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特開2024-158352分散液、及び分散液を用いた積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158352
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】分散液、及び分散液を用いた積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20241031BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 47/00 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20241031BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L83/04
C08L33/04
C08L29/10
C08L47/00
C08L91/06
B05D7/24 301E
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073487
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】中満 陽美
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4D075CA35
4D075DA04
4D075DB01
4D075DB06
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB14
4D075DB39
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC21
4D075EA07
4D075EA10
4D075EB12
4D075EB18
4D075EB22
4D075EB37
4D075EB43
4D075EC30
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AJ11A
4F100AK03A
4F100AK18A
4F100AK21A
4F100AK25A
4F100AK29A
4F100AK52A
4F100AK54A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100EH46A
4F100GB41
4F100JB04
4F100JG05
4F100YY00A
4J002AE033
4J002BD151
4J002BD171
4J002BE043
4J002BG073
4J002BL013
4J002CP032
4J002CP182
4J002GF00
4J002GH00
4J002GQ01
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れ、またその表面の親水性や平滑性に優れる成形物を形成できる、分散安定性、レオロジー特性及び取扱い性に優れる、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む分散液を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、ブタジエン系ポリマー、オレフィン系ポリマーからなる群より選択される1種以上の非シリコーン系ポリマーと、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、シリコーン系化合物と、液状媒体とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対する前記シリコーン系化合物の含有量が1質量%以上である、分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、ブタジエン系ポリマー、オレフィン系ポリマーからなる群より選択される1種以上の非シリコーン系ポリマーと、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、シリコーン系化合物と、液状媒体とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対する前記シリコーン系化合物の含有量が1質量%以上である、分散液。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、熱溶融性であり、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が1μm以上10μm未満である、請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の含有量が20質量%以上である、請求項1に記載の分散液。
【請求項5】
前記液状媒体が、アミド、ケトンおよびエステルから選択される少なくとも1種の非水系化合物である、請求項1に記載の分散液。
【請求項6】
前記シリコーン系化合物が、親水部位としてポリオキシアルキレン構造を、疎水部位としてポリジメチルシロキサン構造を有する、請求項1に記載の分散液。
【請求項7】
前記シリコーン系化合物が、ポリオルガノシロキサン基及び炭素数6~40の1価炭化水素基を有しフッ素原子を有さないシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項8】
前記シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーが、ポリシルセスキオキサン構造を有する(メタ)アクリレート系ポリマーである、請求項7に記載の分散液。
【請求項9】
前記シリコーン系化合物の含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対して1~15質量%の範囲である、請求項1に記載の分散液。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートを2~40質量部と、アルキル(メタ)アクリレートを60~98質量部とを共重合したコポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項11】
前記ビニルエーテル系ポリマーが、水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートを2~40質量部と、アルキルビニルエーテルを60~98質量部とを共重合したコポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項12】
前記ブタジエン系ポリマーが、ブタジエン含有量が20質量%以上であるポリブタジエンに、メルカプタンを付加させたポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項13】
前記オレフィン系ポリマーが、液状又はワックス状のポリオレフィンである、請求項1に記載の分散液。
【請求項14】
前記非シリコーン系ポリマーの含有量が、前記シリコーン系化合物の含有量より少ない、請求項1に記載の分散液。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の分散液を基材の表面に配置し加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成し、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とをこの順で有する積層体を得る、積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む分散液に関する。詳細には、本発明はテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む非水系の分散液、及び該分散液を用いた積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器における高速化、高周波化に対応するため、通信機器のプリント基板の絶縁層として低誘電率かつ低誘電正接であるテトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。かかるポリマーを含む絶縁層を形成する材料として、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液が知られている。
テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子は、液状分散媒中での分散性が概して低いため、添加剤を加えてその改善を図る試みがなされている。特許文献1には、含フッ素基及び親油性基を有するフッ素系添加剤を含む、所定粒径であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の非水系分散液が提案されている。特許文献2には、含フッ素基を有しかつ熱分解性の基を有する分散剤を含有する、フッ素樹脂粒子の分散体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-199901号公報
【特許文献2】特開2017-193655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2のようにフッ素系添加剤を含有させた分散液において、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の分散性は向上するが、分散液から塗膜(ポリマー層)等の成形品を形成する際にその物性を低下させやすい。具体的には、かかるフッ素系添加剤が成形品に残存し、表面にブリードアウトして、成形品表面の平滑性や親水性(接着性)等を損ないやすい。
フッ素系添加剤に代えてシリコーン系添加剤を用いると、成形品の表面物性等を改善できる反面、本発明者らは、分散液の粘度特性等のレオロジー特性が低下し、特に剪断又は流動状態における分散液の発泡性や、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の沈降性を制御し難くなる傾向になることを知見した。
かかる課題の解決のため検討した結果、本発明者らは、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子とシリコーン系添加剤と液状媒体とを含み、さらに特定の非シリコーン系化合物を特定量含有させた分散液は、分散安定性に優れ、粘度特性等のレオロジー特性を制御しやすくなることを知見した。
また、かかる分散液から形成されるポリマー層等の成形物は、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れ、かつその表面の親水性等にも優れることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れ、またその表面の親水性や平滑性に優れる成形物を形成できる、分散安定性、レオロジー特性及び取扱い性に優れる、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む分散液の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] (メタ)アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、ブタジエン系ポリマー、オレフィン系ポリマーからなる群より選択される1種以上の非シリコーン系ポリマーと、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、シリコーン系化合物と、液状媒体とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対する前記シリコーン系化合物の含有量が1質量%以上である、分散液。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、熱溶融性であり、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]の分散液。
[3] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が1μm以上10μm未満である、[1]又は[2]の分散液。
[4] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の含有量が20質量%以上である、[1]~[3]のいずれかの分散液。
[5] 前記液状媒体が、アミド、ケトンおよびエステルから選択される少なくとも1種の非水系化合物である、[1]~[4]のいずれかの分散液。
[6] 前記シリコーン系化合物が、親水部位としてポリオキシアルキレン構造を、疎水部位としてポリジメチルシロキサン構造を有する、[1]~[5]のいずれかの分散液。
[7] 前記シリコーン系化合物が、ポリオルガノシロキサン基及び炭素数6~40の1価炭化水素基を有しフッ素原子を有さないシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーである、[1]~[6]のいずれかの分散液。
[8] 前記シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーが、ポリシルセスキオキサン構造を有する(メタ)アクリレート系ポリマーである、[7]の分散液。
[9] 前記シリコーン系化合物の含有量が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対して1~15質量%の範囲である、[1]~[8]のいずれかの分散液。
[10] 前記(メタ)アクリル系ポリマーが、水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートを2~40質量部と、アルキル(メタ)アクリレートを60~98質量部とを共重合したコポリマーである、[1]~[9]のいずれかの分散液。
[11] 前記ビニルエーテル系ポリマーが、水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートを2~40質量部と、アルキルビニルエーテルを60~98質量とを共重合したコポリマーである、[1]~[9]のいずれかの分散液。
[12] 前記ブタジエン系ポリマーが、ブタジエン含有量が20質量%以上であるポリブタジエンに、メルカプタンを付加させたポリマーである、[1]~[9]のいずれかの分散液。
[13] 前記オレフィン系ポリマーが、液状又はワックス状のポリオレフィンである、[1]~[9]のいずれかの分散液。
[14] 前記非シリコーン系ポリマーの含有量が、前記シリコーン系化合物の含有量より少ない、[1]~[13]のいずれかの分散液。
[15] [1]~[14]のいずれかの分散液を基材の表面に配置し加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成し、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とをこの順で有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、分散安定性、レオロジー特性及び取扱い性に優れた分散液を提供できる。かかる分散液からは、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れ、またその表面の親水性や平滑性に優れる、塗膜(ポリマー層)等の成形物を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子又はフィラーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子又はフィラーのD50は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「平均粒子径(D90)」は、D50と同様にして求められる、粒子の体積基準累積90%径である。
