(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160565
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】搾乳システムのティートカップセッティング装置
(51)【国際特許分類】
A01J 7/00 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
A01J7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075701
(22)【出願日】2023-05-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業のうち農林水産研究の推進(委託プロジェクト研究)(繋ぎ牛舎でも利用できる高度な搾乳システムの開発)産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000103921
【氏名又は名称】オリオン機械株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓介
(72)【発明者】
【氏名】町田 一幸
(72)【発明者】
【氏名】石田 三佳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 知之
(72)【発明者】
【氏名】神谷 裕子
(72)【発明者】
【氏名】及川 康平
(57)【要約】
【課題】 作業効率の向上、これに伴う生産性向上を図り、かつ作業者の労力削減を図るとともに、システム構築のコスト削減に寄与する。
【解決手段】 搾乳ユニットUaに支持される垂直支持部2の下部に一端5sを設けるとともに他端5tが水平方向Fhに変位可能な支持アーム部5を備えるティートカップセット部6と、乳頭Cb…に対する収容口Tco…を上向きにし、かつ所定位置Phから上方へ変位自在となるティートカップTc…を保持するティートカップ保持機能部14と、他の部位Pfに、バッファー機能を有する集乳部39を固定して配し、この集乳部39とティートカップTc…の各乳出口Tce…を所定長さに設定したミルクチューブ44…により接続したミルク集乳機能部17と、ティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8とを有するティートカップ支持機構部7を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
係留牛舎における複数のストールに対して設置したガイドレールに沿って移動可能な少なくとも一つの搾乳ユニットを備える搾乳システムのティートカップセッティング装置であって、前記搾乳ユニットにより支持される垂直支持部の下部に一端を設けるとともに他端が水平方向に変位可能な支持アーム部を備えるティートカップセット部と、前記支持アーム部の他端に、乳頭に対する収容口を上向きにし、かつ所定位置から上方へ変位自在となる複数のティートカップを保持するティートカップ保持機能部と、前記支持アーム部の他端から離間した他の部位に、バッファー機能を有する集乳部を固定して配し、この集乳部とティートカップの各乳出口を所定長さに設定したミルクチューブにより接続して構成したミルク集乳機能部と、前記ティートカップセット部を所定の角度に旋回可能にする操作機構部とを有するティートカップ支持機構部を備えることを特徴とする搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項2】
前ミルク集乳機能部は、前記集乳部を前記支持アーム部の一端側に固定することを特徴とする請求項1記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項3】
前記ミルク集乳機能部は、前記乳出口から導出したミルクチューブを逆U形湾曲部を介して前記集乳部に接続するとともに、当該ミルクチューブの最下端位置と前記逆U形湾曲部の最上端位置までの高さLrと当該最下端位置と搾乳時における乳頭の下端位置までの高さLbを、Lb>Lrの関係になるように設定してなることを特徴とする請求項2記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項4】
前記ミルク集乳機能部は、前記最下端位置と前記乳出口間における各ミルクチューブの中途位置に、搾乳中の真空部変動を抑制するバッファーを接続してなることを特徴とする請求項3記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項5】
前記搾乳システムは、前記搾乳ユニットを、搾乳対象となる乳牛の側方に位置する設定された搾乳ポジションへ移動させる移動手段を備えることを特徴とする請求項1記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項6】
前記垂直支持部は、前記乳牛の側面に当接して側面位置を検出可能な垂直支持シャフト部により構成することを特徴とする請求項1記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項7】
前記操作機構部は、少なくとも前記ティートカップセット部を旋回可能なティートカップ旋回駆動部を含む動力駆動手段により構成することを特徴とする請求項1記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【請求項8】
前記操作機構部は、少なくとも前記ティートカップセット部を手動操作により旋回可能にする手動操作手段を備えることを特徴とする請求項1記載の搾乳システムのティートカップセッティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係留牛舎における各ストールに対して搾乳ユニットを移動させて搾乳を行う搾乳システムのティートカップセッティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、係留牛舎(スタンチョン牛舎)には、多数のストールが配列するストール群が設置され、各ストールに乳牛が係留されるとともに、各ストールに対して搾乳ユニットを自動で移動させて搾乳を行う搾乳システムが設置される。
【0003】
従来、この種の搾乳システムとしては、特許文献1の搾乳ユニットの自動搬送方法及び装置に記載される搾乳システム(自動搬送装置)及び特許文献2の搾乳システムの制御方法に記載される搾乳システムが知られている。
【0004】
