(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159542
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】イミダゾール系生理活性物質の前駆体及びイミダゾール系生理活性物質の生成方法
(51)【国際特許分類】
C07D 403/04 20060101AFI20241031BHJP
C07D 405/14 20060101ALI20241031BHJP
C07D 405/04 20060101ALI20241031BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20241031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241031BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241031BHJP
A61K 31/4436 20060101ALI20241031BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C07D403/04
C07D405/14 CSP
C07D405/04
A61K41/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P31/14
A61P25/00
A61K31/4436
A61K31/4164
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061542
(22)【出願日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2023072462
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】玉置 信之
(72)【発明者】
【氏名】斉 嘉俊
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA11
4C084NA06
4C084NA07
4C084NA15
4C084ZA01
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC38
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA06
4C086NA07
4C086NA15
4C086ZA01
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成するイミダゾール系生理活性物質の前駆体及びイミダゾール系生理活性物質の生成方法を提供する。
【解決手段】分子構造中に2H-イミダゾール-2-アミン骨格を有し、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成する、イミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中に2H-イミダゾール-2-アミン骨格を有し、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成する、イミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項2】
前記イミダゾール系生理活性物質がSB-431542である、請求項1に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項3】
前記イミダゾール系生理活性物質がSB-203580である、請求項1に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項4】
前記イミダゾール系生理活性物質がニューロダジンである、請求項1に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項5】
下記式(1)~(3)からなる群から選択されるいずれか1つで表される化合物である、請求項2に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【化1】
【請求項6】
下記式(4)で表される化合物である、請求項3に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【化2】
【請求項7】
下記式(7)で表される化合物である、請求項4に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【化3】
【請求項8】
前記外部刺激又は環境が光照射である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項9】
前記外部刺激又は環境が放射線照射である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項10】
前記外部刺激又は環境が還元環境である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【請求項11】
請求項8に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体に光照射を行うことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
【請求項12】
請求項9に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体に放射線照射を行うことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
【請求項13】
