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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158672
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】FeGa合金単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/62 20060101AFI20241031BHJP
   C30B 11/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C30B29/62 U
C30B11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074053
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】辰宮 一樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】泉 聖志
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA09
4G077CD02
4G077EA02
4G077ED01
4G077MB04
4G077MB32
4G077MB33
(57)【要約】
【課題】一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、シーデイングを安定して行うことができ、従来の育成速度を維持し安定した育成が可能なFeGa合金単結晶の製造方法を提供すること。
【解決手段】FeGa合金単結晶の製造方法は、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるように設定され、単結晶を製造する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、
種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるように設定され、単結晶を製造する、FeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項2】
一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、
種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成時の坩堝の移動速度は2.0mm/時間以上であり、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は2原子%以上に設定され、単結晶を製造する、FeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項3】
一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、
種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成時の坩堝の移動速度は5.0mm/時間以上であり、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は4原子%以上に設定され、単結晶を製造する、FeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項4】
[(シーディング位置の温度差)+(種結晶と育成する結晶との融点差)]/種結晶における結晶成長側の端部からのシーディング位置までの距離、で示される実質温度勾配をY(℃/mm)とし、
育成時の坩堝の移動速度をX(mm/時間)とした時に、
Y≧0.69X+1.87、を満たす、
請求項1~3のいずれかに記載のFeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記一方向凝固結晶成長法は、垂直ブリッジマン法であり、
前記種結晶において、シーデイング位置は、前記種結晶の鉛直方向の中央より上方である、請求項1~3のいずれかに記載のFeGa合金単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ガリウム合金(FeGa合金)単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FeGa合金は、機械加工が可能であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示すため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。
【0003】
さらに、FeGa合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させることができるため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させた単結晶の部材としての用途が最適であると考えられる。
【0004】
