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特開2024-158610研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する方法、および光学的膜厚測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158610
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する方法、および光学的膜厚測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241031BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20241031BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20241031BHJP
   G01B 11/06 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L21/304 622R
H01L21/304 621D
B24B49/12
B23Q17/24 Z
G01B11/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073956
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夕貴
【テーマコード(参考)】
2F065
3C029
3C034
5F057
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB03
2F065CC19
2F065GG03
2F065GG08
2F065LL02
2F065LL67
2F065QQ13
2F065QQ17
2F065QQ41
3C029EE12
3C029EE20
3C034AA19
3C034BB73
3C034BB93
3C034CA05
3C034CA22
3C034DD18
5F057AA20
5F057BA15
5F057CA12
5F057DA03
5F057GA12
5F057GA16
5F057GB02
5F057GB13
5F057GB20
(57)【要約】
【課題】研磨対象ではない誤ったワークピース(例えばウェーハ)を検出することができる方法を提供する。
【解決手段】本方法は、ワークピースWの研磨前または研磨開始後にワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力し、オートエンコーダから出力された出力データと、検査用スペクトルデータとの差を算定し、差がしきい値よりも大きいときに、検査用スペクトルデータの作成に使用されたワークピースWは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する方法であって、
ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、
前記検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、
前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する、方法。
【請求項2】
前記検査用スペクトルデータを作成する工程は、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、
前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築することをさらに含み、
前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する方法であって、
研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定し、
ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、
前記基準スペクトルデータと前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する、方法。
【請求項5】
前記検査用スペクトルデータを作成する工程は、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する工程である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記差は、ユークリッド距離である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記基準スペクトルデータを決定する工程は、
過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータから前記基準スペクトルデータを決定する工程を含み、
前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の指標スペクトルデータを正規化して、複数の正規化された指標スペクトルデータを作成し、
前記検査用スペクトルデータを正規化して、正規化された検査用スペクトルデータを作成する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、
光を発する光源と、
前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、
前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、
前記処理システムは、
前記ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、
前記検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、
前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置。
【請求項10】
前記処理システムは、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成するように構成されている、請求項9に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項11】
前記処理システムは、
