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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158654
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20241031BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074018
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福原 由紀
(72)【発明者】
【氏名】菊地 元三
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB032
4J002CG011
4J002GM00
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 特定のポリカーボネート樹脂に特定のエチレン系樹脂を特定割合で配合する事により、射出成形加工であっても十分な溶融流動性を確保しつつ、成形品の耐熱性、耐衝撃性、マテリアルリサイクル性、成形品外観に優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、エチレン系樹脂(B)1~10質量部を含む樹脂組成物であり、ポリカーボネート樹脂(A)が、JIS K 7210を準拠し、300℃ 荷重1.2kgで測定したメルトボリュームフローレートが5~14cm/gのポリカーボネート樹脂であり、エチレン系重合体(B)が、JIS K6924-1を準拠し、190℃、荷重2160gで測定したメルトマスフローレイトが50~10000g/10分のエチレン系重合体であるポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、エチレン系樹脂(B)1~10質量部を含む樹脂組成物であり、ポリカーボネート樹脂(A)が、JIS K 7210を準拠し、300℃ 荷重1.2kgで測定したメルトボリュームフローレートが5~14cm/gのポリカーボネート樹脂であり、エチレン系重合体(B)が、JIS K6924-1を準拠し、190℃、荷重2160gで測定したメルトマスフローレイトが50~10000g/10分のエチレン系重合体である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカ―ボネート樹脂(A)が、ポリカーボネート樹脂の再生樹脂である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
射出成形用である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びその射出成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れるプラスチックとして、電気電子機器分野、自動車分野、OA機器分野、家電製品分野等様々な分野において幅広く利用されている。これら分野において、ポリカーボネート樹脂は、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン三元共重合体)やPMMA(ポリメチルメタクリレート)より耐熱性、耐衝撃性に優れるため、透明部品だけでなく、着色部品にも使用されている。
【0003】
しかし、ポリカーボネート樹脂は、高い耐熱性を有することにより、成形加工時の溶融流動性が悪いため、薄肉部品や複雑な形状の製造においては、成形品の変形や外観が悪化する等の問題がある。
【0004】
そこで、射出圧縮成形等の特殊な成形方法を採用することにより成形品として提供されているが、これら特殊成形方法にはコストパフォーマンスが低下するという問題がある。また、射出成形における成形温度を上げる、もしくはポリカーボネート樹脂の分子量を下げることで、粘度を下げ、溶融流動性を向上させる試みもあるが、前者は改質効果として不十分であるばかりか熱劣化が生じる、後者では耐熱性、機械物性が低下するという問題がある。
【0005】
さらに近年、資源の有効活用の観点から、製品廃棄物を原材料として再生利用するマテリアルリサイクルの推進が要求されており、ポリカーボネート樹脂は、その幅広い製品分野からマテリアルリサイクルが強く要求されている。しかし、ポリカーボネート樹脂のマテリアルリサイクルにおいてもバージン樹脂と同様、溶融流動性の低さが課題となっており、使用可能な水準に到達させるべく、多くの研究開発がなされている。
【0006】
このような背景の中、ポリカーボネート樹脂等の溶融流動性を向上させるために、滑剤を添加する検討が行われており、例えば、ポリカーボネート樹脂に、ペンタエリストール、直鎖飽和脂肪酸、アジピン酸、及び脂肪酸コンプレックスエステルワックスを添加し、溶融流動性、耐熱性を向上させたポリカーボネート樹脂組成物(例えば、特許文献1参照。)、ポリカーボネート樹脂に、酸化酸変性ポリエチレンワックスを添加することで、耐熱性を悪化させることなく、溶融流動性を向上させたポリカーボネート樹脂組成物(例えば、特許文献2参照。)、さらに、特定の割合のポリカーボネート樹脂とポリ乳酸から成る樹脂混合物に、窒素含有有機基を含むポリオルガノシロキサンを添加することで、溶融流動性、耐衝撃性に優れ、さらにポリ乳酸の添加によりポリカーボネートの耐湿性が向上し、耐久性が向上することでマテリアルリサイクル性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物(例えば、特許文献3参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-195453号公報
【特許文献2】特許第6682534号公報
