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特開2024-158233ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び成形品並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158233
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び成形品並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20241031BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241031BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08G75/0281
C08K3/013
C08L21/00
C08L81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073259
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】奈良 早織
(72)【発明者】
【氏名】笠谷 幸平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
4J002AA003
4J002BB003
4J002BB043
4J002BB143
4J002BB153
4J002BB163
4J002BD123
4J002CL064
4J002CN011
4J002CN012
4J002CP033
4J002DA026
4J002DB006
4J002DE236
4J002DG056
4J002DJ006
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002DM006
4J002FA016
4J002FA046
4J002FA086
4J002FD016
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC01
4J030BC08
4J030BD21
4J030BE02
4J030BF01
4J030BG04
4J030BG26
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】ポリアリーレンスルフィド(PAS)オリゴマーを活用することで環境に配慮しながら、結晶化速度と溶融粘度のバランスに優れた樹脂組成物及び当該樹脂組成物を溶融成形してなる成形品並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】直鎖型PAS(A)と、PASオリゴマー(B)とを必須成分として配合してなるPAS樹脂組成物であって、前記PASオリゴマー(B)における環状PASオリゴマー(X)と鎖状PASオリゴマー(Y)の質量比が0:100~66:33であり、前記PASオリゴマー(B)の配合量が前記直鎖型PAS(A)100質量部に対し5.0質量部以下であり、かつ、粘度変化率が±20%の範囲であるPAS樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖型ポリアリーレンスルフィド(A)と、オリゴアリーレンスルフィド(B)とを必須成分として配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記オリゴアリーレンスルフィド(B)における環状オリゴアリーレンスルフィド(X)と鎖状オリゴアリーレンスルフィド(Y)の質量比が0:100~66:33であり、
前記オリゴアリーレンスルフィド(B)の配合量が前記直鎖型ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対し5.0質量部以下であり、かつ、
粘度変化率が±20%の範囲であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(ただし、粘度変化率は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値である溶融粘度(V6)を用いて、次式より算出したものであること)
粘度変化率(%)=(前記ポリアリーレンスルフィド(A)の溶融粘度(Pa・s)-ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(Pa・s))/前記ポリアリーレンスルフィド(A)の溶融粘度(Pa・s)×100
【請求項2】
前記環状オリゴアリーレンスルフィド(X)が、
有機極性溶媒(1)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、ポリアリーレンスルフィド(a)、オリゴアリーレンスルフィド(b)、有機極性溶媒(1)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
前記粗反応混合物を固液分離して、少なくともオリゴアリーレンスルフィド(b)及び前記有機極性溶媒(1)を含む反応混合物(L1)を得る工程(2)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒(1)を固液分離して、少なくともオリゴアリーレンスルフィド(b)を含む反応混合物(S1)を得る工程(3)、
前記反応混合物(S1)を有機極性溶媒(2)と接触させて、混合物(L2)を得る工程(4)、
前記混合物(L2)を25℃以下まで除冷し、固相成分を除去して液相成分(L3)を得る工程(5)及び、
前記液相成分(L3)を濃縮する工程(6)を有する方法で製造されたものであること、を特徴とする請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記鎖状オリゴアリーレンスルフィド(Y)が
有機極性溶媒(1)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、ポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド(b)、有機極性溶媒(1)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む粗反応混合物を得る工程(1)
前記粗反応混合物を固液分離して、少なくともオリゴアリーレンスルフィド(b)及び前記有機極性溶媒(1)を含む反応混合物(L1)を得る工程(2)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒(1)を固液分離して、オリゴアリーレンスルフィド(b)を含む反応混合物(S1)を得る工程(3)、
前記反応混合液(S1)を有機極性溶媒(2)と接触させて混合物(L2)を得る工程(4)及び、
前記混合物(L2)を前記有機極性溶媒(2)の沸点-10℃以上の温度範囲で固液分離して、固相成分(S2)を回収する工程(7)を有する方法で製造されたものであること、を特徴とする請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、熱可塑性エラストマーを配合してなる、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、無機充填剤を配合してなる、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項7】
