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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158011
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20241031BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20241031BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20241031BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L29/78 657A
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652M
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
H01L29/48 F
H01L29/48 D
H01L29/78 652D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072786
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】俵 武志
(72)【発明者】
【氏名】原田 信介
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA03
4M104BB14
4M104CC03
4M104DD08
4M104DD24
4M104FF07
4M104FF27
4M104GG03
4M104GG09
4M104GG18
4M104HH17
(57)【要約】
【課題】オン抵抗の上昇を抑制するとともに、短絡耐量を向上させることができる炭化珪素半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体基体30に、ゲートトレンチ7aとショットキートレンチ7bとが第2方向Yに交互に繰り返し設けられている。n型電流拡散領域3は、互いに隣り合うトレンチ7a,7b間に設けられ、ゲートトレンチ7aの側壁でゲート絶縁膜8に接するJFET上部分3aと、ショットキートレンチ7bの側壁でショットキー電極17に接するSBD部分21と、を有する。ショットキー電極17とSBD部分21との接合面にトレンチSBD20が形成される。SBD部分21のキャリア濃度は、JFET上部分3aの窒素濃度の10%以上100%未満である。SBD部分21の幅W1は、第2高濃度領域11bが第2方向Yに平行にショットキートレンチ7bの側壁から離れる方向に突出する幅よりも狭く、0.1μm以上0.5μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基体と、
前記半導体基体の内部に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体基体のおもて面と前記第1半導体領域との間に設けられた第2導電型の第2半導体領域と、
前記半導体基体のおもて面と前記第2半導体領域との間に選択的に設けられた第1導電型の第3半導体領域と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域および前記第1半導体領域に接して設けられた、前記第1半導体領域よりも高い濃度で第1導電型不純物が添加された第1導電型の第4半導体領域と、
前記半導体基体のおもて面から所定深さの複数のトレンチと、
複数の前記トレンチのうち、深さ方向に前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第4半導体領域の内部で終端する第1トレンチと、
複数の前記トレンチのうちの前記第1トレンチを除く、前記第3半導体領域と離れて配置され、深さ方向に前記第2半導体領域を貫通して前記第4半導体領域の内部で終端する第2トレンチと、
前記第1トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記第2トレンチの内壁で前記第4半導体領域に接するショットキー電極と、
前記第2半導体領域および前記第3半導体領域に電気的に接続され、かつ前記第2トレンチに埋め込まれて前記ショットキー電極に接する第1電極と、
前記半導体基体の裏面に電気的に接続された第2電極と、
前記第4半導体領域の一部であり、前記第2トレンチの側壁で前記ショットキー電極に接する第1導電型のSBD部分と、
前記第4半導体領域の一部であり、前記第1トレンチの側壁と前記SBD部分との間に設けられた第1導電型のJFET上部分と、
前記ショットキー電極と前記SBD部分との接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用したショットキーバリアダイオードと、
を備え、
前記SBD部分のキャリア濃度は、前記JFET上部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度よりも低いことを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記SBD部分には、前記第1導電型不純物のみが実質的に添加され、
前記SBD部分のキャリア濃度は、前記SBD部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度で決定され、
前記SBD部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度は、1×1016/cm3以上であり、かつ前記JFET上部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度の10%以上100%未満の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記SBD部分には、前記第1導電型不純物および第2導電型不純物が添加され、
前記SBD部分のキャリア濃度は、前記SBD部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度からイオン化率を乗じた前記第2導電型不純物の濃度を減算した濃度で決定されることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第2導電型不純物は、アルミニウム、ガリウムまたはボロンのいずれか1つであることを特徴とする請求項3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第1トレンチの底面に対向する第2導電型の第5半導体領域と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第2トレンチの底面に対向する第2導電型の第6半導体領域と、
前記第4半導体領域の一部であり、前記JFET上部分と前記第1半導体領域の間において、前記半導体基体のおもて面に平行な方向に互いに隣り合う前記第5半導体領域と前記第6半導体領域との間に設けられた第1導電型のJFET下部分と、をさらに備え、
前記SBD部分は、前記JFET下部分と接しないことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第1トレンチの底面に対向する第2導電型の第5半導体領域と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第2トレンチの底面に対向する第2導電型の第6半導体領域と、をさらに備え、
前記ショットキー電極と前記SBD部分との接合面から前記JFET上部分と前記SBD部分との界面までの幅は、前記半導体基体のおもて面に平行に前記第2トレンチの側壁から離れる方向に前記第6半導体領域が突出する幅よりも狭いことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記ショットキー電極と前記SBD部分との接合面から前記JFET上部分と前記SBD部分との界面までの幅は、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記第1導電型不純物は、窒素であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた炭化珪素半導体装置では、同一の半導体基体(半導体チップ)にショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)を内蔵して寄生pnダイオード動作を抑制することで低オン抵抗化を図ったトレンチゲート型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)が公知である(例えば、下記特許文献1および下記非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-077664号公報
【特許文献2】国際公開第2022/244749号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Okawa et al., "First Demonstration of Short-Circuit Capability for a 1.2 kV SiC SWITCH-MOS", IEEE Journal of the Electron Devices Society, Vol.7, (2019), pp.613-620
【非特許文献2】Krishnaswami et al., "A Study on the Reliability and Stability of High Voltage 4H-SiC MOSFET Devices", Materials Science Forum, Volumes 527-529, (2006), pp.1313-1316
