(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015884
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】接合型発光素子ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240130BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20240130BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118252
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】石崎 順也
(72)【発明者】
【氏名】古屋 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】秋山 智弘
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA40
5F241CA05
5F241CA34
5F241CA74
5F241CA77
5F241CB11
5F241CB36
(57)【要約】
【課題】 熱硬化型接合材で固定される発光素子構造との界面における応力を減少させ、出発基板除去後の発光素子構造の剥離やクラック発生を抑制した接合型発光素子ウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】 (Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)を活性層として有する発光素子構造と、可視光に対して透明かつ紫外光に対して透明な基板とを、可視光に対して透明かつ紫外光を吸収する熱硬化型接合材を介して接合又は接着する接合型発光素子ウェーハの製造方法において、前記熱硬化型接合材の硬化温度を、120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加により、若しくは、漸次的増加により、又は、それらの組合せにより、上昇させて前記熱硬化型接合材を硬化する接合型発光素子ウェーハの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)を活性層として有する発光素子構造と、
可視光に対して透明かつ紫外光に対して透明な基板とを、
可視光に対して透明かつ紫外光を吸収する熱硬化型接合材を介して接合又は接着する接合型発光素子ウェーハの製造方法において、
前記熱硬化型接合材の硬化温度を、120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加により、若しくは、漸次的増加により、又は、それらの組合せにより、上昇させて前記熱硬化型接合材を硬化することを特徴とする接合型発光素子ウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記硬化温度の段階的増加は、
120℃以上180℃以下の温度域で所定時間保持する第一ステップ工程、
180℃超220℃以下の温度域で所定時間保持する第二ステップ工程、
220℃超270℃以下の温度域で所定時間保持する第三ステップ工程、
270℃超320℃以下の温度域で所定時間保持する第四ステップ工程、
のうち、前記第一ステップ工程を行った後、
前記第二ステップ工程、前記第三ステップ工程、前記第四ステップ工程のうちの少なくとも2つの工程を行い昇温することを特徴とする請求項1に記載の接合型発光素子ウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記第一ステップ工程の保持時間を30分以上300分以下とし、
前記第二ステップ工程の保持時間を15分以上200分以下とし、
前記第三ステップ工程の保持時間を5分以上50分以下とし、
前記第四ステップ工程の保持時間を1分以上30分以下とすることを特徴とする請求項2に記載の接合型発光素子ウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記硬化温度を、連続的に上昇させ、かつ、120℃以上180℃以下の温度域における平均昇温速度が、180℃超から硬化温度の最高温度に到達するまでの温度域における平均昇温速度の1/2倍以下の平均昇温速度で連続的に上昇させることを特徴とする請求項1に記載の接合型発光素子ウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化型接合材を、ベンゾシクロブテンとすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の接合型発光素子ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合型発光素子ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlGaInP系マイクロLED用ウェーハとして、BCB(ベンゾシクロブテン)を介した接合ウェーハの技術が開示されている。BCBは、硬化後の体積変化率が少ないなど、接着材料として優れた特徴を有する。BCBを用いたウェーハの接着は、例えば、特許文献1~4に記載されている。
