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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158209
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】異種接合体の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073208
(22)【出願日】2023-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「二重刺激誘起気泡核生成による異種材料界面の分解制御」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】瀧 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】森 勇人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩志
(72)【発明者】
【氏名】宮田 剣
(72)【発明者】
【氏名】岡村 晴之
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA23
4F401AD03
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA35
4F401CA48
4F401CA49
4F401CA88
4F401CB01
4F401EA43
4F401FA02Z
(57)【要約】
【課題】金属体と樹脂体を接合させた異種接合体に対して、必要に応じて金属体と樹脂体を分離できる方法の提供を目的とする。
【解決手段】金属体の粗面に対して樹脂体を接合させた異種接合体から、該金属体と樹脂体とをそれぞれ分離する異種接合体の分離方法であって、前記異種接合体に気泡核生成ガスを含浸させる気泡核生成工程と、前記異種接合体に含浸させた気泡核生成ガスを発泡させる発泡工程とを備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体の粗面に対して樹脂体を接合させた異種接合体から、該金属体と樹脂体とをそれぞれ分離する異種接合体の分離方法であって、
前記異種接合体に気泡核生成ガスを含浸させる気泡核生成工程と、
前記異種接合体に含浸させた気泡核生成ガスを発泡させる発泡工程とを備える、異種接合体の分離方法。
【請求項2】
前記気泡核生成工程は、前記異種接合体と気泡核生成ガスとを耐圧容器内に封入し、該耐圧容器内を高圧状態にする、請求項1記載の異種接合体の分離方法。
【請求項3】
前記発泡工程は、前記気泡核生成工程により気泡核生成ガスを含浸させた異種接合体を所定の温度に加熱する、請求項1記載の異種接合体の分離方法。
【請求項4】
前記気泡核生成工程において、前記耐圧容器内を10MPa以上にする、請求項2記載の異種接合体の分離方法。
【請求項5】
前記発泡工程において、前記所定の温度は、前記樹脂体を構成する樹脂のガラス転移温度以下である、請求項3記載の異種接合体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体と樹脂体を接合させた異種接合体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤を使用しないで金属体と樹脂体を直接接合させる技術が注目されている。
例えば特許文献1には、金属表面にレーザー光を照射して凹凸を形成し、凹凸形成部位に樹脂等を射出成形する電気電子部品の製造方法が開示されており、金属表面に凹凸を形成してアンカー効果を高めている。
特許文献2には、金属成形体の接合面に対してレーザー光を連続照射して粗面化し、樹脂成形体との接合強度を高めた複合成形体の製造方法が開示されている。
【0003】
このような接合体は、接合界面が強固に安定化されて分解が容易でない。
しかしながら、資源循環型社会実現への貢献が必要不可欠な現代社会においては、異種接合体を金属体と樹脂体とに分離して、各々のリサイクル化が望まれている。
そして、廃棄時等では安定な接合界面を分解して接合体を解体できる一方で、使用時等では接合体が脆弱でないことが求められており、両者を両立可能な技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-294024号公報
