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特開2024-159190半導体光素子、これを用いた計測装置と光源装置、及び半導体光素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159190
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】半導体光素子、これを用いた計測装置と光源装置、及び半導体光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/32 20060101AFI20241031BHJP
   H01S 5/22 20060101ALI20241031BHJP
   H01S 5/12 20210101ALI20241031BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20241031BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20241031BHJP
   H01S 5/50 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
H01S5/32
H01S5/22
H01S5/12
H01S5/022
H01S5/14
H01S5/50 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075029
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雅彦
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AA15
5F173AB13
5F173AB33
5F173AF15
5F173AF18
5F173AF35
5F173AF38
5F173AF55
5F173AF58
5F173AH40
5F173AJ35
5F173AL03
5F173AL04
5F173AL13
5F173AL14
5F173AP54
5F173AP82
5F173AQ03
5F173AR23
5F173MA10
5F173MF04
5F173MF40
(57)【要約】
【課題】間接遷移型半導体を用いた半導体光素子とその作製方法を提供する。
【解決手段】半導体光素子は、第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、第1導電型不純物を第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、第2導電型不純物を第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、をこの順で備える。第3間接遷移型半導体部と、第4間接遷移型半導体部とは接している。第1濃度は、第2濃度よりも高い。第3濃度は、第4濃度よりも高い。第5濃度は、第4濃度よりも高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、
第1導電型不純物を第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、
をこの順に備え、
前記第3間接遷移型半導体部と、前記第4間接遷移型半導体部と、が接しており、
前記第1濃度は、前記第2濃度よりも高く、
前記第3濃度は、前記第4濃度よりも高く、
前記第5濃度は、前記第4濃度よりも高い、
半導体光素子。
【請求項2】
前記第3間接遷移型半導体部の厚さは、10nm以上1500nm以下である、
請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記第3濃度は、前記第4濃度の10倍以上1000倍以下である、
請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項4】
第1導電型はn型であり、
第2導電型はp型であり、
前記第1濃度は前記第5濃度よりも高い、
請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項5】
ピーク波長が1100nm以上4000nm以下である光を発する、請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記第4間接遷移型半導体部の少なくとも一部と前記第5間接遷移型半導体部とが積層されたリッジを有し、前記第3間接遷移型半導体部は前記リッジの下方に位置する、
請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記リッジの幅は、前記第5間接遷移型半導体部の側から前記第1間接遷移型半導体部へ向かうにつれて広がる、
請求項6に記載の半導体光素子。
【請求項8】
前記第1間接遷移型半導体部と前記第2間接遷移型半導体部の少なくとも一方に、周期的に設けられた複数の溝または複数の空隙を有し、
前記複数の溝または前記複数の空隙は、少なくとも第1方向に並び、
前記第1方向は、前記半導体光素子の共振方向と沿う、
請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項9】
前記第3間接遷移型半導体部は、第1領域と第2領域とを有し、
前記第4間接遷移型半導体部は、第3領域と第4領域とを有し、
前記第3間接遷移型半導体部と前記第4間接遷移型半導体部は、前記第1領域と前記第3領域で接し、
前記第1領域は、前記第2領域と比較して、原子配列が不規則であり、
前記第3領域は、前記第4領域と比較して、原子配列が不規則である、
請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の半導体光素子と、
前記半導体光素子から発せられる光の反射光を検出する受光素子を含む、計測装置。
【請求項11】
第1ミラーと、
第2ミラーと、
前記第1ミラーおよび前記第2ミラーとの間に配置される請求項1から9のいずれか1項に記載の半導体光素子と、
を含む光源装置。
【請求項12】
第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、
前記第1間接遷移型半導体部の上に設けられ、第1導電型不純物を前記第1濃度よりも低い第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、
前記第2間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、
を含む第1構造体を準備することと、
第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、
