(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015811
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】膜厚測定装置、成膜装置、膜厚測定方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20240130BHJP
C23C 14/54 20060101ALI20240130BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G01B11/06 Z
C23C14/54
G09F9/00 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118124
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク ソミン
【テーマコード(参考)】
2F065
4K029
5G435
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB01
2F065CC25
2F065CC31
2F065DD03
2F065FF41
2F065FF61
2F065GG04
2F065LL02
2F065LL67
2F065QQ17
2F065QQ25
2F065QQ26
2F065RR02
4K029AA09
4K029BA62
4K029BB02
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4K029HA01
4K029KA01
5G435AA17
5G435KK05
(57)【要約】
【課題】リファレンス測定の精度の改善を図ること
【解決手段】膜厚測定装置は、基板に対して成膜が行われる成膜室又は成膜室へと基板を受け渡すための受渡室に設けられ、基板に対して光を出射する出射により出射され基板で反射した反射光を受光する受光部と、受光部の受光結果に基づいて基板の成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する特定手段と、を備える。特定手段は、成膜がなされた成膜領域で反射した反射光、及び、基板の成膜領域と第1の方向に並ぶ第1のリファレンス領域及び第2のリファレンス領域で反射した反射光についての受光結果に基づいて、成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対して成膜が行われる成膜室又は前記成膜室へと前記基板を受け渡すための受渡室に設けられ、
前記基板に対して光を出射する出射部により出射され前記基板で反射した反射光を受光する受光部と、
前記受光部の受光結果に基づいて前記基板の成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する特定手段と、を備え、
前記特定手段は、成膜がなされた前記成膜領域で反射した反射光、及び、前記基板の前記成膜領域と第1の方向に並ぶ第1のリファレンス領域及び第2のリファレンス領域で反射した反射光についての前記受光結果に基づいて、前記成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する、
ことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膜厚測定装置であって、
前記特定手段は、前記基板の前記第1の方向において、前記第1のリファレンス領域と前記第2のリファレンス領域との間に設けられた前記成膜領域で反射した反射光、前記第1のリファレンス領域で反射した反射光、及び、前記第2のリファレンス領域で反射した反射光についての前記受光結果に基づいて、前記成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する
ことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の膜厚測定装置であって、
前記特定手段は、前記基板の前記第1の方向において、前記第1のリファレンス領域と前記第2のリファレンス領域との間に設けられ、前記第1の方向と交差する第2の方向において、前記基板の第3のリファレンス領域と前記基板の第4のリファレンス領域との間に設けられた前記成膜領域で反射した反射光と、前記第1のリファレンス領域で反射した反射光と、前記第2のリファレンス領域で反射した反射光と、前記第3のリファレンス領域で反射した反射光と、前記第4のリファレンス領域で反射した反射光と、についての前記受光結果に基づいて、前記膜厚を特定する、
ことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の膜厚測定装置であって、
光源と、
前記光源と前記出射部とを接続する光ファイバと、
前記出射部及び前記受光部を前記第1の方向に移動する移動手段と、をさらに備える、
ことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の膜厚測定装置であって、
前記特定手段は、電子デバイスの表示素子を形成するために成膜される領域とは別に設けられた膜厚測定用の領域である前記成膜領域で反射した反射光についての前記受光結果に基づいて、前記成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する、
ことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の膜厚測定装置を備えた成膜装置であって、
前記基板を複数の支持部材で支持する基板支持部を備え、
前記受光部は、前記基板支持部に支持された状態の前記基板で反射した出射光の反射光を受光する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項6に記載の成膜装置であって、
前記基板は、第1の辺及び前記第1の辺に対向する第2の辺を含む矩形形状であり、
前記複数の支持部材は、
前記基板の周縁部のうち前記第1の辺に沿う部分を支持するように各支持部材が互いに離間して設けられる第1の支持部材群と、
前記周縁部のうち前記第2の辺に沿う部分を支持するように各支持部材が互いに離間して設けられる第2の支持部材群と、を含み、
前記基板が前記基板支持部に支持された状態で、前記電子デバイスの表示素子を形成するために成膜される領域が、前記第1の支持部材群と前記第2の支持部材群との間に位置する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項7に記載の成膜装置であって、
前記基板は、前記第1の辺及び前記第2の辺を接続する第3の辺を含み、
前記成膜領域は、前記電子デバイスの表示素子を形成するために成膜される領域と、前記第3の辺の間に設けられる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜装置であって、
前記第3の辺は、前記基板の短辺である、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項9に記載の成膜装置であって、
前記複数の支持部材は、前記周縁部のうち前記第3の辺に沿う部分を支持するように各支持部材が互いに離間して設けられる第3の支持部材群を含む、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
請求項10に記載の成膜装置であって、