【特許文献2】特開2015-142960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、金属体と樹脂体を接合させた異種接合体に対して、必要に応じて金属体と樹脂体を分離できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る異種接合体の分離方法は、金属体の粗面に対して樹脂体を接合させた異種接合体から、該金属体と樹脂体とをそれぞれ分離する異種接合体の分離方法であって、前記異種接合体に気泡核生成ガスを含浸させる気泡核生成工程と、前記異種接合体に含浸させた気泡核生成ガスを発泡させる発泡工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
強固に安定化された接合界面を剥離して分解するには、界面の凝縮エネルギーに打ち勝つほどの熱力学的な仕事、すなわち体積膨張を接合界面で起こす必要がある。
そこで本発明は、外部刺激に誘起された気泡核生成を起点とする発泡現象により、マクロな体積膨張を起こして、異種接合体の接合界面を自在に分解する。
外部刺激(気泡核生成工程)を第1刺激とし、発泡誘因刺激(発泡工程)を第2刺激として、複数の刺激により金属体と樹脂体を分離することで、使用時等に異種接合体が脆弱となる(偶発的に分離する)のを防止できる。
【0008】
本発明において、前記気泡核生成工程は、前記異種接合体と気泡核生成ガスとを耐圧容器内に封入し、該耐圧容器内を高圧状態にしてもよい。
例えば、異種接合体と気泡核生成ガスとを耐圧容器中に封入するステップと、耐圧容器内を高圧状態にするステップと、耐圧容器内を降圧するステップを有してもよい。
異種接合体と気泡核生成ガス(例えば、二酸化炭素ガス)を耐圧容器内に封入して高圧状態にすることで、樹脂に気泡核生成ガスが含浸し、接合界面に気泡核が生成される。
【0009】
本発明において、前記発泡工程は、前記気泡核生成工程により気泡核生成ガスを含浸させた異種接合体を所定の温度に加熱してもよい。
例えば、耐圧容器内から気泡核生成ガスを含浸させた異種接合体を取り出すステップと、気泡核生成ガスを含浸させた異種接合体を所定の温度に加熱するステップを有してもよい。
気泡核生成ガスを含浸させた異種接合体に加熱処理を施すことによって、気泡核生成工程で出現した気泡核が膨張し、接合界面に隙間が形成されて強度が低下する。
【0010】
例えば、気泡核生成工程において、前記耐圧容器内を10MPa以上にしてもよい。
これにより、発泡工程において、加熱温度が低温域であっても金属体と樹脂体の分離に必要なエネルギーを小さくしやすい。
例えば、発泡工程において、前記所定の温度は、前記樹脂体を構成する樹脂のガラス転移温度以下であってもよい。
これにより、金属体と樹脂体の接合界面を分解して異種接合体を解体した際に、金属体表面に残留する樹脂体の割合を低くしやすい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の刺激によって異種接合体を構成する金属体と樹脂体の接合界面を分解することで、異種接合体の使用時等では金属体と樹脂体の接合強度が高く、廃棄時等の必要な時に金属体と樹脂体とを分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施例の異種接合体を示す。
図2】本実施例の異種接合体の分離方法を示す。
図3】試験1-1の結果(樹脂に含浸したガス濃度)を示す。
図4】試験1-2の結果(発泡倍率)を示す。
図5】試験2の結果(強度)を示す。
図6】試験3の結果(樹脂体残存率)を示す。
図7】強度と樹脂体残存率との関係を示す。
図8】試験4の結果(X線を用いた界面写真)の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る異種接合体は、接着剤未使用で金属体と樹脂体を接合させたものをいう。
例えば、金属体の表面をレーザー光照射や大気圧プラズマ処理等にて粗面化(例えば、特許文献1における凹凸の形成、特許文献2における開放孔、内部空間、トンネル接続路、開放空間等の形成)し、この粗面に樹脂体を射出成形や圧縮成形等することで、粗面に樹脂体が入り込んだ状態となって異種接合体が製造される。
例えば、金属体と樹脂体の界面を接着剤で接合した医療機器において、接着剤未使用で金属体と樹脂体を接合すれば、医療機器内の医薬品などに接着剤が漏出するリスクがなく、このような接着剤未使用な異種接合体は、医療機器や食品包装、自動車部品等の様々なものとして利用が期待されている。
【0014】
金属体は、その金属に特に制限はなく、例えば、アルミニウムまたはその合金、鉄、ステンレス、亜鉛、マグネシウム、銅、鉛、錫およびそれらを含む合金から選択されるものであってもよく、例えば、金属体がダイカスト法で製造されたものであってもよく、例えば、金属体がアルマイト処理、メッキ処理、電着塗装等されたものであってもよい。
