(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159422
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】位置検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/12 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01D5/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177045
(22)【出願日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2023074358
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 宜昭
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077JJ06
2F077JJ28
(57)【要約】
【課題】軸方向に進退移動するシャフトの位置を高精度に検出することが可能な位置検出装置を提供する。
【解決手段】ストロークセンサ1は、励磁コイル31と、ラックシャフト13に固定された検出体2と、交流磁界の磁束が鎖交する検出コイル32,33とを備え、ラックシャフト13の位置を検出する。検出コイル32,33は、軸方向に対して垂直な方向に並ぶ第1部分321,331及び第2部分322,332と、第1部分321,331と第2部分322,332とを接続する接続部323,333とを有する。検出体2は、第1部分321,331に対向する一つの第1検出体部21と、第2部分322,332に対向する二つの第2検出体部32とを有し、二つの第2検出体部22の間に第1検出体部21が配置されている。ラックシャフト13が中立位置にあるとき、第1検出体部21が第1部分321,331の中央部に対向する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置であって、
交流磁界を発生させる励磁コイルと、
前記シャフトに固定され、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出体と、
前記交流磁界の磁束が鎖交する検出コイルと、を備え、
前記検出コイルは、前記交流磁界の磁束が鎖交することにより誘起電圧が発生する第1部分及び第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを接続する接続部とを有し、
前記第1部分及び前記第2部分は、それぞれが前記軸方向に平行なコイル長手方向に沿って延在すると共に、それぞれの少なくとも一部が前記コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでおり、
前記検出体は、前記第1部分に対向する少なくとも一つの第1検出体部と、前記第2部分に対向する少なくとも二つの第2検出体部とを有し、当該少なくとも二つの前記第2検出体部が前記軸方向に離間しており、
前記第1部分に対する前記第1検出体部の位置によって前記第1部分に発生する誘起電圧が変化し、前記第2部分に対する前記第2検出体部の位置によって前記第2部分に発生する誘起電圧が変化し、
前記軸方向において前記少なくとも二つの前記第2検出体部の間に前記第1検出体部が配置されており、前記シャフトが軸方向一方側の移動端と軸方向他方側の移動端との中央位置にあるとき、前記第1検出体部が前記第1部分の前記コイル長手方向における中央部に対向する、
位置検出装置。
【請求項2】
前記少なくとも二つの前記第2検出体部のそれぞれの中心点間の距離が前記第2部分の前記コイル長手方向の長さの2倍である、
請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記第1検出体部が前記コイル長手方向における前記第1部分の一方の端部に対向するとき、前記少なくとも二つの前記第2検出体部のうち一方の前記第2検出体部が前記コイル長手方向における前記第2部分の端部に対向し、
前記第1検出体部が前記コイル長手方向における前記第1部分の他方の端部に対向するとき、前記少なくとも二つの前記第2検出体部のうち他方の前記第2検出体部が前記コイル長手方向における前記第2部分の端部に対向する、
請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記検出コイルは、前記コイル長手方向に対して垂直な方向から見た前記第1部分及び前記第2部分のそれぞれの形状が、前記コイル長手方向に延びる対称軸線を挟んで対称となる一対の正弦曲線状の導体線を組み合わせた形状である、
請求項3に記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記第1部分の前記コイル長手方向における長さと前記第2部分の前記コイル長手方向における長さとが同じであり、
前記第1部分の全体と前記第2部分の全体とが、前記コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでいる、
請求項4に記載の位置検出装置。
【請求項6】
前記励磁コイル及び前記検出コイルが1枚の基板に形成されている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項7】
二つの前記検出コイルを備え、前記シャフトが前記軸方向一方側の移動端から前記軸方向他方側の移動端まで移動する間に二つの前記検出コイルのそれぞれに誘起される電圧の位相が互いに異なっている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項8】
前記励磁コイル及び二つの前記検出コイルが1枚の基板に形成されており、
二つの前記検出コイルが前記基板の厚さ方向に積層されている、
請求項7に記載の位置検出装置。
【請求項9】
前記励磁コイルの内側に二つの前記検出コイルが形成されている、
請求項8に記載の位置検出装置。
【請求項10】
前記シャフトが車両のステアリング装置のラックシャフトである、
請求項1に記載の位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置が、例えば車両のステアリング装置におけるラックシャフトの位置の検出のために用いられている。
【0003】
特許文献1に記載の検出ユニットは、電動パワーステアリング装置のラックシャフトの軸方向の位置を検出するものであり、直流電源と、永久磁石と、永久磁石とラックシャフトとの間に配置された第1乃至第4の磁気抵抗素子からなる素子群と、ラックシャフトの位置を演算する演算部とを備えている。素子群は、第1及び第2の磁気抵抗素が直列接続された直列回路と、第3及び第4の磁気抵抗素が直列接続された直列回路とが並列に接続され、ブリッジ回路を構成している。演算部には、第1の磁気抵抗素子と第2の磁気抵抗素子との間に接続された第1端子の電位、及び第3の磁気抵抗素子と第4の磁気抵抗素子との間に接続された第2端子の電位が入力される。ラックシャフトにおける素子群との対向面には、ラックシャフトの軸方向に対して傾斜した方向に延びる複数の溝が形成されている。