前記基板の前記第3の支持部材群によって支持された部分の撓みに起因する前記膜厚の変動値が閾値以下となるような間隔で、第3の支持部材群を構成する各支持部材が設けられる、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の膜厚測定装置を備えた成膜装置であって、
静電気力により基板を吸着して支持する基板支持部を備え、
前記受光部は、前記基板支持部に支持された状態の前記基板で反射した出射光の反射光を受光する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項13】
基板に対して成膜が行われる成膜室又は前記成膜室へと前記基板を受け渡すための受渡室において前記基板に対して出射され前記基板で反射した反射光を受光する受光工程と、
前記受光工程での受光結果に基づいて前記基板の成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する特定工程と、を備え、
前記特定工程では、成膜がなされた前記成膜領域で反射した反射光、及び、前記基板の前記成膜領域と第1の方向に並ぶ第1のリファレンス領域及び第2のリファレンス領域で反射した反射光についての前記受光結果に基づいて、前記成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する、
ことを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項14】
基板に対して成膜する成膜工程と、
請求項13に記載の膜厚測定方法により、前記成膜工程において前記基板に成膜された膜の膜厚を測定する測定工程と、を含む、
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定装置、成膜装置、膜厚測定方法及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造設備として、成膜室に基板を搬送して基板に対する成膜を行う装置が知られている。特許文献1には、基板に成膜された膜の膜厚を光学的に測定する膜厚測定部を備える成膜装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、基板に成膜された膜の膜厚を光学的に測定する際には、その基準となるデータを取得するためのリファレンス測定が行われる。リファレンス測定では例えば、基板の成膜されていない領域に対して出射された光の反射光を受光する。膜厚測定の精度向上のためには、リファレンス測定がより高精度で行われることが望ましい。
【0005】
本発明は、リファレンス測定の精度の改善を図る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
基板に対して成膜が行われる成膜室又は前記成膜室へと前記基板を受け渡すための受渡室に設けられ、
前記基板に対して光を出射する出射部により出射され前記基板で反射した反射光を受光する受光部と、
前記受光部の受光結果に基づいて前記基板の成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する特定手段と、を備え、
前記特定手段は、成膜がなされた前記成膜領域で反射した反射光、及び、前記基板の前記成膜領域と第1の方向に並ぶ第1のリファレンス領域及び第2のリファレンス領域で反射した反射光についての前記受光結果に基づいて、前記成膜領域に成膜された膜の膜厚を特定する、ことを特徴とする膜厚測定装置及び当該膜厚測定装置を備えた成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リファレンス測定の精度の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】(A)~(F)は蒸着源と移動ユニットの構造及び動作の説明図。
【
図9】膜厚ごとの反射率の測定結果の一例を示す図。
【
図10】基板に設けられる膜厚測定用の成膜領域及びリファレンス領域の配置例を示す図。
【
図11】膜厚測定用の成膜領域及びリファレンス領域の周辺の拡大図。
【
図12】膜厚の測定方法の一例を示すフローチャート。
【
図13】(A)~(C)は膜厚測定装置の動作説明図。
【
図14】(A)及び(B)は膜厚測定用の成膜領域及びリファレンス領域の周辺の配置の他の例を示す図。
【
図16】一実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図。
【
図19】(A)及び(B)は基板Wの姿勢が膜厚値に与える影響を説明するための図。
【
図20】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<1.成膜装置の概要>
図1は成膜装置1のレイアウト図である。なお、各図において矢印Zは上下方向(重力方向)を示し、矢印X及び矢印Yは互いに直交する水平方向を示す。矢印θはZ軸周りの回転方向を示す。
【0011】
成膜装置1は、基板Wに対して成膜を行う装置である。成膜装置1は、基板Wに対してマスクMを用いて所定のパターンの蒸着物質の薄膜を形成可能である。基板Wの材質は、ガラス、樹脂、金属等の材料を適宜選択可能であり、代表的にはガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが用いられる。本実施形態の場合、基板Wは矩形である。蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの物質である。成膜装置1は、例えば表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。
【0012】
成膜装置1は、搬送室2と、ターミナル室3と、成膜室4とを含む。各室はそれぞれ、それらを構成する壁部により気密に維持可能である。すなわち、各室は、真空雰囲気か、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。本実施形態では、各室は不図示の真空ポンプに接続されている。なお、本明細書において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。
【0013】
ここでは、搬送室2とターミナル室3とがX方向に並んで設けられるとともに、二つの成膜室4がターミナル室3のY方向の両側に設けられる構成が例示されている。成膜装置1は、一つの搬送室2、一つのターミナル室3及び二つの成膜室4を一つのクラスタとして、複数のクラスタをX方向に連結可能に構成されている。なお、連結されるクラスタの数は適宜設定可能である。また、成膜室4がターミナル室3に対してY方向の一方側にのみ設けられてもよい。
【0014】
成膜装置1は、搬送ユニット5A及び5Bを含む。搬送ユニット5A及び5Bは、ターミナル室3から成膜室4に渡って設けられ、ターミナル室3及び成膜室4の間で基板W及びマスクMの搬送を行う。
【0015】
成膜装置1の制御系は、ホストコンピュータとしてライン全体を制御する上位装置300と、各構成要素を制御する制御装置301~305とを含み、これらは有線又は無線の通信回線300aを介して通信可能である。制御装置301は、搬送室2に設けられた後述する搬送ロボット2aを制御する。ベース部302は、ターミナル室3に設けられた後述する搬送ロボット3aを制御する。複数の制御装置303はそれぞれ、対応する成膜室4の後述する蒸着源8及び移動ユニット9を制御する。制御装置304及び305はそれぞれ、後述する搬送ユニット5A及び搬送ユニット5Bを制御する。上位装置300は、基板Wに関する情報や搬送タイミング等の指示を各制御装置301~305に送信し、各制御装置301~305は受信した指示に基づき各構成要素を制御する。また、上位装置300及び各制御装置301~305は例えば、CPU等のプロセッサ、半導体メモリやハードディスクなどの記憶デバイス、入出力インタフェースを備える。
