(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158624
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】形質転換ストレプトマイセス属細菌およびC-P結合を有する生理活性物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20241031BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20241031BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20241031BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/31
C12N15/54
C12P13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073979
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 健史
(72)【発明者】
【氏名】川端 孝博
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 伸
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
(72)【発明者】
【氏名】番場 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】安枝 寿
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064CA02
4B064CA19
4B064DA01
4B065AA50X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA04
4B065CA14
4B065CA16
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】放線菌を用いてC-P結合を有する生理活性物質を効率よく製造する技術を提供す
ること。
【解決手段】細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変され、かつC-P結合を有する生理活性物質生産能を有するストレプトマイセス属細菌を培養
培地で培養して培養培地および/または菌体中にC-P結合を有する生理活性物質を生産お
よび蓄積させることを含む、C-P結合を有する生理活性物質の製造方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変され、かつC-P結合を有する生理活性物質生産能を有するストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌
。
【請求項2】
細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子を過剰発現するように改変されていることにより、前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強されている、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子のコピー数を増加させることにより、および/またはホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現制御領域を改変することにより、前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子が過剰発現されている、請求項2に記載の細菌。
【請求項4】
前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子が、配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドである、請求項2に記載の細菌。
【請求項5】
前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼが、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、または配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質の類縁体であり、
前記類縁体が配列番号2のアミノ酸配列全体に対して85%以上の相同性を有するアミノ
酸配列を有するタンパク質である、請求項1に記載の細菌。
【請求項6】
ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces
viridochromogenes)に属する細菌またはストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces
hygroscopicus)に属する細菌である、請求項1に記載の細菌。
【請求項7】
C-P結合を有する生理活性物質の製造方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の細菌を培養培地で培養して培養培地および/または菌体中にC-P結合を有する生理活性物質を生産および蓄積させることを含む、製造方法。
【請求項8】
前記C-P結合を有する生理活性物質がビアラホス、L-グルホシネート、デヒドロホス(Dehydrophos)、ホスホマイシン(Fosfomycin)およびFR900098からなる群より選択される1種類以上である、請求項7に記載のC-P結合を有する生理活性物質の製造方法。
【請求項9】
前記C-P結合を有する生理活性物質がビアラホスである、請求項7に記載のC-P結合を有する生理活性物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くは微生物工業に関し、特に、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強されたストレプトマイセス属細菌およびビアラホスなどのC-P結合を有する生理活
性物質の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、化学合成農薬は安定して効果が高く、コスト的にも優れているため、除草剤として広く使用されている。しかしながら、近年、環境負荷の観点から、化学合成農薬に代わる微生物代謝産物由来の除草剤の需要が高まっている。微生物代謝産物由来の除草剤は、天然物であるために、一般的に生分解性に優れ、環境負荷が少ないという利点を有する。
【0003】
微生物代謝産物由来の除草剤としては、アミノ酸系除草剤であるビアラホスなどが知られている。ビアラホスはストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する放線菌により生産される天然物であり、例えば、ストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces
hygroscopicus)により生産されることが報告されている(非特許文献1)。また、変異育種によりビアラホスの生産性が向上したことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tachibana K. et al., 1986, 日本農薬学会誌, 11, 297-304
【非特許文献2】武部ら、1995、生物工学会誌、73、413-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ビアラホスなどのC-P結合を有する生理活性物質の生産能が向上した形質転
換ストレプトマイセス属細菌、および該形質転換ストレプトマイセス属細菌を用いた該生理活性物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ビアラホス生産菌において、ビアラホスの中間原料であるホスホエノールピルビン酸(PEP)とビアラホスの蓄積
量に負の相関があることを見出した。このことから、ビアラホスが高生産されている状態ではPEPの消費が促進されていると推定し、PEP量を増加させることでビアラホスなどのC-P結合を有する生理活性物質の生産性を向上できると推定した。そして、細胞中のホスホ
エノールピルビン酸シンターゼ活性を増強させることでビアラホスなどのC-P結合を有す
る生理活性物質の生産性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下を提供する。
[1]細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変され、かつC-P結合を有する生理活性物質生産能を有するストレプトマイセス(Streptomyces)属
細菌。
[2]細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子を過剰発現するように改変されていることにより、前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強されている、[1]に記載の細菌。
[3]細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子のコピー数を増
加させることにより、および/またはホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現制御領域を改変することにより、前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子が過剰発現されている、[2]に記載の細菌。
[4]前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子が、配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドである、[2]または[3]に記載の細菌。
[5]前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼが、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、または配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質の類縁体であり、
前記類縁体が配列番号2のアミノ酸配列全体に対して85%以上の相同性を有するアミノ
酸配列を有するタンパク質である、[1]~[4]のいずれかに記載の細菌。
