(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158987
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像装置、及び、その撮像条件の設定を支援する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
A61B5/055 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074679
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸生
(72)【発明者】
【氏名】大竹 陽介
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB17
4C096AB18
4C096AB36
4C096BB18
4C096BB32
4C096CC06
4C096DD08
(57)【要約】
【課題】位相エンコード方向のエリアシングの発生を防止するための撮像条件再設定を支援するMRI装置を提供する。
【解決手段】最初に設定されたFOVと位置決め画像を用いて、エリアシングの原因となる折り返し信号が発生する領域を推定し、その推定結果に基づいて、変更すべきFOVの範囲或いは受信コイルの各チャンネルの重み付け量を算出し、撮像条件を変更する。その後、本スキャンを実行し、受信コイルの重みが変更された場合には変更後の重みを用いてチャンネル合成を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な静磁場を生成する磁石と、前記静磁場に置かれた被検体に高周波磁場を印加する送信コイルと、前記被検体から発生する核磁気共鳴信号を受信する複数のエレメントを有する受信コイルと、前記核磁気共鳴信号に空間情報を付与するための傾斜磁場コイルとを含む撮像部、及び
前記核磁気共鳴信号を用いて画像を再構成する再構成部と前記撮像部が行う撮像の条件として少なくともFOVを含む撮像条件を設定する撮像条件設定部とを含む計算機を備え、
前記計算機は、撮像条件として設定されたFOVに基づいて、位相エンコード方向からの折り返し信号が発生する空間的な範囲を推定する折り返し信号範囲推定部と、
前記折り返し信号範囲推定部の推定結果に基づき、FOVの変更及び前記RF受信コイルを構成する各チャンネルの重みの変更の少なくとも一方を含む撮像条件の変更が必要か否かを判断する判定する判定部と、
前記判定部の判定結果及び前記折り返し信号範囲推定部の推定結果に基づき、変更するFOVの範囲を決定するFOV変更部と、
前記判定部の判定結果及び前記折り返し信号範囲推定部の推定結果に基づき、前記受信コイルを構成する各チャンネルの重み付け量を算出するチャンネル重み付け量算出部と、をさらに有し、
前記撮像条件設定部は、前記撮像条件の変更があったときに、設定されている撮像条件を、変更後の撮像条件に変更することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記折り返し信号範囲推定部は、前記撮像部が取得した位置決め画像を用いて折り返し信号範囲を推定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記折り返し信号範囲推定部は、前記位置決め画像において、設定されている位相エンコードあるいはスライスエンコードの少なくとも一つの方向のFOVの両側の領域の信号強度に基づき折り返し信号範囲を推定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記折り返し信号範囲推定部は、前記撮像部が取得した位置決め画像と、磁場マップとを用いて、折り返し信号範囲を推定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記折り返し信号範囲推定部は、前記磁場マップにおいて磁場不均一である領域を除いて前記折り返し信号範囲を決定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記磁場マップは、前記磁石が発生する静磁場の特性として予め取得されている磁場マップであることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項7】
