(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015899
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】送信システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 1/04 20060101AFI20240130BHJP
H03F 1/32 20060101ALI20240130BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H04B1/04 R
H03F1/32 141
H04L27/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118275
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小島 政明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 良太
(72)【発明者】
【氏名】横澤 真介
(72)【発明者】
【氏名】小泉 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】長坂 正史
(72)【発明者】
【氏名】亀井 雅
【テーマコード(参考)】
5J500
5K060
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA41
5J500AC21
5J500AC92
5J500NG03
5K060BB07
5K060CC04
5K060CC13
5K060DD03
5K060DD05
5K060HH11
5K060KK06
(57)【要約】
【課題】ハードウェア規模を低減しつつ、歪補償機能を実現する。
【解決手段】送信装置100は、デジタル信号を所定の変調方式で変調したIQ信号を生成するマッピング部102と、IQ信号に対して、4乗根のルートロールオフフィルタにより第1の波形整形を行うQRRF部106と、第1の波形整形後のIQ信号をD/A変換して、変調波信号として信号処理装置200に出力するD/A変換部105と、を備え、信号処理装置200は、送信装置100から出力された変調波信号をA/D変換するA/D変換部201と、所定の伝送器による伝送路歪を補償する信号成分を付加する疑似伝送器202と、疑似伝送器202を通過した信号に対して、4乗根のルートロールオフフィルタにより第2の波形整形を行うQRRF部203と、第2の波形整形後の信号をD/A変換して所定の伝送器に出力するD/A変換部204と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル信号が所定の変調方式で変調された変調波信号を生成する送信装置と、前記変調波信号が伝送される所定の伝送路による伝送路歪を補償するための信号成分を前記変調波信号に付加する信号処理装置とを備え、
前記送信装置は、
前記デジタル信号を前記所定の変調方式で変調したIQ信号を生成するマッピング部と、
前記IQ信号に対して、4乗根のルートロールオフフィルタにより第1の波形整形を行う第1の波形整形部と、
前記第1の波形整形後のIQ信号をD/A変換して、前記変調波信号として前記信号処理装置に出力するD/A変換部と、を備え、
前記信号処理装置は、
前記送信装置から出力された変調波信号をA/D変換するA/D変換部と、
前記伝送路上の所定の伝送器の特性の逆特性を有し、前記A/D変換部によるA/D変換後の信号の通過により、前記所定の伝送器による伝送路歪を補償する信号成分を付加する疑似伝送器と、
前記疑似伝送器を通過した信号に対して、4乗根のルートロールオフフィルタにより第2の波形整形を行う第2の波形整形部と、
前記第2の波形整形後の信号をD/A変換して前記所定の伝送器に出力するD/A変換部と、を備える送信システム。
【請求項2】
コンピュータを、請求項1に記載の送信装置として動作させるプログラム。
【請求項3】
コンピュータを、請求項1に記載の信号処理装置として動作させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在運用されている各種規格のデジタル放送のうち、衛星放送を例にとれば、放送衛星に備えられた伝送器(衛星中継器)を使って、複数の放送事業者が独立したTS(トランスポートストリーム)を伝送することができるように、放送波信号は多重伝送される。衛星デジタル放送で採用済みの規格には、ISDB-S、ISDB-S3、DVB-S2、DVB-S2Xなどがある。
【0003】
図4は、従来の衛星放送システム1Aの構成例を示す図である。
図4に示す衛星放送システム1Aは、送信装置2と、衛星中継器3と、複数の受信装置4(受信装置4-1~4-N(Nは1以上の自然数)とを備える。なお、送信装置2は、上述した衛星デジタル放送の各種規格に適合した一般的な送信装置として説明する。