[6]ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces
viridochromogenes)に属する細菌またはストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces
hygroscopicus)に属する細菌である、[1]~[5]のいずれかに記載の細菌。
[7]C-P結合を有する生理活性物質の製造方法であって、
[1]~[6]のいずれかに記載の細菌を培養培地で培養して培養培地および/または菌体中にC-P結合を有する生理活性物質を生産および蓄積させることを含む、製造方法。
[8]前記C-P結合を有する生理活性物質がビアラホス、L-グルホシネート、デヒドロホ
ス(Dehydrophos)、ホスホマイシン(Fosfomycin)およびFR900098からなる群より選択
される1種類以上である、[7]に記載のC-P結合を有する生理活性物質の製造方法。
[9]前記C-P結合を有する生理活性物質がビアラホスである、[7]に記載のC-P結合を有する生理活性物質の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変されたストレプトマイセス属細菌を用いることで、ビアラホスなどのC-P結合を有す
る生理活性物質を効率よく発酵生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ストレプトマイセス属菌における、C-P結合を有する生理活性物質の生産に関与する代謝分岐を示す図。
【
図2】プロトタイプ株および野生株のビアラホス生産量の測定結果を示す図。野生株におけるビアラホス濃度を「1」としたときの、プロトタイプ株におけるビアラホス濃度の相対値を示す。
【
図3】メタボローム解析の結果を示す図。メタボローム解析によって、プロトタイプ株および野生株における、中心代謝経路の主な化合物の蓄積量を調べた。各グラフの縦軸は乾燥菌体重量当たりの化合物蓄積量(nmol/mg(DCW))を、横軸は培養日数を示す。野生株を点線で、プロトタイプ株を実線で示す。
【
図4】バチルス・サブチリス(
Bacillus
subtilis)ATCC6633株の生育阻害アッセイの結果を示す写真。左は空ベクター導入株(ネガティブコントロール)をスポットしたプレート、右はppsA遺伝子プラスミド導入株をスポットしたプレートの写真である。
【
図5】バチルス・サブチリスATCC6633株の生育阻害アッセイの結果を示す図。左は空ベクター導入株(ネガティブコントロール)をスポットしたプレートの阻止円の直径の平均値を示す。右はppsA遺伝子プラスミド導入株をスポットしたプレートの阻止円の直径の平均値を示す。実験は一種類の菌株ごとに4クローンを用いた。
【
図6】ppsA遺伝子プラスミド導入株および空ベクター導入株(ネガティブコントロール)のビアラホス生産量の測定結果を示す図。実験は複数クローンを用いて行い、それらの平均値を示す。ネガティブコントロールにおけるビアラホス濃度を「1」としたときの、ビアラホス濃度の相対値を示す。
【
図7】ppsA遺伝子ゲノム導入株および空ベクター導入株(ネガティブコントロール)のビアラホス生産量の測定結果を示す図。ネガティブコントロールにおけるビアラホス濃度を「1」としたときの、ビアラホス濃度の相対値を示す。
【
図8】ストレプトマイセス属菌のビアラホス合成遺伝子クラスターの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、JCMとの文言から始まる受託番号の菌株は、Japan Collection of Microorganisms(国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発
室、郵便番号:305-0074、住所:茨城県つくば市高野台3-1-1)に保存されている微生物
に付与された番号であり、同機関から入手することができる。
【0011】
本明細書において、ATCCとの文言から始まる受託番号の菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(Address: 10801 University Boulevard Manassas, VA 20110, United States of America)から入手することができる。
【0012】
本明細書において、NBRCとの文言から始まる受託番号の菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
に保存されている微生物に付与された番号であり、同機関から入手することができる。
【0013】
本明細書において、DSMとの文言から始まる受託番号の菌株は、Deutsche Sammlung von
Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(Inhoffenstr. 7B 38124 Braunschweig Germany)に保存されている微生物に付与された番号であり、同機関から入手することができる。
【0014】
<1>本発明のストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌
本発明のストレプトマイセス属細菌は、細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変され、かつC-P結合を有する生理活性物質生産能を有するスト
レプトマイセス(Streptomyces)属細菌である。
【0015】
C-P結合を有する生理活性物質としては、ストレプトマイセス属細菌によって発酵生産
されるC-P結合を有する構造を含む化合物であれば特に制限されないが、ビアラホス、ビ
アラホス生合成経路と共通の中間体であってC-P結合を有するホスホノピルビン酸(phosphonopyruvate)から派生して生合成されるL-グルホシネート、デヒドロホス(Dehydrophos)、ホスホマイシン(Fosfomycin)、FR900098などのC-P結合を有する生理活性物質が挙げられる。
【0016】
「ビアラホス」は、別名ホスフィノトリシントリペプチド(PTT)ともいい、2分子のL-アラニンと1分子のアミノ酸からなるホスフィノトリシン(PT)である。ビアラホスは、下記の化学式で示される。
【0017】
【0018】
「ビアラホス」の用語は、遊離形態のビアラホスに限られず、それらの塩もしくは水和物、またはビアラホスと別の有機もしくは無機の化合物とによって形成された付加物も包
含してよい。すなわち、「ビアラホス」の用語は、例えば、遊離形態のビアラホスまたはビアラホスの水和物もしくは付加物を意味し得る。「ビアラホス」の用語は、例えば、ビアラホス酸の、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水和物、二水和物、三水和物、一塩酸塩、二塩酸塩等の塩や両性イオン等の分子内塩を包含し得る。
【0019】
ビアラホスは、放線菌の一次代謝経路において、複数の中間体を経て生成される。本発明者らは、ビアラホス生産菌の細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を増強させることで、ビアラホスの生産性が向上することを見出した。このビアラホスの生産性の向上は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼにより、ビアラホスの中間体の一つであるホスホエノールピルビン酸(PEP)量が増加することによると推測される。
【0020】
また、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの活性を増強することにより、
図1にあるように、ビアラホス(
図1ではPTTと記載する)だけではなく、ビアラホスの前駆体であ
るL-グルホシネートや、ビアラホス生合成経路から分岐するデヒドロホス(Dehydrophos
)、ホスホマイシン(Fosfomycin)、FR900098などのC-P結合を有する生理活性物質の生
合成も向上させると考えられる。これらの生理活性物質は、ビアラホスと同様に、ホスホエノールピルビン酸を中間原料として生合成される物質である。なお、
図1は、Blodgett
et al. 2016, J Antibiot (Tokyo). 69, 15-25において報告された図である。
【0021】
L-グルホシネートは下記の化合物であり、農薬として広く使用される化合物である。L-グルホシネートにアラニンが2分子結合することでビアラホスとなる。なお、L-グルホシネートは、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水和物、二水和物、三水和物、一塩酸塩、二塩酸塩等の塩や両性イオン等の分子内塩を包含し得る。L-グルホシネートはビアラホスの前駆体であり、ビアラホス生産菌によって生成される。
【0022】
【0023】
デヒドロホス(Dehydrophos)は下記の化合物であり、殺菌剤として報告されている(Circello B.T. et al., 2010, Chemistry & Biology, 17, 402-411)。デヒドロホスは、
例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水和物、二水和物、三水和物、一塩酸塩、二塩酸塩等の塩や両性イオン等の分子内塩を包含し得る。ストレプトマイセス属細菌にデヒドロホスを生産させるには上記の文献に記載のデヒドロホス生合成遺伝子クラスターを発現増強させることが好ましい。
【0024】
【0025】
ホスホマイシン(Fosfomycin)は下記の化合物であり、抗生物質として報告されている
(Kim SY et al., 2012, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 56, 4175-4183)。
ホスホマイシンは、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水和物、二水和物、三水和物、一塩酸塩、二塩酸塩等の塩や両性イオン等の分子内塩を包含し得る。ストレプトマイセス属細菌にホスホマイシンを生産させるには上記の文献に記載のホスホマイシン生合成遺伝子を発現増強させることが好ましい。
【0026】
【0027】
FR900098は下記の化合物であり、抗マラリア薬候補物質として期待されている化合物である(Eliot AC et al., 2008, Chem. Biol. 15, 765-770)。FR900098、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水和物、二水和物、三水和物、一塩酸塩、二塩酸塩等の塩や両性イオン等の分子内塩を包含し得る。ストレプトマイセス属細菌にFR900098を生産させるには上記の文献に記載のFR900098生合成遺伝子を発現増強させることが好ましい。
