(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159251
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20241031BHJP
H01C 17/065 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01C7/00 324
H01C17/065 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075114
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【テーマコード(参考)】
5E032
5E033
【Fターム(参考)】
5E032BA07
5E032BB01
5E032CC06
5E032CC08
5E033AA18
5E033AA27
5E033BA03
5E033BB02
5E033BC01
5E033BD01
5E033BG02
(57)【要約】
【課題】抵抗温度係数を0に近づけることができ、かつ低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数の差を小さくすることが可能な厚膜抵抗体を提供することを目的とする。
【解決手段】酸化ルテニウムと、ガラスと、を含み、
前記酸化ルテニウムは、ルチル型結晶構造を有し、
X線回折法により測定したa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとした場合にLc/Laが0.6885以上であり、
結晶子径が10nm以上80nm以下である厚膜抵抗体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ルテニウムと、ガラスと、を含み、
前記酸化ルテニウムは、ルチル型結晶構造を有し、
X線回折法により測定したa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとした場合にLc/Laが0.6885以上であり、
結晶子径が10nm以上80nm以下である厚膜抵抗体。
【請求項2】
前記酸化ルテニウムと前記ガラスの合計質量を100%とした場合に、
前記酸化ルテニウムの質量割合が5%以上60%以下である請求項1に記載の厚膜抵抗体。
【請求項3】
前記ガラスは、SiO2とB2O3とRO(RはCa、Sr、Baから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素を示す)を含み、
SiO2とB2O3とROの合計を100質量部とした場合に、SiO2を18質量部以上50質量部以下、B2O3を10質量部以上30質量部以下、ROを35質量部以上70質量部以下の割合で含有する請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ抵抗器、ハイブリットIC、または抵抗ネットワーク等の抵抗器には、セラミック基板に厚膜抵抗体用ペーストを塗布し、焼成することによって形成された厚膜抵抗体が一般的に用いられている。
【0003】
厚膜抵抗体用の組成物としては、導電粒子として酸化ルテニウム粉末を代表とするルテニウム系導電粉末とガラス粉末を主な成分として含むものが広く用いられている。
【0004】
ルテニウム系導電粉末とガラス粉末が厚膜抵抗体に用いられる理由は、空気中での焼成ができ、抵抗温度係数(TCR:Temperature Cofficient of Resistance)を0に近づけられることに加え、広い領域の抵抗値の抵抗体が形成可能であることなどが挙げられる。
【0005】
ルテニウム系導電粉末とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物では、その配合比によって厚膜抵抗体の抵抗値が変わる。具体的には、ルテニウム系導電粉末の配合比を多くすると厚膜抵抗体の抵抗値が下がり、ルテニウム系導電粉末の配合比を少なくすると厚膜抵抗体の抵抗値が上がる。このことを利用して、厚膜抵抗体では、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末の配合比を調整して所望の抵抗値を出現させている。
【0006】
近年、電気・電子機器における抵抗器の搭載点数は増加しており、抵抗器一つ一つの抵抗値精度が高く、抵抗温度係数(TCR)が0に近いことが望まれている。
【0007】
上述のように、ルテニウム系導電粉末とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物では、低い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粉末を多く、ガラス粉末を少なく配合している。また、高い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粉末を少なく、ガラス粉末を多く配合して抵抗値を調整している。
【0008】
しかし、ルテニウム系導電粉末を多く配合する低い抵抗値領域では抵抗温度係数(TCR)がプラスになりやすく、ルテニウム系導電粉末の配合が少ない高い抵抗値領域では抵抗温度係数(TCR)がマイナスになりやすい特徴がある。抵抗温度係数(TCR)は温度変化による抵抗値の変化を表したもので、厚膜抵抗体の重要な特性の一つである。抵抗温度係数は調整剤と呼ばれる主に金属酸化物を組成物に加えることで調整が可能である。抵抗温度係数をマイナスに調整することは比較的容易であり、調整剤としてはマンガン酸化物、ニオブ酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物等が挙げられる。しかし、抵抗温度係数をプラスに調整することは困難である。したがって、厚膜抵抗体用の導電粒子は、厚膜抵抗体に適用した場合に、抵抗温度係数が0近傍、もしくはプラスに大きくなるものが望ましい。
【0009】
厚膜抵抗体の抵抗温度係数(TCR)は、常温を基準として、低温側の低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と高温側の高温抵抗温度係数(HOT-TCR)とで評価される。
【0010】
近年では、電子部品の高精度化への要求が高まっており、低温抵抗温度係数(COLD-TCR)、高温抵抗温度係数(HOT-TCR)とも0に近いことが求められている。
【0011】
ルテニウム系導電粉末とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用の組成物を用いて製造した厚膜抵抗体では一般に低温側の低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と高温側の高温抵抗温度係数(HOT-TCR)を同一にすることは困難であった。また、低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と、高温抵抗温度係数(HOT-TCR)と、のどちらも0に近づけることは困難であった。
【0012】
特許文献1には、少なくとも実質的に鉛を含まないガラス組成物及び実質的に鉛を含まない導電材料を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストであって、前記導電材料の平均粒径が5μm以上、50μm以下であることを特徴とする抵抗体ペーストが開示されている。また、該抵抗体ペーストを塗布、または印刷した後、焼成することによって形成されてなる厚膜抵抗体が開示されている。
【0013】
特許文献1によれば、導電材料の平均粒径を5μm以上、50μm以下としているので、10kΩ/□以上の高い抵抗値を有しながらも、抵抗値のバラツキが小さく、温度特性(TCR)の絶対値が小さく、耐電圧特性(STOL)も良好なものとすることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005-129806号公報