過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、
前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築するように構成されており、
前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである、請求項9に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項12】
ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、
光を発する光源と、
前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、
前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、
前記処理システムは、
研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定し、
前記ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、
前記基準スペクトルデータと前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、
前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置。
【請求項13】
前記処理システムは、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成するように構成されている、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項14】
前記差は、ユークリッド距離である、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項15】
前記処理システムは、
過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、
前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータから前記基準スペクトルデータを決定するように構成されており、
前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【請求項16】
前記処理システムは、
前記複数の指標スペクトルデータを正規化して、複数の正規化された指標スペクトルデータを作成し、
前記検査用スペクトルデータを正規化して、正規化された検査用スペクトルデータを作成するように構成されている、請求項12に記載の光学的膜厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどの半導体デバイスの製造に使用されるワークピースからの反射光のスペクトルに基づいて膜厚を測定する技術に関し、特に研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスには、SiOなどの絶縁膜を研磨する工程や、銅、タングステンなどの金属膜を研磨する工程などの様々な工程が含まれる。裏面照射型CMOSセンサおよびシリコン貫通電極(TSV)の製造工程では、絶縁膜や金属膜の研磨工程の他にも、シリコン層(シリコンウェーハ)を研磨する工程が含まれる。ウェーハの研磨は、その表面を構成する膜(絶縁膜、金属膜、シリコン層など)の厚さが所定の目標値に達したときに終了される。
【0003】
ウェーハの研磨は研磨装置を使用して行われる。絶縁膜やシリコン層などの非金属膜の膜厚を測定するために、研磨装置は、一般に、光学式膜厚測定装置を備える。この光学式膜厚測定装置は、光源から発せられた光をウェーハの表面に導き、ウェーハからの反射光のスペクトルを解析することで、ウェーハの膜厚を検出するように構成される。ウェーハの膜厚が目標値に達すると、ウェーハの研磨が終了される。
【0004】
ウェーハの研磨は、研磨装置に設定された研磨レシピに従って実行される。この研磨レシピは、ウェーハの種類ごとに異なるため、研磨対象のウェーハの種類に基づいて研磨レシピを変える必要がある。また、ウェーハの種類が異なると、ウェーハからの反射光のスペクトルも異なるため、研磨終点検出のための条件も異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-194427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もし、研磨対象ではないウェーハ(すなわち、研磨装置に設定され研磨レシピに対応していない、種類が異なるウェーハ)が研磨装置内に搬入され、研磨装置によりウェーハが研磨されると、研磨レシピがそのウェーハには適していなく、かつ研磨終点検出が適切に実行されないため、そのウェーハに対して正常な研磨を行うことができない。
【0007】
そこで、本発明は、研磨対象ではない誤ったワークピース(例えばウェーハ)を検出することができる方法および光学的膜厚測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する方法であって、ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、前記検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する、方法が提供される。
【0009】
一態様では、前記検査用スペクトルデータを作成する工程は、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する工程である。
一態様では、前記方法は、過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築することをさらに含み、前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである。
【0010】
一態様では、研磨対象ではない誤ったワークピースを検出する方法であって、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定し、ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、前記基準スペクトルデータと前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する、方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記検査用スペクトルデータを作成する工程は、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する工程である。