【0028】
【0029】
本発明のストレプトマイセス属細菌は、細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強されるように改変され、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの活性が非改変株と比較して増強されている限り、ストレプトマイセス属に属する任意のC-P結合を有す
る生理活性物質生産菌であってよい。
【0030】
「C-P結合を有する生理活性物質生産菌」の用語は、当該細菌を培養培地で培養したと
きに、培地および/または菌体中にC-P結合を有する生理活性物質を生成し、蓄積する能
力を有するストレプトマイセス属細菌を意味し得る。
【0031】
また、「C-P結合を有する生理活性物質生産菌」の用語は、たとえばストレプトマイセ
ス・ビリドクロモゲネス(S. viridochromogenes)JCM4977株等の野生株または親株と比
較して、より多い量でC-P結合を有する生理活性物質を培地中および/または菌体中に生
産し、蓄積する能力を有する細菌も意味し得る。また、「C-P結合を有する生理活性物質
生産菌」の用語は、例えば、0.1 g/l以上、0.5 g/l以上、あるいは1.0 g/l以上の量でC-P結合を有する生理活性物質を培地中に蓄積することができる細菌も意味し得る。
【0032】
ストレプトマイセス属細菌は、本来的にC-P結合を有する生理活性物質生産能を有して
いてもよく、突然変異法またはDNA組み換え技術を使用してC-P結合を有する生理活性物質生産能を有するように改変されたものでもよい(例えば、非特許文献1,2)。前記細菌は、本来的にC-P結合を有する生理活性物質生産能を有するストレプトマイセス属細菌に
おいて、またはC-P結合を有する生理活性物質生産能を付与されたストレプトマイセス属
細菌において、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変させるこ
とにより得ることができる。また、ストレプトマイセス属細菌は、例えば、該細菌が本来的に有するビアラホス合成遺伝子クラスターに含まれる1以上の遺伝子を過剰発現するように改変されたものでもよい。
【0033】
「C-P結合を有する生理活性物質生産能」の用語は、当該細菌を培養培地で培養したと
きに、培地および/または菌体から回収できる程度に、培地および/または菌体中にC-P
結合を有する生理活性物質を生産し、蓄積する、ストレプトマイセス属細菌の能力を意味し得る。
【0034】
ストレプトマイセス属細菌としては、特に制限されないが、例えば、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces
viridochromogenes)に属する細菌、ストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)に属する細菌、ストレプトマイセス・ルリダス(Streptomyces
luridus)に属する細菌、ストレプトマイセス・ルベロムリナス(Streptomyces
rubellomurinus)に属する細菌などが挙げられる。中でも、
ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスに属する細菌またはストレプトマイセス・ヒグロスコピクスに属する細菌が好ましく、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスに属する細菌がより好ましい。
これらは本来的にビアラホス生産能を有しており、C-P結合を有する生理活性物質生産
能を有するストレプトマイセス属細菌として好適である。
【0035】
ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスに属する細菌としては、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスJCM4977株、Tue57株(Weitnauer, G. et. al.,(2002). Microbiology, 148(2), 373-379.)、subsp. komabensis(ATCC29814)株、subsp. sulfomycini株(NBRC13830)などが挙げられる。
ストレプトマイセス・ヒグロスコピクスに属する細菌としては、ストレプトマイセス・ヒグロスコピクス subsp. hygroscopicus(ATCC21589)株、subsp. ascomyceticus(ATCC14891)株、subsp. yingchengensis株(Qin, Z.et al.(1994). J. bacterial., 176(7), 2090-2095.)、subsp. limoneus(ATCC21431)株、subsp. duamyceticus(JCM4427)株、subsp. Enhygrus(DSM41913)株subsp. crystallogenes(NBRC16551)株、subsp. azalomyceticus(ATCC13810)株、subsp. jinggangensis株(Yu, Y. et. al., (2005). Appl. Environ. Microbiol., 71(9), 5066-5076.)、subsp. aabomyceticus(ATCC21449)株、subsp. hialomyceticus(NBRC13946)株などが挙げられる。
【0036】
<2>ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性の増強
「細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変された」の用語は、改変された細菌において、非改変細菌と比較して、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの発現量および/または総活性が増加するように、あるいはホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子を過剰発現するように、すなわちホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)がより高くなるように、細菌が改変されていることを意味し得る。「非改変細菌」の用語は、上記比較のための対照となり得る細菌株を意味し得る。「非改変細菌」を、「非改変株」または「非改変細菌株」ともいう。非改変細菌株としては、ストレプトマイセス属に属する細菌(例えばストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス)の野生株や親株が挙げられる。非改変細菌株として、具体的には、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスJCM4977株が挙げら
れる。
【0037】
「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子」としては、ストレプトマイセス属細菌の遺伝子を用いることも、大腸菌などの他の生物由来の遺伝子を用いることもできる。
【0038】
「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子」は、配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドであることが好ましい。
配列番号1の塩基配列は、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスのホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子(ppsA遺伝子)の塩基配列である。
【0039】
ppsA遺伝子は、配列番号1の塩基配列に基づいて作製したプライマー、例えば配列番号9および10に示すプライマーを用いて、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスのゲノムDNAを鋳型とするPCR法により取得することができる。大腸菌などの他の微生物のホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子も、同様にして取得することができる。
【0040】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、同一性が高い二つのDNA同士、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有する2つのDNAがハイブリダイズするが、それより同一性の低い2つのDNAがハイブリダイズしない条件が挙げられる。例えば60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは、68℃、0.1× SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~
3回洗浄する条件を挙げることができる。すなわち、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1の塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列を有するものであってもよい。
【0041】
さらに、「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子」は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、または付加を含む塩基配列を有するものであってもよい。ここで、1若しくは数個とは、例えば、1~50個、1~30個、1~10個、または1~5個であることを意味する。「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子」は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1の塩基配列において、その5’末端側および/または3’末端側が欠失した部分配列であってもよい。
【0042】
「ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性を有するタンパク質」は、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、または配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質の類縁体であることが好ましい。すなわち、本発明のストレプトマイセス属細菌は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの発現量および/または総活性が増加するよう改変されていることにより、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強されていることが好ましく、前記ホスホエノールピルビン酸シンターゼは、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、または配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質の類縁体であることが好ましい。
配列番号2のアミノ酸配列は、ppsA遺伝子によりコードされるホスホエノールピルビン酸シンターゼのアミノ酸配列である。配列番号2のアミノ酸配列を表1に示す。
【0043】
【表1】
表中、アミノ酸配列は、左から右へN末端からC末端の向きである。
【0044】
「配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質の類縁体」は、配列番号2に示すアミノ酸配列と比較して、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付
加のいずれであるにせよ、1つまたはそれ以上の改変を配列中に有するタンパク質であっ
て、非改変型ホスホエノールピルビン酸シンターゼの活性または機能が維持されているか、その三次元構造が非改変型ホスホエノールピルビン酸シンターゼ(例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質等)に対して有意には変更されていないタンパク質を意味し得る。類縁体タンパク質中の改変の数は、タンパク質の三次元構造中のアミノ酸残基の位置またはアミノ酸残基の種類による。類縁体タンパク質中の改変の数は、厳密に限定されるものではないが、配列番号2において1~30、別の例では1~20、別の例では1
~15、別の例では1~10、あるいは別の例では1~5であってよい。これは、アミノ酸は互
いに高い相同性を有し得るものであり、それらアミノ酸間の改変によっては、タンパク質の活性あるいは機能が影響されない場合があるか、タンパク質の三次元構造が非改変型タンパク質に対して有意には変化しない場合があるためである。従って、類縁体タンパク質は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの活性あるいは機能が維持されているか、タンパク質の三次元構造が非改変型ホスホエノールピルビン酸シンターゼ(例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質等)に対して有意には変更されていない限り、配列番号2のアミノ酸配列全体に対して85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、あるいは99%以上の相同性を有するアミ
ノ酸配列を有するタンパク質であってよい。
【0045】
「ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強される」との表現は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの総量および/または総活性が、非改変細菌株と比較して増加することを意味し得る。ホスホエノールピルビン酸シンターゼの総量および/または総活性は、例えば、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現レベルを非改変細菌株と比較して増加させる(すなわち、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子を過剰発現させる)ことにより、またはホスホエノールピルビン酸シンターゼの分子あたりの活性(比活性ともいう)を非改変細菌株と比較して増加させることに
より、増加させることができる。ホスホエノールピルビン酸シンターゼの総量または総活性の増加は、例えば、細胞当たりのホスホエノールピルビン酸シンターゼの量および/または活性(細胞当たりのホスホエノールピルビン酸シンターゼの平均量および/または平均活性であってよい)の増加として測定することができる。細菌は、細胞あたりのホスホエノールピルビン酸シンターゼの量および/または活性が、例えば、非改変細菌株における量および/または活性の150%以上、200%以上、または300%以上に増加するように改変することができる。ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性は、ピルビン酸を基質としてホスホエノールピルビン酸シンターゼを反応させた際に生じるAMPの濃度測定などにより
測定することができる。ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ量の測定によっても評価することができ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ量の測定には、SDS-PAGEと、その後の免疫ブロッティング(ウェスタンブロッティング)やタンパク質試料の質量分析などの公知の方法を用いることができる。
【0046】
また、「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子が過剰発現される」との表現は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)が非改変細菌株におけるそのレベルより高いことを意味し得る。従って、「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子が過剰発現される」の用語は、「ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現が増強されるまたは増加する」の用語と代替可能または同等に用いることができる。ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現レベルの増加は、例えば、細胞当たりの該遺伝子の発現レベル(細胞当たりの該遺伝子の平均発現レベルであってよい)の増加として測定することができる。細菌は、細胞あたりのホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現レベルが、例えば、非改変細菌株における発現レベルの150%以上、200%以上、または300%以上に増加するように改変することができる。
【0047】
ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現を増強するために使用することができる方法としては、限定するものではないが、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子のコピー数、例えば、細菌の染色体における該遺伝子のコピー数および/または細菌に保持された自律複製型プラスミドにおける該遺伝子のコピー数を増加させることが挙げられる。該遺伝子のコピー数は、例えば、遺伝子を細菌の染色体に導入すること、および/または該遺伝子を含む自律複製型プラスミドを細菌に導入することにより、増加させることができる。ストレプトマイセス属細菌のそのような改変は、当業者に周知の遺伝子工学的手法により実施できる。
【0048】
ベクターとしては、限定するものではないが、pGM1190、pSET152、pKC1139、SCP2、SLP1.2、pIJ101等のプラスミドが挙げられる。ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコー
ドする遺伝子は、例えば、相同組み換え等によって細菌の染色体DNAに導入することもで
きる。ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、相同組み換えを染色体DNA中に複数のコピーを有する配列を使用して行うことにより、染色体DNAに多コピーのホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子を導入することができる。染色体DNA中に複数のコピーを有する配列としては、限定するものではないが、レペティティブDNAや転移因子の末端に存在するインバーテッドリピートが挙げられる。さらに、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子をトランスポゾンに組み込んで転移させることにより、染色体DNAに多コピーの該遺伝子を導入することができる。
【0049】
ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現を増強するために使用することができる別の方法としては、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現制御領域を改変することにより、該遺伝子の発現レベルを増加させることが挙げられる。該遺伝子の発現制御領域は、例えば、該遺伝子の本来の発現制御領域を野生
型のおよび/または改変された外来の発現制御領域を導入することにより、改変することができる。「発現制御領域」を、「発現制御配列」ともいう。発現制御領域としては、プロモーター、エンハンサー、アテニュエーターと終結シグナル、抗終結シグナル、リボソーム結合部位(RBS)、およびその他の発現制御エレメント(例えば、リプレッサーまた
はインデューサーが結合する領域、および/または、例えば転写されたmRNA中の転写および翻訳の制御タンパク質の結合部位)が挙げられる。このような制御領域は、例えばSambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual
”,2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されている。ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現制御領域の改変は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子のコピー数の増加と組み合わせてもよい。
【0050】
ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子の発現を増強するのに適したプロモーターの例としては、本来のppsAプロモーターより強い強力なプロモーターが挙げられる。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、msrAプロモーター、Pm1プロモーター(Bifidobacterium属由来)、ならびにラムダファージのPRおよびPLプロモ
