(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159120
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】低分子フッ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/367 20060101AFI20241031BHJP
C07C 21/185 20060101ALI20241031BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20241031BHJP
C07C 19/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C07C17/367
C07C21/185
C07C21/18
C07C19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074905
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】508067736
【氏名又は名称】マイクロ波化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】福島 和亮
(72)【発明者】
【氏名】高元 保
(72)【発明者】
【氏名】緒方 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】出口 友香里
(72)【発明者】
【氏名】塚原 保徳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】並川 敬
(72)【発明者】
【氏名】松井 元志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 祐介
(72)【発明者】
【氏名】八木下 将史
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC13
4H006BA91
4H006BC10
4H006BC18
4H006BD81
4H006EA03
4H006EA12
(57)【要約】
【課題】 フッ素樹脂の分解において、反応容器から導出される生成ガスの温度を、加熱されたマイクロ波吸収体の温度に比べて低くなるように温度差を設けるフッ素樹脂分解法において、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率を向上させる。
【解決手段】 キャリアガス導入口と分解ガス導出口とが設けられた反応容器内で、加熱されたマイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料とを接触させることによりフッ素樹脂を分解する低分子フッ素化合物の製造方法において、(i)加熱されたマイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前キャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を500℃超となるように設定する、及び/又は(ii)温度TR(℃)から、導出口での生成ガス温度TE(℃)を差し引いた温度差Δ2(TR-TE)を300℃以上となるように設定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガス導入口と分解ガス導出口とが設けられた反応容器内で、マイクロ波吸収体をマイクロ波照射により加熱し、加熱された前記マイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料とを接触させることにより前記フッ素樹脂を低分子フッ素化合物に分解する分解工程を含み、
(i)加熱された前記マイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前記導入口におけるキャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を500℃超となるように設定する、低分子フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
キャリアガス導入口と分解ガス導出口とが設けられた反応容器内で、マイクロ波吸収体をマイクロ波照射により加熱し、加熱された前記マイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料とを接触させることにより前記フッ素樹脂を低分子フッ素化合物に分解する分解する工程を含み、
(ii)加熱された前記マイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前記反応容器から導出される生成ガスの前記導出口での温度TE(℃)を差し引いた温度差Δ2(TR-TE)を300℃以上となるように設定する、低分子フッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記導入口からのキャリアガスの導入速度Rが0.005~20m/sである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記導出口における反応容器から導出される生成ガス温度TE(℃)が20℃以上250℃未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロ波吸収体が、前記マイクロ波吸収体及び前記フッ素樹脂を含む材料の粒子を含み且つ前記キャリアガス導入口から前記分解ガス導出口への気流を通過させるように設けられた、マイクロ波吸収体含有層の形態で用意され、
