(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158536
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、プログラム、及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20241031BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241031BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 B
C23C16/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073800
(22)【出願日】2023-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 政哉
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA02
4K030AA03
4K030AA06
4K030AA09
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4K030JA11
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5F058BF37
(57)【要約】
【課題】基板上に形成する膜の特性を向上させることが可能な技術を提供する。
【解決手段】(a)基板に対して所定元素、炭素、および水素を含む原料を供給する工程と、前記基板に対して窒素を含む第1改質剤を供給する工程と、を含むサイクルを所定回数実行することで、前記基板上に前記所定元素、窒素、炭素、および炭素に結合した水素を含む第1膜を形成する工程と、(b)前記第1膜が形成された前記基板に対して、前記第1改質剤とは異なる、1分子中に窒素と水素の結合及び窒素同士の結合を含む化合物又はその誘導体である第2改質剤を供給することで、前記第1膜を、前記第1膜に比べて前記炭素に結合した水素の含有比率が低減された、前記所定元素、炭素、および窒素を含む第2膜へと改質する工程と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板に対して所定元素、炭素、および水素を含む原料を供給する工程と、前記基板に対して窒素を含む第1改質剤を供給する工程と、を含むサイクルを所定回数実行することで、前記基板上に前記所定元素、窒素、炭素、および炭素に結合した水素を含む第1膜を形成する工程と、
(b)前記第1膜が形成された前記基板に対して、前記第1改質剤とは異なる、1分子中に窒素と水素の結合及び窒素同士の結合を含む化合物又はその誘導体である第2改質剤を供給することで、前記第1膜を、前記第1膜に比べて前記炭素に結合した水素の含有比率が低減された、前記所定元素、炭素、および窒素を含む第2膜へと改質する工程と、
を有する基板処理方法。
【請求項2】
(a)の後、前記基板を酸素含有雰囲気へ暴露することなく(b)を開始する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
(b)では、前記第1膜の厚さ方向の全体に亘って、前記炭素と水素の結合の含有比率を低減するように、前記第1膜を改質する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
(b)では、前記第1膜に含まれる炭素の含有比率の低減量よりも、前記第1膜に含まれる水素の含有比率の低減量の方が大きくなるように、前記第1膜を前記第2膜へと改質する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記サイクルは、前記第1膜が所望の厚さとなるまで複数回実行される、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項6】
(b)では、前記第2改質剤をノンプラズマ状態で前記基板に対して供給する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記第1改質剤は、1分子中に窒素同士の結合を含んでいない、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第1改質剤は窒化水素系化合物である、請求項7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
(b)では、前記第2改質剤から生成される1分子中に未結合手を有する窒素を含む中間体を、前記第1膜に含まれる前記炭素に結合した水素と反応させることで、当該水素を前記第1膜から脱離させる、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記第2改質剤が分解して生成される中間体の、前記第1膜に含まれる前記炭素に結合した水素を脱離させる活性化エネルギーは、前記第1改質剤の、前記第1膜に含まれる前記炭素に結合した水素を脱離させる活性化エネルギーよりも小さい、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記第2改質剤は、ジアゼン、ヒドラジン、トリアゼン、トリアザン、モノメチルヒドラジン、1,1-ジメチルヒドラジン、1,2-ジメチルヒドラジンのうち少なくとも一つの化合物又は誘導体を含む、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記原料は、1分子中に前記所定元素、炭素、水素、およびハロゲン元素を含む化合物を含み、(b)では、前記第1膜に含まれる前記ハロゲン元素を脱離させるように、前記第1膜を前記第2膜へと改質する、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
(b)では、前記第1膜に含まれる前記所定元素に結合した水素の含有比率を低減させるように、前記第1膜を前記第2膜へと改質する、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
(b)における前記第2改質剤の分圧は、(a)における前記第1改質剤の分圧よりも小さい、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
(b)における前記基板の温度は、(a)における前記基板の温度よりも低い、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
(a)の後且つ(b)の前に、前記基板が存在する空間をパージする工程、を更に有する、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項17】
前記所定回数を1回とし、
(a)及び(b)を含む第2のサイクルを複数回実行する、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項18】
(a)基板に対して所定元素、炭素、および水素を含む原料を供給する工程と、前記基板に対して窒素を含む第1改質剤を供給する工程と、を含むサイクルを所定回数実行することで、前記基板上に前記所定元素、窒素、炭素、および炭素に結合した水素を含む第1膜を形成する工程と、
(b)前記第1膜が形成された前記基板に対して、前記第1改質剤とは異なる、1分子中に窒素と水素の結合及び窒素同士の結合を含む化合物又はその誘導体である第2改質剤を供給することで、前記第1膜を、前記第1膜に比べて前記炭素に結合した水素の含有比率が低減された、前記所定元素、炭素、および窒素を含む第2膜へと改質する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項19】
(a)基板に対して所定元素、炭素、および水素を含む原料を供給する手順と、前記基板に対して窒素を含む第1改質剤を供給する手順と、を含むサイクルを所定回数実行することで、前記基板上に前記所定元素、窒素、炭素、および炭素に結合した水素を含む第1膜を形成する手順と、
(b)前記第1膜が形成された前記基板に対して、前記第1改質剤とは異なる、1分子中に窒素と水素の結合及び窒素同士の結合を含む化合物又はその誘導体である第2改質剤を供給することで、前記第1膜を、前記第1膜に比べて前記炭素に結合した水素の含有比率が低減された、前記所定元素、炭素、および窒素を含む第2膜へと改質する手順と、
をコンピュータにより基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項20】
基板に対して、所定元素、炭素、および水素を含む原料を供給する原料供給系と、
前記基板に対して、窒素を含む第1改質剤を供給する第1改質剤供給系と、
前記基板に対して、前記第1改質剤とは異なる、1分子中に窒素と水素の結合及び窒素同士の結合を含む化合物又はその誘導体である第2改質剤を供給する第2改質剤供給系と、
