(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158390
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】研磨方法、コンピュータを動作させるためのプログラム、および研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/013 20120101AFI20241031BHJP
B24B 49/04 20060101ALI20241031BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20241031BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20241031BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B24B37/013
B24B49/04 Z
B24B37/10
B24B49/12
H01L21/304 622S
H01L21/304 622X
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073547
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】八木 圭太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊光
(72)【発明者】
【氏名】塩川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夕貴
(72)【発明者】
【氏名】椛沢 雅志
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB93
3C034CA02
3C034CA22
3C034CB03
3C158AA07
3C158AC02
3C158BA01
3C158BB08
3C158BB09
3C158CB01
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED00
5F057AA20
5F057BA13
5F057BA15
5F057CA12
5F057DA03
5F057EB11
5F057GA02
5F057GA12
5F057GA13
5F057GA16
5F057GA27
5F057GB02
5F057GB13
5F057GB20
(57)【要約】
【課題】参照ウェーハを事前に研磨することを不要とし、ワークピースを研磨しながら、該ワークピースの相対膜厚プロファイルを取得することができる技術を提案する。
【解決手段】本研磨方法は、ワークピースWの研磨中に、ワークピースW上の2点R,Mで参照スペクトルおよびモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで参照スペクトル履歴およびモニタリングスペクトル履歴を作成し、直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定し、直近の参照スペクトルと、モニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定し、参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、モニタリング点Mと参照点Rとの間の膜厚差を算定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させながら、ワークピースを前記研磨パッドに対して押し付けることで、前記ワークピースを研磨し、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の参照点およびモニタリング点を含む複数の照射点に光を導き、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記参照点からの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成し、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記モニタリング点からの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成し、
直近のモニタリングスペクトルと、前記参照スペクトル履歴内の前記複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定し、
直近の参照スペクトルと、前記モニタリングスペクトル履歴内の前記複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定し、
前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定し、
前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定し、
前記複数の膜厚差に基づいて前記ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成する、研磨方法。
【請求項2】
前記参照点は、前記ワークピースの中心点である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記参照点および前記モニタリング点は、前記複数の照射点のうちの隣接する2点である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記複数のモニタリング点について前記複数の膜厚差を決定する工程は、隣接する前記参照点および前記モニタリング点を、前記複数の照射点内で1つずつずらしながら、前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定する工程である、請求項3に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定する工程は、
前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の前記極小点を決定し、
前記極小点に対応する過去の時点と、前記直近のモニタリングスペクトルまたは前記直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、
前記時間差を、前記ワークピースの仮研磨レートに乗算することで、前記膜厚差を算定する工程である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記ワークピースは、製品ウェーハである、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項7】
