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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160393
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/18 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
C08G59/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024143964
(22)【出願日】2024-08-26
(62)【分割の表示】P 2023510801の分割
【原出願日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2021057494
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱可塑性エポキシ樹脂の強化繊維への接着性を改善するエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】このエポキシ樹脂組成物は、2官能フェノール化合物、2官能エポキシ樹脂及び重合触媒を含む樹脂組成物であって、2官能エポキシ樹脂として、特定構造のエポキシ樹脂(a)を50重量%以上含み、2官能エポキシ樹脂/2官能フェノール化合物(モル比)は1.01~1.05モルであり、このエポキシ樹脂組成物より得られる重合物のエポキシ当量が5000~20000g/eq.、曲げ強度が70MPa以上、テトラヒドロフラン不溶分が10重量%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能フェノール化合物、2官能エポキシ樹脂及び重合触媒を必須成分として含むエポキシ樹脂組成物であって、
2官能エポキシ樹脂は、下記式(1)で表される2官能のエポキシ樹脂(a)を50重量%以上含み、
2官能フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂の配合比は、2官能フェノール化合物1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は1.01~1.05モルであり、
前記エポキシ樹脂組成物より160℃で1時間の加熱にて得られる重合物が熱可塑性エポキシ樹脂であり、エポキシ当量が5000g/eq.以上20000g/eq.以下であり、曲げ強度が70MPa以上であり、テトラヒドロフランに溶解させた際に不溶となる成分が10重量%以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
ここで、重合物の曲げ強度、テトラヒドロフランに溶解させた際に不溶となる成分(ゲル分率)は、各々、明細書の段落0056、0055に記載した方法で測定した値である。
【化1】
ここで、Aは式(2)で表される2価の基であり、nは繰り返し数であり、その平均値は0~5である。Xは単結合、炭素数1~13の炭化水素基、-O-、-CO-、又は-COO-であり、Yは独立に、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基であり、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、及びこれらを用いた繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は軽量、高強度などの優れた物性を示し、多くの分野で利用されている。その中でも、炭素繊維を強化繊維として用いたもの(CFRP)は、特に機械的強度に優れることで知られている。
【0003】
FRPの母材樹脂として、価格、物性のバランスに優れるため、エポキシ樹脂が主に使用されている。またエポキシ樹脂は、その有する2級水酸基により、強化繊維とも良好な接着面を形成するため、CFRPの母材樹脂としても良好な機械物性を発現することが知られている。
【0004】
一方、母材樹脂として熱可塑性樹脂を用いたものはFRTPと呼ばれ、量産性、成型性、リサイクル性に優れるため、開発が進められている。FRTPの母材樹脂としては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどが主に使用されている。
【0005】
FRTPの課題として、強化繊維と樹脂の接着性が低いため、一方向材(UD材)における90度方向の曲げ強度が低い事が挙げられる。強化繊維と樹脂の接着性を改善するために、繊維に付着しているサイジング剤を洗浄する、繊維表面をオゾンや酸などで酸化するなど、強化繊維表面への改質が様々な方法が検討されているが、いずれも追加の工程を必要とし、簡便ではない(非特許文献1)。
【0006】
強化繊維への接着性を改善し、熱可塑性樹脂として、現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂が提案されている。現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂は、重合前の低粘度状態で繊維へ含浸させるため含浸性が良く、強化繊維の割合を高めることができる。また、エポキシ樹脂の2級水酸基の存在により強化繊維と良好に接着することが期待される。