一態様では、前記差は、ユークリッド距離である。
一態様では、前記基準スペクトルデータを決定する工程は、過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータから前記基準スペクトルデータを決定する工程を含み、前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである。
一態様では、前記方法は、前記複数の指標スペクトルデータを正規化して、複数の正規化された指標スペクトルデータを作成し、前記検査用スペクトルデータを正規化して、正規化された検査用スペクトルデータを作成する工程をさらに含む。
【0012】
一態様では、ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、光を発する光源と、前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、前記処理システムは、前記ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、前記検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであり、前記オートエンコーダから出力された出力データと、前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置が提供される。
【0013】
一態様では、前記処理システムは、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成するように構成されている。
一態様では、前記処理システムは、過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータを含む前記訓練データを作成し、前記訓練データを用いて前記機械学習を実行して前記学習済みモデルである前記オートエンコーダを構築するように構成されており、前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである。
【0014】
一態様では、ワークピースの膜厚を光学的に測定する光学的膜厚測定装置であって、光を発する光源と、前記光源から発せられた光を前記ワークピースに照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記ワークピースからの反射光のスペクトル測定データに基づいて、前記ワークピースの膜厚を決定する処理システムを備え、前記処理システムは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定し、前記ワークピースの研磨前または研磨開始後に前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、前記基準スペクトルデータと前記検査用スペクトルデータとの差を算定し、前記差がしきい値よりも大きいときに、前記検査用スペクトルデータの作成に使用された前記ワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定するように構成されている、光学的膜厚測定装置が提供される。
【0015】
一態様では、前記処理システムは、前記ワークピースの化学機械研磨の前に実行される前記ワークピースの水研磨中、または前記ワークピースの化学機械研磨の初期段階において、前記ワークピースからの反射光の検査用スペクトルデータを作成するように構成されている。
一態様では、前記差は、ユークリッド距離である。
一態様では、前記処理システムは、過去のワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、前記複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータから前記基準スペクトルデータを決定するように構成されており、前記複数のグループのうちの1つに属する前記複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである。
一態様では、前記処理システムは、前記複数の指標スペクトルデータを正規化して、複数の正規化された指標スペクトルデータを作成し、前記検査用スペクトルデータを正規化して、正規化された検査用スペクトルデータを作成するように構成されている。
【発明の効果】
【0016】
オートエンコーダは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルである。より具体的には、指標スペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときに、オートエンコーダは入力された指標スペクトルデータと実質的に同じデータを出力するように機械学習が行われる。研磨対象ではない誤ったワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されると、オートエンコーダは、入力されたスペクトルデータとは大きく異なるデータを出力する。したがって、入力された検査用スペクトルデータと、出力データとの差(再構成誤差ともいう)がしきい値よりも大きいときは、その検査用スペクトルデータの生成に使用されたワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定することができる。
【0017】
同様に、予め定められた基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差がしきい値よりも大きいときは、その検査用スペクトルデータの生成に使用されたワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】光学式膜厚測定装置の詳細な構成の一実施形態を示す断面図である。
図3】スペクトル測定データの一例を示すグラフである。
図4】オートエンコーダの一例を示す模式図である。
図5】研磨対象である正しいワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。
図6】研磨対象でない誤ったワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。