【0003】
しかし、接合・被接合ウェーハの熱膨張係数がBCBより大きい場合、この特徴は不利に働く。
【0004】
サファイア基板とAlGaInPエピタキシャルウェーハ(GaAsウェーハを出発基板とし、AlGaInPのエピタキシャル層等を成長させたもの)を接合する場合を述べる。サファイアの熱膨張係数は約5.5×10-6[/K]であり、AlGaInPエピタキシャルウェーハの出発基板の材質であるGaAsの熱膨張係数は約5.7×10-6[/K]である。BCBを熱硬化させる際、AlGaInPエピタキシャルウェーハの出発基板の材質であるGaAsの方の熱膨張係数が大きいことから、BCB熱硬化処理後は、BCB硬化層に対し、GaAs基板には引張応力がかかる事になる。
【0005】
その一方、AlGaInPエピタキシャルウェーハの熱膨張係数は約5.4×10-6[/K]である。BCB熱硬化時の加熱温度にAlGaInPエピタキシャルウェーハを上昇させた場合、AlGaInPエピタキシャルウェーハの熱膨張係数はGaAsの熱膨張係数より小さいことから、エピタキシャル層には引張応力がかかっている。この引張応力がかかった状態のまま、BCBを熱硬化させるため、引張応力がエピタキシャル層内部で固定されたまま硬化される。
【0006】
内部に固定された応力は様々な問題を引き起こす。例えば、BCB硬化後、出発基板を除去した後、エピタキシャル層にクラックを引き起こす。応力が圧縮の場合、結晶格子が歪むことでクラックにつながらない場合が多いが、引張応力への耐力は半導体では圧縮応力への耐力より低く、クラックを発生させ易くなる。
【0007】
また、この応力により、BCBとエピタキシャル表面との滑り力も内包している。そのため、BCBとエピタキシャル層の接着面での破壊が生じやすく、出発基板除去後のエピタキシャル層が保持されず、エピタキシャル層破壊・エピタキシャル層剥離が発生し易くなる。
【0008】
この応力は、熱硬化温度から室温に下げた際に発生するものであるため、環境温度が高ければ応力を減らすことができる。しかし、マイクロLEDは加熱しながら使用するデバイスではないため、環境温度を上昇させて使用することで、内部に固定された応力を減らす方法は採用できない。
【0009】
従って、エピタキシャル層剥離やエピタキシャル層に発生するクラックを抑止するためには、BCBで固定されるエピタキシャル層との界面における応力を減少させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-246640号公報
【特許文献2】特開2006-261510号公報
【特許文献3】特表2009-537970号公報
【特許文献4】特表2011-523383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、熱硬化型接合材で固定される発光素子構造との界面における応力を減少させ、出発基板除去後の発光素子構造の剥離やクラック発生を抑制した接合型発光素子ウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)を活性層として有する発光素子構造と、可視光に対して透明かつ紫外光に対して透明な基板とを、可視光に対して透明かつ紫外光を吸収する熱硬化型接合材を介して接合又は接着する接合型発光素子ウェーハの製造方法において、前記熱硬化型接合材の硬化温度を、120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加により、若しくは、漸次的増加により、又は、それらの組合せにより、上昇させて前記熱硬化型接合材を硬化することを特徴とする接合型発光素子ウェーハの製造方法を提供する。
【0013】
