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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158347
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073479
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 隆
(72)【発明者】
【氏名】杉山 龍平
(72)【発明者】
【氏名】松田 諒平
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉紀
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033AA23
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA31
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB38
2H033BE00
2H033BE03
2H033CA07
(57)【要約】
【課題】摺動シートの潤滑剤保持性と熱伝導性を改善する。
【解決手段】回転可能な無端状の定着部材(定着ベルト181)と、定着部材を加熱する熱源183と、定着部材の外周面に当接する加圧部材(加圧ローラ182)と、定着部材の内部に配置され、定着部材と加圧部材との間にニップ部Nを形成するニップ形成部材184と、ニップ形成部材184の定着部材側の表面に配設された摺動シート188と、を備え、トナー画像が形成された記録媒体(記録紙P)をニップ部Nに通して搬送することでトナー画像を加熱加圧して記録媒体に定着させる定着装置18において、摺動シート188が、記録媒体の搬送方向と直交する方向に延びた炭素繊維(緯糸188b)を有することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な無端状の定着部材と、前記定着部材を加熱する熱源と、前記定着部材の外周面に当接する加圧部材と、前記定着部材の内部に配置され、前記定着部材と前記加圧部材との間にニップ部を形成するニップ形成部材と、前記ニップ形成部材の前記定着部材側の表面に配設された摺動シートと、を備え、
トナー画像が形成された記録媒体を前記ニップ部に通して搬送することで前記トナー画像を加熱加圧して前記記録媒体に定着させる定着装置において、
前記摺動シートが、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に延びた炭素繊維を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記摺動シートが、前記記録媒体の搬送方向に延びた経糸と、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に延びた緯糸を有し、前記緯糸が炭素繊維を有することを特徴とする請求項1の定着装置。
【請求項3】
前記摺動シートの前記経糸が耐熱性樹脂又はガラス繊維で構成されていることを特徴とする請求項2の定着装置。
【請求項4】
前記炭素繊維が、アクリル繊維系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維又はこれらの混合物を有することを特徴とする請求項2の定着装置。
【請求項5】
前記炭素繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項2の定着装置。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが、単層又は2層以上で構成されていることを特徴とする請求項3の定着装置。
【請求項7】
前記摺動シートに、シリコーンオイル、シリコーングリース又はフッ素グリースが保持されていることを特徴とする請求項1の定着装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は定着装置及び画像形成装置に係り、特に定着ベルトの内面に接する摺動シートの潤滑剤保持性と熱伝導性を改善した定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に使用する定着装置として、例えば特許文献1(特開2014-186211号公報)に記載の定着装置(QSU-DH方式)が知られている。QSU-DH方式(Quick Start-Up Direct Heating)は、ニップ形成部材と加圧部材(例えば加圧ローラ)との間に薄肉筒状の定着部材(例えば定着ベルト)を挟持し、この定着部材と加圧部材との間にニップ部を形成する。このような定着装置においては、ニップ形成部材の定着部材側に、潤滑剤を保持した摺動シートや均熱部材を配設する。
