(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158462
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】亀裂検出システムおよび亀裂検出方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/00 20060101AFI20241031BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20241031BHJP
G01V 8/16 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
G01N33/38
G01V8/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073682
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504270493
【氏名又は名称】株式会社ジオファイブ
(71)【出願人】
【識別番号】500355075
【氏名又は名称】株式会社日本地下探査
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504024597
【氏名又は名称】独立行政法人水資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 隼太郎
(72)【発明者】
【氏名】山上 順民
(72)【発明者】
【氏名】土肥 聡
(72)【発明者】
【氏名】新井 博之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 礼
(72)【発明者】
【氏名】菊池 竜之介
(72)【発明者】
【氏名】辻 健
(72)【発明者】
【氏名】市川 滋己
(72)【発明者】
【氏名】大谷 知樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 祐治
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸志
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA01
2G105BB01
2G105DD02
2G105EE02
2G105HH04
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物を管理する負担を軽減することができる、亀裂検出システムおよび亀裂検出方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物(一例は、フェイススラブコンクリート4)の亀裂を検出する亀裂検出システム1であって、前記コンクリート構造物の内部に埋められている光ファイバケーブル5と、前記コンクリート構造物に振動を与える振動発生手段6と、光ファイバケーブル5に伝わる表面波を計測する計測手段11と、計測手段11で計測した計測波形に基づいて、前記コンクリート構造物に発生している亀裂の状況を解析する解析手段13と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の亀裂を検出する亀裂検出システムであって、
前記コンクリート構造物の内部に埋められている光ファイバケーブルと、
前記コンクリート構造物に振動を与える振動発生手段と、
前記光ファイバケーブルに伝わる表面波を計測する計測手段と、
前記計測手段で計測した計測波形に基づいて、前記コンクリート構造物に発生している亀裂の状況を解析する解析手段と、を備える、
ことを特徴とする亀裂検出システム。
【請求項2】
前記解析手段は、前記計測波形のうち、前記振動発生手段から前記光ファイバケーブルに設定した複数の計測点のそれぞれに直達した波形についてフーリエスペクトルを算出し、当該フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいて亀裂の有無を検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の亀裂検出システム。
【請求項3】
前記解析手段は、前記計測波形のうち、前記振動発生手段から前記光ファイバケーブルに設定した複数の計測点のそれぞれに直達した波形についてフーリエスペクトルを算出し、当該フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいたコンター図を表示手段に表示させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の亀裂検出システム。
【請求項4】
前記コンクリート構造物は、コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムのフェイススラブコンクリートである、
