(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158931
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体およびそれを用いた断熱用樹脂シート
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074571
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔掲載アドレス〕https://www.furukawa.co.jp/release/2022/fun_20221031.html 〔掲載日〕令和4年10月31日 〔配布物〕「高断熱フォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所 〔配布日〕令和4年5月10日 〔配布物〕「高断熱フォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕株式会社安藤・間 〔配布日〕令和4年5月17日 〔配布物〕「ポリエチレンフォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕株式会社中野科学 〔配布日〕令和4年5月23日 〔配布物〕「高断熱フォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕株式会社吉田産業 〔配布日〕令和4年8月18日 〔配布物〕「ポリエチレンフォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕橋爪商事株式会社 〔配布日〕令和4年8月19日 〔配布物〕「高断熱フォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕東鉄工業株式会社等 〔配布日〕令和4年8月23日等 〔配布物〕「高断熱フォームのご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕清水建設株式会社等 〔配布日〕令和5年2月22日等 〔配布物〕「古河発泡製品のご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕積水ハウス株式会社 〔配布日〕令和5年1月20日 〔配布物〕「古河発泡製品のご紹介」プレゼンテーション資料 〔配布先〕シバタ工業株式会社 〔配布日〕令和5年2月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 英史
(72)【発明者】
【氏名】海野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大来 裕
(72)【発明者】
【氏名】宮城 秀文
(72)【発明者】
【氏名】高井 一希
(72)【発明者】
【氏名】河井 功一
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA20
4F074BA13
4F074BB02
4F074BB28
4F074CA22
4F074CC06X
4F074CC06Y
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA07
4F074DA08
4F074DA14
4F074DA32
(57)【要約】
【課題】ポリエチレン樹脂において新規な気泡構造を有するとともに、その気泡構造を得ることで、熱伝導率の低下を実現する。
【解決手段】発泡体中の各気泡の厚み方向の気泡径の最大値をそれぞれ各気泡の気泡径と定義した場合の、気泡径が100μm以下の気泡群がその他のこれより気泡径が大きい多数の気泡中にランダムにクラスター状に集積して分散した気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体であって、前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、気泡径が400μm以上の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、さらに、前記押出発泡体の平均気泡径が200μm以下である、気泡径分布を満足する気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体中の各気泡の厚み方向の気泡径の最大値をそれぞれ各気泡の気泡径と定義した場合の、気泡径が100μm以下の気泡群がその他のこれより気泡径が大きい多数の気泡中にランダムにクラスター状に集積して分散した気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体であって、
前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、
気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、
気泡径が400μm以上の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、
さらに、前記押出発泡体の平均気泡径が200μm以下である、
気泡径分布を満足する気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【請求項2】
前記ポリエチレン樹脂化学架橋押出発泡体の熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下を満足するものであることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の密度が22.5~40.0kg/m3のポリエチレン樹脂発泡体であることを特徴とする請求項2にポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【請求項4】
前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の機械的特徴として、25%圧縮変形時の圧縮強度が40kPa以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【請求項5】
請求項2から4のいずれかに記載の前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体が、断熱用樹脂シートであることを特徴とするポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を用いた断熱用樹脂シート。
【請求項6】
前記断熱用樹脂シートがダム用養生断熱シートであることを特徴とする請求項5に記載の断熱用樹脂シート。
【請求項7】
前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、低密度ポリエチレン100質量部に対して、発泡剤を15~20質量部、架橋剤を0.6~1.4質量部、増粘剤0.4~3.0質量部、架橋助剤を0.05~0.5質量部を含む組成からポリエチレン樹脂を溶融混錬、架橋発泡することで製造することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【請求項8】
前記発泡剤にADCA(アゾジカーボンアミド)を、架橋剤にDCP(ジクミールカーボンオキサイド)を、増粘剤にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系改質剤を、架橋助剤にTMPTA(トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート)を用いることを特徴とする請求項7に記載のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体。
【請求項9】
ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を、
発泡体中の各気泡の厚み方向の気泡径の最大値をそれぞれ各気泡の気泡径と定義した場合の、気泡径が100μm以下の気泡群がその他のこれより気泡径が大きい多数の気泡中にランダムにクラスター状に集積して分散した気泡構造を有し、
気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、
気泡径が400μm以上の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、