請求項10に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体を還元環境に置くことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体を還元環境に置き、かつ、光照射又は放射線照射を行うことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾール系生理活性物質の前駆体及びイミダゾール系生理活性物質の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスフォーミング増殖因子β(Transforming Growth Factor-β:TGF-β)は当初、繊維芽細胞の形質転換を促進する増殖因子として同定された。ところが、近年、TGF-βは多くの細胞種に対して増殖抑制、細胞分化やアポトーシスの誘導などにも寄与することが明らかとされている。例えば、TGF-βは、骨芽細胞の増殖やコラーゲンのような結合組織の合成・増殖を促進する一方で、上皮細胞や破骨細胞の増殖に対しては抑制的に作用することが報告されている。従って、TGF-βは、他の増殖因子と同様に、細胞分化・遊走・接着にも関与し、個体発生や組織再構築、創傷治癒、炎症・免疫、癌の浸潤転移などの幅広い領域において重要な役割を果たしていると考えられている。TGF-βとの結合により活性化したタイプI受容体(ALK5など)のセリン/スレオニンキナーゼはSmad2/3タンパク質をリン酸化することで、細胞内にシグナルを伝達する。SB-431542はそのようなキナーゼ受容体、ALK5、ALK4、ALK7の阻害剤として開発された薬剤候補である(非特許文献1)。SB-431542はまだ臨床応用には至っていないが、悪性の脳腫瘍である神経膠腫の増殖を抑える(非特許文献2)、腱板断裂に於ける損傷した筋肉の線維細胞の数を減少させる(非特許文献3)、SARS-CoV-2によって生じる感染性ウイルス粒子の量を減少させる(非特許文献4)等、薬として期待される様々な生理活性が報告されている。また、SB-431542はTGF-βによって誘導される様々な現象を阻害することから、TGF-βが関わる現象を研究する分子生物学における重要な分子ツールとして盛んに用いられている(非特許文献5)。しかし、SB-431542は、生体に適用する際に重要である水に対する溶解性が本質的に低いという問題点を有している。また、薬としての応用においては、正常細胞への副作用を低減したいという要望がある。さらに、分子生物学研究における分子ツールとしても、望みのタイミングと場所でのみ阻害効果が現れるような、より選択的な条件で使える分子ツールが望まれている。
【0003】
一方で、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病などの脳変性疾患は世界中で見られるが、これは神経細胞の喪失から生じる。近年、幹細胞から神経細胞へと分化させる小分子の開発は、これらの疾患の治療に新たな治療アプローチの可能性を提供している。しかし、このアプローチには、十分な幹細胞源、分化の精密な制御、同種異系細胞に対するホストの拒絶反応の抑制、および未分化細胞による腫瘍形成の防止が必要である。より興味深い小分子は、筋芽細胞や筋組織などの容易に利用可能な細胞や組織で神経新生を誘導する能力を持つものである。イミダゾール誘導体であるニューロダジンは、非多能性筋芽細胞および骨格筋由来の細胞で神経新生誘導活性を持つ最初の小分子である(非特許文献6)。ニューロダジンは、神経細胞を生じさせるための重要な生理活性分子であるが、ここでも、望みのタイミングと場所でのみ本生理活性を生じさせることが可能な分子が、治療における薬や分子生物学研究における分子ツールとして望まれている。
【0004】
低分子化合物の生理活性をより選択的に発現させたいという一般的な要望に答えるために、現在では光照射したときのみに生理活性が生じるような化合物に関する学問領域、すなわちPhotophamacologyが盛んになってきている(非特許文献7)。そこでは、従来から知られたタンパク質の阻害剤の分子骨格の一部に光の作用で脱離しうる光反応性保護基又は光で分子構造が異性化反応を起こす基を生理活性制御の光スイッチ部位として導入した化合物が合成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inman, G. J.,外7名、“SB-431542 is a potent and specific inhibitor of transforming growth factor-β superfamily type I activin receptor-like kinase (ALK) receptors ALK4, ALK5, and ALK7”、Molecular Pharmacology、2002年、第62巻、第1号、p.65-74
【非特許文献2】Hjelmeland, M. D.,外9名、“SB-431542, a small molecule transforming growth factor-B-receptor antagonist, inhibits human glioma cell line proliferation and motility”、Molecular Cancer Therapeutics、2004年、第3巻、第6号、p.737-745
【非特許文献3】Davies, M. R.,外6名、“TGF-β Small Molecule Inhibitor SB431542 Reduces Rotator Cuff Muscle Fibrosis and Fatty Infiltration By Promoting Fibro/Adipogenic Progenitor Apoptosis”、PLoS ONE、2016年5月17日、第11巻、第5号、e0155486
【非特許文献4】Mezger, M. C.,外7名、“Inhibitors of Activin Receptor-like Kinase 5 Interfere with SARS-CoV-2 S-Protein Processing and Spike-Mediated Cell Fusion via Attenuation of Furin Expression”、Viruses、2022年6月15日、第14巻、第6号、1308
【非特許文献5】Laping,N. J.,外12名、“Inhibition of transforming growth factor (TGF)-beta1-induced extracellular matrix with a novel inhibitor of the TGF-beta type I receptor kinase activity: SB-431542”、Molecular Pharmacology、2002年、第62巻、第1号、p.58-64.