ワークピースの研磨中に、光源に指令を与えて、前記ワークピース上の参照点およびモニタリング点を含む複数の照射点に光を導くステップと、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の参照点からの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成するステップと、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上のモニタリング点からの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成するステップと、
直近のモニタリングスペクトルと、前記参照スペクトル履歴内の前記複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定するステップと、
直近の参照スペクトルと、前記モニタリングスペクトル履歴内の前記複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定するステップと、
前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定するステップと、
前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定するステップと、
前記複数の膜厚差に基づいて前記ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成するステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定する前記ステップは、
前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の前記極小点を決定し、
前記極小点に対応する過去の時点と、前記直近のモニタリングスペクトルまたは前記直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、
前記時間差を、前記ワークピースの仮研磨レートに乗算することで、前記膜厚差を算定するステップである、請求項7に記載のプログラム。
【請求項9】
研磨パッドを支持する研磨テーブルと、
前記研磨テーブルを回転させるテーブルモータと、
ワークピースを前記研磨パッドに対して押し付けることで、前記ワークピースを研磨する研磨ヘッドと、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の参照点およびモニタリング点を含む複数の照射点に光を導く光源および光学センサヘッドと、
プログラムが格納された記憶装置、および前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を有する処理システムを備え、
前記処理システムは、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記参照点からの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成し、
前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記モニタリング点からの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成し、
直近のモニタリングスペクトルと、前記参照スペクトル履歴内の前記複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定し、
直近の参照スペクトルと、前記モニタリングスペクトル履歴内の前記複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定し、
前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定し、
前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定し、
前記複数の膜厚差に基づいて前記ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成するように構成されている、研磨装置。
【請求項10】
前記処理システムは、
前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の前記極小点を決定し、
前記極小点に対応する過去の時点と、前記直近のモニタリングスペクトルまたは前記直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、
前記時間差を、前記ワークピースの仮研磨レートに乗算することで、前記膜厚差を算定するように構成されている、請求項9に記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、配線基板、角基板などのワークピースを研磨するための技術に関し、特にワークピースからの反射光のスペクトルに基づいてワークピースの相対膜厚プロファイルをワークピースの研磨中に作成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、ウェーハ等のワークピースの表面を研磨する化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)装置が使用されている。CMP装置は、研磨テーブル上に貼り付けられた研磨パッドと、ワークピースを研磨パッドの研磨面に押し付けるための研磨ヘッドを備えている。CMP装置は、研磨液(例えば、スラリー)を研磨パッド上に供給しながら、研磨ヘッドによりワークピースを研磨パッドの研磨面に押し付けて、ワークピースの表面と研磨パッドの研磨面を摺接させる。ワークピースの表面は、研磨液の化学的作用と研磨液に含まれる砥粒および/または研磨パッドの機械的作用によって、研磨される。
【0003】
ワークピースの研磨は、その表面を構成する膜(絶縁膜、シリコン層など)が研磨され、ワークピースの膜厚が目標膜厚に達したときに終了される。研磨装置は、ワークピースの膜厚を測定するために、光学膜厚測定装置を備える。光学膜厚測定装置は、研磨テーブル内に配置された光学センサヘッドにより、ワークピースに光を照射し、ワークピースからの反射光を受け、反射光の強度から反射光のスペクトルを生成し、反射光のスペクトルに基づいて、ワークピースの膜厚を決定するように構成される。
【0004】
反射光のスペクトルに基づいて膜厚を決定する技術の例は、特許文献1に示されている。特許文献1は、研磨すべきターゲットウェーハと同じ構造の参照ウェーハを予め研磨することで複数の参照スペクトルを用意し、ターゲットウェーハの研磨中に得られたスペクトルに最も近い形状の参照スペクトルを決定し、決定された参照スペクトルに関連付けられた膜厚をターゲットウェーハの膜厚に決定する、という技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の技術では、事前に参照ウェーハを研磨して、複数の参照スペクトルを取得する必要がある。また、研磨すべきターゲットウェーハの表面を構成する膜の下にある下地層の厚さにばらつきが存在すると、ターゲットウェーハの正確な膜厚を測定できないことがある。さらに、光学膜厚測定装置に使用される光源の光量が経時的に低下し、光量の補正が必要になることもある。