前記第5間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を前記第3濃度および前記第5濃度よりも低い第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、
を含む第2構造体を準備することと、
前記第1構造体の前記第3間接遷移型半導体部と、前記第2構造体の前記第4間接遷移型半導体部を対向させて、前記第3間接遷移型半導体部と前記第4間接遷移型半導体部を直接接合することと、
を含む半導体光素子の製造方法。
【請求項13】
前記第3間接遷移型半導体部は、前記第2間接遷移型半導体部において、前記第1間接遷移型半導体部が設けられた面とは反対側の前記第2間接遷移型半導体部の面にイオン打ち込みをすることで得る、
請求項12に記載の半導体光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体光素子、これを用いた計測装置と光源装置、及び半導体光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザダイオード、発光ダイオード等の発光素子は、一般的には発光効率が高い直接遷移型半導体で作製される。一方で、シリコン等の間接遷移型半導体は、発光効率が低く発光素子には不向きとされている。電子デバイスの多くはシリコン(Si)で作製されており、間接遷移型半導体で作製される発光素子の実現が望まれている。間接遷移型半導体を用いて、上から順に、高濃度p層、低濃度p層、pn接合層、低濃度n層、高濃度n層が積層された発光素子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。この層構成で、不純物が添加されていないi層を各層に挿入することでキャリアの移動度を高くすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-092075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
間接遷移型半導体においても発光効率の向上が求められている。本発明の一つの側面では、間接遷移型半導体を用いた発光効率が高い半導体光素子とその作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一つの実施形態において、半導体光素子は、
第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、
第1導電型不純物を第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、
をこの順に備え、
前記第3間接遷移型半導体部と、前記第4間接遷移型半導体部とが接しており、
前記第1濃度は、前記第2濃度よりも高く、
前記第3濃度は、前記第4濃度よりも高く、
前記第5濃度は、前記第4濃度よりも高い。
【0006】
また、本開示の一つの実施形態において、半導体光素子の製造方法は、
第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、
前記第1間接遷移型半導体部の上に設けられ、第1導電型不純物を前記第1濃度よりも低い第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、
前記第2間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、
を含む第1構造体を準備することと、
第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、
前記第5間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を前記第3濃度および前記第5濃度よりも低い第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、
を含む第2構造体を準備することと、
前記第1構造体の前記第3間接遷移型半導体部と、前記第2構造体の前記第4間接遷移型半導体部を対向させて、前記第3間接遷移型半導体部と前記第4間接遷移型半導体部を直接接合することと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
間接遷移型半導体を用いた発光効率が高い半導体光素子とその作製方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の半導体光素子のYZ面内の断面構成例を示す図である。
図2】共振方向と直交するXZ面内の断面構成例を示す図である。
図3】共振方向と直交するXZ面内の別の断面構成例を示す図である。
図4A】共振方向に沿ったYZ面内の断面構成例を示す図である。
図4B】共振方向に沿ったYZ面内の別の断面構成例を示す図である。
図5A】半導体光素子の変形例の模式図である。
図5B】半導体光素子の別の変形例の模式図である。
図5C】半導体光素子の別の変形例の模式図である。
図6A】半導体光素子の作製工程図である。
図6B】半導体光素子の作製工程図である。
図6C】半導体光素子の作製工程図である。
図6D】半導体光素子の作製工程図である。
図6E】半導体光素子の作製工程図である。
図6F】半導体光素子の作製工程図である。
図7】半導体光素子のさらに別の変形例の模式図である。
図8】半導体光素子を用いた光源装置の模式図である。
図9】半導体光素子を用いた計測装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。以下の説明は、本開示の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示を以下の記載に限定するものではない。各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後に示す実施形態では、先に示した実施形態と異なる事項について主に説明し、先に示した実施形態と共通の事柄については、重複する説明を省略することがある。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合がある。
【0010】
従来、シリコン等の間接遷移型半導体は、発光材料としては不向きとされている。一方で、近年、ナノメートルサイズの寸法を有する物質の近傍に生じる近接場光の一種であるドレスト光子や、ドレスト光子とコヒーレントフォノンが結合したドレスト光子フォノン(DPP:Dressed Photon Phonon)を利用することで、間接遷移型半導体を発光させる技術が提案されている。発明者は、間接遷移型半導体を発光させることを検討した。例えば、M. Nedeljkovic et al., IEEE Photon. J. 3(6), 1171-1180(2011).では、シリコンは、1550nmの波長において、吸収係数の変化率Δαおよび屈折率の変化率Δnが、