【0016】
また、成膜装置1は、搬送室2に隣接して設けられ、マスクMが収容されるマスク室104を含む。
【0017】
<2.搬送室>
搬送室2では、基板W又はマスクMのターミナル室3への搬送が行われる。搬送室2には、搬送ロボット2aが設けられている。搬送ロボット2aは、ベース部20上に二組のアーム21及びハンド22が支持されたダブルアーム型のロボットである。二組のアーム21及びハンド22は、ベース部20上でθ方向に旋回し、また、伸縮自在である。搬送ロボット2aは、基板Wの搬送の他、マスクMの搬送も行う。ハンド22はフォーク形状を有しており、基板MやマスクMはハンド22上に載置されて搬送される。
【0018】
<3.ターミナル室>
ターミナル室3では、搬送室2と成膜室4との間での基板W又はマスクMの受け渡しの他、成膜室4に対する基板W又はマスクMの振り分けが行われる。ターミナル室3には搬送ロボット3aが設けられている。搬送ロボット3aは、ベース部30にアーム31及びハンド32が支持されたロボットである。アーム31及びハンド32は、ベース部30上でθ方向に旋回し、また、伸縮自在である。搬送ロボット3aは、搬送室2の搬送ロボット2aから基板W又はマスクMを受け取り、後述する搬送ユニット5に受け渡す。また、搬送ユニット5から受け取った基板W又はマスクMを下流の搬送室2へ搬出する。ターミナル室3には、搬送ロボット3aが搬送ユニット5に基板W又はマスクMを受け渡す際に、基板W又はマスクMの位置を特定するためのカメラ(不図示)が設けられる。
【0019】
<4.成膜室>
成膜室4では、マスクMを用いて基板Wに対する成膜を行う。
図1に示すように、二つの成膜室4には、それぞれ、二つのマスク台41が配置されている。合計で四つのマスク台41により、蒸着処理を行う蒸着位置JA~JDが規定される。二つの成膜室4の構造は同じである。各成膜室4には、蒸着源8と、蒸着源8を移動する移動ユニット9とが設けられている。蒸着源8と移動ユニット9の構造及び動作について
図2(A)~
図2(F)を参照して説明する。
【0020】
蒸着源8は、蒸着物質の原材料を収容する坩堝や、坩堝を加熱するヒータ等を備え、原材料を加熱してその蒸気である蒸着物質を開口部8aから上方へ放出する成膜ユニットである。移動ユニット9は、アクチュエータ90と、一対の可動レール94と、一対の固定レール95とを備える。アクチュエータ90は、不図示の駆動源と、アーム部材91と、アーム部材92とを備える。アーム部材91の一端は不図示の駆動源に連結されており、不図示の駆動源によって旋回する。アーム部材91の他端はアーム部材92の一端と回動自在に連結されており、アーム部材92の他端は蒸着源8の底部に回動自在に連結されている。
【0021】
一対の可動レール94は、蒸着源8のY方向の移動を案内する。各可動レール94はY方向に延設されており、一対の可動レール94は互いにX方向に離間している。一対の固定レール95は、一対の可動レール94のX方向の移動を案内する。各固定レール95は、移動不能に固定されており、Y方向に延設されている。一対の固定レール95は互いにY方向に離間している。
【0022】
アクチュエータ90の駆動により、蒸着源8は、蒸着位置JAの下(マスク台41の下)をY方向にスライドし、また、蒸着位置JAの側から蒸着位置JBの側へスライドし、更に、蒸着位置JBの下(マスク台41の下)をY方向にスライドする。具体的に述べると、
図2(A)の位置からアクチュエータ90の駆動によりアーム部材91及び92を旋回させると、
図2(B)に示すように蒸着源8が一対の可動レール94の案内により蒸着位置JAの下をY方向に通過する。この状態からアクチュエータ90の駆動によりアーム部材91及び92を逆方向旋回させると、
図2(C)に示すように蒸着源8が蒸着位置JAの下をY方向に通過して
図2(A)の位置に戻る。
【0023】
アクチュエータ90の駆動によりアーム部材91及び92を更に旋回させると、蒸着源8及び一対の可動レール94は、一対の固定レール95の案内にしたがって蒸着位置JBの側へX方向に移動する。
図2(D)の位置からアクチュエータ90の駆動によりアーム部材91及び92を更に旋回させると、
図2(E)に示すように蒸着源8が一対の可動レール94の案内により蒸着位置JBの下をY方向に通過する。この状態からアクチュエータ90の駆動によりアーム部材91及び92を逆方向旋回させると、
図2(F)に示すように蒸着源8が蒸着位置JBの下をY方向に通過して
図2(D)の位置に戻る。
【0024】
このように本実施形態では、一つの蒸着源8を移動させることで、蒸着位置JAと蒸着位置JBの二つの蒸着位置で蒸着源8を共用できる。
【0025】
<5.搬送ユニット>
図1に示すように、成膜装置1は、ターミナル室3から二つの成膜室4に渡って配置された二組の搬送ユニット5A及び5Bを備える。搬送ユニット5Aは保持ユニット6A及び6Cと、これらを独立して基板Wの成膜面に沿った方向(本実施形態ではY方向)に平行移動する移動ユニット7Aを備える。搬送ユニット5Bは、搬送ユニット5Aと同様の構造であり、保持ユニット6B及び6Dと、これらを独立して基板Wの成膜面に沿った方向(本実施形態ではY方向)に平行移動する移動ユニット7Bとを備える。なお、搬送ユニット並びにこれを構成する保持ユニット及び移動ユニットの数や配置等は、ターミナル室3及び成膜室4の構成等に応じて適宜変更され得る。
【0026】
図3は搬送ユニット5A及び5Bのうち、ターミナル室3に配置された部分を示している。また、
図4は搬送ユニット5A(移動ユニット7A及び保持ユニット6A)の断面図を示している。搬送ユニット5A及び5Bは、搬送ロボット3aよりも高い位置で保持ユニット6A~6Dを水平姿勢でY方向に独立して往復させるユニットであって、X方向に並設されている。なお、
図4は代表として搬送ユニット5A(移動ユニット7A及び保持ユニット6A)の構造を示すが、保持ユニット6A~6Dは同じ構造を有し、移動ユニット7A及び7Bも同じ構造を有している。
【0027】
本実施形態の移動ユニット7A及び7Bは、保持ユニット6A~6Dを磁力により移動する機構であり、特に磁気により浮上移動する機構である。移動ユニット7A及び7Bは、それぞれ、保持ユニット6A~6DのY方向の移動軌道を規定する一対のガイド部材70を備える。各ガイド部材70はC字型の断面を有し、Y方向に延設されたレール部材である。一対のガイド部材70は互いに、X方向に離間している。
【0028】
各ガイド部材70は、Z方向に離間した一対の磁気素子71を多数備える。多数の一対の磁気素子71は、Y方向に等ピッチで配列されている。一対の磁気素子71のうちの少なくとも一方は電磁石であり、他方は電磁石又は永久磁石である。
【0029】
保持ユニット6A~6Dは、基板WやマスクMを搬送するためのキャリアである。保持ユニット6A~6Dは、それぞれ、平面視で矩形状の本体部材65を備える。本体部材65のX方向の各端部は、対応するガイド部材70に差し込まれている。本体部材65のX方向の各端部の上面、下面にはそれぞれ不図示のヨークが設けられた永久磁石61が固定されている。上下の永久磁石61は本体部材65にY方向に複数設けられている。永久磁石61は、ガイド部材70の磁気素子71と対向している。永久磁石61と磁気素子71との反発力によって保持ユニット6A~6Dに浮上力を生じさせることができる。Y方向に多数設けられた磁気素子(電磁石)71のうち、磁力を発生させる磁気素子71を順次切り替えることにより、永久磁石61と磁気素子71との吸引力によって保持ユニット6A~6DにY方向の移動力を生じさせることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、移動ユニット7A及び7Bを、磁気浮上搬送機構としたがローラ搬送機構、ベルト搬送機構、ラック-ピニオン機構等、保持ユニット6A~6Dを移動可能な他の搬送機構であってもよい。
