で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのいずれか1つとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンからアンブレインを生成する活性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
また、本発明のポリヌクレオチドは、それを導入する微生物又は宿主細胞に合わせて、最適なコドンの塩基配列に変更することが好ましい。
【0032】
[3]微生物
本発明の微生物は、本発明のポリヌクレオチドを有する微生物である。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを細胞内に含む限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属菌、放線菌、パン酵母、麹菌、又はアカパンカビを挙げることができる。
【0033】
[4]ベクター
本発明のベクターは、上記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクターである。すなわち、本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。
発現ベクターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、外来タンパク質の発現効率の高いものが好ましい。前記ポリヌクレオチドを発現させるための発現ベクターは、微生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、前記DNA及び転写終結配列より構成された組換えベクターであることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0034】
より具体的には、発現ベクターとして、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200〔Agricultural Biological Chemistry,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescriptII SK+、pBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP-5407)、pTrS32(FERM BP-5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET-3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔Gene,33,103(1985)〕、pUC19〔Gene,33,103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pPA1(特開昭63-233798号公報)、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pColdI、pColdII、pColdIII、pColdIV、pNIDNA、pNI-HisDNA(タカラバイオ社製)等を例示することができる。
【0035】
プロモーターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等の細胞中で発現することができるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrpx2)、tacプロモーター、letIプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。酵素法による生産(スクアレンを基質とした酵素反応による生体外での合成)に用いる酵素を生産するには、強いプロモーターとして機能し、目的タンパク質の大量生産が可能なプロモーターが好ましく、誘導型プロモーターがより好ましい。誘導型プロモーターとしては、例えば低温で発現誘導されるコールドショック遺伝子cspAのプロモーター、誘導剤であるIPTGの添加により誘導されるT7プロモーター等を挙げることができる。また発酵生産(グルコースなどを炭素源とした宿主による生体内での生合成)においては、上記プロモーターの中でも組織を問わず常時目的遺伝子を発現させるプロモーター、すなわち構成的プロモーターであることがより好ましい。構成的プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ1遺伝子(ADH1)、翻訳伸長因子TF-1α遺伝子(TEF1)、ホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(PGK1)、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(TPI1)、トリオースリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(PYK1)のプロモーターが挙げられる。
【0036】
[5]形質転換体
本発明の形質転換体も、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明による前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形で含有する形質転換体であることもできる。また、本発明によるポリペプチドを発現している形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明によるポリペプチドを発現していない形質転換体であることもできる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明による前記ベクターにより、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0037】
宿主細胞は、特に限定されないが、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属菌、放線菌、酵母、麹菌、アカパンカビ等取り扱いが容易な菌株が好ましいが、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などを用いることも可能である。しかしながら、酵素法による生産(スクアレンを基質とした酵素反応による生体外での合成)に用いる酵素を生産するには、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属菌、麹菌が好ましく、大腸菌が最も好ましい。また発酵生産(グルコースなどを炭素源とした宿主による生体内での生合成)で最も好ましくは酵母である。最も好ましい酵母株としては、清酒酵母が挙げられる。特に好ましくは、清酒酵母協会7号又は701号が挙げられる。協会701号酵母は、協会7号から育種された泡なし酵母で高泡を形成しない特長があるが、他の性質は同じである。
