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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158274
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】配向体製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 13/00 20060101AFI20241031BHJP
   H01F 7/20 20060101ALI20241031BHJP
   H01F 27/10 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01F13/00
H01F7/20 Z
H01F27/10 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073345
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598014814
【氏名又は名称】株式会社トヨタコンポン研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【弁理士】
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正篤
(72)【発明者】
【氏名】井上 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 順
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 庸一
(72)【発明者】
【氏名】青山 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 久史
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸代
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩史
【テーマコード(参考)】
5E050
【Fターム(参考)】
5E050CA03
(57)【要約】
【課題】製造過程における変形を抑制可能であり、より汎用性を有する配向体製造装置を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る配向体製造装置は、磁場によって配向制御される配向体材料が配置される材料配置領域に対して位置が固定されており、磁場を生成する磁場生成部と、時間的に変化する磁場を材料配置領域に生成するように磁場生成部を駆動する駆動装置と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場によって配向制御される配向体材料が配置される材料配置領域に対して位置が固定されており、磁場を生成する磁場生成部と、
時間的に変化する磁場を前記材料配置領域に生成するように前記磁場生成部を駆動する駆動装置と、
を備える、
配向体製造装置。
【請求項2】
前記磁場生成部は、前記材料配置領域における磁束密度が0.5Tより大きいように前記磁場を生成する、
請求項1に記載の配向体製造装置。
【請求項3】
前記磁場生成部は、回転磁場を生成する、
請求項1に記載の配向体製造装置。
【請求項4】
前記磁場生成部は、前記材料配置領域における磁束密度が0.5Tより大きいように前記磁場を生成し、
前記回転磁場の回転速度は、60rpmより大きい、
請求項3に記載の配向体製造装置。
【請求項5】
前記磁場生成部は、N個の電磁石対(Nは2以上の整数)を有し、
前記N個の電磁石対のうちの1つを第iの電磁石対と称した場合(iは、1~Nの何れか)、前記第iの電磁石対が有する2つの電磁石それぞれが生成する磁場の方向は同じであり、
前記第iの電磁石対が有する2つの電磁石は、前記材料配置領域を挟んで配置されている、
請求項3または4に記載の配向体製造装置。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記N個の電磁石対によって生成される磁場が、時間的に変化するように、前記N個の電磁石対に位相をずらして電圧を印加する、
請求項5に記載の配向体製造装置。
【請求項7】
前記N個の電磁石対は、3個の電磁石対であり、
前記駆動装置は、前記回転磁場が生成されるように、前記3個の電磁石対それぞれに三相交流の各相の電圧を印加する、
請求項5に記載の配向体製造装置。
【請求項8】
前記磁場生成部を冷却するための冷却方式が沸騰冷却方式である、
請求項5に記載の配向体製造装置。
【請求項9】
前記材料配置領域を有するともに、前記磁場生成部を収容する筐体を備え、
前記筐体内において、前記磁場生成部は、水よりも沸点の低い絶縁性液体内に配置されている、
請求項8に記載の配向体製造装置。
【請求項10】
前記筐体内に配置されており、気化された前記絶縁性液体を液相に戻す熱交換器を更に備え、
前記熱交換器には、前記筐体の外部から冷媒が供給される、
請求項9に記載の配向体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の従来技術として、特許文献1,2に開示された技術が知られている。特許文献1,2に記載の技術では、微結晶粒子を含む材料粉末が溶媒(溶液)に分散されることによって得られた材料(スラリー)に、磁場を印加しながら鋳込み成形している。特許文献1では、材料を保持した保持部を静磁場中で回転させることによって、材料に相対的な回転磁場を印加している。特許文献2では、永久磁石を材料に対して回転させたり、または、直線移動させたりすることによって、固定配置された材料に対して、回転磁場を印加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/07312号
【特許文献2】特開2019-192668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、材料自体を回転させるため、製造される配向体に歪みなどの変形が生じ易い。特許文献2の技術では、駆動装置を用いて永久磁石を回転させたり、直線移動させたりすることから、材料に印加する回転磁場の状態を調整しにくい。製造すべき配向体の用途に応じて、製造過程において材料に印加する回転磁場の状態は異なる。そのため、特許文献2に記載の技術では、汎用性が低下している。