【0015】
樹脂体は、その樹脂に特に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、非晶性樹脂、結晶性樹脂等が挙げられるが、樹脂を発泡させる観点からは非晶性樹脂であることが好ましい。
例えば、非晶性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂などが挙げられ、結晶性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
樹脂体は、樹脂のほかに公知の繊維状充填材が配合されてあってもよい。
繊維状充填材としては、例えば、炭素繊維(例えば、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等)、無機繊維(例えば、ガラス繊維、玄武岩繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、窒化ケイ素繊維等)、金属繊維(例えば、ステンレス、アルミニウム、銅等からなる繊維)、有機繊維(例えば、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等)が挙げられ、樹脂と繊維状充填材の配合量に特に制限はない。
【0016】
以下、本実施例として、金属体がアルミニウム合金(A5052、約45×10×1.5mm、以下「Al」と表記)、樹脂体がガラス繊維40重量%配合ポリカーボネート(パンライト(登録商標)G3440L1 BLK(帝人株式会社製)、約45×10×3mm、以下「PC/GF40」と表記)である異種接合体(DLAMP(登録商標)(ダイセルミライズ株式会社製)、以下「Al-PC/GF40」と表記)を例に説明する。
図1に示すように、Alの端部表面にレーザー光を照射して粗面化し、この粗面(約5×10mm)にPC/GF40を射出インサート成形により接合してある。
【0017】
本明細書において、異種接合体の分離とは、異種接合体を構成する金属体と樹脂体とを分離して、各々をリサイクルできることが好ましい。
金属体と樹脂体の接合界面を分解して異種接合体を解体した際に、金属体表面に残留する樹脂体割合が低くなれば、金属体、樹脂体ともにリサイクル性に優れる。
また、金属体と樹脂体の分離に必要なエネルギーが小さければ、環境負荷エネルギーを軽減できる。
【0018】
図2に、本実施例の異種接合体の分離方法を示し、図中のInterface conditionは、本発明の概念を示す。
分離方法は、異種接合体に気泡核生成ガスを含浸させる気泡核生成工程と、異種接合体に含浸させた気泡核生成ガスを発泡させる発泡工程とを備える。
「均一核生成」が均一な溶媒中(液相内など)での気泡生成を指すことに対して、「不均一核生成」とは気泡が固体表面などの二層界面において生成することを指し、本発明は、この不均一核生成が深く関係する。
不均一核生成速度Jは下記式(1)で与えられる。
F(θ)は濡れ角因子、θは固体表面と気泡との接触角、m’は濡れ角を表すパラメータ、mは粒子1つあたりの質量、γは表面張力、kはボルツマン定数、Tは温度、Pは気泡の内圧、Pは大気圧、Nは準安定状態における単位体積当たりの粒子数である。
異種接合体の接合界面では、気泡核生成の自由エネルギー障壁が低く、熱力学的に有利な状況になるため、気泡核生成が起こりやすいとされている。
この理論を基に、ガス含浸させた異種接合体を加熱することで、ガスの飽和度の違いを利用して気泡を生成する。
気泡核生成ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素等が挙げられるが、気泡核生成ガスは樹脂に対する溶解度が高いものが好ましく、例えば、二酸化炭素が好ましい。
気泡核生成工程は、異種接合体と気泡核生成ガスとを耐圧容器内に封入して、耐圧容器内を高圧状態にする。
耐圧容器内を所定時間高圧状態とした後は、圧力を解除して降圧するが、降圧速度が遅いほど生成した気泡核が耐圧容器内で発泡するのを抑制できる。
発泡工程は、耐圧容器内から気泡核生成ガスを含浸させた異種接合体を取り出して、所定の温度に加熱する。
以下、具体的な試験に基づいて、説明する。
【0019】
<試験1-1:気泡核生成ガスの含浸試験>
耐圧容器としてオートクレーブを用い、耐圧容器内に異種接合体(Al-PC/GF40)を入れた状態で、タンクから冷却装置へ移動して一時的に液体として溜めた二酸化炭素ガスを圧力ポンプの自動制御により耐圧容器内に封入した。
耐圧容器内は、圧力ポンプとオートクレーブにて指定の圧力と温度を維持し、本試験の含浸条件は、含浸圧力5MPa、7.5MPa、又は10MPa、含浸温度80℃、含浸時間24時間とした。