特許文献1の自動搬送装置は、作業動線の短縮による作業労力の軽減及び作業効率の向上を図るとともに、搾乳ユニットの台数に対する柔軟性及び汎用性を高め、部品や組付の共通化によるコストダウン及び組立性向上を図ることを目的とし、具体的には、検出可能側又は検出不能側に切換可能な被検出部を各分岐レールに対応して設け、予め、被検出部を検出可能側に切換えるとともに、任意の搾乳ユニットが主レールを走行する際に、被検出部を検出することを条件に、検出した被検出部に対応する分岐レールへの進入を許容し、かつ被検出部を一回検出したなら当該被検出部を検出不能側に切換えるようにしたものであり、基本的構成として、係留牛舎における複数のストールに対して設置したガイドレールに沿って移動可能な搾乳ユニットを含む搾乳システムを備えている。
【0005】
また、特許文献2の搾乳システムの制御方法は、疾病牛の存在等の異常に対する早期発見を可能にし、常に最適な条件による搾乳を可能にすることを目的とし、具体的には、搾乳機に搭載した搾乳機コントローラの通信部と管理コンピュータの管理通信部を相互通信可能にし、搾乳時に、搾乳機に搾乳された乳から得られる搾乳時の搾乳データを、搾乳機コントローラの通信部から管理コンピュータの管理通信部に送信するとともに、管理コンピュータにより、受信した搾乳データを監視し、当該搾乳データに対して、予め設定した判定基準に基づく特異態様を検出したなら、当該特異態様を生じた搾乳時の動作を、当該特異態様に対応する予め設定した特異処理モードにより制御するようにしたものであり、基本的構成として、係留牛舎における複数のストールに対して設置したガイドレールに沿って移動可能な搾乳ユニット(搾乳機)を含む搾乳システムを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-021045号公報
【特許文献2】特開2014-233250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来の搾乳システムは、次のような解決すべき課題も存在した。
【0008】
即ち、この種の搾乳システムでは、搾乳ユニットをコントローラ等により制御される移動部(自走部)により、搾乳対象となる乳牛の側方に位置する搾乳ポジションへほぼ自動で移動させることができるが、搾乳ポジションに到着した以降の作業は、作業者により人的に行う場合も少なくない。この結果、搾乳開始までに時間がかかり、作業効率の低下、これに伴う生産性の低下を招くとともに、ティートカップの装着作業を含む作業者の労力増加を招く難点があった。
【0009】
なお、このような装着作業等に対する自動化も技術的には可能であるとしても、基本的には、体型や立位置の異なる乳牛を対象、即ち、位置が不安定な乳牛(動物)を対象とする制御を行う必要があるため、高度な位置制御や大掛かりの設備が要求されるなど、システム構成が複雑化し、無視できないコストアップを招くとともに、乳牛を傷付ける虞れがあるなど、現実的には、容易に採用できない問題がある。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した搾乳システムのティートカップセッティング装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するため、係留牛舎100における複数のストールSt…に対して設置したガイドレールRに沿って移動可能な少なくとも一つの搾乳ユニットUa…を備える搾乳システムMのティートカップセッティング装置1を構成するに際して、搾乳ユニットUaに支持される垂直支持部2の下部に一端5sを設けるとともに他端5tが水平方向Fhに変位可能な支持アーム部5を備えるティートカップセット部6と、支持アーム部5の他端5tに、乳頭Cb…に対する収容口Tco…を上向きにし、かつ所定位置Phから上方へ変位自在となる複数のティートカップTc…を保持するティートカップ保持機能部14と、支持アーム部5の他端5tから離間した他の部位Pfに、バッファー機能を有する集乳部39を固定して配し、この集乳部39とティートカップTc…の各乳出口Tce…を所定長さに設定したミルクチューブ44…により接続して構成したミルク集乳機能部17と、ティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8とを有するティートカップ支持機構部7を備えることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、ミルク集乳機能部17の集乳部39は、支持アーム部5の一端5s側に固定することできる。また、このミルク集乳機能部17は、乳出口Tce…から導出した各ミルクチューブ44…を逆U形湾曲部44r…を介して集乳部39に接続するとともに、当該ミルクチューブ44…の最下端位置Pdと逆U形湾曲部44r…の最上端位置Puまでの高さLrと当該最下端位置Pdと搾乳時における乳頭Cb…の下端位置Pbまでの高さLbは、Lb>Lrの関係になるように設定することが望ましい。さらに、ミルク集乳機能部17は、最下端位置Pdと乳出口Tce…間における各ミルクチューブ44…の中途位置には、搾乳中の真空部変動を抑制するバッファー38…を接続することが望ましい。一方、搾乳システムMには、搾乳ユニットUaを、搾乳対象となる乳牛Cの側方に位置する設定された搾乳ポジションPcへ移動させる移動手段Fmを設けることが望ましい。また、垂直支持部2は、乳牛Cの側面に当接して側面位置Cp又はCqを検出可能な垂直支持シャフト部2sにより構成することができる。さらに、操作機構部8を構成するに際しては、少なくともティートカップセット部6を旋回可能なティートカップ旋回駆動部15fを含む動力駆動手段15により構成してもよいし、或いは少なくともティートカップセット部6を手動操作により旋回可能にする手動操作手段16により構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を備える本発明に係る搾乳システムMのティートカップセッティング装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 乳牛Cの乳頭Cb…にティートカップTc…を装着する直前までのセッティング作業を容易かつ的確に行うことができる。これにより、搾乳開始までの時間短縮を図れるため、作業効率の向上、更には、これに伴う生産性向上を実現できるとともに、ティートカップTc…の装着作業を含む作業者の大幅な労力軽減に寄与することができる。加えて、大掛かりな自動化システムの構築が不要になるため、大幅なコスト削減に寄与できるなど、コスト削減と労力削減の双方をバランスよく実現できる最適な搾乳システム(ティートカップセッティング装置1)として提供することができる。
【0015】
(2) バッファー機能を有する集乳部39の位置を固定し、所定長さに設定したミルクチューブ44…を有するため、従来のように、ティートカップTc…の全体及びミルククローが搾乳中の乳頭Cb…に対して下方への大きな荷重が負荷されるディメリットを解消することができる。即ち、搾乳時におけるティートカップTcのライナスリップを大幅に低減できるとともに、ライナスリップが発生したとしても、ミルクチューブ44…の長さと集乳部39のバッファー機能による緩衝効果により他の残りのミルクチューブ44…への影響、具体的には、ドロップレッツ現象を防止し、乳頭Cb…への悪影響を大幅に低減することができる。加えて、乳頭Cb…に対する各ティートカップTc…の変位に係わる自由度をより高めることができる。