このように熱硬化型接合材の硬化温度を120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加によって若しくは漸次的増加によって、又は、それらの組合せにより上昇させて熱硬化型接合材を硬化することで、熱硬化型接合材によって固定される発光素子構造との界面における応力を減少させ、出発基板除去後の発光素子構造の剥離やクラック発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法では、前記硬化温度の段階的増加は、120℃以上180℃以下の温度域で所定時間保持する第一ステップ工程、180℃超220℃以下の温度域で所定時間保持する第二ステップ工程、220℃超270℃以下の温度域で所定時間保持する第三ステップ工程、270℃超320℃以下の温度域で所定時間保持する第四ステップ工程、のうち、前記第一ステップ工程を行った後、前記第二ステップ工程、前記第三ステップ工程、前記第四ステップ工程のうちの少なくとも2つの工程を行い昇温することができる。
【0015】
このような硬化温度の段階的増加とすることにより、より確実に発光素子構造の剥離やクラック発生を抑制することができる。
【0016】
このとき、前記第一ステップ工程の保持時間を30分以上300分以下とし、前記第二ステップ工程の保持時間を15分以上200分以下とし、前記第三ステップ工程の保持時間を5分以上50分以下とし、前記第四ステップ工程の保持時間を1分以上30分以下とすることができる。
【0017】
このような保持時間とすることにより、発光素子構造の剥離やクラック発生の抑制をより確実に行うことができる。
【0018】
また、本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法では、前記硬化温度を、連続的に上昇させ、かつ、120℃以上180℃以下の温度域における平均昇温速度が、180℃超から硬化温度の最高温度に到達するまでの温度域における平均昇温速度の1/2倍以下の平均昇温速度で連続的に上昇させることができる。
【0019】
このような熱硬化型接合材の硬化温度の漸次的増加によっても、より確実に発光素子構造の剥離やクラック発生を抑制することができる。
【0020】
また、前記熱硬化型接合材を、ベンゾシクロブテンとすることが好ましい。
【0021】
本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法では、ベンゾシクロブテン(BCB)を熱硬化型接合剤として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法であれば、熱硬化型接合材によって固定される発光素子構造との界面における応力を減少させ、出発基板除去後の発光素子構造の剥離やクラック発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法の一部を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法の他の一部を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法の他の一部を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法の他の一部を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法の他の一部を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の接合型発光素子ウェーハの製造方法の他の一部を示す概略断面図である。
【
図7】実施例1の接合型発光素子ウェーハのウェーハ外観の写真である。
【
図8】実施例2の接合型発光素子ウェーハのウェーハ外観の写真である。
【
図9】比較例の接合型発光素子ウェーハのウェーハ外観の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明は、(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)を活性層として有する発光素子構造と、可視光に対して透明かつ紫外光に対して透明な基板とを、可視光に対して透明かつ紫外光を吸収する熱硬化型接合材を介して接合又は接着する接合型発光素子ウェーハの製造方法において、前記熱硬化型接合材の硬化温度を、120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加により、若しくは、漸次的増加により、又は、それらの組合せにより、上昇させて前記熱硬化型接合材を硬化することを特徴とする接合型発光素子ウェーハの製造方法である。
【0026】
以下、本発明の態様を第一の実施形態、第二の実施形態を例示して、図面を参照して説明する。また、重複する説明は一部省略する。
【0027】
[第一の実施形態]
まず、第一の実施形態を説明する。この実施形態は、熱硬化型接合材の硬化温度の上昇を、120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加により行う形態である。