前記導出口の開口中心を点Peとし、前記マイクロ波吸収体含有層の中心軸と、前記マイクロ波吸収体含有層の前記導出口とは反対側の面との交点を点Plとした場合、点Plから点Peまでの高さHに対する前記マイクロ波吸収体含有層の高さhの比率h/Hが0.01~0.8である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロ波吸収体の粒径dが0.1~25mmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記マイクロ波吸収体含有層の高さhが0.1~200mmである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
加熱された前記マイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前記導入口におけるキャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を250℃超となるように設定する、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂の分解技術に関する。より具体的には、本発明は、マイクロ波照射加熱を用いたフッ素樹脂の熱分解により低分子フッ素化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、滑性、耐熱性、耐薬品性等の優れた特性を利用し、耐熱電線の被覆材、半導体製造材料、及び電子部品などに広く用いられている。近年、フッ素樹脂を含む合成樹脂に関して、一般に、分解し再利用することが盛んに検討されている。例えば、特許文献1に、PTFEを含む素材からPTFEを熱分解することによって発生するテトラフロロエチレン低分子量モノマー及びダイマーを取出すケミカルリサイクル方法であって、不活性の粒状材料によって形成された流動床をその内部に有するとともに、その内部に前記素材が供給された流動床反応器を加熱する過程、流動ガスとしての不活性ガスを前記流動床反応器内に導入するとともに、前記不活性ガスとともに前記加熱によってPTFEが熱分解されることによって発生したテトラフロロエチレン低分子量モノマー及びダイマーを、前記流動床反応器から取出す過程、を含むケミカルリサイクル方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、これまでのフッ素樹脂のケミカルリサイクル技術において、フッ素樹脂から生じたフッ素系モノマー等の低分子フッ素化合物が晒される温度環境の制御について検討されていないことに着眼し、反応容器から導出される生成ガスの温度を、分解反応系中の温度に比べて敢えて低くなるように制御する手法を見出した。しかしながら、さらなる検討により、このような手法においては、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率に改善の余地があるという課題に直面した。
【0005】
そこで、本発明は、反応容器から導出される生成ガスの温度(以下において、「温度TE」とも記載する。)を、分解反応系中の温度つまり加熱されたマイクロ波吸収体の温度(以下において、「温度TR」とも記載する。)に比べて低くなるように制御するように温度差(以下において、「温度差Δ2(TR-TE)」とも記載する。)を設けるフッ素樹脂分解法において、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、容反応器内で加熱されたマイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、反応容器導入口におけるキャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を500℃超となるように設定すること、及び/又は、容反応器内で加熱されたマイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、反応容器から導出される生成ガスの分解ガス導出口でのTE(℃)を差し引いた温度差Δ2(TR-TE)を300℃以上となるように設定することによって、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率を向上できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成した。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. キャリアガス導入口と分解ガス導出口とが設けられた反応容器内で、マイクロ波吸収体をマイクロ波照射により加熱し、加熱された前記マイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料とを接触させることにより前記フッ素樹脂を低分子フッ素化合物に分解する分解工程を含み、
(i)加熱された前記マイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前記導入口におけるキャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を500℃超となるように設定する、低分子フッ素化合物の製造方法。
項2. キャリアガス導入口と分解ガス導出口とが設けられた反応容器内で、マイクロ波吸収体をマイクロ波照射により加熱し、加熱された前記マイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料とを接触させることにより前記フッ素樹脂を低分子フッ素化合物に分解する分解する工程を含み、