請求項4に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記磁場マップは、前記磁石が発生する静磁場の特性として予め取得されている静磁場マップを、予め取得されている傾斜磁場特性に基づいて変形させた静磁場マップであることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、さらにユーザの選択を受け付けるUI部を備え、
前記判定部は、FOVの変更及び各チャンネルの重みの変更の優先度をユーザが選択するUIを前記UI部に提示し、前記UIを介したユーザ選択に基づき、判定を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記折り返し信号範囲推定部は、前記撮像条件設定部に設定された撮像条件が変更されたときに、変更後の撮像条件に基づき、再度、位相エンコード方向からの折り返し信号が発生する空間的な範囲を推定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記判定部は、1回目の折り返し信号の推定後に撮像条件の変更が必要と判断したときに、FOV変更を選択することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項11】
請求項9に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記判定部は、1回目の折り返し信号の推定後に撮像条件の変更が必要と判断したときに、各チャンネルの重み変更を選択することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項12】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記FOV変更部は、前記折り返し信号範囲推定部が推定した折り返し信号範囲に基づいて、位相エンコード方向のFOVを大きく設定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項13】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記チャンネル重み付け量算出部は、設定されたFOVの外側の信号を小さく、FOVの内側の信号を大きくするように重み付け量を算出することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項14】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記再構成部は、前記受信コイルの各チャンネルが受信した核磁気共鳴信号を、前記撮像条件設定部に最終的に設定された各チャンネルの重みを用いて加重平均して画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項15】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記再構成部は、前記受信コイルの各チャンネルが受信した核磁気共鳴信号を、前記撮像条件設定部に最終的に設定された各チャンネルの重みと各チャンネルの感度分布とを用いて合成して画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項16】
磁気共鳴撮像装置の撮像条件設定を支援する方法であって、
位置決め画像を用いて、最初に設定されたFOVに基づき、折り返し信号が発生する範囲を推定し、
推定結果に基づき、撮像条件の変更の要否を判定し、
撮像条件の変更が要と判定されたときに、FOVの変更及び磁気共鳴撮像装置の受信コイルの各チャンネルの重みの変更の少なくとも一方を行うことを特徴とする撮像条件設定支援方法。
【請求項17】
請求項16に記載の撮像条件設定支援方法であって、
FOVの変更及び各チャンネルの重みの変更のいずれかを行った後、再度、変更された条件に基づき、折り返し信号が発生する範囲の推定と、FOVの変更及び磁気共鳴撮像装置の受信コイルの各チャンネルの重みの変更の少なくとも一方の実行を繰り返すことを特徴とする撮像条件設定支援方法。
【請求項18】
請求項17に記載の撮像条件設定支援方法であって、