ことを特徴とする請求項1に記載の亀裂検出システム。
【請求項5】
前記光ファイバケーブルは、天端から前記フェイススラブコンクリート内に挿入され、法尻で引き返して前記天端から延出されており、
前記振動発生手段は、前記天端の複数地点に振動を与える、
ことを特徴とする請求項4に記載の亀裂検出システム。
【請求項6】
前記フェイススラブコンクリートは、複数のブロックで構成されており、
前記光ファイバケーブルは、少なくとも二つ以上の前記ブロックに跨って配置されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の亀裂検出システム。
【請求項7】
コンクリート構造物の亀裂を検出する亀裂検出方法であって、
前記コンクリート構造物の内部に光ファイバケーブルを設置する光ファイバ設置工程と、
前記コンクリート構造物に振動を与える振動発生工程と、
前記光ファイバケーブルに伝わる表面波を計測する表面波計測工程と、
前記表面波計測工程で計測した計測波形に基づいて、前記コンクリート構造物に発生している亀裂の状況を解析する亀裂解析工程と、を有する、
ことを特徴とする亀裂検出方法。
【請求項8】
前記光ファイバケーブルに発生する歪みを計測する歪み計測工程と、
前記歪み計測工程で計測した歪みに基づいて、前記コンクリート構造物に発生している変形を解析する変形解析工程と、をさらに有し、
前記歪み計測工程では、前記光ファイバケーブルに歪み計測用の計測手段を接続して前記歪みを計測し、
前記表面波計測工程では、前記歪み計測用の計測手段に代えて、前記光ファイバケーブルに表面波計測用の計測手段を接続して前記表面波を計測する、
ことを特徴とする請求項7に記載の亀裂検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の亀裂検出システムおよび亀裂検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの型式の一つとして、岩石や土砂を積み上げて建設するロックフィルダムがあり、ロックフィルダムの形式の一つとして、コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムがある。コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムでは、ダムの上流面をコンクリート版(「フェイススラブコンクリート」と称する)で覆って遮水する。当該ダムの維持管理として、フェイススラブコンクリートに発生する亀裂の状況を把握することが望ましい。
コンクリートの亀裂等の欠陥を測定する技術として、例えば特許文献1,2に記載された技術が存在する。特許文献1,2に記載されるように、従来の亀裂検出方法は、コンクリート構造物の表面に受振器を設置するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64-065407号公報
【特許文献2】特開平5-113428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来における亀裂検出方法では、受振器(例えばジオフォン)と信号伝達用のケーブルとを計測エリアに設置するため、設置作業が煩雑で作業員の負担となる。
また、計測するたびに受振器等の設置および撤収が必要であるので毎回の負担が大きく、特に定期的な計測を行う場合にはその負担はさらに大きい。
また、1つの観測点につき1台の受信器が必要となるため、計測エリアが大きくなるほど、または計測を密に行おうとするほど、多くの受信器が必要になりコストの面で問題となる。
このような観点から、本発明は、コンクリート構造物を管理する負担を軽減することができる、亀裂検出システムおよび亀裂検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る亀裂検出システムは、コンクリート構造物の亀裂を検出する亀裂検出システムである。この亀裂検出システムは、光ファイバケーブルと、振動発生手段と、計測手段と、解析手段とを備える。
前記光ファイバケーブルは、前記コンクリート構造物の内部に埋められている。前記振動発生手段は、前記コンクリート構造物に振動を与える。前記計測手段は、前記光ファイバケーブルに伝わる表面波を計測する。前記解析手段は、前記計測手段で計測した計測波形に基づいて、前記コンクリート構造物に発生している亀裂の状況を解析する。
前記解析手段は、例えば、前記計測波形のうち、前記振動発生手段から前記光ファイバケーブルに設定した複数の計測点のそれぞれに直達した波形についてフーリエスペクトルを算出し、当該フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいて亀裂の有無を検出する。
【0006】
本発明に係る亀裂検出システムにおいては、光ファイバケーブルを埋設したままとすることが可能である。そのため、最初に光ファイバケーブルを設置すれば、光ファイバケーブルの撤収作業や2回目以降の再設置が不要である。