直鎖型ポリアリーレンスルフィド(A)と、オリゴアリーレンスルフィド(B)とを必須成分として配合し、ポリアリーレンスルフィドの融点以上で溶融混練する工程を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記オリゴアリーレンスルフィド(B)における環状オリゴアリーレンスルフィド(X)と鎖状オリゴアリーレンスルフィド(Y)の質量比が0:100~66:33であり、
前記オリゴアリーレンスルフィド(B)の配合量が前記直鎖型ポリアリーレンスルフィド(A)100質量部に対して5.0質量部以下であり、かつ、 粘度変化率が±20%の範囲であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(ただし、粘度変化率は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値である溶融粘度(V6)を用いて、次式より算出したものであること)粘度変化率(%)=(前記ポリアリーレンスルフィド(A)の溶融粘度(Pa・s)-ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(Pa・s))/前記ポリアリーレンスルフィド(A)の溶融粘度(Pa・s)×100
【請求項8】
前記環状オリゴアリーレンスルフィド(X)が、
有機極性溶媒(1)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、ポリアリーレンスルフィド(a)、オリゴアリーレンスルフィド(b)、有機極性溶媒(1)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
前記粗反応混合物を固液分離して、少なくともオリゴアリーレンスルフィド(b)及び前記有機極性溶媒(1)を含む反応混合物(L1)を得る工程(2)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒(1)を固液分離して、少なくともオリゴアリーレンスルフィド(b)を含む反応混合物(S1)を得る工程(3)、
前記反応混合物(S1)を有機極性溶媒(2)と接触させて、混合物(L2)を得る工程(4)、
前記混合物(L2)を25℃以下まで除冷し、固相成分を除去して液相成分(L3)を得る工程(5)及び、
前記液相成分(L3)を濃縮する工程(6)を有する方法で製造されたものであること、を特徴とする請求項7記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記鎖状オリゴアリーレンスルフィド(Y)が
有機極性溶媒(1)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、ポリアリーレンスルフィド、オリゴアリーレンスルフィド(b)、有機極性溶媒(1)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む粗反応混合物を得る工程(1)
前記粗反応混合物を固液分離して、少なくともオリゴアリーレンスルフィド(b)及び前記有機極性溶媒(1)を含む反応混合物(L1)を得る工程(2)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒(1)を固液分離して、オリゴアリーレンスルフィド(b)を含む反応混合物(S1)を得る工程(3)、
前記反応混合液(S1)を有機極性溶媒(2)と接触させて混合物(L2)を得る工程(4)及び、
前記混合物(L2)を前記有機極性溶媒(2)の沸点-10℃以上の温度範囲で固液分離して、固相成分(S2)を回収する工程(7)を有する方法で製造されたものであること、を特徴とする請求項7記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
さらに、熱可塑性エラストマーを配合する、請求項7記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
さらに、無機充填剤を配合する、請求項7記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項7又は8の方法で樹脂組成物を製造する工程、及び、前記樹脂組成物を溶融成形する工程を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及び成形品並びにそれらを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
PAS樹脂は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性有機溶媒中で、スルフィド化剤と、ポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法等により得られる。この時、オリゴアリーレンスルフィド(以下、PASオリゴマーということがある)、残存スルフィド化剤、塩化ナトリウムなどの副生成物も同時に生成されるが、当該副生成物は不純物とされ、従来活用が進んでいなかった。特に、重合後の溶剤スラリーを固液分離して得られる液相成分に含まれるPASオリゴマーは、そのほとんどが産業廃棄物として廃棄され、原料費ロスと廃棄費の点から生産における多大な損失を招いていた。また、限られた資源を有効に活用できない点で、地球環境への配慮に欠けていた。
【0004】
PASオリゴマーをPAS樹脂組成物の原料として配合する試みとしては、例えば特許文献1に、PAS樹脂と少なくとも1つのSH末端を持つ分子量が2000以下のPASオリゴマーとアルコキシシラン化合物とを配合してなる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、環状PASオリゴマーは溶融混練時に開環重合により増粘したり、樹脂組成物の結晶化速度を遅延させたりすることがあり、加工性や機械的特性等への懸念から、PAS樹脂組成物の原料として活用する例は乏しかった。環状PASオリゴマーの加熱時の反応性を制御する技術としては、有機カルボン酸化合物を配合する方法(特許文献2等)や、低原子価鉄化合物を配合する方法(特許文献3等)、カルボン酸銅化合物を配合する方法(特許文献4等)等が知られているが、加熱条件が限定されていたり、他の成分との副反応が生じる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-172500号公報
【特許文献2】特開2011-173953号公報
【特許文献3】特開2012-92315号公報
【特許文献4】特開2016-11382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、PASオリゴマーを活用することで環境に配慮しながら、結晶化速度と溶融粘度のバランスに優れた樹脂組成物及び当該樹脂組成物を溶融成形してなる成形品並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PASの重合時に副生されるPASオリゴマーである環状オリゴマーと鎖状オリゴマーを特定の比率で混合したものをPASに配合することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本開示は、