さらに、前記押出発泡体の平均気泡径が200μm以下である
気泡径分布を満足する気泡構造とすることで、ポリエチレン樹脂発泡体の熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下とすることを特徴とするポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の熱伝導率向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体およびそれを用いた断熱用樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる射出発泡などの3次元形状を有する発泡体の製造方法を除く、ポリエチレンシート状発泡体の製造法にはいくつかの方法が知られている。具体的には、シート状のポリエチレン樹脂発泡体の製造方法には、1)非架橋のまま溶融樹脂にガス注入を行って押出発泡体を製造する無架橋押出発泡体を製造する製造方法、2)押出材の高温の発泡過程での気泡の破泡を防止するために発泡対象の樹脂を電子線架橋する架橋発泡体の製造方法、3)押出材の高温の発泡過程での気泡の破泡を防止するために発泡対象の樹脂を化学架橋する架橋発泡体の製造方法、4)予備成形された樹脂シートをバッチ発泡により外部からガスを浸透させ微細な気泡構造を作成するマイクロ発泡樹脂の製造方法などがある。
【0003】
ここで、上記のポリエチレンを無架橋のまま発泡させる製造法では、樹脂の高温強度の関係で、発泡時に気泡壁が破断して、破泡するため、発泡倍率が3~4倍の発泡体を作成することができるが、高発泡倍率の発泡体を得るには問題がある。さらに高倍率な発泡体を作成するためには樹脂強度を向上させる目的で、ポリエチレン樹脂を架橋する必要があり、ポリエチレン樹脂発泡体の場合には、押出時に化学架橋させて発泡させる化学架橋発泡法か、電子線照射して基材樹脂を架橋させた後に発泡させる電子線架橋発泡法のいずれかの方法により発泡体が製造されてきた。
【0004】
電子線架橋法によるポリエチレン樹脂発泡体の製造は、例えば、電子線照射機を製造ラインに組み込むことでポリエチレン樹脂の長尺シートを連続して製造することができ、化学架橋により架橋する場合に比べて架橋状態を制御しやすい特徴がある。
【0005】
一方、電子線架橋により樹脂の溶融状態での樹脂強度を高める電子線架橋押出法の代わりに、樹脂強度を化学架橋により向上させ押出後の発泡過程における、樹脂の高温強度を高めることで発泡過程での破泡を防止し、高倍率のポリエチレン押出発泡体を安定に製造することができる押出化学架橋発泡法がある。
【0006】
バッチ発泡法
また、以上の3つの異なるプロセスで発泡させる押出発泡法に対して、予備成形された樹脂シートを、超臨界流体(超臨界二酸化炭素)に浸漬し、飽和するまで含浸した後、あるいは一度取出して圧力解放あるいは加熱によって微細気泡を発生させるマイクロ発泡樹脂をバッチ発泡により製造する発泡成形法がある。
【0007】
ここで、圧力解放によって発泡させる場合は、オートクレーブ中でプラスチックのガラス転移温度(Tg)以上を維持しながら急減圧する。また、昇温によって発泡させる場合は、オートクレーブ中で一端プラスチックのTg以下まで冷却し、ガスが含浸したプラスチックを取出してから急速加熱する。この方法の特長は、大量の物理発泡剤(ガス)を溶解して多数の気泡を発生させることと、Tg付近で発泡させるために気泡の粗大化が避けられて微細気泡が得られる点にある。加圧バッチ発泡させる場合には、PET樹脂のような高強度樹脂を低発泡倍率で発泡させる場合には、均一に微細な発泡構造を得ることは可能で平均気泡径10μm以下とすることができる。
【0008】
これに対して、押出中に20~30倍に高倍率に発泡させるポリエチレン押出樹脂発泡体の場合には、マイクロ発泡樹脂のような均一に微細な気泡構造を得ることは、製造方法の都合で困難である。これまで、シート状の樹脂発泡体の気泡構造は、基本的には発泡体全体として、気泡の大きさの均質化を目指すか、あるいはシートの所定厚さの部分の気泡構造を制御することで研究開発がなされてきた。
【0009】
押出後の加熱炉の保持状態で、架橋反応と発泡プロセスの温度や反応条件の制御することで、製造後の押出発泡体の気泡径を変化させることはできるが、これにより、高発泡倍率を維持して状態で押出発泡体の気泡構造を均一に微細化した気泡構造を得ることは困難であった。
【0010】
ここで、本発明においては、比較的高い発泡倍率の樹脂発泡体における微細気泡構造の押出発泡体を得ることを目標としたが、非架橋の押出ガス発泡体と電子線架橋押出発泡体の場合には、気泡径を全体として微細化することは困難であり、その製法上の特徴から発泡体の表層から所定厚さの部分までの気泡を微細化することは可能であるが、全体として微細化することは困難であることが確認された。
【0011】
そのため、発明者等は種々検討の結果、発泡体の気泡構造において、所定寸法より大きい気泡径の気泡群中に、所定寸法より小さい気泡径の気泡群を所定割合でランダムに分散させた気泡構造を付与することで、平均気泡径を低下させ、さらに熱伝導率を低下させることが可能であることを確認し、本願発明をなすに至った。具体的には、開発されたシート状発泡体は、気泡径の大きな気泡群と気泡径の小さな気泡群の2種の気泡群を有し、気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに分散された気泡構造を有するポリエチレン系架橋押出樹脂発泡体という新規な気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を得た。さらに、本発明により気泡構造を変えた場合でも、圧縮特性に例示されるように従来の気泡構造を有する発泡体と同レベルの機械的性質を確保し、熱伝導率を低下させ断熱性を高めることを目標にした。
【0012】
上記のような気泡径の大きな気泡群中に、気泡径の小さな気泡群をランダムに分散させた気泡構造を有するポリエチレン押出樹脂発泡体を得ることで、平均気泡径を低下させ、その結果熱伝導率を低下させることができるものである。
本発明の特徴は、微細気泡が比較的大きな気泡同士の境界近傍またはそれらの間に気泡径の小さい気泡が複数個集積してランダムに小さなクラスターを形成して分散して存在しているかのいずれかであり、微細気泡の面積率が小さくても熱伝導率の低下が可能なことにある。本発明においては、以下クラスターとは、気泡が複数個集積した集積体をいう。
【0013】
ここで、ポリエチレン架橋押出樹脂発泡体において、押出時に原料樹脂と化学発泡材、架橋剤、架橋助剤に増粘剤を低温でミキシングロールによって溶融混錬して、これを押出架橋発泡することで得ることができるが、特にこのような特異的な構造を得るためには、特に発泡前の架橋現象や気泡のセル壁の強度などが重要であり、例えば、架橋助剤、増粘剤を混錬により、ランダムに分散させることで、添加剤の近傍の気泡は、熱的にポリエチレン樹脂より安定な添加剤の存在により気泡壁が間接的に補強されて気泡の成長や気泡の合体が抑制されることが可能になるものと考えられる。
【0014】
例えば、架橋助剤に、トリメチロールプロパントリメタクリレート(多官能エステル)を用いると官能基数が高いため、硬い膜を作ることができると考えられ、増粘剤にPTFE系改質剤などを用いた場合には、PTFEは、押出加工後時にも、安定で発泡時にもセル壁が破泡したり、変形したりするのを防止する作用があると考えられる。そのため、気泡のPTFEの存在する部位の近傍における気泡の成長が阻害され気泡径が小さくなるものと推定される。
【0015】
なお、本発明においては、ポリエチレン樹脂とは、発明の対象とするポリエチレン樹脂は低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンの他、ポリエチレン系共重合体を含むものとする。
【0016】
特許文献1は、断熱性と折板成形機における成形性と結露水を保持する保水性能などに優れた断熱折板用発泡体として有用な発泡体、発泡体シート及びその製造方法を提供するものである。特許文献1には、密度0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレン(A)、密度0.940~0.960g/cm3の高密度ポリエチレン(B)および酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体とエチレンとの共重合体(C)とからなり、(A)と(B)+(C)との割合が60~80重量%と40~20重量%であり、(B)と(C)との重量比率が0.3~1.0:1.0である樹脂組成物が架橋、発泡された平均気泡径が0.4~0.7mm(400~700μm)である化学架橋ポリエチレン系樹脂発泡体が記載されている。