(ii)加熱された前記マイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前記反応容器から導出される生成ガスの前記導出口での温度TE(℃)を差し引いた温度差Δ2(TR-TE)を300℃以上となるように設定する、低分子フッ素化合物の製造方法。
項3. 前記導入口からのキャリアガスの導入速度Rが0.005~20m/sである、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記導出口における反応容器から導出される生成ガス温度TE(℃)が20℃以上250℃未満である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記マイクロ波吸収体が、前記マイクロ波吸収体及び前記フッ素樹脂を含む材料の粒子を含み且つ前記キャリアガス導入口から前記分解ガス導出口への気流を通過させるように設けられた、マイクロ波吸収体含有層の形態で用意され、
前記導出口の開口中心を点Peとし、前記マイクロ波吸収体含有層の中心軸と、前記マイクロ波吸収体含有層の前記導出口とは反対側の面との交点を点Plとした場合、点Plから点Peまでの高さHに対する前記マイクロ波吸収体含有層の高さhの比率h/Hが0.01~0.8である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記マイクロ波吸収体の粒径dが0.1~25mmである、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 前記マイクロ波吸収体含有層の高さhが0.1~200mmである、項5又は6に記載の製造方法。
項8. 加熱された前記マイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、前記導入口におけるキャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を250℃超となるように設定する、項2~7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反応容器から導出される生成ガスの温度TEを、分解反応系中の温度つまり加熱されたマイクロ波吸収体の温度TRに比べて低くなるように制御するように温度差Δ2(TR-TE)を設けるフッ素樹脂分解法において、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の製造方法に用いられる装置の一例(上向並流型且つ筒形反応容器)の概略図を示す。
【
図2】本発明の製造方法に用いられる装置の一例(下向並流型且つ筒形反応容器)の概略図を示す。
【
図3】本発明の製造方法に用いられる装置の一例(連続槽型反応容器)の概略図を示す。
【
図4】本発明の製造方法に用いられる装置の一例(連続槽型反応容器)の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の低分子フッ素化合物の製造方法は、キャリアガス導入口と分解ガス導出口とが設けられた反応容器内で、マイクロ波吸収体をマイクロ波照射により加熱し、加熱された前記マイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料とを接触させることにより前記フッ素樹脂を低分子フッ素化合物に分解する分解工程を含み、以下の(i)及び/又は(ii)の設定を行うことを特徴とする。
(i)加熱されたマイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、導入口におけるキャリアガス温度TI(℃)を差し引いた温度差Δ1(TR-TI)を500℃超となるように設定する
(ii)加熱されたマイクロ波吸収体の温度TR(℃)から、反応容器から導出される生成ガスの導出口での温度TE(℃)を差し引いた温度差Δ2(TR-TE)を300℃以上となるように設定する
以下、本発明の低分子フッ素化合物の製造方法について詳述する。
【0011】
[1.フッ素樹脂]
本発明では、低分子フッ素化合物の原料としてフッ素樹脂を用いる。フッ素樹脂とは、分子量500以上及びフッ素含有量(重量ベース)が57%以上のフッ素化合物である。
【0012】
フッ素樹脂としては、例えば、フッ素化ポリオレフィン、フッ素化ポリエーテルなどが挙げられる。
【0013】
フッ素化ポリオレフィンは、フッ素化オレフィンから誘導される繰り返し単位を持つポリマー又はオリゴマーである。
【0014】
前記のフッ素化オレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、部分フッ素化又はパーフルオロビニルエーテル、部分フッ素化又はパーフルオロアリルエーテル等が挙げられる。
【0015】
前記のパーフルオロビニルエーテルとしては、一般式CF2=CF-O-Rfで表される化合物[式中、Rfは、1以上の酸素原子を含みうる過フッ素化された直鎖、環状、又は分枝鎖の脂肪族基を表す。]が挙げられる。Rfが1以上の酸素原子を含む場合、当該Rfとしては、-(Ra
fO)n(Rb
fO)mRc
fで表される基[式中、Ra
f及びRb
fは、1~6個の炭素原子、特に2~6個の炭素原子を有する異なる直鎖又は分枝鎖又は環状パーフルオロアルキレン基であり、m及びnは独立して0~10であり、Rc
fは1~6個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基である。]が挙げられる。Rfが酸素原子を含まない場合、当該パーフルオロビニルエーテルの具体例としては、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロイソプロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0016】