【0007】
熱可塑性エポキシ樹脂と炭素繊維の接着性に関する既報の中では、熱可塑性エポキシの分子量が増加すると、炭素繊維/母材間の界面せん断強度が向上することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-321897号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Improvement of Bending Strength of Carbon Fiber/Thermoplastic Epoxy Composites (Open Journal of Composite Materials, 2017, 7, 207-217)
【非特許文献2】日本接着学会誌 VOL.53 No.11(2017)375-380
【発明の概要】
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討によると、熱可塑性エポキシ樹脂の強化繊維内で分子量を十分に増大させるためには、重合のために充分な時間をかける必要がある。また、高耐熱化のために熱可塑性エポキシ樹脂の骨格を嵩高いものとすると、反応の立体障害が大きくなるため、重合のための硬化時間がさらに長くなり、生産性が悪い。このため、生産性に優れる簡易な手法により、熱可塑性エポキシ樹脂の強化繊維への接着性を改善し、90度方向の曲げ強度を向上させる方法が求められていた。
【0011】
熱可塑性エポキシ樹脂の強化繊維への接着性発現を目的とし、本発明者らが鋭意検討した結果、特定のエポキシ樹脂組成物を用いることにより、強化繊維への接着性を改善し、90度方向の曲げ強度を向上できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、2官能フェノール化合物、2官能エポキシ樹脂及び重合触媒を必須成分として含むエポキシ樹脂組成物であって、
2官能エポキシ樹脂として、下記式(1)で表される2官能のエポキシ樹脂(a)を50重量%以上含み、
2官能フェノール化合物1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は1.01~1.05モルであり、
上記エポキシ樹脂組成物より得られる重合物が、熱可塑性エポキシ樹脂であり、そのエポキシ当量が5000g/eq.以上20000g/eq.以下であり、曲げ強度が70MPa以上であり、これをテトラヒドロフランに溶解させた際に不溶となる成分が重合物中の10重量%以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0013】
【化1】
ここで、式(1)中のAは式(2)で表され、nは繰り返し数でその平均値は0~5である。Xは単結合、炭素数1~13の炭化水素基、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-のいずれかであり、Yは独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかであり、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。
【0014】
また本発明は、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維を混合させることで得られる強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、又はプリプレグである。
【0015】
上記強化繊維はPAN系の炭素繊維が好ましく、樹脂組成物、又はプリプレグ中に50重量%以上80重量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記強化繊維含有エポキシ樹脂組成物又は上記プリプレグを用いた繊維強化プラスチックである。
【0017】
本発明により、強化繊維への接着性に優れた熱可塑性エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0018】
強化繊維と樹脂の接着性が発揮された理由は、原料組成比を制御することで、エポキシ当量が低くエポキシ基濃度が高いエポキシ樹脂を得ることができ、強化繊維表面の官能基及びサイジング剤と良好な接着を形成するためと考えられる。
また、重合が十分に進んでいないなどの理由で、重合物の曲げ強度が70MPa以上であることにより、複合材料として十分な強度を発現することができる。従来、エポキシ樹脂の接着性は2級水酸基に起因されるとされており、重合物のエポキシ基濃度の影響に言及した報告はない。本発明によれば、原料の仕込み比を調整する簡便な手法により、強化繊維への接着性を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、2官能フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂及び重合触媒を必須成分として含み、加熱により重合することができる組成物である。これには有機溶剤や、充填剤、難燃剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0020】