ーター等の強力なプロモーターとして知られているプロモーターや、pmiプロモーターが
挙げられる。その他に、ストレプトマイセス属細菌中で高いレベルの遺伝子発現を与える強力なプロモーターを使用することができる。
【0051】
プラスミドDNAの調製、DNAの切断、DNAの結合、DNAの形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択、変異の導入等の、DNAの組み換え分子の操作および分子クロー
ニングのための方法は、当業者に周知の通常の方法であってよい。そのような方法は、例えば、Sambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A
Laboratory Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、あるいはGreen M.R. and Sambrook J.R., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 4thed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)、Bernard R. Glick, Jack J.Pasternak and Cheryl L. Patten, “Molecular Biotechnology: principles andapplications of recombinant DNA”, 4th ed., Washington, DC, ASM Press (2009)に記載されている。
【0052】
組み換えDNAを用いた操作法としては、例えば、形質転換、トランスフェクション、感
染、接合、可動等の従来の方法を含め、任意の方法を用いることができる。タンパク質をコードするDNAを用いた細菌の形質転換、トランスフェクション、感染、接合、または可
動により、当該細菌に該DNAによりコードされるタンパク質を合成する能力を付与するこ
とができる。形質転換、トランスフェクション、感染、接合、および可動の方法としては、任意の方法が挙げられる。
【0053】
細菌は、本発明の範囲から逸脱することなく、上記のような性質に加えて、様々な栄養要求性、薬物耐性、薬物感受性、薬物依存性等の特定の性質を有することができる。
【0054】
ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子のコピー数、遺伝子の存在あるいは不在は、例えば、染色体DNAを制限処理した後、遺伝子配列に基づいたプローブを
使用するサザンブロッテイング、または蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)等
を行うことにより、測定することができる。遺伝子発現のレベルは、ノーザンブロッティングや定量的RT-PCR等の様々な周知の方法を使用して遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより決定することができる。
【0055】
本発明のストレプトマイセス属細菌は、細胞中のホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性が増強するように改変されていることで、C-P結合を有する生理活性物質の生産が増
強され得る。
「C-P結合を有する生理活性物質の生産が増強される」とは、改変された細菌において
、非改変細菌と比較して、C-P結合を有する生理活性物質の生産量が増加されることを意
味し得る。具体的には、例えば、改変された細菌が、非改変細菌と比較して、1.1倍以上、1.3倍以上、または1.5倍以上の量のC-P結合を有する生理活性物質を培地中お
よび/または菌体中に生産し、蓄積することを意味し得る。「非改変細菌」の用語は、上記比較のための対照となり得る細菌株を意味し得る。前記細菌株としては、ストレプトマイセス属に属する細菌(例えばストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス)の野生株や親株が挙げられる。非改変細菌株として、具体的には、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスJCM4977株が挙げられる。
生産が増強されるC-P結合を有する生理活性物質は、1種または2種以上のC-P結合を有する生理活性物質であってよい。
【0056】
ビアラホスなどのC-P結合を有する生理活性物質の生産量は、公知の方法により測定す
ることができ、例えば、培地または菌体中に蓄積したC-P結合を有する生理活性物質をLC-MS/MSにより測定することができる。
【0057】
<3>C-P結合を有する生理活性物質の製造方法
本発明のC-P結合を有する生理活性物質の製造方法は、本発明のストレプトマイセス属
細菌を培養培地で培養して培養培地および/または菌体中にC-P結合を有する生理活性物
質を生産および蓄積させることを含む。C-P結合を有する生理活性物質は、上記のような
形態で製造され得る。C-P結合を有する生理活性物質は、特に、遊離形態、もしくはその
塩、またはそれらの混合物として製造され得る。例えば、C-P結合を有する生理活性物質
のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩が、前記方法により製造され得る。
【0058】
また、本発明のC-P結合を有する生理活性物質の製造方法は、本発明のストレプトマイ
セス属細菌を培養培地で培養して培養培地および/または菌体中にC-P結合を有する生理
活性物質を生産および蓄積させた後に、前記培養培地および/または菌体からC-P結合を
有する生理活性物質を回収する工程を含む。同方法は、任意で、培養培地および/または菌体からC-P結合を有する生理活性物質を精製する工程を含み得る。
【0059】
細菌の培養、ならびに任意での培地などからのC-P結合を有する生理活性物質の回収お
よび精製は、微生物を使用してC-P結合を有する生理活性物質を製造する従来の発酵法と
同様に実施することができる。培養培地は、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、無機イオン、並びにその他の有機および無機成分を必要に応じて含む典型的な培地等の、合成培地あるいは天然培地でよい。炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、澱粉加水分解物等の糖類、エタノール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール等のアルコール、グルコン酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸、および脂肪酸等を使用することができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物等の有機窒素、アンモニアガス、およびアンモニア水等を使用することができる。さらに、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、およびコーンスティープリカー、綿実カス等も使用することができる。培地は、これらの窒素源の1種またはそれ以上を含むことができる。
硫黄源としては、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン等が挙げられる。培地は、炭素源、窒素源、および硫黄源に加えて、リン源を含んでもよい。リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ピロ燐酸等のリン酸ポリマー等を使用することができる。ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチンアミド、ビタミンB12等のビタミンや、その他の必要物質、例えばアデニン、RNA等の核酸、アミノ酸、ペプトン、カザミノ酸、酵母エキス等の有機栄養素等を、適当量(痕跡
量であってもよい)存在させることができる。これら以外に、必要であれば、少量のリン酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を加えてもよい。
【0060】
培養は、C-P結合を有する生理活性物質の製造法で使用される細菌の培養に適した条件
で実施することができる。例えば、培養は、好気的条件下で16~72時間、または16~24時間実施することができる。培養中の培養温度は、28~45℃、または28~37℃の範囲内に制御することができる。pHは、5~8の間、または6~7.5の間に調節することができる。pHは、無機もしくは有機の酸性またはアルカリ性物質、例えば、尿素、炭酸カルシウム、またはアンモニアガス、を使用することにより調節することができる。
【0061】
培養後、培養培地からC-P結合を有する生理活性物質を回収することができる。また、
培養後、菌体からC-P結合を有する生理活性物質を回収することができ、具体的には、菌
体を破砕し、菌体や菌体破砕懸濁物(細胞デブリともいう)等の固形分を除去して上清を取得し、上清からC-P結合を有する生理活性物質を回収することができる。菌体の破砕は
、例えば、高周波音波を用いた超音波破砕等の周知の方法により実施することができる。固形分の除去は、例えば、遠心分離または膜ろ過により実施することができる。培養培地や上清等からのC-P結合を有する生理活性物質の回収は、例えば、濃縮、晶析、イオン交
換クロマトグラフィー、中圧または高圧の液体クロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせ等の慣用の技術により実施することができる。
【0062】
回収されるC-P結合を有する生理活性物質は、C-P結合を有する生理活性物質以外に、例えば、菌体、培地成分、水分、および微生物の代謝副産物等を含んでいてもよい。C-P結
合を有する生理活性物質は、所望の程度に精製されていてもよい。回収されるC-P結合を
有する生理活性物質の純度は、例えば50%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上であってよい。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1:プロトタイプ株のメタボローム解析]
ビアラホス生合成酵素遺伝子クラスターを1コピー追加した株(プロトタイプ株:後述の参考例)および野生株(ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(S.