【非特許文献3】T. Kimoto and J. A. Cooper, "Fundamentals of Silicon Carbide Technology: Growth, Characterization, Devices and Applications", November 2014, Wiley-IEEE Press, pp.487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SBDを内蔵したMOSFETの短絡耐量(負荷短絡から素子破壊に至るまでの時間)は、SBDを内蔵しない通常のMOSFETの短絡耐量と比べて大幅に低くなる(上記非特許文献1参照)。上記特許文献1に開示されるように内蔵SBDのショットキーバリアハイト(ショットキー障壁)を高くすることで短絡耐量が改善されるが、トレンチ形成時のエッチングダメージの悪影響によって、SBDを埋め込んだトレンチの内壁に沿って形成されるショットキー接合の界面(金属-半導体界面)でフェルミ準位のピンニング(フェルミ準位が特定のエネルギー位置にピン止めされたように固定された状態になる現象)が起こり、金属-半導体界面のバンド配置が変わってショットキーバリアハイトがばらつくことで短絡耐量がばらつく懸念がある。
【0006】
この開示は、上述した従来技術による問題点を解消するため、オン抵抗の上昇を抑制するとともに、短絡耐量を向上させることができる炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の代表的なものを示すと以下の通りである。この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる半導体基体の内部に、第1導電型の第1半導体領域が設けられている。前記半導体基体のおもて面と前記第1半導体領域との間に、第2導電型の第2半導体領域が設けられている。前記半導体基体のおもて面と前記第2半導体領域との間に、第1導電型の第3半導体領域が選択的に設けられている。前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域および前記第1半導体領域に接して、第1導電型の第4半導体領域が設けられている。前記第4半導体領域には、前記第1半導体領域よりも高い濃度で第1導電型不純物が添加されている。
【0008】
前記半導体基体のおもて面から所定深さの複数のトレンチが設けられている。複数の前記トレンチのうちの第1トレンチは、深さ方向に前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第4半導体領域の内部で終端する。複数の前記トレンチのうち前記第1トレンチを除く第2トレンチは、前記第3半導体領域と離れて配置され、深さ方向に前記第2半導体領域を貫通して前記第4半導体領域の内部で終端する。前記第1トレンチの内部に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられている。ショットキー電極は、前記第2トレンチの内壁で前記第4半導体領域に接する。
【0009】
第1電極は、前記第2半導体領域および前記第3半導体領域に電気的に接続され、かつ前記第2トレンチに埋め込まれて前記ショットキー電極に接する。第2電極は、前記半導体基体の裏面に電気的に接続されている。第1導電型のSBD部分は、前記第4半導体領域の一部であり、前記第2トレンチの側壁で前記ショットキー電極に接する。第1導電型のJFET上部分は、前記第4半導体領域の一部であり、前記第1トレンチの側壁と前記SBD部分との間に設けられている。前記ショットキー電極と前記SBD部分との接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用したショットキーバリアダイオードが設けられている。前記SBD部分のキャリア濃度は、前記JFET上部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度よりも低い。
【0010】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、前記SBD部分には、前記第1導電型不純物のみが実質的に添加されている。前記SBD部分のキャリア濃度は、前記SBD部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度で決定される。前記SBD部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度は、1×1016/cm3以上であり、かつ前記JFET上部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度の10%以上100%未満の範囲内であることを特徴とする。
【0011】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、前記SBD部分には、前記第1導電型不純物および第2導電型不純物が添加されている。前記SBD部分のキャリア濃度は、前記SBD部分に添加された前記第1導電型不純物の濃度からイオン化率を乗じた第2導電型不純物の濃度を減算した濃度で決定されることを特徴とする。
【0012】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、前記第2導電型不純物は、アルミニウム、ガリウムまたはボロンであることを特徴とする。
【0013】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、第2導電型の第5半導体領域と、第2導電型の第6半導体領域と、第1導電型のJFET下部分と、をさらに備える。前記第5半導体領域は、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第1トレンチの底面に対向する。前記第2導電型の第6半導体領域は、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第2トレンチの底面に対向する。前記JFET下部分は、前記第4半導体領域の一部であり、前記JFET上部分と前記第1半導体領域の間において、前記半導体基体のおもて面に平行な方向に互いに隣り合う前記第5半導体領域と前記第6半導体領域との間に設けられている。前記SBD部分は、前記JFET下部分と接しないことを特徴とする。
【0014】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、第2導電型の第5半導体領域と、第2導電型の第6半導体領域と、をさらに備える。前記第5半導体領域は、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第1トレンチの底面に対向する。前記第2導電型の第6半導体領域は、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間に、前記第2半導体領域と離れて設けられ、前記第2トレンチの底面に対向する。前記ショットキー電極と前記SBD部分との接合面から前記JFET上部分と前記SBD部分との界面までの幅は、前記半導体基体のおもて面に平行に前記第2トレンチの側壁から離れる方向に前記第6半導体領域が突出する幅よりも狭いことを特徴とする。
【0015】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、前記ショットキー電極と前記SBD部分との接合面から前記JFET上部分と前記SBD部分との界面までの幅は、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内であることを特徴とする。
【0016】
また、この開示にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した開示において、前記第1導電型不純物は、窒素であることを特徴とする。
【0017】
上述した開示によれば、金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型炭化珪素半導体装置の動作時には比較的高不純物濃度のJFET上部分に電流が流れるため、オン抵抗の上昇を抑制することができる。負荷短絡時には比較的低不純物濃度のSBD部分によってSBD(ショットキーバリアダイオード)に流れるリーク電流が抑制されるため、短絡耐量が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本開示にかかる炭化珪素半導体装置によれば、オン抵抗の上昇を抑制するとともに、短絡耐量を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の内蔵ダイオード動作時のIV波形のシミュレーション結果を示す特性図である。
図3】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のSBD部分のn型不純物濃度と特性オン抵抗との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図4】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のSBD部分のn型不純物濃度とSBDリーク電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図5】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のSBD部分のn型不純物濃度と変曲点電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図6】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のSBD部分の幅とSBDリーク電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図7】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のSBD部分の幅と変曲点電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図8】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図9】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置に関するアルミニウムのイオン化率と温度との関係を示す特性図である。
図10】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置に関するn型補償濃度と素子温度との関係を示す特性図である。