【0007】
そこで、本発明は、参照ウェーハを事前に研磨することを不要とし、ワークピースを研磨しながら、該ワークピースの相対膜厚プロファイルを取得することができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、研磨パッドを支持する研磨テーブルを回転させながら、ワークピースを前記研磨パッドに対して押し付けることで、前記ワークピースを研磨し、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の参照点およびモニタリング点を含む複数の照射点に光を導き、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記参照点からの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成し、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記モニタリング点からの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成し、直近のモニタリングスペクトルと、前記参照スペクトル履歴内の前記複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定し、直近の参照スペクトルと、前記モニタリングスペクトル履歴内の前記複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定し、前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定し、前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定し、前記複数の膜厚差に基づいて前記ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成する、研磨方法が提供される。
【0009】
一態様では、前記参照点は、前記ワークピースの中心点である。
一態様では、前記参照点および前記モニタリング点は、前記複数の照射点のうちの隣接する2点である。
一態様では、前記複数のモニタリング点について前記複数の膜厚差を決定する工程は、隣接する前記参照点および前記モニタリング点を、前記複数の照射点内で1つずつずらしながら、前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定する工程である。
一態様では、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定する工程は、前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の前記極小点を決定し、前記極小点に対応する過去の時点と、前記直近のモニタリングスペクトルまたは前記直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、前記時間差を、前記ワークピースの仮研磨レートに乗算することで、前記膜厚差を算定する工程である。
一態様では、前記ワークピースは、製品ウェーハである。
【0010】
一態様では、ワークピースの研磨中に、光源に指令を与えて、前記ワークピース上の参照点およびモニタリング点を含む複数の照射点に光を導くステップと、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の参照点からの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成するステップと、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上のモニタリング点からの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成するステップと、直近のモニタリングスペクトルと、前記参照スペクトル履歴内の前記複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定するステップと、直近の参照スペクトルと、前記モニタリングスペクトル履歴内の前記複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定するステップと、前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定するステップと、前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定するステップと、前記複数の膜厚差に基づいて前記ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【0011】
一態様では、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定する前記ステップは、前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の前記極小点を決定し、前記極小点に対応する過去の時点と、前記直近のモニタリングスペクトルまたは前記直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、前記時間差を、前記ワークピースの仮研磨レートに乗算することで、前記膜厚差を算定するステップである。
【0012】
一態様では、研磨パッドを支持する研磨テーブルと、前記研磨テーブルを回転させるテーブルモータと、ワークピースを前記研磨パッドに対して押し付けることで、前記ワークピースを研磨する研磨ヘッドと、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の参照点およびモニタリング点を含む複数の照射点に光を導く光源および光学センサヘッドと、プログラムが格納された記憶装置、および前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を有する処理システムを備え、前記処理システムは、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記参照点からの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成し、前記ワークピースの研磨中に、前記ワークピース上の前記モニタリング点からの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成し、直近のモニタリングスペクトルと、前記参照スペクトル履歴内の前記複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定し、直近の参照スペクトルと、前記モニタリングスペクトル履歴内の前記複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定し、前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、前記モニタリング点と前記参照点との間の膜厚差を算定し、前記膜厚差を前記ワークピース上の複数のモニタリング点について算定することで、複数の膜厚差を決定し、前記複数の膜厚差に基づいて前記ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成するように構成されている、研磨装置が提供される。