前記のパーフルオロビニルエーテルの具体例としては、パーフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)、パーフルオロ(n-プロピルビニル)エーテル(PPVE-1)、パーフルオロ-2-プロポキシプロピルビニルエーテル(PPVE-2)、パーフルオロ-3-メトキシ-n-プロピルビニルエーテル、パーフルオロ-2-メトキシ-エチルビニルエーテル、CF3-(CF2)2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF(CF3)-CF2-O-CF=CF2、CF2=CF-O-(CF2)3OCF3、CF2=CFO(CF2)2OCF3等が挙げられる。
【0017】
前記のパーフルオロアリルエーテルとしては、一般式CF2=CF-CF2-O-Rfで表される化合物[式中、Rfは、前記のパーフルオロビニルエーテルにおいて述べたRfと同じである。]が挙げられる。
【0018】
フッ素化ポリオレフィンは、フッ素化オレフィンから誘導される繰り返し単位からなるポリマー又はオリゴマーであってもよいし、フッ素化オレフィンから誘導される繰り返し単位に加えて、非フッ素化オレフィンから誘導される繰り返し単位をさらに含むポリマー又はオリゴマーであってもよい。前記の非フッ素化オレフィンとしては特に限定されないが、C2~C8オレフィンが挙げられ、より好ましくは、エチレン(E)及びプロピレン(P)が挙げられる。これらのフッ素化ポリオレフィンの中でも、好ましくはフッ素化オレフィンから誘導される繰り返し単位からなるポリマー又はオリゴマー(つまり、フッ素化ポリオレフィン中の非フッ素化オレフィンから誘導される繰り返し単位のモル比が0%であるもの)が挙げられる。
【0019】
フッ素化ポリオレフィンの好適な例としては、TFEのホモポリマー、及び次のコポリマー:TFE及びHFP;TFE、HFP及びVDF;TFE及びCTFE;TFE、CTFE及びE又はP;TFE及びPMVE、PEVE、PPVE-1又はPPVE-2;TFE、E及びHFP;CTFE及びE又はPから誘導される繰り返し単位を含むポリマー等が挙げられる。これらのフッ素化ポリオレフィン中でも、好ましくはTFEのホモポリマーが挙げられる。
【0020】
フッ素化ポリエーテルは、フッ素化オキシアルキレン繰り返し単位を持つポリマー又はオリゴマーである。
【0021】
フッ素化オキシアルキレン繰り返し単位は、-ClX2lO-で表され、lは1以上の整数であり、Xは水素またはフッ素であり、直鎖状または分岐鎖状であり、lおよびXは繰り返しの各出現において異なっていてもよい。
【0022】
フッ素樹脂は、フッ素化非アイオノマーであってもよいし、フッ素化アイオノマー(複数の-SO3
-及び/又は-COO-基を懸垂基又は末端基として有するフルオロポリマー)であってもよい。フッ素化アイオノマーとしては、燃料電池又は電気化学反応における膜の調製に使用されるものを、特に制限なく用いることができる。
【0023】
フッ素樹脂は、末端に水素原子又はフッ素以外の原子を含む官能基を有していてもよい。フッ素以外の原子を含む官能基としては、特に限定されないが、例えば、ヨウ素基、臭素基、塩素基、水酸基およびそのエステル、ビニル基などが挙げられる。
【0024】
上記のフッ素樹脂は1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
[2.フッ素樹脂を含む材料]
フッ素樹脂は、それを含む材料の形態で分解工程に供される。当該材料は、フッ素樹脂のみからなっていてもよいし、フッ素樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、フッ素樹脂組成物に配合する樹脂添加物等が挙げられ、より具体的には、充填剤、色素、潤滑剤、硬化剤、硬化促進剤、熱伝導剤、電気伝導剤等が挙げられる。
【0026】
分解工程におけるフッ素樹脂を含む材料の性状については、分解工程における条件に応じて定まり、特に限定されるものではない。フッ素樹脂を含む材料が固体の場合、粒子状の形態で用いられる。当該粒子は、フッ素樹脂材料が任意の手段で粒子状に加工されたものである。当該手段としては、例えば、ミリング装置、粉砕装置等が挙げられる。
【0027】
粒子のサイズとしては特に限定されないが、例えば、20μm~100mm、好ましくは100μm~10mm、より好ましくは250μm~5mmが挙げられる。
【0028】
フッ素樹脂を含む材料は、分解工程に先立って行われ得る前処理により得られたものであってもよい。このような前処理としては、フッ素樹脂を含む材料が得られる限りにおいて特に限定されず、例えば、リサイクル対象材料からフッ素樹脂を含まない部材及び/又はフッ素樹脂以外の材料を分離除去する処理、オイル及び/又は埃などの除去処理、及びポリマー材料のフッ素化処理(ポリマー材料をF2ガスで処理することによってC-H結合をC-F結合に変換する処理)等が挙げられる。
【0029】
フッ素樹脂を含む材料の反応容器内への供給方法は特に限定されず、当業者が適宜選択すればよい。例えば、フッ素樹脂を含む材料が粒子の場合は、例えば重力送りによって反応容器内に供給することが好ましく、フッ素樹脂を含む材料が液体の場合は、例えば噴霧によって反応容器内に供給できる。
【0030】
[3.反応容器]
反応容器としては、ガス流の導入及び導出のためのキャリアガス導入口及び分解ガス導出口とが設けられた容器を用いる。本発明において用いられる反応容器としては、並流型の筒形反応容器、及び連続槽型反応容器等が挙げられる。
【0031】
並流型の筒形反応容器の具体例を