図11】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置に関するp型不純物のイオン化率の温度特性をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図12】参考例の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、この開示にかかる炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
(概要)
MOSFETと同一の半導体基体に内蔵されたSBD(ショットキーバリアダイオード)は、当該MOSFETを例えばブリッジ型インバータ回路のスイッチング素子(上下アーム)として用いた場合に、上下アームを交互に繰り返しオン・オフさせる際の上下アームの同時オンを防ぐためのデッドタイム時のMOSFETの寄生pnダイオード動作を抑制して、寄生pnダイオードの通順方向特性劣化の抑制および逆回復損失の低減を実現している。また、内蔵SBDによってMOSFETの寄生pnダイオード動作を抑制することで、低オン抵抗化を実現している。
【0022】
まず、同一の半導体基体にSBDを内蔵したトレンチゲート型MOSFETの参考例について説明する。図12は、参考例の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図12に示す参考例の炭化珪素半導体装置110は、半導体基体130のおもて面側に設けた複数のトレンチ107のうち、一部のトレンチ(以下、ゲートトレンチとする)107aにゲート絶縁膜108を介してゲート電極109を埋め込み、ゲートトレンチ107aを除く残りのトレンチ(以下、ショットキートレンチとする)107bにSBD(以下、トレンチSBDとする)120を埋め込んだトレンチゲート型MOSFETである。
【0023】
半導体基体130は、n+型ドレイン領域101となるn+型出発基板131上にn-型ドリフト領域102およびp型ベース領域104となる各炭化珪素層132,133を順にエピタキシャル成長させてなる。トレンチ107は、半導体基体130のおもて面に平行な第1方向Xにストライプ状に設けられている。ゲートトレンチ107aとショットキートレンチ107bとは、半導体基体130のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Yに交互に繰り返し配置されている。
【0024】
ゲートトレンチ107aは、深さ方向Zに半導体基体130のおもて面からn+型ソース領域105およびp型ベース領域104を貫通してn型電流拡散領域103に達する。ゲートトレンチ107aの内部には、ゲート絶縁膜108を介してゲート電極109が設けられている。ショットキートレンチ107bは、深さ方向Zに半導体基体130のおもて面からp++型コンタクト領域106およびp型ベース領域104を貫通してn型電流拡散領域103に達する。ショットキートレンチ107bの側壁に沿って、ショットキー電極117が選択的に設けられている。ショットキートレンチ107bの内部には、ショットキー電極117上にソース電極114が埋め込まれている。
【0025】
半導体基体130のおもて面(p型炭化珪素層133側の主面)とp型ベース領域104との間に、p型ベース領域104に接して、n+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106がそれぞれ選択的に設けられている。p型ベース領域104とn-型ドリフト領域102との間に、n型電流拡散領域103およびp+型領域111がそれぞれ選択的に設けられている。n型電流拡散領域103は、互いに隣り合うp+型領域111間に、p+型領域111に接して設けられている。
【0026】
n型電流拡散領域103は、上面(n+型ソース領域105側の面)でp型ベース領域104に接し、下面(n+型ドレイン領域101側の面)でn-型ドリフト領域102に接する。n型電流拡散領域103は、第2方向Yに両側に延在して一方でゲートトレンチ107aに達し、他方でショットキートレンチ107bに達する。n型電流拡散領域103は、ゲートトレンチ107aの側壁でゲート絶縁膜108に接する。n型電流拡散領域103は、ショットキートレンチ107bの側壁でショットキー電極117に接する。
【0027】
n型電流拡散領域103の、少なくとも互いに隣り合うトレンチ107間の部分(以下、JFET上部分とする)103aは、JFET(Junction FET)抵抗低減のため、1×1017/cm3程度の不純物濃度で窒素(N)がドープされている。p+型領域111は、トレンチ107の底面よりもn+型ドレイン領域101側に深い位置に、p型ベース領域104と離れて、かつn型電流拡散領域103に接して設けられている。p+型領域111は、各トレンチ107の底面にそれぞれ対向して複数設けられている。
【0028】
層間絶縁膜112は、ゲート電極109を覆うように、半導体基体130のおもて面の全面に設けられている。ソース電極114は、半導体基体130のおもて面においてオーミック電極113を介してn+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106に電気的に接続されている。ソース電極114は、ショットキートレンチ107bの内壁において、p型ベース領域104およびp++型コンタクト領域106に接するとともに、ショットキー電極117を介してn型電流拡散領域103に電気的に接続されている。ドレイン電極115,116は、半導体基体130の裏面(n+型出発基板131側の面)に設けられている。
【0029】
トレンチSBD120は、ショットキートレンチ107bの側壁上のショットキー電極117と、JFET上部分103aと、の接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用したダイオードであり、ショットキートレンチ107bの側壁に沿って形成されている。トレンチSBD120は、MOSFETのp型ベース領域104およびp+型領域111とn-型ドリフト領域102およびn型電流拡散領域103とのpn接合で形成される寄生pnダイオード(ボディダイオード)よりも早く導通して、MOSFETの寄生pnダイオード動作を抑制する機能を有する。
【0030】
しかしながら、上述した炭化珪素半導体装置110(トレンチSBD120を内蔵したMOSFET)では、ドレイン・ソース間に流れた電流が回路に接続された負荷(MOSFETによってオン・オフされる負荷)へ流れ込み、負荷電圧を生じさせる。この状態で負荷短絡が起きると、MOSFETには、オンしたままドレイン電流Idが流れ、かつ回路の電圧源からドレイン・ソース間電圧Vdsがかかる。これによって、n+型ドレイン領域101からn-型ドリフト領域102およびn型電流拡散領域103を通ってゲート電極109に向かう短絡電流が流れ、当該短絡電流の経路で温度上昇が起きる。
【0031】
短絡電流によって素子温度(半導体基体130の温度)が上昇すると、MOSFETをオフしても、n+型ドレイン領域101からn-型ドリフト領域102およびn型電流拡散領域103を通ってトレンチSBD120にリーク電流が流れる。トレンチSBD120に流れるリーク電流が熱電界放出によって増大して、当該リーク電流の経路で温度上昇が起きることで、MOSFETが熱破壊に至る。上記特許文献1には、金属層とドリフト層との間のショットキーバリアハイトを1.76eV以上3.10eV以下となるように設定することで、負荷短絡時の温度上昇に伴う熱電界放出によるリーク電流を低減することが開示されている。
【0032】
上記特許文献2には、SBDを内蔵しない通常のMOSFETについて、n型のJFET上部分にコドープ(添加)されたp型不純物であるアルミニウム(Al)のイオン化率の温度依存性を利用し、負荷短絡による高温時にJFET上部分のキャリア濃度を低くしてJFET抵抗を高くすることで短絡電流を抑制することが開示されている。上記非特許文献1には、SBDを内蔵したトレンチゲート型MOSFETの短絡耐量(負荷短絡から素子破壊に至るまでの時間)が6.0μsであり、SBDを内蔵しない通常のMOSFETの短絡耐量(=10.0μs)の60%と低いことが開示されている。
【0033】
上記非特許文献2には、SBDを内蔵しない通常のMOSFETについて、JFET上部分中のドナー濃度Ndとアクセプタ濃度Naとの濃度差(=Nd-Na)が大きくなると、MOSFETのオフ時にゲート絶縁膜にかかる電界がゲート絶縁膜とJFET上部分との接触箇所で増大することが開示されている。上記非特許文献3には、金属層とn型炭化珪素層との接合面に形成されるSBDについて、n型炭化珪素層のn型不純物濃度が低いほど、逆バイアス印加時に金属層とn型炭化珪素層との接合面から空乏層が広がりやすく、当該接合面の電界強度が低下するため、SBDに流れるリーク電流が低減されることが開示されている。
【0034】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上述した参考例の炭化珪素半導体装置110(トレンチSBD120を内蔵したMOSFET:図12参照)では、ショットキートレンチ107bの内壁のエッチングダメージの悪影響によって、トレンチSBD120のショットキー接合の界面(金属-半導体界面)でフェルミ準位のピンニングが起こり、ショットキーバリアハイトがばらつくことで短絡耐量がばらつく懸念があることを見出した。本実施の形態において解消する課題としては、SBDを内蔵してオン抵抗の上昇を抑制するとともに、SBDに流れるリーク電流を低減して短絡耐量を向上させることが挙げられる。
【0035】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造を図1の断面図により説明する。図1に示す炭化珪素半導体装置10は、炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた半導体基体30のおもて面側に設けた複数のトレンチ7のうち、一部のトレンチ(ゲートトレンチ:第1トレンチ)7aにゲート絶縁膜8を介してゲート電極9を埋め込み、ゲートトレンチ7aを除く残りのトレンチ(ショットキートレンチ:第2トレンチ)7bにSBD(トレンチSBD)20を埋め込んだトレンチゲート型MOSFETである。
【0036】
図1には、活性領域に配置された同一構造(トレンチゲート構造)の隣接する複数の単位セル(素子の構成単位)のうちの2つの単位セルを示す。図1には、活性領域の周囲を囲むエッジ終端領域を図示省略する(図2においても同様)。活性領域とは、MOSFETがオン状態のときに電流が流れる領域である。エッジ終端領域は、活性領域と半導体基体(半導体チップ)30の側面との間の領域であり、半導体基体30のおもて面側の電界を緩和して耐圧を保持する耐圧構造が配置される。耐圧とは、半導体装置が誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。