Δα=8.88×10-21Ne 1.167+5.84×10-20Nh 1.109
Δn=-5.40×10-22Ne 1.011-1.53×10-18Nh 0.838
であることが提案されている。Neは自由電子密度であり、Nhは自由ホール密度である。これは、不純物濃度が高いほど吸収係数は大きくなり、かつ屈折率が小さくなることを意味している。発明者は、このことに着目し、光閉じ込め構造を形成することで間接遷移型半導体の発光効率を向上させる構成の着想を得た。
【0011】
図1は、実施形態の半導体光素子10の模式図である。半導体光素子10は、第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部11と、第1導電型不純物を第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部12と、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部13と、第2導電型不純物を第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部14と、第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部15と、をこの順で備える。第3間接遷移型半導体部13と、第4間接遷移型半導体部14とは接している。第1濃度は、第2濃度よりも高い。第3濃度は、第4濃度よりも高い。第5濃度は、第4濃度よりも高い。これにより、第1間接遷移型半導体部11と第5間接遷移型半導体部15をクラッドとし、第2間接遷移型半導体部12と、第3間接遷移型半導体部13と、第4間接遷移型半導体部14と、をコアとする光閉じ込め構造を形成することができるので、この光閉じ込め構造によって光を増幅することができ、半導体光素子が効率よく発光する。
【0012】
第1間接遷移型半導体部11、第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、第4間接遷移型半導体部14、及び第5間接遷移型半導体部15で、積層構造300が形成される。ここで、「間接遷移型半導体部」と呼ぶのは、各部が層である場合も、基板である場合も含む意図である。間接遷移型半導体部の材料として、Si、Ge、Si-Ge、ダイヤモンド(C)等を用いてもよい。第1導電型と第2導電型は、どちらか一方をn型とし、他方をp型とする。図1の例では、第1導電型をn型、第2導電型をp型とする。
【0013】
第1間接遷移型半導体部11は、第1導電型不純物を第1濃度で含む。第1導電型不純物は、たとえば、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)など、用いられる間接遷移型半導体材料に対してドナー準位を形成するn型不純物であってよい。第1濃度は、たとえば、1.0×1019cm-3以上、5.0×1019cm-3以下の濃度である。また、第1間接遷移型半導体部11は、n型不純物を第1濃度で含む間接遷移型半導体基板であってもよい。特に、第1間接遷移型半導体部11は、n型不純物を含むSi基板であってもよい。
【0014】
第2間接遷移型半導体部12は、第1間接遷移型半導体部11の上に設けられ、第1導電型不純物を第2濃度で含む。第2間接遷移型半導体部12は、n型不純物を、第1間接遷移型半導体部11よりも低い濃度で含む。これにより、第2間接遷移型半導体部12の屈折率を第1間接遷移型半導体部11の屈折率よりも大きくすることができる。第2濃度は、たとえば1.0×1016cm-3以上、5.0×1016cm-3以下の濃度である。
【0015】
第3間接遷移型半導体部13は、第2間接遷移型半導体部12の上に設けられ、第2導電型不純物を第3濃度で含む。第2導電型不純物は、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等のp型不純物であってよい。第3濃度は後述する第4濃度よりも高い。これにより、発光に寄与する第2導電型不純物を増やすことができる。第3濃度は、たとえば、1.0×1017cm-3以上、5.0×1019cm-3以下の濃度である。p型不純物は、後述するように活性化されていない状態で含まれる。
【0016】
第4間接遷移型半導体部14は、第3間接遷移型半導体部13の上に設けられる。第3間接遷移型半導体部13と第4間接遷移型半導体部14は互いに接している。第4間接遷移型半導体部14は、用いられる間接遷移型半導体材料に対してアクセプタ準位を形成するp型不純物を、第3濃度よりも低い第4濃度で含む。第4間接遷移型半導体部14のp型不純物濃度(第4濃度)は、たとえば1.0×1016cm-3以上5.0×1016cm-3以下である。第3濃度は、第4濃度の10倍以上1000倍以下である。第3間接遷移型半導体部13のp型不純物が第4間接遷移型半導体部14のp型不純物と比べて高い濃度で含まれることで、第3間接遷移型半導体部13において、発光に寄与する第2導電型不純物を増やすことができる。
【0017】
第5間接遷移型半導体部15は、第4間接遷移型半導体部14の上に設けられ、p型不純物を第4濃度よりも高い第5濃度で含む。これにより、第5間接遷移型半導体部15の屈折率を第4間接遷移型半導体部14の屈折率よりも小さくすることができる。第5間接遷移型半導体部15のp型不純物濃度は、たとえば1.0×1019cm-3以上5.0×1019cm-3以下である。
【0018】
第1間接遷移型半導体部11は、第2間接遷移型半導体部12よりも電気抵抗率が低く、屈折率が低い。第5間接遷移型半導体部15は、第4間接遷移型半導体部14よりも電気抵抗率が低く、屈折率が低い。第1間接遷移型半導体部11と第5間接遷移型半導体部15は、第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、及び第4間接遷移型半導体部14に対して、クラッドとして機能する。
【0019】
第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、及び第4間接遷移型半導体部14は、全体として、第1間接遷移型半導体部11と第5間接遷移型半導体部15よりも電気抵抗率が高く、また、屈折率が高く、コアとして機能する。したがって、第1間接遷移型半導体部11、第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、第4間接遷移型半導体部14、および第5間接遷移型半導体部15を備える半導体光素子10は、コアとクラッドによる光閉じ込め構造を有する。
【0020】
n型不純物が添加された間接遷移型半導体は、p型よりも屈折率の差がつきにくいので、第1間接遷移型半導体部11のn型不純物濃度を、第5間接遷移型半導体部15のp型不純物濃度よりも高く設定してもよい。これにより、コアとクラッドとの屈折率の差を大きくして、効率よく光をコアに閉じ込めることができる。同様に、第2間接遷移型半導体部12のn型不純物濃度を、第4間接遷移型半導体部14のp型不純物濃度よりも高く設定してもよい。