【特許文献2】特開2005-209742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
近年では、低温側の低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と高温側の高温抵抗温度係数(HOT-TCR)との両方について0に近づけ、かつ両者の差を小さくすることが可能な厚膜抵抗体が求められている。しかしながら、特許文献1においては、低温側の低温抵抗温度係数や、低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数の差について評価もされていなかった。
【0016】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、抵抗温度係数を0に近づけることができ、かつ低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数の差を小さくすることが可能な厚膜抵抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明は、
酸化ルテニウムと、ガラスと、を含み、
前記酸化ルテニウムは、ルチル型結晶構造を有し、
X線回折法により測定したa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとした場合にLc/Laが0.6885以上であり、
結晶子径が10nm以上80nm以下である厚膜抵抗体を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によれば、抵抗温度係数を0に近づけることができ、かつ低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数の差を小さくすることが可能な厚膜抵抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例、比較例で使用した酸化ルテニウム粉末のa軸の格子定数とc軸の格子定数との関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
【0021】
本発明の発明者は、抵抗温度係数を0に近づけることができ、かつ低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数の差が小さくする、すなわち抑制することが可能な厚膜抵抗体について検討を行った。
【0022】
その結果、厚膜抵抗体を構成する酸化ルテニウムのa軸の格子定数と、c軸の格子定数との比を所定値以上とすることで、該厚膜抵抗体の抵抗温度係数(TCR)を0に近づけられることを見出した。すなわち、該厚膜抵抗体の低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数とについて、0に近づけ、両者の差も小さくできることを見出した。
【0023】
さらに、厚膜抵抗体を構成する酸化ルテニウムの結晶子径を所定の範囲内とすることで、抵抗値バラツキが小さく、電気的特性が良好な厚膜抵抗体を形成可能であることを見出した。
【0024】
以上の知見に基づき、本発明を完成させた。以下、本実施形態の厚膜抵抗体について説明する。
【0025】
なお、ここで、厚膜抵抗体用の組成物から厚膜抵抗体が形成される過程の該厚膜抵抗体用組成物の構成物の変化を考える。厚膜抵抗体用の組成物は、ガラス粉末とルテニウム系導電粉末とを含む。焼成前の厚膜抵抗体用の組成物は、該ガラス粉末を構成するガラス粒子の周囲に該ルテニウム系導電粉末を構成するルテニウム系導電粒子が存在し、焼成時の加熱によりガラス粒子同士が融着し、ルテニウム系導電粒子同士が接近して導電パスを形成していく。そして、得られる厚膜抵抗体は、ルテニウム系導電粒子により形成されたルテニウム系導電物による導電パスと、該導電パスを保持するマトリックスとしてのガラスを含む。すなわち、厚膜抵抗体の構成物にはルテニウム系導電物とガラスが含まれることになる。本実施形態の厚膜抵抗体では、ルテニウム系導電物として酸化ルテニウムを用いる。従って、本実施形態の厚膜抵抗体は、酸化ルテニウムと、ガラスと、を含む。
【0026】
(1)厚膜抵抗体が含有する成分について
本実施形態の厚膜抵抗体が含有する成分について説明する。
(1-1)酸化ルテニウム
(a軸の格子定数Laに対するc軸の格子定数Lcの比)
本発明の発明者は、酸化ルテニウムとガラスを含む厚膜抵抗体において、酸化ルテニウムの格子定数が、厚膜抵抗体の特性に影響することを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
本発明の発明者の検討によれば、酸化ルテニウムは、ルチル型結晶構造を有することが好ましい。そして、X線回折法により測定したa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとした場合に、該酸化ルテニウムのa軸の格子定数Laに対するc軸の格子定数Lcの比(Lc/La)が、厚膜抵抗体の抵抗温度係数を制御する観点から重要である。具体的には、酸化ルテニウムのLc/Laを0.6885以上、さらに望ましくは0.6886以上とすることで、厚膜抵抗体の抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることが可能となる。
【0028】
なお、例えば正方晶であるルチル型の結晶構造を有し、結晶が充分大きいバルク状態における酸化ルテニウムのa軸の格子定数は4.499Å、c軸の格子定数は3.107Åとされている。なお、バルクの酸化ルテニウムのa軸の格子定数Laとc軸の格子定数LcのLc/Laは0.6906である。上記バルク状態の酸化ルテニウムの格子定数は、International Centre for Diffraction Dataによるものである。
【0029】
これに対して、酸化ルテニウムとガラスを含む本実施形態の厚膜抵抗体では酸化ルテニウムの格子定数は、a軸、c軸、さらにLc/Laについてもバルク状態よりも小さくなる。これは厚膜抵抗体に含有される酸化ルテニウムが微細な酸化ルテニウム粒子に起因しているためと考えられる。
【0030】
本発明の発明者の検討によれば、含有する酸化ルテニウムのLc/Laが0.6885未満の厚膜抵抗体では低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と高温抵抗温度係数(HOT-TCR)とが大きく異なる。このため、含有する酸化ルテニウムのLc/Laが0.6885未満の厚膜抵抗体では、低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と高温抵抗温度係数(HOT-TCR)との差を小さくし、両方を0に近づけることができない。
【0031】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体が含有する酸化ルテニウムのa軸の格子定数Laに対するc軸の格子定数Lcの比であるLc/Laの上限値は特に限定されない。Lc/Laは、例えば結晶子径が10nm以上80nm以下を充足する場合において0.690以下とすることができる。
【0032】
a軸の格子定数Laに対するc軸の格子定数Lcの比Lc/Laは、c軸の格子定数が大きくなり、a軸の格子定数が小さくなれば大きくなる。ただし、本発明の発明者の検討によれば、酸化ルテニウムのa軸の格子定数と、c軸の格子定数との明確な相関は見られず、例えばa軸またはc軸の格子定数を制御することのみで、上記Lc/Laを制御できるものではない。
【0033】