直鎖型PAS(A)と、PASオリゴマー(B)とを必須成分として配合してなるPAS樹脂組成物であって、
前記PASオリゴマー(B)における環状PASオリゴマー(X)と鎖状PASオリゴマー(Y)の質量比が0:100~66:33であり、
前記PASオリゴマー(B)の配合量が前記直鎖型PAS(A)100質量部に対し5.0質量部以下であり、かつ、
粘度変化率が±20%の範囲であるPAS樹脂組成物に関する。
【0009】
さらに本開示は、前記記載のPAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品に関する。
【0010】
さらに本開示は、
直鎖型PAS(A)と、PASオリゴマー(B)とを必須成分として配合し、PASの融点以上で溶融混練する工程を有するPAS樹脂組成物の製造方法であって、
前記PASオリゴマー(B)における環状PASオリゴマー(X)と鎖状PASオリゴマー(Y)の質量比が0:100~66:33であり、
前記PASオリゴマー(B)の配合量が前記直鎖型PAS(A)100質量部に対して5.0質量部以下であり、かつ、 粘度変化率が±20%の範囲である、PAS樹脂組成物の製造方法に関する。
【0011】
さらに本開示は、前記記載の方法で樹脂組成物を製造する工程、及び、前記樹脂組成物を溶融成形する工程を有する、PAS樹脂成形品の製造方法に関する。
【0012】
なお、本発明において、繰り返し数2~40(2量体~40量体の混合物)を有する化合物を「オリゴマー」と称し、41以上の繰り返し数を有する化合物を「ポリマー」と称することがある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PASオリゴマーを活用することで環境に配慮しながら、結晶化速度と溶融粘度のバランスに優れた樹脂組成物及び当該樹脂組成物を溶融成形してなる成形品並びにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組み合わせて好適な数値範囲とすることができる。
【0015】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、直鎖型PAS(A)と、PASオリゴマー(B)とを必須成分として配合してなるPAS樹脂組成物であって、
前記PASオリゴマー(B)における環状PASオリゴマー(X)と鎖状PASオリゴマー(Y)の質量比が0:100~66:33であり、
前記PASオリゴマー(B)の配合量が前記直鎖型PAS(A)100質量部に対し5.0質量部以下であり、かつ、
粘度変化率が±20%の範囲であることを特徴とする。以下、詳述する。
【0016】
<PAS(A)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必須成分として直鎖型PAS(A)を配合してなる。架橋型PASは適用されない。
【0017】
本実施形態に適用できるPAS(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するポリマーであり、具体的には、下記一般式(1)
【0018】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0019】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0020】
【化2】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0021】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)~(3)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)~(7)
【0022】
【化3】
で表される構造部位を、前記一般式(1)~(3)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本開示では上記一般式(4)~(7)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS(A)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS(A)中に、上記一般式(4)~(7)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0023】
また、前記PAS(A)は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0024】
また、PAS(A)の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0025】
(溶融粘度)
本開示に用いるPAS(A)の溶融粘度は特に限定されないが、流動性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは2Pa・s以上の範囲、より好ましくは5Pa・s以上の範囲であり、そして、好ましくは500Pa・s以下の範囲、より好ましくは200Pa・s以下の範囲である。最も好適な範囲は5Pa・s以上から100Pa・s以下である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0026】
(非ニュートン指数)
本開示に用いるPAS(A)の非ニュートン指数は特に限定されないが、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなPAS(A)は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本開示において非ニュートン指数(N値)は、キャピラリーレオメーターを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0027】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]
【0028】
(製造方法)
前記PAS(A)の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPASを製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0029】
重合工程により得られたPASを含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、さらに水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0030】
尚、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PASの乾燥は真空中で行ってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0031】