【0037】
半導体基体30は、炭化珪素を半導体材料として用いたn+型出発基板31のおもて面上にn-型ドリフト領域(第1半導体領域)2およびp型ベース領域(第2半導体領域)4となる各炭化珪素層32,33を順にエピタキシャル成長させてなる。半導体基体30は、p型炭化珪素層33側の主面をおもて面とし、n+型出発基板31側の主面(n+型出発基板31の裏面)を裏面とする。n+型出発基板31は、n+型ドレイン領域1となる。活性領域において半導体基体30のおもて面側に、トレンチゲート構造が設けられている。
【0038】
トレンチゲート構造は、p型ベース領域4、n+型ソース領域(第3半導体領域)5、p++型コンタクト領域6、ゲートトレンチ7a、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で構成される。トレンチ7は、例えば、半導体基体30のおもて面に平行な第1方向Xにストライプ状に設けられている。ゲートトレンチ7aとショットキートレンチ7bとは、半導体基体30のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Yに交互に繰り返し配置されている。
【0039】
ゲートトレンチ7aは、深さ方向Zに半導体基体30のおもて面からn+型ソース領域5およびp型ベース領域4を貫通して後述するn型電流拡散領域(第4半導体領域)3の内部で終端する。n型電流拡散領域3は、後述するJFET上部分3a、JFET下部分3bおよびSBD部分21を含む。ゲートトレンチ7aの内部には、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9が設けられている。ショットキートレンチ7bは、深さ方向Zに半導体基体30のおもて面からp++型コンタクト領域6およびp型ベース領域4を貫通してn型電流拡散領域3の内部で終端する。ショットキートレンチ7bの側壁に沿って、ショットキー電極17が選択的に設けられている。ショットキートレンチ7bの内部には、ショットキー電極17上にソース電極(第1電極)14が埋め込まれている。
【0040】
+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基体30のおもて面とp型ベース領域4との間に、p型ベース領域4に接して、それぞれ選択的に設けられている。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、p型炭化珪素層33に例えばアルミニウム(Al)等のp型不純物(アクセプタ)のイオン注入により形成された拡散領域である。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基体30のおもて面に露出されている。半導体基体30のおもて面に露出とは、半導体基体30のおもて面でオーミック電極13に接することである。
【0041】
+型ソース領域5は、ゲートトレンチ7aの側壁でゲート絶縁膜8に接する。n+型ソース領域5は、ショットキートレンチ7bと離れて設けられている。p++型コンタクト領域6は、ゲートトレンチ7aと離れて設けられている。p++型コンタクト領域6は、ショットキートレンチ7bの側壁でソース電極14に接する。p++型コンタクト領域6は設けられていなくてもよい。この場合、p++型コンタクト領域6に代えて、p型ベース領域4が半導体基体30のおもて面に露出される。p型炭化珪素層33の、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6を除く部分がp型ベース領域4である。
【0042】
p型ベース領域4とn-型ドリフト領域2との間に、n型電流拡散領域3およびp+型領域11がそれぞれ選択的に設けられている。n型電流拡散領域3は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(CSL:Current Spreading Layer)である。n型電流拡散領域3は、n-型炭化珪素層32にイオン注入により形成された拡散領域である。n型電流拡散領域3は、p+型領域11よりもn+型ソース領域5側の部分(以下、JFET上部分とする)3aと、第2方向Yにp+型領域11に隣接する部分(以下、JFET下部分とする)3bと、これらの部分よりもn型不純物濃度の低いSBD部分21と、からなる。JFET上部分3a、JFET下部分3bおよびSBD部分21のn型不純物濃度は、n-型ドリフト領域2のn型不純物濃度よりも高い。
【0043】
JFET上部分3aは、上面(n+型ソース領域5側の面)でp型ベース領域4に接し、下面(n+型ドレイン領域1側の面)でJFET下部分3b、後述する第1高濃度領域11aおよび第2高濃度領域11bに接する。JFET上部分3aは、第2方向Yに両側に延在して一方でゲートトレンチ7aに達し、他方でSBD部分21に達する。JFET上部分3aは、ゲートトレンチ7aの側壁でゲート絶縁膜8に接する。JFET下部分3bは、互いに隣り合う第1高濃度領域(第5半導体領域)11aと第2高濃度領域(第6半導体領域)11bとの間の部分であり、第2方向Yにこれらの領域に接し、下面でn-型ドリフト領域2に接する。JFET上部分3aおよびJFET下部分3bには、ドーパント(半導体に添加される不純物)として、n型不純物(ドナー:第1導電型不純物)である窒素(N)がドープされている。
【0044】
JFET上部分3aおよびJFET下部分3bのn型不純物濃度(窒素濃度)は、例えば1×1017/cm3程度である。なお、JFET上部分3aおよびJFET下部分3bのn型不純物濃度は、例えば、7×1016/cm3以上7×1017/cm3以下程度であるのが望ましい。上記下限値(=7×1016/cm3)以上とすることで、オン抵抗の増加を防止することができる。また、上記上限値(=7×1017/cm3)以下とすることで、長期信頼性を考慮して、MOSFETのオフ時にゲート絶縁膜8にかかる電界を3MV/cm以下とすることができる(上記非特許文献2参照)。
【0045】
SBD部分21は、JFET上部分3aとショットキートレンチ7bとの間に設けられている。SBD部分21は、上面でp型ベース領域4に接し、下面で第2高濃度領域11bのみに接する。SBD部分21は、JFET下部分3bに接しない。SBD部分21は、第2方向Yの一方でJFET上部分3aに接し、第2方向Yの他方でショットキートレンチ7bに達する。SBD部分21は、ショットキートレンチ7bの側壁でショットキー電極17に接して後述するトレンチSBD20を形成するSiC半導体領域(ハッチング部分)である。SBD部分21は、負荷短絡時にショットキー電極17との接合面から半導体基体30内に空乏層を延ばしてトレンチSBD20に流れるリーク電流を抑制する機能を有する。
【0046】
SBD部分21には、ドーパントとして、n型不純物(ドナー:第1導電型不純物)である窒素がドープされている。SBD部分21のn型不純物濃度(窒素濃度)は、JFET上部分3aのn型不純物濃度の10%以上100%未満の範囲内である。SBD部分21のキャリア濃度は、JFET上部分3aのn型不純物濃度よりも低い。キャリア濃度とは、半導体に添加された不純物(ドーパント)のうち活性化されて電気伝導を担う電荷キャリア(荷電粒子)の濃度である。n型不純物としての窒素は、炭化珪素半導体中で想定する温度範囲でほぼ100%活性化してn型半導体の電荷キャリアである電子を放出する。したがって、n型のSBD部分21のキャリア濃度とは、活性化された電子濃度であるが、n型不純物である窒素の濃度で近似できる。
【0047】
SBD部分21の幅W1は、SBD部分21の下面全面が第2高濃度領域11bに接してSBD部分21がJFET下部分3bと接しない範囲内とする。SBD部分21の幅W1とは、第2方向Yにショットキー電極17とSBD部分21との接合面からJFET上部分3aとSBD部分21との界面までの幅である。SBD部分21がJFET下部分3bと接しないことで、SBD部分21がMOSFET動作時(MOSFETのオン時)にチャネルを通って流れる主電流の電流経路にならない。このため、MOSFETのオン抵抗の上昇を抑制することができる(後述する図3参照)。
【0048】
一方、負荷(MOSFETによってオン・オフされる負荷)短絡時には、SBD部分21がトレンチSBD20に流れるリーク電流の電流経路となる。例えば、参考例のMOSFET(炭化珪素半導体装置110:図12参照)では、負荷短絡により素子温度(例えば250℃~500℃程度)が上昇すると、MOSFETをオフした後にトレンチSBD120に流れるリーク電流が増大するが、実施の形態1においては、上述したようにn型電流拡散領域3のうちSBD部分21のn型不純物濃度を相対的に低くしたことで、トレンチSBD20の導通抵抗が高くなるため、負荷短絡時にトレンチSBD20に流れるリーク電流を低減することができる(後述する図4参照)。
【0049】
SBD部分21のn型不純物濃度を低くするほど、負荷短絡時にトレンチSBD20に流れるリーク電流を低減する効果が高くなる。これによって、MOSFET(炭化珪素半導体装置10)は、ゲートをオフした後(ゲート電極9への印加電圧がゲート閾値電圧未満になった後)の発熱(半導体基体30の温度上昇)が抑えられ、短絡耐量が向上する。一方、SBD部分21のn型不純物濃度を低くするほど、トレンチSBD20の導通抵抗が増加する。その結果、トレンチSBD20が導通する前に、比較的低電流密度でMOSFETの寄生pnダイオード(ボディダイオード)が動作するようになり、寄生pnダイオードの通順方向特性劣化や逆回復損失の増大が起こる。
【0050】
トレンチSBD20の導通抵抗とは、トレンチSBD20のIV(電流-電圧)特性の導通(動作開始)点での抵抗値(微分抵抗)である。MOSFETの寄生pnダイオードとは、p型ベース領域4およびp+型領域11(第1,2高濃度領域11a,11b)とn-型ドリフト領域2およびn型電流拡散領域3(JFET上部分3a、JFET下部分3b、SBD部分21)とのpn接合によって半導体基体30内に形成される内蔵ダイオードである。MOSFETの寄生pnダイオードが動作開始(導通)する順方向電流密度は、半導体基体30の内蔵ダイオードのIV特性に基づいて取得可能である。半導体基体30の寄生pnダイオードのIV波形をシミュレーションした結果を図2に示す。
【0051】