FeGa合金の多結晶の製造方法においては、粉末冶金法や、急冷凝固法(例えば、特許文献1)、液体急冷凝固法により製造した薄片状や粉末状の原料を加圧焼結して製造する方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。しかし、これらの種々の製造方法は、いずれも部材内は単結晶にならず多結晶となり、部材内の全ての結晶方位を磁気歪みが最大となる方位に一致させることは不可能で、単結晶の部材より磁歪特性が劣る。
【0005】
一方で、単結晶の製造には、引き上げ法がある。例えば、特許文献3には、引き上げ法(チョクラルスキー法)による単結晶の育成方法が記載されている。しかしながら、この方法は、高周波誘導加熱方式により原料融解を行うため、電源コストが高くなる。また、装置構成が複雑であり、装置コストが高いため、引き上げ法では結果的に製造コストが高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4053328号公報
【特許文献2】特許第4814085号公報
【特許文献3】特開2016-028831号公報
【特許文献4】特開2023-020187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、上記特許文献1~3に記載の従来の方法では、FeGa合金の単結晶を廉価かつ大量に製造することは困難である。
【0008】
これらと比較し、垂直ブリッジマン法(Vertical Bridgman method、以下「VB法」と略記する場合がある)や垂直温度勾配凝固法(Vertical Gradient Freeze method、以下「VGF法」と略記する場合がある)に代表される、融液を坩堝中で固化させる一方向凝固結晶成長法であれば、超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶を廉価に製造することができる。例えば、VB法では、予めFeGa合金種結晶とFeGa混合原料を入れた坩堝を、ヒーターで加熱してFeGa混合原料を融解させたあと、一定の速度で坩堝を低下させて坩堝をヒーターから遠ざけることで融液を固化させてFeGa単結晶を育成し、常温となったらFeGa単結晶を取り出す。その後、FeGa合金単結晶を所望のサイズに切断加工し磁歪板を得る。
【0009】
VB法においては、種結晶の上部に鉄とガリウムの混合物を配置し、当該混合物を融解した後に、種結晶の結晶方位を引き継ぎながら融解物を種結晶側から固化する必要がある。FeGa合金は不一致溶融性結晶であり、状態図において固相線と液相線が一致せず、ガリウム含有量が原子量%で17~19%の場合には固相線と液相線との温度差が約70~80℃となる。
【0010】
そこで、特許文献4では、VB法を含む一方向凝固結晶成長法を用いて、シーディング時における坩堝内の温度勾配を2.5~5.5℃/mmの範囲内となるように設定することで種結晶の全てが溶解することを防止し、かつ安定して単結晶育成することが記載されている。
【0011】
近年、FeGa合金は、磁歪式振動発電等に用いられる中でより発電量を大きくするため、磁歪部材のサイズを大きくする要望がある。これに伴い、FeGa合金単結晶も大型化が求められている。単結晶径を大きくする場合、当然これを育成する育成炉も大型になる。育成炉を大型すると加熱ヒーターと単結晶を育成する炉中心までの距離が長くなり微細な温度制御が難しく、大型の単結晶を得るには育成速度を極端に低速で行う必要があった。
【0012】
そこで本発明は、このような事情に鑑み、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、シーデイングを安定して行うことができ、従来の育成速度を維持した育成が可能なFeGa合金単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様によれば、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるように設定され、単結晶を製造する、FeGa合金単結晶の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の態様によれば、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成時の坩堝の移動速度は2.0mm/時間以上であり、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は2原子%以上に設定され、単結晶を製造する、FeGa合金単結晶の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の態様によれば、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成時の坩堝の移動速度は5.0mm/時間以上であり、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は4原子%以上に設定され、単結晶を製造する、FeGa合金単結晶の製造方法が提供される。
【0016】
