(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158978
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】金属異物の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20241031BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20241031BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01N31/00 S
G01N1/04 M
G01N1/28 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074666
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】金子 雅子
【テーマコード(参考)】
2G042
2G052
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BC06
2G042BC08
2G042BC10
2G042BC11
2G042BC12
2G042BC13
2G042CA03
2G042CB06
2G042DA06
2G042FA04
2G042FA06
2G042GA05
2G052AA11
2G052AB01
2G052AC23
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD46
2G052EA04
2G052FD09
2G052GA12
2G052GA13
2G052GA14
2G052GA24
2G052JA24
(57)【要約】
【課題】 粉体材料の製造における、設備などからの金属異物の混入リスクを想定した、試料に含まれる金属異物の種類や量を、安全に、クリーンに、迅速・簡便に、かつ、超微量オーダーまで評価出来る技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 試料とエッチング液を混合し、前記試料に含まれる金属異物を溶解して、前記試料の溶解残渣を含む固相と前記金属異物が溶解されて形成した前記金属異物の構成元素のイオンを含む溶液試料からなる液相とで構成されるスラリー試料を得る溶解工程と、前記スラリー試料を固液分離し、前記溶液試料を得る分離工程と、前記溶液試料に含まれる前記金属異物の構成元素のイオンを、機器分析法によって分析し、前記試料に含まれる金属異物の定性分析結果、及び/又は、定量分析結果を得る分析工程とを有することを特徴とする金属異物の評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料とエッチング液を混合し、前記試料に含まれる金属異物を溶解して、前記試料の溶解残渣を含む固相と前記金属異物が溶解されて形成した前記金属異物の構成元素のイオンを含む溶液試料からなる液相とで構成されるスラリー試料を得る溶解工程と、
前記スラリー試料を固液分離し、前記溶液試料を得る分離工程と、
前記溶液試料に含まれる前記金属異物の構成元素のイオンを、機器分析法によって分析し、前記試料に含まれる金属異物の定性分析結果、及び/又は、定量分析結果を得る分析工程と
を有することを特徴とする金属異物の評価方法。
【請求項2】
前記エッチング液のpHが、2~12であることを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項3】
前記スラリー試料のpHが、4~10であることを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項4】
前記エッチング液が、酸化剤、錯化剤、及び、pH緩衝剤から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項5】
前記酸化剤が、過酸化水素を含むことを特徴とする請求項4に記載の金属異物の評価方法。
【請求項6】
前記錯化剤が、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミノ酸、及び、キレート試薬から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項4に記載の金属異物の評価方法。
【請求項7】
前記錯化剤が、酢酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ガラクタル酸、キシラル酸、酒石酸、タルトロン酸、グルコン酸、キシロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、グリシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、EDTA、NTA、DTPA、GLDA、HEDTA、GEDTA、TTHA、HIDA、及び、DHEGから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項4に記載の金属異物の評価方法。
【請求項8】
前記pH緩衝剤が、リン酸塩、ホウ酸塩、及び、炭酸塩から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項4に記載の金属異物の評価方法。
【請求項9】