【0005】
そこで、本発明は、製造過程における変形を抑制可能であり、より汎用性を有する配向体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の一側面に係る配向体製造装置は、磁場によって配向制御される配向体材料が配置される材料配置領域に対して位置が固定されており、磁場を生成する磁場生成部と、時間的に変化する磁場を上記材料配置領域に生成するように上記磁場生成部を駆動する駆動装置と、を備える。
【0007】
配向体製造装置では、磁場生成部は、材料配置領域に対して位置が固定されている。このように位置が固定された磁場生成部が、時間的に変化する磁場を上記材料配置領域に生成する。そのため、材料配置領域に配置される配向体材料を静置した状態でも配向体材料に時間的に変化する磁場を印加できることから、製造過程において配向体の変形(たとえば歪みなど)を抑制できる。上記構成では、磁場生成部を駆動装置で駆動することよって、時間的に変化する磁場を生成する。よって、駆動装置による磁場生成部の駆動条件を変えることで、製造すべき配向体の用途に応じて要求される磁場の状態を容易に調整できる。そのため、上記構成では、配向体製造装置の汎用性の向上が図れている。
【0008】
[2]上記[1]に係る配向体製造装置において、上記磁場生成部は、上記材料配置領域における磁束密度が0.5Tより大きいように上記磁場を生成してもよい。
【0009】
[3]上記[1]に係る配向体製造装置において、上記磁場生成部は、回転磁場を生成してもよい。この場合、回転磁場の回転軸方向に配向制御された配向体を製造可能である。
【0010】
[4]上記[3]に記載の配向体製造装置において、上記磁場生成部は、上記材料配置領域における磁束密度が0.5Tより大きいように上記磁場を生成し、上記回転磁場の回転速度は、60rpmより大きくてもよい。このような条件では、たとえば、二軸性結晶を含む配向体を製造可能である。よって、配向体製造装置は、二軸性結晶を含む配向体の製造に有効である。
【0011】
[5]上記[3]または[4]に記載の配向体製造装置において、上記磁場生成部は、N個の電磁石対(Nは2以上の整数)を有し、上記N個の電磁石対のうちの1つを第iの電磁石対と称した場合(iは、1~Nの何れか)、上記第iの電磁石対が有する2つの電磁石それぞれが生成する磁場の方向は同じであり、上記第iの電磁石対が有する2つの電磁石は、上記材料配置領域を挟んで配置されていてもよい。
【0012】
この場合、磁場生成部は、第1~第Nの電磁石対を有する。第1~第Nの電磁石対それぞれで生成する磁場を調整することで、回転磁場を生成できる。
【0013】
[6]上記[5]に記載の配向体製造装置において、上記駆動装置は、上記N個の電磁石対によって生成される磁場が、時間的に変化するように、上記N個の電磁石対に位相をずらして電圧を印加してもよい。これにより、回転磁場を生成できる。
【0014】
[7]上記[5]または[6]に記載の配向体製造装置において、上記N個の電磁石対は、3個の電磁石対であり、上記駆動装置は、上記回転磁場が生成されるように、上記3個の電磁石対それぞれに三相交流の各相の電圧を印加してもよい。
【0015】
[8]上記[5]~[7]のいずれかに記載の配向体製造装置において、上記磁場生成部を冷却するための冷却方式が沸騰冷却方式でもよい。この場合、直接冷却による顕熱差とともに、沸騰潜熱も利用して磁場生成部を冷却できる。そのため、効率的に磁場生成部を冷却できる。
【0016】
[9]上記[8]に記載の配向体製造装置は、上記材料配置領域を有するともに、上記磁場生成部を収容する筐体を備え、上記筐体内において、上記磁場生成部は、水よりも沸点の低い絶縁性液体内に配置されていてもよい。この場合、磁場生成部の絶縁処理が容易である。
【0017】
[10]上記[9]に記載の配向体製造装置は、上記筐体内に配置されており、気化された上記絶縁性液体を液相に戻す熱交換器を更に備え、上記熱交換器には、上記筐体の外部から冷媒が供給されてもよい。この場合、熱交換器によって、気化した沸騰冷媒を液相に戻すことができるので、たとえば、上記絶縁性液体を循環器などで循環させる必要がない。更に、熱交換器には、上記筐体の外部から冷媒が供給される。そのため、上記熱交換器を備える配向体製造装置の構成では、配向体製造装置内の静粛性を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製造過程における変形を抑制可能であり、より汎用性を有する配向体製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係る配向体製造装置を説明するための模式図である。
図2図2は、材料配置領域に配置される材料および材料を保持する保持部を説明するための図面である。
図3図3は、コイルの一例を説明するための図面である。
図4図4は、コイルの他の例を説明するための図面である。
図5図5は、電磁石対で生成される磁場の大きさの時間的な変化の一例を示す図面である。
図6図6は、材料配置領域の中心におけるX方向およびY方向の磁場の時間的変化を模式的に示す図面である。
図7図7は、材料配置領域の中心における磁場の向きを模式的に示す図面である。
図8図8は、図1に示した配向体製造装置の具体的な構成の一例の模式図である。
図9図9は、磁場生成部の試作品の一例を示す図面である。
図10図10は、図9に示した磁場生成部において、コイルに流す電流と、磁場生成部の中心での磁束密度との関係を示した図面である。
図11図11は、図8に示した配向体製造装置を用いて製造した配向体を中心軸方向からみた図面である。
図12図12は、図11に示した配向体の側面図である。
図13図13は、図10および図11に示した配向体を焼結した後のX線回折法での分析結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0021】