【0028】
まず、(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)を活性層として有する発光素子構造を準備する。そのため、
図1に示すように出発基板11上に、順次エピタキシャル成長を行い、各層を形成し、エピタキシャルウェーハ20を作製する。これにより、エッチストップ層12や、発光素子構造18を有するエピタキシャル層を作製する。より具体的には、以下のようにして各層のエピタキシャル成長を行うことができる。
【0029】
図1に示すように第一導電型の例えばGaAsからなる出発基板11上にエッチストップ層12をエピタキシャル成長させる。エッチストップ層12は、例えば、第一導電型のGaAsバッファ層を積層した後、第一導電型のGa
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6)第一エッチストップ層を例えば0.1μm、第一導電型のGaAs第二エッチストップ層を例えば0.1μm成長させることにより形成することができる。さらに、エッチストップ層12上に、例えば、第一導電型の(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0<y≦1.0)第一クラッド層13を例えば1.0μm、ノンドープの(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)活性層14、第二導電型の(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第二クラッド層15を例えば1.0μm、第二導電型のGaInP中間層(不図示)を例えば0.1μm、第二導電型のGaP窓層16を例えば4μm、順次成長したエピタキシャル機能層としての発光素子構造18を有するエピタキシャルウェーハ20を準備する。ここでAlGaInP第一クラッド層13からAlGaInP第二クラッド層15までをダブルヘテロ(DH)構造部と称する(
図1)。なお、発光素子構造18の材料はこれらに限定されず、発光素子構造を有するものとすればよい。
【0030】
前記した膜厚はあくまで例示であり、素子の動作仕様により膜厚は変更されるべきパラメーターにすぎず、ここで記載した膜厚に限定されない。また、各層は単一組成層ではなく、例示した範囲の組成内で複数組成層を有することを概念として含む。また、キャリア濃度の水準は、各層で均一ではなく、各層内で複数の水準を有することを概念として含む。
【0031】
また、活性層14は、単一組成から構成されてもよく、また、バリア層と活性層を複数交互に積層した構造であっても、類似の機能を有し、両者いずれもが選択可能である。
【0032】
次に、上記のようにして準備した(AlyGa1-y)xIn1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)を活性層として有する発光素子構造18と、可視光に対して透明かつ紫外光に対して透明な基板(以下、単に「透光性基板」と称することがある)とを、可視光に対して透明かつ紫外光を吸収する熱硬化型接合材を介して接合又は接着する。
【0033】
この接合又は接着は、具体的には、以下のようにして行うことができる。
図2に示したように、エピタキシャルウェーハ20(発光素子構造18)上に熱硬化型接合材25として例えばベンゾシクロブテン(BCB)をスピンコートし、被接合ウェーハである透光性基板(例えばサファイアウェーハ)30と対向させて重ね合わせ、真空雰囲気下にて熱圧着する。スピンコートにてBCBを塗布する際、設計膜厚は例えば0.6μmとすることができる。
【0034】
上記のように両基板間の熱硬化型接合材25を硬化する。ここで、第一の実施形態では熱硬化型接合材25を熱硬化する際、120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階で、温度を段階的に増加させるようにする。
【0035】
より具体的には、ここでの硬化温度の段階的増加は、120℃以上180℃以下の温度域で所定時間保持する第一ステップ工程、180℃超220℃以下の温度域で所定時間保持する第二ステップ工程、220℃超270℃以下の温度域で所定時間保持する第三ステップ工程、270℃超320℃以下の温度域で所定時間保持する第四ステップ工程のうち、まず、第一ステップ工程を行った後、第二ステップ工程、第三ステップ工程、第四ステップ工程のうちの少なくとも2つの工程を行い昇温することができる。
【0036】