特許文献2では、酸化ルテニウムのa軸およびb軸に着目し、所定の範囲内とすることが開示されている。しかし、本発明の発明者の検討によれば、酸化ルテニウム粉末のa軸、b軸の格子定数を所定の範囲内とするだけでは、該酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体の低温抵抗温度係数(COLD-TCR)、高温抵抗温度係数(HOT-TCR)を共に0に近づけることはできない。また、酸化ルテニウム粉末のa軸、b軸の格子定数を所定の範囲内としても、高温抵抗温度係数と低温抵抗温度係数との差を小さくすることはできない。
【0034】
従って、厚膜抵抗体において、低温抵抗温度係数(COLD-TCR)、高温抵抗温度係数(HOT-TCR)を共に0に近づけ、かつ高温抵抗温度係数と低温抵抗温度係数との差を小さくするためには、Lc/Laを所定値以上とすることが重要になる。
(結晶子径)
本実施形態の厚膜抵抗体が含有する酸化ルテニウムの結晶子径を10nm以上80nm以下(100Å以上800Å以下)とすることで、該厚膜抵抗体の抵抗値精度を高くできる。すなわち、抵抗値のバラツキを抑制できる。また、結晶子径と格子定数の比Lc/Laとが所定の範囲内にある酸化ルテニウムを含有することで、該厚膜抵抗体の低温抵抗温度係数と高温抵抗温度係数との差を小さくし、両方を特に0に近づけることができる。さらに、酸化ルテニウムの結晶子径の範囲を充足することで、電気的特性が良好な厚膜抵抗体を形成することが可能となる。
【0035】
厚膜抵抗体が含有する酸化ルテニウムのLc/Laを0.6885以上にするには、厚膜抵抗体を形成するための厚膜抵抗体用組成物や、抵抗ペーストの原料である酸化ルテニウム粉末のLc/Laを調整すれば良い。本発明の発明者の検討によれば、Lc/La≧0.6913の酸化ルテニウム粉末を含む抵抗ペースト等を印刷、乾燥、焼成すれば、Lc/La≧0.6885となる厚膜抵抗体を形成することができる。
【0036】
抵抗ペーストを印刷し150℃以下で乾燥した状態と、抵抗ペーストの原料に用いた酸化ルテニウム粉末の状態とでは、酸化ルテニウムの格子定数と結晶子径はほとんど差がない。このことは酸化ルテニウム粉末とガラス粉末を有機ビヒクル中に分散・混練する工程で酸化ルテニウム粉末の格子定数や結晶子径がほとんど変化しない事を示唆している。しかしながら、乾燥後の抵抗ペーストを800℃以上の温度で焼成して形成された厚膜抵抗体において測定した酸化ルテニウムの格子定数と結晶子径は乾燥状態から変化している。具体的には酸化ルテニウムのa軸の格子定数Laと結晶子径は増加し、c軸の格子定数Lcは減少する。したがって、抵抗ペーストを焼成することによって、Lc/Laは減少し、結晶子径は増加する。
【0037】
酸化ルテニウムの格子定数、結晶子径は、粉末X線回折法によって得られる回折パターンを解析することによって求めることができる。近年では粉末X線回折法におけるRietveld解析によって、粉末の格子定数、結晶子径を精度良く測定、算出することが可能となっている。
(1-2)ガラス
本実施形態の厚膜抵抗体はガラスの組成等によらず、抵抗温度係数を0に近づけることができ、かつ低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数の差が小さくなる。すなわち、本実施形態の厚膜抵抗体は例えば従来から使用されている鉛含有ガラスと、人体への影響および公害を少なくする鉛を含有しないガラスのいずれを用いても、抵抗温度係数が0に近い、高精度な抵抗温度係数を備えた厚膜抵抗体とすることができる。また、低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数との差を小さくできる。
【0038】
一般に厚膜抵抗体に用いられてきた鉛を含有しているガラスを用いることができるが、環境問題に対する懸念から近年では鉛を含有しないガラスを用いることが望まれている。
【0039】
本実施形態の厚膜抵抗体が、ガラスとして鉛を含有しないガラスを含む場合、該鉛を含有しないガラスとしては、例えばSiO2とB2O3とRO(RはCa、Sr、Baから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素を示す)を含むことが好ましい。この場合、SiO2とB2O3とROの合計を100質量部とした場合に、SiO2を18質量部以上50質量部以下、B2O3を10質量部以上30質量部以下、ROを35質量部以上70質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0040】
本実施形態の厚膜抵抗体が上記ガラスを含有することで、抵抗温度係数を特に容易に0に近づけることができる。
【0041】
本実施形態の厚膜抵抗体が含有するガラスは、厚膜抵抗体用組成物等に用いたガラス粉末に由来する。このため、各成分の好適な範囲の理由については厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末での説明と同じため、説明を省略する。
【0042】
厚膜抵抗体が含有するガラスが、鉛を含有しないガラスの場合、ガラスは上記SiO2、B2O3、ROを必須の成分として含むことが好ましい。該ガラスは、SiO2、B2O3、ROのみから構成することもできるが、ガラスは他の成分をさらに含有することもできる。ガラスが含有する他の成分の例としては、Al2O3、ZrO2、TiO2、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等が挙げられる。Al2O3はガラスの分相を抑制でき、ZrO2、TiO2はガラスの耐候性を向上させる、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等はガラスの流動性を高める働きがある。
(2)酸化ルテニウムと、ガラスとの含有比
所望する抵抗値等によって、厚膜抵抗体が含有する酸化ルテニウムとガラスとの配合比率は変えることができるため、本実施形態の厚膜抵抗体が含有する酸化ルテニウムと、ガラスとの質量割合は特に限定されない。
【0043】
ただし、本実施形態の厚膜抵抗体は、酸化ルテニウムの質量:ガラスの質量=60:40~5:95の範囲が好ましい。すなわち、含有する酸化ルテニウムとガラスの合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウムの質量割合が5%以上60%以下であることが好ましい。
【0044】
酸化ルテニウムとガラスの合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウムの質量割合を60%以下とすることで、厚膜抵抗体が脆くなることを抑制し、クラック等が発生することも防止できる。
【0045】
また、酸化ルテニウムとガラスの合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウムの質量割合を5%以上とすることで、該厚膜抵抗体の抵抗値が過度に高くなることを防止し、安定性を高められる。
【0046】
本実施形態の厚膜抵抗体は、酸化ルテニウムと、ガラスとに加えて、各種添加剤を含有することもできる。すなわち、本実施形態の厚膜抵抗体は、酸化ルテニウムと、ガラスと、添加剤と、を含有することもできる。係る添加剤については厚膜抵抗体用組成物の中で説明する。
【0047】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体は、酸化ルテニウムと、ガラスのみから構成することもできる。また本実施形態の厚膜抵抗体は、酸化ルテニウムと、ガラスと、添加剤のみから構成することもできる。ただし、上記いずれの場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
(3)厚膜抵抗体の特性について
【0048】
本実施形態の厚膜抵抗体は、低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数とについて、0に近づけ、両者の差も小さくできる。本実施形態の厚膜抵抗体においては、抵抗温度係数が-50ppm/℃以上+50ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは-40ppm/℃以上+40ppm/℃以下、さらに好ましくは-30ppm/℃以上+30ppm/℃以下である。なお、高温抵抗温度係数、低温抵抗温度係数のいずれについても上記範囲が好適な範囲となる。