【0004】
上記のように構成された検出ユニットにおいて、ラックシャフトに噛み合うピニオンギヤシャフトの回転によってラックシャフトが軸方向に移動して第1乃至第4の磁気抵抗素子と複数の溝との相対位置が変化すると、第1乃至第4の磁気抵抗素子の電気抵抗のバランスが変化して、第1端子及び第2端子の電位が変化する。演算部は、この電位の変化に基づいてラックシャフトの位置を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された検出ユニットでは、例えば車両の走行に伴う振動等によってラックシャフトが車幅方向に対して傾斜してしまうと、第1乃至第4の磁気抵抗素子とラックシャフトとの間隔が変化し、ラックシャフトの検出位置に誤差が発生してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、軸方向に進退移動するシャフトの位置を高精度に検出することが可能な位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置であって、交流磁界を発生させる励磁コイルと、前記シャフトに固定され、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出体と、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出コイルと、を備え、前記検出コイルは、前記交流磁界の磁束が鎖交することにより誘起電圧が発生する第1部分及び第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを接続する接続部とを有し、前記第1部分及び前記第2部分は、それぞれが前記軸方向に平行なコイル長手方向に沿って延在すると共に、それぞれの少なくとも一部が前記コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでおり、前記検出体は、前記第1部分に対向する少なくとも一つの第1検出体部と、前記第2部分に対向する少なくとも二つの第2検出体部とを有し、当該少なくとも二つの前記第2検出体部が前記コイル長手方向に離間しており、前記第1部分に対する前記第1検出体部の位置によって前記第1部分に発生する誘起電圧が変化し、前記第2部分に対する前記第2検出体部の位置によって前記第2部分に発生する誘起電圧が変化し、前記コイル長手方向において前記少なくとも二つの前記第2検出体部の間に前記第1検出体部が配置されており、前記シャフトが軸方向一方側の移動端と軸方向他方側の移動端との中央位置にあるとき、前記第1検出体部が前記第1部分の前記コイル長手方向における中央部に対向する、位置検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る位置検出装置によれば、軸方向に進退移動するシャフトの位置を高精度に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る位置検出装置としてのストロークセンサを備えたステアバイワイヤ式のステアリング装置が搭載された車両の模式図である。
【
図2】
図1のA-A線におけるラックシャフト、ハウジング、検出体、及び基板の断面図である。
【
図3】ラックシャフト、ハウジング、検出体、及び基板を示す斜視図である。
【
図4】(a)は、基板における第1乃至第4配線層の配線パターンを表面側から基材を透視して示す配線図である。(b)は、(a)のB部の拡大図である。(c)は、図(a)のC部の拡大図である。
【
図5】(a)は、基板における第1配線層及び第2配線層の配線パターンを示す配線図である。(b)は、第3配線層及び第4配線層の配線パターンを示す配線図である。
【
図6】(a)は、
図4(a)のB部周辺における配線パターンを示す斜視図である。(b)は、
図4(a)のC部周辺における配線パターンを示す斜視図である。
【
図7】基板の回路構成を模式的に示す模式図である。
【
図8】(a)及び(b)は、基板の回路構成の一部を模式的に示す模式図である。
【
図9】ラックシャフトが中立位置にあるときの状態を示す説明図である。
【
図10】(a)は、ラックシャフトが軸方向一方側の移動端にあるときの状態を、(b)は、ラックシャフトが軸方向一方側の移動端と中立位置との中間の位置にあるときの状態を、(c)は、ラックシャフトが中立位置と軸方向他方側の移動端との中間の位置にあるときの状態を、(d)は、ラックシャフトが軸方向他方側の移動端にあるときの状態を、それぞれ示す説明図である。
【
図11】励磁コイルに供給される供給電圧と、正弦波形状検出コイル及び余弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧との関係の一例を示すグラフである。
【
図12】正弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧のピーク値であるピーク電圧と、検出体の位置との関係を示すグラフである。
【
図13】余弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧のピーク値であるピーク電圧と、検出体の位置との関係を示すグラフである。
【
図14】(a)は、基板に対するラックシャフトの傾きと、ラックシャフトの傾きが正弦波形状検出コイルに鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。(b)は、基板に対するラックシャフトの傾きと、ラックシャフトの傾きが余弦波形状検出コイルに鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。
【
図15】(a)は、基板に対するラックシャフトの傾きと、ラックシャフトの傾きが比較例に係る正弦波形状検出コイルに鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。(b)は、基板に対するラックシャフトの傾きと、ラックシャフトの傾きが比較例に係る余弦波形状検出コイルに鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る位置検出装置としてのストロークセンサ1を備えたステアバイワイヤ式のステアリング装置10が搭載された車両の模式図である。
【0012】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ストロークセンサ1と、転舵輪11(左右の前輪)に連結されたタイロッド12と、タイロッド12に連結されたラックシャフト13と、ラックシャフト13を収容する筒状のハウジング14と、ラックシャフト13のラック歯131に噛み合わされたピニオンギヤ151を有するウォーム減速機構15と、ウォーム減速機構15を介してラックシャフト13に移動力を付与する電動モータ16と、運転者が操舵操作するステアリングホイール17と、ステアリングホイール17の操舵角を検出する操舵角センサ18と、操舵角センサ18によって検出された操舵角に基づいて電動モータ16を制御する操舵制御装置19とを備えている。
【0013】