粒子又はフィラーの比表面積は、ガス吸着(定容法)BET多点法で粒子を測定し算出される値であり、NOVA4200e(Quantachrome Instruments社製)を使用して求められる。
「溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で分散液を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、分散液の、回転数が30rpmの条件で測定される粘度ηを、回転数が60rpmの条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
溶媒又は溶液の「表面張力」は、表面張力計を用い、25℃にてウィルヘルミー法で測定した値である。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0008】
本発明の分散液(以下、「本分散液」とも記す。)は、(メタ)アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、ブタジエン系ポリマー、オレフィン系ポリマーからなる群より選択される1種以上の非シリコーン系ポリマーと、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「F粒子」とも記す。)と、シリコーン系化合物と、液状媒体とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対する前記シリコーン系化合物の含有量が1質量%以上である。
本分散液は分散安定性及び粘度特性等のレオロジー特性、特に剪断又は流動状態における発泡の抑制に優れており、かかる分散液から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物は、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れ、またその表面の親水性や平滑性に優れる。
本分散液が分散安定性及びレオロジー特性に優れる理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0009】
本分散液が含有するシリコーン系化合物は、フッ素系添加剤と同様に界面活性剤としての作用を有するが、塗膜等の成形過程で分解しやすいため、成形物の物性に及ぼす影響はフッ素系添加剤と比較して小さい。その反面、F粒子との親和力は相対的に小さく、F粒子と充分に相互作用させるためには多量の配合が必要となり、分散液の表面張力を下げるという作用を併発して、分散液のレオロジー特性を低下させやすくなる。
本分散液は、シリコーン系化合物に加えて特定の非シリコーン系ポリマーを含有する。かかる非シリコーン系ポリマーは、後述するように、一定の疎水性を有する分子構造を有するとも見做せるためF粒子との親和性は低い反面、シリコーン系化合物との親和性は相対的に高いとも見做せる。分散液中にこのような非シリコーン系ポリマーが存在すると、F粒子の分散性を阻害することなく、シリコーン系化合物の上記作用を軽減させ、成分間の相互作用を促すので、分散液の分散安定性とレオロジー特性とがバランスして向上したと考えられる。
そのため、本分散液はF粒子の分散安定性及びレオロジー特性の液物性に優れており取扱い性に優れ、また塗膜や層等の成形品の形成において、その表面の親水性や平滑性等の層物性を向上させていると考えられる。
かかる作用機構は、本分散液を構成する液状媒体が非水系の特定の極性溶媒である場合や、本分散液が含有するシリコーン系化合物が、後述する特定のシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーである場合に、一層顕著となる。
【0010】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含むポリマーである。
Fポリマーは、熱溶融性であってもよく、非熱溶融性であってもよい。ここで、熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。
熱溶融性であるFポリマーの溶融温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。前記Fポリマーの溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。この場合、本分散液から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が耐熱性に優れやすい。
【0011】
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
【0012】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、PFA及びFEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PTFEとしては、低分子量PTFE、変性PTFEが挙げられる。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0013】
Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有するのがさらに好ましい。この場合、本分散液は、上述した作用機構がより発現されやすく、分散安定性及び取扱い性に優れやすい。また、本分散液から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が、耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性や、その表面の親水性や平滑性に優れやすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH及び-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有する場合、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0014】
酸素含有極性基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
【0015】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリマーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0016】
本発明において、F粒子のD50は1μm以上10μm未満であるのが好ましい。F粒子は、中実状の粒子であってもよく、非中空状の粒子であってもよい。F粒子は、nmオーダーの微粒子から形成された二次粒子であってもよい。F粒子のD50は、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。F粒子のD50は、6μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。F粒子のD50が上記範囲以下であると、上述した作用機構がより発現しやすくなり、粗大粒子の数が少ない本分散液が得られやすい。
また、F粒子のD90は8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。
F粒子の比表面積は、1~25m/gであるのが好ましく、6~15m/gがより好ましい。F粒子の比表面積が上記範囲であると、F粒子表面がより濡れやすく、上述した作用機構がより発現しやすい。
【0017】
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーからなるのが好ましい。
F粒子は、溶融温度が200~325℃である、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子であるのがより好ましい。この場合、上述した作用機構がより発現されてF粒子の凝集も抑制されやすい。