【0031】
ガイド部材70にはY方向に延設されたスケール72が配置されており、本体部材65にはスケール72を読み取るセンサ64が設けられている。センサ64の検知結果により、各保持ユニット6A~6DのY方向の位置を特定することができる。
【0032】
保持ユニット6A~6Dは、それぞれ、基板Wを保持する保持部62を備える。保持部62は本実施形態の場合、静電気力により基板Wを吸着する静電チャックであり、保持部62は保持ユニット6A~6Dの下面に配置された複数の電極62aを含む。保持部62は、粘着力により基板Wを保持する粘着パッドや、バキュームパッド等を備えたものであってもよい。
【0033】
保持ユニット6A~6Dは、また、それぞれ、マスクMを保持する保持部63を備える。保持部63は、例えば、磁力によりマスクMを吸着するマグネットチャックであり、保持部62のX方向で外側に位置している。保持部63は、マスクMを機械的に挟持するクランプ機構であってもよい。
【0034】
搬送ロボット3aから搬送される基板WやマスクMの保持ユニット6A~6Dによる受け取りは、ターミナル室3内の所定の位置で行われる。
図3では、保持ユニット6A~6Dが、各受取位置PA~PDに位置している状態を示している。受取位置PA~PDはX-Y平面状でマトリクス状(2×2)に配置されており、成膜室4の外部であるターミナル室3の内部に設定されている。四か所の異なる受取位置PA~PDがあることで、下流側でのシステム障害が生じた場合に、基板Wを停留させておくバッファとしてもこれら受取位置PA~PDを用いることもできる。
【0035】
<6.膜厚測定装置>
次に、成膜が行われた基板の膜厚を測定する膜厚測定装置120について説明する。本実施形態では、膜厚測定装置120は、光学センサを使用して基板表面の光の反射率に基づいて膜厚測定を行う。
【0036】
<6.1.膜厚測定装置の構成例>
図5は、膜厚測定装置120の構成例を示す。構成例1に係る膜厚測定装置120は、光源2901、真空フランジ2902、投受光部2903、分光器2904、PC2905、及び移動ユニット2906を備える。光源2901、真空フランジ2902、投受光部2903、及び分光器2904間は、光ファイバで接続される。
【0037】
光源2901は、シャッター29011を動作させて光の出力と非出力とを切り替えることができる発光装置である。一例では、光源2901は、1つの出射口からハロゲンと重水素の連続光を出射する重水素(D2)ハロゲン光源29012を備える。別の例では、光源2901はレーザ光源を備える。
【0038】
真空フランジ2902は、真空環境と大気環境との接続部に配置される。例えば、光源2901、分光器2904、PC2905は大気環境に保たれる筐体内に配置され、筐体外の真空状態におかれうる成膜室内には投受光部2903が配置され、投受光部2903と光源2901及び分光器2904とを接続する光ファイバは、真空フランジ2902を介して筐体内外を接続する。別の例では、成膜室4やターミナル室3の内側には投受光部2903が配置され、光源2901、分光器2904、及びPC2905は成膜室4やターミナル室3の外側に配置されてもよい。この場合、真空フランジ2902は成膜室4やターミナル室3の壁面に設けられてもよい。
【0039】
投受光部2903は、光源2901からの光を垂直上方に出射するための出射部と、反射光を受光して分光器2904に送出するための受光部とを備える。分光器2904は、光の入力口を備え、入力された光を分光して波長帯ごとに光強度を測定する。そして、測定した光の強度に関する情報をPC2905に送信する。
【0040】
PC2905は、分光器2904が測定した光の強度に基づいて、後述する数式(1)及び(2)を用いて膜厚の測定値を計算する。また、一例では、PC2905は、膜厚の測定値を、成膜装置1の成膜プロセスにかける時間の調整や、成膜装置1の蒸着源8からの蒸着材料の放出量の調整や、後段の成膜プロセスのパラメータの調整などのために使用することができる。
【0041】
移動ユニット2906は、投受光部2903を移動する。本実施形態では、移動ユニット2906は、投受光部2903をX方向(基板Wの短辺方向)に移動する。
【0042】
<6.2.テーパー部材>
後述する
図8等に示すように、膜厚測定装置120が配置される配置位置MAA~MDCにおいて、膜厚測定装置120から送出された測定光が、ターミナル室3や成膜室4の天井部分に反射して、投受光部に入力された結果、測定精度が下がる場合がある。このため、膜厚測定装置120の光の照射方向、
図6の例ではターミナル室3の天井部分に、テーパー部材3101が配置される。例えば、テーパー部材3101は、三角柱や、角錐、円錐状の形状を有する。これによって、測定光を膜厚測定装置120とは異なる方向に反射させることができる。また、一例ではテーパー部材3101は光の吸収率の高い黒色部材である。また、一例では、膜厚測定装置120からの測定光が照射される表面部分は、サンドブラスト加工などの表面加工が施され、光の拡散を促すことができる。
【0043】
このようにテーパー部材3101を配置することで、膜厚測定装置120から照射した測定光が、基板Wとは異なる箇所で反射したことによって膜厚の測定精度が低下することを防ぐことができる。
【0044】
<6.3.膜厚測定装置の配置>
図7は成膜装置において膜厚測定装置120が配置されうる測定位置MAA~MDCを示す。測定位置MAA、MBA、MCA、MDAは、受取位置PA~PDと蒸着位置JA~JDとの間であって、ターミナル室3内、すなわち成膜室4外で搬送ユニット5A、5Bによって搬送される基板Wの膜厚を測定する位置である。測定位置MAB、MBB、MCB、MDBは、受取位置PA~PDと蒸着位置JA~JDとの間であって、成膜室4内で搬送ユニット5A、5Bによって搬送される基板の膜厚を測定する位置である。測定位置MAC、MBC、MCC、MDCは、成膜室4内の蒸着位置JA~JDに位置する基板の膜厚を測定する位置である。なお、測定位置MAA~MDCのうち、受取位置PA~PDと蒸着位置JA~JDとの間のそれぞれの少なくとも1か所に膜厚測定装置120が配置されればよく、全ての測定位置に膜厚測定装置120が配置される必要はない。
【0045】
図8は、YZ面での成膜装置の断面図である。
図8に示すように、膜厚測定装置120が配置されうる測定位置MAA~MDCは、いずれも基板Wの鉛直方向(Z方向)で下方に配置される。これによって、基板Wの膜厚を搬送ユニット5A、5Bによる搬送中に膜厚測定装置120によって測定することができる。
【0046】
このように、基板Wが保持ユニット6により保持された状態で基板Wの膜厚を測定するため、膜厚測定室などの追加の大型の設備を必要とすることなく膜厚測定を行うことができる。また、基板Wの搬送中に膜厚測定を行うため、成膜後に速やかに膜厚の測定を行うことができる。
【0047】
<6.4.測定原理>
膜厚測定装置120による膜厚の測定原理について説明する。本実施形態の膜厚測定装置120は、バックグラウンド測定、リファレンス測定及びサンプル測定を行い、これらの測定結果により基板Wに形成された膜の膜厚を特定する。
【0048】
<6.4.1.バックグラウンド測定>
