(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158979
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像装置及び画像再構成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
A61B5/055 376
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074669
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸生
(72)【発明者】
【氏名】大竹 陽介
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB12
4C096AB13
4C096AD13
4C096AD14
4C096BB32
4C096CC06
4C096DB07
4C096DC28
4C096DC33
(57)【要約】
【課題】多チャンネル受信コイルを用いた撮像において、血流アーチファクト及び体動アーチファクトを抑制するためのチャンネルの重み付け再構成技術を提供する。
【解決手段】複数のチャンネルを有する受信コイルがそれぞれ収集した核磁気共鳴信号を用いて被検体の画像を再構成する際に、位置決め画像を用いて、被検体における血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定し、特定した臓器または領域の情報を用いて各チャンネルの重みを決定し、前記重みを用いて重み付け再構成を行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が発生する核磁気共鳴信号を検出する複数チャンネルの受信コイルを有し、前記受信コイルを介して核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、
演算部と、を備え
前記演算部は、前記受信コイルの各チャンネルが収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を再構成する再構成部と、
チャンネル毎に再構成した被検体画像を用いて、前記被検体における血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定する体動発生臓器特定部と、
前記体動発生臓器特定部が特定した臓器または領域の情報を用いて各チャンネルの重みを決定する重み付け量算出部と、
を備え、
前記再構成部は、前記重み付け量算出部が決定した重みと、各チャンネルの核磁気共鳴信号とを用いて重み付け再構成を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記体動発生臓器特定部は、前記被検体画像に含まれる臓器を認識する臓器認識部を備え、前記臓器認識部が認識した臓器と予め登録された体動発生臓器リストとの照合を行い、血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記体動発生臓器特定部は、前記被検体画像のFOVにおいて、血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記体動発生臓器特定部は、前記FOVにおける位相エンコード方向に基づき、血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項5】
請求項3に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記重み付け量算出部は、各チャンネルの被検体画像について、前記FOV内の信号値と前記体動発生臓器特定部が特定した臓器または領域の信号値とを用いて評価値を求め、当該評価値に基づき重み付け量を算出することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記被検体画像は、本スキャンに先立って取得した位置決め画像であることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記体動発生臓器特定部は、異なる時刻に取得した2以上の被検体画像から血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記体動発生臓器特定部が特定した臓器または領域、あるいは、前記重み付け量算出部が算出したチャンネル毎の重み付け量をユーザに提示するUI部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項9】