また、第一ステップ工程の保持時間を30分以上とし、第二ステップ工程の保持時間を15分以上とし、第三ステップ工程の保持時間を5分以上とし、第四ステップ工程の保持時間を1分以上とすることができる。このようにすることで、例えば、第一ステップ工程では硬化率を55%以下とし、第二ステップ工程では硬化率を55%超80%以下とし、第三ステップ工程では硬化率を80%超95%以下とし、第四ステップ工程では硬化率を95%超とすることができる。例えば、第一ステップ工程~第三ステップ工程を行った場合、第四ステップ工程(270℃超320℃以下の工程)は必ずしも行う必要はない。
【0037】
なお、硬化率の定義としては、特許文献2に記載されているものを使用することができる。熱硬化型接合材25の硬化率は、FT-IR装置(フーリエ変換赤外分光分析装置、Fourier Transform Infrared Spectrophotometer)を用い、赤外吸収スペクトルを解析することにより求めることが可能である。
【0038】
熱硬化型接合材25の材料としてBCBを用いた場合には、硬化が進行するに伴ってシクロブテン環が減少する。従って、赤外吸収スペクトルから、シクロブテン環に対応するスペクトル成分の強度を測定することにより求めることが可能である。熱処理を行っていない状態のBCBをFT-IR装置を用いて測定すると、硬化率が0%の際における赤外吸収スペクトルが得られる。硬化率が0%の際における赤外吸収スペクトルから、シクロブテン環に対応するスペクトル成分の強度P1を求める。一方、完全硬化させたときのBCBをFT-IR装置を用いて測定すると、硬化率が100%の際における赤外吸収スペクトルが得られる。硬化率が100%の際における赤外吸収スペクトルから、シクロブテン環に対応するスペクトル成分の強度P2を求める。また、半硬化のBCBをFT-IR装置を用いて測定すると、半硬化のBCBの赤外吸収スペクトルが得られる。かかる半硬化のBCBの赤外吸収スペクトルから、シクロブテン環に対応するスペクトル成分の強度P3を求める。そして、かかる半硬化のBCBにおける硬化率Sは、
S=[(P3-P1)/(P2-P1)]×100(%)
により求められる。
【0039】
なお、ここでは、シクロブテン環に対応するスペクトル成分の強度により、BCBの硬化率を求める場合を例に説明したが、熱硬化型接合材25の硬化率の算出に用いられるスペクトル成分は、シクロブテン環に対応するスペクトル成分に限定されるものではない。
【0040】
熱硬化型接合材25の材料としてBCBを用いた場合には、硬化が進行するに伴って、シクロブテン環が減少する一方で、テトラヒドロナフタレン環が増加する。従って、赤外吸収スペクトルから、テトラヒドロナフタレン環に対応するスペクトル成分の強度を測定することによっても、BCBの硬化率を求めることが可能である。
【0041】
また、各温度での保持時間の上限は、第一ステップ工程の保持時間を300分以下とし、第二ステップ工程の保持時間を200分以下とし、第三ステップ工程の保持時間を50分以下とし、第四ステップ工程の保持時間を30分以下とすることができる。このような時間であれば、十分に本発明の効果を得ることができ、また、必要以上のコストがかからないので好適である。
【0042】
より具体的には、第一ステップ工程として、例えば設定温度150℃、保持時間180分とすることができる(BCB硬化率35%)。第二ステップ工程として、例えば設定温度200℃にて120分、保持することができる。第三ステップ工程として、例えば設定温度250℃にて30分、保持することができる。第四ステップ工程として、例えば設定温度300℃にて15分、保持することができる。
【0043】
また、上述したように各ステップにおいて必ずしも一定温度とする必要はなく各ステップの温度範囲内であれば温度を連続的に増加させたり一定温度としたりすることは、自由に選択することができる。
【0044】
本実施形態においては、真空雰囲気としたが、この雰囲気に限定されるものではなく、酸素が100ppm以下の雰囲気であれば、どのような雰囲気であっても採用可能である。窒素雰囲気やアルゴン雰囲気であっても同様の効果が得られる。
【0045】
また、被接合基板は、サファイア基板に限定されるものではなく、レーザー光透過性と平坦性が担保されていればどのような材料も選択可能である。サファイアの他、石英を選択することも可能ある。
【0046】
また、BCB等の熱硬化型接合材25は層状に塗布した状態に限定されない。感光性BCB等の熱硬化型接合材25を用いて孤立島状やライン状、その他の形状にパターン化し、接合の工程を行っても同様な結果が得られる。
【0047】
また、BCB膜厚も0.6μmに限定されるものではなく、この厚さ以上に薄くても同様の効果が得られる。
【0048】