【0004】
送信装置2は、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号などの制御情報で指定される所定の変調方式に基づいて変調波信号を生成し、映像・音声・データ信号などを多重した主信号を衛星中継器3に送信する。変調方式としては、例えば、衛星放送デジタル規格であるISDB-S3方式の場合、π/2シフトBPSK(Binary Phase Shift Keying)を含むBPSK、π/4シフトQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を含むQPSK、8PSK、16APSK(Amplitude Phase Shift Keying)および32APSKなどがある。送信装置2により生成された変調波信号は、所定の周波数帯域に変換された後、実衛星(衛星中継器3)に向けてアップリンクされる。
【0005】
衛星中継器3は、送信装置2から送信された変調波信号を伝送する伝送器である。衛星中継器3は、進行波管増幅器(以下、「TWTA」と称する。)32と、TWTA32に前置される入力フィルタである入力マルチプレクサフィルタ(以下、「IMUXフィルタ」と称する。)31と、TWTA32に後置される出力フィルタである出力マルチプレクサフィルタ(以下、「OMUXフィルタ」と称する。)33と、を備える。
【0006】
IMUXフィルタ31は、各チャンネル周波数に対応した帯域通過フィルタである。IMUX31は、送信装置2から受信した変調波信号(放送波信号)から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。TWTA32は、IMUX31により抽出された1チャンネル分の放送波信号の電力を増幅する。OMUXフィルタ33は、各チャンネル周波数に対応した帯域通過フィルタである。OMUXフィルタ33は、TWTA32により増幅された信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。OMUXフィルタ33による不要周波数成分の抑圧後、OMUXフィルタ33の後続の合成器(図示せず)により、全チャンネル分の放送波信号が合成され、アンテナ(図示せず)から受信装置4-1~4-Nに向けて送信される。TWTA32の入出力特性(AM/AM特性およびAM/PM特性)の一例を
図5に示す。また、IMUXフィルタ31およびOMUXフィルタ33の応答特性(周波数対振幅特性および周波数対群遅延特性)の一例を
図6に示す。
【0007】
受信装置4-1~4-Nは、多重された放送波信号とともに伝送されるTMCC信号などの制御情報を絶えず監視することにより、送信装置2において様々な伝送制御が行われたとしても、それに追従して受信方式などを切り替えることができる。
【0008】
TWTA32においては、入出力電力および位相偏移特性などの影響により、所望のIQ信号点からずれが生じることがある。また、IMUXフィルタ31およびOMUXフィルタ33においては、周波数振幅および群遅延特性などの影響により、シンボル間干渉が生じ、所望の信号点から広がりが生じることがある。伝送路内では、IQ信号点のずれおよび広がりが相互に影響し合い、結果として所要C/Nが増大し、伝送品質が劣化する(例えば、非特許文献1参照)。また、変調方式として、16APSKあるいは32APSKのような多値振幅位相変調方式を用いる場合、衛星中継器3のTWTA32のような電力増幅器は一般にバックオフをとる(入力レベルを下げて、出力レベルを下げた状態で運用する)ことが行われる。
【0009】
ここで、TWTA32におけるバックオフについて説明する。TWTA32は、入力レベルと出力レベルとの関係が比例関係となるように電力増幅処理することが望ましい。しかしながら、TWTA32の入出力特性は実際には、入力レベルが大きくなると、利得が低下する非線形性を示し、また、入力信号に対する出力信号の位相も回転する。従って、入力レベルを徐々に上げると、あるレベルまでは出力レベルも上がるが、ある入力レベルを超えると、出力レベルは逆に低下する。このような出力レベルの低下が起こる直前の動作点を一般に、出力飽和点という。出力飽和点から入力レベルをX[dB]下げて運用する場合を「入力バックオフX[dB]」といい、入力レベルを絞って、出力レベルをY[dB]下げた状態で運用する場合を「出力バックオフY[dB]」という。
【0010】
バックオフをとることで出力電圧が低下し、結果として、受信装置4における受信C/Nマージンが小さくなる(非特許文献1参照)。衛星放送システムの受信側は一般に、受信アンテナの開口径が45cmと小さく、晴天時においても受信C/Nマージンが約20dBと小さい。そのため、所要C/Nと出力バックオフとはトレードオフの関係にあり、所要C/Nと出力バックオフとの加算値ができる限り小さくなる運用が、回路設計上、有利となる。