上記2官能エポキシ樹脂は、上記式(1)で表される上記エポキシ樹脂(a)を、50重量%以上必須成分として含む。好ましくは66重量%以上であり、より好ましくは75重量%以上であり、さらに好ましくは80重量%以上である。エポキシ樹脂(a)は2官能エポキシ樹脂の一部を構成する。
また、2官能エポキシ樹脂のエポキシ当量は、150~350g/eq.が好ましい。
【0021】
式(1)において、Aは上記式(2)で表される2価の基である。nは繰り返し数でその平均値は0~5であり、好ましくは0~1である。
【0022】
式(2)において、Xは単結合、炭素数1~13の炭化水素基、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-のいずれかである。
炭素数1~13の炭化水素基としては、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数6~13のアリーレン基が好ましく、例えば、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロプロピレン基、1,1-シクロブチレン基、1,1-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロオクチレン基、1,1-シクロノニレン基、1,2-エチレン基、1,2-シクロプロピレン基、1,2-シクロブチレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-プロピレン基、1,3-シクロブチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,3-フェニレン基、1,4-ブチレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、1,1-フルオレン基、1,2-キシリレン基、1,4-キシリレン基、テトラヒドロジシクロペンタジエニレン基、テトラヒドロトリシクロペンタジエニレン基などが挙げられる。
これらの内、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、1,1-フルオレン基が好ましく、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-フルオレン基がより好ましい。
なお、Phはフェニル基を表す。アルキレン基はアルキリデン基を含む意味である。
【0023】
は独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。
炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
これらの内、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、又はナフチル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、又はトリル基がより好ましい。
【0024】
は独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかであり、水素原子以外の基が好ましい。アルキル基、アリール基の例としては、前記Yで例示した基と同様である。好ましいYはYと同様である。
は独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。アルキル基、アリール基の例としては、Yで例示した基と同様である。好ましいYは水素原子又はYで例示した基と同様である。
【0025】
2官能エポキシ樹脂(a)としては、例えば、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(例えば、YX-4000(三菱ケミカル株式会社製)など)、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂(例えば、OGSOL CG-500(大阪ガスケミカル株式会社製)など)などが挙げられる。
【0026】
また、エポキシ樹脂(a)以外のエポキシ樹脂でも2官能エポキシ樹脂であれば併用でき、その純度は95%以上であることが好ましい。そして、2官能エポキシ樹脂としての純度が高ければ、位置異性体やオリゴマーが含まれてもよい。エポキシ樹脂(a)と併用できるエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、などのビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限らない。
エポキシ樹脂(a)と併用できる2官能エポキシ樹脂は、全エポキシ樹脂中の50重量%未満であることが好ましく、30重量%未満であることが望ましい。50重量%を超えるとゲル化して溶剤に溶けにくい成分が発生するため、再賦形性が悪化する恐れがある。
【0027】
2官能エポキシ樹脂中に1官能の不純物が含まれている場合には重合後の分子量が上がらなくなるため得られた熱可塑性樹脂製品の機械物性が悪くなる恐れがある。そのため、1官能の不純物は2官能エポキシ樹脂に対して2重量%以下であることが好ましい。
3官能以上の不純物が含まれている場合には、その不純物を起点に架橋構造を形成しやすくなるため、重合物の分散が大きくなるほか、ゲル化して熱可塑性を損なう恐れがある。そのため、3官能以上の不純物については2官能エポキシ樹脂に対して1重量%以下であることが好ましい。