【0049】
また、厚膜抵抗体について、高温抵抗温度係数と低温抵抗温度係数との差は、70ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは60ppm/℃以下である。後述する実施例にも示されるように、本実施形態の厚膜抵抗体では、低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数とについて、上記範囲内とすることができ、例えば-30ppm/℃以上+30ppm/℃以下にできる。また、該厚膜抵抗体によれば、高温抵抗温度係数と低温抵抗温度係数との差を小さくできる。
【0050】
さらには、本実施形態の厚膜抵抗体は、高精度な抵抗温度係数、抵抗値を実現できるほかに、電流ノイズや短時間過負荷試験(STOL)などでも優れた特性を実現できる。
【0051】
なお、低温抵抗温度係数であるCOLD-TCRは以下の式(1)により算出できる。
【0052】
また、高温抵抗温度係数であるHOT-TCRは以下の式(2)により算出できる。
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×106・・・(1)
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×106・・・(2)
ここで、R-55は、温度-55℃での抵抗値、R25は、温度25℃の抵抗値R125は、温度125℃での抵抗値である。
【0053】
このように、本実施形態の厚膜抵抗体によれば、抵抗温度係数や、抵抗値精度、電流ノイズ、短時間過負荷試験で優れた特性を実現できる。
[厚膜抵抗体用組成物]
次に、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物の一構成例について説明する。
【0054】
既述の厚膜抵抗体は、導電粒子である酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて製造することができる。
【0055】
以下、本実施形態の厚膜抵抗体を製造する際に好適に用いることができる厚膜抵抗体用組成物が含有する成分について説明する。
(1)酸化ルテニウム粉末
酸化ルテニウム粉末は、既述のように、ルチル型結晶構造を有し、X線回折法により測定したa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとした場合に、Lc/Laが0.6913以上であり、結晶子径を10nm以上80nm以下とすることが好ましい。
【0056】
酸化ルテニウム粉末の粒径は特に限定されないが、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末の比表面積径は、例えば10nm以上115nm以下とすることが好ましい。
【0057】
酸化ルテニウム粉末の比表面積径は、比表面積から算出することができる。具体的には、酸化ルテニウム粉末の比表面積径である粒径をD(nm)、密度をρ(g/cm3)、比表面積をS(m2/g)とし、含有する粒子を真球とみなすと、以下の式(3)に示す関係式が成り立つ。
【0058】
D(nm)=6×103/(ρ・S) ・・・(3)
本実施形態では、酸化ルテニウムの密度ρを7.05g/cm3として、式(3)によって比表面積径である粒径を算出することができる。
(2)ガラス粉末
ガラス粉末としては、特に限定されず、例えば従来から厚膜抵抗体用組成物に用いられている組成のガラス粉末を用いることが可能である。
(ガラス粉末の組成の構成例)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物で用いることのできるガラス粉末としては例えば、アルミノホウケイ酸鉛ガラスのほか、鉛を含まない、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸カルシウム系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラスから選択された1種以上が挙げられる。
【0059】
ガラスは、一般的に、所定の成分またはそれらの前駆体を目的とする配合にあわせて混合し、得られた混合物を溶融し、急冷することによって製造できる。溶融温度は特に限定されるものではないが例えば1400℃前後で行われている。また、急冷は溶融物を冷水中に入れるか冷ベルト上に流すことにより行われることが多い。厚膜抵抗体形成用のペースト原料とするためにガラスは粉砕される。粉砕はボールミル、振動ミル、遊星ミル、あるいはビーズミルなどで目的とする粒度まで行われる。
【0060】
一般に厚膜抵抗体用組成物に用いられてきた鉛を含有しているガラス粉末の組成を用いることができるが、環境問題に対する懸念から近年では鉛を含有しないガラス粉末の組成を用いることが望まれている。
【0061】
鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末の組成では、骨格となるSiO2以外の金属酸化物を配合することによって焼成時の流動性を調整する。SiO2以外の金属酸化物としては、B2O3やRO(RはCa、Sr、Baから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素を示す)などが用いられる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末は、SiO2、B2O3、ROを含有することが好ましい。そして、該ガラス粉末は、ガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合に、SiO2を18質量部以上50質量部以下、B2O3を10質量部以上30質量部以下、ROを35質量部以上70質量部以下の割合で含有することが好ましい。係るガラス粉末を用いることで、得られる厚膜抵抗体について、抵抗温度係数を特に容易に0に近づけることができる。
【0062】
ガラス粉末のガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合にSiO2を18質量部以上とすることで、容易にガラスとすることができ、かつ耐候性を高めることができる。また、SiO2を50質量部以下とすることで、該ガラスの軟化温度を抑制し、流動性を高めることができる。
【0063】
ガラス粉末のガラス組成において、B2O3を10質量部以上とすることで、該ガラス粉末の軟化温度を抑制し、流動性を高めることができる。また、B2O3を30質量部以下とすることで、耐候性を高められる。
【0064】
ガラス粉末のガラス組成において、ROを35質量部以上とすることで、該ガラスの軟化温度を抑制し、流動性を高めることができる。また、ROを70質量部以下とすることで、結晶化を抑制し、容易にガラスとすることができる。
【0065】
鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末は、上記SiO2、B2O3、ROを必須の成分として含むことが好ましい。該ガラス粉末は、SiO2、B2O3、ROのみから構成することもできるが、ガラス粉末の耐候性や焼成時の流動性を調整する目的で他の成分を含有させても良い。他の成分の例としては、Al2O3、ZrO2、TiO2、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等が挙げられる。Al2O3はガラスの分相を抑制でき、ZrO2、TiO2はガラスの耐候性を向上させる、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等はガラスの流動性を高める働きがある。
(軟化点)