前記pH緩衝剤が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、四ホウ酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び、炭酸ナトリウムから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項4に記載の金属異物の評価方法。
【請求項10】
前記金属異物が単体金属、及び/又は、合金を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項11】
前記金属異物が、ニッケル、コバルト、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、錫、及び、鉛から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項12】
前記機器分析法が、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法、及び、吸光光度法から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項13】
前記溶解工程の前に前記試料を篩で篩って篩上試料を得る篩工程を有することを特徴とする請求項1に記載の金属異物の評価方法。
【請求項14】
前記篩の目開きが、38~500μmであることを特徴とする請求項13に記載の金属異物の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属異物の評価方法に関する。より詳しくは、粉体材料に混入した金属異物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属水酸化物や金属酸化物をはじめ、粉体材料は、現在、電子機器関係や電池関係など、様々な分野で幅広く利用されている。ところが、これらの粉体材料の製造工程では、設備などから異物が混入するリスクが常に付き纏い、特に、潤滑油、パッキン片、接着剤カス、銅線片、及び、はんだクズなどは、混入するリスクが高い。その中でも、銅線片、はんだクズなどの金属(単体金属、合金)については、たとえ混入した量が僅かでも、最終製品の性能に大きな悪影響を及ぼす恐れがあり、製造途中の中間品や、完成品である製品に混入した金属異物を、安全に、クリーンに、迅速・簡便に、かつ、超微量オーダーまで評価することは、品質管理上、極めて重要である。
【0003】
これに対し、従来行われてきた、各種材料における金属異物の評価方法としては、既に、以下の様な先行技術が知られている。
特許文献1には、金属酸化物の粉体中から不純物金属粒子を探索し、その観察像を得ると共に、化学形態を分析する方法として、全自動鉱物分析装置(MLA)を用いて、金属酸化物の粉体の試料の反射電子(BSE)像を取得する工程と、反射電子像を画像解析して、金属酸化物の粒子と、異物の粒子とを判別し、判別された異物の粒子の位置情報を取得する工程と、異物の粒子の位置情報に対応する位置における、エネルギー分散X線スペクトル(EDS)を取得する工程と、取得したエネルギー分散X線スペクトルから、異物を分析する工程とを有することを特徴とする、金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、10ppm以下の金属単体を含有する金属酸化物中において、当該金属単体を選択的に高感度で検出でき、かつ、精度良く定量出来る方法として、前記金属酸化物中における、前記金属単体を臭素-メタノール溶解法によって溶解し、前記金属単体を溶液へ抽出する工程と、前記金属単体を抽出した溶液と、未溶解物とを分離する工程と、前記金属単体を抽出した溶液を蒸発乾固する工程と、前記蒸発乾固により生成した乾固物に酸を加えて溶液化する工程と、前記乾固物を溶液化した溶液中の金属単体を定量する工程とを有することを特徴とする、金属酸化物中における金属単体の定量方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、酸化ニッケルに含まれる金属ニッケルの定量に関して、試料の前処理、測定操作が比較的容易であり、古くから結晶構造の解析のほか、化合物の同定・定量などに広く用いられている手段として、X線回折(XRD)法が挙げられ、従来の臭素メタノール法よりも、更なる簡易迅速操作を行うため、分離操作が不要な、X線回折計による定量方法を検討した結果、有効な簡便法となり得ることが記載されている。
【0006】
非特許文献2には、樹脂表面の異物の検査・分析について、まず、蛍光X線分析装置(ED-XRF)でスクリーニングを行い、元素分析の結果からSnとCuの存在を確認し、かつ、ファンダメンタル・パラメータ法(FP法)による異物の簡易定量分析結果を算出しつつ、次に、異物の詳細な分析のため、SEM-EDSによるEDS元素マッピングを行い、反射電子像から2つの異なった粒子の存在を確認し、マッピング像から大粒子がSn、小粒子がCuであることが判明した、との結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-173301号公報
【特許文献2】特開2019-090786号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】BUNSEKI_KAGAKU_Vol.22,No.13,pp171-175(1973)_『X線回折計による酸化ニッケル中の金属ニッケルの定量』
【非特許文献2】日本電子株式会社_アプリケーションノート_『蛍光X線分析による樹脂表面の異物の検査・分析-XRFとSEM-EDSによる異物分析』_XRF.PDF、inSpirAtion:XRF-14-002j-01、装置;JSX-1000S