(a)前記基板に対して前記原料を供給する処理と、前記基板に対して前記第1改質剤を供給する処理と、を含むサイクルを所定回数実行することで、前記基板上に前記所定元素、窒素、炭素、および炭素に結合した水素を含む第1膜を形成する処理と、
(b)前記第1膜が形成された前記基板に対して、前記第2改質剤を供給することで、前記第1膜を、前記第1膜に比べて前記炭素に結合した水素の含有比率が低減された、前記所定元素、炭素、および窒素を含む第2膜へと改質する処理と、を実行するように前記原料供給系、前記第1改質剤供給系、および前記第2改質剤供給系を制御することが可能なよう構成される制御部と、
有する基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、プログラム、及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板に対して複数種類の処理ガスを供給して、基板上に炭窒化膜を形成する処理が行われることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、基板上に炭窒化膜を形成する場合に、例えば炭素(C)に結合した水素(H)等の不純物が炭窒化膜中に残留し、膜の特性に影響を与えることがある。
【0005】
本開示は、基板上に形成する膜の特性を向上させることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
(a)基板に対して所定元素、炭素、および水素を含む原料を供給する工程と、前記基板に対して窒素を含む第1改質剤を供給する工程と、を含むサイクルを所定回数実行することで、前記基板上に前記所定元素、窒素、炭素、および炭素に結合した水素を含む第1膜を形成する工程と、
(b)前記第1膜が形成された前記基板に対して、前記第1改質剤とは異なる、1分子中に窒素と水素の結合及び窒素同士の結合を含む化合物又はその誘導体である第2改質剤を供給することで、前記第1膜を、前記第1膜に比べて前記炭素に結合した水素の含有比率が低減された、前記所定元素、炭素、および窒素を含む第2膜へと改質する工程と、
を有する技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板上に形成する膜の特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉部分を縦断面図で示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉部分を
図1のA-A線断面図で示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラの概略構成図であり、コントローラの制御系をブロック図で示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理工程を示すフロー図である。
【
図5】
図5(A)は、原料が吸着された基板上に第1改質剤を供給する場合の基板の表面上の状態を説明するための図である。
図5(B)は、原料が吸着された基板上に第2改質剤を供給する場合の基板の表面上の状態を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理工程の変形例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に
図1~
図5を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0010】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は加熱機構(温度調整部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0011】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO2)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の筒中空部には、処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0012】
処理室201内には、ノズル249a,249bが、反応管203の下部側壁を貫通するように設けられている。ノズル249a,249bには、ガス供給管232a,232bがそれぞれ接続されている。
【0013】
ガス供給管232a,232bには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a,241bおよび開閉弁であるバルブ243a,243bがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232cが接続されている。ガス供給管232bのバルブ243bよりも下流側には、ガス供給管232d,232eがそれぞれ接続されている。ガス供給管232c,232d,232eには、ガス流の上流側から順に、MFC241c,241d,241eおよびバルブ243c,243d,243eがそれぞれ設けられている。
【0014】
図2に示すように、ノズル249a,249bは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a,249bは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。ノズル249a,249bの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a,250bがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a,250bは、反応管203の中心を向くようにそれぞれ開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a,250bは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0015】
ガス供給管232aからは、所定元素、炭素(C)、および水素(H)を含む原料である原料ガスが、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給されるように構成されている。
【0016】
本明細書において、原料ガスとは、気体状態の原料、例えば、常温常圧下で液体状態である原料を気化することで得られるガスや、常温常圧下で気体状態である原料等のことである。本明細書において「原料」という言葉を用いた場合は、「液体状態である液体原料」を意味する場合、「気体状態である原料ガス」を意味する場合、または、その両方を意味する場合がある。
【0017】
ガス供給管232bからは、窒素(N)を含む第1改質剤が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給されるように構成されている。第1改質剤は、第1改質ガス、第1窒化剤と称することもできる。
【0018】
本明細書において用いる「剤」という用語は、ガス状物質および液体状物質のうち少なくともいずれかを含む。液体状物質はミスト状物質を含む。すなわち、成膜剤、改質剤、エッチング剤は、ガス状物質を含んでいてもよく、ミスト状物質等の液体状物質を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。
【0019】
ガス供給管232c,232dからは、不活性ガスが、それぞれMFC241c,241d、バルブ243c,243d、ガス供給管232a,232b、ノズル249a,249bを介して処理室201内へ供給される。不活性ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0020】
ガス供給管232eからは、第1改質剤とは異なる改質剤であって、第1改質剤に比べてより高い反応性を有する第2改質剤が、MFC241e、バルブ243e、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。第2改質剤は、第2改質ガス、第2窒化剤と称することもできる。
【0021】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、原料ガスを供給する原料ガス供給系(原料供給系)が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、第1改質剤を供給する第1改質剤供給系(第1改質ガス供給系、第1窒化剤供給系)が構成される。主に、ガス供給管232c,232d、MFC241c,241d、バルブ243c,243dにより、不活性ガスを供給する不活性ガス供給系が構成される。主に、ガス供給管232e、MFC241e、バルブ243eにより、第2改質剤を供給する第2改質剤供給系(第2改質ガス供給系、第2窒化剤供給系)が構成される。