また、上記の態様において、[(シーディング位置の温度差)+(種結晶と育成する結晶との融点差)]/種結晶における結晶成長側の端部からのシーディング位置までの距離、で示される実質温度勾配をY(℃/mm)とし、育成時の坩堝の移動速度をX(mm/時間)とした時に、Y≧0.69X+1.87、を満たすことが好ましい。
【0017】
また、上記の態様において、前記一方向凝固結晶成長法は、垂直ブリッジマン法であり、前記種結晶において、シーデイング位置は、前記種結晶に鉛直方向の中央より上方であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、シーデイングを安定して行うことができ、従来の育成速度を維持し安定した育成が可能なFeGa合金単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】鉄ガリウム合金の単結晶を育成する育成炉の一例を示す概略断面図である。
図2】VB法によるFeGa合金単結晶の製造方法の各工程における単結晶育成用坩堝と抵抗加熱ヒーターの配置の一例を示す概略断面図である。
図3】実質温度勾配と育成速度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。なお、各図面においては、適宜、一部又は全部が模式的に記載され、縮尺が変更されて記載される。また、以下の説明において、「A~B」との記載は、「A以上B以下」を意味する。
【0021】
本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法について、図面を参照しつつ、より具体的に説明する。
【0022】
[単結晶育成炉]
本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法(「本製造方法」と略すこともある。)は、公知の単結晶育成炉により実施することができる。図1は、FeGa合金単結晶を育成する単結晶育成炉の一例を示す概略断面図である。この図1では、単結晶育成炉100における単結晶育成用坩堝10とFeGa合金種結晶16、原料となる鉄とガリウムの混合物17との位置関係を模式的に示している。
【0023】
単結晶育成炉100は、断熱材11、ヒーター12、可動用ロッド13、坩堝受け14、熱電対15、真空ポンプ18および、チャンバー19を備えている。チャンバー19内の上部が高温、下部が低温となる温度分布を実現可能な構成となっており、VB法やVGF法等の一方向凝固結晶成長法により、鉄とガリウムの混合物17の融解物を坩堝10中で固化させることで、FeGa合金単結晶を育成することができる。以下の説明では、VB法を用いた方法を一例として説明する。
【0024】
図1に示すように単結晶育成炉100では、断熱材11の内側にカーボン製の抵抗加熱ヒーター12が配置される。FeGa合金単結晶の育成時に、抵抗加熱ヒーター12によりホットゾーンが形成される。
【0025】
抵抗加熱ヒーター12の内側には、単結晶育成用坩堝10が配置され、上下方向に移動可能な可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14(支持台)に載置されている。単結晶育成用坩堝10内の下部に、FeGa合金種結晶16が充填され、このFeGa合金種結晶16の上に、鉄とガリウムの混合物17が充填される。
【0026】
育成炉には、チャンバー19と真空ポンプ18が設置されており、原料を真空雰囲気に調整して単結晶を育成することができる。さらに、アルゴンや窒素等の不活性ガスをチャンバー19へ導入することができ、原料を不活性雰囲気にも調整できる。
【0027】
単結晶育成用坩堝10の材質は、FeGa合金単結晶と化学的反応性が低く、高融点材料であるアルミナが好ましい。また、マグネシア、熱分解窒化ホウ素(Pyrolitic Boron Nitride)でもよい。
【0028】
上方側が開放された単結晶育成用坩堝10には、蓋を被せてもよい。単結晶育成用坩堝10は、上述したように単結晶育成炉100内で可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14上に載置され、可動用ロッド13を上下させることにより、単結晶育成用坩堝10を育成炉内で上下させることができる。また、単結晶育成用坩堝10には、坩堝の温度をモニタリングできる熱電対15が取り付けられている。
【0029】
なお、従来のFeGa合金単結晶は、直径2インチ程度であるのに対し、本発明では、育成結晶の大型化を検討しており、例えば、直径が3インチ~6インチを想定している。これに伴い、育成する単結晶育成炉も大型化し、ヒーター出力等高出力に設定される。育成炉を大型すると加熱ヒーターと単結晶を育成する炉中心までの距離が長くなり微細な温度制御が難しくなる。
【0030】
[FeGa合金単結晶の製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法について図1図2を参照しつつ、説明する。
【0031】
超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶は、例えば鉄とガリウムの融解物を坩堝中で固化させて育成することができ、本発明では、VB法やVGF法に代表される、一方向凝固結晶成長法により育成することができる。以下、VB法を一例に説明する。