【0016】
(3) 好適な態様により、ミルク集乳機能部17の集乳部39を、支持アーム部5の一端5s側に固定すれば、ミルクチューブ44…の長さを容易に確保できるとともに、各ティートカップTc…が旋回により変位しても、ミルクチューブ44…の長さや位置(角度)が変化することがないため、安定した搾乳を行うことができる。
【0017】
(4) 好適な態様により、ミルク集乳機能部17を構成するに際し、乳出口Tce…から導出した各ミルクチューブ44…を逆U形湾曲部44r…を介して集乳部39に接続するとともに、当該ミルクチューブ44…の最下端位置Pdと逆U形湾曲部44r…の最上端位置Puまでの高さLrと当該最下端位置Pdと搾乳時における乳頭Cb…の下端位置Pbまでの高さLbは、Lb>Lrの関係になるように設定すれば、各ミルクチューブ44…の引き回し自由度を高めることができるため、支持アーム部5の長さに左右されることなく、各ミルクチューブ44…の長さを設定できるとともに、乳流の位置エネルギーを抑制し、搾乳時における真空度変動幅を抑制することができる。
【0018】
(5) 好適な態様により、ミルク集乳機能部17は、最下端位置Pdと乳出口Tce…間における各ミルクチューブ44…の中途位置には、搾乳中の真空部変動を抑制するバッファー38…を接続すれば、各ティートカップTc…に対して、補助的にバッファー機能を持たせることができるため、他のティートカップTc…に対して干渉しない独立したバッファーとして機能させることができる。
【0019】
(6) 好適な態様により、搾乳システムMには、搾乳ユニットUaを、搾乳対象となる乳牛Cの側方に位置する設定された搾乳ポジションPcへ移動させる移動手段Fmを設ければ、搾乳ポジションPcまで自動的に移動させることができるため、この後、作業者は、速やかにティートカップセッティング装置1を利用したセッティング作業を行うことができる。
【0020】
(7) 好適な態様により、垂直支持部2を、乳牛Cの側面に当接して側面位置Cp又はCqを検出可能な垂直支持シャフト部2sにより構成すれば、垂直支持シャフト部2sを乳牛Cの側面に直接当接させるのみで側面位置Cp又はCqを検出可能になるため、乳牛Cの位置を検出する際における低コスト性及び実施容易性に優れる。
【0021】
(8) 好適な態様により、操作機構部8を構成するに際し、少なくともティートカップセット部6を旋回可能なティートカップ旋回駆動部15fを含む動力駆動手段15により構成すれば、コントローラ等により容易にシーケンス制御が可能になるため、労力軽減及び作業効率の向上を図ることができるとともに、比較的簡易な制御系により実現することができる。
【0022】
(9) 好適な態様により、操作機構部8を構成するに際し、少なくともティートカップセット部6を手動操作により旋回可能にする手動操作手段16により構成すれば、動力手段が不要になるため、更なる構成の簡易化及びコストの低減に寄与することができるとともに、エネルギー削減にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の好適実施形態に係るティートカップセッティング装置の要部の構成を示す一部断面正面図、
【
図2】同ティートカップセッティング装置に備える一つのティートカップを乳頭に装着した状態を示す一部の正面図、
【
図3】同ティートカップセッティング装置に備えるティートカップ保持機能部の平面構成図、
【
図4】同ティートカップセッティング装置の原理構成図、
【
図5】同ティートカップセッティング装置に係る本実施例と従来例を対比した原理説明図、
【
図6】同ティートカップセッティング装置に係る本実施例と従来例を対比したティートカップの装着本数と平均負荷荷重(乳頭1つ当たり)の関係を示す棒グラフ、
【
図7】同ティートカップセッティング装置を備える搾乳システムの動力駆動手段を用いた場合のストールにおける背面構成図、
【
図8】同ティートカップセッティング装置の平面構成図、
【
図9】同ティートカップセッティング装置を含む搾乳ユニットの使用時における側面構成図、
【
図11】同ティートカップセッティング装置のセッティング時の動作を説明するためのフローチャート、
【
図12】同ティートカップセッティング装置の搾乳終了時の動作を説明するためのフローチャート、
【
図13】同ティートカップセッティング装置の搾乳ポジションの模式図、
【
図14】同ティートカップセッティング装置によるセッティング操作時における模式図、
【
図15】同ティートカップセッティング装置による他のセッティング操作時における模式図、
【
図16】同ティートカップセッティング装置による他のセッティング操作時における模式図、
【
図17】同ティートカップセッティング装置を備える搾乳システムの手動操作手段を用いた場合の変更例に係るストールにおける背面構成図、
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
まず、本実施形態に係るティートカップセッティング装置を備える搾乳システムMの概略構成について、
図7-
図10を参照して説明する。
【0026】
図10は、係留牛舎100に備える搾乳システムMの平面概要図を示す。この係留牛舎100には多数のストールSt…が配列するストール群Gが設置され、各ストールSt…に乳牛C…が係留されている。そして、このストール群Gの上方に、ストール群Gに沿ったガイドレールRが設置される。ガイドレールRは、ストール群Gに沿って配した主レールRmと、この主レールRmの中途位置から直角方向に分岐し、かつストールSt…間に配した複数の分岐レールRs…を備える。この場合、分岐レールRs…は、配列するストールSt…に対して一つ置き、即ち、相隣る分岐レールRsとRs…間に二つのストールSt…が入るように配される。ガイドレールRには、少なくとも一つの搾乳ユニットUa…、例示は、2台の搾乳ユニットUa,Ubが装填され、各搾乳ユニットUa,Ubは、ガイドレールRに沿って所定の目標位置となる搾乳ポジションPcまで移動させることができる。
【0027】
したがって、これらの設備は、搾乳ユニットUa…を、搾乳対象となる乳牛Cの側方に位置する設定された搾乳ポジションPcへ移動させる本実施形態における移動手段Fmを構成する。この移動手段Fmにより、搾乳ユニットUa…を搾乳ポジションPcまで自動的に移動させることができるため、この後、作業者は、速やかにティートカップセッティング装置1を利用したセッティング作業を行うことができる。
【0028】