本実施形態に用いるPAS(A)は、上記の方法で新たに重合したPASを用いることもできるし、リサイクルされたPASを用いることもできる。例えば、PAS樹脂組成物やPAS樹脂成形品から回収したPASを用いることもでき、具体的には、有機極性溶媒中でPAS樹脂組成物やPAS樹脂成形品を加熱して含有されるPASを溶解させた溶解液に、上述の後処理を行って得たPAS等が挙げられる。その他、PAS樹脂組成物やPAS樹脂成形品を機械的に粉砕したものを、PASとして用いることもでき、具体的には、成形品を製造する際に発生するスプルー又はランナーや、規格外の成形品として回収したものや、一度製品として使用した成形品等を粉砕したもの等が挙げられる。その場合、PAS以外の成分が含まれているPAS樹脂組成物やPAS樹脂成形品の粉砕品でもよい。
【0032】
<オリゴアリーレンスルフィド(B)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、さらに必須成分としてPASオリゴマー(B)を配合してなる。本実施形態に適応できるPASオリゴマー(B)は環状オリゴマー(X)ーと鎖状オリゴマー(Y)の質量比が0:100~66:33のものである。本開示におけるPASオリゴマー(B)は、前記PAS(A)と同様に芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、構成単位として上記の式(1)~(6)を含むことができる。
【0033】
本実施形態におけるPASオリゴマー(B)の配合量は、得られる樹脂組成物や成形品の加工性及び機械的特性の観点から、PAS(A)100質量部に対して、5.0質量部以下が好ましく、4.5質量部以下がより好ましい。一方、下限値については本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、PASオリゴマーの回収率の観点から、PAS(A)100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。
【0034】
(製造方法)
本実施形態で適用できるPASオリゴマー(B)の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下のような、工程(1)~(6)によって製造された環状オリゴマー(X)と、工程(1)~(4)、(7)によって製造された鎖状オリゴマー(Y)を混合して用いることができる。以下、説明する。
【0035】
-工程(1)
工程(1)は、有機極性溶媒(1)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、PAS(a)、PASオリゴマー(b)、有機極性溶媒(1)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0036】
ここで、本工程においてポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。また、枝分かれ構造とすることによってPAS樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。さらに、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類及びこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0037】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0038】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノ又はジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノ又はジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0039】
また、本工程においては、アルカリ金属硫化物又はアルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0040】
本工程において、前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0041】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0042】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0043】
本工程においては、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0044】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物又は含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0045】
また、本工程において有機極性溶媒(1)としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0046】
本工程における反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。又は、当該反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。反応条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0047】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩又はハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、さらにNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0048】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを重合反応させることにより、生成物として、PAS(a)とPASオリゴマー(B)が得られるが、その他に鎖状PASオリゴマーも副生される。また、反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0049】
-工程(2)
工程(2)は、前記粗反応混合物を固液分離して、少なくともPASオリゴマー(b)及び前記有機極性溶媒(1)を含む反応混合物(L1)を得る工程である。
【0050】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。本工程では液相成分を得るため、クウェンチ法が好ましい。
【0051】
クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS(a)を分離回収できる方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS(a)を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS(a)を含む固形分を顆粒として回収し、液相成分を得る方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS(a)の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いる方法などが挙げられる。
【0052】
-工程(3)
工程(3)は、前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒(1)を固液分離して、少なくともPASオリゴマー(b)を含む反応混合物(S1)を得る工程である。