【0003】
摺動シートは繊維織物で構成されているので潤滑剤の保持性は良いが、繊維自体の特性として熱伝導性が良くない。このため定着部材の非通紙部の過熱(端部温度上昇)という課題がある。
【0004】
これに対して均熱部材は、アルミニウムや銅などで構成されて熱伝導性は良いが、均熱部材の表面が基本的に平面のため潤滑剤の保持性が良くない。潤滑剤の保持性を高めるため、均熱部材の表面をディンプル加工したり親油性コーティング処理したりすることが行われているが、これら加工、処理によってコストアップになるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、摺動シートの潤滑剤保持性と熱伝導性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の定着装置は、回転可能な無端状の定着部材と、前記定着部材を加熱する熱源と、前記定着部材の外周面に当接する加圧部材と、前記定着部材の内部に配置され、前記定着部材と前記加圧部材との間にニップ部を形成するニップ形成部材と、前記ニップ形成部材の前記定着部材側の表面に配設された摺動シートと、を備え、トナー画像が形成された記録媒体を前記ニップ部に通して搬送することで前記トナー画像を加熱加圧して前記記録媒体に定着させる定着装置において、前記摺動シートが、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に延びた炭素繊維を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、摺動シートの潤滑剤保持性と熱伝導性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】画像形成装置で使用する一実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
図3】摺動シートを定着ベルト側から見た平面図である。
図4】摺動シートの拡大平面図である。
図5】定着ベルトの長手方向の温度分布を示す図である。
図6】カーボンナノチューブの(a)単層構造、(b)2層構造及び(c)4層構造を示す斜視図である。
図7】加熱された潤滑剤から発生する微粒子の濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
●画像形成装置の概要
以下、本発明を適用した画像形成装置の一例として、電子写真方式のMFP(複合機)の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るMFP100の概略構成図である。このMFP100は、本体101と、自動原稿送り装置(ADF)102と、画像読取手段としてのスキャナ103と、後処理装置(フィニッシャ)104とから構成されている。
【0010】
MFP100は操作パネルを備え、当該操作パネルにより、用紙設定、コピー画質、スキャナ設定などを変更可能となっている。さらに、MFP100は、外部の例えばパーソナルコンピュータ(PC)から送信された印刷ジョブを受信して印刷することができる。
【0011】
MFP100は、プリンタドライバで設定された印刷モードに従った印刷を実行する。自動原稿送り装置(ADF)102は、原稿をセットする原稿給紙トレイ、原稿給紙トレイから原稿をピックアップするピックアップローラ、原稿が排出される排出トレイを含んで構成される。
【0012】
スキャナ103は、コンタクトガラスを通して原稿に光を照射する光源、原稿からの光を受光し、電気信号に変換する光電変換素子、電気信号をデジタルデータに変換するA/Dコンバータなどを含んでいる。後処理装置(フィニッシャ)104は、画像形成が終了した用紙に対する後工程として、ステープラ、パンチ、紙折り機能などを有している。
【0013】
ステープラは、本体101から排出された用紙を、印刷ジョブ情報に基づく指示に従い所定の枚数毎に纏めて綴ることができる。また、パンチは、画像形成装置100から排出された用紙を、印刷ジョブ情報に基づく指示に従い、1枚又は所定の枚数ごとに所定の場所に孔をあけることができる。