【0021】
n型の第2間接遷移型半導体部12と、p型の第4間接遷移型半導体部14の間に、第4間接遷移型半導体部14のp型不純物の濃度よりもp型不純物を高い濃度で含む第3間接遷移型半導体部13を設けるのは、発光に寄与する第2導電型不純物を増やすためである。この発光は、例えば、DPPを利用したものであってよい。p型不純物はDPPの発生源となるナノ物質として用いられ得る。上述のように、DPPとは、光子と電子正孔対が結合したドレスト光子が、振動の位相がそろったコヒーレントフォノンとさらに結合したものであるとされる。DPPを利用することで、伝導帯の下端と価電子帯の上端との間にDPPに由来するエネルギー準位が形成される。これにより、Siのバンドギャップで決まる波長よりも長波長側での発光が促される。
【0022】
第3間接遷移型半導体部13の厚さは第4間接遷移型半導体部14の厚さよりも薄いほうが好ましい。第3間接遷移型半導体部13は、DPPの発生源として用いることができる一方で、光の吸収源となり得る。第3間接遷移型半導体部13の厚さが第4間接遷移型半導体部14の厚さよりも薄いことで、光の吸収を低減し、半導体光素子10Aからの光取り出し効率を向上させることができる。第3間接遷移型半導体部13の厚さは、10nm以上1500nm以下である。
【0023】
第1間接遷移型半導体部11の裏面に電極16を設け、第5間接遷移型半導体部15の上面に電極17を設けて、図1の半導体光素子10に電流を注入すると、上述したDPPの作用で、ピーク波長が1100nm以上4000nm以下の、近赤外から中赤外領域にかけての光が出射される。ピーク波長は、1300nm以上2000nm以下であってもよい。DPPを利用した発光波長は、DPP発生源となる原子(ナノ粒子)の間隔で決まる。1100nm以上4000nm以下のピーク波長で発光させるときのBの濃度は、1.0×1016cm―3以上5.0×1019cm―3以下である。Bの濃度が低いほど、すなわち局在するB原子同士の間隔が広いほど長波長側にシフトする。たとえば、1.0×1019cm―3程度のB濃度で、ピーク波長1300nm前後の光が放出される。
【0024】
図2は、半導体光素子10Aの共振方向と直交するXZ面内の断面構成例を示す。図2の座標系で、半導体光素子10Aの共振方向をY方向とする。半導体光素子10Aは図1に示した積層構造300と同じ積層構造を有し、水平方向(X方向)に光を閉じ込めるリッジ20Aを有する。リッジ20Aは、第4間接遷移型半導体部14の少なくとも一部と、第5間接遷移型半導体部15で形成されており、第3間接遷移型半導体部13は、リッジ20Aの下方に位置する。これにより、水平方向において屈折率の差を制御することができるので、横モードを制御することができる。リッジ20AのX方向の幅は、第5間接遷移型半導体部15から第1間接遷移型半導体部11に向かうにつれて広がっていてもよい。これにより、リッジ20Aの側面に設けられる保護膜を形成しやすくなる。
【0025】
第1間接遷移型半導体部11の裏面にn側の電極16を設けられ、リッジ20Aの上面にp側の電極17が設けられる。保護膜18は、電極17の表面を露出した状態で、リッジ20Aの側面と第4間接遷移型半導体部14の表面を覆う。
【0026】
電極16と17を用いて半導体光素子10Aに電流を注入すると、n型の第2間接遷移型半導体部12と、第4間接遷移型半導体部14よりも不純物濃度の高いp型の第3間接遷移型半導体部13との界面で、DPPを介した再結合により光が発生する。光は、垂直方向(Z方向)には、第1間接遷移型半導体部11と第5間接遷移型半導体部15によって閉じ込められ、水平方向にはリッジ20Aにより形成された屈折率差に応じて形成される光導波路内に閉じ込められる。第4間接遷移型半導体部14において、リッジ20Aにより膜厚が大きくなっている部分で、光が感じる実効的な屈折率が大きくなり、X方向でリッジ20Aの直下にある活性層の付近に光が閉じ込められる。この構成を「実効屈折率導波型」と呼んでもよい。
【0027】
図2の構成は、リッジ20Aを形成する際のエッチングの量が少なく、リッジ20Aの側面の平坦性が確保しやすいという利点をもつ。
【0028】
図3は、半導体光素子10Bの共振方向と直交するXZ面内の別の断面構成例を示す。図3の座標系で、半導体光素子10Aの共振方向をY方向とする。半導体光素子10Bは図1に示した積層構造300と同じ積層構造を有し、水平方向(X方向)に光を閉じ込めるリッジ20Bを有する。リッジ20Bは、第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、第4間接遷移型半導体部14、及び第5間接遷移型半導体部15で形成されている。n型の第2間接遷移型半導体部12と、第4間接遷移型半導体部14よりも濃度が高いp型の第3間接遷移型半導体部13との界面は、リッジ20Bの内部に位置する。
【0029】
第1間接遷移型半導体部11の裏面にn側の電極16を設け、リッジ20Bの上面にp側の電極17を設けられる。保護膜18は、電極17の表面を露出した状態で、リッジ20Bの側面と第1間接遷移型半導体部11の表面を覆う。
【0030】
図3の構成では、第2間接遷移型半導体部12と第3間接遷移型半導体部13の界面でDPPを介した再結合により発生された光は、水平方向(X方向)、垂直方向(Z方向)ともに、リッジ20B内に閉じ込められて共振方向(Y方向)に伝搬する。この構成を、「完全屈折率導波型」と呼んでもよい。この構成は、光損失を低減できるという利点がある。
【0031】
図4Aは、半導体光素子10Cの共振方向(Y方向)に沿ったYZ面内の断面構成例を示す。半導体光素子10Cは、図1の半導体光素子10の積層構造300と同じ積層構造を有し、共振方向(Y方向)と直交する一方の端面に誘電体多層ミラー19を有する。たとえば、誘電体多層ミラー19の反射率が、誘電体多層ミラー19が設けられている端面と反対側の端面の反射率よりも高ければ、光Lは矢印の方向に出射される。誘電体多層ミラー19は、高屈折率の層と低屈折率の層が交互に配置されている。各層の膜厚は、各層の界面で反射された光が干渉で強め合うように設定されており、波長選択性を有する。誘電体多層ミラーの材料の組み合わせは、例えば、SiO2とTiO2、SiO2とSi、SiO2とSiNなどであってよい。
【0032】
誘電体多層ミラー19は、真空蒸着、スパッタ等の物理成長法で形成されてもよいし、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、等で形成されてもよい。誘電体多層ミラー19と反対側の端面は、劈開面であってもよい。第1間接遷移型半導体部11から第5間接遷移型半導体部15がシリコン単結晶またはシリコンのエピタキシャル成長膜である場合、(110)面、または(111)面が劈開面となる。劈開面は反射面として用いられる。