【非特許文献6】Williams, D. R.,外5名、“Synthetic Small Molecules that Induce Neurogenesis in Skeletal Muscle”、J. Am. Chem. Soc.、2007年、第129巻、第30号、p.9258-9259
【非特許文献7】Hull, K.,外2名、“In Vivo Photopharmacology”、Chemical Reviews、2018年7月9日、第118巻、第21号、p.10710-10747
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前者のものは光で保護基部分を除く際に脱離分子部位が副反応生成物として生じてしまうという問題点があった。また、後者の方法では、光異性化反応を起こす部位が本来の阻害剤の構造とは異なるため、どうしても生理活性が本来の阻害剤よりも弱いという欠点があった。
最も有望な方法は、光や腫瘍患部に本来備わる還元性の環境といったクリーンな刺激によって副生成物を生じずに最適化された構造の阻害剤を生じさせることである。
【0007】
本発明は、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成するイミダゾール系生理活性物質の前駆体及びイミダゾール系生理活性物質の生成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、分子構造中に2H-イミダゾール-2-アミン骨格を有するイミダゾール系生理活性物質の前駆体が、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成することを知得し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
【0010】
[1] 分子構造中に2H-イミダゾール-2-アミン骨格を有し、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成する、イミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[2] 前記イミダゾール系生理活性物質がSB-431542である、[1]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[3] 前記イミダゾール系生理活性物質がSB-203580である、[1]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[4] 前記イミダゾール系生理活性物質がニューロダジンである、[1]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[5] 下記式(1)~(3)からなる群から選択されるいずれか1つで表される化合物である、[2]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【化1】
[6] 下記式(4)で表される化合物である、[3]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【化2】
[7] 下記式(7)で表される化合物である、[4]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
【化3】
[8] 前記外部刺激又は環境が光照射である、[1]~[4]のいずれかに記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[9] 前記外部刺激又は環境が放射線照射である、[1]~[4]のいずれかに記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[10] 前記外部刺激又は環境が還元環境である、[1]~[4]のいずれかに記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体。
[11] [8]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体に光照射を行うことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
[12] [9]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体に放射線照射を行うことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
[13] [10]に記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体を還元環境に置くことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
[14] [1]~[7]のいずれかに記載のイミダゾール系生理活性物質の前駆体を還元環境に置き、かつ、光照射又は放射線照射を行うことを含む、イミダゾール系生理活性物質の生成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成するイミダゾール系生理活性物質の前駆体及びイミダゾール系生理活性物質の生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1のビイミダゾール型のSB-431542前駆体の360nmの光照射前後のクロマトグラムである。上:光照射前、下:光照射後。