図2は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の内蔵ダイオード(寄生pnダイオード)動作時のIV波形のシミュレーション結果を示す特性図である。図2の横軸は、ドレイン電極15に対してソース電極14に印加される正の電圧(ソース・ドレイン間電圧Vsd)であり、寄生pnダイオードの順方向電圧に相当する。図2の縦軸は、寄生pnダイオードの順方向電流密度に相当する。図2には、SBD部分21のn型不純物濃度(図2にはSBD部分の濃度と図示)を1.1×1017/cm3とした場合の寄生pnダイオードのIV波形41(実線)と、SBD部分21のn型不純物濃度を1.8×1016/cm3とした場合の寄生pnダイオードのIV波形42(破線)と、を示す。IV波形41は、JFET上部分3aおよびSBD部分21の両方のn型不純物濃度が等しい構造(すなわち図12の参考例の炭化珪素半導体装置110)の特性(比較例)になる。
【0052】
図2に示すように、SBD部分21のn型不純物濃度を1.1×1017/cm3とした場合、寄生pnダイオードのIV波形41は、順方向電圧の上昇に伴って順方向電流密度が大きくなっている。一方、SBD部分21のn型不純物濃度を1.8×1016/cm3に低くした場合、750A/cm2程度の順方向電流密度で寄生pnダイオードのIV波形42が折れ曲がっており、寄生pnダイオードが動作し始めてJFET上部分3a、JFET下部分3bおよびn-型ドリフト領域2に少数キャリア(正孔)が注入されて寄生pnダイオードの順方向電流密度が増加し、順方向電流密度の変曲点42aで寄生pnダイオードの導通抵抗が低下していることが分かる(伝導度変調)。
【0053】
以後、MOSFETの寄生pnダイオードのIV波形の変曲点での順方向電流密度を変曲点電流密度と称し、寄生pnダイオードの動作しやすさを示す指標とする。MOSFETの寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度は、少なくともMOSFETの定格電流密度(例えば500A/cm2程度)以上であることが望ましい。以上の制約から、SBD部分21のn型不純物濃度は、例えば1×1016/cm3以上1×1017/cm3未満程度であることがよい(後述する図5参照)。ここでは、素子温度(半導体基体30の温度)を175℃としたが、SBD部分21のn型不純物濃度と寄生pnダイオードの順方向電流密度との関係は素子温度によらず同じ傾向を示す(後述する図4参照)。
【0054】
+型領域11は、n-型炭化珪素層32に例えばアルミニウム等のp型不純物のイオン注入により形成された拡散領域である。p+型領域11は、図示省略する部分でソース電極14に電気的に接続されており、MOSFETのオフ時に空乏化して(もしくはn型電流拡散領域3を空乏化させて、またはその両方)、ゲートトレンチ7aの底面にかかる電界を緩和させる機能を有する。p+型領域11は、トレンチ7の底面よりもn+型ドレイン領域1側に深い位置に、p型ベース領域4と離れて設けられている。p+型領域11は、各トレンチ7の底面にそれぞれ対向して複数設けられる。
【0055】
具体的には、p+型領域11は、ゲートトレンチ7a下の第1高濃度領域11aと、ショットキートレンチ7b下の第2高濃度領域11bと、からなる。第1高濃度領域11aの幅(第2方向Yの幅)W21はゲートトレンチ7aの幅(第2方向Yの幅)W11よりも広く、第1高濃度領域11aは第2方向Yに平行にゲートトレンチ7aの両側壁からそれぞれ離れる方向に突出している。第2高濃度領域11bの幅(第2方向Yの幅)W22はショットキートレンチ7bの幅(第2方向Yの幅)W12よりも広く、第2高濃度領域11bは第2方向Yに平行にショットキートレンチ7bの両側壁からそれぞれ離れる方向に突出している。
【0056】
第2高濃度領域11bが第2方向Yに平行にショットキートレンチ7bの側壁から離れる方向に突出する幅は、SBD部分21の幅W1よりも広い。すなわち、第2高濃度領域11bは、SBD部分21の下面の全面に接し、かつJFET上部分3aに接する。第2高濃度領域11bがSBD部分21の下面の全面に接することで、SBD部分21とJFET下部分3bとが離れて配置される。第2高濃度領域11bの幅W22を第1高濃度領域11aの幅W21よりも広くしてもよいし、第1高濃度領域11aの幅W21と同じでも良い。なお、図1において、第2高濃度領域11bの幅W22とSBD部分21の幅W1およびショットキートレンチ7bの幅W12との関係は、W22>2・W1+W12が成り立つ。
【0057】
-型炭化珪素層32の、n型電流拡散領域3およびp+型領域11を除く部分がn-型ドリフト領域2である。層間絶縁膜12は、ゲート電極9を覆うように、半導体基体30のおもて面の全面に設けられている。層間絶縁膜12のコンタクトホールには、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6およびショットキートレンチ7bが露出されている。オーミック電極13は、層間絶縁膜12のコンタクトホールにおいて半導体基体30のおもて面にオーミック接触する。オーミック電極13は、例えばニッケルシリサイド(NixSiy、ただし、x、yは正数)電極である。
【0058】
ソース電極14は、層間絶縁膜12のコンタクトホールおよびショットキートレンチ7bを埋め込むように、活性領域における半導体基体30のおもて面の略全域に設けられている。ソース電極14は、半導体基体30のおもて面においてオーミック電極13を介してn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6に電気的に接続されている。ソース電極14は、ショットキートレンチ7bの側壁において、p型ベース領域4およびp++型コンタクト領域6に接するとともに、ショットキー電極17を介してn型電流拡散領域3(JFET上部分3a、JFET下部分3b、SBD部分21)に電気的に接続されている。
【0059】
ショットキー電極17は、ショットキートレンチ7bの側壁とソース電極14との間に、ショットキートレンチ7bの側壁に沿って設けられている。ショットキー電極17は、ショットキートレンチ7bの側壁においてSBD部分21に接する。ショットキー電極17は、ショットキートレンチ7bの側壁から底面へ延在していてもよい。ショットキー電極17は、ショットキートレンチ7bの内壁において、第2高濃度領域11b、p型ベース領域4およびp++型コンタクト領域6に接していてもよい。ショットキー電極17の材料は、例えばチタン(Ti)である。
【0060】
半導体基体30のおもて面は、パッシベーション膜で保護されている。ソース電極14の、パッシベーション膜の開口部に露出する部分がソース電極パッドである。半導体基体30の裏面(n+型出発基板31の裏面)の全面にドレイン電極(第2電極)15が設けられている。ドレイン電極15は、n+型ドレイン領域1(n+型出発基板31)にオーミック接触して、n+型ドレイン領域1に接続されている。ドレイン電極15の表面全面に、ドレイン電極パッド16が設けられている。
【0061】
トレンチSBD20は、ショットキートレンチ7bの側壁上のショットキー電極17と、SBD部分21と、の接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用したダイオードであり、ショットキートレンチ7bの側壁に沿って形成されている。トレンチSBD20は、MOSFETのp型ベース領域4およびp+型領域11(第1,2高濃度領域11a,11b)とn型電流拡散領域3(JFET上部分3a、JFET下部分3b、SBD部分21)およびn-型ドリフト領域2とのpn接合で形成される寄生pnダイオード(ボディダイオード)よりも早く導通して、MOSFETの寄生pnダイオード動作を抑制する機能を有する。
【0062】
<実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の動作>
炭化珪素半導体装置10の動作について説明する。ソース電極14に対して正の電圧(ドレイン・ソース間電圧Vds:MOSFETの順方向電圧)がドレイン電極15に印加された状態で、ゲート電極9にゲート閾値電圧以上の電圧(ゲート電圧)が印加されると(定常動作時)、p型ベース領域4のゲートトレンチ7aの側壁に沿った部分にチャネル(n型の反転層)が形成される。それによって、n+型ドレイン領域1からチャネルを通ってn+型ソース領域5へ向かって主電流(ドリフト電流)が流れ、MOSFET(炭化珪素半導体装置10)がオンする。
【0063】
一方、ドレイン・ソース間電圧Vdsが印加された状態で、ゲート電圧がゲート閾値電圧未満になると、p型ベース領域4およびp+型領域11とn型電流拡散領域3およびn-型ドリフト領域2とのpn接合(MOSFETの主接合)が逆バイアスされることで、主電流が流れなくなり、MOSFETはオフ状態を維持する。また、MOSFETの主接合から広がる空乏層によってp+型領域11(もしくはn型電流拡散領域3、またはその両方)が空乏化され、ゲートトレンチ7aの内壁のゲート絶縁膜8にかかる電界が緩和される。
【0064】
負荷短絡時には、低不純物濃度化されたSBD部分21によって、ショットキー電極17とSBD部分21の接合面(ショットキー接合面)からn型電流拡散領域3内に空乏層が広がりやすくなり、当該ショットキー接合面での電界強度が低下する。このため、トレンチSBD20にかかる電界が緩和され、トレンチSBD20に流れるリーク電流を低減することができる。SBD部分21のn型不純物濃度はn型不純物のイオン注入のドーズ量によって再現性よく制御できるため、トレンチSBD20の導通抵抗の制御性が高い。
【0065】
また、MOSFETのp型ベース領域4およびp+型領域11とn-型ドリフト領域2およびn型電流拡散領域3とのpn接合で形成される寄生pnダイオードの順方向バイアス時、トレンチSBD20は、上記寄生pnダイオードよりも低い電圧で、当該寄生pnダイオードよりも早く導通する。このため、MOSFETの寄生pnダイオードは動作しない。これによって、MOSFETの寄生pnダイオード動作による通順方向特性劣化や逆回復損失が生じない。
【0066】
<実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法>