繰返しの1回目で、FOVの変更及び各チャンネルの重みの変更の一方を行い、2回目で他方を行うことを特徴とする撮像条件設定支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴撮像(MRI)装置に係り、特にMRI装置おける撮像条件のユーザ設定を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI検査では、検査部位を静磁場均一領域に配置し、検査部位に複数のチャンネルを有する受信コイルを設置する。撮像に当たっては、検査者は種々の撮像条件を設定する必要がある。撮像範囲となるFOVの設定もその一つである。
【0003】
MRIの撮像は、周波数エンコード及び位相エンコードを用いて磁気共鳴信号に空間情報を付与するフーリエイメージングが主流である。このフーリエイメージングでは、設定したFOVの外側に被検体があると、原理的に画像の位相エンコード方向で折り返し(エリアジング)が生じる。
【0004】
このエリアジングを防ぐ方法として、従来、次の手法が知られている。一つの手法は、FOVの拡張で、操作者が、最初に設定したFOVで撮像した画像に生じているエリアジングを確認し、エリアジングが生じないように位相エンコード方向のFOVを拡張するように再設定して撮像する。別の一つの手法は、受信コイルの感度分布の調整で、エリアジングが生じる領域の信号を受信しないように受信コイルのチャンネルを選択(再設定)して撮像する。いずれの手法においても操作者は、この煩わしい操作を行う必要があり、検査効率を低下する。一方、この操作が適切に行われないと、エリアジングが生じて、診断することができないという課題がある。
【0005】
位相エンコード方向のエリアジングとは別に、特許文献1には、スライス選択傾斜磁場パルスを照射する際に生じるスライス方向の折り返しによるアーチファクトに対する対処法が提案されている。この方法では、スライスを選択して励起する際に、スライス選択の不完全性によってスライス外から混入する信号を制御するために、磁場中心からの位置に応じて、傾斜磁場の傾斜の極性(正負)を制御、または受信コイルの感度分布をシフトする制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載された手法は、スライス選択傾斜磁場パルスを照射する際に生じるスライス方向のアーチファクトの低減を対象としており、画像面内の位相エンコード方向の折り返しに対しそのまま適用することはできない。
【0008】
本発明は、従来、操作者が実施していた煩わしいFOVの再設定、特に位相エンコード方向の折り返しを回避するためのFOVの設定や受信チャンネルの再設定を装置側で行うことで、操作者を支援する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のMRI装置は、最初に設定された条件(FOVの設定や受信チャンネルの重みづけ)をもとに、その条件で撮像された場合の折り返しの発生を装置が判定し、判定結果に基づき、さらにFOVや受信チャンネルの重み以外の撮像条件や装置の特性を考慮して、折り返しを発生しない条件を再設定する手段を備える。
【0010】
具体的には、本発明のMRI装置は、均一な静磁場を生成する磁石と、静磁場に置かれた被検体に高周波磁場を印加する送信コイルと、被検体から発生する核磁気共鳴信号を受信する複数のエレメントを有する受信コイルと、核磁気共鳴信号に空間情報を付与するための傾斜磁場コイルとを含む撮像部、及び、核磁気共鳴信号を用いて画像を再構成する再構成部と撮像部が行う撮像の条件として少なくともFOVを含む撮像条件を設定する撮像条件設定部とを含む計算機を備える。
【0011】
この計算機は、撮像条件として設定されたFOVに基づいて、位相エンコード方向からの折り返し信号が発生する空間的な範囲を推定する折り返し信号範囲推定部と、折り返し信号範囲推定部の推定結果に基づき、FOVの変更及び前記RF受信コイルを構成する各チャンネルの重みの変更の少なくとも一方を含む撮像条件の変更が必要か否かを判断する判定する判定部と、判定部の判定結果及び折り返し信号範囲推定部の推定結果に基づき、変更するFOVの範囲を決定するFOV変更部と、判定部の判定結果及び折り返し信号範囲推定部の推定結果に基づき、受信コイルを構成する各チャンネルの重み付け量を算出するチャンネル重み付け量算出部と、をさらに有し、撮像条件設定部は、撮像条件の変更があったときに、設定されている撮像条件を、変更後の撮像条件に変更する。
【0012】
また本発明の撮像条件支援方法は、MRI装置が実行する方法であり、位置決め画像を用いて、最初に設定されたFOVに基づき、折り返し信号が発生する範囲を推定し、推定結果に基づき、撮像条件の変更の要否を判定し、撮像条件の変更が要と判定されたときに、FOVの変更及び磁気共鳴撮像装置の受信コイルの各チャンネルの重みの変更の少なくとも一方を行う。