膜厚測定装置120は、例えば基板Wが測定位置に搬入される前にレーザ光の出射を行い、反射光の強度を測定する。ここでのレーザ光の受光強度をPBGとする。受光強度PBGを測定することで、受光センサの温度特性などに起因するノイズ(バックグラウンドノイズ)の大きさや、測定器内のファイバの光の漏れを特定することができる。
【0049】
<6.4.2.リファレンス測定>
膜厚測定装置120は、基板Wリファレンス領域(後述)に対してレーザ光の出射を行い、リファレンスとして反射光の強度を測定する。ここでは、基板Wの成膜がなされていない領域(例えば素ガラス)など、反射率Rrefの分かっている領域に対してレーザ光が出射される。ここで、送信したレーザ光の照射強度をPTrefとし、受信したレーザ光の受光強度をPRrefとすると、以下の数式(1)が成り立つ。
Rref=(PRref-PBG)/(PTref-PBG) (1)
上述したように、反射率Rref(既知)、バックグラウンド測定における受光強度PBG、リファレンス測定における受光強度PRrefは取得可能である。よって、上記式に基づいてレーザ光の照射強度PTrefを特定することができる。これによって、反射率と受光強度との対応関係を特定することができる。
【0050】
<6.4.3.サンプル測定>
膜厚測定装置120は、基板Wの成膜領域(サンプル領域)に対してレーザ光の出射を行い、成膜領域(サンプル領域)の反射光の強度を測定する。ここでは、リファレンス測定において特定したレーザ光の照射強度PTrefを参照し、受信したレーザ光の受光強度PRに基づいて以下の数式(2)によって成膜した基板Wの反射率Rを特定することができる。
R=(PR-PBG)/(PTref-PBG) (2)
【0051】
図9に、成膜した膜厚ごとの反射率の測定結果の一例を示す。
図9に示すように、膜厚40オングストローム(Å)の場合の基板の反射率と比較して、膜厚1600Åの場合には、波長280、330~420nm周辺の反射率が大きくなっている。このため、この波長帯の反射率を測定することで、膜厚を推定することができる。反射率に基づく膜厚の推定には、公知の技術を用いることができる。例えば、複数の膜厚で反射率をあらかじめ測定し、測定した反射率からどの測定結果に近いかを推定してもよい。なお、膜厚と反射率の関係を示す情報を、PC2905又は上位装置300等が記憶していてもよい。
【0052】
また、反射率の測定結果に基づく膜厚の推定には、複数の周波数帯において測定した反射率に基づいて膜厚を推定してもよい。例えば、波長が280nmと330nmとにおける反射率の測定結果に基づく膜厚の推定結果がそれぞれ1000Åと1200Åである場合、膜厚の推定結果の平均を取り、膜厚は1100Åであるものとしてもよい。
【0053】
<6.5.リファレンス測定の精度向上>
さて、リファレンス測定の具体的な方法の一例として、成膜を行う基板Wとは別にリファレンス用基板を流す方法が挙げられる。この方法の場合、成膜を行わない基板が成膜装置1を流れることになるので、生産効率の低下につながる恐れがある。また、この方法の場合、成膜を行う基板W及びリファレンス用基板の保持ユニット6に保持されている際の姿勢(撓み方)の違いが測定結果に影響する恐れがある。また、他の方法として、成膜が行われた基板Wの、成膜されていない所定の領域をリファレンス領域とする方法も考えられる。しかし、この場合でも、サンプル測定が行われる成膜領域とリファレンス領域とでの姿勢(撓み方)の違いが測定結果に影響する恐れがある。これらの姿勢(撓み方)による測定結果への影響は、大型の基板ほど大きくなり得る。例えば、第6世代(G6)のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の矩形の基板等においては、基板の姿勢(撓み方)の測定結果への影響が懸念され得る。そこで、本実施形態では、以下の方法により、リファレンス測定の精度改善を図っている。
【0054】
<6.5.1.リファレンス領域の配置例>
図10は、基板Wに設けられる膜厚測定用の成膜領域(サンプル領域)及びリファレンス領域の配置例を示す図である。また、
図11は、膜厚測定用の成膜領域(サンプル領域)及びリファレンス領域の周辺の拡大図である。
【0055】
本実施形態では、基板Wには、膜厚測定用の領域R1が、電子デバイスの表示素子を形成するために成膜される領域R2とは別に設けられる。
【0056】
膜厚測定用の領域R1には、膜厚測定用の成膜領域R11と、リファレンス領域R12a~R12dが設けられる。成膜領域R11は、前述したサンプル測定が行われる際にレーザ光が照射される領域である。リファレンス領域R12a~R12dは、前述したリファレンス測定が行われる際にレーザ光が照射される領域である。
【0057】
成膜領域R11には、膜厚測定用の薄膜(測定用パッチと呼ぶことがある)が形成される。測定用パッチは、マスクMに予め測定用パッチのための開口を形成しておくことにより形成可能である。
【0058】
また、本実施形態ではリファレンス領域R12a~R12dは、薄膜が形成されない領域である。リファレンス領域R12a~R12dは、成膜室4における成膜後も基板W自体が露出する領域であるともいえる。
【0059】
また、本実施形態では、二つのリファレンス領域R12a及びR12bは、成膜領域R11と基板Wの短辺方向に並んで設けられている。さらにいえば、二つのリファレンス領域R12a及びR12bは、基板Wの短辺方向において成膜領域R11がリファレンス領域R12a及びR12bの間に位置するように設けられている。また、二つのリファレンス領域R12c及びR12dは、成膜領域R11の基板Wの長辺方向に並んで設けられている。さらにいえば、二つのリファレンス領域R12c及びR12dは、基板Wの短辺方向において成膜領域R11がリファレンス領域R12c及びR12dの間に位置するように設けられている。つまり、本実施形態では、四つのリファレンス領域R12a~R12dが、成膜領域R11の四方を囲むように配置されている。
【0060】
四つのリファレンス領域R12a~R12dは、成膜領域R11との距離が互いに等しくなるようにそれぞれ設けられてもよい。さらにいえば、四つのリファレンス領域R12a~R12dの重心位置と、成膜領域R11の重心位置との距離が互いに等しくなるようにそれぞれ設けられてもよい。
【0061】
領域R2には、マスクMを介した成膜がなされることによって、複数の電子デバイスの表示素子が形成される。
【0062】
<6.5.2.膜厚の測定方法>
図12は、膜厚の測定方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、一例として膜厚測定装置120が測定位置MAAにおいて基板Wに形成された膜の膜厚を測定する場合について説明する。
図13(A)~
図13(C)は、膜厚測定装置120の動作説明図である。例えば、本測定は、蒸着位置JAで基板Wに成膜が行われた後に、基板Wが成膜室4からターミナル室3へと戻るタイミングで行われる。
【0063】
S1において、バックグラウンド測定が行われる(
図13(A))。バックグラウンド測定は、成膜後の基板Wが測定位置MAAに到達する前に行われる。例えば、PC2905の制御により、投受光部2903は、出射部によるレーザ光の出射及び受光部による受光を行う。そして、PC2905は、投受光部2903の受光部から送出されて分光器2904により分光された光の波長帯ごとの受光強度P
BGを測定する。なお、バックグラウンド測定は、基板Wごとに行われなくてもよい。バックグラウンド測定は、所定の枚数の基板Wに対して成膜が行われるごとに行われてもよい。また、バックグラウンド測定は、所定の期間ごとに行われてもよい。
【0064】
S2において、リファレンス測定が行われる(