厚膜抵抗体用組成物を焼成する際のガラスの流動性に影響する尺度として軟化点がある。
【0066】
一般に、厚膜抵抗体を製造する際の、厚膜抵抗体用組成物や、厚膜抵抗体用ペーストを焼成する温度は800℃以上900℃以下である。
【0067】
このように、厚膜抵抗体を製造する際の厚膜抵抗体用組成物等の焼成温度が800℃以上900℃以下の場合、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるガラスの軟化点は、600℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。
【0068】
ここで、軟化点は、ガラスを示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で、10℃/minで昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度である。
(粒径)
厚膜抵抗体用ペーストに用いるガラス粉末の粒径は特に限定されないが、大きすぎると厚膜抵抗体の抵抗値ばらつきの増大や負荷特性が低下する原因となる。これらを避けるため、ガラス粉末の50%体積累計粒度は、5μm以下が望ましく、より望ましくは3μm以下で、さらに望ましくは1.5μm以下である。ガラスの粉砕にはボールミル、遊星ミル、ビーズミルなど用いることができるが、粒度をシャープにするには湿式粉砕が望ましい。
【0069】
なお、ガラス粉末の粒度を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがあることから、ガラス粉末の50%体積累計粒度は0.5μm以上が好ましい。
【0070】
50%体積累計粒度は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。
(3)酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との配合比
所望する抵抗値等によって、厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との配合比率は変えることができるため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との質量配合割合は特に限定されない。
【0071】
ただし、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末の質量:ガラス粉末の質量=60:40~5:95の範囲が好ましい。すなわち、含有する酸化ルテニウム粉末とガラス粉末の合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の質量割合が5%以上60%以下であることが好ましい。厚膜抵抗体用組成物の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との配合比が、厚膜抵抗体を形成する際にも維持されて、厚膜抵抗体での酸化ルテニウムとガラスの配合比となる。
【0072】
酸化ルテニウム粉末とガラス粉末の合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の質量割合を60%以下とすることで、焼成膜が脆くなることを抑制し、クラック等が発生することも防止できる。
【0073】
また、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末の合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の質量割合を5%以上とすることで、該厚膜抵抗体の抵抗値が過度に高くなることを防止し、安定性を高められる。
(4)添加剤について
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末のみから構成することもできるが、さらに添加剤を含有することもできる。すなわち、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、添加剤とを含有できる。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、添加剤のみから構成することもできる。なお、上記場合でも、厚膜抵抗体用組成物が不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0074】
より抵抗値が低い厚膜抵抗体が望まれる場合には、本実施形態の厚膜抵抗体は、AgやPdを含有することもできる。
【0075】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物について、既述の酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを含み、かつAgやPdを含有したものとし、抵抗値を下げた厚膜抵抗体を製造した場合においても、低温抵抗温度係数、高温抵抗温度係数を共に0に近づけることが可能である。
【0076】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、厚膜抵抗体の抵抗値や、抵抗温度係数、電圧負荷特性、トリミング性の改善、調整を目的として一般に使用される添加剤を含有することもできる。
【0077】
代表的な上記添加剤としてはNb2O5、Ta2O5、TiO2、MnO2、CuO、ZrO2、Al2O3、SiO2、ZrSiO4等から選択された1種類以上の粉末が挙げられる。
【0078】
Nb2O5、Ta2O5、TiO2、MnO2は厚膜抵抗体に電圧負荷を加えた際の抵抗値変動を少なくする効果があるが、抵抗温度係数をマイナスにシフトさせる。CuOは厚膜抵抗体の抵抗値を減少させて抵抗温度係数をプラスにシフトさせる効果がある。ZrO2、Al2O3、SiO2、ZrSiO4は、厚膜抵抗体の抵抗値を調整するレーザトリミングによって発生しやすいマイクロクラックの伸長等を抑制する効果がある。
【0079】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物がこれらの添加剤を含有することで、より優れた特性を有する厚膜抵抗体を作製することができる。なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が、上記添加剤を含有する場合、該厚膜抵抗体用組成物を用いて製造した厚膜抵抗体も対応する添加剤を含有することになる。
【0080】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物における上記添加剤の含有量は、目的によって調整されるが、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との合計を100質量部とした場合に、例えば0を超え20質量部以下の範囲で含有することが好ましい。厚膜抵抗体においても同じ範囲で添加剤を含有することが好ましい。
[厚膜抵抗体用ぺースト]
次に、本実施形態の厚膜抵抗体を形成するための厚膜抵抗体用ペーストについて説明する。
【0081】
本実施形態の厚膜抵抗体を形成するための厚膜抵抗体用ペーストは、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、有機ビヒクルを含むことができる。本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、有機ビヒクルのみから構成することもできるが、この場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0082】
酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とは共に印刷用の厚膜抵抗体用ペーストとするために有機ビヒクル中に混合、分散できる。
