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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158389
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】化粧品
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20241031BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q1/00
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073546
(22)【出願日】2023-04-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】延田 紘治
(72)【発明者】
【氏名】松田 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】椎名 真己
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AD261
4C083AD262
4C083BB22
4C083BB25
4C083BB26
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC12
4C083CC13
4C083CC14
4C083CC19
4C083CC23
4C083EE11
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】本発明は、石油由来のプラスチック粒子の代替となり得る多孔質セルロース粒子を用いて、皮脂吸着による化粧崩れおよびテカリを抑制できる化粧品を提供することを課題とし、さらに、本発明は、多孔質セルロース粒子を用いて、優れた保湿力を有する化粧品を提供することを課題とする。
【解決手段】略球状の多孔質セルロース粒子を含む化粧品であって、前記多孔質セルロース粒子のモード径が1.0μmから300.0μmであり、前記多孔質セルロース粒子が粒子表面に開孔部を有し、前記開孔部が粒子内部の空隙と通じており、走査型電子顕微鏡で観察される、前記多孔質セルロース粒子の投影面積に対する前記開孔部の総投影面積の割合が、5%から95%であることを特徴とする、化粧品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略球状の多孔質セルロース粒子を含む化粧品であって、
前記多孔質セルロース粒子のモード径が1.0μmから300.0μmであり、
前記多孔質セルロース粒子が粒子表面に開孔部を有し、前記開孔部が粒子内部の空隙と通じており、
走査型電子顕微鏡で観察される、前記多孔質セルロース粒子の投影面積に対する前記開孔部の総投影面積の割合が、5%から95%であることを特徴とする、化粧品。
【請求項2】
前記開孔部の平均径が0.01μmから10.0μmである、請求項1に記載の化粧品。
【請求項3】
前記多孔質セルロース粒子の嵩比重が0.10g/mlから0.90g/mlである、請求項1または2に記載の化粧品。
【請求項4】
走査型電子顕微鏡で観察される、前記多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの前記開孔部の個数が、3個/μmから80個/μmである、請求項1または2に記載の化粧品。
【請求項5】
ファンデーション、口紅、アイシャドー、アイライナ、化粧水、美容液、ローション、乳液、下地化粧品、マッサージクリーム、化粧クリーム、スキンクリーム、スキンケア化粧品、保湿化粧品、美白化粧品、薬用化粧品、日焼け止め化粧品、洗顔クリーム、またはクレンジング剤である、請求項1または2に記載の化粧品。
【請求項6】
前記多孔質セルロース粒子が、(a)酢酸セルロースを酢酸セルロースが可溶な溶媒と酢酸セルロースが不溶な溶媒との混合溶媒に加熱溶解して、酢酸セルロース溶液を調製する工程と、(b)前記酢酸セルロース溶液を、乳化安定剤を含む水に分散させて、分散系を得る工程と、(c)前記分散系を冷却し、酢酸セルロース粒子を析出させる工程を含む方法で製造され、前記混合溶媒が水と混和しない有機溶媒である、請求項1または2に記載の化粧品。
【請求項7】
工程(a)において、前記酢酸セルロースが可溶な溶媒が、ベンジルアルコール、酢酸エチル、シクロヘキサノン、またはイソホロンである、請求項6に記載の化粧品。
【請求項8】
工程(a)において、前記酢酸セルロースが不溶な溶媒が、アルコール類、グリコール類、エーテル類、またはエステル類である、請求項6に記載の化粧品。
【請求項9】
工程(a)において、前記混合溶媒における前記酢酸セルロースが可溶な溶媒と前記酢酸セルロースが不溶な溶媒との体積比が5:95から95:5である、請求項6に記載の化粧品。
【請求項10】
工程(a)において、混合溶媒中の酢酸セルロースの割合が、0.1質量%から50質量%である、請求項6に記載の化粧品。
【請求項11】
工程(a)において、前記混合溶媒が高分子である第三成分を含有し、前記第三成分がポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールである、請求項6に記載の化粧品。
【請求項12】
工程(b)において、前記乳化安定剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、また
はこれらの混合物である、請求項6に記載の化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セルロース粒子を含有する化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、球状樹脂粒子は、その特性から、艶消し剤、滑り剤、およびブロッキング防止剤等の様々な分野で用いられており、化粧品用途においても種々の球状樹脂粒子が用いられている。一方、近年マイクロプラスチックによる海洋汚染等の問題から、化粧品に配合される球状樹脂粒子の原料素材が、石油由来の合成系素材から天然系素材へと移行しつつある。
【0003】
このような背景から、近年、自然派化粧品やオーガニック化粧品に関心が高まっており、石油由来のプラスチック粒子の代替となる自然由来の原料が求められている。そのような自然由来の原料としてセルロースが知られており、例えば、セルロース誘導体を主成分とする球状の樹脂ビーズを含有する化粧品が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6762407号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質セルロース粒子を含有する化粧品が、皮脂吸着による化粧崩れおよびテカリを抑制し、優れた保湿力を有することは知られていない。
本発明は、石油由来のプラスチック粒子の代替となり得る多孔質セルロース粒子を用いて、皮脂吸着による化粧崩れおよびテカリを抑制できる化粧品を提供することを課題とする。さらに、本発明は、多孔質セルロース粒子を用いて、優れた保湿力を有する化粧品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の微細な多孔質構造を有するセルロース粒子を化粧品に配合すると、皮脂吸着による化粧崩れおよびテカリを抑制し、優れた保湿力が得られることを見出した。さらに、本発明者らは、前記セルロース粒子を所定の嵩比重のものとすると、肌に塗布したときの塗り心地が軽く、皮脂吸着後もサラサラ感を維持でき、肌に塗布した際に発生する色ムラも抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]略球状の多孔質セルロース粒子を含む化粧品であって、
前記多孔質セルロース粒子のモード径が1.0μmから300.0μmであり、
前記多孔質セルロース粒子が粒子表面に開孔部を有し、前記開孔部が粒子内部の空隙と通じており、
走査型電子顕微鏡で観察される、前記多孔質セルロース粒子の投影面積に対する前記開孔部の総投影面積の割合が、5%から95%であることを特徴とする、化粧品。
[2]前記開孔部の平均径が0.01μmから10.0μmである、[1]に記載の化粧品。
[3]前記多孔質セルロース粒子の嵩比重が0.10g/mlから0.90g/mlである、[1]または[2]に記載の化粧品。