【0013】
一態様では、前記処理システムは、前記複数の参照履歴差または前記複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の前記極小点を決定し、前記極小点に対応する過去の時点と、前記直近のモニタリングスペクトルまたは前記直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、前記時間差を、前記ワークピースの仮研磨レートに乗算することで、前記膜厚差を算定するように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
参照点およびモニタリング点の両方は、同じワークピース上の点である。すなわち、ワークピースの研磨中に、参照点での参照スペクトルとモニタリング点でのモニタリングスペクトルが生成され、これら参照スペクトルとモニタリングスペクトルとの比較に基づいて相対膜厚プロファイルが作成される。したがって、事前に別のワークピースを研磨する必要がない。さらに、参照スペクトルとモニタリングスペクトルとの差を算定することで、ワークピースの表面を構成する膜の下に存在する下地層の影響がキャンセルされる。したがって、ワークピースの膜厚測定は、下地層のばらつきの影響を受けにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】光学式プロファイル測定装置の詳細な構成を示す断面図である。
【
図3】光強度測定データから生成されたスペクトルの一例を示す模式図である。
【
図4】ワークピース上の光の照射点の一例を示す図である。
【
図5】モニタリングスペクトルと参照スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図6】直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定する工程の一実施形態を説明するための図である。
【
図7】モニタリング点での膜厚が参照点での膜厚よりも大きい場合の複数の参照履歴差の一例を示すグラフである。
【
図8】モニタリング点での膜厚が参照点での膜厚よりも大きい場合の複数のモニタリング履歴差の一例を示すグラフである。
【
図9】モニタリング点での膜厚が参照点での膜厚よりも小さい場合の複数の参照履歴差の一例を示すグラフである。
【
図10】モニタリング点での膜厚が参照点での膜厚よりも小さい場合の複数のモニタリング履歴差の一例を示すグラフである。
【
図11】ワークピースの相対膜厚プロファイルの一例を示す模式図である。
【
図12】研磨方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【
図13】ワークピースの相対膜厚プロファイルを作成する他の実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、ワークピースWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための研磨液供給ノズル5と、研磨装置の動作を制御するための動作制御部9を備えている。研磨パッド2の上面は、ワークピースWを研磨する研磨面2aを構成する。ワークピースWは、その表面に、配線構造を構成する膜を有している。ワークピースWの例としては、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、配線基板、角基板などが挙げられる。一例では、ワークピースWは、多層膜が形成された製品ウェーハである。
【0017】
研磨ヘッド1はヘッドシャフト10に連結されており、ヘッドシャフト10は研磨ヘッド回転装置15に連結されている。研磨ヘッド回転装置15は、研磨ヘッド1をヘッドシャフト10とともに矢印で示す方向に回転させるように構成されている。研磨ヘッド回転装置15の構成は特に限定されないが、一例では、研磨ヘッド回転装置15は、電動機、ベルト、プーリなどを備えている。研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、テーブルモータ6は研磨テーブル3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。研磨ヘッド1、研磨ヘッド回転装置15、およびテーブルモータ6は動作制御部9に接続されている。
【0018】
ワークピースWは次のようにして研磨される。テーブルモータ6および研磨ヘッド回転装置15は、研磨テーブル3および研磨ヘッド1を
図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液が研磨液供給ノズル5から研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。ワークピースWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および/または研磨パッド2の機械的作用により研磨される。
【0019】
動作制御部9は、プログラムが格納された記憶装置9aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置9bを備えている。動作制御部9は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置9aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置9bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作制御部9の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0020】
研磨装置は、ワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成する光学式プロファイル測定装置20を備えている。光学式プロファイル測定装置20は、光を発する光源22と、光源22の光をワークピースWに照射し、ワークピースWからの反射光を受ける光学センサヘッド25と、光学センサヘッド25に連結された分光器27と、ワークピースWからの反射光のスペクトルに基づいてワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成する処理システム30を備えている。光学センサヘッド25は、研磨テーブル3内に配置されており、研磨テーブル3とともに回転する。
【0021】