また、光ファイバケーブルは、従来の受振器(例えばジオフォン)に比べて安価(例えば、1mあたりで数百~数千円程度)であり、また、数十cmごとに表面波を計測可能なので、計測エリアが大きくなった場合でもコストの面で問題となり難い。
【0007】
前記解析手段は、前記計測波形のうち、前記振動発生手段から前記光ファイバケーブルに設定した複数の計測点のそれぞれに直達した波形についてフーリエスペクトルを算出し、当該フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいたコンター図を表示手段に表示させてもよい。このようにすると、亀裂の発生個所の特定が容易である。
【0008】
前記コンクリート構造物は、例えば、コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムのフェイススラブコンクリートである。
前記コンクリート構造物としてフェイススラブコンクリートを想定した場合、前記光ファイバケーブルは、例えば、天端から前記フェイススラブコンクリート内に挿入され、法尻で引き返して前記天端から延出される。前記振動発生手段は、前記天端の複数地点に振動を与える。
このようにすると、コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムのフェイススラブコンクリートに発生する亀裂を精度よく検出可能である。また、ダムを維持管理する負担が従来よりも軽減される。
【0009】
前記フェイススラブコンクリートが複数のブロックで構成される場合、前記光ファイバケーブルを少なくとも二つ以上の前記ブロックに跨って配置してもよい。
このようにすると、計測手段(例えば、インテロゲータ)に接続する光ファイバの数(チャンネル数)を抑制することができるので、計測手段の数を抑制できる。
【0010】
本発明に係る亀裂検出方法は、コンクリート構造物の亀裂を検出する亀裂検出方法である。この亀裂検出方法は、光ファイバ設置工程と、振動発生工程と、表面波計測工程と、亀裂解析工程とを有する。
前記光ファイバ設置工程では、前記コンクリート構造物の内部に光ファイバケーブルを設置する。前記振動発生工程では、前記コンクリート構造物に振動を与える。前記表面波計測工程では、前記光ファイバケーブルに伝わる表面波を計測する。前記亀裂解析工程では、前記表面波計測工程で計測した計測波形に基づいて、前記コンクリート構造物に発生している亀裂の状況を解析する。
【0011】
本発明に係る亀裂検出方法においては、光ファイバケーブルを埋設したままとすることが可能である。そのため、最初に光ファイバケーブルを設置すれば、光ファイバケーブルの撤収作業や2回目以降の再設置が不要である。
また、光ファイバケーブルは、従来の受振器(例えばジオフォン)に比べて安価(例えば、1mあたりで数百~数千円程度)であり、また、数十cmごとに表面波を計測可能なので、計測エリアが大きくなった場合でもコストの面で問題となり難い。
【0012】
前記亀裂検出方法は、前記光ファイバケーブルに発生する歪みを計測する歪み計測工程と、前記歪み計測工程で計測した歪みに基づいて、前記コンクリート構造物に発生している変形を解析する変形解析工程とをさらに有していてもよい。前記歪み計測工程では、前記光ファイバケーブルに歪み計測用の計測手段を接続して前記歪みを計測する。前記表面波計測工程では、前記歪み計測用の計測手段に代えて、前記光ファイバケーブルに表面波計測用の計測手段を接続して前記表面波を計測する。
このようにすると、施工時にコンクリート構造物の歪みを計測するために用いた光ファイバケーブルを、施工後の維持管理にも利用できるので経済的である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート構造物を管理する負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る亀裂検出システムの概略構成図である。
【
図2】コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムの斜視図である。
【
図3】コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムの断面図である。
【
図6】解析手段で実行する解析処理のイメージ図である。
【
図7】コンター図を時系列で並べて表示させた場合の例示である。
【
図8】計測結果から亀裂を検出する方法の一例である。
【
図9】本発明の実施形態に係る亀裂検出システムが行う亀裂検出方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0016】
<実施形態に係る亀裂検出システムの構成について>
図1ないし
図3を参照して、実施形態に係る亀裂検出システム1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る亀裂検出システム1の概略構成図である。