図13(B))。リファレンス測定は、成膜後の基板Wの成膜領域R11が測定位置MAAに到達した後に行われる。PC2905の制御により、投受光部2903は、出射部によりリファレンス領域R12a~R12dにレーザ光を出射して、その反射光を受光部により受光する。また本実施形態では、出射部のレーザ光の出射位置と各リファレンス領域R12a~R12dとの位置調整は、移動ユニット2906によって行う。ただし、位置調整の工程の一部を搬送ユニット5Aにより行ってもよい。例えば、移動ユニット2906が投受光部2903をX方向にのみ移動可能である場合、X方向の位置調整を移動ユニット2906で行い、Y方向の位置調整を搬送ユニット5Aで行ってもよい。PC2905は、リファレンス領域R12a~R12dごとの受光強度P
Rrefa~P
Rrefdを測定する。
【0065】
S3において、サンプル測定が行われる(
図13(C))。PC2905の制御により、投受光部2903は、出射部により成膜領域R11(サンプル領域)にレーザ光を出射して、その反射光を受光部により受光する。PC2905は、受光部による反射光の受光強度P
Rを取得する。
【0066】
S4において、膜厚の特定が行われる。PC2905は、成膜領域R11で反射した反射光及びリファレンス領域R12a~R12dで反射した反射光についての投受光部2903の受光部の受光結果に基づいて、成膜領域R11に成膜された膜の厚さを特定する。前述したように、PC2905は、バックグラウンド測定、リファレンス測定及びバックグラウンド測定の測定結果を用いて、成膜された成膜領域R11の反射率Rを算出することができる。そして、PC2905は、今回の測定により算出した反射率Rと、記憶している膜厚と反射率との関係を示す情報とに基づいて、成膜領域R11に形成された膜の膜厚を特定することができる。
【0067】
詳細には、本実施形態では、PC2905は、受光強度PRrefa~PRrefdの平均値である受光強度PRrefaveを用いて膜厚を特定する。前述したように、基板Wの姿勢(撓み方)の影響を考慮すると、成膜領域R11と、そこから所定距離離れたリファレンス領域R12a~R12dとでは、姿勢(撓み方)の違いにより受光部における受光強度が異なる恐れがある。本実施形態では、を用いることで、基板Wの姿勢の違いの影響を低減でき、リファレンス測定の精度の改善を図ることができる。さらにいえば、成膜領域R11の周囲の複数のリファレンス領域R12a~R12dの受光強度PRrefa~PRrefd平均値をとることで、成膜領域R11と同じ姿勢(撓み方)の領域についてリファレンス測定を行った場合の測定結果に近づけることができる。換言すれば、平均の受光強度PRrefaveは、成膜がなされる前の成膜領域R11に対してレーザ光を照射してリファレンス測定を行った場合の受光強度の推定値であるともいえる。
【0068】
なお、ここでは、S2においてリファレンス測定を行った後にS3においてサンプル測定を行う例を説明した。しかし、リファレンス測定及びサンプル測定は並行して行われてもよい。例えば、リファレンス領域R12a、成膜領域R11、リファレンス領域R12bの順に、投受光部2903によるレーザ光の出射及び反射光の受光を行ってもよい。これにより、測定全体での移動ユニット2906による投受光部2903の移動量を低減できるので、膜厚測定の測定効率を向上することができる。
【0069】
<6.5.3.リファレンス領域の他の配置例>
図14(A)及び
図14(B)は、膜厚測定用の成膜領域(サンプル領域)及びリファレンス領域の周辺の配置の他の例を示す図である。
【0070】
この例では、二つのリファレンス領域R12Ba及びR12Bbは、基板Wの短辺方向において成膜領域R11Bがリファレンス領域R12Ba及びR12Bbの間に位置するように設けられている。例えば、PC2905は、リファレンス領域R12Ba及びR12Bbにおける受光強度の平均値を用いて膜厚を特定する。このような配置によっても、例えばリファレンス領域が一つのみ設けられる場合と比較して、リファレンス測定の精度の改善を図ることができる。
【0071】
図14(B)の例では、成膜領域R11Cと二つのリファレンス領域R12Ca及びR12Cbとが、基板Wの短辺方向において成膜領域R11C、リファレンス領域R12Ca、リファレンス領域R12Cbの順で並ぶように位置するように設けられている。例えばPC2905は、リファレンス領域R12Ca及びR12Cbの受光強度P
RrefCa及びP
RrefCd並びに基板Wの短辺方向(X方向)の位置X
R12Ca、X
R12Cbに基づいて膜厚を特定する。詳細には、
図15に示すように、受光強度P
RrefCa及びP
RrefCd並びに位置X
R12Ca、X
R12Cbから、Y方向の位置Y=Y
Cにおける位置Xに対する受光強度R
refの関係式1501を算出する。そして、この関係式1501及び成膜領域R11CのX方向の位置X
R11Cより、リファレンス測定の結果としての受光強度
Rrefを算出する。ここで、基板Wが撓んでいる場合、X方向の位置によって投受光部2903と基板Wとの距離が変化する。このため、
図15に示すようにX方向の位置によって受光強度に変化が生じ得る。
【0072】
図14(A)及び
図14(B)で示したように成膜領域と複数のリファレンス領域とが一方向にのみ並んで配置される場合、移動ユニット2906が一方向にのみ移動しながらリファレンス測定及びサンプル測定を行うことができる。したがって、膜厚測定を効率的に行うことができる。
【0073】
なお、ここでは二つのリファレンス領域R12Ca及びR12Cbでの測定結果をもとに関係式1501を算出した。しかし、三つ以上のリファレンス領域が成膜領域R11と所定の方向に並んで設けられてもよい。そして、これらの測定結果から近似直線或いは近似曲線を算出してもよい。算出方法としては、最小二乗法を用いた方法など、公知の方法を適宜採用可能である。
【0074】
また、ここでは成膜領域R11Cと二つのリファレンス領域R12Ca及びR12Cbとが、基板Wの短辺方向に並ぶ例を示した。しかし、成膜領域R11Cと二つのリファレンス領域R12Ca及びR12Cbとが、基板Wの長辺方向に並んでもよい。或いは、基板Wの短辺方向及び長辺方向に対して斜めに並んでもよい。
【0075】
以上説明したように、本実施形態では、成膜領域と所定の方向に並んだ少なくとも二つのリファレンス領域に対して光を出射してリファレンス測定が行われる。これにより、測定精度に対する基板Wの姿勢の影響を低減できる。よって、リファレンス測定の精度の改善を図ることができる。
【0076】
また、本実施形態では、成膜領域R11とX方向に並ぶリファレンス領域R12a及びR12bと、成膜領域R11とX方向に交差するY方向に並ぶリファレンス領域R12c及びR12dとにおけるリファレンス測定の結果に基づいて膜厚が測定される。したがって、リファレンス測定の精度の改善をさらに図ることができる。
【0077】
また、本実施形態では、移動ユニット2906によって投受光部2903を移動しながら成膜領域R11及びリファレンス領域R12で測定を行っている。投受光部2903が移動すると、投受光部2903に接続する光ファイバの姿勢が変化して出射光の光量に影響を及ぼすことがある。しかし、リファレンス領域R12a~R12dでリファレンス測定を行うことで、光ファイバの姿勢変化に伴う光量変化の影響を低減することもできる。
【0078】
<8.他の実施形態>
<8.1.成膜装置>
図16は、一実施形態に係る成膜装置901の構成を示す模式図である。
【0079】
