(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015948
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】多孔質アルミナ粉体の製造方法および両親媒性有機分子の除去方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/30 20220101AFI20240130BHJP
【FI】
C01F7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172733
(22)【出願日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2022117917
(32)【優先日】2022-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出-プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】若林 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 辰雄
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB13
4G076BA14
4G076BA23
4G076BA42
4G076BB03
4G076BB08
4G076BC02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA11
4G076CA12
4G076CA22
4G076CA28
4G076CA33
4G076DA01
4G076DA25
4G076FA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】焼成工程における焼成炉の汚染を抑制することができ、かつ、比表面積の大きな多孔質アルミナ粉体を得ることができる多孔質アルミナ粉体の製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質アルミナ粉体の製造方法は、以下の工程:アルミニウム化合物、両親媒性有機分子、酸および第1溶媒を含むアルミナ前駆溶液を得る調製工程;前記アルミナ前駆溶液を乾燥して、アルミナと両親媒性有機分子との複合体を含む乾燥粉体を得る乾燥工程;および、前記乾燥粉体を、第2溶媒を含む洗浄液により洗浄し、前記両親媒性有機分子が溶出した多孔質アルミナ粉体を得る洗浄工程を含み、前記第2溶媒は、比誘電率が8~32の範囲であり、かつ、前記洗浄液は、実質的に酸を含まない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
アルミニウム化合物、両親媒性有機分子、酸および第1溶媒を含むアルミナ前駆溶液を得る調製工程;
前記アルミナ前駆溶液を乾燥して、アルミナと両親媒性有機分子との複合体を含む乾燥粉体を得る乾燥工程;および、
前記乾燥粉体を、第2溶媒を含む洗浄液により洗浄し、前記両親媒性有機分子が溶出した多孔質アルミナ粉体を得る洗浄工程
を含み、
前記第2溶媒は、比誘電率が8~32の範囲であり、かつ、
前記洗浄液は、実質的に酸を含まない
ことを特徴とする多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程の後、前記多孔質アルミナ粉体を焼成する焼成工程を含む
ことを特徴とする請求項1の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄液は、水中での酸乖離定数(pKa)が4以上である塩基を含む
ことを特徴とする請求項1の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液中の前記塩基の含有量が0.01~10mol%である
ことを特徴とする請求項3の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【請求項5】
前記調製工程における前記両親媒性有機分子が、非イオン性界面活性剤である
ことを特徴とする請求項1の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質アルミナ粉体は、比表面積が100m2g-1以上である
ことを特徴とする請求項1の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【請求項7】
アルミナと両親媒性有機分子との複合体から前記両親媒性有機分子を除去する、両親媒性有機分子の除去方法であって、
前記複合体を含む乾燥粉体を、溶媒を含む洗浄液により洗浄し、前記両親媒性有機分子を溶出させる工程
を含み、
前記溶媒は、比誘電率が8~32の範囲であり、かつ、
前記洗浄液は、実質的に酸を含まない
ことを特徴とする除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質アルミナ粉体の製造方法および両親媒性有機分子の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナを含む粉体は、触媒材料、吸着材料、電子材料(絶縁体)、機械部品、耐熱部品、などの各種の用途に使用されている。特に、多孔質のアルミナ粉体は比表面積が大きく、触媒材料や吸着材料として、重量当たり多量の反応サイトを提供することができる。
