(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158595
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20241031BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20241031BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20241031BHJP
【FI】
B21D22/00
G06F30/20
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073924
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】卜部 正樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆太郎
【テーマコード(参考)】
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137AA21
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CB01
4E137EA01
4E137FA31
4E137GB03
5B146AA05
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】金属板を曲げ成形した板材プレス曲げ成形品のスプリングバック直後からの時間経過に伴う形状変化を予測する板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法は、材料構成式に基づいて、板材プレス曲げ成形品21の曲げ曲面部23におけるひずみ及び応力と、曲げ曲面部23の曲げモーメント及び曲率と、を、金属板11を板材プレス曲げ成形品21に曲げ成形する過程(S20)と、曲げ成形した板材プレス曲げ成形品21を金型1内で保持する過程(S30)と、金型1から離型して除荷した板材プレス曲げ成形品21がスプリングバックする過程(S40)と、除荷してスプリングバックした後の板材プレス曲げ成形品21を放置する過程(S60)と、の各過程について計算するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を曲げ成形した板材プレス曲げ成形品の離型後に瞬間的に発生するスプリングバック直後から時間経過に伴って前記板材プレス曲げ成形品の曲げ曲面部に生じる形状変化を予測する板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法であって、
金型を用いて前記金属板を前記板材プレス曲げ成形品に曲げ成形する過程と、曲げ成形した前記板材プレス曲げ成形品を前記金型内の成形下死点位置で保持する過程と、保持した前記板材プレス曲げ成形品を前記金型から離型して除荷し該板材プレス曲げ成形品がスプリングバックする過程と、除荷してスプリングバックした後の前記板材プレス曲げ成形品を放置する過程との各過程について、前記曲げ曲面部の板断面の板厚方向に板曲げ中心線上を含む位置に3点以上の評価点が設定された曲げ曲面部簡易モデルを用い、前記各過程について離散化された時間刻みごとに、以下の式(1)~式(6)の材料構成式に基づいて、前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部の曲げモーメント及び曲率とを求めるものであり、
前記材料構成式の材料定数と、前記各過程の時間刻みと、前記曲げ成形する過程における前記曲げ曲面部の加工速度に対応する曲率速度と、前記曲げ曲面部の目標曲率と、を含む計算諸元を設定する計算諸元設定ステップと、
前記曲げ成形する過程について、前記曲げ曲面部簡易モデルが前記曲率速度で曲げ成形されて前記目標曲率に至るまで、前記曲げ成形する過程の時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部簡易モデルの曲率を計算する曲げ成形過程計算ステップと、
前記金型内で保持する過程について、所定の保持時間が経過するまで、前記金型内で保持する過程の時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力を計算する金型内保持過程計算ステップと、
前記板材プレス曲げ成形品を離型して除荷する過程について、前記曲げ成形過程計算ステップとは逆方向に前記曲げ曲面部簡易モデルの曲率速度を設定し、前記曲げ曲面部簡易モデルの曲げモーメントが0になるまで、前記除荷する過程の前記時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部の曲げモーメント及び曲率とを計算する除荷過程計算ステップと、
除荷してスプリングバックした後の前記板材プレス曲げ成形品を放置する過程について、前記放置する過程の時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部の曲げモーメント及び曲率とを計算する放置過程計算ステップと、を含み、
該放置過程計算ステップは、前記各時間刻みにおいて、仮の曲率速度を設定して前記曲げ曲面部簡易モデルの前記評価点におけるひずみ及び応力を計算し、該計算した応力に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの曲げモーメントを計算し、該計算した曲げモーメントが十分に0に近い値となるまで、該曲げモーメントが0に近づくように前記曲げ曲面部簡易モデルの仮の前記曲率速度の修正と、前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げモーメントの計算と、を繰り返し実行し、前記曲げモーメントが十分に0に近い値となったと判断された場合、前記曲げ曲面部簡易モデルの曲率を更新して次の時間刻みに進む、ことを特徴とする板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法。
【数1】
ただし、式(1)~式(6)中に示す各記号は以下のとおりである。
ε
x、ε
y、ε
z:x方向(長手方向)、y方向(板厚方向)、z方向(板幅方向)の真ひずみ
κ:曲げ曲面部の無次元曲率
y:板厚方向座標
h:板厚
dε
p
ij/dt:塑性ひずみ速度
s
ij:偏差応力
α
’
ij:偏差背応力
X:超過応力
Y、D、p:材料定数
<>:マコーレーの括弧
dε
eq/dt:相当塑性ひずみ速度
dσ
x/dt、dσ
z/dt:x方向、z方向の応力速度
E、ν:材料定数
dε
x/dt、dε
z/dt:x方向、z方向のひずみ速度
dε
p
x/dt、dε
p
z/dt:x方向、z方向の塑性ひずみ速度
dα
’
ij/dt:偏差背応力速度
C、a:材料定数
添字
i、j:x方向、y方向、z方向
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法及び形状変化予測プログラムに関し、特に、金型から離型した瞬間的に発生するスプリングバック直後から時間経過に伴って前記板材プレス曲げ成形品の曲げ曲面部に生じる形状変化を予測する板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形は金属部品を低コストかつ短時間に製造することができる製造方法であり、多くの自動車部品の製造に用いられている。近年では、自動車の衝突安全性と車体の軽量化を両立するため、より高強度な金属板が自動車部品に利用されるようになっている。
【0003】