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0018】
本分散液を構成するシリコーン系化合物は、親水部位としてポリオキシアルキレン構造を、疎水部位としてポリジメチルシロキサン構造を有する化合物であるのが好ましい。
また、シリコーン系化合物は、ポリオルガノシロキサン基及び炭素数6~40の1価炭化水素基を有しフッ素原子を有さないシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーであるのがより好ましい。シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーは界面活性剤としての役割を有し、そのポリオルガノシロキサン部位によりF粒子に対する親和性が高く、特にF粒子の濡れ性を高めやすい。また、炭素数6~40の1価炭化水素基の存在によって、非水系溶媒に対する親和性も有しており、これらの性質が、ポリマー鎖を構成する剛直な(メタ)アクリル鎖によってバランスしていると考えられる。
【0019】
かかるシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーが有する炭素数6~40の1価炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、また下式(1)
-C(Q)(Q)(Q) (1)
[式(1)中、Q、Q及びQは、Q、Q及びQがそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基であるか、Q及びQが水素原子でありQがアリール基であるか、Q及びQがそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基でありQがアルコキシ基であるか、又はQが水素原子又はアルキル基でありQ及びQが一緒になって直鎖状又は分岐状の、環構造を有していてもよいアルキレン基を形成している。]
で示される基が挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよい。なお、式(1)における前記アルキレン基中には、不飽和結合又はヘテロ原子が含まれていてもよい。
1価炭化水素基の例として、シクロヘキシル基、t-ブチルシクロヘキシル基、ベンジル基、ノルボルニル基、ジシクロペンタジエニル基、アダマンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基が挙げられる。
中でも、1価炭化水素基が炭素数12~40のアルキル基であるのが好ましく、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基がより好ましい。
【0020】
本分散液を構成するシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーが有するポリオルガノシロキサン基は、ポリオルガノシロキサン基を有する(メタ)アクリレートの単位に由来するのが好ましい。
かかる(メタ)アクリレートとしては、3-(トリアルコキシシリル)プロピル(メタ)アクリレートとアルコキシシラン又はフェノキシシランとを反応させて得られるポリオルガノシロキサン基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーとして、ポリシルセスキオキサン(加水分解性官能基を3個有するシラン化合物の加水分解物の脱水重縮合物)構造を有する(メタ)アクリレート系ポリマーが、より好ましい。かかるポリマーとしては、例えば特開2013-155231号公報に記載される、ラダー骨格の末端にケイ素含有基を導入した梯子型ポリシルセスキオキサンが挙げられる。
【0022】
シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーは、本分散液から形成される成形物の表面の親水性をより向上させる観点から、さらに水酸基を有するのが好ましい。水酸基は、シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーの主鎖に存在しても側鎖に存在してもよい。
炭素数6~40の1価炭化水素基、及びポリオルガノシロキサン基を好適には側鎖又はグラフト鎖に有し、さらに水酸基を有するシリコーン変性アクリレート系ポリマーが、その嵩高さ及び親水性の観点から、本分散液にさらに含有させるうえで好ましい。
シリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマーは市販品を用いることもでき、トクシキ社製の「SQ100」「SQ200」(いずれも商品名)、日信化学工業社製の「シャリーヌ」シリーズ等が挙げられる。
【0023】
本分散液が含有する液状媒体は、大気圧下、25℃にて液体である化合物であり、沸点が50~240℃である化合物が好ましい。液状媒体は1種類を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種以上の液状媒体を用いる場合、2種以上の液状媒体は、互いに相溶するのが好ましい。
液状媒体としては、水、炭化水素、アミド、ケトン、エステル、エーテル等が挙げられる。炭化水素としては、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレンが挙げられる。
アミドとしては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンが挙げられる。
エーテルとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アニソール、エチルベンジルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテルが挙げられる。
【0024】
本分散液においては、液状媒体が、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選択される少なくとも1種の非水系化合物であるのが好ましい。
本分散液における液状媒体の含有量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。液状媒体の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0025】
また、液状媒体の表面張力は、20~50mN/mであるのが好ましい。例えばN-メチル-2-ピロリドンの表面張力は41mN/m、シクロヘキサノンの表面張力は35.2mN/mである。表面張力が上記範囲内である液状媒体を用いると、F粒子の分散安定性に優れ、上述した作用機構がより発現されやすいと考えられる。
【0026】
本分散液が含有する非シリコーン系ポリマーは、(メタ)アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、ブタジエン系ポリマー、オレフィン系ポリマーからなる群より選択される1種以上である。これらは、いずれも消泡作用を有する点で共通するポリマー群である。本分散液が、シリコーン系化合物に加えてさらに非シリコーン系ポリマーを含有することにより、上述した作用機構が発現され、本分散液の粘度特性等のレオロジー特性が改善され、特に剪断又は流動状態における分散液の発泡が抑制される。
【0027】
(メタ)アクリル系ポリマーは、水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートを2~40質量部と、アルキル(メタ)アクリレートを60~98質量部とを共重合したコポリマーであるのが好ましい。前記コポリマーの重量平均分子量は2000~100000であるのが好ましい。
水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の、好ましくは炭素数2~4のアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート等の、オキシアルキレン単位の繰り返し単位数が好適には1~100であるポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