[4]走査型電子顕微鏡で観察される、前記多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの前
記開孔部の個数が、3個/μmから80個/μmである、[1]~[3]のいずれかに記載の化粧品。
[5]ファンデーション、口紅、アイシャドー、アイライナ、化粧水、美容液、ローション、乳液、下地化粧品、マッサージクリーム、化粧クリーム、スキンクリーム、スキンケア化粧品、保湿化粧品、美白化粧品、薬用化粧品、日焼け止め化粧品、洗顔クリーム、またはクレンジング剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の化粧品。
[6]前記多孔質セルロース粒子が、(a)酢酸セルロースを酢酸セルロースが可溶な溶媒と酢酸セルロースが不溶な溶媒との混合溶媒に加熱溶解して、酢酸セルロース溶液を調製する工程と、(b)前記酢酸セルロース溶液を、乳化安定剤を含む水に分散させて、分散系を得る工程と、(c)前記分散系を冷却し、酢酸セルロース粒子を析出させる工程を含む方法で製造され、前記混合溶媒が水と混和しない有機溶媒である、[1]~[5]のいずれかに記載の化粧品。
[7]工程(a)において、前記酢酸セルロースが可溶な溶媒が、ベンジルアルコール、酢酸エチル、シクロヘキサノン、またはイソホロンである、[6]に記載の化粧品。
[8]工程(a)において、前記酢酸セルロースが不溶な溶媒が、アルコール類、グリコール類、エーテル類、またはエステル類である、[6]または[7]に記載の化粧品。
[9]工程(a)において、前記混合溶媒における前記酢酸セルロースが可溶な溶媒と前記酢酸セルロースが不溶な溶媒との体積比が5:95から95:5である、[6]~[8]のいずれかに記載の化粧品。
[10]工程(a)において、混合溶媒中の酢酸セルロースの割合が、0.1質量%から50質量%である、[6]~[9]のいずれかに記載の化粧品。
[11]工程(a)において、前記混合溶媒が高分子である第三成分を含有し、前記第三成分がポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールである、[6]~[10]のいずれかに記載の化粧品。
[12]工程(b)において、前記乳化安定剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、またはこれらの混合物である、[6]~[10]のいずれかに記載の化粧品。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、特定の微細な多孔質構造を有するセルロース粒子を化粧品に含有させることで、皮脂吸着による化粧崩れおよびテカリを抑制でき、優れた保湿力が得られるという効果を発揮する。さらに、前記セルロース粒子を含む化粧品を所定の嵩比重のものとすると、肌に塗布したときの塗り心地が軽く、皮脂吸着後もサラサラ感を維持でき、色ムラの発生も抑制できるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の粒子のSEM観察による外観写真である。複数粒子、単一粒子、単一粒子拡大、および粒子断面の写真をそれぞれ示す。
図2図2は、実施例2の粒子のSEM観察による外観写真である。単一粒子の写真を示す。
図3図3は、実施例3の粒子のSEM観察による外観写真である。単一粒子の写真を示す。
図4図4は、実施例4の粒子のSEM観察による外観写真である。単一粒子の写真を示す。
図5図5は、実施例5の粒子のSEM観察による外観写真である。単一粒子の写真を示す。
図6図6は、比較例1の粒子のSEM観察による外観写真である。複数粒子、単一粒子、単一粒子拡大、および粒子断面の写真をそれぞれ示す。
図7図7は、比較例2の粒子のSEM観察による外観写真である。複数粒子、単一粒子、単一粒子拡大、および粒子断面の写真をそれぞれ示す。
図8図8は、比較例3の粒子のSEM観察による外観写真である。複数粒子、単一粒子、単一粒子拡大、および粒子断面の写真をそれぞれ示す。
図9図9は、比較例4の粒子のSEM観察による外観写真である。複数粒子、単一粒子、単一粒子拡大、および粒子断面の写真をそれぞれ示す。
図10図10は、比較例5の粒子のSEM観察による外観写真である。複数粒子、単一粒子、単一粒子拡大、および粒子断面の写真をそれぞれ示す。
図11図11は、評価用基板上にドライ試料を塗布した場合のL*(明度)を示すグラフである。
図12図12は、評価用基板上にオイル含浸試料を塗布した場合のL*(明度)を示すグラフである。
図13図13は、評価用基板上の、ドライ試料を塗布した場合のL*(明度)に対する、オイル含浸試料を塗布した場合のL*(明度)の比を示すグラフである。
図14図14は、評価用基板上にドライ試料を塗布した場合のC*(彩度)を示すグラフである。
図15図15は、評価用基板上にオイル含浸試料を塗布した場合のC*(彩度)を示すグラフである。
図16図16は、評価用基板上の、ドライ試料を塗布した場合のC*(彩度)に対する、オイル含浸試料を塗布した場合のC*(彩度)の比を示すグラフである。
図17図17は、評価用基板上にドライ試料を塗布した場合の光沢度を示すグラフである。
図18図18は、評価用基板上にオイル含浸試料を塗布した場合の光沢度を示すグラフである。
図19図19は、評価用基板上の、ドライ試料を塗布した場合に対する、オイル含浸試料を塗布した場合の光沢度の比を示すグラフである。
図20図20は、評価用基板上にドライ試料を塗布した場合の乾燥速度を示すグラフである。
図21図21は、評価用基板上にオイル含浸試料を塗布した場合の乾燥速度を示すグラフである。
図22図22は、ドライ試料の嵩比重を示すグラフである。
図23図23は、オイル含浸試料の嵩比重を示すグラフである。
図24図24は、ドライ試料を両面テープに塗布した場合のL*(明度)の標準偏差を示すグラフである。
図25図25は、ドライ試料を両面テープに塗布した場合のC*(彩度)の標準偏差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の化粧品は、略球状の多孔質セルロース粒子を含む化粧品であって、前記多孔質セルロース粒子のモード径が1.0μmから300.0μmであり、前記多孔質セルロース粒子が粒子表面に開孔部を有し、前記開孔部が粒子内部の空隙と通じており、走査型電子顕微鏡で観察される、前記多孔質セルロース粒子の投影面積に対する前記開孔部の総投影面積の割合が、5%から95%であることを特徴とする、化粧品である。
【0011】
本発明の化粧品は、略球状の多孔質セルロース粒子を含有する。略球状とは球状体や楕円球のような形状をいい、略球状体の外観写真にて長径(最も長い径)が短径(最も短い径)に対して好ましくは3倍以下であり、より好ましくは2倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以下である。多孔質セルロース粒子は、真球に近い形状であることが好ましい。真球に近い形状であるほど滑り性が高くなるため、化粧品に適した優れた伸び性を示し、肌に塗布した際の塗り心地が軽くなる。また、優れた伸び性により、化粧品を均一に肌に塗布しやすくなるため、色ムラの発生も抑制しやすくなる。
【0012】
本発明に用いられる多孔質セルロース粒子のモード径は1.0μmから300.0μmであり、好ましくは1.0μmから200.0μmであり、より好ましくは1.0μmから100.0μmであり、より好ましくは1.0μmから50.0μmであり、さらに好ましくは2.0μmから24.0μmであり、さらにより好ましくは4.0μmから16.0μmであり、最も好ましくは8.0μmから12.0μmである。多孔質セルロース粒子のモード径は、本発明の化粧品の用途に応じたモード径を採用することができる。例えば、多孔質セルロース粒子のモード径は、本発明の化粧品がファンデーションである場合、5.0μmから10.0μmが好ましく、下地または乳液の場合、30.0μmから50.0μmが好ましく、マッサージクリームの場合、80.0μmから120.0μmが好ましく、洗顔クリームの場合、180.0μmから220.0μmが好ましい。
なお、ここでいうモード径は、粒度分布測定装置:HORIBA製 Laser Scattering Particle Size distribution Analyzer Partica LA-950を使用してモード径を測定することにより算出した。