特許文献1の樹脂発泡体は、所定の大きさより気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに所定割合でクラスター状に分散された気泡構造を有する樹脂発泡体ではない。
【0017】
特許文献2の発明は、電子線架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の製造においてシート厚み方向に架橋度を制御できるようにすることを目的とする。発泡性樹脂シートに電子線を照射して架橋させた後加熱発泡させるポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法において、電子線の照射を、より加速電圧の低い第1の照射と、より加速電圧の高い第2の照射との少なくとも二度行うことを特徴とするもので、ポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法、およびその方法で製造されたポリオレフィン系樹脂発泡体が記載されている。特に、特許文献2には、第1の照射は、電子線の透過深さが発泡性樹脂シートの厚みの1/6~1/3、特に1/4程度となる加速電圧で行ない、第2の照射は、電子線の深さが発泡性樹脂シートの全厚みに達する加速電圧で行なうことにより、電子線の照射を少なくとも2度実施して発泡させた発泡体の表層から1mmまでの平均気泡径が300μm以下とすることが記載されている。このように、電子線架橋の場合には、発泡体の架橋度の調整が電子線の照射線量の調整により行うことができるので、化学架橋の場合より気泡径の制御が容易であることが分かる。特許文献2の樹脂発泡体は、発泡体の表面からの所定厚さまでの気泡径を制御する発明が記載されているが、本発明のような所定の大きさより気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに所定割合でクラスター状に分散された気泡構造を有する樹脂発泡体ではない。
【0018】
特許文献3は、マテリアルリサイクルが可能な無架橋ポリエチレン系樹脂からなる、熱成形性に優れた発泡体と、その効率的な製造方法と、緩衝性、柔軟性に優れた成形品とを提供するものである。特許文献3には、無架橋のポリエチレン系樹脂と発泡剤とを押出機に供給し、溶融混練したのち、サーキュラーダイスを通して筒状に押し出して発泡させ、この筒状発泡体を円環状のマンドレルの外周に沿わせて引き取って製造される、熱成形に用いるシート状の発泡体が記載されている。このシート状発泡体は波打ちの、波高さの最大値が1~10mm、波数が10個/200mm以下、発泡体表面の中心線平均粗さRaが9.0μm以上、平均気泡径が0.2~2.5mm(200μm~2500μm)、密度が0.015~0.05g/cm3で、かつ厚みが0.7~20mmである無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体である。特許文献3の樹脂発泡体は、平均気泡径が200μm~2500μmと気泡径の範囲が広く気泡径を制御する目的ではなく、本発明のような所定の大きさより気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに所定割合でクラスター状に分散された気泡構造を有する樹脂発泡体ではない。
【0019】
特許文献4は、断熱性及び難燃性に優れ、特に、断熱性にあっては、JIS A9511で規定されたB類3種を満たす優れた断熱性を有し、建築用断熱材等に好適に用いることができるスチレン系樹脂発泡板を提供することを目的とするものである。特許文献4は、ジメチルエーテル、ブタン及び水からなる発泡剤を用いて押出発泡により製造されたスチレン系樹脂発泡板であって、少なくとも一つの表面層の気泡におけるスチレン系樹脂発泡板の厚み方向の平均気泡径が0.05~0.20mmであると共に、中心層の気泡におけるスチレン系樹脂発泡板の厚み方向の平均気泡径が、上記表面層の気泡におけるスチレン系樹脂発泡板の厚み方向の平均気泡径の1.45~2.50倍であることを特徴とするスチレン系樹脂発泡板が開示されている。特許文献4によれば、ポリスチレンのガス発泡による発泡体において、表層部分と中央部分の気泡径を対比すると、表層部分の気泡径が小さく、中央部分の気泡径が大きい、厚さ方向にバイモーダルな気泡径分布を有する樹脂発泡体であることが判る。そのため、この発明は、本発明のような所定の大きさより気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに所定割合でクラスター状に分散された樹脂発泡体ではない。
【0020】
非特許文献1には、PET樹脂に比べて耐熱性や難燃性、機械的強度に優れるPPS樹脂について2回の微細気泡発泡プロセス (基材樹脂に各剤を配合して加圧式ニーダーにて混練、ペレタイズし発泡性樹脂組成物のペレットを得る。単軸押出機のホッパーよりペレットを投入し押出機内で溶融混練して所定幅のダイスにより押出して、平滑な発泡用母材シートを得る。次に、この発泡用母材シートを、加熱炉中を通過させることで各試験材に応じた発泡倍率に発泡させ、シート状発泡体を得ること)を繰り返し行うことで、高発泡倍率のマイクロ発泡樹脂発泡体を得る技術が記載されている。非特許文献1には、1回目の微細気泡発泡プロセスを行って所定の倍率5~6倍に発泡させた発泡体を、2回目の発泡を所定温度で加熱発泡することで、高発泡倍率10~36倍の微細気泡PPSを得ることができる。この場合に発泡倍率が最大の場合でも、平均気泡径は40μm未満で、熱伝導率が0.0382W/m・K@0℃である。この場合の平均気泡径は40μm未満で、発泡倍率が高くなると熱伝導率が低下する傾向を示すが、発泡倍率が最大の場合でも、熱伝導率が0.0382W/m・K@0℃であり、熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下にはならない。
【0021】
結論として、2段のMC発泡プロセスにより、高発泡倍率化を実現しても気泡径が40μm以下と小さく、対流による熱伝導率の低下を考慮する必要がないレベルであるため、微細気泡発泡プロセスにより製造したPPS樹脂発泡体の場合には、高発泡率化により、樹脂密度の低下により樹脂部分を通じた熱伝導による熱伝達量の低下の影響が認められるものの、高発泡倍率化した場合でも、気泡径が押出発泡などの場合より全体的に小さいため、樹脂部分を通じた熱伝導による熱伝達量が大きく、熱伝達率の低下が少ないものと考えられる。
【0022】
この論文からは、微細気泡発泡プロセスで製造した発泡体を高発泡倍率に発泡させた場合であっても、気泡径やセル壁厚さ及び熱伝導の機構などの相違により、異なる挙動を示すものと考えられた。
気泡のモルホロジーがユニモーダルで、気泡径が40μm前後の場合には、熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃を超えることが判る。気泡径が大きな気泡群中に、気泡径が小さな気泡群が所定割合でランダムに分散された気泡径分布が得られないこと、その結果、発泡倍率が高い場合でも、気泡径が小さく且つ均一性が高いため熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下にならないものと考えられる。
【0023】
ここで、特許文献1~特許文献4及び非特許文献1には,電子線架橋発泡体、化学架橋発泡体、無架橋発泡体、バッチ発泡によるマイクロ発泡樹脂発泡体に関する発明と各製造法により製造された発泡体の気泡構造が記載されているが、いずれの文献にも、本発明のような、発泡体全体の気泡構造において、気泡径が所定の大きさより大きな気泡群中に、気泡径の小さな気泡群がランダムに所定割合でクラスター状に分散された気泡構造を有する樹脂発泡体に関する記載や示唆はない。発明者等が提案する樹脂発泡体は、新規な構造を有する樹脂発泡体であることが分る。
【0024】