図2は、コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムの斜視図であり、
図3は、コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムの断面図である。
【0017】
図1に示す亀裂検出システム1は、監視対象となるコンクリート構造物に発生する亀裂(ひび割れ)を検出するシステムである。コンクリート構造物は、例えば、
図2および
図3に示すコンクリート表面遮水壁型のロックフィルダム2(以下「ダム2」と称する。)におけるフェイススラブコンクリート4である。フェイススラブコンクリート4は、ダム2の上流面を覆ったコンクリート版である。
図2に示すように、フェイススラブコンクリート4は、上下方向に伸びた複数の帯状のブロックBKで構成される。ブロックBKは、ダム2の横幅方向に並べて配置されている。なお、コンクリート構造物は、フェイススラブコンクリート4に限定されず、ダム以外のものであってよい。
【0018】
図1に示すように、亀裂検出システム1は、光ファイバケーブル5と、振動発生手段6と、計測手段11と、記録手段12と、解析手段13と、表示手段14と、を備える。光ファイバケーブル5および振動発生手段6は、フェイススラブコンクリート4に設置され、計測手段11、記録手段12、解析手段13および表示手段14は、例えば管理棟3内に設置される。
【0019】
(光ファイバケーブル)
光ファイバケーブル5は、フェイススラブコンクリート4に埋設されている。そのため、光ファイバケーブル5は、表面を樹脂で被覆されているのがよい。光ファイバケーブル5は、バインド線などの固定手段を用いてコンクリート中の鉄筋に固定される。光ファイバケーブル5は、計測エリアの全域に連続的に設置されるのがよい。光ファイバケーブル5の連続性を確保することが困難な場合には、分割した領域ごとに光ファイバケーブル5を設置し、後から専用のコネクターや融着により光ファイバケーブル5を結合することも可能である。フェイススラブコンクリート4に発生する亀裂の方向が予め予測できる場合、亀裂に対して光ファイバケーブル5が交わる(望ましくは直交する)ように配置するのがよい。つまり、亀裂の延在方向と光ファイバケーブル5とが平行しないように光ファイバケーブル5を配置することが好ましい。
【0020】
図1を参照して、光ファイバケーブル5の配置の一例を説明する。本実施形態では、フェイススラブコンクリート4の全域を計測エリアとして想定する。そのため、光ファイバケーブル5は、すべてのブロックBKに跨って配置されている。なお、計測エリアが特定のブロックBKである場合、計測対象となるブロックBKに少なくとも光ファイバケーブル5が配置されていればよい。
【0021】
各々のブロックBKに注目すると、
図4に示すように、光ファイバケーブル5は、フェイススラブコンクリート4の天端からフェイススラブコンクリート4内に挿入され、法尻で引き返して天端から外部に延出するように配置される。
図4は、
図1の範囲Aの拡大図である。
図4の符号Pは、振動の発生源を示しており、発信源Pから出る破線の矢印は振動の伝搬イメージである。外部に延出された光ファイバケーブル5は、隣のブロックBKの天端から再びフェイススラブコンクリート4内に挿入される。つまり、ブロックBK1の天端から挿入されて法尻に到達して戻って天端から延出した光ファイバケーブル5は、隣のブロックBK2の天端から挿入されて法尻に到達して戻って天端から延出する。このようにして、すべてのブロックBKを通過した光ファイバケーブル5は、計測手段11(
図1参照)に接続される。
【0022】
(振動発生手段)
図1に示す振動発生手段6は、コンクリート構造物であるフェイススラブコンクリート4に振動を与える。振動発生手段6は、フェイススラブコンクリート4の天端に設置される。振動発生手段6は、例えば、インパルス型起振器やスイープ型起振器などであってよい。
図4に示すように、本実施形態では複数の地点で振動を発生させるため、振動発生手段6は移動可能であるのがよく、持ち運びが容易であることが望ましい。本実施形態では、
図4に示すように、各々のブロックBKに対して、(1)ブロックBKの左端点P1、(2)ブロックBKの右端点P5、(3)ブロックBKの中央点P3、(4)光ファイバケーブル5の挿入点P2、(5)光ファイバケーブル5の延出点P4の合計5か所で振動を発生させる。
【0023】
(計測手段)
図1に示す計測手段11は、光ファイバケーブル5に伝わる表面波(レイリー波)を計測する装置であり、光ファイバケーブル5が接続される。計測手段11は、例えば、DAS(分布型光ファイバセンサ)計測用のインテロゲータである。インテロゲータは、光ファイバケーブル5内に光を入射させる光源装置としての機能、光ファイバケーブル5内のコアに配置されたFBG(Fiber Bragg Grating:ファイバ・ブラッグ・グレーティング)からの反射光を分析するセンサーとしての機能、光ファイバケーブル5から得られた信号を記録する機能などを有する。計測手段11は、精密機器のため室内に設置されるのがよい。計測手段11は、計測した表面波(「計測波形」と称する)を解析手段13に出力する。