複数のチャンネルを有する受信コイルがそれぞれ収集した核磁気共鳴信号を用いて被検体の画像を再構成する方法であって、
前記被検体における血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定し、
特定した臓器または領域の情報を用いて各チャンネルの重みを決定し、前記重みを用いて重み付け再構成を行うことを特徴とする画像再構成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の画像再構成方法であって、
前記臓器または領域の特定は、
前記被検体の位置決め画像を用いて、臓器をセグメンテーションするステップと、
セグメンテーションした臓器と、予め記憶された特定臓器と照合し、血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器を特定するステップとを含むことを特徴とする画像再構成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の画像再構成方法であって、
前記重みを決定するステップは、各チャンネルの被検体画像について、FOV内の信号値と特定された臓器または領域の信号値とを用いて評価値を求めるステップを含み、当該評価値に基づき重み付け量を算出することを特徴とする画像再構成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴撮像(以下、MRIと略す)装置に係り、特に体動等の動きのある領域からの信号の影響を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI検査では,検査部位を静磁場均一領域に配置し、検査部位に受信コイルを設置する。近年、受信コイルは、高速撮像や高画質化のために、多チャンネル化が進んでいる。多チャンネル受信コイルは、複数のエレメントからなり、それぞれのエレメント(チャンネル)が核磁気共鳴信号を受信する。画像再構成では、各チャンネルからの核磁気共鳴信号を合成して画像が生成される。
【0003】
多チャンネル受信コイルを用いて画像を撮像する際、検査範囲に応じて適切なエレメントのデータを選択して画像再構成をしないと、被検体起因の血流・体動アーチファクトが、診断したい臓器に重なる。不要な信号混入やアーチファクトがあると、再撮像する必要があり、検査効率が悪化するという課題がある。
【0004】
多チャンネル受信コイルについて、撮像部位からの信号が殆ど取得できないチャンネルの信号を用いずに、画像合成に適切なチャンネルを選択して画像再構成する技術が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、信号取得領域を指定してその領域と重なる受信コイルを選択すること(段落0012)、FOVの外側にある受信コイルからの信号を合成に使用しないこと(段落0045)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、血流アーチファクトや体動アーチファクト抑制という課題を解決するためのチャンネル選択は開示されていない。また特許文献1に記載された技術では、合成に使用する受信コイルを指定するために、まず信号取得領域とそれに重畳した受信コイルの配置の提示と、この提示を用いたユーザによる信号取得領域の指定と、が必要となる。
【0007】
本発明は、多チャンネル受信コイルを用いた撮像において、血流アーチファクト及び体動アーチファクトを抑制するためのチャンネルの重み付け技術を提供すること、また重み付けの根拠となる血流または体動アーチファクト領域のユーザ指定やこれに基づくチャンネルのユーザ選択を不要とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、本スキャン撮像用位置決め画像から血流・体動アーチファクトが生じやすい臓器を特定し、その情報に基づいて、不要信号の混入や血流・体動アーチファクトが強い受信コイルのチャンネルの信号強度を下げて画像再構成することにより、上記課題を解決する。
【0009】
具体的には、本発明のMRI装置は、被検体が発生する核磁気共鳴信号を検出する複数チャンネルの受信コイルを有し、受信コイルを介して核磁気共鳴信号を収集する撮像部と、演算部と、を備える。演算部は、受信コイルの各チャンネルが収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を再構成する再構成部と、チャンネル毎に再構成した被検体画像を用いて、被検体における血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定する体動発生臓器特定部と、体動発生臓器特定部が特定した臓器または領域の情報を用いて各チャンネルの重みを決定する重み付け量算出部と、を備える。再構成部は、重み付け量算出部が決定した重みと、各チャンネルの核磁気共鳴信号とを用いて重み付け再構成を行う。