図1では、ハウジング14を仮想線で示している。ラックシャフト13は、例えば炭素鋼等の鋼材からなり、ハウジング14の両端部に取り付けられた一対のラックブッシュ132に支持されている。ウォーム減速機構15は、ウォームホイール152及びウォームギヤ153を有し、ウォームホイール152にピニオンギヤ151が固定されている。ウォームギヤ153は、電動モータ16のモータシャフト161に固定されている。
【0014】
電動モータ16は、操舵制御装置19から供給されるモータ電流によってトルクを発生し、ウォームギヤ153を介してウォームホイール152及びピニオンギヤ151を回転させる。ピニオンギヤ151が回転すると、ラックシャフト13が車幅方向に進退移動して左右の転舵輪11が転舵される。ラックシャフト13は、操舵角がゼロである場合の中立位置から所定の範囲で車幅方向の右側及び左側に移動可能である。
図1では、ラックシャフト13が車幅方向に移動可能な範囲R
1を両矢印で示している。
【0015】
(ストロークセンサ1の構成)
ストロークセンサ1は、ラックシャフト13に固定された検出体2と、検出体2に対向して配置された基板3と、基板3に実装されたIC(Integrated Circuit)によって構成された回路部4とを備えている。基板3は、ラックシャフト13と平行に、ハウジング14内に固定されている。基板3には、コネクタ5が取り付けられており、基板3と操舵制御装置19とがコネクタ5及びケーブル6によって接続されている。
【0016】
ストロークセンサ1は、ハウジング14に対するラックシャフト13の位置を検出体2の位置によって検出し、検出した位置の情報を操舵制御装置19に出力する。操舵制御装置19は、ストロークセンサ1によって検出されたラックシャフト13の位置が操舵角センサ18によって検出されたステアリングホイール17の操舵角に応じた位置となるように、電動モータ16を制御する。
【0017】
図2は、
図1のA-A線におけるラックシャフト13、ハウジング14、検出体2、及び基板3の断面図である。
図3は、ラックシャフト13、ハウジング14の本体141、検出体2、及び基板3を示す斜視図である。
図3では、ラックシャフト13の中心軸線Cを一点鎖線で示している。ラックシャフト13は、電動モータ16によって付与される移動力により、中心軸線Cに沿って移動する。以下、ラックシャフト13の中心軸線Cに平行な方向を軸方向という。
【0018】
ラックシャフト13は、断面円形状の鋼材からなる棒状体である。ハウジング14は、金属製の本体141と、樹脂製の蓋体142とを有し、蓋体142が本体141に例えば接着によって固定されている。本体141は、ラックシャフト13を収容する収容空間140が形成された断面U字状であり、収容空間140が鉛直方向の上方に向かって開放されている。ラックシャフト13の直径Dは、例えば25mmである。
【0019】
ラックシャフト13の外周面13aと収容空間140の内面140aとの間には、例えば1mm以上の隙間が形成されている。蓋体142は、平板状に形成され、収容空間140を鉛直方向の上方を覆っている。本体141は、非磁性体であり、例えばダイキャスト形成されたアルミニウム合金からなる。なお、蓋体142の材料としては、必ずしも樹脂に限らないが、非磁性かつ非導電性のものを用いることが望ましい。
【0020】
検出体2は、一つの第1検出体部21と二つの第2検出体部22とからなる。第1検出体部21及び第2検出体部22は、ラックシャフト13の外周面13aから基板3に向かって突出するようにラックシャフト13に固定されている。二つの第2検出体部22は、ラックシャフト13の軸方向に離間しており、軸方向における二つの第2検出体部22の中間位置に第1検出体部21が配置されている。本実施の形態では、一つの第1検出体部21と二つの第2検出体部22とが別体であるが、これらが一体であってもよい。また、第1検出体部21の数が二つ以上でもよく、第2検出体部22の数が三つ以上でもよい。つまり、検出体2は、少なくとも一つの第1検出体部21と少なくとも二つの第2検出体部22とを有していればよい。
【0021】
検出体2は、ラックシャフト13よりも透磁率が高い材料、又はラックシャフト13よりも導電率が高い材料からなる。検出体2の材料としてラックシャフト13よりも透磁率が高いものを用いる場合、電気抵抗が高く渦電流が発生しにくいフェライト等の磁性材料を用いることが望ましい。また、ラックシャフト13よりも導電率が高い材料を検出体2に用いる場合、その材料としては、例えばアルミニウムや銅を主成分とする金属を用いることができる。
【0022】
なお、本実施の形態では、第1検出体部21及び第2検出体部22がラックシャフト13の外周面13aから基板3に向かって突出しているので、ラックシャフト13と透磁率が等しい材料、もしくはラックシャフト13と導電率が等しい材料を検出体2の材料として用いても、後述する作用及び効果を得ることができる。ただし、位置の検出精度を高めるためには、ラックシャフト13の材料よりも透磁率が高い高透磁率材料、もしくはラックシャフト13の材料よりも導電率が等しい高導電率材料を、検出体2の材料として用いることが望ましい。
【0023】
第1検出体部21及び第2検出体部22は、ラックシャフト13の上部に例えば接着や溶接等の固定手段によって固定されている。基板3に対向する第1検出体部21及び第2検出体部22の対向面21a,22aは、平面状に形成され、エアギャップGを介して基板3の表(おもて)面3aと平行に向かい合っている。基板3の裏面3bは、接着剤7によって蓋体142に固定されている。基板3側から見た第1検出体部21及び第2検出体部22の対向面21a,22aの形状は、軸方向に長い長方形状である。
【0024】
エアギャップGの幅Wは、例えば1mmである。対向面21a,22aに対して垂直な方向の第1検出体部21及び第2検出体部22の最小厚みTは、例えば5mmである。なお、本実施の形態では、ラックシャフト13が断面円形状に形成されているが、ラックシャフト13の断面形状は円形に限らず、例えば一部が直線状に形成されたD字状、あるいは多角形状であってもよい。
【0025】
基板3は、第1配線層301、第2配線層302、第3配線層303、及び第4配線層304を有する4層基板である。第1配線層301及び第4配線層304は、基板3の外層にあたり、第2配線層302及び第3配線層303は、基板3の内層にあたる。第1配線層301と第2配線層302との間、第2配線層302と第3配線層303との間、及び第3配線層303と第4配線層304との間には、FR4(ガラス繊維にエポキシ樹脂をしみ込ませて熱硬化処理を施したもの)等の誘電体からなる平板状の基材30が配置されている。第1配線層301及び第4配線層304は、電気絶縁性を有するレジスト膜300に覆われている。第1配線層301、第2配線層302、第3配線層303、及び第4配線層304には、配線パターンが形成されており、これら各層の配線パターンが基板3の複数箇所でバイア305によって接続されている。基板3は、ラックシャフト13の軸方向が長手方向となる平坦な長方形状である。基板3の短手方向は、軸方向に対して垂直な方向である。
【0026】
次に、基板3における配線の構成について、
図4乃至
図8を参照して詳細に説明する。