【0038】
[6]8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン又はアンブレインの製造方法
本発明の8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの製造方法は、前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを得る。
本発明のアンブレインの製造方法は、前記変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をスクアレンに反応させて、アンブレインを得る。
前記8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの製造方法に使用される変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、少なくとも(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアスパラギン酸、又は(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリンのいずれか1つ以上を有していればよい。
前記アンブレインの製造方法に使用される変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、(d)DXDDモチーフの第4番目のアミノ酸残基であるシステインを有し、且つ少なくとも(a)QXXXGX(F/W)モチーフの第7番目のアミノ酸残基であるトリプトファン、(b)TALXSYAモチーフのC末から9番目のアスパラギン酸、又は(c)NGLYXWPモチーフの第5番目のアミノ酸残基であるプロリンのいずれか1つ以上を有していればよい。
【0039】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、酵素発現用ベクターを細菌等に導入することによって得られた形質転換体を培養することにより生成できる。形質転換体の培養に用いられる培地は、通常用いられる培地でよく、宿主の種類に応じて適宜選択される。例えば、大腸菌を培養する場合には、LB培地等が用いられる。培地には、選択マーカーの種類に応じた抗生物質が添加されていてもよい。
【0040】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、前記酵素を発現可能な形質転換体を培養することにより得られた培養液から酵素を抽出し精製したものであってもよい。また、あらかじめ本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のポリペプチドのN末側又はC末側にトリガーファクター(TF)又はHisタグなどを融合させた融合タンパク質として発現させ、精製などを容易にしてもよい。また、培養液中の形質転換体から抽出された酵素を含む抽出液をそのまま用いてもよい。形質転換体からの酵素の抽出方法は、公知の方法を適用してよい。酵素の抽出工程は、例えば、形質転換体を抽出溶媒中で破砕し、細胞内容物を形質転換体の破砕片と分離することを含んでよい。得られた細胞内容物には、目的とする変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素が含まれている。
【0041】
形質転換体の破砕方法としては、形質転換体を破砕して、酵素液を回収可能な公知の方法を適用してよく、例えば、超音波破砕、ガラスビーズ破砕等が挙げられる。破砕の条件は、特に制限はなく、10℃以下及び15分間などの、酵素が失活しない条件であればよい。
細胞内容物と微生物体の破砕片との分離方法としては、沈降分離、遠心分離、濾過分離及びこれらの2つ以上の分離方法の組み合わせ等が挙げられる。これらの方法を用いた分離条件は当業者には公知であり、遠心分離の場合には例えば、8,000×g~15,000×g及び10分間~20分間である。
【0042】
抽出溶媒としては、酵素抽出の溶媒として通常用いられるものでよく、例えば、Tris-HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液等が挙げられる。抽出溶媒のpHは、酵素の安定性の点で、3~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0043】
抽出溶媒には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、両性イオン界面活性等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、n-オクチルβ-D-グルコシド等のアルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタインであるN,N-ジメチル-N-ドデシルグリシンベタイン等が挙げられる。これら以外にも、トライトン(登録商標)X-100(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58)、ノニルフェノールエトキシレート(Tergitol NP-40)等の当技術分野で一般的に用いられる界面活性剤が利用可能である。
抽出溶媒中の界面活性剤の濃度は、酵素の安定性の観点から、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.10質量%~3.0質量%がより好ましく、0.10質量%~1.0質量%が更に好ましい。
【0044】
抽出溶媒には、酵素活性の観点から、ジチオスレイトール、β-メルカプトエタノール等の還元剤が含まれていることが好ましい。還元剤としては、ジチオスレイトールが好ましい。抽出溶媒中のジチオスレイトールの濃度は、0.1mM~1Mが好ましく、1mM~10mMがより好ましい。抽出溶媒中にジチオスレイトールが存在することによって、酵素におけるジスルフィド結合等の構造が保持されやすくなり、酵素活性がより上昇する傾向がある。
【0045】
抽出溶媒には、酵素活性の観点から、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が含まれていることが好ましい。抽出溶媒中のEDTAの濃度は、0.01mM~1Mが好ましく、0.1mM~10mMがより好ましい。抽出溶媒中にEDTAが存在することによって、酵素活性を低下させ得る金属イオンがキレートされるため、酵素活性がより上昇する傾向がある。