高強度な金属板をプレス成形する場合の主な課題の一つにスプリングバックによる寸法精度の低下がある。プレス成形により金属板を変形させる際にプレス成形品に発生した残留応力が駆動力となり、金型から離型したプレス成形品がプレス成形前の金属板の形状にバネのように瞬間的に戻ろうとする現象をスプリングバックと呼ぶ。
【0004】
プレス成形時に発生する残留応力は高強度な金属板(例えば、高張力鋼板)ほど大きくなるため、スプリングバックによる形状変化も大きくなる。したがって高強度な金属板ほどスプリングバック後の形状を規定の寸法内におさめることが難しくなる。そこでスプリングバックによるプレス成形品の形状変化を精度良く予測する技術が重要となる。
【0005】
スプリングバックによる形状変化の予測には、有限要素法によるプレス成形シミュレーションの利用が一般的である。当該プレス成形シミュレーションにおける手順としては、まず、金属板を成形下死点までプレス成形する過程のプレス成形解析を行い、プレス成形下死点での残留応力を予測する第1段階(例えば特許文献1)と、金型から離型した(取り出した)プレス成形品がスプリングバックにより形状が変化する過程のスプリングバック解析を行い、離型したプレス成形品における力のモーメントと残留応力との釣り合いがとれる形状を予測する第2段階(例えば特許文献2)に分けられる。
【0006】
これまでに、前述した第1段階のプレス成形解析と第2段階のスプリングバック解析とを統合したプレス成形シミュレーションを行うことにより、金型から離型してスプリングバックしたプレス成形品の形状が予測されてきた。
しかしながら、プレス成形シミュレーションにより予測されたプレス成形品の形状と実際にプレス成形されたプレス成形品の形状とを比較した際、プレス成形シミュレーションによる形状予測精度が低くなるプレス成形品がある。
【0007】
一例として
図10に示すように、パンチ3とダイス5と備えた金型1を用いて金属板11をプレス成形(曲げ成形)した板材プレス曲げ成形品21は、金型1から離型してスプリングバックした直後と数日経過した後とでは、板材プレス曲げ成形品21の曲げ曲面部23が変形して板材プレス曲げ成形品21の形状が異なる。
【0008】
このような板材プレス曲げ成形品21の時間単位の経過に伴う経時変化は、クリープ現象のように外部から高い荷重を受け続ける構造部材が徐々に変形する現象(例えば、特許文献3)と類似しているように思われるが、外部から荷重を受けていない板材プレス曲げプレス成形品に起こる形状変化であり、クリープ現象による形状変化を取り扱う解析手法を適用することはできない。
【0009】
これに対し、金型から離型した瞬間にスプリングバックしたプレス成形品における、その後の時間単位の経過による形状変化を予測するプレス成形品の形状変化予測方法として、プレス成形品のスプリングバック解析により、スプリングバックした直後のプレス成形品の形状及び残留応力を取得し、その残留応力よりも緩和し減少させた残留応力の値を設定したプレス成形品について、力のモーメントが釣り合う形状を求める形状解析を行う方法が開示されている(例えば特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許5795151号公報
【特許文献2】特許5866892号公報
【特許文献3】特開2013-113144号公報
【特許文献4】特許6888703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献4に開示された金型から離型した瞬間にスプリングバックしたプレス成形品における、その後の時間単位の経過による形状変化を予測するプレス成形品の形状変化予測方法では、スプリングバックした直後のプレス成形品の残留応力よりも所定の割合を緩和し減少させた残留応力の値を設定する必要があり、実際のプレス成形品のスプリングバックした直後の形状変化と合うように、残留応力の緩和減少させる割合を調整する必要があった。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、金属板を曲げ成形した板材プレス曲げ成形品について、金型から離型した瞬間的に発生するスプリングバック直後から時間経過に伴って前記板材プレス曲げ成形品の曲げ曲面部に生じる形状変化を超過応力理論と移動硬化則に基づいて予測する板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前述した板材プレス曲げ成形品のスプリングバック直後からの時間経過に伴う形状変化が起こる原因について種々の調査を行ったところ、スプリングバック後の板材プレス曲げ成形品においては、内部の残留応力が徐々にかつ不均一に変化(応力緩和)することで板材プレス曲げ成形品の形状が変化していることをつきとめた。
【0014】
そこで、このような板材プレス曲げ成形品の時間単位の形状変化を予測する手法を鋭意検討した。その結果として、金型により金属板を板材プレス曲げ成形品にプレス成形する過程と、金型内で板材プレス曲げ成形品を保持する過程と、板材プレス曲げ成形品を金型から離型して当該板材プレス曲げ成形品のスプリングバックが発生する過程と、スプリングバックした板材プレス曲げ成形品を放置する過程、の各過程について、超過応力理論と移動硬化則を考慮した材料構成式に基づいて、板材プレス曲げ成形品のひずみと応力を初等解法で計算することにより、スプリングバックした後の板材プレス曲げ成形品の時間経過に伴う形状変化を精度良く予測することが可能であることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0015】
本発明に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法は、金属板を曲げ成形した板材プレス曲げ成形品の離型後に瞬間的に発生するスプリングバック直後から時間経過に伴って前記板材プレス曲げ成形品の曲げ曲面部に生じる形状変化を予測する板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法であって、
金型を用いて前記金属板を前記板材プレス曲げ成形品に曲げ成形する過程と、曲げ成形した前記板材プレス曲げ成形品を前記金型内の成形下死点位置で保持する過程と、保持した前記板材プレス曲げ成形品を前記金型から離型して除荷し該板材プレス曲げ成形品がスプリングバックする過程と、除荷してスプリングバックした後の前記板材プレス曲げ成形品を放置する過程との各過程について、前記曲げ曲面部の板断面の板厚方向に板曲げ中心線上を含む位置に3点以上の評価点が設定された曲げ曲面部簡易モデルを用い、前記各過程について離散化された時間刻みごとに、以下の式(1)~式(6)の材料構成式に基づいて、前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部の曲げモーメント及び曲率とを求めるものであり、
前記材料構成式の材料定数と、前記各過程の時間刻みと、前記曲げ成形する過程における前記曲げ曲面部の加工速度に対応する曲率速度と、前記曲げ曲面部の目標曲率と、を含む計算諸元を設定する計算諸元設定ステップと、
前記曲げ成形する過程について、前記曲げ曲面部簡易モデルが前記曲率速度で曲げ成形されて前記目標曲率に至るまで、前記曲げ成形する過程の時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部簡易モデルの曲率を計算する曲げ成形過程計算ステップと、
前記金型内で保持する過程について、所定の保持時間が経過するまで、前記金型内で保持する過程の時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力を計算する金型内保持過程計算ステップと、