【0013】
本発明に用いられる多孔質セルロース粒子は、粒子表面に開孔部を有し、前記開孔部が粒子内部の空隙と通じている。すなわち、多孔質セルロース粒子は、三次元ネットワーク状の骨格とその空隙からなる細孔構造を有しており、かつ前記細孔が粒子表面から内部にかけて通じた、微細な多孔質構造を有している。この構造は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて、多孔質セルロース粒子の表面および断面を観察することにより確認できる。多孔質セルロース粒子の開孔部は、粒子表面において、塞がれることなく開孔している。多孔質セルロース粒子が上記のような微細な多孔質構造を有することで、吸油性が向上するため、皮脂吸着によるテカリを抑制できる。また、皮脂吸着によるL*(明度)とC*(彩度)の低下を抑制でき、皮脂吸着による化粧崩れを抑制できる。さらに、吸油性だけでなく吸水性にも優れるため、皮脂吸着前後の双方で肌からの水分の蒸発を抑制し、優れた保湿力を発揮することができる。また、多孔質セルロース粒子表面近傍で光が散乱されやすくなるため、L*(明度)とC*(彩度)が高くなり、シワ、くすみ、毛穴などを隠すカバー力が向上する。さらに、嵩比重が低くなりやすいため、肌に塗布した際の伸びが良くなり色ムラを抑制しやすくなる。
【0014】
なお、「開孔部が粒子内部の空隙と通じている」とは、細孔が粒子表面の開孔部から粒子内部を通り、当該粒子表面以外の表面まで通じている状態(すなわち、細孔の両端部が粒子表面に通じている状態)だけでなく、粒子表面から内部まで通じているが、内部から当該粒子表面以外の表面までは通じていない状態(すなわち、細孔の端部の一方のみが粒子表面に通じている状態)を含む。また、粒子表面の開孔部から内部にかけて通じる細孔は、1以上の他の細孔と連続して粒子内部の空隙を形成していてもよい。
【0015】
走査型電子顕微鏡で観察される、多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合は、5%から95%であり、好ましくは10%から80%であり、より好ましくは15%から60%であり、さらに好ましくは20%から50%であり、最も好ましくは32%から38%である。上記範囲であれば、吸油性が向上するため、皮脂吸着によるテカリを抑制できる。また、皮脂吸着によるL*(明度)とC*(彩度)の低下を抑制でき、皮脂吸着による化粧崩れを抑制できる。さらに、吸油性だけでなく吸水性にも優れるため、皮脂吸着前後の双方で肌からの水分の蒸発を抑制し、優れた保湿力を発揮する。また、上記範囲であれば、多孔質セルロース粒子表面近傍で光が散乱されやすくなるため、L*(明度)とC*(彩度)が高くなり、シワ、くすみ、毛穴などを隠すカバー力が向上する。さらに、嵩比重が低くなりやすいため、塗布した際の伸びが良くなり色ムラを抑制しやすくなる。
【0016】
多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合は、例えば、以下
の方法により求めることができる。
まず、走査型電子顕微鏡を用いて、多孔質セルロース粒子を、粒子の直径が写真の長辺(写真の横方向の辺)に対して0.5倍以上になるように撮影する。撮影した写真の短辺(写真の縦方向の辺)をY軸とし、長辺をX軸として、多孔質セルロース粒子のY軸方向の直径とX軸方向の直径との平均を求め、これを代表直径[Dp](μm)とする。
【0017】
次に、1辺の長さが代表直径[Dp]の3分の2である正方形で粒子中心部を囲い、囲われた部分より外部は削除し、囲われた部分内のみが映し出された写真に加工する。正方形の位置は、写真に表れる多孔質セルロース粒子の中心部と正方形の中心部が重なる点とする。正方形で囲われた部分の面積[Ap]を、式 Ap(μm)=(Dp×2÷3)より求める。
【0018】
次に、加工した画像を堺化学工業株式会社のAI画像解析サービス DeepCleで処理し、開孔部の総数および平均開孔部面積の値を求める。また、開孔部の総投影面積[Sp]を、式 Sp(μm)=開孔部の総数(個)×平均開孔部面積(μm)より求める。
そして、多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合を、式 開孔部面積の割合(%)=Sp÷Ap×100より求める。
【0019】
本発明の多孔質セルロース粒子の開孔部の平均径は、好ましくは0.01μmから10.0μmであり、より好ましくは0.04μmから0.50μmであり、さらに好ましくは0.06μmから0.30μmであり、最も好ましくは0.12μmから0.18μmである。上記範囲であれば、毛細管現象により粒子の開孔部に皮脂が移動し、多孔質セルロース粒子の吸油性が向上するため、皮脂吸着によるテカリをより抑制できる。また、皮脂吸着によるL*(明度)とC*(彩度)の低下をより抑制でき、皮脂吸着による化粧崩れを抑制しやすくなる。さらに、吸水性も向上するため、皮脂吸着前後の双方で肌からの水分の蒸発を抑制しやすくなり、保湿力を向上させることができる。
【0020】
多孔質セルロース粒子の開孔部の平均径は、例えば、以下の方法により求めることができる。上述した「多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合」の算出において加工した画像を堺化学工業株式会社のAI画像解析サービス DeepCleで処理し、開孔部の平均最大幅および平均対角幅の値を求める。なお、対角幅とは、最大幅の線分の中央と直交する直線の、開孔部の縁から縁までの距離である。
そして、開孔部の平均径[Dav]を、式 Dav(μm)=(開孔部の平均最大幅(μm)+開孔部の平均対角幅(μm))÷2より求める。
【0021】
多孔質セルロース粒子の開孔部の平均径は、多孔質セルロース粒子のモード径の0.5倍以下が好ましく、より好ましくは0.1倍以下である。開孔部の平均径と多孔質セルロース粒子のモード径が上記の関係を満たす場合、多孔質セルロース粒子に対して開孔部が大きくなりすぎないため、略球形の形状を維持しやすい。
【0022】
多孔質セルロース粒子の嵩比重は、好ましくは0.10g/mlから0.90g/mlであり、より好ましくは0.20g/mlから0.80g/mlであり、さらに好ましくは0.30g/mlから0.70g/mlである。上記範囲であれば、化粧品に配合した際により軽い使用感を得ることができ、肌に塗布した際の伸びが向上し、色ムラを抑制できる。
【0023】
本発明の化粧品の嵩比重は、好ましくは0.20g/mlから0.90g/mlであり、より好ましくは0.30g/mlから0.80g/mlであり、さらに好ましくは0.40g/mlから0.70g/mlである。嵩比重が上記範囲であれば、より軽い使用感を得ることができ、肌に塗布した際の伸びが向上し、色ムラを抑制できる。
本発明の化粧品の嵩比重は、多孔質セルロース粒子の嵩比重や、化粧品における多孔質セルロース粒子の含有量を調整することにより、調整することができる。
【0024】
本発明の化粧品および多孔質セルロース粒子の嵩比重は、例えば、以下の方法により求めることができる。
本発明の化粧品または多孔質セルロース粒子を目盛り付き試験管に充填し、卓上ゴムシート上に目盛り付き試験管を3cmの高さから手動で300回タッピングして嵩を確認後、さらに200回タッピングし嵩の減少が無いことを確認して、その後に充填体積を読み取り、試料の重量(g)の値をタッピング後の充填体積(ml)の値で除することで嵩比重を算出する。
【0025】
走査型電子顕微鏡で観察される、多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの、開孔部の個数は、3個/μmから80個/μmであることが好ましく、5個/μmから70個/μmであることがより好ましく、7個/μmから60個/μmであることがさらに好ましく、12個/μmから20個/μmであることがさらに好ましい。上記範囲であれば、多孔質セルロース粒子の粒子表面に多数の開孔部が存在するため、吸油性が向上し、皮脂吸着によるテカリをより抑制できる。また、皮脂吸着によるL*(明度)とC*(彩度)の低下をより抑制でき、皮脂吸着による化粧崩れを抑制しやすくなる。さらに、吸油性だけでなく吸水性も向上するため、皮脂吸着前後の双方で肌からの水分の蒸発を抑制し、保湿力を向上させることができる。
【0026】