【0053】
前記前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒(1)を除去する方法は、たとえば溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物も回収するフラッシュ法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できる。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の反応混合物(L1)を常圧中の窒素又は水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常250℃以上、好ましくは255~280℃の温度範囲かつ0.8MPa以上、好ましくは1.0~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲であり、粗反応混合物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の雰囲気下で加熱を継続しても良い。
【0054】
有機極性溶媒(1)を除去する際、固形物(不揮発分)の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは30~90質量%の範囲となるよう有機極性溶媒を除去することが望ましい。加熱による有機極性溶媒の除去を行う際の温度は用いる有機極性溶媒の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20~150℃、好ましくは40~120℃の範囲が選択できる。また、有機極性溶媒の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより有機極性溶媒の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0055】
-工程(4)
工程(4)は、前記反応混合物(S1)を有機極性溶媒(2)と接触させて、混合物(L2)を得る工程である。
【0056】
本工程で用いる有機極性溶媒(2)としては、PAS(A)及びPASオリゴマー(b)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、有機極性溶媒(1)と同様の溶媒も用いることができる。有機極性溶媒(2)としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6-ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンなどの極性溶媒を例示できる。このうち、有機極性溶媒(2)としては、双極子モーメントμが1〔D〕(※1D=3.3356×10-30C・m)以上又は誘電率ε(20℃)が2以上の極性溶媒であるものが好ましい。
【0057】
前記反応混合物(S1)を有機極性溶媒(2)に接触させる方法に特に制限は無く、例えば、該反応混合物(S1)に前記有機極性溶媒(2)を混和し、10~200℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは80~130℃の範囲で接触させた後、PASオリゴマー(B)を含む液相成分と、固形成分とに分離する方法が挙げられる。前記反応混合物(S1)と有機極性溶媒(2)とを接触させる際の圧力は、常圧もしくは加圧いずれでも良いが、0.1~0.5〔MPa〕の範囲の加圧下で行うことが好ましい。前記反応混合物(S1)と有機極性溶媒(2)とを接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってPASオリゴマー(b)や有機極性溶媒(2)が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。
【0058】
-工程(5)
工程(5)は、前記混合物(L2)を25℃以下まで除冷し、固相成分を除去して液相成分(L3)を得る工程である。
【0059】
前記混合物(L2)の冷却は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、公知の装置及び方法を用いることができる。本開示において、徐冷とは急速冷却ではないことを示し、例えば、冷却速度は1℃/分以下が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で冷却する必要はない。混合物(L2)を25℃まで冷却することにより、鎖状PASオリゴマーと6量体の環状PASオリゴマーが固相成分として混合物(L2)に含まれるようになり、固体分として回収することができる。
【0060】
また、固相成分を除去して液相成分を回収する方法については、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、公知の装置及び方法を用いることができ、例えば、スクリューデカンター等の遠心分離機や濾過装置を用いて分離することができる。
【0061】
-工程(6)
工程(6)は、前記液相成分(L3)を濃縮する工程である。
【0062】
前記液相成分(L3)を濃縮する方法は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、公知の装置及び方法を用いることができる。例えば、蒸発器内に前記液相成分(L3)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃未満で加熱する方法が挙げられる。
【0063】
本工程で用いる蒸発器は、有機極性溶媒耐性がある素材からなり、加熱及び減圧できる容器であれば特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、エバポレーター、オートクレーブ、薄膜蒸発器等が挙げられる。
【0064】
前記液相成分(L3)を濃縮する際の蒸発器内の温度は、特に限定されないが、含まれるPASオリゴマーの分解を抑制する観点から、230℃未満であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。また、蒸発器内の圧力は、常圧以下であることが好ましく、具体的には10~760mmHgの範囲であることが好ましい。
【0065】
また、前記液相成分(L3)を濃縮する際、含まれる固形物(不揮発分)の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは40~90質量%の範囲となるように溶媒の除去量を調節することが望ましい。
【0066】
-工程(7)
工程(7)は、前記混合物(L2)を前記有機極性溶媒(2)の沸点-10℃以上の温度範囲で固液分離して、固相成分(S2)を回収する工程(7)である。かかる温度範囲で固液分離することによって、環状PASオリゴマーを回収せず、鎖状PASオリゴマーのみを効率的に回収することができる。
【0067】
固液分離して、固相成分(S2)を回収する方法は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されず、上述の工程(3)等と同様に、公知の装置及び方法を用いることができる。
【0068】