図4(a)は、第1乃至第4配線層301~304の配線パターンを表面3a側から基材30を透視して示す配線図である。
図4(b)は、
図4(a)のB部の拡大図である。
図4(c)は、
図4(a)のC部の拡大図である。
図5(a)は、第1配線層301及び第2配線層302の配線パターンを示す配線図である。
図5(b)は、第3配線層303及び第4配線層304の配線パターンを示す配線図である。
図6(a)は、
図4(a)のB部の周辺における配線パターンを示す斜視図である。
図6(b)は、
図4(a)のC部の周辺における配線パターンを示す斜視図である。
図7は、基板3の回路構成を模式的に示す模式図である。
図8(a)及び(b)は、基板3の回路構成の一部を模式的に示す模式図である。
図4(a)乃至(c)では、第3配線層303及び第4配線層304の配線パターンを淡色で示している。なお、これら各図面に示す配線パターンは一例に過ぎず、本発明の効果を得られるように基板3が形成されている限り、様々な形態の配線パターンを採用することが可能である。
【0027】
基板3には、交流磁界を発生させる励磁コイル31と、励磁コイル31が発生する交流磁界の磁束が鎖交する二つの検出コイル32,33とが配線パターンによって形成されている。励磁コイル31は、第1配線層301及び第4配線層304に形成されている。検出コイル32,33は、第2配線層302及び第3配線層303に形成され、基板3の厚さ方向に積層されている。
【0028】
また、基板3には、回路部4のIC41とコネクタ5のコネクタピン51~54とを接続するコネクタ接続線路34、検出コイル32,33の出力電圧をIC41に伝達する出力電圧伝送線路35、及び励磁コイル31とIC41とを接続する励磁コイル接続線路36が設けられている。
図4(a)では、IC41、コネクタ5、及びコネクタ接続線路34を破線で示している。
【0029】
励磁コイル31は、ラックシャフト13の軸方向に延在する一対の長辺部311,312、及び一対の長辺部311,312の間の一対の短辺部313,314を有する長方形状である。検出コイル32,33は、励磁コイル31の内側に形成されている。励磁コイル31には、励磁コイル接続線路36を経てIC41から交流電圧が供給される。励磁コイル31は、この交流電流の周波数に対応した周波数の交流磁界を発生させる。検出コイル32,33には、励磁コイル31が発生する交流磁界の磁束が鎖交し、交流磁界の周波数に対応した誘起電圧が発生する。
【0030】
励磁コイル31が発生する交流磁界の磁束は、検出体2の第1検出体部21及び第2検出体部22にも鎖交する。第1検出体部21及び第2検出体部22に鎖交する磁束は、二つの検出コイル32,33に鎖交する磁束の強度分布に影響を与え、励磁コイル31が発生する交流磁界によって二つの検出コイル32,33に発生する誘起電圧の大きさが第1検出体部21及び第2検出体部22の位置によって変化する。ラックシャフト13が軸方向一方側の移動端から軸方向他方側の移動端まで移動する間に検出コイル32,33のそれぞれに誘起される電圧の位相は、互いに異なっている。本実施の形態では、検出コイル32,33に誘起される電圧の位相が90°異なる。
【0031】
以下、二つの検出コイル32,33のうち、一方の検出コイル32を正弦波形状検出コイル32といい、他方の検出コイル33を余弦波形状検出コイル33という。正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の出力電圧は、出力電圧伝送線路35によってIC41に出力される。
【0032】
図7では、励磁コイル31、正弦波形状検出コイル32、及び余弦波形状検出コイル33の形状を模式的に示している。
図8(a)では、励磁コイル31及び正弦波形状検出コイル32の形状を示している。
図8(b)では、励磁コイル31及び余弦波形状検出コイル33の形状を示している。
図7ならびに
図8(a)及び(b)では、基板3の短手方向(図面上下方向)の幅を、基板3の長手方向(図面左右方向)の長さよりも誇張して示している。
【0033】
正弦波形状検出コイル32は、励磁コイル31の交流磁界の磁束が鎖交することにより誘起電圧が発生する第1部分321及び第2部分322と、第1部分321と第2部分322とを接続する接続部323とを有している。第1部分321及び第2部分322は、それぞれがラックシャフト13の軸方向に平行なコイル長手方向に沿って延在すると共に、コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでいる。
【0034】
同様に、余弦波形状検出コイル33は、励磁コイル31の交流磁界の磁束が鎖交することにより誘起電圧が発生する第1部分331及び第2部分332と、第1部分331の軸方向一方側の端部と第2部分332の軸方向他方側の端部とを接続する接続部333とを有している。第1部分331及び第2部分332は、それぞれがラックシャフト13の軸方向に平行なコイル長手方向に沿って延在すると共に、コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでいる。
【0035】
本実施の形態では、正弦波形状検出コイル32の第1部分321及び第2部分322のコイル長手方向の長さ、ならびに余弦波形状検出コイル33の第1部分331及び第2部分332のコイル長手方向の長さが、全て同じである。正弦波形状検出コイル32の第1部分321と余弦波形状検出コイル33の第1部分331、及び正弦波形状検出コイル32の第2部分322と余弦波形状検出コイル33の第2部分332は、それぞれ基板3の厚さ方向に積層されている。
【0036】
また、本実施の形態では、正弦波形状検出コイル32の第1部分321の全体と第2部分322の全体とがコイル長手方向に対して垂直な基板3の短手方向に並び、余弦波形状検出コイル33の第1部分331の全体と第2部分332の全体とがコイル長手方向に対して垂直な基板3の短手方向に並んでいる。
【0037】
正弦波形状検出コイル32は、折り返し点324で接続された一対の導体線32a,32bによって構成されている。
図7及び
図8(a)では、一対の導体線32a,32bのうち一方の導体線32aを実線で示し、他方の導体線32bを破線で示している。折り返し点324は、一対の導体線32a,32bに沿った出力電圧伝送線路35からの距離が最も遠い位置にある。
【0038】
余弦波形状検出コイル33は、折り返し点334で接続された一対の導体線33a,33bによって構成されている。
図7及び
図8(b)では、一対の導体線33a,33bのうち一方の導体線33aを実線で示し、他方の導体線33bを破線で示している。折り返し点334は、一対の導体線33a,33bに沿った出力電圧伝送線路35からの距離が最も遠い位置にある。
【0039】
正弦波形状検出コイル32の第1部分321及び第2部分322は、コイル長手方向に対して垂直な方向から見た形状が、軸方向に延びる対称軸線A321,A322を挟んで対称となる正弦曲線状の一対の導体線32a,32bを組み合わせた形状である。接続部323は、第1部分321と第2部分322との間の距離が最も短くなるコイル長手方向の中央部で第1部分321と第2部分322とを接続している。接続部323における導体線32a,32bは、励磁コイル31が発生する交流磁界によって誘起電圧が発生しないよう、基板3の厚さ方向に重なっている。