成膜ブロック9301には、平面視で八角形の形状を有する搬送室9302の周囲に、基板Wに対する成膜処理が行われる複数の成膜室9303a~9303dと、使用前後のマスクが収納されるマスク格納室9305とが配置されている。搬送室9302には、基板Wを搬送する搬送ロボット9302aが配置されている。なお、以下の説明において、成膜室9303a~9303dを特に区別しない場合、成膜室9303と称することがある。
【0080】
基板Wの搬送方向(矢印方向)で、成膜ブロック9301の上流側、下流側には、それぞれ、バッファ室9306、旋回室9307、受渡室9308が配置されている。製造過程において、各室は真空状態に維持される。なお、
図16においては成膜ブロック9301を1つしか図示していないが、本実施形態に係る成膜装置901は複数の成膜ブロック9301を有しており、複数の成膜ブロック9301が、バッファ室9306、旋回室9307及び受渡室9308で構成される連結装置で連結された構成を有する。
【0081】
搬送ロボット9302aは、上流側の受渡室9308から搬送室9302への基板Wの搬入、成膜室9303間での基板Wの搬送、マスク格納室9305と成膜室9303との間でのマスクの搬送、及び、搬送室9302から下流側のバッファ室9306への基板Wの搬出を行う。
【0082】
バッファ室9306は、成膜装置901の稼働状況に応じて基板Wを一時的に格納するための室である。バッファ室9306には、複数枚の基板Wを基板Wの被処理面(被成膜面)が重力方向下方を向く水平状態を保ったまま収納可能な多段構造の基板収納棚(カセットとも呼ばれる)と、基板Wを搬入又は搬出する段を搬送位置に合わせるために基板収納棚を昇降させる昇降機構とが設けられる。これにより、バッファ室9306には複数の基板Wを一時的に収容し、滞留させることができる。
【0083】
旋回室9307は、基板Wの向きを変更する装置を備えている。本実施形態では、旋回室9307は、旋回室9307に設けられた搬送ロボット9307aによって基板Wの向きを180度回転させる。旋回室9307に設けられた搬送ロボット9307aは、バッファ室9306で受け取った基板Wを支持した状態で180度旋回し受渡室9308に引き渡すことで、バッファ室9306内と受渡室9308とで基板Wの搬送方向(矢印方向)における前端と後端が入れ替わる。これにより、成膜室9303に基板Wを搬入する際の向きが、各成膜ブロック9301で同じ向きになるため、基板Wに対する成膜のスキャン方向やマスクの向きを各成膜ブロック9301において一致させることができる。このような構成とすることで、各成膜ブロック9301においてマスク格納室9305にマスクを設置する向きを揃えることができ、マスクの管理が簡易化されユーザビリティを高めることができる。
【0084】
受渡室9308は、旋回室9307の搬送ロボット9307aにより搬入された基板Wを下流の成膜ブロック9301の搬送ロボット9302aに受け渡すための室である。本実施形態では、後述するように、受渡室9308において基板Wに成膜された膜の膜厚測定を行う。すなわち、受渡室9308は、基板Wに形成された膜を検査する検査室であるといえる。
【0085】
成膜装置901の制御系は、ホストコンピュータとしてライン全体を制御する上位装置9300と、各構成要素を制御する制御装置9309、9310、9311、9313a~9313dとを含み、これらは有線又は無線の通信回線9300aを介して通信可能である。制御装置9313a~9313dは、成膜室9303a~9303dに対応して設けられ、成膜室における成膜処理を制御する。制御装置9309は、搬送ロボット9302aを制御する。制御装置9310は旋回室9307に設けられた搬送ロボットを制御する。制御装置9311は、受渡室9308においてアライメントや膜厚測定を行う機器を制御する。上位装置9300は、基板Wに関する情報や搬送タイミング等の指示を各制御装置9309、9310、9311、9313a~9313dに送信し、各制御装置9309、9310、9311、9313a~9313dは受信した指示に基づき各構成要素を制御する。
【0086】
<8.2.受渡室>
図17は、受渡室9308の概要を示す模式図である。受渡室9308には、基板Wを支持する基板支持部950と、基板支持部950に支持された基板Wの膜厚を測定する膜厚測定装置9120とが設けられる。なお、膜厚測定装置9120を構成する各要素については上記実施形態の膜厚測定装置120の各要素と同様の構成を有しうるため同様の符号を付して説明を省略する。
【0087】
<8.3.基板支持部>
図18は、基板支持部950を説明するための平面図である。基板支持部950は、基板Wを支持する。基板支持部950が支持する基板Wは、辺Wa、辺Waに対向する辺Wb、辺Wa及びWbを接続する辺Wcを含む矩形形状である。また、本実施形態では、辺Wa及びWbが長辺であり、辺Wc及び辺Wcに対向する辺Wdが短辺である。基板支持部950は、枠部材951と、複数の支持部材952(952a~952d)とを含む。
【0088】
枠部材951は、複数の支持部材952を支持する部材である。枠部材951は、例えば受渡室9308の壁部等に支持される。枠部材951は、複数の支持部材952によって支持している基板Wのアライメントを実行可能なように、所定の方向に移動可能に設けられてもよい。また、枠部材951は、支持部材952に支持された状態の基板Wの全周を覆うように設けられている。しかし、枠部材951の一部に搬送ロボット9307aのハンドとの干渉を回避するための切り欠き等が設けられてもよい。
【0089】
複数の支持部材952は、基板Wを支持する部材である。複数の支持部材952は、基板Wの周縁部のうち辺Waに沿う部分を支持するように互いに離間して設けられる支持部材群952Aを含む。支持部材群952Aは、複数の支持部材952aで構成される。また、複数の支持部材952は、基板Wの周縁部のうち辺Wbに沿う部分を支持するように互いに離間して設けられる支持部材群952Bを含む。支持部材群952Bは、複数の支持部材952bで構成される。また、複数の支持部材952は、基板Wの周縁部のうち辺Wcに沿う部分を支持するように互いに離間して設けられる支持部材群952Cを含む。支持部材群952Cは、複数の支持部材952cで構成される。また、複数の支持部材952は、基板Wの周縁部のうち辺Wdに沿う部分を支持するように互いに離間して設けられる支持部材群952Dを含む。支持部材群952Dは、複数の支持部材952dで構成される。なお、本実施形態では、支持部材952は板バネである。しかし、支持部材952は、ピン、突起等の他の構造であってもよい。
【0090】
本実施形態では、基板Wを基板支持部950の複数の支持部材952で支持するため、上述した静電チャック等で基板Wを支持する場合と比較すると、基板Wが撓みやすい蛍光にある。しかしながら、本実施形態では、上述したように成膜領域と並んだ複数のリファレンス領域において受光強度の測定が行われる。よって、基板Wの姿勢の変化(撓み方)によるリファレンス測定の精度のへの影響を抑制することができる。
【0091】
さて、本実施形態では、膜厚測定装置9120は、基板Wの支持部材群952Cに支持されている付近の膜厚測定用の領域R1において測定を行う。したがって、複数の支持部材952cの間隔が相対的に大きくなると、膜厚測定用の領域R1付近の基板Wの撓みが大きくなる恐れがある。これは、膜厚測定用の領域R1に成膜される膜の膜厚に影響を及ぼす恐れがある。そこで、本実施形態では、基板Wの支持部材群952Cによって支持された部分の撓みに起因する膜厚の変動値が閾値以下となるような間隔で、支持部材群952Cを構成する各支持部材952cが設けられる。以下、詳しく説明する。
【0092】
図19(A)及び
図19(B)は、基板Wの姿勢が膜厚値に与える影響を説明するための図である。