図1及び
図2に示す。
図1に示す並流型の筒形反応容器1は、キャリアガス導入口1Iと分解ガス導出口1Eとが設けられ、キャリアガス3のガス流の流動形式が上向並流型となるように構成されている。
図2に示す並流型の筒形反応容器1aは、キャリアガス導入口1Iと分解ガス導出口1Eとが設けられ、キャリアガス3のガス流の流動形式が下向並流型となるように構成されている。
【0032】
連続槽型反応容器の具体例を
図3及び
図4に示す。
図3に示す連続槽型反応容器1bは、キャリアガス導入口1Iと分解ガス導出口1Eとが設けられ、好ましくは少量スケールでの反応に用いられる。
図4に示す連続槽型反応容器1cは、キャリアガス導入口1Iと分解ガス導出口1Eとが設けられ、好ましくは大量スケールでの反応に用いられる。また、
図3及び
図4に示す連続槽型反応容器1b,1cは、図示しない撹拌子を備えることができる。
【0033】
本発明における反応容器は、より具体的には、一般的な触媒反応器に準じた装置に組み込まれることができ、当該装置では、一般的な触媒反応器における触媒に代えてマイクロ波吸収体が用いられる。
【0034】
さらに、本発明では加熱手段としてマイクロ波を用いることから、当該装置は、マイクロ波発生器を備えることができる。マイクロ波発生器については、公知の装置を適宜選択することができ、そのような装置の例としては、ダイオード、マグネトロン、ジャイロトロン、進行波管、クライストロン、ユビトロン、アンプリトロン等が挙げられる。
【0035】
[4.マイクロ波吸収体]
[4-1.マイクロ波吸収体の例]
マイクロ波吸収体としては、照射されたマイクロ波を吸収することによって、フッ素樹脂を分解可能な温度に発熱し、フッ素樹脂の分解反応条件下で固体状態であり且つ化学的に不活性な特性を有していれば特に限定されない。分解工程において加熱されたマイクロ波吸収体の温度TRは、フッ素樹脂の分解反応を進行させるための温度条件を構築し、フッ素樹脂の分解反応の反応系中の温度に相当する。
【0036】
マイクロ波吸収体の具体例としては、上記の特性を有する、金属、金属塩、金属間化合物、炭素、炭化物等が挙げられる。好ましくは、マイクロ波吸収体としては、密度が例えば1~10g/cm3、好ましくは1.5~7g/cm3である物質を用いることができる。また、好ましくは、マイクロ波吸収体としては、誘電損失が例えば0.01~30、好ましくは0.1~11となるマイクロ波吸収能を持つ物質を用いることができる。
【0037】
マイクロ波吸収体のより具体的は例については、金属としては、Ni、Pt、Co、Pt等の単一金属、Pt/Cu、Pt/Re等の合金等が挙げられる。金属塩としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、ケイ化物等が挙げられる。金属間化合物としては、ケイ化モリブデン、ホウ化チタン等が挙げられる。炭素としては、膨張黒鉛等のグラファイト、活性炭、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等が挙げられる。炭化物としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム等が挙げられる。これらのマイクロ波吸収体は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらのマイクロ波吸収体の中でも、好ましくは炭化物が挙げられ、より好ましくは炭化ケイ素が挙げられる。
【0038】
[4-2.マイクロ波吸収体の粒径d]
本発明において、マイクロ波吸収体は、好ましくは粒子の形態で用いられる。マイクロ波吸収体粒子の粒径(以下において、「粒径d」とも記載する。)としては特に限定されないが、例えば0.1~25mmが挙げられる。また、後述のマイクロ波吸収体含有層の態様が固定床である場合の粒径dとしては、温度差Δ2(TR-TE)をより増大させ、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは0.1~25mm、より好ましくは1~25mm、さらに好ましくは2.8~25mm、一層好ましくは4.8~25mmが挙げられ、さらに、これら粒径dの範囲の上限は、10mm以下又は8mm以下であってもよい。後述のマイクロ波吸収体含有層の態様が流動床である場合の粒径dとしては、温度差Δ2(TR-TE)をより増大させ、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは0.5~25mm、より好ましくは1~25mm、さらに好ましくは2~10mm、一層好ましくは2.8~25mm、より一層好ましくは4.8~25mmが挙げられ、さらに、これら粒径dの範囲の上限は、15mm以下、10mm以下、5mm以下、2.5mm以下、2mm以下、又は1.5mm以下であってもよい。なお、本発明において、粒径dは、ランダム選択された20個の粒子の定方向最大径を、ゲージ測定した測定値の平均である。ゲージ測定には、粒子の大きさに応じ、目視、光学顕微鏡又は電子顕微鏡が用いられる。
【0039】
なお、上記(i)の制御を行うためには、マイクロ波吸収体の粒径dの上限を、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下に設定することができる。
【0040】
[4-3.マイクロ波吸収体含有層の態様]
分解反応中におけるマイクロ波吸収体のより具体的な態様については、固定床、及び流動床のいずれであってもよい。
【0041】
マイクロ波吸収体は、分解工程前に、当該マイクロ波吸収体及び前記のフッ素樹脂を含む材料の粒子を含む混合物のマイクロ波吸収体含有層の態様で反応容器内に用意することができる。
【0042】