以上の文献では、特許文献2の電子線架橋による樹脂発泡体と特許文献4の無架橋のポリスチレン樹脂発泡体が気泡径を制御する発明である。特に、特許文献4のポリスチレン樹脂発泡体の発明は、気泡径の小さな気泡群と気泡径の大きな気泡群を有することでは両者は共通しているが、特許文献4の発明は、ポリスチレン樹脂発泡体において所定厚さの範囲に気泡径の小さな気泡群を、それより内側には、気泡径の大きな気泡群を配置する気泡構造を得るものである。また、非特許文献1に記載されたバッチ発泡による微細気泡発泡プロセスを用いても本発明のような気泡構造を得ることができないし、熱伝導率の低下が期待できない。
逆に言うと、これまでは、化学架橋により架橋を行う高発泡倍率のポリエチレン系樹脂架橋押出発泡体に対しては、気泡径の大きな気泡を有する発泡体中に微細気泡を所定量安定して導入する方法が存在しなかった。これに対して、本発明は、ポリエチレン系樹脂発泡体において、気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに所定割合でクラスター状に分散された気泡構造を有する樹脂発泡体を得るものであるため、両者は樹脂の種類と気泡構造がともに相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開平08-302053号公報
【特許文献2】特開平11-279315号公報
【特許文献3】特開2002-036337号公報
【特許文献4】特開2004-277673号公報
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】古河電工時報 平成26年2月 第133号(バッチ発泡によるマイクロ発泡樹脂の例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、架橋押出発泡体の気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群が所定割合でランダムに分散された気泡構造が形成されたポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を開発することで、低熱伝導率で表面品質に優れるポリエチレン押出架橋樹脂発泡体を得ることができる。このような気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群が所定割合でランダムにクラスター状に分散された気泡構造を有する樹脂発泡体はこれまで製造されたことがないが、大きな気泡群中に小さな気泡群が多数分散され、これが熱移動の障壁となることで、熱伝導率の低下が期待できる。この樹脂発泡体は、例えば、断熱用シートカバーとして使用する際の熱伝導率の低下などの性能向上を期待することができるが、熱伝導率を0.0350W/(m・K)以下とすることができるため、ダムのコンクリートの養生シートとしての仕様を満足することができる。本発明の樹脂発泡体をダムのコンクリートの養生シートに用いることで、降雪や気温低下からコンクリートの吸水膨張による割れを防止することができる。また、本発明の気泡構造を有する樹脂発泡体は、合わせてロール圧延による寸法精度が高い特徴がある。
そこで本発明は、ポリエチレン樹脂において新規な気泡構造を有するとともに、その気泡構造を得ることで、熱伝導率の低下を実現するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体およびそれを用いた断熱用樹脂シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、押出発泡体を構成する気泡が所定サイズの気泡径より大きい気泡群と、所定サイズの気泡径より小さい気泡径の気泡群が所定割合で所定サイズの気泡径より大きい気泡群中にランダムにクラスター状に分散した気泡構造を有する。
具体的には、本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、発泡体中の各気泡の厚み方向の気泡径の最大値をそれぞれ各気泡の気泡径と定義した場合の、気泡径が100μm以下の気泡群がその他のこれより気泡径が大きい多数の気泡中にランダムにクラスター状に集積して分散した気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体であって、前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、気泡径が400μm以上の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、さらに、前記押出発泡体の平均気泡径が200μm以下である、気泡径分布を満足する気泡構造を有するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体である。このような気泡径が小さい気泡群が気泡径の大きな基本群中にランダムな分布(不規則な配置)を有する気泡構造は、ポリエチレン系樹脂を化学架橋により架橋させた樹脂発泡体の製造過程における添加剤を加えることで得られる気泡構造の特徴であり、ガス発泡や電子線架橋発泡などにより得られる発泡体との差別化点であり、ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体における特異的な構造である。
【0029】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下を満足するポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体である。
本発明では、このように、ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の気泡構造を上記の態様とすることにより、熱伝導率を下げ、良好な断熱材として使用することができる。
また、ここで、気泡径の大きな気泡の気泡が隣接する気泡壁同士の境界またはそれらの間に気泡径の小さい気泡がランダムに複数個集積してクラスターを形成して存在しているものであり、さらに、ここでは、発泡体断面の画角視野中に、気泡径の小さい気泡のクラスターがランダムに存在していることが気泡構造の特徴である。ここで、気泡径が100μm以下の気泡の数である気泡数が重要であり、気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める割合が50%以上で、さらにこれらの気泡の面積率は、気泡径が400μm以上の気泡の割合が20%以下であっても、面積率でみると気泡径が100μm以下の気泡の気泡数割合が50%を超えていても、面積率が50%を超えることはないし、通常、気泡径が100μm以下の気泡の面積率は50%より、はるかに小さいものとなる。
【0030】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、前記ポリエチレン樹脂発泡体の密度が22.5~40.0kg/m3であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の密度が上記の範囲であることにより、熱伝導率を低く抑えながら発泡倍率を調整することで密度を所定の範囲に調整することができる。
【0031】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、前記ポリエチレン樹脂発泡体の機械的特徴として、25%圧縮変形時の圧縮強度が40kPa以上であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の圧縮強度が上記の範囲であることにより、変形しにくく形態的に安定したシート類とすることができる。
【0032】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、発泡体表面の表面粗さが平滑なものであることが好ましい。ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の表面粗さが小さく平滑になることにより、断熱樹脂シートとして使用する場合の密着性が向上し断熱性が向上することで、断熱樹脂シートと使用する相手材に密着性しやすくなるという利点がある。
【0033】
本発明においては、前記ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体が、断熱用樹脂シートであることが好ましい。
【0034】
前記断熱用樹脂シートは、ダム用養生断熱シートであることが好ましい。本発明の断熱用樹脂シートはダム用養生断熱シートとして優れた断熱性を発揮する。