【0046】
抽出溶媒には、上記の成分以外に、酵素抽出溶媒に添加可能な公知の成分が含まれていてよい。
【0047】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素とスクアレン又は8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンとの反応の条件は、酵素反応が進行可能な条件であれば特に制限はない。例えば、反応温度及び反応時間は、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の活性等に基づいて適宜選択することができる。反応温度及び反応時間は、反応効率の観点から、例えば4℃~100℃及び1時間~30日であり、30℃~60℃及び16時間~20日が好ましい。pH条件は、反応効率の観点から、例えば3~10であり、6~8が好ましい。
【0048】
反応溶媒は、酵素反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、通常用いられる緩衝液等を用いることができる。また、例えば、酵素の抽出工程で使用する抽出溶媒と同一のものを用いることができる。また、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を含む抽出液(例えば、無細胞抽出液)を酵素液としてそのまま反応に用いてもよい。
【0049】
アンブレイン生成反応又は8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン生成反応における変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素と、その基質であるスクアレンとの濃度比は、反応効率の観点から、酵素に対する基質のモル濃度比(基質/酵素)として、1~10000が好ましく、10~5000がより好ましく、100~3000がより好ましく、1000~2000が更に好ましい。
酵素反応に用いるスクアレンの濃度は、反応効率の観点から、反応溶媒の全質量に対して0.000001質量%~10質量%が好ましく、0.00001質量%~1質量%がより好ましい。
【0050】
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素とスクアレンが反応する反応工程は、複数回繰り返してもよい。これにより、アンブレイン又は8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンの収率を高めることができる。反応工程を複数回繰り返す場合には、基質となるスクアレンを反応系に再投入する工程、公知の方法により酵素を失活させた後、反応液中の反応生成物を回収及び精製する工程等を含むものであってもよい。スクアレンの再投入を行う場合には、反応液中の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の濃度、反応液中に残存する基質量等によって、投入する時期、投入量を適宜設定することができる。
【0051】
本発明のアンブレインの製造方法の別の実施態様においては、本発明の微生物又は形質転換体を培養することを特徴とする。
前記微生物又は発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養することによって、アンブレイン又は8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエンを製造することができる。例えば、酵母について記載すると、酵母は通常用いられるYPD培地などで培養すればよい。相同組換えにより遺伝子導入された酵母、又は発現ベクターを有する酵母を前培養し、更にYPD培地などに植菌し、そして24~240時間、好ましくは72~120時間程度培養する。培地中に分泌されたアンブレインは、そのまま、又は公知の方法により精製して用いることができる。精製方法としては、具体的には、溶媒抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等が挙げられる。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。本文中又は図表において、バチルス・メガテリウムを「Bme」と略す場合があり、バチルス・メガテリウム由来のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素を「BmeTC」と略す場合がある。
【0053】
《実施例1》
本実施例では、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のクローニング、及び139番目のグルタミン酸がプロリンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
バチルス・メガテリウム染色体DNAを鋳型として用いて、PCRにより野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素をコードするポリヌクレオチドを取得し、当該野生型酵素のアミノ酸配列を決定した。(以下、特に記載のない限り、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素はバチルス・メガテリウム由来の配列であり、単に「野生型」ということもある。)得られた遺伝子を、ベクターpColdI(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素NdeI/XhoIサイト)に挿入し、野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子(配列番号1)を含む発現ベクターを得た。得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
続いて、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。先ず、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(野生型)の遺伝子配列をもとに、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換されるように設計し、宿主である大腸菌にコドンを最適化して合成した。合成した遺伝子は、ベクターpColdI(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素NdeI/XhoIサイト)に挿入した。このベクター遺伝子を鋳型として、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換されるように、E139Pフォワードプライマー:CGGTCTATAC CCG TGGCCAAAGCTATTTTACCTCCC(配列番号14)及びE139Pリバースプライマー:GGGAGGTAAAATAGCTTTGGCCA CGG GTATAGACCG(配列番号15)を使用したクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入して、E139P変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