アルキル(メタ)アクリレートは、炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数8~22のアルキル基を有する疎水性のアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。かかるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばn-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリル系ポリマーは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。
(メタ)アクリル系ポリマーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のモノマーがさらに共重合されていてもよい。
【0028】
ビニルエーテル系ポリマーは、水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートを2~40質量部と、アルキルビニルエーテルを60~98質量部とを共重合したコポリマーであるのが好ましい。前記コポリマーの重量平均分子量は、2000~100000であるのが好ましい。
水酸基又はポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートの詳細は、上述した内容と同様である。
アルキルビニルエーテルは、炭素数8以上のアルキルビニルエーテルが好ましく、炭素数8~18のアルキル基を有する、疎水性のアルキルビニルエーテルがより好ましい。かかるアルキルビニルエーテルとしては、例えばn-オクチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、イソノニルビニルエーテル、イソデシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ヘキサデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテルが挙げられる。
ビニルエーテル系ポリマーは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。
ビニルエーテル系ポリマーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のモノマーがさらに共重合されていてもよい。
【0029】
ブタジエン系ポリマーは、ブタジエン含有量が20質量%以上であるポリブタジエンに、メルカプタンを付加させたポリマーであるのが好ましい。前記ポリマーの数平均分子量は1000~100000であるのが好ましい。
ブタジエン含有量は、40質量%以上が好ましく、100質量%であってもよい。ポリブタジエンを構成するブタジエン以外のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、上記した炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、上記した炭素数8以上のアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル、スチレン等が挙げられる。
ポリブタジエンは、その分子末端又は分子内に、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、チオカルボキシル基、エポキシ基を有していてもよい。
メルカプタンとしては、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、t-ノニルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、アリルメルカプタン、β-メルカプトエタノール、チオグリコール酸、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
メルカプタンの付加量は、通常、ブタジエン単位に対して1~50モル%が好ましく、2~40モル%がより好ましい。
メルカプタンのポリブタジエンへの付加は、ポリブタジエンをキシレン等の溶媒に溶解させ、過酸化物の存在下、50~150℃でメルカプタンを反応させて行える。
【0030】
オレフィン系ポリマーは、液状又はワックス状のポリオレフィンであるのが好ましい。前記ポリオレフィンの重量平均分子量は、1000~100000であるのが好ましい。ここで、ワックスとは、常温(0℃~30℃)で固体または半固体であり、常温~160℃の範囲で溶融し溶融粘度が低い低分子量樹脂を意味する。
【0031】
本分散液が含有する非シリコーン系ポリマーは市販品を用いてもよく、例えば共栄社化学社の「フローレンAC-2000HF」「フローレンAC-2200HF」「フローレンAC-300VF」「フローレンAC-1160HF」「ポリフロー No.77」「ポリフロー No.90」「フローレンAC-380」「ポリフローNo.36」(いずれも商品名);楠本化成社の「OX-60」「1952」「1958」(いずれも商品名)が挙げられる。
【0032】
本分散液はまた、アミノ基、アンモニウム基、アミド基及びカルバメート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の窒素原子含有基並びに炭素数6~40の1価炭化水素基を有しフッ素原子を有さない、上述した非シリコーン系ポリマーとしての(メタ)アクリル系ポリマーとは相違する(メタ)アクリレート系ポリマー(以下、「(メタ)アクリレート系ポリマー」とも記す。)をさらに含有していてもよい。
(メタ)アクリレート系ポリマーは、窒素原子を含有しない(メタ)アクリレートと、アミノ基、アンモニウム基、アミド基及びカルバメート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の窒素原子含有基を有する(メタ)アクリレート(以下、「窒素原子含有(メタ)アクリレート」とも記す。)とを共重合したコポリマーであるのが好ましい。
【0033】
窒素原子を含有しない(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、クロチル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリオキシエチレンノニルフェノール(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
前記した窒素原子含有(メタ)アクリレートの具体例としては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N-プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリルオキシプロピルトリエタノールアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリルオキシプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリルオキシプロピルジメチルフェニルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリレート系ポリマーは、例えば、窒素原子を含有しない(メタ)アクリレート10~85質量部と、窒素原子含有(メタ)アクリレート10~60質量部と、さらに必要に応じて末端(メタ)アクリロイル基含有マクロモノマー5~30質量部とを共重合した、数平均分子量(Mn)が4000~100000のコポリマーであるのが好ましい。Mnが前記範囲内であると、上述した作用機構がより発現されてF粒子の凝集も抑制されやすい。また、本分散液から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が、その表面の親水性や平滑性に優れやすい。かかるコポリマーは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。