24時間含浸後、二酸化炭素ガスを放出して5分間かけて耐圧容器内を降圧した。
樹脂に含浸した二酸化炭素濃度の算出方法については後述するが、含浸時間の増加に伴う二酸化炭素濃度の変化として、含浸時間0~18時間にかけては時間に比例して含浸されたものの、それ以降は緩やかに増加する傾向にあり、含浸時間30~40時間ではガス含浸は飽和すると推定されたことから、本試験においては含浸時間を24時間とした。
【0020】
上記含浸試験において、樹脂(PC)に含浸した二酸化炭素量の割合をCO濃度Gといい、その算出方法を下記式(2)に示す。
は樹脂体の質量、wはガラス繊維を除いた樹脂の質量、Gはガス含浸量とする。
1回の含浸試験において、各含浸圧力につき、5個のAl-PC/GF40を試料とし、試験前後に各試料の重量を測定してガス含浸量Gを算出し、上記式(2)を用いて5個の試料の二酸化炭素濃度を求めて、その平均値を算出した。
図3は、上記含浸試験を5回実施した結果、すなわち各含浸圧力につき、25個の試料におけるCO濃度Gの平均値と、その標準偏差を示す。
【0021】
図3に示すように、二酸化炭素濃度の変化傾向から、二酸化炭素濃度が含浸圧力に比例していることが読み取れる。
これは、含浸圧力が増加すると、耐圧容器内の二酸化炭素ガス濃度が高濃度になり、これに伴い樹脂内のガス濃度が高くなるためと考えられるが、樹脂内に含浸できるガス濃度には限界量が存在し、昇圧していくうちに含浸量は飽和して、ある圧力値にて比例傾向は終わると考えられる。
【0022】
<試験1-2:含浸後における加熱試験>
上記含浸試験にて耐圧容器内を降圧した後、耐圧容器内から試料を取り出して、さらに試料をホットプレートにて加熱した。
この際、Alの表面側にPC/GF40との接合面があるとすると、Alの裏面をホットプレート上に載置した。
加熱条件は、加熱温度(ホットプレートの設定温度)110℃、120℃、130℃、140℃、又は150℃、加熱時間180秒とした。
なお、ホットプレートは、予め所望の加熱温度で予熱しておいた。
【0023】
上記含浸及び加熱試験において、樹脂に含浸した二酸化炭素が樹脂体の体積を膨張させた倍率を発泡倍率Xといい、下記式(3)のように表せる。
ρは含浸試験前の樹脂体の比重、ρは含浸及び加熱(発泡)試験後の樹脂体の比重とする。
発泡倍率を求める際、試験前後の樹脂密度を決める必要がある。
その算出方法を下記式(4)(5)に示すが、これは無作為に取り出した3つの試料の平均値から近似したデータを取り入れたものであり、式(4)(5)における各記号の定義を、下記表1に示す。
【表1】
上記含浸及び加熱試験後、比重計(MDS-300)を用いてAl-PC/GF40の体積を測定し、そのデータを上記式(4)(5)に取り入れて樹脂密度を算出した後、試験前後の樹脂密度を上記式(3)に代入して発泡倍率を求めた。
図4に、発泡倍率の結果を示す。
なお、各棒グラフは、5個の試料における平均値を示す。
図4に示すように、含浸圧力が高いほど、また加熱温度が高いほど発泡倍率は高くなった。
【0024】
<試験2:強度試験>
万能試験機(AGS-5kNX、株式会社島津製作所製)を用いて、上記二重刺激(含浸及び加熱試験)後の試料について、その強度を定量的に計測した。
比較例として、初期状態(含浸試験前)、単一刺激(含浸試験後に加熱なし、又は、含浸試験を実施せずに加熱のみ)後の試料についても、強度試験を実施した。
強度試験は、IS019095-3に準じた治具に試料を固定し、水平器を2つ取り付けて、試料界面と平行方向に負荷動作を行った。
強度試験条件は、ロードセル容量5000N、引張速度1mm/minとした。
強度試験後、万能試験機からは荷重変位線図がデータ出力されるが、この荷重変位線図における最大荷重値を試料強度として、その結果を図5に示す。
各棒グラフは、3個の試料における平均値を示す。
【0025】
図5を全体的にみると、二重刺激後の試料については、含浸圧力が高いほど、また加熱温度が高いほど、低い最大荷重を示した。
これは、図3、4からもわかるように、含浸圧力が高圧力域ほど樹脂に多くのガスが含浸し、加熱温度が高いほど樹脂の膨張率が増加することで、金属体と樹脂体の結合構造を破壊しやすくなったためと考えられる。
樹脂には物質の状態が固体から液体へと変化する「融点」、同じ固体状態でも分子が強固に結びついているガラス状態から非晶部分の流動性が活発になるゴム状へと遷移する「ガラス転移温度」が存在する。
図5において、加熱温度が130℃以上で強度低下が大きいのは、PC/GF40の場合、ガラス転移温度が約130℃に存在するため、この温度付近は機械的性質が変化する境界であり、約130℃以上の温度域では、樹脂は柔らかいゴム状へと遷移し界面の結合を緩和させるために強度が低下したと考えられる。