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1、2の技術では、低ppbオーダーの超微量の定量分析に対応するのは、かなり困難であり、特許文献2の技術では、毒性が非常に強い臭素やメタノールが用いられており、安全でクリーンな評価方法とは、とても言い難い。
【0010】
この様に、これまでは、粉体材料の製造における、設備などからの金属異物の混入リスクを想定した、試料に含まれる金属異物の種類や量を、安全に、クリーンに、迅速・簡便に、かつ、超微量オーダーまで評価出来る方法は、未開発のままであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者は、上記の従来技術が有する問題点に鑑み、安全に、クリーンに、迅速・簡便に、かつ、超微量オーダーまで評価出来る、金属異物の評価方法を、新たに開発し、提供することを目的として、鋭意研究を積み重ねた。その結果、特殊なエッチング液を作製し、これを用いて試料に含まれる金属異物を溶解後、固液分離して得られた、溶液試料に含まれる金属異物の構成元素を、機器分析法によって分析することにより、上記の目的が達成出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、上記の課題を解決するための、本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、試料とエッチング液を混合し、前記試料に含まれる金属異物を溶解して、前記試料の溶解残渣を含む固相と前記金属異物が溶解されて形成した前記金属異物の構成元素のイオンを含む溶液試料からなる液相とで構成されるスラリー試料を得る溶解工程と、前記スラリー試料を固液分離し、前記溶液試料を得る分離工程と、前記溶液試料に含まれる前記金属異物の構成元素のイオンを、機器分析法によって分析し、前記試料に含まれる金属異物の定性分析結果、及び/又は、定量分析結果を得る分析工程とを有することを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明におけるエッチング液のpHが、2~12であることを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の発明におけるスラリー試料のpHが、4~10であることを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載の発明におけるエッチング液が、酸化剤、錯化剤、及び、pH緩衝剤から選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の発明における酸化剤が、過酸化水素を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0017】
本発明の第6の態様は、第4の態様に記載の発明における錯化剤が、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミノ酸、及び、キレート試薬から選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0018】
本発明の第7の態様は、第4の態様に記載の発明における錯化剤が、酢酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ガラクタル酸、キシラル酸、酒石酸、タルトロン酸、グルコン酸、キシロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、グリシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、EDTA、NTA、DTPA、GLDA、HEDTA、GEDTA、TTHA、HIDA、及び、DHEGから選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0019】
本発明の第8の態様は、第4の態様に記載の発明におけるpH緩衝剤が、リン酸塩、ホウ酸塩、及び、炭酸塩から選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0020】
本発明の第9の態様は、第4の態様に記載の発明におけるpH緩衝剤が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、四ホウ酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び、炭酸ナトリウムから選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第1の態様に記載の発明における金属異物が単体金属、及び/又は、合金を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0022】
本発明の第11の態様は、第1の態様に記載の発明における金属異物が、ニッケル、コバルト、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、錫、及び、鉛から選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0023】
本発明の第12の態様は、第1の態様に記載の発明における機器分析法が、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法、及び、吸光光度法から選択される1種以上を含むことを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0024】