図1は、一実施形態に係る配向体製造装置を説明するための模式図である。図1に示された配向体製造装置1は、材料配置領域2に配置された配向体材料(以下、単に「材料」と称す)3に時間的に変化する磁場を印加しながら、鋳込み成形法(スリップキャスティング)によって、配向体を製造する装置である。
【0022】
配向体製造装置1で製造する配向体は、配向制御された微結晶成形体である。配向体は、焼成されることによってセラミックス(多結晶体)として使用される成形体である。本実施形態では、配向体が、焼成されることによって、セラミックス製レーザ媒質として使用され得る成形体である場合を例にして、配向体製造装置1を説明する。
【0023】
図2は、材料配置領域2に配置される材料3と、材料3を保持する保持部30を説明するための図面である。
【0024】
材料3は、単結晶粒子を含む材料粉末が溶媒(溶液)中に分散されることによって形成されたスラリー(懸濁液)である。単結晶粒子は、磁化容易軸がa軸(結晶副軸)である一軸晶系単結晶微粒子か、もしくは二軸晶系単結晶微粒子である。一軸晶系単結晶微粒子の例としては、希土類元素としてTb、Dy、Ho、Er、TmまたはYbが添加されたアパタイト系化合物によって形成された単結晶粒子(たとえば、Yb:FAP(Ca(POF)、希土類元素としてCe、Pr、NdまたはSmが添加されたバナデート系化合物によって形成された単結晶粒子(たとえば、Nd:YVO)、希土類元素(Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er,TmまたはYb)を含んだLiYF、LiLuF、LiSrAlF、LiCaAlF、LiSrGaFなどが挙げられる。二軸晶系単結晶微粒子の例としては、希土類元素(Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er,TmまたはYb)が添加されたLiYF、YAlO、KY(WO)2、KGd(WO)2、CaYAlO、GdCaO(BO)、YCaO(BO)、YSiO、GdSiOなどの単結晶粒子が挙げられる。
【0025】
上記希土類元素が添加された単結晶粒子は、たとえば、予備混合、仮焼き等による固相反応または湿式合成法によって、所定の酸化物粉末に希土類元素を均一分散させることによって準備され得る。
【0026】
上記懸濁液は、たとえば、上記のようにして準備された希土類元素が添加された単結晶粒子である酸化物粉末と、別の所定の酸化物粉末とを混合して得られる材料粉末を、高分子系分散剤とともに水(溶媒)に添加することによって準備され得る。溶媒おおび高分子系分散剤の種類、高分子系分散剤の添加濃度については、材料粉末の状態に応じて適宜設定され得る。懸濁液を準備する場合、希土類元素が添加された単結晶粒子としての酸化物粉末を複数種類用いてもよい。
【0027】
保持部30は、筒部31と、筒部31の両端の開口のうち一方の開口を塞ぐフィルタ部32とを有する。筒部31の材料の例はガラスであり、この場合、筒部31はガラス管である。筒部31の形状および大きさは、製造する配向体の形状および大きさに応じて設定されている。本実施形態では、断らない限り、筒部31は円筒である。筒部31の直径の例は、10mm以上254mm(10インチ)以下である。筒部31の直径が10mm以上であることによって、用途に対して有効な成形体(配向体)を製造できる。上記直径が254mm以下であることによって高温焼成処理を実施し易い。筒部31の直径の一例は12mmである。筒部31の中心軸方向の長さは、材料3(スラリー)の量に依存するが、例えば10cm以上125cm以下である。筒部31の中心軸方向の長さが10cm以上であることによって、成形体(配向体)の厚みを十分確保できる。上記長さが125cm以下であることによって、鋳込み成形を実施し易い。筒部31の中心軸方向の長さの上限は後述するコイルの大きさにも依存する。筒部31の中心軸方向の長さの一例は25cmである。フィルタ部32は、懸濁液(材料3)に含まれる液体部分を通すように構成されている。この場合、保持部30内の材料3の液体部分は、フィルタ部32を通じて排出されるので、上記単結晶粒子が固形化される。保持部30が有する筒部31の材料は、上記ガラスに限定されない。たとえば、筒部31の材料は、石膏でもよい。この場合、保持部30は、フィルタ部32の代わりに石膏によって形成された底部を有してもよい。
【0028】
本実施形態では、説明の便宜上、断らない限り、懸濁液を材料3と称して説明する。しかしながら、上記のように、懸濁液の液体部分は、配向体の製造過程で除去されることから、上記希土類が添加された単結晶粒子が、配向体の実質的な材料である。
【0029】
図1に戻って、配向体製造装置1の概略を説明する。配向体製造装置1は、磁場生成部10と、駆動装置20とを有する。図1では、図1に示したX方向およびY方向に直交する方向から磁場生成部10を見た場合を示している。X方向およびY方向は互いに直交する方向である。
【0030】
本実施形態では、磁場生成部10は、時間的に変化する磁場として、上記X方向およびY方向に直交する方向を回転軸とする回転磁場を生成する。磁場生成部10は、N個(Nは2以上の整数)の電磁石対を有する。N個の電磁石対の1つを第iの電磁石(iは1~Nの何れか)と称した場合、磁場生成部10は、第1~第Nの電磁石対を有する。
【0031】
本実施形態では、3個の電磁石対101,102,103を有する場合を説明する。電磁石対(第1の電磁石対)101、電磁石対(第2の電磁石対)102および電磁石対(第3の電磁石対)103は、材料配置領域2の周囲に配置されている。具体的には、3個の電磁石対101,102,103は、材料配置領域2の中心Oの周りに120度間隔で配置されている。
【0032】
電磁石対101が有する2つの電磁石を区別する場合、電磁石101Aおよび電磁石101Bと称す。電磁石101Aは、磁心111aと、磁心111aの周りに巻かれたコイル121を有する。電磁石101Bは、材料配置領域2に対して磁心111aと対向配置された磁心111bと、磁心111bの周りに巻かれたコイル121を有する。電磁石101Aが有するコイル121と、電磁石101Bが有するコイル121は繋がっている。すなわち、電磁石101A,101Bは、材料配置領域2に対して対向する一対の磁心111a,111bと、一対の磁心111a,111bに連続的に巻かれたコイル121とを有する。コイル121は、コイル121に電流が流れた際に、電磁石101Aによって生成される磁場と電磁石101Bによって生成される磁場とが同じ方向を向くように巻かれている。