処理システム30は、プログラムが格納された記憶装置30aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置30bを備えている。処理システム30は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置30aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置30bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、処理システム30の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0022】
動作制御部9および処理システム30のそれぞれは、複数のコンピュータから構成されてもよい。例えば、動作制御部9および処理システム30のそれぞれは、エッジサーバおよびクラウドサーバの組み合わせから構成されてもよい。一実施形態では、動作制御部9および処理システム30は、1台のコンピュータから構成されてもよい。
【0023】
図2は、光学式プロファイル測定装置20の詳細な構成を示す断面図である。光学式プロファイル測定装置20は、光源22に連結された投光光ファイバーケーブル31と、分光器27に連結された受光光ファイバーケーブル32を備えている。投光光ファイバーケーブル31の先端31aおよび受光光ファイバーケーブル32の先端32aは、光学センサヘッド25を構成している。すなわち、投光光ファイバーケーブル31は、光源22によって発せられた光を研磨パッド2上のワークピースWに導き、受光光ファイバーケーブル32はワークピースWからの反射光を受け、分光器27に伝達する。
【0024】
分光器27は処理システム30に接続されている。投光光ファイバーケーブル31、受光光ファイバーケーブル32、光源22、および分光器27は研磨テーブル3に取り付けられており、研磨テーブル3および研磨パッド2とともに一体に回転する。投光光ファイバーケーブル31の先端31aおよび受光光ファイバーケーブル32の先端32aから構成される光学センサヘッド25は、研磨パッド2上のワークピースWの表面に対向して配置されている。
【0025】
光学センサヘッド25の位置は、研磨テーブル3および研磨パッド2が一回転するたびに研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る位置である。研磨パッド2は、光学センサヘッド25の上方に位置した通孔2bを有している。光学センサヘッド25は、研磨テーブル3が一回転するたびに光を通孔2bを通じてワークピースWに照射し、かつワークピースWからの反射光を通孔2bを通じて受ける。
【0026】
一実施形態では、研磨液および研磨屑が光学センサヘッド25に接触することを防止するために、研磨パッド2の通孔2b内に透明窓(図示せず)が嵌め込まれてもよい。透明窓は、光の透過を許容する材料(例えば、透明な樹脂)から構成されている。この場合は、光は、光学センサヘッド25から透明窓を通ってワークピースWに導かれ、ワークピースWからの反射光は透明窓を通って光学センサヘッド25によって受けられる。
【0027】
光源22は、短い時間間隔で繰り返し発光するフラッシュ光源である。光源22の例としては、キセノンフラッシュランプが挙げられる。光源22は、動作制御部9に電気的に接続されており、動作制御部9から送られるトリガー信号を受けて発光する。より具体的には、光学センサヘッド25が研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る間、光源22は複数のトリガー信号を受けて複数回発光する。したがって、研磨テーブル3が一回転するたびに、ワークピースW上の中心点を含む複数の照射点に光が照射される。
【0028】
光源22によって発せられた光は、光学センサヘッド25に伝達される。すなわち、光は、投光光ファイバーケーブル31を通って光学センサヘッド25に伝達され、光学センサヘッド25から放射される。光は、研磨パッド2の通孔2b(または透明窓)を通って研磨パッド2上のワークピースWに入射する。ワークピースWから反射した光は、研磨パッド2の通孔2b(または透明窓)を再び通過し、光学センサヘッド25によって受けられる。ワークピースWからの反射光は、受光光ファイバーケーブル32を通って分光器27に伝達される。
【0029】
分光器27は、反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定するように構成される。すなわち、分光器27は、ワークピースWからの反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定して、光強度測定データを生成する。各波長での反射光の強度は、反射率または相対反射率などの相対値として表わすこともできる。光強度測定データは、処理システム30に送られる。
【0030】
処理システム30は、光強度測定データから、
図3に示すような反射光のスペクトルを生成する。ワークピースWからの反射光のスペクトルは、ワークピースWの膜厚の情報を含む。言い換えれば、反射光のスペクトルは、ワークピースWの膜厚に依存して変化する。処理システム30は、反射光のスペクトルに基づいてワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成するように構成される。
【0031】
以下、ワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成する一実施形態について説明する。
図4は、ワークピースW上の光の照射点の一例を示す図である。上述したように、ワークピースWの研磨中、研磨テーブル3が一回転するたびに、光学センサヘッド25はワークピースWの表面を横切って移動しながら、光学センサヘッド25はワークピースWの表面に光を複数回照射する。したがって、
図4に示すように、光学センサヘッド25からの光の複数の照射点R,Mは、ワークピースWの表面上に半径方向に並ぶ。複数の照射点R,Mのうちの1つの照射点Rは、ワークピースWの中心点上に位置する。研磨テーブル3が一回転するたびに、光学センサヘッド25は複数の照射点R,Mからの反射光を受け、処理システム30は、複数の照射点R,Mからの反射光の複数のスペクトルを生成する。
【0032】
処理システム30は、複数の照射点R,Mを、参照点Rとモニタリング点Mに分類する。そして、処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、ワークピースW上の参照点Rからの反射光のスペクトルである参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成する。より具体的には、ワークピースWの研磨中に、光学センサヘッド25はワークピースW上の参照点Rに光を所定の時間間隔で繰り返し導き、処理システム30は、参照点Rからの反射光のスペクトルである参照スペクトルを上記所定の時間間隔で繰り返し生成する。上記所定の時間間隔は、研磨テーブル3が所定数回転する時間間隔である。本実施形態では、上記所定の時間間隔は、研磨テーブル3が一回転する時間間隔である。したがって、研磨テーブル3が一回転するたびに、処理システム30は参照スペクトルを繰り返し生成することで、複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成する。
【0033】