本発明の第13の態様は、第1の態様に記載の発明における溶解工程の前に、前記試料を篩で篩って篩上試料を得る篩工程を有することを特徴とする金属異物の評価方法である。
【0025】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の発明における篩の目開きが、38~500μmであることを特徴とする金属異物の評価方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、粉体材料の製造における、設備などからの金属異物の混入リスクを想定した、試料に含まれる金属異物の種類や量を、安全に、クリーンに、迅速・簡便に、かつ、超微量オーダーまで評価出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る、金属異物の評価方法について、その全体像を示す操作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、試料とエッチング液を混合し、前記試料に含まれる金属異物を溶解して、前記試料の溶解残渣を含む固相と前記金属異物が溶解されて形成した前記金属異物の構成元素のイオンを含む溶液試料からなる液相とで構成されるスラリー試料を得る溶解工程と、前記スラリー試料を固液分離し、前記溶液試料を得る分離工程と、前記溶液試料に含まれる前記金属異物の構成元素のイオンを、機器分析法によって分析し、前記試料に含まれる金属異物の定性分析結果、及び/又は、定量分析結果を得る分析工程とを有することを特徴とする金属異物の評価方法を提供する。
また、本発明の評価対象である金属異物には、単体金属、合金のみならず、これらに、潤滑油、グリース、及び、有機固形物が、付着、コートされたものなども該当する。
以下、本発明の具体的な実施形態について、1~3の記載順、即ち、
図1に示す工程の順序で、詳細に説明する。
【0029】
1.溶解工程
2.分離工程
3.分析工程
なお、本発明は、以下に記載の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者の知識に基づいて、適宜、変更することが出来る。更に、以下の説明において、「A~B」との記載は、「A以上B以下」を意味しており、「●、及び/又は、▲」との記載は、「●、▲のいずれか、若しくは、両方」を意味する。
【0030】
1.溶解工程
試料とエッチング液を混合し、試料に含まれる金属異物を溶解して、スラリー試料を得る工程である。
電子天秤を用いて試料を容器に秤量し、容器に、酸化剤、錯化剤、及び、pH緩衝剤から選択される1種以上を含むエッチング液を加え、蓋をした後、容器を、振とう機、マグネチックスターラー(この場合、容器に回転子を入れておく)、及び、超音波洗浄機などにセットし、内容物を混合することで、エッチング液に金属異物を溶解させ、スラリー試料を得る。
【0031】
試料量は、評価対象である金属異物の含有量にもよるが、2000g以下が好ましく、1500g以下がより好ましく、1~1000gが特に好ましい。また、試料の秤量には、0.1mgまで秤量可能な電子天秤を用いることが好ましい。なお、ある程度、金属異物のサイズや形状などの情報が分かっている場合には、必要に応じて、金属異物がより濃縮された状態とするため、試料を篩で篩い、篩上試料を採取することが好ましく、この際、篩の目開きを38~500μm、試料の篩通過速度を1~12kg/hとすることがより好ましく、試料の処理量に対して、篩上試料の量が0.001~0.05%となる様に(例えば、100kgの試料を処理した場合に、1~50gの篩上試料が得られる)制御することが特に好ましい。即ち、本発明の一実施形態においては、溶解工程の前に、試料を篩で篩い、篩上試料を得る篩工程を有していても構わない。
【0032】
容器としては、例えば、ポリプロピレン(PP)製、ポリエチレン(PE)製、若しくは、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂製で、密閉可能な蓋付きのものが挙げられるが、特には限定されない。また、容器は、例えば、無機酸と超純水で洗浄済みのものを用いることが出来る。
【0033】
エッチング液としては、前述の通り、酸化剤、錯化剤、及び、pH緩衝剤から選択される1種以上を含んでいればよく、特に制限されないが、それぞれの効力の強さ、コスト、安全性、有害性、取り扱い易さ、及び、環境への配慮などを総合的に考慮し、選択されることが好ましく、適宜、これらが組み合わされることがより好ましく、3種全てが含まれることが特に好ましい。また、エッチング液のpHは、2~12であることが好ましく、2.5~11.5であることがより好ましく、3~11であることが特に好ましい。こうすることで、金属異物以外(製品や中間物など)に、大きなダメージを与えることなく、金属異物を選択的に溶解することが出来る。
【0034】
選択される酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過マンガン酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、臭素酸塩、過臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、重クロム酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ペルオキソホウ酸塩、ペルオキソ二硫酸塩、無機過酸化物、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸、臭素、ヨウ素、及び、これらの混合物など、上記の物質を含むものなどが挙げられるが、酸化力の強さ、コスト、安全性、有害性、取り扱い易さ、及び、環境への配慮などを総合的に考慮した場合、過酸化水素が選択されるのが好ましい。