なお、エポキシ樹脂、フェノール性水酸基のいずれとも反応する活性基を持たず、また、単体では重合反応を阻害しない不純物成分についても、量が多くなると重合後の分子量が小さくなる恐れがある。そのため、2官能エポキシ樹脂に対して2重量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用する2官能フェノール化合物は、1分子中に2つのフェノール性水酸基を有する化合物であり、その純度は95重量%以上であることが好ましい。そして、2官能フェノール化合物としての純度が高ければ、位置異性体については含まれていてもよい。
1官能の不純物が含まれている場合には重合後の分子量が上がらなくなるために製造された熱可塑性樹脂の機械物性が悪くなる恐れがある。そのため、1官能の不純物は、2官能フェノール化合物に対して2重量%以下であることが好ましい。
3官能以上の不純物が含まれている場合には、その不純物を起点に架橋構造を形成しやすくなるため、重合物の分散が大きくなるほか、ゲル化して熱可塑性を損なう恐れがある。そのため、3官能以上の不純物は、2官能フェノール化合物に対して1重量%以下であることが好ましい。
なお、エポキシ樹脂、フェノール性水酸基のいずれとも反応する活性基を持たず、また、単体では重合反応を阻害しない不純物成分についても、量が多くなると重合後の分子量が小さくなる恐れがある。そのため、2官能フェノール化合物に対して2重量%以下であることが好ましい。
【0029】
2官能フェノール化合物は、ビスフェノール化合物又はビフェノール化合物が好ましい。ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ビスフェノールフルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製)、Bis-E、Bis-Z、BisOC-FL、BisP-AP、BisP-CDE、BisP-HTG、BisP-MIBK、BisP-3MZ、S-BOC(以上、本州化学工業株式会社製)、ビスフェノールSなどが挙げられる。ビフェノール化合物としては、例えば、ビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラメチルビフェノールなどが挙げられる。この他の2官能フェノール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、カテコール、メチルカテコールなどのベンゼンジオール類や、ナフタレンジオールなどのナフタレンジオール類などが挙げられる。これらの内、ビスフェノール化合物類又はビフェノール化合物類が好ましい。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれる2官能エポキシ樹脂の割合は、2官能フェノール化合物の1モルに対して、1.01~1.05モル、好ましくは1.02~1.03モルである。熱可塑性エポキシ樹脂ではエポキシ樹脂とフェノール化合物が逐次的に反応し、直鎖構造をとることで熱可塑性を発現する。エポキシ樹脂が過剰であるとエポキシ基末端となり、フェノール化合物が過剰であるとフェノール基末端となり反応が終了する。
エポキシ樹脂の割合が1.01モル未満の場合、重合物がフェノール基末端となりやすく、強化繊維への接着性が発現しない恐れがある。
エポキシ樹脂の割合が1.05モル超の場合、重合反応終了後も未反応のエポキシ樹脂成分が樹脂中に存在することになり樹脂の強度に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0031】
エポキシ樹脂組成物において、フェノール化合物がエポキシ樹脂中に結晶状態で存在すると、ミクロで見た時にモル比が設計から外れる。この状態で反応を開始すると、重合が十分に進行しないことがある。重合を十分に進行させるためには、フェノール化合物とエポキシ樹脂が相互に均一に溶解(相溶)しているエポキシ樹脂組成物が好ましい。
また、強化繊維等を配合する前のエポキシ樹脂組成物は完全に溶解又は均一な液状となっていることが望ましいが、例えば、気泡を含まない状態でガラス製シャーレに厚さ2mmになるように溶融混合物を入れて厚み方向のヘイズ値を測定した場合において、その厚み方向のヘイズ値が30%未満であれば、重合反応に影響しない水準まで溶解又は均一な液状となったものと判断する。ヘイズ値についてより好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満である。
【0032】
エポキシ樹脂組成物に使用する重合触媒には制限はないが、公知のものを使用することができる。具体的には、トリフェニルホスフィン、トリス(パラトルイル)ホスフィン、トリス(オルソトルイル)ホスフィン、トリス(パラメトキシフェニル)ホスフィンなどのリン系重合触媒が挙げられる。それ以外の重合触媒としては、1B2MZ、1B2PZ、TBZ(四国化成工業製)などのイミダゾール化合物が挙げられる。
【0033】