【0022】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243eやMFC241a~241e等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232eのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232e内への各種ガスの供給動作、すなわち、バルブ243a~243eの開閉動作やMFC241a~241eによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232e等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0023】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、さらに、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、圧力センサ245、APCバルブ244により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めてもよい。
【0024】
反応管203の下方には、反応管203の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、反応管203の下端と当接するシール部材としてのOリング220が設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0025】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が水平姿勢で多段に支持されている。
【0026】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0027】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。また、コントローラ121には、外部記憶装置123を接続することが可能となっている。なお、基板処理装置は、制御部を1つ備えるように構成されていてもよく、制御部を複数備えるように構成されていてもよい。すなわち、後述する処理シーケンスを行うための制御を、1つの制御部を用いて行うようにしてもよく、複数の制御部を用いて行うようにしてもよい。また、複数の制御部は、有線または無線の通信ネットワークにより互いに接続された制御系として構成されていてもよく、後述する処理シーケンスを行うための制御を制御系全体により行うようにしてもよい。本明細書において制御部という言葉を用いた場合は、1つの制御部を含む場合の他、複数の制御部を含む場合や、複数の制御部によって構成される制御系を含む場合がある。
【0028】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理工程の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理工程における各手順をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0029】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241e、バルブ243a~243e、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115等に接続されている。
【0030】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241eによる各種ガスの流量調整動作、バルブ243a~243eの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0031】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリ等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0032】
(2)基板処理工程
上述した基板処理装置の処理炉202を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、表面にシリコン膜(Si膜)が形成されたウエハ200上に所定元素、N、C、及びCに結合したHを含む第1膜を形成する工程と、第1膜を、第1膜に比べてCに結合したHの含有比率が低減された、所定元素、C、及びNを含む第2膜へと改質する工程と、を行う例について、主に
図4、
図5を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御することが可能に構成される。
【0033】
本明細書において用いる「ウエハ」という用語は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面上に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において用いる「ウエハの表面」という言葉は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0034】
[第1膜形成工程(成膜工程ともいう)]
(ウエハチャージおよびボートロード、ステップS11)
複数のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)される。その後、
図1に示すように、複数のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220を介して反応管203の下端をシールした状態となる。
【0035】
(圧力調整および温度調整、ステップS12)
処理室201内の圧力、すなわち、ウエハ200が存在する空間の圧力が所望の圧力(真空度)となるように真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。真空ポンプ246は、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は常時作動させた状態を維持する。また、処理室201内のウエハ200が所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。ヒータ207による処理室201内の加熱は、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。また、回転機構267によるボート217およびウエハ200の回転を開始する。回転機構267によるボート217およびウエハ200の回転は、少なくとも、ウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0036】
(プリフローガス供給、ステップS13)
先ず、処理室201内のウエハ200に対してプリフローガスを供給する。プリフローガスとしては、Nを含むガスである第1改質剤を用いることができる。第1改質剤の詳細は後述する。本ステップは、後述するステップS15において、ウエハ200の表面上に原料ガスを吸着させ易くするためのプリフローとして行われる。具体的には、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へ第1改質剤を流す。第1改質剤は、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき同時にバルブ243dを開き、ガス供給管232d内へ不活性ガスを流す。不活性ガスは、MFC241dにより流量調整され、第1改質剤と一緒に処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0037】
また、ノズル249a内への第1改質剤の侵入を防止するため、バルブ243cを開き、ガス供給管232c内に不活性ガスを流す。不活性ガスは、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0038】
ウエハ200に対して、プリフローガスとして例えば窒化水素系化合物を含むガスを供給することにより、ウエハ200上の自然酸化層を窒化させて、ウエハ200上にN-H終端を形成する。これにより、原料の吸着サイトとなるウエハ200表面上のN-H終端の密度を増加させ、均一な吸着面を形成して、成膜レートを向上させることができる。本ステップにおいて用いられるプリフローガスの好適な例については後述する。
【0039】
不活性ガスとしては、窒素(N2)ガスの他、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0040】
(残留ガス除去、ステップS14)