【0032】
VB法では、まず、単結晶育成用坩堝10の下部に主面方位が<100>方位のFeGa合金種結晶16を配置する。そして、FeGa合金種結晶16の上には、原料である鉄とガリウムの混合物17を必要量配置し(図2(a)坩堝配置工程)、その後坩堝10に適宜蓋を被せる。
【0033】
次に、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、チャンバー19内を不活性雰囲気に調整する。窒化ガリウム等が生成するおそれがある場合には、アルゴンガスを導入することが好ましい。チャンバー19内が不活性雰囲気となった後、単結晶育成用坩堝10を囲むように配置されたヒーター12を作動して、昇温し、鉄とガリウムの混合物17の融解を開始する(図2(b)融解工程)。
【0034】
鉄とガリウムの混合物17がほぼ融解して融解物20となったら、真空ポンプ18を作動して、チャンバー19内を減圧し、融解物20中の気泡を取り除く(気泡除去工程)。
【0035】
気泡除去工程後、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、再びチャンバー19内を不活性雰囲気に調整した後、単結晶育成用坩堝10の内部でFeGa合金単結晶を育成する(図2(d)育成工程)。具体的には、抵抗加熱ヒーター12を用いて、FeGa合金種結晶16および融解物20(鉄とガリウムの混合物17)が収納され、蓋を被せられた単結晶育成用坩堝10を、高さ方向の上方の温度が高く、下方の温度が低い温度分布となるように加熱する。この状態で、チャンバー19内の温度を、FeGa合金種結晶16が高さ方向の上半分位まで融解する位置まで可動用ロッド13を可動させて坩堝10を上昇させてシーディングを行う(図2(c)シーディング工程)。
【0036】
シーディング時における単結晶育成用坩堝10内の温度を鉛直方向に下から上へ高くなるようにシーディング位置および抵抗加熱ヒーター12の投入電力は調整されている。
【0037】
その後、そのままのチャンバー19内の温度勾配を維持しながら、単結晶育成用坩堝10を一定速度で可動用ロッド13を可動させ単結晶育成用坩堝10を下降させてFeGa合金単結晶21を育成し(図2(d)育成工程)、すべての融解物20を固化させる。
【0038】
坩堝10の下降が終了して単結晶の育成が終了した後(図2(e))、所定速度で冷却を行ってFeGa合金単結晶21を得る(冷却工程)。
【0039】
次に、チャンバー19内の温度が室温程度になったことを確認した後、育成された単結晶が入った単結晶育成用坩堝10を坩堝受け14から取り外し、さらに蓋を取って単結晶育成用坩堝10から育成された単結晶21を取り出す。
【0040】
上記では、単結晶育成炉100を用いたVB法によるFeGa合金単結晶の製造方法について説明したが、同じ単結晶育成炉100を用いて、単結晶育成中に単結晶育成用坩堝10を上下に移動させることに替えて、抵抗加熱ヒーター12を調整して温度制御するVGF法によっても、FeGa合金単結晶を製造することができる。
【0041】
[坩堝内の種結晶Ga濃度と坩堝内温度勾配]
次に、本製造方法について、坩堝内の種結晶Ga濃度と坩堝内温度勾配について説明する。本例では、単結晶育成炉100を用いたVB法における、坩堝内の種結晶Ga濃度と坩堝内温度勾配について説明する。
【0042】
前述したように、本実施形態では育成結晶の大型化を検討しており、例えば、直径が3インチ~6インチを想定している。これに伴い、これを育成する単結晶育成炉も大型化し、ヒーター出力等高出力に設定される。育成炉を大型すると加熱ヒーターと単結晶を育成する炉中心までの距離が長くなり微細な温度制御が難しくなる。更に、結晶育成で重要な育成方向(鉛直方向)における温度勾配も距離が長くなり分緩やかになる傾向にある。従来の育成炉においては、上述のように、シーディング時の温度勾配が、2.5~5.5℃/mmとなるようヒーター120の投入電力により調整されていた。しかしながら、育成炉を大型化した場合、微細な温度制御が難しく投入電力の調整だけでは温度勾配を高位で維持することができない。このため、シーディング時の温度勾配は、3.5℃/mm以下で、場合によっては、2.5℃/mm未満になることがある。温度勾配が2.5℃/mm未満の場合、FeGa合金種結晶16が高温となって完全に融解してしまうおそれがあり、安定してシーディングをすることができないことがある。更に、育成速度は、特許文献4にある様に坩堝内の温度勾配に相関があり、温度勾配が小さい場合には低速で行う必要があった。
【0043】
そこで、本実施形態では、FeGa合金単結晶は、ガリウム含有量(「Ga濃度」と称すこともある)により融点温度が変化することに着目し、検討したものである。
【0044】
FeGa合金単結晶は、単結晶中のガリウム含有量により磁歪特性が影響を受ける。FeGa合金単結晶は、単結晶中のガリウム含有量の原子量%(at%)で17~19%で磁歪特性が最大となる。
【0045】