<熱可塑性エラストマー(C)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必要に応じて、機械的特性を向上させる目的で、熱可塑性エラストマー(C)を任意成分として配合することができる。前記熱可塑性エラストマー(C)をさらに含むことによって、PAS樹脂組成物の靭性や耐冷熱衝撃性等をより高めることができる。
【0069】
前記熱可塑性エラストマー(C)としては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は特に限定されないが、前記PAS(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。一方、前記熱可塑性エラストマーの配合量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の柔軟性が向上するため好ましい。かかる範囲を超えて配合した場合、樹脂組成物のドローリング性の悪化や発生ガス量が増加する等の悪影響を及ぼすことがある。
【0070】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、2以上のα-オレフィンの共重合体、1若しくは2以上のα-オレフィンと官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体、等が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種又は2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
<無機充填剤(D)>
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、無機充填剤(D)をさらに任意成分として含むこともできる。前記無機充填剤(D)をさらに含むことによって、PAS樹脂組成物の機械的強度や熱伝導性等をより高めることができる。
【0072】
ここで、無機充填剤(D)としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、粒状や板状、繊維状のものなど、様々な形状の充填剤が挙げられる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤使用できる。なお、これらの他の充填剤については、表面処理をすることも可能であり、必要に応じて、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、ボラン処理、セラミックコート等を施すことができる。
【0073】
前記無機充填剤(D)の配合量は、特に限定はされないが、より優れた機械的特性や寸法安定性の観点から、前記PAS(A)100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、10量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。また、より優れた樹脂組成物の流動性や加工性、成形品表面の平滑性を得る観点から、前記PAS(A)100質量部に対して350質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることがさらに好ましく、250質量部以下であることが特に好ましい。
【0074】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物における、前記無機充填剤(D)の含有量は、特に限定はされないが、例えば、樹脂組成物の機械強度等に優れる観点からは、前記PAS(A)と無機充填剤(D)の合計量100質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。かかる範囲において、等温結晶化時間が短くなり、良好な成形性を呈するためである。
【0075】
(シランカップリング剤)
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、必要に応じて、機械的特性を向上させる目的で、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。
【0076】
ここで、前記官能基を有するシランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0077】
また、本発明のPAS樹脂組成物における前記官能基を有するシランカップリング剤の含有量は、特に限定はされないが、より優れた耐湿熱性及び機械的強度を得る観点から、前記PAS樹脂100質量部に対して0.3質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。
【0078】
さらに、本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本開示において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本開示に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS(A)100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS(A)と合成樹脂との合計に対してPASの割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0079】
また本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及び離型剤(ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなど)等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0080】
本開示のPAS樹脂組成物は、PAS(A)が連続相を形成し、他の必須成分や任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。本開示に係るPAS樹脂組成物は、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0081】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、粘度変化率が±20%の範囲である。すなわち、前記PAS(A)の溶融粘度(V6)を1としたときに、PAS樹脂組成物の溶融粘度(V6)が0.8~1.2の範囲である。粘度変化率がかかる範囲であることで、PASオリゴマー(B)添加による粘度変化率が小さいため得られる樹脂組成物が加工性等に優れる。粘度変化率をかかる範囲に調整するためには、PASオリゴマー(B)の配合量をPAS(A)100質量部に対して20質量部以下の範囲とすることが挙げられる。なお、本開示における粘度変化率は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値である溶融粘度(V6)を用いて、次式より算出したものである。
粘度変化率(%)=(前記PAS(A)の溶融粘度(Pa・s)-PAS樹脂組成物の溶融粘度(Pa・s))/前記PAS(A)の溶融粘度(Pa・s)×100
【0082】
<成形品、成形品の製造方法>