【0033】
図4Bは、半導体光素子10Dの共振方向(Y方向)に沿ったYZ面内の別の断面構成例を示す。半導体光素子10Dは、図1の半導体光素子10の積層構造300と同じ積層構造を有し、共振方向(Y方向)と直交する一方の端面に誘電体多層ミラー19を、他方の端面に高反射膜21を有する。高反射膜21は、誘電体多層ミラーであってよい。高反射膜21は、95%以上の反射率、好ましくは98%以上の反射率、より好ましくは100%に近い反射率を有する。図4Bは、高反射膜21の反射率が誘電体多層ミラー19の反射率よりも高い場合を示している。この場合、光Lは誘電体多層ミラー19側から取り出される。高反射膜21が形成される端面は、劈開面であってもエッチング面であってもよい。エッチング面の場合は、研磨後に高反射膜21が形成されてもよい。
【0034】
図5Aは、半導体光素子10の変形例である半導体光素子10Eの模式図である。半導体光素子10の第1間接遷移型半導体部11と第2間接遷移型半導体部12の少なくとも一方に、周期的に設けられた複数の溝または複数の空隙を含む。複数の溝または複数の空隙は少なくとも第1方向に並び、第1方向は少なくとも半導体光素子10の共振方向(Y方向)に沿う。図5Aの半導体光素子10Eでは、第1間接遷移型半導体部11に、複数の周期的な溝または空隙(以下、単に「溝201」と呼ぶ)が形成されている。
【0035】
溝201の内部は空気であってもよいし、第1間接遷移型半導体部11よりも屈折率の低い材料が充填されていてもよい。共振方向(Y方向)に沿って周期的に並ぶ溝201によって回折格子が形成される。クラッドとして機能する第1間接遷移型半導体部11と、コアの一部として機能する第2間接遷移型半導体部12の界面に、屈折率が空間的にある周期で変調された周期構造が形成される。この回折格子で選択される波長の光がコア内に戻り、強め合って、該波長でレーザ発振する。λを真空での波長、また、neffを実効屈折率とするとき、溝201の周期は(i)λ/(2×neff)または(ii)λ/neffであってよい。言い換えると、溝201の周期が決まると、(i)または(ii)の関係を満たす波長で発振する。溝201の周期が(i)であり、かつ周期の方向が1次元的(Y方向)であるときレーザ光はY方向に発振する。また、溝201の周期が(ii)であり、かつ周期の方向が2次元的(X方向とY方向)であるとき、レーザ光はZ方向に発振する。
【0036】
図5Bは、半導体光素子10の変形例である半導体光素子10Fの模式図である。半導体光素子10Fでは、第2間接遷移型半導体部12に、複数の周期的な溝201が形成されている点が半導体光素子10Eと異なる。第1間接遷移型半導体部11よりも第3間接遷移型半導体部13に近い第2間接遷移型半導体部12に溝201が形成されることで、光が屈折率の周期的な変化を感じやすく、波長選択性を高めることができる。他の事項は図5Aを参照して説明した事項と同じである。
【0037】
図5Cは、半導体光素子10の変形例である半導体光素子10Gの模式図である。半導体光素子10Gでは、第1間接遷移型半導体部11と第2間接遷移型半導体部12にわたって、複数の周期的な溝201が形成されている点が半導体光素子10Eと異なる。他の事項は同じである。共振方向(Y方向)に沿って周期的に並ぶ溝201によって回折格子が形成さる。これにより、第1間接遷移型半導体部11よりも第2間接遷移型半導体部12に効率的に光を閉じ込めることができる。また、第1間接遷移型半導体部11による光の吸収を低減することができる。また、第1間接遷移型半導体部11よりも第3間接遷移型半導体部13に近い第2間接遷移型半導体部12にも溝201が形成されることで、光が屈折率の周期的な変化を感じやすく、波長選択性を高めることができる。
【0038】
以上、実施形態に係る半導体光素子10A乃至10Gは、例えば、半導体レーザ素子、半導体光増幅器、またはMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)などに使用できる。
【0039】
<半導体光素子の製造方法>
図6Aから図6Fは、半導体光素子の製造工程図である。第1間接遷移型半導体部11、第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、第4間接遷移型半導体部14、及び第5間接遷移型半導体部15を含む積層構造300の形成までは、半導体光素子10A~10Gまで共通である。共振(Y)方向と直交するXZ面内の断面形状として、図2の半導体光素子10Aの断面形状をもつ素子を作製する。
【0040】
半導体光素子の製造工程は、第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、前記第1間接遷移型半導体部の上に設けられ、第1導電型不純物を前記第1濃度よりも低い第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、前記第2間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、を含む第1構造体を準備することと、第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、前記第5間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を前記第3濃度および前記第5濃度よりも低い第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、を含む第2構造体を準備することと、前記第1構造体の前記第3間接遷移型半導体部と、前記第2構造体の前記第4間接遷移型半導体部を対向させて、前記第3間接遷移型半導体部と前記第4間接遷移型半導体部を直接接合することと、を含む。これにより、光閉じ込め構造が形成されるので、効率よく発光する半導体光素子を得ることができる。
【0041】
(第1構造体を準備する工程)
まず、第1構造体100を準備する。第1構造体100は、第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部11と、第1間接遷移型半導体部11の上に設けられ、第1導電型不純物を前記第1濃度よりも低い第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部12と、第2間接遷移型半導体部12の上に設けられ、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部13と、を含む。第1構造体100は、図6Aおよび図6Bを参照して説明するような手順で形成することができる。
【0042】