参照スペクトル履歴は、過去に遡った時点で得られた複数の参照スペクトルの時系列データである。本実施形態では、研磨テーブル3が一回転するたびに、参照スペクトルが生成されるので、研磨テーブル3が一回転するたびに、新たに生成された参照スペクトルが参照スペクトル履歴に追加される。参照スペクトル履歴は、処理システム30の記憶装置30aに格納される。
【0034】
処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、ワークピースW上の各モニタリング点Mからの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴をモニタリング点Mごとに作成する。より具体的には、ワークピースWの研磨中に、光学センサヘッド25はワークピースW上の各モニタリング点Mに光を所定の時間間隔で繰り返し導き、処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、モニタリング点Mからの反射光のスペクトルであるモニタリングスペクトルを上記所定の時間間隔で繰り返し生成する。上記所定の時間間隔は、研磨テーブル3が所定数回転する時間間隔である。本実施形態では、上記所定の時間間隔は、研磨テーブル3が一回転する時間間隔である。したがって、研磨テーブル3が一回転するたびに、処理システム30は各モニタリング点Mについてモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで、複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を各モニタリング点Mについて作成する。
【0035】
モニタリングスペクトル履歴は、過去に遡った時点で得られた複数のモニタリングスペクトルの時系列データである。本実施形態では、研磨テーブル3が一回転するたびに、モニタリングスペクトルが生成されるので、研磨テーブル3が一回転するたびに、新たに生成されたモニタリングスペクトルがモニタリングスペクトル履歴に追加される。各モニタリング点Mについてモニタリングスペクトルが生成されるので、複数のモニタリング点Mに対応する複数のモニタリングスペクトル履歴が作成される。複数のモニタリングスペクトル履歴は、処理システム30の記憶装置30aに格納される。
【0036】
処理システム30は、参照スペクトル履歴および複数のモニタリングスペクトル履歴を同時に作成してもよいし、異なる時間に作成してもよいし、あるいは重複する時間内に作成してもよい。
【0037】
次に、処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、各モニタリング点Mからの反射光から生成されたモニタリングスペクトルを、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルと比較する。具体的には、処理システム30は、各モニタリング点Mについて作成されたモニタリングスペクトル履歴内の直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定する。複数の参照履歴差のそれぞれは、上記直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の各参照スペクトルとの形状の差である。
【0038】
図5は、モニタリングスペクトルと参照スペクトルの一例を示すグラフである。
図5において、縦軸は反射光の強度を表し、横軸は反射光の波長を表している。反射光の強度は、反射率または相対反射率などの相対値で表されてもよい。参照履歴差は、モニタリングスペクトルと参照スペクトルの形状の差であり、
図5のハッチング模様で示された面積に相当する。より具体的には、参照履歴差は、モニタリングスペクトルに表される反射光の強度と、参照スペクトルに表される反射光の強度との差の絶対値を算定することで求められる。
【0039】
図6は、直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定する工程の一実施形態を説明するための図である。直近のモニタリングスペクトルは、ワークピースWの研磨中において各モニタリング点Mで取得された複数のモニタリングスペクトルのうち、最新のモニタリングスペクトルである。
図6に示す実施形態では、参照スペクトルは、ワークピースWの中心点に位置する参照点Rからの反射光のスペクトルである。研磨テーブル3が一回転するたびに、光学センサヘッド25はワークピースWの中心点に光を照射するので、ワークピースWの研磨中において、参照点Rの位置は固定である。
【0040】
図6に示すように、処理システム30は、各モニタリング点Mからの反射光から生成された直近のモニタリングスペクトルと、参照点Rについて作成された参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルのそれぞれとの差を算定することで、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルに対応する複数の参照履歴差を求める。複数の参照履歴差は、
図6に示す複数のモニタリング点Mのそれぞれについて算定される。
【0041】
図7は、直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差の一例を示すグラフである。
図7において、縦軸は直近のモニタリングスペクトルと参照スペクトルとの差を表し、横軸は、直近のモニタリングスペクトルが生成された時点と、参照履歴差の算定に使用される参照スペクトルが生成された時点との時間差である研磨テーブル3の回転回数差を表している。
【0042】
モニタリングスペクトルおよび参照スペクトルは、研磨テーブル3が一回転するたびに生成されるので、直近のモニタリングスペクトルと参照スペクトル履歴内の参照スペクトルとの間の時間差は、研磨テーブル3の回転回数差で表すことができる。例えば、
図7において、研磨テーブル3の回転回数差が0であるときの参照履歴差は、直近のモニタリングスペクトルと、直近の参照スペクトルとの差である。研磨テーブル3の回転回数差が10であるときの参照履歴差は、直近のモニタリングスペクトルと、研磨テーブル3の10回転に相当する時間だけ過去に遡った時点に生成された過去の参照スペクトルとの差である。
【0043】
図7の例は、直近のモニタリングスペクトルが生成された時点でのモニタリング点M(
図6参照)での膜厚は、同時点での参照点R(
図6参照)での膜厚よりも大きい場合を示す。この場合は、
図7に示すように、直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差には、極小点が存在する。
図7に示す例では、研磨テーブル3の回転回数差が5であるとき、参照履歴差の極小点が存在する。これは、直近のモニタリングスペクトルの形状は、研磨テーブル3の5回転に相当する時間だけ過去に遡った時点に生成された過去の参照スペクトルの形状に最も近いことを意味する。
【0044】
次に、処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、