【発明の効果】
【0013】
MRI装置の機能として、折り返しの発生を判定する機能及び判定結果を用いて折り返しが発生しない撮像条件を設定する機能を備える構成とすることで、ユーザによる再設定の煩雑さを回避することができる。結果として検査効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施形態1の撮像条件再設定の処理を示すフロー
【
図5】FOV変更とCh重み変更の処理の詳細を示すフロー
【
図7】変形例のFOV変更とCh重み変更のUI画面の一例を示す図
【
図8】実施形態2の撮像条件設定処理の一部を示すフロー
【
図9】傾斜磁場で変形した静磁場の磁場マップを説明する図
【
図10】位置決め画像に磁場マップを重畳した画像例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
最初に、
図1を参照して、MRI装置の全体構成を説明する。
MRI装置10は、
図1に示すように、大きく分けて、被検体から発生する核磁気共鳴信号を収集する撮像部100と、撮像部100の制御及び撮像部が収集した核磁気共鳴信号を用いた画像再構成等の演算を行う計算機200とで構成されており、計算機200の付属装置としてディスプレイ201や入力装置205、及び外部記憶装置203を備えている。ディスプレイ201と入力装置205は、例えば、近接して配置されユーザとのやり取りを行うUI部250として機能する構成としてもよい。
【0017】
計算機200は、CPUやGPUとメモリを備えた汎用の計算機やワークステーションで構成され、撮像部100の動作を制御する計測制御部210、撮像部100が収集した信号や画像の演算を行い制御する演算部220、UI部250(ディスプレイ)の表示を制御する表示制御部230を備えている。なお計算機200の機能の一部は、プログラマブルICなどのハーウェアで実現される場合やMRI装置とは別の処理装置で実現される場合もあり、計算機200は、これらを含めた最も広い概念で用いるものとする。
【0018】
撮像部100の構成及び機能は、一般的なMRI装置と同様であり、簡単に説明すると、静磁場を発生する静磁場コイル102、互いに直交する3軸方向の傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル103、高周波磁場を照射するRF送信コイル(以下、送信コイルという)105、被検体101から発生する核磁気共鳴信号を検出するRF受信コイル(以下、受信コイルという)106、送信コイル105に所定の高周波電流を送る送信機107、受信コイル106が接続された受信機108、傾斜磁場コイル103を駆動する傾斜磁場電源112、及びシーケンス制御装置114を備えている。
【0019】
受信コイル106は通常感度分布の異なる複数の小型コイルを組み合わせた多チャンネルコイルで、後述する制御により各小型コイルの重みが調整され、これにより感度分布の調整が可能となる。
【0020】
シーケンス制御装置114は、予め設定されたパルスシーケンスに従って、送信機107、受信機108及び傾斜磁場電源112を駆動する。その際、計測制御部210は、パルスシーケンスのパラメータ及び撮像条件を設定してシーケンス制御装置114を制御する。撮像のためのパラメータ及び撮像条件には、TE、TR、FOV、スライス厚、加算回数、倍速率など種々のものがあり、パルスシーケンスによってデフォルトとして設定されているもの及びUI部250を介してユーザが設定或いは調整可能なものが含まれる。本実施形態のMRI装置では、撮像条件のうち、特に、FOVの設定及び受信コイルを構成する各チャンネル(小型コイル)の重み付けについてユーザ設定に対する支援する機能が付加されていることが特徴である。
【0021】
このため本実施形態の計算機200の演算部220は、
図2に示すように、折り返し信号の範囲を推定する折り返し信号範囲推定部221、チャンネル重み付け量算出部(Ch重み付け量算出部)223、FOV変更部225、判定部227及び再構成部229を備える。折り返し信号範囲推定部221は、設定されている撮像条件をもとに折り返し信号が発生する範囲を推定する。折り返し信号範囲の推定において、態様により、静磁場分布の変形及び静磁場均一範囲の確定を行う。処理の詳細は後述する。
【0022】