前記板材プレス曲げ成形品を離型して除荷する過程について、前記曲げ成形過程計算ステップとは逆方向に前記曲げ曲面部簡易モデルの曲率速度を設定し、前記曲げ曲面部簡易モデルの曲げモーメントが0になるまで、前記除荷する過程の前記時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部の曲げモーメント及び曲率とを計算する除荷過程計算ステップと、
除荷してスプリングバックした後の前記板材プレス曲げ成形品を放置する過程について、前記放置する過程の時間刻みごとに、前記材料構成式に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げ曲面部の曲げモーメント及び曲率とを計算する放置過程計算ステップと、を含み、
該放置過程計算ステップは、前記各時間刻みにおいて、仮の曲率速度を設定して前記曲げ曲面部簡易モデルの前記評価点におけるひずみ及び応力を計算し、該計算した応力に基づいて前記曲げ曲面部簡易モデルの曲げモーメントを計算し、該計算した曲げモーメントが十分に0に近い値となるまで、該曲げモーメントが0に近づくように前記曲げ曲面部簡易モデルの仮の前記曲率速度の修正と、前記各評価点におけるひずみ及び応力と、前記曲げモーメントの計算と、を繰り返し実行し、前記曲げモーメントが十分に0に近い値となったと判断された場合、前記曲げ曲面部簡易モデルの曲率を更新して次の時間刻みに進む、ことを特徴とするものである。
【数1】
ただし、式(1)~式(6)中に示す各記号は以下のとおりである。
ε
x、ε
y、ε
z:x方向(長手方向)、y方向(板厚方向)、z方向(板幅方向)の真ひずみ
κ:曲げ曲面部の無次元曲率
y:板厚方向座標
h:板厚
dε
p
ij/dt:塑性ひずみ速度
s
ij:偏差応力
α
’
ij:偏差背応力
X:超過応力
Y、D、p:材料定数
<>:マコーレーの括弧
dε
eq/dt:相当塑性ひずみ速度
dσ
x/dt、dσ
z/dt:x方向、z方向の応力速度
E、ν:材料定数
dε
x/dt、dε
z/dt:x方向、z方向のひずみ速度
dε
p
x/dt、dε
p
z/dt:x方向、z方向の塑性ひずみ速度
dα
’
ij/dt:偏差背応力速度
C、a:材料定数
添字
i、j:x方向、y方向、z方向
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属板を曲げ成形した曲げ曲面部を有する板材プレス曲げ成形品(例えば、コの字又はハット型の断面形状を有するプレス成形品)を離型してスプリングバックした後の時間経過に伴う形状変化を高精度に予測することが可能となる。また、予測された形状変化に基づいて、曲げ成形に供する金型の形状を設計することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法で用いる曲げ曲面部簡易モデルを説明する図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法において、材料構成式の材料定数を決定するための材料試験(引張り-保持試験)を説明する図である((a)試験方法、(b)引張り-保持試験により実測したひずみ-応力関係、(c)引張り-保持試験における応力の時間変化)。
【
図4】本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法において、材料構成式の材料定数を決定するための材料試験(引張り-除荷-反転圧縮-保持試験)を説明する図である((a)試験方法、(b)引張り-除荷-反転圧縮-保持試験により実測したひずみ-応力関係、(c)引張り-除荷-反転圧縮-保持試験における応力の時間変化)。
【
図5】本発明で用いる、超過応力理論と移動硬化に基づく材料構成式を説明する模式図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法において、材料構成式に基づいて応力緩和を反映したひずみと応力を計算する応力緩和反映ひずみ・応力算出工程の処理の流れを示すフロー図である。
【
図7】実施例において、金属板の試験片の引張り-保持試験の実験結果と計算結果との比較を示すグラフである((a)ひずみと応力の関係、(b)時間経過に伴う応力緩和)。
【
図8】実施例において、金属板の試験片の引張り-除荷-反転圧縮-保持試験の実験結果と計算結果の比較を示すグラフである((a)ひずみと応力の関係、(b)時間経過に伴う応力の時間変化)。
【
図9】実施例において、L曲げ加工した曲げ曲面部のスプリングバック後の時間経過に伴う曲げ角度の変化の実験結果と計算結果との比較を示すグラフである。
【
図10】本発明における(a)金属板を板材プレス曲げ成形品に曲げ成形する過程、(b)板材プレス曲げ成形品を金型内に保持する過程、(c)板材プレス曲げ成形品を離型して除荷する過程、及び、(d)スプリングバックした板材プレス曲げ成形品を放置する過程、の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法を説明するに先立ち、スプリングバック後の形状変化を予測するための材料構成式と、該材料構成式の離散化計算手法、について、以下に説明する。
【0019】
<材料構成式>
前述した
図10に示したように金属板11を曲げ成形した板材プレス曲げ成形品21の曲げ曲面部23は、平面ひずみ均等曲げに近い変形状態であると考えられる。そこで本発明では、曲げ成形過程における金属板11又は曲げ成形された曲げ曲面部23を
図2に示す曲げ曲面部簡易モデル31のようにモデル化し、曲げ曲面部簡易モデル31を用いて板材プレス曲げ成形品21のスプリングバック後の形状変化を予測する。
【0020】
まず、
図2に示すように、曲げ曲面部簡易モデル31の長手方向をx、板厚方向をy、幅方向をzとする直交座標系を定義する。当該直交座標系の座標原点Oは曲げの内側表面にあり、板曲げ中心線は板厚方向の中心軸に一致するものとする。
このとき、
図2に示す曲げ曲面部簡易モデル31におけるひずみと応力は、平面ひずみ均等曲げ、板厚方向の平面応力場及び板厚不変を仮定した超過応力理論と移動硬化に基づいて、以下に示す式(1)~式(6)の材料構成式で表される。
【0021】
(A)ひずみ
曲げ曲面部簡易モデル31においては板厚の変化を考慮していないことから、曲げ曲面部簡易モデル31のx方向(長手方向)の真ひずみεxは、式(1)で表される。
【0022】
【0023】
ここで、κは曲げ曲面部簡易モデル31の板厚h及び曲げ半径ρの比(h/ρ)で表される無次元曲率、hは金属板11の板厚、ρは曲げ曲面部23の曲げ半径、yは板厚方向座標である。
なお、y方向(板厚方向)のひずみεy及びz方向(板幅方向)のひずみεzは常に0である。
【0024】
(B)ひずみ速度
曲げ曲面部簡易モデル31のx方向(長手方向)のひずみ速度dεx/dtは、後述するように曲げ曲面部23の形状が変化する過程を2つ以上の時間刻みで離散化した場合、式(1)により計算される現在の時間刻みと一つ前の時間刻みにおける真ひずみεxの差から算出する。
なお、y方向(板厚方向)のひずみ速度dεy/dt及びz方向(板幅方向)のひずみ速度dεz/dtは常に0である。
【0025】
(C)塑性ひずみ速度(ひずみ速度の塑性成分)
曲げ曲面部簡易モデル31において、板厚方向の応力σyが0の平面応力状態を仮定すると、塑性ひずみ速度dεp
ij/dtはひずみ増分理論に基づいて式(2)のように記述できる。
【0026】
【0027】
ここで、添え字i、jは、x方向、y方向、z方向のいずれかを表す。
また、Xは超過応力(余応力)、sijは偏差応力、α'
ijは背応力αijの偏差成分(偏差背応力)である。また、<X/D>はマコーレーの括弧であり、X/D≦0の場合は<X/D>=0、X/D>0の場合は<X/D>=X/Dとなる。