FeGa合金単結晶の融点は、単結晶中のガリウム含有量が小さくなるほど高くなる傾向にある。例えば、結晶中のガリウム含有量の原子量%が18%では、融点は1453℃であり、17%では1460℃、16%では1466℃、14%では1477℃となる。育成する単結晶は、磁歪特性が最大となるように単結晶中のガリウム含有量の原子量%で17~19%に設定される。これに対し、種結晶は、一般的に育成される単結晶と同等の物を用いることができる。本発明では、育成する単結晶のガリウム含有量より低く設定された種結晶を用いることを特徴としている。育成する単結晶のガリウム含有量より低く設定された種結晶を用いることで、シーディング時に種結晶の融解温度が高くなり、シーディング時の実質の温度勾配を底上げすることが可能となる。
【0046】
また、本製造方法では、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度(原子%(at%))と種結晶のGa濃度(原子%(at%))との濃度差は、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるように設定される。これにより、シーディング時に種結晶の融解温度が高くなり、シーディング時の実質の温度勾配を底上げすることが可能となる。なお、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度(原子%(at%))と種結晶のGa濃度(原子%(at%))との濃度差は、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるように設定されていれば、任意である。なお、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるような設定は、例えば、線形的な増加傾向でもよいし、階段状のような段階的な増加傾向でもよい。
【0047】
例えば、本製造方法では、育成時の坩堝の移動速度は2.0mm/時間以上であり、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と種結晶のGa濃度との濃度差は2原子%以上に設定されてもよい。
【0048】
また、例えば、本製造方法では、育成時の坩堝の移動速度は5.0mm/時間以上であり、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と種結晶のGa濃度との濃度差は4原子%以上に設定されてもよい。
【0049】
なお、特にシーディング位置では、温度勾配が低い状態では、ヒーターの出力のばらつき等により種結晶が全融解する不具合が発生することがあるが、上記のように種結晶の融解温度が上昇することで、この不具合を防止することができる。特に、従来では、温度勾配が2.5℃/mm未満の場合、FeGa合金種結晶16が高温となって完全に融解してしまうおそれがあったが、本製造方法では、例えば、温度勾配が2.5℃/mm未満でも、種結晶の融解温度が上昇することで種結晶が全融解する不具合の発生を抑制することができ、使用可能となる。なお、本製造方法においては、育成速度は、育成時における坩堝の移動速度となる。
【0050】
また、炉内の温度勾配は育成速度も関連する。一般に育成速度を低速度にて行う場合は、温度勾配は低くてもよいが、育成速度が速くなると、坩堝内の温度が追従できるように温度勾配を高くする必要がある。但し、育成する単結晶のガリウム含有量より低く設定された種結晶を用いることで、温度勾配が小さくてもシーディングが可能となる。シーディング後の育成速度は、一般的には単結晶の成長速度によって適宜決定される。一般に育成速度が速くなると融液と育成された結晶の固液界面が不安定になりやすく、温度勾配が高くなるにつれて安定する傾向にある。
【0051】
本実施形態のFeGa合金単結晶の製造方法では、育成速度(育成時における坩堝の移動速度)は限定されない。
【0052】
上述のように育成炉が大型化すると温度勾配は低下し、シーディングの不具合が発生しやすくなる。このシーディングの不具合には、例えばシーディングに合わせ高い温度勾配を形成することにより対応してきたが、本実施形態のFeGa合金単結晶の製造方法では、種結晶を育成する単結晶のガリウム含有量より低く設定された種結晶を用いることで、温度勾配が小さくてもシーディングが可能となり、かつ、育成速度を従来と同等に維持することが可能となる。これにより、本実施形態のFeGa合金単結晶の製造方法では、大型化された結晶育成炉で、温度勾配が小さくなったり、微細な温度制御が困難な場合でも、従来よりも安定してシーディングが可能となり、育成結晶の大型化にも好適に適用することができる。
【0053】
図3は、実質温度勾配と育成速度との関係の一例を示すグラフである。図3には、実施例1~4及び比較例1~4の結果から求めた実質温度勾配と育成速度との関係のを示す。本製造方法では、シーディング位置の温度差(種結晶における結晶成長側の端部の温度と、シーディング位置の温度との温度差)と、種結晶と育成する結晶との融点差の合計を、種結晶における結晶成長側の端部からのシーディング位置までの距離で除した値で示される実質温度勾配をY(mm/℃)([(シーディング位置の温度差)+(種結晶と育成する結晶との融点差)]/種結晶における結晶成長側の端部からのシーディング位置までの距離)とし、育成時の坩堝の移動速度(例えば、坩堝の降下速度)をX(mm/時)とした時に、