上記重合触媒は2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物からなる樹脂組成物の総量に対して、0.05重量%以上5重量%以下であることが望ましい。0.05重量%未満である場合は、現場重合において時間がかかってしまうために生産性が低下する恐れがあるほか、目標の分子量に到達するまでに何らかの理由で失活する恐れがある。5重量%を超える場合は、重合反応が速やかに進行する一方で貯蔵安定性を損なってプロセス適合性に問題が発生する恐れがあり、反応に関与するが骨格には取り込まれない成分であるため、重合後の物性を損なう恐れがあるほか、単純に高価であるため、経済的にも不利益である。
【0034】
エポキシ樹脂組成物は、重合触媒の溶媒又は粘度調整のために、有機溶剤を含有してもよい。用いる有機溶剤はエポキシ樹脂とフェノール化合物との反応を阻害しないものであれば特に限定されるものではないが、入手のしやすさから、炭化水素系、ケトン系、エーテル系が好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。しかしながら、反応中に有機溶剤が多量に存在すると重合反応を阻害する。また、重合物中に有機溶剤が残存すると機械物性や耐熱性を悪化させる。このため、有機溶剤の割合はエポキシ樹脂組成物の全重量に対して5重量%以下であることが望ましい。
【0035】
エポキシ樹脂組成物の重合の進行状況は重合物のエポキシ当量の推移で判断することがよい。1時間未満の加熱だとエポキシ当量は増加傾向にあり、十分に重合が進行していない可能性がある。1時間以上の加熱では、エポキシ当量は1時間時点の値からほぼ増加せず十分に重合が進行していると判断できる。これにより、エポキシ樹脂組成物から重合物を得るための重合条件は160℃で1時間の加熱とした。本発明で、テトラヒドロフラン(THF)不溶分を測定するための重合物は、この条件で重合したものをいう。
【0036】
強化繊維含有エポキシ樹脂組成物及びプリプレグの重合の進行状況も重合物の進捗状況の確認と同様にエポキシ当量の推移で判断した。4時間未満の加熱だとエポキシ当量は増加傾向にあり、十分に重合が進行していない可能性がある。4時間以上の加熱では、エポキシ当量は4時間時点の値からほぼ増加せず十分に重合が進行していると判断した。なお、繊維を複合させたエポキシ樹脂組成物では、加熱時間をエポキシ樹脂組成物単体の4倍とすることで、ほぼ同等のエポキシ当量となる。これは繊維中で反応が抑制されるためと考えられる。これにより、強化繊維含有エポキシ樹脂組成物又はプリプレグから繊維強化プラスチックを得るための硬化条件は、160℃で4時間の加熱とした。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維のような充填剤や添加剤を含まない状態において重合することで得られる重合物の曲げ強度は70MPa以上であることが重要である。重合物の曲げ強度が範囲下限以下であると、繊維強化プラスチックとして機械的強度を十分に発揮することができない。この強度は高いほど繊維強化プラスチックとして機械的強度がよくなるため、特に上限値を規定する必要はない。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物を重合することで得られる重合物のエポキシ当量は5000g/eq.以上20000g/eq.以下である。重合物のエポキシ当量が範囲下限未満の場合、十分に重合が進行していないエポキシ樹脂を多く含むこととなり、機械的強度が悪化する恐れがある。重合物のエポキシ当量が範囲上限超の場合、末端基がフェノール基となるため、強化繊維の接着性が悪くなる恐れがある。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、ヒュームドシリカなどの充填剤、水酸化アルミニウムや赤燐などの難燃剤、コアシェルゴムなどの改質剤などが挙げられる。重合反応を安定させる観点から、添加剤は樹脂相とは異なるものが配合されることが望ましいが、反応に影響しない範囲において、可塑剤、相溶型の難燃剤が含まれていてもよい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、重合させることにより、熱可塑性エポキシ樹脂とすることができる。この熱可塑性エポキシ樹脂は繊維強化プラスチックの樹脂成分として優れる。
本発明の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維を混合又は含侵することにより得られる。また、プリプレグは下記のようにして得ることができる。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物を、離型処理された紙又はプラスチックフィルムに塗工し、必要に応じて離型処理されたカバーフィルムを付与することで、エポキシ樹脂組成物フィルムを得ることができる。離型紙や離形プラスチックフィルム、カバーフィルムに関しては公知のものを用いることができ、特に限定されるものではない。エポキシ樹脂組成物フィルムの厚さはプリプレグの設計厚さと樹脂比率によって定められるが、通常の厚さは1μm以上300μm以下である。1μm未満の場合、強化繊維をきれいに解繊しなければ繊維の目開きが目立ってしまう問題があり、300μmを超える場合は強化繊維に均一に含浸しにくくなる。好ましくは5μm以上150μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0042】