【0040】
同様に、余弦波形状検出コイル33の第1部分331及び第2部分332は、基板3のコイル長手方向に対して垂直な方向から見た形状が、軸方向に延びる対称軸線A331,A332を挟んで対称となる余弦曲線状の一対の導体線33a,33bを組み合わせた形状である。ここで余弦曲線状とは、位相が90°ずれた正弦曲線状と換言することができる。接続部333は、出力電圧伝送線路35とは反対側で第1部分331と第2部分332との距離が最も短くなるコイル長手方向の端部で第1部分331と第2部分332とを接続している。接続部333における導体線33a,33bは、励磁コイル31が発生する交流磁界によって誘起電圧が発生しないよう、基板3の厚さ方向に重なっている。
【0041】
検出体2は、ラックシャフト13が軸方向一方側の移動端から軸方向他方側の移動端まで移動する間に、第1検出体部21が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331に対向し、第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332に対向する。正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331に発生する誘起電圧は、第1部分321,331に対する第1検出体部21の位置によって変化し、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332に発生する誘起電圧は、第2部分322,332に対する第2検出体部22の位置によって変化する。
【0042】
図9及び
図10(a)乃至(d)は、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に対する検出体2の位置を示す説明図である。
図9は、ラックシャフト13が中立位置にあるときの状態を示している。
図10(a)は、ラックシャフト13が軸方向一方側の移動端にあるときの状態を、
図10(b)は、ラックシャフト13が軸方向一方側の移動端と中立位置との中間の位置にあるときの状態を、
図10(c)は、ラックシャフト13が中立位置と軸方向他方側の移動端との中間の位置にあるときの状態を、
図10(d)は、ラックシャフト13が軸方向他方側の移動端にあるときの状態を、それぞれ示している。なお、ラックシャフト13の中立位置は、軸方向一方側の移動端と軸方向他方側の移動端との間の中央の位置である。
【0043】
図9及び
図10(a)乃至(d)では、第1検出体部21の基板3との対向面21a及び第2検出体部22の対向面22aを淡色で示している。また、
図9では、第1検出体部21の基板3との対向面21aにおける中心点210、及び第2検出体部22の対向面22aにおける中心点220を、それぞれ黒丸で示している。
図9に示すように、ラックシャフト13が中立位置にあるとき、第1検出体部21がコイル長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331の中央部に対向し、第2検出体部22は、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に対向しない。
【0044】
コイル長手方向における第1検出体部21の中心点210と二つの第2検出体部22のそれぞれの中心点220とのそれぞれの距離D1は、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331及び第2部分322,332のコイル長手方向の長さL0と等しい。コイル長手方向における二つの第2検出体部22のそれぞれの中心点220の間の距離D2は、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331及び第2部分322,332のコイル長手方向の長さL0の2倍である。第1検出体部21の軸方向長さL21と第2検出体部22の軸方向長さL22とは同じである。第1検出体部21の軸方向長さL21及び第2検出体部22の軸方向長さL22は、例えば正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の長さL0の二分の一以下である。
【0045】
図10(a)に示すように、ラックシャフト13が軸方向一方側の移動端にあるときには、第1検出体部21及び一方の第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33から外れた位置にあり、他方の第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332のコイル長手方向の中央部に対向する。
【0046】
図10(b)に示すように、第1検出体部21がコイル長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331の一方の端部に対向するときには、一方の第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33から外れた位置にあり、他方の第2検出体部22がコイル長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332の他方の端部に対向する。
【0047】
図10(c)に示すように、第1検出体部21がコイル長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331の他方の端部に対向するときには、一方の第2検出体部22がコイル長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332の一方の端部に対向し、他方の第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33から外れた位置にある。
【0048】
図10(d)に示すように、ラックシャフト13が軸方向他方側の移動端にあるときには、一方の第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332のコイル長手方向の中央部に対向し、第1検出体部21及び他方の第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33から外れた位置にある。
【0049】
図10(b)及び(c)では、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331と第1検出体部21とが基板3に垂直な方向に重なる範囲の軸方向の長さである重なり長さをL
1で示し、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第2部分322,332と第2検出体部22とが基板3に垂直な方向に重なる範囲の軸方向の長さである重なり長さをL
2で示している。第1検出体部21が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33が形成された範囲から軸方向にずれた際にはL