次に、処理室201内の残留ガスを除去する。具体的には、ウエハ200の表面にN-H終端が形成された後、バルブ243bを閉じ、第1改質剤の供給を停止する。このとき、APCバルブ244は開いたままとして、真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する未反応もしくはN-H終端の形成に寄与した後の第1改質剤や副生成物を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243c,243dは開いたままとして、不活性ガスの処理室201内への供給を維持する。不活性ガスはパージガスとして作用する。
【0041】
その後、次のステップS15~S19を順次実行する。
【0042】
(原料ガス供給、ステップS15)
このステップでは、処理室201内に原料ガスを供給する。具体的には、APCバルブ244を所定の開度に開いた状態で、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内に原料ガスを流す。原料ガスは、MFC241aにより流量調整され、ガス供給孔250aから処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対して原料ガスが供給されることとなる。このとき同時にバルブ243cを開いたままとして、ガス供給管232c内に不活性ガスを流す。不活性ガスは、MFC241cにより流量調整され、原料ガスと一緒に処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0043】
また、ノズル249b内への原料ガスの侵入を防止するため、バルブ243dを開いたままとして、ガス供給管232d内に不活性ガスを流す。不活性ガスは、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0044】
本ステップにて原料ガスを供給する際における処理条件としては、
処理温度:150~800℃、好ましくは180~700℃、より好ましくは400~700℃
処理圧力:1~2666Pa、好ましくは67~1333Pa
原料ガス供給流量:1~2000sccm、好ましくは10~1000sccm
原料ガス供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
不活性ガス供給流量:100~10000sccm
が例示される。なお、処理速度向上の観点からは、特に処理温度を、第1膜形成工程のいずれのステップにおいても実質的に同じ温度とすることが好ましい。
【0045】
なお、本開示における「150~800℃」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「150~800℃」とは「150℃以上800℃以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。本開示における処理温度とはウエハ200の温度または処理室201内の温度のことを意味し、処理圧力とは処理室201内の圧力のことを意味する。また、処理時間とは、その処理を継続する時間を意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0046】
ウエハ200の温度が150℃未満となると、ウエハ200上に原料が化学吸着しにくくなり、実用的な成膜レートが得られなくなることがある。ウエハ200の温度を150℃以上とすることで、これを解消することが可能となる。ウエハ200の温度を180℃以上とすることで、ウエハ200上に原料を充分に吸着させることが可能となり、充分な成膜レートが得られるようになる。ウエハ200の温度を400℃以上とすることで、ウエハ200上に原料をより充分に吸着させることが可能となり、より充分な成膜レートが得られるようになる。
【0047】
ウエハ200の温度が800℃を超えると、CVD反応が強くなる(気相反応が支配的になる)ことで、膜厚均一性が悪化しやすくなり、その制御が困難となってしまう。ウエハ200の温度を800℃以下とすることで、膜厚均一性の悪化を抑制でき、その制御が可能となる。ウエハ200の温度を700℃以下とすることで、表面反応が支配的になり、膜厚均一性を確保しやすくなり、その制御が容易となる。
【0048】
すなわち、本工程におけるウエハ200の温度を、例えば150~800℃とすることにより、ウエハ200上に原料を吸着させて、成膜レートを向上させつつ、膜厚均一性を向上させることができる。また、過剰な気相反応が生じることを抑制することができ、それによるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0049】
ウエハ200に対して原料ガスを供給することにより、表面にN-H終端が形成されたウエハ200上に、第1層として、例えば1原子層未満から数原子層程度の厚さの所定元素、C、およびHを含む第1層が形成される。すなわち、原料ガスとして、所定元素としてのSi、C及びHを含むガスを用いた場合に、第1層は、Si-C結合の他に、原料に由来するHを含む。第1層中のHは、C-H結合やSi-H結合等の結合を構成する。CおよびHを含むSi含有層は、Si-C結合、Si-H結合、C-H結合を含む層となる。CおよびHを含むSi含有層は、CおよびHを含むSi層であってもよいし、原料ガスの吸着層であってもよいし、その両方を含んでいてもよい。
【0050】
CおよびHを含むSi層とは、CおよびHを含む連続的なSi層の他、不連続なSi層や、これらが重なってできるCおよびHを含むSi薄膜をも含む総称である。CおよびHを含む連続的なSi層を、CおよびHを含むSi薄膜という場合もある。CおよびHを含むSi層を構成するSiは、CやHとの結合が完全に切れていないものの他、CやHとの結合が完全に切れているものも含む。
【0051】
原料ガスの吸着層は、原料ガスの分子の連続的な吸着層の他、不連続な吸着層をも含む。すなわち、原料ガスの吸着層は、原料ガスを構成する分子で構成される1分子層もしくは1分子層未満の厚さの吸着層を含む。
【0052】
ここで、1原子層未満の厚さの層とは不連続に形成される原子層のことを意味しており、1原子層の厚さの層とは連続的に形成される原子層のことを意味している。1分子層未満の厚さの層とは不連続に形成される分子層のことを意味しており、1分子層の厚さの層とは連続的に形成される分子層のことを意味している。
【0053】
原料ガスが自己分解(例えば熱分解)する条件下では、ウエハ200上に例えばSiが堆積することでCおよびHを含むSi層が形成される。原料ガスが自己分解しない条件下では、ウエハ200上に原料ガスが吸着することで原料ガスの吸着層が形成される。どちらの条件下でも、原料ガスにおけるSi-C結合、Si-H結合、C-H結合等の結合の少なくとも一部は切断されずに保持(維持)され、そのままCおよびHを含むSi含有層中に取り込まれることとなる。
【0054】
原料ガスとしては、所定元素、C、及びHを含むガスを用いることができる。所定元素、C、及びHを含むガスとしては、例えば所定元素としてのSi、C、及びHを含むガスを用いることができる。Si、C、及びHを含むガスとしては、例えばアルキルシランガスやアルキレンシランガス等の炭化水素基、すなわちC-H結合を含む化合物を含むガスを用いることができる。
【0055】
また、所定元素、C、及びHを含むガスとしては、所定元素、C、H、及びハロゲン元素を含むガスを用いることができる。所定元素、C、H、及びハロゲン元素を含むガスとしては、例えば所定元素としてのSi、C、H、及びハロゲン元素としての塩素(Cl)を含むガスを用いることができる。Si、C、H、及びClを含むガスとしては、例えば、Si、アルキレン基およびハロゲン基を含み、SiとCとの化学結合(Si-C結合)を有するアルキレンハロシランガス、或いは、Si、アルキル基およびハロゲン基を含み、Si-C結合を有するアルキルハロシランガスを用いることができる。
【0056】
ここで、アルキレン基とは、一般式CnH2n+2で表される鎖状飽和炭化水素(アルカン)からHを2つ取り除いた官能基であり、一般式CnH2nで表される原子の集合体である。アルキレン基には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が含まれる。また、アルキル基とは、一般式CnH2n+2で表される鎖状飽和炭化水素からHを1つ取り除いた官能基であり、一般式CnH2n+1で表される原子の集合体である。アルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が含まれる。また、ハロゲン基には、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基等が含まれる。すなわち、ハロゲン基には、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)等のハロゲン元素が含まれる。
【0057】