また、95%超までの硬化は必ずしも必要ではなく、95%以下の硬化率であっても製品としては成立する。特にUV透過性かつ可視透過性のある支持基板であるサファイアウェーハに、UV吸収性かつ可視透過性のBCBで接合したマイクロLEDの場合、最終的にはBCB層にてマイクロLEDと支持基板を分離して実装するため、BCB層の硬化率はデバイスプロセスに耐えうる程度の機械強度および化学耐性を有していればよい。そのため、80~95%の硬化率の段階で硬化を止めても即ち第四ステップ工程を必ずしも行わなくても良い。
【0049】
また、マイクロLEDのデバイス工程を実施するためには、80%以上のBCB硬化率とすることが好ましい。本発明では、温度上昇を120℃以上320℃以下の範囲で3段階以上の段階を有する段階的増加で行い、その際に、第一ステップ工程と第二ステップ工程と第三ステップ工程、第一ステップ工程と第三ステップ工程と第四ステップ工程、又は、第一ステップ工程と第二ステップ工程と第四ステップ工程という態様で実施することができる。
【0050】
以上のようにして、接合型発光素子ウェーハを製造することができる。
図2に示した接合型発光素子ウェーハは、発光素子構造を有するマイクロLED構造体用とすることができる。また、以下のように、続けて各素子の電極等を形成することができる。
【0051】
図3に示すように、出発基板11を除去する。より具体的には以下の通りである。上記の例のように、GaAs基板を出発基板11として用いた場合には、アンモニア過水(アンモニアと過酸化水素の混合溶液)にてウェットエッチングで除去する。これにより、エッチストップ層12のうち、GaInP第一エッチストップ層を露出させる。次に、エッチャントを塩酸系に切り替えてエッチストップ層12のうちGaInP第一エッチストップ層を選択的に除去し、エッチストップ層12のうちGaAs第二エッチストップ層を露出させ、次にエッチャントを硫酸過水(硫酸と過酸化水素の混合溶液)系に切り替えてGaAs第二エッチストップ層を選択的に除去し、第一クラッド層13を露出させる。以上の処理を行うことにより、DH層と窓層のみを保持するエピタキシャル接合基板を作製することができる(
図3)。
【0052】
次に
図4に示すようにフォトリソグラフィー法によりパターンを形成し、ICP(誘導結合プラズマ、Inductively Coupled Plasma)により素子分離加工を行う(
図4中の素子分離溝47)。ICPに使用するガスは塩素およびアルゴンとすることができる。ICP加工はBCB層(熱硬化型接合材25)を露出させる工程と第二クラッド層15またはGaP窓層16を露出させる工程の2回行う。
【0053】
図4では第二クラッド層15を露出させた場合を例示したが、GaP窓層16が露出する場合でも同様の効果が得られる。
【0054】
次に、
図5に示したように、素子分離加工後、端面処理として保護膜52を形成する。保護膜52としてはSiO
2、SiNxや酸化チタン、酸化マグネシウムなども選択可能である。
【0055】
保護膜52の形成後、
図6に示したように第一導電型層あるいは第二導電型層それぞれに接する電極54、56を形成し、熱処理を施すことでオーミックコンタクトを形成する。第一導電型をn型、第二導電型をp型とした場合、n型層に接する電極にAuとSiを含有する金属を、p型層に接する電極にAuとBeを含有する金属を使用することができる。
【0056】
なお、n型電極はAuとSiに限定されるものではなく、AuとGeを含有する金属を使用しても同様な結果が得られる。また、p型電極についてもAuとBeに限定されるものではなく、AuとZnを含有する金属を使用しても同様な結果が得られる。
【0057】
(第二実施形態)
第二実施形態は第一実施形態とBCB等の熱硬化型接合材25の熱硬化工程以外の工程は同じなのでこれらの工程の記載を省略する。
【0058】
第二実施形態は第一実施形態と異なり、BCB層等の熱硬化型接合材25の熱硬化を階段状には行わず、漸次温度を増加させる。このとき、昇温速度を温度上昇と共に増加させることが好ましい。より具体的には、硬化温度を、連続的に上昇させ、かつ、120℃以上180℃以下の温度域における平均昇温速度が、180℃超から硬化温度の最高温度に到達するまでの温度域における平均昇温速度の1/2倍以下の平均昇温速度で連続的に上昇させることが好ましい。例えば120℃から180℃まで60分かけて漸次昇温し、180℃を超えてから220℃まで40分かけて漸次昇温し、220℃を超えてから270℃まで20分かけて漸次昇温し、270℃を超えてから320℃まで10分かけて漸次昇温することができる。
【0059】