【0014】
本体101内には、第一乃至第四の四つの像担持体としての感光体1(a~d)を備える。四つの感光体1の上方には、ベルト部材として中間転写ベルト3を有するベルト装置である中間転写装置60を備える。
【0015】
四つの感光体1(a~d)上には、互いに異なる色のトナー像がそれぞれ形成される。本実施形態の四つの感光体1(a~d)には、それぞれブラックトナー像、シアントナー像、マゼンタトナー像およびイエロートナー像がそれぞれ形成される。なお、図1に示した感光体1(a~d)はドラム状に形成されているが、感光体としては複数のローラに巻き掛けられて回転駆動される無端ベルト状の感光体を用いることもできる。
【0016】
第一乃至第四の感光体1(a~d)に対向して中間転写体としての中間転写ベルト3が配置されている。図1に示す状態では、四つの感光体1(a~d)は、中間転写ベルト3の表面に接触している。
【0017】
図1に示す中間転写ベルト3は、二次転写対向ローラ4、テンションローラ5、バックアップローラ6、入口ローラ7に巻き掛けられている。これらの支持ローラのうちの一つである二次転写対向ローラ4が、駆動源によって駆動される駆動ローラとして構成される。この二次転写対向ローラ4の駆動により、中間転写ベルト3が図1中の矢印A方向に回転駆動される。
【0018】
中間転写ベルト3は、多層構造、単層構造のいずれでもよい。多層構造であれば、ベース層を例えば伸びの少ないフッ素樹脂やPVDFシート、ポリイミド系樹脂でつくり、表面をフッ素系樹脂等の平滑性のよいコート層で被ってなるものが好ましい。また、単層であればPVDF、PC、ポリイミド等の材質を用いるものがよい。
【0019】
感光体1へのトナー像の形成と、各トナー像の中間転写ベルト3への転写は、四つの感光体1(a~d)において実質的にすべて同一であり、形成されるトナー像の色が異なるだけである。このため、四つの感光体1(a~d)のうち、中間転写ベルト3の表面移動方向最上流側に配置されたイエロー用感光体1dへのイエロートナー像の形成と、中間転写ベルト3への転写についてのみ説明する。
【0020】
イエロー用感光体1dは、図1中の時計方向に回転駆動され、このときイエロー用感光体1d表面に除電装置からの光が照射され、イエロー用感光体1dの表面電位が初期化される。初期化されたイエロー用感光体1dの表面は帯電装置8によって所定の極性(本実施形態ではマイナス極性)に一様に帯電される。
【0021】
このように帯電されたイエロー用感光体1dの表面に、露光装置から出射する光変調されたレーザビームが照射される。そして、イエロー用感光体1dの表面に、書き込み情報に対応した静電潜像が形成される。図1に示したMFP100では、レーザビームを出射するレーザ書き込み装置よりなる露光装置が用いられているが、LEDアレイと結像手段を有する露光装置などを用いることもできる。
【0022】
イエロー用感光体1dに形成された静電潜像は、イエロー用の現像装置によってブラックトナー像として可視像化される。一方、中間転写ベルト3の内側には、中間転写ベルト3を挟んでイエロー用感光体1dに対向した位置にイエロー用転写ローラ11dが配置されている。
【0023】
このイエロー用転写ローラ11dが中間転写ベルト3の裏面に接触し、イエロー用感光体1dと中間転写ベルト3との適正な転写ニップが形成される。イエロー用転写ローラ11dには、イエロー用感光体1d上に形成されたトナー像のトナー帯電極性とは逆極性(本実施形態ではプラス極性)の転写電圧が印加される。
【0024】
これにより、イエロー用感光体1dと中間転写ベルト3との間に転写電界が形成され、イエロー用感光体1d上のブラックトナー像が、イエロー用感光体1dと同期して回転駆動される中間転写ベルト3上に静電的に転写される。ブラックトナー像を中間転写ベルト3に転写した後のイエロー用感光体1d表面に付着する転写残トナーは、イエロー用のクリーニング装置によって除去され、イエロー用感光体1dの表面が清掃される。
【0025】
同様にして、他の三つの感光体1(c、b、a)には、マゼンタトナー像、シアントナー像およびブラックトナー像がそれぞれ形成され、その各色のトナー像は、イエロートナー像の転写された中間転写ベルト3上に順次重ねて静電転写される。
【0026】