【
図2】
図2は、実施例1のビイミダゾール型のSB-431542前駆体の405nmの光照射前後のクロマトグラムである。上:光照射前、下:光照射後。
【
図3】
図3は、実施例2のジメチルアミノ-ASBの405nmの光照射前後のプロトン核磁気共鳴である。上:光照射前、中:光照射後、下:SB-431542。
【
図4】
図4は、実施例3のサルコシン-ASBの405nmの光照射前後のプロトン核磁気共鳴である。上:SB-431542、中:光照射後、下:光照射前。
【
図5】
図5は、実施例4のジメチルアミノニューロダジンの405nmの光照射前後のプロトン核磁気共鳴である。上:ニューロダジン、中上:ニューロダジン前駆体+ニューロダジンの光照射後、中下:ニューロダジン前駆体+ニューロダジンの光照射前、下:ニューロダジン前駆体。
【
図6】
図6は、実施例5のジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾールの405nmの光照射前後のプロトン核磁気共鳴である。上:光照射前、中:光照射後、下:2,4,5-トリフェニルイミダゾール。
【
図7】
図7は、実施例5のジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾールの405nmの光照射の照射時間毎の紫外可視吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0014】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(Electrospray ionization-Mass Spectroscopy:ESI-MS)は、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)を用いた質量分析法である。ESIは、質量分析におけるサンプルのイオン化法の一つであり、高分子をフラグメント化することなくイオン化できる。
プロトン核磁気共鳴(Proton nuclear magnetic resonance:1H-NMR)は、核磁気共鳴分光法の1種で、分子中の水素1(1H)の原子核が起こす核磁気共鳴を測定し、その分子の構造を決定する手法である。
紫外可視吸収スペクトル(Ultraviolet-visible absorption spectrum)は、紫外及び可視領域の光吸収を測定する分光法である。
本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を「~」を用いて表す場合、その数値範囲には「~」の両側の数値が含まれる。
【0015】
SB-431542は、細胞増殖や細胞運動に関係するシグナル伝達を担っているTGF-βファミリーのりん酸化酵素を阻害する。副作用や水に対する溶解性の低さのために臨床応用には至っていないがTGF-βファミリーシグナル伝達系の研究には欠かせない分子。近年では、iPS細胞の神経細胞への分化を誘導する必須成分としても注目を集めている。
SB-203580は、炎症や細胞死に関係するシグナル伝達を担っているp38MAPKファミリーのりん酸化酵素を阻害する。関節リウマチや炎症性肺疾患、がんの薬として研究されている。
ニューロダジンは、非多能性筋芽細胞および骨格筋由来の細胞で神経新生誘導活性を持つ小分子である。脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病などの脳変性疾患の薬として研究されている。
2,4,5-トリフェニルイミダゾールは抗炎症活性を示し、抗炎症薬として研究されている。
いずれも、いかに正常細胞への阻害作用を抑えるかが課題となっている。
【0016】
[イミダゾール系生理活性物質の前駆体]
本実施形態のイミダゾール系生理活性物質の前駆体(以下、単に「前駆体」ともいう。)は、分子構造中に2H-イミダゾール-2-アミン骨格を有し、外部刺激又は環境に応答してイミダゾール系生理活性物質を生成することを特徴とする。
【0017】
本実施形態において、前記イミダゾール系生理活性物質が下記式(A)で表される化合物である場合、本実施形態の前駆体は下記式(B)で表される化合物である。
【化4】
【0018】
式(B)中、R1及びR2は、それぞれ独立に有機基、水素原子、又はハロゲン原子であり、有機基である場合は結合して環を形成していてもよい。
式(A)及び(B)中、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立に有機基であり、結合して環を形成していてもよい。
【0019】
R1及び/又はR2がハロゲン原子である場合、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
前記有機基は、水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子で置換されていてもよく、この場合のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子からなる群から選択されるいずれか1種であることが好ましく、フッ素原子であることがより好ましい。
【0020】