この場合、120℃から180℃までの平均の温度上昇速度は1℃/分となっており、180を超えてから320℃までの平均の温度上昇速度は平均2℃/分と高温領域の平均の温度上昇速度が速くなっている。このように高温領域の平均昇温速度を低温領域より速くなるように昇温することが好ましい。
【0060】
また、第一実施形態と同様に270℃超320℃以下の工程は必ずしも行う必要はない。
【実施例0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0062】
(実施例1)
第一の実施形態に沿って接合型発光素子ウェーハを製造した。
【0063】
まず、
図1に示したように、n型(第一導電型)のGaAs出発基板11上に、n型のGaAsバッファ層積層後、n型のGa
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6)第一エッチストップ層を厚さ0.1μm、n型のGaAs第二エッチストップ層を厚さ0.1μm、エピタキシャル成長し、エッチストップ層12とした。さらに、n型の(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第一クラッド層13を厚さ1.0μm、ノンドープの(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0≦y≦0.5)活性層14、p型の(Al
yGa
1-y)
xIn
1-xP(0.4≦x≦0.6,0.6≦y≦1.0)第二クラッド層15を厚さ1.0μm、p型のGa
xIn
1-xP(0.5≦x≦1.0)中間層(不図示)を厚さ0.1μm、p型のGaP窓層16を順次成長し、エピタキシャル機能層としての発光素子構造18を有するエピタキシャルウェーハ20を準備した(
図1)。
【0064】
次に、
図2に示したように、エピタキシャルウェーハ20上(発光素子構造18上)に熱硬化型接合材25としてベンゾシクロブテン(BCB)をスピンコートし、可視光透過性基板30であるサファイアウェーハ(被接合ウェーハ)と対向させて重ね合わせ、真空雰囲気下にて熱圧着した。スピンコートにてBCBを塗布する際、設計膜厚は0.6μmとした。
【0065】
次に、真空雰囲気でBCBの熱硬化を行った。熱硬化の際、以下のように段階的に温度を上げた。第一ステップ工程として、設定温度150℃、保持時間180分とした(BCB硬化率35%)。次に第二ステップ工程として、設定温度200℃にて120分保持した。次に第三ステップ工程として、設定温度250℃にて30分、保持した。次に第四ステップ工程として、設定温度300℃にて15分、保持して硬化率98%とした。
【0066】
次に、
図3に示したように、GaAs出発基板11をアンモニア過水(アンモニアと過酸化水素の混合溶液)にてウェットエッチングで除去し、エッチストップ層12のうち第一エッチストップ層を露出させ、エッチャントを切り替えて第二エッチストップ層を除去して第一クラッド層13を露出させ、DH層と窓層のみを保持するエピタキシャル接合基板を作製した。
【0067】
次に、
図4に示したように、フォトリソグラフィー法によりパターンを形成し、ICPにより素子分離加工を行った(素子分離溝47)。ICPに使用するガスは塩素およびアルゴンとした。ICP加工はBCB層25を露出させる工程と第二クラッド層15を露出させる工程の2回行った。
【0068】
素子分離加工後、
図5に示したように、端面処理としてSiO
2保護膜52を形成した。
【0069】
保護膜52の形成後、
図6に示したように、n型層あるいはp型層それぞれに接する電極54、56を形成し、熱処理を施すことでオーミックコンタクトを形成した。n型層に接する電極にAuとSiを含有する金属を、p型層に接する電極にAuとBeを含有する金属を使用した。
【0070】
(実施例2)
実施例2はBCB層の熱硬化を階段状には行わず、以下のとおり漸次温度を増加させたことを除き、実施例1と同じ条件で、接合型発光素子ウェーハを製造した。120℃から180℃まで60分かけて漸次昇温し、180℃から220℃まで40分かけて漸次昇温し、220℃から270℃まで20分かけて漸次昇温し、270℃から320℃まで10分かけて漸次昇温してBCBを熱硬化させた。
【0071】
(比較例)
BCB硬化工程を250℃1時間保持の1段処理で行ったことを除き、実施例1と同様な条件で接合型発光素子ウェーハを製造した。
【0072】
図7、8に実施例1、2の場合の接合後のウェーハ外観、
図9に比較例における接合後のウェーハ外観を示す。実施例の温度プロファイルで接合した場合、大きな接合不良は発生しないが、比較例で実施した場合、外周部で接合不良が生じ、エピタキシャル層が大きく剥離した。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。