【0011】
受信装置4は、多重された放送波信号とともに伝送されるTMCC信号などの制御情報を絶えず監視することにより、送信装置2において様々な伝送制御が行われても、それに追従して受信方式などを切り替えることができる。
【0012】
特許文献1には、衛星中継器で発生する歪を補償する歪補償機能を備えた送信装置が記載されている。特許文献1に記載の送信装置においては、衛星中継器3で発生する伝送路歪に対して、デジタル信号処理段で、衛星中継器3を模擬した疑似伝送路の特性を付加することで、伝送路歪を事前に発生させる。その後、ベクトル演算により理想的な信号点(以下、「理想信号点」と称する。)からみた歪ベクトルに対する逆ベクトルとなるように信号点が補正される。こうすることで、実際の伝送路では、IQ信号点のずれおよび広がりがキャンセルされるので、受信側の信号点を理想信号点に収束させることができる。
【0013】
また、特許文献2には、歪補償の汎用性向上を目的に、歪補償機能を有する信号処理装置(外付対応歪補償装置)を、歪補償機能を有さない一般的な送信装置の後段に設置する構成が記載されている。特許文献2に記載の構成においては、外付対応歪補償装置には、送信装置が生成した変調波信号が入力される。外付対応歪補償装置は、入力された変調波信号をA/D変換し、A/D変換後のデジタル信号に伝送路歪の逆特性を付加し、帯域制限フィルタにより補償による帯域外不要波成分を除去した上でD/A変換する。こうすることで、特許文献2に記載の外付対応歪補償装置によれば、伝送路による所要C/Nの劣化を軽減することができる。非特許文献2には、特許文献2に示される構成の有効性が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第6681672号公報
【特許文献2】特開2021-164098号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】電子情報通信学会技術報告SAT2019-53
【非特許文献2】電子情報通信学会技術報告SAT2021-52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したような衛星放送システムにおいては、送信側の設備には、ハードウェア規模を低減しつつ、歪補償機能を実現することが求められる。
【0017】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、ハードウェア規模を低減しつつ、歪補償機能を実現することができる送信システムおよびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明に係る送信システムは、デジタル信号が所定の変調方式で変調された変調波信号を生成する送信装置と、前記変調波信号が伝送される所定の伝送路による伝送路歪を補償するための信号成分を前記変調波信号に付加する信号処理装置とを備え、前記送信装置は、前記デジタル信号を前記所定の変調方式で変調したIQ信号を生成するマッピング部と、前記IQ信号に対して、4乗根のルートロールオフフィルタにより第1の波形整形を行う第1の波形整形部と、前記第1の波形整形後のIQ信号をD/A変換して、前記変調波信号として前記信号処理装置に出力するD/A変換部と、を備え、前記信号処理装置は、前記送信装置から出力された変調波信号をA/D変換するA/D変換部と、前記伝送路上の所定の伝送器の特性の逆特性を有し、前記A/D変換部によるA/D変換後の信号の通過により、前記所定の伝送器による伝送路歪を補償する信号成分を付加する疑似伝送器と、前記疑似伝送器を通過した信号に対して、4乗根のルートロールオフフィルタにより第2の波形整形を行う第2の波形整形部と、前記第2の波形整形後の信号をD/A変換して前記所定の伝送器に出力するD/A変換部と、を備える。
【0019】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上述した送信装置として動作させる。
【0020】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上述した信号処理装置として動作させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る送信システムおよびプログラムによれば、ハードウェア規模を低減しつつ、歪補償機能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る送信システムを含む衛星放送システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1に示す送信装置および信号処理装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図2および