マイクロ波吸収体含有層は、反応容器中において、キャリアガス導入口から分解ガス導出口への気流を通過させるように設けられる。具体的には、
図1及び
図2に示す並流型の筒形反応容器1,1aでは、キャリアガス導入口と分解ガス導出口との間にマイクロ波吸収体含有層2として設けられ、
図3及び
図4に示す連続槽型反応容器1b,1cでは、反応容器の底にマイクロ波吸収体含有層2として設けられる。
【0043】
フッ素樹脂を含む材料の粒子の量に対するマイクロ波吸収体の使用量については特に限定されないが、フッ素樹脂を含む材料の粒子1重量部に対し、例えば0.1~1000重量部、好ましくは1~100重量部、より好ましくは10~50重量部、さらに好ましくは15~45重量部が挙げられる。
【0044】
マイクロ波吸収体含有層2は、初期(分解工程開始前)において、気相との接触面を水平に均した場合に高さhをなす。高さhは、マイクロ波吸収体含有層2の中心軸CI(
図1~
図4の形態では、マイクロ波吸収体含有層2の中心軸CIが反応容器1,1a,1b,1cの中心軸に一致する)での高さをいう。
【0045】
マイクロ波吸収体含有層2の高さhの具体的な例としては、例えば0.1~200mmが挙げられ、温度差Δ2(TR-TE)をより増大させ、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは1~100mm、より好ましくは3~50mm、さらに好ましくは5~30mmが挙げられる。また、マイクロ波吸収体含有層2の態様が固定床である場合の高さhとしては、好ましくは3~50mm、より好ましくは5~30mmが挙げられ、流動床である場合の高さhとしては、好ましくは5~30mmが挙げられる。
【0046】
また、反応容器1,1a,1b,1cの導出口1Eの開口中心を点Peとし、マイクロ波吸収体含有層2の中心軸CIと、マイクロ波吸収体含有層2の導出口1Eとは反対側の面との交点を点Plとした場合、点Plから点Peまでの高さHを1とした場合のマイクロ波吸収体含有層2の高さhの比率(h/H)としては、例えば0.01~0.8が挙げられ、温度差Δ2(TR-TE)をより増大させ、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.05~0.4、さらに好ましくは0.1~0.3、一層好ましくは0.15~0.25が挙げられる。
【0047】
[5.キャリアガス]
[5-1.キャリアガスの例]
反応容器のキャリアガス導入口から導入されるキャリアガスとしては、フッ素樹脂の分解反応条件下で化学的に不活性な特性を有していれば特に限定されず、例えば、水蒸気、窒素、希ガス(Xe、Ar、Ne、He等)等が挙げられる。これらのキャリアガスは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらのキャリアガスの中でも、好ましくは水蒸気、窒素が挙げられる。
【0048】
[5-2.導入口におけるキャリアガスの温度TI及びその設定]
本発明において、導入口におけるキャリアガスの温度TIは、導入口1Iの開口中心(以下において、「点Pi」とも記載する)における温度とする。
【0049】
本発明においては、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率を向上させるため、上記(i)に示す温度差Δ1(TR-TI)となるように、導入口におけるキャリアガスの温度TIを設定することができる。
【0050】
当該温度差Δ1(TR-TI)は、500℃超である限りにおいて特に限定されないが、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは530℃以上、540℃以上、550℃以上、570℃以上、590℃以上、又は600℃以上、より好ましくは620℃以上、640℃以上、660℃以上、680℃以上、700℃以上、720℃以上、さらに好ましくは740℃以上、760℃以上、又は780℃以上が挙げられる。当該温度差Δ1(TR-TI)は、その上限においても特に限定されないが、例えば1000℃以下、900℃以下、又は800℃以下が挙げられる。
【0051】
なお、本発明において、(ii)の設定を行う場合にあっては、温度差Δ1(TR-TI)が250℃超(好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは400℃以上、一層好ましくは450℃以上)であることを許容する。
【0052】
本発明においては、温度差Δ1(TR-TI)を温度TR(℃)で除した値として、例えば0.5以上、好ましくは0.85以上、より好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.93以上、一層好ましくは0.94以上、より一層好ましくは0.97超が挙げられ、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは0.965以上、より好ましくは0.972以上、さらに好ましくは0.976以上が挙げられる。温度差Δ1(TR-TI)を温度TRで除した値は、その上限においても特に限定されないが、例えば0.990以下、0.985以下、又は0.980以下が挙げられる。
【0053】
なお、上記(i)の制御を行うためには、温度差Δ1(TR-TI)を温度TR(℃)で除した値を、好ましくは0.97超、より好ましくは0.965以上、さらに好ましくは0.972以上、一層好ましくは0.976以上となるように設定することができ、また、Δ1(TR-TI)をより大きく制御するために、当該値をより高く設定することができる。
【0054】