なお、200は、ストール群Gの前方に、このストール群Gに沿って設置された給餌システムを示す。この給餌システム200は、ストール群Gの前上方に配した給餌用レール210と、この給餌用レール210に沿って移動する給餌機220を備える。この給餌システム200により、各ストールSt…に対して給餌機220を自動で移動させて給餌を行うことができる。Bsは給餌機220により投与された給餌飼料を示す。
【0029】
また、搾乳システムMにおける分岐レールRs…の先端前方には、
図9に示すミルクライン51及び真空ライン52を配置する。ミルクライン51及び真空ライン52はストールSt…に沿って配し、各分岐レールRs…に対向する位置には、後述する搾乳ユニットUa…のディストリビュータ22を接続するミルクタップ53を設ける。
【0030】
一方、ガイドレールRに沿って移動する搾乳ユニットUa(他の搾乳ユニットUbも同じ)は、ガイドレールRに装填した自走式の移動部21を備える。移動部21の先端には前述のディストリビュータ22を備える。この移動部21は、モータを用いた走行駆動部21mを備えるとともに、駆動用バッテリ等を含む制御ボックス21cを備える。この場合、移動部21の停止や移動方向の制御は、移動部21に設けた検出部(検出センサ)がガイドレールRの所定位置に配した被検出部を検出することにより行われる。これにより、各ストールSt…に対して各搾乳ユニットUa…を自動で移動させることができる。なお、走行制御は、コントローラE(
図7参照)に搭載した制御機能に基づいて行われる。したがって、少なくとも一部の制御用データは、コントローラEから各搾乳ユニットUa…における制御ボックス21cに転送される。
【0031】
さらに、移動部21の両側、具体的には、
図8に示すように、制御ボックス21cの左右両側に吊下げられた一対の搾乳部23a,23bを備える。一つの搾乳部23a(他の搾乳部23bも同じ)は、
図9に示すように、パルセータ装置や表示部(操作部)を含む搾乳部本体24,乳牛Cの各乳頭Cb…に装着する四つのティートカップTc…,乳量計25等を備える。
【0032】
そして、移動部21の他の空スペース、具体的には、制御ボックス21cの左右における側面パネル21cp,21cqを利用して本実施形態に係る左右一対のティートカップセッティング装置1…を取付ける。左右のティートカップセッティング装置1,1は位置が左右対称となる点を除いて同一の構成となる。
【0033】
次に、本実施形態に係る一つのティートカップセッティング装置1の構成について、
図1-
図9を参照して説明する。
【0034】
ティートカップセッティング装置1は、
図7に示すように、基本的な構成として、搾乳ユニットUaにより支持される垂直支持部2の下部に一端5sを設けるとともに他端5tが水平方向Fhに変位可能な支持アーム部5を備えるティートカップセット部6と、支持アーム部5の他端5tに、乳頭Cb…に対する収容口Tco…を上向きにし、かつ所定位置Phから上方へ変位自在となる複数のティートカップTc…を保持するティートカップ保持機能部14と、支持アーム部5の他端5tから離間した他の部位Pfに固定して配したバッファー機能を有する集乳部39と、この集乳部39とティートカップTc…の各乳出口Tce…を所定長さに設定したミルクチューブ44…により接続したミルク集乳機能部17と、ティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8とを有するティートカップ支持機構部7を備える。
【0035】
この場合、支持機構部3は、搾乳ユニットUaに支持され、かつ垂直支持部2を昇降可能に支持する機能を備えており、
図7に示すように、制御ボックス21cの一方の側面パネル21cpに固定したシャフト昇降駆動部15vを備える。また、このシャフト昇降駆動部15vにより昇降する昇降ロッド15vrの下端には、左右に変位可能な水平ロッド32rを支持する支持ブロック32を設ける。さらに、水平ロッド32rの一端(乳牛C側)には、鉛直方向に軸線を有する垂直支持部2を支持する。この場合、支持ブロック32には、モータ等を用いた水平移動駆動部33を内蔵し、この水平移動駆動部33により、水平ロッド32rを左右方向へ変位させることができる。以上の構成が、搾乳ユニットUaに支持され、かつ垂直支持部2が昇降可能に支持される支持機構部3となる。
【0036】
また、垂直支持部2は、乳牛Cの側面に当接して側面位置Cp又はCqを検出可能な垂直支持シャフト部2sにより構成する。垂直支持部2を、このような垂直支持シャフト部2sにより構成すれば、垂直支持シャフト部2sを乳牛Cの側面に直接当接させるのみで側面位置Cp又はCqを検出する横方向位置検出部9を構成できるため、実施する際における低コスト性及び実施容易性に優れる。
【0037】
この垂直支持シャフト部2sは、
図7に示すように、上シャフト部2uと下シャフト部2dを軸方向Fsに連結支持部11を介して連結した連結構造に構成するとともに、上シャフト部2uと下シャフト部2dは上下方向の相対変位が規制され、かつ回動方向の相対変位が許容されるように構成する。具体的には、筒状の連結支持部11の上端から上シャフト部2uを鉛直方向上方へ突出させるとともに、連結支持部11の下端から下シャフト部2dを鉛直方向下方へ突出させる。そして、連結支持部11の内部の上半部には、上回転駆動部34を内蔵し、上シャフト部2uを回動変位可能に構成するとともに、連結支持部11の内部の下半部には、ティートカップ旋回駆動部15fを内蔵し、下シャフト部2dを回動変位可能に構成する。
【0038】
このように構成すれば、上シャフト部2u又は下シャフト部2dをそれぞれ独立して回動させることができるとともに、上シャフト部2uの変位を直接下シャフト部2dに伝達できるため、垂直支持シャフト部2sの上端2us側又は下端側に後述する高さ方向位置検出部4を設けたり、下シャフト部2dに後述するティートカップセット部6を設けることができるなど、構成をシンプル化しつつ多機能性を高めることができる。
【0039】
例示の場合、垂直支持シャフト部2sの上シャフト部2uは、高さ方向位置検出部4として構成する。即ち、
図7に示すように、上シャフト部2uの上端に設けた検出用横バー12により構成した。検出用横バー12は、一端12sを上シャフト部2uの上端に設けるとともに、他端12t側を水平方向Fhに延出して乳牛Cの上端位置Cuに当接可能な所定長さに形成する。
【0040】
これにより、単純形状に形成可能な検出用横バー12の追加のみで実施できるため、低コスト性及び実施容易性に優れる利点がある。また、垂直支持シャフト部2sを、横方向位置検出部9と高さ方向位置検出部4に兼用して利用できるため、検出系に係る部品点数の削減、これに伴う全体のコンパクト化及び低コスト化を図れるとともに、乳牛Cの位置情報をより正確に取得することができる。なお、
図7中、Xpは検出用横バー12の底面に設けた乳牛Cに接するパッド部を示す。
【0041】
さらに、筒状の連結支持部11の周面には乳牛Cの側面に接するパッド部Xqを設ける。これにより、垂直支持シャフト部2sの一部となる連結支持部11は、乳牛Cの側面位置Cp又はCqを検出する横方向位置検出部9を兼用する。