図9に示す信号処理装置の出力信号のスペクトラム特性を示す図である。
【
図5】TWTAが備える特性の一例を示す図である。
【
図6】IMUXフィルタおよびOMUXフィルタが備える特性一例を示す図である。
【
図7】歪補償機能を備えない、従来の送信装置の構成の一例を示す図である。
【
図8】歪補償機能を備える、従来の送信装置の構成の一例を示す図である。
【
図9】従来の信号処理装置(外付対応外付対応歪補償装置)の構成例を示す図である。
【
図10】
図9に示す疑似伝送器の特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
まず、比較のために、
図7から
図9を参照して、歪補償機能を備えない従来の送信装置10の構成、特許文献1に開示されるような、歪補償機能を備える従来の送信装置300の構成、および、特許文献2に開示されるような、従来の信号処理装置(外付対応歪補償装置)400の構成について説明する。まず、歪補償機能を備えない従来の送信装置10の構成について説明する。
【0025】
図7は、送信装置10の構成例を示す図である。送信装置10は、例えば、ISDB-S3方式に準拠した一般的な送信装置である。
【0026】
図7に示すように、送信装置10は、S/P変換部101と、マッピング部102と、U/S部103と、ルートロールオフフィルタ部(以下、「RRF部」と称する。)104と、D/A変換・直交変調部105とを備える。
【0027】
S/P変換部101は、伝送すべきデジタル信号(情報ビットのシリアル系列)が入力される。S/P変換部101は、入力されたデジタル信号を、1ビットずつ、後述するマッピング部102によるマッピングのビット数(例えば、変調方式が32APSKであれば5ビット)に応じた並列のビット列に変換し、マッピング部102に出力する。
【0028】
マッピング部102は、S/P変換部101から出力された並列のビット列を、所定の変調方式(π/2シフトBPSK、QPSK、8PSK、16APSK、32APSKなど)でIQ平面上にマッピングしたIQ信号(IQdata)を生成し、U/S部103に出力する。
【0029】
U/S部103は、マッピング部102から出力されたIQ信号のサンプル点に対し、2倍以上のアップサンプリングを行う(サンプル点とサンプル点との間を非サンプル点で補完する)。以下では、U/S部103は、2倍のアップサンプリングを行うものとする。
【0030】
RRF部104は、U/S部103により2倍のアップサンプリングが行われた、非サンプル点を含むIQ信号に対して、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う。帯域制限フィルタ処理には一般的に、ルートロールオフ特性を有するデジタルフィルタが用いられる。ルートロールオフ特性は、ロールオフ特性の理論式(ナイキスト定理)に基づき、送信側でルート根(√R(f))、また、受信側でルート根(√R(f))となる。伝送路としてはこれらが乗算されるため、受信側では以下の式(1)で示されるナイキスト定理(R(f))を満たすシンボル間干渉のない受信が可能となる。
【0031】
【0032】
式(1)において、fは周波数、Tはシンボル周期、αはロールオフ率(本実施形態では、例えば、0.03)である。
【0033】
D/A変換・直交変調部105は、RRF部104による波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して変調波信号を生成する。
【0034】
次に、歪補償機能を備える従来の送信装置300の構成について説明する。
図8は、歪補償機能を備える従来の送信装置300の構成例を示す図である。
【0035】
図8に示すように、歪補償機能を備える従来の送信装置300は、S/P変換部301と、マッピング部302と、U/S部303,312と、RRF部304,306,313と、疑似伝送器305と、D/S部307と、遅延部308と、ベクトル加算部309,311と、逆特性係数部310と、D/A変換・直交変調部314とを備える。遅延部308、ベクトル加算部309,311および逆特性係数部310は、ベクトル演算部315を構成する。
【0036】
S/P変換部301は、伝送すべきデジタル信号(情報ビットのシリアル系列)が入力される。S/P変換部301は、入力されたデジタル信号を、1ビットずつ、後述するマッピング部302によるマッピングのビット数(例えば、変調方式が32APSKであれば5ビット)に応じた並列のビット列に変換し、マッピング部302に出力する。
【0037】