MFP100は、四色のトナーを使うフルカラーモードと黒単色のみを使う黒単色モードの二種類の駆動モードがある。フルカラーモード時には、中間転写ベルト3と四つの感光体1(a~d)が接触して、四色のトナー像が中間転写ベルト上に転写される。
【0027】
一方、黒単色モードでは、黒用感光体1aのみが中間転写ベルト3に接触し、ブラックトナーのみが中間転写ベルト3に転写される。このとき、シアン用、マゼンタ用、及び、イエロー用の三つの感光体1(b~d)と中間転写ベルト3とは接触しておらず、接離機構により三つの一次転写ローラ11(b~d)が感光体1(b~d)から離間する。その際、シアン用、マゼンタ用、及び、イエロー用の三つの感光体1(b~d)から中間転写ベルト3を確実に離間させるために、バックアップローラ6を移動させて、中間転写ベルト3のプロファイルを変化させる。
【0028】
本体101の下部には、図1に示すように、給紙装置14が配置されている。給紙装置14は、給紙ローラ15の回転によって、記録媒体である記録紙Pが図1中の上方向に送り出される。送り出された記録紙Pは、レジストローラ対16に突き当たり、一旦停止する。
【0029】
中間転写ベルト3における二次転写対向ローラ4に巻き掛けられた部分と、これに対向配置された二次転写部材である二次転写ローラ17が接触する。この接触部によって二次転写ニップを形成する。
【0030】
レジストローラ対16に突き当たった記録紙Pは、所定のタイミングで二次転写ニップに搬送される。このとき、二次転写ローラ17には所定の転写電圧が印加され、これによって中間転写ベルト3上に重ねて転写されたトナー像が記録紙Pに二次転写される。
【0031】
トナー像が二次転写された記録紙Pは、さらに上方に搬送されて定着装置18を通り、このとき記録紙P上のトナー像が定着装置18での熱と圧力との作用により定着される。定着装置18を通過した記録紙Pは、排紙部に設けられた排紙ローラ対19によりMFP100の外に排出され、装置本体101の上面部である排紙トレイ101aにスタックされる。トナー像を記録紙Pに転写した後の中間転写ベルト3には多少のトナーが転写残トナーとして残留するが、この転写残トナーはベルトクリーニング装置によって中間転写ベルト3から除去される。
【0032】
●定着装置
次に、本発明の一実施形態に係る定着装置18について説明する。図2は、本実施形態の定着装置18を示す模式図である。
【0033】
本実施形態の定着装置18は、定着部材としての無端状の定着ベルト181と、定着ベルト181を介して対向配置されるニップ形成部材184及び加圧ローラ182と、定着ベルト181を加熱する2つの熱源183とを備えている。ニップ形成部材184は、定着ベルト181の内周面に接するように配置され、加圧ローラ182との間に定着ベルト181を挟持することで、ニップ形成部材184のニップ形成面に接する定着ベルト181部分と加圧ローラ182との間にニップ部Nを形成する。
【0034】
図2ではニップ部Nの形状を平坦状に示しているが、ニップ部Nの形状は凹形状やその他の形状であってもよい。特に、ニップ部Nが凹形状の場合、記録紙先端の排出方向が加圧ローラ182寄りになるので、用紙分離性が向上してジャムの発生が抑制されるという利点がある。
【0035】
ニップ形成部材184は、定着ベルト181の幅方向又は加圧ローラ182の軸方向に渡って長尺に配設され、その厚さが1~10mm程度として断面積を大きくし、長手方向の熱輸送量を増やしている。このニップ形成部材184は複数の材料で構成することができ、そのうちの一つの材料は、トナー定着温度域でも加圧ローラ182からの圧力に耐え得る耐熱温度200℃以上の耐熱性樹脂である。耐熱性樹脂は、具体的には、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0036】
ニップ形成部材184を構成する他の材料は、耐熱性で熱伝導率の高い、例えば、以下の表1のような材料(良熱伝導体)で構成することができる。
【表1】
【0037】
定着ベルト181は、ニッケルやSUSなどの金属ベルトや、ポリイミドなどの樹脂材料を用いた樹脂ベルトなどからなるベルト状もしくはフィルム状の無端状部材である。定着ベルト181の表層は、PFAまたはPTFEなどからなる離型層を有し、トナーが付着しにくいように離型性を持たせることができる。
【0038】
定着ベルト181の基材と表層との間には、シリコーンゴムなどからなる弾性層を設けてもよい。弾性層を設けない場合には、熱容量が小さく、定着性を向上させることができる一方、定着ベルト表面の微小な凹凸が画像上に現れて、画像のベタ部にユズ肌状の光沢ムラ(ユズ肌画像)が発生する不具合が生じ得る。