【0042】
一方、垂直支持シャフト部2sの下部、即ち、
図7に示すように、下シャフト部2dの下端には、ティートカップ支持機構部7を設ける。
【0043】
図1-
図6に、ティートカップ支持機構部7の具体的な構成及び機能を示す。以下、ティートカップ支持機構部7の構成及び機能について、
図1-
図6を参照して詳細に説明する。
【0044】
ティートカップ支持機構部7は、下シャフト部2dの下端に、一端5sを回動可能に配するとともに、水平方向Fhに延出した支持アーム部5を備えるティートカップセット部6と、支持アーム部5の他端5tに、乳頭Cb…に対する収容口Tco…を上向きにし、かつ所定位置Phから上方へ変位自在となる複数(通常は4つ)のティートカップTc…を保持するティートカップ保持機能部14と、支持アーム部5の他端5tから離間した他の部位Pfに、バッファー機能を有する集乳部39を固定して配し、この集乳部39とティートカップTc…の各乳出口Tce…を所定長さに設定したミルクチューブ44…により接続して構成したミルク集乳機能部17と、ティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8とを備える。
【0045】
例示の支持アーム部5は、
図1に示すように、二ヶ所の折曲部を設けてクランク状に形成するとともに、この支持アーム部5の先端(他端5t)に、鉛直方向の支持ポスト36を固定し、さらに、支持アーム部5の他端5tと支持ポスト36の上端間における当該支持ポスト36上には、取付支持部41を固定することにより、ティートカップ保持機能部14を構成した。
【0046】
そして、この取付支持部41の上面には、
図1及び
図3に示す四つのリング状のティートカップ規制部37…を、四角形における四つの角に対応する位置となるように配し、固定ネジ42…により固定するとともに、取付支持部41の下面における各ティートカップ規制部37…に対応する位置には、
図1に示すチェーン等を利用した四つの吊下部材43…の上端を取付ける。この場合、四つのティートカップ規制部37…の中心位置は、乳牛Cにおける四つの乳頭Cb…位置に対応する。
【0047】
また、
図1に示すように、四つのティートカップTc…をティートカップ規制部37…の内部に配し、上述した吊下部材43…の下端を、例示の場合、各ティートカップTc…の乳出口Tce…付近に取付ける。これにより、各ティートカップTc…の中間位置(又はやや上寄位置)が当該ティートカップ規制部37…の位置になるように選定する。これにより、ティートカップTc…を操作しない自然状態では、
図1に示すように、ティートカップTc…の、乳頭Cb…に対する収容口Tco…が上向きとなって、吊下部材43…により取付支持部41から吊下げられ、所定位置(所定高さ)Phに保持されるとともに、ティートカップTc…の中間位置がティートカップ規制部37…により横方向への変位が規制される。これにより、各ティートカップTc…は、それぞれ所定位置Phから上方へは変位自在となる。なお、収容口Tco…が上向きとは、乳牛Cへの接触による汚れの付着を防止するため、ティートカップTc…が傾斜した状態等も含む概念である。
【0048】
ティートカップ支持機構部7をこのように構成すれば、ティートカップセット部6を移動させた目標位置では、各ティートカップTc…を上方へ変位させるのみで乳頭Cb…への装着が可能になるため、作業者の煩雑な作業が軽減されることによりティートカップ装着作業の容易化及び迅速化を実現することができる。
【0049】
なお、ティートカップセット部6の一端5sを垂直支持部2の下部に回動可能に配するとともに、他端5t側を水平方向Fhに延出した支持アーム部5により構成した例を示したが、基本的には、搾乳ユニットUaにより支持される垂直支持部2の下部に一端5sを設けるとともに他端5tが水平方向Fhに変位可能な支持アーム部5を設ければよく、他の例としては、水平方向Fhに伸縮する蛇腹アーム等であってもよい。
【0050】
さらに、支持アーム部5の他端5tから離間した他の部位Pfには、バッファー機能を有する集乳部39を取付ける。具体的には、
図1に示すように、支持アーム部5の一端5s側に取付けて固定する。このように、集乳部39を、支持アーム部5の一端5s側に固定すれば、後述するミルクチューブ44…の長さを容易に確保できるとともに、各ティートカップTc…が旋回により変位しても、ミルクチューブ44…の長さや位置(角度)が変化することがないため、安定した搾乳を行うことができる。
【0051】
そして、集乳部39とティートカップTc…の各乳出口Tce…は、所定長さに設定したミルクチューブ44…により接続する。この場合、集乳部39には、四つのティートカップTc…から送られる各生乳が合流するため、集乳部39の選定に際しては、必要なとなる充分な容積を確保する。四本のミルクチューブ44…の一端側は、各ティートカップTc…の乳出口Tce…にそれぞれ接続するとともに、各ミルクチューブ44…の他端側は、集乳部39の上面に設けた四つの流入口(インレット部)にそれぞれ接続する。一方、集乳部39の下端部に備える単一の流出口(アウトレット部)には、集乳部39に収容された生乳を送出させる比較的大径となる一本のミルクホース40の一端口を接続するとともに、このミルクホース40の他端口は、
図9に示すように、乳量計25の流入口に接続する。このように構成すれば、従来のように、各ミルクチューブ44…の各乳出口Tce…が比較的短いチューブによりミルククローに接続する構成とは異なり、乳頭Cb…に対する各ティートカップTc…の変位に係わる自由度を高めることができる。
【0052】
また、ミルク集乳機能部17を構成する各ミルクチューブ44…は、
図1に示すように、逆U形湾曲部44r…を介して集乳部39における四つの流入口にそれぞれ接続する。この際、
図4に示すように、ミルクチューブ44…の最下端位置Pdと逆U形湾曲部44r…の最上端位置Puまでの高さをLrとし、当該最下端位置Pdと搾乳時における乳頭Cb…の下端位置Pbまでの高さをLbとした場合、「Lb>Lr」の関係になるように設定することが望ましい。これにより、各ミルクチューブ44…の引き回し自由度を高めることができるため、支持アーム部5の長さに左右されることなく、各ミルクチューブ44…の長さを設定できるとともに、乳流の位置エネルギーを抑制し、搾乳時における真空度変動幅を抑制することができる。
【0053】
さらに、最下端位置Pdと乳出口Tce…間における各ミルクチューブ44…の中途位置には、
図1及び
図2に示すように、搾乳中の真空部変動を抑制するバッファー38…を接続する。これにより、各ティートカップTc…に対して、補助的にバッファー機能を持たせることができるため、他のティートカップTc…に対して干渉しない独立したバッファーとして機能させることができる。以上の各ミルクチューブ44…から集乳部39によりミルク集乳機能部17が構成される。
【0054】