Y≧0.69X+1.87・・・(式1) 、を満たす範囲内で行うことで、上述の効果がより確実に発揮し、安定して結晶を育成することが可能となる。なお、上記式1における傾き(0.69)は、実施例1~4の結果から近似して求めたものであり、切片(1.87)は、実施例1~4及び比較例1~4の結果から求めたものである。なお、上記の「実質温度勾配」の値を用いる場合、一般的に用いられる温度勾配の値を用いるよりも正確な値となり、製造条件をより正確に設定することができる。上記の「実質温度勾配」の値は、例えば、実施例などに記載の方法で測定することができる。
【0054】
なお、種結晶において、シーディング位置は、一般的には、種結晶の長さ方向の中央近辺にしているが、本製造方法においては、種結晶の鉛直方向(長さ方向)の中央より上方側をシーディング位置とすることが好ましく、種結晶の鉛直方向(長さ方向)の上側から30%~40%の範囲に設定することがより好ましい。シーディング位置を上方側に設定することで融解時までの距離が短くなり、実質の温度勾配が大きくなる。例えば、鉄ガリウム合金種結晶16の上下方向の長さを30mmに設定した場合、シーディング位置は種結晶上端より10mmに設定できる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係るFeGa合金単結晶の製造方法は、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は、育成時の坩堝の移動速度の大きさに従って大きくなるように設定され、単結晶を製造する、ものである。
【0056】
また、本実施形態に係るFeGa合金単結晶の製造方法は、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成時の坩堝の移動速度は2.0mm/時間以上であり、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は2原子%以上に設定され、単結晶を製造する、ものである。
【0057】
また、本実施形態に係るFeGa合金単結晶の製造方法は、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、種結晶のGa濃度は、育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度よりも低く設定され、かつ、前記育成時の坩堝の移動速度は5.0mm/時間以上であり、前記育成されるFeGa合金単結晶のGa濃度と前記種結晶のGa濃度との濃度差は4原子%以上に設定され、単結晶を製造する、ものである。
【0058】
本実施形態に係るFeGa合金単結晶の製造方法は、一方向凝固結晶成長法によるFeGa合金単結晶の製造方法であって、シーデイングを安定して行うことができ、従来の育成速度を維持し安定した育成を行うことができる。
【0059】
なお、本実施形態のFeGa合金単結晶の製造方法において、上記以外の条件は、予備実験などによって適宜設定することができる。例えば、各種の製造条件は、多結晶にならず単結晶を製造するように適宜設定され、予備実験などによって適宜設定することができる。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によっ
て何ら限定されるものではない。
【0061】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、例えば図1に示す鉄ガリウム合金の単結晶を育成する育成炉100を使用することができる。
【0062】
[実施例1]
まず、室温20℃の環境下で、化学量論比で鉄とガリウムの比率が82:18になるように、すなわちガリウム含有量が原子量%で18.0%となるように、メディアン径が約1mmの粒状鉄原料(純度:99.9%)とガリウム原料(純度:99.99%)を秤量した。秤量したガリウム原料をテフロン(登録商標)容器に投入し、湯煎により融解した。さらに、融解したガリウム原料へ鉄原料を投入し、容器内で攪拌を行った後、室温まで冷却し、混合原料である鉄とガリウムの混合物17を作製した。
【0063】
そして、外寸が74mm角、内寸が66mm角で坩堝の厚みは均一であり、高さが200mmの緻密質アルミナ製の単結晶育成用坩堝10内の下部に、あらかじめガリウム含有量を調整したFeGa合金種結晶16(ガリウム含有量が原子量%で16%、直径5mmおよび長さ30mmの円柱形状)を充填し、かつ、当該FeGa合金種結晶16の上に鉄とガリウムの混合物17を充填した。このとき、FeGa合金種結晶16には、主面方位が<100>方位である結晶を使用した。
【0064】
次に、単結晶育成用坩堝10の開口部10aに、緻密質アルミナの焼結物製の蓋を被せた。そして、FeGa合金種結晶16と鉄とガリウムの混合物17が充填された単結晶育成用坩堝10を、図1に示すように、坩堝受け14に載せて、熱電対15の先端部を単結晶育成用坩堝10の側面に接触させた。
【0065】
次に、可動用ロッド13を駆動させて育成炉100の坩堝受け13の最下部にセットした。その後、育成炉100内にアルゴンガスを導入し、育成炉100内を大気圧のアルゴン雰囲気に調整した。また、カーボン製の抵抗加熱ヒーター12を使用した。
【0066】