アルキレンハロシランガスとしては、例えば、Si、アルキレン基としてのメチレン基(-CH2-)およびハロゲン基としてのクロロ基(Cl)を含むガス、つまり、メチレン基を含むクロロシランガスや、Si、アルキレン基としてのエチレン基(-C2H4-)およびハロゲン基としてのクロロ基(Cl)を含むガス、つまり、エチレン基を含むクロロシランガスを用いることができる。メチレン基を含むクロロシランガスとしては、例えば、メチレンビス(トリクロロシラン)ガス、すなわち、ビス(トリクロロシリル)メタン((SiCl3)2CH2、略称:BTCSM)ガス等を用いることができる。エチレン基を含むクロロシランガスとしては、例えば、エチレンビス(トリクロロシラン)ガス、すなわち、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン((SiCl3)2C2H4、略称:BTCSE)ガス等を用いることができる。
【0058】
アルキルハロシランガスとしては、例えば、Si、アルキル基としてのメチル基(-CH3)およびハロゲン基としてのクロロ基(Cl)を含むガス、つまり、メチル基を含むクロロシランガスを用いることができる。メチル基を含むクロロシランガスとしては、例えば、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン((CH3)2Si2Cl4、略称:TCDMDS)ガス、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラメチルジシラン((CH3)4Si2Cl2、略称:DCTMDS)ガス、1-モノクロロ-1,1,2,2,2-ペンタメチルジシラン((CH3)5Si2Cl、略称:MCPMDS)ガス等を用いることができる。TCDMDSガス、DCTMDSガス、MCPMDSガス等のアルキルハロシランガスは、BTCSEガス、BTCSMガス等のアルキレンハロシランガスとは異なり、Si-Si結合を有するガス、つまり、所定元素およびハロゲン元素を含み、所定元素同士の化学結合を有する原料ガスでもある。
【0059】
BTCSMガスやBTCSEガス等のアルキレンハロシランガスや、TCDMDSガス、DCTMDSガス、MCPMDSガス等のアルキルハロシランガスは、1分子中に少なくとも2つのSiを含み、さらにClを含み、Si-C結合、C-H結合を有する原料ガスであるともいえる。これらのガスは、本工程において、Siソースとしても作用し、Cソースとしても作用する。BTCSMガスやBTCSEガス等を、アルキレンクロロシランガスと称することもできる。TCDMDSガスやDCTMDSガスやMCPMDSガス等を、アルキルクロロシランガスと称することもできる。
【0060】
原料ガスとして、所定元素、C、H、及びハロゲン元素を含むガスを用いた場合には、第1層には、所定元素、C、およびHの他に、原料ガスに由来するハロゲン元素が不純物として含まれることがある。例えば、ハロゲン元素としてClが原料ガスに含まれる場合、第1層には、Si-Cl結合等の結合が更に含まれる。
【0061】
(残留ガス除去、ステップS16)
次に、処理室201内の残留ガスを除去する。具体的には、第1層が形成された後、バルブ243aを閉じ、原料ガスの供給を停止する。このとき、APCバルブ244は開いたままとして、真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する未反応もしくは第1層の形成に寄与した後の原料ガスや副生成物を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243c、243dは開いたままとして、不活性ガスの処理室201内への供給を維持する。不活性ガスはパージガスとして作用する。
【0062】
(第1改質剤供給、ステップS17)
次に、処理室201内のウエハ200に対して第1改質剤を供給する。
具体的には、上述したステップS13と同様に、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へ第1改質剤を流す。第1改質剤は、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき同時にバルブ243dを開いたままとして、ガス供給管232d内へ不活性ガスを流す。不活性ガスは、MFC241dにより流量調整され、第1改質剤と一緒に処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0063】
また、ノズル249a内への第1改質剤の侵入を防止するため、バルブ243cを開いたままとして、ガス供給管232c内に不活性ガスを流す。不活性ガスは、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0064】
本ステップにて第1改質剤を供給する際における処理条件としては、
処理圧力 :1~4000Pa、好ましくは10~1000Pa
第1改質剤供給流量:0.1~20slm、好ましくは1~10slm
第1改質剤供給時間:1~120秒、好ましくは10~60秒
不活性ガス供給流量:0~10slm
が例示される。他の処理条件は、原料ガス供給ステップにて原料ガスを供給する際における処理条件と同様とすることができる。
【0065】
第1改質剤としてはN含有ガスを用いることができる。N含有ガスとしては、例えば、窒素(N2)ガスや、アンモニア(NH3)ガス、ジアゼン(N2H2)ガス、ヒドラジン(N2H4)ガス、N3H5ガス等の窒化水素系ガス、等を用いることができる。N含有ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0066】
なお、後述するように、本ステップにおいては、第1改質剤として、Nを含み、1分子中にN同士の結合であるN-N結合を含んでいない、窒化水素系化合物を含むガスを用いることが好ましい。Nを含み、1分子中にN同士の結合であるN-N結合を含んでいない窒化水素系化合物を含むガスとしては、例えばNH3ガス等を用いることができる。
【0067】
また、上述したプリフローガス供給ステップS13において用いられる第1改質剤は、本ステップにおいて用いられる第1改質剤とは異なるものが用いられても良い。例えば、プリフローガス供給ステップでは、Nを含み、1分子中にN同士の結合であるN-N結合を含む窒化水素系化合物を含むガスを用い、本ステップでは、Nを含み、1分子中にN同士の結合であるN-N結合を含んでいない、窒化水素系化合物を含むガスを用いるようにしてもよい。例えば、プリフローガス供給ステップでは、プリフローガスとして後述する第2改質剤を供給してもよい。
【0068】
ウエハ200に対してNを含む第1改質剤を供給することにより、ウエハ200上に形成された第1層の少なくとも一部が窒化(改質)される。第1層が改質されることで、例えばSi-C結合、Si-N結合、C-N結合の他、第1層に残留するHやCl等の不純物を含む第2層が形成される。第2層中のHは、C-H結合やSi-H結合、N-H結合等の結合を構成する。すなわち、第1改質剤を用いることにより、所定元素、C及びHを含む第1層は、所定元素、C、H及びNを含む第2層に改質され、例えばシリコン炭窒化層(SiCN層)が形成されることとなる。
【0069】
ここで、第1改質剤の供給により、第1層中のHやClの一部は脱離するものの、所望の濃度を超えるHやClが第2層中に残留してしまう。この所望の濃度を超えるHやCl等の不純物が膜中に残留することにより、膜密度が低下し、アッシング耐性が低下することがある。
【0070】
また、本ステップにおいて、詳細には後述する第2改質剤のような反応性の高い窒化水素系化合物又はその誘導体を含むガスを用いた場合、第1層中のN濃度が所望の濃度になるまで窒化反応が進む間に、第1層中のCが過剰に脱離してしまうことがある。すなわち、第2層中におけるC濃度を所望の濃度に維持できない場合がある。よって、本ステップにおける第1改質剤として反応性の低い窒化水素系化合物を含むガスを用いることが好適である。反応性の低い窒化水素系化合物を含むガスとしては、上述のようにNを含み、1分子中にN同士の結合であるN-N結合を含んでいない、窒化水素系化合物を含むガスを用いることができる。
【0071】
また、第1改質剤は、ノンプラズマで熱により活性化させて供給した方が、上述の反応をソフトに進行させることができ、第2層の形成が容易となる。第2層を形成する際、第1層に含まれていたCl等の不純物は、第1改質剤による第1層の改質反応の過程において、少なくともClを含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。すなわち、第1層中のCl等の不純物は、第1層中から引き抜かれたり、脱離したりすることで、第1層から分離する。これにより、第2層は、第1層に比べてCl等の不純物が少ない層となる。
【0072】
(残留ガス除去、ステップS18)
次に、処理室201内の残留ガスを除去する。具体的には、第2層が形成された後、バルブ243bを閉じ、第1改質剤の供給を停止する。このとき、APCバルブ244は開いたままとして、真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する未反応もしくは第2層の形成に寄与した後の第1改質剤や副生成物を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243c,243dは開いたままとして、不活性ガスの処理室201内への供給を維持する。不活性ガスはパージガスとして作用する。