Ch重み付け量算出部223は、折り返し信号範囲の推定結果に基づいて、受信コイル106を構成する複数の小型コイル(各チャンネルのコイル)について、その後の画像再構成演算に用いる重みを算出する。FOV変更部225は、折り返し信号範囲の推定結果に基づいて、FOV内に折り返し信号が発生しないようにFOVの範囲を変更する。重みの算出及びFOVの変更は、少なくとも一方を行う。
【0023】
判定部227は、折り返し信号範囲推定部221の推定結果に基づき、折り返し除去のために撮像条件の変更が必要か否かを判断するとともに、撮像条件の変更として、FOV及びCh重みの一方或いは両方の変更の要否を判断する。
【0024】
再構成部229は、受信コイル106が受信した受信信号(NMR信号)を用いてフーリエ変換等の演算を行って画像を再構成する。その際、複数の小型コイル(チャンネルという)からの信号を、各チャンネルの感度分布と、Ch重み付け量算出部223が算出した重み付け量とを用いて合成し、一つの画像を再構成する。合成の手法は、重みを用いた加重平均、各重みと感度分布を用いたMAC(Multi Array Coil)合成と呼ばれる合成や、倍速率に従って縮小したFOVの信号を展開して本来のFOVの画像を再構成するパラレルイメージング(PI)合成など公知の手法が用いられる。
【0025】
次に上記構成を踏まえ、実施形態のMRI装置の動作、主として撮像条件再設定の処理について説明する。なお以下の実施形態において、
図1及び
図2に示した装置の構成は共通であり、必要に応じてこれら図面を参照する。
【0026】
<実施形態1>
本実施形態では、位置決め画像を用いて折り返し信号範囲を推定し、FOV変更或いはチャンネルの重み変更を行う。またFOV変更では、折り返し信号範囲推定部が推定した折り返し信号範囲に基づいて、FOV内の折り返し信号を減ずるように、位相エンコード方向のFOVを大きく設定する。
【0027】
以下、
図3に処理のフローを参照して、本実施形態の処理を説明する。
【0028】
被検体101を静磁場コイル102が発生している静磁場空間に搬送し、検査部位を静磁場空間の中心に位置づけるための位置決め画像の撮像を行う(S1)。位置決め画像は、例えば、AX面、COR面、SAG面の3つの断面の画像として取得し、それら3断面の画像から検査部位が静磁場空間の中心となる被検体位置を決定する。このとき撮像断面(スライス面)に応じて位相エンコード方向と周波数エンコード方向が決まる。
【0029】
次いで撮像条件を設定する(S2、S3)。撮像条件には前述したように種々のものが含まれ、装置側で自動設定する条件、操作者が設定する条件があるが、
図3では折り返し信号発生について重要な条件であるFOVと受信コイルの重みを示している。ステップS2では、操作者が、位置決め画像を用いて、撮像部位、断面、コントラストに応じて、FOVの大きさや位置、位相エンコード方向を設定する(S2)。なおFOVの設定は、位置決め画像に含まれる被検体部分を判断し、装置側が自動で設定する場合もある。
【0030】
受信コイル106の各チャンネルの重みは、最初はすべて1に設定する(S3)。但し受信コイル106が例えば腹部全体など被検体の広い領域を覆う広域用受信コイルの場合には、検査部位を含む所定の範囲内にあるチャンネルのみを1に設定し、検査部位から距離が離れたチャンネルは予め0に設定しておいてもよい。
【0031】
折り返し信号範囲推定部221は、位置決め画像において設定されたFOV内とその両側の信号値に基づいて、信号値が高い領域を折り返し信号範囲とする(S4)。折り返し信号範囲の判定は、例えばFOV内の信号値(画素の平均値)に対し、位相エンコード方向の所定幅の領域毎に順次、当該領域内の画素の平均値が所定の割合(例えば50%)以上であるか否かを判断し、所定の割合以上となる幅全体を含む領域を折り返し信号範囲とすることで判定することができる。但し、判定手法はこの例に限定されない。
【0032】
図4は判定結果を示す例で、この例では、FOV400の右側には被検体がないので信号値はゼロに近いが、左側には被検体があるため、左側のFOV400に隣接する領域401では信号値が高い。この領域のある被検体は、
図4下側に示すように、FOV内の被検体と同じ位相エンコード傾斜磁場でエンコードされることになり、被検体の画像に折り返す。従って、折り返し信号範囲推定部221は、左側の、信号値が所定の値よりも高い領域401を折り返し信号範囲と推定する。
【0033】