図7】ワークピースが研磨対象でない誤ったワークピースであるか否かを判定する一実施形態を説明するフローチャートである。
図8】複数のスペクトルデータがクラスタリングにより3つのグループに分けられる様子を示す図である。
図9】ワークピースが研磨対象でない誤ったワークピースであるか否かを判定する他の実施形態を説明するフローチャートである。
図10図10(a)は、正規化される前の複数の指標スペクトルデータの一例を示すグラフであり、図10(b)は、正規化された後の複数の指標スペクトルデータの一例を示すグラフである。
図11図11(a)は、正規化される前の複数の指標スペクトルデータから決定された基準スペクトルデータと、正規化される前の検査用スペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフであり、図11(b)は、正規化された後の複数の指標スペクトルデータから決定された基準スペクトルデータと、正規化された後の検査用スペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、膜を有するワークピースWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための液体供給ノズル5と、研磨装置の動作を制御するための動作制御部9を備えている。研磨パッド2の上面は、ワークピースWを研磨する研磨面2aを構成する。ワークピースWの例としては、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、基板(円形基板、多角形基板)、パネルなどが挙げられる。
【0020】
研磨ヘッド1はヘッドシャフト10に連結されており、ヘッドシャフト10は図示しない研磨ヘッドモータに連結されている。研磨ヘッドモータは、研磨ヘッド1をヘッドシャフト10とともに矢印で示す方向に回転させる。研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、テーブルモータ6は研磨テーブル3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。研磨ヘッド1、研磨ヘッドモータ、液体供給ノズル5、およびテーブルモータ6は動作制御部9に接続されている。
【0021】
ワークピースWは次のようにして研磨される。研磨テーブル3および研磨ヘッド1を図1の矢印で示す方向に回転させながら、液体供給ノズル5から研磨液が研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。ワークピースWの表面は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および/または研磨パッド2の機械的作用により研磨される。このような研磨液(例えばスラリー)を用いたワークピースWの研磨は、ワークピースWの化学機械研磨である。
【0022】
動作制御部9は、プログラムが格納された記憶装置9aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置9bを備えている。動作制御部9は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置9aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置9bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、動作制御部9の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0023】
研磨装置は、ワークピースWの膜の厚さを測定する光学式膜厚測定装置20を備えている。光学式膜厚測定装置20は、光を発する光源22と、光源22の光をワークピースWに照射し、ワークピースWからの反射光を受ける光学センサヘッド25と、光学センサヘッド25に連結された分光器27と、ワークピースWからの反射光に基づいてワークピースWの膜の厚さを決定する処理システム30を備えている。光学センサヘッド25は、研磨テーブル3内に配置されており、研磨テーブル3とともに回転する。図示しないが、分光器27および光源22に接続された複数の光学センサヘッド25が設けられてもよい。
【0024】
処理システム30は、プログラムが格納された記憶装置30aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置30bを備えている。処理システム30は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置30aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置30bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、処理システム30の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0025】
動作制御部9および処理システム30のそれぞれは、複数のコンピュータから構成されてもよい。例えば、動作制御部9および処理システム30のそれぞれは、エッジサーバおよびクラウドサーバの組み合わせから構成されてもよい。一実施形態では、動作制御部9および処理システム30は、1台のコンピュータから構成されてもよい。
【0026】
図2は、光学式膜厚測定装置20の詳細な構成の一実施形態を示す断面図である。光学式膜厚測定装置20は、光を発する光源22と、光源22に連結された投光光ファイバーケーブル31と、分光器27に連結された受光光ファイバーケーブル32を備えている。投光光ファイバーケーブル31の先端31aおよび受光光ファイバーケーブル32の先端32aは、光学センサヘッド25を構成している。すなわち、投光光ファイバーケーブル31は、光源22の光を研磨パッド2上のワークピースWに導き、受光光ファイバーケーブル32はワークピースWからの反射光を受け、分光器27に伝達する。
【0027】