【特許文献3】特開2008-37965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に提案のポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性の保持・改良については何ら検討がされておらず課題を有するものであった。また、特許文献3に提案のポリカーボネート樹脂組成物は、非常に吸湿性の高いポリ乳酸を添加するものであり、非常に高温の加工温度を必要とするポリカーボネート樹脂の射出成形の際には吸湿水分が加工に大きく影響する取扱い性に課題を有するものであった。さらに、これらポリカーボネート樹脂組成物は、流動性付与、リサイクル性を有する射出成形材料としての検討は何らなされていないものであった。
【0009】
そこで、本発明は、特定のエチレン系樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物とする事により、これらの課題を解決し、射出成形加工時の十分な溶融流動性を付与し、成形品の耐熱性、耐衝撃性、マテリアルリサイクル性にも優れるとともに、成形品の外観不良である反りを低減するポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のポリカーボネート樹脂に特定のエチレン系樹脂を特定の割合で配合した樹脂組成物が、射出成形加工時の十分な溶融流動性を付与し、成形品の耐熱性、耐衝撃性、マテリアルリサイクル性にも優れるとともに、成形品の外観不良である反りを低減するものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の各態様は、以下の[1]~[13]である。
[1] ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、エチレン系樹脂(B)1~10質量部を含む樹脂組成物であり、ポリカーボネート樹脂(A)が、JIS K 7210を準拠し、300℃ 荷重1.2kgで測定したメルトボリュームフローレートが5~14cm/gのポリカーボネート樹脂であり、エチレン系重合体(B)が、JIS K6924-1を準拠し、190℃、荷重2160gで測定したメルトマスフローレイトが50~10000g/10分のエチレン系重合体である、ポリカーボネート樹脂組成物。
[2] ポリカ―ボネート樹脂(A)が、ポリカーボネート樹脂の再生樹脂である、[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3] 射出成形用である[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4] [1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる射出成形。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネートの長所である耐熱性・耐衝撃性を担保しながら、射出成形加工時の十分な溶融流動性を付与する効果、得られた成形物の外観不良を低減させる効果に優れている。さらに、耐久性の向上によりマテリアルリサイクル性にも優れている。そのため、ポリカーボネート樹脂の射出成形品を製造するために有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の一態様であるポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K 7210を準拠し、300℃ 荷重1.2kgで測定したメルトボリュームフローレートが5~14cm/gのポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、JIS K6924-1を準拠し、190℃、荷重2160gで測定したメルトマスフローレイトが50~10000g/10分のエチレン系重合体(B)1~10質量部を含み、射出成形加工時の十分な溶融流動性を付与し、成形品の耐熱性、耐衝撃性、マテリアルリサイクル性にも優れるとともに、成形品の外観不良である反りを低減するものである。
【0015】
上記ポリカーボネート樹脂(A)としては、一般的にはジヒドロキシ化合物残基が炭酸エステル結合により結ばれたポリマーであり、通常、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応し得られたポリマーを挙げることができる。
【0016】
その際のジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAと称することもある。)、2,2-ビス((4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル)プロパン(ビスフェノールCと称することもある。)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス((4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、イソソルビド、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等があげられる。これらを単独又2種類以上を用いたポリカーボネート樹脂であってもよく、特に耐熱性と耐衝撃性のバランスに優れるポリカーボネート樹脂であることから2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含むものであることが好ましい。
【0017】
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメート等が上げられ、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは2価フェノールのジハロホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0018】