viridochromogenes)JCM4977株)を用いて、ビアラホス生産性の評価およびメタボローム解析を行った。
(1)ジャー培養
150 mlのYS培地 (1 重量% 可溶性デンプン、0.2 重量% 酵母エキス)を500 ml入れたバ
ッフル付フラスコに、プロトタイプ株および野生株をそれぞれ植菌し、前々培養(28℃、135 rpm)を2日間実施した。その後、前々培養液10mlを、150 mlのMYG培地 (1 重量% 麦芽
エキス、0.4 重量% 酵母エキス、0.4 重量% グルコース)を入れた500 mlバッフル付フラ
スコに植菌し、前培養(28℃、135 rpm)を1日間実施した。得られた前培養液15 mlを1Lの
ジャー培養液 (0.4重量% グルコース、1.5 重量% 麦芽エキス、 1.2重量% 酵母エキス、0.0001重量% CoCl2・6H2O)に植菌し、2Lのジャーファーメンター装置で28℃、pH 7.4、通
気1slpm(1L/min)の条件で12日間培養した。なお、培養4日目以降は溶存酸素濃度を0.5 ppmに制御した。また、5、6、7および10日目に追加添加培地 (20重量% グルコース、10重量% 酵母エキス、0.2重量% KH2PO4)を50 ml添加した。
【0065】
(2)ビアラホス生産量の測定
ジャー培養後、LC-MS/MSで分析することにより野生株およびプロトタイプ株のそれぞ
れの培養上清中に分泌されたビアラホスの濃度を測定した。
【0066】
(3)メタボローム解析
ジャー培養後、野生株およびプロトタイプ株のそれぞれの培養液から集菌し、液体窒素中で速やかに冷却し、メタノール/クロロホルム/水を用いて代謝物を抽出し、LC-MS/MSで分析することでメタボローム解析を行った。
【0067】
(4)結果
ビアラホス生産量の測定結果を
図2に示す。
図2に示す通り、プロトタイプ株は野生株に比べてビアラホス生産性が高いことが示された。また、メタボローム解析の結果として、中心代謝経路の主な化合物の蓄積量を
図3に示す。プロトタイプ株では、PEPの蓄積量
が野生株に比べて低い一方、他の化合物では野生株との顕著な差は見られなかった。ビアラホス生産量の測定とメタボローム解析の結果から、ビアラホスの中間原料であるPEPと
ビアラホスの蓄積量には負の相関があることが示された。すなわち、プロトタイプ株のようにビアラホスが高生産されている状態では、PEPの消費が促進されていると推定した。
そして、PEP量を増大することでビアラホス生産性を向上できる可能性があると推定した
。
【0068】
[実施例2:ppsA遺伝子プラスミド導入株の、ビアラホス感受性細菌を用いたビアラホス生産性評価]
ppsA遺伝子とpmiプロモーターを連結した自律複製型プラスミドをプロトタイプ株に導
入した株(ppsA遺伝子プラスミド導入株)を作製し、当該株に対してビアラホス感受性細菌の生育阻害アッセイを行うことで、ビアラホスの生産性を評価した。
【0069】
(1)ppsA遺伝子プラスミド導入株の作製
(プラスミドの作製)
まず、自律複製型プラスミドpGM1190 (addgene, #69994)のアプラマイシン耐性遺伝子
をカナマイシン耐性遺伝子に置き換えたプラスミド(pGK)を作製した。具体的には、pGM1190を鋳型としてI-44プライマー(配列番号5)とI-45プライマー(配列番号6)を用いてインバースPCRを行い、薬剤耐性マーカーを入れかえるためにアプラマイシン耐性遺伝
子を削除しつつNsiIサイトおよびSpeIサイトを導入した。得られたDNA断片をNsiIとSpeI
で処理したものに、カナマイシン耐性遺伝子のNsiI-NheI断片を挿入した。なお、カナマ
イシン耐性遺伝子は、pRI909(Takarabio、Code 3260)を鋳型としてI-17プライマー(配列番号7)とI-46プライマー(配列番号8)を用いてPCR法にて増幅することにより、作
製した。
【0070】
ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(S.
viridochromogenes)JCM4977株のゲノ
ムDNAを鋳型として、I-162プライマー(配列番号9)およびI-163プライマー(配列番号
10)を用いて、PCR法にてppsA遺伝子(配列番号1)を増幅した。
【0071】
JCM4977株のゲノムDNAを鋳型として、I-48プライマー(配列番号11)およびI-49プライマー(配列番号12)を用いて、PCR法にてpmiプロモーター断片(配列番号4)を増幅した。
【0072】
pSET152(Creative Biogene, Cat. No. OVT2796)を鋳型として、I-54プライマー(配
列番号13)およびI-55プライマー(配列番号14)を用いて、PCR法にてpSET152由来の転写ターミネーター領域(配列番号3)を増幅した。
【0073】
得られたpmiプロモーターのEcoRI-NsiI断片、ppsA遺伝子のNsiI-SpeI断片、およびpSET152由来の転写ターミネーター領域のXbaI-HindIII断片を、pGKのEcoRI-HindIIIギャップ
に挿入した。
【0074】
表2にppsA遺伝子、プロモーター、およびターミネーターの塩基配列を示す。また、表3に用いたプライマーの塩基配列を示す。
【0075】
【表2】
表2中、配列は、左から右へ5’末端から3’末端の向きである。
【0076】
【表3】
表3中、配列は、左から右へ5’末端から3’末端の向きである。
【0077】
(接合用大腸菌の形質転換)
構築した各プラスミドを用いて、以下の手順により、大腸菌をエレクトロポレーション法にて形質転換させた。
まず、以下の手順により、大腸菌S17-1株のコンピテントセルを作製した。
グリセロールストックの大腸菌S17-1株をLBプレートに画線後、37℃で16~20時間培養
し、シングルコロニーを取得した。シングルコロニーを2.5 mLのLB培地に植菌し、37 ℃
、200 rpmで16時間、前培養した。前培養液200 μlを20 mLのLB培地に植菌し、37 ℃、200 rpmでOD600=0.5~0.8になるまで培養した。遠心(4℃、3000 x g、10分)による集菌
後、上清を捨て、氷冷しておいた滅菌水20 mLを加え、ペレットをピペットで優しく懸濁
(洗浄)した。集菌および洗浄の工程をもう一度繰り返した後、再び遠心(4℃、3000 x g、10分)による集菌を行い、上清を捨て、ペレットを200 μlの氷冷しておいた10% グリセロールにピペットで優しく懸濁した。この懸濁液を50μlずつチューブ(エッペンドル
フ社製)に分注することでS17-1株のコンピテントセルを作製した。
【0078】
作製したコンピテントセルへ、構築したプラスミド(~2 μL)を添加し、エレクトロ