【0073】
(第1の所定回数実施、ステップS19)
上述したステップS15~S18を非同時に行うサイクルを第1の所定回数(n回、nは1以上の整数)行う。これにより、ウエハ200上に、所定元素、N、C、およびCに結合したH(すなわちC-H結合)を含む第1膜を形成することができる。上述のサイクルは、第1膜が所望の厚さとなるまで複数回実行されるのが好ましい。第1膜として、例えばSi、N、C、およびC-H結合を含むシリコン炭窒化膜(SiCN膜)を形成することができる。
【0074】
このとき、第1膜の厚さを、例えば10~200Å、好ましくは、10~100Åとする。第1膜の厚さを、10Å未満とすると、所望の特性を有する膜を得られないことがある。第1膜の厚さを10Å以上とすることにより、所望の特性を有する膜を得ることが可能となる。また、第1膜の厚さが200Åを超えると、後述する改質工程による改質効果が第1膜の厚さ方向の全体に亘って充分に及ばないことがある。第1膜の厚さを200Å以下とすることにより第1膜の厚さ方向の全体に亘って、後述する改質工程による改質効果を及ぼすことができる。第1膜の厚さを100Å以下とすることで、後述する改質工程による改質効果を第1膜の厚さ方向の全体に亘ってより確実に及ぼすことができる。
【0075】
ここで、第1膜中には、Si-C結合、Si-N結合、C-N結合の他、第1層から残留するHやCl等の不純物が含まれる。第1膜中のHは、C-H結合やSi-H結合、N-H結合等の結合を構成する。このように、C-H結合、Si-H結合、N-H結合が膜中に残留すると、アッシング耐性が悪化する。しかし、このアッシング耐性を向上させるために、第1膜に対してプラズマ処理を行ってHやCl等の不純物を除去しようとすると、HやCl等の不純物だけでなく、Cが膜中から抜けてしまう場合がある。そこで、本態様においては、Cが膜中から抜けてしまうことを抑制しつつ、HやCl等の不純物を低減させるために、上述した成膜工程を行った後に、次の改質工程を行う。
【0076】
本態様では、上述した成膜工程(ステップS12~ステップS19)を行うことで第1膜を形成した後、ウエハ200を酸素含有雰囲気へ暴露することなく、次の改質工程(ステップS20~ステップS22)を行う。第1膜が形成された後に、ウエハ200を酸素含有雰囲気へ暴露した場合、第1膜の表面に酸化層が形成されてしまう場合がある。第1膜の表面に酸化層が形成されると、後述するステップS21における、第1膜の深さ方向における改質効果であってH等の低減効果が阻害され、改質効果を充分に得られない場合がある。すなわち、第1膜形成工程を行った後に、酸素含有雰囲気へ暴露することなく、次の第2膜形成工程を行うことにより、ステップS21における改質効果を向上させることができる。すなわち、第1膜の表面に酸化層が形成されていない状態で、次の第2膜形成工程を行う。
【0077】
第2膜形成工程は、第1膜形成工程におけるステップS17の第1改質剤供給の後、ステップS18の残留ガス除去を行ってウエハ200が存在する空間がパージ(不活性ガスパージともいう)されてから行う。すなわち、成膜工程後且つ改質工程を行う前に、ウエハ200が存在する空間をパージする。これにより、改質工程を行う前に、Cl等の不純物をある程度除去することができる。
【0078】
[第2膜形成工程(改質工程ともいう)]
(圧力調整および温度調整、ステップS20)
処理室201内の圧力が所望の圧力となるように真空ポンプ246によって真空排気される。また、処理室201内のウエハ200が、所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。
【0079】
(第2改質剤供給、ステップS21)
次に、第1膜が形成されたウエハ200に対して第2改質剤を供給する。具体的には、バルブ243eを開き、ガス供給管232b内へ第2改質剤を流す。第2改質剤は、MFC241eにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231より排気される。このとき同時にバルブ243dを開いたままとして、ガス供給管232d内へ不活性ガスを流す。不活性ガスは、MFC241dにより流量調整され、第2改質剤と一緒に処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0080】
また、ノズル249a内への第2改質剤の侵入を防止するため、バルブ243cを開いたままとして、ガス供給管232c内に不活性ガスを流す。不活性ガスは、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。
【0081】
本ステップにて第2改質剤を供給する際における処理条件としては、
処理温度:室温~700℃、好ましくは150~700℃、より好ましくは150~400℃
処理圧力:1~2666Pa、好ましくは67~1333Pa
第2改質剤供給流量:1~2000sccm、好ましくは10~1000sccm
第2改質剤供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
不活性ガス供給流量:0~10000sccm
が例示される。ただし、処理速度向上の観点からは、本ステップにおける処理温度を、第1膜形成工程における処理温度と実質的に同じ温度とすることが好ましい。
【0082】
ウエハ200の温度が室温未満となると、第2改質剤がほとんど活性化されず、第1膜を改質する際に、充分に改質効果を得られないことがある。ウエハ200の温度を室温以上とすることで、第2改質剤を活性化させ、第1膜の厚さ方向の全体に亘って改質作用を及ぼすことができる。また、ウエハ200の温度を150℃以上とすることで、より第2改質剤の活性化を促進して、第1膜の厚さ方向の全体に亘ってより確実に改質作用を及ぼすことができる。
【0083】
ウエハ200の温度が700℃を超えると、第2改質剤の熱分解が過剰に進み、第1膜への改質効果が得られなくなる場合がある。例えば、第2改質剤としてN2H4を用いた場合には、これが過剰に熱分解されることにより、反応性の高い中間体であるNH2ではなく、第2改質剤から反応性の低いNH3が生成されてしまい、第1膜への改質効果が得られなくなる場合がある。また、ウエハ200の温度が400℃を超えると、第2改質剤の熱分解が部分的に進み、同様の理由により第1膜への改質効果が低下する場合がある。ウエハの温度を700℃以下とすることで、改質効果を得ることができる。また、ウエハ200の温度を400℃以下とすることで、改質効果をより確実に得ることができる。
【0084】
本工程におけるウエハ200の温度を、室温~700℃とすることにより、第2改質剤もしくはその中間体を、第1膜中のCに結合したH、Siに結合したH、Siに結合したCl等と反応させ、Cの脱離を抑制しながら、H、Cl等を脱離させるように第2改質剤の反応性を制御することが容易となる。
【0085】
なお、本工程におけるウエハ200の温度を、上述した第1膜形成工程におけるウエハ200の温度よりも低く設定することにより、第2改質剤の熱分解および活性化の度合いを調整し、第2改質剤および/またはその中間体の反応性を制御することが容易となる。従って、第1膜からCの脱離を抑制しながら、Cと結合したHを脱離させるように第2改質剤の反応性を制御することがより容易となる。また、本工程をより低温下で行うことにより、本工程中に生じるウエハ200への熱履歴の影響を低減することもできる。一方、処理温度を、第1膜形成工程における処理温度と実質的に同じ温度とすることにより、ウエハ200に対する処理速度を向上させることができる。
【0086】
このとき第2改質剤の分圧は、上述したステップS17における第1改質剤の分圧よりも小さくする。また、このとき第2改質剤の流量を、上述したステップS17における第1改質剤の流量よりも少なくするようにしてもよい。これにより、第1改質剤よりも反応性の高い第2改質剤の反応速度を制御することが容易となる。
【0087】
ここで、プラズマ励起された第2改質剤を用いて第1膜を改質する場合、プラズマ励起により生成されるラジカル等が過剰に高い反応性を有することにより、それらのラジカル等によって膜中のCに結合したHだけでなく、所定元素やNと結合したCも脱離されてしまう。本開示では、第1改質剤よりも反応性の高い第2改質剤をノンプラズマ状態でウエハ200に対して供給する。これにより、Cに結合したH等を、Cの脱離を抑制しながら選択的に脱離させることができる。
【0088】
第2改質剤としては、1分子中にNとHの結合(すなわちN-H結合)及びN同士の結合(すなわちN-N結合)を含む窒化水素系化合物又はその誘導体を含むガスを用いることができる。
【0089】