【0039】
このような不具合を改善するには、例えば100μm以上の弾性層を設けるのが好ましい。弾性層の変形によって、定着ベルト表面の微小な凹凸が吸収され、ユズ肌画像が改善される。
【0040】
熱源183は、定着ベルト181の内周面側に配置され、輻射熱によって定着ベルト181を加熱する。本実施形態の熱源183は、ハロゲンヒータで構成されるが、ヒータの種類やヒータの数などは任意である。例えば、ハロゲンヒータに代えて、IH(Induction Heating)の構成を採用してもよいし、抵抗発熱体、カーボンヒータなどを採用してもよい。
【0041】
加圧ローラ182は、芯金182aの周囲を弾性ゴム層182bで覆った弾性ローラであり、ニップ形成部材184のニップ形成面よりも表面層の硬度が低いものである。加圧ローラ182の弾性ゴム層182bは、ソリッドゴムでも良いが、スポンジゴムを用いるのが好ましい。
【0042】
スポンジゴムの方が、断熱性が高まり、定着ベルト181の熱が加圧ローラ182側に奪われにくくなるので、望ましい。また、加圧ローラ182は、離型性を得るために表面に離型層(PFAまたはPTFE層)が設けることができる。
【0043】
加圧ローラ182は、定着装置18の筐体に軸支され、MFP本体に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達されて回転駆動される。定着ベルト181は、ニップ部Nにおいて加圧ローラ182から回転駆動力が伝達され、加圧ローラ182の回転に伴って連れ回り回転し、ニップ部以外では両端部で保持部材(フランジ)にガイドされ、走行する。
【0044】
このとき、定着ベルト181は、その内周面を(摺動シート188を介して)ニップ形成部材184のニップ形成面に摺動させながら回転する。ニップ形成部材184のニップ形成面と定着ベルト181の内周面との間には、摺動性を向上させるために摺動シート188が配設されている。
【0045】
ニップ形成部材184は、ステー部材185上に固定され、その周囲をガイド部材190で囲まれた状態で支持されている。ガイド部材190は、ニップ形成部材184を保持すると共に、定着ベルト181の入口側と出口側の回転移動をガイドする。
【0046】
ステー部材185によって、ニップ形成部材184が加圧ローラ182からの圧力を受けて撓むのを抑制し、定着ベルト181の幅方向に一様なニップ幅を形成する。加圧ローラ182からの圧力をステー部材185で受けることでトナーを溶融定着させるに必要なニップ部Nでの面圧を得ることができる。また、このステー部材185は両端部で保持部材によって保持固定され位置決めされている。
【0047】
ステー部材185は、鉄ないしはステンレスを曲げ加工等することで形成することができる。ステー部材185は、厚みが2~4mm程度の鉄板やSUS板を用いるため熱容量が大きい。
【0048】
そのため、本実施形態では、熱源183とステー部材185との間に、反射部材186を備えている。反射部材186によって、熱源183からの輻射熱などによりステー部材185が加熱されて無駄なエネルギーを消費することが抑制される。反射部材186に代えて、ステー部材185の表面に断熱処理もしくは鏡面処理を行ってもよい。
【0049】
本実施形態におけるニップ形成部材184のニップ形成面は実質的に平面で構成されている。ニップ形成部材184のニップ形成面は、加圧ローラ182の弾性ゴム層182bよりも硬度が高いため、加圧ローラ182の弾性ゴム層182bは、ニップ形成部材184のニップ形成面に沿って弾性変形する。
【0050】
したがって、本実施形態のニップ部Nは、ニップ形成部材184のニップ形成面(平面)に沿って、実質的に平坦なものとなる。なお、ニップ形成面は、完全な平面である必要はなく、従来の2つのローラによって形成される曲面形状の定着ニップよりも曲率が十分に小さければ、凸状又は凹状の僅かな曲面形状をもつようにしてもよい。
【0051】
本実施形態では、上記構成の定着装置18を用いることで、定着ベルト181側の構造の低熱容量性を実現し、短時間で効率よく加熱が行われる。本実施形態では、ウォームアップ動作を行なって定着ベルト181を規定の定着温度にまで昇温させてから、画像形成動作を開始する。本実施形態の定着装置18では、定着ベルト181側の構造を低熱容量化しているので、定着ベルト181を短時間で定着温度にまで昇温させることができ、ウォームアップ時間の短縮化を図ることができる。