【0003】
そして、多孔質のアルミナ粉体の比表面積を最大化するためには、均一な孔径からなる孔が規則的に配置された多孔質構造を形成することが望ましい。このような多孔質構造を有するアルミナ粉体を形成する方法として、例えば、アルミナを合成する際に両親媒性有機分子の自己組織化を同時に進行させ、形成したアルミナ-両親媒性有機分子の複合体から、両親媒性有機分子を除去することで孔を形成させる方法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 11, 3465-3472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1の方法の場合、アルミナ-両親媒性有機分子複合体から両親媒性有機分子を除去する工程として、400℃~550℃程度の焼成が行われる(焼成工程)。この際、燃焼した多量の有機物によって焼成炉が汚染されるため、脱脂のために焼成炉を改造しても多孔質アルミナ粉体の製造において焼成工程が律速する虞があるとともに、焼成炉の洗浄作業も必要になるという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、焼成工程における焼成炉の汚染を抑制することができ、かつ、比表面積の大きな多孔質アルミナ粉体を得ることができる多孔質アルミナ粉体の製造方法を提供することを課題としている。また、アルミナ-両親媒性有機分子の複合体から両親媒性有機分子を除去する方法であって、前記多孔質アルミナ粉体を得ることができる除去方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、以下の特徴を有する多孔質アルミナ粉体の製造方法および両親媒性有機分子の除去方法が提供される。
【0009】
[1]以下の工程:
アルミニウム化合物、両親媒性有機分子、酸および第1溶媒を含むアルミナ前駆溶液を得る調製工程;
前記アルミナ前駆溶液を乾燥して、アルミナと両親媒性有機分子との複合体を含む乾燥粉体を得る乾燥工程;および、
前記乾燥粉体を、第2溶媒を含む洗浄液により洗浄し、前記両親媒性有機分子が溶出した多孔質アルミナ粉体を得る洗浄工程
を含み、
前記第2溶媒は、比誘電率が8~32の範囲であり、かつ、前記洗浄液は、実質的に酸を含まない
ことを特徴とする多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【0010】
[2]前記洗浄工程の後、前記多孔質アルミナ粉体を焼成する焼成工程を含む
ことを特徴とする前記[1]の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【0011】
[3]前記洗浄液は、水中での酸乖離定数(pKa)が4以上である塩基を含む
ことを特徴とする前記[1]または[2]の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【0012】
[4]前記洗浄液中の前記塩基の含有量が0.01~10mol%である
ことを特徴とする前記[3]の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【0013】
[5]前記調製工程における前記両親媒性有機分子が、非イオン性界面活性剤である
ことを特徴とする前記[1]から[4]の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【0014】
[6]前記多孔質アルミナ粉体は、比表面積が100m2g-1以上である
ことを特徴とする前記[1]から請求項[5]の多孔質アルミナ粉体の製造方法。
【0015】
[7]アルミナと両親媒性有機分子との複合体から前記両親媒性有機分子を除去する、両親媒性有機分子の除去方法であって、
前記複合体を含む乾燥粉体を、溶媒を含む洗浄液により洗浄し、前記両親媒性有機分子を溶出させる工程
を含み、
前記溶媒は、比誘電率が8~32の範囲であり、かつ、
前記洗浄液は、実質的に酸を含まない
ことを特徴とする除去方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法によれば、焼成炉の汚染を抑制することができ、かつ、比表面積の大きな多孔質アルミナ粉体を得ることができる。本発明の除去方法によれば、アルミナと両親媒性有機分子との複合体から両親媒性有機分子を除去することができ、前記多孔質アルミナ粉体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図2】実施例2の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図3】実施例3の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図4】実施例4の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図5】実施例5の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図6】実施例6の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図7】実施例7の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図8】比較例1の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図9】比較例2の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図10】比較例5の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【