本発明で使用する強化繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維などのプラスチックを強化するためのものであり、特に限定されるものではない。また、繊維の形態についても繊維を引きそろえたUDシート、織物、トウ、チョップドファイバー、不織布、抄紙などが挙げられ、特に限定されるものではない。ただし、含浸性の観点から、それぞれの繊維束の厚みは1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である。
【0043】
本発明の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、又はプリプレグは、上記エポキシ樹脂組成物及び/又はエポキシ樹脂組成物フィルムと強化繊維から得られる。
強化繊維とエポキシ樹脂組成物の比率は重量比で、好ましくは5:5~8:2である。強化繊維の比率が、強化繊維が少なすぎると繊維強化材料に求められる強度を十分に満足できない恐れがあり、強化繊維が多すぎるとボイドなどの欠陥が生じる恐れがある。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。特に断りがない限り「部」は重量部を表し、「%」は重量%を表す。
【0045】
実施例において用いた原料、触媒、溶媒、強化繊維は以下のとおりである。
【0046】
[エポキシ樹脂]
A1:テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、YX-4000、エポキシ当量188)
A2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD-8125、エポキシ当量173)
【0047】
[フェノール化合物]
B1:ビスフェノールA(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、水酸基当量114)
B2:4,4’-ビス(3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール(本州化学工業株式会社製、BisP-HTG、水酸基当量155)
【0048】
[重合触媒]
C1:トリス(パラメトキシフェニル)ホスフィン(北興化学工業株式会社製、TPAP)
C2:2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ-[1,2-a]ベンズイミダゾール(四国化成工業株式会社製、TBZ)
【0049】
[溶媒]
D1:シクロヘキサノン
【0050】
[強化繊維]
E:PAN系炭素繊維(東レ株式会社製、T700-12K-50C)
【0051】
実施例における評価方法は以下のとおりである。
【0052】
エポキシ当量:
日本工業規格JIS K7236規格に準拠して測定を行い、単位は「g/eq.」で表した。
重合物はそのまま測定を行い、強化繊維プラスチックは下記手順で樹脂成分を抽出後、得られた樹脂成分を用いて測定を行った。
110mLのバイアル瓶に試料約4gを秤量し、100mLのテトラヒドロフラン(THF)を加え、室温で超音波拡散を1時間行った後、23時間以上室温で静置して溶解した。得られたTHF溶液を5μmのろ紙で減圧濾過し、ろ液を回収した。回収したろ液をシリコンバット中で、20℃で24時間以上乾燥後、110℃に設定したオーブンで5時間以上乾燥することでフィルム化した樹脂成分を得た。
【0053】
水酸基当量:
JIS K0070規格に準拠して測定を行い、単位は「g/eq.」で表した。なお、特に断りがない限り、フェノール樹脂の水酸基当量はフェノール性水酸基当量を意味する。
【0054】
均一性;
フェノール化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶融しているかどうかヘイズ値により判断した。エポキシ樹脂組成物を無色透明のガラス製シャーレに厚み2mmになるように入れ、村上色彩技術研究所製のヘイズ標準板を参考に、ヘイズ値を「5%未満(<5)」「10%未満(<10)」「20%未満(<20)」「30%未満(<30)」「30%以上(30≦)」の5段階で評価した。イズ値が30%未満であれば、フェノール化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解していると判断し、〇とし、30%以上であれば、均一に溶解していないと判断し×とした。
【0055】
ゲル分率;
100mLのバイアル瓶に試料を約1g精秤し、50mLのテトラヒドロフランを加え、室温で超音波拡散を1時間行った後、23時間以上室温で静置して溶解した。また、325メッシュの金網を100℃のオーブンで1時間乾燥し、その重量を測定した。この金網を漏斗形状に折り、試料溶液を全量漏斗の上に流し込んだ。バイアル瓶に試料の不溶解物が残らなくなるまでテトラヒドロフランで洗浄して漏斗に流し込んだ後、さらに金網上の不溶解物をテトラヒドロフランで洗浄してから100℃のオーブンで4時間以上乾燥させた。乾燥した試料と金網の重量から金網の乾燥重量を引き、これを試料重量で除してゲル分率を重量%で求めて評価した。ゲル分率はTHF不溶分の重量%に等しい。
【0056】
曲げ試験;