【0010】
また本発明の画像再構成方法は、複数のチャンネルを有する受信コイルがそれぞれ収集した核磁気共鳴信号を用いて被検体の画像を再構成する方法であって、被検体における血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定し、特定した臓器または領域の情報を用いて各チャンネルの重みを決定し、重みを用いて重み付け再構成を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不要信号の混入や血流・体動アーチファクトを低減できることから、再撮像による検査効率の悪化を低減できる。また画質が向上するため,診断能が向上する。
【0012】
さらに本発明によれば、チャンネル毎に再構成した画像、例えば位置決め画像から、装置側で体動発生臓器を特定し、且つ画像における当該体動発生臓器の情報に基づいてチャンネルの重みを決定するので、ユーザによる信号取得領域の指定や、臓器とチャンネルとの位置関係を前提としたチャンネルの選択などを不要とし、血流・体動アーチファクトの発生原因となるチャンネルの重みを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
最初に、
図1を参照して、MRI装置の全体構成を説明する。
MRI装置10は、
図1に示すように、大きく分けて、被検体から発生する核磁気共鳴信号を収集する撮像部100と、撮像部100の制御及び撮像部が収集した核磁気共鳴信号を用いた画像再構成等の演算を行う計算機200とで構成されており、計算機200の付属装置としてディスプレイ201や入力装置205、及び外部記憶装置203を備えている。ディスプレイ201と入力装置205は、例えば、近接して配置されユーザとのやり取りを行うUI部250として機能する構成としてもよい。
【0016】
計算機200は、CPUやGPUとメモリを備えた汎用の計算機やワークステーションで構成され、撮像部100の動作を制御する計測制御部210、撮像部100が収集した信号や画像の演算を行い制御する演算部220、UI部250(ディスプレイ)の表示を制御する表示制御部230を備えている。なお計算機200の機能の一部は、プログラマブルICなどのハーウェアで実現される場合やMRI装置とは別の処理装置で実現される場合もあり、計算機200は、これらを含めた最も広い概念で用いるものとする。
【0017】
撮像部100の構成及び機能は、一般的なMRI装置と同様であり、簡単に説明すると、静磁場を発生する静磁場コイル102、互いに直交する3軸方向の傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル103、静磁場の不均一を補正するシムコイル104、高周波磁場を照射するRF送信コイル(以下、送信コイルという)105、被検体101から発生する核磁気共鳴信号を検出するRF受信コイル(以下、受信コイルという)106、送信コイル105に所定の高周波電流を送る送信機107、受信コイル106が接続された受信機108、傾斜磁場コイル103及びシムコイル104をそれぞれ駆動する傾斜磁場電源112及びシム用電源113、並びに、シーケンス制御装置114を備えている。
【0018】
受信コイル106は通常感度分布の異なる複数のエレメント(小型コイル)を組み合わせた多チャンネルコイルで、各エレメント(チャンネル)が受信した核磁気共鳴信号を重み付け再構成して画像を生成する。
【0019】
シーケンス制御装置114は、予め設定されたパルスシーケンスに従って、送信機107、受信機108及び傾斜磁場電源112を駆動する。その際、計測制御部210は、パルスシーケンスのパラメータ及び撮像条件を設定してシーケンス制御装置114を制御する。撮像のためのパラメータ及び撮像条件には、TE、TR、FOV、スライス厚、加算回数、倍速率など種々のものがあり、パルスシーケンスによってデフォルトとして設定されているもの及びUI部250を介してユーザが設定或いは調整可能なものが含まれる。
【0020】
本実施形態のMRI装置は、血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定し、受信コイル106の各チャンネルの核磁気共鳴信号を重み付け再構成する際に用いる各チャンネルの重みを、特定した臓器または領域からの信号値が相対的に大きいチャンネルの重みを小さくなるように決定することが特徴である。
【0021】
このため本実施形態の計算機200の演算部220は、