更に、ポリカーボネート樹脂(A)は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸、イサチンビス(o-クレゾール) 等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)は、JIS K 7210を準拠し、300℃ 荷重1.2kgで測定したメルトボリュームフローレートが5~14cm/gのものであり、この範疇に属するものであれば市販品であってもよく、例えば(商品名)タフロン#2000(出光興産株式会社製)、(商品名)タフロン#2200(出光興産株式会社製)、(商品名)パンライトL-1250Y(TEIJIN株式会社製)、(商品名)パンライトL-1225Y(TEIJIN株式会社製)等を挙げることができる。ここで、5cm/g未満のものである場合、得られる組成物は粘度が高く溶融流動性、成形性に劣るものとなるばかりか、リサイクルの際に要求される過大な熱履歴により劣化が生じやすくリサイクル性に劣るものとなる。一方、14cm/gを超えるものである場合、分子量が低く耐衝撃性に劣るものとなるばかりか、リサイクルの際に熱劣化を生じやすいものとなる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(A)は、未使用のバージン樹脂、使用済みの成形体を回収して得られた再生樹脂でもよい。すなわち、1種又は複数種の樹脂のすべてが未使用のバージン樹脂である形態、1種又は複数種の樹脂のうちの少なくとも1種が再生樹脂である形態が含まれ、1種又は複数種の樹脂のすべてが再生樹脂である形態も含まれる。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)は、再生樹脂を使用する場合、複数種類の樹脂を含むことがある。この場合、不純物としてワックス、接着剤、可塑剤、酸化防止剤等の有機物の不純物として含む。一方、フィラーなどの無機不純物を含むこともある。
【0022】
エチレン系樹脂(B)は、いずれも任意の極性官能基を含まず、エチレン系重合体、またはポリエチレン系ワックスが挙げられる。これにより、高極性なポリカーボネート樹脂と非極性であるエチレン系樹脂は非相溶となり、射出成形した際には、ポリカーボネート樹脂とエチレン系樹脂の界面が滑り、結果としてポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性が向上する。また、エチレン系樹脂はポリカーボネート樹脂の溶融温度以上の高温成形においても酸化劣化や分解が少ない樹脂であり、耐久性を有している。これにより、ポリカーボネート樹脂の廃棄物を原料としてマテリアルリサイクルする際にエチレン系樹脂を配合した場合にも、酸化劣化や分解が少なく、マテリアルリサイクル性に優れるポリカーボネート樹脂組成物となる。
【0023】
エチレン系重合体としては、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0024】
高圧法低密度ポリエチレンとしては、市販品として入手したものであってもよい。ここで、高圧法とは、エチレンを高温、高圧下でラジカル重合する方法を示す。エチレンの高圧ラジカル重合からは、樹岐状の構造(長鎖分岐、短鎖分岐の両方を併せ持つ構造)の低密度ポリエチレンが重合され、直鎖状低密度ポリエチレンのような直鎖状(短鎖分岐のみを持つ構造)の低密度ポリエチレンとは、構造が異なることが一般的に知られている。
【0025】
高密度ポリエチレンとしては、市販品として入手したものであってもよい。また、高密度ポリエチレンは以下の方法により製造することができる。例えばスラリー法、溶液法、気相法等の製造法により製造することが可能である。該高密度ポリエチレンを製造する際には、一般的にマグネシウムとチタンを含有する固体触媒成分及び有機アルミニウム化合物からなるチーグラー触媒、シクロペンタジエニル誘導体を含有する有機遷移金属化合物と、これと反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び/又は有機金属化合物からなるメタロセン触媒、バナジウム系触媒等を用いることができ、該触媒によりエチレンを単独重合またはエチレンとα-オレフィンを共重合することにより製造可能である。α-オレフィンとしては、一般にα-オレフィンと称されているものでよく、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数3~12のα-オレフィンであることが好ましい。エチレンとα-オレフィンの共重合体としては、例えばエチレン・ヘキセン-1共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・オクテン-1共重合体等が挙げられる。
【0026】
直鎖状低密度ポリエチレンとしては、市販品として入手したものであってもよい。また、直鎖状低密度ポリエチレンは以下の方法により製造することができる。例えば高圧法、溶液法、気相法等の製造法により製造することが可能である。該直鎖状低密度ポリエチレンを製造する際には、一般的にマグネシウムとチタンを含有する固体触媒成分及び有機アルミニウム化合物からなるチーグラー触媒、シクロペンタジエニル誘導体を含有する有機遷移金属化合物と、これと反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び/又は有機金属化合物からなるメタロセン触媒、バナジウム系触媒等を用いることができ、該触媒によりエチレンとα-オレフィンを共重合することにより製造可能である。α-オレフィンとしては、一般にα-オレフィンと称されているものでよく、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数3~12のα-オレフィンであることが好ましい。エチレンとα-オレフィンの共重合体としては、例えばエチレン・ヘキセン-1共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・オクテン-1共重合体等が挙げられる。
【0027】
ポリエチレン系ワックスとしては、市販品として入手したものであってもよい。ここで、ポリエチレン系ワックスは以下の方法により製造することができる。例えば、エチレン重合体の熱分解によって、またはエチレンの直接重合によって製造することができる。好適な製造方法としては、エチレンを高圧及び高温下で反応させて、多少の分岐を有するワックスを形成するフリーラジカルプロセス、並びに、例えばマグネシウムとチタンを含有する固体触媒成分及び有機アルミニウム化合物からなるチーグラー触媒及び/又は有機金属化合物からなるメタロセン触媒を用いて、エチレン及び/又は高級1-オレフィンを分岐または碑文期のワックスに重合させることで製造可能である。