折り返し信号範囲推定部221による推定の結果、FOVの両側について折り返しなしと推定された場合には(S5)、結果が計測制御部210に渡され、計測制御部210は最初に設定されたFOVおよびCh重みで撮像(本スキャン)を開始する(S7)。撮像後、再構成部229はS2で設定されたCh重みでチャンネル合成を行い、画像を再構成する(S8)。
【0034】
一方、折り返し信号範囲推定部221による推定の結果、FOVの両側或いはいずれかに折り返し信号範囲が推定され、確定された場合には(S5)、その結果は、折り返し信号範囲のFOVに対する位置と大きさ(範囲の広さ)を判定部227に渡す。判定部227は、折り返し信号範囲に関する推定結果をもとに、FOVを変更するか、受信コイルのCh重みを変更するかを判断し、それに応じて、Ch重み付け量算出部223及びFOV変更部225が処理を行う(S6)。
【0035】
FOVを変更するかCh重みを変更するかの判断は、例えば、他の撮像条件や装置特性を考慮して行う。例えば、位相エンコード方向のFOVは、位相エンコード点数(Np)、位相エンコード方向の傾斜磁場の最大印加強度Gp、位相エンコード方向の傾斜磁場の印加時間(τ)に依存する(FOV=Np/2γGpτ)。Gpやτは装置の特性によって決まり、FOVにはその制限がある。また、空間分解能を維持したままFOVを広げた場合、Npが増加することになる。その結果、撮像時間が延長するので、撮像時間上の制限もあり得る。このような制限によりFOVを変更できない場合にはCh重みを変更する。また受信コイルは、その中心が検査部位のほぼ中央に位置するように被検体に装着されるが、検査部位によっては検査部位と受信コイル中心とがずれている場合や検査部位と各チャンネルとの関係が把握困難な場合がありえる。このような場合にはFOVを変更することで対応する。また可能な場合には、FOVの変更とCh重みの変更との両方を行ってもよく、その場合には、より効果的に折り返し信号の除去すなわちエリアジングの抑制が可能になる。
【0036】
【0037】
判定部227による判定の結果(S61-1)、FOVの変更が必要とされた場合には、FOV変更部225は、S3で設定したCh重みと、S4で推定された折り返し信号範囲とからFOVを変更する(S62)。具体的には、設定されたFOVの位相エンコード方向のサイズをFOV1、折り返し信号範囲の位相エンコード方向のサイズをFOV2としたとき、折り返しのないFOVnewとして、下式(1)で表されるFOVを算出する。
FOVnew = FOV1 + FOV2 (1)
図4の例では、FOV400はFOV410に広げられる。
【0038】
また判定部227による判定の結果(S61-2)、Ch重みの変更が必要とされた場合には、Ch重み付け量算出部223は、受信コイル各チャンネルの折り返し信号範囲の信号量とFOV内の信号量から、各チャンネルの重み付け量を算出する。具体的には、位置決め画像を用いて、各chのFOV内の信号強度f(ch)と、折り返し信号範囲の信号強度g(ch)を算出する(S63-1)。
【0039】
次いでこれら信号強度から、例えば次式(2)を用いて各チャンネルの評価値E(ch)を算出する(S63-2)。
E(ch) = f(ch)/g(ch) (2)
式(2)において、f(ch)はFOV内の各chの信号強度の絶対値の二乗和、g(ch)は折り返し信号範囲の各chの信号強度の絶対値の総和を表す。なお、評価値E(ch)は式(2)の方法に限らない。f(ch)やg(ch)は絶対値の二乗ではなく任意の実数乗(例えば0や0.5など)にしてもよい。例えば,f(ch)を0乗にすると,FOV内の信号強度のf(ch)はchごとに変わらず(f(ch)=1),折り返し信号範囲の信号強度のみを反映した評価値になる。
【0040】
この評価値をもとに重み付け量を算出する(S63-3)。重み付け量(重みW(ch)は、例えば、W(ch) = E(ch)/Σ(E(ch))として求める。あるいは,評価値E(ch)を降順(大きい順)にならべ,その累積和がある閾値を超えるchの重みを1、それ以外を0とする。さらに、評価値に対し1ないし複数の閾値(例えばTh1,Th2)を設定し、評価値がTh1以上は重み1、評価値がTh2以下は重み0とし、評価値がTh1~Th2のチャンネルは重み0.5とするなど一部線形に変形する重みとしてもよいし、評価値の最大から最小まで、評価値を変数として重みが1から0まで変化するものとしてもよい。
【0041】