図11】洗浄を行わなかった場合の多孔質アルミナ粉体のXRD回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来より、両親媒性有機分子を利用した同様の手法によって多孔質構造が形成される多孔質シリカ粉体(メソポーラスシリカ)では、シリカ-両親媒性有機分子複合体を溶媒で洗浄し、焼成に先立って両親媒性有機分子の量を低減させる取り組みがなされている。この際に、両親媒性有機分子の除去を促進するため、溶媒には塩酸等の酸を添加することがよく行われている。
【0019】
このような背景から、本発明者は、当初、アルミナ-両親媒性有機分子複合体を、酸を含む溶媒によって洗浄し、両親媒性有機分子の除去を試みたところ、シリカの場合と異なり、酸を含む溶媒ではアルミナの多孔質構造が崩壊またはアルミナ自体が完全に溶解してしまうことを見出した。また、アルミナ-両親媒性有機分子複合体の調製には、アルミナと非イオン性両親媒性有機分子の協奏的な自己組織化を促すため、酸を添加する必要があるが、アルミナ-両親媒性有機分子複合体中にその酸が残存している場合、アルミナの多孔質構造を崩壊させる虞があることを見出した。
【0020】
本発明者は、上記のような新規な知見を見出し、これを改善する手法について鋭意研究することで本発明を完成させるに至った。
【0021】
以下、本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法の一実施形態について説明する。
【0022】
本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法は、以下の工程:
アルミニウム化合物、両親媒性有機分子、酸および第1溶媒を含むアルミナ前駆溶液を得る調製工程;
前記アルミナ前駆溶液を乾燥して、アルミナと両親媒性有機分子との複合体を含む乾燥粉体を得る乾燥工程;および、
前記乾燥粉体を、第2溶媒を含む洗浄液により洗浄し、前記両親媒性有機分子が溶出した多孔質アルミナ粉体を得る洗浄工程
を含む。
【0023】
(調製工程)
調製工程では、アルミニウム化合物、両親媒性有機分子、酸および第1溶媒を含むアルミナ前駆溶液を得る。例えば、これらの材料を所定の配合で、撹拌等しながら混合することでアルミナ前駆溶液を得ることができる。
【0024】
アルミニウム化合物は、焼成によりアルミナになるアルミニウム化合物であり、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシドを例示することができる。なかでも、アルミニウム化合物は、アルミニウムアルコキシドであることが好ましい。
【0025】
アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウム(トリ-sec-ブトキシド)、アルミニウム(トリ-n-ブトキシド)、アルミニウム(トリtert-ブトキシド)、アルミニウム(トリ-iso-プロポキシド)、アルミニウム(トリ-エトキシド)、アルミニウム(トリ-フェノキシド)のうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、アルミニウム(トリ-sec-ブトキシド)であることが特に好ましい。
【0026】
アルミニウム化合物の配合量は、特に限定されないが、アルミナ前駆溶液に対して、1.0~30.0質量%であることが好ましく、3.0~15.0質量%であることがより好ましい。
【0027】
両親媒性有機分子は、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。また、両親媒性有機分子は、親水性高分子鎖の含有率が5%以上75%以下であることが好ましい。
【0028】
親水性高分子鎖は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)のうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0029】
なかでも、両親媒性有機分子は、親水性高分子鎖としてポリエチレンオキシドを含むことが好ましく、具体的には、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体であることがより好ましい。
【0030】
ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体の分子量は、例えば、1000~15000の範囲を例示することができ、5000~13000の範囲であることが好ましい。
【0031】
また、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体における各ポリエチレンオキシド(エチレンオキシド鎖)の長さは、エチレンオキシドからなるモノマー単位の繰り返し数が、5~500であることが好ましく、40~200であることがより好ましい。
【0032】
このようなポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体としては、市販のものを使用することもでき、例えば、シグマアルドリッチ社製 Pluronic L121、Pluronic P123、Pluronic F127、Pluronic L61、Pluronic L64、Pluronic L61、Pluronic L31、Pluronic L35を好ましく例示することができる。これらのポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロック共重合体は、親水性高分子鎖(ポリエチレンオキシド)の含有率が5%以上75%以下であることが好ましい。
【0033】
両親媒性有機分子の配合量は、特に限定されないが、アルミナ前駆溶液に対して、1.0~20.0質量%であることが好ましく、3.0~10.0質量%であることがより好ましい。
【0034】
酸は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、または、カルボン酸、スルホン酸、等の有機酸のうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、酸は、特に無機酸が好ましく、さらには無機酸のうち、塩酸または硝酸であることがより好ましい。
【0035】
酸の配合量は、特に限定されないが、アルミナ前駆溶液に対して、0.3~10.0質量%であることが好ましく、1.0~4.0質量%であることがより好ましい。
【0036】
第1溶媒は、アルコール類、エーテル、水、ケトンなどを例示することができる。特に、アルコール類は、エタノール、メタノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-プロパノール、iso-プロパノールなどの各種のアルコールのうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、アルコール類は、エタノールであることが好ましい。
【0037】
第1溶媒の配合量は、特に限定されないが、アルミナ前駆溶液に対して、前述のアルミニウム化合物、両親媒性有機分子、酸を除いた残りである40.0~97.7質量%であることが好ましく、71.0~93.0質量%であることがより好ましい。
【0038】
(乾燥工程)
乾燥工程では、調製工程で得たアルミナ前駆溶液を乾燥して乾燥粉体を得る。乾燥粉体には、アルミナ-両親媒性有機分子の複合体が含まれる。ここで、本発明において、乾燥粉体に含まれる「アルミナ」は、結晶性のアルミナ(狭義のアルミナ:αアルミナ、γアルミナ)のみならず、アモルファスのアルミナ、アルミナ水和物(結晶性またはアモルファス)の形態を包含するアルミニウムの酸化物である。
【0039】
アルミナ前駆溶液を乾燥する方法は、特に限定されないが、例えば噴霧乾燥(スプレードライ)、凍結乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、自然乾燥といった公知の任意の方法のうちの1つまたは2つ以上の組み合わせが例示される。その中でも、特に噴霧乾燥が生産性の観点で好ましい。
【0040】
また、乾燥工程で得られる乾燥粉末の水分量は、適宜、公知の手段によって調整され得る。
【0041】
(洗浄工程)
洗浄工程では、乾燥工程で得た乾燥粉体を、第2溶媒を含む洗浄液により洗浄し、両親媒性有機分子が溶出した多孔質アルミナ粉体を得る。
【0042】
具体的には、例えば、乾燥粉体に、所定の割合で洗浄液を配合し、撹拌等しながら混合することで洗浄を行うことができる。
【0043】
第2溶媒は、両親媒性有機分子を溶解可能な溶媒であり、かつ、アルミナを溶解させないことが望ましい。具体的には、第2溶媒は、比誘電率が8~32の範囲である。このような条件を満たすものとして、第2溶媒は、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、tert―ブタノール、ピリジン、乳酸エチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、sec―ブタノール、アセトフェノン、n―ブタノール、i-ブタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、エタノール、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、2-エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)のうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、第2溶媒は、アセトン、エタノールであることが好ましい。
【0044】
さらに、洗浄液は、塩基を含むことが好ましい。乾燥粉体に含まれる両親媒性有機分子-アルミナ複合体中に酸が残存している場合は、塩基により酸を中和することで、アルミナの多孔質構造の崩壊を抑制することができる。したがって、塩基は、乾燥粉体に含まれる両親媒性有機分子-アルミナ複合体中に残存する酸を速やかに中和可能な塩基性と、第2溶媒に対する溶解性を併せ持つことが望ましい。
【0045】