【0093】
図19(A)は、基板Wの基準の高さをZ=0とした場合における、実際の基板Wの高さのずれに対する膜厚値の変動を示している。基板Wの基準の高さは、例えば支持部材952によって基板Wが支持された状態において、基板Wに撓みが生じていないと仮定した場合の基板Wの高さとすることができる。換言すれば、基板Wの基準の高さは、支持部材952による基板Wの支持面の高さとすることができる。また、膜厚値の基準値d
rは、基準の高さにある基板Wに対して蒸着源8が所定の条件で蒸着処理を行った場合に基板Wに形成される膜の膜厚である。つまり、
図19(A)は、基板Wの高さが異なると、蒸着源8が同じ条件で蒸着処理を行ったとしても実際に基板Wに形成される膜の膜厚が変動することを示している。
【0094】
例えば、基板Wの撓みによって基板Wの成膜位置の高さが基準の高さよりも高くなる場合(Z>0)、基板Wの成膜位置に形成される膜の膜厚は基準値drよりも小さくなる。一方で、基板Wの撓みによって基板Wの成膜位置の高さが基準の高さよりも低くなる場合(Z<0)、基板Wの成膜位置に形成される膜の膜厚は基準値drよりも大きくなる。
【0095】
図19(B)は、基板Wの角度に対する膜厚値の変動を示している。ここでは、基板Wの成膜位置が水平状態(θ=0)に対して傾くほど、基板Wの成膜位置に形成される膜の膜厚が基準値d
rよりも小さくなることが示されている。
【0096】
また、
図19(A)及び
図19(B)から、近似曲線1901の傾きをa、近似曲線1902の傾きをbとして、膜厚の基準値d
rに対する変動量Δdを以下の数式(3)で推定することができる。
Δd=aZ+bθ (3)
【0097】
このように、基板Wに成膜される膜の膜厚値の変動を抑制するためには、基板Wの高さ及び角度のずれを低減する必要がある。本実施形態のように膜厚測定用の領域R1付近を支持部材群952Cによって支持する場合は、支持部材群952Cを構成する各支持部材952cの間隔を、基板Wの高さ及び角度のずれの許容度に応じて設定すればよい。
【0098】
詳細には、各支持部材952cの間隔が大きいほど、基板Wの撓みによる高さ及び角度のずれの影響は大きくなる。すなわち、成膜位置の基準に対する高さのずれの最大値Zmax及び成膜位置の水平面に対する角度の最大値θmaxは、各支持部材952cの間隔Lに依存する。よって、例えば、許容可能な変動量Δdの閾値をΔdthとした場合に、以下の数式(4)を満たすように間隔Lを設定することで、膜厚の変動量を所望の範囲に収めることができる。
Δdth≧aZmax+bθmax (4)
【0099】
なお、最大値Zmax及び最大値θmaxは、間隔Lの他、基板Wのサイズや剛性等にも依存する。したがって、これらの条件も加味したうえで上記式(4)が満たされるように間隔Lが設定されてもよい。
【0100】
<9.電子デバイスの製造方法>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。例えば、
図1に示される一つの搬送室2、一つのターミナル室3及び二つの成膜室4を一つのクラスタとして、三つのクラスタを連結することによって、後述する第1の成膜室~第6の成膜室が提供されてもよい。
【0101】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図20(A)は有機EL表示装置50の全体図、
図20(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0102】
図20(A)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0103】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0104】
図20(B)は、
図20(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0105】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図20(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0106】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0107】
図20(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0108】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0109】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0110】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0111】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0112】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0113】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜室に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0114】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜室に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0115】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜室において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜室において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜室において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0116】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜室に移動し、第2の電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜室~第6の成膜室では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜室における第2の電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2の電極58までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0117】
ここで、第1の成膜室~第6の成膜室での成膜は、形成されるそれぞれの層のパターンに対応した開口が形成されたマスクを用いて成膜される。成膜の際には、基板53とマスクとの相対的な位置調整(アライメント)を行った後に、マスクの上に基板53を載置して成膜が行われる。
【0118】
<10.その他>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0119】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0120】
1:成膜装置、5A~5B:搬送ユニット、6A~6D:キャリア、7A~7B:移動ユニット、63:マスク保持部