まず、図6Aに示すように、第1間接遷移型半導体部11の上に、第2間接遷移型半導体部12を形成する。第1間接遷移型半導体部11は、第1導電型不純物を第1濃度で含む。第1濃度は、たとえば1.0×1019cm-3以上、5.0×1019cm-3以下である。第1間接遷移型半導体部11は、たとえば、間接遷移型半導体基板または間接遷移型半導体層であってよく、間接遷移型半導体基板が好ましい。間接遷移型半導体基板は、たとえば、チョクラルスキー(CZ)法または浮遊帯溶融法(FZ法)により形成される。第1導電型不純物はイオン打ち込み(ion implantation)により導入してもよい。また、イオン打ち込みの後に、熱アニールを施し、イオン打ち込みによるダメージを回復させてもよい。また。間接遷移型半導体層は、たとえば、化学気相成長(CVD)法または分子線エピタキシー(MBE)法で形成してもよい。この第1間接遷移型半導体部11の厚さは、たとえば、300μm以上600μm以下である。
【0043】
第2間接遷移型半導体部12は、第1導電型不純物を第2濃度で含む。第2濃度は第1濃度よりも低い。第2濃度は、たとえば1.0×1016cm-3以上、5.0×1016cm-3以下である。第2間接遷移型半導体部12として、第1間接遷移型半導体部11に間接遷移型半導体基板を接合してもよく、または間接遷移型半導体層を形成してもよい。好ましくは、第2間接遷移型半導体部12は間接遷移型半導体層である。第2間接遷移型半導体部12は、半導体光素子のコアの一部をなすため、第1間接遷移型半導体部11と比べて薄い。したがって、第2間接遷移型半導体部12として間接遷移型半導体層を形成するほうが、厚さの制御が行いやすい。第2間接遷移型半導体部はCVD法またはMBE法で形成してよい。第2間接遷移型半導体部12の厚さは、たとえば、1μm以上3μm以下である。
【0044】
次に、図6Bに示すように、この第2間接遷移型半導体部12の上に、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部13を形成する。第3濃度は、たとえば、1.0×1017cm-3以上、5.0×1019cm-3以下である。第3間接遷移型半導体部13は、第2間接遷移型半導体部12において、第1間接遷移型半導体部11に接する面と反対側の面にイオン打ち込みをして、第3間接遷移型半導体部13を形成する。イオン打ち込みをする際の加速エネルギーは、例えば10keV以上1000keV以下であってよい。注入されるイオンは第2間接遷移型半導体部12の表面から1500nm以下程度まで侵入し得る。たとえば、Bイオンを注入することで、第2間接遷移型半導体部12の表面に、p型Si層が形成される。たとえば、10keVの注入エネルギーで、厚さ40nm以上60nm以下のp型Si層が形成される。p型Si層のBイオン濃度は、たとえば1.0×1019cm―3である。
【0045】
このようなイオン打ち込みにより、第1間接遷移型半導体部11と、第1間接遷移型半導体部よりも不純物濃度が低い第2間接遷移型半導体部12と、第2間接遷移型半導体部12よりも高い不純物濃度でBを含む第3間接遷移型半導体部13とを含む第1構造体100が得られる。
【0046】
(第2構造体を得る工程)
次に、第2構造体200を準備する。第2構造体200は、第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部25と、第5間接遷移型半導体部25の上に設けられ、第2導電型不純物を第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部14と、を含む。第4濃度は、第3濃度および第5濃度よりも低い。
【0047】
まず、図6Cに示すように、第5間接遷移型半導体部25の上に、第4間接遷移型半導体部14を形成する。第5間接遷移型半導体部25は、第2導電型不純物を第5濃度で含む。第5濃度は、たとえば1.0×1018cm-3以上、5.0×1019cm-3以下である。第5間接遷移型半導体部15は、間接遷移型半導体基板であってもよく、間接遷移型半導体層であってもよい。第5間接遷移型半導体部15としては、間接遷移型半導体基板が好ましい。第5間接遷移型半導体部15は、CZ法、FZ法、CVD法、またはMBE法などで形成されてよい。第5間接遷移型半導体部の厚さは、例えば300μm以上600μm以下である。
【0048】
第4間接遷移型半導体部14は、第2導電型不純物を第4濃度で含む。第4濃度は、第3濃度および第5濃度よりも低い。第4濃度は、たとえば1.0×1016cm-3以上、1.0×1017cm-3以下である。第4間接遷移型半導体部14は、第5間接遷移型半導体部25に間接遷移型半導体基板を接合して得てもよく、または間接遷移型半導体層を形成してもよい。第4間接遷移型半導体部14は、間接遷移型半導体層が好ましい。第4間接遷移型半導体部14は、半導体光素子のコアの一部をなすため、第5間接遷移型半導体部25と比べて薄い。したがって、第4間接遷移型半導体部14として間接遷移型半導体層を形成するほうが、厚さの制御が行いやすい。第4間接遷移型半導体部はCVD法またはMBE法で形成してよい。第4間接遷移型半導体部14の厚さは、たとえば、1μm以上3μm以下である。図6B図6Cの工程の順序は逆であってもよいし、同時に行われてもよい。
【0049】
(直接接合する工程)
次に、図6Dに示すように、第1構造体100の第3間接遷移型半導体部13と、第2構造体200の第4間接遷移型半導体部14とを対向させて、第1構造体100と第2構造体200を、直接接合により一体化する。これにより、第1導電型の第2間接遷移型半導体部12と、第2導電型の第4間接遷移型半導体部14の間に、第2導電型不純物を第4間接遷移型半導体部14よりも高い濃度で含む第3間接遷移型半導体部13が設けられる。
【0050】
第1構造体100と第2構造体200の一体化は、意図的な熱を加えずに、第3間接遷移型半導体部13の表面と、第4間接遷移型半導体部14の表面と、を直接接合する。この場合、第3間接遷移型半導体部13から第4間接遷移型半導体部14への第2導電型不純物の拡散はほとんど生じない。したがって、第3間接遷移型半導体部13に含まれる第2導電型不純物が熱によって安定な分布をとらず、発光に寄与する第2導電型不純物が減少しにくい。第3間接遷移型半導体部13の不純物濃度が第2間接遷移型半導体部12および第4間接遷移型半導体部14の不純物濃度よりも高いので、発光に寄与する不純物の割合を増やすことができる。後述する光導波路および共振器を形成することで、生成される光を増幅させて、発光効率を高めることができる。
【0051】