具体的には、塩基は、水中での共役酸の酸乖離定数(pKa)が4以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、9以上であることがさらに好ましい。水中での酸乖離定数(pKa)の上限は、特に限定されないが、12以下を例示することができる。このような条件を満たすものとして、例えば、以下の塩基を示す;アニリン、ピリジン、トリエタノールアミン、アンモニア、ジメチルアミノピリジン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(サンアプロ株式会社製 商品名:DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(サンアプロ株式会社製 商品名:DBN)などのうちの1種または2種以上を例示することができる。酸乖離定数(pKa)が9以上の塩基のなかでも、アンモニア、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(サンアプロ株式会社製 商品名:DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(サンアプロ株式会社製 商品名:DBN)であることが好ましく、トリエチルアミンであることが特に好ましい。
【0046】
塩基の洗浄液中の配合量は、特に限定されないが、0.01~10mol%であることが好ましく、0.1~5mol%であることがより好ましい。
【0047】
なお、洗浄液は、実質的に酸を含まない。ここで、「実質的に酸を含まない」とは、洗浄液中に酸が含まれない形態の他、酸を微量に含む形態も包含し得ることを意味する。洗浄液中の酸濃度は低い方が望ましく、浄液中に酸が含まれないことが最も好ましい。洗浄液が酸を含む場合は、例えば、洗浄液における第2溶媒を同量の水に置き換えた場合のpHが3よりも大きいことが望ましい。また、例えば、洗浄液がHClのような強酸を含む場合は、その含有量が0.001M未満であると換言することもできる。
【0048】
洗浄工程では、乾燥工程で得た乾燥粉体(アルミナ-両親媒性有機分子複合体)を、第2溶媒を含む洗浄液により洗浄することで、両親媒性有機分子が除去され、均一な孔径からなる孔が規則的に配置された多孔質構造を有する多孔質アルミナ粉体を得ることができる。
【0049】
すなわち、本発明の両親媒性有機分子の除去方法は、アルミナ-両親媒性有機分子複合体を含む乾燥粉体を、溶媒(第2溶媒)を含む洗浄液により洗浄し、両親媒性有機分子を溶出させることを含む。
【0050】
洗浄工程では、大部分の両親媒性有機分子が溶出するため、焼成を行わない場合も、比表面積の大きな多孔質アルミナ粉体を得ることができる。さらに、本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法は、焼成を行う場合に焼成炉の汚染を抑制することができる。
【0051】
また、先の乾燥工程後の乾燥粉体に酸が残存している場合、酸による多孔質構造の破壊が生じるが、塩基を含む洗浄液によって乾燥粉体を洗浄することで、酸が捕捉されるため、良好な多孔質構造を維持することができる。特に、酸乖離定数が大きい塩基を使用することで、効果的に酸を捕捉することができ、良好な多孔質構造を維持することができる。また、塩基に捕捉された酸は塩を形成するが、特にトリエチルアミンやピリジン等の有機塩基と塩酸により形成する塩酸塩は、第2溶媒のうち例えばエタノールに容易に溶解し、洗浄工程において両親媒性有機分子と同時に洗浄除去されるため、好ましい。
【0052】
(焼成工程)
さらに、本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法は、洗浄工程の後、多孔質アルミナ粉体を焼成する焼成工程を含むことが好ましい。
【0053】
本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法において、焼成工程は必ずしも必須ではないが、焼成工程を経ることによって、洗浄工程後の多孔質アルミナ粉体に両親媒性有機分子が残存している場合も、確実に両親媒性有機分子を除去することができる。
【0054】
焼成工程では、例えば、乾燥粉体を、空気、窒素、アルゴン、酸素のうち何れかより一つ以上選択される単一または混合ガス雰囲気下で200℃~900℃の温度で焼成することができる。焼成温度は、400℃~500℃程度であることが好ましい。また、雰囲気中に水蒸気が含まれていてもよい。
【0055】
焼成工程では、先の洗浄工程における洗浄液による洗浄によって、予め両親媒性有機分子の大部分が除去されているため、同じ重量の試料を焼成する場合、実質的により多量のアルミナを一度に焼成することができる。両親媒性有機分子を含む前駆物質を多量に焼成する場合、通常、脱脂する工程を含めなければ油分の蓄積や焼成炉の汚染が進み、焼成工程が完結できないが、予め両親媒性有機分子の大部分が除去されているため、脱脂工程が不要化できる。そして、焼成炉が不完全燃焼した有機物により汚染されることが抑制され、焼成炉の洗浄を簡略化できる。そのため、より短時間で多量の多孔質アルミナを焼成することが可能となり、生産性に優れている。
【0056】
(多孔質アルミナ粉体)
上述した多孔質アルミナ粉体の製造方法によって製造される多孔質アルミナ粉体の粒径は、0.2~20μmの範囲を例示することができる。
【0057】
また、多孔質アルミナ粉体の比表面積は、100~600m2g-1の範囲を例示することができ、200m2g-1以上であることが好ましい。比表面積は、公知の方法で適宜測定、算出することができ、例えば、窒素吸脱着等温線のBET多点法による方法を例示することができる。
【0058】
本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法および両親媒性有機分子の除去方法は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0059】