このティートカップ支持機構部7は、バッファー機能を有する集乳部39の位置を固定し、所定長さに設定したミルクチューブ44…を有するため、従来のように、ティートカップTc…の全体及びミルククローが搾乳中の乳頭Cb…に対して下方への荷重が負荷されることはない。即ち、搾乳時におけるティートカップTcのライナスリップを防止できるとともに、仮に、一つのティートカップTcにライナスリップが発生したとしても、ミルクチューブ44…の長さと集乳部39のバッファー機能による緩衝効果により他の残りのミルクチューブ44…への影響、更には乳頭Cb…への悪影響を大幅に低減することができ、ドロップレッツ現象を防止することができる。
【0055】
この理由について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5(a)は本実施例に係るティートカップTc…とミルク集乳機能部17の原理的構成、
図5(b)は従来例に係るティートカップTc…とミルク集乳機能部17r(ミルククローRc)の原理的構成をそれぞれ示すとともに、
図5(a)及び(b)は、それぞれ一つのティートカップTcがライナスリップにより乳牛Cの乳頭Cbから離脱した状態を示している。
【0056】
図5(a)に示す本実施例の場合には、基本的に、各ティートカップTc…が独立しているため、装着時における他のティートカップTc…への干渉はほとんど生じない。これに対して、
図5(b)に示す従来例の場合には、ミルククローRcを含むミルク集乳機能部17rの全体がティートカップTc…に付加されることになる。
【0057】
図6は、同ティートカップセッティング装置に係る本実施例と従来例を対比したティートカップの装着本数と平均負荷荷重(乳頭1つ当たり)の関係を棒グラフを示す。同図から明らかなように、本実施例の場合、各ティートカップTc…が独立しているため、装着本数に関係なく各乳頭Cb…に付加される負荷荷重は、350-420〔g〕程度となり大きな変化は生じない。これに対して、従来例の場合、装着本数に対応して各乳頭Cb…に付加される負荷荷重は大きく変化し、四本の場合、即ち、四つの全ての乳頭Cb…に四本のティートカップTc…が正常に装着されている場合、各乳頭Cb…に付加される負荷荷重はそれぞれ400〔g〕程度となるが、装着本数が少なくなった場合、少なくなるに従って負荷荷重が増加し、一本になった場合、乳頭Cbに付加される負荷荷重は、1800〔g〕程度となるため、四本全てが装着されている場合に比べて約4.5倍となり、ライナスリップやドロップレッツ現象の発生リスクが大幅に上昇する。
【0058】
以上の基本構成を備えるティートカップセッティング装置1には、横方向位置検出部9の検出結果に対応してティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8が含まれる。具体的には、操作機構部8を構成するに際し、少なくともティートカップセット部6を旋回可能なティートカップ旋回駆動部15fを含む動力駆動手段15が含まれる。また、この動力駆動手段15には、シャフト昇降駆動部15vの動作により垂直支持シャフト部2sが昇降し、所定の高さに移動させることができる。このように構成すれば、コントローラ等により容易にシーケンス制御が可能になるため、労力軽減及び作業効率の向上を図ることができるとともに、比較的簡易な制御系により実現することができる。
【0059】
次に、このようなティートカップセッティング装置1を備える本実施形態に係る搾乳システムMの全体の動作について、
図7-
図10及び
図13-
図16を参照しつつ
図11及び
図12に示すフローチャートに従って説明する。
【0060】
図11は、ティートカップセッティング装置1のセッティング時における動作を説明するフローチャート、
図12は、ティートカップセッティング装置1の搾乳終了時における動作を説明するフローチャートとなる。
【0061】
今、搾乳ユニットUaがガイドレールRのホームポジションに待機している場合を想定する(ステップS01)。搾乳時には、コントローラEから搾乳するストールSt…の順番に係わる指令データが搾乳ユニットUaの制御ボックス21cに転送され、この指令データに基づいて搾乳ユニットUaがガイドレールRに沿って走行し、目標のストールSt、即ち、目標の搾乳ポジションPcまで移動する(ステップS02,S03)。
【0062】
目標の搾乳ポジションPcに到達したなら、ティートカップセッティング装置1のセッティング動作が行われる。
図13が搾乳ポジションPcにおける搾乳ユニットUaの状態を示す。例示するセッティングの手順は、一例であり、例示の手順に限定されるものではない。また、セッティングを行なう前の状態は、支持ブロック32を最上昇位置に上昇させ、かつ垂直支持シャフト2と支持ブロック32は最接近位置に移動させ、走行時に障害にならないコンパクト状態にリリースしておく。なお、セッティング動作は、例えば、一連の動作、即ち、シーケンス制御が行う制御プログラムが制御ボックス21cに設定されている。
【0063】
搾乳ポジションPcでは、まず、
図14に示すように、垂直支持シャフト2を乳牛Cに接近する方向に支持ブロック32の水平移動機構部33を駆動制御する(ステップS1)。これにより、垂直支持シャフト2の連結支持部11が乳牛Cの側面、即ち、側面位置Cpに当接したなら移動を停止させる(ステップS2)。この場合、他方の乳牛Cの場合の側面は、側面位置Cqとなる。次いで、上回転駆動部34を駆動制御することにより検出用横バー12を90゜回動変位させる(ステップS3)。この状態の検出用横バー12を
図15に仮想線で示す。なお、90゜の回動範囲は一例であり、任意の角度範囲に設定可能である。
【0064】
次いで、シャフト昇降駆動部15vを駆動制御して支持ブロック32を下降変位させる(ステップS4)。そして、
図15に実線で示すように、検出用横バー12が乳牛Cの上端位置Cuを検出、即ち、検出用横バー12が乳牛Cの上端位置Cuに当接したなら下降を停止させる(ステップS5)。この場合、検出用横バー12とティートカップセット部6間の縦方向間隔Lsは、乳牛Cの上端位置Cuと乳牛Cの腹部の下方の所定高さとなるように、予め設定した間隔Ls(
図16参照)として設定されるため、検出用横バー12が乳牛Cの上端位置Cuに当接した際には、ティートカップセット部6と乳頭Cb間の上下方向間隔は、予め設定した所定の最適間隔Lcとなる。
【0065】
なお、検出用横バー12による上端位置Cuの検出は、必須の検出要素ではない。例えば、予め登録した乳牛Cの個別データに基づいて設定する場合も可能である。後述する変更例のように、検出用縦バー13を使用する場合、上端位置Cuの検出は不要になる。
【0066】
次いで、ティートカップ旋回駆動部15fを駆動制御し、支持アーム部5を90゜旋回変位させる(ステップS6)。この場合、90゜の旋回範囲は一例であり、搾乳ポジションPcの位置等に対応して任意の角度範囲に設定可能である。これにより、