図6に示すように、参照点Rからの反射光から生成された参照スペクトルを、各モニタリング点Mについて作成されたモニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルと比較する。具体的には、処理システム30は、参照スペクトル履歴内の直近の参照スペクトルと、各モニタリング点Mについて作成されたモニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定する。
【0045】
複数のモニタリング履歴差のそれぞれは、上記直近の参照スペクトルと、モニタリングスペクトル履歴内の各モニタリングスペクトルとの形状の差である。モニタリング履歴差は、
図5を参照して説明したように、参照スペクトルに表される反射光の強度と、モニタリングスペクトルに表される反射光の強度との差の絶対値を算定することで求められる。直近の参照スペクトルは、ワークピースWの研磨中において取得された複数の参照スペクトルのうち、最新の参照スペクトルである。
【0046】
図6に示すように、処理システム30は、参照点Rからの反射光から生成された直近の参照スペクトルと、各モニタリング点Mについて作成されたモニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルのそれぞれとの差を算定することで、モニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルにそれぞれ対応する複数のモニタリング履歴差を求める。複数のモニタリング履歴差は、
図6に示す複数のモニタリング点Mのそれぞれについて算定される。
【0047】
図8は、直近の参照スペクトルと、モニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差の一例を示すグラフである。
図8において、縦軸は直近の参照スペクトルとモニタリングスペクトルとの差を表し、横軸は、直近の参照スペクトルが生成された時点と、モニタリング履歴差の算定に使用されるモニタリングスペクトルが生成された時点との時間差である研磨テーブル3の回転回数差を表している。
【0048】
参照スペクトルおよびモニタリングスペクトルは、研磨テーブル3が一回転するたびに生成されるので、直近の参照スペクトルとモニタリングスペクトルとの間の時間差は、研磨テーブル3の回転回数差で表すことができる。例えば、
図8において、研磨テーブル3の回転回数差が0であるときのモニタリング履歴差は、直近の参照スペクトルと、直近のモニタリングスペクトルとの差である。研磨テーブル3の回転回数差が10であるときのモニタリング履歴差は、直近の参照スペクトルと、研磨テーブル3の10回転に相当する時間だけ過去に遡った時点に生成された過去のモニタリングスペクトルとの差である。
【0049】
図8の例は、直近の参照スペクトルが生成された時点でのモニタリング点M(
図6参照)での膜厚は、同時点での参照点R(
図6参照)での膜厚よりも大きい場合を示す。この場合は、
図8に示すように、直近の参照スペクトルと、モニタリングスペクトル履歴内の各モニタリングスペクトルとの差は、時間差(研磨テーブル3の回転回数差)とともに増加する。結果として、モニタリング履歴差の極小点が存在しない。
【0050】
図7および
図8から分かるように、参照履歴差の極小点が存在するということは、直近のモニタリングスペクトルおよび直近の参照スペクトルが生成された時点において、モニタリング点Mでの膜厚は参照点Rでの膜厚よりも大きいことを意味する。
【0051】
処理システム30は、参照履歴差の極小点に対応する過去の時点と、直近のモニタリングスペクトルおよび直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差と、ワークピースWの研磨レートから、モニタリング点Mと参照点Rとの間の膜厚差を算定することができる。より具体的には、処理システム30は、上記時間差(
図7に示す例では研磨テーブル3の5回転に相当する時間)をワークピースWの仮研磨レートに乗算することで、モニタリング点Mと参照点Rとの間の膜厚差を算定する。ワークピースWの仮研磨レートは、予め設定された研磨レートであり、研磨ヘッド1のワークピースWに対する押付力、研磨ヘッド1の回転速度、研磨テーブル3の回転速度、ワークピースWの表面を構成する膜の材料、研磨液の種類などの研磨環境に基づいて予め定められる。
【0052】
図9は、直近のモニタリングスペクトルおよび直近の参照スペクトルが生成された時点において、モニタリング点Mでの膜厚が参照点Rでの膜厚よりも小さい場合の複数の参照履歴差の一例を示すグラフであり、
図10は、直近のモニタリングスペクトルおよび直近の参照スペクトルが生成された時点において、モニタリング点Mでの膜厚が参照点Rでの膜厚よりも小さい場合の複数のモニタリング履歴差の一例を示すグラフである。
【0053】
図9および
図10に示すように、モニタリング点Mでの膜厚が参照点Rでの膜厚よりも小さい場合は、参照履歴差の極小点が存在せず、その一方でモニタリング履歴差の極小点が存在する。言い換えれば、参照履歴差の極小点が存在せず、モニタリング履歴差の極小点が存在するということは、直近のモニタリングスペクトルおよび直近の参照スペクトルが生成された時点において、モニタリング点Mでの膜厚が参照点Rでの膜厚よりも小さいことを意味する。
【0054】
図10に示す例では、研磨テーブル3の回転回数差が6であるとき、モニタリング履歴差の極小点が存在する。これは、直近の参照スペクトルの形状は、研磨テーブル3の6回転に相当する時間だけ過去に遡った時点に生成された過去のモニタリングスペクトルの形状に最も近いことを意味する。
【0055】
処理システム30は、モニタリング履歴差の極小点に対応する過去の時点と、直近のモニタリングスペクトルおよび直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差と、ワークピースWの研磨レートから、モニタリング点Mと参照点Rとの間の膜厚差を算定することができる。より具体的には、処理システム30は、上記時間差(
図10に示す例では研磨テーブル3の6回転に相当する時間)をワークピースWの仮研磨レートに乗算することで、モニタリング点Mと参照点Rとの間の膜厚差を算定する。
【0056】
処理システム30は、膜厚差を、
図6に示すワークピースW上の複数のモニタリング点Mのそれぞれについて算定することで、複数の膜厚差を決定し、複数の膜厚差に基づいてワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成するように構成される。より具体的には、処理システム30は、
図6に示す複数のモニタリング点Mについてそれぞれ算定された複数の膜厚差を順番につなげることにより、
図11に示すような相対膜厚プロファイルをワークピースWの研磨中に作成する。
図11において、縦軸はワークピースWの相対膜厚を表し、横軸はワークピースW上の半径方向の位置を表す。ワークピースWの相対膜厚は、参照点Rの膜厚に対するモニタリング点Mの相対的な膜厚である。
【0057】
処理システム30は、相対膜厚プロファイルを動作制御部9に送る。動作制御部9は、ワークピースWの研磨中に、相対膜厚プロファイルに基づいて、ワークピースWに対する研磨ヘッド1の押付力を調節するように構成されている。