図4の発泡倍率と、図5の強度の結果を詳細にみると、図4に示す加熱温度150℃での発泡倍率は、含浸圧力5MPaで約1.05、7.5MPaで約1.10、10MPaで約1.30と高圧力域で発泡倍率が突出して大きくなったのに対し、図5に示す加熱温度150℃での強度は、いずれの含浸圧力でも約500Nであった。
一方、120℃での発泡倍率は、含浸圧力5MPa、7.5MPaともに1.05未満、10MPaで約1.15と高圧力域で発泡倍率が高いとともに、加熱温度120℃での強度も高圧力域で低かった。
このことから、加熱温度域によって、樹脂の膨張具合が界面強度に及ぼす度合が変化すると考えられる。
【0026】
<試験3:界面観察・画像解析>
上記含浸及び加熱試験後の試料を、上記強度試験にて引張破断させると、各条件によってAl表面に残留するPC/GF40量に変化があった。
そこで、デジタルマイクロスコープ(VHX-7100)にて、拡大倍率20倍、レンズはVHX-E20を用いて、金属体の表面状態を撮影した。
撮影後、金属体表面上に残留している樹脂体の面積割合を、image jの輝度解析機能を用いて測定した。
なお、閾値は120で統一し、下記の手順にて実施した。
(1)image jを起動し、画像ファイルを開く。
(2)画像から接合部分のみを切り抜く。
(3)切り抜いた画像のビット数を8に落として、白黒表示する。
(4)Thresholdを開き、閾値を120に設定する。
(5)Analyze Particlesを開き解析開始し、画像内の黒い面積割合数値を得る。
図6に、樹脂体残留率を示す。
【0027】
図6から、加熱のみを施した試料は、加熱温度の上昇とともに残留樹脂体割合は緩やかに減少し、ガラス転移点などの機械的性質が切り替わる前後で大きな変化はなく、初期状態の金属体表面状態とほぼ同じであった。
これに対して、二重刺激後の試料は、特に含浸圧力が低圧力域(5MPa、7.5MPa)において、ガラス転移点(約130℃)後の残留樹脂体割合が、転移点前と比較して急激に増加したが、これはガス含浸による気泡核生成とガラス転移点前後の樹脂硬度の変化が関係していると考えられる。
ガス含浸によって樹脂内(特に接合界面付近)に気泡が生成されるが、その後の加熱工程において、加熱温度がガラス転移点よりも高いと、気泡が成長しやすいことに加えて樹脂がゴム状へと柔らかくなり、材料強度が落ちて接合界面ではない位置で破断しやすくなるために残留量が増えた一方で、ガラス転移点前であると樹脂はガラス状のままなので、きれいに分離しやすくなったと考えられる。
なお、加熱のみを施した試料では、気泡生成が起こらず、樹脂状態は大きく変わらないため、仮に約130℃より高い温度でゴム状になっても、その後常温となってガラス状に戻るので、残留量は初期状態と大きく変わらなかったと考えられる。
【0028】
図7に、強度と樹脂体残存率との関係を示す。
縦軸は、初期状態(含浸試験前)試料の強度を1とした相対強度を示す。
樹脂体残存率及び相対強度が0に近づくほど、残留樹脂体が少なく環境負荷エネルギーが小さくなる。
本実施例においては、含浸圧力10MPa及び加熱温度130℃条件での二重刺激により、AlとPC/GF40の分離後におけるAl表面残留PC/GF40割合が最も低く、環境負荷エネルギーも小さいことがわかった。
【0029】
<試験4:X線観察>
X線測定にて、接合界面付近の発泡状況を観察した。
X線測定のために、PCBカッター・マニュアル精密研磨装置にて、試料の界面付近を2×10×2mmの角柱に成形した。
X線を用いた界面写真の一例を、図8に示す。
図8左側は初期状態を、右側は含浸圧力10MPa及び加熱温度130℃条件での二重刺激後の界面写真を示す。
下側部分がAl、上側部分がPC/GF40、△で囲ったのは気泡核生成や発泡の跡である。
例えば、含浸圧力5MPa及び加熱温度140℃、含浸圧力7.5MPa及び加熱温度140℃条件では、金属体と樹脂体の界面付近よりも樹脂体側に多く気泡核生成が観察できた。
これを図6の樹脂体残留率の結果と関連付けると、接合界面からずれた場所で発泡が頻発して剥離したことから、残留樹脂体割合が多かったと考えられる。
一方、含浸圧力10MPa及び加熱温度130℃条件では、図8右側に示すように界面付近に発泡が確認でき、接合界面にて剥離したために残留樹脂体が少なかったと考えられる。
すなわち、樹脂体残存率が100%に近い試料では、樹脂体内部での凝集破壊が起きた一方で、接合界面で気泡が多く生成し、界面剥離が起きた試料では、樹脂体残存率が低くなったと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8