多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの開孔部の個数は、例えば、上述した「多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合」の算出において測定・算出される、開孔部の総数およびApの値に基づき、式 多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの開孔部の個数(個/μm)=開孔部の総数(個)÷Ap(μm)より求めることができる。
【0027】
多孔質セルロース粒子の主成分は、セルロースまたは酢酸セルロースである。ここでいう主成分とは、多孔質セルロース粒子中の含有量が50質量%以上である成分を意味する。多孔質セルロース粒子中のセルロースおよび/または酢酸セルロースの含有量は、60質量%~100質量%であることが好ましく、70質量%~100質量%であることがより好ましく、80質量%~100質量%であることがさらに好ましく、90質量%~100質量%であることがさらにより好ましい。
本発明において使用される酢酸セルロースは、一般的に二酢酸セルロースと定義され得るものであれば特に限定されないが、酢化度が45~57%であることが好ましい。
【0028】
多孔質セルロース粒子の真球度は、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.80以上、さらにより好ましくは0.90以上である。一方、上限は、好ましくは1.00以下である。
【0029】
真球度は、例えば、以下に示す手順にしたがって測定および算出することができる。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した多孔質セルロース粒子のSEM画像を画像解析し、下記式(1)より、個々の多孔質セルロース粒子の円形度Cを算出する。そして、任意に選択した10個以上の多孔質セルロース粒子の円形度Cの相加平均値を真球度とする。
C=(4πS)/(L) ・・・(1)
【0030】
上記式(1)中、Sは、画像中に占める多孔質セルロース粒子の面積(投影面積)を示し、Lは、画像中における多孔質セルロース粒子の外周部の長さを示す。円形度Cの値
が1に近いほど、粒子の形状は真球に近い。
【0031】
本発明の化粧品としては、特に制限されず、ファンデーション、口紅、アイシャドー、アイライナ、化粧水、美容液、ローション、乳液、下地化粧品、マッサージクリーム、化粧クリーム、スキンクリーム、スキンケア化粧品、保湿化粧品、美白化粧品、薬用化粧品、日焼け止め化粧品、洗顔クリーム、クレンジング剤等が挙げられる。
【0032】
本発明の化粧品の剤型は、特に制限されず、カプセル状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状、気泡状、乳液状、クリーム状、軟膏状、シート状、ムース状、粉末分散状、多層状、エアゾール状が挙げられる。
【0033】
本発明の化粧品における、多孔質セルロース粒子の含有量(配合量)は、特に制限されないが、好ましくは0.01質量%から50質量%であり、より好ましくは0.1質量%から40質量%であり、さらに好ましくは1.0質量%から30質量%である。
【0034】
本発明の化粧品は、本発明の効果を損なわない程度に、化粧品で通常使用される任意成分を含有していてもよい。かかる任意成分を、以下に例示する。
油性成分としては、極性油、揮発性炭化水素油等が挙げられる。
極性油としては、合成エステル油として、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、12-ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ-2-エチルヘキシル酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキシル酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ペンタンエリスリトール、トリ-2-エチルヘキシル酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパンを挙げることができる。
さらに、セチル2-エチルヘキサノエート、2-エチルヘキシルパルミテート、トリミリスチン酸グリセリン、トリ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセライド、ヒマシ油脂肪酸メチル
エステル、オレイン酸オイル、セトステアリルアルコール、アセトグリセライド、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N-ラウロイル-L-グルタミン
酸-2-オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバチン酸ジ-2-エチルヘキシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2
-ヘキシルデシル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、セバチン酸ジイソプロピル、コハク酸2-エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、クエン酸トリエチル、オクチル メトキシシンナメート等も挙げられる。
また、天然油として、アボガド油、ツバキ油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン等が挙げられる。
【0035】
揮発性炭化水素油としては、イソドデカン、イソヘキサデカン等が挙げられる。
【0036】
界面活性剤としては、脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウ
リルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、イミダゾリン系両性界面活性剤(2-ココイル-2-イミダゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ア
シルメチルタウリン等の両性界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタ
ン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキシエチ
レンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE-ソルビットモノラウレート
等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE-グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2-オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック型類、POE・POPアルキルエーテル
類(POE・POP2-デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化
ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類、等が挙げられる。
【0037】
多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ヘキシレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等が挙げられる。
【0038】
増粘剤としては、グアガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グリコーゲン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、デキストラン、ケラト硫酸、ローカストビーンガム、サクシノグルカン、カロニン酸,キチン、キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト等が挙げられる。
【0039】