以下、本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法について、実施例とともに説明するが、本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
<1>測定方法
【0061】
(1)BET比表面積の測定
サンプルを減圧下で110℃にて6時間加熱し、吸着した水分等を除去した後、アントンパール・ジャパン/カンタクロームインスツルメンツ社製 Autosorb-iQで窒素吸脱着等温線を測定し、吸着等温線からBET多点法により比表面積を算出した。
【0062】
(2)X線回折測定
試料(後述する実施例1-4、比較例1-7)をリガク製RINT 2100(Fe線源、走査角度:0.6度~12度、走査速度:毎分2度)によりX線回折測定を行い、1~200nmの格子面間隔に対応する回折ピークが検出できるかを確認した。試料板は深さ0.2mmのものに統一し、検出されるX線の強度及び半値幅が構造規則性の良否を反映するようにした。
図1-
図11には、実施例1-7、比較例1、2、5および洗浄を行わなかった場合の回折パターンが示されている。
【0063】
(3)洗浄後重量、有機物除去率
両親媒性有機分子-アルミナ複合体について、洗浄工程の前後の重量変化を分析天秤により秤量し、測定された洗浄後重量を洗浄前重量で除したものを、残存重量割合(%)として記録した。さらに、複合体の両親媒性有機分子とアルミナの比率が仕込み比通りであり、かつ重量減少は全て両親媒性有機分子の減少に由来すると仮定した場合の有機物除去率(%)を計算した。
また、洗浄前後のサンプルにおける有機物除去率の定量について、サーモフィニガン・イタリア製Flash EA1112(標準サンプル:スルファニアルミド)によりCHN元素分析測定を行い、洗浄後の炭素重量割合(%)を洗浄前の炭素重量割合(%)で除したものを、有機物除去率(%)として記録した。水素重量割合はアルミニウムの水酸基量や除去しきれない水分量により値が変動すると考えられるため、採用しなかった。また、塩基に由来する窒素のサンプルへの残存を調査するため、窒素重量割合(%)を記録した。各元素の重量割合の値は、各サンプルを2点ずつ個別に測定し、その2点の測定結果が測定値に対して10%未満の差であることを確認した上で、その2点の測定結果を算術平均した。
【0064】
<2>多孔質アルミナ粉体の作製
<実施例1>
三角フラスコに両親媒性有機分子としてPluronic P123(15.0g)を秤量し、第1溶媒としてエタノール(120mL)を加え、マグネチックスターラーと撹拌子により攪拌することで透明な溶液を調製した。別途、3ツ口フラスコにエタノール(60.0mL;47.3g)とアルミニウム(トリ-sec-ブトキシド)(24.6g)を加え、撹拌子により分散液を調製した。その分散液を引き続き攪拌しながら濃塩酸(14.5mL:17.0g)をゆっくりと滴下した。3時間の攪拌の後、得られた無色透明の溶液を三角フラスコ中のPluronic P123のエタノール溶液に加え、アルミナ前駆溶液を調製した(調製工程)。
【0065】
アルミナ前駆溶液をスプレードライヤー(ヤマト科学株式会社製 ADL311)に導入した。スプレードライヤーの入口温度は170℃に設定した。溶液の噴霧とともに熱風乾燥によりエタノールと水分とを除去し、サイクロンセパレーターにより白色の乾燥粉体を回収した(乾燥工程)。
乾燥工程で回収した(洗浄前の)乾燥粉体のCHN元素分析結果は、炭素29重量%、窒素0重量%、水素8重量%であった。
【0066】
乾燥工程で回収した白色の乾燥粉体を0.50g秤量し、0.1Mの濃度でトリエチルアミン(塩基)を含むエタノール(第2溶媒)からなる洗浄液10.0mLで洗浄した(洗浄工程)。洗浄後に残存する溶媒は次工程に移る前に室温で乾燥させて除去した。
【0067】
乾燥粉体を管状炉にて焼成し、孔の鋳型となったPluronic P123を除去し多孔質化した。焼成は窒素気流下で400℃まで毎分2℃で昇温し、同温度で1時間保持後、酸素気流下で更に同温度で2時間保持し、多孔質アルミナ粉体を得た(焼成工程)。
【0068】
焼成後の多孔質アルミナ粉体の比表面積は表1に示す通り、350m
2g
-1であり、洗浄工程を行わずに焼成した場合(表1:洗浄なし)と同程度であった。XRD回折パターンを
図1に示す。XRD回折パターンからメソスケールの構造規則性に由来する回折ピークを観測した。
【0069】
<実施例2>
トリエチルアミンを、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(サンアプロ株式会社製 商品名:DBU)とした以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図2に示す。
【0070】
<実施例3>
トリエチルアミンをアンモニアとした以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図3に示す。
【0071】
<実施例4>
トリエチルアミンをピリジンとした以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図4に示す。
【0072】
<実施例5>
トリエチルアミンを加えずに、エタノール(第2溶媒)からなる洗浄液を使用した以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図5に示す。