【0083】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストには、厚膜抵抗体用組成物で説明した添加剤をさらに含有することもできる。この場合、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストが含有する、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、添加剤と、は共に印刷用の厚膜抵抗体用ペーストとするために有機ビヒクル中に混合、分散していることが好ましい。
【0084】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末と、添加剤と、有機ビヒクルのみから構成することもできるが、この場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0085】
以下、本実施形態の厚膜抵抗体を形成するための厚膜抵抗体用ペーストが含有する各成分について説明する。
(1)厚膜抵抗体用ペーストが含有する成分について
(1-1)酸化ルテニウム粉末
酸化ルテニウム粉末としては、厚膜抵抗体用組成物で説明した酸化ルテニウム粉末を用いることができる。すなわち、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストが含有する酸化ルテニウム粉末は、ルチル型結晶構造を有することが好ましい。そして、酸化ルテニウム粉末は、X線回折法により測定したa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとした場合に、Lc/Laが0.6913以上であり、結晶子径が10nm以上80nm以下であることが好ましい。
(1-2)ガラス粉末
ガラス粉末はとしては、従来から厚膜抵抗体用ペーストに用いられているガラス粉末を用いることが可能である。
【0086】
ガラス粉末としては、例えば、SiO2とB2O3とRO(RはCa、Sr、Baから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素を示す)を含むことができる。そして、ガラス粉末は、SiO2とB2O3とROの合計を100質量部とした場合に、SiO2を18質量部以上50質量部以下、B2O3を10質量部以上30質量部以下、ROを35質量部以上70質量部以下の割合で含有することが好ましい。係るガラス粉末を用いることで、得られる厚膜抵抗体について、抵抗温度係数を特に容易に0に近づけることができる。
(1-3)酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との混合比
所望する抵抗値等によって、厚膜抵抗体用ペーストが含有する酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との比率は変えることができるため、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストが含有する酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との質量割合は特に限定されない。
【0087】
ただし、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、酸化ルテニウム粉末の質量:ガラス粉末の質量=60:40~5:95の範囲が好ましい。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末の合計質量を100%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の質量割合が5%以上60%以下であることが好ましい。
(1-4)有機ビヒクル
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストが含有する有機ビヒクルは、特に限定されず、各種有機ビヒクルを用いることができる。
【0088】
有機ビヒクルは例えば、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の溶剤に、エチルセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン、マレイン酸エステル等の樹脂を溶解した溶液を好適に用いることができる。
【0089】
有機ビヒクルには、必要に応じて、分散剤や可塑剤など加えることもできる。
(1-5)添加剤
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、上記有機ビヒクルで説明した分散剤や、可塑剤に加えて、厚膜抵抗体用組成物で説明した各種添加剤を含有することもできる。
(2)分散方法について
既述のように、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末と、必要に応じて添加剤とは、有機ビヒクル中に混合、分散されていることが好ましい。
【0090】
酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末、添加剤等の分散方法は特に制限されない。例えば微細な粒子を分散させる3本ロールミルや、ビーズミル、遊星ミル等を用いて、分散するのが一般的である。有機ビヒクルの配合比率は、厚膜抵抗体用ペーストの印刷や塗布方法によって適宣調整できるため、特に限定されない。例えば、酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末、添加剤の合計を100質量部とした場合、厚膜抵抗体用ペーストは、例えば有機ビヒクルを20質量部以上200質量部以下の範囲で含有することが好ましい。
[厚膜抵抗体の製造方法]
次に、本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法について説明する。なお、本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法によれば、既述の厚膜抵抗体を製造できるため、重複する説明は一部省略する。
【0091】
既述の厚膜抵抗体は、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物または厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造できる。
【0092】
このため、既述の厚膜抵抗体は、既述の酸化ルテニウム粉末に由来する酸化ルテニウムと、既述のガラス粉末に由来するガラスとを含有することができる。
【0093】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成して形成することができる。また、上述のように、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、セラミック基板に塗布した後、乾燥、焼成して形成することもできる。
【0094】
そこで、本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は、例えば既述の厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造でき、以下の印刷工程、乾燥工程、焼成工程を含むことができる。
【0095】
印刷工程では、例えば公知の厚膜技術で形成した一対の電極の間に既述の厚膜抵抗体用ペーストを印刷できる。
【0096】
乾燥工程では、加熱乾燥により、印刷工程で印刷した印刷膜を構成する厚膜抵抗体用ペーストに含まれる、有機ビヒクル等の溶剤を揮発させることができる。
【0097】
焼成工程では、ピーク温度が800℃以上900℃以下となる温度条件で、乾燥工程で乾燥させた印刷膜を焼成できる。
【0098】
上記焼成工程を実施することで、本実施形態の厚膜抵抗体を製造できる。
【0099】