図5に、計測手段11によって計測された計測波形を示す。
図5は、計測波形の例示である。
【0024】
(記録手段)
図1に示す記録手段12は、計測手段11や解析手段13の外部記録装置として用いられる。記録手段12は、例えば、データ保存用のHDD(hard disk drive:ハードディスクドライブ)やSSD(solid state drive:ソリッドステートドライブ)などである。記録手段12は、計測手段11や解析手段13からの指示によって、格納したデータの読み出し、および新たなデータの記録などを実行する。
【0025】
(解析手段)
図1に示す解析手段13は、計測手段11で計測した計測波形に基づいて、フェイススラブコンクリート4に発生している亀裂の状況を解析する。解析手段13は、演算機能を備えた装置(例えば、PC(Personal Computer))であり、DAS(分布型光ファイバセンサ)計測用のアプリケーションプログラムをCPU(Central Processing Unit)で実行することで解析に必要な機能が実現される。解析手段13は、計測手段11で計測した計測波形うち、振動発生手段6から光ファイバケーブル5に設定した複数の計測点のそれぞれに直達した波形(直接波)についてフーリエスペクトルを算出し、当該フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいて亀裂の有無を検出する。解析手段13は、フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいたコンター図を表示手段14に表示してもよい(
図1参照)。
【0026】
図6を参照して、解析手段13で実行する解析処理の一例を説明する。
図6は、解析手段13で実行する解析処理のイメージ図である。
解析手段13は、光ファイバケーブル5に設定した複数の計測点Q(
図6では一部のみ示している)のそれぞれに到達した表面波の振幅の時刻歴データを波形記録から読み取る。
次に、解析手段13は、各計測点Qに最初に到達した表面波(
図6の符号91)を取り出す。つまり、亀裂や構造物端部からの反射波を除き、直達波を抽出する。
次に、抜き出した波形の時刻歴データに対してフーリエ変換を実施してフーリエスペクトルを算出し、任意の周波数における振幅を読み取る。隣り合う計測点Qにおける振幅を対比することで、反射波が発生したか否かを判定できる。
図6では、符号92で示す部分でスペクトル減衰(反射波の発生に伴う振幅の減少)が発生しており、当該部分に亀裂があることが分かる。
【0027】
次に、解析手段13は、フーリエスペクトルの振幅の大きさに基づいたコンター図を作成し、表示手段14に当該コンター図を表示させる。作業員は、コンター図を確認し、亀裂の有無と亀裂の進行具合を推定する。コンター図では、例えば
図6の符号93で示すように、亀裂箇所が強調して表示される。
亀裂の有無の判定には、既存の技術を用いることができる。例えば、以下の文献で解説される技術を参考にして亀裂の有無を判定する閾値を設定する。
・江島 淳ほか、「空溝と地中壁による振動遮断効果」、土質工学会、1980年03月25日、土と基礎.28(3)、p.49-p.55、No.1160
【0028】
なお、定期的に計測を行い、
図7に示すように、コンター図を時系列で並べて表示させるようにしてもよい。このようにすると、過去と現在の計測結果を比較することが可能である。これにより、作業員は、亀裂の発生や亀裂の進行具合を容易に把握することができる。
【0029】
次に、亀裂を検出する方法の一例を
図8に示す。
図8は、計測結果から亀裂を検出する方法の一例である。
各計測点における計測波形の時刻歴データをフーリエ変換し、
図8の符号81で示すように、フーリエスペクトル(周波数ごとの振幅分布)を算出する。算出した各計測点の振幅分布に基づいて、減衰がみられる計測点の間に亀裂が存在すると仮定する(
図8の符号82を参照)。
続いて、
図8の符号83で示すように、亀裂通過前後の振幅比(隣り合う計測点間における振幅比)を算出する。例えば、周波数f=1.2[kHz]において、振幅比γ=0.6を算出する。
続いて、
図8の符号84で示すように、周波数f=1.2[kHz]のときの表面波の速度v=2.07[km/s]から、波長λ=v/f=(2.07/1.2)=1.73を求める。
最後に、ひび割れ深度と表面波の減衰(振幅比)の関係式「γ=exp(-2.35d/λ)」に、求めたγ,λを代入することで、ひび割れ深度d=370[mm]を得られる。なお、前記関係式は、事前の実験結果から求めた近似式である。
【0030】
<実施形態に係る亀裂検出方法の工程について>
図9を参照して(適宜、