さらに、Y、D、pは材料定数であり、Yは降伏曲面(弾性限界曲面)の大きさ、D、Pは超過応力理論の材料定数であって、Dは抗応力、pは応力感度指数である。
【0028】
(D)相当塑性ひずみ速度
超過応力理論では超過応力Xが塑性変形のドライビングフォースになっていると考える。このことを表現したものが式(3)であり、相当塑性ひずみ速度dεeq/dtは超過応力Xのべき乗則で記述される。ここで、Xは超過応力(余応力)、D、Pは材料定数であり、Dは抗応力、pは応力感度指数である。
【0029】
【0030】
(E)応力速度
曲げ曲面部簡易モデル31において、板幅方向のひずみ速度dεz/dtが0となる平面ひずみ条件とフックの法則から、x方向の応力速度dσx/dt及びz方向の応力速度dσz/dtは式(4)で表すことができる。
【0031】
【0032】
ここで、dεx/dt、dεz/dtはx方向及びz方向のひずみ速度、dεp
x/dt、dεp
z/dtはx方向及びz方向の塑性ひずみ速度(ひずみ速度dεx/dt、dεz/dtの塑性成分)である。また、E、νは材料定数であり、Eはヤング率、νはポアソン比である。
【0033】
(E)偏差背応力速度
材料(金属板)の加工硬化は偏差背応力α'
ijの発展により表現され、例えば、式(5)で与えられる非線形硬化則を用いることができる。
【0034】
【0035】
ここで、dα’
ij/dtは偏差背応力の速度、C、aはそれぞれ加工硬化に関する材料定数(移動硬化則パラメータ)であり、Cは移動硬化の収束の速さを、aは移動硬化の大きさを表す。
【0036】
(F)超過応力(余応力)
超過応力理論において、負荷が増大して応力点が降伏曲面(弾性限界曲面)の外に出たときの、そのはみ出し量(=超過応力X)を表し、超過応力Xに応じた塑性ひずみ速度dεp
ij/dtが生じ、塑性変形が進行する。
【0037】
【0038】
ここで、sijは偏差応力、α'
ijは背応力αijの偏差成分(偏差背応力)、Yは材料定数であり降伏曲面(弾性限界曲面)の大きさを表す。
なお、偏差応力sijは、式(7)で与えられる。
【0039】
【0040】
ここで、δijはクロネッカのデルタ、σmは平均垂直応力であり、σm=(1/3)(σx+σy+σz)である。
【0041】
以上の材料構成式(1)~(6)には、ヤング率E、ポアソン比ν、抗応力D、応力感度指数p、移動硬化則パラメータC及びa、降伏応力(降伏曲面サイズ)Y、の合計7個の材料定数が必要である。
【0042】
これらの材料定数のうち、ヤング率Eは材料試験による測定値を用い、ポアソン比νは一般的な値(例えば、鋼板では0.3)を用いることが好ましい。
また、超過応力理論の材料定数である抗応力D及び応力感度指数pは変形抵抗の速度依存性に関するデータに基づいて同定するのが好ましい。
【0043】
さらに、移動硬化則パラメータC(移動硬化の収束の速さ)及びa(移動硬化の大きさ)と降伏応力Y(モデル上の降伏曲面のサイズ)は、例えば、
図3に示すように金属板の試験片41に単軸引張変形を付与し、所定のひずみにおいてひずみ一定保持を行い、時間経過に伴うひずみと応力の変化を測定した結果(引張り-保持試験結果)、及び、
図4に示すように、金属板の試験片41に単軸引張変形を付与して除荷した後に負荷する方向を反転させて圧縮変形を試験片41の座屈を防止しつつ負荷して所定のひずみにおいてひずみ一定で保持を行い、時間経過に伴う真ひずみと真応力の変化を測定した結果(引張り除荷反転圧縮保持試験結果)に基づいて、調整するのが好ましい。
【0044】
すなわち、上記の材料構成式(1)~(6)に基づいて、引張り-保持試験及び引張り除荷反転圧縮保持試験の真ひずみと真応力の時間変化の計算結果が、各材料試験の実験結果に合うように材料定数D、p、a、C、Yの値を調整すればよい。
【0045】
上記の材料構成式(1)~(6)により応力緩和挙動と形状変化を表現する仕組みを、
図5を参照して説明する。
【0046】
金属板が未変形の初期状態では、降伏曲面の中心の偏差応力空間の原点に一致している。そして金属板に負荷された応力が降伏曲面内にある時はフックの法則に従う弾性変形状態にあり、降伏曲面には何の変化も生じない。
【0047】
負荷が増大して応力点が降伏曲面の外に出ると、そのはみだし量(=超過応力X)に応じて塑性ひずみ速度dεp
ij/dtが生じ、塑性変形が進行する。そして、塑性変形が進行すると偏差背応力α’
ijが発展するが、この偏差背応力は降伏曲面の中心位置を表すものである。すなわち、塑性変形の進行に伴って降伏曲面はそのサイズを変えることなく移動する。この降伏曲面の移動によって加工硬化が表現され(移動硬化)、偏差背応力α’
ijはこの時の降伏曲面の中心の移動量を表す状態変数であるともいえる。ここで、ひずみ速度dεij/dtは、弾性ひずみ速度dεe
ij/dtと塑性ひずみ速度dεp
ij/dtの合計で表される(dεij/dt=dεe
ij/dt+dεp
ij/dt)。
【0048】
そして、塑性変形を途中で停止してひずみを一定に保持(dεij/dt=0)しても、その時点では応力点が降伏曲面の外に出ているため塑性ひずみ速度dεp
ij/dtが生じ、これと同時に同じ大きさで符号が逆の弾性ひずみ速度dεe
ij/dt(dεij/dt=dεe
ij/dt+dεp
ij/dt=0であるため)が生じることになる。その結果、応力速度が生じて応力の変化、すなわち、応力緩和が生じる。
【0049】
応力緩和中は塑性ひずみ速度dεp
ij/dtが存在することから偏差背応力α’
ijの発展も続き、降伏曲面は移動を続ける。しかしながら、応力値の変化と降伏曲面移動の結果として、応力点のはみだし量(超過応力X)は徐々に小さくなるので、応力緩和も徐々に緩やかとなり、最終的に応力点が降伏曲面上に戻った時点で応力緩和は収束する。
【0050】
さらに、応力緩和中の曲げ曲面部においては、力のモーメントと応力とが釣り合うように形状変化が生じる。そして、応力緩和が収束した時点で、曲げ曲面部の形状変化も終了する。
【0051】
なお、上記の材料構成式(1)~(6)における無次元曲率及び無次元曲率速度は、それぞれ、曲げ曲面部の曲率及び曲率速度を無次元化したものであるが、これらを無次元化せずに定式化した材料構成式を用いてもよい。
【0052】
<離散化計算手法>
次に、上記の材料構成式(1)~(6)に基づいて、板材プレス曲げ成形品の時間経過に伴う形状変化を予測するための離散化計算手法について説明する。
【0053】
離散化計算手法においては、まず、板材プレス曲げ成形品の曲げ曲面部を
図2に示す曲げ曲面部簡易モデル31のようにモデル化し、曲げ曲面部簡易モデル31における板断面の板曲げ中心線上の位置を含む板厚方向に3点以上の評価点33を設定する。
【0054】
そして、本発明では、一例として
図10に示すように、パンチ3とダイス5とを有してなる金型1を用いて金属板11を板材プレス曲げ成形品21に曲げ成形する過程、板材プレス曲げ成形品21を金型1内で保持する過程、金型1から離型して除荷した板材プレス曲げ成形品21がスプリングバックする過程と、除荷してスプリングバックした後の板材プレス曲げ成形品21を放置する過程、の各過程の開始から終了までを2つ以上の時間刻みに分割(離散化)する。
【0055】
そして、各過程について、時間刻みごとに曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33におけるひずみ、相当塑性ひずみ、応力、偏差背応力の値をこれらの一つ前の時間刻みにおける値を用いて計算する。さらに、計算した応力から、各評価点33における偏差応力及び超過応力と、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントを計算する。