粉体類としては、表面を処理されていてもよい、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面を処理されていてもよい、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛の無機顔料類、表面を処理されていてもよい、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていてもよい赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類等が挙げられる。
【0040】
紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、糖系紫外線吸収剤、2-(2’-ヒドロキシ-5'-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ
ール、4-メトキシ-4'-t-ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類等が挙げられる。
【0041】
化粧品中には、その他に、水、エタノール、香料、防腐剤、pH調整剤、着色料、有効成
分などを含有させることができる。
化粧品は、常法にしたがって前述の成分を処理・配合することにより製造することができる。
【0042】
本発明の化粧品は、化粧品で通常使用される成分と任意に配合することができ、その配合は粉体原料とのブレンドでも良く、化粧品に使用される有効成分を多孔質セルロース粒子の開孔部より粒子内に充填して用いても良い。有効成分を粒子内に充填した場合は、多孔質セルロース粒子からの有効成分の徐放効果が期待できる。
【0043】
多孔質セルロース粒子は、(a)酢酸セルロースを酢酸セルロースが可溶な溶媒と酢酸セルロースが不溶な溶媒との混合溶媒に加熱溶解して、酢酸セルロース溶液を調製する工程と、(b)前記酢酸セルロース溶液を、乳化安定剤を含む水に分散させて、分散系を得る工程と、(c)前記分散系を冷却し、酢酸セルロース粒子を析出させる工程を含む方法であって、前記混合溶媒が水と混和しない有機溶媒である方法により製造される。
【0044】
多孔質セルロース粒子製造工程の(a)について、工程(a)においては、原料の酢酸セルロースを混合溶媒に溶解して、酢酸セルロース溶液を調製する。酢酸セルロースは、天然の高分子であるセルロースを酢酸エステル化することにより得られる半合成高分子である。本発明において使用される酢酸セルロースは、一般的に酢酸セルロースと定義され得るものであれば特に限定されないが、重合度50~300、かつ酢化度が45~57%であることが好ましい。重合度50~300、かつ酢化度が45~57%である酢酸セルロースを使用することにより、より多くの種類の溶剤に溶解させることができる。
【0045】
工程(a)において、混合溶媒中の酢酸セルロースの割合は0.1~50質量%が好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。この範囲であれば、均一な溶液が得られ、直径の揃った開孔部を有する多孔質粒子が得られやすい。また、冷却した時に相分離による析出が生じやすく強度が十分なものとなり、略球状の粒子形状を維持しやすくなる。また酢酸セルロース溶液における酢酸セルロース濃度が低いほど、得られる多孔質粒子の粒径は小さく、開孔部の平均径は大きく、多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合は大きく、嵩比重は小さくなる傾向にある。
【0046】
工程(a)において、前記酢酸セルロース溶液が可溶な溶媒、すなわち良溶媒は、酢酸セルロースを溶解できるものであれば特に限定されないが、水への溶解度の低い有機溶媒が好ましい。ここでいう良溶媒とは、溶質が溶媒単独に溶解し、固形物を含まない透明な溶液が得られるものをいう。特にここでは、溶媒の沸点以下の温度において好ましくは1質量%以上の溶液が得られる溶媒のことをいう。溶媒は、1種類を単独で使用しても、2種類以上の溶媒を混合して使用してもよい。具体的にはベンジルアルコール、酢酸エチル、シクロヘキサノン、イソホロン、およびこれらの混合物を挙げることができる。中でも、開孔部を設けるという点において、ベンジルアルコールが好ましい。
【0047】
工程(a)において、前記酢酸セルロース溶液が不溶な溶媒、すなわち貧溶媒は、アルコール類、グリコール類、エーテル類、エステル類、およびこれらの混合物を挙げることができる。貧溶媒とは良溶媒と比較して溶質に対して溶解性がないかまたは溶解性の低い溶媒のことをいい、具体的には溶媒の沸点以下の温度において溶媒単独で溶質を溶解できず、透明な溶液が得られないものをいう。特にここでは好ましくは溶媒の沸点以下の温度において溶質を1質量%以上溶解できない溶媒のことをいう。水への溶解度の低い溶媒が好ましい。特に、アルコール類であることが好ましい。アルコール類は、低級アルコール類であることが好ましく、さらに開孔部を設けるという点において、1-ヘキサノールであることがより好ましい。
【0048】
工程(a)においては、混合溶媒における酢酸セルロースが可溶な溶媒すなわち良溶媒と酢酸セルロースが不溶な溶媒、すなわち貧溶媒の体積比は、5:95から95:5であることが好ましい。混合溶媒に含まれる貧溶媒の比率が高いほど、開孔部の平均径は大きくなる傾向にある。
【0049】
工程(a)において、混合溶媒は水と混和しない有機溶媒である。水と混和してしまうと、工程(b)において、分散系を得ることができない。
【0050】
工程(a)においては、混合溶媒に高分子である第三成分を含有させることができる。第三成分の高分子としては、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールが好ましく、ポリプロピレングリコールがより好ましい。第三成分としてポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを含有させる場合、多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合は大きく、嵩比重は小さくなる傾向にある。
【0051】
工程(a)において、第三成分がポリプロピレングリコールである場合、その分子量は、特に限定されないが、製造工程中の取扱い性と多孔質粒子が有する開孔部の平均径の観点から、100~3000の平均分子量(Mw)であることが好ましい。また第三成分の高分子の分子量が高いほど、開孔部の平均径は大きくなる傾向にある。
【0052】
工程(a)において、多孔質粒子が有する開孔部の平均径の観点から、混合溶媒中の第三の成分の濃度は0.1~10質量%であることが好ましく、第三成分の濃度が高いほど、開孔部の平均径は大きく、多孔質セルロース粒子の投影面積に対する開孔部の総投影面積の割合は大きく、嵩比重は小さくなる傾向にある。
【0053】
工程(a)においては、加熱溶解において、加熱温度は、例えば、50~130℃の範囲が好ましい。この温度範囲において、酢酸セルロースが混合溶媒に溶解することが好ましい。この加熱溶解の時間は特に限定されず、例えば、加熱時間は3~24時間とすることができる。
【0054】
多孔質セルロース粒子製造工程の(b)について、乳化安定剤を溶解した高温水中に、前記酢酸セルロース溶液を分散させる。この工程における、酢酸セルロース溶液と高温水との体積比は、酢酸セルロース溶液を分散相、高温水を連続相とする分散系が得られる範囲であれば、特に限定はされない。安定な分散系を得る観点からは、酢酸セルロース溶液と高温水との体積比(分散相/連続相)は1.0以下であることが、好ましい。また高温水の温度は、50~100℃であることが好ましく、60~95℃であることがより好ましい。
【0055】
工程(b)において、分散させる方法に関しては、公知の方法を任意に適用することができる。例えば、攪拌機などのミキサーを用いる方法、ホモジナイザーを用いる方法、超音波を用いる方法などがある。また、一般的にマイクロリアクターと称されるものを用いて、細いノズルから酢酸セルロース溶液を押し出して液滴を得る方法や、均一な細直径の多孔質膜から酢酸セルロース溶液、もしくは酢酸セルロース溶液と水と乳化安定剤の混合物を押し出してせん断をかける方法などがある。中でも、簡便な方法であることから、攪拌機により分散させる方法が好ましい。
【0056】