なお、事前に育成炉100の温度勾配を確認した。温度勾配は以下で求めた。まず育成炉内の温度分布を測定した。例えば、坩堝の種結晶上端の位置に熱電対を取り付け、シード位置近辺が融点温度より高い温度になるようにヒーター出力を調整した。その後、可動用ロッド13を上下に可動させ各位置の温度を測定し、その結果より温度勾配を算出した。詳細には、各位置の測定温度素グラフに描き近似曲線を求め、その近似曲線の各位置毎に微分してその位置の温度勾配を求めた。本実施例1では、種結晶16の上端より10mm下がった所をシーディング位置と設定し、種結晶16の上端からシーディング位置までの部分の温度勾配は、2.3℃/mmであった(「シード部温度勾配」と称すこともある)。次に、育成炉100内の昇温を行った。昇温が終了して育成炉100内の温度が安定した後、可動用ロッド13を駆動させて坩堝受け13を上昇させることにより、単結晶育成用坩堝10を緩やかな速度で上昇させた。上部の温度が高く、下部の温度が低い温度勾配がつくられているので、上部に移動するに従って単結晶育成用坩堝10内の温度が上昇し、鉄とガリウムの混合物17が融解してその融解物20が形成された。
【0067】
その後、FeGa組成はFeGa合金単結晶中のガリウム含有量が原子量%で18%であり、種結晶16のガリウム含有量が原子量%で16%であり、前述と同様に式1から求めた実質温度勾配は、3.6℃/mmであった。
【0068】
混合原料がほぼ融解して融解物20となったら、育成炉100内へのアルゴンガスの導入を抑え、真空ポンプを使用して350Paまで育成炉100内を減圧し、そのまま、約30分間保持した。次に200Pa以下となるまで2.5Pa/分の勾配で60分かけて徐々に減圧し、融解物20中の気泡を除去した(気泡除去工程)。気泡除去工程後、アルゴンガスの導入を再開し、育成炉100内を1気圧の不活性雰囲気に調整した。
【0069】
上記融解物20が形成された単結晶育成用坩堝10の位置する付近で、熱電対15の接触点位置の温度をモニターしながら、可動用ロッド13を駆動させて単結晶育成用坩堝10内の温度勾配を2.3℃/mmに維持しつつ、単結晶育成用坩堝10をシーディング位置まで上昇させて温度を安定させシーディングを行った。シーディングを行った後、可動用ロット13を駆動させて単結晶育成用坩堝10の降下速度を2mm/時間、すなわちFeGa合金単結晶の育成速度を2mm/時間として、単結晶育成用坩堝10を降下させ、FeGa合金単結晶の育成を開始した。単結晶育成用坩堝10の降下距離が100mmとなった後、育成を終了した。
【0070】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出したところ、FeGa合金種結晶16の下端部には融解は見られず、FeGa合金種結晶16の全てが融解しなかったことから、正常にシーディングできたことを確認した。さらに、育成されたFeGa合金の単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかったことから、単結晶を問題なく育成できたことを確認した。
【0071】
また、上記を3回繰り返し、FeGa合金単結晶のインゴットを3本製造した。いずれのインゴットにおいても、上記と同様の結果となり、正常にシーディングができ、安定してFeGa合金単結晶のインゴットを製造することができた。
【0072】
[実施例2]
実施例2は、ヒーターの外側に設置する断熱材の厚さを薄くすることで、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が2.4℃/mmとなった。実質温度勾配は、3.7℃/mmであった。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0073】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出したところ、正常にシーディングできたことを確認した。さらに、育成されたFeGa合金の単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかったことから、単結晶を問題なく育成できたことを確認した。
【0074】
[実施例3]
実施例3は、FeGa合金種結晶16のガリウム含有量が原子量%で14%とした。また、ヒーターの外側に設置する断熱材の材質を熱伝導率の高い材質に変更することで、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が3.4℃/mmとなった。実質温度勾配は、5.8℃/mmであった。育成速度は5mm/時間とした。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0075】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出したところ、正常にシーディングできたことを確認した。さらに、育成されたFeGa合金の単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかったことから、単結晶を問題なく育成できたことを確認した。
【0076】
[実施例4]