【0056】
このような離散化計算手法においては、金属板を曲げ成形した曲げ曲面部のひずみや応力等といった履歴変数を代表させることにより、塑性変形における非線形硬化挙動の影響を精度よく計算することができる。
さらに、各評価点33における応力を板厚方向に数値積分することにより曲げ曲面部簡易モデル31における曲げモーメントの履歴を詳細に計算することが可能となる。
【0057】
<板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法>
本発明の実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法は、
図10に示すように、金型1を用いて金属板11を曲げ成形した板材プレス曲げ成形品21の離型後に瞬間的に発生するスプリングバック直後から、板材プレス曲げ成形品21の曲げ曲面部23の時間経過に伴って生じる形状変化を予測するものである。
そして、一例として
図10に示すように、金属板11を板材プレス曲げ成形品21に曲げ成形する過程(
図10(a)~(b))と、曲げ成形した板材プレス曲げ成形品21を金型1内の成形下死点位置で保持する過程(
図10(b))と、保持した板材プレス曲げ成形品21を金型1から離型して除荷し板材プレス曲げ成形品21がスプリングバックする過程(
図10(c))と、除荷してスプリングバックした後の板材プレス曲げ成形品21を放置する過程(
図10(d))と、の各過程について、
図2に示すように、曲げ曲面部23の板断面の板厚方向に板曲げ中心線上を含む位置に3点以上の評価点33が設定された曲げ曲面部簡易モデル31を用い、各過程について離散化された時間刻みごとに、上記の式(1)~式(6)の材料構成式に基づいて、各評価点33におけるひずみ及び応力と、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメント及び曲率と、を求めるものであり、
図1に示すように、計算諸元設定ステップS10と、曲げ成形過程計算ステップS20と、金型内保持過程計算ステップS30と、除荷過程計算ステップS40と、放置過程計算ステップS60と、を含む。
以下、これらの各ステップについて説明する。
【0058】
≪計算諸元設定ステップ≫
計算諸元設定ステップS10は、材料構成式(1)~(6)の材料定数と、各過程の時間刻みと、曲げ成形する過程における曲げ曲面部23の加工速度に対応する曲率速度及び曲げ曲面部23の目標曲率とを含む計算諸元を設定するステップである。
【0059】
本実施の形態において、計算諸元設定ステップS10では、(i)材料構成式の材料定数の設定(S11)、(ii)計算条件の設定(S13)、(iii)時間刻みの設定(S15)、(iv)曲げ曲面部簡易モデル31の目標無次元曲率及び無次元曲率速度の設定(S17)、を行う。
【0060】
(i)材料構成式の材料定数の設定
まず、式(1)~式(6)の材料構成式の材料定数を設定する(S11)。
設定する材料定数は、前述したように、ヤング率E、ポアソン比ν、抗応力D、応力感度指数p、移動硬化則パラメータC及びa、降伏応力(降伏曲面サイズ)Y、の合計7つである。
【0061】
ヤング率Eは、前述したように、例えば、金属板11を
図3(a)に示すように切り出した試験片41に引張荷重又は圧縮荷重を作用させる材料試験により応力-ひずみ関係を測定し、該測定した応力-ひずみ関係における直線部の傾きから求めることができる。
ポアソン比νは、プレス成形に供する金属板に応じて設定すればよく、例えば、鋼板の場合は一般的な値(=0.3)を設定すればよい。
【0062】
式(1)及び式(2)における降伏曲面(弾性限界曲面)の大きさY、抗応力D、応力感度指数p、及び、式(4)における移動硬化則パラメータC及びaは、単軸引張試験である引張り-保持試験(
図3)、及び、引張り-除荷-反転圧縮-保持試験(
図4)により決定することができる。
【0063】
具体的には、単軸応力状態における超過応力理論と移動硬化則に基づく統一型弾粘塑性構成式より導出される引張り-保持試験時の塑性変形における流動応力の理論式(8)中のY、D、p、a、Cを引張り-保持試験の結果(
図3(b)、(c))、及び、引張り-除荷-反転圧縮-保持試験の結果(
図4(b)、(c))に基づいて調整することで決定することができる。
【0064】
【0065】
表1に、1180MPa級の超ハイテン鋼板を対象として上記方法により求めた材料構成式(1)~(6)の材料定数の一例を示す。
【0066】
【0067】
なお、材料構成式(1)~(6)の各材料定数は、引張り-保持試験及び引張り-除荷-反転圧縮-保持試験により予め求めた値を設定してもよい。
【0068】
(ii)計算条件の設定
次に、計算条件の設定を行う(S13)。
計算条件として、曲げ曲面部簡易モデル31の板厚(=h)及び曲げ曲率(K=1/ρ)を設定する。
【0069】
(iii)時間刻みの設定
続いて、時間刻みの設定を行う(S15)。
時間刻みは、材料構成式(1)~(6)の離散化計算手法に用いるものであり、曲げ成形過程、保持過程、除荷過程及び放置過程の各過程について、所定の時間刻み幅で2つ以上に離散化した時間刻みを設定する。
さらに、曲げ成形過程における曲げ成形時間、保持過程における保持時間、除荷過程における除荷(スプリングバック)時間、及び、放置過程における放置時間、をそれぞれの過程における時間刻み幅で除して得られた値により、曲げ成形過程計算ステップS20、金型内保持過程計算ステップS30、除荷過程計算ステップS40及び放置過程計算ステップS60の各ステップにおける時間刻み長さを設定する。
【0070】
時間刻み幅は、概ね1/10~1/1000秒で設定することが望ましい。短く設定することで計算精度の向上が見込める一方、計算時間が長くなるため、目的に応じて設定する。ただし、放置過程計算ステップは、同過程が長時間に渡り、かつ、その変形速度は時間経過に伴い鈍化するため、時間経過に伴い、時間刻み幅を大きくすることが好ましく、1秒以上の時間刻み幅を設定することも有効である。
【0071】
(iv)目標無次元曲率及び無次元曲率速度の設定
続いて、曲げ曲面部簡易モデル31の目標無次元曲率及び無次元曲率速度の設定を行う(S17)。
目標無次元曲率κとは、板材プレス曲げ成形品21の成形下死点における曲げ曲面部23の曲率を無次元化したものであり、
図2に示す曲げ曲面部簡易モデル31の板厚方向の断面に一点鎖線で示す板曲げ中心線の曲率Kを、次式(9)に示すように板厚hを用いて無次元化する。
【0072】
【0073】
曲げ曲面部簡易モデル31の曲げ半径ρと曲率Kの関係はK=1/ρで表されるので、成形下死点における曲げ曲面部23の曲げ角度が90°である場合、目標無次元曲率はκ=h/ρにより算出して設定すればよい。
【0074】
さらに、無次元曲率速度は、曲げ成形過程における曲げ曲面部の加工速度に対応するものであり、曲げ曲面部簡易モデル31の無次元曲率の単位時間当たり(単位時間刻み幅当り)の変化量である。
そこで、目標無次元曲率を曲げ成形過程計算ステップS20の時間刻み長さで除して算出された値を無次元曲率速度として設定する。
【0075】
≪曲げ成形過程計算ステップ≫
曲げ成形過程計算ステップS20は、曲げ成形する過程について、曲げ曲面部簡易モデル31が曲率速度で曲げ成形されて目標曲率に至るまで、曲げ成形する過程の時間刻みごとに、材料構成式(1)~(6)に基づいて曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33におけるひずみ及び応力と、曲げ曲面部簡易モデル31の曲率とを計算するステップである。
【0076】
本実施の形態では、現在の時間刻みにおける無次元曲率を計算する(S21)。