本実施形態に係る成形品は前記PAS樹脂組成物を溶融成形してなる。また、本実施形態に係る成形品の製造方法は、前記記載の製造方法で得られたPAS樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。このため、本実施形態に係る成形品は、PAS(A)が連続相を形成し、他の必須成分や任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。PAS樹脂組成物が、かかるモルフォロジーを有することにより、機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0083】
本実施形態に係るPAS樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂(A)の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは130~190℃に設定すればよい。
【0084】
本実施形態に係る成形品の製造方法は、前記成形品にアニール処理する工程を有してもよい。アニール処理は、成形品の用途あるいは形状等により最適な条件が選ばれるが、アニール温度はPAS(A)のガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは該ガラス転移温度+10℃以上の温度範囲であり、より好ましくは該ガラス転移温度+30℃以上の温度範囲である。一方、260℃以下の範囲であることが好ましく、240℃以下の範囲であることがより好ましい。アニール時間は特に限定されないが、0.5時間以上の範囲であることが好ましく、1時間以上の範囲であることがより好ましい。一方、10時間以下の範囲であることが好ましく、8時間以下の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られる成形品のひずみが低減し、かつ、樹脂の結晶性が向上するだけでなく、熱伝導率、機械的特性及び燃料バリア性がさらに向上するため好ましい。アニール処理は空気中で行ってもよいが、窒素ガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0085】
本実施形態に係る成形品は、前記PAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を再利用して得られた再成形品を含む。具体的には、例えば、成形品を製造する際に発生するスプルー又はランナーや、規格外の成形品として回収したものや、一度製品として使用した成形品を、必要に応じて洗浄してから、粉砕して再度PASの融点以上の温度で溶融成形して得られた成形品を含む。再利用する際には、粉砕した成形品を前記PAS樹脂組成物と混合して用いることが、機械的性質の観点から好ましい。成形品を粉砕する際の大きさは特に限定されないが、混合性や加工性の観点から、混合する前記PAS樹脂組成物と同程度の大きさであることが好ましい。また、その混合割合は、PAS樹脂組成物100質量部に対して成形品の粉砕品が50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。かかる範囲において、本開示のPAS樹脂組成物が呈する効果を損ねずに、リサイクル性を向上させることができる。
【0086】
本実施形態に係るPAS樹脂成形品は、結晶化速度と溶融粘度のバランスに優れることを特徴としたものであるから、薄肉部を有する部品や小型の精密部品への適用が好適である。また、本実施形態に係る成形品は上記のみではなく、以下のような通常の樹脂成形品とすることもできる。例えば箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体又はモジュール、センサ、LEDランプ、抵抗器、リレーケース、コネクタ、ソケット、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、温度センサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイル及びそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例0087】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0088】
<参考例1~3、実施例1~11及び比較例1~6>
表1及び2に記載する組成成分及び配合量にしたがい、各材料を配合した。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α(製品名)」にこれら配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度320℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ガラス繊維はサイドフィーダー(S/T比0.5)から投入し、それ以外の材料はタンブラーで予め均一に混合しトップフィーダーから投入した。得られた樹脂組成物のペレットを140℃ギヤオーブンで2時間乾燥した後、射出成形することで各種試験片を作製し、下記の試験を行った。
【0089】
<評価>
【0090】
(1)再結晶化温度(Tmc)の測定
各実施例、比較例で得られた樹脂組成物を350℃にて溶融させた後、急冷させて非晶性フィルムを作製した。このフィルムからおよそ4mg分取し、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製『DSC8500』)を用いて測定した。結果を表1~4に示す。
【0091】
(2)溶融粘度(V6)の測定
各PAS及びPAS樹脂組成物の溶融粘度(V6)として、島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持後の溶融粘度(V6)(Pa・s)を測定した。PASの溶融粘度(V6)に対するPAS樹脂組成物の溶融粘度(V6)は、粘度変化率として次式より算出した。結果を表1~4に示す。
粘度変化率(%)=(PASの溶融粘度(Pa・s)-PAS樹脂組成物の溶融粘度(Pa・s))/PASの溶融粘度(Pa・s)×100
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
なお、表1~4中の配合成分の配合比率は下記のものを用いた。
・PAS(A)
A-1:直鎖構造を有するPPS
A-2:パラ-メタ共重合PPS
a―3:架橋構造を有するPPS
【0097】
・PASオリゴマー(B)
X:鎖状構造を有するPASオリゴマー
Y:環状構造を有するPASオリゴマー
【0098】
・熱可塑性エラストマー(C)
C-1:ダウ・ケミカル社製 Engage 8842
【0099】
・無機充填剤(D)
D-1:ガラス繊維、日本電気硝子株式会社製「T-717H」
【0100】
・シランカップリング剤(E)
E-1:信越化学株式会社製トリメトキシエポキシシラン「KBM-403」
【0101】
<製造例1>PAS(A-1)の製造