図2に示すように、被検体における血流アーチファクト及び体動アーチファクトの原因となる臓器または領域を特定する体動発生臓器特定部221と、体動発生臓器特定部221が特定した臓器または領域の情報を用いて各チャンネルの重みを決定する重み付け量算出部223と、重み付け量算出部223が決定した重みを用いて重み付け再構成を行う再構成部225とを備える。
【0022】
以下、本実施形態の計算機200、特に演算部220の各部が行う処理の概要を、
図3を参照して、説明する。
【0023】
計測制御部210は、撮像部100を制御し、被検体の検査部位の撮像(本スキャン)に先立って、撮像位置を決定するための位置決め撮像を行う(S1)。位置決め撮像で得られた画像(位置決め画像)は、検査部位を含む3断面(Ax面、Cor面、Sag面)の画像で、操作者はこの位置決め画像をもとに、撮像条件を設定する(S2)。撮像条件は、FOVの大きさ及び位置、位相エンコード方向などが含まれる。これら撮像条件は、体動発生臓器の特定において参照される。
【0024】
次に体動発生臓器特定部221は、位置決め画像を用いて、体動アーチファクトや血流アーチファクトの原因となる臓器(以下、体動発生臓器と略す)を特定し(S3)、FOVにおいて体動発生臓器が存在する領域を特定する(S4)。なお位置決め画像は本スキャンに先立って必ず取得される画像であるので、臓器特定をこの位置決め画像を用いて行うことが最も簡便であるが、位置決め画像とは別に臓器特定のためのプリスキャンを行うことも可能である。また臓器の特定はいくつかの手法があり、それら処理の詳細は後述の実施形態で説明する。
【0025】
次いで重み付け量算出部223が、S3及びS4の特定結果に基づいて、チャンネルの重み(重み付け量)を算出する(S5)。重み付け量の算出は、例えば、チャンネル毎に再構成した画像の信号値を用いて、体動発生臓器として特定された臓器の信号値に基づく評価値を算出し、当該評価値を用いて算出する。
【0026】
計測制御部210は、位置決め撮像に続いて、撮像部100を制御し、本スキャンを実行する(S6)。上述した臓器特定と重み付け量算出処理は、本スキャンと平行して行ってもよいし、事前或いは事後的に行うこともが可能である。再構成部225は、本スキャンにより各チャンネルで得た核磁気共鳴信号と各チャンネルの重みを用いて重み付け再構成を行う(S7)。
【0027】
このような処理により、本実施形態のMRI装置は、体動発生臓器からの信号の重みを小さくして画像再構成することができ、体動や血流によるアーチファクトを低減した画像を得ることができる。またチャンネルの重み付けは、本スキャンに先行して得た画像から自動的に決定されるので、ユーザ設定のための中断を不要にできる。
【0028】
以下、演算部220の処理の具体的な実施形態を説明する。
【0029】
<実施形態1>
本実施形態では、体動発生臓器を特定する処理において、位置決め画像のセグメンテーションと、予め登録された体動発生臓器リストとの照合とを行い、体動発生臓器を特定する。演算部220の構成は
図2に示す構成と同様であり、詳細には、体動発生臓器特定部221は臓器認識部(セグメンテーション部)222を含み、重み付け量算出部223はチャンネルの評価値を算出する評価値算出部224を含んでいる。以下、
図2及び
図4を参照して、本実施形態を説明する。また
図4において
図3と同じ処理は同じ符号で示し、重複する説明は省略する。
【0030】
まず位置決め撮像を行い位置決め画像を取得し、FOV、位相エンコード方向等の撮像条件を設定する(
図3:S1、S2)。
【0031】
次いで臓器認識部222が、位置決め画像に対しセグメンテーションを行い、画像に含まれる臓器のセグメンテーションを行う(S31)。セグメンテーションは、画像内で似た特徴量を持つグループを領域分けする技術で、深層学習或いはAIを用いる方法が一般的であり、本実施形態の体動発生臓器特定部221もそれら手法を実装することでセグメンテーションを行う。
【0032】
次に体動発生臓器特定部221は、臓器認識部222によって分割された臓器と体動発生臓器リストとを照合し、体動発生臓器を特定する(S32)。体動発生臓器リストは、例えば、心臓、肺など体動があることが分かっている複数の臓器や、肺静脈、大動脈などの大きな血流、即ち血流アーチファクトの原因となる血流がある血管(臓器)をリスト化したものであり、計算機200内のメモリ或いは外部記憶装置(不図示)などに予め格納しておき、体動発生臓器特定処理において読み出し正午合うに用いられる。リストは、体動の程度(大きさや頻度)を含んでいてもよく、アーチファクト抑制の目的や撮像の目的に応じて、所定の大きさ或いは頻度の臓器を選択することも可能である。
【0033】