分光器27は処理システム30に接続されている。投光光ファイバーケーブル31、受光光ファイバーケーブル32、光源22、および分光器27は研磨テーブル3に取り付けられており、研磨テーブル3および研磨パッド2とともに一体に回転する。投光光ファイバーケーブル31の先端31aおよび受光光ファイバーケーブル32の先端32aから構成される光学センサヘッド25は、研磨パッド2上のワークピースWの表面に対向して配置されている。光学センサヘッド25の位置は、研磨テーブル3および研磨パッド2が一回転するたびに研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る位置である。研磨パッド2は、光学センサヘッド25の上方に位置した通孔2bを有している。光学センサヘッド25は、研磨テーブル3が一回転するたびに光を通孔2bを通じてワークピースWに照射し、かつワークピースWからの反射光を通孔2bを通じて受ける。
【0028】
光源22は、短い時間間隔で繰り返し発光するフラッシュ光源である。光源22の例としては、キセノンフラッシュランプが挙げられる。光源22は、動作制御部9に電気的に接続されており、動作制御部9から送られるトリガー信号を受けて発光する。より具体的には、光学センサヘッド25が研磨パッド2上のワークピースWの表面を横切る間、光源22は複数のトリガー信号を受けて複数回発光する。したがって、研磨テーブル3が一回転するたびに、ワークピースW上の複数の測定点に光が照射される。
【0029】
光源22によって発せられた光は、投光光ファイバーケーブル31を通って光学センサヘッド25に伝達され、光学センサヘッド25から放射される。光は、研磨パッド2の通孔2bを通って研磨パッド2上のワークピースWに入射する。ワークピースWから反射した光は、研磨パッド2の通孔2bを再び通過し、光学センサヘッド25によって受けられる。ワークピースWからの反射光は、受光光ファイバーケーブル32を通って分光器27に伝達される。
【0030】
分光器27は、光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定するように構成される。すなわち、分光器27は、ワークピースWからの反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を所定の波長範囲に亘って測定して、スペクトル測定データを生成する。スペクトル測定データは、処理システム30に送られる。
【0031】
図3は、スペクトル測定データの一例を示すグラフである。図3において、縦軸はワークピースWからの反射光の強度を表し、横軸は反射光の波長を表す。図3に示すように、スペクトル測定データは、光の波長と強度との関係を示すスペクトル(分光波形)として表すことができる。
【0032】
処理システム30は、ワークピースWからの反射光のスペクトル測定データに基づいて、ワークピースWの膜厚を決定するように構成されている。スペクトル測定データに基づいてワークピースWの膜厚を決定する方法には、公知の技術が用いられる。例えば、処理システム30は、スペクトル測定データに最も形状が近い参照スペクトルデータを参照スペクトルライブラリの中から決定し、この決定された参照スペクトルデータに関連付けられた膜厚を決定する。他の例では、処理システム30は、スペクトル測定データに対してフーリエ変換を実行し、得られた周波数スペクトルから膜厚を決定する。
【0033】
ワークピースWの研磨は、研磨装置に設定された研磨レシピに従って実行される。この研磨レシピは、使用される研磨液の種類、研磨テーブルの回転速度、研磨ヘッドの回転速度、研磨ヘッドのワークピースWに対する押し付け力、膜厚測定条件、研磨終点検出条件などを含む。研磨レシピは、ワークピースの種類(すなわち、ワークピースの表面を構成する積層構造)ごとに異なる。特に、ワークピースの種類が異なると、ワークピースからの反射光のスペクトルが異なるため、研磨終点検出のための条件が異なる。
【0034】
もし、研磨対象ではないワークピース(すなわち、研磨装置に設定され研磨レシピに対応していない、種類が異なるワークピース)が研磨装置内に搬入され、研磨装置によりワークピースが研磨されると、研磨レシピがそのワークピースには適していなく、かつ研磨終点検出が適切に実行されないため、そのワークピースに対して正常な研磨を行うことができない。
【0035】
そこで、本実施形態では、処理システム30は、ワークピースWの研磨前または研磨開始後に、ワークピースWが研磨対象の正しいワークピースであるか、または研磨対象でない誤ったワークピースであるかを判定するように構成されている。研磨対象の正しいワークピースとは、研磨装置に設定されている研磨レシピに対応した(研磨レシピに適した)ワークピースであることを意味し、研磨対象でない誤ったワークピースとは、研磨装置に設定されている研磨レシピに対応していない(研磨レシピに適していない)ワークピースであることを意味する。
【0036】
処理システム30は、ワークピースWの研磨前または研磨開始後に、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、その検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力し、オートエンコーダから出力された出力データと検査用スペクトルデータとの差を算定する。検査用スペクトルデータは、図2および図3を参照して説明したスペクトル測定データと同じようにして生成されるので、その詳細な説明を省略する。
【0037】
一実施形態では、検査用スペクトルデータを作成するタイミングは、ワークピースWの研磨直前または研磨開始直後である。一実施形態では、処理システム30は、スラリーなどの研磨液を用いたワークピースWの化学機械研磨の前に行われるワークピースWの水研磨中に、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。ワークピースWの水研磨は、研磨液(例えばスラリー)に代えて水が液体供給ノズル5から研磨パッド2の研磨面2a上に供給されながら、研磨ヘッド1が研磨パッド2の研磨面2a上のワークピースWを保持した状態で行われる。水は、スラリーなどの研磨液とは異なり、エッチング機能がなく、かつ砥粒を含まない。加えて、水研磨中の研磨ヘッド1は、ワークピースWを研磨パッド2に対して強く押し付けない。したがって、水研磨中のワークピースWの研磨は進行しなく、ワークピースWの実質的な研磨は開始されない。
【0038】
一実施形態では、処理システム30は、スラリーなどの研磨液を用いたワークピースWの化学機械研磨の初期段階において、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成してもよい。化学機械研磨の初期段階の例としては、ワークピースWの化学機械研磨が開始されてから所定の時間が経過するまでの期間、またはワークピースWの化学機械研磨が開始されてから研磨テーブル3が所定の回数だけ回転するまでの期間が挙げられる。例えば、ワークピースWの化学機械研磨が開始された後、研磨テーブル3が1回転目をしているときに、処理システム30は、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。