【0033】
電磁石対102が有する2つの電磁石を区別する場合、電磁石102Aおよび電磁石102Bと称す。電磁石102Aは、磁心111cと、磁心111cの周りに巻かれたコイル122を有する。電磁石102Bは、材料配置領域2に対して磁心111cと対向配置された磁心111dと、磁心111dの周りに巻かれたコイル122を有する。電磁石102Aが有するコイル122と、電磁石102Bが有するコイル122は繋がっている。すなわち、電磁石対102は、材料配置領域2に対して対向する一対の磁心111c,111dと、一対の磁心111c,111dに連続的に巻かれたコイル122とを有する。コイル122は、コイル122に電流が流れた際に、電磁石102Aによって生成される磁場と電磁石102Bによって生成される磁場とが同じ方向を向くように巻かれている。
【0034】
電磁石対103が有する2つの電磁石を区別する場合、電磁石103Aおよび電磁石103Bと称す。電磁石103Aは、磁心111eと、磁心111eの周りに巻かれたコイル123を有する。電磁石103Bは、材料配置領域2に対して磁心111eと対向配置された磁心111fと、磁心111fの周りに巻かれたコイル123を有する。電磁石103Aが有するコイル123と、電磁石103Bが有するコイル123は繋がっている。すなわち、電磁石対103は、材料配置領域2に対して対向する一対の磁心111e,111fと、一対の磁心111e,111fに連続的に巻かれたコイル123とを有する。コイル123は、コイル123に電流が流れた際に、電磁石103Aによって生成される磁場と電磁石103Bによって生成される磁場とが同じ方向を向くように巻かれている。
【0035】
上記一対の磁心111a,111b、一対の磁心111c,111dおよび一対の磁心111e,111fの材料は、たとえば鉄である。
【0036】
一実施形態において、一対の磁心111a,111b、一対の磁心111c,111dおよび一対の磁心111e,111fにおける外側の端部(材料配置領域2と反対側の端部)および内側の端部(材料配置領域2側の端部)は、第1連結部111gおよび第2連結部111hによって連結されていてもよい。第1連結部111gおよび第2連結部111hの材料3は、一対の磁心111a,111b、一対の磁心111c,111dおよび一対の磁心111e,111fと同じである。換言すれば、磁場生成部10は、第1連結部111gと、第1連結部111gの内側に第1連結部111gと同心で配置される第2連結部111hと、第1連結部111gおよび第2連結部111hとを連結する磁心111a~111fとによって構成される磁性体111を備えてもよい。以下では、断らない限り、磁場生成部10が、第1連結部111gおよび第2連結部111hを含む形態(換言すれば磁性体111を備える形態)を説明する。磁性体111は、たとえば、板状の磁性体である。
【0037】
磁場生成部10が有するコイル121の第1端121a、コイル122の第1端122aおよびコイル123の第1端123aは、駆動装置20に電気的に接続されている。磁場生成部10が有するコイル121の第2端121b、コイル122の第2端122bおよびコイル123の第2端123bは、互いに電気的に接続されるとともに、駆動装置20に電気的に接続されている。
【0038】
駆動装置20は、上記のように電気的に接続されたコイル121,122,123に、3つの電磁石対101,102,103によって生成される磁場が、周期的に変化するように、3つの電磁石対101,102,103に位相をずらして電圧を印加する。本実施形態では、駆動装置20は、コイル121,122,123に三相交流の各相の電圧を印加する。この場合、たとえば、コイル121がU相コイルとして機能し、コイル122がV相コイルとして機能し、コイル123がW相コイルとして機能する。
【0039】
駆動装置20は、電源部21と、制御部22とを有する。
【0040】
電源部21は、たとえば、並列接続された3つのトランジスタ対を有するACインバータ回路と、3つのトランジスタ対に対応する3つのゲートドライバとを有する。トランジスタ対は、3つのトランジスタが直列接続されることによって構成されている。各駆動部は、対応するトランジタ対のうち上アーム側のトランジスタおよび下アーム側のトランジスタそれぞれのゲートに駆動信号を送ることによって、トランジスタ対を駆動する。
【0041】
制御部22は、電源部21において生成する三相交流電圧の周期および振幅などを、材料配置領域2において生成する回転磁場に応じて制御する機能を有する。制御部22は、たとえば、マイクロコンピュータである。電源部21が上記のようにACインバータ回路とゲートドライバとを有する場合、制御部22は、三相交流電圧の周期および振幅などを制御するための制御信号を生成し、ゲートドライバに送信する。上記制御信号はたとえば、パルス幅変調(PWM:Pulse Widhth Modulation)された信号である。
【0042】
磁場生成部10が有する上記コイル121,122,123の巻き方の例を説明する。コイル121,122,123の巻き方の例は、同じであることから、代表してコイル1121の巻き方の例を説明する。
【0043】
図3は、コイル121の一例を説明するための図面である。図3では、コイル121を構成する導線を導線12aとして図示している。導線12aは、図3に示したように多層を構成するように巻かれてもよい。この場合、図3に示したように、隣接する層は全て接していても良い。
【0044】
図4は、コイル121~123の他の例を説明するための図面である。図4では、図3の場合と同様に、コイル121~123を構成する導線を導線12aとして図示している。図4に示したコイル121~123は、多層構造における少なくとも1つの隣接する層の間に絶縁性を有するスペーサ12bが配置されている点で、図3に示したコイル121~123と相違する。スペーサ12bの例は、樹脂フィルムである。
【0045】