かかる(メタ)アクリレート系ポリマーは市販品を用いることもでき、例えば共栄社化学社の「DOPA-15B」、「DOPA-15BHFS」、「DOPA-17HF」、「DOPA-22」、「DOPA-35」(いずれも商品名)が挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリレート系ポリマーをさらに含有させる場合、その含有量は、分散液の全体質量に対して10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下がより好ましい。
また、(メタ)アクリレート系ポリマーをさらに含有させる場合、その含有量は、本分散液が含有するF粒子に対する質量比として0.01~0.15であるのが好ましい
さらに、(メタ)アクリレート系ポリマーの含有量がシリコーン系化合物の含有量より少ないことが好ましい。
【0037】
本分散液はまた、アミン価が20~120mg/KOHであり水酸基を有するカルボン酸エステル(以下、「カルボン酸エステル」とも記す。)をさらに含有していてもよい。カルボン酸エステルのアミン価は、100mgKOH/g以下が好ましい。また、アミン価は、25mgKOH/g以上が好ましい。
また、カルボン酸エステルの酸価は、5~20mg/KOHであるのが好ましく、5~15mg/KOHであるのがより好ましい。
なお、アミン価は、0.1Nの塩酸水溶液を用いて電位差滴定を行い、水酸化カリウムの当量に換算した値である。酸価は、JIS K 0070に準じて電位差滴定により測定できる。
【0038】
カルボン酸エステルは、エチレンイミン基及びオキシアルキレンカルボニル基を有するのが好ましく、エチレンイミン基を主鎖に有し、オキシアルキレンカルボニル基を側鎖に有するポリマーであるのが好ましい。オキシアルキレンカルボニル基としては、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、4-メチル-δ-バレロラクトン等のラクトンが開環して形成された基であるのが好ましく、ラクトンが開環重合して形成された基であるのがより好ましい。かかるオキシアルキレンカルボニル基はラクトンの開環により、末端に水酸基を有することができる。
カルボン酸エステルは水酸基を有しており、本分散液から形成される成形物の表面の親水性の向上に寄与すると考えられる。水酸基は、ポリマーであるカルボン酸エステルの主鎖に存在しても側鎖に存在してもよく、また末端に存在しても重合鎖中に存在してもよい。
【0039】
エチレンイミン基を主鎖に有し、オキシアルキレンカルボニル基を側鎖に有するポリマーである、水酸基を有するカルボン酸エステルは、公知の方法で製造できる。例えば、特開昭54-37082号公報、特開昭61-174939号公報等に記載のポリエチレンイミンとポリエステルを反応させた化合物が挙げられる。
中でも、カルボン酸エステルとしては、主鎖がポリエチレンイミンであり、側鎖に少なくともポリカプロラクトンを含むポリマーであるのがより好ましい。換言すれば、カルボン酸エステルが、ポリエチレンイミンにε-カプロラクトンを付加重合させた化合物であるのがより好ましい。
ポリマーであるカルボン酸エステルの重量平均分子量(Mw)は2000~20000の範囲であるのが好ましい。またかかるポリマーの分子量分布は2以下であるのが好ましい。
このようなカルボン酸エステルとして市販品を用いることもできる。例えば「DISPERBYK107」、「DISPERBYK108」等の「DISPER」シリーズ(BYK社製)、「ソルスバーズ」シリーズ(ルーブリゾール社製)、「アジスパー」シリーズ(味の素ファインテクノ社製)等における化合物から選択できる。
【0040】
カルボン酸エステルをさらに含有させる場合、その含有量は、分散液の全体質量に対して10質量%以下であるのが好ましい。
また、カルボン酸エステルをさらに含有させる場合、その含有量は、本分散液が含有するF粒子に対する質量比として0.01~0.15であるのが好ましい。
さらに、カルボン酸エステルの含有量がシリコーン系化合物の含有量より少ないことが好ましい。
【0041】
本分散液は、無機フィラーをさらに含有していてもよい。この場合、本分散液から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が、電気特性と低線膨張性とに優れやすい。
無機フィラーの形状は、球状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよく、具体的には、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状であってもよい。
無機フィラーとしては、例えば石英粉、シリカ、ウォラストナイト、タルク、窒化ケイ素、炭化ケイ素、雲母等のケイ素化合物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒素化合物;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物;炭素繊維;グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素同素体;銀、銅等の金属;が挙げられる。
無機フィラーは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機フィラーのD50は、0.1~50μmが好ましい。
無機フィラーの表面は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
本分散液が無機フィラーを含む場合、本分散液における無機フィラーの含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0042】
本分散液は、上述したFポリマー、非シリコーン系ポリマー、シリコーン系化合物、(メタ)アクリレート系ポリマー、カルボン酸エステルとは異なる他の樹脂をさらに含んでいてもよい。かかる他の樹脂は、本分散液に非中空状の粒子として含まれていてもよく、本分散液を構成する液状媒体に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
他の樹脂としては、芳香族系ポリマーが好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸、芳香族ポリアミドイミド及び芳香族ポリアミドイミドの前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族イミドポリマーがより好ましい。
本分散液が他の樹脂をさらに含む場合、F粒子に対する他の樹脂の含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0043】
本分散液は、その粘度及びチキソ比を調整する観点から、粘度調節剤をさらに含んでいてもよい。
【0044】
本分散液は、さらに、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0045】
本分散液は、F粒子とシリコーン系化合物と非シリコーン系ポリマーと液状媒体と、必要に応じて前記した(メタ)アクリレート系ポリマー、カルボン酸エステル、無機フィラー、他の樹脂、添加剤等を混合することで得られる。
本分散液は、F粒子とシリコーン系化合物と非シリコーン系ポリマーと液状媒体を一括で混合して得てもよいし、別々に順次混合してもよいし、これらのマスターバッチを予め作成し、それと残りの成分を混合してもよい。混合の順は特に制限はなく、また混合の方法も一括混合でも複数回に分割して混合してもよい。
【0046】
例えば、F粒子を液状媒体の一部に予め分散し、次いでシリコーン系化合物及び非シリコーン系ポリマーとを添加して混合し、得られた混合物を残余の液状媒体に添加して本分散液を得るのが、分散性を向上できる観点から好ましい。