1が0となり、第2検出体部22が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33が形成された範囲から軸方向にずれた際にはL
2が0となる。検出体2は、L
1とL
2とを合算した合計長さが常に第1検出体部21及び第2検出体部22の軸方向長さL
21,L
22と同じになるように、一つの第1検出体部21と二つの第2検出体部22とが軸方向にオフセットしている。
【0050】
第1検出体部21及び第2検出体部22がラックシャフト13よりも透磁率が高い材料からなる場合、第1検出体部21及び第2検出体部22に磁束が集中して流れ、基板3において第1検出体部21及び第2検出体部22と向かい合う部分の磁束密度が他の部分よりも高くなる。また、第1検出体部21及び第2検出体部22がラックシャフト13よりも導電率が高い材料からなる場合、交流磁界によって第1検出体部21及び第2検出体部22に発生する渦電流により正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に鎖交する磁束の密度が低くなり、基板3において第1検出体部21及び第2検出体部22と向かい合う部分の磁束密度が他の部分よりも低くなる。このため、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に誘起される電圧の大きさが、基板3に対する第1検出体部21及び第2検出体部22の位置に応じて変化する。
【0051】
正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33には、励磁コイル31に供給される交流電流の周期と同じ周期の電圧が誘起され、この誘起電圧のピーク値が第1検出体部21及び第2検出体部22の位置に応じて変化する。なお、ここで電圧のピーク値とは、励磁コイル31に供給される交流電流の1周期分の期間内における電圧の絶対値の極大値をいう。
【0052】
正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に誘起される電圧のピーク値は、ラックシャフト13が軸方向一方側の移動端から軸方向他方側の移動端まで移動する間に、1周期分以下の範囲で変化する。これにより、ストロークセンサ1は、ラックシャフト13が軸方向に移動可能な範囲R1の全体にわたって、ラックシャフト13の絶対位置を検出可能である。
【0053】
(ストロークセンサ1の動作)
次に、基板3に対する検出体2の位置を検出するためのストロークセンサ1の動作について
図11乃至
図13を参照して説明する。以下の説明において、検出体2の位置とは、軸方向における第1検出体部21の中心点210の位置をいう。
【0054】
図11は、第1検出体部21が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331と重なっている場合において、励磁コイル31に供給される供給電圧V
0と、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧V
1及び余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧V
2との関係の一例を示すグラフである。
図11のグラフの横軸は時間軸であり、左右の縦軸に供給電圧V
0及び誘起電圧V
1,V
2を示している。
図11に示す例では、供給電圧V
0と誘起電圧V
1,V
2とが同相であるが、基板3に対する検出体2の位置によっては、誘起電圧V
1,V
2の一方又は両方が供給電圧V
0と逆相となる。
【0055】
図12は、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧V
1のピーク値であるピーク電圧Vsと、検出体2の位置との関係を示すグラフである。
図13は、余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧V
2のピーク値であるピーク電圧Vcと、検出体2の位置との関係を示すグラフである。
図12及び
図13に示すグラフの横軸は、検出体2の位置を示している。
図12に示すグラフにおいて、正弦波形状検出コイル32のピーク電圧Vsは、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧V
1が励磁コイル31に供給される電圧V
0と同相であるときを正値とし、逆相であるときを負値としている。また、
図13に示すグラフにおいて、余弦波形状検出コイル33のピーク電圧Vcは、余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧V
2が励磁コイル31に供給される電圧V
0と同相であるときを正値とし、逆相であるときを負値としている。
【0056】
図12及び
図13のグラフの横軸において、P
0はラックシャフト13が中立位置にあるときの検出体2の位置を示し、P
1は
図10(a)に示す状態における検出体2の位置を示し、P
2は
図10(d)に示す状態における検出体2の位置を示している。ストロークセンサ1は、コイル長手方向における二つの第2検出体部22のそれぞれの中心点220の間の距離D
2の範囲で検出体2の絶対位置を検出可能である。本実施の形態では、ラックシャフト13が軸方向に移動可能な範囲R
1の長さと距離D
2が同じである。ただし、範囲R
1が距離D
2より短くてもよい。
【0057】
ここで、ピーク電圧Vs,Vcは、
図12及び
図13に示すグラフにおける検出体2の横軸座標の座標値をXp(P
1≦Xp≦P
2)として、式[1]及び式[2]によってそれぞれ求められる。式[1]及び式[2]において、Aは所定の定数である。
【数1】
【数2】
式[2]及び式[3]より、Xpは、式[3]によって求められる。つまり、ピーク電圧Vs,Vcに基づいて、検出体2の位置を演算によって求めることができる。
【数3】
【0058】
ところで、例えば車両走行時の振動によってラックシャフト13が基板3に対して傾き、基板3とラックシャフト13との間隔が変化すると、ラックシャフト13が励磁コイル31の内側における磁束の強度分布に影響を与える程度の度合いが基板3の長手方向の位置によって変わってしまう。本実施の形態では、ラックシャフト13の傾きが検出体2の位置の検出精度に与える影響を、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331と第2部分322,332とを基板3の短手方向に並べた構成によって抑制している。次に、この構成による作用及び効果を、比較例との比較によって説明する。
【0059】
図14(a)は、基板3に対するラックシャフト13の傾きと、ラックシャフト13の傾きが正弦波形状検出コイル32に鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。
図14(b)は、基板3に対するラックシャフト13の傾きと、ラックシャフト13の傾きが余弦波形状検出コイル33に鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。