図1に示した配向体製造装置1では、電磁石対101,102,103によって方向の異なる3つの磁場が生成される。本実施形態では、図1に示したように、材料配置領域2の中心Oの周囲において、3つの磁場のうち隣接する2つの磁場の方向の間の角度は120度である。3つの磁場の大きさは、電磁石対101~103に印加される三相交流電圧によって、図5に示したように、時間的に変化する。図5は、電磁石対101,102,103で生成される磁場の大きさの時間的な変化の一例を示す図面である。横軸は時間を示し、縦軸は、中心Oにおける磁束密度を示している。図5における実線、破線および一点鎖線それぞれは、電磁石対101、電磁石対102および電磁石対103それぞれによって生成される磁場(磁束密度)の時間的な変化を示している。
【0046】
図5に示したように、電磁石対101,102,103で生成される磁場の大きさが時間的に変化することから、中心Oにおいて、X方向およびY方向の磁束密度が、時間とともに図6に示したように変化する。これによって、図7に示したように、中心Oにおける磁場Mの向きが時間に応じて回転する。図6は、中心OにおけるX方向およびY方向の磁場の時間的変化を模式的に示す図面である。図7は、中心Oにおける磁場Mの向きを模式的に示す図面である。磁場Mは、電磁石対101,102,103によって生成される3つの磁場の合成磁場である、図7において、M(t0)は、図5における時間t0における磁場Mを示し、M(t1)は、図5における時間t1における磁場Mを示している。図6におけるM(t2)~M(t7)も同様に図5における時間t2~t7の磁場Mを示している。
【0047】
図7に示したように、磁場生成部10によって生成される磁場Mは、中心Oの周りに回転する。よって、磁場Mを回転磁場Mとも称す。
【0048】
以上、図1図6を用いて配向体製造装置1の概略を説明した。次に、図8を利用して配向体製造装置1のより具体的な構成例を説明する。図8に示したように、一実施形態に係る配向体製造装置1は、磁場生成部10を収容する筐体40を有する。
【0049】
筐体40は、天壁41と、底壁42と、側壁43とを有する。図8に示した形態では、底壁42と側壁43とは一体化している。側壁43は、底壁42の周縁から連続的に立ちあがっている。天壁41は、側壁43において底壁42と反対側の端部に固定されている。筐体40の材料の例は、A5052などのアルミニウム合金である。
【0050】
筐体40には、材料配置管44が設けられている。材料配置管44の材料の例は、樹脂であり、たとえば、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックである。材料配置管44は、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)によって形成されている。材料配置管44は、天壁41の開口41aを通って底壁42まで延びている。材料配置管44には、材料3を保持した保持部30(図2参照)を通す孔部44aが、材料配置管44の延在方向に形成されている。孔部44aは、底壁42の開口42aに繋がっている。本実施形態では、材料配置管44の延在方向に直交する断面の形状は円形である。
【0051】
材料配置管44は、材料配置管44の延在方向において、第1部分441と、第2部分442とを有する。第1部分441は、材料3を保持した保持部30が投入される部分である。第1部分441の断面の大きさは、保持部30の断面より大きい。第2部分442は、第1部分441から投入された材料3を、所定位置に配置するとともに、配向体を製造した後に、底壁42側から取り出すための部分である。上記所定位置は、保持部30が磁場生成部10によって生成される回転磁場内の位置(換言すれば、磁場生成部10の位置)である。第2部分442の断面の大きさは、保持部30の断面の大きさと実質的に同じか又は僅かに大きい。本実施形態では、第2部分の内径は、保持部30の外径より僅かに大きい。
【0052】
上述した第1部分441および第2部分442の内径の関係より、孔部44aにおける第1部分441の領域の径は、第2部分442の領域の径より大きい。すなわち、孔部44aは大径部と、小径部とを有する。大径部のうち小径部との連結部分は、小径部に向けて先細りしている。
【0053】
配向体を製造する場合には、上記第2部分442及び孔部44aには孔部44a側から図8に示したサンプルホルダー50が挿入されている。サンプルホルダー50は中空体である。サンプルホルダー50の材料の例は、樹脂である。サンプルホルダー50を構成するための樹脂の例は、材料配置管44の場合と同様である。サンプルホルダー50は、たとえば底壁42にネジ止めによって固定される。サンプルホルダー50は、保持部30を上記所定位置に配置するための部材である。材料配置管44の中心軸方向に沿ったサンプルホルダー50の長さは、サンプルホルダー50を底壁42に固定した状態で、ストッパ51で支持された保持部30の位置が上記所定位置であるように設計されている。サンプルホルダー50の上端50a(天壁41側の端)には、保持部30を支持するための編目状のストッパ(支持部材)51が形成されている。
【0054】
本実施形態において、サンプルホルダー50の形状は、二重管構造を有する。具体的には、サンプルホルダー50は、外管52と、外管52の内側に配置された内管53とを有する。外管52の直径は、第2部分442の内径と同じ又は若干短い程度でよい。図8に示したように、内管53の外径は外管52の内径より小さい。よって、外管52と内管53との間には径方向において隙間を有する。内管53の上端は、外管52から天壁41側に向けて突出していてもよい。この場合、内管53の上端が、サンプルホルダー50の上端50aに相当する。内管53の下端部は真空装置(不図示)に接続される。サンプルホルダー50の下端部には、外管52と内管53との隙間に冷却エアーを流すために、冷却エアーの挿入口が形成されている。
【0055】