FOVの変更がなされた場合は、FOVの位置を変更して再度折り返し信号範囲の推定を行う(S4)。またCh重みの変更がなされた場合には、位置決め画像を異なるCh重みを用いて再構成し、その再構成画像を用いて、折り返し信号範囲の推定を行ってもよい(S4)。なお位置決め画像を用いる代わりに、変更されたFOVで画像を取得し、或いは変更されたCh重みで再構成を行い、その画像を用いて折り返し信号範囲の推定を行ってもよい。この場合の撮像は本スキャン或いは位置決め画像用スキャンと同じ条件でもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
折り返し信号範囲の推定の結果、折り返しなしと判断された場合には(S5)、本スキャンの撮像(S7)に進むことは1回目と同様である。
図3では、S5において折り返しなしと判断されるまで、S6とS4とが繰り返されるフローとなっているが、繰り返し回数を制限しておいてもよい。例えば図中点線の矢印で示すように、1回の変更のみで本スキャンを行うようにしてもよいし、変更後(S6)の後に変更の回数を判断し所定の回数に達していたら、本スキャンに進んでもよい。
【0043】
最初に設定された撮像条件と最後に決定したFOVは、計測制御部210を介してシーケンス制御装置114に渡され、ここで最終的な撮像シーケンスが決定され、本スキャンの撮像を行う(S7)。
【0044】
再構成部229は、本スキャンの実行により各チャンネルが受信した核磁気共鳴信号と、最終的なCh重み付け量を用いて画像を重み付け再構成する(S8)。重み付け再構成は、具体的には、ステップS3或いはステップS6で決定したCh重みをW(ch)、各チャンネルの信号強度をS(ch)としたとき、重み付き再構成後の画像Iは下式(3)で表される。
I = ΣW(ch)S(ch) (3)
【0045】
重み付け再構成は、各小型コイルの感度マップを用いて合成する場合もある。その場合は、ステップS3或いはステップS6で決定したCh重みをW(ch)、各チャンネルの感度をC(ch)、各チャンネルの信号強度をS(ch)としたとき、
重み付き再構成後の画像Iは下式(4)で表される。
【0046】
I = ΣA(ch)S(ch) (4)
ただし、A(ch) = (C’H(ch)C’(ch))-1C’H(ch) (Hは複素転置を表す)
C’(ch)= W(ch)C(ch)/{ΣW(ch)C(ch)}
【0047】
感度マップを用いた画像再構成は、倍速率が1のMAC合成のほか、倍速率が2以上のパラレルイメージングにも適用可能である。
【0048】
なおパラレルイメージングでは、
図6に示すように、倍速率に応じて本来のFOV800に対し位相エンコードを間引いて信号収集が行われるため、FOV810が縮小し、得られた画像は本来的に折り返しを含んでいる。パラレルイメージングでは、間引いたデータを受信コイルの感度分布を用いて推定することで折り返しを展開した画像を得る。
【0049】
このパラレルイメージングにおいても、本来のFOV800の外側に折り返し信号を発生する範囲があると、本来的な折り返しに加えて外側からの折り返しを含むことになる。位置決め画像と磁場マップ(傾斜磁場で変形させた静磁場分布)を用いることで実施形態1と同様にFOVの外側から折り返し信号範囲801、802を推定できるので、この推定結果を用いて、本来のFOVを変更しておくことで、外側から混入する信号による折り返しを除去することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、装置側で折り返し信号の発生とその範囲を推定し、推定結果に基づいて変更すべき撮像条件を変更するので、ユーザによる撮像条件再設定を不要とすることができ、MR検査効率の向上を図ることができる。
【0051】
<変形例1>
実施形態1では、折り返し信号範囲推定の結果、折り返しがあると推定された場合に、判定部227がFOVを変更するかCh重みを変更するかを自動的に判断した場合を示したが、UI部250を介して、ユーザによる選択を受け入れてもよい。ユーザ選択を受け入れるUI部250の表示画面例を
図7に示す。
図7は、撮像条件設定画面700の一例で、撮像条件の設定の際に、FOV等の自動設定を選択するボタン701が表示される。最初に設定するFOVは、条件設定部702から入力する。
【0052】
ボタン701が操作されると、
図3のS4以下の処理が開始され、ステップS6に進んだときに、FOV変更とCh重み変更とを選択するためのUI(例えばプルダウン形式の表示やテキスト形式の表示など)が表示される。ユーザは撮像時間や受信コイルの構成等を考慮して、いずれか或いは両方を選択する。
【0053】