前記した(メタ)アクリレート系ポリマー、カルボン酸エステルをさらに混合する場合、そのまま又は上記した液状媒体の溶液として添加してもよい。また、前記した無機フィラー、他の樹脂、添加剤等を必要に応じてさらに混合する場合、F粒子と液状媒体との混合に際して混合しても、前記混合物を液状媒体に添加するに際して混合してもよい。
【0047】
本分散液を得るための混合の装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー及びプラネタリーミキサー等のブレードを備えた撹拌装置、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル及びアジテーターミル等のメディアを備えた粉砕装置、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機及びV型ミキサー等の他の機構を備えた分散装置が挙げられる。
【0048】
本分散液におけるF粒子の含有量は、20質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのがより好ましく、30質量%以上であるのがさらに好ましい。F粒子の含有量は、75質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
【0049】
本分散液において、F粒子に対するシリコーン系化合物の含有量は1質量%以上であり、3質量%以上が好ましい。F粒子に対するシリコーン系化合物の含有量は15質量%以下であるのが好ましく、12質量%以下がより好ましい。
また、本分散液におけるシリコーン系化合物の含有量は、本分散液の全体質量に対して10質量%以下であるのが好ましい。
本分散液における非シリコーン系ポリマーの含有量は、シリコーン系化合物の含有量より少ないのが、上述した作用機構が発現されやすく本発明の効果をより奏しやすい観点から好ましい。具体的には、非シリコーン系ポリマーの含有量は、シリコーン系化合物に対して1~25質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0050】
本分散液の粘度は、3000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下がより好ましい。本組成部の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、25mPa・s以上がより好ましい。この場合、特に剪断又は流動状態における本分散液の発泡を抑制しやすい。また、本分散液が塗工性に優れ、任意の厚さを有する塗膜(ポリマー層)等の成形物を形成しやすい。また、かかる範囲の粘度範囲にある本分散液は、それから形成される成形物において、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
本分散液のチキソ比は、1.0~2.5が好ましい。この場合、本分散液は、塗工性及び均質性に優れ、より緻密な成形物を生成しやすい。
【0051】
本分散液から形成される成形物の誘電率は2.4以下であるのが好ましく、2.1以下であるのがより好ましい。また、誘電率は1.0超であるのが好ましい。成形物の誘電正接は、0.0022以下であるのが好ましく、0.0020以下であるのがより好ましい。また、誘電正接は、0.0010超であるのが好ましい。成形物の熱伝導率は、1W/m・K以上であるのが好ましく、3W/m・K以上がより好ましい。
【0052】
本分散液を例えばシート状に押出す等の成形方法に供すれば、Fポリマーを含む、シート等の成形物を形成できる。押出して得たシートは、さらにプレス成形、カレンダー成形等をして流延してもよい。シートは、さらに加熱して、液状媒体を除去し、Fポリマーを焼成するのが好ましい。
【0053】
本分散液から形成されるシートの厚さは、1~1000μmが好ましい。
シートの誘電率、誘電正接及び熱伝導率の好適な範囲は、それぞれ、上述した成形物の誘電率、誘電正接及び熱伝導率の範囲と同様である。なお、シートにおける熱伝導率とは、シートの面内方向における熱伝導率を意味する。
シートの線膨張係数は、250ppm/℃以下が好ましく、220ppm/℃以下がより好ましい。シートの線膨張係数の下限は、30ppm/℃である。なお、線膨張係数は、JIS C 6471:1995に規定される測定方法に従って、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した値を意味する。
【0054】
かかるシートを基材に積層すれば積層体を形成できる。積層体の製造方法としては、前記基材上に本分散液を押出成形する方法、シートと前記基材とを熱圧着する方法等が挙げられる。
基材としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等の金属基板;ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、テトラフルオロエチレン系ポリマー等の耐熱性樹脂のフィルム;プリプレグ基板(繊維強化樹脂基板の前駆体)、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス基板;ガラス基板が挙げられる。
【0055】
基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられる。また、基材の形状は、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
基材の表面の十点平均粗さは、0.01~0.05μmが好ましい。
基材の表面は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。
シートと基材との剥離強度は、10~100N/cmが好ましい。
【0056】
また、本分散液を基材の表面に配置し加熱して、Fポリマーを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す。)を形成すれば、基材で構成される基材層とF層とをこの順で有する積層体が得られる。
F層は、本分散液を基材の表面に配置し、加熱して液状媒体を除去し、さらに加熱してFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。かかる積層体から基材を分離すれば、Fポリマーを含むシートを得られる。
基材としては、上述のシートと積層できる基材と同様のものが挙げられ、その好適態様も同様である。
【0057】
本分散液の配置の方法としては、塗布法、液滴吐出法、浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
液状媒体の除去に際する加熱は、100~200℃にて、0.1~30分間で行うのが好ましい。この際の加熱において液状媒体は、完全に除去する必要はなく、F粒子のパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって液状媒体の除去を促してもよい。
【0058】
Fポリマーの焼成に際する加熱は、Fポリマーの溶融温度以上の温度にて行うのが好ましく、360~400℃にて、0.1~30分間行うのがより好ましい。
それぞれの加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
また、それぞれの加熱は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
また、それぞれの加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0059】
F層は、本分散液の配置、加熱の工程を経て形成される。これら工程は1回ずつ行ってもよく、2回以上繰り返してもよい。例えば、基材の表面に本分散液を配置し加熱してF層を形成し、さらに前記F層の表面に本分散液を配置し加熱して2層目のF層を形成してもよい。また、基材の表面に本分散液を配置し加熱して液状媒体を除去した段階で、さらにその表面に本分散液を配置し加熱してF層を形成してもよい。