【0035】
選択される錯化剤としては、例えば、アセチルアセトン、3,5-ヘプタンジオンなどのβ-ジケトン類、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA-OH)などのアミノカルボン酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸、α-ケトグルタル酸、アセトンジカルボン酸などのケト酸、グリコール酸、グリセリン酸、キシロン酸、グルコン酸、乳酸、タルトロン酸、酒石酸、キシラル酸、ガラクタル酸、リンゴ酸、クエン酸などのヒドロキシ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などのポリカルボン酸、グリシン(2-アミノ酢酸)、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸、フィチン酸、ヒドロキシエチリデンジリン酸、ニトリロトリスメチレンリン酸、エチレンジアミンテトラメチレンリン酸などのポリリン酸、ジメチルグリオキシム、ベンジルジグリオキシム、1,2シクロヘキシルジグリオキシムなどのジオキシム類、EGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、GLDA(グルタミン酸二酢酸)、CMGA(ジカルボキシメチルグルタミン酸)、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、GEDTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸)、HIDA(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、DHEG(ジヒドロキシエチルグリシン)などのキレート試薬、及び、これらの塩、これらの混合物など、上記の物質を含むものなどが挙げられるが、錯化力の強さ、コスト、安全性、有害性、取り扱い易さ、及び、環境への配慮などを総合的に考慮した場合、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミノ酸、及び、キレート試薬から選択されることが好ましく、酢酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ガラクタル酸、キシラル酸、酒石酸、タルトロン酸、グルコン酸、キシロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、グリシン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、EDTA、NTA、DTPA、GLDA、HEDTA、GEDTA、TTHA、HIDA、及び、DHEGから選択されることがより好ましく、グリシン、ヒスチジンから選択されることが特に好ましい。
【0036】
選択されるpH緩衝剤としては、例えば、シュウ酸三水素カリウム、フタル酸水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、四ホウ酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、乳酸ナトリウム、アルギニン、トリエタノールアミン、トロメタミン、及び、これらの混合物など、上記の物質を含むものなどが挙げられるほか、上記されているpH標準液(シュウ酸塩pH標準液(pH2)、フタル酸塩pH標準液(pH4)、中性リン酸塩pH標準液(pH7)、ホウ酸塩pH標準液(pH9)、炭酸塩pH標準液(pH10)、飽和水酸化カルシウムpH標準液(pH12))から選択されても構わないが、緩衝力の強さ、コスト、安全性、有害性、取り扱い易さ、及び、環境への配慮などを総合的に考慮した場合、リン酸塩、ホウ酸塩、及び、炭酸塩から選択されることが好ましく、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、四ホウ酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び、炭酸ナトリウムから選択されることがより好ましく、四ホウ酸ナトリウムが選択されることが特に好ましい。
【0037】
また、上記の薬剤に関しては、例えば、1つの薬剤が、酸化剤、錯化剤、及び、pH緩衝剤のうち、複数の効力を兼ね備えるものでも構わない。なお、上記のエッチング液は、通常、薬剤が完全溶解し、均一に混ざり合っているものを使用するが、例えば、薬剤と水を別々に容器に加えて、金属異物の溶解(混合)過程で、均一に混ぜ合わせる形としても構わない。
【0038】
金属異物の溶解(混合)方法としては、特に制限されないが、前述の通り、振とう機、マグネチックスターラー、及び、超音波洗浄機などを用いることが出来る。
振とう機を用いた溶解では、振とう時間が1~24時間であることが好ましく、2~22時間であることがより好ましく、4~20時間であることが特に好ましい。また、振とう数が40~240rpmであることが好ましく、80~200rpmであることがより好ましく、120~160rpmであることが特に好ましい。
【0039】