現在の時間刻みにおける無次元曲率は、一つ前の時間刻みにおける無次元曲率に、無次元曲率速度に時間刻み幅を乗じた値を足すことで計算される。ここで、曲げ成形過程計算ステップS20の開始時の無次元曲率は、例えば、金属板11の無次元曲率(=0)を与えればよい。
【0077】
次に、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S23において、材料構成式(1)~(6)に基づいて、金属板11の各評価点33におけるひずみ(真ひずみ、塑性ひずみ、相当塑性ひずみ)と応力(応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)を計算するものである(S23)。
【0078】
本実施の形態では、一つ前の時間刻み(前回時間刻み)におけるひずみ(ひずみ、塑性ひずみ、相当塑性ひずみ)と応力(応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)に基づいて、現在の時間刻み(今回時間刻み)におけるひずみと応力を計算するものとし、
図6に示すように、真ひずみ算出工程S23aと、ひずみ速度算出工程S23bと、相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程S23cと、応力速度算出工程S23dと、偏差背応力速度算出工程S23eと、相当塑性ひずみ・塑性ひずみ・応力・偏差背応力算出(更新)工程S23fと、超過応力算出(更新)工程S23gとを含む。
【0079】
(真ひずみ算出工程)
真ひずみ算出工程S23aは、式(1)により、今回時間刻みにおける無次元曲率κと金属板の板厚hより、今回時間刻みにおける長手方向(曲げ曲面部簡易モデル31におけるx方向)の真ひずみεxを算出する。
【0080】
(ひずみ速度算出工程)
ひずみ速度算出工程S23bは、前回時間刻みにおけるx方向(長手方向)のひずみ速度を、前回時間刻みから今回時間刻みまでの真ひずみεxの変化量を時間刻み幅で除して算出する。
【0081】
(相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程)
相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程S23cは、前回時間刻みにおける超過応力Xを用いて、式(3)より、前回時間刻みにおける相当塑性ひずみ速度dεeq/dtを算出し、前回時間刻みにおける超過応力X、偏差応力sij及び偏差背応力α’
ijを用いて、式(2)より、前回時間刻みにおける塑性ひずみ速度dεp
ij/dtを算出する。
【0082】
(応力速度算出工程)
応力速度算出工程S23dは、ひずみ速度算出工程S23bにおいて算出した前回時間刻みにおけるひずみ速度dεx/dtと、相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程S23cにおいて算出した前回時間刻みにおける塑性ひずみ速度dεp
ij/dtを用いて、式(4)より、前回時間刻みにおける応力速度dσx/dt及びdσz/dtを算出する。
【0083】
(偏差背応力速度算出工程)
偏差背応力速度算出工程S23eは、相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程S23cにおいて算出した、相当塑性ひずみ速度及び塑性ひずみ速度と、前回時間刻みにおける偏差背応力を用いて、式(5)より、前回時間刻みにおける偏差背応力速度dα’
ij/dtを算出する。
【0084】
(相当塑性ひずみ・塑性ひずみ・応力・偏差背応力算出(更新)工程)
相当塑性ひずみ・塑性ひずみ・応力・偏差背応力算出(更新)工程S23fは、前回時間刻みにおける相当塑性ひずみ、塑性ひずみ、真応力、偏差背応力を用いて、今回時間刻みにおける相当塑性ひずみ、塑性ひずみ、真応力、偏差背応力を算出する。
【0085】
今回時間刻みの相当塑性ひずみεeqは、相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程S23cにおいて算出した前回時間刻みにおける相当塑性ひずみ速度(前回dεeq/dt)に時間刻み幅(=Δt)を乗じ、これを前回時間刻みにおける相当塑性ひずみ(前回εeq)に加算し、今回時間刻みにおける相当塑性ひずみ(今回εeq)を算出(更新)する。
(今回εeq= 前回εeq+前回dεeq/dt・Δt)
【0086】
今回時間刻みの塑性ひずみεp
ijは、相当塑性ひずみ速度・塑性ひずみ速度算出工程S23cにおいて算出した前回時間刻みにおける塑性ひずみ速度(前回dεp
ij/dt)に時間刻み幅Δtを乗じ、これを前回時間刻みにおける塑性ひずみ(前回εp
ij)に加算し、今回時間刻みにおける塑性ひずみ(今回εp
ij)を算出する。
(今回εp
ij=前回εp
ij+前回dεp
ij/dt・Δt)
【0087】
今回時間刻みにおける真応力σx、σzは、応力速度算出工程S23dにおいて算出した前回時間刻みにおける応力速度(前回dσx/dt及び前回dσz/dt)に時間刻み幅Δtを乗じ、これを前回時間刻みにおける真応力(前回σx及び前回σz)に加算して今回時間刻みにおける真応力(今回σx及び今回σz)を算出する。
(今回σx=前回σx+前回dσx/dt・Δt、今回σz=前回σz+前回dσz/dt・Δt)
【0088】
今回時間刻みにおける偏差背応力α’
ijは、偏差背応力速度算出工程S23eにおいて算出した前回時間刻みにおける偏差背応力速度(前回dα’
ij/dt)に時間刻み幅Δtを乗じて、前回時間刻みにおける偏差背応力(前回α’
ij)に加算し、今回時間刻みにおける偏差背応力(今回α’
ij)を算出(更新)する。
(今回α’
ij=前回α’
ij+前回dα’
ij/dt・Δt)
【0089】
(超過応力算出(更新)工程)
超過応力算出(更新)工程S23gは、相当塑性ひずみ・塑性ひずみ・応力・偏差背応力算出(更新)工程S23fにおいて算出(更新)した今回時間刻みにおける真応力σx及びσzを用いて式(7)より偏差応力sijを算出し、相当塑性ひずみ・塑性ひずみ・応力・偏差背応力算出(更新)工程S23fにおいて算出(更新)した今回時間刻みにおける偏差背応力α'
ijと偏差応力sijを用いて、式(6)より、今回時間刻みにおける超過応力Xを算出(更新)する。
【0090】
このように、今回時間刻みにおけるひずみと応力を算出したら、今回時間刻みにおける無次元曲率が目標無次元曲率以上であるか否かを判定する(S25)。
今回時間刻みにおける無次元曲率が目標無次元曲率以上でないと判定された場合、次の時間刻みを進め(S27)、無次元曲率の計算(S21)と、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程(S23)と、を繰り返す。
そして、今回時間刻みにおける無次元曲率が目標無次元曲率以上であると判定された場合、次の金型内保持過程計算ステップS30に進む。
【0091】
≪金型内保持過程計算ステップ≫
金型内保持過程計算ステップS30は、金型1内で保持する過程について、所定の保持時間が経過するまで、金型1内で保持する過程の時間刻みごとに、材料構成式(1)~(6)に基づいて曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33におけるひずみ及び応力を計算するステップである。
【0092】
本実施の形態では、まず、曲げ成形過程計算ステップS20において目標無次元曲率に到達した時点の曲げ曲面部簡易モデル31に対し、ひずみ(真ひずみ、相当塑性ひずみ、塑性ひずみ)及び応力(真応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)の値はそのままで無次元曲率速度の値を0に設定する(S31)。