本分散液は、基材の一方の表面にのみ配置してもよく、基材の両面に配置してもよい。前者の場合、基材層と、かかる基材層の片方の表面にF層を有する積層体が得られ、後者の場合、基材層と、かかる基材層の両方の表面にF層を有する積層体が得られる。
【0060】
積層体の好適な具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にF層を有する多層フィルムが挙げられる。
F層の厚さ、誘電率、誘電正接、熱伝導率、線膨張係数、F層と基材層との剥離強度の好適範囲は、上述の本分散液から形成されるシートにおける、厚さ、誘電率、誘電正接、熱伝導率、線膨張係数、シートと基材との剥離強度の好適範囲と同様である。
【0061】
本分散液は、絶縁性、耐熱性、対腐食性、耐薬品性、耐水性、耐衝撃性、熱伝導性を付与するための材料として有用である。
本分散液は、具体的には、プリント配線板、熱インターフェース材、パワーモジュール用基板、モーター等の動力装置で使用されるコイル、車載エンジン、熱交換器、バイアル瓶、注射筒(シリンジ)、アンプル、医療用ワイヤー、リチウムイオン電池等の二次電池、リチウム電池等の一次電池、ラジカル電池、太陽電池、燃料電池、リチウムイオンキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、キャパシタ、コンデンサ(アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等)、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、電極のバインダー、電極のセパレーター、電極(正極、負極)に使用できる。
また、本分散液は部品を接着する接着剤としても有用である。具体的には、本分散液は、セラミックス部品の接着、金属部品の接着、半導体素子やモジュール部品の基板におけるICチップや抵抗、コンデンサ等の電子部品の接着、回路基板と放熱板の接着、LEDチップの基板への接着に使用できる。
【0062】
本分散液から形成されるシート等の成形物、及び積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、放熱部品等として有用である。
具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気自動車等のモーター等に使用されるエナメル線被覆材、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、石油輸送ホース、水素タンク、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー又は電極被覆材(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、ヨー軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、ブッシュ、シール、スラストワッシャ、ウェアリング、ピストン、スライドスイッチ、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、テンションロープ、ウェアパッド、ウェアストリップ、チューブランプ、試験ソケット、ウェハーガイド、遠心ポンプの摩耗部品、薬品及び水供給ポンプ、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ラケットのガット、ダイス、便器、コンテナ被覆材、パワーデバイス用実装放熱基板、無線通信デバイスの放熱部材、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィン、金属放熱板、風車や風力発電設備や航空機等のブレード、パソコンやディスプレイの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品、電磁波シールドとして有用である。
【0063】
本分散液から形成されるシート等の成形物、及び積層体は、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等の電子基板材料、保護フィルムや放熱基板、特に自動車向けの放熱基板として有用である。
【0064】
以上、本分散液、及び本分散液から形成されるポリマー層を有する積層体の製造方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本分散液は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。また、本分散液から形成されるポリマー層を有する積層体の製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例0065】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
F粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)の粒子(D50:2.0μm、比表面積:7m/g)
[シリコーン系化合物]
化合物1:CH=CH(CH)C(O)O(CHSiO(CHから誘導されたラダー状のポリオルガノシロキサン基を有し、1価炭化水素基がオクタデシル基である、オクタデシルメタクリレート単位を有する、フッ素原子を有さないシリコーン変性(メタ)アクリレート系ポリマー
[非シリコーン系ポリマー]
ポリマー1:-N(CH Cl(アンモニウム基)とオクタデシル基を有する(メタ)アクリレート単位を有する、(メタ)アクリレート系ポリマー
ポリマー2:ブタジエンとステアリルメタクリレートのコポリマーにオクチルメルカプタンを付加させて得られた、ブタジエン系ポリマー
ポリマー3:ポリエチレングリコール
ポリマー4:ペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート単位とアルキル(メタ)アクリレート単位とを有する、フッ素原子を有する(メタ)アクリレート系ポリマー
[液状媒体]
NMP:N-メチルピロリドン
【0066】
2.分散液の製造例
[例1]
ポットに、F粒子1と化合物1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がして、F粒子1(40質量部)、化合物1(4質量部)及びNMP(56質量部)を含む分散液1を得た。
[例2~5]
分散液の構成成分と含有量を表1に示すとおりに変化させた以外は例1と同様にして、分散液2~5を得た。
【0067】
【表1】
【0068】
3.評価
3-1.分散液の起泡性
それぞれの分散液を振とうさせた際の発泡状況を確認すると、分散液2、分散液3、分散液4、分散液1の順で起泡量が少なかった。また、分散液2は消泡性にも特に優れていた。
3-2.分散液の分散性
それぞれの分散液を室温静置した際のF粒子の沈降量を確認すると、分散液2及び5の沈降量が最も少なく、他の分散液におけるF粒子の沈降量は、分散液3、分散液4、分散液1の順で少なかった。
【0069】
3-3.積層体の製造及び層物性の評価
それぞれの分散液をそれぞれ用いて積層体を製造し、形成されたポリマー層を評価した。具体的には、ロール・ツー・ロールプロセスにより、銅箔の一方の表面に、各分散液を塗工し、通風乾燥炉(炉温150℃)に3分間で通過させ、さらに遠赤外線炉(炉温360℃)に5分間で通過させてF粒子1を溶融焼成し、銅箔の表面にポリマー層(厚さ25μm)を有する積層体を得た。得られた積層体のポリマー層の水に対する接触角を測定した結果、分散液2のポリマー層、分散液4のポリマー層、分散液3のポリマー層、分散液1のポリマー層、分散液5のポリマー層の順で接触角が高く、この順で親水性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の分散液は分散安定性及び取扱い性に優れる。また、Fポリマーの物性を高度に発現し、その表面性に優れる、塗膜(ポリマー層)等の成形物を形成できる。