第2改質剤としては、例えば、1分子中にN-H結合及びN-N結合を含む窒化水素系化合物としてのジアゼン(N2H2)、ヒドラジン(N2H4)、トリアゼン(N3H3)、トリアザン(N3H5)等のうち少なくとも一つの化合物を含むガス等を用いることができる。また、第2改質剤としては、例えば、1分子中にN-H結合及びN-N結合を含む窒化水素系化合物の誘導体としてのモノメチルヒドラジン(CH3(NH)NH2)、1,1-ジメチルヒドラジン(非対称ジメチルヒドラジン)((CH3)2-N-NH2)、1,2-ジメチルヒドラジン(テトラメチルヒドラジン)(N2(CH3)4)等の誘導体を含むガス等を用いることができる。第2改質剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0090】
(残留ガス除去、ステップS22)
次に、処理室201内の残留ガスを除去する。具体的には、第1膜が改質されて第2膜が形成された後、バルブ243eを閉じ、第2改質剤の供給を停止する。このとき、APCバルブ244は開いたままとして、真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する未反応もしくは第1膜の改質に寄与した後の第2改質剤や副生成物を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243c,243dは開いたままとして、不活性ガスの処理室201内への供給を維持する。不活性ガスはパージガスとして作用する。
【0091】
ウエハ200に対してノンプラズマで第2改質剤を供給することで、ウエハ200上に形成された第1膜の少なくとも一部が窒化(改質)されて緻密化される。第1膜が改質されることで、ウエハ200上に、例えばSi、CおよびNを含む第2膜、すなわち、SiCN膜が形成されることとなる。第2改質剤は、ノンプラズマで熱により活性化させて供給した方が、上述の反応をソフトに進行させることができ、第2膜の形成が容易となる。第2膜を形成する際、第1膜に含まれていたH、Cl等の不純物は、本工程において、少なくともH、Clを含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。すなわち、第1膜中のC-H結合、Si-H結合、N-H結合等に対して、上述した第1改質剤に比べて反応性の高い第2改質剤を用いて、第1膜を改質する。これにより、第2改質剤の中間体を、第1膜中のC-H結合、Si-H結合、N-H結合等のHやClと反応させて、第1膜からHやClを脱離させる。すなわち、第1膜中のC濃度を所望の範囲に維持したまま、HやCl等の不純物を脱離させる。換言すると、ウエハ200上の第1膜を、第1膜に比べてCに結合したHの含有比率が低減された、所定元素、C、およびNを含む第2膜へと改質することができる。
【0092】
このように膜中のHやCl等の不純物を低減させることにより、膜のアッシング耐性を向上させることができる。また、膜中のC濃度を所望の範囲に維持することにより、膜のエッチング耐性を向上させることができる。すなわち、上述のように第2改質剤を用いて改質を行うことにより、第1膜を、アッシング耐性とエッチング耐性が両立した第2膜に改質することができる。
【0093】
(第2の所定回数実施、ステップS23)
本ステップにおいて、ステップS15~S22を非同時に行うサイクルが第2の所定回数(m回、mは1以上の整数)未満の場合には、上述したステップS12と同様の手順により、処理室201内の圧力と、処理室201内のウエハ200が、上述した第1膜形成工程における所望の圧力と所望の温度となるように調整されて(ステップS24)、上述したステップS15の処理へ戻る。ステップS15~S22を含むサイクルを第2の所定回数行うことにより、ウエハ200上に、所望の膜厚を有する所定元素、C、およびNを含む膜を形成することができる。すなわち、本態様では、成膜工程(プリフローガス供給ステップを除く)と改質工程を含むサイクルを第2の所定回数実行することにより、ウエハ200上に、所望の膜厚を有する所定元素、C、およびNを含む膜を形成する。なお、プリフローガス供給ステップは、本態様のように本サイクルの前に1回だけ実行するだけでなく、本サイクルごとに実行するようにしてもよい。
【0094】
上述したステップS15~S18を非同時に行うサイクルを複数回数行うごとにステップS20~S22を1回行うことにより、ステップS20~S22を行う回数を少なくして、スループットを向上させることができる。
【0095】
ここで、本改質工程(第2膜形成工程)では、第1膜に含まれるCの含有比率の低減量よりも、第1膜に含まれるHの含有比率の低減量の方が大きくなるように第1膜が第2膜に改質される。すなわち、本工程では、第1膜のCの含有比率の低減量を抑えつつ、Hの含有比率が低減されるように第2膜に改質される。
【0096】
図5(A)は、ウエハ200上に形成された第1膜に対して、NH
3ガスが供給された場合のウエハ200表面の状態を示す図であり、
図5(B)は、ウエハ200上に形成された第1膜に対して、N
2H
4ガスが供給された場合のウエハ200表面の状態を示す図である。
【0097】
図5(A)に示されているように、NH
3は、活性化エネルギーが比較的大きいN-H結合のみによって構成されていることから反応性の高い中間体に熱分解されにくい。また、NH
3は、第1膜中に残留するC-H結合、Si-H結合、およびSi-Cl結合それぞれとの間で反応を生じさせるために必要な活性化エネルギーが大きいため、これらの結合を切断させるような反応を生じさせにくい。すなわち、NH
3は、第1膜中におけるこれらの結合を除去する作用が弱い。例えば、NH
3を、第1膜に含まれるSi-H結合と反応させてHを脱離させるために要する活性化エネルギー(Ea(H))は1.95であって、Si-Cl結合と反応させてClを脱離させるために要する活性化エネルギー(Ea(Cl))は1.33である。
【0098】
一方、
図5(B)に示されているように、N
2H
4は、活性化エネルギーが比較的小さいN-N結合を含むことから、反応性の高い中間体NH
2に熱分解され易い。また、中間体NH
2は、未結合手を有するNを含むことから、第1膜中に残留するC-H結合、Si-H結合、およびSi-Cl結合それぞれとの間で反応を生じさせるために必要な活性化エネルギーが小さく、これらの結合を切断させるような反応を生じさせやすい。すなわち、N
2H
4(その中間体NH
2)は、第1膜中におけるこれらの結合を除去する作用が強い。開示者が行った分子シミュレーションの計算結果の一例によれば、NH
2を、第1膜に含まれるSi-H結合と反応させてHを脱離させるために要する活性化エネルギー(Ea(H))は0.01であり、Si-Cl結合と反応させてClを脱離させるために要する活性化エネルギー(Ea(Cl))は0.16である。
【0099】
すなわち、第2改質剤としての例えばN2H4が分解して生成される中間体であるNH2の、第1膜に含まれるCに結合したHを反応させて脱離させる活性化エネルギーは、第1改質剤としての例えばNH3の、第1膜に含まれるCに結合したHを脱離させる活性化エネルギーよりも小さい。すなわち、NH3よりも反応性が高いN2H4の中間体であるNH2を、第1膜中のCに結合したH等と反応させることで、第1膜中からHを脱離させることができる。
【0100】
また、NH2の、第1膜に含まれるSiに結合したClを反応させて脱離させる活性化エネルギーは、NH3の、第1膜に含まれるSiに結合したClを脱離させる活性化エネルギーよりも小さい。すなわち、NH3よりも反応性が高いN2H4の中間体であるNH2を、第1膜中のSiに結合したCl等と反応させることで、第1膜中からClを脱離させることができる。
【0101】
すなわち、本改質工程では、第2改質剤を用いて第1膜を改質することにより、第1膜に含まれる所定元素に結合したH、Cに結合したH、Nに結合したH等の含有比率を低減させるように、第1膜を第2膜へと改質する。すなわち、第1膜中の、例えばSiに結合したH、Cに結合したH、Nに結合したH等の含有比率(濃度)が低減される。具体的には、第2改質剤の供給により、第2改質剤から生成される上述の中間体を、第1膜に含まれる例えばSi-H結合、C-H結合、N-H結合等と反応させることで、Hを第1膜から脱離させる。膜中のHの含有比率を低減することにより、アッシング耐性等の膜特性を向上させることができる。
【0102】
また、本工程では、第1膜に含まれるハロゲン元素である例えばClを脱離させるように、第1膜を第2膜へと改質する。すなわち、第1膜中に残留した、Cに結合したCl、Siに結合したCl、Nに結合したCl等の含有比率が低減される。具体的には、第2改質剤を供給することにより、第2改質剤から生成される上述の中間体を、第1膜に含まれるC-Cl結合、Si-Cl結合、N-Cl結合等と反応させることで、Clを第1膜から脱離させる。膜中のCl等のハロゲン元素の含有比率を低減することにより、アッシング耐性等の膜特性を向上させることができる。
【0103】