【0093】
次に、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S33において、曲げ成形過程計算ステップS20の応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S23と同様に、材料構成式(1)~式(6)に基づいて、曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33における応力緩和を反映したひずみ(真ひずみ、相当塑性ひずみ、塑性ひずみ)及び応力(真応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)を計算する。
【0094】
次に、現在の時間刻みが金型1内での保持時間以上であるか否かを判定する(S35)。
現在の時間刻みが保持時間以上でないと判定された場合、次の時間刻みに進み(S37)、無次元曲率の設定(S31)と、ひずみ及び応力の計算(S35)とを繰り返す。
そして、現在の時間刻みが保持時間以上であると判定された場合、次の除荷過程計算ステップS40に進む。
なお、金型内保持過程計算ステップS30における時間刻み長さが大きいほど、曲げ曲面部は無次元曲率一定のまま保持された状態で応力緩和が進行するので、曲げ成形過程計算ステップS20直後の曲げ曲面部簡易モデル31と比べて曲げモーメントがより変化する。
【0095】
≪除荷過程計算ステップ≫
除荷過程計算ステップS40は、板材プレス曲げ成形品21を離型して除荷する過程について、曲げ成形過程計算ステップS20とは逆方向に曲げ曲面部簡易モデル31の曲率速度を設定し、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントが0になるまで、除荷する過程の前記時間刻みごとに、材料構成式(1)~(6)に基づいて曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33におけるひずみ及び応力と、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメント及び曲率と、を計算するステップである。
【0096】
スプリングバックは、金属板を曲げ成形する過程で発生して金型内で保持中に応力緩和された後に板材プレス曲げ成形品に残存する残留応力が駆動力となり、離型・除荷した板材プレス曲げ成形品21が、力のモーメントと残留応力との釣り合いが取れるまで、元の金属板11の形状にバネのように戻ろうとする現象である。
【0097】
そこで、除荷過程計算ステップS40は、曲げ曲面部簡易モデル31において力のモーメントと残留応力との釣り合いが取れるまで、すなわち、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントが0になるまで、時間刻みごとに、曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33におけるひずみ(真ひずみ、相当塑性ひずみ、塑性ひずみ)及び応力(真応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)と曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントとを計算する。
【0098】
まず、除荷方向の無次元曲率速度を設定する(S41)。
除荷方向の無次元曲率速度は、例えば、曲げ成形過程における無次元曲率速度と正負が反対で絶対値が等しい値を設定すればよい。
【0099】
除荷過程計算ステップS40における無次元曲率速度は、スプリングバックにおける除荷方向の無次元曲率速度を適宜設定すればよい。例えば、予め、FEM解析等による板材プレス曲げ成形品21のスプリングバック解析により、スプリングバックによる曲げ曲面部23の曲率の変化量とスプリングバックの生じる時間との関係に基づいて、スプリングバックにおける除荷方向の無次元曲率速度を設定すればよい。
【0100】
次に、無次元曲率速度に板材プレス曲げ成形品21を離型及び除荷した直後からの経過した時間刻み長さを乗じて得られる変化量だけスプリングバックさせて、現在の時間刻みにおける無次元曲率を計算する(S43)。
【0101】
続いて、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S45において、曲げ成形過程計算ステップS20の応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S23と同様に、式(1)~式(6)を用いて、各評価点33における応力緩和を反映したひずみ(真ひずみ、相当塑性ひずみ、塑性ひずみ)及び応力(真応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)を算出する(S45)。
【0102】
さらに、計算した各評価点33の応力を用いて、板厚中心回りの板断面の曲げモーメントMを式(10)により算出する(S47)。
【0103】
【0104】
そして、計算した曲げモーメントMが0と等しいか否かを判定する(S49)。
曲げモーメントMが0と等しくない(例えば、曲げモーメントMの絶対値が十分に小さい所定の値以上である)と判定された場合、次の時間刻みに進み(S51)、無次元曲率の計算(S43)、応力、ひずみ及び超過応力の計算(S45)、曲げモーメントの計算(S47)と、を繰り返し、再度、曲げモーメントの判定(S49)を行う。
曲げモーメントMが0(曲げモーメントの絶対値が十分に小さい所定の値未満である)であると判定された場合(S49)、次の放置過程計算ステップS60に進む。
【0105】
≪放置過程計算ステップ≫
放置過程計算ステップS60は、除荷してスプリングバックした後の板材プレス曲げ成形品21を放置する過程について、放置する過程の時間刻みごとに、材料構成式に基づいて曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33におけるひずみ及び応力と、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントM及び曲率(無次元曲率)とを計算するステップである。
【0106】
スプリングバック終了直後は、力のモーメントと残留応力が釣り合っている状態、すなわち、板断面の曲げモーメントMが0の状態であるが、その後、板材プレス曲げ成形品21の放置過程においては、時間の経過に伴って応力が緩和することにより、板断面の曲げモーメントMに生じた変化を相殺するように曲げ曲面部23の形状変化が生じて、曲げモーメントMが0の状態が維持されている状態であると推定される。
【0107】
そこで、放置過程計算ステップS60においては、まず、曲げ曲面部簡易モデル31の放置過程における仮の無次元曲率速度を設定し(S61)、単位時間刻み後の仮の無次元曲率を算出する(S63)。
【0108】
放置過程計算ステップS60における無次元曲率速度は、後述するように、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントMが0となる状態が保たれるように、各時間刻みにおける無次元曲率を収束計算により求めるため、仮の値を無次元曲率速度として適宜設定して、収束計算の初期値として仮の無次元曲率を算出すればよい。
【0109】