【0028】
上記エチレン系樹脂(B)は、JIS K 6924-1に準拠し、190℃、荷重2160gで測定したメルトマスフローレイト(以下、MFRと称する場合がある。)が50~10000g/10分のものであり、特に耐衝撃性、成形加工性、リサイクル性のバランスに優れるものとなることから100~10000g/10分のものであることが好ましい。ここで、MFRが50g/10分未満の場合、溶融流動性の改質効果が不十分である。一方、10000g/10分を超えるものである場合、得られる成形体の耐衝撃性や耐熱性などの機械物性の悪化が著しいものとなる。
【0029】
上記ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、エチレン系樹脂(B)1~10質量部を含むものであり、特に耐衝撃性、成形加工性、リサイクル性のバランスに優れるものとなることから1質量部以上5質量部以下を含むものであることが好ましい。ここで、エチレン系樹脂(B)が1質量部未満である場合、流動性や成形品外観の改善効果が不十分となる。一方、10質量部を超える場合、耐衝撃性や耐熱性が悪化するものとなる。
【0030】
上記ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法は射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法等を行うことにより、各種の成形品を製造することができる。
【0031】
好適には、上記ポリカーボネート樹脂組成物を用いて、上記溶融混練成形法によりペレット状の成形原料を製造し、次いで、溶融流動性、耐熱性、耐衝撃性、成形外観が最も問題となる射出成形、射出圧縮成形に、このペレットを用いて射出成形品を製造することができる。成形温度は、ポリカーボネート樹脂の融点に合わせて、通常240~320℃の範囲で適宜選択される。
【0032】
上記ポリカーボネート脂組成物は、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、家庭電化製品、光学材料などの部品となる成形品の成形材料として有用である。
【0033】
本発明の一態様である射出成形品は、上記ポリカーボネート樹脂組成物を射出生成することにより得られ、例えば、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部分品、カメラ等に用いる光学レンズなどがある。
【実施例0034】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)試験片の作成
射出成形機MD100Xi2.7((株)宇部興産機械製)を用いて、樹脂温度280℃、金型温度80℃、射出速度40mm/s、保圧圧力20MPaにて、JISファミリー金型を用い、下記の試験片を成形した。
(2)射出圧(単位:MPa)
上記条件で試験片を10個成形した際の、平均射出圧を記録し、溶融流動性の指標とした。
(3)アイゾット(IZOD)衝撃強度(単位:kJ/m
64mm×12.7mm×4mmのノッチ付き短冊状試験片を用いて、JIS K7110-1984「硬質プラスチックのアイゾット衝撃試験方法」に準拠して測定した。測定温度は、23℃とした。
(4)荷重たわみ温度
120mm×12.7mm×4mmの短冊状試験片を用いて、JIS K7207-1995「硬質プラスチックの荷重たわみ温度試験方法」に準拠して、試験荷重0.45MPaで測定した。
(5)反り量
ファミリー金型で得られた試験片について、反り量を評価した。ここでの反り量とは、ファミリー金型の4つのゲート頂点を平面に固定した際の、スプル末端にあるスプルーロックと平面との直線距離を意味する。
【0035】
実施例1
ポリカーボネート樹脂(A)として、メルトボリュームフローレート12cm/10分(温度300℃、荷重1.2kg)であるポリカーボネート樹脂(A-1)(出光興産株式会社製、商品名タフロンA2200)を100℃で5時間乾燥した後100質量部に対し、エチレン系樹脂(B)として、メルトマスフローレイト8990g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)である低密度ポリエチレンワックス(B-1)(三洋化成工業株式会社製、商品名サンワックス161P)を1.0質量部を配合し、タンブラー混合機で予備ブレンドした後、一軸押出機を用い250℃で溶融混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0036】
得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを100℃で5時間乾燥した後、上記した試験片の作成方法にて射出成形品を得た。射出成形品を用いて評価した結果を表1に示す。
【0037】
実施例2
ポリカーボネート樹脂(A-1)100質量部に対し、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1質量部の代わりに、ポリカーボネート樹脂(A-1)100質量部に対し、低密度ポリエチレンワックス(B-1)5.0質量部とした以外は、実施例1と同様の方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表1に示す。
【0038】
実施例3
エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)の代わりに、メルトマスフローレイト145g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)である低密度ポリエチレン(B-2)(東ソー株式会社製、商品名ペトロセン353)を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表1に示す。
【0039】
実施例4
ポリカーボネート樹脂(A)として、下記手順で入手したポリカーボネート成形体粉砕品である再生樹脂(A-2)を用い、エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1.0質量部の代わりに、低密度ポリエチレンワックス(B-1)2.0質量部、低密度ポリエチレン(B-2)3.0質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表1に示す。