【0035】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、低密度ポリエチレン100質量部に対して、発泡剤として15~20質量部、架橋剤を0.6~1.4質量部、増粘剤0.4~3.0質量部、架橋助剤を0.05~0.5質量部を含む組成からポリエチレン樹脂を溶融混錬、架橋発泡することで製造することが好ましい。
上記の組成の各成分を原料として用いることにより、所定の気泡径の分布を達成することが容易になり、再現性良く所望のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を得ることができる。
【0036】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の製造においては、前記発泡剤にADCA(アゾジカーボンアミド)を、架橋剤にDCP(ジクミールカーボンオキサイド)を、増粘剤にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系改質剤を、架橋助剤にTMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)を用いることが好ましい。
上記の各化合物を所定量用いることにより、所定の気泡径の分布を達成することが容易になり、再現性良く所望のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を得ることができる。
【0037】
また、本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体を、発泡体中の各気泡の厚み方向の気泡径の最大値をそれぞれ各気泡の気泡径と定義した場合の、気泡径が100μm以下の気泡群がその他のこれより気泡径が大きい多数の気泡中にランダムにクラスター状に集積して分散した気泡構造を有し、気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、気泡径が400μm以上の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、さらに、前記押出発泡体の平均気泡径が200μm以下である気泡径分布を満足する気泡構造とすることで、ポリエチレン樹脂発泡体の熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下とすることを特徴とするポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の熱伝導率向上方法である。上記のように、ポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の気泡構造を制御することで、ポリエチレン樹脂発泡体の熱伝導率を制御することを可能する熱伝導率向上方法である。
【発明の効果】
【0038】
上記のように、ポリエチレン押出樹脂発泡体の気泡構造として、気泡を全体的に均質に微細化することが困難であった。そのため、本発明においては、気泡径を全体に微細化し、厚さ方向に気泡径の大きな気泡径が数百μmの気泡群と、気泡径の小さな気泡群の2種の気泡群をそれぞれ所定割合で配置したバイモーダルな気泡構造を得るのではなく、気泡径の大きな気泡群の気泡壁同士の近傍、またはそれらの間に気泡径の小さな気泡群が所定割合でランダムに分散された気泡構造を有する樹脂発泡体を得ることができる。
【0039】
以上より、本発明により得られた樹脂発泡体は、新規な気泡構造を有するとともに、その気泡構造を得ることで、熱伝導率の低下や表面品質の向上を実現することができた。
熱伝導率の低下やロール圧延による表面品質の向上効果の理由の詳細は別途記載するが、熱伝導率の低下は、気泡径の小さな気泡群による対流抑制効果と輻射熱の反射効果により、ロール圧延後の表面品質向上効果は、気泡径の小さな気泡群が気泡径の大きな気泡群に比べて剛性が高く、そのため、気泡径の大きな気泡群に対する圧延による応力が有効に働くためと考えられる。また、本発明の気泡構造の場合には、厚さ方向に表面側に気泡径の小さな気泡群を中心側に気泡径の大きな気泡群が配置されるバイモーダルな気泡構造を得る場合よりも、気泡径の小さな気泡群の面積率が少なくても、大きな気泡径の気泡群中に気泡径の小さな気泡群がランダムに分散することで上記の対流抑制効果と輻射熱の反射効果により熱移動を阻害することができる特徴を有効に機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施例で得た断熱用樹脂シートの切断面の電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(気泡径)
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、内部の発泡状態が特有な形態にある。すなわち、本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体においては、その気泡径の大きい気泡群の厚み方向の気泡径の下限値が400μmで、前記気泡径が400μm以上の気泡群の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下である。この大きい気泡群の割合は、さらに15%以下であることが好ましい。下限値は特に制限されない。
一方、気泡径の小さい気泡群の厚み方向の気泡径の上限値が100μmであり、前記気泡径が100μm以下の気泡群の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上である。この小さい気泡群の割合は、さらに65%以上が好ましい。上限値は特に制限されない。さらに、前記押出発泡体の平均気泡径は200μm以下であり、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。下限値は特に制限されないが、50μm以上であることが実際的である。
【0042】
(熱伝導率)
さらに、本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の熱伝導率は、0.0350W/m・K@0℃以下である。本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、この熱伝導率が低いため、外界とコンクリート側との熱の伝搬が抑制され、ダムのコンクリートの養生シートとしての仕様を満足することができる。
【0043】
(気泡構造と熱伝導率向上効果の関係の考察)
ここで、通常熱の移動、熱輸送に関しては、3つの熱の輸送方法がある。発泡体を直接的に熱が伝わり、発泡体と接触する物質に直接熱を伝える熱伝導、熱が輻射されて電磁波として輸送される熱輻射、温度分布の違いによる自然な熱の移動(密度流)や強制的な流動によって、流体内の異なる領域の流体が相互に移動することで熱輸送を行なう対流がある。
本発明のような樹脂発泡体における熱輸送は、発泡体内部の樹脂層を通じた熱伝導であり、樹脂発泡体の表面からの熱輻射はそれほど多くはないが、発泡体内部に気泡が存在し、気泡の内部に空気層がある。そこで、この空気層の内部において、樹脂発泡体の一方の表面と他方の表面の間で温度勾配を有することで、気泡内部においてミクロ的な対流が発生するものと考えられる。
【0044】
このミクロ的な対流による熱輸送量は気泡径の相違により異なる。実際の気泡構造は、気泡を例えば球形と仮定すれば、気泡径400μmと気泡径100μmの気泡の体積は、見かけ上約64倍も異なり、断面積は16倍異なることになる。
このような大きさの異なる気泡群を有する樹脂発泡体において、熱伝導率を小さくすることができるのは、気泡径が400μm以上の気泡径の大きい気泡群と気泡径が100μm以下の気泡群の2つの気泡群を対比した場合に、たとえば、気泡径の大きな気泡群の気泡の内部では、対流が起こるが、気泡径が小さい気泡群の内部では、気泡が小さいため対流が起こりにくい。さらに、気泡径の小さな気泡群は、対流防止効果だけでなく、気泡壁において輻射熱を反射して遮断する効果があることから、その点でも熱伝導率を低下させる効果があると考えられる。
【0045】
そのため、大きい気泡径の気泡群の熱伝導率は、小さい気泡径の気泡群の熱伝導率より大きくなる。そのため、通常の気泡径の大きい気泡群中に、気泡径の小さい気泡群を導入することにより、樹脂発泡体の熱移動に関して対流と輻射の両者を同時に低下させることができるため、熱伝導率を低下させることができる。
【0046】