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサ、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCB)33.075質量部(225モル部)、NMP3.420質量部(34.5モル部)、47.23質量%NaSH水溶液27.300質量部(NaSHとして230モル部)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533質量部(NaOHとして228モル部)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300質量部を留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンタで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079質量部(0.8モル部)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル部)がNMPの開環体(4-(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モル部であった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921質量部であることから、オートクレーブ内の残水量0.878質量部(48.8モル部)の内、0.609質量部(33.8モル部)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの0.269質量部(14.9モル部)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0102】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343質量部(467.5モル部)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンタで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は0.228質量部(12.7モル部)であった。
【0103】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は0.041質量部(2.3モル部)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3L部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3L部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3質量部(3L部)の温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3L部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(A-1)を得た。このPPS樹脂(A-1)の溶融粘度(V6)は150Pa・sであった。
【0104】
<製造例2>PAS(A-2)の製造
150Lオートクレーブに、フレーク状Na2S(60.9質量%)19.222kgと、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら204℃まで昇温して、水4.438kgを留出させた(残存する水分量はNa2S1モル当り1.14モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、p-DCB)22.998kg、m-ジクロロベンゼン(以下、m-DCB)2.555kg(m-DCBとp-DCBの合計に対して10モル%)及びNMP18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cmGに加圧して昇温を開始した。液温220℃で3時間攪拌しつつ、オートクレーブ上部の外側に巻き付けたコイルに80℃の冷媒を流し冷却した。その後昇温して、液温260℃で3時間攪拌し、次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、8.91kg/cmGであった。
得られたスラリーを常法により濾過温水洗を二回繰り返し、水を約50質量%含む濾過ケークを得た。次に、この濾過ケークに水60kg及び酢酸100gを加えて再スラリー化し、50℃で30分間攪拌後、再度濾過した。この際、上記スラリーのpHは4.6であった。ここで得られた濾過ケークに、水60kgを加え30分間攪拌後、再度濾過する操作を5回繰り返した。その後に得られた濾過ケークを120℃で4.5時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、白色粉末状のパラ-メタPPS共重合体を得た。得られたパラ-メタPPS共重合体は、溶融粘度(V6)が45Pa・sであった。
【0105】
<製造例3>PAS(a-3)の製造
製造例1で得たPPS樹脂(A-1)を熱風乾燥機で260℃、8.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(a-3)を得た。このPPS樹脂(a-3)の溶融粘度(V6)は220Pa・sであった。
【0106】
<製造例4>PASオリゴマー(B-1)の製造
-工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼及び底弁付き150Lオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%NaS)19.413kg(150モル)と、NMP45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-DCB21.631kg(147モル)及びNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させた。その後、オートクレーブを冷却した。
【0107】
-工程(2)
100℃でオートクレーブの底弁を開き、反応スラリーを150L平板濾過機に移送し120℃で加圧濾過し、NMP48.0kgを加え、再度加圧ケーキ洗浄濾過した。回収したNMP濾液の重量は80.0kgであった。
【0108】
-工程(3)
得られたNMP濾液に水を添加して水スラリー化したあと、固液分離と水洗浄を2回繰り返し、その後120℃熱風乾燥機で4時間乾燥して粉体を得た。
【0109】
-工程(4)
得られた粉体にクロロホルムを加えて、65℃で1時間攪拌し、その後濾過した。
【0110】
-工程(5)
濾過後の残渣を4時間40℃にて真空乾燥することで、鎖状PASオリゴマー(B-1)を392g得た。
【0111】
<製造例5>PASオリゴマー(b-2)の製造
工程(4)までは製造例1と同様の操作を実施した。濾過した濾液を150Torr、40℃にてエバポレーションすることでクロロホルムを除去し、環状PASオリゴマー(B-2)を764g得た。
【0112】
表1の参考例1、実施例1~2及び比較例1を対比すると、鎖状構造を有するPASオリゴマーを特定量配合した場合に、結晶化速度と溶融粘度のバランスに優れた樹脂組成物が得られることが示された。当該効果は、参考例2及び実施例3の対比でも示された。参考例3と比較例2から、架橋型PASを用いた場合には、PASオリゴマー(B)の配合量が特定の範囲内であっても、粘度が大きく変化することが示された。
表2及び3より、実施例4~10と比較例3~5を対比すると、実施例の樹脂組成物が結晶化速度と溶融粘度のバランスに優れることが示された。
表4より、当該効果は任意成分として熱可塑性エラストマー及び無機充填剤を配合した場合にも呈されることが示された。