次に、(S63)で算出した単位時間刻み後の無次元曲率の下で、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S65において、曲げ成形過程計算ステップS20の応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S23と同様に、式(1)~式(6)の材料構成式を用いて、曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33における応力緩和を反映したひずみ(真ひずみ、相当塑性ひずみ、塑性ひずみ)と応力(真応力、偏差応力、偏差背応力、超過応力)の計算を行う(S65)。
【0110】
続いて、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程S65において計算された曲げ曲面部簡易モデル31の各評価点33における応力を用いて、前述した式(10)により曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントMの計算(S67)を行う。
【0111】
そして、計算された曲げモーメントMが0であるか否かを判定する(S69)。
曲げモーメントMが0に等しくない(曲げモーメントMの絶対値が十分に小さい所定の値以上である)と判定された場合、曲げモーメントMが十分に0に近い値となるまで、曲げモーメントMを0に近づけるように単位時間刻み後の無次元曲率の修正(S71)と、応力緩和反映ひずみ・応力算出工程での各評価点33におけるひずみ及び応力の計算(S65)と、曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントの計算(S67)とを繰り返し、再度、曲げモーメントMの判定(S69)を行う。
そして、曲げモーメントMが0である(曲げモーメントの絶対値が十分に小さい所定の値未満である)と判定された場合、単位時間刻み後の曲げ曲面部簡易モデルの無次元曲率を確定する(S73)。そして、単位時間刻み後(現在時刻)が、板材プレス曲げ成形品21を放置する目標時刻に到達しているかを判定する(S75)。現在時刻が目標時刻に到達していない場合、次の時間刻みに進む(S77)。
このように、放置する過程の目標時刻までの時間刻みにおいて、曲げモーメントMが0となるように曲げ成形された曲げ曲面部の曲率(無次元曲率)を更新する。
【0112】
最後に、放置過程計算ステップS60が終了した後、計算結果の出力を行い(S80)、計算を終了する。
【0113】
以上、本実施の形態に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法によれば、曲げ成形した板材プレス曲げ成形品を、金型内で保持した後に離型し、スプリングバックした後に外力をあたえずに放置した場合において、板材プレス曲げ成形品の曲げ曲面部における板厚方向のひずみ応力分布と曲率が、外部からの曲げモーメント0の条件を満足した状態を保ちつつ、時間経過に伴って形状が変化する現象を予測することが可能となる。
【0114】
また、本実施の形態においては、曲げ曲面部簡易モデル31における板曲げ中心線を含む板断面を板厚方向に設定した3点以上の評価点におけるひずみや応力といった履歴変数を代表させ、各評価点の応力を用いて曲げ曲面部簡易モデル31の曲げモーメントを数値積分で計算することにより、曲げ断面における板厚方向各位置のひずみあるいは応力、超過応力、曲げモーメントの履歴を詳細に計算することが可能となる。
【0115】
さらに、曲げ成形過程、金型内での保持過程、除荷過程、放置過程の各過程について、2つ以上の時間刻みに分割して各時間刻みにおけるひずみ及び応力を計算する離散化計算手法によって、金属板の塑性変形における非線形硬化挙動の影響を精度よく計算することができる。
【0116】
なお、本発明に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法は、金属板の種類や板材プレス曲げ成形品の種類や形状による制限は特にないが、高強度の金属板でかつ、曲げ成形された曲げ曲面部の曲率に対して板厚が薄い場合に、より効果がある。
具体的には、引張強度が270MPa以上、かつ、板厚が0.3mm以上3.6mm以下の金属板を対象とすることが好ましい。
また、板材プレス曲げ成形品の種類としては、自動車部品としての剛性が比較的低いドアやルーフ、フード等の外板部品、高強度の金属板を用いて曲げ成形されたAピラーやBピラー、ルーフレール、サイドレール、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、クロスメンバー等の骨格部品を対象とすることが好ましい。
【実施例0117】
本発明の板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法による作用効果について、具体的な実施例に基づいて説明する。
本実施例では、金属板のプレス加工による曲げ成形としてL曲げ試験を対象とし、スプリングバック後の形状変化を予測し、実際のL曲げ試験によるスプリングバック後の形状変化の実験結果と比較検証した。
【0118】
本実施例におけるL曲げ試験では、金属板11として、幅100mm、長さ250mm、板厚1.2mmの矩形状であり、材質はスプリングバック後の形状変化の大きい引張強度1180MPa級の超ハイテン鋼板を用いた。
【0119】
そして、
図10に示したように、(a)所定のダイス肩半径(12mm)のダイス肩部5aを有するダイス5に金属板11を載置し、(b)パンチ3を100mm押し下げることにより、ダイス肩部5aに沿って金属板11を90°の板材プレス曲げ成形品21に曲げ成形した。
(c)曲げ成形した後にパンチ3を上昇させて除荷(離型)すると、板材プレス曲げ成形品21の曲げ曲面部23においてはスプリングバックが生じるが、(d)その後そのままの状態で100秒間放置した。
なお、L曲げ試験での(b)におけるパンチ3とダイス5の成形下死点におけるクリアランスは1.5mmとした。
【0120】
また、材料構成式(1)~(6)の材料定数は、L曲げ試験に用いる金属板について実測したヤング率(208GPa)、ポアソン比(=0.3)とし、その他の材料定数については、予め引張り-保持試験(
図3参照)及び引張り-除荷-反転圧縮-保持試験(
図4参照)により、前掲した表1に示すように同定した。
【0121】
図7に、引張り-保持試験による真応力-真ひずみ関係の実験結果と、単軸応力状態における超過応力理論と移動硬化則に基づく統一型弾粘塑性構成式より導出される引張り-保持試験時の塑性変形における流動応力の理論式(8)を用いた計算結果との比較を示す。
【0122】
真応力-真ひずみ関係の計算結果は実験結果の傾向をよく捉えていることが分かる。また、保持過程における真応力の計算値は、実験値との誤差が約10MPa程度であり、良好であった。
【0123】
図8に、引張り-除荷-反転圧縮-保持試験による真応力-真ひずみ関係の実験結果と、式(8)を用いた計算結果との比較を示す。
【0124】
図7に示した引張り-保持試験の場合と同様、真応力-真ひずみ関係の計算結果は実験結果の傾向をよく捉えており、応力反転後のバウシンガー効果が良好に再現されていることが分かる。また、保持過程における真応力の計算値は、実験値との誤差が約10MPa以下であり、良好であった。
【0125】
図9に、このようにして得られた材料構成式(1)~(6)の材料定数を用いL曲げ試験により曲げ成形した曲げ曲面部のスプリングバック後の曲げ角度の経時変化の計算結果と実験結果との比較を示す。
図9より、本発明の計算結果は実験結果よりもやや過大に曲げ角度の変化を予測しているが、時間経過に伴う形状変化の傾向をよく捉えている。
【0126】
以上、本発明に係る板材プレス曲げ成形品のスプリングバック後の形状変化予測方法によれば、スプリングバックした後の板材プレス曲げ成形品の時間経過に伴う形状変化を良好に予測できることが示された。