炭化珪素半導体装置10の製造方法について説明する。まず、n+型ドレイン領域1となるn+型出発基板(半導体ウエハ)31のおもて面上に、n-型ドリフト領域2となる例えば窒素ドープのn-型炭化珪素層32をエピタキシャル成長(堆積)させる。この段階では、図1におけるn-型炭化珪素層32(すなわち製品厚さの半導体基体30を構成する所定厚さのn-型炭化珪素層32)のうち、JFET上部分3aおよびSBD部分21の形成領域に対応するn-型炭化珪素層は形成されていない。
【0067】
次に、フォトリソグラフィおよび例えばアルミニウム(Al)等のp型不純物の選択的イオン注入により、n-型炭化珪素層32の表面領域に、第1高濃度領域11aと第2高濃度領域11bとを第2方向Yに交互に繰り返し互いに離して形成する。フォトリソグラフィおよび窒素等のn型不純物の選択的イオン注入により、n-型炭化珪素層32の表面領域において、互いに隣り合う第1高濃度領域11aと第2高濃度領域11bとの間にn型のJFET下部分3bを形成する。JFET下部分3bのn型不純物濃度は、例えば1×1017/cm3程度とされる。
【0068】
さらにエピタキシャル成長させてn-型炭化珪素層32を所定厚さまで厚くする。この追加でエピタキシャル成長させるn-型炭化珪素層32の厚さを増した部分のn型不純物濃度は、SBD部分21のn型不純物濃度に対応した窒素濃度(例えば1.8×1016/cm3程度)とされる。このn-型炭化珪素層32の厚さを増した部分(n-型炭化珪素層)は、図1におけるn-型炭化珪素層32のうち、JFET上部分3aおよびSBD部分21の形成領域に対応する。このため、このn-型炭化珪素層32の厚さを増した部分の厚さは、JFET上部分3aおよびSBD部分21の厚さと同じ厚さに設定される。この段階で図1におけるn-型炭化珪素層32の全体が形成される。
【0069】
次に、フォトリソグラフィにより、n-型炭化珪素層32の表面に、JFET上部分3aの形成領域に対応する部分を開口したイオン注入用マスクを形成する。次に、このイオン注入用マスクを用いて例えば窒素等のn型不純物のイオン注入により、n-型炭化珪素層32の厚さを増した部分に、JFET下部分3bに達する深さでJFET上部分3aを選択的に形成する。JFET上部分3aのn型不純物濃度は、例えば1×1017/cm3程度とされる。その後、イオン注入用マスクを除去する。
【0070】
-型炭化珪素層32の厚さを増した部分のうち、イオン注入用マスクに覆われることでイオン注入されずにエピタキシャル成長時のn型不純物濃度のまま残る部分がSBD部分21となる。SBD部分21を形成するための窒素等のn型不純物のイオン注入を追加で行って、SBD部分21のn型不純物濃度を調整してもよい。この場合、n-型炭化珪素層32の表面にSBD部分21の形成領域に対応する部分を開口したイオン注入用マスクを形成し、当該マスクを用いてn型不純物のイオン注入を行えばよい。JFET上部分3aとSBD部分21との形成順序は逆になっても構わない。
【0071】
次に、n-型炭化珪素層32上に、p型ベース領域4となる例えばアルミニウムドープのp型炭化珪素層33をエピタキシャル成長(堆積)させる。p型炭化珪素層33は、下層のn-型炭化珪素層32の表面領域に形成されたJFET上部分3aおよびSBD部分21に接する。ここまでの工程により、n+型出発基板31上に炭化珪素層32,33を順に積層した半導体基体(半導体ウェハ)30が作製(製造)される。
【0072】
次に、フォトリソグラフィおよびイオン注入により、半導体基体30のおもて面の表面領域においてp型炭化珪素層33の内部に、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6をそれぞれ選択的に形成する。p型炭化珪素層33の、イオン注入されずにエピタキシャル成長時の不純物濃度のまま残る部分がp型ベース領域4となる。次に、炭化珪素層32,33にイオン注入した不純物を活性化させるための熱処理を行う。
【0073】
次に、例えばドライエッチングにより、トレンチ7(ゲートトレンチ7aおよびショットキートレンチ7b)を形成する。ゲートトレンチ7aは、半導体基体30のおもて面からn+型ソース領域5およびp型ベース領域4を貫通してJFET上部分3aに達し、深さ方向Zに第1高濃度領域11aに対向する。ゲートトレンチ7aの底面と第1高濃度領域11aとの間にJFET上部分3aが介在してもよいし、ゲートトレンチ7aが深さ方向ZにJFET上部分3aを貫通して第1高濃度領域11aの内部で終端してもよい。
【0074】
ショットキートレンチ7bは、半導体基体30のおもて面からp++型コンタクト領域6およびp型ベース領域4を貫通してSBD部分21に達し、深さ方向Zに第2高濃度領域11bに対向する。ショットキートレンチ7bの底面と第2高濃度領域11bとの間にSBD部分21が介在してもよいし、ショットキートレンチ7bが深さ方向ZにSBD部分21を貫通して第2高濃度領域11bの内部で終端してもよい。
【0075】
次に、一般的な方法により、ゲートトレンチ7aの内部に、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9を形成する。次に、半導体基体30のおもて面の全面に層間絶縁膜12を形成する。次に、深さ方向Zに層間絶縁膜12を貫通して半導体基体30のおもて面に達するコンタクトホールを形成する。層間絶縁膜12のコンタクトホールには、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6およびショットキートレンチ7bを露出させる。
【0076】
次に、一般的な方法により、層間絶縁膜12のコンタクトホールにおいてn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6にオーミック接触するオーミック電極13を形成する。また、ショットキートレンチ7bの側壁に、SBD部分21に接してショットキー電極17を形成する。これにより、ショットキー電極17とSBD部分21との接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用するトレンチSBD20が形成される。
【0077】
次に、半導体基体30のおもて面上に、層間絶縁膜12のコンタクトホールおよびショットキートレンチ7bを埋め込むようにソース電極14を形成する。これにより、ショットキートレンチ7bの内部においてショットキー電極17にソース電極14が接続される。また、半導体基体30の裏面上にドレイン電極15を形成し、ドレイン電極15上にドレイン電極パッド16を形成する。その後、半導体ウエハをダイシング(切断)して個々のチップ状に個片化することで、図1に示す炭化珪素半導体装置10が完成する。
【0078】
<実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のシミュレーション検証>
上述したSBD部分21(図1参照)のn型不純物濃度とMOSFETの素子特性との関係について検証した。シミュレーションによる検証結果を図3~7に示す。図3~7では、図1に示す実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10の構造を備えたMOSFETを用いてシミュレーションを行った。当該MOSFETにおいて、JFET上部分3aおよびJFET下部分3bを同じn型不純物濃度(1×1017/cm3)で一定とした。
【0079】
図3~5では、SBD部分21の幅W1を0.5μmとして、SBD部分21のn型不純物濃度を変化させて諸特性をシミュレーションした。図3図5の横軸は、SBD部分21のn型不純物濃度である。図3の縦軸は、MOSFETの特性オン抵抗(活性領域の表面積に依存しないオン抵抗)である。図4の縦軸は、トレンチSBD20に流れるリーク電流の電流密度(以下、SBDリーク電流密度とする)である。図5の縦軸は、MOSFETの寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度である。
【0080】
図6,7では、SBD部分21のn型不純物濃度を1.8×1016/cm3として、SBD部分21の幅W1を変化させて諸特性をシミュレーションした。図6,7の横軸は、SBD部分21の幅W1である。図6,7の縦軸は、それぞれSBDリーク電流密度およびMOSFETの寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度である。図3では、MOSFETのゲート電圧Vgを20Vとした。図4,6では、ゲート電圧Vgを0Vとし、ドレイン・ソース間電圧Vdsを600Vとした。図4,6は、負荷短絡時にMOSFETに高電圧が印加された場合を想定している。
【0081】
図3,5,7では、素子温度を175℃とした。図4には、素子温度を175℃、250℃および500℃とした場合の各シミュレーション結果を示す。図6では、素子温度を500℃とした。素子温度とは、MOSFETの主接合(pn接合)での接合温度Tjであり、半導体基体30の温度に相当する。図3~7は窒素を添加した炭化珪素半導体に関するシミュレーション結果であり、SBD部分21のn型不純物濃度(窒素濃度)は半導体中のキャリア濃度に略等しく、トレンチSBD20の順方向特性の温度依存性も無視できるものとしている。
【0082】
図3は、炭化珪素半導体装置10のSBD部分のn型不純物濃度と特性オン抵抗との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。図3に示す結果から、SBD部分21を低不純物濃度化しても、MOSFETの特性オン抵抗はほぼ変わらないことが確認された。したがって、SBD部分21のn型不純物濃度によらず、MOSFETの所定の特性オン抵抗を設定することができる。
【0083】
図4は、炭化珪素半導体装置10のSBD部分のn型不純物濃度とSBDリーク電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。図4に示す結果から、SBD部分21のn型不純物濃度を低くすることで、MOSFETのオフ時のSBDリーク電流密度を低減することができることが確認された。また、素子温度が高くなるほどSBDリーク電流密度は大きくなるが、SBD部分21を低不純物濃度化することによるSBDリーク電流密度低減の傾向は素子温度によらず同じである。したがって、SBDリーク電流密度を低減するには、SBD部分21を低不純物濃度化するとよい。
【0084】