実際に、気泡径の大きい気泡群のみからなるポリエチレン樹脂発泡体と、上記のような大きい気泡径の気泡群中に、気泡径の小さな気泡群をランダムにクラスター状に分散させた気泡構造を有するポリエチレン樹脂発泡体の熱伝導率を測定により確認したところ、明確な熱伝導率の差異が認められた。
【0047】
(発泡体の気泡構造と熱伝導率の関係)
従来の気泡径の大きな気泡のみからなる従来の発泡体と、本発明の発泡体の組織を比べると、本発明の発泡体は、全体としては気泡径の大きな気泡群により構成され、その気泡径の大きな気泡群中に、気泡径の小さい気泡群の集合体を所定割合で形成して、各所に所定割合の気泡径の小さい気泡群がランダムに集積して分散された気泡構造を有していることが分る。
【0048】
このような気泡構造を得ることで、結果として、従来のような気泡構造を有する発泡体に比べて、熱伝導率を低下させることができる。
・従来の気泡径の大きなポリエチレン樹脂発泡体:
熱伝導率が0.03702 W/m・K@0℃以下
・本発明の気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群が所定割合でランダムに集積して分散された気泡構造が形成されたポリエチレン樹脂発泡体:
熱伝導率が0.03384 W/m・K@0℃以下
ここで、従来の気泡径の大きな発泡体と本発明の気泡径の大きな気泡中に気泡径の小さな気泡群がランダムにクラスター状に分散した発泡体の熱伝導率を比較するために、両者の熱伝導率の比率を取ると、0.914となり、約9.14%熱伝導率が低下することになる。
【0049】
この熱伝導率の低下は、ほぼ同一組成の発泡材料を用いた気泡構造のみを、気泡径の大きな気泡構造の発泡材中に気泡径の小さい気泡群をランダムにクラスター状に分散させた気泡構造を得ることで実現することができる。その結果、気泡径の小さな発泡体を安定に得ることが困難なポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体において、高発泡倍率の発泡体を維持したまま熱伝導率の低下を実現できることの技術的意義は大きいものと考えられる。上記の試験からも少なくとも8%以上の熱伝導率の低下が可能になり、熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下のシート状の発泡体を得ることができる。
【0050】
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体は、その好ましい実施形態において、ポリエチレンを基材樹脂として用い、必要により添加剤(発泡剤、架橋剤、架橋助剤、増粘剤、その他の添加剤等)を配合した樹脂組成物を架橋押出発泡させて得た発泡体としてもよい。
【0051】
(ポリエチレン)
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体のベース樹脂となるポリエチレンは特に限定されず、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDP)のいずれであってもよい。本発明においては、特に分岐構造が多く溶融張力が高いLDPEが好ましい。また一部にプロピレンあるいはブチレン等が介在した、共重合ポリエチレンであってもよい。
【0052】
(発泡剤)
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体には、この分野で常用される発泡剤を用いることができる。中でも、熱分解型発泡剤が好ましい。熱分解型発泡剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、無水クエン酸モノソーダ等の無機系発泡剤;アゾジカルボンアミド(ADCA:C2H4N4O2)、アゾジカルボン酸バリウム、アゾビスブチロニトリル、ニトロジグアニジン、N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド、p-トルエンスルホニルヒドラジド、4-トルエンスルホニルセルカルバジド、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジッド、5-フェニルテトラゾール、トリヒドラジノトリアジン、ヒドラゾジカルボンアミド等の有機系発泡剤等が挙げられる。これらの中でもアゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドを用いることが経済性の観点から好ましい。成形温度範囲が広いことや、気泡が微細な発泡体が得られることから、アゾジカルボンアミドまたは炭酸水素ナトリウムを含有する発泡剤を用いることがより好ましい。
【0053】
発泡剤の含有量は適宜調節されればよいが、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、1~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることが特に好ましい。発泡剤は、1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0054】
(架橋剤)
架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP:C18H22O2)、ビス(α,α-ジメチルベンジル)=ペルオキシド、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)ペルオキシド([C6H5C(CH3)2]2O2、分子量:270.37)、1,1-ジターシャリーブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン、α,α-ジターシャリーブチルパーオキシイソプロピルベンゼン、ターシャリーブチルパーオキシケトン、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエートなどをあげることができる。なかでも、架橋剤は、ジクミルパーオキサイド、ビス(α,α-ジメチルベンジル)=ペルオキシド、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)ペルオキシドが好ましく、ジクミルパーオキサイドが特に好ましい。
【0055】
架橋剤の含有量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.1~3.0質量部であることが好ましく、0.4~2.0重量部であることがより好ましく、0.6~1.4重量部であることが特に好ましい。架橋剤は1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0056】
(架橋助剤)
架橋助剤は、分子内に二重結合を複数持つ化合物である多官能モノマーを使用することが好ましい。多官能モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTA、化学式:C15H20O6)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート、エチルビニルベンゼンなどを使用することができる。なかでも、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。架橋助剤も架橋を促進して気泡の成長を抑制する効果がある。
架橋助剤の含有量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.01~1.0質量部であることが好ましく、0.05~0.5重量部であることがより好ましく、0.05~0.4重量部であることが特に好ましい。架橋助剤は1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0057】
(増粘剤)
本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体に用いられる増粘剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):化学式:(C2F4)nが挙げられる。これは、テトラフルオロエチレンの重合体で、フッ素原子と炭素原子のみからなるフッ素樹脂である。テフロン(登録商標)の商品名で知られる。化学的に安定で耐熱性、耐薬品性に優れる(融点:327°C、密度:2.2g/cm3)。商品名としては、メタブレンA-3800(アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン)、三菱レイヨン社ポリテトラフルオロエチレン:三菱レイヨン株式会社製、商品名「メタブレンA3000」(アクリル系重合体(b-1)、ポリテトラフルオロエチレン(b-2)を併用した市販品の代表例)が挙げられる。PTFEの分子鎖はフッ素原子の原子半径が水素などと比べて大きく、炭素鎖をフッ素原子がびっしりと覆いつくした樹脂構造をとるため、押出加工後時にも安定で強度が高く、発泡時にもセル壁が破泡したり、変形するのを防止する作用があると考えられる。また、PTFEをアクリル変性したメタブレンA3000の場合には、溶融混錬押出時のせん断力により、フィブリル化して、溶融樹脂の溶融張力を向上させる効果がさらに大きくなる。