図16に示す状態となり、ティートカップセット部6は乳頭Cbのほぼ真下の位置であって、最適高さに位置するとともに、ティートカップセット部6に備える四つのティートカップTc…は、上端の開口が上方を向いた状態にセッティングされる。以上により、一連のセッティング動作が終了する。
【0067】
この後、セッティング動作が終了したら、搾乳作業者は、搾乳部23aに設けた搾乳開始スイッチをONにする(ステップS7)。これにより、バッファー38が開状態となり、ティートカップTc…から吸引が行われるため、作業者は、四つのティートカップTc…を順番に乳頭Cb…に装着する(ステップS8)。そして、全てのティートカップTc…の装着が終了したなら一連の搾乳処理が行われる(ステップS9,S10)。なお、
図7及び
図9は全てのティートカップTc…が装着された状態を示している。
【0068】
搾乳時には、搾乳された生乳が、
図7に示すように、四つのティートカップTc…からバッファー38を通して集乳部39に流入し、この集乳部39の生乳は、集乳チューブ40,乳量計25,ディストリビュータ22を経て、ミルクライン51に供給される。そして、生乳の流量が基準流量以下になるなどにより搾乳終了条件を満たしたなら、搾乳処理を終了させる(ステップS11)。これにより、各ティートカップTc…は自重により乳頭Cb…から離脱し、落下するとともに、前述した保持機能部14により保持されるティートカップ離脱処理が行われる(ステップS12)。即ち、各ティートカップTc…は、支持ポスト36により吊下げられるとともに、ティートカップ規制部37により位置が規制され、
図13に示す装着前の状態に戻される。以上により、搾乳主要処理(ルーチンステップSA)が終了するため、この後、搾乳終了処理(ルーチンステップSB)が行なわれる。
【0069】
図12は、搾乳終了処理(ルーチンステップSB)に係わる動作を説明するフローチャートを示す。
【0070】
このルーチンステップSBの動作は、基本的に自動で行わせることが可能になるため、搾乳処理が終了したことを検知したなら自動でルーチンステップSBを実行させることができる。
【0071】
一方、搾乳処理が終了したことにより、例えば、搾乳終了ランプを点灯(点滅)させることにより、作業者が乳牛Cの状態等を確認し、その後、搾乳部23aのリリーススイッチをONすることにより、以降のリリース処理を自動で行わせることができる。
【0072】
この場合、まず、ティートカップ旋回駆動部15fを駆動制御し、支持アーム部5を90゜戻し旋回させる。これにより、ティートカップセット部6は、
図15に示す実線位置に戻される(ステップS21)。次いで、シャフト昇降駆動部15vを駆動制御し、支持ブロック32を上昇させるとともに、同時に、水平移動機構部33を駆動制御し、支持ブロック32を乳牛Cから離間する方向を変位させる。さらに、上回転駆動部34を駆動制御し、検出用横バー12を戻し方向に90゜回動変位させる。これにより、垂直支持シャフト2は、
図13に示すセッティング前の状態に復帰させることができる(ステップS22,S23,S24)。
【0073】
搾乳ユニットUaによる搾乳処理が全て終了したときは、ガイドレールRのホームポジションへ移動させる戻し処理を行なう(ステップS25,S28)。
【0074】
一方、搾乳ユニットUaにより次の搾乳処理を行う場合には、次の目標となる対応するストールStへ移動させる(ステップS25,S26)。そして、次の搾乳ポジションPcに到着したなら、上述した搾乳主要処理(ルーチンステップSA)を実行する(ステップS27,SA)。即ち、
図11に示した搾乳主要処理(ルーチンステップSA)を実行することができる。
【0075】
以上、動力駆動手段15によりティートカップセッティング装置1を構成した場合について説明したが、このティートカップセッティング装置1は、後述する変更例に示すように、手動操作手段16により構成することもできる。
【0076】
次に、ティートカップセッティング装置1に係る変更例について、
図17を参照して説明する。
【0077】
図17は、手動操作手段16を用いた変更例に係るティートカップセッティング装置1を示す。変更例に係る手動操作手段16は、搾乳ユニットUaの制御ボックス21cの外部ケースを利用して固定した取付フレーム61、この取付フレーム61の縦フレーメメンバ61vに固定した上下一対の回動支持部62,62により一方の縦フレーメメンバ63uが回動可能に支持された矩形の第一フレーム63、この第一フレーム63の他方の縦フレーメメンバ63vに固定した上下一対の回動支持部64,64により一方の縦フレーメメンバ65uが回動可能に支持された矩形の第二フレーム65、この第二フレーム65の他方の縦フレーメメンバ65vに固定した上下一対の回動支持部66,66により一方の縦フレーメメンバ67uが回動可能に支持された矩形の第三フレーム67を備える。
【0078】
この場合、第三フレーム67は垂直支持シャフト部2sとして機能するため、取付フレーム61から第三フレーム67までの支持機構は、搾乳ユニットUaに支持され、かつ垂直支持シャフト部2sを昇降可能に支持する支持機構部3として機能し、この支持機構部3の蛇腹伸縮により垂直支持シャフト部2sを乳牛Cに対して進退変位することができるとともに、回動支持部66,66により垂直支持シャフト部2sを昇降変位させることができる。
【0079】
また、第三フレーム67の上端には、一端12sを設けるとともに、他端12t側を水平方向Fhに延出して乳牛Cの上端位置Cuに当接可能な所定長さの検出用横バー12を一体に設ける。この場合、他端12tには、乳牛Cの上端位置に当接する左右一対の当接部12tp,12tpを設けている。これにより、
図17に示す検出用横バー12は、垂直支持シャフト部2sの上端2us側に設けることにより、乳牛Cの上端位置Cuを検出する高さ方向位置検出部4として機能する。このように構成すれば、二点位置を検出できるとともに、上端部の左右を挟むように当接できるため、乳牛Cの動きに追従させることができるため、上端位置Cuの検出(間接的検出)を、より正確かつ安定に行うことができる。
【0080】
他方、垂直支持シャフト部2sの下部には、支持アーム部5の一端5sを回動可能に配し、かつ水平方向Fhに延出した他端5tに、ティートカップTc…を備えるティートカップセット部6を設けたティートカップ支持機構部7を備える。なお、第三フレーム67は、回動可能に支持される一方の縦フレーメメンバ67uが実質的な垂直支持シャフト部2sとして機能するため、他方の縦フレーメメンバ67vは乳牛Cの側面に当接するシャフトとして機能する。なお、68s,68sは補強フレームメンバを示す。
【0081】
なお、
図17は、基本的なフレーム構成を示したものであり、必要により、各種の操作支援を行う支援機構を付設してもよい。例えば、スプリング等を付設したダンパ機構等の補助機構を設けることにより、乳牛Cに対する衝撃緩和等を考慮してもよいし、或いは、切換機構により動作するエアシリンダ等を用いて操作を支援する補助機構等を設けることにより、作業者の労力をより軽減できるようにしてもよい。