マグネチックスターラーを用いた溶解では、回転子が暴れない程度の回転数で、混合時間が1~24時間であることが好ましく、2~22時間であることがより好ましく、4~20時間であることが特に好ましい。
【0040】
超音波洗浄機を用いた溶解では、超音波の照射は、超音波出力にもよるが、上記されている一般的な超音波洗浄機(超音波出力40~80W)を用いた場合、照射時間が1~24時間であることが好ましく、2~22時間であることがより好ましく、4~20時間であることが特に好ましい。
【0041】
こうすることで、金属異物が十分にエッチング液と接触し、エッチング液に金属異物が選択的に溶解したスラリー試料が得られる。更に、スラリー試料のpHは、4~10であることが好ましく、4.5~9.5であることがより好ましく、5~9であることが特に好ましい。
【0042】
2.分離工程
スラリー試料を固液分離し、溶液試料を得る工程である。
溶解工程で得られたスラリー試料について、不溶解残渣(溶け残った製品や中間物など)と、溶液試料(金属異物が溶解したエッチング液)を、濾過や遠心分離などによって分離する。
濾過操作は、例えば、吸引濾過などの公知の手段で行えばよい。濾過に用いる濾紙としては、例えば、通常の定量濾紙のほか、酢酸セルロース濾紙、親水性のPTFE濾紙などのメンブランフィルターが挙げられるが、その中でも、親水性のPTFE濾紙を用いることが好ましい。
【0043】
3.分析工程
溶液試料に含まれる金属異物の構成元素を、機器分析法によって分析し、試料に含まれる金属異物の定性分析結果、及び/又は、定量分析結果を得る工程である。
分析装置による測定では、検量線作成などの操作が不要で、ソフトウェアに登録された各元素の信号強度を基に、溶液試料に含まれる元素の種類や、その大まかな濃度を知ることが出来る定性モード機能をはじめ、定量のための手段である、検量線法、標準添加法を用いることができ、適宜、溶液試料を、超純水や無機酸などにより、測定するのに最適な濃度(倍率)にまで希釈する(薄める操作をする)ことが好ましい。
【0044】
検量線法では、内標準を用いない絶対検量線法、又は、分析対象となる元素と物理的・化学的性質の類似した元素を内標準として用いる内標準法の、どちらかを選択する。
この検量線法は、溶液試料(又は、希釈溶液)の対象元素濃度に対し、既知濃度の標準溶液を段階的に複数準備し、使用する分析装置特有の信号を測定することにより、濃度と信号との関係を求めて相関式を得る方法である。また、標準溶液は、可能な限り、溶液試料(又は、希釈溶液)の液性に近付けることが好ましく、溶液試料(又は、希釈溶液)に、対象元素以外の物質が主成分として多量に含まれている場合は、干渉作用による妨害を相殺するため、標準溶液にも、同じ物質を同じ量となる様に添加する。
これは、マトリックスマッチング法(等組成法)と呼ばれる手段であり、本発明における主成分物質としては、エッチング液に由来する、酸化剤、錯化剤、及び、pH緩衝剤などが挙げられる。
【0045】
標準添加法は、1つの試料から所定量を分取した複数の併行試料を準備して、それぞれに標準溶液の異なる量を段階的に加え、対象元素濃度の異なった複数の溶液試料(又は、希釈溶液)を作製し、使用する分析装置特有の信号を測定する。即ち、分析対象となる試料に、標準溶液を直接添加し、溶液試料(又は、希釈溶液)を作製する。これにより、添加した標準溶液の濃度と信号との関係を求めて相関式を作成し、相関式とX軸との交点から、試料の対象元素濃度を得ることが出来る。この方法は、相関式が良好な直線性を示し、かつ、相関式とX軸が交差する場合に適用可能であり、共存元素の影響が除かれるため、複雑な組成・液性の試料を分析する上で、非常に好ましい。但し、標準添加法では、1つの試料において、対象元素濃度の異なった試料溶液(又は、希釈溶液)を、複数作製しなければならず、検量線法に比べて、試料溶液(又は、希釈溶液)の数、ひいては、測定に掛かる時間が、かなり増えてしまうデメリットもある。
検量線法、標準添加法のどちらを選択するかは、試料に含まれる共存元素のほか、必要な分析精度や分析納期などを考慮して決定すればよい。
【0046】
また、機器分析法としては、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法、及び、吸光光度法から選択される1種以上を用いることが好ましい。
そして、測定によって得られた測定値から、試料に含まれる金属異物の定性的な情報のほか、以下の式(1)~(3)より、試料に含まれる金属異物の検出量、定量値、及び、金属異物の添加試験における回収率などの定量分析結果を算出することが出来る。
【0047】
【実施例0048】
以下、本発明の一実施形態に係る、金属異物の評価方法について、実施例などにより、詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例などに限定されるものではない。また、これらの実施例などにおける試薬類は、特に説明が無い限り、全て富士フィルム和光純薬株式会社製のもの、及び、これらから作製したものを用いた。更に、これらの実施例などにおける水は、全て超純水を用いた。
また、銅の測定における検量線は、銅濃度を、0mg/L、1mg/L、2mg/L、5mg/Lと、段階的に変えて準備した標準溶液によって作成した。なお、試料を用いない空試験(ブランク)5検体の、銅の測定値から求めた測定下限(10σ、σ=標準偏差)は、0.04mg/Lであった。
そして、最終的に、得られた溶液試料の銅の測定値から、試料に含まれる銅メタル、即ち、製品に混入した金属異物の検出量などの評価結果を算出した。
算出された金属異物の評価結果を、表2に示す。