実施例4は、FeGa合金種結晶16のガリウム含有量が原子量%で17%とした。また、ヒーターの外側に設置する断熱材の厚さを薄くすることで、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が2.4℃/mmとなった。実質温度勾配は、3.1℃/mmであった。育成速度は1mm/時間とした。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0077】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出したところ、正常にシーディングできたことを確認した。さらに、育成されたFeGa合金の単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかったことから、単結晶を問題なく育成できたことを確認した。
【0078】
[比較例1]
比較例1は、FeGa合金種結晶16のガリウム含有量が原子量%で18%とした。ヒーターの外側に設置する断熱材の長さを長くすることで、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が2.9℃/mmとなった。実質温度勾配は、2.9℃/mmであった。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0079】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出して切断し、インゴットの内部を観察したが、粒界が観察され、多結晶化していた。また、上記の育成を3回繰り返したが、3本共に多結晶化していた。
【0080】
[比較例2]
比較例2は、FeGa合金種結晶16のガリウム含有量が原子量%で18%とした。実質温度勾配は、2.3℃/mmであった。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0081】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出して切断し、インゴットの内部を観察したが、粒界が観察され、多結晶化していた。
【0082】
[比較例3]
比較例3は、ヒーターの外側に設置する断熱材の厚さを薄くすることで、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が2.4℃/mmとなった。実質温度勾配は、3.7℃/mmであった。育成速度は5mm/時間とした。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0083】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出して切断し、インゴットの内部を観察したが、粒界が観察され、多結晶化していた。
【0084】
[比較例4]
比較例4は、FeGa合金種結晶16のガリウム含有量が原子量%で14%とした。ヒーターの外側に設置する断熱材の厚さを薄くすることで、単結晶育成用坩堝10の温度勾配が2.4℃/mmとなった。実質温度勾配は、4.8℃/mmであった。育成速度は5mm/時間とした。その他の条件は実施例1と同じにしてFeGa合金単結晶の製造操作を行った。
【0085】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したインゴットを取り出して切断し、インゴットの内部を観察したが、粒界が観察され、多結晶化していた。
【0086】
実施例1~実施例4および比較例1~4の結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
結果として、上述した([(シーディング位置の温度差)+(種結晶と育成する結晶との融点差)]/種結晶における結晶成長側の端部からのシーディング位置までの距離)をYとし、育成時の坩堝の移動速度(例えば、坩堝の降下速度)をXとした時に、(シーディング位置の温度差)+(種結晶と育成する結晶との融点差)/シーディング位置 で示される実質温度勾配をYとし、育成時の坩堝の降下速度をXとした時に、式1:Y≧0.69X+1.87、を満たす実施例1~4において、FeGa合金単結晶を問題なく育成することができた。以上から、本製造方法によれば、シーデイングを安定して行うことができ、従来の育成速度を維持し安定した育成が可能であることが確認される。
【0089】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態等で説明した態様に限定されない。上述の実施形態等で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態等で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態等で引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0090】
100 単結晶育成炉
10 単結晶育成用坩堝
10a 開口部
11 断熱材
12 ヒーター
13 可動用ロッド
14 坩堝受け
15 熱電対
16 FeGa合金種結晶
17 鉄とガリウムの混合物
18 真空ポンプ
19 チャンバー
20 融解物
21 FeGa合金単結晶

図1
図2
図3