また、改質工程前の第1膜に含まれるH濃度は、例えば20~30atomic%であり、改質工程後の第2膜に含まれるH濃度は、例えば0~10atomic%である。第2膜に含まれるH濃度が10atomic%を超える場合、実用的な範囲のアッシング耐性を得られないことがある。第2膜に含まれるH濃度を10atomic%以下とすることで、酸素(O2)プラズマ等を用いたプラズマアッシングにおける第2膜のアッシング耐性を実用的な範囲まで向上させることができる。
【0104】
ここで、改質工程後の第2膜中に含まれるC濃度は、エッチング耐性が維持される所望の範囲である、例えば5~30atomic%、好ましくは、10~30atomic%に維持する。
【0105】
第2膜に含まれるC濃度が5atomic%未満である場合、エッチング耐性が大幅に低下することがある。第2膜に含まれるC濃度を5atomic%以上とすることで、第2膜に対して、例えば希釈したフッ化水素(HF)水溶液等を用いてウェットエッジングを行う場合にエッチング耐性を向上させることができる。また、第2膜に含まれるC濃度を10atomic%以上とすることで、第2膜のエッチング耐性を実用的な範囲まで向上させることができる。
【0106】
また、第2膜に含まれるC濃度が30atomic%を超える場合、実用的な範囲のエッチング耐性が得られないことがある。第2膜に含まれるC濃度を30atomic%以下とすることで、第2膜のエッチング耐性を実用的な範囲まで向上させることができる。
【0107】
すなわち、本態様によれば、膜中のC濃度とH濃度の両方を、それぞれ上述した所望の範囲となるように改質することができ、アッシング耐性とエッチング耐性を両立させた膜を形成することができる。
【0108】
(パージおよび大気圧復帰、ステップS25)
バルブ243c,243dを開き、ガス供給管232c,232dのそれぞれから不活性ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。不活性ガスはパージガスとして作用する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや副生成物が処理室201内から除去される(パージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0109】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ、ステップS26)
ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、反応管203の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態で、反応管203の下端から反応管203の外部に搬出される(ボートアンロード)。処理済のウエハ200は、ボート217より取出される(ウエハディスチャージ)。
【0110】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0111】
(a)膜に含まれるHやCl等の不純物が低減され、膜密度が高く、アッシング耐性に優れた膜を形成することができる。
(b)膜に含まれるC濃度を所望の範囲に維持したまま、HやCl等の不純物が低減され、エッチング耐性に優れた膜を形成することができる。
(c)すなわち、ウエハ200上に形成する膜を、アッシング耐性とエッチング耐性を両立させた膜に改質することができる。
(d)上述の効果は、SiCN膜以外のCN含有膜を形成および改質する場合にも、同様に得ることができる。
【0112】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0113】
(変形例)
次に、上述した基板処理工程の変形例について、
図6を用いて説明する。
【0114】
本変形例では、上述した成膜工程内に改質工程を含める。すなわち、上述したステップS11~S18とそれぞれ同様の処理を行うステップS31~S38の後に、上述した改質工程におけるステップS21,S22とそれぞれ同様の処理を行うステップS39,S40を行う。そして、ステップS41として、ステップS35~S40を行うサイクルを第3の所定回数(p回、pは1以上の整数)行う。
【0115】
第2のサイクルを所定回数行うことにより、上述した第2膜と同様に、C濃度を所望の範囲に維持したまま、H、Cl等の不純物が低減された、所望の厚さの第3膜を形成することができる。すなわち、本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、さらに、ウエハ200表面に形成された第1膜を成膜しつつ、H、Cl等を除去する改質処理を行うことで、原料の吸着サイトとなるウエハ200表面上のN-H終端の密度を増加させ、第1膜の形成速度である成膜レートを向上させることができる。また、処理時間が短縮され、スループットを向上させることができる。
【0116】
(他の態様)
例えば、上述の態様では、原料ガスに含まれる所定元素がSiである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、所定元素は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ゲルマニウム(Ge)等の金属元素であってもよい。これらの場合には、チタニウム炭窒化膜(TiCN膜)、ジルコニウム炭窒化膜(ZrCN膜)、ハフニウム炭窒化膜(HfCN膜)、タンタル炭窒化膜(TaCN膜)、ニオブ炭窒化膜(NbCN膜)、アルミニウム炭窒化膜(AlCN膜)、モリブデン炭窒化膜(MoCN膜)、タングステン炭窒化膜(WCN膜)、ゲルマニウム炭窒化膜(GeCN膜)等の金属系炭窒化膜が形成される。これらの場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0117】
また、上記態様では、成膜工程において、表面にSi膜が形成されたウエハ200上に所定元素、N、C、及びCに結合したHを含む第1膜を形成する場合を用いて説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、表面にシリコン酸化膜(SiO膜)等の酸化膜や、シリコン窒化膜(SiN膜)等の窒化膜が形成されたウエハ200や、ウエハ200そのものの表面に第1膜を形成する場合にも、好適に用いることができる。
【0118】
また、上記態様では、第1膜形成工程と改質工程とを同一の処理室201内で連続的に(in-situで)実行する場合を用いて説明した。本開示はこれに限定されるものではなく、第1膜形成工程と改質工程とを異なる処理室(処理容器)内で(ex-situで)別々に実行するようにしても良い。この場合においても、上記態様と同様の効果が得られる。なお、これらの工程をin-situで行う場合は、工程間に行われる基板の処理室外への搬出、または処理室外からの搬入によって生じ得る基板の汚染や、基板の表面状態の変化などを抑制することができる。また、これらの処理をin-situで行う場合は、工程間の遷移時間を短縮させることができる。一方で、これらの工程をex-situで行う場合は、異なる処理室内にて各工程を並行して行うことができ、その分、生産性を高めることができる。
【0119】
なお、基板処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、基板処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することが可能となる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、基板処理を迅速に開始できるようになる。
【0120】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更してもよい。
【0121】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を処理する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を処理する場合にも、好適に適用できる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を処理する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を処理する場合にも、好適に適用できる。
【0122】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様と同様な処理手順、処理条件にて成膜処理を行うことができ、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0123】
また、上述の態様や変形例は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様や変形例の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【符号の説明】
【0124】
200 ウエハ(基板)