【0040】
ポリカーボネート樹脂(A-1)を100℃で5時間乾燥した後、上記した試験片の作成に記載する方法にて射出成形品を得た。得られた射出成形品を平均温度20℃の室内に一年間放置した後、ロータリーカッターで粉砕したものを、ポリカーボネート樹脂(A-1)の再生樹脂(A-2)として入手した。
【0041】
実施例5
エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)の代わりに、メルトマスフローレイト9000g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)である高密度ポリエチレンワックス(B-3)(三井化学株式会社製、商品名サンワックス161P)を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例6
ポリカーボネート樹脂(A)として、再生樹脂(A-2)を用いた以外は、実施例2と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表1に示す。
【0043】
ポリカーボネート樹脂(A-1)を100℃で5時間乾燥した後、上記した試験片の作成に記載する方法にて射出成形品を得た。得られた射出成形品を平均温度20℃の室内に一年間放置した後、ロータリーカッターで粉砕したものを、ポリカーボネート樹脂(A-1)の再生樹脂(A-2)として入手した。
【0044】
実施例7
エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)の代わりに、高密度ポリエチレンワックス(B-3)を用いた以外は、実施例6と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
比較例1
エチレン系樹脂(B)を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法によりペレット及び射出成形品を得た。その評価の結果を表2に示す。
【0047】
比較例2
エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1.0質量部の代わりに低密度ポリエチレンワックス(B-1)20.0質量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0048】
比較例3
エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1.0質量部の代わりに、低密度ポリエチレンワックス(B-1)0.5質量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0049】
比較例4
エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1.0質量部の代わりに、メルトマスフローレイトが10000g/10分を超える(温度190℃、荷重2.16kg)低密度ポリエチレンワックス(B-4)(三洋化成工業株式会社製、商品名サンワックス171P)5.0質量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0050】
比較例5
ポリカーボネート樹脂(A)として、再生樹脂(A-2)を用い、エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1.0質量部の代わりに、メルトマスフローレイト13g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)である低密度ポリエチレン(B-5)(東ソー株式会社製、商品名ペトロセン212)5.0質量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0051】
比較例6
ポリカーボネート樹脂(A)として、再生樹脂(A-2)を用い、エチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンワックス(B-1)1.0質量部の代わりに、メルトマスフローレイト20g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)である高密度ポリエチレン(B-6)(東ソー株式会社製、商品名二ポロンハード1200)5.0質量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂組成物のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0052】
比較例7
エチレン系樹脂(B)の代わりに、ポリカーボネート(A)と相溶性に優れる、メルトボリュームフローレート150cm/10分(温度300℃、荷重1.2kg)であるポリカーボネート(A-3)(出光興産株式会社製、商品名タフロンLC1202PURE)5.0質量とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0053】
比較例8
エチレン系樹脂(B)を用いず、ポリカーボネート樹脂(A)として、再生樹脂(A-2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリカーボネート樹脂のペレット及びその射出成形品を得た。その評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネートの特徴である耐熱性・耐衝撃性を維持しながら、射出成形加工時の十分な溶融流動性を付与し、得られた成形物の外観不良を低減させるという効果に優れ、さらに、耐久性の向上によりマテリアルリサイクル性にも優れている。そのため、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、家庭電化製品、光学材料などの部品となる成形品の成形材料として有用である。