工程(b)において、乳化安定剤としては、前記分散系の安定性を高め、粒子の凝集を防ぐ効果があるものであれば、特に限定されない。例えば、でんぷん、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩、ゼラチンなどの天然高分子、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然高分子加工物、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物などのアルコール性OH含有合成高分子、スルホン化
スチロールなどのSOH基含有高分子、アクリル酸エステルなどのCOOH基含有高分子、ポリビニルピロリドンなどの含窒素合成高分子、硫酸バリウムやタルク、ベントナイト、酸化チタンなどの無機物質粉末、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミンオキシドなどの両性界面活性剤、脂肪酸ソルビタンエステルなどのノニオン界面活性剤、またはこれらの混合物などを挙げることができる。特に、分散系を安定させるという観点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0057】
工程(b)において使用する乳化安定剤の添加量は、分散系を安定させるという観点から、高温水における濃度として0.01質量%以上が好ましい。かかる濃度範囲において、乳化安定剤の添加量を多くすると、得られる多孔質セルロース粒子の粒径は小さくなる傾向にある。反対に、乳化安定剤の添加量が少ないと、得られる多孔質セルロース粒子の粒径は大きくなる傾向にある。
【0058】
多孔質セルロース粒子製造工程の(c)においては、上記工程(b)で得られた分散液を冷却する。冷却することにより熱誘起相分離が起こり、開孔部を有する多孔質粒子を得ることができる。
【0059】
工程(c)において、分散系を冷却する温度は、酢酸セルロースが析出する温度であれば特に限定されない。しかし、多孔質セルロース粒子が十分に析出できるという点で、冷却する温度は0℃~50℃であることが好ましい。
【0060】
上記製造方法により、酢酸セルロースを原料とする多孔質セルロース粒子を得ることができる。この酢酸セルロースを原料とする多孔質セルロース粒子に親水性を持たせる場合は、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化化合物等の溶液中で鹸化して、酢酸セルロースをセルロースとする事ができる。なお、本発明の多孔質セルロース粒子を酢酸セルロースのまま使用すると化粧品中の酢酸セルロースから酢酸が僅かに離脱して酢酸臭が生じる場合があり、鹸化して酢酸分を予め除去することが好ましい。
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【実施例0062】
<実施例1>
多孔質セルロース粒子を以下の流れで製造した。
先ず、以下の手順で二酢酸セルロースを溶解した分散相を調製した。
1L三ツ口フラスコに、ベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)303.6gと1-ヘキサノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)215.4gを仕込み、撹拌しつつ二酢酸セルロース(株式会社ダイセル社製、商品名:L-20)77.9gを徐々に添加して分散させた。その後、マントルヒーターにて120℃まで昇温して、二酢酸セルロースを溶解させた。溶解後に三ツ口フラスコ内液温を120℃から100℃に下げてこれを分散相とし、後述する連続相への分散相の滴下に備えて100℃に保持した。
【0063】
次に、以下の手順でベンジルアルコールと1-ヘキサノールを純水に添加して連続相を調製した。
分液ロートに純水1.8Lを仕込み、攪拌しつつベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)122.8gと1-ヘキサ―ノール(富士フイルム和光純薬株
式会社製、試薬)87.2g添加して混合した。その後に静置して水相と油相に分離し、下層の溶媒飽和水1.8Lを5Lセパラブルフラスコに分取した。5Lセパラブルフラスコをウォーターバスに浸して、5Lセパラブルフラスコ内に撹拌翼として4枚パドル翼を取り付け、回転速度250rpmで撹拌し、60℃までフラスコ内を加熱した。撹拌を続けながら60℃下で5Lセパラブルフラスコにポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製、JP-18E)1.44gおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)25.2gを添加して溶解し、これを連続相とした。
【0064】
造粒操作として、5Lセパラブルフラスコの撹拌翼をエッジタービン翼に変更して、2
000rpmで撹拌しつつ連続相が80℃になる様にウォーターバスで加熱し、先に準備した分散相を滴下した。この滴下により分散相は油滴状に連続相に分散された。分散後にウォーターバスの温度を下げて、5Lセパラブルフラスコ内を30℃まで冷却して、油滴
状の分散相を固定化して二酢酸セルロース粒子スラリーを得た。
5Lセパラブルフラスコより二酢酸セルロース粒子スラリーを分取し、これを濾別して
、純水で洗浄後にメタノールを用いて洗浄し、再び純水で洗浄することで、二酢酸セルロース粒子内の残留溶媒を除去した。
【0065】
鹸化反応として、500mlセパラブルフラスコに、残留溶媒除去後の湿潤状態の二酢酸セルロース粒子100g(含水率87%)を仕込み、さらにメタノール溶液(45体積%)135mlを加えて撹拌した。セパラブルフラスコ内の液温を35℃に調整し、20%の水酸化ナトリウム水溶液36gを加え、150rpm、35℃で撹拌を4時間保持して鹸化反応を促進し、鹸化反応により二酢酸セルロース粒子からセルロース粒子を得た。
【0066】
鹸化反応後に、セパラブルフラスコ内のセルロース粒子スラリーに希酢酸を滴下して中和し、その後に濾紙(アドバンテック東洋株式会社製の5B)を用いて、減圧瓶濾過した。濾過したセルロース粒子を多量の純水で洗浄し、再び濾過して湿潤したセルロース粒子を得た。この粒子を乾燥させた後、目開き45μmの篩に通して粒径の大きな粒子を除去したものを、実施例1の多孔質セルロース粒子とした。
【0067】
<実施例2>
実施例1と異なる開孔部面積を有する多孔質セルロース粒子作製のため、以下の手順で実施した。
先ず、以下の手順で二酢酸セルロースを溶解した分散相を調製した。
1L三ツ口フラスコに、ベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)242.8gと1-ヘキサノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)172.3gを仕込み、撹拌しつつ二酢酸セルロース(株式会社ダイセル社製、商品名:L-20)77.9gを徐々に添加して分散させた。その後、マントルヒーターにて120℃まで昇温して、二酢酸セルロースを溶解させた。溶解後に三ツ口フラスコ内液温を120℃から100℃に下げてこれを分散相とし、後述する連続相への分散相の滴下に備えて100℃に保持した。
【0068】
次に、以下の手順でベンジルアルコールと1-ヘキサノールを純水に添加して連続相を調製した。
分液ロートに純水1.92Lを仕込み、攪拌しつつベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)131.0gと1-ヘキサ―ノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)93.0g添加して混合した。その後に静置して水相と油相に分離し、下層の溶媒飽和水1.92Lを5Lセパラブルフラスコに分取した。5Lセパラブルフラスコをウォーターバスに浸して、5Lセパラブルフラスコ内に撹拌翼として4枚パドル翼を取り付け、回転速度250rpmで撹拌し、60℃までフラスコ内を加熱した。撹拌を続けながら60℃下で5Lセパラブルフラスコにポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製、JP-18E)1.54gおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)26.9gを添加して溶解し、これを連続相とした。その後、実施例1と同様に造粒、洗浄、鹸化、分級をして実施例2の多孔質セルロース粒子を得た。
【0069】
<実施例3>
実施例1、2と異なる開孔部面積を有する多孔質セルロース粒子作製のため、以下の手順で実施した。