式(B)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基であることが好ましく、-NR1R2は、式(B)の化合物から-NR1R2を除いた部分からなる基であることがより好ましい。この場合、式(B)の化合物は式(A)の化合物の二量体となり、1モルの式(B)の化合物から、2モルの式(A)の化合物を生じ得ること、及び、副生成物が生じないことから、特に好ましい。
【0021】
式(A)の化合物は、具体的には下記式(5)で表されるSB-431542、下記式(6)で表されるSB-203580、下記(9)で表されるニューロダジン又は下記(10)で表される2,4,5-トリフェニルイミダゾールであることが好ましく、下記式(5)で表されるSB-431542又は下記(9)で表されるニューロダジンであることがより好ましい。
【0022】
【0023】
式(B)の化合物は、具体的には下記式(1)~(3)からなる群から選択されるいずれか1つで表されるSB-431542前駆体、下記式(4)で表されるSB-203580前駆体、下記式(7)で表されるニューロダジン前駆体又は下記式(8)で表される2,4,5-トリフェニルイミダゾール前駆体であることが好ましく、下記式(1)又は(2)で表されるSB-431542前駆体あるいは式(7)で表されるニューロダジン前駆体であることがより好ましく、下記式(2)で表されるSB-431542前駆体であることがさらに好ましい。
【0024】
【0025】
前記外部刺激としては、例えば光照射及び/又は放射線照射が挙げられる。
【0026】
前記光照射は、赤外線、可視光線、又は紫外線などの光を照射するものであれば特に限定されない。
光照射の場合の光の波長は、特に限定されないが、10~200nm(遠紫外線)、200~380nm(近紫外線)、380~780nm(可視光線)、0.7~1.5μm(近赤外線)、2.5~4μm(中赤外線)、及び4~1000μm(遠赤外線)などから適宜選択でき、400~410nmの可視光線が好ましい。
光の光量子束密度は、特に限定されないが、1~20000000μmol・m-2・s-1であることが好ましく、10~10000μmol・m-2・s-1であることがより好ましい。
光の積算光量は、特に限定されないが、0.01~100000mJであることが好ましく、1~1000mJであることがより好ましい。
【0027】
前記放射線照射は、α線、β線、中性子線、陽子線、若しくは重イオン線などの粒子放射線、又はγ線若しくはX線のような電磁放射線を照射するものであれば特に限定されない。
【0028】
前記環境としては、例えば還元環境が挙げられる。
前記還元環境は、例えば酸化還元電位が2.8V以下であるような環境である。
【0029】
<生理活性物質の製造方法>
SB-431542は、例えば、Callahanら(2002)の方法で合成することができる。すなわち、4-フルオロベンゾイルクロリドとメトキシ(メチル)アミンを縮合して得られるN-メトキシ-N-メチル-4-フルオロ安息香酸アミドにLDAでリチオ化した2-メチルピリジンを作用させて1-(4-フルオロフェニル)-2-(2-ピリジニル)-エタノンを得る。得られた1-(4-フルオロフェニル)-2-(2-ピリジニル)-エタノンを塩酸酸性下、亜硝酸ナトリウムで処理して1-(4-フルオロフェニル)-2-イミノ-2-(2-ピリジニル)エタン-1-オンを得、それと4-ホルミルベンゾニトリルを縮合してイミダゾール誘導体を得る。得られたイミダゾール誘導体のシアノ基を亜リン酸トリエチル、続いて濃塩酸で処理してカルボン酸に変換した後、オキサリルクロリドで酸クロリドに誘導し、最終的にアンモニア水と反応して酸アミドとしてSB-431542が得られる。
(文献)Callahanら、J.Med.Chem.、2002年、28;45(5)、p.999-1001
【0030】
SB-203580は、例えば2-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ピリジル)エタノンと4-(メチルチオ)ベンズアルデヒドを酢酸アンモニウムと酢酸銅存在下酢酸中で加熱し、その後水酸化アンモニウムで処理することで相当するイミダゾール誘導体を得、メチルチオ部位を酢酸、水の混合溶媒中K2S2O8で酸化することで得ることができる。
【0031】
ニューロダジンは、例えば、5-(3-クロロフェニル)フルフラール、酢酸アンモニウム、および4,4’-ジメトキシベンジルを酢酸に懸濁させ、その後、100℃に加熱して6時間撹拌した後、反応混合物は酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3と食塩水で洗浄し、有機層を減圧下で濃縮し、得られた混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して得られる。
【0032】
2,4,5-トリフェニルイミダゾールは、例えば、ベンジル、酢酸アンモニウム、無水酢酸、ベンザルデヒドを100℃で4時間撹拌した後、水を加え、続けてアンモニウム水酸化物を加えて酸を中和し、連続的な撹拌で生成した沈殿物をろ過し、固形物をトルエンで洗浄し、メタノールで再結晶して得られる。
【0033】
<前駆体の製造方法>
式(1)の化合物は、SB-431542の酸化反応によって製造することができる。酸化の方法は、他の2,4,5-トリフェニルイミダゾールの酸化反応によるヘキサフェニルビイミダゾールの合成方法(Hayashiら,1960年;Whiteら,1966;Coraorら,1971年)又はそれをSB-431542用に改良した方法によって合成できる。