マッピング部302は、S/P変換部301から出力された並列のビット列を、所定の変調方式(π/2シフトBPSK、QPSK、8PSK、16APSK、32APSKなど)でIQ平面上にマッピングしたIQ信号(IQdata)を生成し、U/S部303および遅延部308に出力する。
【0038】
U/S部303は、マッピング部302から出力されたIQ信号のサンプル点に対し、2倍以上のアップサンプリングを行い、アップサンプリング後のIQ信号をRRF部304に出力する。
【0039】
RRF部304は、U/S部303によるアップサンプリング後のIQ信号に対して、
図7を参照して説明したRRF部104と同様にして、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行い、帯域制限フィルタ処理後のIQ信号を疑似伝送器305に出力する。
【0040】
疑似伝送器305は、RRF部304から出力されたIQ信号が衛星中継器(伝送器)3を通過した場合の信号を疑似した信号を生成し、RRF部306に出力する。疑似伝送器305は、疑似IMUXフィルタ31aと、疑似TWTA32aと、疑似OMUXフィルタ33aとを備える。疑似IMUXフィルタ31aは、特性値として、
図6に示すIMUXフィルタ31の特性を近似した設定値を有し、RRF部304から出力された信号から、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。疑似TWTA32aは、特性値として、
図5に示すTWTA32の特性を近似した設定値を有し、疑似IMUXフィルタ31aにより抽出された1チャンネル分の帯域成分の信号の電力を増幅する。疑似OMUXフィルタ33aは、特性値として、
図6に示すOMUXフィルタ33の特性を近似した設定値を有し、TWTA32aにより増幅された信号から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出して出力する。これにより、疑似伝送器305は、送信するデジタル信号の信号点のマッピング後の理想信号点に対して、衛星中継器3によって生じうる信号点のずれを模擬した信号点を有するIQ信号を出力することができる。
【0041】
RRF部306は、疑似伝送器305から出力されたIQ信号に対して、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行い、帯域制限フィルタ処理後のIQ信号をD/S部307に出力する。
【0042】
D/S部307は、RRF部306から出力されたIQ信号から、非サンプル点を含むIQ信号点を間引いて(ダウンサンプリングを行い)、U/S部303によるアップサンプリング前の元の信号に戻す。例えば、U/S部303により2倍のアップサンプリングが行われている場合、D/S部307は、RRF部306から出力された信号点を1/2に間引く。D/S部307は、ダウンサンプリング後のIQ信号をベクトル加算部309に出力する。
【0043】
遅延部308は、ベクトル加算部309,311に入力される2系統の信号を同期させるために、マッピング部302から出力されたIQ信号を遅延させ、ベクトル加算部309およびベクトル加算部311に出力する。すなわち、遅延部308は、疑似伝送器305およびRRF部306などで生じる遅延量と同じ遅延量だけ、マッピング部302から出力されたIQ信号を遅延させて、ベクトル加算部309,311に出力する。
【0044】
ベクトル加算部309は、D/S部307から出力されたIQ(疑似伝送器305を通過後のIQ信号)の信号点ベクトルと、遅延部308から出力されたIQ信号の信号点ベクトルとを加算し、逆特性係数部310に出力する。ここで、ベクトル加算部309は、遅延部308側の入力を符号反転している。したがって、ベクトル加算部309は、D/S部307から出力されたIQ信号の信号点ベクトルから、遅延部308から出力されたIQ信号の信号点ベクトルを差し引いた誤差ベクトルを逆特性係数部310に出力する。上述したように、D/S部307から出力されたIQ信号は、マッピング後の信号が疑似伝送器305を通過したことにより生じた歪を含む信号である。また、遅延部308から出力されたIQ信号は、D/S部307から出力されたIQ信号と同期する信号である。したがって、ベクトル加算部309は、疑似伝送器305の通過により生じた歪成分を誤差ベクトルとして逆特性係数部310に出力する。
【0045】
逆特性係数部310は、ベクトル加算部309から出力された誤差ベクトルに所定の係数(例えば、1)を乗算して、ベクトル加算部311に出力する。
【0046】