【0058】
上述した実施形態によれば、参照スペクトルを取得するために別のワークピースを事前に研磨する必要がない。さらに、参照スペクトルとモニタリングスペクトルとの差を算定することで、ワークピースWの表面を構成する膜の下に存在する下地層の影響がキャンセルされる。したがって、ワークピースWの膜厚測定は、下地層のばらつきの影響を受けにくい。
【0059】
図12は、相対膜厚プロファイルを作成しながらワークピースWを研磨する方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ1では、動作制御部9は、研磨装置の研磨ヘッド1、テーブルモータ6、研磨液供給ノズル5、研磨ヘッド回転装置15などに指令を与えて、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3を回転させながら、かつ研磨液を研磨パッド2に供給しながら、研磨ヘッド1によりワークピースWを研磨パッド2に対して押し付けることで、ワークピースWの研磨を開始する。
【0060】
ステップ2では、動作制御部9は、ワークピースWの研磨中に、光源22に指令を与えて、光学センサヘッド25からワークピースW上の参照点Rおよびモニタリング点Mを含む複数の照射点に光を導く。
ステップ3では、処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、所定の時間間隔で参照スペクトルを繰り返し生成することで複数の参照スペクトルを含む参照スペクトル履歴を作成する。
【0061】
ステップ4では、処理システム30は、ワークピースWの研磨中に、所定の時間間隔でモニタリングスペクトルを繰り返し生成することで複数のモニタリングスペクトルを含むモニタリングスペクトル履歴を作成する。上記ステップ3と上記ステップ4は、同時に実行されてもよいし、異なる時間に実行されてもよいし、あるいは重複する時間内に実行されてもよい。上記ステップ4は、上記ステップ3よりも先に行われてもよい。
【0062】
ステップ5では、処理システム30は、直近のモニタリングスペクトルと、参照スペクトル履歴内の複数の参照スペクトルとの差である複数の参照履歴差を算定する。
ステップ6では、処理システム30は、直近の参照スペクトルと、モニタリングスペクトル履歴内の複数のモニタリングスペクトルとの差である複数のモニタリング履歴差を算定する。上記ステップ5と上記ステップ6は、同時に実行されてもよいし、異なる時間に実行されてもよいし、あるいは重複する時間内に実行されてもよい。上記ステップ6は、上記ステップ5よりも先に行われてもよい。
【0063】
ステップ7では、処理システム30は、複数の参照履歴差または複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点に基づいて、モニタリング点と参照点との間の膜厚差を算定する。より具体的には、処理システム30は、複数の参照履歴差または複数のモニタリング履歴差のいずれかに存在する参照履歴差またはモニタリング履歴差の極小点を決定し、極小点に対応する過去の時点と、直近のモニタリングスペクトルまたは直近の参照スペクトルが生成された時点との時間差を決定し、決定された時間差を、ワークピースWの仮研磨レートに乗算することでモニタリング点と参照点との間の膜厚差を算定する。仮研磨レートは、予め定められた研磨レートである。
【0064】
ステップ8では、処理システム30は、ワークピースW上のすべてのモニタリング点Mについて膜厚差を算定するまで、上記ステップ5~7を繰り返すことで、複数の膜厚差を決定する。
ステップ9では、処理システム30は、上記ステップ8で決定された複数の膜厚差に基づいてワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成する。
上記ステップ2から上記ステップ9は、ワークピースWの研磨中に行われる。
【0065】
動作制御部9および処理システム30は、それらの記憶装置9a,30aに電気的に格納されたプログラムに含まれる命令に従って動作し、上記ステップ1~9を実行する。これらステップを動作制御部9および処理システム30に実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介して動作制御部9および処理システム30に提供される。または、プログラムは、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークを介して動作制御部9および処理システム30に提供されてもよい。動作制御部9および処理システム30は、一体に構成されてもよい。例えば、動作制御部9および処理システム30は、1台のコンピュータから構成されてもよい。他の例では、動作制御部9および処理システム30は、複数のコンピュータから構成されてもよい。
【0066】
次に、ワークピースWの相対膜厚プロファイルを作成する他の実施形態について、
図13を参照して説明する。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1乃至
図12を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0067】
図13に示すように、参照点Rおよびモニタリング点Mは、光学センサヘッド25(
図1参照)から光が導かれる複数の照射点のうちの隣接する2点である。
図13に示す例では、ワークピースWの中心点上の照射点は、参照点Rであり、他の照射点は、参照点Rとモニタリング点Mの両方である。
図6を参照して説明した実施形態では、参照点RはワークピースWの中心点上にあり、参照点Rの位置は固定であるのに対して、
図13に示す実施形態では、参照点Rはモニタリング点Mの移動に伴って、複数の照射点内で1つずつ移動する。したがって、隣接する2つの点である参照点Rおよびモニタリング点Mは、複数の照射点内で1つずつ移動する。
【0068】
図12に示すフローチャートは、
図13を参照して説明する実施形態にも適用できるが、
図12のステップ5~8は、参照点Rおよびモニタリング点Mを、ワークピースW上の複数の照射点内で1つずつずらしながら行われる。
【0069】
本実施形態においても、処理システム30は、
図11に示すような相対膜厚プロファイルをワークピースWの研磨中に作成することができる。処理システム30は、相対膜厚プロファイルを動作制御部9に送り、動作制御部9は、ワークピースWの研磨中に、相対膜厚プロファイルに基づいて、ワークピースWに対する研磨ヘッド1の押付力を調節する。
【0070】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0071】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 研磨液供給ノズル
6 テーブルモータ
9 動作制御部
10 ヘッドシャフト
15 研磨ヘッド回転装置
20 光学式プロファイル測定装置
22 光源
25 光学センサヘッド
27 分光器
30 処理システム
31 投光光ファイバーケーブル
32 受光光ファイバーケーブル
W ワークピース