なお、「直接接合」とは、接着剤等の中間部材を介することなく接合する方法を指す。直接接合は、例えば、表面活性化接合であってよい。表面活性化接合は、真空中で接合対象の表面を清浄化して接合面を得たあとで、真空中で接合面どうしを接触させて接合を行う方法である。ここでは、接合対象は第3間接遷移型半導体部13と第4間接遷移型半導体部14である。例えば、表面粗さ(Ra)が1nm以下にまで平坦化された接合面に高速イオンビームで照射して、接合面を得る。また、「熱をかけない」とは、意図的に熱アニールおよびDPPアニールを行わないことを意味する。接合時の温度は、たとえば、0℃以上300℃以下、好ましくは0℃以上100℃以下であってよい。熱アニールの温度は通常、800℃以上を指す。また、DPPアニールは、所定の波長の光を第1構造体100に照射しながら、第1構造体100に順方向電流を流す方法である。この方法は、ドレスト光子フォノンを利用する際に行われることがある。
【0052】
第1構造体100と第2構造体200を直接接合する観点から、一体化前の第1構造体100の第3間接遷移型半導体部13の表面領域(第1領域)は、非晶質など、不規則な原子配列をもつことが望ましい。第3間接遷移型半導体部13の表面領域以外の領域(第2領域)は、非晶質であっても、結晶質であってもよいが、第1領域は第2領域と比較して結晶配列が不規則であることが望ましい。
【0053】
同様に、一体化前の第2構造体200の第4間接遷移型半導体部14の表面領域(第3領域)は、非晶質など、不規則な原子配列をもつことが望ましい。第4間接遷移型半導体部14の表面領域以外の領域(第4領域)は、非晶質であっても、結晶質であってもよいが、第3領域は、第4領域と比較して結晶配列が不規則であることが望ましい。この一体化工程により、第3間接遷移型半導体部13において不規則な原子配列をもつ第1領域と、第4間接遷移型半導体部14において不規則な原子配列をもつ第3領域とが互いに接している。この一体化工程により、イオン打ち込みで形成したp型不純物濃度が高い第3間接遷移型半導体部13にp型不純物濃度が低い第4間接遷移型半導体部14を意図的な熱を加えずに形成することができる。
【0054】
次に、図6Eに示すように、第5間接遷移型半導体部25の厚さを薄くしてもよい。この方法は、機械研磨、化学機械研磨、またはエッチングなどであってよい。たとえば、厚さを薄くしたあとの第5間接遷移型半導体部15の厚さは1μm以上、10μm以下となるように制御される。これにより、積層構造300が得られる。たとえば、図6Eで、p型Si基板を所定の厚さ(たとえば2μm)まで研磨して、第5間接遷移型半導体部15を形成する。これにより、積層構造300が得られる。
【0055】
(リッジを形成する工程)
図6Fは、共振方向(Y方向)と直交するXZ断面構成を示す。図6Fで、第5間接遷移型半導体部15の表面にp側の電極17を、リフトオフ法等で形成する。その後、第5間接遷移型半導体部15の表面から、第4間接遷移型半導体部14の途中までエッチングしてリッジ20A(図2参照)を形成する。次に、電極17の表面を露出し、リッジの側面と第4間接遷移型半導体部14の表面を覆う保護膜18を形成する。n側の電極16は、たとえばTi/Pt/Au膜で形成されてもよい。p型の電極17は、Cr/Pt膜で形成されてもよい。保護膜18は、SiO、SiN、SiON、Al等で形成されてもよい。図6Bの第3間接遷移型半導体部13を形成する工程でDPPアニールを行っていない場合は、第1間接遷移型半導体部11の裏面に、n側の電極16を形成する。
【0056】
以上、半導体光素子の製造方法について説明した。図5A図5B、および図5Cを参照して説明したような周期的な溝201を形成する場合は、第1構造体100を形成する工程および/または第2構造体200を形成する工程において、所定の周期で溝201を形成する。溝201は、電子ビームリソグラフィーにより形成されたマスクを用いて加工対象物にパターンニングを施したあとで、ドライエッチングすることで形成することができる。
【0057】
<変形例>
図7は、半導体光素子10のさらに別の変形例である半導体光素子10Hの模式図である。半導体光素子10Hでは、基板27の上の絶縁層28の上に、基板27と水平な方向に、第1間接遷移型半導体部11、第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、第4間接遷移型半導体部14、及び第5間接遷移型半導体部15が、紙面の左からこの順で配置されている。光出射方向はY方向である。
【0058】
第1間接遷移型半導体部11は、第1導電型不純物を第1濃度で含む。第2間接遷移型半導体部12は、第1濃度よりも低い第2濃度で、第1導電型不純物を含む。第3間接遷移型半導体部13は、第2導電型不純物を第3濃度で含む。第4間接遷移型半導体部14は、第2導電型不純物を、第3濃度よりも低い第4濃度で含む。第5間接遷移型半導体部15は、第4濃度よりも高い第5濃度で、第2導電型不純物を含む。これにより、効率よく発光する半導体光素子が得られる。
【0059】
第3間接遷移型半導体部13と、第4間接遷移型半導体部14は接している。第1間接遷移型半導体部11に電極16が設けられ、第5間接遷移型半導体部15に電極17が設けられる。光照射の下で電極16と17により第1間接遷移型半導体部11から第5間接遷移型半導体部15X方向に電流が印加されると、第3間接遷移型半導体部13と第4間接遷移型半導体部14の界面でDPPが生成され、所定の波長の発光が得られる。
【0060】
図7の構成は、基板27上の絶縁層28の上に、Si等の間接遷移型半導体層を形成して、一般的なフォトリソグラフィ法で形成したマスクを用いて不純物を注入することで形成してもよい。あるいは、図6Eで得た積層構造300を積層方向と平行にスライスして絶縁層28の上に設けてもよい。
【0061】
<応用例>
図8は、半導体光素子10を用いた光源装置310の模式図である。光源装置310は、第1ミラー301と、第2ミラー302と、第1ミラー301と第2ミラー302の間に配置される半導体光素子10とを含む。これにより、外部共振器が得られる。第1ミラー301と第2ミラー302で外部共振器が構成され、半導体光素子10で生成された光は、コアとなる第2間接遷移型半導体部12、第3間接遷移型半導体部13、及び第4間接遷移型半導体部14を通って、第1ミラー301と第2ミラーの間を往復して増幅され、いずれか一方のミラー(たとえば第2ミラー302)から出力される。図8では図示の便宜上省略されているが、半導体光素子10には、図2または図3に示したように電極が設けられ、電流注入により駆動してもよい。または、電極を設けずに外部光源を用いて光励起してもよい。半導体光素子10の第1ミラー301と対向する端面、及び第2ミラー302と対向する端面に、反射防止膜が形成されていてもよい。第1ミラー301と第2ミラー302の間の距離は、発振波長の整数倍に設定されている。
【0062】
第1ミラー301と第2ミラーとして空間的に独立した光学素子を用いる替わりに、Si基板上にSi細線導波路で形成された回折格子ミラーやリングミラーを用いてもよい。この場合、Si基板上に半導体光素子10を形成し、半導体光素子10の共振方向(光軸)と直交する端面の一方に高反射膜を設けて、この高反射膜を、外部共振器を構成する一方のミラーとして用いてもよい。光源装置310に、電流印加用の電流源と、光照射用のレーザ素子を組み込んでもよい。