磁場生成部10は、材料配置管44の第2部分442に第2連結部111hを通した状態で配置されている。具体的には、磁場生成部10は支持台45に固定されている。支持台45は、支持板45aと、底板45bと、複数の連結柱45cを有する。支持板45aは、複数の連結柱45cを介して底板45bに連結されている。底板45bは、底壁四二の内面にたとえば螺子止めによって固定されている。磁場生成部10は、磁性体111が支持板45aに、たとえば螺子止めされることによって固定されている。支持板45aには、コイル121~123が支持板45aと干渉しないように、コイル121~123に対応する部分には、たとえば開口が形成されている。
【0056】
磁場生成部10を制御する駆動装置20は、筐体40の外側に配置され得る。図8では、駆動装置20の図示を省略している。
【0057】
本実施形態において、コイル121,122,123の冷却には、沸騰冷却方式を採用している。すなわち、コイル121~123の発熱を、沸騰冷媒46の沸騰潜熱を利用して冷却している。具体的には、磁場生成部10が沸騰冷媒46内に位置するように、沸騰冷媒46が筐体40内に貯められている。沸騰冷媒46の例は、水より沸点の低い絶縁性液体(以下、「低沸点絶縁性液体」とも称す)である。上記低沸点絶縁性液体の例は、フロリナートである。
【0058】
筐体40の天壁41側には、コイル121~123の冷却過程において沸騰気化した沸騰冷媒46を液相に戻すための熱交換器47が設けられている。本実施形態において、熱交換器47は、筐体40の外部から流される冷媒が通るフィン状のチューブである。たとえば、熱交換器47は、筐体40の外部に配置されたチラーに接続されている。図8では、複数の熱交換器47が筐体40に設けられた形態を例示している。
【0059】
図8に示した配向体製造装置1において、磁場生成部10の厚さ方向の中心と底壁42の内面との距離L1の例は、47.5mm以上435mm以下である。距離L1の一例は、70mmである。磁場生成部10の厚さ方向の中心と底壁42の外面との距離L2の例は、77.5mm以上615mm以下である。距離L2の一例は100mmである。磁場生成部10の厚さ方向の中心と、第2部分442の上端(第1部分441と第2部分442との接続部)との間の距離L3の例は77.5mm以上705mm以下である。距離L3の一例は115mmである。磁場生成部10の厚さ方向の中心は、底壁42の厚さ方向における磁場生成部10の中心である。沸騰冷媒46の液面と底壁42の内面との間の距離L4の例は、95mm以上810mm以下である。距離L4の一例は130mmである。
【0060】
図8に示した配向体製造装置1の場合を例にして配向体の製造方法の一例を説明する。配向体製造装置1を用いて配向体を製造する場合、まず、配向体製造装置1に上述したサンプルホルダー50を取り付ける。前述したように、サンプルホルダー50が外管52及び内管53を有する場合を説明する。内管53を真空装置に接続する。外管52と内管53の間の隙間に冷却エアーを流すようにサンプルホルダー50の下端部に冷却エアーの供給源を接続する。
【0061】
材料3が保持された保持部30を材料配置管44の第1部分441に投入する。これにより、保持部30は、第1部分441から第2部分442に移動する。保持部30はサンプルホルダー50が有するストッパ51の位置で維持される。この状態では保持部30は磁場生成部10内に位置する。このように、第2部分442に保持部30(材料3)が配置された状態で、駆動装置20(図1参照)によって、磁場生成部10が有するコイル121~123に三相交流電圧を印加する。これにより、コイル121~123に電流が流れ、材料配置領域2に、図8に示した回転軸4の周りに回転する回転磁場Mが生成される。たとえば、材料配置領域2における磁束密度が0.5Tより大きく且つ回転速度が60rpmより大きいように回転磁場Mが生成される。回転軸4は、図1に示したX方向およびY方向に直交する方向に延びている。
【0062】
上記のように材料配置領域2に回転磁場Mを生成することによって、材料3に回転磁場Mが印加される。その結果、材料(スラリー)3に含まれる単結晶粒子のa軸は、回転軸4に直交する平面内に配向し、磁化困難軸であるc軸が回転軸4の方向に配向する。本実施形態において、材料3の液体部分は、保持部30が有するフィルタ部32に通して排出される。フィルタ部32の材料が石膏である場合、上記液体成分の少なくとも一部はフィルタ部32に吸収される。その結果、材料3が固形化され、c軸が上記回転軸4の方向に配向した配向体(微結晶成形体)が製造され得る。上記のように配向体を製造した後、サンプルホルダー50を底壁42から外す。これによって、開口42aを通して、保持部30を取り出せるので、結果として、配向体を配向体製造装置1から取り出せる。
【0063】
上記のように磁場生成部10に三相交流電圧を印加して配向体を製造する際には、内管53に接続された真空装置を駆動して内管53内を真空引きするとともに、外管52と内管53との間に冷却エアーを流す。内管53上には保持部30が配置されているので、上記真空引きによって、材料3の液体部分の排出、フィルタ部32による吸水の促進が図れる。上記冷却エアーは、サンプルホルダー450から材料配置管44内に流れるので、保持部30及び材料3(スラリー)の温度上昇を抑制できる。
【0064】
上記配向体製造装置1では、材料配置領域2に対して磁場生成部10の位置は固定されている。すなわち、磁場生成部10自体は、材料配置領域2に対して移動および回転されない。このように固定された磁場生成部10が回転磁場Mを生成することから、材料3も固定(換言すれば、静置)した状態でよい。材料3が固定されているため、製造される配向体に歪みなどの変形が生じ難い。材料配置領域2に対して磁場生成部10を回転、移動などをさせないことから、磁場生成部10を回転、移動等をさせるために機構が不要であり、磁場生成部10の制御で回転磁場Mを調整可能である。その結果、回転磁場Mの状態を制御し易いので、汎用性が向上している。
【0065】
上記配向体製造装置1で例示したように、磁場生成部10が有するコイル121~123に印加する電圧を制御することによって、回転磁場Mを生成する形態では、回転磁場Mの大きさ、回転磁場Mの回転速度などを容易に制御できる。
【0066】