ポレーション用セル(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)に移した後、氷上で10分間静置した。1.8 kV、25 μF、200 Ωの電気パルスを与えた後、1 mLのLB培地を添加
し、37 ℃で2時間の回復培養を行った。その後、20000 x g、1分の条件で集菌を行い、上清を除いてから適当量の培地に再懸濁し、100 μg/mLのカナマイシンを含む2×YT寒天培
地に塗布し、37 ℃で一晩培養した。
また、構築したプラスミドの代わりに空ベクター(pGK)を用いたこと以外は同様の手
順により大腸菌を形質転換させて培養し、これをネガティブコントロールとした。
【0079】
(ストレプトマイセス属細菌の形質転換)
形質転換させた大腸菌を用いて、以下の手順により、ストレプトマイセス属細菌を接合伝達法にて形質転換させた。
上記培養により得られた、形質転換用プラスミドを持つ大腸菌S17-1株を、100 μg/mL
のカナマイシンを含む2 mLのLB培地に植菌し、37 ℃、200 rpmで一晩前培養した。前培養液100 μLを新たな10 mLのLB培地 (100 μg/mLのカナマイシンを含む)に植菌し、OD600=0.4~0.8になるまで37 ℃、200 rpmで培養した。8000 x g、10分の条件で集菌し上清を捨て、集菌した菌体を10 mLのLB培地にピペッティングで懸濁(洗浄)し、集菌および洗浄
の工程を2回繰り返して培養液中に含まれる抗生物質を除去した。その後、再び集菌した菌体ペレットを1 mLのLB培地に再懸濁した。この大腸菌懸濁液のうち500 μLを同じく500
μlの2×YT培地に懸濁し、50℃で10 分間ヒートショックを与えた後、氷上で静置してお
いたプロトタイプ株の胞子に混ぜ合わせ、軽く遠心した。なお、胞子は20 mlのISP4平板
培地(2 重量% 寒天、1 重量% デンプン、0.2 重量% 炭酸カルシウム、0.2 重量% 硫酸アンモニウム、0.1 重量% リン酸水素二カリウム、0.1 重量% 硫酸マグネシウム7水和物、0.1 重量% 塩化ナトリウム、0.1 重量% 酵母エキス、0.0001 重量% 硫酸鉄(II)7水和物
、0.0001 重量% 塩化マンガン7水和物、0.0001 重量% 硫酸亜鉛7水和物)に放線菌をプレーティングし、28℃で二週間程度培養することで取得した。
上記遠心後、50 μL程残して上清を捨て、残した上清に菌体ペレットを再懸濁した後、滅菌水で希釈系列を作製し、20 mlのISP4平板培地に100 μL塗布して、28℃で一晩培養した。1 ml 滅菌水に0.5 mg ナリジクス酸および10μlの100 mg/mLカナマイシンを加え、培地に重層し、28℃でさらに3~5日培養して、ストレプトマイセス属細菌の形質転換体(ppsA遺伝子プラスミド導入株)を取得した。
また、空ベクター(pGK)を用いて形質転換させた大腸菌を用いて、同様の手順により
ストレプトマイセス属細菌の形質転換体(空ベクター導入株)を取得した。
【0080】
(2)ビアラホス感受性細菌の生育阻害アッセイ
Nutrient agar(0.5 重量% ペプトン、0.3 重量% 酵母エキストラクト、0.5 重量% 塩
化ナトリウム、2 重量% 寒天)にて35℃で終夜培養したビアラホス感受性のバチルス・サブチリスATCC6633株を、5mLのDSM培地(0.8重量% Bacto nutrient broth、0.01 重量% 塩化カリウム、0.0012 重量% 硫酸マグネシウム、1 mM Ca(NO3)2、0.01 mM MnCl2、1 mM FeSO4、pH 7.6)に植菌し、試験管培養を37 ℃、150 rpmの条件で24時間行った。得られた
培養液を滅菌水で希釈してOD600=3.0に調整し、150 μLを検定用培地(0.3 重量% KH2PO4、0.7 重量% K2HPO4、0.05 重量% Na citrate・2H2O、0.01 重量% MgSO4・7H2O、0.1重
量% (NH4)2SO4、0.2 重量% Glucose、1.2 重量% Agar)にまんべんなく塗布した後、15分間静置して乾燥させた。
上記の形質転換により得られた、ppsA遺伝子プラスミド導入株の培養液および空ベクター導入株の培養液をそれぞれ適宜希釈し、滅菌したpaper discに5 μLスポットし風乾し
た後、検定用培地に等間隔で置き、35℃で終夜培養を行った。形成されたバチルス・サブチリスの阻止円の直径を3か所測定し、その平均値を用いてビアラホス生産性を評価した
。
【0081】
(3)結果
生育阻害アッセイの結果を
図4および5に示す。
図4および5より、ppsA遺伝子プラスミド導入株をスポットした場合は、空ベクター導入株の場合と比較して阻止円の直径が約2倍大きいことが示された。
【0082】
[実施例3:ppsA遺伝子プラスミド導入株のビアラホス生産性評価]
実施例2で得られたppsA遺伝子プラスミド導入株のビアラホスの生産量を測定した。
【0083】
(1)フラスコ培養
実施例2で得られたppsA遺伝子プラスミド導入株および空ベクター導入株を、それぞれ、YS培地(1 重量% 可溶性デンプン、0.2 重量% 酵母エキス) 150 mlの入った500 ml容の
バッフル付フラスコに植菌し、140 rpm、28℃で3日間、前培養した。前培養液1 mlを、12.5 mg/Lカナマイシンを含むMYG培地(1 重量% 麦芽エキス、0.4 重量% 酵母エキス、0.4 重量% グルコース) 150 mlの入った500 ml容のバッフル付フラスコに植菌し、28℃で6日間培養した。なお、培養3日目までは140 rpm、それ以降は85 rpmで培養した。
【0084】
(2)ビアラホス生産量の測定
実施例1の「(2)ビアラホス生産量の測定」と同様の手順で、ppsA遺伝子プラスミド導入株および空ベクター導入株のビアラホス生産量を測定した。
【0085】
(3)結果
ビアラホス生産量の測定結果を
図6に示す。ppsA遺伝子プラスミド導入株は、空ベクター導入株に比べてビアラホス生産量が顕著に高いことが示された。
【0086】
[実施例4:ppsA遺伝子をゲノムに導入した株のビアラホス生産性評価]
ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスのゲノム中にppsA遺伝子を導入した株(ppsA遺伝子ゲノム導入株)の、ビアラホスの生産性を評価した。
【0087】
(1)ppsA遺伝子ゲノム導入株の作製
(プラスミドの作製)