また、上記(ii)の制御を行うためには、温度差Δ1(TR-TI)を温度TR(℃)で除した値を、例えば0.5以上、好ましくは0.85以上、より好ましくは0.9以上、さらに好ましくは0.93以上、一層好ましくは0.94以上となるように設定することができ、さらに、0.97超、より好ましくは0.965以上、さらに好ましくは0.972以上、一層好ましくは0.976以上となるように制御することもできる。また、Δ2(TR-TE)をより大きく制御するために当該値をより高く設定することができる。
【0055】
本発明においては、導入口におけるキャリアガスが、予備加熱されていてもよいし、予備加熱されていなくてもよい。つまり、本発明においては、キャリアガスを予備加熱する工程を含んでもよいし、含まなくてもよい。温度TIの具体例としては、例えば10~400℃、好ましくは15~300℃、より好ましくは20~200℃が挙げられる。より具体的には、予備加熱しない場合の好ましい例として、例えば10~30℃、好ましくは13~25℃、さらに好ましくは15~23℃が挙げられ、予備加熱する場合の好ましい例として、例えば80~400℃、好ましくは90~200℃、より好ましくは100~150℃が挙げられる。
【0056】
[5-3.キャリアガスの導入速度R]
キャリアガス導入口からのキャリアガスの導入速度(以下において、「導入速度R」とも記載する。)については特に限定されず、例えば0.005~20m/sが挙げられ、温度差Δ2(TR-TE)をより増大させ、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは0.007~2m/s、より好ましくは0.009~0.2m/s、さらに好ましくは0.011~0.08m/s、一層好ましくは0.013~0.02m/sが挙げられる。
【0057】
[6.分解反応]
分解反応は、反応容器内で、マイクロ波吸収体をマイクロ波照射により加熱し、加熱されたマイクロ波吸収体とフッ素樹脂を含む材料の粒子とを接触させることによりフッ素樹脂を低分子フッ素化合物に分解する。
【0058】
[6-1.反応温度TR]
加熱されたマイクロ波吸収体の温度TRについては、フッ素樹脂を分解する温度であればよい。具体的な温度TRとしては、例えば280~1500℃、好ましくは490~1400℃、又は530~1300℃、より好ましくは640~1100℃、さらに好ましくは680~1000℃、一層好ましくは760~900℃が挙げられる。マイクロ波吸収体を加熱するためのマイクロ波照射条件(波長及び周波数)については、上記の温度TRに応じて適宜設定すればよい。
【0059】
なお、上記(i)の制御を行うためには、加熱されたマイクロ波吸収体の温度TRを、好ましくは490~1400℃、又は530~1300℃、より好ましくは640~1100℃、さらに好ましくは680~1000℃、一層好ましくは760~900℃に設定することができ、また、Δ1(TR-TI)をより大きく制御するために、温度TRをより高く設定することができる。
【0060】
温度TRは、反応容器を断熱した状態とし、反応容器の側面側から、マイクロ波吸収体含有層の高さh方向の中央位置における温度を測定した温度である。温度TRの測定時における反応容器の断熱は、反応容器の外周最大幅の20%の厚みとなるようにセラミックウールで反応容器を取り囲むことにより行う。温度測定は光ファイバー温度計や非接触温度計を用いることができる。なお、当該断熱の方法は、本発明で規定される温度TRの測定条件を構成するものであり、本発明の製造方法が当該断熱の方法を行う形態に限定されるものではない。
【0061】
[6-2.導出口における生成ガスの温度TE及びその設定]
フッ素樹脂の分解反応により生成する低分子フッ素化合物は、気体(生成ガス)として導出口1Eから反応容器外に導出される。本発明において、導出口における生成ガスの温度TEは、導出口1Eの開口中心(以下において、「点Pe」とも記載する)における温度とする。また、本発明における温度TEは、マイクロ波吸収体含有層を通過した分解ガス(生成ガス)が、急冷方法を用いて冷却されることなく、反応容器の分解ガス導出口の点Peに到達した時点の温度である。ここで、急冷方法は、自然冷却の場合の温度(すなわち、マイクロ波吸収体含有層を通過した分解ガスが、反応容器の分解ガス導出口に到達するまでの間に自然冷却され、分解ガス導出口に到達した時点に呈する温度)に比べて低い温度になるように、分解ガスを冷却する方法をいい、具体的な方法は当該技術分野で公知であり、例えば、分解ガス(生成ガス)を膨張させる方法、別途用意した冷却用ガスを用いて冷却する方法、冷却用液体を用いて冷却する方法等が挙げられる。
【0062】
本発明においては、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率を向上させるため、上記(ii)に示す温度差Δ2(TR-TE)となるように、導出口における生成ガスの温度TEを設定することができる。
【0063】
当該温度差Δ2(TR-TE)は、300℃以上である限りにおいて特に限定されないが、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率をより一層向上させる観点から、好ましくは400℃以上、より好ましくは460℃以上、480℃以上、500℃以上、520℃以上、540℃以上、560℃以上、580℃以上、又は600℃以上、更に好ましくは610℃以上、630℃以上、650℃以上、670℃以上、690℃以上、又は710℃以上、一層好ましくは730℃以上、750℃以上、又は770℃以上が挙げられる。当該温度差Δ2(TR-TE)は、その上限においても特に限定されないが、例えば1000℃以下、900℃以下、又は850℃以下が挙げられる。
【0064】