【0039】
処理システム30は、上述のようにワークピースWの化学機械研磨の直前または化学機械研磨の開始直後に生成した検査用スペクトルデータをオートエンコーダに入力する。オートエンコーダは、研磨対象である少なくとも1枚の正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルである。訓練データに含まれる複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースの化学機械研磨の前または化学機械研磨の開始後に取得された、過去の複数のスペクトルデータである。例えば、訓練データに含まれる複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースの過去の水研磨または過去の化学機械研磨中に得られた複数のスペクトルデータである。
【0040】
訓練データに含まれる複数の指標スペクトルデータを生成するために使用される正しいワークピースは、1枚でもよく複数枚でもよい。一実施形態では、機械学習の精度を向上させるために、複数の正しいワークピースを用いて複数の指標スペクトルデータが生成され、これら指標スペクトルデータを含む訓練データが作成される。
【0041】
処理システム30の演算装置30bは、記憶装置30a内に格納されたプログラムに含まれる命令に従って、訓練データを用いた機械学習を実行し、オートエンコーダを構築する。機械学習により構築された学習済みモデルであるオートエンコーダは、記憶装置30a内に格納される。
【0042】
指標スペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときに、オートエンコーダは入力された指標スペクトルデータと実質的に同じデータを出力するように機械学習が行われる。研磨対象ではない誤ったワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されると、オートエンコーダは、入力されたスペクトルデータとは大きく異なるデータを出力する。
【0043】
処理システム30は、入力された検査用スペクトルデータと、オートエンコーダの出力データとの差(再構成誤差ともいう)がしきい値よりも大きいときは、その検査用スペクトルデータの作成に使用されたワークピースは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定するように構成されている。
【0044】
図4は、オートエンコーダの一例を示す模式図である。オートエンコーダは、入力されたスペクトルデータの特徴量を抽出するエンコーダ41と、抽出した特徴量から、入力されたスペクトルデータを再構築するデコーダ42を有している。
【0045】
図5は、研磨対象である正しいワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。オートエンコーダは、研磨対象である正しいワークピースを用いた複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを用いて機械学習により構築された学習済みモデルであるので、図5に示すように、研磨対象である正しいワークピースのスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときは、オートエンコーダは、入力されたスペクトルデータと実質的に同じ出力データを出力する。したがって、入力されたスペクトルデータと出力データとの差(再構成誤差)は小さい。
【0046】
図6は、研磨対象でない誤ったワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときの一例を示す図である。図6に示すように、研磨対象でない誤ったワークピースからの反射光のスペクトルデータがオートエンコーダに入力されたときは、オートエンコーダは、入力されたスペクトルデータと大きく異なる出力データを出力する。したがって、入力されたスペクトルデータと出力データとの差(再構成誤差)は大きい。
【0047】
このようにして、処理システム30は、ワークピースWの検査用スペクトルデータと、オートエンコーダから得られた出力データとの差に基づいて、ワークピースWが研磨対象である正しいワークピースか、または研磨対象でない誤ったワークピースかを判定する。ワークピースWが研磨対象でない誤ったワークピースであると処理システム30が判定した場合は、処理システム30はその判定結果を動作制御部9に送る。動作制御部9は、判定結果を受けて、研磨装置によるワークピースWの化学機械研磨を実行させない、または研磨装置によるワークピースWの化学機械研磨を停止させる。あるいは、動作制御部9は、判定結果を受けて、研磨装置に設定されている研磨レシピを、ワークピースW用に予め用意された研磨レシピに変えてもよい。
【0048】
図7は、ワークピースWが研磨対象でない誤ったワークピースであるか否かを判定する一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ101では、処理システム30は、ワークピースWの研磨直前または研磨開始直後にワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。例えば、処理システム30は、ワークピースWの水研磨中、またはワークピースWの化学機械研磨の初期段階において、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。
【0049】
ステップ102では、処理システム30は、上記ステップ101で生成したスペクトルデータをオートエンコーダに入力し、オートエンコーダから出力データを出力する。
ステップ103では、処理システム30は、処理システム30は、上記ステップ101で生成したスペクトルデータと、オートエンコーダから出力された出力データとの差を算定する。
ステップ104では、処理システム30は、上記差がしきい値よりも大きいか否かを判定する。
ステップ105では、処理システム30は、上記差がしきい値よりも大きいときに、ワークピースWは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する。
【0050】