一実施形態に係る配向体製造装置1では、前述したように、材料配置領域2における磁束密度が0.5T(テスラ)より大きい回転磁場Mを容易に生成できる。たとえば、配向体製造装置1では、0.6T以上の磁束密度を実現可能である。一実施形態に係る配向体製造装置1では、材料配置領域2における回転速度が60rpmより大きい回転磁場Mを容易に生成できる。たとえば、配向体製造装置1では、300rpm以上の回転速度も実現できる。このような回転磁場Mの磁束密度、回転速度などを実現可能な配向体製造装置1は、二軸性結晶の配向制御に有効である。回転磁場Mの回転速度の上限は、限定されないが、たとえば一般の三相交流の周波数である60Hz(3600rpm)でもよいし、高出力IGBTのスイッチング周波数である20kHz(1.2Mrpm)でもよい。
【0067】
磁場生成部10が有するコイル121~123に印加する電圧を制御することによって回転磁場Mを生成している形態では、電磁石対101,102,103で生成される磁場を制御し易い。その結果、磁場生成部10は、等速回転の回転磁場Mだけではなく、回転速度が変調された回転磁場M、間歇回転の回転磁場M等も生成可能である。回転磁場Mの回転速度などの回転状態は、製造すべき配向体に応じて異なる。そのため、上記のように、等速回転の回転磁場Mだけではなく、回転速度が変調された回転磁場M、間歇回転の回転磁場Mを生成可能な磁場生成部10を備えた配向体製造装置1は、より高い汎用性を有する。
【0068】
配向体製造装置1では、前述したように、磁場生成部10自体を回転させたり、移動させたりする装置または材料3を回転させる装置なども不要である。これによって、材料配置領域2の大きさの設計自由度も向上している。この点でも、固定配置された状態で回転磁場Mを生成可能な磁場生成部10を備えた配向体製造装置1は、種々の用途の配向体の製造に適用し易い。
【0069】
たとえば、材料3を回転させた場合、スラリーとしての材料3内に圧力分布が生じる。鋳込み成形において、上記のように圧力分布が生じると、不均一な鋳込成形圧が材料3に作用する。上記圧力分布によって、単結晶粒子の形状異方性に起因する配向乱れを誘起しやすい。その結果、材料3の回転速度が大きい場合などでは、配向制御が困難である。
【0070】
これに対して、配向体製造装置1では、上記のように材料3を回転させずに、磁場生成部10よって回転磁場Mを生成している。そのため、より大きな回転磁場Mの回転速度が必要な場合でも、配向制御を適切に実施し易い。この点でも、回転磁場Mを生成可能な磁場生成部10を備えた配向体製造装置1は、種々の用途の配向体の製造に適用し易い。
【0071】
磁場生成部10自体を回転させたり、移動させたりする装置または材料3を回転させる装置なども不要であることから、配向体製造装置1では、材料3に振動が加わることを抑制できる。換言すれば、配向体製造装置1では、静粛性が向上している。そのため、配向体に歪みなどの変形が生じ難い。振動などの影響により配向が阻害されにくいので、所望の配向状態を実現しやすい。その結果、配向特性の優れた配向体を得ることが可能である。
【0072】
回転磁場Mを生成するためにコイル121~123に電圧を印加することから、コイル121~123が発熱する。図8に示した形態ではコイル121~123の冷却に、沸騰冷却方式を採用している。沸騰冷却方式では、コイル121~123に接する沸騰冷媒による直接冷却による顕熱差とともに、沸騰潜熱も利用している。沸騰潜熱は、顕熱の倍程度であることが知られている。そのため、沸騰冷却方式によって、たとえば、水冷方式のような顕熱差のみを利用した冷却方式に比べて効率的にコイル121~123を冷却できる。
【0073】
図8に示した形態では、コイル121~123の冷却過程において沸騰気化した沸騰冷媒は、外部駆動で冷却される熱交換器47によって液相に戻り、底壁42側に再度貯まる。たとえば、水冷式のように直接冷却のみを用いる場合、通常、送液ポンプなどで水(冷媒)を循環させる。この場合、装置内に送液ポンプを配置する必要がある。一方、沸騰冷却方式では、上記のように、蒸発した冷媒を、外部駆動で冷却される熱交換器47で液相に戻す。そのため、配向体製造装置1内に上記送液ポンプ等を設けなくてもよいことから、配向体製造装置1に振動などが生じ難い。このように、振動が抑制されるので、前述したように、配向体製造装置1では、配向特性の優れた配向体を得ることが可能である。
【0074】
沸騰冷却方式では、使用する冷媒の沸点で、コイル121~123の表面温度を制御できる。したがって、コイル121~123の表面温度が過度に上昇することで生じる絶縁破壊を防止し易い。
【0075】
沸騰冷媒46として、絶縁性沸騰冷媒(たとえば、低沸点絶縁性液体)を使用する場合、コイル121~123の絶縁処理なども容易である。
【0076】
上記のように、沸騰冷却方式を採用することによって、コイル121~123を効率的に冷却できるとともに、コイル121~123の絶縁処理を簡易にできる。その結果、配向体製造装置1の小型化を図ることも可能である。
【0077】
沸騰冷却方式では、冷媒の沸点でコイル121~123の表面温度を制御できることから、配向体製造装置1を適切に動作させるためには、コイル121~123の温度と、配向体製造装置1内で気化した冷媒の圧力を主にモニターすればよい。更に、沸騰冷却方式では、液体窒素などの液化ガスを冷媒として使用しない。そのため、長期間(たとえば、1ヶ月以上)、配向体製造装置1を無人運転できる。
【0078】
コイル121~123が、図4に示したように、スペーサ12bを介して巻かれている形態では、スペーサ12bによって、コイル121~123の内側に隙間ができる。そのため、コイル121~123を効率的に冷却できる。
【0079】
次に実験例を説明する。
【0080】
図9は、磁場生成部の試作品の一例を示す図面である。図9に示した磁場生成部10では、磁性体111の形状(第1連結部111gの形状)は、一辺が200mmの正六角形であった。第2連結部111hの形状も正六角形であった。第2連結部111hにおける対角線のうち最大長さは20mmであった。図9では、コイル121~123に隠れているが、磁心111a~111fは、第1連結部111gの各辺の中央部から第2連結部111hの対応する辺を繋いでいた。コイル121~123は、底面側が外側に位置する円錐状を呈していた。コイル121~123の巻数は、700であった。
【0081】