(文献)Hayashiら、Bull.Chem.Soc.Jpn.、1960年、第33巻、p.565
Whiteら、J.Am.Chem.Soc.、1966年、第88巻、第16号、p.3825-3829
Coraorら、J.Org.Chem.、1971年、第36巻、第16号、p.2262-2267
【0034】
より具体的には、有機溶媒に溶解したSB-431542を水に溶解した水酸化カリウムとフェリシアン化カリウムによって2相系で酸化して2H-イミダゾール-2-アミン骨格を含むSB-431542前駆体を得ることができる。その際、アミンを添加することで2位のアミン部をイミダゾールとは別の構造にすることができる。酸化剤としてはWhiteら(1966)に記載がある二酸化鉛を酸化剤とする方法など、様々な酸化剤を使うことができる。また、反応溶媒に関してもベンゼン/水や酢酸エチル/水やエタノールや他の有機溶媒との組み合わせ、1相系などが利用可能である。ただ、SB-431542に対して一定の溶解性を示す溶媒(例えば酢酸エチルなど)を少なくとも1つ含むように選択することが望ましい。反応の雰囲気に関しては窒素雰囲気、空気中、アルゴン雰囲気下など様々な環境を用いることができる。反応温度については、10℃程度から溶媒の沸点まで様々な温度で反応を行うことができる。
【0035】
式(2)の化合物は、例えば、SB-431542をDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解し、水酸化カリウム、フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])、及びジメチルアミンが溶けた水溶液を加え、窒素雰囲気下で強く撹拌し、水を加え、酢酸エチルで抽出後、酢酸エチルを減圧下で除き、分取用逆相グラジエントHPLCで分取し、溶媒を減圧除去することで得られる。
【0036】
式(3)の化合物は、例えば、SB-431542をDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解し、水酸化カリウム、フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])、及びN-メチルグリシンが溶けた水溶液を加え、窒素雰囲気下で強く撹拌し、水を加え、酢酸エチルで抽出後、酢酸エチルを減圧下で除き、分取用逆相グラジエントHPLCで分取し、溶媒を減圧除去することで得られる。
【0037】
式(7)の化合物は、例えば、ニューロダジンをDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解し、水酸化カリウム、フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])、及びジメチルアミンが溶けた水溶液を加え、窒素雰囲気下で強く撹拌し、水を加え、酢酸エチルで抽出後、酢酸エチルを減圧下で除き、分取用逆相グラジエントHPLCで分取し、溶媒を減圧除去することで得られる。
【0038】
式(8)の化合物は、例えば、2,4,5-トリフェニルイミダゾールをDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解し、水酸化カリウム、フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])、及びジメチルアミンが溶けた水溶液を加え、窒素雰囲気下で強く撹拌し、水を加え、酢酸エチルで抽出後、酢酸エチルを減圧下で除き、分取用逆相グラジエントHPLCで分取し、溶媒を減圧除去することで得られる。
【0039】
[イミダゾール系生理活性物質の生成方法]
本実施形態のイミダゾール系生理活性物質の生成方法(以下、単に「生成方法」ともいう。)は、上述したイミダゾール系生理活性物質の前駆体を還元環境に置くこと、及び/又は、光照射若しくは放射線照射を行うことを含む。
還元環境に置くこと、及び、光照射又は放射線照射を行うことをともに含む場合、還元環境に置きながら光照射又は放射線照射を行ってもよいし、還元環境に置くことと、光照射又は放射線照射を行うこととを、時間的に隔ててもよい。
【0040】
本実施形態の生成方法は、イン・ビトロで行ってもよいし、イン・ビボで行ってもよい。
【0041】
前記光照射は、赤外線、可視光線、又は紫外線などの光を照射するものであれば特に限定されない。
光照射の場合の光の波長は、特に限定されないが、10~200nm(遠紫外線)、200~380nm(近紫外線)、380~780nm(可視光線)、0.7~1.5μm(近赤外線)、2.5~4μm(中赤外線)、及び4~1000μm(遠赤外線)などから適宜選択でき、400~410nmの可視光線が好ましい。
光の光量子束密度は、特に限定されないが、1~20000000μmol・m-2・s-1であることが好ましく、10~10000μmol・m-2・s-1であることがより好ましい。
光の積算光量は、特に限定されないが、0.01~100000mJであることが好ましく、1~1000mJであることがより好ましい。
【0042】
前記放射線照射は、α線、β線、中性子線、陽子線、若しくは重イオン線などの粒子放射線、又はγ線若しくはX線のような電磁放射線を照射するものであれば特に限定されない。