【0052】
熱源183の通電量は、定着ベルト181の表面温度をサーモパイル187で検知し、フィードバックした温度と目標温度との差分値に応じて決定される。また、印刷開始時、ウォームアップ開始時においては、予め決められた通電量を入力する場合もある。加熱源の定格電力は1200Wであり、電源電圧が100V、常時通電した場合には12Aの電流が流れ、消費電力は1200Wとなる。
【0053】
●摺動シート
ニップ形成部材184の定着ベルト181側、すなわち、ニップ形成部材184のニップ形成面と定着ベルト181の内周面との間に、図2図3に示すように、摺動性を向上させるために摺動シート188が配設されている。この摺動シート188は、ニップ形成部材184に対して適当な固定手段で固定されている。
【0054】
摺動シート188の固定手段は特に限定されない。例えば、ニップ形成部材184に摺動シート188を巻付けたり、ニップ形成部材184に対して摺動シート188を粘着手段(例えば両面テープ)や締結手段(例えばネジ)等で固定することができる。
【0055】
摺動シート188の材料として、炭素繊維やPTFE繊維を図4のように編み上げたものを例示することができる。この場合、繊維の凹凸により定着ベルト181との接触面積を減らすことができ、摩擦抵抗を一段と低減させることが可能である。また、繊維状であるため、例えばシリコーンオイル、シリコーングリース又はフッ素グリースといった潤滑剤(液状又は半固体状)を長期にわたって保持することができ、経時的にも、この潤滑剤効果による摩擦抵抗低減を維持できる。
【0056】
従来の摺動シートは、シリコーン樹脂やフッ素樹脂などの耐熱性樹脂の繊維のみによって織成されていた。このような耐熱性樹脂は、ある程度の潤滑剤保持性が期待できるが、繊維の特性上、熱伝導性は良くない。このため、定着ベルトの非通紙部で端部温度上昇の問題があった。端部温度上昇が生じると、定着ベルトや加圧ローラが破損するおそれがある。
【0057】
そこで本実施形態では、摺動シート188に炭素繊維を含有させている。炭素繊維は熱伝導性が良好であるので、従来の均熱部材(均熱パッド)と同様に、定着ベルトの非通紙部での端部温度上昇を抑制する効果が得られる。
【0058】
具体的には、図4のように、摺動シート188の緯糸188bにのみ炭素繊維を含有させ、経糸188aは従来通りシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの耐熱性樹脂又はガラス繊維によって構成する。緯糸188bの全て(100%)を炭素繊維としてもよいが、一部分又は大部分の緯糸188bを炭素繊維とし、残りは耐熱性樹脂繊維又はガラス繊維としてもよい。
【0059】
炭素繊維としては、アクリル繊維系炭素繊維(PAN)、ピッチ系炭素繊維(PITCH)、又はこれらの混合物等を使用することができる。熱伝導性や耐摩耗性に優れたピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。耐熱性樹脂としては、熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、フッ素含有エラストマー等も使用可能である。
【0060】
経糸188aと緯糸188bは互いに直交するように織込まれている。定着ベルト181は走行方向D1の方向に回転し、摺動シート188に保持されたオイルも、経糸188aの方向ないし走行方向D1と略同じ方向(D21~D23)に流れる。
【0061】
ここで、緯糸188bの方向は、ニップ形成部材184の長手方向(記録紙Pの搬送方向に対して直角となる方向)である。また経糸188aの方向は、ニップ形成部材184の短手方向(記録紙Pの搬送方向又は定着ベルト181の走行方向D1)である。
【0062】
このように摺動シート188の緯糸188bに炭素繊維を使用することにより、図5の実線で示すように、定着ベルト181の非通紙部の端部温度上昇を約180℃以下に抑制することができる。特に、緯糸188bにカーボンナノチューブを使用することにより、端部温度上昇の抑制と共に、潤滑剤保持性も大幅に向上することができる。
【0063】
したがって、摺動シート188の経時耐久性を大幅に向上することができる。また、端部温度上昇を抑制できるので、図5の破線で示す300℃以上となる端部温度上昇を回避するために生産性ダウン(CPMダウン)等を実施する必要がなく、従来よりも生産性向上を図ることが可能となる。