照合の結果、セグメンテーションした画像において、検査部位の近傍に、リストに含まれている臓器が存在する場合には、それを体動発生臓器として特定し、体動アーチファクト領域を設定する(S41)。体動アーチファクト領域は、体動発生臓器として特定された臓器のうちFOV内にある臓器の領域であって、位相エンコード方向に隣接する領域とする。位相エンコード方向は、撮影条件として設定された位相エンコード傾斜磁場の印加方向である。
【0034】
図5に、FOV内に体動アーチファクト領域が設定された状態を模式的に示す。
図5に示す例では、セグメンテーション及び体動発生臓器特定の結果、検査部位501の近傍に体動アーチファクトを発生させる臓器(例えば心臓)502と血流アーチファクトを発生させる血管503とが特定され、これらが検査部位501を中心として設定されたFOV500に含まれている。この場合、血管503は、検査部位501に対し、位相エンコード方向の両側ではないが、臓器502は位相エンコード方向に近接して存在し、アーチファクトが生じやすい臓器であり、FOV内の臓器502の領域を体動アーチファクト領域と特定する。
【0035】
重み付け量算出部223は、特定された体動発生臓器によるアーチファクトを低減するために、画像再構成において体動発生臓器からの信号を極力少なくするように重み付け再構成に用いる受信コイルの各チャンネル重みを算出する。
【0036】
このため、本実施形態では、重み付け量算出部223は、各チャンネルで受信した核磁気共鳴信号からそれぞれ再構成した画像(チャンネル画像という)の信号量(信号強度)をもとに各チャンネルの重み(重み付け量)を算出する。具体的には各チャンネル画像において、ステップS4で設定した体動アーチファクト領域における信号量とステップS2で設定したFOV内の体動アーチファクト領域以外の領域における信号量を用いて、次式により各チャンネルの評価値E(ch)を算出する(S51)。
【0037】
[数1]
E(ch) = f(ch)/g(ch) (1)
式(1)において、f(ch)はFOV内の体動アーチファクト領域を除いた領域の各chの信号強度の絶対値の二乗和、g(ch)は体動アーチファクト領域の各chの信号強度の絶対値の総和を表す。なお、評価値E(ch)は式(1)の方法に限らない。f(ch)やg(ch)は絶対値の二乗ではなく任意の実数乗(例えば0や0.5など)にしてもよい。例えば,f(ch)を0乗にすると,FOV内の信号強度のf(ch)はchごとに変わらず(f(ch)=1),体動アーチファクト領域の信号強度のみを反映した評価値になる。
【0038】
このように算出した評価値は、FOV内の信号強度が高いほど、また体動発生臓器の信号強度が低いほど、高く、FOV内の信号強度が低いほど、または体動発生臓器の信号強度が高いほど、低い。重み付け量算出部223は、評価値が高いほど重み付け量を重く、評価値が低いほど低く設定する(S52)。重み付け量(重みW(ch)は、例えば、W(ch) = E(ch)/Σ(E(ch))として求める。あるいは,評価値E(ch)を降順(大きい順)にならべ,その累積和がある閾値を超えるchの重みを1、それ以外を0とする。さらに、評価値について閾値E_Th1、E_Th2を設定し、E(ch)>E_Th1であれば重みW=1、E(ch)<E_Th2であれば重みW=0とし、評価値がE_Th2≦E(ch≦E_Th1のチャンネルの重みは0<W<1の範囲で線形或いは非線形に変化するものとする。なお閾値を一つとし(E_Th1=E_Th2)、重みWを1又は0としてもよい。或いは閾値を3以上設定して、重みを多段階的に変化させることも可能である。
【0039】
再構成部225(重み付け再構成部226)は、本スキャン(S6)で各チャンネルが受信した核磁気共鳴信号を用いて重み付け再構成を行う(S7)。
【0040】
重み付け再構成は、式(2)のように単に各チャンネルの信号と重みを用いて或いは、さらに、各チャンネル(小型コイル)の受信感度分布を用いて重み付け再構成を行う。
[数2]
I=ΣI(ch)*W(ch)*S(ch) (2)
式(2)中、S(ch)は正規化した各チャンネルの感度分布を示す。
【0041】
本スキャンが所定の倍速率で行うパラレルイメージングの場合には、各チャンネルの感度分布を用いた折り返し除去再構成(SENSE、GRAPPAなど)を行ってもよい。
【0042】
本実施形態によれば、体動発生臓器の信号が相対的に強いチャンネルの重みを小さくすることで、アーチファクトの原因となる体動発生臓器からの信号を抑制し、アーチファクトが低減された画像を得ることができる。
【0043】
また本実施形態によれば、位置決め画像によって特定された体動発生臓器の領域を参照して、各チャンネルの画像における当該領域を特定するので、各チャンネルと検査部位や臓器との位置関係を事前に把握しておく必要がなく、体動発生臓器近傍にあるチャンネルからの信号の重みを小さくすることができる。