【0043】
前記環境としては、例えば還元環境が挙げられる。
前記還元環境は、例えば酸化還元電位が2.8V以下であるような環境である。
還元環境を提供する方法としては、媒体に還元剤を添加する方法があるが、還元剤としてはグルタチオン、ジチオトレイトール、水素化アルミニウムリチウムなど様々なものが利用できる。
さらに、特別な還元剤が存在させずともビイミダゾール型のイミダゾール系生理活性物質の前駆体からイミダゾール系生理活性物質を生成することができる。これは、ビイミダゾール型のイミダゾール系生理活性物質の前駆体から生成する中間体の酸化力が十分に高いため周りに存在する溶媒やタンパク質その他の生体物質(これらが還元剤として働く)から水素を引き抜くためである。特に、細胞中でビイミダゾール型のイミダゾール系生理活性物質の前駆体からイミダゾール系生理活性物質を得る場合には、細胞内にすでに存在する還元性化合物が水素供与をするので、積極的に還元剤を添加しなくてもよい。
【0044】
ビイミダゾール型のイミダゾール系生理活性物質の前駆体は有機溶媒又は水系の溶媒に溶かし、対象となる系に加えて光照射又は放射線照射又は還元環境、又はそれらの組み合わせの刺激に晒すことで、還元性化合物の酸化物が生じること(例えば、還元性化合物が生体内に存在する還元型グルタチオンである場合、酸化型グルタチオン)を除いて副生成物を生じずにイミダゾール系生理活性物質を生じさせることができる。
【0045】
本発明によれば、光又は放射線を望みの場所に絞り、望みのタイミングで照射することで、選択的にイミダゾール系生理活性物質を生じさせ、その生理活性を発現させることができる。また、高い還元性を示す箇所があれば、その箇所のみでより効率的にイミダゾール系生理活性物質を生じさせ、その生理活性を発現させることができる。
【実施例0046】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
1.ビイミダゾール型のSB-431542前駆体〔式(1)の化合物〕の合成
SB-431542〔式(5)の化合物〕100mgを、50mLの酢酸エチルに溶解し、水酸化カリウムとフェリシアン化カリウムが溶けた水溶液を加え窒素雰囲気下30℃で激しく撹拌して酸化反応を行った。得られた有機層を濃縮後に逆相液体クロマトグラフィー(アセトニトリル/水、グラジエント)で精製してビイミダゾールのフラクション部をとった。溶媒を除去して淡黄色の粉末としてビイミダゾール型のSB-431542前駆体〔式(1)の化合物〕10mgを得た。エレクトロスプレーイオン化質量分析で分子量766(M+H=767のピークとして観察)を得て(SB-431542の分子量は384)、SB-431542から水素が2つ除かれて結合したビイミダゾール構造を確認した。
【0048】
2.ビイミダゾール型のSB-431542前駆体の評価
1mMのグルタチオンを含む水:アセトニトリル=3:1の混合溶媒にビイミダゾール型のSB-431542前駆体を0.1mMの濃度で溶解し、360nm又は405nm光を発するLED光源で一定時間照射し、その溶液を逆相液体クロマトグラフィー(アセトニトリル/水、グラジエント)で分析すると照射時間の増加に伴ってSB-431542前駆体のピーク強度が減少し、同時にSB-431542のピーク強度が増加した(
図1、2)。クロマトグラムには2つのピーク以外は現れず、光によってSB-431542前駆体からSB-431542への変化のみが起こっていることがわかった。
【0049】
【0050】
[実施例2]
1.ジメチルアミノ-ASB〔式(2)の化合物〕の合成
SB-431542〔式(5)の化合物〕100mgを、ジメチルアミンを含む50mLのジメチルホルムアミドに溶解し、水酸化カリウムとフェリシアン化カリウムが溶けた水溶液を加え窒素雰囲気下30℃で激しく撹拌して酸化反応を行った。濃縮後に逆相液体クロマトグラフィー(アセトニトリル/水、グラジエント)で精製して2H-イミダゾール-2-アミンのフラクション部をとった。溶媒を除去して淡黄色の粉末として2H-イミダゾール-2-アミン骨格を含むSB-431542前駆体〔式(2)の化合物〕17mgを得た。エレクトロスプレーイオン化質量分析で分子量427(M+Na=450のピークとして観察)を得て(SB-431542の分子量は384)、SB-431542中のイミダゾールの2位の炭素にジメチルアミノ基が置換した2H-イミダゾール-2-アミン構造を含む構造を確認した。
【0051】
【0052】
2.ジメチルアミノ-ASBの評価
ジメチルアミノ-ASBを重水と重アセトニトリルの1:1体積比混合溶媒に溶解し、
1H-NMRを測定し、その後、405nmのLED光源からの光を10分間照射し、
1H-NMRを測定して、SB-431542及びジメチルアミノ-ASBの
1H-NMRのピーク位置を比較した。その結果、ジメチルアミノ-ASBのピークは消失し、新たにSB-431542のピークが出現した(
図3)。
【0053】
[実施例3]
1.サルコシン-ASB〔式(3)の化合物〕の合成
SB-431542〔式(5)の化合物〕(100mg,0.078mmol)をDMF(2mL)に溶解し、KOH7.0g、K3[Fe(CN)6]14.0g、及びN-メチルグリシン880mgが溶けた水溶液8.0mLを加え、窒素雰囲気下30℃で24時間強く撹拌した。その後、10mLの水を加え、酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチルを減圧下で除き、分取用逆相グラジエントHPLC(水中のアセトニトリル濃度30%-70%,4時間,流速10mL/min)で分取した。溶媒を減圧下で除き、2mgの淡黄色のサルコシン-ASB〔式(3)の化合物〕を得た。