図14(a)及び(b)では、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331及び第2部分322,332の二等分線BLを二点鎖線で示しており、この二等分線BL上のターゲットマークTMで示す点を中心としてラックシャフト13が図面上下方向に傾いた状態を示している。ラックシャフト13は、ターゲットマークTMよりも図面左側の部分が基板3に接近し、ターゲットマークTMよりも図面右側の部分が基板3から離間するように傾いている。なお、
図14(a)及び(b)では、ラックシャフト13の傾きを誇張して示している。
【0060】
ラックシャフト13には、励磁コイル31が発生する交流磁界の磁束が鎖交することにより渦電流が流れる。この渦電流は、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に鎖交する磁束を弱めるように作用する。この作用の影響は、ラックシャフト13と基板3との距離が近い部位ほど大きくなる。
図14(a)及び(b)では、ラックシャフト13が傾くことによってこの影響が大きくなる正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の内側の領域を濃色のグレーで示し、ラックシャフト13が傾くことによってこの影響が小さくなる正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の内側の領域を淡色のグレーで示している。
【0061】
図14(a)に示すように、正弦波形状検出コイル32の第1部分321及び第2部分322における二等分線BLの左側にあたる第1左側部分321A及び第2左側部分322Aでは、ラックシャフト13が図示のように傾くことにより、ラックシャフト13に発生する渦電流の影響が大きくなって磁束密度が低くなる。正弦波形状検出コイル32の第1部分321及び第2部分322における二等分線BLの右側にあたる第1右側部分321B及び第2右側部分322Bでは、ラックシャフト13が図示のように傾くことにより、ラックシャフト13に発生する渦電流の影響が小さくなって磁束密度が高くなる。しかし、第1左側部分321Aの磁束密度の減少が誘起電圧V
1に与える影響と第1右側部分321Bの磁束密度の増大が誘起電圧V
1に与える影響とは相殺される。また、第2左側部分322Aの磁束密度の減少が誘起電圧V
1に与える影響と第2右側部分322Bの磁束密度の増大が誘起電圧V
1に与える影響とは相殺される。これにより、ラックシャフト13が基板3に対して傾いても、そのことによって誘起電圧V
1は変動しない。
【0062】
図14(b)に示すように、余弦波形状検出コイル33の第1部分331及び第2部分332における二等分線BLの左側にあたる第1左側部分331A及び第2左側部分332Aでは、ラックシャフト13が図示のように傾くことにより、ラックシャフト13に発生する渦電流の影響が大きくなって磁束密度が低くなる。余弦波形状検出コイル33の第1部分331及び第2部分332における二等分線BLの右側にあたる第1右側部分331B及び第2右側部分332Bでは、ラックシャフト13が図示のように傾くことにより、ラックシャフト13に発生する渦電流の影響が小さくなって磁束密度が高くなる。しかし、第1左側部分331Aの磁束密度の減少が誘起電圧V
2に与える影響と第2右側部分332Bの磁束密度の増大が誘起電圧V
2に与える影響とは相殺される。また、第2左側部分332Aの磁束密度の減少が誘起電圧V
2に与える影響と第1右側部分331Bの磁束密度の増大が誘起電圧V
2に与える影響とは相殺される。これにより、ラックシャフト13が基板3に対して傾いても、そのことによって誘起電圧V
2は変動しない。
【0063】
このように、本実施の形態では、ラックシャフト13が基板3に対して傾いても、誘起電圧V1,V2が何れも変動しない。これにより、本実施の形態では、ラックシャフト13の位置を高い精度で検出することが可能となる。また、本実施の形態では、ラックシャフト13が中立位置にあるとき、第1検出体部21がコイル長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331の中央部に対向するので、例えばラックシャフト13が中立位置にあるときに第1検出体部21が正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331の端部に対向する場合に比較して、中立位置付近における検出体2の位置をより正確に検出することができる。第1検出体部21と第2検出体部22との軸方向の距離の寸法誤差や、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の第1部分321,331の端部における配線パターンの重なりによる影響を受けにくいためである。
【0064】
[比較例]
図15(a)は、基板3に対するラックシャフト13の傾きと、ラックシャフト13の傾きが比較例に係る正弦波形状検出コイル320に鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。
図15(b)は、基板3に対するラックシャフト13の傾きと、ラックシャフト13の傾きが比較例に係る余弦波形状検出コイル330に鎖交する磁束密度に与える影響との関係を模式的に示す説明図である。
【0065】
比較例に係る正弦波形状検出コイル320は、上記の実施の形態に係る正弦波形状検出コイル32と同様、一対の導体線32a,32bによって第1部分321及び第2部分322が形成されているが、接続部323を有しておらず、第1部分321と第2部分322とが二等分線BLを挟んでラックシャフト13の軸方向に沿って並んでいる。また、比較例に係る余弦波形状検出コイル330は、上記の実施の形態に係る余弦波形状検出コイル33と同様、一対の導体線33a,33bによって第1部分331及び第2部分332が形成されているが、接続部333を有しておらず、第1部分331と第2部分332とが二等分線BLを挟んでラックシャフト13の軸方向に沿って並んでいる。
【0066】
比較例に係る正弦波形状検出コイル320では、ラックシャフト13が図示のように傾くと、第1部分321においてラックシャフト13に発生する渦電流の影響が大きくなって磁束密度が低くなり、第2部分322においてラックシャフト13に発生する渦電流の影響が小さくなって磁束密度が高くなる。ただし、第1部分321と第2部分322とでは、基板3の短手方向における一対の導体線32a,32bの並びが逆であるので、第1部分321において磁束密度が低くなる影響と第2部分322において磁束密度が高くなる影響とが相殺されず、ラックシャフト13が傾くことによって誘起電圧V1のピーク値が変動してしまう。これにより、比較例に係る正弦波形状検出コイル320を用いた場合には、ラックシャフト13の検出位置に誤差が生じてしまう。
【0067】
なお、比較例に係る余弦波形状検出コイル330では、余弦波形状検出コイル330の内側の各領域を、
図15(b)に示すように第1左側部分331C、第1右側部分331D、第2左側部分332C、及び第2右側部分332Dとした場合に、ラックシャフト13の傾きが第1左側部分331Cの磁束に与える影響と第2右側部分332Dの磁束に与える影響とが相殺されると共に、ラックシャフト13の傾きが第1右側部分331Dの磁束に与える影響と第2左側部分332Cの磁束に与える影響とが相殺され、ラックシャフト13が基板3に対して傾いても誘起電圧V