1L三ツ口フラスコに、ベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)242.8gと1-ヘキサノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)172.3gを仕込み、撹拌しつつ二酢酸セルロース(株式会社ダイセル社製、商品名:L-20)93.5gを徐々に添加して分散させた。その後、マントルヒーターにて120℃まで昇温して、二酢酸セルロースを溶解させた。溶解後に三ツ口フラスコ内液温を120℃から100℃に下げてこれを分散相とし、後述する連続相への分散相の滴下に備えて100℃に保持した。その後、実施例2と同様に連続相の調製、造粒、洗浄、鹸化、分級をして実施例3の多孔質セルロース粒子を得た。
【0070】
<実施例4>
実施例1~3と異なる開孔部面積を有する多孔質セルロース粒子作製のため、以下の手順で実施した。
1L三ツ口フラスコに、ベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)242.8gと1-ヘキサノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)172.3gを仕込み、撹拌しつつ二酢酸セルロース(株式会社ダイセル社製、商品名:L-20)109.1gを徐々に添加して分散させた。その後、マントルヒーターにて120℃まで昇温して、二酢酸セルロースを溶解させた。溶解後に三ツ口フラスコ内液温を120℃から100℃に下げてこれを分散相とし、後述する連続相への分散相の滴下に備えて100℃に保持した。その後、実施例2と同様に連続相の調製、造粒、洗浄、鹸化、分級をして実施例4の多孔質セルロース粒子を得た。
【0071】
<実施例5>
実施例1~4と異なる開孔部面積を有する多孔質セルロース粒子作製のため、以下の手順で実施した。
先ず、以下の手順で二酢酸セルロースを溶解した分散相を調製した。
1L三ツ口フラスコに、ベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)303.6gと2-エチルブチルアルコール(JNC株式会社製、工業)220.0gを仕込み、撹拌しつつ二酢酸セルロース(株式会社ダイセル社製、商品名:L-20)77.9gを徐々に添加して分散させた。その後、マントルヒーターにて120℃まで昇温して、二酢酸セルロースを溶解させた。溶解後に三ツ口フラスコ内液温を120℃から100℃に下げてこれを分散相とし、後述する連続相への分散相の滴下に備えて100℃に保持した。
【0072】
次に、以下の手順でベンジルアルコールと2-エチルブチルアルコールを純水に添加して連続相を調製した。
分液ロートに純水1.8Lを仕込み、攪拌しつつベンジルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)122.8gと2-エチルブチルアルコール(JNC株式会社製、工業用)89.0g添加して混合した。その後に静置して水相と油相に分離し、下層の溶媒飽和水1.92Lを5Lセパラブルフラスコに分取した。5Lセパラブルフラスコをウォーターバスに浸して、5Lセパラブルフラスコ内に撹拌翼として4枚パドル翼を取り付け、回転速度250rpmで撹拌し、60℃までフラスコ内を加熱した。撹拌を続け
ながら60℃下で5Lセパラブルフラスコにポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製、JP-18E)1.44gおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)25.2gを添加して溶解し、これを連続相とした。
【0073】
造粒操作として、5Lセパラブルフラスコの撹拌翼をエッジタービン翼に変更して、2
000rpmで撹拌しつつ連続相が80℃になる様にウォーターバスで加熱し、先に準備した分散相を滴下した。この滴下により分散相は油滴状に連続相に分散された。その後、分散相と連続相の混合液を氷水に投入することで油滴状の分散相を固定化して二酢酸セルロース粒子スラリーを得た。
5Lセパラブルフラスコより二酢酸セルロース粒子スラリーを分取し、これを濾別して
、純水で洗浄後にメタノールを用いて洗浄し、再び純水で洗浄することで、二酢酸セルロース粒子内の残留溶媒を除去した。その後、実施例1と同様に洗浄、分級をして実施例5の多孔質粒子を得た。
【0074】
(モード径の測定)
実施例1~5の多孔質セルロース粒子について、粒度分布を測定し、モード径を求めた。測定に使用した装置は、以下の通りである。また、測定の結果を表1に示す。
装置:Laser Scattering Particle Size distribution Analyzer Partica LA-960(HORIBA製)
【0075】
(嵩比重の測定)
実施例2~4の多孔質セルロース粒子の嵩比重を、以下の手順により測定した。実施例2~4の多孔質セルロース粒子の試料20gをそれぞれ100mlの目盛り付き試験管に充填し、卓上ゴムシート上に、目盛り付き試験管を3cmの高さから手動で300回タッピングして嵩を確認後、さらに200回タッピングし嵩の減少が無いことを確認して、その後、充填体積を読み取り、試料の重量(20g)の値をタッピング後の充填体積(ml)の値で除することで嵩比重を算出した。その結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(SEM観察)
日立ハイテクノロジーズ製の超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡「SU8020」を使用して、SEM観察を行った。前処理として凍結乾燥した実施例1~5の多孔質セルロース粒子および比較例1~5の粒子に、それぞれAuコーティングを行った後、写真を撮影した。なお、比較例1~5の粒子の製品名を表2に示す。また、SEM観察の結果を図1~10に示す。なお、多孔質セルロース粒子の単一粒子の写真は、粒子の直径が写真の長辺(写真の横方向の辺)に対して0.5倍以上になるように撮影した。
図1~5に示す通り、実施例1~5の多孔質セルロース粒子が略球状であり、粒子表面に開孔部があることが認められた。また、図1の断面図より、実施例1の多孔質セルロー
ス粒子の開孔部が粒子内部の細孔に通じている様子が観察できる。一方、図6~10に示す通り、比較例1~5の粒子には開孔部が無い。
【0078】
【表2】
【0079】
(開孔部の平均径の測定)
前記SEM観察で撮影した図1~5の単一粒子の写真を用いて、以下の方法により、実施例1~5の多孔質セルロース粒子の開孔部の平均径を求めた。
撮影した写真の短辺(写真の縦方向の辺)をY軸とし、長辺をX軸として、多孔質セルロース粒子のY軸方向の直径とX軸方向の直径との平均を求め、これを代表直径[Dp](μm)とした。
【0080】
次に、1辺の長さが代表直径[Dp]の3分の2である正方形で粒子中心部を囲い、囲われた部分より外部は削除し、粒子の囲われた部分内のみが映し出された写真に加工した。正方形の位置は、写真に表れる多孔質セルロース粒子の中心部と正方形の中心部が重なる点とした。正方形で囲われた部分の面積[Ap]を、式 Ap(μm)=(Dp×2÷3)より求めた。
【0081】
次に、加工した画像を堺化学工業株式会社のAI画像解析サービス DeepCleで処理し、開孔部の総数、開孔部の平均最大幅と平均対角幅、平均開孔部面積の値を求めた。なお、対角幅とは、最大幅の線分の中央と直交する直線の、開口部の縁から縁までの距離である。
また、開孔部の平均径[Dav]を、式 Dav(μm)=(開孔部の平均最大幅(μm)+開孔部の平均対角幅(μm))÷2より求めた。さらに、開孔部の総投影面積[Sp]を、式 Sp(μm)=開孔部の総数(個)×平均開孔部面積(μm)より求めた。
そして、多孔質セルロース粒子の水平投影面積に対する開孔部の総水平投影面積の割合を、式 開孔部面積の割合(%)=Sp÷Ap×100より求めた。
【0082】
(多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの開孔部の個数の算出)
前記開孔部の総数およびApの値に基づき、多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの開孔部の個数を、式 多孔質セルロース粒子の投影面積当たりの開孔部の個数(個/μm)=開孔部の総数(個)÷Ap(μm)より求めた。