【0058】
増粘剤の含有量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.05~10.0質量部であることが好ましく、0.1~7.0重量部であることがより好ましく、0.4~3.0重量部であることが特に好ましい。架橋助剤は1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0059】
(その他の添加剤)
本発明にかかる組成物には、さらに成形加工性改良等の目的で、ポリオレフィン系樹脂を混合することが可能である。ポリオレフィン系樹脂としては、α-オレフィンの単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物、またはα-オレフィンと他の不飽和単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体及びこれら重合体の酸化、ハロゲン化又はスルホン化したもの等を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。具体的には、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの(共)重合体等が例示できる。これらの中でコスト、熱可塑性樹脂の物性バランスの点からポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、又はこれらの混合物が好ましく使用できる。
ポリオレフィン系樹脂(d)の配合量は、熱可塑性ブロック共重合体(a)100重量部に対して、2~400重量部とするのが好ましく、より好ましくは5~100重量部である。400重量部を超えると得られる熱可塑性樹脂組成物のゴム弾性が低下する。
【0060】
(気泡構造とロール圧延による発泡体表面性状)
通常、発泡体表面の表面性状は、化学架橋した後発泡させた高発泡倍率の発泡体は、電子線架橋の場合に比べて、シート内の架橋度のばらつきが大きいため、発泡体の高発泡倍率の場合には、発泡体表面の表面性状が劣るとされている。
そのため、化学架橋した樹脂発泡体の表面をロール圧延して樹脂発泡体の表面性状を改善することが行われている。そこで、本発明の気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡群が所定割合でランダムに分散した気泡構造有する樹脂発泡体と、通常の気泡径の大きな気泡群のみからなる樹脂発泡体をロール圧延後の表面性状が向上するという特徴を有する。
その結果、本発明の気泡構造を有する樹脂発泡体は、通常のユニモーダルな気泡構造を有する樹脂発泡体よりも表面性状が優れるという結果が得られた。この理由は、必ずしも明かではないが、増粘剤や加工助剤の両者が同時添加されることで、これらの材料による気泡成長抑制効果がより顕著となり、所定の大きさより大きな気泡径の気泡中に気泡径の小さな気泡がランダムに分布する気泡構造が得られる原因であると思われる。
【0061】
ここで、本発明の気泡構造を有する樹脂発泡体の性状が、通常の気泡構造を有する気泡径の小さな気泡群を有する高倍率の発泡体より優れる理由は、気泡径の大きな基本群と気泡径の小さな気泡群では、気泡径の小さな気泡群の方が気泡壁の剛性が高く、気泡径の大きな気泡群の方が気泡壁の剛性が低いため、ロール圧延時の変形が気泡径の大きな気泡群に集中しやすく、大きな気泡径の気泡群中での気泡構造の相違などにより、大きな気泡における気泡同士の変形量の相違が生じやすい。その結果本発明のような気泡構造を有する樹脂発泡体の場合には、通常の気泡径の大きな気泡群のみからなる樹脂発泡体の場合より、発泡体全体してみた場合に、気泡径の大きな気泡群の過度な変形が気泡壁の剛性が高い小さな気泡径の気泡群により抑制されることで、ロール圧延後の表面品質が向上するものと考えられる。
【0062】
(ロール圧延とロール圧延後の発泡体の表面粗さ)
<ロール圧延の方法>
押出温度は所望する発泡状態により適宜に設定すればよく、通常は160~190℃程度の温度で押出成形する。また、押出成形後、成形ロールダイによる圧延を行なう。ここで、成形ロールダイによる圧延による延伸は、例えば、押出方向(MD方向)における圧延により延伸率を20~90%となるように延伸することができる。ここで、延伸率20%とは、圧延により圧延方向の長さを120%(1.2倍)に延伸することを意味し、同様に延伸率30%とは、圧延により圧延方向の長さを130%(1.3倍)に延伸することを意味する。本発明の実施形態では、40%の延伸を行った。
【0063】
<ロール圧延後の発泡体の表面粗さ>
押出発泡体の表面粗さは、TD方向の表面粗さがMD方向の表面粗さより粗くなる。この理由は、成形ロールダイによる圧延による張力により、MD方向に冷却されながら延伸されるが、この際に表面粗さが大きく改善されるためである。ここで、ロールの圧縮力により、TD方向にも気泡が扁平化するため、TD方向の粗さも改善されるが、延伸による気泡の扁平化の効果が大きいMD方向の表面粗さより、TD方向の改善効果の方が少なく、その結果TD方向の表面粗さはMD方向より大きくなる傾向がある。
【実施例0064】
1)気泡径の測定方法
発泡体サンプルの厚み方向の断面を切り出した、厚み5mmのサンプルを、JEOL製のSEM測定機にて、加速電圧20kV、倍率22倍で測定した。この時、発泡体表面側が写真から分かるようにするために、発泡体表面側のサンプル端面を画像に含むように撮影するようにした。
通常の気泡径の測定は、気泡径の測定は、気泡のX方向とY方向の気泡径を求め、その測定値の平均値を平均気泡径とするか、あるいは気泡の形状を画像中で読み取って、それから画像ソフトで気泡の面積を求めてその面積を円形と見なして見かけ直径を求めるなどの方法が取られる。
【0065】
これに対して、本願発明の場合には、発泡体のシート厚さ方向の熱伝導率に対する気泡径の影響を解析する必要があるため、発泡体の厚さ方向の気泡径を求める必要があるが、厚さ方向の気泡径はそれぞれの気泡の測定位置により異なるため、各気泡の気泡径の測定はY方向の最大気泡径の測定値を、それぞれの厚さ方向の気泡径とした。
【0066】
ここで、気泡径測定のための画像処理は、クリックメジャーいうソフトを使用して行った。これは、画像上でクリックした2点間のX方向、もしくはY方向距離をピクセル数として出力可能なソフトであり、これにより、SEM画角内に基準長さ1mmのピクセル数を測定して、これを基準とし、観察断面全体に収まっている全ての気泡の最大気泡径部分のY方向ピクセル数を測定し、基準線長さ1mmのピクセル数との関係から、それぞれの気泡の気泡径を算出することにした。算出にあたっては、画角を表層から中央までが入るように、X方向5mm×Y方向4mmに設定し、その範囲内の全ての気泡のそれぞれの気泡のY方向の気泡径の最大値を気泡径とした。
【0067】
そのため、画角視野中に存在するすべての気泡の気泡径のデータの算術平均を出すことで、平均気泡径とした。また、取得したデータから、400μm以上の径を有する気泡数、および100μm以下の径を有する気泡数をカウントし、全気泡数に対する存在確率を算出した。
図2に実施例1の試験片の厚み方向の断面を切断した電子顕微鏡像の写真を載せた。400μm以上の気泡数が20%以下であり、100μm以下の気泡数が50%以上であることを確認した。
【0068】
2)発泡体密度の測定方法
押出発泡体の密度の測定方法は、JIS K7222-1999に順じて行われ、「発泡プラスチック及びゴム-見かけ密度の測定方法」により行われた。
具体的には、見掛け全体密度、見掛けコア密度、見掛け密度は、次の式によって算出した。単位は、kg/m
3とする。
【数1】
ここに、mは試験片の質量(g)、Vは試験片の体積(mm
3)
すべての試験片について、測定結果から密度の平均値を算出し、0.1kg/m
3に丸める。
[備考]低密度で独立気泡の材料、例えば、30kg/m