pColdベクターは、コールドショック遺伝子の一つであるcspA遺伝子のプロモーターを利用したコールドショック発現ベクターで、cspAプロモーターの下流に、translation enhancing element(TEE)、Hisタグ配列、Factor Xa切断配列などが配置している。このため発現タンパク質は、TEE配列、Hisタグ配列、Factor Xa切断配列を含む融合タンパク質として発現される。本発明では、バチルス・メガテリウム由来の当該野生型酵素遺伝の開始コドン(GTG)の配列に変更は加えていない。そのため、融合タンパク質における酵素タンパク質部位のN末端アミノ酸は、バリンに翻訳される。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
【0054】
《実施例2》
本実施例では、325番目のグルタミンがアスパラギンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子は、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(野生型)の遺伝子配列をもとに、325番目のグルタミンがアスパラギンに置換されるように設計し、宿主である大腸菌にコドンを最適化して合成した。合成した遺伝子は、ベクターpColdI(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素NdeI/XhoIサイト)に挿入し、このベクター遺伝子を鋳型として、257番目のチロシンがアラニンに置換されるように、Q325Dフォワードプライマー:GCAGGTGTACCGCAG GAT GATCCCATGATTAAAG(配列番号16)及びQ325Dリバースプライマー:CTTTAATCATGGGATC ATC CTGCGGTACACCTGC(配列番号17)を使用したクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入して、Q325D変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子含む発現ベクターを得た。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
【0055】
《実施例3》
本実施例では、530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子は、テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(野生型)の遺伝子配列をもとに、530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換されるように設計し、宿主である大腸菌にコドンを最適化して合成した。合成した遺伝子は、ベクターpColdI(タカラバイオ社)のクローニングサイト(制限酵素NdeI/XhoIサイト)に挿入し、このベクター遺伝子を鋳型として、530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換されるように、F530Wフォワードプライマー:GGTGGA TGG GGAGAATCATGCTATAGC(配列番号18)及びF530Wリバースプライマー:CTCCCCAT CCA CCGTCTTCTTGTTG(配列番号19)を使用したクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入して、F530W変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
【0056】
《実施例4》
本実施例では、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換され、325番目のグルタミンがアスパラギンに置換され、そして530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
前記実施例1~3の変異導入プライマーを用い、同様にクイックチェンジ法により部位特異的変異を導入して、E139P/Q325D/F530W変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
続いて、得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターにより、大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を作製した。
【0057】
《製造方法例1》
本製造方法例では、スクアレンを基質として、実施例1~4で得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素36℃での酵素活性を検討した。
実施例1~4で作製した形質転換体をそれぞれアンピシリン(50mg/L)含有LB培地(1L)に植菌し、37℃で3時間振とう培養した。培養後、1mMのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、15℃で24時間振とうを行い、変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素の発現を誘導した。
その後、遠心(6,000×g、10分間)によって集菌した菌体を、50mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、5gの菌体に対して15mLの緩衝液A[50mMのTris-HCl緩衝液(pH7.5)、0.1v/v%のTween80、0.1w/v%のアスコルビン酸ナトリウム、2.5mMのジチオスレイトール、1mMのEDTAを含有。]で懸濁し、UP2005 sonicator(Hielscher Ultrasonics, Teltow, Germany)を用いて超音波破砕(4℃、20分間)した。破砕処理後の試料を遠心(12,300×g、20分間)し、粗酵素液を得た。この粗抽出液からHisタグを利用して目的タンパク質のアフィニティー精製を行った。精製は、ニッケルカラム(Ni-NTA Agarose、QIAGEN社)を使用し、組み換え酵素液(タンパク質濃度100μg/mL)を調製した。