このようにユーザによる自由度を与えることで、ユーザ支援の実効性を高めることができる。
【0054】
なお
図7はユーザ選択の一例であって、自動設定を選択する時期や選択の仕方などは適宜変更可能であり、それに応じたUIの表示が可能である。
【0055】
<実施形態2>
実施形態1では、位置決め画像から、折り返し信号範囲を推定し、FOVを広げる場合を説明したが、本実施形態では、FOVを広げる際に、静磁場不均一を考慮し、信号を収集したくない範囲を除外して折り返し信号範囲を確定する。このため本実施形態では、位置決め画像と磁場マップとを用いて、折り返し信号範囲を確定することが特徴である。
【0056】
本実施形態においても処理のフローは
図3と同様であり、以下、
図3を参照して実施形態1と異なる点を中心に本実施形態の処理を説明する。
本実施形態においても、位置決め画像を取得後、最初の撮像条件設定をユーザ設定或いは装置自動設定により行う(S1~S3)。
【0057】
上記設定の完了後、折り返し信号範囲推定部221が、位置決め画像と、設定されたFOVと、磁場マップに基づいて、位相エンコード方向の折り返し信号範囲を決定する(S4)。
【0058】
この処理の詳細を
図8に示す。まず折り返し信号範囲推定部221は、まず傾斜磁場分布(位相エンコード方向の傾斜磁場)を用いて静磁場分布を空間的に変形させた磁場マップを生成する(S41、S42)。静磁場分布は、装置の特性として予め測定しておくことができ、傾斜磁場分布はシミュレーションによって取得することができる。これら分布の情報を、例えば、内部記憶装置或いは外部記憶装置203に装置特性データとして格納しておき、折り返し信号範囲推定処理において読み込み用いる。
【0059】
図9に磁場マップの一例を示す。図示するように傾斜磁場分布900は、傾斜磁場コイルの不完全性により磁場中心から離れた位置で直線性が崩れるため、傾斜磁場分布によって変形した静磁場分布すなわち磁場マップ910は、傾斜磁場分布の直線性がくずれた部分を反映して変形されている。
【0060】
折り返し信号範囲推定部221は、このような磁場マップ(傾斜磁場分布によって変形した静磁場分布)と位置決め画像(撮像部位の断面の画像)とを重畳した画像から、設定したFOVとその外側領域とを比較し、折り返し信号範囲の推定とその磁場マップの直線性が崩れた部分即ち静磁場が不均一な領域の除去を行う(S43、S44)。
図10に位置決め画像上に重畳した磁場マップを示す。
図10において、左右方向が位相エンコード方向で、白い四角で囲まれた部分400がFOVとして設定された領域である。同図のカラーバー(白黒バー)に示すように、FOV400の両側の領域401、402では、磁場マップの均一度が低下している。
【0061】
折り返し信号範囲の推定は、実施形態1と同様に、FOV内の信号値とその両側の信号値とを用いて推定する。また静磁場不均一領域の除去は、磁場マップ上でFOVとその両側の静磁場分布を比較し、均一度が低下している部分は、折り返し信号範囲から除外する。
【0062】
折り返し信号範囲推定後の処理は、実施形態1と同様で、FOVの変更とCh重みの変更のいずれか或いは両方を適用するかを判定し、判定した処理を行う(S45)。本実施形態では、例えば、FOVの変更とCh重みの変更とを併用し、例えば、FOVは折り返し信号範囲として推定した領域まで広げるように変更し、当該領域のうち、除外すべき領域については、その領域に最大感度分布をもつチャンネルの重みを小さい値(或いは0)にしてもよい。また実施形態1の変形例で説明したように、いずれを優先するかについて、ユーザ選択を受け付けるようにしてもよい。
【0063】
またCh重み付け量の算出は、実施形態1では、FOVとその両側の信号強度に基づいて評価値を算出したが(式(2))、
図9に示した磁場分布の均一度に基づいて評価値を算出することも可能である。
【0064】
本実施形態によれば、実施形態1と同様の効果が得られ、さらに、折り返し信号範囲の推定を装置の特性である磁場分布を用いることで、磁場不均一からの信号を取り込むとなく適切なFOVの設定或いはチャンネルの重み設定を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
10:MRI装置、100:撮像部、200:計算機、210:計測制御部、220:演算部、221:折り返し信号範囲推定部、223:チャンネル重み付け量算出部、225:FOV変更部、227:判定部、229:再構成部、230:表示制御部、250:UI部