【0082】
よって、以上により、高さ方向位置検出部4の検出結果に対応して垂直支持シャフト部2sが所定の高さに移動可能にするとともに、ティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8が構成され、手動操作手段16として機能させることができる。このように、操作機構部8を垂直支持シャフト部2sを手動操作により昇降可能にするとともに、ティートカップ支持部6を手動操作により旋回可能にする手動操作手段16により構成すれば、動力手段が不要になるため、更なる構成の簡易化及びコストの低減に寄与することができるとともに、エネルギー削減にも寄与することができる。
【0083】
また、
図17(
図16)には、ティートカップセッティング装置1における高さ方向位置検出部4の変更例が含まれる。即ち、高さ方向位置検出部4を構成するに際し、
図17(
図16)に仮想線で示すように、垂直支持シャフト部2sの下端を下方へ所定長さにわたって延出させた検出用縦バー13を設けて構成することも可能である。このように構成すれば、高さ方向位置検出部4を乳牛Cに直接接触させることなく目的の高さを検出できるため、乳牛Cの動き等に干渉されることなく正確かつ安定に検出することができる。
【0084】
特に、検出用縦バー13を用いれば、上シャフト部2uにおける実質的な高さ方向位置検出部4としての機能は不要になるため、
図17に示すように、垂直支持シャフト2の上端に左右一対の当接部12tp,12tpを有する検出用横バー12を設けることができる。この当接部12tp,12tpには、乳牛Cの上端を把持する機能を持たせることができるため、乳牛Cの横方向への変位を抑制することができるとともに、この場合には、高さ方向位置検出部4としての機能を有しないため、
図17に仮想線で示すように、検出用横バー12に対して上下変位可能に構成し、検出用横バー12と当接部12tp,12tp間にスプリング12bを介在させ、乳牛Cの上下変位を吸収するように構成することも可能となる。
【0085】
よって、このような本実施形態に係る搾乳システムMによれば、基本的な構成として、搾乳ユニットUaに支持される垂直支持部2の下部に一端5sを回動可能に配するとともに、水平方向Fhに延出した支持アーム部5を備えるティートカップセット部6と、支持アーム部5の他端5tに、乳頭Cb…に対する収容口Tco…を上向きにし、かつ所定位置Phから上方へ変位自在となる複数のティートカップTc…を保持するティートカップ保持機能部14と、支持アーム部5の他端5tから離間した他の部位Pfに、バッファー機能を有する集乳部39を固定して配し、この集乳部39とティートカップTc…の各乳出口Tce…を所定長さに設定したミルクチューブ44…により接続して構成したミルク集乳機能部17と、ティートカップセット部6を所定の角度に旋回可能にする操作機構部8とを有するティートカップ支持機構部7を備えるため、乳牛Cの乳頭Cb…にティートカップTc…を装着する直前までのセッティング作業を容易かつ的確に行うことができる。これにより、搾乳開始までの時間短縮を図れるため、作業効率の向上、更には、これに伴う生産性向上を実現できるとともに、ティートカップTc…の装着作業を含む作業者の大幅な労力軽減に寄与することができる。加えて、大掛かりな自動化システムの構築が不要になるため、大幅なコスト削減に寄与できるなど、コスト削減と労力削減の双方をバランスよく実現できる最適な搾乳システム(ティートカップセッティング装置1)として提供することができる。
【0086】
また、バッファー機能を有する集乳部39の位置を固定し、所定長さに設定したミルクチューブ44…を有するため、従来のように、ティートカップTc…の全体及びミルククローが搾乳中の乳頭Cb…に対して下方への大きな荷重が負荷されるディメリットを解消することができる。即ち、搾乳時に、におけるティートカップTcのライナスリップを大幅に低減できるとともに、ライナスリップが発生したとしても、ミルクチューブ44…の長さと集乳部39のバッファー機能による緩衝効果により他の残りのミルクチューブ44…への影響、具体的には、ドロップレッツ現象を防止し、乳頭Cb…への悪影響を大幅に低減することができる。加えて、乳頭Cb…に対する各ティートカップTc…の変位に係わる自由度をより高めることができる。
【0087】
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0088】
例えば、搾乳ユニットUa…は自動で移動するタイプを例示したが手動で移動するタイプを排除するものではない。即ち、移動手段Fmは、自動電動式,手動電動式又は手動式であるか否かは問わない。また、搾乳ユニットUa…は、二台の搾乳ユニットUa,Ubを示したが、一台であってもよいし、二台以上の任意の台数を適用可能である。垂直支持シャフト部2sは、上シャフト部2uと下シャフト部2dを軸方向Fsに連結支持部11を介して連結した連結構造により構成した場合を示したが、その他、パイプ状の下シャフト部2dの内部に上シャフト部2uを挿入して構成したり、下シャフト部2dと上シャフト部2uを横方向に分離させて構成するなど、同様の機能を有する各種構造により置換可能である。高さ方向位置検出部4や横方向位置検出部9は、接触検出方式を例示したが、検出用横バー12(13)の先端に反射式光学センサを取付けるなどにより非接触検出方式を採用する場合を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る搾乳システムは、係留牛舎における各ストールに対して搾乳ユニットを移動させて搾乳を行う各種の搾乳システムに利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1:ティートカップセッティング装置,2:垂直支持部,2s:垂直支持シャフト部,5:支持アーム部,5s:支持アーム部の一端,5t:支持アーム部の他端,6:ティートカップセット部,7:ティートカップ支持機構部,8:操作機構部,14:ティートカップ保持機能部,15:動力駆動手段,15f:ティートカップ旋回駆動部,16:手動操作手段,17:ミルク集乳機能部,38…バッファー,39:集乳部,44…:ミルクチューブ,44r…:逆U形湾曲部,100:係留牛舎,St…:ストール,R:ガイドレール,Ua…:搾乳ユニット,M:搾乳システム,Fh:水平方向,Fm:移動手段,C:乳牛,Cb…:乳頭,Cp:側面位置,Cq:側面位置,Tc…ティートカップ,Tco…:ティートカップの収容口,Tce…:ティートカップの乳出口,Ph:所定位置,Pf:他の部位,Pd:ミルクチューブの最下端位置,Pu:逆U形湾曲部の最上端位置,Pb;乳頭の下端位置,Pc:搾乳ポジション,Lr:高さ,Lb:高さ