ステップ106では、処理システム30は、ワークピースWの判定結果を動作制御部9に送る。動作制御部9は、判定結果を受けて、研磨装置によるワークピースWの研磨を実施させないか、あるいは研磨装置によるワークピースWの研磨を停止させるか、あるいは、研磨装置に設定されている研磨レシピを、ワークピースW用に予め用意された研磨レシピに変更する。
ステップ107では、処理システム30は、上記差がしきい値よりも小さいときは、ワークピースWは、研磨装置に設定されている研磨レシピに従って研磨される。
【0051】
オートエンコーダの機械学習に使用される訓練データは、過去の水研磨または過去の化学機械研磨中に得られた多数のスペクトルデータのうち、研磨対象である正しいワークピースの指標スペクトルデータのみを含む。過去の水研磨または過去の化学機械研磨中に得られた多数のスペクトルデータが、研磨対象でない誤ったワークピースのスペクトルデータを含む場合は、そのようなスペクトルデータを訓練データに使用しない必要がある。言い換えれば、多数のスペクトルデータから、研磨対象である正しいワークピースの指標スペクトルデータを抽出する必要がある。しかしながら、そのような作業は、非常に労力がかかる。
【0052】
そこで、一実施形態では、処理システム30は、過去のワークピースの化学機械研磨前または化学機械研磨の開始後に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類する。例えば、処理システム30は、過去の水研磨中または過去の化学機械研磨中に得られた多数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類する。次いで、処理システム30は、複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータを含む訓練データを作成し、訓練データを用いて機械学習を実行して学習済みモデルであるオートエンコーダを構築するように構成されている。複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数のスペクトルデータである。
【0053】
クラスタリングはクラスター分析とも呼ばれ、クラスタリングのアルゴリズムは、複数のスペクトルデータを、ある特徴に基づいて分類する人工知能のアルゴリズムの一種である。処理システム30の記憶装置30aには、複数のスペクトルデータを、クラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分けるためのプログラムが格納されている。処理システム30の演算装置30bは、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行することによって複数のスペクトルデータを複数のグループに分ける。
【0054】
図8は、複数のスペクトルデータがクラスタリングにより3つのグループに分けられる様子を示す図である。図8に示す例では、処理システム30は、指標スペクトルデータのグループである第2グループに含まれるスペクトルデータを訓練データとして用いて機械学習を実行する。クラスタリングは、過去に取得された膨大な数のスペクトルデータを、指標スペクトルデータとそれ以外のスペクトルデータに速やかに分けることができる。図8に示す例では、複数のスペクトルデータは3つのグループに分けられているが、2つのグループ、または4つ以上のグループに分けられることもある。
【0055】
次に、ワークピースWが研磨対象でない誤ったワークピースであるか否かを判定する他の実施形態について説明する。本実施形態に使用される光学式膜厚測定装置20の構成および動作は、図1乃至図8を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0056】
本実施形態では、処理システム30は、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定し、ワークピースWの研磨前または研磨開始後にワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成し、基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差を算定し、差がしきい値よりも大きいときに、検査用スペクトルデータの作成に使用されたワークピースWは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する。
【0057】
一実施形態では、検査用スペクトルデータを作成するタイミングは、ワークピースWの研磨直前または研磨開始直後である。一実施形態では、処理システム30は、ワークピースWの化学機械研磨の前に行われるワークピースWの水研磨中に、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。他の実施形態では、処理システム30は、ワークピースWの化学機械研磨の初期段階において、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。
【0058】
基準スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースからの複数の反射光の複数の指標スペクトルデータのうちの1つまたは平均であってもよい。複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された、過去の複数のスペクトルデータである。例えば、複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースの過去の水研磨中または化学機械研磨中に得られた複数のスペクトルデータである。
【0059】
複数の指標スペクトルデータを生成するために使用される正しいワークピースは、1枚でもよく複数枚でもよい。一実施形態では、基準スペクトルデータの精度を向上させるために、複数の正しいワークピースを用いて複数の指標スペクトルデータが生成され、これら指標スペクトルデータから基準スペクトルデータが決定される。基準スペクトルデータは記憶装置30aに格納される。
【0060】
処理システム30は、基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差を算定する。本実施形態では、処理システム30は、基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差として、ユークリッド距離を算定する。