ゲノムへの遺伝子挿入用プラスミドは、pKC1139 (Nova Lifetech、Catalog No. PVT6009)をベースとして構築した。ラベンジオール合成酵素遺伝子クラスター中のtype I polyketide synthase とアノテーションされるタンパク質(Genbankアクセッション番号:WP_039933327.1)をコードする遺伝子中への遺伝子導入を行うため、当該遺伝子の上流ゲノム領域および下流ゲノム領域をそれぞれ、I-122プライマー(配列番号16)およびI-123プライマー(配列番号17)、I-124プライマー(配列番号18)およびI-125プライマー(配列番号19)を用いて、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスJCM4977株のゲノムを鋳
型として、PCR法にて増幅した。
【0088】
前記遺伝子下流領域のEcoRI-SpeI断片をpKC1139のEcoRI-XbaIギャップに挿入した。得
られたプラスミドをEcoRI-XbaIで切断し、カナマイシン耐性遺伝子カセット(配列番号15)のEcoRI-SpeI断片を挿入した。得られたプラスミドをEcoRI-XbaIで切断し、ppsA遺伝子発現カセット(実施例2における「プラスミドの作製」で作製したプラスミド)のEcoRI-SpeI断片を挿入した。最後に、得られたプラスミドをEcoRI-XbaIで切断し、WP_039933327.1遺伝子上流領域のEcoRI-SpeI断片を挿入し、ppsA遺伝子導入用プラスミドを構築した。
また、上記工程において、ppsA遺伝子発現カセットを含まず、WP_039933327.1遺伝子下流領域、カナマイシン耐性遺伝子カセットおよびWP_039933327.1遺伝子上流領域を含むpKC1139ベクターを構築することにより、空ベクターを作製した。
【0089】
表4にカナマイシン耐性遺伝子カセットの塩基配列を示す。また、表5に用いたプライマーの塩基配列を示す。
【0090】
【表4】
表4中、配列は、左から右へ5’末端から3’末端の向きである。
【0091】
【表5】
表5中、配列は、左から右へ5’末端から3’末端の向きである。
【0092】
(接合用大腸菌の形質転換、およびストレプトマイセス属細菌の形質転換)
得られたppsA遺伝子導入用プラスミド、空ベクターをそれぞれ用いたこと以外は実施例2と同様の手順で、接合用大腸菌の形質転換を行った後、ストレプトマイセス属細菌の形質転換体(ppsA遺伝子ゲノム導入株および空ベクター導入株)を得た。
【0093】
(2)フラスコ培養
実施例3の「(2)フラスコ培養」と同様の手順で、ppsA遺伝子ゲノム導入株および空ベクター導入株をそれぞれフラスコ培養した。
【0094】
(3)ビアラホス生産量の測定
実施例1の「(2)ビアラホス生産量の測定」と同様の手順で、フラスコ培養したppsA遺伝子ゲノム導入株および空ベクター導入株のビアラホス生産量を測定した。
【0095】
(4)結果
ビアラホス生産量の測定結果を
図7に示す。ppsA遺伝子ゲノム導入株は、空ベクター導入株に比べてビアラホス生産量が顕著に高いことが示された。
【0096】
[参考例:プロトタイプ株の作製]
ビアラホス生合成酵素遺伝子クラスターを1コピー追加した株(プロトタイプ株)を、
以下の手順により作製した。なお、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(
S.
viridochromogenes)は、
図8に示すビアラホス合成遺伝子クラスターを有することが知られており、該遺伝子クラスターには、タンパク質をコードする遺伝子として、5’末端側から
順に、phpA遺伝子、phsB遺伝子、phpB遺伝子、phsC遺伝子、pmi遺伝子、phpC遺伝子、phpD遺伝子、phpE遺伝子、ppm遺伝子、ppd遺伝子、phpF遺伝子、phpG遺伝子、phpH遺伝子、phpI遺伝子、phpJ遺伝子、phpK遺伝子、pms遺伝子、phsA遺伝子、pat遺伝子、dea遺伝子、phpL遺伝子、phpM遺伝子、phpN遺伝子、およびphpR遺伝子が存在することが知られている(Blodgett et al. 2016, J Antibiot (Tokyo). 69, 15-25)。
【0097】
(1)遺伝子導入用プラスミドの構築
遺伝子導入用プラスミドは、pSET152(Creative Biogene, Cat. No. OVT2796)をベース
として構築した。ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスJCM4977株のゲノムDNAを鋳型として、ビアラホス合成酵素遺伝子クラスターのSq1~Sq6およびF3領域の各DNA断片を、
表6に示すプライマーセットを用いてPCR法にて増幅した。まず、得られたF3のXbaI-EcoRV断片をpSET152のXbaI-EcoRVギャップに挿入し、F3(
図8のF3)を導入したプラスミドを構築した。次に、Sq6のNheI-SbfI断片とF3のSbfI-EcoRV断片をpSET152のXbaI-EcoRVギャ
ップに挿入し、Sq6F3(
図8のSq6F3)を導入したプラスミドを構築した。次に、Sq5のMunI-SpeI断片を、Sq6F3を導入したプラスミドのEcoRI-XbaIギャップに挿入し、Sq5-6F3(
図8のSq5-6F3)を導入したプラスミドを構築した。以下同様に、Sq4のMunI-SpeI断片、Sq3のMunI-SpeI断片、Sq2のMunI-SpeI断片、Sq1のMunI-SpeI断片をそれぞれ挿入し、
図8に
示すビアラホス合成酵素遺伝子クラスター全長(full)をpSET152に導入したプラスミド
を構築した。
【0098】
【0099】
表6に示すプライマーセットの塩基配列を表7に示す。
【0100】
【表7】
表中、塩基配列は、左から右へ5’末端から3’末端の向きである。
【0101】
(2)接合用大腸菌の形質転換
抗生物質として100 μg/mLのアプラマイシンを使用したこと以外は、実施例2における「接合用大腸菌の形質転換」と同様の手順で、構築した上記のプラスミドを用いて、大腸菌を形質転換させた。
【0102】
(3)ストレプトマイセス属細菌の形質転換
形質転換させるストレプトマイセス属細菌としてストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(S.
viridochromogenes)JCM4977株を用いたこと、および抗生物質として、大腸菌S17-1株の培養には100 μg/mLのアプラマイシンを使用し、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネスの選抜には1 ml 滅菌水に0.5 mg ナリジクス酸および10 μlの100 mg/mLアプ
ラマイシンを加えたこと以外は、実施例2における「ストレプトマイセス属細菌の形質転換」と同様の手順でストレプトマイセス属細菌を形質転換させることで、プロトタイプ株を取得した。