重合物の曲げ強度については、JIS K7171に従って測定した。試験機は(島津サイエンス製オートグラフAGS-X)を使用し、サンプルの寸法は厚さ4mm、長さ100mm、幅15mmとし、曲げスパンは70mmとし、試験速度1mm/minにて試験を実施した。
一方向強化繊維プラスチックの90度方向曲げ強度については、JIS K7074に従って測定した。試験機は(島津サイエンス製オートグラフAGS-X)を使用し、サンプルの寸法は厚さ2mm、長さ100mm、幅15mmとし、曲げスパンは70mmとし、試験速度1mm/minにて試験を実施した。
【0057】
樹脂付着量:
SEM(日本電子社製、JSM-7900F)で、繊維強化プラスチックの曲げ試験後の断面を観察し、繊維への樹脂の付着量を確認した。繊維と樹脂の接着性がよければ、破断面の繊維表面に樹脂がよく付着していることが確認できる。SEMにより繊維10本を観察して、繊維表面の80%以上に樹脂が付着している繊維の本数で評価した。
9本以上:〇 、 8本以下:×
【0058】
実施例1
A1 2913部、B1 1000部、B2 1000部をそれぞれはかりとり、ヘンシェルミキサーを用いて粉砕混合した。続いてバレル温度を170℃に予熱したS1KRCニーダー(株式会社栗本鐵工所製)を用いて溶融混合を行い、金属缶に全量回収し、撹拌しながら冷却して、エポキシ樹脂組成物の前駆体混合物(F1)を得た。
【0059】
予めC1(重合触媒)5部をD1(有機溶剤)5部に溶解した。60℃に設定したプラネタリーミキサーに前駆体混合物(F1)を入れ、先の重合触媒溶液を加えて混合した。混合後は速やかに抜き出して、直ちに40℃以下に冷却して、エポキシ樹脂組成物(G1)を得た。
【0060】
得られたエポキシ樹脂組成物(G1)を70℃程度に加温撹拌して、あらかじめクリアランスを4mmにセットした鉄製クロムメッキ金型容器に流し込み、熱風循環式オーブン内で160℃、60分間熱重合を行い、重合物を得た。
【0061】
得られた重合物のエポキシ当量を測定した結果、9900g/eq.であった。
得られた重合物の曲げ強度を測定した結果、87MPaであった。
得られた重合物のゲル分率を測定したところ、1%であった。
【0062】
実施例2~3、比較例1~4
表1に記載の条件で実施例1と同様の操作でエポキシ樹脂組成物及び重合物を得た。得られた重合物のエポキシ当量、曲げ強度及びゲル分率を実施例1と同様の測定を行い、その評価結果を表1に示した。
【0063】
但し、比較例3、4に関しては、ヘンシェルミキサーを用いた粉砕混合に代えて、60℃に設定したプラネタリーミキサー内で攪拌混合を行った。
比較例3については、溶融混合の際のバレル温度を80℃に設定した。この時、得られたエポキシ樹脂組成物のヘイズ値は30%以上であり、フェノール化合物の溶融状態は×と判断した。
また、比較例4は重量物のゲル分率が95%であり、重合物を溶剤中に溶解させられないため、エポキシ当量の測定は行わなかった。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例4
70℃に予熱したホットプレートの上に離型処理された離型紙を、離型面が上になるように固定し、実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物(G1)を離型紙上に乗せてから、70℃に予熱したバーコーターを用いて樹脂の面積重量が79g/mになるように塗工した。塗工後直ちにホットプレート上から取り外し空冷して、エポキシ樹脂組成物シートを得た。
続いて、得られたエポキシ樹脂組成物シート上に、繊維の面積重量が153g/mとなるように炭素繊維(E)を貼り合わせ、90℃に予熱したホットプレスを用いて面圧が0.5MPaになるように圧力を加え、1分後に取り出して空冷して、Rc=34%のプリプレグを得た。
さらに、得られたプリプレグを繊維の配向方向を同一にして13枚積層した後、離型フィルムで挟み込み、真空プレスにより一方向繊維強化プラスチックを得た。なお、真空プレスの条件は160℃、0.1MPa、240分である。
【0066】
得られた一方向強化繊維プラスチックの90度曲げ強度を測定した結果、86MPaであった。得られた一方向強化繊維プラスチックの樹脂成分について、エポキシ当量を測定した結果、9800g/eq.であった。
【0067】
実施例5~6、比較例5~8について、実施例4と同様の操作にて、一方向強化繊維プラスチックを得た。なお、比較例8は、エポキシ当量測定時に不溶物が多く発生したため、エポキシ当量の測定は行わなかった。
【0068】
【表2】
【0069】
表1、2より、重合物のエポキシ当量が5000g/eq.以上20000g/eq.以下かつ樹脂強度が70MPa以上であれば、強化繊維プラスチックの90度曲げ強度が80MPa以上となることが確認できる。
比較例5(比較例1)より、重合物のエポキシ当量が高いと繊維-樹脂の接着が弱く、90度曲げ強度が十分に発現しないことが確認できる。
比較例6,7(比較例2,3)より、重合物の樹脂強度が十分に強くないと90度曲げ強度が十分に発現しないことが確認できる。
比較例8(比較例4)より、重合物中に不溶成分が多いと、90度曲げ強度が十分に発現しないことが確認できる。ゲル成分を多く含む樹脂は重合反応中の最低溶融粘度が高くなる傾向にあり、CFRP成型物としてボイドが残留しやすくなり、90度曲げ強度に悪影響を与えたと考えられる。