【0061】
基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差がしきい値よりも小さいときは、処理システム30は、検査用スペクトルデータの生成に使用されたワークピースWは、研磨対象である正しいワークピースであると判定する。これに対して、基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差がしきい値よりも大きいときは、処理システム30は、検査用スペクトルデータの生成に使用されたワークピースWは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する。
【0062】
図9は、ワークピースWが研磨対象でない誤ったワークピースであるか否かを判定する一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ201では、処理システム30は、過去に取得された複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定する。過去に取得された複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースの研磨前または研磨開始後に取得された複数のスペクトルデータである。例えば、過去の複数の指標スペクトルデータは、研磨対象である正しいワークピースの過去の水研磨中または化学機械研磨中に得られた複数のスペクトルデータである。一実施形態では、基準スペクトルデータは、過去に取得された複数の指標スペクトルデータのうちの1つか、または過去に取得された複数の指標スペクトルデータの平均である。
【0063】
ステップ202では、処理システム30は、ワークピースWの研磨直前または研磨開始直後にワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。例えば、処理システム30は、ワークピースWの水研磨中、またはワークピースWの化学機械研磨の初期段階において、ワークピースWからの反射光の検査用スペクトルデータを作成する。
ステップ203では、処理システム30は、基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差を算定する。
ステップ204では、処理システム30は、上記差がしきい値よりも大きいか否かを判定する。
ステップ205では、処理システム30は、上記差がしきい値よりも大きいときに、ワークピースWは、研磨対象ではない誤ったワークピースであると判定する。
【0064】
ステップ206では、処理システム30は、ワークピースWの判定結果を動作制御部9に送る。動作制御部9は、判定結果を受けて、研磨装置によるワークピースWの研磨を実施させないか、あるいは研磨装置によるワークピースWの研磨を停止させるか、あるいは、研磨装置に設定されている研磨レシピを、ワークピースW用に予め用意された研磨レシピに変更する。
ステップ207では、処理システム30は、上記差がしきい値よりも小さいときは、ワークピースWは、研磨装置に設定されている研磨レシピに従って研磨される。
【0065】
図8を参照して説明したクラスタリングは、本実施形態にも適用することができる。すなわち、処理システム30は、過去に取得された複数のスペクトルデータをクラスタリングのアルゴリズムに従って複数のグループに分類し、複数のグループのうちの1つに属する複数の指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定するように構成されてもよい。
【0066】
一実施形態では、処理システム30は、過去に取得された複数の指標スペクトルデータを正規化して、複数の正規化された指標スペクトルデータを作成し、複数の正規化された指標スペクトルデータから基準スペクトルデータを決定するように構成されてもよい。さらに、処理システム30は、検査用スペクトルデータを正規化して、正規化された検査用スペクトルデータを作成するように構成されてもよい。
【0067】
図10(a)は、正規化される前の複数の指標スペクトルデータの一例を示すグラフであり、図10(b)は、正規化された後の複数の指標スペクトルデータの一例を示すグラフである。図10(a)と図10(b)との対比から分かるように、正規化は、指標スペクトルデータのレベルのばらつきを小さくすることができる。
【0068】
図11(a)は、正規化される前の複数の指標スペクトルデータから決定された基準スペクトルデータと、正規化される前の検査用スペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフであり、図11(b)は、正規化された後の複数の指標スペクトルデータから決定された基準スペクトルデータと、正規化された後の検査用スペクトルデータとの差を定期的に算定した結果を示すグラフである。図11(a)および図11(b)において、縦軸は基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差(ユークリッド距離)を表し、横軸は時間を表している。
【0069】
図11(a)と図11(b)との対比から分かるように、正規化処理は、基準スペクトルデータと検査用スペクトルデータとの差のばらつきを小さくすることができる。結果として、処理システム30は、ワークピースWが研磨対象の正しいワークピースであるか否かを正しく判定することができる。
【0070】
今まで説明した実施形態では、1つの光学センサヘッド25が設けられているが、本発明は上記実施形態に限定されず、複数の光学センサヘッド25が研磨テーブル3内に設けられてもよい。例えば、研磨テーブル3の回転に伴って複数の光学センサヘッド25がワークピースWの異なる部位(例えば中心領域とエッジ領域)を横切るように複数の光学センサヘッド25が配置されてもよい。
【0071】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0072】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 液体供給ノズル
6 テーブルモータ
9 動作制御部
10 ヘッドシャフト
20 光学式膜厚測定装置
22 光源
25 光学センサヘッド
27 分光器
30 処理システム
31 投光光ファイバーケーブル
32 受光光ファイバーケーブル
41 エンコーダ
42 デコーダ
W ワークピース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11