図10は、図9に示した磁場生成部10における、コイル121~123に流す電流と、磁場生成部10の中心(図1に示した中心O)での磁束密度との関係を示した図面である。図10の横軸は、最大電流(A)を示しており、縦軸は、磁束密度(T:テスラ)を示している。磁束密度は、テスラメーターTM-701(カネテック株式会社製)によって測定した。図10に示したように、図9に示した磁場生成部10の材料配置領域2の中心Oにおいて、0.5T以上(より具体的には、0.6T以上)の磁束密度を有する回転磁場Mを安定して生成できることが理解できる。したがって、たとえば磁場生成部10を5倍にスケールアップした場合、第2連結部111hにおける対角線のうち最大長さが100mmである材料配置領域2に1.4Tの回転磁場Mを生成する。
【0082】
図11は、図8に示した配向体製造装置1を用いて製造した配向体を中心軸方向からみた図面であり、図12は、図11に示した配向体の側面図である。
【0083】
図11および図12に示した配向体を製造するための配向体製造装置1が有する磁場生成部10には、図9に示した磁場生成部10を用いた。配向体製造装置1において、第1部分441の内径は32mmであった。第2部分442の内径は15mmであった。図8に示した距離L1、距離L2、距離L3は、それぞれ70mm、95mm、115mmであった。沸騰冷媒46はフロリナートであった。沸騰冷媒46の量は、約25リットルであった。図8に示した距離L4は130mmであった。熱交換器47には、外部冷却水によって冷却されるフィンチューブを用いた。配向体を製造する場合には、外管52及び内管53を有するサンプルホルダー50によって、保持部30を所定位置に支持した。配向体の製造時には、上記サンプルホルダー50を真空装置に接続して真空引きを実施するとともに、サンプルホルダー50内に冷却エアーを流した。
【0084】
スラリーとしての材料3に含まれる原料粉末は、希土類元素としてYbが10at%添加されたFAP粉末であった。材料3は、図2に示した保持部30に保持された状態で、材料配置管44内に配置された。保持部30が有する筒部31は、直径が12mmであり、中心軸方向の長さが25cmであるガラス筒であった。筒部31の開口(底壁42側の開口)は、フィルタ部32で閉じられていた。
【0085】
配向体の製造において、磁場生成部10には、三相交流電圧を印加し、磁束密度が0.58T(テスラ)であり、回転速度が180rpm(3Hz)の回転磁場Mを材料3に印加した。
【0086】
図10および図11に示したように、上記条件で製造された配向体は、実質的に円柱状であった。材料3(スラリー)が回転しないため、材料3の回転に起因する変形(たとえば、歪み等)は生じていなかった。図10に示したように、配向体の形状は若干六角柱状を呈していた。これは、生成された磁束密度の大きさが、電磁石対101,102,103それぞれで生成される磁場の方向によって数%変動することに起因するものであり、巻線密度、電磁石対101,102,103の配置位置などの誤差によるものと考えられる。
【0087】
図13は、図10および図11に示した配向体を焼成した後のX線回折法を用いた分析の結果を示したグラフである。配向体を焼成する場合の温度は1375℃であり、焼成時間は1時間であった。図13の縦軸は、強度を示し、横軸は、入射X線方向と回折X線方向とのなす角度である2θ(°)を示している。X線回折の測定には、粉末X線回折計(株式会社リガク製 RINT Ultima―III)を用いた。
【0088】
図13に示したように、c面の回折ピークの強度((002)面および(004)面での強度)は非常に大きくなっていた。更に、ロッドゲーリング因子も0.537であった。ロッドゲーリング因子は、完全にランダムな配向では0であり、完全に制御された場合を1として規格化された、XRDスペクトルにおいて配向制御対象軸由来のピークが占める強度の割合である。図13に示した結果より、焼結された配向体において、配向度が向上していることが理解され得る。
【0089】
以上、本発明に係る種々の実施形態を説明した。本発明は例示した種々の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲が含まれるとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0090】
上記実施形態で説明した配向体製造装置は、二軸性結晶を含む配向体の製造だけではなく、一軸性結晶を含む配向体の製造にも適用できる。
【0091】
上記配向体製造装置は、配向レーザー媒質および前記配向レーザー媒質を使用した様々なレーザー応用機器、例えばレーザー加工装置(切断装置、穴あけ装置、曲げ加工装置、マニピュレーション装置など)、レーザー計測装置(ライダー、成分分析装置など)、レーザー表示装置(ディスプレイなど)、レーザー美容装置(シミ取り装置など)、レーザー照明装置(ヘッドライトなど)、レーザー素材製造装置(アブレーション応用機器、レーザー焼結装置など)、レーザー給電装置などに使用される。また、上記配向体製造装置は、セラミックス製レーザ媒質以外のセラミックスの製造にも適用できる。たとえば、上記配向体製造装置は、配向制御された希土類系高温超電導体REBaCu(REは希土類イオン)やグラファイトセッラミックスなどの変動磁場を必要とする配向セラミックス、配向体以外でも触媒反応の磁気特性を応用して生成する微粉末)などの製造に利用できる。
【0092】
磁場生成部が有する電磁石対の数は、2個でもよいし、4個以上でもよい。磁場生成部の構成は、材料配置領域に対して固定されており、且つ、材料配置領域に時間的に変化する磁場を生成可能であれば、限定されない。
【0093】
以上説明した種々の実施形態、変形例などは、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…配向体製造装置、2…材料配置領域、3…配向体材料、10…磁場生成部、20…駆動装置、40…筐体、46…沸騰冷媒(絶縁性液体)、47…熱交換器、101,102,103…電磁石対(第iの電磁石)、101A,101B…電磁石、102A,102B…電磁石、M…回転磁場(時間的に変化する磁場)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13