3以下の場合には、空気の浮力は誤差の範囲となることがある。その場合にρ
aは次式により求まる。
【数2】
ma:置換された空気の質量。
【0069】
3)熱伝導率の測定方法
平板熱流法:定常法 JIS R2616:2001
熱伝導率(λ)は、物質内の熱の流れやすさを示す物性値で移動する熱量(W)、移動する距離(m)、温度差(K)で表される。2点間に温度差があるときに熱が流れるが、その熱の流れやすさが熱伝導率であり、単位はWm-1K-1である。熱伝導率の測定法には定常法と非定常法があり、目的に応じて使い分けられる。定常法は試料中に定常的な一方向の熱流を作り、熱伝導率を測定する方法であり、非定常法は非定常的に材料を加熱して温度応答を測定する方法である。
【0070】
JIS A1412-2に準拠して、熱伝導率測定を行なった。具体的には、試料を加熱板と冷却板に挟み、定常状態に達した後、試験体の両側の温度差(ΔT)、熱量計で測定した試験体を通過する熱量密度q、試料厚さdから算出する。
λ=q・d/ΔT
ここで、熱流密度q(W/m2)は、試料の面積当たりの熱流量であり、熱板温度制御装置と温度・熱流測定器で測定される値である。
【0071】
熱伝導率の測定に関しては上記のJIS R2616に準拠して行うが、状態調節のみ、長めに取る。これは、製造直後から熱伝導率が変化し、少しずつ上昇していき、72時間程度で定常状態になるという特性を持つため、今回の試験は、全て72時間以上の室温放置における状態調節を経たあとのデータを使用している。
【0072】
4)発泡体の25%圧縮強度
厚み10mmで取得した樹脂発泡体は、JISK6767に準拠した方法で、測定温度23℃で25%圧縮変形時の圧縮強度を求めた。具体的には、50mm角に切断した30倍発泡させた、当該発泡体より大きな面積の板で挟んで、5.0mm/minの速度で発泡体を2.5mm圧縮させ停止し、20秒経過後の強度を測定し、その時の強度を25%圧縮強度とした。また、この強度測定は、オートグラフ引張試験機(型式:AGS-akNX、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0073】
・断熱用樹脂シートの作製方法
基材樹脂に、下記の有機系分解型発泡剤、架橋剤、架橋助剤、増粘剤を配合して、加圧式ニーダーにて混練、ペレタイズして、発泡性樹脂組成物のペレットを得た。単軸押出機のホッパーより、ペレットを投入し、押出機内で溶融混練して所定幅のダイスにより押出して、厚3.3mmの平滑な発泡用母材シートを得た。次に、この発泡用母材シートを連続的に220℃~240℃の加熱炉中を通過させることで各試験材に応じた発泡倍率に発泡させ、シート状発泡体を得た。
【0074】
この架橋押出発泡体の、基材樹脂には、低密度ポリエチレン(LDPE)を用いたが、いずれの場合も低密度ポリエチレンには、宇部丸善ポリエチレン(株)製:F120Nを使用した。また、このシート状発泡体を得るためには、架橋剤としては、日油(株)製、商品名 パークミルD(ジクミルパーオキサイド)、発泡剤には、有機系分解型発泡剤として大塚化学製ユニフォームAZ(アゾジカルボンアミド)、架橋助剤には、三進化学工業(株)製サンエステルTMP(トリメチロールプロパントリメタクリレート)、増粘剤には、三菱ケミカル(株)製メタブレンA-3000(PTFE系改質剤)を表1の組成表に記載の質量割合(質量部)にて配合した材料を用いた。ここで、表2に示すシート状押出樹脂発泡体を得た。この発泡体より試験片を切り出し、前述の規格に則り、密度、気泡径、熱伝導率および圧縮強度の測定を実施した。
【0075】
【0076】
《発泡体の気泡構造と強度等:密度・気泡径・熱伝導率・圧縮強度等》
【表2】
【0077】
・断熱用樹脂シートの評価結果
上記の結果から分かるとおり、実施例1~3の樹脂シートでは、気泡径が400μm以上の気泡群の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、気泡径が100μm以下の気泡群の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、さらに、平均気泡径はいずれも200μm以下である、特許請求の範囲の規定を結果として満足する気泡構造が得られた、またその結果良好な低熱伝導性と十分な圧縮強度を得ることができる。これに対し、比較例1~3の樹脂シートではいずれも、気泡径が400μm以上の気泡群の全気泡に占める割合は20%を上回っており、100μm以下の気泡群の全気泡に占める割合は50%を下回っていた。平均気泡径も200μmを上回っており、結果として、特許請求の範囲の規定を満足する気泡径分布を有する気泡構造を得ることができずに、発明材である実施例材と比較すると、比較例材はいずれも熱伝導率に劣るものとなっていた。増粘剤や加工助剤が添加されることで、気泡径が100μm以下の気泡数の増加により熱伝導率の低下効果は認められるものの、熱伝導率は、0.03500W/m・K@0℃以下を達成することはできないが、増粘剤と加工助剤を同時添加することで、これらの材料による気泡成長抑制効果がより顕著となり、所定の大きさより大きな気泡径の気泡中に気泡径の小さな気泡がランダムに分布する気泡構造が得られる原因であると思われる。
【0078】
また、SEM写真から判る実施例1の本発明の発泡体の特徴は、発泡体断面の画角視野中に、気泡径の大きな気泡の気泡壁同士が隣接する気泡壁同士の境界またはそれらの間に気泡径の小さい気泡が複数個集積して、大きな気泡の気泡群中にランダムにクラスターを形成して分散していることが確認された。さらに発泡体断面の画角視野中に、気泡径の小さい気泡クラスターが気泡径の大きい気泡中にランダムに存在していることが本発明のポリエチレン系樹脂化学架橋押出発泡体の気泡構造の特徴である。
【0079】
ここで、気泡径の小さな気泡のクラスターは、切断面の厚さ方向にも幅方向にもランダムに分布していた。このような気泡構造を示す理由としては、架橋助剤や増粘剤が原料の混練工程で、ランダムに素材中に分散するため、その分散位置では気泡の成長が阻害されることで、気泡径の小さい気泡がクラスター状に集積した状態が得られるものと考えられ、これらの気泡の成長を阻害する材料の分散状態に対応して、気泡径の小さな材料が分散したものと考えられた。なお、ガス発泡や電子線架橋発泡においても、気泡径の大きな気泡群中に気泡径の小さな気泡を有する気泡群を分散させることは可能であるが、押出ガス発泡や電子線架橋発泡を用いる発泡体の場合には、その製造方法の特徴から気泡径の小さな気泡の集積が発泡体の表層近傍に集積する傾向がある。
【0080】
実施例1から実施例3の発泡体の密度は、31.4~32.7kg/m3で、ポリエチレン樹脂発泡体の密度が22.5~40.0kg/m3を満足する。また、ポリエチレン樹脂発泡体の機械的特徴として、25%圧縮変形時の圧縮強度は、40.7~43.3kPaであり、40kPa以上を満足し、この発泡体は、通常の発泡体としての密度と25%圧縮変形時の圧縮強度が所定の値を満足することが分かった。
【0081】
以上、本発明によれば、これまで熱伝導率の低下が困難なとされてきたポリエチレン化学架橋押出発泡体において、気泡構造を所定サイズの気泡径より小さい気泡径の気泡群が所定割合で、これより大きな気泡径の気泡群中に、ランダムにクラスター状に分散した気泡構造を有する化学架橋押出発泡体を実現して、さらに、この際の発泡体の気泡径が400μm以上の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が20%以下であり、前記気泡径が100μm以下の気泡の全気泡に占める気泡数の割合が50%以上で、さらに、前記押出発泡体の平均気泡径が200μm以下であるという条件を満足することで、ポリエチレン樹脂発泡体の熱伝導率が0.0350W/m・K@0℃以下である樹脂発泡体を得ることができる。
【0082】
ポリエチレン樹脂発泡体の密度や圧縮強度などの基本的な性質は通常の押出樹脂発泡体としての通常の製品レベルを確保できることが確認された。本発明では、本発明の気泡構造を有する押出発泡体とするポリエチレン化学架橋押出発泡体においては、気泡径の小さな気泡群を導入することで、発泡プロセスにおける気泡の成長を阻害したり、気泡径の大きな気泡群にロール圧延時の変形を気泡径の大きな気泡群に過度に集中することを防止することで、ポリエチレン樹脂発泡体の熱伝導率を所定範囲に抑制するだけでなく、圧縮強度などの機械的性質を維持した上で、さらに押出樹脂発泡体の表面性状を向上させることができるものと考えられる。