図1ないし
図8を参照)、亀裂検出システム1が行う亀裂検出方法について説明する。
図9は、本実施形態での亀裂検出方法の工程を示すフローチャートである。
(計測手段などの設置「S11」)
最初に、作業員は、光ファイバケーブル5をフェイススラブコンクリート4に埋設する。フェイススラブコンクリート4の施工段階で光ファイバケーブル5を設置してもよいし、フェイススラブコンクリート4の施工が完了して維持管理段階に入った後で光ファイバケーブル5を設置してもよい。また、計測手段11を室内(例えば、管理棟3)に設置し、計測手段11に光ファイバケーブル5を接続する。これにより、計測準備が完了する。
【0031】
なお、フェイススラブコンクリート4の施工段階で光ファイバケーブル5を設置し、施工期間中のフェイススラブコンクリート4に発生する変形の解析に当該光ファイバケーブル5を用いてもよい。例えば、歪み計測用の計測手段を光ファイバケーブル5に接続し、当該計測手段で光ファイバケーブル5に発生する歪みを計測する(歪み計測工程)。また、歪み計測工程で計測した歪みに基づいて、フェイススラブコンクリート4に発生している変形を解析する(変形解析工程)。そして、維持管理段階では、表面波計測用の計測手段11を歪み計測用の計測手段に代えて光ファイバケーブル5に接続する。
【0032】
(計測開始「S12」、表面波の起振「S13」、表面波の受振「S14」)
電源を入れるなどして計測手段11を計測可能な状態にし、また、振動発生手段6を最初に計測を行う測線に沿って設置する。例えば、
図1に示す一番左に配置されるブロックBKの左端点P1(
図4参照)に振動発生手段6を設置する。そして、振動発生手段6を稼働させてフェイススラブコンクリート4に振動を発生し、計測手段11を用いて光ファイバケーブル5に設定した複数の計測点Qでの表面波を計測する。なお、二本の光ファイバケーブル5を跨ぐように伝わる表面波を計測してもよい。
【0033】
(測線の移動「S15」)
続いて、次に計測を行う測線に振動発生手段6を移動させる。例えば、
図1に示す一番左に配置されるブロックBKの光ファイバケーブル5の挿入点P2(
図4参照)に振動発生手段6を設置する。そして、左端点P1の場合と同様に、振動発生手段6を稼働させてフェイススラブコンクリート4に振動を発生し、計測手段11を用いて光ファイバケーブル5に設定した複数の計測点Qでの表面波を計測する。計測対象領域全体にて十分な振幅を持った表面波を受振する必要があるため、このように起振位置を変えながら、複数回の計測を実施する。
【0034】
このようにして、一つのブロックBKの中で、ブロックBKの左端点P1、光ファイバケーブル5の挿入点P2、ブロックBKの中央点P3、光ファイバケーブル5の延出点P4、ブロックBKの右端点P5の順番に振動発生手段6を移動させて計測を行う。つまり、一つのブロックBKごとに複数回の計測を実施する。一つのブロックBKの計測が完了したら、隣のブロックBKの計測を同様にして行い、最終的にはすべてのブロックBKで計測を行う。すべてのブロックBKで計測が完了したら現場での作業は終了である。
【0035】
(解析開始「S21」、計測波形のスペクトル計算「S22」、振幅変化のコンター図化「S23」、解析完了「S24」)
次に、
図6を参照して説明した方法で解析を行い、フェイススラブコンクリート4全域におけるコンター図を作成する。
【0036】
(亀裂の発生と進行の把握「S25」)
作業員は、表示手段14に表示されたコンター図を確認することで、亀裂の発生や亀裂の進行を把握する。作業員は、前回の計測で作成したコンター図と今回のコンター図とを比較することで、亀裂の発生や亀裂の進行を把握してもよい。これにより、現時点での状況把握は完了である。ここまで説明した計測および解析を定期的に実施する。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る亀裂検出システム1によれば、光ファイバケーブル5を埋設したままとすることが可能である。そのため、最初に光ファイバケーブル5を設置すれば、光ファイバケーブル5の撤収作業や2回目以降の再設置が不要である。
また、光ファイバケーブル5は、従来の受振器(例えばジオフォン)に比べて安価(例えば、1mあたりで数百~数千円程度)であり、また、数十cmごとに表面波を計測可能なので、計測エリアが大きくなった場合でもコストの面で問題となり難い。
また、施工時にコンクリート構造物(本実施形態ではフェイススラブコンクリート4)の歪みを計測するために用いた光ファイバケーブル5を、施工後の維持管理にも利用できるので経済的である。
【符号の説明】
【0038】
1 亀裂検出システム
2 コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダム
3 管理棟
4 フェイススラブコンクリート
5 光ファイバケーブル
6 振動発生手段
11 計測手段
12 記録手段
13 解析手段
14 表示手段