【0064】
緯糸188bにのみ炭素繊維を含有させることで、定着ベルト181の非通紙部で上昇し過ぎた端部温度が、炭素繊維の緯糸188bを介して中央側に熱伝達し、非通紙部での端部温度上昇を抑制することができる。また、非通紙部の端部温度を中央側で有効利用できることになるので、省エネにも役立つ。したがって、本実施形態の定着装置18を備える画像形成装置100の省エネルギー性を高めることができる。
【0065】
一方、図3図4に示すように、ニップ部Nから下流側への熱伝導は、熱伝導性が良くない耐熱性樹脂の経糸188aを介することになる。このため、ニップ部Nから下流側に逃げる熱量を抑制することができ、省エネに役立つ。
【0066】
●カーボンナノチューブ
摺動シート188は織物で構成されているので、潤滑剤保持性はもともと良好である。しかし、摺動シート188に使用する緯糸188bの炭素繊維をカーボンナノチューブにすることで、潤滑剤保持性がいっそう良好になる。カーボンナノチューブは、チューブ内に円筒状の空間が広がっているので、従来の耐熱性繊維に比べてより多くの潤滑剤を安定的に保持可能である。
【0067】
また、カーボンナノチューブはチューブ状でしなりがあって弾力性も有する。このため、潤滑剤の安定保持と相まって、定着ベルト181との摺動性を向上させて摺動シート188の経時耐久性を大幅に向上することができる。
【0068】
図6に示すように、カーボンナノチューブは炭素原子による無数の六角形(ベンゼン環)の網目が平面状に結合した膜を筒状に構成したものである。図6(a)が基本構造となる単層(1重)の筒状構造である。この単層構造はSWNT(Single-walled Carbon Nanotube)と略称される。
【0069】
この筒状構造の六角形の網目の内側にも潤滑剤を保持することができる。このため、潤滑剤保持性が従来の耐熱性樹脂による摺動シートに比べて格段に向上する。
【0070】
図6(b)は2層(2重)の筒状構造である。この2層構造はDWNT(Double-walled Carbon Nanotube)と略称される。2層構造は網目の数が単層(1重)に比べて2倍近く増加するので、潤滑剤保持性も単層(1重)に比べて2倍近く向上する。
【0071】
図6(c)は4層(4重)の筒状構造である。この4層構造はMWNT(Multi-walled Carbon Nanotube)と略称される。4層構造は網目の数が単層(1重)に比べて3倍から4倍近く増加するので、潤滑剤保持性も単層(1重)に比べて3倍から4倍近く向上する。
【0072】
また、カーボンナノチューブは非常に高い熱伝導性・耐熱性を有する。熱伝導性(W/mK)については、図6(a)の単層(1重)よりも図6(b)の2層(2重)の方が、図6(b)の2層(2重)よりも図6(c)の4層(4重)の方が、熱伝導性が高い。したがって、端部温度上昇もカーボンナノチューブが多層になるほど効果的に抑制することができる。
【0073】
特に、緯糸188bにカーボンナノチューブを用いることにより、小サイズ用紙を連続通紙するような場合に、非通紙領域が高温になる端部温度上昇を効果的に防止できる。なお、特許文献1(特開2014-186211号公報)には、ニップ形成部材にカーボンナノチューブを使用することが開示されているが、摺動シートにカーボンナノチューブを使用することは開示されていない。
【0074】
●潤滑剤から発生する微粒子の濃度
【0075】
従来、プリンタ、複写機、ファクシミリ又はこれらの複合機(MFP)等の画像形成装置の使用により、画像形成装置から粒子径が100nm未満の超微粒子(UFP)が排出されることが指摘されている。そこで、UFPの放散量が環境保全の観点から国際的に規制される傾向にある(例えばドイツのThe Blue Angel制度)。
【0076】
UFPの発生源の一つに定着装置の摺動シートに保持された潤滑剤がある。定着ベルトの端部温度上昇によって、ニップ形成プレートないし摺動シートの表面の潤滑剤からUFPが放散される。
【0077】
本実施形態では、摺動シート188の緯糸188bに炭素繊維ないしカーボンナノチューブを含ませることで端部温度上昇を抑制するので、潤滑剤から発生する微粒子濃度も低減することができる。図7は、ホットプレート上の潤滑剤(フッ素グリースA、フッ素グリースB、シリコーンオイル)を加熱したときに発生する微粒子の濃度(個/cm3)を測定した結果である。