【0058】
スクアレン(100μg)をTween80(2mg)に混合して可溶化した後に緩衝液A(1mL)に添加してスクアレン液を調製した。このスクアレン液(0.5mL)を酵素溶液(0.5mL)に加えて反応液とし、30℃で64時間インキュベートした。反応液において、酵素タンパク質量は50μgであり、スクアレン(基質)と変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(酵素)とのモル比(基質/酵素)は、約170であった。
インキュベート後に、15%水酸化カリウム・メタノール(1.2mL)を反応液へ添加し、酵素反応を停止させた。その後、反応液へn-ヘキサン(2.0mL)を添加して、反応生成物の抽出を3回行った。
【0059】
得られた抽出物(反応組成物)中の2環化合物(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)の含有量をガスクロマトグラフィーによって、以下の装置及び条件で測定した。
装置:ガスクロマトグラフ「GC-2014」(SHIMADZU製)、Integrator「Chromatopac CR-8A」(SHIMADZU製)
カラム:DB-1, capillary(Length 30 m, I.D.0.32 mm, Film Thickness 0.25 μm)(J&D製)
インジェクション温度:300℃
カラム温度:220-300℃(昇温3℃/分)
カラム流量:1.0mL/分
【0060】
得られた抽出物(反応組成物)中の反応生成物(アンブレイン)の相対活性比を
図1(A)に示す。
【0061】
また、反応温度を、30℃、33℃、又は36℃として、同様に酵素活性を検討した。
図3に示すように、野生型のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素と比較して、E139P変異体、Q325D変異体、F530W変異体、及びE139P/Q325D/F530W変異体は、36℃での酵素活性が優れていた。
【0062】
《実施例5》
本実施例では、Y167A/D373C変異体をベースとして、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
バチルス・メガテリウムの野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のDNAに代えて、特許文献2に記載のY167A/D373C変異体のDNAを用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、Y167A/D373C/E139P変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
【0063】
《実施例6》
本実施例では、Y167A/D373C変異体をベースとして、325番目のグルタミンがアスパラギンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
バチルス・メガテリウムの野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のDNAに代えて、特許文献2に記載のY167A/D373C変異体のDNAを用いたことを除いては、実施例2の操作を繰り返して、Y167A/D373C/Q325D変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
【0064】
《実施例7》
本実施例では、Y167A/D373C変異体をベースとして、530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
バチルス・メガテリウムの野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のDNAに代えて、特許文献2に記載のY167A/D373C変異体のDNAを用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返して、Y167A/D373C/F530W変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
【0065】
《実施例8》
本実施例では、Y167A/D373C変異体をベースとして、139番目のグルタミン酸がプロリンに置換され、325番目のグルタミンがアスパラギンに置換され、そして530番目のフェニルアラニンがトリプトファンに置換された変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子の構築を行った。
バチルス・メガテリウムの野生型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素のDNAに代えて、特許文献2に記載のY167A/D373C変異体のDNAを用いたことを除いては、実施例4の操作を繰り返して、Y167A/D373C/E139P/Q325D/F530W変異体の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素遺伝子を含む発現ベクターを得た。
【0066】
《製造方法例2》
本製造方法例では、スクアレンを基質として、実施例5~8で得られた変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素36℃での酵素活性を検討した。
製造方法例1の操作を繰り返して、酵素活性を解析した。得られた抽出物(反応組成物)中のアンブレインの含有量を、製造方法例1の装置及び条件でガスクロマトグラフィーによって測定した。得られた抽出物(反応組成物)中の反応生成物(アンブレイン)の相対活性比を
図2に示す。
【0067】
また、反応温度を、30℃、33℃、又は36℃として、同様に酵素活性を検討した。
図3に示すように、Y167A/D373C変異体と比較して、Y167A/D373C/E139P変異体、Y167A/D373C/Q325D変異体、Y167A/D373C/F530W変異体、及びY167A/D373C/E139P/Q325D/F530W変異体は、36℃での酵素活性が優れていた。
本発明の変異型テトラプレニル-β-クルクメン環化酵素は、耐熱性が向上し、高温度で効率的に2環性トリテルペン(8α-ヒドロキシポリポダ-13,17,21-トリエン)及び/又はアンブレインを産生することができる。