【0073】
<実施例6>
0.1Mトリエチルアミン エタノール溶液(洗浄液)をアセトンに替えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図6に示す。
【0074】
<実施例7>
トリエチルアミンをトリエタノールアミンとした以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図7に示す。
【0075】
<比較例1>
0.1Mトリエチルアミン エタノール溶液(洗浄液)をメタノールに替えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図8に示す。
【0076】
<比較例2>
0.1Mトリエチルアミン エタノール溶液(洗浄液)をテトラヒドロフランに替えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図9に示す。
【0077】
<比較例3>
0.1Mトリエチルアミン エタノール溶液(洗浄液)を純水(イオン交換水)に替えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。洗浄後に固体が回収できなかった。
【0078】
<比較例4>
0.1Mトリエチルアミン エタノール溶液(洗浄液)を、1M塩酸 エタノール溶液(米山化学工業株式会社)に替えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。洗浄後に固体が回収できなかった。
なお、上記の1M塩酸 エタノール溶液は、実質的に水を含有しないものである。
【0079】
<比較例5>
0.1Mトリエチルアミン エタノール溶液(洗浄液)を0.001M塩酸 エタノール溶液(米山化学工業株式会社製 1M塩酸 エタノール溶液を、更にエタノールで希釈して調製したもの)に替えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図10に示す。
【0080】
<洗浄なし>
従来と同様に、洗浄工程を行わず、乾燥粉体(両親媒性有機分子-アルミナ複合体)を焼成した以外は、実施例1と同様に実験を行った。焼成後の多孔質アルミナのXRD回折パターンを
図11に示す。
【0081】
以上の実施例1-7、比較例1-5および<洗浄なし>の結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
表1に示したように、適切な溶媒および必要に応じて塩基が共存している洗浄液を使用した実施例1-7では、低角XRDピークの検出が可能な、均一な孔径の細孔が配列した比表面積の高い多孔質アルミナ粉体が得られることが確認された。また、実施例1-7では、洗浄工程によって両親媒性有機分子が除去されているため、焼成工程における有機物の発生による焼成炉の汚染が抑制されることが確認された。
より具体的には、天秤による秤量結果およびCHN元素分析の測定結果から、洗浄液に塩基とエタノールとを用いることで、乾燥粉体中の有機物を効率的に除去できることが確認された(実施例1-4)。
また、CHN元素分析の測定結果から、塩基(トリエチルアミン、DBU、アンモニア、ピリジン)を添加した第二溶媒で乾燥粉体を洗浄しても、洗浄後の多孔質アルミナ粉体からは窒素が実質的に検出されなかった。すなわち、洗浄後においては、添加した塩基が多孔質アルミナ粉体中に残らないことが確認された。なお、トリエタノールアミンを用いた実施例7では、トリエタノールアミンに由来する窒素が洗浄後の多孔質アルミナ粉体からわずかに検出された。トリエタノールアミンはアルミニウム原子に強く配位する性質を有するため、実施例7の結果は、この性質による現象であると考えられる。
【0084】
洗浄液に塩基を添加せずに、エタノールやアセトンのみで洗浄した実施例5、6では、塩基を加えた場合(実施例1-4)よりも有機物の除去率は低かった(炭素量が多かった)が、比表面積の高い多孔質アルミナ粉体が得ることができた。有機物の除去率が低かった理由としては、実施例5、6では、両親媒性有機分子とともに一部のアルミナが溶出している可能性や、他の有機物などが除去された可能性などが考えられる。
また、実施例5、6では、乾燥工程で回収した乾燥粉体における酸の残存量が少なかったことから、塩基を含まない溶媒(エタノール、アセトン)による洗浄によって、比表面積の高い多孔質アルミナ粉体が焼成後に得られたと考えられる。
【0085】
また、比較例4、5に示したように、溶媒(洗浄液)中にわずかに酸が存在すると、多孔質構造の崩壊が生じることが確認された。また、洗浄を行わなかった場合(洗浄なし)は、従来と同様に、比表面積の高い多孔質アルミナ粉体が得られるものの、焼成工程における有機物の発生に伴う焼成炉の汚染が確認された。
本発明の多孔質アルミナ粉体の製造方法によれば、焼成工程において、両親媒性有機分子の除去する際に発生する大量の有機物の発生を抑制しつつ、高比表面積の多孔質アルミナ粉体を得ることができる。また、焼成工程に先立ち、洗浄工程により両親媒性有機分子の大部分を除去することが可能なため、洗浄工程を含まない場合に比べて、実質的により多量の多孔質アルミナ粉体を一度に焼成することができる。さらに、多孔質構造に由来する高比表面積や大細孔容積といった利点から、本発明の製造方法によって得られる多孔質アルミナ粉体は、特に触媒材料や吸着材料の原料として有用である。