分子構造は1H-NMR及びESI-MSによって確認した。
【0054】
【0055】
2.サルコシン-ASBの評価
サルコシン-ASBを重水と重アセトニトリルの1:1体積比混合溶媒に溶解し、
1H-NMRを測定し、その後、405nmのLED光源からの光を10分間照射し、
1H-NMRを測定して、SB-431542及びサルコシン-ASBの
1H-NMRのピーク位置を比較した。その結果、サルコシン-ASBのピークは消失し、新たにSB-431542のピークが出現した(
図4)。
【0056】
[実施例4]
1.ジメチルアミノニューロダジン〔式(7)の化合物〕の合成
ニューロダジン〔式(9)の化合物〕(20.0mg、0.044mmol)とジメチルアミン(約7%,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中)1mLを混合し、この溶液に、KOH(0.07g,0.13mmol)とK3[Fe(CN)6](0.14g,0.44mmol)を含む1mLの水溶液を加えた。反応混合物を45℃で24時間激しく撹拌した。反応後、反応混合物に10mLの水を加え、エチルアセテート(20mL×3)で抽出した。有機抽出物を無水MgSO4で乾燥し、溶媒を蒸発させ、その後、60~80%のアセトニトリル/水を溶媒とする勾配高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による精製を行なった。精製後に凍結乾燥して、淡黄色の粉末(2.7mg,収率=12%)として、ニューロダジン前駆体〔式(7)の化合物〕を得た。
【0057】
【0058】
2.ジメチルアミノニューロダジンの評価
ジメチルアミノニューロダジンとニューロダジンの2:3モル比混合物(ニューロダジンを内部標準化合物として使用)を重水と重アセトニトリルの1:1体積比混合溶媒に溶解し、
1H-NMRを測定し、その後、405nmのLED光源からの光を20分間照射し、
1H-NMRを測定して、ニューロダジン及びジメチルアミノニューロダジンの
1H-NMRのピーク位置を比較した。その結果、ジメチルアミノニューロダジンのピークは消失し、ニューロダジンのピークのみが残った(
図5)。
【0059】
[実施例5]
1.ジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾール〔式(8)の化合物〕の合成
2,4,5-トリフェニルイミダゾール〔式(10)の化合物〕(1g,3.37mmol)とジメチルアミン(約7%,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、22mL)を混合し、この溶液にKOH(24.6g,43.5mmol)とK3[Fe(CN)6](48.87g,146.6mmol)を含む水溶液337.4mLを加えた。反応混合物を、室温で窒素雰囲気下で24時間激しく撹拌した。反応後、水10mLを加え、エチルアセテート(20mL×3)で抽出した。有機抽出物を無水MgSO4で乾燥し、溶媒を減圧除去した後に、2%のメタノールを含むジクロロメタンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。淡黄色の粉末(0.28g,収率=24%)として、2,4,5-トリフェニルイミダゾール前駆体〔式(8)の化合物〕を得た。
【0060】
【0061】
2.ジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾールの評価
ジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾールを重水と重アセトニトリルの1:1体積比混合溶媒に溶解し、
1H-NMRを測定し、その後、405nmのLED光源からの光を10分間照射し、
1H-NMRを測定して、2,4,5-トリフェニルイミダゾール及びジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾールの
1H-NMRのピーク位置を比較した。その結果、ジメチルアミノ-2,4,5-トリフェニルイミダゾールのピークは消失し、新たに2,4,5-トリフェニルイミダゾールのピークが出現した(
図6)。
【0062】
アセトニトリルと水の9:1体積比混合溶媒に2,4,5-トリフェニルイミダゾール前駆体を4.5×10
-5mol/Lの濃度で溶解し、405nm光を発するLED光源で一定時間照射し、その溶液を紫外可視分光光度計(朝日分光社製、CL-H1-405-9-1-B)で分析すると、照射時間の増加に伴って紫外可視吸収スペクトルが変化し、2,4,5-トリフェニルイミダゾール前駆体から2,4,5-トリフェニルイミダゾールへの変化が起こっていることがわかった(
図7)。
本発明は、光又は放射線を望みの場所に絞り、望みのタイミングで照射することで、選択的にイミダゾール系生理活性物質を生じさせ、その生理活性を発現させることができる。また、高い還元性を示す箇所があれば、その箇所のみでより効率的にイミダゾール系生理活性物質を生じさせ、その生理活性を発現させることができる。