【0083】
実施例1~5の単一粒子の写真を用いた各測定結果を表3に示す。なお、表3中、「単
位面積当たりの開孔部面積の割合」は多孔質セルロース粒子表面の投影面積に対する開孔部の総開孔部面積の割合を表し、「単位面積当たりの開孔部の個数」は多孔質セルロース粒子表面の投影面積当たりの開孔部の個数を表す。
【0084】
【表3】
【0085】
<評価方法>
1.評価用パウダーファンデーション(ドライ試料)の調製方法
市販のファンデーション(株式会社 ラッキートレンディ社製、商品名:クレヨンタッチミー STパウダーファンデーション オークル)をミキサーで粉砕してパウダーファンデーションを得た。これを球状粒子無添加の標準パウダーファンデーションとして用いた。また、実施例1または比較例1~5の粒子を、このパウダーファンデーションにそれぞれ10質量%となる様に乳鉢で混合して均一な評価用パウダーファンデーション(ドライ試料)を得た。
【0086】
2.評価用オリーブオイル含浸パウダーファンデーション(オイル含浸試料)の調製方法
球状粒子無添加の標準パウダーファンデーションおよび各ドライ試料に対してオリーブオイル(味の素社製、商品名:JOYL (Jオイル) 味の素 オリーブオイル)が10質量%になる様に乳鉢で混合均一化して評価用オリーブオイル含浸パウダーファンデーション(オイル含浸試料)をそれぞれ調製した。このオイル含浸試料を、皮脂が吸着した状態のパウダーファンデーションのモデルとして用いた。
【0087】
3.評価用基板の作製方法
ドライ試料およびオイル含浸試料の評価用基板として人工皮革被覆切餅を作製した。
長方形切餅(サトウ食品株式会社製、商品名:サトウの切り餅、おおよそ縦6.5cm×横4cm×高さ1.6cm)全体をあぶらとり紙(協和紙工株式会社製、商品名:あぶらとり紙卓上BOXタイプ90mm×90mm)で包み込み、評価に用いる表面(おおよそ
縦6.5cm×横4cm)の裏側で、あぶらとり紙の端をセロハンテープで固定した。さらに、評価に用いる表面を黒色人工皮革(出光テクノファイン株式会社製、商品名:サプラーレ)で覆い、黒色人工皮革の端をセロハンテープで表面に隣接する四側面に固定して、評価用基板として用いた。
【0088】
4.評価用基板へのドライ試料およびオイル含浸試料の塗布方法
各ドライ試料およびオイル含浸試料は、ウレタン製のパフを用いて、各試料0.5mg/cmとなる様に評価用基板の表面に塗布した。なお、1つの評価用基板につき、1種類の試料(ドライ試料またはオイル含浸試料)を塗布した。
【0089】
5.明度および彩度の測定方法
色差計(コニカミノルタ社製、製品名:カラーリーダーCR-10)を用いて、評価用
基板上に塗布したドライ試料およびオイル含浸試料のL*(明度)およびC*(彩度)をそれぞれ測定した。
【0090】
6.光沢度の測定方法
光沢度計(株式会社堀場製作所社製、製品名:ハンディ光沢計 IG-320)を用い
て、評価用基板上に塗布したドライ試料およびオイル含浸試料の光沢度をそれぞれ測定した。
【0091】
7.嵩比重の測定方法
ドライ試料およびオイル含浸試料3gを10mlの目盛り付き試験管に充填し、卓上ゴムシート上に、目盛り付き試験管を3cmの高さから手動で300回タッピングして嵩を確認後、さらに200回タッピングし嵩の減少が無いことを確認して、その後に充填体積を読み取り、試料の重量(3g)の値をタッピング後の充填体積(ml)の値で除することで嵩比重を算出した。
【0092】
8.色ムラ(σL*,σC*)の測定方法
透明プラスチック板上に両面テープ(3cm×3cm)を貼り付け、その上にドライ試料を散布し、化粧筆にて過剰なドライ試料を除去し塗布量5mgに成るように調整し、色ムラ測定用のサンプルを得た。
さらに、色ムラ測定用のサンプルを6分割して、色差計(コニカミノルタ社製、製品名:カラーリーダーCR-10)を用いてL*(明度)およびC*(彩度)を6箇所で測定し、L*およびC*の標準偏差(σL*、σC*)をそれぞれ算出した。
【0093】
9.粉体の保湿力の測定方法
上記「3.評価用基板の作成方法」の欄で作成した評価用基板の表面に、ドライ試料およびオイル含浸試料をそれぞれ0.3mg/cmになる様に化粧筆で塗布し、気流循環型恒温槽(37℃)にて湿度50%下で8時間静置して、評価用基板の乾燥速度[mg/h]を算出することで粉体の保湿力を評価した。なお、1つの評価用基板につき、1種類の試料(ドライ試料またはオイル含浸試料)を塗布した。評価用基板の乾燥速度[mg/h]は、評価用基板の静置後の重量から静置前の重量を引いた値(すなわち、水分蒸発量)[mg]を、静置時間(8時間)の値で除することで算出した。
【0094】
<評価結果>
1.評価用基板を用いた各パウダーファンデーションの物性評価結果
各パウダーファンデーションの物性評価結果を、表4および図11~25に示す。
【0095】
【表4】

表中、「L*(+/-)」は、ドライ試料を塗布した場合のL*(明度)に対する、オ
イル含浸試料を塗布した場合のL*の比を表し、「C*(+/-)」は、ドライ試料を塗布した場合のC*(彩度)に対する、オイル含浸試料を塗布した場合のC*の比を表す。
【0096】
なお、各表および図に記載の略称と各粒子の関係は次の通りである。
ブランクは、球状粒子無添加の標準パウダーファンデーションを示す。
化粧品実施例1は、実施例1の粒子を10質量%含むパウダーファンデーションである。
化粧品比較例1は、比較例1の粒子を10質量%含むパウダーファンデーションである。
化粧品比較例2は、比較例2の粒子を10質量%含むパウダーファンデーションである。
化粧品比較例3は、比較例3の粒子を10質量%含むパウダーファンデーションである。
化粧品比較例4は、比較例4の粒子を10質量%含むパウダーファンデーションである。
化粧品比較例5は、比較例5の粒子を10質量%含むパウダーファンデーションである。
【0097】
2.ドライ試料とオイル含浸試料のL*(明度)の評価
化粧品実施例1以外のドライ試料に対して、化粧品実施例1のドライ試料はL*(明度)が高く明るい発色であることが示された(表4および図11)。また、オイル含浸した場合も、化粧品実施例1ではL*(明度)の低下が少ない(表4および図12~13)。この結果より、実際に肌に塗布された場合に、明るい発色で皮脂吸着後でも明るさの変化が少なく、いわゆる化粧崩れし難い効果が望める。
【0098】
3.ドライ試料とオイル含浸試料のC*(彩度)の評価
表4および図14~16に示されるように、化粧品実施例1のドライ試料は、C*(彩度)が高く、オイル含浸後のC*(彩度)の低下も非常に小さい。この結果より、実際に肌に塗布された場合に、皮脂吸着前後で彩度の変化が少なく、いわゆる化粧崩れし難い効果が望める。
【0099】
4.ドライ試料とオイル含浸試料の光沢度の評価
表4および図17~19に示されるように、化粧品実施例1のドライ試料は光沢が低く、オイル含浸後の光沢度の変化も非常に小さい。この結果より、実際に肌に塗布された場合に、皮脂吸着前後で光沢度の変化がなく、いわゆる皮脂による肌のテカリの抑制効果が望める。
【0100】
5.嵩比重の評価
表5および図22に示されるように、化粧品実施例1以外のドライ試料と比較して、化粧品実施例1のドライ試料の嵩比重は小さいため、実際に肌に塗布する場合に軽い塗り心地が望める。また、表5および図23に示されるように、化粧品実施例1はオイル含浸した場合でも嵩比重が小さいため、皮脂吸着後でもいわゆるサラサラ感の維持が望める。
【0101】
【表5】
【0102】
6.色ムラ(σL*,σC*)の評価
表6および図24~25に示されるように、化粧品実施例1以外のドライ試料と比較して、化粧品実施例1のドライ試料では、明るさ(L*)、彩度(C*)共に標準偏差が小さく、または同程度であった。この結果から、実際に肌に塗布した場合に色ムラが発生し難い効果が望める。
【0103】
【表6】

7.粉体の保湿力の評価
表7および図20~21に示されるように、化粧品実施例1のドライ試料を塗布した場合、評価用基板の乾燥速度が遅く、評価用基板からの水分の蒸発を抑制できている。また、オイル含浸試料でも乾燥速度が遅く、評価用基板からの水分の蒸発を抑制できており、実際に肌に塗布された場合に、皮脂吸着前後の双方で高い保湿効果が望める。
【0104】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25