その一方で、上述したように、SBD部分21のn型不純物濃度が低い場合、トレンチSBD20の導通抵抗が増加し、MOSFETの寄生pnダイオードが閾値電圧を超えて導通しやすくなる(図2参照)。寄生pnダイオードが導通した場合、伝導度変調により寄生pnダイオードの導通抵抗が低下し、寄生pnダイオードのIV波形の傾きが大きく変化する。トレンチSBD20を設けたことよる効果(MOSFETの寄生pnダイオード動作を抑制)を得るには、寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度での順方向電圧よりも低い順方向電圧でトレンチSBD20が導通するように、SBD部分21のn型不純物濃度を設定すればよい。
【0085】
図5は、炭化珪素半導体装置10のSBD部分のn型不純物濃度と変曲点電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。図5に示す結果から、SBD部分21のn型不純物濃度を低くすると、トレンチSBD20の導通抵抗が増加し、寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度が低下することが確認された。MOSFETの寄生pnダイオードがトレンチSBD20よりも先に導通して、定常動作時のMOSFETの動作に悪影響を与えないためには、寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度が少なくともMOSFETの定格電流密度(実施の形態1では例えば500A/cm2程度:図5の破線)以上であることが望ましい。
【0086】
したがって、図5に示す結果から、SBD部分21のn型不純物濃度は、1×1016/cm3以上程度となる。例えば、JFET上部分3aのn型不純物濃度が1×1017/cm3図5の最も右側のシミュレーション点と同じn型不純物濃度)である場合、SBD部分21のn型不純物濃度は、JFET上部分3aのn型不純物濃度の10%以上程度となる。すなわち、SBDリーク電流密度を低減し、かつMOSFETの寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度をMOSFETの定格電流密度以上に保つためには、SBD部分21のn型不純物濃度は、JFET上部分3aのn型不純物濃度の10%以上100%未満とすればよい。
【0087】
また、SBD部分21の幅W1について検証した。図6は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置のSBD部分の幅とSBDリーク電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。SBD部分21の幅W1とMOSFETのオフ時のSBDリーク電流密度との関係をシミュレーションした結果を図6に実線で示す。また、図6には、SBD部分を備えていない参考例の炭化珪素半導体装置110(図12参照)のオフ時のSBDリーク電流密度を破線で示す。図6に示す結果から、SBD部分21の幅W1が広いほど、SBDリーク電流密度が低減されることが確認された。
【0088】
また、MOSFETの特性オン抵抗への悪影響を避けるため、SBD部分の幅W1は、最大でもSBD部分21がJFET下部分3bと接しない範囲(実施の形態1では例えば0.5μm以下程度)とするのが望ましい。その理由は、SBD部分21がJFET下部分3bの上面に接する範囲までショットキートレンチ7bの側壁から離れて第2方向Yに延在すると、定常動作時にMOSFETの主電流の経路が狭くなり、MOSFETの特性オン抵抗の上昇を招くためである。SBD部分21がJFET下部分3bと接しないとは、SBD部分21とJFET上部分3aとの界面がJFET下部分3bと第2高濃度領域11bとの界面に対して第2高濃度領域11b側に位置すると言い換えることもできる。
【0089】
図7は、炭化珪素半導体装置10のSBD部分の幅と変曲点電流密度との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。SBD部分21の幅W1と寄生pnダイオードのIV波形(図2の参照)の変曲点電流密度との関係をシミュレーションした結果を図7に示す。図7に示す結果から、SBD部分21の幅W1が狭いほど、寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度が上昇することが確認された。SBD部分21の幅W1が狭すぎると幅W1の制御が困難になるため、SBD部分21の幅W1は0.1μm以上程度であることが望ましい。したがって、SBD部分21の幅W1は、例えば0.1μm以上0.5μm以下(JFET下部分3bと接しない範囲)程度であることがよい。
【0090】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、n型電流拡散領域は、ゲートトレンチの側壁でゲート絶縁膜に接するJFET上部分と、ショットキートレンチの側壁でショットキー電極に接するSBD部分と、を有する。ショットキートレンチの側壁に沿って、ショットキー電極とSBD部分との接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用したトレンチSBDが形成されている。これによって、MOSFETの定常動作時、比較的高不純物濃度のJFET上部分に主電流が流れ、特定オン抵抗の上昇を抑制することができる。負荷短絡時には、トレンチSBDを流れるリーク電流が比較的低不純物濃度のSBD部分によって抑制される。したがって、特定オン抵抗の上昇を抑制するとともに、短絡耐量を向上させることができる。SBD部分のn型不純物濃度はn型不純物のイオン注入のドーズ量によって再現性よく制御できるため、SBD部分のn型不純物濃度をJFET上部分のn型不純物濃度と比べて低くすることによる製造歩留まりへの悪影響は小さい。
【0091】
(実施の形態2)
実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造を図8の断面図により説明する。実施の形態2が実施の形態1(図1参照)と異なる点は、SBD部分51(ハッチング部分)にn型不純物(第1導電型不純物)である窒素をドープするとともに、p型不純物(第2導電型不純物)であるアルミニウム(Al)をコドープ(添加)した点である。SBD部分51の、アルミニウムをコドープしたことおよび後述する窒素濃度範囲以外の構成は、実施の形態1の窒素のみをドープしたSBD部分21と同様である。
【0092】
実施の形態2において、SBD部分51は、多数キャリア(電子)となる窒素による実際のn型不純物濃度を少数キャリア(正孔)となるアルミニウムによって補償され、JFET上部分3aよりも低キャリア濃度(低補償濃度)のn型領域となっている。アルミニウムのイオン化率は温度に依存し、負荷(MOSFETによってオン・オフされる負荷)短絡により素子温度(例えば500℃程度)が上昇すると、SBD部分51中のアルミニウムがほぼ100%の比率でイオン化し、SBD部分51がアルミニウムから放出された正孔濃度に応じて低補償濃度化される。
【0093】
ショットキー電極17とSBD部分51との接合面に形成されるショットキー障壁の整流性を利用してトレンチSBD52が形成されている。トレンチSBD52のSBD部分51以外の構成は、実施の形態1のトレンチSBD20と同様である。すなわち、負荷短絡時、SBD部分51のn型キャリア濃度は、SBD部分51の窒素濃度からイオン化率を乗じたアルミニウム濃度を減算した濃度となる。トレンチSBD52を形成するSBD部分51が低補償濃度化することで、実施の形態1と同様に、負荷短絡時にトレンチSBD52に流れるリーク電流を低減させることができる(上記非特許文献3参照)。
【0094】
SBD部分51のキャリア濃度は、SBD部分51にドープされて活性化されたn型不純物の濃度をSBD部分51にコドープされて活性化されたp型不純物の濃度で補償した補償濃度となる。SBD部分51のキャリア濃度は、実施の形態1のSBD部分21と同様に、JFET上部分3aのn型不純物濃度よりも低い。したがって、実施の形態2においても上記図2~7で検証したシミュレーション結果と同様の特性を持つ。負荷短絡時にSBD部分51のキャリア濃度がJFET上部分3aのn型不純物濃度よりも低くなればよく、SBD部分51とJFET上部分3aとが略同じn型不純物濃度であってもよい。
【0095】
SBD部分51のショットキートレンチ7bに隣接する部分は、トレンチSBD52にかかる電界を緩和する機能を有する。SBD部分51の窒素濃度は、例えば1×1016/cm3以上7×1017/cm3以下程度の範囲内である。SBD部分51の窒素濃度が上記下限値未満であると、トレンチSBD52の導通抵抗が増加し、MOSFET(炭化珪素半導体装置50)の寄生pnダイオードのIV波形の変曲点電流密度が低下するため、好ましくない。SBD部分51のアルミニウム濃度は、例えば、SBD部分51の窒素濃度の10%以上(好ましくは50%以上)100%未満程度の範囲内である。
【0096】
p型不純物(アクセプタ)のイオン化率の温度変動は、アクセプタ準位の深さに大きく依存する(後述する図9参照)。このため、SBD部分51にコドープするp型不純物には、負荷短絡時の素子温度(例えば500℃程度)でのイオン率がMOSFETの定常動作時の素子温度(例えば175℃程度)でのイオン化率よりも大きくなるp型不純物を用いる。具体的には、SBD部分51にコドープするp型不純物として、アルミニウムを用いる以外に、アルミニウムよりも深いアクセプタ準位をもつガリウム(Ga)やボロン(B(shallow boron))を用いてもよい。
【0097】
<実施の形態2の半導体装置の製造方法>
炭化珪素半導体装置50の製造方法について説明する。実施の形態2が実施の形態1と異なる点は、n-型炭化珪素層32の厚さを増した部分においてSBD部分51の形成領域に、上記窒素濃度範囲でかつ上記アルミニウム濃度範囲となるように、窒素のイオン注入およびアルミニウムのイオン注入を行った点である。SBD部分51を形成するための窒素のイオン注入およびアルミニウムのイオン注入の順序は適宜設定可能である。
【0098】
具体的には、実施の形態2においては、n-型炭化珪素層32の厚さを増した後、p型炭化珪素層33をエピタキシャル成長させる前に、n-型炭化珪素層32の表面にSBD部分51の形成領域に対応する部分を開口したイオン注入用マスクを形成し、当該マスクを用いて窒素のイオン注入およびアルミニウムのイオン注入を行えばよい。n-型炭化珪素層32の厚さを増した部分にJFET上部分3aとSBD部分21とを形成する順序は適宜設定可能である。SBD部分51を形成するための窒素のイオン注入は、JFET上部分3aを形成するための窒素のイオン注入と同時に行ってもよい。