ベクトル加算部311は、遅延部308から出力されたIQ信号の信号点ベクトルと、逆特性係数部310により所定の係数が乗算された誤差ベクトルとを加算する。ここで、ベクトル加算部311は、逆特性係数部310側の入力を符号反転している。したがって、ベクトル加算部311は、遅延部308から出力されたIQ信号の信号点ベクトルから、所定の係数が乗算された誤差ベクトルを差し引いた信号をU/S部312に出力する。上述したように、遅延部308から出力されたIQ信号は、D/S部307から出力されたIQ信号と同期する信号である。また、誤差ベクトルは、マッピング後の信号が疑似伝送器305を通過したことにより生じた歪成分である。したがって、ベクトル加算部311は、マッピング後の信号に対して、疑似伝送器305の通過による歪を補正した(疑似伝送器305の逆特性を付加した)信号を歪補償信号として出力する。
【0047】
U/S部312は、ベクトル加算部311から出力されたIQ信号のサンプル点に対し、2倍以上のアップサンプリングを行い、アップサンプリング後のIQ信号をRRF部313に出力する。
【0048】
RRF部313は、U/S部312によるアップサンプリング後のIQ信号に対して、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行い、帯域制限フィルタ処理後の信号をD/A変換・直交変調部314に出力する。
【0049】
D/A変換・直交変調部314は、RRF部313から出力された信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、変調波信号として出力する。
【0050】
図8を参照して説明した、歪補償機能を備える従来の送信装置300では、歪補償機能を備えない従来の送信装置10に対して、U/S部303、疑似伝送器305、RRF部306、D/S部307およびベクトル演算部315を付加する必要があり、ハードウェア規模の増大を招いてしまう。
【0051】
次に、従来の信号処理装置(外付対応歪補償装置)400の構成について説明する。
図9は、従来の信号処理装置400の構成例を示す図である。
【0052】
図9に示すように、従来の信号処理装置400は、A/D変換部201と、疑似伝送器202と、帯域制限フィルタ401と、D/A変換部204とを備える。
【0053】
A/D変換部201は、歪補償機能を備えない従来の送信装置10により生成された変調波信号が入力される。送信装置10と信号処理装置400とは、例えば、IF信号ケーブルにより接続される。A/D変換部201は、IF信号ケーブルを介して、変調波信号が送信装置10から入力される。A/D変換部201は、入力された変調波信号をA/D変換し、A/D変換後のIQ信号を疑似伝送器202に出力する。
【0054】
疑似伝送器202は、伝送路上の所定の伝送器(衛星中継器3)が有する特性の逆特性を有する。疑似伝送器202は、例えば、
図10に示すように、
図5に示すTWTA32の入出力特性(AM/AM特性およびAM/PM特性の逆特性を有する。すなわち、
図10に示す疑似伝送器202が備える入出力特性は、TWTA32におけるAM/AM特性およびAM/PM特性(
図5)の逆成分となる値に補正した特性である。具体的には、疑似伝送器202のAM/AM特性は、TWTA32のAM/AM特性の利得を反転させた特性である。また、疑似伝送器202のAM/PM特性は、TWTA32のAM/PM特性の値を符号反転した特性である。
【0055】
図9を再び参照すると、疑似伝送器202は、A/D変換部201から出力されたA/D変換後のIQ信号を通過させ、帯域制限フィルタ401に出力する。疑似伝送器202を通過することで、伝送路上の伝送器の逆特性がIQ信号に付加される。伝送路上の伝送器の逆特性がIQ信号に付加されることで、伝送路上の所定の伝送器による伝送路歪が補償される。このように、疑似伝送器202は、伝送路上の所定の伝送器(例えば、衛星中継器3のTWTA32)の特性の逆特性を有し、A/D変換部201によるA/D変換後の信号の通過により、所定の伝送器による伝送路歪を補償する信号成分を付加する。
【0056】
帯域制限フィルタ401は、疑似伝送器202から出力されたIQ信号から、疑似伝送器202が備える非線形特性(
図10)により発生した帯域外不要波を抑圧する。ここで、送信装置10においては、ルートロールオフ特性を有するデジタルフィルタにより波形整形を行っている。そのため、((1+α)/2T)≦|f|の帯域で抑圧を行わなければ、デジタル信号の品質に影響し、結果として所要C/Nの劣化を引き起こす懸念がある。そこで、例えば、非特許文献2では、ISDB-S3のナイキスト帯域(33.7561MHz)に対し、35MHzの通過帯域で帯域制限フィルタの設計を行っている。
【0057】
帯域制限フィルタ401は、帯域外不要波の抑圧後のIQ信号をD/A変換部204に出力する。
【0058】
D/A変換部204は、帯域制限フィルタ401から出力されたIQ信号をD/A変換し、変調波信号として衛星中継器3に送信(アップリンク)する。
【0059】
次に、本開示の一実施形態に係る送信システム5を含む衛星放送システム1の構成について説明する。
【0060】