得られた厚膜抵抗体の表面に公知の厚膜技術で被覆ガラスを形成して、公知のレーザトリミングにより抵抗値を調整することもできる。
【実施例0100】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
(1)原料となる酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末の評価方法
(1-1)格子定数、結晶子径
酸化ルテニウム粉末の格子定数と結晶子径はX線回折法におけるRietveld解析によって求めた。
【0101】
また、求めた酸化ルテニウム粉末のa軸の格子定数をLa、c軸の格子定数をLcとし、Lc/Laを算出した。
(1-2)比表面積径
酸化ルテニウム粉末の比表面積径は、酸化ルテニウム粉末の比表面積と密度より算出した。比表面積は測定が簡単にできるBET1点法を用いた。比表面積径をD(nm)、密度をρ(g/cm3)、比表面積をS(m2/g)とし、含有する粒子を真球とみなすと、以下の式(A)に示す関係式が成り立つ。このDによって算出される比表面積径を、酸化ルテニウム粉末の比表面積径とした。
【0102】
D(nm)=6×103/(ρ・S) ・・・(A)
比表面積径を算出する際、酸化ルテニウムの密度ρを7.05g/cm3とした。
【0103】
また、結晶子径と比表面積径との比を算出した。
【0104】
(1-3)ガラス粉末の軟化点
ガラス粉末の軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中において毎分10℃で昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度とした。
(2)厚膜抵抗体の評価方法
(2-1)膜厚
厚膜抵抗体の膜厚は、まず触針の厚さ粗さ計を用いて、各実施例、比較例において同じ条件で作製した5個の厚膜抵抗体の膜厚を測定した。そして、得られた5個の厚膜抵抗体についての膜厚を平均して、各実施例、比較例での厚膜抵抗体の膜厚(焼成膜厚)を算出した。
(2-2)面積抵抗値、CVR(面積抵抗値の変動係数)
面積抵抗値は、各実施例、比較例において同じ条件で作製した25個の厚膜抵抗体の面積抵抗値を測定した値を平均して算出した。
【0105】
各厚膜抵抗体の面積抵抗値は、デジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)を用いて測定した。
【0106】
面積抵抗値の変動係数(CVR)は、各実施例、比較例において同じ条件で作製した25個の厚膜抵抗体の面積抵抗値の標準偏差を平均値で除して算出した。CVRは抵抗値のバラツキを示しており、値が小さい方が抵抗値のバラツキが小さいことを意味する。このため、CVRは、例えば5%以下であることが好ましい。
(2-3)抵抗温度係数
各実施例、比較例において同じ条件で作製した5個の厚膜抵抗体について、-55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してから抵抗値を測定し、それぞれの抵抗値をR-55、R25、R125とした。
【0107】
そして、以下の式(B)、式(C)によって低温抵抗温度係数(COLD-TCR)と高温抵抗温度係数(HOT-TCR)を各厚膜抵抗体について計算し、5個の厚膜抵抗体の平均を算出した。低温抵抗温度係数は、表3、表4において「C-TCR」の欄に、高温抵抗温度係数は、表3、表4において「H-TCR」の欄に示している。
【0108】
抵抗温度係数はCOLD-TCR、HOT-TCRとも0に近いことが望ましく、いずれの抵抗温度係数についても-50ppm/℃以上+50ppm/℃以下であることが高精度抵抗体の目安とされている。
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×106・・・(B)
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×106・・・(C)
なお、各実施例、比較例において、COLD-TCRとHOT-TCRとの差を算出し、表3、表4の「H/C間差」の欄に示している。
(2-4)短時間過負荷試験(STOL)
短時間過負荷試験(STOL)における抵抗値変化率は、0.25Wに相当する電圧の2.5倍の過負荷電圧(400Vを超える場合は、400V)を各実施例、比較例で作製した厚膜抵抗体に5秒間印加し、電圧印加後の抵抗値変化率を算出した。抵抗値は、既述の面積抵抗値と同じ手順により測定したが、STOLの評価に当たっては各実施例、比較例について、10個の厚膜抵抗体について、測定、算出した。短時間過負荷試験(STOL)における抵抗値変化率は、±1%以内であることが好ましく、±0.5%以内であることがより好ましい。
(2-5)電流ノイズ
各実施例、比較例において同じ条件で作製した5個の厚膜抵抗体の電流ノイズを測定し、平均値を算出した。
【0109】
電流ノイズはノイズ計(Quan-Tech製 型式:315c)を用い、1/10Wに相当する電圧を印加して測定した。厚膜抵抗体の電流ノイズは過負荷特性や信頼性と関連があり、値が低いほど抵抗体の電気的特性が良好である。
(2-6)乾燥膜、厚膜抵抗体に含まれる酸化ルテニウムの格子定数、結晶子径
表3および表4に記載の割合で酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末、添加剤粉末(MnO2、TiO2、CuO、SiO2)を配合して厚膜抵抗体用組成物とした。そして、該厚膜抵抗体用組成物を用いて後述する厚膜抵抗体用ペーストを調製し、該厚膜抵抗体用ペーストを96質量%アルミナのセラミック基板(アルミナ基板)にスクリーン印刷し、印刷膜を得た。後述する乾燥工程、焼成工程を経て、乾燥膜および焼成体を得た。乾燥工程では、ピーク温度150℃×ピーク時間5分で乾燥することで乾燥膜を得た。焼成工程では、乾燥膜を、ピーク温度850℃×ピーク時間9分で焼成して焼成体(焼成膜)を得た。得られた乾燥膜および焼成体についてX線回折測定を行い、X線回折法におけるRietveld解析によって、乾燥膜ならびに焼成体に含まれる酸化ルテニウムの格子定数と結晶子径を求めた。乾燥膜における酸化ルテニウムの格子定数と結晶子径を、表3、表4における「乾燥膜中の酸化ルテニウムの特性」の欄に示している。また、厚膜抵抗体における酸化ルテニウムの格子定数と結晶子径を、表3、表4における「厚膜抵抗体中の酸化ルテニウムの特性」の欄に示している。
【0110】
電流ノイズは、表3、表4において単にノイズと記載している。
[実施例1~実施例10]
(1)厚膜抵抗体用組成物
実施例1~実施例10では、表3に記載の割合で酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末、添加剤粉末(MnO2、TiO2、CuO、SiO2)を配合して厚膜抵抗体用組成物とした。
【0111】
なお、表3中の「RuO2」が酸化ルテニウム粉末の配合割合を、「ガラス」がガラス粉末の配合割合をそれぞれ示している。また、「MnO2」、「TiO2」、「CuO」、「SiO2」が、添加剤の各成分の配合割合を示している。
【0112】
例えば実施例1では、表3の「酸化ルテニウム粉末種類」の欄に示した様に、表1におけるAの酸化ルテニウム粉末を用いている。また、実施例1では、表3の「ガラス粉末種類」の欄に示した様に、表2におけるaのガラス粉末を用いている。
【0113】
このため、実施例1ではAの酸化ルテニウム粉末を50質量部、aのガラス粉末を50質量部、および添加剤としてMnO2を1.5質量部、CuOを1質量部混合して厚膜抵抗体用組成物とした。
(酸化ルテニウム粉末)
各実施例で用いた酸化ルテニウム粉末A~酸化ルテニウム粉末Gの比表面積径、結晶子径、格子定数は表1に示している。表3の「原料の酸化ルテニウム粉末の特性」の欄にも各実施例で用いた酸化ルテニウム粉末の結晶子径、格子定数を示している。表1における、「c軸格子定数/a軸格子定数」は、a軸の格子定数をLaに対するc軸の格子定数をLcの比であるLc/Laに当たる。