【0099】
<実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の動作>
上述したようにn型電流拡散領域3のうちのSBD部分51のみに窒素の濃度未満の濃度でp型不純物であるアルミニウムがコドープされている。SBD部分51は、素子温度上昇時にアルミニウムのイオン化率が高くなることで低補償濃度化される。すなわち、SBD部分51のキャリア濃度は、素子温度が上昇するほど低下する。このため、SBD部分51は、MOSFETの定常動作時よりも素子温度が上昇する負荷短絡時に低補償濃度化される。
【0100】
負荷短絡時にSBD部分51が低補償濃度化されることで、短絡電流が抑制されるため、実施の形態1と同様に、短絡電流による温度上昇が抑制され、トレンチSBD52に流れるリーク電流の増大を抑制することができる。また、負荷短絡時にSBD部分51が低補償濃度化されることで、ショットキー電極17とSBD部分51との接合面から空乏層幅が広がりやすくなり、当該接合面の電界強度が低下する。このため、トレンチSBD52にかかる電界が緩和され、トレンチSBD52に流れるリーク電流を低減することができる。
【0101】
したがって、リーク電流による温度上昇が抑制され、MOSFET(炭化珪素半導体装置50)の熱破壊を抑制することができるため、短絡耐量を向上させることができる。また、SBD部分51にアルミニウムをコドープすることで、負荷短絡時にトレンチSBD52に流れるリーク電流が低減されるため、トレンチSBD52に流れるリーク電流を低減させるためにn型電流拡散領域3のうちのSBD部分51の部分の窒素濃度を相対的に低くする必要がない。したがって、特性オン抵抗の上昇を抑制することができるとともに、短絡耐量を向上させることができる。
【0102】
実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置50の定常動作時およびオフ時の動作は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10と同様である。
【0103】
<実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の検証>
炭化珪素半導体装置50のSBD部分51のn型不純物濃度と素子温度との関係について検証した。図9は、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置に関するアルミニウムのイオン化率と温度との関係を示す特性図である。図10は、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置に関するn型補償濃度と素子温度との関係を示す特性図である。
【0104】
図9に、上記特許文献2の図4から引用した、炭化珪素半導体にドープされたアルミニウムのイオン化率(Alイオン化率)の温度特性を示す。図9に示すアルミニウム濃度の異なる複数の試料のいずれにおいても、アルミニウムのイオン化率は、高温度になるほど高くなり、800K以上の温度で飽和してほぼ100%となることがわかる。図9の横軸の温度において800Kは、実施の形態2の負荷短絡時の素子温度である約500℃に相当する。また、図9に示す温度特性から、アルミニウムのイオン化率の温度変動は、アルミニウム濃度によらずほぼ同じ傾向を示していることがわかる。
【0105】
図10に、上記特許文献2の図5から引用した、窒素およびアルミニウムをドープした炭化珪素半導体のn型補償濃度の温度特性を示す。n型補償濃度は、実効的に電気伝導に寄与するキャリアの濃度であるので、キャリア濃度と言い換えることもできる。図10の各試料のアルミニウム濃度は、図9の試料のアルミニウム濃度と対応している。図10のn型補償濃度は、窒素濃度(ドナー濃度Nd)からイオン化率(K)を乗じたアルミニウム濃度(アクセプタ濃度Na)を減算することで算出されている(=Nd-K・Na)。イオン化率(K)は温度依存性を持つ、1以下の正の定数である。
【0106】
図10に示す窒素およびアルミニウムをドープしたn型の炭化珪素半導体は、実施の形態2のSBD部分51に相当する。図10に示す温度特性から、窒素およびアルミニウムをドープしたn型の炭化珪素半導体(すなわちSBD部分51)のn型補償濃度は、素子温度(半導体基体30の温度)が高くなるほど低くなると推測される。したがって、図9,10に示す温度特性から、SBD部分51にアルミニウムをコドープすることで、素子温度上昇に応じてSBD部分51の低補償濃度化が可能であることが推測される。
【0107】
<p型不純物のイオン化率のシミュレーション検証>
p型不純物のイオン化率について検証した。図11は、p型不純物のイオン化率の温度特性をシミュレーションした結果を示す特性図である。複数のp型不純物について、不純物濃度(アクセプタ濃度Na)を1.4×1017/cm3とし、175℃(MOSFETの定常動作時の素子温度)および500℃(負荷短絡時の素子温度)のときのイオン化率の温度特性をそれぞれシミュレーションした結果を図11に示す。
【0108】
上述したSBD部分51にコドープするp型不純物としては、MOSFETの定常動作時の素子温度よりも負荷短絡時の素子温度でイオン化率が大きくなるp型不純物が好ましく、図11に示す結果から、アルミニウムの他に、アルミニウム以上の深いアクセプタ準位をもつガリウムやボロンを用いることができる知見を得た。
【0109】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、SBD部分にアルミニウムをコドープすることで、素子温度が高くなる負荷短絡時にSBD部分のキャリア濃度が低補償濃度化されるため、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2によれば、負荷短絡時にSBD部分のキャリア濃度が低補償濃度化される分を上限として、SBD部分のn型不純物濃度を高くすることができ、SBD部分のn型不純物濃度を高くした分だけ特定オン抵抗を高くすることができる。
【0110】
実施の形態1と実施の形態2とは、SBD部分のキャリア濃度がJFET上部分に添加されたn型不純物の濃度よりも低い点で共通する。また、実施の形態1と実施の形態2とは、SBD部分のキャリア濃度の下限はJFET上部分に添加されたn型不純物の濃度の10%以上である点でも共通する。実施の形態1と実施の形態2とは、次の点で異なっている。
【0111】
実施の形態1において、SBD部分のキャリア濃度は、そこに添加されたn型不純物の濃度と実質的に等しい。その理由は、n型不純物は、MOSFETの想定される動作温度範囲でほぼ100%活性化してキャリア(電子)を放出するからである。すなわち、SBD部分のキャリア濃度は、そこに添加されたn型不純物の濃度で決定される。したがって、実施の形態1においては、JFET上部分およびSBD部分にn型不純物のみを実質的に添加することを想定する。実質的にとは、実施の形態の意義を損なわない程度で他の不純物が混入することを許容することを意味する。より具体的な他の不純物の許容される不純物量は、意図して添加した不純物の約1/100以下、あるいは約1/1000以下である。
【0112】
一方、実施の形態2においては、SBD部分にn型不純物およびp型不純物の両方を添加する。したがって、SBD部分のキャリア濃度は、添加したn型不純物の濃度(Nd)からイオン化率(K)を乗じたp型不純物の濃度(Na)を減算した濃度(=Nd-K・Na)で決定される。その理由は、n型不純物がMOSFETの想定される動作温度範囲でほぼ100%活性化してキャリア(電子)を放出するのに対して、p型不純物が温度によってイオン化率(K)が変動し放出するキャリア(正孔)の濃度が変化するからである。したがって、実施の形態2において、SBD部分のキャリア濃度は上記補償濃度(=Nd-K・Na)で決定される。
【0113】
半導体素子中の不純物元素や不純物濃度は、SIMS(二次イオン質量分析法)によって測定することができる。半導体素子の形状によっては、AES(オージェ電子分光法)による測定を補助データとして併用してよい。半導体素子中のキャリア濃度は、前述の方法で測定した不純物濃度を元に、図11に示したようなドーパント準位の深さと密度から計算されるイオン化率を参照して決定することができる。半導体素子の形状によっては、sMIM(走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡)による測定を補助データとして併用してよい。
【0114】
以上において本開示は、上述した実施の形態に限らず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した各実施の形態において、n型電流拡散領域にn型不純物(ドナー)として窒素以外のn型不純物(例えばリン(P)等)がドープされていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上のように、本開示にかかる炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0116】
1 n+型ドレイン領域
2 n-型ドリフト領域(第1半導体領域)
3 n型電流拡散領域(第4半導体領域)
3a JFET上部分
3b JFET下部分
4 p型ベース領域(第2半導体領域)
5 n+型ソース領域(第3半導体領域)
6 p++型コンタクト領域
7 トレンチ
7a ゲートトレンチ
7b ショットキートレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10,50 炭化珪素半導体装置
11 p+型領域
11a 第1高濃度領域(第5半導体領域)
11b 第2高濃度領域(第6半導体領域)
12 層間絶縁膜
13 オーミック電極
14 ソース電極
15 ドレイン電極
16 ドレイン電極パッド
17 ショットキー電極
20,52 トレンチ型SBD
21,51 SBD部分
30 半導体基体
31 n+型出発基板
32 n-型炭化珪素層
33 p型炭化珪素層
W1 SBD部分の幅
W11 ゲートトレンチの幅
W12 ショットキートレンチの幅
W21 第1高濃度領域の幅
W22 第2高濃度領域の幅
X 半導体基体のおもて面に平行な第1方向
Y 半導体基体のおもて面に平行な方向でかつ第1方向と直交する第2方向
Z 深さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12