なお、上記(i)の制御を行うためには、Δ2(TR-TE)を、好ましくは460℃以上、480℃以上、500℃以上、520℃以上、540℃以上、560℃以上、580℃以上、又は600℃以上、より好ましくは610℃以上、630℃以上、650℃以上、670℃以上、690℃以上、又は710℃以上、さらに好ましくは730℃以上、750℃以上、又は770℃以上に設定することができる。また、Δ1(TR-TI)をより大きく制御するために、Δ2(TR-TE)をより大きく設定することができる。
【0065】
温度TEの具体例としては、例えば20℃以上250℃未満が挙げられる。当該温度範囲(20℃以上250℃未満)の上限としては、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下、一層好ましくは90℃以下、85℃以下、又は80℃以下が挙げられ、下限としては、30℃以上、40℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃、65℃以上、70℃、又は75℃以上も挙げられる。
【0066】
なお、上記(i)の制御を行うためには、温度TEを、好ましくは50℃以上、55℃以上、60℃、65℃以上、70℃、又は75℃以上に設定することができ、また、Δ1(TR-TI)をより大きく制御するために、温度TEをより高く設定することができる。
【0067】
[6-3.分解生成物]
分解反応の生成物である低分子フッ素化合物は、原料であるフッ素樹脂から生じた、当該フッ素樹脂よりも低分子量の化合物であり、通常複数種の化合物が含まれる。本発明によれば、生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマーの選択率が高い(つまり、生成する低分子フッ素化合物に対して、フッ素樹脂の構成モノマーが占める比率が高い)。
【0068】
生成する低分子フッ素化合物のうち、目的とするフッ素樹脂の構成モノマーについては、原料であるフッ素樹脂のポリマー構成に応じて定まる。具体的には、フッ素樹脂の構成モノマーとしては、一般式CF2=CF-Rd
f[式中、Rd
fは、F、又は1~10個、好ましくは1~5個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基を表す。]で表される化合物が挙げられ、好ましくは、テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)が挙げられる。フルオロオレフィンの他の具体例としては、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、パーフルオロビニルエーテル、パーフルオロアリルエーテルが挙げられる。
【0069】
生成する低分子フッ素化合物のうち、フッ素樹脂の構成モノマー以外の化合物としては、上記のフッ素樹脂の構成モノマーまで分解が進まなかった重合度の低い重合物(ダイマー、トリマー又はそれ以上の重合度のオリゴマーであって、温度TEで気体であるもの)、及び上記のフッ素樹脂の構成モノマーがさらに副反応を起こして生じた副生成物(例えば、オクタフルオロシクロブタンなど)その他の副生成物が挙げられる。
【0070】
生成物である低分子フッ素化合物(生成ガス)は、気流によって反応容器の導出口から導出され、回収される。回収方法としては、生成ガスを適宜冷却及び/又は濃縮すればよい。
【0071】
分解工程中は、フッ素樹脂を含む材料の追加供給を行わなくてもよいし(すなわちバッチプロセスであってもよいし)、フッ素樹脂を連続的又は断続的に追加供給してもよい。
【実施例0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0073】
図3に示す連続槽型反応容器の反応容器1bを用意した。円筒状反応容器1bに、所定の粒径dのマイクロ波吸収体及びフッ素樹脂(PTFEつまりテトラフルオロエチレンのホモポリマー)を含む材料の粒子を含むマイクロ波吸収体含有層2を所定の高さh(cm)で設けた。フッ素樹脂を含む材料の粒子のサイズは20μm、フッ素樹脂を含む材料の粒子1重量部に対するマイクロ波吸収体の使用量は20~40重量部であった。
【0074】
キャリアガス(窒素)3を、導入口1Iから所定のキャリアガス温度TI及び所定の導入速度Rで導入し、攪拌子(図示せず)で攪拌しながら、マイクロ波発生器(図示せず)により、マイクロ波吸収体含有層2中のマイクロ波吸収体を所定の温度TRに加熱し、発生ガスの導出口1E(具体的には導出口1Eの開口中心である点Pe)における温度TEを測定した。なお、温度TRは、反応容器の外周に容器外径の20%の厚みとなるようにセラミックウールで囲むことで反応容器を断熱し、反応容器の側面側から、マイクロ波吸収体含有層2の高さh方向の中央位置における温度を、非接触温度計を用いて測定した。導出口1Eから生成ガスを回収し、組成分析結果から主要3成分における質量分率を導出した。設定した諸条件及び生成ガスの組成分析結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
表1に示されるとおり、実施例1~3によれば、生成する低分子フッ素化合物のうち、副生成物(HFP、C318)の比率が極めて低く、フッ素樹脂(TFEのホモポリマー)の構成モノマー(TFE)の選択率が極めて高いことが認められた。なお、生成ガスの構成成分は、TFE、HFP及びC138、並びに他の生成物からなり、実施例1~3のいずれにおいても、当該構成成分のうち、ガスクロマトグラフ(検出器FID:FlameIonization Detector)のエリア値の約95%以上が、TFE、HFP及びC138で占められており、かつ、実施例1~3の間で、生成ガスに対して残りの他の生成物が占める割合が同等であることも確認した。