【0114】
なお、
図1に実施例、比較例で使用した酸化ルテニウム粉末のa軸の格子定数とc軸の格子定数の関係を示した。
図1に示すように、a軸の格子定数はc軸の格子定数との明確な相関は見られないことが確認できた。
(ガラス粉末)
また、各実施例、比較例で用いたガラス粉末の組成を表2に示している。
【0115】
実施例、比較例では、環境汚染を防止する観点から、ガラス粉末a~ガラス粉末cとして、鉛を含有しないガラス粉末を用いたが、従来から用いられている鉛を含有するガラスを用いても差し支えない。
【0116】
また、ガラス粉末a~ガラス粉末cはすべてレーザー回折式の粒度分布計における粒度分布でメジアン径が1.3μm以上1.5μm以下となるように粉砕した。すなわち、ガラス粉末a~ガラス粉末cは、いずれも50%体積累計粒度が、1.3μm以上1.5μm以下であった。
(添加剤)
添加剤としては、上述のようにMnO2、TiO2、CuO、SiO2から選択された1種類以上を用いている。
【0117】
添加剤の粒径は、MnO2が0.5μm、TiO2が0.3μm、CuOが0.5μm、SiO2が15nmであった。
【0118】
MnO2、TiO2、CuOの上記粒径は、ガラス粉末の場合と同様にレーザー回折式の粒度分布計を用いて測定した粒度分布におけるメジアン径を意味している。すなわち、上記粒径は50%体積累計粒度を意味する。
【0119】
SiO2の比表面積はBET法で測定し、具体的には、既述の酸化ルテニウム粉末の比表面積径と同様にして算出した。なお、SiO2の密度ρを2.2g/cm3とした。
(2)厚膜抵抗体用ペースト
各実施例の厚膜抵抗体用組成物に対して、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末と添加剤との合計100質量部に対して43質量部の割合の有機ビヒクルを加え3本ロールミルを用いて、分散させて厚膜抵抗体用ペーストを作製した。
【0120】
なお、有機ビヒクルとしては、エチルセルロース5質量%以上25質量%以下と、ターピネオール75質量%以上95質量%以下との割合で混合した混合物を用いた。実施例1~実施例10に係る厚膜抵抗体用ペーストの粘度が略同じ値となるように有機ビヒクル内の上記各成分の割合を上記範囲内で調整した。
(3)厚膜抵抗体
予めアルミナ基板(酸化アルミニウム基板)上に各実施例で作製した厚膜抵抗体用ペーストを印刷して印刷膜を形成した(印刷工程)。
【0121】
印刷工程で得られた印刷膜をピーク温度が150℃となり、ピーク温度での保持時間が5分間となるように乾燥した(乾燥工程)。
【0122】
次いで、乾燥工程で得られた乾燥膜を、ピーク温度が850℃となり、ピーク温度での保持時間が9分間となるように焼成して厚膜抵抗体を形成した(焼成工程)。
【0123】
酸化ルテニウムの格子定数、結晶子径測定用のサンプルは、抵抗体サイズが20.0mm×20.0mmの正方パターンとなるように作製した。
【0124】
膜厚、面積抵抗値、CVR、抵抗温度係数、短時間過負荷試験(STOL)、電流ノイズを測定するサンプルは予めアルミナ基板(酸化アルミニウム基板)上に焼成して形成された一対の電極の間に厚膜抵抗体用ペーストを用いて形成した。上記一対の電極としては1質量%Pdと、99質量%Agとの厚膜Ag/Pdを用いた。また、面積抵抗値等を測定するための厚膜抵抗体のサンプルは、一対の電極の間に抵抗体幅1.0mm、抵抗体長さ(電極間)1.0mmとなるように形成した。
【0125】
得られた厚膜抵抗体について、既述の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
【表3】
[比較例1~比較例8]
厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペーストを、表4に示した酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末、添加剤を用い、添加量が表4に示した割合となるように各成分を用いた点以外は、実施例1~実施例10の場合と同じ手順により作製した。また、各比較例で作製した厚膜抵抗体用ペーストを用いた点以外は、実施例1~実施例10と同じ手順により厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0129】
【表4】
表3、表4に示した結果によると、乾燥膜中の酸化ルテニウムの格子定数、結晶子径は抵抗ペーストの原料として用いている酸化ルテニウム粉末の格子定数、結晶子径とほぼ同じであった。このことは酸化ルテニウム粉末とガラス粉末を有機ビヒクル中に分散・混練する工程で酸化ルテニウム粉末の格子定数や結晶子径がほとんど変化しない事を示唆している。
【0130】
しかしながら、乾燥後の抵抗ペーストを焼成して形成された厚膜抵抗体において測定した酸化ルテニウムの格子定数と結晶子径は乾燥状態から変化している。具体的には酸化ルテニウムのa軸の格子定数Laと結晶子径は増加し、c軸の格子定数Lcは減少する。したがって、抵抗ペーストを焼成することによって、Lc/Laは減少し、結晶子径は増加する。
【0131】
抵抗ペーストを印刷、乾燥、焼成することによって形成された厚膜抵抗体の酸化ルテニウムのLc/Laが0.6885以上である場合、COLD-TCR、HOT-TCRとも0に近くなっている。また、厚膜抵抗体の酸化ルテニウムの結晶子径が10nm以上80nm以下(100Å以上800Å以下)の場合、優れた電気的特性が得られる。
【0132】
実施例1~実施例10の厚膜抵抗体は、COLD-TCR、HOT-TCRとも±30ppm/℃以内と0に近く、H/C間差は70ppm/℃以下と小さいことから、高精度な抵抗温度係数を実現できていることを確認できた。
【0133】
また、実施例1~実施例10の厚膜抵抗体は、短時間過負荷試験(STOL)における抵抗値変化率が±0.5%以内であり、電流ノイズも十分に小さく、優れた特性を有することが確認できた。
【0134】
以上のように、実施例1~実施例10では、酸化ルテニウムがルチル型結晶構造を有し、c軸の格子定数Lcとa軸の格子定数Laの比Lc/Laが0.6885以上であり、結晶子径が10nm以上80nm以下である厚膜抵抗体(焼成体)が得られた。そして、係る実施例1~実施例10の厚膜抵抗体では、低温抵抗温度係数と高温抵抗温度係数がともに0に近く、両者の差も小さくできることを確認できた。
【0135】
さらに、酸化ルテニウムの結晶子径が10nm以上80nm以下であるため、短時間過負荷試験(STOL)における抵抗値変化率が小さく、±0.5%以内となっていることを確認できた。
【0136】
一方、比較例1~比較例7の厚膜抵抗体(焼成体)では、Lc/Laが0.6885未満である。このため、これらの比較例で得られた厚膜抵抗体では、低温抵抗温度係数と、高温抵抗温度係数との差が大きくなる傾向を示し、両方を±30ppm/℃以内とすることができないことが確認できた。さらに、比較例6、7では抵抗温度係数をマイナスにシフトさせるTiO2、MnO2を添加していないにも関わらず、抵抗温度係数が大幅にマイナスになることを確認できた。
【0137】
また、比較例8は、Lc/Laが0.68963でありCOLD-TCR、HOT-TCRとも±30ppm/℃以内ではあるが、結晶子径が94.1nmと大きく、抵抗値のバラツキを示す変動係数(CVR)が5%を超えていた。また短時間過負荷試験(STOL)における抵抗値変化率が±0.5%を超えていることを確認できた。
【0138】
以上の実施例、比較例の結果から、酸化ルテニウムを導電相とする厚膜抵抗体において、酸化ルテニウムの格子定数、結晶子径を制御することで、従来困難であった抵抗温度係数を±30ppm/℃以内に容易に調整することが可能となることを確認できた。また、係る酸化ルテニウムの格子定数、結晶子径を制御した厚膜抵抗体によれば、高精度な抵抗温度係数を備えた厚膜抵抗体とすることができることを確認できた。