図1は、本実施形態に係る送信システム5を含む衛星放送システム1の構成例を示す図である。
図1において、
図4と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0061】
本実施形態に係る送信システム5は、送信対象のデジタル信号を所定の変調方式で変調した変調波信号を生成し、衛星中継器3に送信するものである。
図1に示すように、送信システム5は、送信装置100と、信号処理装置200とを備える。
【0062】
送信装置100は、送信対象のデジタル信号が所定の変調方式で変調された変調波信号を生成し、信号処理装置200に出力する。
【0063】
信号処理装置200は、変調波信号が伝送される所定の伝送路(
図1の例では、衛星中継器3)による伝送路歪を補償するための信号成分を変調波信号に付加し、衛星中継器3に送信する。信号処理装置200は、例えば、送信装置100に外付可能な装置であり、送信装置100における伝送方式に関わりなく、送信装置100により生成された変調波信号に対して歪補償を行うことができる。
【0064】
次に、送信装置100および信号処理装置200の構成について説明する。
図2は、送信装置100および信号処理装置200の構成例を示す図である。
図2において、
図9と同様の構成には同じ符号を付して説明を省略する。まず、送信装置100の構成について説明する。
【0065】
図2に示すように、本実施形態に係る送信装置100は、S/P変換部101と、マッピング部102と、U/S部103と、QRRF部106と、D/A変換・直交変調部105とを備える。本実施形態に係る送信装置100は、
図9に示す従来の送信装置10と比較して、RRF部104をQRRF部106に変更した点が異なる。
【0066】
第1の波形整形部としてのQRRF部106は、マッピング部102により生成されたIQ信号(U/S部103によるアップサンプリング後のIQ信号)に対して、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う。ここで、QRRF部106は、4乗根のルートロールオフフィルタにより波形整形(第1の波形整形)を行う。したがって、QRRF部106の伝達関数は、(4√R(f))となる。R(f)は1以下の正の実数であるため、QRRF部106による波形整形後の信号には、RRFによる波形整形後の信号よりも、高い周波数対振幅成分が残る。なお、QRRF部106からの出力は、電力が規格化されるものとする。QRRF部106は、波形整形後のIQ信号(第1の波形整形後のIQ信号)をD/A変換・直交変調部105に出力する。D/A変換・直交変調部105に出力された波形整形後のIQ信号(第1の波形整形後のIQ信号)はD/A変換され、D/A変換後の信号が直交変調されて、変調波信号として信号処理装置200に出力される。
【0067】
次に、本実施形態に係る信号処理装置200の構成について説明する。
【0068】
図2に示すように、本実施形態に係る信号処理装置200は、A/D変換部201と、疑似伝送器202と、QRRF部203と、D/A変換部204とを備える。本実施形態に係る信号処理装置200は、
図9に示す従来の信号処理装置400と比較して、帯域制限フィルタ401をQRRF部203に変更した点が異なる。
【0069】
第2の波形整形部としてのQRRF部203は、疑似伝送器202を通過した信号に対して、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う。ここで、QRRF部203は、4乗根のルートロールオフフィルタにより波形整形(第2の波形整形)を行う。したがって、QRRF部203の伝達関数は、(4√R(f))となる。R(f)は1以下の正の実数であるため、QRRF部203による波形整形後の信号には、RRFによる波形整形後の信号よりも、高い周波数対振幅成分が残る。
【0070】
QRRF部106,203による帯域制限フィルタ処理により、送信システム5(信号処理装置200)から出力される変調波信号は、ルートロールオフ特性(√R(f))を有するスペクトルの信号となる。そのため、受信側で式(1)のナイキスト定理が満たされるような、変調波信号の伝送が可能となる。すなわち、本実施形態に係る送信システム5は、歪補償機能を備える従来の送信装置300と同様に歪補償を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態においては、疑似伝送器202を通過した信号に対してQRRF部203による帯域制限フィルタ処理を行うため、信号処理装置200の出力信号においては、帯域外不要波は、
図9に示す信号処理装置400の出力信号と比べて、帯域外不要波が残留する可能性を低減することができる。
【0072】