【0044】
なお本実施形態によれば、重み付け再構成された画像をユーザに提示した後に、ユーザが重みを任意に変更する構成を付加してもよい。例えば
図5の例で、血流アーチファクトを生じる血管503が体動発生臓器として特定され、その信号値が高いチャンネルの重みが小さい場合、血管の描出能は低下するが、ユーザが血管を確認したい場合には、チャンネルの重みを大きく変更することで、血管の描出能を高めることも可能である。ユーザによる設定は、例えば、UI部250に画像の表示とともにチャンネルの重みを表すUIを表示し、ユーザ変更を受け付けることで実現できる。
【0045】
本実施形態の効果を示す再構成結果を
図6に示す。
図6は肝臓検査の撮像結果を示す図で、左上側は、チャンネルCH10の画像で、心臓の体動アーチファクトが肝臓に混入し、画質劣化している。右上側は、チャンネルCH7の画像で、肝臓へのアーチファクト混入が少ない。但し、両画像には感度分布の相違による信号値の差がある。従って、チャンネルCH10の重みを下げて、チャンネルCH7の重みを上げて画像再構成することで、右下側に示すように、アーチファクトを低減した画像が得られる。
【0046】
<実施形態2>
実施形態1では、位置決め画像のセグメンテーションを行い、体動発生臓器リストとの照合により体動発生臓器の特定を行ったが、本実施形態は取得タイミングが異なる2以上の画像をもとに体動発生臓器の特定を行う。
【0047】
以下、
図7のフローを参照して本実施形態を説明する。なお
図7において
図4と同じ処理は同じ符号で示し、重複する説明は省略する。
【0048】
まず位置決め撮像を行い位置決め画像を取得し、FOV等の撮像条件を設定する(
図3:S1、S2)。
【0049】
位置決め画像と同じ断面の画像を、異なるタイミングで取得する(S301)。異なるタイミングの画像は、例えば異なる心時相或いは異なる呼吸時相の2枚以上であればよく、時系列画像(シネ画像)でもよい。体動発生臓器特定部221は、異なる時相で取得した複数の画像の差分を取り(S302)、信号値の変化量の大きい領域を特定し、この領域を体動アーチファクト領域として設定する(S303)。なお時系列画像の場合には、信号値の変動量をもとに体動アーチファクト領域を特定してもよい。
【0050】
その後、各チャンネルの画像を用いて、FOVにおける体動アーチファクト領域の信号量とそれ以外の領域の信号量とに基づき、各チャンネルの評価値を算出し、重み付け量を決定すること、決定した重み付け量で本スキャンの信号を重み付け再構成することは実施形態1と同様である(S5~S7)。
【0051】
本実施形態によれば、複数の画像取得が必要となるが、体動発生臓器リストとの照合が不要となるので、事前のリスト作成などが不要で、体動アーチファクト領域の特定を簡便に行うことができる。
【0052】
<実施形態2の変形例>
実施形態2では、時系列画像などタイミングの異なる画像の信号値の変化に基づき体動アーチファクト領域を特定したが、アーチファクト領域を特定するのではなく、時系列画像から直接チャンネルを特定してもよい。
【0053】
この場合には、各チャンネルの時系列画像の信号量(FOVの信号量)の変動を求め、変動の大きさに基づいてチャンネルの重みを決定する。重みは、変動の大きいチャンネルの重みを小さく、変動の小さいチャンネルの重みを大きく設定する。この場合は、実施形態1の重み付け量を算出する式(1)において、kの値を1にした場合に相当し、FOV内のアーチファクト領域の信号量に基づく重みは省略されるが、簡便に重みを算出することができる。
【0054】
なお時系列画像の変動については、外部機器から得られる体動情報を参照してもよい。例えば、MRI検査では、腹部に呼吸動を監視するためのベルトなどの外部機器が装着され、呼吸動に伴う変動が記録される。この変動を参照することで、信号量の変動から他の要因を排除して、体動アーチファクト発生原因となる体動アーチファクト領域を特定することが可能となる。また、ボア内を移すカメラから呼吸動に伴う変動を参照してもよい。
【0055】
本変形例では、アーチファクトが生じやすいエレメントの特定において、位相エンコード傾斜磁場の印加方向までは考慮されないが、重み付け量の算出を簡易なものとすることができる。
【符号の説明】
【0056】
10:MRI装置、100:撮像部、102:静磁場コイル、103:傾斜磁場コイル、105:送信コイル、106:受信コイル、200:計算機、210:計測制御部、220:演算部、221:臓器認識部、223:体動臓器照合部、225:再構成部、227:チャンネル重み付け量算出部、228:重み付け再構成部、230:表示制御部、250:UI部