2は変動しない。
【0068】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0069】
[1]軸方向に進退移動するシャフト(ラックシャフト13)の位置を検出する位置検出装置(ストロークセンサ1)であって、交流磁界を発生させる励磁コイル(31)と、前記シャフト(13)に固定され、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出体(2)と、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出コイル(32,33)と、を備え、前記検出コイル(32,33)は、前記交流磁界の磁束が鎖交することにより誘起電圧が発生する第1部分(321,331)及び第2部分(322,332)と、前記第1部分(321,331)と前記第2部分(322,332)とを接続する接続部(323,333)とを有し、前記第1部分(321,331)及び前記第2部分(322,332)は、それぞれが前記軸方向に平行なコイル長手方向に沿って延在すると共に、それぞれの少なくとも一部が前記コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでおり、前記検出体(2)は、前記第1部分(321,331)に対向する少なくとも一つの第1検出体部(21)と、前記第2部分(322,332)に対向する少なくとも二つの第2検出体部(22)とを有し、当該少なくとも二つの前記第2検出体部(22)が前記軸方向に離間しており、前記第1部分(321,331)に対する前記第1検出体部(21)の位置によって前記第1部分(321,331)に発生する誘起電圧が変化し、前記第2部分(322,332)に対する前記第2検出体部(22)の位置によって前記第2部分(322,332)に発生する誘起電圧が変化し、前記軸方向において前記少なくとも二つの前記第2検出体部(22)の間に前記第1検出体部(21)が配置されており、前記シャフト(13)が軸方向一方側の移動端と軸方向他方側の移動端との中央位置にあるとき、前記第1検出体部(21)が前記第1部分(321,331)の前記コイル長手方向における中央部に対向する、位置検出装置(1)。
【0070】
[2]前記少なくとも二つの前記第2検出体部(22)のそれぞれの中心点(220)間の距離(D2)が前記第2部分(322,332)の前記コイル長手方向の長さの2倍である、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0071】
[3]前記第1検出体部(21)が前記コイル長手方向における前記第1部分(321,331)の一方の端部に対向するとき、前記少なくとも二つの前記第2検出体部(22)のうち一方の前記第2検出体部(22)が前記コイル長手方向における前記第2部分(322,332)の端部に対向し、前記第1検出体部(21)が前記コイル長手方向における前記第1部分(321,331)の他方の端部に対向するとき、前記少なくとも二つの前記第2検出体部(22)のうち他方の前記第2検出体部(22)が前記コイル長手方向における前記第2部分(322,332)の端部に対向する、上記[2]に記載の位置検出装置(1)。
【0072】
[4]前記検出コイル(32,33)は、前記コイル長手方向に対して垂直な方向から見た前記第1部分(321,331)及び前記第2部分(322,332)のそれぞれの形状が、前記コイル長手方向に延びる対称軸線(A321,A322,A331,A332)を挟んで対称となる一対の正弦曲線状の導体線(32a,32b,33a,33b)を組み合わせた形状である、上記[3]に記載の位置検出装置(1)。
【0073】
[5]前記第1部分(321,331)の前記コイル長手方向における長さ(L0)と前記第2部分(322,332)の前記コイル長手方向における長さ(L0)とが同じであり、前記第1部分(321,331)の全体と前記第2部分(322,332)の全体とが、前記コイル長手方向に対して垂直な並び方向に並んでいる、上記[4]に記載の位置検出装置(1)。
【0074】
[6]前記励磁コイル(31)及び前記検出コイル(32,33)が1枚の基板(3)に形成されている、上記[1]乃至[5]に記載の位置検出装置(1)。
【0075】
[7]二つの前記検出コイル(32,33)を備え、前記シャフト(13)が前記軸方向一方側の移動端から前記軸方向他方側の移動端まで移動する間に二つの前記検出コイル(32,33)のそれぞれに誘起される電圧の位相が互いに異なっている、上記[1]乃至[5]に記載の位置検出装置(1)。
【0076】
[8]前記励磁コイル(31)及び二つの前記検出コイル(32,33)が1枚の基板(3)に形成されており、二つの前記検出コイル(32,33)が前記基板(3)の厚さ方向に積層されている、上記[7]に記載の位置検出装置(1)。
【0077】
[9]前記励磁コイル(31)の内側に二つの前記検出コイル(32,33)が形成されている、上記[8]に記載の位置検出装置(1)。
【0078】
[10]前記シャフト(13)が車両のステアリング装置(10)のラックシャフト(13)である、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0079】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。またさらに、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能であり、例えば次のように変形して実施することができる。
【0080】
上記の実施の形態では、第1検出体部21及び第2検出体部22がラックシャフト13から基板3に向かって突出して設けられた場合について説明したが、これに限らず、例えば検出体2をラックシャフト13の軸方向に長い平板状とし、第1検出体部21及び第2検出体部22を凹部又は切り欠きとして形成してもよい。この場合でも、第1検出体部21及び第2検出体部22と対向する部分と対向しない部分とで磁束密度が変わるので、上記の実施の形態と同様にラックシャフト13の位置を検出することができる。
【0081】
また、上記の実施の形態では、検出コイル32,33が正弦曲線状である場合について説明したが、これに限らず、例えば三角波形状であってもよい。またさらに、励磁コイル31及び検出コイル32,33は、必ずしも基板に形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…ストロークセンサ(位置検出装置) 13…シャフト(ラックシャフト)
2…検出体 21…第1検出体部
210…中心点 22…第2検出体部
220…中心点 3…基板
31…励磁コイル 32…正弦波形状検出コイル
32a,32b…導体線 321…第1部分
322…第2部分 323…接続部
33…余弦波形状検出コイル 33a,33b…導体線
331…第1部分 332…第2部分
333…接続部 A321,A322…対称軸線
A331,A332…対称軸線