また、本実施形態に係る送信装置100の構成は、歪補償機能を備えない従来の送信装置10におけるRRF部104をQRRF部106に変更するだけでよい。また、本実施形態に係る送信装置100によれば、歪補償機能を備える従来の送信装置300のように、従来の送信装置10に対して、U/S部303、疑似伝送器305、RRF部306、D/S部307およびベクトル演算部315などを付加する必要がなく、ハードウェア規模の増大を招くことはない。また、本実施形態に係る信号処理装置200の構成は、従来の信号処理装置400における帯域制限フィルタ401をQRRF部203に変更するだけでよい。したがって、送信装置100および信号処理装置200から構成される、本実施形態に係る送信システム5によれば、ハードウェア規模を低減しつつ、歪補償機能を実現することができる。
【0073】
なお、疑似伝送器202に入力されるIQ信号は好適には、
図9に示すように、帯域制限フィルタ401による帯域制限フィルタ処理後のIQ信号であるが、QRRF部203による帯域制限フィルタ処理後のIQ信号も近似的に取り扱うことが可能である。以下では、QRRF部106,203による帯域制限フィルタ処理を行った場合にも受信性能に影響しないことを、本実施形態に係る信号処理装置200および従来の信号処理装置400それぞれの出力信号のスペクトラム特性と併せて検証する。
【0074】
変調波信号の伝送パラメータはISDB-S3に準拠するものとし、変調方式は32APSK、符号化率は3/4とした。また、
図1に示すTWTA32の動作点としては、入力バックオフ(IBO)を3.46dBと設定した。また、
図2に示す疑似伝送器202の動作点も同値とした。
【0075】
図7に示す、歪補償機能を備えない従来の送信装置10により衛星伝送した場合、衛星中継器3の出力バックオフ(OBO)は2.2dB、受信後の所要C/Nは14.3dBとなった。回路設計上は所要C/NとOBOとの加算値(所要C/N+OBO)ができる限り小さくなる運用が有利である。したがって、従来の送信装置100を所要C/N+OBOで評価すると、16.5dBとなった。
【0076】
これに対し、
図9に示す送信装置10および信号処理装置400からなる送信システムにより衛星伝送した場合、OBOは2.6dBとなり、所要C/Nは13.2dBとなり、所要C/N+OBOは15.8dBとなった。したがって、
図9に示す送信システムによれば、
図7に示す、歪補償機能を備えない従来の送信装置10と比較して、0.7dBの改善が得られた。
【0077】
また、本実施形態に係る送信システム5により衛星伝送した場合、OBOは2.6dBとなり、所要C/Nは13.2dBとなり、所要C/N+OBOは15.8dBとなった。したがって、本実施形態に係る送信システム5によれば、
図9に示す送信システムと同等の性能が得らえた。
【0078】
図3は、
図9に示す信号処理装置400および本実施形態に係る信号処理装置200の出力信号のスペクトラム特性を示す図である。
図3においては、信号処理装置400の帯域制限フィルタ401として、非特許文献2に記載の通過帯域が35MHzであるフィルタを用いた。
【0079】
図3に示すように、従来の信号処理装置400の出力信号には帯域外不要波が含まれるのに対し、本実施形態に係る信号処理装置200の出力信号では、当該帯域外不要波が取り除かれていることが確認できた。
【0080】
実施形態では特に触れていないが、コンピュータを、送信装置100または信号処理装置200として動作させるプログラムが提供されてもよい。また、プログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0081】
あるいは、送信装置100または信号処理装置200が行う各処理を実行するためのプログラムを記憶するメモリ、および、メモリに記憶されたプログラムを実行するプロセッサによって構成され、送信装置100または信号処理装置200に搭載されるチップが提供されてもよい。
【0082】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,1A 衛星放送システム
2,10,100,300 送信装置
200,400 信号処理装置
3 衛星中継器
4 受信装置
5 送信システム
31 IMUXフィルタ
31a 疑似IMUXフィルタ
32 TWTA
32a 疑似TWTA
33 OMUXフィルタ
33a 疑似OMUXフィルタ
101,301 S/P変換部
102,302 マッピング部
103,303,312 U/S部
106 QRRF部(第1の波形整形部)
304,306,313 RRF部
202,305 疑似伝送器
307 D/S部
308 遅延部
309,311 ベクトル加算部
310 逆特性係数部
314 D/A変換・直交変調部
201 A/D変換部
203 QRRF部(第2の波形整形部)
204 D/A変換部
401 帯域制限フィルタ