【0078】
図7より、フッ素グリースA、Bは、180℃~190℃を越えると微粒子濃度が急増する。シリコーンオイルも、200℃を越えると微粒子濃度が急増する。このことから、微粒子濃度を抑制するためには、定着ベルトの端部温度上昇を、180℃以下に抑制することが効果的であることが分かる。
【0079】
本実施形態では、摺動シート188の緯糸188bに炭素繊維ないしカーボンナノチューブを含ませることで端部温度上昇を抑制することができるので、潤滑剤から発生する微粒子の濃度を低減でき、画像形成装置100の環境規格に対する余裕度を高めることができる。
【0080】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0081】
<付記>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
<第1態様>
第1態様は、回転可能な無端状の定着部材と、前記定着部材を加熱する熱源と、前記定着部材の外周面に当接する加圧部材と、前記定着部材の内部に配置され、前記定着部材と前記加圧部材との間にニップ部を形成するニップ形成部材と、前記ニップ形成部材の前記定着部材側の表面に配設された摺動シートと、を備え、トナー画像が形成された記録媒体を前記ニップ部に通して搬送することで前記トナー画像を加熱加圧して前記記録媒体に定着させる定着装置において、前記摺動シートが、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に延びた炭素繊維を有することを特徴とする定着装置である。
<第2態様>
第2態様は、前記摺動シートが、前記記録媒体の搬送方向に延びた経糸と、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に延びた緯糸を有し、前記緯糸が炭素繊維を有することを特徴とする第1態様の定着装置である。
<第3態様>
第3態様は、前記摺動シートの前記経糸が耐熱性樹脂又はガラス繊維で構成されていることを特徴とする第1態様又は第2態様の定着装置である。
<第4態様>
第4態様は、前記炭素繊維が、アクリル繊維系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維又はこれらの混合物を有することを特徴とする第1態様から第3態様のいずれか1の態様の定着装置である。
<第5態様>
第5態様は、前記炭素繊維がカーボンナノチューブであることを特徴とする第1態様から第4態様のいずれか1の態様の定着装置である。
<第6態様>
第6態様は、前記カーボンナノチューブが、単層又は2層以上で構成されていることを特徴とする第5態様の定着装置である。
<第7態様>
第7態様は、前記摺動シートに、シリコーンオイル、シリコーングリース又はフッ素グリースが保持されていることを特徴とする第1態様から第6態様のいずれか1の態様の定着装置である。
<第8態様>
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1の態様の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【符号の説明】
【0082】
1a、1b、1c、1d:感光体 3:中間転写ベルト
4:二次転写対向ローラ 5:テンションローラ
6:バックアップローラ 7:入口ローラ
8:帯電装置
11a、11b、11c、11d:一次転写ローラ
14:給紙装置 15:給紙ローラ
16:レジストローラ対 17:二次転写ローラ
18:定着装置 19:排紙ローラ対
21:定着ベルト 60:中間転写装置
100:画像形成装置 101:本体
101:装置本体 101a:排紙トレイ
103:スキャナ 104:後処理装置(フィニッシャ)
181:定着ベルト(定着部材) 182:加圧ローラ(加圧部材)
182a:芯金 182b:弾性ゴム層
183:熱源 184:ニップ形成部材
185:ステー部材 186:反射部材
187:サーモパイル 188:摺動シート
188a:経糸 188b:緯糸
190:ガイド部材 D1:走行方向
N:ニップ部 P:記録紙
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2014-186211号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7