【0063】
図9は、半導体光素子10を用いた計測装置1の模式図である。計測装置1は、半導体光素子10と、半導体光素子10から発せられた光の反射光を検出する受光素子5とを含む。計測装置1はまた、走査ミラー3と、集光レンズ6を有する。
【0064】
半導体光素子10から出射された光は、走査ミラー3によって、対象物が存在する測距領域4へと走査される。対象物上の各走査点Aで反射された戻り光は、走査ミラー3で反射され、必要に応じて追加の光学素子を用いて集光レンズ6に導かれ、受光素子5に入射する。半導体光素子10からの光出射から、受光素子5での検出までの飛行時間に基づいて、TOF(Time of Flight)方式で対象物までの距離を測定する。各走査点Aのデータを集めることで、対象物を三次元的に捉えることができる。
【0065】
以上、特定の構成例に基づいて実施形態の半導体光素子とその製造方法を説明してきたが、本発明は上述した構成例に限定されない。上述した各構成例、変形例を、互いに組み合わせてもよい。半導体光素子10A、10Bのいずれの構成でも、波長選択用の溝201を設けてもよい。なお、半導体光素子は、駆動の過程で自発的にDPPアニールが生じてもよい。実施形態では、DPPを一例に挙げて半導体光素子の発光の原理を説明した。しかし、発光の原理はDPPに限られない。半導体光素子の発光の原理は、例えば、不純物準位を介する発光や、欠陥や転位に由来する準位を介する発光であってもよい。
【0066】
図6Bで、第2間接遷移型半導体部12の表面にp型Si層を形成する際のイオン打ち込みのエネルギーは、上述したレベルに限定されず、目標とする第3間接遷移型半導体部13の厚さに応じて適切に設定され得る。注入エネルギーは単一のエネルギーである必要はなく、複数の注入エネルギーで順に打ち込んでもよい。第3間接遷移型半導体部13のp型不純物の濃度分布は、第4間接遷移型半導体部14との界面から、第2間接遷移型半導体部12との界面にかけて、勾配を有していてもよい。第3間接遷移型半導体部13と第2間接遷移型半導体部12の界面で、不純物元素は不規則に局在していることが望ましい。いずれの場合も、間接遷移型半導体を用いた半導体光素子とその作製方法が実現される。
【0067】
本開示の実施形態は、例えば、以下の構成を含んでよい。
(項1)
第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、
第1導電型不純物を第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、
第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、
をこの順に備え、
前記第3間接遷移型半導体部と、前記第4間接遷移型半導体部と、が接しており、
前記第1濃度は、前記第2濃度よりも高く、
前記第3濃度は、前記第4濃度よりも高く、
前記第5濃度は、前記第4濃度よりも高い、
半導体光素子。
(項2)
前記第3間接遷移型半導体部の厚さは、10nm以上1500nm以下である、
項1に記載の半導体光素子。
(項3)
前記第3濃度は、前記第4濃度の10倍以上1000倍以下である、
項1または2に記載の半導体光素子。
(項4)
第1導電型はn型であり、
第2導電型はp型であり、
前記第1濃度は前記第5濃度よりも高い、
項1から3のいずれか1つに記載の半導体光素子。
(項5)
ピーク波長が1100nm以上4000nm以下である光を発する、項1から4のいずれか1つに記載の半導体光素子。
(項6)
前記第4間接遷移型半導体部の少なくとも一部と前記第5間接遷移型半導体部とが積層されたリッジを有し、前記第3間接遷移型半導体部は前記リッジの下方に位置する、
項1から5のいずれか1つに記載の半導体光素子。
(項7)
前記リッジの幅は、前記第5間接遷移型半導体部の側から前記第1間接遷移型半導体部へ向かうにつれて広がる、
項6に記載の半導体光素子。
(項8)
前記第1間接遷移型半導体部と前記第2間接遷移型半導体部の少なくとも一方に、周期的に設けられた複数の溝または複数の空隙を有し、
前記複数の溝または前記複数の空隙は、少なくとも第1方向に並び、
前記第1方向は、前記半導体光素子の共振方向と沿う、
項1から7のいずれか1つに記載の半導体光素子。
(項9)
前記第3間接遷移型半導体部は、第1領域と第2領域とを有し、
前記第4間接遷移型半導体部は、第3領域と第4領域とを有し、
前記第3間接遷移型半導体部と前記第4間接遷移型半導体部は、前記第1領域と前記第3領域で接し、
前記第1領域は、前記第2領域と比較して、原子配列が不規則であり、
前記第3領域は、前記第4領域と比較して、原子配列が不規則である、
項1から8のいずれか1つに記載の半導体光素子。
(項10)
項1から9のいずれか1つに記載の半導体光素子と、
前記半導体光素子から発せられる光の反射光を検出する受光素子を含む、計測装置。
(項11)
第1ミラーと、
第2ミラーと、
前記第1ミラーおよび前記第2ミラーとの間に配置される項1から9のいずれか1項に記載の半導体光素子と、
を含む光源装置。
(項12)
第1導電型不純物を第1濃度で含む第1間接遷移型半導体部と、
前記第1間接遷移型半導体部の上に設けられ、第1導電型不純物を前記第1濃度よりも低い第2濃度で含む第2間接遷移型半導体部と、
前記第2間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を第3濃度で含む第3間接遷移型半導体部と、
を含む第1構造体を準備することと、
第2導電型不純物を第5濃度で含む第5間接遷移型半導体部と、
前記第5間接遷移型半導体部の上に設けられ、第2導電型不純物を前記第3濃度および前記第5濃度よりも低い第4濃度で含む第4間接遷移型半導体部と、
を含む第2構造体を準備することと、
前記第1構造体の前記第3間接遷移型半導体部と、前記第2構造体の前記第4間接遷移型半導体部を対向させて、前記第3間接遷移型半導体部と前記第4間接遷移型半導体部を直接接合することと、
を含む半導体光素子の製造方法。
(項13)
前記第3間接遷移型半導体部は、前記第1間接遷移型半導体部が設けられた面とは反対側の前記第2間接遷移型半導体部の面にイオン打ち込みをすることで得る、
項12に記載の半導体光素子の製造方法。
【符号の説明】
【0068】
1 計測装置
3 走査ミラー
5 受光素子
10、10A~10H 半導体光素子
11 第1間接遷移型半導体部
12 第2間接遷移型半導体部
13 第3間接遷移型半導体部
14 第4間接遷移型半導体部
15 第5間接遷移型半導体部
16 電極
17 電極
18 保護膜
20A、20B リッジ
27 基板
28 絶縁層
300 積層構造
310 光源装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9